悪い奴らはよくつるむ

マスター:KINUTA

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
6日
締切
2016/02/13 22:00
完成日
2016/02/19 00:03

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 歓楽都市ヴァリオスの片隅、薄暗がりの屋根裏部屋。
 2人の人間がいる。
 1人は継ぎ当てだらけの服を着た、恰幅のよい中年男。
 もう1人は真っ黒なローブを着た男。下ろした頭巾に隠されて、顔が見えない。
 中年男はローブの男に遺恨があるらしく、恨めしそうにねめつけている。

「全くえらい目にあいましたぜ、あんたのおかげで。あんたの提案であんな不良品作ったせいで工場は潰れる、サツには睨まれる、借金取りが束になって押し寄せるという具合でね。仕方なしに名を変え姿を変え、行商人に身をやつし露命を繋いできた次第なんですぜ」

「あんなー、『新手の自動人形を作りたいから魔導装置の設計やってくれへんか』て持ちかけてきたの、あんたの方やで。そのとき、最初にちゃんと言っておいたはずやがな。俺は魔術師であってアルケミストとはちゃうんやから、もし不具合が出ても責任持てへんからなて」

「不具合? 不具合なんて表現は数回遊んだら動かなくなるとか、突然火を吹くとか、いきなり爆発するとか、そういう些細な時にのみ使ってほしいもんですな。あのモンスタードールども、最終的に人間を襲ってくるようになるんですぜ」

「せやかて、それ売って回ったんやろ」

「そりゃ、他に売るもんがなきゃしょうがないでしょう。わしだって飢え死にしたかねえですからね。おかげでストックがきれいにはけましたとも――さて、本題に入りましょうかスペットさん。そういう経緯であるからに、あんたはこの際わしに誠意を見せてくださるべきだと思うのですがね。わしをこれだけ零落させた償いをしてくださるべきだと思うのですがね。あんなもの作ったせいでわしはお尋ね者になっちまったんですから」

「あんたもとからお尋ね者やなかったか? バッタ商品作成販売の常習犯ってことで」

「あれを作るまではまだ尻尾を掴まれずにすんでたんですよ! とにかくあんたに再会できたのは大精霊の意志ですぞ。わしはあんたからそれ相応のことをしてもらうまではてこでもここを離れませんからな!」

 中年男が咆哮したときである、屋根裏部屋の扉が乱打された。外から。

「ブルーチャー、そこにいるな! 動くな、警察だ!」

 中年男は「くそったれ!」と罵った。
 扉が開き、警官たちが踏み込んでくる。

「ブルーチャー、ご同行願おうか。お前には詐欺、危険物無許可販売、マテリアル公害防止法違反の容疑がかけられている」

「へへへ、そりゃ何かの間違いでござんしょ。あっしはこのとおり罪のない哀れな人生の敗残者でして……」

 愛想笑いを浮かべるブルーチャーに警官は、冷たい目を向けた。

「話があるなら署でするんだな――」

 それからスペットに顔を向ける。

「お前も一緒に来てもらおう。この男とどういう関係かは知らないが」

 その瞬間スペットの姿が消える。ブルーチャーも一緒に。





「いや驚いたな。あんた一体何をなさったんで? わしらが目の前にいるのにあいつら、あたふたして『消えた、消えた』と騒いでいやがりますが」

「うーん、素人に説明は難しいんやけど、一時的にこっちが結界内に入り込んだ、ちゅうとこかなあ。それはそれとしてブルーチャーさん、なんなら俺の仕事、ちいと手伝うてくれへんか? 今暇なんやろ」

 暇、という単語にブルーチャーはいやな顔をした。

「暇でいたくて暇なんじゃありませんがね」

「まあまあ、どっちでもよろしがな。とにかく暇なんやったら付き合うたってや」

「それは、実入りが少しはある仕事なんでしょうな」

「うん、まあ、あると思うで」





 深夜。
 ブルーチャーは掘り返した柩の蓋を開くや、マスクごしに鼻を押さえた。

「うえっぷ……冬とはいえ傷むものは傷んできますなあ」

 ぼやきながらも抜け目なく、屍を飾る装飾品を剥ぎ取りにかかる。
 その間スペットは斑点の出かけている屍をためつすがめつ眺め、「違うな。これやないなあ」と首を振る。
 とりあえずブルーチャーは現在の仕事に満足している。確かに実入りがいいから。

「それにしてもスペットさん、一体誰をお探しなんですかい。この一週間、もう50人以上は掘り返してますがな」

「いや、誰とかいうのでもないんやけどな。むしろ誰でもええんや。形さえよかったらな」

「形がよかったらどうするんで?」

「そらもちろん、材料にすんねん」

 サラッとした口調。
 さすがのブルーチャーも少しばかり、ひやりとした。

「……まさかゾンビでも作るんじゃないでしょうな」

「ちゃうちゃうちゃうがな。それやったらなにも吟味して選ばんでええがな。俺が作りたいんは使い魔や。これまで何度か野生の歪虚捕まえてみたんやけど、どれもしっくりきいへんかってな。特に人面犬なんかブーの極みやったし。ほなら完全オーダーメイドしたろか思うてな」

 言いながらスペットは、新たな墓穴を掘り起こす。

「つい先まで、帝国近辺に行ってたんやで。戦場なら生きのええ死体があるかな思うて。でもなー、確かに新鮮は新鮮なんやけど、あっちゃっこっちゃ欠けたり潰れたりして、使い物になるの意外と少ないんよ」

 蓋を開ける。
 そこにあったのは、まだ葬られたばかりの新しい屍だった。若い娘である。騎士だったのだろうか、胸の上に剣が置かれていた。勲章もつけている。
 スペットは屍の額をこつこつ指の背で叩いた。頭を撫で骨の形を確かめた。

「うん、ええね、これ」

 彼は袂に手を入れ、青く光る短剣を取り出した。
 熱したナイフでバターを切るように、たやすく切り離される。上半身が、そして、両腕が。

「きれいな子ぉや」

 胸像となったそれをスペットは、これまた袂から出した黒い布に、やわらかく包む。




 墓荒らしの被害報告を受け、調査に訪れたハンターたちが目にしたのは、まさにそういう光景だった。
 死者に対するあまりといえばあまりの冒涜に、カチャ・タホは憤慨する。

「そこの墓荒らし! 動くなです!」

 叫んで、 潜伏していた茂みから飛び出した
 直後彼女の姿はかき消える。




リプレイ本文

 まだ荒らされてない墓地――すなわちこれから荒らされる確率の高い墓地――の所在を調べ出したハンターたちは、夜になるのを待って、そこに向かうとした。
 事前に3組に分かれておく。分散して捜索した方が、目標を捕捉しやすい。
 第1の組は天竜寺 詩(ka0396)、ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)、カチャ・タホ。
 第2の組はロニ・カルディス(ka0551)、ドゥアル(ka3746)。
 第3の組はメイム(ka2290)、ミオレスカ(ka3496)、央崎 遥華(ka5644)。





 真夜中。ハンターたちは墓地に忍び込んで行く。すると聞こえてきた、ざく、ざくと土を掘る音が。
 あちこち掘り返されているので足元に注意しつつ、音に向かって近づいて行く。
 最初に墓荒らしを見つけたのは詩たちの組だ。
 詩はトランシーバーを使い、仲間に連絡を入れた。相手に存在を悟られぬよう、可能な限り声を絞って。





『もしもし、こちら詩……ターゲットを確認したよ。二人いる。一人は太ったおじさんで、お棺の中から何か取ってる。もう一人は……真っ黒なローブ着てる……多分男の人だと思う……屍をベタベタ触ってるよ』

 報告を受けたロニは、柴犬を連れたドゥアルと共に、詩たちのいる方向へ移動していく。

「墓荒らしは死体と副葬品のどちらかが目当てと相場は決まっているが……まさか両方がセットで動いているとはな」

「静かに眠る者を……起こすとは……万死に値する……遺体も……金品も……返してもらいます」

 遥華、ミオレスカ、メイムも別方面から、詩たちのもとに向かう。

「墓を荒らして窃盗なんて行いは、許しておけません」

「ええ、とんでもない冒涜です」

「ガツンとぶっとばしてあげないとね」

 そうやって彼らがじわじわ距離を詰めていたまさにその時、トランシーバーから狼狽の声が聞こえてきた。

『わ、カチャが消えちゃった!』

『わわわわわ、かっ、怪奇現象です! きっと人面犬か、東方被れの落ち騎士の霊の仕業です!』

 ドゥアルの鼻ちょうちんがパチンと弾ける。

「カチャさんの……が消えた……? 罠が仕掛けられていた……?」

 相手側からリアクションがあったということは、既にこちらの存在に気づかれたということ。であるなら。隠密行動を続けることはない。
 彼女はそう判断する。

「ハァァァァ! 覚醒! 歪虚よ、天に帰る時が来た様だな!」

 その覚醒の雄叫びが、スペットたちの耳に届いた。

「やべぇですぜスペットさん、サツが来やがった!」

 スペットの方は手にした包みを手早く背に負い、落ちぬよう端と端を結び合わせる。

「いや、こらサツやあらへんがな。ハンターや」

「じゃあ、もっと悪いじゃねえですかい!」

「せやな」

 あれこれ言いながら、両者墓石の陰に身を隠す。
 一応デュアルは警告をした。

「手を挙げて出てきなさい。貴公達が大人しく捕まれば過剰に攻撃はしないのよ」

 ブルーチャーの返答はこうだった。

「出てこいと言われてのこのこ出て行く馬鹿はいねえよ!」

 投降の意志なしと見て彼女は、説得の第二段階、実力行使に移った。
 先導役である柴犬に追跡を任せつつ、ホーリーライトを放つ。





 詩とルンルンは、カチャが消えた場所に駆け寄った。
 何らかの結界術が使われたのは間違いない。
 どことなく、聖導士が使うディヴァインウィルに似ている。だがそれなら、姿が消えることはないはず。侵入しようとすれば、反発を感じるはず。これには、そういったものが全くない。
 とはいえ結界は結界――人を瞬間移動させるわけではない。あくまでも場を囲うだけの代物。
 そう信じて詩は、カチャが先程までいた場所目がけ、ホーリーライトを放った。

「カチャ、もしそこにいるならちょっと伏せてて!」

 直線を描くはずの光がぐにゃりとひん曲がる。空間を忌避しているかのように。
 それを見たルンルンは、気を取り直した。やはりカチャは消えたわけではない。そのように見せかけられているだけなのだ。

「ジュゲームリリカル……ルンルン忍法ニンジャセンサー!」

 印を結んで生命感知の結界を張ると、ごく微弱ながら反応があった。
 結果に勢いを得た彼女は五色光符陣を敷く。

「ジュゲームリリカルクルクルマジカル……ルンルン忍法五星花! 正体見たりニンジャ光線。プロカードゲーマーの私には、お見通しです!」

 式が飛び交い五色の光が立ちのぼった。
 まばゆい光線は周囲の空間を席巻し、不透明の立方体を浮かび上がらせた。立方体の四隅には、墓石がある。





「うおおスペットさんなんとかしてくださいよ! わしゃ一般市民なんですからね、ハンターを相手に戦いたくありませんよ!」

「そんなん俺かて一緒や。戦いたくはないがな」

 墓泥棒が逃げる姿を見たメイムは、カチャについてのことを後回しにすると決めた。犯人を捕まえ損なっては元も子もない。

「メイムさん、遥華さん、カチャさんのことはお願いしますね」

 そう言い残して一人離れ、追跡に参加する。
 場所を特定するのは簡単だ。ドゥアルの光弾が炸裂している場所=彼らの現在地、である。

「逃がしませんよ、少なくとも、持っているものは全て置いて行って貰います!」

 墓場の外に出さないよう、彼らの足元に向け威嚇射撃。

「殺す気かあ!」

「殺しはせんさ、大人しくお縄になるなら!」

 言ってロニは、ジャッジメントを放った。
 光の杭がブルーチャーの体に刺さり、動きを止める。

「止まったら捕まんで」

 スペットがブルーチャーに手をかざす。その指につけている指輪が、赤く光った。杭が消えブルーチャーがつんのめる。懐に入れていた盗品が、拍子に幾らかこぼれ落ちる。
 追跡しつつ周囲に目を走らせていたドゥアルは、気づいた。そこここの墓石に、目玉の描かれた小さな札が貼ってあるのを。

「これは……もしかして……」

 彼女は自分の発見について、いち早くロニに伝える。

「護符? これが?」

「ええ。多分これを触媒として、結界を作っているのよ」





 遥華は浮かび上がった立方体に向け、ライトニングボルトを放つ。

「ちょっと眩しいけど我慢してね」

 電流に襲われた立方体は、自らも火花を放つ。

「大丈夫、今助けるからねカチャさーん!」

 メイムは助走をつけ、大型ハンマーを立方体に目がけ打ち込んだ。手ごたえというものはあまりなかった。立方体は音もなく砕け、消え去る。
 勢いを殺さぬハンマーがカチャの鼻先すれすれを通り抜け、思う様地面にめり込む。
 カチャは人殺しを見るような目でメイムを見た。
 メイムはにっこり笑顔で応じる。

「惜しい……」

「……は? 今何か言いましたか……?」

「いやいや何も。気のせいだよ♪ 竹刀じゃいまいち、周り込んでっスペットから抑えるよ」

 言うが早いかメイムは走りだした。
 他のメンバーも、囲い込みに向かう。

「おっと、念のため」

 詩はおやつに持ってきていたポテチを、花咲か爺さんよろしくばらまきながら進む。もしかしたら結界を張られた際、それを見つける足しになるかも知れないと思って。





 四方から近づいてくる気配にスペットは、大いにぼやく。

「かなわんな、ほんまに」

 彼の背後にはロニとデュアル、左翼にミオレスカ、そして右翼側から舞とカチャだ。
 前方から、遥華とメイムが接近してくる。特にメイムが先頭に立って急接近してくる。ハンマーを掲げて。

「捕まえてー!」

 強い威圧の雄叫びは、ジャッジメントから逃れたブルーチャーを再び固まらせる。
 しかしスペットは効力を跳ね返した。突進してくるメイムに手のひらを向ける。
 指輪が赤く発光した――と思う間にメイムは、結界の中に閉じ込められる。遥華と一緒に。

「……なるほど、中からはこう見えるのですね」

 とりあえず外の様子は確かめられる。声も聞こえる。トランシーバーは……通じないようだ。向こう側から詩が通信を取ろうとしているが、こちらには、さっぱり音が入ってこない。
 そこまで確認したメイムは、遥華と顔を見合わせた――この先どうすればいいのかは、お互い分かっている。
 遥華はエボニースタッフの先端を壁に向けた。電光がほとばしる。始めは弱く、徐々に強く。最高に強く。
 内壁に沿って火花が生じた。目を細めつつメイムは、そこ目がけてハンマーを叩きつける。
 結界が消えた。出てきたメイムは、仲間に大声で告げる。

「この結界たぶん魔法的な効果で解除できる対応してー」

 スペットは、彼女らが出てくるまで待ってなどいなかった。いち早く己も姿を消す。
 しかし結界の仕掛けについては、すでに大体のところ見切られている。
 ロニは相手の居場所を特定するため、セイクリッドフラッシュを放った。
 明確に光が歪む。

「そこだな!」

 詩がホーリーライトで、さらに結界を浮かび上がらせた。
 ミオレスカは、風を纏う銃弾を浴びせかける。
 デュアルは、手近なところから次々札をはぎとって行く。結界の安定性を失わせるために。
 結界が突如内側から弾け破れた。強烈な光とともに。

「目眩ましか!」

 舌打ちし、目をこするメイム。
 スペットとブルーチャーは逃げていく。
 突然ブルーチャーが立ち止まった。予期しないぬかるみに片足が踏み込んだのだ。

「うわっ、な、なんだ! なんでこんなところに泥が……」

 暗がりから、含み笑いが聞こえた。

「符を場に伏せてターンエンド」

 スペットが呟く。ブルーチャーをぬかるみから引っ張り出して。

「地縛符か」

 呟きに応じるようにルンルンが、墓石の後ろから登場する。

「ここでニンジャの罠が発動です」

 自慢げに符をひらひらさせる彼女は、スペットに人差し指を突き付けた。

「墓を荒らして何を企んでるの……貴方みたいなのがきっと、あの産業廃棄物みたいな顔の人面犬を不法放置するんだからっ」

「なんや、あんたあのブー犬のこと知ってんかいな」

 その言葉にルンルンは首を傾げた。
 もう一度まじまじと相手をよく見る。そして悟る。

「……あっ、黒づくめ」

 スペットが袖から短剣を取り出した。ルンルンに向けてのものではない。スタッフを手に向かってきたロニに向けてのものだ。
 杖と刃がぶつかる。
 動きを見る限りスペットは、明らかに、近接戦について不慣れであった。その分をカバーしようというのか、短剣から炎を吹き出させる。
 ロニはいったん相手から離れた。
 メイムが加勢に出る。

「さ、遺体も返してもらうからね――行ってキノコっ!」

 パルムたちがマテリアルのオーラを帯び、三角頭の先端を向け急発進。

「うおっ!?」

 予想の範囲外からの攻撃にスペットは足を取られた。
 そこにデュアルがディバインを打ち込んだ。
 彼が動けなくなった一瞬の隙をついて、ミオレスカの銃弾が、背負われている包みの結び目を打ち抜く。

「あっ!」

 ほどけた黒い布が、背中からずり下がっていく。
 詩は素早く場に飛び込みコートを地面に広げ、落ちてくるものを受け止めた――解けた包みの隙間から白い肌がちらりとかいま見える。
 怒りをこらえつそれを抱き上げ、場を離れる詩へ、ディヴァインの縛りを解いたスペットが叫ぶ。

「あかん、返せ! それは俺のや! 俺が見つけたもんや!」

 その言葉が、遥華の感情に火をつけた。

「なんて罰当たりなことを!!」

 彼女は、全力でライトニングボルトを叩き込む。
 スペットが結界を張って防御に出ようとした刹那、間合いに滑り込む。
 結果、発動した結界に2人とも入り込んでしまう。

「うげっ!?」

「あら、そんなに嫌そうにしなくても」

 言うが早いか彼女は、スリープクラウドを発動させる。





 覚醒者であれば容赦してやる理由はない。ということで、ミオレスカは弾をあるだけ結界に撃ち込んでいる。
 ブルーチャーは周囲の喧騒に乗じ、息を潜め、こそこそ逃げていこうとした。
 それに気づいたカチャは、竹刀でもって足払いをかける。

「ケチな窃盗犯だからって、逃がしませんですよ!」

 こけた拍子に、再度足を地縛符へ突っ込むブルーチャー。

「何しやがるこのくそガキが!」

 ロニは騒ぎ立てる男に、冷たい視線と言葉とジャッジメントで釘を刺した。

「易々と逃げられるとは思わないことだ」

 ブルーチャーの一時停止が解けない間に、ドゥアルがさっさとふん縛る。犬を繋いでいたロープで。

「しばわん、番をしていなさい……逃げたら噛むのよ」

 それから、結界破壊の支援に入った。
 遺体を離れた場所に安置した詩も、すぐさま戻ってくる。
 結界が弾けた。
 遥華とスペットが出てくる。スペットは明らかにスリープクラウドの影響を受けていた。足元をぐらつかせ、仰向けに崩れ落ちる。運悪く立っていた後ろには、彼ら自身が掘り返した墓穴が、ぽっかり口を空けていた。
 スペットは、すんなりそこへはまっていく。

「ぐえっ!?」

 穴の中から呻き声がした。頭かどこか打ったので、目が覚めたらしい。
 ハンターたちは引っ張り出そうと穴の近くに寄る。
 メイムはランタンを、落ちたスペットの上にかざした。

「これが天罰って奴だよ。さあ大人し――」

 メイムは台詞を途切れさせ、息を飲んだ。彼女だけではない。場にいた全員がギョッとし、固まった。
 落ちたはずみにスペットの頭巾がめくれていたのだが、そこにあったのが――人間の頭部ではなかったのだ。前後左右どこから見ても、猫の頭部だったのだ。
 顔が露になったことで最も驚いていたのは当人だったらしい。
 ぎゃっ、と声を上げ、大慌てで頭巾を下ろし、指輪のついた手を振り回す。
 無数の結界が立ち上がった。先程に比べて不完全なものなのだろう、何もせずとも存在が分かるくらいくすんで見え、形も歪んでいたり欠けていたりした。しかし、なにしろ数が多い。あたりの景色が見えなくなるほど、多い。
 視界を確保するためにそれらを潰し終わったとき、スペットは、どこかへ逃げてしまっていた。
 念のためルンルンが生命感知の結界を敷いてみたが、周囲に反応は見つけられなかった。
 メイムは悔しがる。

「くそー、後一歩だったのに!」

 ロニはイモムシ状態になっているブルーチャーを横目に、彼女をなだめた。

「まあ、荒らしの片割れはあの通り捕まえたわけだから、これから色々聞き出せるだろう」

 詩は取り戻した遺体を元の柩へ丁寧に戻してやった。腕と体を元通りくっつけあわせて。
 名前も知らない故人を彼女は、深く悼む。涙を零して。

「女の子がこんな姿にされて、悔しいよね」

 柩の蓋を閉じる前にミオレスカは、ペコリと頭を下げる。

「お騒がせして、すみません」

 遥華は十字を切って祈りの言葉を捧げた。柩が穴に降ろされ、再度土がかけられる。
 詩は鎮魂歌を歌う。皆は静かにそれを聞く。
 曙光があたりを照らし始めた――その場にいる人間の魂を清めるような光だ。

「おいこらお前らこのロープ解け! 解けー!」

 地面に転がっている一人の男を除いて。


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MVP一覧

  • 支援巧者
    ロニ・カルディスka0551
  • タホ郷に新たな血を
    メイムka2290
  • 忍軍創設者
    ルンルン・リリカル・秋桜ka5784

重体一覧

参加者一覧

  • 征夷大将軍の正室
    天竜寺 詩(ka0396
    人間(蒼)|18才|女性|聖導士
  • 支援巧者
    ロニ・カルディス(ka0551
    ドワーフ|20才|男性|聖導士
  • タホ郷に新たな血を
    メイム(ka2290
    エルフ|15才|女性|霊闘士
  • 師岬の未来をつなぐ
    ミオレスカ(ka3496
    エルフ|18才|女性|猟撃士
  • 寝具は相棒
    ドゥアル(ka3746
    エルフ|27才|女性|聖導士
  • 雷影の術士
    央崎 遥華(ka5644
    人間(蒼)|21才|女性|魔術師
  • 忍軍創設者
    ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784
    人間(蒼)|17才|女性|符術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 盗品、取り戻しましょう
ミオレスカ(ka3496
エルフ|18才|女性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2016/02/13 19:30:07
アイコン プレイング
メイム(ka2290
エルフ|15才|女性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2016/02/13 17:20:57
アイコン 質問卓
メイム(ka2290
エルフ|15才|女性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2016/02/12 11:31:28
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/02/10 22:37:07
アイコン 相談卓だよ
天竜寺 詩(ka0396
人間(リアルブルー)|18才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2016/02/09 23:15:31