ゲスト
(ka0000)
魂の礎
マスター:鷹羽柊架

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/02/10 12:00
- 完成日
- 2016/02/12 23:26
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
『赤き大地を継ぐ者にこの力を託す』
力とは武器や技を振るい、敵を屠るだけのものではない。
知識もまた力である。
シバが遺したメモには蛇の窟と言われる場所が記されていた。
長い道の先にあったのは膨大な量の情報。
目を引いたのはクリムゾンウェストでは今まで見た事がないほど詳細な地図。
ファリフが手に取った手記は御伽噺に対するメモ書きであった。
●
一方、シバの死の間際に放出されたマテリアルに気づいた者は他にいた。
黒衣を身に纏った男は目的の場所に立つ。
目的はごろりと寝そべっていたが、黒衣の男の気配には気づいていたようであり、視線は男の方へと向けている。
「これはこれは。貴方ほどの方がこのような場所に何用で?」
きらりと金の目が愉しそうに煌めき、三日月のように目を細めてにんまりと口端を引いて笑みの形を作るのは少年の姿をしていた。
「辺境のシバが死んだそうだ」
「聞いてますよ。なにやら、見たこともない大量のマテリアルを放出されたとか」
「ハンターが動き出すだろう」
「私には……特に魅力がありませんが……」
再び転がる少年は黒衣の男の言葉に心底どうでもよく、だるそうにしている。
「スコール族長は強くなっていると聞く」
黒衣の男は少年が転がっても特に気にしてなく話を続けていた。
「ああ……あのお子様ですか……」
「伝説の入墨をもち、幻獣フェンリルを従わせている。まだ子供じみているが、辺境戦士としての誇りは高いとも聞く」
そろそろ成人するころだなと付け加えると、少年はゆっくりと上体を起こした。
「確かに、スコール族は辺境では有力部族が一つ。さぞ辺境戦士としての誇りは高いでしょう」
先ほどの怠惰っぷりはどこへやら、少年はスイッチが入ったかのように楽しそうに笑い、跳躍して黒衣の男の鼻先に触れるほどの至近距離に着地する。
諂うように少年は右手を左胸に当てる。
「ファリフ姫に会うのが愉しみになってきましたよ。青木燕太郎閣下」
黒衣の男……青木はついて来いと言わんばかりに踵を返した。
●
ホープに戻ったファリフは「ううーん」と、唸っていた。
胡坐をかいてぐらぐらと揺れる姿はリアルブルー出身で一部の地域の出身者であれば「達磨のよう」と思える。
こんな姿をスコール族長代理であるカオンに見られたら「お行儀が悪い!」と叱られるが、今はファリフとフェンリルしかいない。
ファリフは遠慮なくフェンリルを背もたれにしてぐらぐらと揺れていた。
「お嬢ちゃんは上の空か。最近のお嬢ちゃんは悩んでいるばかりで恋に悩む一端のレディのようだな。今日はなんの悩み事だ」
「こないだ行ったところのことだよー」
ほぼ上の空となっているファリフだが、フェンリルの言葉はほぼほぼスルーしてきちんと返す。
「あの手記か」
「うん」
ファリフは生まれた時からトリシュヴァーナの祝福を受けた刺青を持つ子であり、物心ついたときには族長として様々な知識や武術を仕込まれていた。
知識の中では赤き大地に伝わる伝承や土地を叩き込まれており、老人くらいしか分からない古い土地も教えられていた。
そして、手記には昔聞いた御伽噺の事。
失伝しつつある御伽噺であり、例え知っていても、シバの年代くらいだ。
どこの地方に伝わっていたのかは忘れて去られており、太古の霊闘士の英雄が祖霊そのものに変化し、赤き大地に侵攻する数多の敵を倒していったという英雄譚の御伽噺。
霊闘士は祖霊の力を借り受けて敵と戦う。
「祖霊そのものへと変身できる話なんか聞いたことないよー」
幼子がぐずるように天井を仰ぎ見て前後に身体を揺らしているファリフを見下ろすようにカオンの顔がのぞきこんできた。
「ファーリーフーーー」
儚げな美少女はどこへやら、スコール族長代理であるカオン・スコールが怒っている。
「わ、カオン! わ、わ!」
体勢を崩したファリフはフェンリルへ倒れこんでしまう。
「どうしたの?」
「……ファリフに部族なき部族の報告に参りましたの。まったくもぉ、お行儀が悪いですよ」
叱られたファリフは俯いて「ごめんなさい」と謝る。
「ねぇ、カオンは霊闘士が祖霊そのものに変身できると思う?」
見上げるファリフにカオンはうーんと困った顔をしてしまう。
「そうなると、人ではなくなると思いますわ。ですが、シバ様は死の間際に大量のマテリアルを放出し、見たことも無い技をハンターの皆様へ繰り広げたと伺ってます」
シバがハンターと死合いをした時に見せた時、大量のマテリアルはシバの部族が崇める蛇の姿へと変化したという。
「カオンの言う通り、祖霊となるには一度、己を失う事だろうな」
フェンリルは「俺も詳しくは分からんが」と付け加える。
「実際にシバさんは体現できたんだよね」
「そう聞いているな」
それがあの御伽噺に通じたものなのかは分からないが、確かめる価値はあるとファリフは判断する。
「もう一度、確かめに行きたい。ボクもシバさんのようなあの技をできるようになりたい……!」
この身に降りかかる試練がいかなるものであろうとも。
「ボク、山羊さんに行っていいか聞いてくる!」
鉄砲玉宜しくファリフは部屋を出て行ってしまい、フェンリルとカオンがその後を追った。
力とは武器や技を振るい、敵を屠るだけのものではない。
知識もまた力である。
シバが遺したメモには蛇の窟と言われる場所が記されていた。
長い道の先にあったのは膨大な量の情報。
目を引いたのはクリムゾンウェストでは今まで見た事がないほど詳細な地図。
ファリフが手に取った手記は御伽噺に対するメモ書きであった。
●
一方、シバの死の間際に放出されたマテリアルに気づいた者は他にいた。
黒衣を身に纏った男は目的の場所に立つ。
目的はごろりと寝そべっていたが、黒衣の男の気配には気づいていたようであり、視線は男の方へと向けている。
「これはこれは。貴方ほどの方がこのような場所に何用で?」
きらりと金の目が愉しそうに煌めき、三日月のように目を細めてにんまりと口端を引いて笑みの形を作るのは少年の姿をしていた。
「辺境のシバが死んだそうだ」
「聞いてますよ。なにやら、見たこともない大量のマテリアルを放出されたとか」
「ハンターが動き出すだろう」
「私には……特に魅力がありませんが……」
再び転がる少年は黒衣の男の言葉に心底どうでもよく、だるそうにしている。
「スコール族長は強くなっていると聞く」
黒衣の男は少年が転がっても特に気にしてなく話を続けていた。
「ああ……あのお子様ですか……」
「伝説の入墨をもち、幻獣フェンリルを従わせている。まだ子供じみているが、辺境戦士としての誇りは高いとも聞く」
そろそろ成人するころだなと付け加えると、少年はゆっくりと上体を起こした。
「確かに、スコール族は辺境では有力部族が一つ。さぞ辺境戦士としての誇りは高いでしょう」
先ほどの怠惰っぷりはどこへやら、少年はスイッチが入ったかのように楽しそうに笑い、跳躍して黒衣の男の鼻先に触れるほどの至近距離に着地する。
諂うように少年は右手を左胸に当てる。
「ファリフ姫に会うのが愉しみになってきましたよ。青木燕太郎閣下」
黒衣の男……青木はついて来いと言わんばかりに踵を返した。
●
ホープに戻ったファリフは「ううーん」と、唸っていた。
胡坐をかいてぐらぐらと揺れる姿はリアルブルー出身で一部の地域の出身者であれば「達磨のよう」と思える。
こんな姿をスコール族長代理であるカオンに見られたら「お行儀が悪い!」と叱られるが、今はファリフとフェンリルしかいない。
ファリフは遠慮なくフェンリルを背もたれにしてぐらぐらと揺れていた。
「お嬢ちゃんは上の空か。最近のお嬢ちゃんは悩んでいるばかりで恋に悩む一端のレディのようだな。今日はなんの悩み事だ」
「こないだ行ったところのことだよー」
ほぼ上の空となっているファリフだが、フェンリルの言葉はほぼほぼスルーしてきちんと返す。
「あの手記か」
「うん」
ファリフは生まれた時からトリシュヴァーナの祝福を受けた刺青を持つ子であり、物心ついたときには族長として様々な知識や武術を仕込まれていた。
知識の中では赤き大地に伝わる伝承や土地を叩き込まれており、老人くらいしか分からない古い土地も教えられていた。
そして、手記には昔聞いた御伽噺の事。
失伝しつつある御伽噺であり、例え知っていても、シバの年代くらいだ。
どこの地方に伝わっていたのかは忘れて去られており、太古の霊闘士の英雄が祖霊そのものに変化し、赤き大地に侵攻する数多の敵を倒していったという英雄譚の御伽噺。
霊闘士は祖霊の力を借り受けて敵と戦う。
「祖霊そのものへと変身できる話なんか聞いたことないよー」
幼子がぐずるように天井を仰ぎ見て前後に身体を揺らしているファリフを見下ろすようにカオンの顔がのぞきこんできた。
「ファーリーフーーー」
儚げな美少女はどこへやら、スコール族長代理であるカオン・スコールが怒っている。
「わ、カオン! わ、わ!」
体勢を崩したファリフはフェンリルへ倒れこんでしまう。
「どうしたの?」
「……ファリフに部族なき部族の報告に参りましたの。まったくもぉ、お行儀が悪いですよ」
叱られたファリフは俯いて「ごめんなさい」と謝る。
「ねぇ、カオンは霊闘士が祖霊そのものに変身できると思う?」
見上げるファリフにカオンはうーんと困った顔をしてしまう。
「そうなると、人ではなくなると思いますわ。ですが、シバ様は死の間際に大量のマテリアルを放出し、見たことも無い技をハンターの皆様へ繰り広げたと伺ってます」
シバがハンターと死合いをした時に見せた時、大量のマテリアルはシバの部族が崇める蛇の姿へと変化したという。
「カオンの言う通り、祖霊となるには一度、己を失う事だろうな」
フェンリルは「俺も詳しくは分からんが」と付け加える。
「実際にシバさんは体現できたんだよね」
「そう聞いているな」
それがあの御伽噺に通じたものなのかは分からないが、確かめる価値はあるとファリフは判断する。
「もう一度、確かめに行きたい。ボクもシバさんのようなあの技をできるようになりたい……!」
この身に降りかかる試練がいかなるものであろうとも。
「ボク、山羊さんに行っていいか聞いてくる!」
鉄砲玉宜しくファリフは部屋を出て行ってしまい、フェンリルとカオンがその後を追った。
リプレイ本文
ホープに到着したハンター達は依頼主であるファリフのいるところへ向かう。
ふっと、顔を上げたのはエアルドフリス(ka1856)。
シバが遺した『もの』の話を聞き、駆けつけられない想いを祈りとして、シバの死合いに共に立ち向かった仲間に託していた。
「……エアルド?」
その相手……ルシオ・セレステ(ka0673)が振り向くと、彼は微かな笑みを浮かべる。
「シバ師が遺したい、継がせたい『もの』に再び携われるのは僥倖と思ってな」
エアルドフリスの言葉にルシオは納得した。
彼は生ある限り行動で問いかけ、死後も尚、後世達に道を示そうとしている。
「それを受け継ぎたいと思ってるぜ」
先を歩いていたオウガ(ka2124)とアイラ(ka3941)が足を止め、二人の方を向いていた。
「おじいちゃんの技、あたしも出来るようになりたい」
護りたいと思う存在の為にとアイラは決意を込めて。
シバの想いを受け取りたいと願うのは彼らだけではない。
一度繋がっていた縁を手繰り寄せるように参加したのは八島 陽(ka1442)だった。
シバが残した技は霊闘士の技と認識していた。それを受け継げるようにしたいという想いからである。
「ファリフだ」
テオバルト・グリム(ka1824)が気づくと、迎えに来てくれたファリフが手を振ってハンター達を向かえてくれた。
通された部屋は人が来ないように手配していた。
「前回はごめん」
部屋の扉を閉めて開口一番、陽が謝りだして、ファリフは目を見開く。
「え。気にしなくてもいいと思う。改めて宜しくね」
「ちょっと、確認したいけど」
仕切りなおすように陽が片手を挙げる。
「最期の死合いの時、シバさんの技は初めて使えたと認識してるんだけど」
陽の言葉に頷いたのはエアルドフリスだ。
「シバ師は『我が魂が器を作り出した』と言ってました」
かの黒い大蛇の幻をハンター達へ魅せる為の器……更なる技を繰りだせるようになったことを指示す言葉にも思えてしまうシバの狂おしく喜んでいた言葉を四人はそれぞれ思い出す。
「……そいや、ファリフが読んだ御伽噺、どっかで聞いたような気がするんだ……」
呻るのはテオバルドだった。
祖父母か曾祖父母か分らないが、親の年代ではない古い世代が言ってたような気がするが、よく思い出せない。
「仕方ないよ。失伝しかけているお話だし、おじいさんおばあさんの世代でも知らない人がいる状態だもん」
ファリフとて、族長としての英才教育の一環として覚えたうろ話。シバの手記がなければ思い出せなかった可能性もあるのだ。
「なんにせよ、聞き込みをしましょう」
アイラが言えば、全員が頷いた。
●
ハンター達は手分けして、シバの手記にあったお伽噺について聞き込みに回った。
アイラ、陽、ルシオは部族なき部族のメンバーである山羊がいる場所へと向かう。
「おう」
山羊はアイラとルシオを覚えており、「世話になったと」礼を言う。
「お加減、どうですか?」
「治療が必要な者はもう特にいなくなった。そろそろ、鈍った身体を鍛えなおしたいくらいだ」
他のメンバーの容態は回復傾向にあるという話にアイラ達はそっと安堵の息をつく。
「シバの事で聞きたい事があるけど、いいかい?」
ルシオの言葉に「俺でよければ」と快諾してくれた。
「蒼の世界に関する書物や品物を集めるように言われた事はあるかい?」
「あぁ、あの人は珍しいものや、新しいものが好きなきらいがあったな。時折、わからないものを見つけたら持ってきてくれと頼まれる事もあった」
素直に応じてくれる山羊に陽は目を見張る。
「どの辺り? 目的とか、あったのかな」
アイラの問いかけに山羊は首を傾げる。
「とはいっても、この赤き大地の領地内だ。リアルブルーの漂着した物も人間も点在するからな」
活動領域は絞り込めない模様であった。
「シバさんとテトの相互認証方法とかある?」
この陽の質問には山羊は首を傾げた。部族なき部族の中で使われる合言葉や個人符号のことかと思ったが、違うと判断した。
「テトはシバの後を継ぐものとされていたが、あるとすれば、それは二人にしか分らないだろう」
「そっか……」
それもそうだと納得した陽からアイラへと質問が変わる。
彼女が提示した内容はシバの手記よりファリフから示されたお伽噺。
話を聞いていく山羊は眉を寄せていったことで、そのお伽噺が初耳と言う事を気付かせられてしまう。
「初耳だな。部族が失われると伝承も失っていくことも間々あるからな」
「……シバが最期に繰り出した技の話はきいてるかい?」
再度、ルシオの質問に山羊は思い当たるところがあったようだ。
「シバは鍛錬を怠るようなことはなかった。常に自身を磨き続け、更なる力を得ようとしていた」
近年はやんちゃが過ぎて、ぎっくり腰になることもあったがなと言葉を続けた。
確かにシバらしいとハンターと山羊は笑いあう。
●
同じホープでも、大巫女に会いに来たのはエアルドフリスとオウガとファリフとフェンリルであった。
部屋に通された二人は案内された者より、じきに大巫女が来ることを告げて部屋を退出する。
暫し座って待っていると、扉が開かれて大巫女が現れた。
「よく来たね」
大巫女が声を上げると、エアルドフリスが一度立ち上がる。
「御時間を頂き感謝致します、大巫女様」
丁寧なエアルドフリスの礼を受けた大巫女は「気にすんじゃないよ」と笑う。
「今日は一体どうしたんだい? 改まって」
全員が座ると、ハンターから述べられたのは件のお伽噺。
話を聞いていくと、大巫女は目を細めて懐かしそうに微笑んだ。
「随分と懐かしい話だねぇ」
ため息をほうっと、吐く大巫女の様子から見て、その話を随分聞いていないというのが窺い知れる。
「大巫女は知ってるんだ」
ファリフの問いに大巫女は「そんなに詳しくはないさ」と返した。
「部族が滅びかけて、ここに流れてきた者だって少なくはない」
「大巫女様は何か聞いてないか?」
オウガが尋ねると、大巫女は肩を竦めた。
「聞いた時だって、いつだったか忘れたくらいさ」
そう言われては仕方ないと三人は顔を見合わせる。
「しかし、よく知ってるもんだね。どこから聞いたんだい」
「あ、うん、ちょっとね……」
曖昧にファリフが答えた。
「……昔、シバの戯言でも聞いた覚えがあるよ」
俯いた大巫女の言葉に全員が集中する。
「その時に、自分もあんな戦士なると言ってたねぇ。場所を見つけて、死にかけるような試練を乗り越えると、大口叩いていたよ……」
そう言った大巫女は遠くを見つめる。
いつそう話したのだろうか。
何故か尋ねられなかった。
大巫女はゆっくり目を細めてハンター達の方へ視線を向ける。
「あいつが最期に随分と大量なマテリアルを放出したのは聞いているよ」
どきりと、三人の胸が跳ね上がる。
今回の件、他言無用とした。大巫女を信用していないという話ではなく、情報の漏洩を防ぐ為だ。
「はしゃいでも、くたばったら意味がないのに」
鼻を鳴らすように息をつく大巫女の言葉にハンター達は返す言葉はなかった。
しかし、そうしなければ発動できなかったのも事実である。
●
テオバルトは一人、チューダの下へ。
自ら幻獣王と称しているチューダは数々の『やらかし』はあれど、その知識は膨大である。
ただ、幻獣に関してか、赤き大地に関してどれほどの知識があるのかはイマイチ不明かつ、偏りと、ボケが入っている。
テオバルトの視界には、やっぱり、世話を焼く美人巫女の膝に甘えるチューダがいた。
「おぉ、我が下僕。苦しゅうないです、何用でありますか」
美人巫女の膝の上でパタパタと手を振るチューダ。
「えと……」
美人巫女の前で目的の話が出来ないだろうと思っていると、美人巫女はテオバルトの様子に気づいて、チューダに適当な事を言って退出してくれた。
改めてテオバルトはチューダに向き合う。
「お伽噺の事を知ってるか」
内容を聞かせたところ、チューダは天井を見上げて「うーん」と唸っている。
「そうでありますなぁ……」
ちらりと、チューダはテオバルトの方を見やる。
「あー……聞いたことがあるような気がありますぅー」
ゆらゆらと身体を揺らすチューダはチラッチラッとテオバルトを見ており、流石にテオバルトはなんなのかと、頭の上に疑問符を浮かべるような様子。
「我輩、なんだか美味しいものがほしいでありますぅ~」
テオバルトはチューダの言わんとしている事に気づいた。
今回、持ってきていた月餅の甘い香りに気付かれたのだろうと察する。
よく気付いたなと呆れていると、ノックの音がきこえて入って来たのはルシオ。
「はじめまして、チューダ様」
ルシオの挨拶にチューダは喜んでいる模様。
「お菓子が食べたいみたいだ」
こっそりとテオバルトがルシオ言えば、「大丈夫」と言わんばかりにルシオが出してきたのはポテトチップスとおやさいクッキー。
「おぉおおお! 流石は我が下僕!」
「チューダ様には潤沢なお知恵を頂きたいと思いまして」
ルシオの差し入れにチューダは目を輝かせる。
「まぁ、確かに昔はそういった奴らもいたような気がしたであります」
ばりっと、ポテトチップスのアルミ袋を破り、中のチップスの一枚に齧りつく。
「見た事があるのか」
テオバルトの言葉に「昔の話であります」と二枚いっぺんにチップスを口の中に押し込む。
「まぁ、我輩の力には及ばないであります!」
チューダは傍らにあった喉の渇きを潤し、『えっへん!』と胸を張る。
「お菓子が美味しかったので、なでなでしてもいいであります」
かなりご満悦のようであり、ルシオはなでなでしてその毛並みを堪能する。
「それを得る場所は?」
テオバルトが尋ねると、鳩が豆鉄砲を食らったかのようにチューダは目を点にした。
「……さぁ。我々の仲間が守ってたと聞いてありますが、忘れたであります」
あっさりと答えやがったチューダをほどほどに二人は仲間の下へと向かう。
●
皆の話を纏めると、シバの手記とファリフが聞いたお伽噺はほぼイコールと見ていいだろう。
シバはお伽噺を知っており、それが実現できるという情報を掴み、更なる技を最期まで模索していた。
そして、シバは死合いの死の間際にその技を繰り出すことが出来た。
死合いに立ち会ったハンター達の認識としては、偶然出来たような様子にも思えるという証言がある。
チューダに関してはいいところまで話してくれたのだが、お得意のボケで肝心なところが分らない。
「フェンリルー」
ファリフにねだられてフェンリルは困った表情を見せる。
そういった霊闘士がいたのは事実であるが、その手段までは自分もあまり知らないのだ。
「ナーランギならば何か分かるんじゃないのか?」
チューダと同じく、永き時を存在している大幻獣ナーランギ。
彼ならば……と、皆が納得する。
日を改めてナーランギへ確認とるのがベストと結論した。
「……どうにしろ、もう一度確認しなきゃね」
アイラの言葉のあと、ハンター達は再び蛇の窟へと足を向けた。
二度目ともあり、マッピングも皆で周知し洞窟自体を確認している。
毒なし蛇の穴にオウガはあえて降りていったが、特に何もない。
向こうの脇道は蜘蛛の群れに落ちる穴であり、アイラがファミリアズアイで確認しようにも猫が拒否。
皆で確認していっても、暗号などのものは見当たらなかった。
広間に着くと、皆で手分けして資料を探す。
作業の中、テオバルトが顔を上げる。
壁をぺたぺたと触り、土壁がもろくないか確認していた。
「どうかしたの?」
ファリフが尋ねると、テオバルトは壁につけて平積みされていた本や品物を分るように横へ移動させている。
「壁、登ってみようと思ってさ」
「壁?」
目を瞬かせるファリフにテオバルトが新しい技を試したいと言った。
テオバルトは壁に足を掛けてマテリアルを自身の身体の中に循環させる。
「よっ」
掛け声と共にテオバルトの身体は重力に逆らって歩き始めた。
感覚に慣れたと確信したテオバルトは更にランアウトで天井を目指す。手は壁につけつつ登って行くと、指に異変を感じた。
「眩しいから目には気をつけて」
そう言ったルシオがハンディLEDライトを壁下からテオバルトの所まで照らす。
「壁画……」
人間と蛇が一体化しているような壁画があり、ライトを横にずらしていくと、妙な形と相対していた。
「お伽噺と似た感じかしら……?」
首を傾げるアイラに「どうだろうね」とルシオが返す。
そのまま天井を目指したテオバルトだが、特に気付いた点はなく、ゆっくりと戻っていった。
エアルドフリスと陽はシバの手記を探しあて、中身を確認する。
「リアルブルーにも辺境みたいな伝承や物語があるんだ」
ぽつりと呟いたのは陽だ。
「……北欧と言われる地域の伝承で、戦いの神に力を与えられた戦士がいて、そいつらは正気を失った状態で戦い続けるんだ」
陽の言葉にオウガが反応する。
「シバさんの状態とは違って、見境がなくなって、肉親まで倒す事もあるって……」
「似てるな」
肯定したのはオウガだ。少し顔色が悪いのは金盥の匂いを超嗅覚で確認し、金属の匂いに参ってしまったから。
「違うのは、死にかけるような試練はないみたいなんだ」
そこで広間に静寂がおりる。
再びシバの手記が捲られていく音が聞こえてきた。
「シバおじいちゃんは、チューダ君が言った試練の場所に行った事はなかったみたいね」
冊子を読み終えたアイラが次の冊子を探しながら誰にともなく語りかける。
「そのようですね」
エアルドフリスもまた、読み終えたようだ。
はーっと、ファリフがため息を吐き、フェンリルの毛に凭れる。じっと読んでいるのが辛かった模様。
「やっぱり、シバさんはお伽噺からあの技をものにしようとしてたんだね」
習得する為の場所は見つからなかったと手記にあった。
「そうなると、ナーランギに尋ねた方がいいってことか」
オウガの言葉にフェンリルが「そうだな」と答える。
「奴なら何かしら分るだろうな」
尻尾でファリフをあやしながらフェンリルが返す。
出る際はちゃんとスコップを使って入り口を偽装する。
空を見上げたエアルドフリスは今回会えなかったテトを思う。
自身の境遇を思い出しつつも、次会える時は笑顔が見られることを願うしかない。
「競争だな、ファリフ」
ファリフの顔を覗き込んだオウガが不敵に笑う。
「じっちゃんの技、どっちが習得できるか」
面食らったファリフだが、すぐに笑顔となる。
「そうだね。でも、最後は皆で習得したいよね!」
「勿論♪」
ファリフが見やったのはアイラとテオバルト。二人もまた、同じ気持だ。
気合を見せる霊闘士達を見つめるのはルシオと陽。
必ずしも、シバの想いを導こうと新たに秘める。
ふっと、顔を上げたのはエアルドフリス(ka1856)。
シバが遺した『もの』の話を聞き、駆けつけられない想いを祈りとして、シバの死合いに共に立ち向かった仲間に託していた。
「……エアルド?」
その相手……ルシオ・セレステ(ka0673)が振り向くと、彼は微かな笑みを浮かべる。
「シバ師が遺したい、継がせたい『もの』に再び携われるのは僥倖と思ってな」
エアルドフリスの言葉にルシオは納得した。
彼は生ある限り行動で問いかけ、死後も尚、後世達に道を示そうとしている。
「それを受け継ぎたいと思ってるぜ」
先を歩いていたオウガ(ka2124)とアイラ(ka3941)が足を止め、二人の方を向いていた。
「おじいちゃんの技、あたしも出来るようになりたい」
護りたいと思う存在の為にとアイラは決意を込めて。
シバの想いを受け取りたいと願うのは彼らだけではない。
一度繋がっていた縁を手繰り寄せるように参加したのは八島 陽(ka1442)だった。
シバが残した技は霊闘士の技と認識していた。それを受け継げるようにしたいという想いからである。
「ファリフだ」
テオバルト・グリム(ka1824)が気づくと、迎えに来てくれたファリフが手を振ってハンター達を向かえてくれた。
通された部屋は人が来ないように手配していた。
「前回はごめん」
部屋の扉を閉めて開口一番、陽が謝りだして、ファリフは目を見開く。
「え。気にしなくてもいいと思う。改めて宜しくね」
「ちょっと、確認したいけど」
仕切りなおすように陽が片手を挙げる。
「最期の死合いの時、シバさんの技は初めて使えたと認識してるんだけど」
陽の言葉に頷いたのはエアルドフリスだ。
「シバ師は『我が魂が器を作り出した』と言ってました」
かの黒い大蛇の幻をハンター達へ魅せる為の器……更なる技を繰りだせるようになったことを指示す言葉にも思えてしまうシバの狂おしく喜んでいた言葉を四人はそれぞれ思い出す。
「……そいや、ファリフが読んだ御伽噺、どっかで聞いたような気がするんだ……」
呻るのはテオバルドだった。
祖父母か曾祖父母か分らないが、親の年代ではない古い世代が言ってたような気がするが、よく思い出せない。
「仕方ないよ。失伝しかけているお話だし、おじいさんおばあさんの世代でも知らない人がいる状態だもん」
ファリフとて、族長としての英才教育の一環として覚えたうろ話。シバの手記がなければ思い出せなかった可能性もあるのだ。
「なんにせよ、聞き込みをしましょう」
アイラが言えば、全員が頷いた。
●
ハンター達は手分けして、シバの手記にあったお伽噺について聞き込みに回った。
アイラ、陽、ルシオは部族なき部族のメンバーである山羊がいる場所へと向かう。
「おう」
山羊はアイラとルシオを覚えており、「世話になったと」礼を言う。
「お加減、どうですか?」
「治療が必要な者はもう特にいなくなった。そろそろ、鈍った身体を鍛えなおしたいくらいだ」
他のメンバーの容態は回復傾向にあるという話にアイラ達はそっと安堵の息をつく。
「シバの事で聞きたい事があるけど、いいかい?」
ルシオの言葉に「俺でよければ」と快諾してくれた。
「蒼の世界に関する書物や品物を集めるように言われた事はあるかい?」
「あぁ、あの人は珍しいものや、新しいものが好きなきらいがあったな。時折、わからないものを見つけたら持ってきてくれと頼まれる事もあった」
素直に応じてくれる山羊に陽は目を見張る。
「どの辺り? 目的とか、あったのかな」
アイラの問いかけに山羊は首を傾げる。
「とはいっても、この赤き大地の領地内だ。リアルブルーの漂着した物も人間も点在するからな」
活動領域は絞り込めない模様であった。
「シバさんとテトの相互認証方法とかある?」
この陽の質問には山羊は首を傾げた。部族なき部族の中で使われる合言葉や個人符号のことかと思ったが、違うと判断した。
「テトはシバの後を継ぐものとされていたが、あるとすれば、それは二人にしか分らないだろう」
「そっか……」
それもそうだと納得した陽からアイラへと質問が変わる。
彼女が提示した内容はシバの手記よりファリフから示されたお伽噺。
話を聞いていく山羊は眉を寄せていったことで、そのお伽噺が初耳と言う事を気付かせられてしまう。
「初耳だな。部族が失われると伝承も失っていくことも間々あるからな」
「……シバが最期に繰り出した技の話はきいてるかい?」
再度、ルシオの質問に山羊は思い当たるところがあったようだ。
「シバは鍛錬を怠るようなことはなかった。常に自身を磨き続け、更なる力を得ようとしていた」
近年はやんちゃが過ぎて、ぎっくり腰になることもあったがなと言葉を続けた。
確かにシバらしいとハンターと山羊は笑いあう。
●
同じホープでも、大巫女に会いに来たのはエアルドフリスとオウガとファリフとフェンリルであった。
部屋に通された二人は案内された者より、じきに大巫女が来ることを告げて部屋を退出する。
暫し座って待っていると、扉が開かれて大巫女が現れた。
「よく来たね」
大巫女が声を上げると、エアルドフリスが一度立ち上がる。
「御時間を頂き感謝致します、大巫女様」
丁寧なエアルドフリスの礼を受けた大巫女は「気にすんじゃないよ」と笑う。
「今日は一体どうしたんだい? 改まって」
全員が座ると、ハンターから述べられたのは件のお伽噺。
話を聞いていくと、大巫女は目を細めて懐かしそうに微笑んだ。
「随分と懐かしい話だねぇ」
ため息をほうっと、吐く大巫女の様子から見て、その話を随分聞いていないというのが窺い知れる。
「大巫女は知ってるんだ」
ファリフの問いに大巫女は「そんなに詳しくはないさ」と返した。
「部族が滅びかけて、ここに流れてきた者だって少なくはない」
「大巫女様は何か聞いてないか?」
オウガが尋ねると、大巫女は肩を竦めた。
「聞いた時だって、いつだったか忘れたくらいさ」
そう言われては仕方ないと三人は顔を見合わせる。
「しかし、よく知ってるもんだね。どこから聞いたんだい」
「あ、うん、ちょっとね……」
曖昧にファリフが答えた。
「……昔、シバの戯言でも聞いた覚えがあるよ」
俯いた大巫女の言葉に全員が集中する。
「その時に、自分もあんな戦士なると言ってたねぇ。場所を見つけて、死にかけるような試練を乗り越えると、大口叩いていたよ……」
そう言った大巫女は遠くを見つめる。
いつそう話したのだろうか。
何故か尋ねられなかった。
大巫女はゆっくり目を細めてハンター達の方へ視線を向ける。
「あいつが最期に随分と大量なマテリアルを放出したのは聞いているよ」
どきりと、三人の胸が跳ね上がる。
今回の件、他言無用とした。大巫女を信用していないという話ではなく、情報の漏洩を防ぐ為だ。
「はしゃいでも、くたばったら意味がないのに」
鼻を鳴らすように息をつく大巫女の言葉にハンター達は返す言葉はなかった。
しかし、そうしなければ発動できなかったのも事実である。
●
テオバルトは一人、チューダの下へ。
自ら幻獣王と称しているチューダは数々の『やらかし』はあれど、その知識は膨大である。
ただ、幻獣に関してか、赤き大地に関してどれほどの知識があるのかはイマイチ不明かつ、偏りと、ボケが入っている。
テオバルトの視界には、やっぱり、世話を焼く美人巫女の膝に甘えるチューダがいた。
「おぉ、我が下僕。苦しゅうないです、何用でありますか」
美人巫女の膝の上でパタパタと手を振るチューダ。
「えと……」
美人巫女の前で目的の話が出来ないだろうと思っていると、美人巫女はテオバルトの様子に気づいて、チューダに適当な事を言って退出してくれた。
改めてテオバルトはチューダに向き合う。
「お伽噺の事を知ってるか」
内容を聞かせたところ、チューダは天井を見上げて「うーん」と唸っている。
「そうでありますなぁ……」
ちらりと、チューダはテオバルトの方を見やる。
「あー……聞いたことがあるような気がありますぅー」
ゆらゆらと身体を揺らすチューダはチラッチラッとテオバルトを見ており、流石にテオバルトはなんなのかと、頭の上に疑問符を浮かべるような様子。
「我輩、なんだか美味しいものがほしいでありますぅ~」
テオバルトはチューダの言わんとしている事に気づいた。
今回、持ってきていた月餅の甘い香りに気付かれたのだろうと察する。
よく気付いたなと呆れていると、ノックの音がきこえて入って来たのはルシオ。
「はじめまして、チューダ様」
ルシオの挨拶にチューダは喜んでいる模様。
「お菓子が食べたいみたいだ」
こっそりとテオバルトがルシオ言えば、「大丈夫」と言わんばかりにルシオが出してきたのはポテトチップスとおやさいクッキー。
「おぉおおお! 流石は我が下僕!」
「チューダ様には潤沢なお知恵を頂きたいと思いまして」
ルシオの差し入れにチューダは目を輝かせる。
「まぁ、確かに昔はそういった奴らもいたような気がしたであります」
ばりっと、ポテトチップスのアルミ袋を破り、中のチップスの一枚に齧りつく。
「見た事があるのか」
テオバルトの言葉に「昔の話であります」と二枚いっぺんにチップスを口の中に押し込む。
「まぁ、我輩の力には及ばないであります!」
チューダは傍らにあった喉の渇きを潤し、『えっへん!』と胸を張る。
「お菓子が美味しかったので、なでなでしてもいいであります」
かなりご満悦のようであり、ルシオはなでなでしてその毛並みを堪能する。
「それを得る場所は?」
テオバルトが尋ねると、鳩が豆鉄砲を食らったかのようにチューダは目を点にした。
「……さぁ。我々の仲間が守ってたと聞いてありますが、忘れたであります」
あっさりと答えやがったチューダをほどほどに二人は仲間の下へと向かう。
●
皆の話を纏めると、シバの手記とファリフが聞いたお伽噺はほぼイコールと見ていいだろう。
シバはお伽噺を知っており、それが実現できるという情報を掴み、更なる技を最期まで模索していた。
そして、シバは死合いの死の間際にその技を繰り出すことが出来た。
死合いに立ち会ったハンター達の認識としては、偶然出来たような様子にも思えるという証言がある。
チューダに関してはいいところまで話してくれたのだが、お得意のボケで肝心なところが分らない。
「フェンリルー」
ファリフにねだられてフェンリルは困った表情を見せる。
そういった霊闘士がいたのは事実であるが、その手段までは自分もあまり知らないのだ。
「ナーランギならば何か分かるんじゃないのか?」
チューダと同じく、永き時を存在している大幻獣ナーランギ。
彼ならば……と、皆が納得する。
日を改めてナーランギへ確認とるのがベストと結論した。
「……どうにしろ、もう一度確認しなきゃね」
アイラの言葉のあと、ハンター達は再び蛇の窟へと足を向けた。
二度目ともあり、マッピングも皆で周知し洞窟自体を確認している。
毒なし蛇の穴にオウガはあえて降りていったが、特に何もない。
向こうの脇道は蜘蛛の群れに落ちる穴であり、アイラがファミリアズアイで確認しようにも猫が拒否。
皆で確認していっても、暗号などのものは見当たらなかった。
広間に着くと、皆で手分けして資料を探す。
作業の中、テオバルトが顔を上げる。
壁をぺたぺたと触り、土壁がもろくないか確認していた。
「どうかしたの?」
ファリフが尋ねると、テオバルトは壁につけて平積みされていた本や品物を分るように横へ移動させている。
「壁、登ってみようと思ってさ」
「壁?」
目を瞬かせるファリフにテオバルトが新しい技を試したいと言った。
テオバルトは壁に足を掛けてマテリアルを自身の身体の中に循環させる。
「よっ」
掛け声と共にテオバルトの身体は重力に逆らって歩き始めた。
感覚に慣れたと確信したテオバルトは更にランアウトで天井を目指す。手は壁につけつつ登って行くと、指に異変を感じた。
「眩しいから目には気をつけて」
そう言ったルシオがハンディLEDライトを壁下からテオバルトの所まで照らす。
「壁画……」
人間と蛇が一体化しているような壁画があり、ライトを横にずらしていくと、妙な形と相対していた。
「お伽噺と似た感じかしら……?」
首を傾げるアイラに「どうだろうね」とルシオが返す。
そのまま天井を目指したテオバルトだが、特に気付いた点はなく、ゆっくりと戻っていった。
エアルドフリスと陽はシバの手記を探しあて、中身を確認する。
「リアルブルーにも辺境みたいな伝承や物語があるんだ」
ぽつりと呟いたのは陽だ。
「……北欧と言われる地域の伝承で、戦いの神に力を与えられた戦士がいて、そいつらは正気を失った状態で戦い続けるんだ」
陽の言葉にオウガが反応する。
「シバさんの状態とは違って、見境がなくなって、肉親まで倒す事もあるって……」
「似てるな」
肯定したのはオウガだ。少し顔色が悪いのは金盥の匂いを超嗅覚で確認し、金属の匂いに参ってしまったから。
「違うのは、死にかけるような試練はないみたいなんだ」
そこで広間に静寂がおりる。
再びシバの手記が捲られていく音が聞こえてきた。
「シバおじいちゃんは、チューダ君が言った試練の場所に行った事はなかったみたいね」
冊子を読み終えたアイラが次の冊子を探しながら誰にともなく語りかける。
「そのようですね」
エアルドフリスもまた、読み終えたようだ。
はーっと、ファリフがため息を吐き、フェンリルの毛に凭れる。じっと読んでいるのが辛かった模様。
「やっぱり、シバさんはお伽噺からあの技をものにしようとしてたんだね」
習得する為の場所は見つからなかったと手記にあった。
「そうなると、ナーランギに尋ねた方がいいってことか」
オウガの言葉にフェンリルが「そうだな」と答える。
「奴なら何かしら分るだろうな」
尻尾でファリフをあやしながらフェンリルが返す。
出る際はちゃんとスコップを使って入り口を偽装する。
空を見上げたエアルドフリスは今回会えなかったテトを思う。
自身の境遇を思い出しつつも、次会える時は笑顔が見られることを願うしかない。
「競争だな、ファリフ」
ファリフの顔を覗き込んだオウガが不敵に笑う。
「じっちゃんの技、どっちが習得できるか」
面食らったファリフだが、すぐに笑顔となる。
「そうだね。でも、最後は皆で習得したいよね!」
「勿論♪」
ファリフが見やったのはアイラとテオバルト。二人もまた、同じ気持だ。
気合を見せる霊闘士達を見つめるのはルシオと陽。
必ずしも、シバの想いを導こうと新たに秘める。
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調査相談 エアルドフリス(ka1856) 人間(クリムゾンウェスト)|30才|男性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2016/02/08 21:51:51 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/02/05 11:21:58 |