ゲスト
(ka0000)
【深棲】私を海へ連れてって
マスター:佐倉眸

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/08/16 22:00
- 完成日
- 2014/08/24 17:36
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
一艘の釣り船がぽっかりと
まぁるい月の照らす静かな海を
仄暗い波間を漂っていく
俺は見たんだ、と男は言った。夜の釣りの最中、彼の小さな釣り船の回りを漂う奇妙な影を。
それは暗い海の中で淡く発光する藻を頭に生やした人間大の大クラゲ、何本もの脚を持ち、そのいずれの先も鋭く尖っていたという。
男の訴えを村人達は訝しんでいたが、彼の漁師仲間で同じく夜の釣りを好むテオは、
「しかたねぇな、俺が始末してきてやるよ」
と言って、妻から貰ったゴーグルを頭に乗せ、愛用の銃を担いで、その日の夜に海へ出た。
テオが水死体となって帰ってきたのは、翌々日のこと。
浜に打ち上げられたのは、銃とゴーグルを奪われ、全身を槍のような何かで刺された彼の亡骸と、穴だらけで真っ二つに折れた彼のボートだった。
●
その、三日後。
案内人はテオの妻だという若い女性を前に口を噤む。出されたお茶もすっかり冷め切っていた。
喪服に身を包んだ彼女はナイフを一振り握りながら言う。
「護衛の依頼、引き受けて下さるでしょう?」
「――――それは護衛じゃ無いですってば――っ!」
ユリア……テオの妻はテオの敵を討ちに行くと言って船を出そうとしたらしい。気付いた村人が数人で押さえ込んだが、今度はハンターを雇い海への同行を願い出た。
「いいのよ、別に……だめなら、だめと言って下さっても……けれど、私は諦めない――テオを殺した奴を、同じだけ穴だらけにして殺してやるの」
やつれた白い頬で引き攣ったように笑う相貌が抜き身のナイフに映った。
その場を言いくるめて家を辞した案内人は、帰途、丁度その奇妙な影の監視をしていた村人と村長に行き合った。
「おや、ハンターの……」
「はい、案内人です。ええとですね、本日は……」
「いや、いい。テオのところだろ……嫁さんはユリアといってね、街から嫁いできた子で、いい子なんだが、船の漕ぎ方一つ知らんのだよ」
村長は深く溜息を吐いた。
「テオのことは……ワシらも悔しくてね。ここ三日はずっと見張っていたんだ」
浜に櫓を組んで監視を続けた。
夜通しの番にはテオの友人だった男も加わっていた。
彼らは、その奇妙な影が、歪虚だということまでは掴んで、最近、他所の村や町の騒がすそれが、ついにここにも来てしまったかと溜息を吐いたらしい。
「形はクラゲに似ているが、頭の幅が腕を広げたよりも大きい。その頭がどうやら岩のようになっているらしく、藻がびっしり生えているんだ……脚の数は決まっていなようだが、これも頑丈そうだ。5本か、7本か……10本か」
それから、言いづらそうに項垂れた村長に代わり、村人が続けた。
「その中の一匹……頭の藻にテオの銃とゴーグルが絡んでいたんです」
●
案内人は櫓の当番に混ざることにした。
村長からの依頼で歪虚討伐のハンターを招集したものの、クラゲの歪虚がいつ現れるかは掴めていない。見張りに携わった村人達は昼夜を問わずその姿を見ており、同時に見られるのは1匹から、多くて10匹ほどだという。脚までを岩のような殻で覆った、何とも頑丈そうな大クラゲが、緩慢に波間を漂い、浮かんで潜って。
それらは浜を目指す様子も無く、緑の藻がゆらゆらと揺らめく頭を見せてはすぐに見えなくなってしまうらしい。
それから、ユリアもまだ諦めていないと聞く。
「どうしたものですかねぇ……」
昼の浜辺は酷く暑い。案内人は額の汗を拭って呟く。
連れて行っても危ないだけだが、勝手に海に出られてはもっと危ない。
ひょいっと覗いた双眼鏡の先、浮かんだ緑の頭がぷかぷかと浜へ迫ってくるのが見えた。
「ん?」
その影はまだ遠いが、着実に浜に向かって漂い来ている。
その数は、2、3、4……そして銃とゴーグルを頭に載せたものもいる。案内人は櫓から転がるように飛び降りて、ハンターたちの元へ駆けていった。
一艘の釣り船がぽっかりと
まぁるい月の照らす静かな海を
仄暗い波間を漂っていく
俺は見たんだ、と男は言った。夜の釣りの最中、彼の小さな釣り船の回りを漂う奇妙な影を。
それは暗い海の中で淡く発光する藻を頭に生やした人間大の大クラゲ、何本もの脚を持ち、そのいずれの先も鋭く尖っていたという。
男の訴えを村人達は訝しんでいたが、彼の漁師仲間で同じく夜の釣りを好むテオは、
「しかたねぇな、俺が始末してきてやるよ」
と言って、妻から貰ったゴーグルを頭に乗せ、愛用の銃を担いで、その日の夜に海へ出た。
テオが水死体となって帰ってきたのは、翌々日のこと。
浜に打ち上げられたのは、銃とゴーグルを奪われ、全身を槍のような何かで刺された彼の亡骸と、穴だらけで真っ二つに折れた彼のボートだった。
●
その、三日後。
案内人はテオの妻だという若い女性を前に口を噤む。出されたお茶もすっかり冷め切っていた。
喪服に身を包んだ彼女はナイフを一振り握りながら言う。
「護衛の依頼、引き受けて下さるでしょう?」
「――――それは護衛じゃ無いですってば――っ!」
ユリア……テオの妻はテオの敵を討ちに行くと言って船を出そうとしたらしい。気付いた村人が数人で押さえ込んだが、今度はハンターを雇い海への同行を願い出た。
「いいのよ、別に……だめなら、だめと言って下さっても……けれど、私は諦めない――テオを殺した奴を、同じだけ穴だらけにして殺してやるの」
やつれた白い頬で引き攣ったように笑う相貌が抜き身のナイフに映った。
その場を言いくるめて家を辞した案内人は、帰途、丁度その奇妙な影の監視をしていた村人と村長に行き合った。
「おや、ハンターの……」
「はい、案内人です。ええとですね、本日は……」
「いや、いい。テオのところだろ……嫁さんはユリアといってね、街から嫁いできた子で、いい子なんだが、船の漕ぎ方一つ知らんのだよ」
村長は深く溜息を吐いた。
「テオのことは……ワシらも悔しくてね。ここ三日はずっと見張っていたんだ」
浜に櫓を組んで監視を続けた。
夜通しの番にはテオの友人だった男も加わっていた。
彼らは、その奇妙な影が、歪虚だということまでは掴んで、最近、他所の村や町の騒がすそれが、ついにここにも来てしまったかと溜息を吐いたらしい。
「形はクラゲに似ているが、頭の幅が腕を広げたよりも大きい。その頭がどうやら岩のようになっているらしく、藻がびっしり生えているんだ……脚の数は決まっていなようだが、これも頑丈そうだ。5本か、7本か……10本か」
それから、言いづらそうに項垂れた村長に代わり、村人が続けた。
「その中の一匹……頭の藻にテオの銃とゴーグルが絡んでいたんです」
●
案内人は櫓の当番に混ざることにした。
村長からの依頼で歪虚討伐のハンターを招集したものの、クラゲの歪虚がいつ現れるかは掴めていない。見張りに携わった村人達は昼夜を問わずその姿を見ており、同時に見られるのは1匹から、多くて10匹ほどだという。脚までを岩のような殻で覆った、何とも頑丈そうな大クラゲが、緩慢に波間を漂い、浮かんで潜って。
それらは浜を目指す様子も無く、緑の藻がゆらゆらと揺らめく頭を見せてはすぐに見えなくなってしまうらしい。
それから、ユリアもまだ諦めていないと聞く。
「どうしたものですかねぇ……」
昼の浜辺は酷く暑い。案内人は額の汗を拭って呟く。
連れて行っても危ないだけだが、勝手に海に出られてはもっと危ない。
ひょいっと覗いた双眼鏡の先、浮かんだ緑の頭がぷかぷかと浜へ迫ってくるのが見えた。
「ん?」
その影はまだ遠いが、着実に浜に向かって漂い来ている。
その数は、2、3、4……そして銃とゴーグルを頭に載せたものもいる。案内人は櫓から転がるように飛び降りて、ハンターたちの元へ駆けていった。
リプレイ本文
●
ユリアは膝を抱えて座る。囲うように同船しているのは皆幼い少女ばかり、に見える。
「――援護ですね、藻のおかげで見つけやすそう」
「アースバレットを撃ってみるよ。土属性が効くかも知れない」
「では、わたしはファイアアローを試します」
「……ユリアさん」
不意に呼ばれて顔を上げた。赤い目の少女が、潮風に銀色の髪を戦がせて、凜とした笑みを向ける。
「ボク目が良いんだよ、近付いたらすぐ見つけるから、落ち着いてね」
優しい声だ。
揺れる波の先からも視線を感じた。先頭の小さいボートから。それに乗っている金髪の優男と、茶髪の…………
エヴァンス・カルヴィ(ka0639)はボートを出しながら、ハンター達の側で眺め、今にも海へ走り出していきそうなユリアを振り返った。
「なあ、旦那の仇は俺が串刺しにしてやるから、あんたはここに残ってくれねぇか?」
「嫌。連れて行ってくれないなら」
ユリアが余っているボートへ目を向けた。
「仕方ねぇな――っし、旦那さんの仇討ちといくか!」
説得は難しそうだと諦めて船を押すと、ユリアの顔に安堵めく表情が見えた。
「エヴァンスさん」
無限 馨(ka0544)が同じボートへ手を掛け、波打ち際に浮いたそれに乗り込む。
「ユリアさんには後ろの船へ」
「おう。あんたは、あの船な――」
エヴァンスが示した先で十色 エニア(ka0370)と柊崎 風音(ka1074)とレナ・クラウステル(ka1953)が手を振っている。
「こちらへ乗って下さい」
十色が船を抑え、ユリアが乗り込む。オールを取ろうと伸ばした手はレナに阻まれた。
「ユリアさんは、漕がなくていいから」
「――クラゲっていえば、酢の物だよね」
「おや、お好きですか」
静架(ka0387)がレイオス・アクアウォーカー(ka1990)とデルフィーノ(ka1548)と隣のボートを押しながら、柊崎の声に応えた。
「でも、歪虚は食べられないね」
「確かに、食欲が湧かないですね……ユリアさん、無いよりはマシでしょう、持っていて下さい」
静架がユリアに浮き輪を差し出した。それをレイオスが厳しい目で見詰めている。
「こちらの指示を守らなかったら気絶させてでも何もさせない」
いいな、と見据えてユリアが微かに頷くとボートへ乗り込む。漕ぎ出す先を確かめながらデルフィーノも乗り込んだ。
3艘のボートはエヴァンスと無限の乗った小さいボートを先頭に海原へ漕ぎ出していく。
クラゲとの距離を目測ながら量っていたデルフィーノが声を掛ける。テオの銃とゴーグルを藻に絡めた大クラゲの姿も、もう、銃弾の届くところに見えていた。
そうだ、茶髪の男、エヴァンスと呼ばれていたっけ。
ああ、他の人たちの名前、聞いていない……
●
先導していたデルフィーノが先を指した。
「あの岩を迂回したらすぐだな、それで射程に入る――前に出すぎるな」
他2艘のボートも緩やかに止まる。それを確かめて、マテリアルを昂ぶらせ、静架とレイオスに送り込む。
「無いよりあった方が良いだろ、俺は上から撃って援護するからな」
2人が頷き、飛び込む水面を見据えた。レイオスが水面から海中を覗く。
「岩がある方が良いな、脚を誘って崩せそうだ」
「ええ、試してみたいですね」
静架も波に指先を浸した。
エヴァンスが親指を上に向ける。
「じゃ、これ、でお前浮上」
そして、掌を見せて揃えた指を上に向ける。
「これ、で俺浮上な」
「はい……あの、潜っている間は俺が隙を作るんで」
ハンドサインを決めておこうと言ったきり無限の表情が硬い。
「何気負ってんだ」
「何でもないっすよ」
無限は首を横に揺らした。罪悪感がひりつく胸裏にマテリアルの熱を感じる。
そうかぁ、と茶化すように言ったエヴァンスの口角が鋭利につり上がり噛み付くような歯が覗く。穏やかな赤い瞳は、色味を無くして琥珀に光る。
「行くぞ」
「はい」
2人が飛び込むと、続く船からそれを見た静架とレイオスが頷いて追う。
「参りましょう」
「おう」
透き通った水に身を浸し、波に弄ばれる静架の髪が青みを帯びた銀色に、ゆらゆらと迫る歪虚を睨む瞳が氷青色に凍て付く。
レイオスが太刀の柄を握り直してマテリアルを巡らせる。水面へ差す光を浴びて煌めく鋼は真っ直ぐに水を裂いていく。
ユリアを乗せた船も少し前へ進んで止まる。ユリアの護衛を考え射程のぎりぎりに据え、前方4人が飛び込む声と水音を聞く。その音に身を乗り出そうとするユリアを抑えながら3人はマテリアルを巡らせる。
海の中は静かで水面の波よりも穏やかだ。しかしそこが漂う歪虚のテリトリーであることには変わり無い。
水を蹴って前進する無限に向かい、藻に銃とゴーグルを絡めたクラゲの脚、鋭い切っ先が伸ばされた。いなすようにそれを躱し、旋棍を叩き付けるとその殻が折れて脚がちぎれる。まったく別の方向へ伸びていったもう1本がエヴァンスの剣に切り落とされた。
残りの脚は8本、2人は頷き合って次を睨む。
再度無限に伸ばされた脚は鼻先を掠めて届かなかったが、次の脚は的確にエヴァンスの鎧に届き軽い衝撃を腹へ与えた。
間近の脚にマテリアルを込める剣を叩き付けて刈り取り、大したことないと手を振る。無限もマテリアルが研ぎ澄ます旋棍で水を薙ぎ、殻を砕いて脚を抉り取った。
同時に延ばされた脚を無限がその体に受けて引きつける。脇と腕を深く裂かれながら、クラゲの脚を引きつけて耐える。無限がマテリアルを傷に流して塞ぎ、エヴァンスが次の脚を狙う最中、脚が半分まで減らされたクラゲが突如、暴れ出した。
静架とレイオスを送って、デルフィーノがオールを引いて船を止める。水面には4つクラゲの殻に生えた藻が揺れている。内の2つが水面を揺らして潜っていった。
2匹のクラゲがそれぞれ迫ってくる。ぶつかってくる勢いに合わせて、静架はボートへの動線を背に、マテリアルを込めた銃弾を放った。殻の一部を欠いたクラゲは速度を落としながらも迫るのをやめない。
1匹引き受けると言うようにレイオスは体当たりを躱しながら銃弾を当てて誘い、更に深く潜る。2匹が離れると、その藻に向かって一発ずつ、デルフィーノが銃弾を撃ち込んだ。揺れる船の上から水中で動く敵は狙いにくいが的は大きい。それぞれの殻の端を砕き、中央近くへとひびを入れた。
「性分じゃねぇんだぜ」
デルフィーノはぼやきながら次弾の狙いを定める。
レイオスが海中の岩の間を抜けてクラゲを誘う。細い脚が器用に追うが、その先が岩に掛かった。別の脚に裂かれた傷を岩を背に癒やしながら、傘の内を睨んで銃を構える。次の脚を誘う岩場を見据えながら岩を蹴った。
もう1匹のクラゲに下方を取ろうとした静架が、伸ばされる脚に阻まれていると、少し先に一番大きなクラゲが暴れる姿を見た。
「銃……――遺品が流されそう。前へ出ます」
「おう、こいつは俺様が引き受けた」
静架は海中で思わず呟いて、慌てて浮上する。デルフィーノは、口角を上げて銃口を静架を狙い漂い迫るクラゲへ向けた。
十色とレナがそれぞれ手にした杖から炎の矢と石礫の銃弾を放った。
マテリアルの光を帯びたそれは真っ直ぐに飛び、水面に揺れるクラゲの頭にぶつかった。
「うーん、レナの魔法、効いたみたい」
「水属性だったみたいだね」
「僕はこれで狙うよ」
柊崎は銃を取ってマテリアルを込める放たれた銃弾は殻の傘を欠いて柔らかな中身を露出させた。
2匹のクラゲが脚を伸ばし勢いを付けて迫ってくる。レナは再度石礫を放ち、殻の端を削り取った。
「……大きいのにゆらゆらして、狙いづらい」
「――それなら」
十色は杖を構え直してマテリアルを落ち着かせる。じっと狙いを据え、伸ばす腕の先から放つ風の刃。9つの羽の光を背負って短杖の先から放たれたそれは、クラゲの頭に生えた藻を狩り、殻の中央に細かなひびを入れた。
「ぼくも、もう一発、外さないよ!」
狙うのは今殻を砕かれつつあるクラゲの隣に漂う無傷の1匹。そして、さっき殻を砕いて露わにした柔らかな中身。
堅い殻に跳ねた銃弾は柔く脆い腑を貫いた。
「倒した!」
3人で声を上げた。ユリアも顔を上げて水面を見ている。
もう1匹が迫ってきている。
「威力は、足りないかも知れないけど……」
十色がクラゲの殻へひびを入れる。攻撃を受けて藻掻いた瞬間、そのひびを狙ってレナが石礫を叩き込んだ。
「止めてくれてありがとう、それで外すわけ無いよね」
殻の半分近くを砕かれてクラゲは水面に漂っている。揺れるように立ち上がったユリアを柊崎が捕まえた。
「自分で敵が取りたいんだよね」
柊崎に支えられながらユリアが膝を突いた。十色も隣に寄り添ってナイフを握り締めた強張って冷え切った手に手を添える。
「大丈夫、私たちをもっと信じて」
いざとなったら、武器は貸してあげるから。
一度握った手を解いて、次のクラゲを睨んだ。
クラゲが暴れた衝撃か、銃が藻から離れて沈んでいく。
形見が、と、焦りを見せた無限が伸ばした腕をエヴァンスが遮った。親指を上に向けて揺らす。落ち着いてこい。
すれ違うように静架が到着を伝え、クラゲから離れて深く潜っていった。
2人を見送り、エヴァンスは1人クラゲと向き合う。数回交わした剣を見やって笑みを濃くした。斬り甲斐のある体じゃねぇか。水を蹴ってマテリアルを纏う剣を突き出した。クラゲの脚に腰を掠められながら、切っ先が海中にそれを斬り飛ばした。
海面から空を仰ぐ。歪虚の大群を思い出すと胸が痛む。けれど。
「あれは、返してあげたいっす」
息を吸って再び海中を目指した。
無限が旋棍を構えるとエヴァンスが剣を引いて掌を見せた。頷いてクラゲを見据える。水面へ向かうエヴァンスへ伸ばされた脚をたたき折り、もう一撃を腕で抑える。底近くの岩場から静架が銃を抱えて戻ってきた。
使えそうも無い銃を抱えたままでは戦えないから。静架は急いて水を蹴り、ボートを目指した。
クラゲはまた暴出す。残り4本になった脚で水を薙ぎ、岩も何も構わずに引っ掻き削っている。藻に絡みついたゴーグルは離れる様子は無かった。
デルフィーノが銃を向ける水面からクラゲが脚を擡げながら飛び出してきた。ボートを見つけたのだろう、貫こうと伸ばしてくる数本の脚を、顕現させた光の剣で切り裂く。
「はっ、まあ、こっちを狙ってれば良いんじゃねーの」
海面へ散った脚を見下ろす。それは暫く漂い沈んでいった。
そのクラゲの頭に光の銃弾を叩き込むが、波に揺れるそれは至近でも中央を貫くことは難しく、幾重もひびを重ね、命中した辺りの藻を枯らした。
「ちっ、耐性有りってかぁ?」
頑丈な殻を訝しみ、次弾を構えた。
その船の下方、レイオスはもう1匹のクラゲの脚を誘い岩を迂回しながら泳ぐ、砕くほどの力は無くとも、表面を削り取りながらレイオスを貫いてくる殻の脚、数本を岩に引っ掛けた。
この状況はそう持たない。岩影から銃を構えて覗く。何度か掠めた傷を癒やせるのも、もう最後。次はあれを砕かなければ。
止まった的だ、狙いは付けやすい。岩を蹴ってクラゲの下、岩に掛かって開いた脚の間の柔らかそうな腑へ銃弾を撃ち込んだ。
腑を貫いたそれは内側から殻まで砕き、岩に捕らわれた脚を弾き飛ばした。
半分ほどになったクラゲが踊るように海中で藻掻いている。その横を浮上して息を吸った。海中へ向け銃を構える。
前方の様子を見たユリアが、水面から一瞬頭を表しきらりとゴーグルに光を反射させたクラゲを見つけた。テオ、と呟いてオールへと手を伸ばす。
「ゆりあさん、落ち着いて。飛び出したら、仕返しできずにテオさんと同じように死んじゃうよ。それは悔しいよね?」
レナがオールを庇い、十色と柊崎が残りの殻を砕いて打ち落とす。殻の破片を散らしてクラゲが沈むと、4人のボートに静架の手が掛かった。
「これを……」
暴れ出しそうなユリアをレナと柊崎が抑え、十色が差し出された銃を受け取る。
銃弾を撃ち尽くし、戦いの中で拉げた、テオの形見の1つ。
柊崎にユリアを任せ、レナは杖を構えて先へ向ける。仇の他は、後2匹、どちらも弱っている。ユリアに留めを刺させる為にも、あの2匹は倒してしまわないと。
ひびだらけで前のボートに迫る方へ杖の先を向けると、十色も頷き残り半分のクラゲを狙った。レイオスの銃弾に合わせて風の刃がクラゲの腑を切り裂いた。
レナは杖の先から石礫を放つ。ユリアとその手を取って声を掛け続けている柊崎を背に、冷静に狙いを据えて。叩き付けた石礫がクラゲの殻を砕き、真っ二つに割れたそれが沈むと、デルフィーノが振り返って、倒したぞ、と言うように片手を上げた。
●
4匹の始末を終えた2艘のボートが並ぶ、静架もボートの側へ戻りユリアの乗る船を振り返った。
崩れる寸前まで消耗し、脚を殆ど奪われた1匹がエヴァンスと無限の間にぷかりと浮かんでいる。船底に寝かされた拉げた銃を一瞥し、レイオスは装填し直した自身の銃を投げ渡した。
咄嗟に腕を伸ばしそれを受け取ったユリアがレイオスを見詰める。
「ナイフよりは確実に風穴を開けれるだろうぜ」
こうやって引き金を引けば良い。弾に限りはあるが、ユリアの手でも穴くらい開けられるだろう。構え方を示すと、ユリアはふらつく足で立ち上がりすぐ側へ迫るクラゲへ銃口を向けた。高い銃声を響かせて撃ち尽くしたそれはクラゲの殻に傷1つ追わせていない。
「……ぅ、ああ……」
泣き崩れたユリアの方を柊崎が支える。揺れた藻の合間にゴーグルが覗く。
静架が潜り、大人しく垂れる脚の付け根を撃ち抜いた。脚を無くし、腑を抉られたクラゲは傘だけになって揺れる。何かを攻撃しようと揺らすが抑も水を掻く脚が足りない。その揺れに藻が緩んでゴーグルが落ちる。
無限が構えていた旋棍を引き、ゴーグルを追って潜っていく。
「ユリアさん」
柊崎が銃を握らせ、背後から抱くように腕を支える。銃口はぼんやり淡く光る中心に据えた。
「とどめ、お願い」
レナが隣から声を掛けた。
最後の引鉄は自分で引いた。
あの人の銃とゴーグル抱いて浜に付くまでずっと泣いていた。
ゴーグルを取りに潜ってくれた人、馨さんと言うらしい。
何か言いたそうにしていたのに、すぐに目を逸らしてしまって、ゴーグルのお礼は言えずじまいになってしまった。
レナさんと風音さんエニアさんは、ずっと私に声を掛けてくれていた。
レイオスさんに銃を、静香さんに浮き輪をお返しして、同じボートから下りてきたデルフィーノさんは少しぷっきらぼうに笑っていた。エヴァンスさんにも、無理を言ってしまったこと、謝っておかないと。
修理された銃は見張りの櫓に寄付されたらしい。
テオの友人に見送られて、ユリアは街へ帰ったという。
ユリアは膝を抱えて座る。囲うように同船しているのは皆幼い少女ばかり、に見える。
「――援護ですね、藻のおかげで見つけやすそう」
「アースバレットを撃ってみるよ。土属性が効くかも知れない」
「では、わたしはファイアアローを試します」
「……ユリアさん」
不意に呼ばれて顔を上げた。赤い目の少女が、潮風に銀色の髪を戦がせて、凜とした笑みを向ける。
「ボク目が良いんだよ、近付いたらすぐ見つけるから、落ち着いてね」
優しい声だ。
揺れる波の先からも視線を感じた。先頭の小さいボートから。それに乗っている金髪の優男と、茶髪の…………
エヴァンス・カルヴィ(ka0639)はボートを出しながら、ハンター達の側で眺め、今にも海へ走り出していきそうなユリアを振り返った。
「なあ、旦那の仇は俺が串刺しにしてやるから、あんたはここに残ってくれねぇか?」
「嫌。連れて行ってくれないなら」
ユリアが余っているボートへ目を向けた。
「仕方ねぇな――っし、旦那さんの仇討ちといくか!」
説得は難しそうだと諦めて船を押すと、ユリアの顔に安堵めく表情が見えた。
「エヴァンスさん」
無限 馨(ka0544)が同じボートへ手を掛け、波打ち際に浮いたそれに乗り込む。
「ユリアさんには後ろの船へ」
「おう。あんたは、あの船な――」
エヴァンスが示した先で十色 エニア(ka0370)と柊崎 風音(ka1074)とレナ・クラウステル(ka1953)が手を振っている。
「こちらへ乗って下さい」
十色が船を抑え、ユリアが乗り込む。オールを取ろうと伸ばした手はレナに阻まれた。
「ユリアさんは、漕がなくていいから」
「――クラゲっていえば、酢の物だよね」
「おや、お好きですか」
静架(ka0387)がレイオス・アクアウォーカー(ka1990)とデルフィーノ(ka1548)と隣のボートを押しながら、柊崎の声に応えた。
「でも、歪虚は食べられないね」
「確かに、食欲が湧かないですね……ユリアさん、無いよりはマシでしょう、持っていて下さい」
静架がユリアに浮き輪を差し出した。それをレイオスが厳しい目で見詰めている。
「こちらの指示を守らなかったら気絶させてでも何もさせない」
いいな、と見据えてユリアが微かに頷くとボートへ乗り込む。漕ぎ出す先を確かめながらデルフィーノも乗り込んだ。
3艘のボートはエヴァンスと無限の乗った小さいボートを先頭に海原へ漕ぎ出していく。
クラゲとの距離を目測ながら量っていたデルフィーノが声を掛ける。テオの銃とゴーグルを藻に絡めた大クラゲの姿も、もう、銃弾の届くところに見えていた。
そうだ、茶髪の男、エヴァンスと呼ばれていたっけ。
ああ、他の人たちの名前、聞いていない……
●
先導していたデルフィーノが先を指した。
「あの岩を迂回したらすぐだな、それで射程に入る――前に出すぎるな」
他2艘のボートも緩やかに止まる。それを確かめて、マテリアルを昂ぶらせ、静架とレイオスに送り込む。
「無いよりあった方が良いだろ、俺は上から撃って援護するからな」
2人が頷き、飛び込む水面を見据えた。レイオスが水面から海中を覗く。
「岩がある方が良いな、脚を誘って崩せそうだ」
「ええ、試してみたいですね」
静架も波に指先を浸した。
エヴァンスが親指を上に向ける。
「じゃ、これ、でお前浮上」
そして、掌を見せて揃えた指を上に向ける。
「これ、で俺浮上な」
「はい……あの、潜っている間は俺が隙を作るんで」
ハンドサインを決めておこうと言ったきり無限の表情が硬い。
「何気負ってんだ」
「何でもないっすよ」
無限は首を横に揺らした。罪悪感がひりつく胸裏にマテリアルの熱を感じる。
そうかぁ、と茶化すように言ったエヴァンスの口角が鋭利につり上がり噛み付くような歯が覗く。穏やかな赤い瞳は、色味を無くして琥珀に光る。
「行くぞ」
「はい」
2人が飛び込むと、続く船からそれを見た静架とレイオスが頷いて追う。
「参りましょう」
「おう」
透き通った水に身を浸し、波に弄ばれる静架の髪が青みを帯びた銀色に、ゆらゆらと迫る歪虚を睨む瞳が氷青色に凍て付く。
レイオスが太刀の柄を握り直してマテリアルを巡らせる。水面へ差す光を浴びて煌めく鋼は真っ直ぐに水を裂いていく。
ユリアを乗せた船も少し前へ進んで止まる。ユリアの護衛を考え射程のぎりぎりに据え、前方4人が飛び込む声と水音を聞く。その音に身を乗り出そうとするユリアを抑えながら3人はマテリアルを巡らせる。
海の中は静かで水面の波よりも穏やかだ。しかしそこが漂う歪虚のテリトリーであることには変わり無い。
水を蹴って前進する無限に向かい、藻に銃とゴーグルを絡めたクラゲの脚、鋭い切っ先が伸ばされた。いなすようにそれを躱し、旋棍を叩き付けるとその殻が折れて脚がちぎれる。まったく別の方向へ伸びていったもう1本がエヴァンスの剣に切り落とされた。
残りの脚は8本、2人は頷き合って次を睨む。
再度無限に伸ばされた脚は鼻先を掠めて届かなかったが、次の脚は的確にエヴァンスの鎧に届き軽い衝撃を腹へ与えた。
間近の脚にマテリアルを込める剣を叩き付けて刈り取り、大したことないと手を振る。無限もマテリアルが研ぎ澄ます旋棍で水を薙ぎ、殻を砕いて脚を抉り取った。
同時に延ばされた脚を無限がその体に受けて引きつける。脇と腕を深く裂かれながら、クラゲの脚を引きつけて耐える。無限がマテリアルを傷に流して塞ぎ、エヴァンスが次の脚を狙う最中、脚が半分まで減らされたクラゲが突如、暴れ出した。
静架とレイオスを送って、デルフィーノがオールを引いて船を止める。水面には4つクラゲの殻に生えた藻が揺れている。内の2つが水面を揺らして潜っていった。
2匹のクラゲがそれぞれ迫ってくる。ぶつかってくる勢いに合わせて、静架はボートへの動線を背に、マテリアルを込めた銃弾を放った。殻の一部を欠いたクラゲは速度を落としながらも迫るのをやめない。
1匹引き受けると言うようにレイオスは体当たりを躱しながら銃弾を当てて誘い、更に深く潜る。2匹が離れると、その藻に向かって一発ずつ、デルフィーノが銃弾を撃ち込んだ。揺れる船の上から水中で動く敵は狙いにくいが的は大きい。それぞれの殻の端を砕き、中央近くへとひびを入れた。
「性分じゃねぇんだぜ」
デルフィーノはぼやきながら次弾の狙いを定める。
レイオスが海中の岩の間を抜けてクラゲを誘う。細い脚が器用に追うが、その先が岩に掛かった。別の脚に裂かれた傷を岩を背に癒やしながら、傘の内を睨んで銃を構える。次の脚を誘う岩場を見据えながら岩を蹴った。
もう1匹のクラゲに下方を取ろうとした静架が、伸ばされる脚に阻まれていると、少し先に一番大きなクラゲが暴れる姿を見た。
「銃……――遺品が流されそう。前へ出ます」
「おう、こいつは俺様が引き受けた」
静架は海中で思わず呟いて、慌てて浮上する。デルフィーノは、口角を上げて銃口を静架を狙い漂い迫るクラゲへ向けた。
十色とレナがそれぞれ手にした杖から炎の矢と石礫の銃弾を放った。
マテリアルの光を帯びたそれは真っ直ぐに飛び、水面に揺れるクラゲの頭にぶつかった。
「うーん、レナの魔法、効いたみたい」
「水属性だったみたいだね」
「僕はこれで狙うよ」
柊崎は銃を取ってマテリアルを込める放たれた銃弾は殻の傘を欠いて柔らかな中身を露出させた。
2匹のクラゲが脚を伸ばし勢いを付けて迫ってくる。レナは再度石礫を放ち、殻の端を削り取った。
「……大きいのにゆらゆらして、狙いづらい」
「――それなら」
十色は杖を構え直してマテリアルを落ち着かせる。じっと狙いを据え、伸ばす腕の先から放つ風の刃。9つの羽の光を背負って短杖の先から放たれたそれは、クラゲの頭に生えた藻を狩り、殻の中央に細かなひびを入れた。
「ぼくも、もう一発、外さないよ!」
狙うのは今殻を砕かれつつあるクラゲの隣に漂う無傷の1匹。そして、さっき殻を砕いて露わにした柔らかな中身。
堅い殻に跳ねた銃弾は柔く脆い腑を貫いた。
「倒した!」
3人で声を上げた。ユリアも顔を上げて水面を見ている。
もう1匹が迫ってきている。
「威力は、足りないかも知れないけど……」
十色がクラゲの殻へひびを入れる。攻撃を受けて藻掻いた瞬間、そのひびを狙ってレナが石礫を叩き込んだ。
「止めてくれてありがとう、それで外すわけ無いよね」
殻の半分近くを砕かれてクラゲは水面に漂っている。揺れるように立ち上がったユリアを柊崎が捕まえた。
「自分で敵が取りたいんだよね」
柊崎に支えられながらユリアが膝を突いた。十色も隣に寄り添ってナイフを握り締めた強張って冷え切った手に手を添える。
「大丈夫、私たちをもっと信じて」
いざとなったら、武器は貸してあげるから。
一度握った手を解いて、次のクラゲを睨んだ。
クラゲが暴れた衝撃か、銃が藻から離れて沈んでいく。
形見が、と、焦りを見せた無限が伸ばした腕をエヴァンスが遮った。親指を上に向けて揺らす。落ち着いてこい。
すれ違うように静架が到着を伝え、クラゲから離れて深く潜っていった。
2人を見送り、エヴァンスは1人クラゲと向き合う。数回交わした剣を見やって笑みを濃くした。斬り甲斐のある体じゃねぇか。水を蹴ってマテリアルを纏う剣を突き出した。クラゲの脚に腰を掠められながら、切っ先が海中にそれを斬り飛ばした。
海面から空を仰ぐ。歪虚の大群を思い出すと胸が痛む。けれど。
「あれは、返してあげたいっす」
息を吸って再び海中を目指した。
無限が旋棍を構えるとエヴァンスが剣を引いて掌を見せた。頷いてクラゲを見据える。水面へ向かうエヴァンスへ伸ばされた脚をたたき折り、もう一撃を腕で抑える。底近くの岩場から静架が銃を抱えて戻ってきた。
使えそうも無い銃を抱えたままでは戦えないから。静架は急いて水を蹴り、ボートを目指した。
クラゲはまた暴出す。残り4本になった脚で水を薙ぎ、岩も何も構わずに引っ掻き削っている。藻に絡みついたゴーグルは離れる様子は無かった。
デルフィーノが銃を向ける水面からクラゲが脚を擡げながら飛び出してきた。ボートを見つけたのだろう、貫こうと伸ばしてくる数本の脚を、顕現させた光の剣で切り裂く。
「はっ、まあ、こっちを狙ってれば良いんじゃねーの」
海面へ散った脚を見下ろす。それは暫く漂い沈んでいった。
そのクラゲの頭に光の銃弾を叩き込むが、波に揺れるそれは至近でも中央を貫くことは難しく、幾重もひびを重ね、命中した辺りの藻を枯らした。
「ちっ、耐性有りってかぁ?」
頑丈な殻を訝しみ、次弾を構えた。
その船の下方、レイオスはもう1匹のクラゲの脚を誘い岩を迂回しながら泳ぐ、砕くほどの力は無くとも、表面を削り取りながらレイオスを貫いてくる殻の脚、数本を岩に引っ掛けた。
この状況はそう持たない。岩影から銃を構えて覗く。何度か掠めた傷を癒やせるのも、もう最後。次はあれを砕かなければ。
止まった的だ、狙いは付けやすい。岩を蹴ってクラゲの下、岩に掛かって開いた脚の間の柔らかそうな腑へ銃弾を撃ち込んだ。
腑を貫いたそれは内側から殻まで砕き、岩に捕らわれた脚を弾き飛ばした。
半分ほどになったクラゲが踊るように海中で藻掻いている。その横を浮上して息を吸った。海中へ向け銃を構える。
前方の様子を見たユリアが、水面から一瞬頭を表しきらりとゴーグルに光を反射させたクラゲを見つけた。テオ、と呟いてオールへと手を伸ばす。
「ゆりあさん、落ち着いて。飛び出したら、仕返しできずにテオさんと同じように死んじゃうよ。それは悔しいよね?」
レナがオールを庇い、十色と柊崎が残りの殻を砕いて打ち落とす。殻の破片を散らしてクラゲが沈むと、4人のボートに静架の手が掛かった。
「これを……」
暴れ出しそうなユリアをレナと柊崎が抑え、十色が差し出された銃を受け取る。
銃弾を撃ち尽くし、戦いの中で拉げた、テオの形見の1つ。
柊崎にユリアを任せ、レナは杖を構えて先へ向ける。仇の他は、後2匹、どちらも弱っている。ユリアに留めを刺させる為にも、あの2匹は倒してしまわないと。
ひびだらけで前のボートに迫る方へ杖の先を向けると、十色も頷き残り半分のクラゲを狙った。レイオスの銃弾に合わせて風の刃がクラゲの腑を切り裂いた。
レナは杖の先から石礫を放つ。ユリアとその手を取って声を掛け続けている柊崎を背に、冷静に狙いを据えて。叩き付けた石礫がクラゲの殻を砕き、真っ二つに割れたそれが沈むと、デルフィーノが振り返って、倒したぞ、と言うように片手を上げた。
●
4匹の始末を終えた2艘のボートが並ぶ、静架もボートの側へ戻りユリアの乗る船を振り返った。
崩れる寸前まで消耗し、脚を殆ど奪われた1匹がエヴァンスと無限の間にぷかりと浮かんでいる。船底に寝かされた拉げた銃を一瞥し、レイオスは装填し直した自身の銃を投げ渡した。
咄嗟に腕を伸ばしそれを受け取ったユリアがレイオスを見詰める。
「ナイフよりは確実に風穴を開けれるだろうぜ」
こうやって引き金を引けば良い。弾に限りはあるが、ユリアの手でも穴くらい開けられるだろう。構え方を示すと、ユリアはふらつく足で立ち上がりすぐ側へ迫るクラゲへ銃口を向けた。高い銃声を響かせて撃ち尽くしたそれはクラゲの殻に傷1つ追わせていない。
「……ぅ、ああ……」
泣き崩れたユリアの方を柊崎が支える。揺れた藻の合間にゴーグルが覗く。
静架が潜り、大人しく垂れる脚の付け根を撃ち抜いた。脚を無くし、腑を抉られたクラゲは傘だけになって揺れる。何かを攻撃しようと揺らすが抑も水を掻く脚が足りない。その揺れに藻が緩んでゴーグルが落ちる。
無限が構えていた旋棍を引き、ゴーグルを追って潜っていく。
「ユリアさん」
柊崎が銃を握らせ、背後から抱くように腕を支える。銃口はぼんやり淡く光る中心に据えた。
「とどめ、お願い」
レナが隣から声を掛けた。
最後の引鉄は自分で引いた。
あの人の銃とゴーグル抱いて浜に付くまでずっと泣いていた。
ゴーグルを取りに潜ってくれた人、馨さんと言うらしい。
何か言いたそうにしていたのに、すぐに目を逸らしてしまって、ゴーグルのお礼は言えずじまいになってしまった。
レナさんと風音さんエニアさんは、ずっと私に声を掛けてくれていた。
レイオスさんに銃を、静香さんに浮き輪をお返しして、同じボートから下りてきたデルフィーノさんは少しぷっきらぼうに笑っていた。エヴァンスさんにも、無理を言ってしまったこと、謝っておかないと。
修理された銃は見張りの櫓に寄付されたらしい。
テオの友人に見送られて、ユリアは街へ帰ったという。
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依頼相談室 エヴァンス・カルヴィ(ka0639) 人間(クリムゾンウェスト)|29才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2014/08/16 21:55:38 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/08/11 22:44:06 |