ゲスト
(ka0000)
【節V】チョコレートデモクラシー
マスター:月宵

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/02/12 09:00
- 完成日
- 2016/02/20 11:07
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
『突然だけど、今年のヴァレンタインデーを再開する!』
『『『な、なんだってー!!!』』』
●
カカオ減産、そして高騰に伴うチョコレートの供給危機を前に、ハンターズソサエティのショップ店員シルキー・アークライトが敗北し、ソサエティショップ史上初のチョコレート販売停止がなされた事は記憶に新しい。
アカシラが偶さかカカオ豆の原生地を知っていた事から、突如として執り行われることとなった【長江】への進撃は、破竹の勢いを見せた。実に百名を超えるハンター達による怒涛の侵攻に、現地の歪虚達は手も足も出なかった。結果として、ハンター達は東方の支配地域に食い込み、西方へのカカオの供給を回復させしめたのである。
東方での争乱は、西方へも確かな影響を与えていた。西方に溜めこまれていたたカカオ豆は値下がりを免れず、爆発的な勢いで在庫が掃きだされることとなったのだ。カカオ豆は徐々に適正価格に近付いて行き――ついに、チョコレートの流通が、回復したのである。
バレンタインデーというハートウォーミングでキャッチ―なイベントを前にして届いた朗報に、市井には喜びの声が溢れたという。
尤も、裏方は血の涙を流しているかもしれないのだが。
●
二月とある町でのお話。エルフの機導師ピーツ(kz0122)はその緑色の瞳を品定めに光らせていた。
「このカカオ、ヒビはいってへん?」
膨れた実に向けるその視線は、真剣そのもの。そう、ピーツが買いに来たのはカカオ豆そのものだ。東方で漸く生産の目処がたったばかりの一品だ。カカオ豆から出来るのはチョコレートばかりではない。
滋養強壮の効果もあり、薬の材料としてもうってつけだ。
「産地直送。ここの工場でも、使われてるもんだぞ」
店の店主が言うように、この町ではチョコレートの大規模な工場がある。
それこそ、カカオ豆の価格急騰時には虫の息であったものの、今や水を得た魚だ。
「なら儲けたんやろ、一般人にくらい、もっとこんぐらい安くできるやろ」
パチパチ
「ちょ、勝手に算盤をいじらないでくれ!」
●行進
無事カカオ豆を手に入れたピーツは、紙袋を抱えながらホクホク顔で市井を闊歩する。この笑顔の裏で、半ば泣いてた店主がいたことを忘れてはいけない。
町にはバレンタインが近いためか、そこら中にはハートを型どった飾りものがひしめいている。流石、チョコレート工場のある町だ、と言えるところか。町行く人々も何となく、浮き足立っている。
(ウチには今の所、関係あらへんけどな)
そう心の中で呟いたところで、叫び声があがった。
「たたた、大変だー!!」
ピーツが見た人影。それはコック帽子を被ったいかにも、工場長と言った感じの人間だ。
「に、逃げてくれ! チョコレートが!!」
「どないした――」
少女の訝しむ声は、悲鳴とその正体にかき消された。
ぞくぞくと来る人の流れの奥から『それ』はやって来た。大きさは6mはあろう巨体。不定形なつるん、としたその姿は一般的にスライムと呼ばれるそれ。
その色は茶色、もっと言えばチョコレート色。
「工場のチョコレートが、さっき雑魔化してしまったんだ!」
「な……なんやと?」
しかも問題はそれだけではなかった。そのスライムの周りを囲むようにヒトが配列されていた。その数、ざっと数えて30人と言ったところか……ただ、どう考えても彼らの瞳は正気ではない。
それが何を攻撃するでもなく、ただ前進していた。
「巻き込まれた工場の人間さ」
最初は10人もいなかった。
が『ある特定条件』を満たした場合スライムに近付くと操られてしまうらしい。
それは……
「義理は結局義理だぁ! 本命が欲しいよぉ」
「バレンタイン近いってのに、俺は相手もいないのにチョコ作りかよ」
「ああ……今年も、上司への義理チョコだけが増えるのね」
「は、どうせ。狙いはホワイトデーのお返しなんだろう」
前進、いや行進して発言を繰り返す言葉に、ピーツはある条件に気付いてしまった。そう、操られるのは『恋人のいない独り身』なのだ。
(しょーもな!)
しっかりした発言に、本当に操られているかピーツも疑いたくなるほどだ。
「す、すぐハンター達に退治してもらわないと!」
「せやな。けどこれ液体チョコやろ。このまんま倒したら、食べれなくなるやろ」
おまけに自分の攻撃は、状態異常を起こすもの。戦闘には参加出来ないだろうとピーツが言う。
何より『条件』に自分も当てはまっているから近付きたくない。
「は? このスライムを食べる!?」
「なんや、知らへんの」
少女から発せられた台詞に、信じられないと言いたげに驚愕する工場長。
「雑魔化してすぐのもんは、倒したあと美味くなるんや」
結構ハンター達の間では有名な話だが、縁もない一般人が知らないのも当然か。
「それが本当なら、是非試食したいものだが」
チョコレート魂とでも言うのか、歪虚だということをつい忘れて呟く工場長。
「どっちにしても、止めるのが先やろ」
現在熱々のチョコスライム。こいつが形を保っているのは、雑魔化しているため。チョコに戻れば液体。町がチョコレートでコーティングだ。
「今すぐ、ハンターの皆さん呼んできます!」
『『『な、なんだってー!!!』』』
●
カカオ減産、そして高騰に伴うチョコレートの供給危機を前に、ハンターズソサエティのショップ店員シルキー・アークライトが敗北し、ソサエティショップ史上初のチョコレート販売停止がなされた事は記憶に新しい。
アカシラが偶さかカカオ豆の原生地を知っていた事から、突如として執り行われることとなった【長江】への進撃は、破竹の勢いを見せた。実に百名を超えるハンター達による怒涛の侵攻に、現地の歪虚達は手も足も出なかった。結果として、ハンター達は東方の支配地域に食い込み、西方へのカカオの供給を回復させしめたのである。
東方での争乱は、西方へも確かな影響を与えていた。西方に溜めこまれていたたカカオ豆は値下がりを免れず、爆発的な勢いで在庫が掃きだされることとなったのだ。カカオ豆は徐々に適正価格に近付いて行き――ついに、チョコレートの流通が、回復したのである。
バレンタインデーというハートウォーミングでキャッチ―なイベントを前にして届いた朗報に、市井には喜びの声が溢れたという。
尤も、裏方は血の涙を流しているかもしれないのだが。
●
二月とある町でのお話。エルフの機導師ピーツ(kz0122)はその緑色の瞳を品定めに光らせていた。
「このカカオ、ヒビはいってへん?」
膨れた実に向けるその視線は、真剣そのもの。そう、ピーツが買いに来たのはカカオ豆そのものだ。東方で漸く生産の目処がたったばかりの一品だ。カカオ豆から出来るのはチョコレートばかりではない。
滋養強壮の効果もあり、薬の材料としてもうってつけだ。
「産地直送。ここの工場でも、使われてるもんだぞ」
店の店主が言うように、この町ではチョコレートの大規模な工場がある。
それこそ、カカオ豆の価格急騰時には虫の息であったものの、今や水を得た魚だ。
「なら儲けたんやろ、一般人にくらい、もっとこんぐらい安くできるやろ」
パチパチ
「ちょ、勝手に算盤をいじらないでくれ!」
●行進
無事カカオ豆を手に入れたピーツは、紙袋を抱えながらホクホク顔で市井を闊歩する。この笑顔の裏で、半ば泣いてた店主がいたことを忘れてはいけない。
町にはバレンタインが近いためか、そこら中にはハートを型どった飾りものがひしめいている。流石、チョコレート工場のある町だ、と言えるところか。町行く人々も何となく、浮き足立っている。
(ウチには今の所、関係あらへんけどな)
そう心の中で呟いたところで、叫び声があがった。
「たたた、大変だー!!」
ピーツが見た人影。それはコック帽子を被ったいかにも、工場長と言った感じの人間だ。
「に、逃げてくれ! チョコレートが!!」
「どないした――」
少女の訝しむ声は、悲鳴とその正体にかき消された。
ぞくぞくと来る人の流れの奥から『それ』はやって来た。大きさは6mはあろう巨体。不定形なつるん、としたその姿は一般的にスライムと呼ばれるそれ。
その色は茶色、もっと言えばチョコレート色。
「工場のチョコレートが、さっき雑魔化してしまったんだ!」
「な……なんやと?」
しかも問題はそれだけではなかった。そのスライムの周りを囲むようにヒトが配列されていた。その数、ざっと数えて30人と言ったところか……ただ、どう考えても彼らの瞳は正気ではない。
それが何を攻撃するでもなく、ただ前進していた。
「巻き込まれた工場の人間さ」
最初は10人もいなかった。
が『ある特定条件』を満たした場合スライムに近付くと操られてしまうらしい。
それは……
「義理は結局義理だぁ! 本命が欲しいよぉ」
「バレンタイン近いってのに、俺は相手もいないのにチョコ作りかよ」
「ああ……今年も、上司への義理チョコだけが増えるのね」
「は、どうせ。狙いはホワイトデーのお返しなんだろう」
前進、いや行進して発言を繰り返す言葉に、ピーツはある条件に気付いてしまった。そう、操られるのは『恋人のいない独り身』なのだ。
(しょーもな!)
しっかりした発言に、本当に操られているかピーツも疑いたくなるほどだ。
「す、すぐハンター達に退治してもらわないと!」
「せやな。けどこれ液体チョコやろ。このまんま倒したら、食べれなくなるやろ」
おまけに自分の攻撃は、状態異常を起こすもの。戦闘には参加出来ないだろうとピーツが言う。
何より『条件』に自分も当てはまっているから近付きたくない。
「は? このスライムを食べる!?」
「なんや、知らへんの」
少女から発せられた台詞に、信じられないと言いたげに驚愕する工場長。
「雑魔化してすぐのもんは、倒したあと美味くなるんや」
結構ハンター達の間では有名な話だが、縁もない一般人が知らないのも当然か。
「それが本当なら、是非試食したいものだが」
チョコレート魂とでも言うのか、歪虚だということをつい忘れて呟く工場長。
「どっちにしても、止めるのが先やろ」
現在熱々のチョコスライム。こいつが形を保っているのは、雑魔化しているため。チョコに戻れば液体。町がチョコレートでコーティングだ。
「今すぐ、ハンターの皆さん呼んできます!」
リプレイ本文
「…何?『恋人のいない独り身』だと操られるだと?」
「せやな」
先程まで困っている人は見捨てておけない任せとけ、な態度を全面に引き出していた男は鳳凰院ひりょ(ka3744)だ。しかし、今は操られる条件をピーツから聞いて体を硬直させていた。
思えばつい最近『いつか恋人が出来るといいですね、お兄様』と妹に言われたばかりだ。
(…これは…まずいかもしれん)
「αとγを連れてこなくて良かったわ…犬には可哀想すぎる状況よね、これ…」
ジリジリと近付いてくるチョコ雑魔を眺め、瞳の端でマリィア・バルデス(ka5848)は呟いた。犬にとってチョコレートと言う食べ物はあまりによろしくない。
が、人間にとっては程々に食べれば良いものなので、美味しいチョコを安価で手に入れると言うのはお得なのだ。
だが、彼女もまた自分がぼっちであるため『条件』に合致することは気付いている。これは、まぁ猟撃士なのだから近付かないよう心掛ければ良いのだが。
「あ、言っておくけど彼氏いない歴=生年ではないわよ」
「は、はあ」
念を押すように言うマリィアだが、言われた工場長は首を傾げるばかりであった。
「バレンタイン何て、なくなっちまえ!」
「リア充爆発!」
「本命! 本命! 本命!」
(勘弁してくれ……)
鞍馬 真(ka5819)は響く騒音に、頭を抱えながら俯いていた。チョコにうかれるのも、文句を言うのだって、それは個人の自由だ。
……自分が如何に思っているかはこの際置いておいて。
襲い掛かってくるのは全く別だろう、と小脇に抱えたチョコレート達を見つつ肩を落とした。
「へぇ~」
それを何時の間にか夢路 まよい(ka1328)が傍らで覗きこんでいた。
このハンター達の中で言えば、彼女ほど楽しげにこの依頼に参加した人間はいないだろう。
目的は美味しくなったチョコの味見と、お友達へのお持ち帰りだ。
彼女もまた独り身だが、その年齢故か後ろめたさ等微塵もない。
「そんなにチョコ貰ったなら、スライムの側行っても平気そうよね」
茶化すようにニヤニヤと、彼女は真に語りかけるが……
「いや、私も『条件範囲内』だ」
真の言葉に再び抱えるほどのチョコに視線をやってから、何とも言い難い、それこそ12歳の少女と思えぬ哀れみの視線が彼に送られた。
(何かひどい誤解をされてないか!?)
こうして、ハンター達それぞれの思惑はありつつも、スライムとの戦闘が始まった。
●
ハンター達は先ず、工場長に頼んで何か敷物を用意してもらった。これの上で倒せばもしスライムが元のチョコに戻っても問題なく食べられるようにだ。その敷物プラス足りない部分は、ひりょの持参したテントをバラして補足することになった。
この時、率先して準備に動いたのが、縁の下の力持ちを歌う真だ。まだ遠くに見えるスライムを観察しつつ、敷物をまっすぐ敷き詰めていく。本当は現在使われていないプールなどがあれば、なんて思っていたのだが。そううまくはいかないらしい。
「これで完了ね」
仕事を終えるとマリィアは、即時撤退。魔導バイクを急発進、目測で数えること36m。得物であるグランソンを構え準備は整った。今より戦闘開始である。
「ヂョコレェェトォォ」
「2月14日何て、来なけりゃいいんだ!」
ノロノロとスライムと、それを囲う集団は此方へと向かって来ている。
初手はまよい。彼女からしてみれば、操られた人はまだスライムの周りのうるさいの奴等、と言う印象があるだけ。
彼女だって、後数年でわかることだろう……その意味を。
「あはっ、なんだか夢のないこと言う人達だね~。あなた達にあげるチョコはないけど、代わりに私がいい夢見せてあげる!おねんねしちゃえ、スリープクラウド!」
ぶしゅわぁぁ!!
ワンドから吹き出した煙は、スライムごと操られた人々を覆い、やがて晴れた頃には、固い地面にスヤァする人々が出来上がった。
が、チョコレートスライムは相変わらずその巨体をこっちに動かしていた。
「やっぱり、不定形には効かへんわな」
まよいと同じく、スライムから離れた所でピーツがぽつりと呟いた。生物なら兎も角、歪虚まして睡眠行動をとるかすら怪しいスライムだ。
術が効く道理は、まずない。
「いや、それよりも……」
「ひいてる! ひいてる!」
スヤァした方々の上をスライムが上を移動する。その光景に、慌てる工場長と不安がるマリィア。
「大丈夫。大丈夫」
「ええの、ええの」
と対称的なお気楽まよいとピーツ。それもこれも、これがコメディ系シナ……げふんげふん。
ではなく、元よりこのスライムが吹いて飛ぶほどのよわっちい雑魔であるがゆえだ。
その証拠に、巻き込まれても彼らは何事もなく、良い寝顔をしてやがる。こっちの苦労も知らずに……
遥か遠くから見ている女性らより近くにて、ひりょは敷物の上へのスライムの誘導を試みていた。
その方法とは……
「やーい、ぼっち。どうせ友達も少ないんだろ」
グサッ
……挑発による、誘導である。スライムは恋人のいない奴を操る。ならば、きっとスライム自体もぼっち、なのではと考えた結果である。妙な親近感、覚えなくもない。
「奇数で二人組になると、大体ハブられるし」
グサッ
「バレンタイン何て、煩わしい出費ない俺勝ち組! とか考えてたりするんだろ!」
グサッ。グサッ。グサッ。グサッ
その結果は概ね成功。それがボッチで、挑発されているからなのか、ただ大声をあげる物体(ひりょ)に興味があるかはわからない。だって、相手はスライムだから。
だが、一つわかるのは……
「もう、それ以上言うな……」
真が制止するように、大声を士かも街中で張り上げるひりょにもダメージ(精神的)にあるのだ。
(なんだろう…自分もダメージを食らってる気がする。心が痛い)
ひりょの涙ぐましい努力もあってか、スライムは何とか目的地点へと誘導出来た。が、上手くいかないこともやはりあるようだ。
「……もう立ち直ったのか」
誰よりも遠い位置から、様子を伺っていたマリィアはスライム周辺の様子に顔をしかめた。
「バレンタイン終了のお知らせ~!」
数秒前に静かになったと思えば、もう独り身行進が始まっていた。
「いや、違う……増えてる人が」
真の指摘通りであった。現在もまよいがスヤァ、させた人々は、まだスヤァ、している。
が、まだ街中には人はたくさんいる、と言うことは雑魔の操る弾には事欠かないのだ。
「うーん、もっかい眠らせちゃう?」
集中し、マテリアルを高めながらまよいはピーツに聞いてみる。
「使っても、また増えてでジリ賃になりそうやな……」
「だよね。う~ん邪魔だなぁ」
一方、中距離にいた真はスライムが敷物に足(はないが)を踏み込む事を確認した瞬間、耳鳴りの様なものを聞いた。
「ぐっ……もしかして、これが」
頭を左右に振ってから、真は素早く後退をした。恐らくこれが、操る能力と言う奴なのだろう。
距離はそれなりに取ったと思っていたが、それでもまだ範囲内だったらしい。
(いや、バレンタインに対する文句はあるし、操られてみたい気持ちも少しだけあるが)
流石にこの状況では危険である。そこで、真はひりょに気付いた。声をはりあげるため、遠距離仲間を守るため、自分より彼は標的の近くにいた。
「きみ! 少し離れないと……」
くるり、青年はスライムの前で身を翻し此方へと顔を向けた。どうみても正気に思えない、どす黒い瞳にシールドを高々と掲げる……
(あ)
一同が察した。これ操られてるな、と。
「向こうの世界にいた頃から、家族以外にチョコレート貰ったことなんてな!い!」
「ああ、確かに! 他の家と比べたら俺んちにはチョコはたくさんあったさ!」
「だが、そいつは全部全部全部!! 鳳凰院家宛の義理チョコなんだぁぁぁ~」
「せめて、俺の名前宛てのチョコをくださぁぁぁい。お願いしまぁぁす」
言葉に出来ない。スライムの洗礼をうけたひりょに、全員して暫くかける言葉が見つからなかった。最初に声に出したのは、まよい。
「私もボーイフレンドとかがいるわけじゃないけど、ああはなりたくないもんだね~」
「色々溜まってたんやろ。ウチも気を付けへんと」
ピーツも勉強になった、と頷きを隠せない。こと、マリィアに関しては長距離からリボルバーにて、ひりょに狙いをつけかけていた。
(このまま、正気に戻さず眠らせてあげた方が幸せだろうか)
と言うのは流石に冗談。彼女は次の手に移るべく素早く得物を魔導銃による制圧射撃。
パンパンパン
「キャァ!」
「ヒエェ!」
敷物を置いた地面に、沢山の破裂音が起きる。少し敷物に穴が空いたかも知れないが仕方ない。
本来なら、スライムの足止めが理由だったが、今は操られた人が音で正気に戻る意味で使えた。
しかも、音に驚いてその場を離れてもくれる。
ビュン!
「ガフン」
それでも正気に戻らない、鈍感さんもいる時は真の出番。持ってきたチョコを心(但し、ま、が付くとは言わない)を込めて投擲。それを顔面でキャッチ。勿論、顔面を怪我しない程度には力は弱めてある。
「私の気持ちだ、受け取れ!!」
特別豪速球で投げられたチョコ。それは縦に高速回転しながらひりょの顔面へ……
※よいこは真似しないでね。
バチコーン!!
「あべし!?」
べちゃ、と先頭にてへたりこんだひりょのセーターの襟首を引っ張りながら、真は被害者をスライムから引き離した。
数秒後。ハッとしたひりょが飛び起きる。服装をただすように埃を軽く手で叩いて、みんなへ向き直った。耳の外側から顔まで真っ赤かである。
「み、見苦しいところをお見せしたようだな」
はっきり言おう、何もかも遅すぎる。
●スライム三分クッキング
一難はあったものの、それ以降の戦闘は順調そのものであった。ここあらは、それを手短にクッキング方式でご紹介しよう。
材料はチョコレートスライム。先ずはこれを、敷物の上に全て収まるように乗せます。そして、スライムにひりょによる衝撃波の攻撃を少々。
「さっきはよくもやったな!」
この時、あまり端っこを切りすぎると、元の液体チョコレートに戻ってしまうのでご注意下さい。次にマリィアによる、リボルバーの遠射。真のデリンジャーによる攻撃を加えます。
この時、攻撃を庇おうとする操られた人に当たらないよう、なるべく、スライムの上部を狙いましょう。
さぁ、後は仕上げを残すのみです。チョコスライムが弱ってきたことを、見た目で確認出来たなら最後にたっぷりと集中したまよいのアイスボルトを当てましょう。
「あはっ、とどめ~!」
虫の息になったスライムを凍らせられれば、この通り艶光りする半球体のチョコレートが完成いたします。
「何とかなったな」
「いやぁ、一時はどうなるかと思ったけど、助かった。ありがとう」
皆様も、手頃なチョコレートスライムがありましたら是非お試し下さいませ!!
チャンチャン♪
●感想戦
真は大きなチョコの塊を目の前にし、素直に驚いていた。つい今しがた戦っていた、なんて思えぬ高級感漂うそれを、鞘の先っぽで軽く削りとる。
味見用に一欠片、口に頬りこんで転がす。
「うん…」
味とか詳しくわからないが、今までの苦々しい光景を癒すには充分の味ではあった。
「はい、どうぞ」
「うわぁ! もう食べていい?」
目の前にそびえ立つチョコプリンに、スプーン片手にまよいは目をキラキラと輝かせる。実はこのプリン、マリィアの手作りで工場長に工場長の調理場を借りて菓子を作成したのだ。
「おいし~。お土産もきっと、みんな喜んでくれるわよね」
「まだまだ、フォンデュも用意したわよ」
こんな時だけ無邪気なまよいの笑顔に、マリィアも普段の仏頂面をほんの少しだけ綻ばせるのであった。
ズズズズ……
「元気出しいや、ほら飲み」
ある一角だけ、まぁぶっちゃけてしまえば、ひりょだけはチョコレートに癒されないでいた。
ピーツに貰った、チョコモカも飲んだらコクがあり苦味が生きて美味い。コーヒー好きの彼にはたまらない逸品だったが、若干しょっぱい。
「はぁ……やってしまったんだね」
そんな、いたたまれないひりょ君を見たためか、この後工場長がくれたお礼のカカオは、ちょっぴり奮発されていたのだった……
それが、なぐさめになったかは別として。
「せや、それ50Gや」
「料金取るのかな!?」
「せやな」
先程まで困っている人は見捨てておけない任せとけ、な態度を全面に引き出していた男は鳳凰院ひりょ(ka3744)だ。しかし、今は操られる条件をピーツから聞いて体を硬直させていた。
思えばつい最近『いつか恋人が出来るといいですね、お兄様』と妹に言われたばかりだ。
(…これは…まずいかもしれん)
「αとγを連れてこなくて良かったわ…犬には可哀想すぎる状況よね、これ…」
ジリジリと近付いてくるチョコ雑魔を眺め、瞳の端でマリィア・バルデス(ka5848)は呟いた。犬にとってチョコレートと言う食べ物はあまりによろしくない。
が、人間にとっては程々に食べれば良いものなので、美味しいチョコを安価で手に入れると言うのはお得なのだ。
だが、彼女もまた自分がぼっちであるため『条件』に合致することは気付いている。これは、まぁ猟撃士なのだから近付かないよう心掛ければ良いのだが。
「あ、言っておくけど彼氏いない歴=生年ではないわよ」
「は、はあ」
念を押すように言うマリィアだが、言われた工場長は首を傾げるばかりであった。
「バレンタイン何て、なくなっちまえ!」
「リア充爆発!」
「本命! 本命! 本命!」
(勘弁してくれ……)
鞍馬 真(ka5819)は響く騒音に、頭を抱えながら俯いていた。チョコにうかれるのも、文句を言うのだって、それは個人の自由だ。
……自分が如何に思っているかはこの際置いておいて。
襲い掛かってくるのは全く別だろう、と小脇に抱えたチョコレート達を見つつ肩を落とした。
「へぇ~」
それを何時の間にか夢路 まよい(ka1328)が傍らで覗きこんでいた。
このハンター達の中で言えば、彼女ほど楽しげにこの依頼に参加した人間はいないだろう。
目的は美味しくなったチョコの味見と、お友達へのお持ち帰りだ。
彼女もまた独り身だが、その年齢故か後ろめたさ等微塵もない。
「そんなにチョコ貰ったなら、スライムの側行っても平気そうよね」
茶化すようにニヤニヤと、彼女は真に語りかけるが……
「いや、私も『条件範囲内』だ」
真の言葉に再び抱えるほどのチョコに視線をやってから、何とも言い難い、それこそ12歳の少女と思えぬ哀れみの視線が彼に送られた。
(何かひどい誤解をされてないか!?)
こうして、ハンター達それぞれの思惑はありつつも、スライムとの戦闘が始まった。
●
ハンター達は先ず、工場長に頼んで何か敷物を用意してもらった。これの上で倒せばもしスライムが元のチョコに戻っても問題なく食べられるようにだ。その敷物プラス足りない部分は、ひりょの持参したテントをバラして補足することになった。
この時、率先して準備に動いたのが、縁の下の力持ちを歌う真だ。まだ遠くに見えるスライムを観察しつつ、敷物をまっすぐ敷き詰めていく。本当は現在使われていないプールなどがあれば、なんて思っていたのだが。そううまくはいかないらしい。
「これで完了ね」
仕事を終えるとマリィアは、即時撤退。魔導バイクを急発進、目測で数えること36m。得物であるグランソンを構え準備は整った。今より戦闘開始である。
「ヂョコレェェトォォ」
「2月14日何て、来なけりゃいいんだ!」
ノロノロとスライムと、それを囲う集団は此方へと向かって来ている。
初手はまよい。彼女からしてみれば、操られた人はまだスライムの周りのうるさいの奴等、と言う印象があるだけ。
彼女だって、後数年でわかることだろう……その意味を。
「あはっ、なんだか夢のないこと言う人達だね~。あなた達にあげるチョコはないけど、代わりに私がいい夢見せてあげる!おねんねしちゃえ、スリープクラウド!」
ぶしゅわぁぁ!!
ワンドから吹き出した煙は、スライムごと操られた人々を覆い、やがて晴れた頃には、固い地面にスヤァする人々が出来上がった。
が、チョコレートスライムは相変わらずその巨体をこっちに動かしていた。
「やっぱり、不定形には効かへんわな」
まよいと同じく、スライムから離れた所でピーツがぽつりと呟いた。生物なら兎も角、歪虚まして睡眠行動をとるかすら怪しいスライムだ。
術が効く道理は、まずない。
「いや、それよりも……」
「ひいてる! ひいてる!」
スヤァした方々の上をスライムが上を移動する。その光景に、慌てる工場長と不安がるマリィア。
「大丈夫。大丈夫」
「ええの、ええの」
と対称的なお気楽まよいとピーツ。それもこれも、これがコメディ系シナ……げふんげふん。
ではなく、元よりこのスライムが吹いて飛ぶほどのよわっちい雑魔であるがゆえだ。
その証拠に、巻き込まれても彼らは何事もなく、良い寝顔をしてやがる。こっちの苦労も知らずに……
遥か遠くから見ている女性らより近くにて、ひりょは敷物の上へのスライムの誘導を試みていた。
その方法とは……
「やーい、ぼっち。どうせ友達も少ないんだろ」
グサッ
……挑発による、誘導である。スライムは恋人のいない奴を操る。ならば、きっとスライム自体もぼっち、なのではと考えた結果である。妙な親近感、覚えなくもない。
「奇数で二人組になると、大体ハブられるし」
グサッ
「バレンタイン何て、煩わしい出費ない俺勝ち組! とか考えてたりするんだろ!」
グサッ。グサッ。グサッ。グサッ
その結果は概ね成功。それがボッチで、挑発されているからなのか、ただ大声をあげる物体(ひりょ)に興味があるかはわからない。だって、相手はスライムだから。
だが、一つわかるのは……
「もう、それ以上言うな……」
真が制止するように、大声を士かも街中で張り上げるひりょにもダメージ(精神的)にあるのだ。
(なんだろう…自分もダメージを食らってる気がする。心が痛い)
ひりょの涙ぐましい努力もあってか、スライムは何とか目的地点へと誘導出来た。が、上手くいかないこともやはりあるようだ。
「……もう立ち直ったのか」
誰よりも遠い位置から、様子を伺っていたマリィアはスライム周辺の様子に顔をしかめた。
「バレンタイン終了のお知らせ~!」
数秒前に静かになったと思えば、もう独り身行進が始まっていた。
「いや、違う……増えてる人が」
真の指摘通りであった。現在もまよいがスヤァ、させた人々は、まだスヤァ、している。
が、まだ街中には人はたくさんいる、と言うことは雑魔の操る弾には事欠かないのだ。
「うーん、もっかい眠らせちゃう?」
集中し、マテリアルを高めながらまよいはピーツに聞いてみる。
「使っても、また増えてでジリ賃になりそうやな……」
「だよね。う~ん邪魔だなぁ」
一方、中距離にいた真はスライムが敷物に足(はないが)を踏み込む事を確認した瞬間、耳鳴りの様なものを聞いた。
「ぐっ……もしかして、これが」
頭を左右に振ってから、真は素早く後退をした。恐らくこれが、操る能力と言う奴なのだろう。
距離はそれなりに取ったと思っていたが、それでもまだ範囲内だったらしい。
(いや、バレンタインに対する文句はあるし、操られてみたい気持ちも少しだけあるが)
流石にこの状況では危険である。そこで、真はひりょに気付いた。声をはりあげるため、遠距離仲間を守るため、自分より彼は標的の近くにいた。
「きみ! 少し離れないと……」
くるり、青年はスライムの前で身を翻し此方へと顔を向けた。どうみても正気に思えない、どす黒い瞳にシールドを高々と掲げる……
(あ)
一同が察した。これ操られてるな、と。
「向こうの世界にいた頃から、家族以外にチョコレート貰ったことなんてな!い!」
「ああ、確かに! 他の家と比べたら俺んちにはチョコはたくさんあったさ!」
「だが、そいつは全部全部全部!! 鳳凰院家宛の義理チョコなんだぁぁぁ~」
「せめて、俺の名前宛てのチョコをくださぁぁぁい。お願いしまぁぁす」
言葉に出来ない。スライムの洗礼をうけたひりょに、全員して暫くかける言葉が見つからなかった。最初に声に出したのは、まよい。
「私もボーイフレンドとかがいるわけじゃないけど、ああはなりたくないもんだね~」
「色々溜まってたんやろ。ウチも気を付けへんと」
ピーツも勉強になった、と頷きを隠せない。こと、マリィアに関しては長距離からリボルバーにて、ひりょに狙いをつけかけていた。
(このまま、正気に戻さず眠らせてあげた方が幸せだろうか)
と言うのは流石に冗談。彼女は次の手に移るべく素早く得物を魔導銃による制圧射撃。
パンパンパン
「キャァ!」
「ヒエェ!」
敷物を置いた地面に、沢山の破裂音が起きる。少し敷物に穴が空いたかも知れないが仕方ない。
本来なら、スライムの足止めが理由だったが、今は操られた人が音で正気に戻る意味で使えた。
しかも、音に驚いてその場を離れてもくれる。
ビュン!
「ガフン」
それでも正気に戻らない、鈍感さんもいる時は真の出番。持ってきたチョコを心(但し、ま、が付くとは言わない)を込めて投擲。それを顔面でキャッチ。勿論、顔面を怪我しない程度には力は弱めてある。
「私の気持ちだ、受け取れ!!」
特別豪速球で投げられたチョコ。それは縦に高速回転しながらひりょの顔面へ……
※よいこは真似しないでね。
バチコーン!!
「あべし!?」
べちゃ、と先頭にてへたりこんだひりょのセーターの襟首を引っ張りながら、真は被害者をスライムから引き離した。
数秒後。ハッとしたひりょが飛び起きる。服装をただすように埃を軽く手で叩いて、みんなへ向き直った。耳の外側から顔まで真っ赤かである。
「み、見苦しいところをお見せしたようだな」
はっきり言おう、何もかも遅すぎる。
●スライム三分クッキング
一難はあったものの、それ以降の戦闘は順調そのものであった。ここあらは、それを手短にクッキング方式でご紹介しよう。
材料はチョコレートスライム。先ずはこれを、敷物の上に全て収まるように乗せます。そして、スライムにひりょによる衝撃波の攻撃を少々。
「さっきはよくもやったな!」
この時、あまり端っこを切りすぎると、元の液体チョコレートに戻ってしまうのでご注意下さい。次にマリィアによる、リボルバーの遠射。真のデリンジャーによる攻撃を加えます。
この時、攻撃を庇おうとする操られた人に当たらないよう、なるべく、スライムの上部を狙いましょう。
さぁ、後は仕上げを残すのみです。チョコスライムが弱ってきたことを、見た目で確認出来たなら最後にたっぷりと集中したまよいのアイスボルトを当てましょう。
「あはっ、とどめ~!」
虫の息になったスライムを凍らせられれば、この通り艶光りする半球体のチョコレートが完成いたします。
「何とかなったな」
「いやぁ、一時はどうなるかと思ったけど、助かった。ありがとう」
皆様も、手頃なチョコレートスライムがありましたら是非お試し下さいませ!!
チャンチャン♪
●感想戦
真は大きなチョコの塊を目の前にし、素直に驚いていた。つい今しがた戦っていた、なんて思えぬ高級感漂うそれを、鞘の先っぽで軽く削りとる。
味見用に一欠片、口に頬りこんで転がす。
「うん…」
味とか詳しくわからないが、今までの苦々しい光景を癒すには充分の味ではあった。
「はい、どうぞ」
「うわぁ! もう食べていい?」
目の前にそびえ立つチョコプリンに、スプーン片手にまよいは目をキラキラと輝かせる。実はこのプリン、マリィアの手作りで工場長に工場長の調理場を借りて菓子を作成したのだ。
「おいし~。お土産もきっと、みんな喜んでくれるわよね」
「まだまだ、フォンデュも用意したわよ」
こんな時だけ無邪気なまよいの笑顔に、マリィアも普段の仏頂面をほんの少しだけ綻ばせるのであった。
ズズズズ……
「元気出しいや、ほら飲み」
ある一角だけ、まぁぶっちゃけてしまえば、ひりょだけはチョコレートに癒されないでいた。
ピーツに貰った、チョコモカも飲んだらコクがあり苦味が生きて美味い。コーヒー好きの彼にはたまらない逸品だったが、若干しょっぱい。
「はぁ……やってしまったんだね」
そんな、いたたまれないひりょ君を見たためか、この後工場長がくれたお礼のカカオは、ちょっぴり奮発されていたのだった……
それが、なぐさめになったかは別として。
「せや、それ50Gや」
「料金取るのかな!?」
依頼結果
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マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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質問卓 鞍馬 真(ka5819) 人間(リアルブルー)|22才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2016/02/09 21:18:39 |
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チョコレート回収作戦相談卓 夢路 まよい(ka1328) 人間(リアルブルー)|15才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2016/02/10 23:13:21 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/02/09 19:38:34 |