ゲスト
(ka0000)
ブリと渡り鳥の騎士 後編
マスター:朝臣あむ

- シナリオ形態
- シリーズ(続編)
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,300
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/02/12 12:00
- 完成日
- 2016/02/20 10:02
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●錬魔院ブリジッタ研究室
「……緊急停止装置の確認良し……装甲の軽量化も問題なし……あ、ここの塗装が剥げてるのよ」
呟き、仕上げに青のペンキを塗りたくるのは、約ひと月ばかり研究室に篭りっぱなしだったブリジッタ・ビットマン (kz0119)だ。
彼女は不精に伸びた髪を掻きながら自身の魔導アーマーの細部を確認してゆく。
そうして見栄えを確認するためにマネキンにアーマーを装着すると、ご満悦に表情を崩した。
「できた……ついに、あたしの騎士……ナイトフォぉぉおお――げふんげふん。渡り鳥の騎士なのよッ!」
頭と腕、胴と脚をカバーする部分甲冑方式魔導アーマーは、当初の予定よりも装甲を少なく設定することができた。
それを可能としたのは先の暴走騒動の後にハンターが口にした避弾経始の採用だ。
あの後死に物狂いでCAMとリアルブルーの戦車の知識を詰め込み、独自に計算を重ねて設計図を作り直した。その結果、見た目にもややスマートになった訳だ。
「ブリジッタ。今叫び声が聞こえたけど……あら、完成したのね?」
悦に入って魔導アーマーをじっくり眺めていたブリジッタは、研究室の中に入ってきたヤンを見ると「ふふん」と胸を張った。
「これで残すは試運転と言う名の人体実験だけなのよ」
「人体実験ねぇ……まあ、今回は助言通り外からでも操作可能な停止装置もつけてるみたいだし大丈夫でしょう。で、何をする気なのよ?」
「う? 何って戦闘を」
「馬鹿言うんじゃないわよ! いくら完成したからって試運転で即戦闘なんて、ハンターを殺すつもりなの?」
安全面や装甲に自身があると言っても戦場に即投下するのは無謀と言うもの。
「そうね~」
ヤンは最近目にした資料を頭の中で展開させると「そう言えば!」とブリジッタを見た。
「あんたは研究室に篭ってたから良く知らないかもしれないけど、今帝国は大変なのよ。簡単に説明すると陛下が記憶喪失でナサニエルは引っ張りだこ。終いにCAMや魔導アーマーがかなりの数使い物にならなくなったりして大変なのよ」
「ふぉあ!? オカマなに魔導アーマーとCAMをぞんざいに扱ったのよさ!?」
「あたしじゃないわよ! って言うか、驚く部分がやっぱりおかしいわね、この子。……まあ良いわ、今言ったことを踏まえて錬魔院に使い物にならなくなったCAMと魔導アーマーの回収要請が来てるのよ」
なるほど。と目を瞬くブリジッタにヤンは言う。
「あんたの魔導アーマーはパワーアシスト装備が元でしょ。だったらCAMの運搬をして性能を計るってのはどうかしら?」
確かにブリジッタの魔導アーマーの元はリーゼロッテの考案したパワーアシスト装備だ。
元々の役割を考えればうってつけの内容かもしれない。
それに彼女の魔導アーマーは人体に直接着込むため従来の魔導アーマーよりも狭い場所での作業効率が良くなっている。その辺も合わせて確認できるのであればやってみる価値はあるだろう。
「オカマがそこまで言うならやってやらなくもないのよさ! そうと決まればオカマ! あともう1個魔導アーマーを用意するのよさ!」
「はああ!??!」
●フレーベルニンゲン平原
「やっぱりリンドヴルムは力持ちだ。私だけでなくキヨモリやその部下を連れても落ちないとは。流石だね!」
そう言いながら、コートを羽織った巨大なゾンビの手を借りてリンドヴルムから降りてきたのは絶世と称してもおこがましくない美青年だ。
彼はなびく金色の髪をかき上げると、平原で動き始める複数のゾンビに目を向けた。
「ではゾンビの諸君。美しく気高いあのお方のご命令、ガムとやらの回収を頑張ろう!」
「ガムじゃなイヨ……キャム、だヨ?」
「ん? ぎゃむ、かい?」
「イヤ、キャムだヨ」
何が違うんだ? そう首を傾げる青年に必死に言葉を教えるゾンビ。
傍から見ているとややおかしい図柄だが、青年は特に気にした様子もなく微笑むと、リンドヴルムから下がるワイヤーに目を向けた。
「そう言えばキヨモリ、帰りもリンドヴルムに乗れるんだよね?」
「乗れナイ。帰りハ走ル」
「ああ、そうなのか……え゛?! わ、私も走るのかい? しかし私は走ったら死んで……」
「ダイジョウブ。オデが、運ブ」
「ああ、流石はキヨモリだ! やはりこのタムレッド・マリアーディの相棒はキヨモリしかいない!」
感極まって目に涙をためるタムレッドとか言う青年は、眩しそうに天を仰ぐと――唐突に吹き飛んだ。
「がっ……な、何が……」
平原の土を大量に食って顔を上げた青年の前には巨大なゾンビことキヨモリがいる。
どうやら危険を察知したキヨモリが青年を吹き飛ばしたのだ。
「そぉこぉのぉ~ふとどきものー! CAMを放棄してとっとと去れなのよーー!!」
拡声器を使って響く声。
音を辿って目を向けた先には魔導トラックとその荷台に乗る複数の人間が。
「CAMを歪虚に渡すなんてもったいない真似、誰がさせるのよさ……そもそもっ、CAMすらいえないアホに大事な部品渡せるかぁあああ!!」
くあっと目を見開き叫んだのは金髪の少女、ブリジッタだ。
彼女はハンターを振り返ると、血走った目で叫んだ。
「あんたたちに緊急任務なのよ! あたしの騎士を使っていいから、あのバカでアホな歪虚を追い返すのよ!! CAMはぜったいに渡さんーーっ!!!」
「……タマ。戦闘、準備スル」
「き、キヨモリ……私はまったく状況が呑み込めないのだが……とりあえず、強化すれば良いのかい?」
コクリ。頷くキヨモリに砂を吐き捨てて青年――タマが立ち上がる。
そして彼はCAMに群がっていたゾンビたちに向かって指を鳴らすと爽やかに微笑んで命じた。
「なんだか良くわからないけど戦いだ。私はここで見ているから頑張るんだよ!」
「……緊急停止装置の確認良し……装甲の軽量化も問題なし……あ、ここの塗装が剥げてるのよ」
呟き、仕上げに青のペンキを塗りたくるのは、約ひと月ばかり研究室に篭りっぱなしだったブリジッタ・ビットマン (kz0119)だ。
彼女は不精に伸びた髪を掻きながら自身の魔導アーマーの細部を確認してゆく。
そうして見栄えを確認するためにマネキンにアーマーを装着すると、ご満悦に表情を崩した。
「できた……ついに、あたしの騎士……ナイトフォぉぉおお――げふんげふん。渡り鳥の騎士なのよッ!」
頭と腕、胴と脚をカバーする部分甲冑方式魔導アーマーは、当初の予定よりも装甲を少なく設定することができた。
それを可能としたのは先の暴走騒動の後にハンターが口にした避弾経始の採用だ。
あの後死に物狂いでCAMとリアルブルーの戦車の知識を詰め込み、独自に計算を重ねて設計図を作り直した。その結果、見た目にもややスマートになった訳だ。
「ブリジッタ。今叫び声が聞こえたけど……あら、完成したのね?」
悦に入って魔導アーマーをじっくり眺めていたブリジッタは、研究室の中に入ってきたヤンを見ると「ふふん」と胸を張った。
「これで残すは試運転と言う名の人体実験だけなのよ」
「人体実験ねぇ……まあ、今回は助言通り外からでも操作可能な停止装置もつけてるみたいだし大丈夫でしょう。で、何をする気なのよ?」
「う? 何って戦闘を」
「馬鹿言うんじゃないわよ! いくら完成したからって試運転で即戦闘なんて、ハンターを殺すつもりなの?」
安全面や装甲に自身があると言っても戦場に即投下するのは無謀と言うもの。
「そうね~」
ヤンは最近目にした資料を頭の中で展開させると「そう言えば!」とブリジッタを見た。
「あんたは研究室に篭ってたから良く知らないかもしれないけど、今帝国は大変なのよ。簡単に説明すると陛下が記憶喪失でナサニエルは引っ張りだこ。終いにCAMや魔導アーマーがかなりの数使い物にならなくなったりして大変なのよ」
「ふぉあ!? オカマなに魔導アーマーとCAMをぞんざいに扱ったのよさ!?」
「あたしじゃないわよ! って言うか、驚く部分がやっぱりおかしいわね、この子。……まあ良いわ、今言ったことを踏まえて錬魔院に使い物にならなくなったCAMと魔導アーマーの回収要請が来てるのよ」
なるほど。と目を瞬くブリジッタにヤンは言う。
「あんたの魔導アーマーはパワーアシスト装備が元でしょ。だったらCAMの運搬をして性能を計るってのはどうかしら?」
確かにブリジッタの魔導アーマーの元はリーゼロッテの考案したパワーアシスト装備だ。
元々の役割を考えればうってつけの内容かもしれない。
それに彼女の魔導アーマーは人体に直接着込むため従来の魔導アーマーよりも狭い場所での作業効率が良くなっている。その辺も合わせて確認できるのであればやってみる価値はあるだろう。
「オカマがそこまで言うならやってやらなくもないのよさ! そうと決まればオカマ! あともう1個魔導アーマーを用意するのよさ!」
「はああ!??!」
●フレーベルニンゲン平原
「やっぱりリンドヴルムは力持ちだ。私だけでなくキヨモリやその部下を連れても落ちないとは。流石だね!」
そう言いながら、コートを羽織った巨大なゾンビの手を借りてリンドヴルムから降りてきたのは絶世と称してもおこがましくない美青年だ。
彼はなびく金色の髪をかき上げると、平原で動き始める複数のゾンビに目を向けた。
「ではゾンビの諸君。美しく気高いあのお方のご命令、ガムとやらの回収を頑張ろう!」
「ガムじゃなイヨ……キャム、だヨ?」
「ん? ぎゃむ、かい?」
「イヤ、キャムだヨ」
何が違うんだ? そう首を傾げる青年に必死に言葉を教えるゾンビ。
傍から見ているとややおかしい図柄だが、青年は特に気にした様子もなく微笑むと、リンドヴルムから下がるワイヤーに目を向けた。
「そう言えばキヨモリ、帰りもリンドヴルムに乗れるんだよね?」
「乗れナイ。帰りハ走ル」
「ああ、そうなのか……え゛?! わ、私も走るのかい? しかし私は走ったら死んで……」
「ダイジョウブ。オデが、運ブ」
「ああ、流石はキヨモリだ! やはりこのタムレッド・マリアーディの相棒はキヨモリしかいない!」
感極まって目に涙をためるタムレッドとか言う青年は、眩しそうに天を仰ぐと――唐突に吹き飛んだ。
「がっ……な、何が……」
平原の土を大量に食って顔を上げた青年の前には巨大なゾンビことキヨモリがいる。
どうやら危険を察知したキヨモリが青年を吹き飛ばしたのだ。
「そぉこぉのぉ~ふとどきものー! CAMを放棄してとっとと去れなのよーー!!」
拡声器を使って響く声。
音を辿って目を向けた先には魔導トラックとその荷台に乗る複数の人間が。
「CAMを歪虚に渡すなんてもったいない真似、誰がさせるのよさ……そもそもっ、CAMすらいえないアホに大事な部品渡せるかぁあああ!!」
くあっと目を見開き叫んだのは金髪の少女、ブリジッタだ。
彼女はハンターを振り返ると、血走った目で叫んだ。
「あんたたちに緊急任務なのよ! あたしの騎士を使っていいから、あのバカでアホな歪虚を追い返すのよ!! CAMはぜったいに渡さんーーっ!!!」
「……タマ。戦闘、準備スル」
「き、キヨモリ……私はまったく状況が呑み込めないのだが……とりあえず、強化すれば良いのかい?」
コクリ。頷くキヨモリに砂を吐き捨てて青年――タマが立ち上がる。
そして彼はCAMに群がっていたゾンビたちに向かって指を鳴らすと爽やかに微笑んで命じた。
「なんだか良くわからないけど戦いだ。私はここで見ているから頑張るんだよ!」
リプレイ本文
まだまだ遠い歪虚との距離。その間隔を詰める魔導トラックの荷台で守原 有希遥(ka4729)は目を眇めると肩を竦めた。
「随分なこそ泥で」
「あの様子ではCAMが何に使われておるかも知らぬかもしれんのう……で、本当に実践で使うのじゃな?」
やれやれと同じく肩を竦めるイーリス・クルクベウ(ka0481)は、ギリギリと歯を鳴らすブリジッタを見た。
「あんなバカにCAMがやれるわけないのよさ!」
まあ確かに。そんな同意の視線を全員から受けつつ、ブリジッタはレオーネ・インヴェトーレ(ka1441)と瀬崎・統夜(ka5046)に魔導アーマーの着方をレクチャーしてゆく。
「開発者の意志は固いようだ。よって私は新型アーマー『渡り鳥の騎士』を主軸として、アーマー戦闘の援護のために立ち回ろう。援護ではアーマーの動きの観察、故障・不調の前兆の確認をする役割も含むとする」
良いか? そんな視線を全体に注ぎ、アルルベル・ベルベット(ka2730)は前方の敵を見た。
歪虚までの距離――あと僅か。
「まさかいきなりの実戦テストとはな……大丈夫そうか?」
「たぶん。起動原理は普通の魔導アーマーと同じみたいだ。それに好都合だよ……油断禁止だけど」
そう零すレオーネは、シン・コウガ(ka0344)の目の前で魔導アーマーのアーム内部に組み込まれた操縦桿に似たレバーを握り締めた。
「どんな仕上がり具合かのう?」
覚醒と同時に浮かび上がったモノクル状のホロスクリーン。それを見据えると同時に動き出した小型魔導エンジンに「ほう」と息が漏れる。
「あたしの計算では、渡り鳥の騎士はマテリアルに含まれる意志の力を汲み取っておおざっぱな動きは出来るようになってるはずなのよ。細かい部分はあんたたちの腕しだいなのよさ」
「つまり壊れたときの責任は操縦者にある、って訳か?」
キツイな。と零すのは統夜だ。
まったく辛い様子など見せず覚醒を果たした彼もまた魔導エンジンを起動させる。そうして2体同時にトラックを降りると、マルルベルが赤銅色の銃を構えて呟いた。
「いざという時骨は拾う。安心して欲しい」
「え?」
振り返ったレオーネに「冗談だ」と返し、彼女は前方の歪虚に照準を合わせた。それに合わせてシンもまたアサルトライフルを構える。
「さて、そろそろ始めるか。CAM乗りとしては敵に残骸を渡すのは癪に障るからな……テストついでに肉辺になって貰おう」
「い、いろいろ気になるけど、気にしない方向で……よし、最終動作確認。『プラヴァー1』出るぜ!」
レオーネがそう言って意識を歪虚に向ける。と、そこにブリジッタの声が響いた。
「プラヴァー?」
「ん? ああ、リアルブルーで『渡り鳥』って意味らしいぜ」
戦闘中にフルネームだと舌噛みそうだったから。と苦笑し、彼は再び前を見た。そこに先陣を切った銃声が響く。
「おしいくぜ、渡り鳥の騎士! どれだけ動けるか見せてもらおうか!」
ニィッと口角を上げて飛び出した統夜。それにレオーネや残る仲間も続く。
「プラヴァー……ふっ、悪くないのよさ。あんたたちー! 無事もどってくるのよさー!」
ブリジッタはそう声を上げると最終テストの結果を記録すべく戦闘区域に意識を向けた。
●タマキヨ
「ブースター起動! 加速して一気に近付く!」
今回持ち込まれた新型の魔導アーマーには加速装置と、脱着可能な車輪が足元に付けられている。この装置の主な使用目的はこうした現場への急行にある。
「っ、思った以上に速い……」
目を眇めるレオーネに追いつこうとイーリスとシンが走る。
「試作機を壊すでないぞ!」
見た所、加速からの制御が巧くいかないらしい。本来であれば敵の群れを迂回してコートを着たタイラント型ゾンビことタイラント・キヨモリにアタックする筈だったのだが、そのまま群れに突進しそうになっている。
「――当たらないことを祈って……!」
滑り込むように踏ん張った足。大地を踏み締め照準を合わせた先には無数のゾンビとレオーネがある。
シンはレオーネを巻き込む可能性を頭の片隅に置き、それでも引き金を引いた。
「うそだろおおおお!?」
降り注ぐ弾丸の雨。それを奇跡的に避けながら突進するレオーネの足元が揺らいだ。
ガシャンッ!
レオーネが車輪を外した。
勢い良く滑り込んだ勢いと、車輪が外れた反動で魔導アーマーを着込んだ体が傾く。だがこれこそが彼の狙いだ。
「くらえぇえええ!!」
握り締めたアーマーソードを思い切り振り被り、ゾンビを一気に薙ぎ払う――……一匹だけど。
「ぬわっ、空振った!」
「当て方しだいではもう少し行くと思うけどな……」
所詮はアーマーソード、と言ったところか。それでも威力は予想以上のものだった。
「ゾンビが一撃で倒されるとは……こっちは弾を惜しまないで撃たないとダメだってのにな……!」
有希遥の言葉を拾ったシンが新たな弾の雨を降らす。この攻撃、進軍するゾンビの足を止める事は出来ているのだが、倒しきるまでには至っていない。
「だがまあ、弾は惜しまないぜ……!」
レオーネはなんとかしてキヨモリへの接近を果たそうとしている。その援護を行うのがシンや有希遥の役目だ。
「向こうは連携が出来ている。仲間に恵まれているな……」
チラリと見たのは爽やか笑顔でゾンビたちを援護するタムレッドことタマだ。一見優男の彼がゾンビやキヨモリを強化して壁を作る。キヨモリに至っては完全にタマのボディーガードだ。
彼には指一本触れさせない勢いで、接近しようとするハンターは勿論、攻撃すらも引き受けている。
「想定以上に強固な護りだな」
見た目から察するにタマへの攻撃はキヨモリがネックになると分かっていた。だがここまで攻撃が届かないのは想定外だ。
アルルベルは複数のゾンビに手間取るレオーネの間に入ると、彼を背にタクトを構えた。
「射程確保、味方範囲外……――撃つ」
手元に集中させたマテリアルが一気に放出される。それが炎となって目の前のゾンビを焼くと、彼女はレオーネの背を押した。
「あの大きなゾンビの相手を頼む」
コクリ。頷いて歩き出すレオーネ。そんな彼の傍らでは、もう1人の魔導アーマー使いが実戦を繰り広げていた。
「成り行きとはいえ、試運転で戦闘か。泣かせるじゃねえか!」
意気揚々と歯を剥き出しにして楽しそうに戦場を駆け巡る統夜は、加速装置の更なる使い方を模索していた。
「おいおい……あんま無茶な動きしてるとエンジンに負荷が……!」
加速装置への急激な負荷は加速。突然の停止は減速。その双方を組み合わせて自由に動き回る。と言うのが彼の理想だ。
「加速は悪くない。あとはもう少し小回りが利けば……っ、邪魔だ!」
角ばった動きでゾンビの死角に入ると、一気にアーマーソードを振り下ろす。
勢い良く攻撃を加えられたゾンビは肉辺を飛び散らせながら一瞬で粉砕されてゆく。その勢いは悪くない。しかし――
「車輪から煙が出てるぞ……!」
元々外すことを前提で作られている車輪だ。固定に甘さがあったのかもしれない。
急ぎ威嚇射撃をして駆け付けるシンは、ゾンビたちを統夜に近づけないようにして彼の傍に立った。
「大丈夫か……!? やっぱりいきなり実戦は無理がありすぎたかもな……」
「いや、車輪が外れただけで他は無事だ。この魔導アーマー、思ったよりも丈夫かもしれない」
車輪が外れた魔導アーマーを確認する統夜。
彼の言う通り頑丈さはある。今回ゾンビの群れに飛び込んでみてわかったが、ゾンビ程度の攻撃ではそう簡単に壊れることはないだろう。
ではゾンビ以上の相手ならば如何なのか……
アルルベルと有希遥の援護を得てキヨモリに接近したレオーネ。彼はアーマーソードを渾身の力を振り絞って打ち込んでいた。
「ウソ、だろ?」
予想ではアーマーソードがキヨモリに勝ち、撃退出来ると踏んでいた。少なくとも後退させるに至ると思っていた。
だが現実は違った。
レオーネの一撃はタマによって強化されたキヨモリの腕によって受け止められたのだ。
これに即座に反応したのは有希遥、アルルベル、そしてイーリスだ。
「アルルベルさん」
「……承知」
有希遥はキヨモリに接近すると、大きく息を吸い込んで低い姿勢から一気に斬り込んだ。これにキヨモリのもう片方の腕が動き、猛烈な勢いで彼の刀を薙ぎ払った。
「ッ、まだ!」
1度攻撃を阻まれたからと言って納まる訳にはいかない。今の攻撃でキヨモリの腕が強化されていることはわかった。では次は彼の関節だ。
タマの能力でどれだけ敵が強化されるのか。その見極めを今の内に行っておきたい。そんな彼の目に刀を払ったばかりの腕が跳んでくるのが見えた。
「――」
重い衝撃をはらんだ一撃が有希遥の腕を襲い、彼の眉が顰められる。だがこれはこれで好機だった。
「き、キヨモリ!」
「!」
慌てて振り返ったキヨモリが目にしたのは、タマに雷撃を撃ち込むアルルベルの姿だ。
「タマ、触ル、ダメ……!」
地に響くような声を上げてレオーネと有希遥を振り払う。そうしてタマに接近すると、キヨモリはありえないほどのパワーでアルルベルが立つ地面を打った。
ゴォォオォッ!
足元にあった地とCAMの残骸が吹き飛び、荒々しい幕を生み出す。そして幕が消え去るその瞬間に、空にいたリンドヴルムが翼を広げた。
「戦えぬ者を襲うとはなんて野蛮なんだ……」
「タマ、膝、切レテル」
「ああ! 本当だ! ああああ、もう戦えない! 私はもう死んでしまうっ!!」
いつの間に移動したのだろう。リンドヴルムの背で頭を抱えるタマと心配そうに彼を担ぐキヨモリの姿が見える。
「――という訳で、今日のところはこれで許してあげよう。そのゲップとやらは君たちにあげることにするから、追いかけてこないでね!」
それじゃ! 爽やかに笑顔で手を上げるタマと、恭しく頭を下げるキヨモリ。そしてそんな2人を乗せて去ってゆくリンドヴルムを見送るハンターたち。そこへブリジッタの怒声が響くのだった。
「CAMなのよさぁーーッ!!!!」
●渡り鳥の騎士の今後
「幾つか改良点が見えてきたのう」
そう口にしたのはイーリスだ。
「実用化したのは良いんじゃが……武器が1つしか持てんのでは盾など持てぬ。それに加速装置を積んでおるものの、急な加速時は敵の良い的じゃ。加えて最後に碌に銃器が扱えんため、遠距離戦では手も足も出ぬ」
故にこんな物を固定武装に出来ぬか?
イーリスはそう言葉を添えると、今後の課題になるであろうスキルと装備の案を出し始めた。
「1つ目は馬上槍状エネルギーシールドじゃ。加速装置と連動して移動力を上げつつ、白兵攻撃力と受け値・受け防御を上げる仕組みじゃな」
これは馬上槍型の特殊なスペルランチャーを固定武器とした際のスキル提案だ。
「2つ目は文字通りスペルランチャーじゃ。マテリアルを全てエネルギーシールドとスペルランチャーに回し、反動を防ぐためや出力の一時的低下で、移動が出来ぬ代わりに受け値・受け防御を上げつつ、強烈な一撃を放つ感じじゃな」
なるほど。と頷きつつブリジッタは構想を巡らせているらしく踏込んだ返事を返す様子はない。そこへアルルベルが進み出た。
「すまない。小型で、それなりに力もあり、機動力も高い。今後の展開次第では突破力も身につく、となれば……今回のような回収作業ももちろん、負傷者救護にも役立てるのではないだろうか」
これまでの魔導アーマーはほぼ戦闘用だ。
そうした既存の魔導アーマーと差別化するなら小回りの効く点を特徴として活用するのはどうか。というのが彼女の提案だ。
「元々、人を助けるための技術が基礎となっている事に引け目があるのならば……やり方次第でどうにでもなる、という事も示したくもあるのでな」
「その案にはうちも賛成だな。この魔導アーマーの加速は戦場は勿論、人命救助などでも潰しが効くと思う。そうした使い方なら組合長さんとの協力も楽になるんじゃないかな?」
有希遥はそう言うと、近々参考になる資料を持っていくと言葉を添えた。
それに目を瞬いていると、今度は統夜が使用者としての意見を口にした。
「もう少し防御力がどうにかならないか? 魔法力を使えるなら、ピンポイントに集中しシールドを作るとか。あとは器用さの追求か」
使ってみて思ったが、もう少し動きに滑らかさが欲しい。
「滑らかに動かせるのは当然、更に重い物を振り回せる頑丈さ。この部分を魔法力で部分強化なりできないだろうか?」
技術面の課題はあるだろうがあともう少し細かい所に手が届けば実用性のある存在になると思う。
「実用性でいえば俺からも1つ」
そう申し訳なさそうに進み出たのはレオーネだ。
「いや、今でも充分小さいとは思うんだけど、もう少し小さくならないかな? 今のままだと魔導アーマーと同じくらいって言うか……な?」
難しいかな? そう顔を覗き込む彼にブリジッタの眉が上がった。そこへ今までやり取りを聞くだけにとどめていたシンが呟いた。
「加速能力を少し犠牲にして射撃寄りのも作れないか……? 武装はガトリングやキャノン砲と対艦主義な感じで……」
今まで黙っていたが、彼にしてみれば射撃能力がない事が心残りだったのだ。せめてもう少し射撃能力があれば……
「ぶっちゃけ全部が均等になると突出した能力がなくなるのよさ。それはつまり個性がない、ってことと同じなのよ」
「それならウェポンラックを付けたら武装ももう少し付けれそうな気がするな……、まぁ重すぎて倒れるようなら論外だが……」
「白髪頭の言うとおり重さがネックなのよさ。この魔導アーマーは機動力が売りなのよ。重さで速さが落ちたり小回りが効かなくなったりしたら元も子もないのよさ」
成程。そう息を吐き、シンはチラリと俯くブリジッタを見た。
「あー……理想に反してて悪かったって……、詫びにケーキでも買ってくるから――」
「うーし! そうと決まればみんなの意見を参考に最終調整するのよさ! って、白髪頭どうしたのよさ?」
「……いや、なんでもない。俺の気のせいだったみたいだ……」
そう、ブリジッタが落ち込むはずはなかった。
シンの言葉に目を瞬いたブリジッタは、大きく伸びをすると魔導アーマーの調整に意欲を見せ、雄たけびを上げたのだった。
「随分なこそ泥で」
「あの様子ではCAMが何に使われておるかも知らぬかもしれんのう……で、本当に実践で使うのじゃな?」
やれやれと同じく肩を竦めるイーリス・クルクベウ(ka0481)は、ギリギリと歯を鳴らすブリジッタを見た。
「あんなバカにCAMがやれるわけないのよさ!」
まあ確かに。そんな同意の視線を全員から受けつつ、ブリジッタはレオーネ・インヴェトーレ(ka1441)と瀬崎・統夜(ka5046)に魔導アーマーの着方をレクチャーしてゆく。
「開発者の意志は固いようだ。よって私は新型アーマー『渡り鳥の騎士』を主軸として、アーマー戦闘の援護のために立ち回ろう。援護ではアーマーの動きの観察、故障・不調の前兆の確認をする役割も含むとする」
良いか? そんな視線を全体に注ぎ、アルルベル・ベルベット(ka2730)は前方の敵を見た。
歪虚までの距離――あと僅か。
「まさかいきなりの実戦テストとはな……大丈夫そうか?」
「たぶん。起動原理は普通の魔導アーマーと同じみたいだ。それに好都合だよ……油断禁止だけど」
そう零すレオーネは、シン・コウガ(ka0344)の目の前で魔導アーマーのアーム内部に組み込まれた操縦桿に似たレバーを握り締めた。
「どんな仕上がり具合かのう?」
覚醒と同時に浮かび上がったモノクル状のホロスクリーン。それを見据えると同時に動き出した小型魔導エンジンに「ほう」と息が漏れる。
「あたしの計算では、渡り鳥の騎士はマテリアルに含まれる意志の力を汲み取っておおざっぱな動きは出来るようになってるはずなのよ。細かい部分はあんたたちの腕しだいなのよさ」
「つまり壊れたときの責任は操縦者にある、って訳か?」
キツイな。と零すのは統夜だ。
まったく辛い様子など見せず覚醒を果たした彼もまた魔導エンジンを起動させる。そうして2体同時にトラックを降りると、マルルベルが赤銅色の銃を構えて呟いた。
「いざという時骨は拾う。安心して欲しい」
「え?」
振り返ったレオーネに「冗談だ」と返し、彼女は前方の歪虚に照準を合わせた。それに合わせてシンもまたアサルトライフルを構える。
「さて、そろそろ始めるか。CAM乗りとしては敵に残骸を渡すのは癪に障るからな……テストついでに肉辺になって貰おう」
「い、いろいろ気になるけど、気にしない方向で……よし、最終動作確認。『プラヴァー1』出るぜ!」
レオーネがそう言って意識を歪虚に向ける。と、そこにブリジッタの声が響いた。
「プラヴァー?」
「ん? ああ、リアルブルーで『渡り鳥』って意味らしいぜ」
戦闘中にフルネームだと舌噛みそうだったから。と苦笑し、彼は再び前を見た。そこに先陣を切った銃声が響く。
「おしいくぜ、渡り鳥の騎士! どれだけ動けるか見せてもらおうか!」
ニィッと口角を上げて飛び出した統夜。それにレオーネや残る仲間も続く。
「プラヴァー……ふっ、悪くないのよさ。あんたたちー! 無事もどってくるのよさー!」
ブリジッタはそう声を上げると最終テストの結果を記録すべく戦闘区域に意識を向けた。
●タマキヨ
「ブースター起動! 加速して一気に近付く!」
今回持ち込まれた新型の魔導アーマーには加速装置と、脱着可能な車輪が足元に付けられている。この装置の主な使用目的はこうした現場への急行にある。
「っ、思った以上に速い……」
目を眇めるレオーネに追いつこうとイーリスとシンが走る。
「試作機を壊すでないぞ!」
見た所、加速からの制御が巧くいかないらしい。本来であれば敵の群れを迂回してコートを着たタイラント型ゾンビことタイラント・キヨモリにアタックする筈だったのだが、そのまま群れに突進しそうになっている。
「――当たらないことを祈って……!」
滑り込むように踏ん張った足。大地を踏み締め照準を合わせた先には無数のゾンビとレオーネがある。
シンはレオーネを巻き込む可能性を頭の片隅に置き、それでも引き金を引いた。
「うそだろおおおお!?」
降り注ぐ弾丸の雨。それを奇跡的に避けながら突進するレオーネの足元が揺らいだ。
ガシャンッ!
レオーネが車輪を外した。
勢い良く滑り込んだ勢いと、車輪が外れた反動で魔導アーマーを着込んだ体が傾く。だがこれこそが彼の狙いだ。
「くらえぇえええ!!」
握り締めたアーマーソードを思い切り振り被り、ゾンビを一気に薙ぎ払う――……一匹だけど。
「ぬわっ、空振った!」
「当て方しだいではもう少し行くと思うけどな……」
所詮はアーマーソード、と言ったところか。それでも威力は予想以上のものだった。
「ゾンビが一撃で倒されるとは……こっちは弾を惜しまないで撃たないとダメだってのにな……!」
有希遥の言葉を拾ったシンが新たな弾の雨を降らす。この攻撃、進軍するゾンビの足を止める事は出来ているのだが、倒しきるまでには至っていない。
「だがまあ、弾は惜しまないぜ……!」
レオーネはなんとかしてキヨモリへの接近を果たそうとしている。その援護を行うのがシンや有希遥の役目だ。
「向こうは連携が出来ている。仲間に恵まれているな……」
チラリと見たのは爽やか笑顔でゾンビたちを援護するタムレッドことタマだ。一見優男の彼がゾンビやキヨモリを強化して壁を作る。キヨモリに至っては完全にタマのボディーガードだ。
彼には指一本触れさせない勢いで、接近しようとするハンターは勿論、攻撃すらも引き受けている。
「想定以上に強固な護りだな」
見た目から察するにタマへの攻撃はキヨモリがネックになると分かっていた。だがここまで攻撃が届かないのは想定外だ。
アルルベルは複数のゾンビに手間取るレオーネの間に入ると、彼を背にタクトを構えた。
「射程確保、味方範囲外……――撃つ」
手元に集中させたマテリアルが一気に放出される。それが炎となって目の前のゾンビを焼くと、彼女はレオーネの背を押した。
「あの大きなゾンビの相手を頼む」
コクリ。頷いて歩き出すレオーネ。そんな彼の傍らでは、もう1人の魔導アーマー使いが実戦を繰り広げていた。
「成り行きとはいえ、試運転で戦闘か。泣かせるじゃねえか!」
意気揚々と歯を剥き出しにして楽しそうに戦場を駆け巡る統夜は、加速装置の更なる使い方を模索していた。
「おいおい……あんま無茶な動きしてるとエンジンに負荷が……!」
加速装置への急激な負荷は加速。突然の停止は減速。その双方を組み合わせて自由に動き回る。と言うのが彼の理想だ。
「加速は悪くない。あとはもう少し小回りが利けば……っ、邪魔だ!」
角ばった動きでゾンビの死角に入ると、一気にアーマーソードを振り下ろす。
勢い良く攻撃を加えられたゾンビは肉辺を飛び散らせながら一瞬で粉砕されてゆく。その勢いは悪くない。しかし――
「車輪から煙が出てるぞ……!」
元々外すことを前提で作られている車輪だ。固定に甘さがあったのかもしれない。
急ぎ威嚇射撃をして駆け付けるシンは、ゾンビたちを統夜に近づけないようにして彼の傍に立った。
「大丈夫か……!? やっぱりいきなり実戦は無理がありすぎたかもな……」
「いや、車輪が外れただけで他は無事だ。この魔導アーマー、思ったよりも丈夫かもしれない」
車輪が外れた魔導アーマーを確認する統夜。
彼の言う通り頑丈さはある。今回ゾンビの群れに飛び込んでみてわかったが、ゾンビ程度の攻撃ではそう簡単に壊れることはないだろう。
ではゾンビ以上の相手ならば如何なのか……
アルルベルと有希遥の援護を得てキヨモリに接近したレオーネ。彼はアーマーソードを渾身の力を振り絞って打ち込んでいた。
「ウソ、だろ?」
予想ではアーマーソードがキヨモリに勝ち、撃退出来ると踏んでいた。少なくとも後退させるに至ると思っていた。
だが現実は違った。
レオーネの一撃はタマによって強化されたキヨモリの腕によって受け止められたのだ。
これに即座に反応したのは有希遥、アルルベル、そしてイーリスだ。
「アルルベルさん」
「……承知」
有希遥はキヨモリに接近すると、大きく息を吸い込んで低い姿勢から一気に斬り込んだ。これにキヨモリのもう片方の腕が動き、猛烈な勢いで彼の刀を薙ぎ払った。
「ッ、まだ!」
1度攻撃を阻まれたからと言って納まる訳にはいかない。今の攻撃でキヨモリの腕が強化されていることはわかった。では次は彼の関節だ。
タマの能力でどれだけ敵が強化されるのか。その見極めを今の内に行っておきたい。そんな彼の目に刀を払ったばかりの腕が跳んでくるのが見えた。
「――」
重い衝撃をはらんだ一撃が有希遥の腕を襲い、彼の眉が顰められる。だがこれはこれで好機だった。
「き、キヨモリ!」
「!」
慌てて振り返ったキヨモリが目にしたのは、タマに雷撃を撃ち込むアルルベルの姿だ。
「タマ、触ル、ダメ……!」
地に響くような声を上げてレオーネと有希遥を振り払う。そうしてタマに接近すると、キヨモリはありえないほどのパワーでアルルベルが立つ地面を打った。
ゴォォオォッ!
足元にあった地とCAMの残骸が吹き飛び、荒々しい幕を生み出す。そして幕が消え去るその瞬間に、空にいたリンドヴルムが翼を広げた。
「戦えぬ者を襲うとはなんて野蛮なんだ……」
「タマ、膝、切レテル」
「ああ! 本当だ! ああああ、もう戦えない! 私はもう死んでしまうっ!!」
いつの間に移動したのだろう。リンドヴルムの背で頭を抱えるタマと心配そうに彼を担ぐキヨモリの姿が見える。
「――という訳で、今日のところはこれで許してあげよう。そのゲップとやらは君たちにあげることにするから、追いかけてこないでね!」
それじゃ! 爽やかに笑顔で手を上げるタマと、恭しく頭を下げるキヨモリ。そしてそんな2人を乗せて去ってゆくリンドヴルムを見送るハンターたち。そこへブリジッタの怒声が響くのだった。
「CAMなのよさぁーーッ!!!!」
●渡り鳥の騎士の今後
「幾つか改良点が見えてきたのう」
そう口にしたのはイーリスだ。
「実用化したのは良いんじゃが……武器が1つしか持てんのでは盾など持てぬ。それに加速装置を積んでおるものの、急な加速時は敵の良い的じゃ。加えて最後に碌に銃器が扱えんため、遠距離戦では手も足も出ぬ」
故にこんな物を固定武装に出来ぬか?
イーリスはそう言葉を添えると、今後の課題になるであろうスキルと装備の案を出し始めた。
「1つ目は馬上槍状エネルギーシールドじゃ。加速装置と連動して移動力を上げつつ、白兵攻撃力と受け値・受け防御を上げる仕組みじゃな」
これは馬上槍型の特殊なスペルランチャーを固定武器とした際のスキル提案だ。
「2つ目は文字通りスペルランチャーじゃ。マテリアルを全てエネルギーシールドとスペルランチャーに回し、反動を防ぐためや出力の一時的低下で、移動が出来ぬ代わりに受け値・受け防御を上げつつ、強烈な一撃を放つ感じじゃな」
なるほど。と頷きつつブリジッタは構想を巡らせているらしく踏込んだ返事を返す様子はない。そこへアルルベルが進み出た。
「すまない。小型で、それなりに力もあり、機動力も高い。今後の展開次第では突破力も身につく、となれば……今回のような回収作業ももちろん、負傷者救護にも役立てるのではないだろうか」
これまでの魔導アーマーはほぼ戦闘用だ。
そうした既存の魔導アーマーと差別化するなら小回りの効く点を特徴として活用するのはどうか。というのが彼女の提案だ。
「元々、人を助けるための技術が基礎となっている事に引け目があるのならば……やり方次第でどうにでもなる、という事も示したくもあるのでな」
「その案にはうちも賛成だな。この魔導アーマーの加速は戦場は勿論、人命救助などでも潰しが効くと思う。そうした使い方なら組合長さんとの協力も楽になるんじゃないかな?」
有希遥はそう言うと、近々参考になる資料を持っていくと言葉を添えた。
それに目を瞬いていると、今度は統夜が使用者としての意見を口にした。
「もう少し防御力がどうにかならないか? 魔法力を使えるなら、ピンポイントに集中しシールドを作るとか。あとは器用さの追求か」
使ってみて思ったが、もう少し動きに滑らかさが欲しい。
「滑らかに動かせるのは当然、更に重い物を振り回せる頑丈さ。この部分を魔法力で部分強化なりできないだろうか?」
技術面の課題はあるだろうがあともう少し細かい所に手が届けば実用性のある存在になると思う。
「実用性でいえば俺からも1つ」
そう申し訳なさそうに進み出たのはレオーネだ。
「いや、今でも充分小さいとは思うんだけど、もう少し小さくならないかな? 今のままだと魔導アーマーと同じくらいって言うか……な?」
難しいかな? そう顔を覗き込む彼にブリジッタの眉が上がった。そこへ今までやり取りを聞くだけにとどめていたシンが呟いた。
「加速能力を少し犠牲にして射撃寄りのも作れないか……? 武装はガトリングやキャノン砲と対艦主義な感じで……」
今まで黙っていたが、彼にしてみれば射撃能力がない事が心残りだったのだ。せめてもう少し射撃能力があれば……
「ぶっちゃけ全部が均等になると突出した能力がなくなるのよさ。それはつまり個性がない、ってことと同じなのよ」
「それならウェポンラックを付けたら武装ももう少し付けれそうな気がするな……、まぁ重すぎて倒れるようなら論外だが……」
「白髪頭の言うとおり重さがネックなのよさ。この魔導アーマーは機動力が売りなのよ。重さで速さが落ちたり小回りが効かなくなったりしたら元も子もないのよさ」
成程。そう息を吐き、シンはチラリと俯くブリジッタを見た。
「あー……理想に反してて悪かったって……、詫びにケーキでも買ってくるから――」
「うーし! そうと決まればみんなの意見を参考に最終調整するのよさ! って、白髪頭どうしたのよさ?」
「……いや、なんでもない。俺の気のせいだったみたいだ……」
そう、ブリジッタが落ち込むはずはなかった。
シンの言葉に目を瞬いたブリジッタは、大きく伸びをすると魔導アーマーの調整に意欲を見せ、雄たけびを上げたのだった。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/02/09 08:17:10 |
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質問卓 守原 有希遥(ka4729) 人間(リアルブルー)|19才|男性|舞刀士(ソードダンサー) |
最終発言 2016/02/11 19:50:03 |
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ぶっつけ本番戦闘試験会議 守原 有希遥(ka4729) 人間(リアルブルー)|19才|男性|舞刀士(ソードダンサー) |
最終発言 2016/02/11 21:50:15 |