ゲスト
(ka0000)
【節V】投げる気持ちは
マスター:石田まきば

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/02/11 07:30
- 完成日
- 2016/02/19 07:03
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
『突然だけど、今年のヴァレンタインデーを再開する!』
『『『な、なんだってー!!!』』』
●
カカオ減産、そして高騰に伴うチョコレートの供給危機を前に、ハンターズソサエティのショップ店員シルキー・アークライトが敗北し、ソサエティショップ史上初のチョコレート販売停止がなされた事は記憶に新しい。
アカシラが偶さかカカオ豆の原生地を知っていた事から、突如として執り行われることとなった【長江】への進撃は、破竹の勢いを見せた。実に百名を超えるハンター達による怒涛の侵攻に、現地の歪虚達は手も足も出なかった。結果として、ハンター達は東方の支配地域に食い込み、西方へのカカオの供給を回復させしめたのである。
東方での争乱は、西方へも確かな影響を与えていた。西方に溜めこまれていたたカカオ豆は値下がりを免れず、爆発的な勢いで在庫が掃きだされることとなったのだ。カカオ豆は徐々に適正価格に近付いて行き――ついに、チョコレートの流通が、回復したのである。
バレンタインデーというハートウォーミングでキャッチ―なイベントを前にして届いた朗報に、市井には喜びの声が溢れたという。
尤も、裏方は血の涙を流しているかもしれないのだが。
●
季節の飲み物、とは少し違うかもしれないけれど。
「ホットチョコレートかな?」
APVのキッチンから漂ってくる香りに小さく微笑むシャイネ。どうやらフクカンがハンター達に出すためにと淹れているようだ。
しばらくして人数分のカップをトレイに乗せて持ってくるフクカンに、手伝おうかと手を伸ばす。
「シャイネさんは座っててください!」
怪我して帰って来たばかりなんですからと止められて、ありがとうと言いながら座り直した。
(そろそろ全快ではあるのだけれどね?)
覚醒者でありハンターなのだ。傷の回復も他のハンター達とそう変わらない。
「甘えさせてもらおうかな♪ それじゃ、いただきます」
たまにはこういう扱いも悪くないかなと微笑んで、渡されたホットチョコレートに口をつけた。
「ところで、どうしてチョコレートが……バレンタインだ、というのはわかるのだけれど」
エルフハイムに戻っていたシャイネは、カカオ豆高騰だとか原生地へのハンター大量出撃だとか。そういう事情に珍しく疎い様子。その珍しさが好奇を呼んだのか、その彼に周囲のハンター達が口々に事情を話しだした。
「ふぅん……じゃあ、安く手に入ったりもするのかな?」
面白い事が出来そうだ、そんな微笑みを浮かべるシャイネ。思い出すのは去年耳にした風変わりなイベントの事。
豆、チョコレート、節分、カカオ、バレンタイン。
「体の慣らしもしたいからね。ほんの少し、遊びに付き合ってもらえる子達を募集しようかな」
重体だったのだから、それはまあ分かるけれど。
(また何か変なことをはじめやがった)
ハンター達が思うのは仕方のない事だった。
●『チョコレート投げ大会参加者募集のお知らせ』
リゼリオの一区画で、ちょっとした賑やかしイベントを行います。
皆様は奮ってご参加ください。
・概要
チョコレートを投げてバレンタインのカップル達を祝福!
・詳細
参加者には個包装されたチョコレート粒を配布します。
道行くカップル達の愛を祝福する為に投げつけて下さい。
・場所
リゼリオのとある一区画。
※ 必要な手続きを取り、許可を貰いました。当日にこのイベントが行われることは事前掲示や情報回覧によって告知を済ませています。
・報酬
ありません。
楽しむためのイベントです。
投げきらなかったチョコレートをそのまま持ち帰っても大丈夫です。
・注意
あくまでも『祝福』です。
怪我をさせてはいけません。
誹謗中傷はスタッフからの厳重注意等の対応により行動そのものが……(記述はここで途切れている)
●
「……こんなところかな?」
手続きやら手配やらを終えたシャイネがAPVに戻ってくる。
「お疲れ様ですシャイネさん! またホットチョコレート、淹れましょうか?」
お手伝いしますって言ったのに。フクカンが心配そうにシャイネに手を貸そうとする。
「きゃーフク×シャイかしら、レアものだわ、期間限定だわ~」
不穏な響きを持った黄色い声が聞こえた気もするが、それは横に置いておこう。
「ありがとう♪ でも、自分でやらないとね」
ゆっくり移動するとか、気を付けていたから大丈夫だよ。そんな事を言いながら笑顔で返す。
「にしても……投げるよりは、避けたり、飛んできたチョコを受け止めたりする方が面白そうだと思わないかい?」
「そういうものですか?」
首を傾げて考え込むフクカン。
「あっでもそうですね! 折角のチョコレート、落としちゃうの勿体ないですし!」
「包装してあるから大丈夫だよ?」
でも、そういう事にしておこうか? くすくすと笑って、参加者の応募を待つシャイネだった。
『突然だけど、今年のヴァレンタインデーを再開する!』
『『『な、なんだってー!!!』』』
●
カカオ減産、そして高騰に伴うチョコレートの供給危機を前に、ハンターズソサエティのショップ店員シルキー・アークライトが敗北し、ソサエティショップ史上初のチョコレート販売停止がなされた事は記憶に新しい。
アカシラが偶さかカカオ豆の原生地を知っていた事から、突如として執り行われることとなった【長江】への進撃は、破竹の勢いを見せた。実に百名を超えるハンター達による怒涛の侵攻に、現地の歪虚達は手も足も出なかった。結果として、ハンター達は東方の支配地域に食い込み、西方へのカカオの供給を回復させしめたのである。
東方での争乱は、西方へも確かな影響を与えていた。西方に溜めこまれていたたカカオ豆は値下がりを免れず、爆発的な勢いで在庫が掃きだされることとなったのだ。カカオ豆は徐々に適正価格に近付いて行き――ついに、チョコレートの流通が、回復したのである。
バレンタインデーというハートウォーミングでキャッチ―なイベントを前にして届いた朗報に、市井には喜びの声が溢れたという。
尤も、裏方は血の涙を流しているかもしれないのだが。
●
季節の飲み物、とは少し違うかもしれないけれど。
「ホットチョコレートかな?」
APVのキッチンから漂ってくる香りに小さく微笑むシャイネ。どうやらフクカンがハンター達に出すためにと淹れているようだ。
しばらくして人数分のカップをトレイに乗せて持ってくるフクカンに、手伝おうかと手を伸ばす。
「シャイネさんは座っててください!」
怪我して帰って来たばかりなんですからと止められて、ありがとうと言いながら座り直した。
(そろそろ全快ではあるのだけれどね?)
覚醒者でありハンターなのだ。傷の回復も他のハンター達とそう変わらない。
「甘えさせてもらおうかな♪ それじゃ、いただきます」
たまにはこういう扱いも悪くないかなと微笑んで、渡されたホットチョコレートに口をつけた。
「ところで、どうしてチョコレートが……バレンタインだ、というのはわかるのだけれど」
エルフハイムに戻っていたシャイネは、カカオ豆高騰だとか原生地へのハンター大量出撃だとか。そういう事情に珍しく疎い様子。その珍しさが好奇を呼んだのか、その彼に周囲のハンター達が口々に事情を話しだした。
「ふぅん……じゃあ、安く手に入ったりもするのかな?」
面白い事が出来そうだ、そんな微笑みを浮かべるシャイネ。思い出すのは去年耳にした風変わりなイベントの事。
豆、チョコレート、節分、カカオ、バレンタイン。
「体の慣らしもしたいからね。ほんの少し、遊びに付き合ってもらえる子達を募集しようかな」
重体だったのだから、それはまあ分かるけれど。
(また何か変なことをはじめやがった)
ハンター達が思うのは仕方のない事だった。
●『チョコレート投げ大会参加者募集のお知らせ』
リゼリオの一区画で、ちょっとした賑やかしイベントを行います。
皆様は奮ってご参加ください。
・概要
チョコレートを投げてバレンタインのカップル達を祝福!
・詳細
参加者には個包装されたチョコレート粒を配布します。
道行くカップル達の愛を祝福する為に投げつけて下さい。
・場所
リゼリオのとある一区画。
※ 必要な手続きを取り、許可を貰いました。当日にこのイベントが行われることは事前掲示や情報回覧によって告知を済ませています。
・報酬
ありません。
楽しむためのイベントです。
投げきらなかったチョコレートをそのまま持ち帰っても大丈夫です。
・注意
あくまでも『祝福』です。
怪我をさせてはいけません。
誹謗中傷はスタッフからの厳重注意等の対応により行動そのものが……(記述はここで途切れている)
●
「……こんなところかな?」
手続きやら手配やらを終えたシャイネがAPVに戻ってくる。
「お疲れ様ですシャイネさん! またホットチョコレート、淹れましょうか?」
お手伝いしますって言ったのに。フクカンが心配そうにシャイネに手を貸そうとする。
「きゃーフク×シャイかしら、レアものだわ、期間限定だわ~」
不穏な響きを持った黄色い声が聞こえた気もするが、それは横に置いておこう。
「ありがとう♪ でも、自分でやらないとね」
ゆっくり移動するとか、気を付けていたから大丈夫だよ。そんな事を言いながら笑顔で返す。
「にしても……投げるよりは、避けたり、飛んできたチョコを受け止めたりする方が面白そうだと思わないかい?」
「そういうものですか?」
首を傾げて考え込むフクカン。
「あっでもそうですね! 折角のチョコレート、落としちゃうの勿体ないですし!」
「包装してあるから大丈夫だよ?」
でも、そういう事にしておこうか? くすくすと笑って、参加者の応募を待つシャイネだった。
リプレイ本文
●
目元は丸く、鼻は嘴のようにとがらせて。ハートを模した仮面の端には、心のかわりにリボンを繋いで。
「これより私はバレンタイン仮面『技の一号』だ。同志達よ、共に世の恋人達に祝福を撒くべく尽力しようじゃないか」
自身の名を冠したように仮面は白く、リボンは赤い。仮面を身に着けた銀 真白(ka4128)は、形だけがお揃いの仮面を、仲間達にも配っていく。
ドロテア・フレーベ(ka4126)に渡されたのは、赤の仮面に金リボン。『バレンタインの正装はハートの仮面』と嘯いたのはほんの数日前の事だ。
(これはこれで面白そうだし♪)
艶やかに唇が笑みを形作る。
彼らのノリと勢いに合わせていくことは、自分にとっても歓び。
(楽しく開き直った者勝ちだと思うので)
だからエステル・クレティエ(ka3783)は、ドロテアの冗談を訂正しなかった。
今は渡された水色仮面、緑のリボンをそっと撫でる。
正面はバッグで、死角である後方は服のフード部分で。ちょっとした距離なら野球帽を構えてちょいと動いて受ければいい。
(完璧だな)
自分の作戦に一人頷き、俺もソロだと、ザレム・アズール(ka0878)はシャイネに笑顔を向けた。
「お互い、この戦い、生き残れるよう頑張ろう」
「望むところだね♪」
愛用の弓弦を撫でる吟遊詩人。どちらも潔さでは負けていない。
このチョコ粒で、貴方は恋人達を祝福しますか?
「するよ、うん。一応ね?」
シャイネと交換したチョコレートをぱくりと食べて、ラウリィ・ディバイン(ka0425)はにやりと笑う。
お面は斜めに、視界を確保。
「確実に当てたいからさー」
弓使いだし妥協したくないね。確実に、それこそピンポイントで?
「健闘を祈るね!」
風呂敷になるべく多くのチョコ粒を詰め込んだ彼は、揚々と街へ繰り出していく。
「チョコー!! 食い放題じゃーん!!」
APVに駆け込むGon=Bee(ka1587)。心は既にチョコの中である。
「みんな早く来るじゃん! チョコが逃げるじゃん!? 鼻血用のティッシュもしっかり持ったじゃん、準備は間違いないじゃーん!」
「え? これだけじゃん?」
渡されたチョコが粒と気付きがっかりするGon。
「貰う方じゃなくて投げる方じゃん?」
鬼の面を渡され、本能的に肩をがくりと落とす。
投げる。猟撃士。そういえばうちって……ちらり。
Hachi=Bee(ka2450)と目が合った。
「チョコ美味しいよねー。ごんさんどうしたのかなー?」
秘書スマイルがGonを打ちのめす!
「ぎゃぁぁぁあああ!?」
しかし叫びながら考えた。
(真面目にやればご褒美でチョコ貰えるかもしれないじゃん?)
シャンシャンシャラン
軽やかな足運びに、鈴の音乗せて。
「お幸せにやぇ~」
こつん
あどけなさの残る声と共に、恋人達にチョコが降る。
流れる群青、領巾のようにひらめけば。静玖(ka5980)が足音もなく、舞う雪ふわり、街を歩く。
鬼の面はチョコを持つ手の甲に。扇のようにひらひらり。
可愛らしい舞手の様子に、恋人達の頬も緩んだ。
「鬼の面? これも必要な事なのか」
渡されるままに面をつける1号、とりあえず鬼とハートを重ねる。
「真し……いや、1号。こっちのがよくないか?」
1号と対の白仮面、リボンだけが青で違う。1号と同じように面を重ねた七葵(ka4740)が、新たな着け方を模索し始める。
「ふむ、これなら視界を邪魔しないな」
身につけていればいいのだろうと納得した二人の結論は。前がハート、後ろが鬼。
小さい子が見たら夢に出そうだ。
誰かが吹きだす音にも気づかず、1号2号はフクカンの説明に神妙に頷いた。
「それならば出来る事もあるだろう」
「3号はなぜ頬が痙攣しているのだ?」
2号の首を傾げる様子に、3号の震えが更に増す。
「あたしはバレンタイン仮面『金の3号』よ!』
名乗り方の流儀を学ぶべき、と声を張り上げる。
(いっそ元が解らない位に……?)
髪はまとめて帽子の中に。動きやすさを重視して。深呼吸して仮面をつければ……
「清き愛は流るる水の如く」
くい、と帽子の鍔を直す仕草は自然なもので。
「バレンタイン仮面水色4号、推参っ!」
ばさりとマント翻す、おとぎ話の王子様。
「3号も4号もさすが板についているな」
心底感心したような声を出す2号。また3号の肩が震えた。
「俺だったら……」
1号の文句を思い出す2号。
「祝福の守護者……愛と正義の味方」
名乗り慣れない口上が何処か、上滑り気味。
「力の2号ことバレンタイン仮面2号、推して参る」
三度、3号の肩が震えた。
仮面に予備はあると聞き、3号は見かけた少女、静玖に仮面を差し出す。
「確かに5人なら…あと一人欲しいくらいですね」
4号も加勢する。
「そうよぉ、愛を祝って正義を通す、大事なヒーローなのよ?」
良かったら使ってみて? にこりと微笑み、静玖の手に仮面を滑らせた。
必ずしも同じ場所で活動する必要はない、どこかで使ってもらえれば、と。
「……チョコを、投げる……」
人へ向けて物を投げるというのは慣れるものではない。
むしろ苦手な方だと思いながらも、外待雨 時雨(ka0227)が持ち込むのは手作りのチョコレート達。
「節分と……混合された催し、でしょうか……」
前の年に、ピースホライズンで催されていた行事の真似事。そう聞いて。由来はここに居る誰も知らないのだと把握する。
(一先ず、盛り上げることに……努めましょう……)
鬼の面は邪魔にならない腕に。チョコを配るだけであっても。時雨の手にはいつも傘があるのだから。
(節分とバレンタインがゴチャゴチャしてる!)
蒼の文化は必ずしも正確に伝わっていない。そう知ってはいても目の当たりにすると改めて驚いてしまうものである。
「虎柄ビキニとかじゃなくてよかった」
「寒くないですか?」
鬼の面を斜めに付けた花厳 刹那(ka3984)がチョコを受け取りながら呟いた言葉にフクカンが生真面目に答えた。
「まるごとぜんらと重ね着なら」
「そんな事言っちゃうフクカンくんはこうですよー」
頬ふにふに
「わわ、やめてくださいー!?」
腕をジタバタさせるフクカンはやっぱり年下にしか見えなかった。
●
(安いチョコをいけにえに捧げて、レアアイテムをドロップするお祭りよね)
などと思いはするが、滝川雅華(ka0416)は口を閉ざしたまま前を歩く銀 桃花(ka1507)とコトラン・ストライプ(ka0971)を眺める。
(最近とんと縁無いので忘れがちだけどね)
面白いものが見れそうな予感がしていた。
マントは前掛けと言い張る虎の着ぐるみ。その中身をコトランと呼ぶ。
「ついに来たぞこの時が!」
しっかり留めたマントの端を両手で持って、ばっさばっさとふってみる。
「いい感じ! これでチョコを余さずいただく! オイラあったまいー!!」
「さあ、行くわよ二人共!」
エプロンドレスも、つば広帽子も全てはチョコを受ける為。
「トラ君、手も繋いでくー? 雅姉は反対側ねっ♪」
グループデートを意識して、幸せオーラをいつもより追加することも忘れずに。
「競争よっトラ君! どっちがたくさんチョコを集めるか!」
「桃ねーちゃん、どっちがチョコを沢山貰えるか競争しようぜ!!」
「それじゃ、よーい、はじめ?」
同じ内容で挑戦状をたたきつけた二人の間をとって。雅華の合図で二人が飛び出していった。
「ハァーハッハァー!!」
鬼の面の下、カップル達を見据える視線は嫉妬の炎などではない。
「投げるぜ祝福するぜ!」
行動も台詞もまさに彼女いない歴=年齢に見えるけれど。
「喰らえカップル共ォー!!」
男紫月・海斗(ka0788)、デートスポットリサーチ中。
(すべてはタングラムとデートする為!)
カップルがいるところ、込み具合、彼女側の反応等々。
エスコートの為の事前準備を進めているのだ。
「折角のバレンタインだもん……ざくろ、みんなに楽しんで貰いたくて」
だから、みんなで。揃ってデートに出かけよう? 緊張のような照れのような。頬を染めながらの時音 ざくろ(ka1250)の言葉に恋人達が頷かないわけがなかった。
(久々にデートですの♪)
舞桜守 巴(ka0036)は全員の都合がついた奇跡をかみしめる。
(それにしても……皆で、というのが罪作りですわねぇ♪)
ざくろの腕にぎゅむぅと抱き付く。
「アルラも一緒にやりませんこと? ほぉら♪」
巴に言われるまでもなく、アルラウネ(ka4841)もざくろの腕にしっかりとしがみついている。
(こんな時に見せつけようなんて、ざくろんも性格悪いわね)
そういうつもりじゃないと分かっていても。あえて捻くれて捉えると面白みが増すものだ。クスクスと笑い声を零せば、どうしたのかとざくろが微笑みを向けてくる。
「楽しい日になればいいわねって、私も思っただけよ」
チョコ投げ大会の告知を思い出す。
(ざくろには言わない方が面白いかもしれないわね)
悪戯めいた笑いをこっそり隠して。コーシカ(ka0903)はアデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)の隣を歩く。今日がその開催日であることは勿論、その会場に近づいていることも。
赤服白髭好好爺よろしく大きな袋。
「ほらほらほらっ!」
ファンシーお耳はぴょんぴょん兎。可愛いお顔は鬼が隠して。
バットで打ち出すその弾は、ふわふわ包んだチョコレート。
「恋の9番バッターが祝福してあげますよ!」
鬼うさぎと化したGacrux(ka2726)が、予めしっかり緩衝材で包んだチョコレートを打ち出している。
チョコ粒ではなくチョコレートである。
狙い通り、当てられた者はそれほど痛くなさそうだが……チョコ、割れてないだろうか?
「熱い熱い熱い!」
ひょいっバシン!
「見せつけてくれますねぇ」
ひょいバシーン!
カップルに当てることが最重要で、チョコの原型は関係ないのかもしれない。わざとハート形のチョコを買い込んだに違いない。今のとか絶対真ん中からぱっくりいってる。後でカップルが泣く可能性120%。
策士だ。
「きゃー!」
チョコで狙われる度に桃花の黄色い声が上がる。
「いやーん!」
(そうして油断させておいてー)
ギランッ☆
一転して獲物を狙う肉食獣のごとく、チョコに向かっていく桃花。
「そこの人! オイラにチョコぶつけてくれー!」
おめめキラキラぷりちー☆虎ちゃん。ショタ好きにはたまらないステータスてんこ盛り。
手当たり次第に母性本能だったり父性本能だったりを刺激していくコトラン、さながら嵐を呼ぶ虎息子。
あげたその場で食べるわ笑顔だわ全力お礼の言葉やら。癒しを求める老年層にも大フィーバー☆
動かない筈の着ぐるみの虎尻尾が、ぶんぶん振られている幻覚を周囲に与えつつ快進撃は続く。
(……面白いわね)
特にコトラン。どこまでもチョコレートを追い求める純粋さと、それゆえの破天荒さ。
(猫みたい……で、いいのかしら)
くるくる回る眼の感じとか。急には止まれない所とか。去年はコトランに言われてぶつけたが、今年は自分からも投げて食べさせてみたいと思う。
「でも猫だとチョコ、やっちゃいけないのよね」
「雅ねーちゃん、どしたー?」
「なんでもないわ……チョコ、あるわよ」
「あ、雅ねーちゃんも投げてくれんの? やったー!」
一度手放しで喜ぼうとして、慌ててマントの中のチョコを思い出す。
「手、使えねーから。オイラの口めがけて投げてくれよな!」
●
「おいおーい、まぁた今年もやってんのかよぉ。おたくらも飽きないもんだねぇ」
鵤(ka3319)の右手には飲みかけの酒が揺れている。
「おっさんもまた一口噛ませてちょうだいよぉ」
けらけら
既に酔っているのだ。だからここがリゼリオでも、オフィスでも、細かいことは関係なかった。
暇つぶしになればいいのだ、要は。
面はただ付けていると言った風情。チョコ粒の量も適当に。今年は連れもなく一人だから。
「さーぁって。ちょーどいい標的はいなぁいー?」
ぷしゅっ
新たに開けた缶ビールのいい音が耳に心地いい。ほろ酔い気分で鵤は歩いていく。千鳥足ではあったけれど、進む方角に迷いはなかった。
『チョコを投げて、愛を祝福する。良い祭りだ』
愛とは何か。Sen=Bee(ka2042)が思うにそれは煎餅である。
『しかし食べ物を粗末に扱うのは、よくない』
(どうしたら粗末にならないだろうか)
腕を組む。首を傾げる。考える、と言う言葉は流石に身振りで済ませる。
「せんさん、チョコとせんべいの組み合わせってどうだろー。お酒にあうって聞いたよ!」
飲みたいねー駄目かなあお酒売ってないかなあー。Hachiは欲のままに話しているだけだ。
「はんさーん、帰ったらチョコのお菓子食べたい! 作ってー」
(なるほど)
Hachiの言葉に深く頷いたSen。すぐに思いつきをスケッチブックにマーカーで示す。
『煎餅ガードだ』
落ちそうなチョコも、身体に向けられるチョコも全て煎餅で受ければ2つがあわさるだけで済む。
(煎餅チョコが出来上がる)
それをプレゼントすればいい。特に一族は酒を呑む者ばかりだから、喜ばれるはずだ。
(何よりチョコも無駄にならない)
『これだな』
カップルが良く通り、なおかつ隙を狙える高い場所。
ちょっとしたデートスポット。もしくはちょっとした暗がり。
(羨ましいわけじゃないからね、女の子たちの幸せの為だからさ)
女の子は笑顔じゃなくちゃいけない。これも座右の銘みたいなもの。
ほんの少しのチョコを残して、そぉーれ!
バラバラバラバラバラッ!! わー!?
カップルが慌て始めたところで、チョコを男の方へと投げつけるラウリィ。
「リア充はー内ぃー!」
腿や手の甲に当てる辺り容赦ない。
「この後は密室でふたりきりになっていちゃいちゃすればいいんじゃないかなーっ!!」
自棄にも聞こえるが、そこは触れてはいけない所だ。
「凄く賑やか……っ」
ここはリゼリオ、そしてバレンタインデー。ある程度の覚悟はしていたけれど。
(皆恋人さんと待ち合わせだったりするのかな。なんだか素敵)
そういう自分も可愛くて素敵な女の子たちに囲まれている。
4人を順に見て、ひとりひとりに微笑む。
「今日は美味しいものを食べたり、色んな所回ろうね? だから……って、えっとえっと」
バババババッ!!!
ざくろが何か言う度にチョコ粒が5人の元へ振ってくる。
「さっきからチョコがっ」
次第に眼をぐるぐる回しはじめる。
「チョコが沢山ざくろ達にっ!?」
おぼつかない足取りになった彼を支えるために、8本の腕が伸びる。
「いーところにー。おーいーうちー♪」
チョコ粒の襲撃にあったばかりのカップルに出会えばチョコを投げて挟み撃ち。
「んーそれじゃおかわりいるー?」
掌に突如現れたチョコを前に盛り上がろうとしているカップルには敢えて鋭く投げつけて驚かす鵤。
「いい運動したよねえ?」
チョコがなくなる頃には、手持ちの酒も空になる。丁度いいタイミングだ。
「んじゃ、いつものいこうかねぇ」
けらけらけら
囲まれた中で一番落ち着いていたのはアデリシア。
「妙な行事が増えてきたような気がしますね…」
蒼界から伝えられた文化に由来するのだろうとは思うが。食べ物を投げるというのはどうしても頷くことが難しい。剥き身ではないのが救いだと自分を納得させてみる。
(盛り上がればそれでもいいんでしょうか)
「ああ、そういえば」
噂で聞いたかもしれないわね、とコーシカ。
「チョコをぶつけるイベントがあるって話……今日だったのかもしれないわ?」
思い出した風を装いつつ、実際はざくろの反応が面白くて、そして愛しい。
(慌てちゃって)
好きだからこそ、だと自分でも理解している。
「折角だから、いただいちゃおうかしら」
スカートの裾を掴んで袋にするコーシカ。元が長いおかげで全てではないものの。腿のあたりまで見えている。
「わわわ、コーシカっ!?」
コーシカの言葉に頷くアデリシア。
投げられる側なのは間違いがない。何より今の状況がそれを如実に表している、
(ざくろさんがどれだけぶつけられるか、少し心配になってきました)
女4人、男1人のハーレムだ。嫉妬を買いやすいだろうことはわかっていた。
(何かの間違いで強めに投げられて来るようなら)
前に出て自分がチョコを回収すればいいだろう。そう割り切ることにした。
(皆に悪戯もわるくない、かしら?)
「……ふふ」
巴と目が合う。それだけで意図は通じたようで。
アルラウネのコートにコーシカが入れるのはチョコ粒。自分の服にもひとつ転がして。アデリシアの方には巴が仕掛けて。
「あ、でも……」
チョコを咥えて待つのが一番かしら?
コーシカがチョコを入れた事にはすぐに気付いた。
(別に取り出せばいい事よね)
チョコの鬼役に囲まれているのも気にせず、コートをはだけるアルラウネ。
ざわっ……!?
下に着ているのはビキニ。下着ではないし、いつものことなので胸の前のあわせに躊躇わず自分の手を入れた。
ざわざわっ!
男性ばかりの鬼達。半分が蹲り、その半分が泣きだした……残りは怒りと憎しみに包まれて、こちらを威嚇しようとしている。
「……?」
しかしイベントで許されているのはあくまでもチョコレートのみ。
チョコの雨が、振った。
●
「目標を確認」
ウィルフレド・カーライル(ka4004)が見据える先には恋人達。狙撃地点αに潜む彼を見咎める者はいない。
風向き、よし。陽射しと見通し、OK。照準は男の、広げたばかりの掌にあわせた。
カウント開始。3、2、1……せいっ!
溶けないよう慎重に構えていたチョコを投げ込む。
「次はβに」
着弾を確認する前にその場から離れる。その様はまさに当て逃げ。
あとには突如現れた手の中のチョコを祝福の贈り物だと喜び更に密着する恋人達がいた。
「愛ある限り戦うわ!」
3号の声に合わせ2号が前に飛び出していく。
「1号、今が好機!」
俺がおさえているうちに……言葉にせずとも伝わる間合いで、2号の背側からチョコが飛ぶ。
「反撃する者も居ると聞いた、これは反乱に違いない、先に行けっ!」
「2号……貴殿の犠牲は無駄にしない!」
「おめでとうございます」
コンビネーション抜群の展開を横目に4号が狙うのは、恋人達の中間地点。
祝福の意図を感じ、ただ享受を選んだ恋人達。
「あ、そこで庇うとかしなきゃ……こほん。そこは庇うのが男と言うもの。もう一回行きます」
王子センサーで許されなかった場合、リテイクが発生するのだった。
笑いをこらえる為にも、適当なセリフとはいえ力が入る。
「内にも外にもラブと情熱っ!」
腹筋が震えているにも拘らず発声も狙いもほとんどぶれていない3号。
「これに懲りたら更生なさい! オーッホッホッホ!」
「さすが3号だ、俺達も見習わなければ」
「聞いたことがある、女王様と呼ぶべき笑いだと」
「……えっそれは」
4号が止める間もなく話は転がっていく。
「やるとしても別料金よ?」
せいぎのじょおうさまとは。
「秘儀……ッ!」
海斗の踵にマテリアルが集まる。跳び上がる前からはためく服が、アラサー男子の色香を盛り上げる!
ブワァアア……ッ!!!
煌めく光は逆光によるものか。無駄と無駄の無さの混ざりあう混沌から繰り出される洗練されて美しく目を引く感動的な跳躍投擲が今、白日の下に晒される!
「格好いい俺シューッツ!!!」
勿論投げるのはチョコ粒である。
シュタッ
着地も無駄と(都合により略)感動的だった。
「くくく……」
俺の姿に感動するが良い!
(タングラムにもきかせてやらねぇとな、この俺の美談!)
テンション下げさせてなんかやらねーぜ!
「待ってろよタングラァーム!」
ふはははは!!!
「投げるよー?」
秘書奥義、チラ見せサービス当たり前、綺麗なフォームで職場の仲間を盛り上げる!
「えーい!」
ただし声の響きは残念である。彼女はうっかりHachi=Beeだから。
「てぇええええーい!」
腐っても猟撃士。なまっていても猟撃士。その全力を込めたチョコはチョコらしからぬ速度を持ってそんで行く。
「ってあれー?」
族長がなんで射線上に―?!?!?
Hachiの言葉が音に変換されるよりも早く、チョコはGonの頭に華麗にヘッドショット☆
「ぎゃぁあああああ痛い痛い痛い痛い!?」
「いささか勿体無い気もしますが、仕方がないですね」
言いながらも一粒構えるHan=Bee(ka4743)。
「ここはHachi様を見習って」
「ちょっと待つじゃん嫌な予感しかしないじゃん!」
「Sen様を見習うには首が痛いのです」
身長差50センチ(およそ)の壁は厚い。
「そういう問題じゃーん!?」
「では改めて……てぇーい!」
ブンッ!
「はんさんの射線上にもご」「て、族長ー!? 避け」
G・O・N!
『鳩尾』
Senの生真面目な文字だけが現実を語った。
「……いくつか、もろてかえってえぇやろか?」
大切な兄と片割れにも、楽しい気持ちと幸せわけあいたいなぁ? まだまだたくさんあるから持って行きなと静玖の受け取ったチョコは多めで。そんな嬉しい気持ちもきっと舞に籠もってる。
(おんやぁ?)
半分くらいは投げ終えて。残りはゆっくり、誰かを見つけたら……そんな矢先に見かけたのは鬼うさぎ。
(どうなんやろなぁ)
首を傾げつつも、懐から取り出すのはハートの仮面。
●
祝福のチョコだと言えば、受け取る手には困らない。袋の中は、気付けば最後のひとつだけ。
予想よりも早い時間に、時雨は傘を通して空を仰ぐ。
(……気まぐれな、あなたは……?)
わたしが望んだら、会いに来てくれるのでしょう?
最後のひとつは、はじめから。
「あなたに……贈る分なのですから……」
誰も見ていない、傘の中。最後のひとつを小さく掲げて。
「……恋しく、親しい……あなたへ……」
囁き声に答えるように、時雨の傘にだけ、滴が触れる。
……ぽつ……
「……ふふ……嬉し泣き、ですか……?」
「でもなんでごんさんが射線上にいたんだろー。カップルだったの?」
Hachiが首を傾げると、Hanも不思議そうに続く。
「族長、カップルだったんですか?」
女性2人が疑問符を飛ばしている時点で、Gonとのカップリングはあり得ない。
だとすると。2人の視線が自然とSenに向かった。
首を傾げたSenもスケッチブックをGonに向ける。
『ところでGon殿に恋人は出来ないのか?』
心底不思議そうな顔と共に。
「でっ出来ないんじゃなくて作らないだけじゃん!?」
彼女いない歴=年齢に酷な質問である。
「そーいうSen殿こそっ」
『自分には心の友がいるからいらないのだ』
男2人の親睦が温まっている頃、Hanは牛脂を取り出していた。Hachiが覗き込む。
「早速チョコのお菓子?」
「いえ。以前耳にしたことがあります。カップルと対する時は、愛と肉染みを込めるべし、それが流儀である、と」
言いながらチョコ粒に牛脂を塗りたくる。すぐに完成するてかてかのチョコレート。
「美味しそうじゃないねー」
「これでいいはずです。てぇい!」
明確にGonを狙って投擲するHan。彼女視点で男2人はカップル認定されたらしい。
「チョコじゃん!」
本能でチョコの気配を察したGonが口を開けて待ち受ける。奇跡のような反応速度は間違いなく偶然。
ぱくっ……ぬるぬるつるっ♪
「……じゃん?」
喉の奥に瞬時に消えたのは本当にチョコレートだったのか。
「Han殿何したじゃん。自分何を食べたじゃん!?」
「肉染みチョコです」
「憎しみ!? 嫌われてたじゃーん!?」
落ち込むGonの肩をにやさしく手を置くSen。また少し男2人の距離が縮まった。
恋人達を光で包み、静玖が新たに投げるのは符と、幻影の影に潜ませたチョコ。
「桜いうんよ……どちらさんも、落ち着きますやんなぁ?」
「やりますねえ!」
着ぐるみ姿であろうとも、柔軟さと素早さを活かして避けていくGacrux。
しかし残弾も少なくなってきた。
「ふふふ、ならばこうです!」
避けたと見せかけてそのまま転身。その日はもう、鬼うさぎを見た者はいなかった。
「怪我はない?」
謝辞を告げる恋人達に、振り向きにこり。
「うちはこうして祝福できたらえぇやよって♪」
第一陣はあえて華麗に避ける。
「チョコを!」
ほんの一瞬前までザレムの居た場所を通り過ぎようとするチョコを帽子でかっさらう。
「チョコを!」
二陣は盾で上に弾きあげて、フードで受け止める。
「一心不乱の」
鞄を持ってぐるぐる回り、投げつけられるチョコを余さず中へと。
「チョコを!」
こぼれた粒も、地面に落ちる前にすかさず手でキャッチ!
(これは、戦争……!)
至極真面目にチョコを集めるザレムだったが、現状、宴会芸である。
(幸せな子達を見るのは嬉しいわ)
仲間達しかり、今日祝福したカップル達もしかり。赤のマスクの下でわずかに目を細めるドロテア。
(あたしも何かが違っていたら……ううん)
過ぎたことだ。けれど。
今この時間は、なかったはずの可能性を実現させているのかもしれない。
(だからこの幸せを満喫すればいいのだわ)
行きあったシャイネに一粒投げながら、気になる言葉を絞り出す。
労りと、煽ったことへの謝辞も添え。
「……その、兄をどう思って……」
エステルが思い出すのは、一年前の衝撃の一瞬。ずっと気になっていたのだ。
「いつも、心配をかけてばかりの友人……だよね?」
(自分は一体何をしているのか)
祝福のチョコレートを投げる度、己の年齢を思い出す。
趣味らしい趣味もなく、余暇を持て余した先がこのチョコ投げである。
(れっきとしたイベントだ)
報酬はないが。
くいくい。
マントが引かれる感触に振り向けば、期待の眼差しと目が合った。
チョコを投げる場所はあくまでも、恋人達に取っての死角。それは子供たちにとって格好の遊び場と同義だった。
「……少し待て」
ウィルフレドの投げるチョコ粒を追いかけてキャーキャー笑い声をあげる子供達。
これはこれで有意義……ということにしておこう。
「ふっふっふ、この勝負僕の圧勝……って、トラ君ってば、食べながらっ!?」
「桃ねーちゃんそんなにチョコもらったの? ずりー! オイラにもくれ!!」
「また鼻血出しちゃうよ? 雅姉のも食べて……そうだ、雅姉にも分けてあげるっ。はい、あーん♪」
ぱくん
「ありがと。それじゃあ私も」
今年は私からも返していくわよと、雅華が一粒を手に桃花に迫る。
「……ね、桃花?」
桃花に囁くようにして壁際に追い詰める。トン、と雅華の手、桃花の背が壁に触れる。
「あーん……?」
(わ、わ……知ってたけど、気付いてたけど)
近いとそれだけ、雅華の素顔が良く見える。眼鏡の奥の瞳とか。肌のきめ細かさとか。
……ぱくん
同じチョコレートの筈なのに、何故か大人の苦さがあった気がした。
「こ、これだけじゃ足りないしっ」
慌てて雅華の腕の下をすり抜ける。
「どっかケーキ屋寄ってこー☆」
食べ放題のお店とかってないのかなー。トラ君知ってる?
●
「素敵なバレンタインを!」
シャワー上にばらまく先は幸せそうなカップル達。なるべく高く飛ばさないのがコツだ。
(けっこう難しいですね?)
シャイネに向けて投げる時の方が楽だった、と思う刹那である。
加減の必要がない、と言うのはとても楽なことだと改めて実感する。
いくら祝福の為とはいっても、それなりに質量のあるチョコは当たると痛いのだ。怪我をするほどではないけれど。
「……あと一回、ってところですか」
終わったら、またフクカンの頬でもつつきに行こうか。
なぜザレムがあれほど必死にチョコを集めていたのか。
「余っている分もあったのに」
「戦利品を使うことに意味があるんだよ」
ザレム手製のフォンダンショコラがその日のAPVおやつに加えられたという。
戦いが終わった安心感、その隙を巴に突かれた。
トンッ
「あ……っ!?」
「ざくろさんっ!」
バランスを崩し倒れこんでくるざくろ。同じく気を抜いていたアデリシアはざくろもろとも倒れ込む。
「……ご、ごめ」
「そこでしゃべらないでくださいざくろさんっ」
吐息が当たってくすぐったい。
「あ……っごめ」
「だっだか……ら……」
バババッ!
慌てて起き上がったざくろの手に助けられて、アデリシアも立ち上がった。
「ってあら、チョコ?」
肌に感じる違和感で視線を落としたとばかりに。シフォンブラウス、皺の部分にチョコレートがうまく乗っている。
「ふふ、ざくろ……取ってくれません?」
「えっ? わ、わわっ」
わかった、と言い切る前に、自分の体をつき出す巴。
ふよん
「あっ!?」
少しの揺れで転がるチョコは、巴の谷間に落ちていく。
「とってくれませんの?」
甘い声に誘われて、ぼうっとした顔でざくろがチョコを取り出した。
その指に直接顔を寄せ、巴はチョコを口にする。
「……ん♪」
瞼を閉じて待てば、抱き寄せる腕の感触と、唇に落ちる熱。
「うふふ、唇頂きましたわ♪ ざくろはほんと可愛いんですから♪」
贈る予定のチョコをざくろの懐に忍ばせる巴。
「このまま、甘い夜にしたいですね? 全員、同時、で♪」
「……ちょっと疲れましたし、宿屋でもいいですよね?」
アデリシアも言えば、コーシカもチョコを咥えたまま頷く。
集めたチョコを包んで、ざくろの前に差し出すのはアルラウネ。
「幸せなチョコをどうぞ?」
祝福の為のチョコなら、きっと皆で幸せになれるから。
一人一人に改めて、ざくろは優しくキスを落とした。
目元は丸く、鼻は嘴のようにとがらせて。ハートを模した仮面の端には、心のかわりにリボンを繋いで。
「これより私はバレンタイン仮面『技の一号』だ。同志達よ、共に世の恋人達に祝福を撒くべく尽力しようじゃないか」
自身の名を冠したように仮面は白く、リボンは赤い。仮面を身に着けた銀 真白(ka4128)は、形だけがお揃いの仮面を、仲間達にも配っていく。
ドロテア・フレーベ(ka4126)に渡されたのは、赤の仮面に金リボン。『バレンタインの正装はハートの仮面』と嘯いたのはほんの数日前の事だ。
(これはこれで面白そうだし♪)
艶やかに唇が笑みを形作る。
彼らのノリと勢いに合わせていくことは、自分にとっても歓び。
(楽しく開き直った者勝ちだと思うので)
だからエステル・クレティエ(ka3783)は、ドロテアの冗談を訂正しなかった。
今は渡された水色仮面、緑のリボンをそっと撫でる。
正面はバッグで、死角である後方は服のフード部分で。ちょっとした距離なら野球帽を構えてちょいと動いて受ければいい。
(完璧だな)
自分の作戦に一人頷き、俺もソロだと、ザレム・アズール(ka0878)はシャイネに笑顔を向けた。
「お互い、この戦い、生き残れるよう頑張ろう」
「望むところだね♪」
愛用の弓弦を撫でる吟遊詩人。どちらも潔さでは負けていない。
このチョコ粒で、貴方は恋人達を祝福しますか?
「するよ、うん。一応ね?」
シャイネと交換したチョコレートをぱくりと食べて、ラウリィ・ディバイン(ka0425)はにやりと笑う。
お面は斜めに、視界を確保。
「確実に当てたいからさー」
弓使いだし妥協したくないね。確実に、それこそピンポイントで?
「健闘を祈るね!」
風呂敷になるべく多くのチョコ粒を詰め込んだ彼は、揚々と街へ繰り出していく。
「チョコー!! 食い放題じゃーん!!」
APVに駆け込むGon=Bee(ka1587)。心は既にチョコの中である。
「みんな早く来るじゃん! チョコが逃げるじゃん!? 鼻血用のティッシュもしっかり持ったじゃん、準備は間違いないじゃーん!」
「え? これだけじゃん?」
渡されたチョコが粒と気付きがっかりするGon。
「貰う方じゃなくて投げる方じゃん?」
鬼の面を渡され、本能的に肩をがくりと落とす。
投げる。猟撃士。そういえばうちって……ちらり。
Hachi=Bee(ka2450)と目が合った。
「チョコ美味しいよねー。ごんさんどうしたのかなー?」
秘書スマイルがGonを打ちのめす!
「ぎゃぁぁぁあああ!?」
しかし叫びながら考えた。
(真面目にやればご褒美でチョコ貰えるかもしれないじゃん?)
シャンシャンシャラン
軽やかな足運びに、鈴の音乗せて。
「お幸せにやぇ~」
こつん
あどけなさの残る声と共に、恋人達にチョコが降る。
流れる群青、領巾のようにひらめけば。静玖(ka5980)が足音もなく、舞う雪ふわり、街を歩く。
鬼の面はチョコを持つ手の甲に。扇のようにひらひらり。
可愛らしい舞手の様子に、恋人達の頬も緩んだ。
「鬼の面? これも必要な事なのか」
渡されるままに面をつける1号、とりあえず鬼とハートを重ねる。
「真し……いや、1号。こっちのがよくないか?」
1号と対の白仮面、リボンだけが青で違う。1号と同じように面を重ねた七葵(ka4740)が、新たな着け方を模索し始める。
「ふむ、これなら視界を邪魔しないな」
身につけていればいいのだろうと納得した二人の結論は。前がハート、後ろが鬼。
小さい子が見たら夢に出そうだ。
誰かが吹きだす音にも気づかず、1号2号はフクカンの説明に神妙に頷いた。
「それならば出来る事もあるだろう」
「3号はなぜ頬が痙攣しているのだ?」
2号の首を傾げる様子に、3号の震えが更に増す。
「あたしはバレンタイン仮面『金の3号』よ!』
名乗り方の流儀を学ぶべき、と声を張り上げる。
(いっそ元が解らない位に……?)
髪はまとめて帽子の中に。動きやすさを重視して。深呼吸して仮面をつければ……
「清き愛は流るる水の如く」
くい、と帽子の鍔を直す仕草は自然なもので。
「バレンタイン仮面水色4号、推参っ!」
ばさりとマント翻す、おとぎ話の王子様。
「3号も4号もさすが板についているな」
心底感心したような声を出す2号。また3号の肩が震えた。
「俺だったら……」
1号の文句を思い出す2号。
「祝福の守護者……愛と正義の味方」
名乗り慣れない口上が何処か、上滑り気味。
「力の2号ことバレンタイン仮面2号、推して参る」
三度、3号の肩が震えた。
仮面に予備はあると聞き、3号は見かけた少女、静玖に仮面を差し出す。
「確かに5人なら…あと一人欲しいくらいですね」
4号も加勢する。
「そうよぉ、愛を祝って正義を通す、大事なヒーローなのよ?」
良かったら使ってみて? にこりと微笑み、静玖の手に仮面を滑らせた。
必ずしも同じ場所で活動する必要はない、どこかで使ってもらえれば、と。
「……チョコを、投げる……」
人へ向けて物を投げるというのは慣れるものではない。
むしろ苦手な方だと思いながらも、外待雨 時雨(ka0227)が持ち込むのは手作りのチョコレート達。
「節分と……混合された催し、でしょうか……」
前の年に、ピースホライズンで催されていた行事の真似事。そう聞いて。由来はここに居る誰も知らないのだと把握する。
(一先ず、盛り上げることに……努めましょう……)
鬼の面は邪魔にならない腕に。チョコを配るだけであっても。時雨の手にはいつも傘があるのだから。
(節分とバレンタインがゴチャゴチャしてる!)
蒼の文化は必ずしも正確に伝わっていない。そう知ってはいても目の当たりにすると改めて驚いてしまうものである。
「虎柄ビキニとかじゃなくてよかった」
「寒くないですか?」
鬼の面を斜めに付けた花厳 刹那(ka3984)がチョコを受け取りながら呟いた言葉にフクカンが生真面目に答えた。
「まるごとぜんらと重ね着なら」
「そんな事言っちゃうフクカンくんはこうですよー」
頬ふにふに
「わわ、やめてくださいー!?」
腕をジタバタさせるフクカンはやっぱり年下にしか見えなかった。
●
(安いチョコをいけにえに捧げて、レアアイテムをドロップするお祭りよね)
などと思いはするが、滝川雅華(ka0416)は口を閉ざしたまま前を歩く銀 桃花(ka1507)とコトラン・ストライプ(ka0971)を眺める。
(最近とんと縁無いので忘れがちだけどね)
面白いものが見れそうな予感がしていた。
マントは前掛けと言い張る虎の着ぐるみ。その中身をコトランと呼ぶ。
「ついに来たぞこの時が!」
しっかり留めたマントの端を両手で持って、ばっさばっさとふってみる。
「いい感じ! これでチョコを余さずいただく! オイラあったまいー!!」
「さあ、行くわよ二人共!」
エプロンドレスも、つば広帽子も全てはチョコを受ける為。
「トラ君、手も繋いでくー? 雅姉は反対側ねっ♪」
グループデートを意識して、幸せオーラをいつもより追加することも忘れずに。
「競争よっトラ君! どっちがたくさんチョコを集めるか!」
「桃ねーちゃん、どっちがチョコを沢山貰えるか競争しようぜ!!」
「それじゃ、よーい、はじめ?」
同じ内容で挑戦状をたたきつけた二人の間をとって。雅華の合図で二人が飛び出していった。
「ハァーハッハァー!!」
鬼の面の下、カップル達を見据える視線は嫉妬の炎などではない。
「投げるぜ祝福するぜ!」
行動も台詞もまさに彼女いない歴=年齢に見えるけれど。
「喰らえカップル共ォー!!」
男紫月・海斗(ka0788)、デートスポットリサーチ中。
(すべてはタングラムとデートする為!)
カップルがいるところ、込み具合、彼女側の反応等々。
エスコートの為の事前準備を進めているのだ。
「折角のバレンタインだもん……ざくろ、みんなに楽しんで貰いたくて」
だから、みんなで。揃ってデートに出かけよう? 緊張のような照れのような。頬を染めながらの時音 ざくろ(ka1250)の言葉に恋人達が頷かないわけがなかった。
(久々にデートですの♪)
舞桜守 巴(ka0036)は全員の都合がついた奇跡をかみしめる。
(それにしても……皆で、というのが罪作りですわねぇ♪)
ざくろの腕にぎゅむぅと抱き付く。
「アルラも一緒にやりませんこと? ほぉら♪」
巴に言われるまでもなく、アルラウネ(ka4841)もざくろの腕にしっかりとしがみついている。
(こんな時に見せつけようなんて、ざくろんも性格悪いわね)
そういうつもりじゃないと分かっていても。あえて捻くれて捉えると面白みが増すものだ。クスクスと笑い声を零せば、どうしたのかとざくろが微笑みを向けてくる。
「楽しい日になればいいわねって、私も思っただけよ」
チョコ投げ大会の告知を思い出す。
(ざくろには言わない方が面白いかもしれないわね)
悪戯めいた笑いをこっそり隠して。コーシカ(ka0903)はアデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)の隣を歩く。今日がその開催日であることは勿論、その会場に近づいていることも。
赤服白髭好好爺よろしく大きな袋。
「ほらほらほらっ!」
ファンシーお耳はぴょんぴょん兎。可愛いお顔は鬼が隠して。
バットで打ち出すその弾は、ふわふわ包んだチョコレート。
「恋の9番バッターが祝福してあげますよ!」
鬼うさぎと化したGacrux(ka2726)が、予めしっかり緩衝材で包んだチョコレートを打ち出している。
チョコ粒ではなくチョコレートである。
狙い通り、当てられた者はそれほど痛くなさそうだが……チョコ、割れてないだろうか?
「熱い熱い熱い!」
ひょいっバシン!
「見せつけてくれますねぇ」
ひょいバシーン!
カップルに当てることが最重要で、チョコの原型は関係ないのかもしれない。わざとハート形のチョコを買い込んだに違いない。今のとか絶対真ん中からぱっくりいってる。後でカップルが泣く可能性120%。
策士だ。
「きゃー!」
チョコで狙われる度に桃花の黄色い声が上がる。
「いやーん!」
(そうして油断させておいてー)
ギランッ☆
一転して獲物を狙う肉食獣のごとく、チョコに向かっていく桃花。
「そこの人! オイラにチョコぶつけてくれー!」
おめめキラキラぷりちー☆虎ちゃん。ショタ好きにはたまらないステータスてんこ盛り。
手当たり次第に母性本能だったり父性本能だったりを刺激していくコトラン、さながら嵐を呼ぶ虎息子。
あげたその場で食べるわ笑顔だわ全力お礼の言葉やら。癒しを求める老年層にも大フィーバー☆
動かない筈の着ぐるみの虎尻尾が、ぶんぶん振られている幻覚を周囲に与えつつ快進撃は続く。
(……面白いわね)
特にコトラン。どこまでもチョコレートを追い求める純粋さと、それゆえの破天荒さ。
(猫みたい……で、いいのかしら)
くるくる回る眼の感じとか。急には止まれない所とか。去年はコトランに言われてぶつけたが、今年は自分からも投げて食べさせてみたいと思う。
「でも猫だとチョコ、やっちゃいけないのよね」
「雅ねーちゃん、どしたー?」
「なんでもないわ……チョコ、あるわよ」
「あ、雅ねーちゃんも投げてくれんの? やったー!」
一度手放しで喜ぼうとして、慌ててマントの中のチョコを思い出す。
「手、使えねーから。オイラの口めがけて投げてくれよな!」
●
「おいおーい、まぁた今年もやってんのかよぉ。おたくらも飽きないもんだねぇ」
鵤(ka3319)の右手には飲みかけの酒が揺れている。
「おっさんもまた一口噛ませてちょうだいよぉ」
けらけら
既に酔っているのだ。だからここがリゼリオでも、オフィスでも、細かいことは関係なかった。
暇つぶしになればいいのだ、要は。
面はただ付けていると言った風情。チョコ粒の量も適当に。今年は連れもなく一人だから。
「さーぁって。ちょーどいい標的はいなぁいー?」
ぷしゅっ
新たに開けた缶ビールのいい音が耳に心地いい。ほろ酔い気分で鵤は歩いていく。千鳥足ではあったけれど、進む方角に迷いはなかった。
『チョコを投げて、愛を祝福する。良い祭りだ』
愛とは何か。Sen=Bee(ka2042)が思うにそれは煎餅である。
『しかし食べ物を粗末に扱うのは、よくない』
(どうしたら粗末にならないだろうか)
腕を組む。首を傾げる。考える、と言う言葉は流石に身振りで済ませる。
「せんさん、チョコとせんべいの組み合わせってどうだろー。お酒にあうって聞いたよ!」
飲みたいねー駄目かなあお酒売ってないかなあー。Hachiは欲のままに話しているだけだ。
「はんさーん、帰ったらチョコのお菓子食べたい! 作ってー」
(なるほど)
Hachiの言葉に深く頷いたSen。すぐに思いつきをスケッチブックにマーカーで示す。
『煎餅ガードだ』
落ちそうなチョコも、身体に向けられるチョコも全て煎餅で受ければ2つがあわさるだけで済む。
(煎餅チョコが出来上がる)
それをプレゼントすればいい。特に一族は酒を呑む者ばかりだから、喜ばれるはずだ。
(何よりチョコも無駄にならない)
『これだな』
カップルが良く通り、なおかつ隙を狙える高い場所。
ちょっとしたデートスポット。もしくはちょっとした暗がり。
(羨ましいわけじゃないからね、女の子たちの幸せの為だからさ)
女の子は笑顔じゃなくちゃいけない。これも座右の銘みたいなもの。
ほんの少しのチョコを残して、そぉーれ!
バラバラバラバラバラッ!! わー!?
カップルが慌て始めたところで、チョコを男の方へと投げつけるラウリィ。
「リア充はー内ぃー!」
腿や手の甲に当てる辺り容赦ない。
「この後は密室でふたりきりになっていちゃいちゃすればいいんじゃないかなーっ!!」
自棄にも聞こえるが、そこは触れてはいけない所だ。
「凄く賑やか……っ」
ここはリゼリオ、そしてバレンタインデー。ある程度の覚悟はしていたけれど。
(皆恋人さんと待ち合わせだったりするのかな。なんだか素敵)
そういう自分も可愛くて素敵な女の子たちに囲まれている。
4人を順に見て、ひとりひとりに微笑む。
「今日は美味しいものを食べたり、色んな所回ろうね? だから……って、えっとえっと」
バババババッ!!!
ざくろが何か言う度にチョコ粒が5人の元へ振ってくる。
「さっきからチョコがっ」
次第に眼をぐるぐる回しはじめる。
「チョコが沢山ざくろ達にっ!?」
おぼつかない足取りになった彼を支えるために、8本の腕が伸びる。
「いーところにー。おーいーうちー♪」
チョコ粒の襲撃にあったばかりのカップルに出会えばチョコを投げて挟み撃ち。
「んーそれじゃおかわりいるー?」
掌に突如現れたチョコを前に盛り上がろうとしているカップルには敢えて鋭く投げつけて驚かす鵤。
「いい運動したよねえ?」
チョコがなくなる頃には、手持ちの酒も空になる。丁度いいタイミングだ。
「んじゃ、いつものいこうかねぇ」
けらけらけら
囲まれた中で一番落ち着いていたのはアデリシア。
「妙な行事が増えてきたような気がしますね…」
蒼界から伝えられた文化に由来するのだろうとは思うが。食べ物を投げるというのはどうしても頷くことが難しい。剥き身ではないのが救いだと自分を納得させてみる。
(盛り上がればそれでもいいんでしょうか)
「ああ、そういえば」
噂で聞いたかもしれないわね、とコーシカ。
「チョコをぶつけるイベントがあるって話……今日だったのかもしれないわ?」
思い出した風を装いつつ、実際はざくろの反応が面白くて、そして愛しい。
(慌てちゃって)
好きだからこそ、だと自分でも理解している。
「折角だから、いただいちゃおうかしら」
スカートの裾を掴んで袋にするコーシカ。元が長いおかげで全てではないものの。腿のあたりまで見えている。
「わわわ、コーシカっ!?」
コーシカの言葉に頷くアデリシア。
投げられる側なのは間違いがない。何より今の状況がそれを如実に表している、
(ざくろさんがどれだけぶつけられるか、少し心配になってきました)
女4人、男1人のハーレムだ。嫉妬を買いやすいだろうことはわかっていた。
(何かの間違いで強めに投げられて来るようなら)
前に出て自分がチョコを回収すればいいだろう。そう割り切ることにした。
(皆に悪戯もわるくない、かしら?)
「……ふふ」
巴と目が合う。それだけで意図は通じたようで。
アルラウネのコートにコーシカが入れるのはチョコ粒。自分の服にもひとつ転がして。アデリシアの方には巴が仕掛けて。
「あ、でも……」
チョコを咥えて待つのが一番かしら?
コーシカがチョコを入れた事にはすぐに気付いた。
(別に取り出せばいい事よね)
チョコの鬼役に囲まれているのも気にせず、コートをはだけるアルラウネ。
ざわっ……!?
下に着ているのはビキニ。下着ではないし、いつものことなので胸の前のあわせに躊躇わず自分の手を入れた。
ざわざわっ!
男性ばかりの鬼達。半分が蹲り、その半分が泣きだした……残りは怒りと憎しみに包まれて、こちらを威嚇しようとしている。
「……?」
しかしイベントで許されているのはあくまでもチョコレートのみ。
チョコの雨が、振った。
●
「目標を確認」
ウィルフレド・カーライル(ka4004)が見据える先には恋人達。狙撃地点αに潜む彼を見咎める者はいない。
風向き、よし。陽射しと見通し、OK。照準は男の、広げたばかりの掌にあわせた。
カウント開始。3、2、1……せいっ!
溶けないよう慎重に構えていたチョコを投げ込む。
「次はβに」
着弾を確認する前にその場から離れる。その様はまさに当て逃げ。
あとには突如現れた手の中のチョコを祝福の贈り物だと喜び更に密着する恋人達がいた。
「愛ある限り戦うわ!」
3号の声に合わせ2号が前に飛び出していく。
「1号、今が好機!」
俺がおさえているうちに……言葉にせずとも伝わる間合いで、2号の背側からチョコが飛ぶ。
「反撃する者も居ると聞いた、これは反乱に違いない、先に行けっ!」
「2号……貴殿の犠牲は無駄にしない!」
「おめでとうございます」
コンビネーション抜群の展開を横目に4号が狙うのは、恋人達の中間地点。
祝福の意図を感じ、ただ享受を選んだ恋人達。
「あ、そこで庇うとかしなきゃ……こほん。そこは庇うのが男と言うもの。もう一回行きます」
王子センサーで許されなかった場合、リテイクが発生するのだった。
笑いをこらえる為にも、適当なセリフとはいえ力が入る。
「内にも外にもラブと情熱っ!」
腹筋が震えているにも拘らず発声も狙いもほとんどぶれていない3号。
「これに懲りたら更生なさい! オーッホッホッホ!」
「さすが3号だ、俺達も見習わなければ」
「聞いたことがある、女王様と呼ぶべき笑いだと」
「……えっそれは」
4号が止める間もなく話は転がっていく。
「やるとしても別料金よ?」
せいぎのじょおうさまとは。
「秘儀……ッ!」
海斗の踵にマテリアルが集まる。跳び上がる前からはためく服が、アラサー男子の色香を盛り上げる!
ブワァアア……ッ!!!
煌めく光は逆光によるものか。無駄と無駄の無さの混ざりあう混沌から繰り出される洗練されて美しく目を引く感動的な跳躍投擲が今、白日の下に晒される!
「格好いい俺シューッツ!!!」
勿論投げるのはチョコ粒である。
シュタッ
着地も無駄と(都合により略)感動的だった。
「くくく……」
俺の姿に感動するが良い!
(タングラムにもきかせてやらねぇとな、この俺の美談!)
テンション下げさせてなんかやらねーぜ!
「待ってろよタングラァーム!」
ふはははは!!!
「投げるよー?」
秘書奥義、チラ見せサービス当たり前、綺麗なフォームで職場の仲間を盛り上げる!
「えーい!」
ただし声の響きは残念である。彼女はうっかりHachi=Beeだから。
「てぇええええーい!」
腐っても猟撃士。なまっていても猟撃士。その全力を込めたチョコはチョコらしからぬ速度を持ってそんで行く。
「ってあれー?」
族長がなんで射線上に―?!?!?
Hachiの言葉が音に変換されるよりも早く、チョコはGonの頭に華麗にヘッドショット☆
「ぎゃぁあああああ痛い痛い痛い痛い!?」
「いささか勿体無い気もしますが、仕方がないですね」
言いながらも一粒構えるHan=Bee(ka4743)。
「ここはHachi様を見習って」
「ちょっと待つじゃん嫌な予感しかしないじゃん!」
「Sen様を見習うには首が痛いのです」
身長差50センチ(およそ)の壁は厚い。
「そういう問題じゃーん!?」
「では改めて……てぇーい!」
ブンッ!
「はんさんの射線上にもご」「て、族長ー!? 避け」
G・O・N!
『鳩尾』
Senの生真面目な文字だけが現実を語った。
「……いくつか、もろてかえってえぇやろか?」
大切な兄と片割れにも、楽しい気持ちと幸せわけあいたいなぁ? まだまだたくさんあるから持って行きなと静玖の受け取ったチョコは多めで。そんな嬉しい気持ちもきっと舞に籠もってる。
(おんやぁ?)
半分くらいは投げ終えて。残りはゆっくり、誰かを見つけたら……そんな矢先に見かけたのは鬼うさぎ。
(どうなんやろなぁ)
首を傾げつつも、懐から取り出すのはハートの仮面。
●
祝福のチョコだと言えば、受け取る手には困らない。袋の中は、気付けば最後のひとつだけ。
予想よりも早い時間に、時雨は傘を通して空を仰ぐ。
(……気まぐれな、あなたは……?)
わたしが望んだら、会いに来てくれるのでしょう?
最後のひとつは、はじめから。
「あなたに……贈る分なのですから……」
誰も見ていない、傘の中。最後のひとつを小さく掲げて。
「……恋しく、親しい……あなたへ……」
囁き声に答えるように、時雨の傘にだけ、滴が触れる。
……ぽつ……
「……ふふ……嬉し泣き、ですか……?」
「でもなんでごんさんが射線上にいたんだろー。カップルだったの?」
Hachiが首を傾げると、Hanも不思議そうに続く。
「族長、カップルだったんですか?」
女性2人が疑問符を飛ばしている時点で、Gonとのカップリングはあり得ない。
だとすると。2人の視線が自然とSenに向かった。
首を傾げたSenもスケッチブックをGonに向ける。
『ところでGon殿に恋人は出来ないのか?』
心底不思議そうな顔と共に。
「でっ出来ないんじゃなくて作らないだけじゃん!?」
彼女いない歴=年齢に酷な質問である。
「そーいうSen殿こそっ」
『自分には心の友がいるからいらないのだ』
男2人の親睦が温まっている頃、Hanは牛脂を取り出していた。Hachiが覗き込む。
「早速チョコのお菓子?」
「いえ。以前耳にしたことがあります。カップルと対する時は、愛と肉染みを込めるべし、それが流儀である、と」
言いながらチョコ粒に牛脂を塗りたくる。すぐに完成するてかてかのチョコレート。
「美味しそうじゃないねー」
「これでいいはずです。てぇい!」
明確にGonを狙って投擲するHan。彼女視点で男2人はカップル認定されたらしい。
「チョコじゃん!」
本能でチョコの気配を察したGonが口を開けて待ち受ける。奇跡のような反応速度は間違いなく偶然。
ぱくっ……ぬるぬるつるっ♪
「……じゃん?」
喉の奥に瞬時に消えたのは本当にチョコレートだったのか。
「Han殿何したじゃん。自分何を食べたじゃん!?」
「肉染みチョコです」
「憎しみ!? 嫌われてたじゃーん!?」
落ち込むGonの肩をにやさしく手を置くSen。また少し男2人の距離が縮まった。
恋人達を光で包み、静玖が新たに投げるのは符と、幻影の影に潜ませたチョコ。
「桜いうんよ……どちらさんも、落ち着きますやんなぁ?」
「やりますねえ!」
着ぐるみ姿であろうとも、柔軟さと素早さを活かして避けていくGacrux。
しかし残弾も少なくなってきた。
「ふふふ、ならばこうです!」
避けたと見せかけてそのまま転身。その日はもう、鬼うさぎを見た者はいなかった。
「怪我はない?」
謝辞を告げる恋人達に、振り向きにこり。
「うちはこうして祝福できたらえぇやよって♪」
第一陣はあえて華麗に避ける。
「チョコを!」
ほんの一瞬前までザレムの居た場所を通り過ぎようとするチョコを帽子でかっさらう。
「チョコを!」
二陣は盾で上に弾きあげて、フードで受け止める。
「一心不乱の」
鞄を持ってぐるぐる回り、投げつけられるチョコを余さず中へと。
「チョコを!」
こぼれた粒も、地面に落ちる前にすかさず手でキャッチ!
(これは、戦争……!)
至極真面目にチョコを集めるザレムだったが、現状、宴会芸である。
(幸せな子達を見るのは嬉しいわ)
仲間達しかり、今日祝福したカップル達もしかり。赤のマスクの下でわずかに目を細めるドロテア。
(あたしも何かが違っていたら……ううん)
過ぎたことだ。けれど。
今この時間は、なかったはずの可能性を実現させているのかもしれない。
(だからこの幸せを満喫すればいいのだわ)
行きあったシャイネに一粒投げながら、気になる言葉を絞り出す。
労りと、煽ったことへの謝辞も添え。
「……その、兄をどう思って……」
エステルが思い出すのは、一年前の衝撃の一瞬。ずっと気になっていたのだ。
「いつも、心配をかけてばかりの友人……だよね?」
(自分は一体何をしているのか)
祝福のチョコレートを投げる度、己の年齢を思い出す。
趣味らしい趣味もなく、余暇を持て余した先がこのチョコ投げである。
(れっきとしたイベントだ)
報酬はないが。
くいくい。
マントが引かれる感触に振り向けば、期待の眼差しと目が合った。
チョコを投げる場所はあくまでも、恋人達に取っての死角。それは子供たちにとって格好の遊び場と同義だった。
「……少し待て」
ウィルフレドの投げるチョコ粒を追いかけてキャーキャー笑い声をあげる子供達。
これはこれで有意義……ということにしておこう。
「ふっふっふ、この勝負僕の圧勝……って、トラ君ってば、食べながらっ!?」
「桃ねーちゃんそんなにチョコもらったの? ずりー! オイラにもくれ!!」
「また鼻血出しちゃうよ? 雅姉のも食べて……そうだ、雅姉にも分けてあげるっ。はい、あーん♪」
ぱくん
「ありがと。それじゃあ私も」
今年は私からも返していくわよと、雅華が一粒を手に桃花に迫る。
「……ね、桃花?」
桃花に囁くようにして壁際に追い詰める。トン、と雅華の手、桃花の背が壁に触れる。
「あーん……?」
(わ、わ……知ってたけど、気付いてたけど)
近いとそれだけ、雅華の素顔が良く見える。眼鏡の奥の瞳とか。肌のきめ細かさとか。
……ぱくん
同じチョコレートの筈なのに、何故か大人の苦さがあった気がした。
「こ、これだけじゃ足りないしっ」
慌てて雅華の腕の下をすり抜ける。
「どっかケーキ屋寄ってこー☆」
食べ放題のお店とかってないのかなー。トラ君知ってる?
●
「素敵なバレンタインを!」
シャワー上にばらまく先は幸せそうなカップル達。なるべく高く飛ばさないのがコツだ。
(けっこう難しいですね?)
シャイネに向けて投げる時の方が楽だった、と思う刹那である。
加減の必要がない、と言うのはとても楽なことだと改めて実感する。
いくら祝福の為とはいっても、それなりに質量のあるチョコは当たると痛いのだ。怪我をするほどではないけれど。
「……あと一回、ってところですか」
終わったら、またフクカンの頬でもつつきに行こうか。
なぜザレムがあれほど必死にチョコを集めていたのか。
「余っている分もあったのに」
「戦利品を使うことに意味があるんだよ」
ザレム手製のフォンダンショコラがその日のAPVおやつに加えられたという。
戦いが終わった安心感、その隙を巴に突かれた。
トンッ
「あ……っ!?」
「ざくろさんっ!」
バランスを崩し倒れこんでくるざくろ。同じく気を抜いていたアデリシアはざくろもろとも倒れ込む。
「……ご、ごめ」
「そこでしゃべらないでくださいざくろさんっ」
吐息が当たってくすぐったい。
「あ……っごめ」
「だっだか……ら……」
バババッ!
慌てて起き上がったざくろの手に助けられて、アデリシアも立ち上がった。
「ってあら、チョコ?」
肌に感じる違和感で視線を落としたとばかりに。シフォンブラウス、皺の部分にチョコレートがうまく乗っている。
「ふふ、ざくろ……取ってくれません?」
「えっ? わ、わわっ」
わかった、と言い切る前に、自分の体をつき出す巴。
ふよん
「あっ!?」
少しの揺れで転がるチョコは、巴の谷間に落ちていく。
「とってくれませんの?」
甘い声に誘われて、ぼうっとした顔でざくろがチョコを取り出した。
その指に直接顔を寄せ、巴はチョコを口にする。
「……ん♪」
瞼を閉じて待てば、抱き寄せる腕の感触と、唇に落ちる熱。
「うふふ、唇頂きましたわ♪ ざくろはほんと可愛いんですから♪」
贈る予定のチョコをざくろの懐に忍ばせる巴。
「このまま、甘い夜にしたいですね? 全員、同時、で♪」
「……ちょっと疲れましたし、宿屋でもいいですよね?」
アデリシアも言えば、コーシカもチョコを咥えたまま頷く。
集めたチョコを包んで、ざくろの前に差し出すのはアルラウネ。
「幸せなチョコをどうぞ?」
祝福の為のチョコなら、きっと皆で幸せになれるから。
一人一人に改めて、ざくろは優しくキスを落とした。
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相談?雑談?卓 銀 真白(ka4128) 人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2016/02/11 00:58:13 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/02/11 02:17:27 |