ゲスト
(ka0000)
【節V】ワルサー総帥の節分大作戦
マスター:御影堂

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/02/12 22:00
- 完成日
- 2016/02/19 05:27
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
王国北部ルサスール領。
比較的治安の良いこの貴族領で、一人の少女が嘆いていた。
「お、と、う、さ、まぁ?」
否、憤っていた。少女の名は、サチコ・W・ルサスール。何を隠そうこのルサスール領を治める領主の息女である。
彼女は王国を巡る旅に出る予定で、初詣を済まし、準備を整えていた。数日後には旅に出ることになっていたのだが……一報が入ったのである。
それが領主カフェ、つまりはサチコの父が病気になったというものだった。
慌てて領主の館に戻ったサチコを待ち構えていたのは、
「サチコよ。お前が作った甘いモノを食べないと……死んでも死にきれぬ」
と宣うあからさまに仮病の父だった。
怒りのこもったサチコの声にも動じず、わざとらしい咳をしながらカフェはいう。
「あぁ~、サチコの作った甘いモノが食べたいんじゃー」
「……そうですわ、お父様」
「おぉ、作ってくれるのか。サチコ!」
「えぇ、作ってもあげますけれど……リアルブルーにはこの時期、厄払いの儀式があるといいます。お父様のご病気を快方に向かわせるためにも、その儀式をやらせていただきたいのです」
サチコはあからさまに作り笑顔で、カフェに告げる。
「サチコよ……そんなに父のことを思って!」
感激するカフェであるが、無論、サチコは怒りを笑顔に込めていた。親バカはいかに優秀な領主といえど、目を曇らせるのであろう。
準備が有りますので、と退出したサチコにカフェは感激の視線を送り続けるのだった。
部屋を出たサチコは、従者のタロとジロを呼んだ。リアルブルー大全と呼ばれるリアルブルーの偏った習慣が掲載された本をめくり、一点を指す。
「節分。これをお父様とやりましょう」
「豆をぶつけあう儀式ですか。何か去年もやった気がしますが……」
「気にしてはいけませんわ」
サチコの兄たちが、鬼役となって昨年は節分のような何かをした。
だが、今年はカフェに福をもたらしに行くのだ。
「ただ豆を与えるだけでは、面白くありませんし……ここはワルワル団っぽくいきましょう! そう、ドッキリびっくり節分大作戦ですわ!」
説明しよう。
ドッキリびっくり節分大作戦とは、リアルブルー大全に掲載された「節分」なる行事と「どっきり大成功」なる行事を掛けあわせた斬新な作戦のことである。
要は何も知らされていないカフェをビビらせながら、豆をぶつけるというだけのことだ。この作戦の肝は、いかにしてカフェをビビらせるのか。そして、豆をぶつけてくるのがサチコだと気づかれないようにするかである。
最後にネタばらしとして、「甘いもの」を渡すところまでが作戦である。
ちなみにワルワル団とは、サチコことワルサー総帥が首魁を務める義賊の組織である。花嫁修業が嫌で家出したサチコが立ち上げた組織だったが。何だかんだで傭兵集団みたいな状態になりつつあるのだった。
「しかし……甘いモノですか」
「えぇ、タロは何か案がありまして?」
「そういえば、流通の滞っていたチョコレートが解禁されたとの噂がありますね」
「もしくは、カフェ様はその噂を耳にした可能性が」
「なるほど、チョコレートですわね。けれど、もしお父様がチョコレート欲しさにこんなことをしたのなら……チョコだけあげるのも癪ですわ」
カフェ、愛されてます。
「それも、みんなで考えることにいたしましょう。どうせなら、本当に病気になるくらい……甘いモノを差し上げますわ」
カフェのたわいない悪戯が、サチコの中に眠る何かを刺激したらしい。
サチコは、いつもの高笑いではない、不敵な笑い声を上げていた。その姿を見ていたタロとジロは口々にこうつぶやくのだった。
「まるで、カフェ様に怒る亡き奥方のようだ……」
そうカフェの妻は、カフェが無駄に甘えたり、面倒なことを言ったりした時、お返しとばかりに色々仕掛けたのだ。手の込んだ仕返しに、カフェもたじたじであった。
昔の光景を思い出しながら、タロとジロは楽しげにもみえるサチコの姿を見守るのであった。
王国北部ルサスール領。
比較的治安の良いこの貴族領で、一人の少女が嘆いていた。
「お、と、う、さ、まぁ?」
否、憤っていた。少女の名は、サチコ・W・ルサスール。何を隠そうこのルサスール領を治める領主の息女である。
彼女は王国を巡る旅に出る予定で、初詣を済まし、準備を整えていた。数日後には旅に出ることになっていたのだが……一報が入ったのである。
それが領主カフェ、つまりはサチコの父が病気になったというものだった。
慌てて領主の館に戻ったサチコを待ち構えていたのは、
「サチコよ。お前が作った甘いモノを食べないと……死んでも死にきれぬ」
と宣うあからさまに仮病の父だった。
怒りのこもったサチコの声にも動じず、わざとらしい咳をしながらカフェはいう。
「あぁ~、サチコの作った甘いモノが食べたいんじゃー」
「……そうですわ、お父様」
「おぉ、作ってくれるのか。サチコ!」
「えぇ、作ってもあげますけれど……リアルブルーにはこの時期、厄払いの儀式があるといいます。お父様のご病気を快方に向かわせるためにも、その儀式をやらせていただきたいのです」
サチコはあからさまに作り笑顔で、カフェに告げる。
「サチコよ……そんなに父のことを思って!」
感激するカフェであるが、無論、サチコは怒りを笑顔に込めていた。親バカはいかに優秀な領主といえど、目を曇らせるのであろう。
準備が有りますので、と退出したサチコにカフェは感激の視線を送り続けるのだった。
部屋を出たサチコは、従者のタロとジロを呼んだ。リアルブルー大全と呼ばれるリアルブルーの偏った習慣が掲載された本をめくり、一点を指す。
「節分。これをお父様とやりましょう」
「豆をぶつけあう儀式ですか。何か去年もやった気がしますが……」
「気にしてはいけませんわ」
サチコの兄たちが、鬼役となって昨年は節分のような何かをした。
だが、今年はカフェに福をもたらしに行くのだ。
「ただ豆を与えるだけでは、面白くありませんし……ここはワルワル団っぽくいきましょう! そう、ドッキリびっくり節分大作戦ですわ!」
説明しよう。
ドッキリびっくり節分大作戦とは、リアルブルー大全に掲載された「節分」なる行事と「どっきり大成功」なる行事を掛けあわせた斬新な作戦のことである。
要は何も知らされていないカフェをビビらせながら、豆をぶつけるというだけのことだ。この作戦の肝は、いかにしてカフェをビビらせるのか。そして、豆をぶつけてくるのがサチコだと気づかれないようにするかである。
最後にネタばらしとして、「甘いもの」を渡すところまでが作戦である。
ちなみにワルワル団とは、サチコことワルサー総帥が首魁を務める義賊の組織である。花嫁修業が嫌で家出したサチコが立ち上げた組織だったが。何だかんだで傭兵集団みたいな状態になりつつあるのだった。
「しかし……甘いモノですか」
「えぇ、タロは何か案がありまして?」
「そういえば、流通の滞っていたチョコレートが解禁されたとの噂がありますね」
「もしくは、カフェ様はその噂を耳にした可能性が」
「なるほど、チョコレートですわね。けれど、もしお父様がチョコレート欲しさにこんなことをしたのなら……チョコだけあげるのも癪ですわ」
カフェ、愛されてます。
「それも、みんなで考えることにいたしましょう。どうせなら、本当に病気になるくらい……甘いモノを差し上げますわ」
カフェのたわいない悪戯が、サチコの中に眠る何かを刺激したらしい。
サチコは、いつもの高笑いではない、不敵な笑い声を上げていた。その姿を見ていたタロとジロは口々にこうつぶやくのだった。
「まるで、カフェ様に怒る亡き奥方のようだ……」
そうカフェの妻は、カフェが無駄に甘えたり、面倒なことを言ったりした時、お返しとばかりに色々仕掛けたのだ。手の込んだ仕返しに、カフェもたじたじであった。
昔の光景を思い出しながら、タロとジロは楽しげにもみえるサチコの姿を見守るのであった。
リプレイ本文
●
王国北部ルサスール領に、一軒の山小屋が存在した。
山小屋の前には『ワルワル団』と書かれた看板がある。今日は甘い匂いが、山小屋から漂っていた。
「……素直に、一緒に甘味を食べようと……誘えばいいだけの……気も……」
材料を用意しながら、外待雨 時雨(ka0227)はぽつりと呟く。
それを受けてエルバッハ・リオン(ka2434)が、
「カフェ様が小細工をしなければ、サチコさんは素直に甘いものを渡したのでしょうか?」
と、呟きながら首を傾げていた。
「確か去年は、サチコさんがチョコレートを配るように誘導する依頼を受けましたね。今回は、最終的にはカフェ様に甘い物を渡すようですから、サチコさんも変わったということでしょうか」
「……私が考えるよりも、複雑なこと……なのでしょうか……」
それとも、これがサチコたちなりの愛情表現なのかと時雨は思うのだった。
「しっかしカフェさんもサチコ謹製のお菓子を食べようと必死だね」
天竜寺 舞(ka0377)はわらや樹の皮を紡ぎながら、苦笑する。
「ははは、お嬢ちゃんの方も必死みたいだ。面白いコトになりそうだねぇ」
食材を用意しつつ、紫吹(ka5868)が視線を巡らす。
窓の外では、サチコがナマハゲ姿でヴァイス(ka0364)と組手を行っていた。
ナマハゲ姿はいつもの服装と違って動きにくく、鬼の面は視界が狭まるため注意がいる。
この状態の組手だ。
殺気の込められた一撃をサチコは紙一重でかわすも、尻餅をついてしまう。
「あまり言いたくはないが、こんなご時世だからこそ率先して仕方なく悪事をはたらく人が大勢いる」
ヴァイスがサチコに語りかける。
「はい」
「これからの旅、万が一にも人と相対することもあるんだ。この程度の殺気ぐらいで怖気づくなよ?」
「大丈夫、ですわ。もう一度……お願いします」
起き上がったサチコに、ヴァイスは頷いて構え直す。
ヴォーイ・スマシェストヴィエ(ka1613)は、二人の組手の様子を眺めながら愛犬ビリーと会話していた。
「なあ、ビリー。今回は俺の食い意地も封印すべきか?」
「ばう?」
ヴォーイを見上げ、小首を傾げるようにビリーは鳴いた。
そうだよなぁ、といいながらヴァイスは声を上げる。
「本当はチョココロネとか、きな粉や砂糖たっぷりの揚げパンとか食いてぇっ……と」
遠くから近づいてくる人影に、ヴォーイは手を振る。
「サチコさま。タロたちが戻ってきたみたいですよ」
人影は、サチコの従者タロとジロ。そして、屋敷の従業員数名だった。
サチコは組手を一時止めて、タロたちに近づく。最上 風(ka0891)も待ってましたとばかりに山小屋から出てきた。
「協力を取り付けることができたみたいですねー」
「じゃあ、料理係の方はこっちで」
ヴォーイがやってきた従業員を山小屋内へ案内する。
タロとジロは、サチコに協力を得たことだけ説明すると風が橋の方へと誘導された。
サチコに声が聴こえない距離へ来ると、風は一つ咳払いをして切り出す。
「さて、タロさん&ジロさん。カフェさんの黒歴史や奥さんとのラヴラヴエピソードとか知りませんか?」
「え」
タロとジロの声がダブり、困惑顔で互いを見渡す。
「大丈夫です! 匿名からのタレコミとして処理するので、お二人の身の安全は保証しますよ!」
ウリ文句に合わせて、風はとっておきの笑顔を見せるのだった。
●
「じゃあ、先に僕は行ってくるよ」
鈴胆 奈月(ka2802)は、従業員の一人と仕掛け材料を手に屋敷へと向かう。
奈月を見送った面々は、組手を終えたサチコを交えてお菓子作りを続ける。
舞はザラビアというエジプトの揚げドーナツを作り、紫吹はカスドースなるカステラを更に甘くしたお菓子を作る。
「でも、甘いのこんなに食べたら太っちゃうね」
「確かにものは甘いけどさぁ……そうだ! サチコ、こっちこっち」
紫吹に呼び出され何事かを吹き込まれるサチコ。
その様子を眺めていたタロたちが、ナマハゲをサチコがよくする気になったと疑問を呈すし、エルが理由を説明する。
「リアルブルーの書物によりますと、『なまはげ』は悪を戒めると同時に、幸運をもたらすとも言われているそうです。今回のカフェ様の仮病に対するお仕置きと同時に、ルサスール領を想うサチコさんの気持ちを領民の方々にアピールできる方法……とサチコさんに伝えました」
「なるほど」
「ついでに中身についても話をつけたぜ?」
すっとヴァイスが会話に加わった。
「中身?」と首を傾げるタロとジロに、ヴァイスは不敵な笑みを浮かべた。
「サチコ様が『鬼娘』になることを了解してくれたのさ」
そういいながら、ヴァイスは舞と目配せをする。何故か互いに、グッと親指を立てていた。
「さて、サチコ様はこれを作ってください」
続けてヴォーイがサチコを呼んでお菓子を作る。
チョコチップを入れた簡素なブレッドだった。
「どこかで見たことがあるお菓子ですわね」
「甘い思い出って奴ですよ」
焼きあがる様子を見て呟くサチコに、ヴォーイはそれだけ告げた。
「……次はこちらを……手伝ってくれませんか……?」
引く手あまたのサチコは、続いて時雨の手伝いを始めた。彼女がサチコと作るのは、マシュマロだ。それ以外のお菓子はすでに完成させていた。
「……これはルサスールさんと……作りたいのです……」
理由は語らず、時雨は一生懸命にサチコへ作り方を伝授する。
お菓子が出来上がると、時雨はお茶の準備へと移るのだった。
「皆さん……。頑張ってきてくださいね……」
「もちろんですわ! さぁ、準備をしますわよ」
張り切って拳を握るサチコに、風が近づく。
「サチコさん、サチコさん。風が仕入れた、カフェさんの黒歴史をお伝えしますよ―」
ごにょごにょとサチコに伝えると、
「これを掛け声にしましょー。それにしても、今日のサチコさんは、何かドス黒いオーラが出てて、まさに鬼そのモノですねー」
「鬼娘にもならないとねぇ」
続けて舞が近づき、サチコの肩をつかむ。
サチコはとても明るい笑顔で振り向く。
「そうですわ。着物を着て……え?」
振り向いたサチコの表情は一瞬で凍りついていた。
●
屋敷で工作活動に勤しんでいた奈月は、やってきたヴァイスに片手を上げた。
「個人レベルでここまで大掛かりなドッキリも、そうそう無い体験だよな……」
「違いない。親父さんは自室?」
「メイドの話しによれば、普通に執務室にいるらしいよ」
「じゃあ、俺が来たことを伝えてもらうか」
仮病というには、脇が甘い。自室に移るまでヴァイスは待たされた。
十分ほど経ち、ようやくカフェの部屋にヴァイスは通される。
「ご病気とお伺いしまして、見舞いに参りました」
「すまないね。大したことはないよ」
「じゃあ、世間話でもして帰りますよ」
全く病気らしさすら感じないのは、仮病として如何なものか。肩をすくめ、ヴァイスは世界情勢や歪虚の動きについて意見交換を行う。
流石は領主だけあって、その辺りは詳しい。また、現場の声は貴重だと聞き入っていた。十分ほどたったころ、メイド迫真の悲鳴が部屋に届けられた。
「何事だ!?」
「おっと、親父さん。すぐ逃げる準備を……」
ヴァイスがカフェを庇うと同時に勢い良く入ってきたのは、鬼の面、ケラミノ、ハバキを纏った人物だった。その手には出刃包丁が握られている。
前に出ようとするカフェをヴァイスが無理から後ろへ追いやると、
「ここは任せてくれ」とばかりに剣を抜き放つ。
上段の構えから放たれる一撃を鬼は躱し、回避の勢いを利用してヴァイスを袈裟斬りにする。
「……く、俺が時間を稼ぐ。親父さんは直ぐに逃げろ!」
わずかに血を流しながら、ヴァイスはカフェを入り口の外へ放り出す。
躊躇いを見せるカフェに、
「はやくしろ!」と声を上げると扉を閉めた。カフェの足音が遠ざかると、断末魔の叫びを上げるのだった。
カフェは迫り来る謎部隊から必死に逃げていた。
「悪い子はいねぇが~! 泣ぐ子はいねぇが~!」
部隊の先頭を走る鬼、つまりサチコが叫びながら包丁を振り回す。声でカフェがわからないのは、ドスの効いた声が出せるよう舞が特訓した成果である。
逃げ込もうといくつか部屋のドアノブを握るが、どれも開かない。
鍵のない部屋さえ、だ。
そうした部屋は奈月が開かないよう工夫をしていた。日曜大工の腕を振るい、楽しんでいたのは秘密である。
「……なぜ誰もおらんのだ」
屋敷の人間と出会わないことに、カフェは混乱する。
時折、頭上を誰かが走る音がし、首筋に冷たい謎の物体があたってくる。舞が壁走りをしてこんにゃくを吊るしているとは、思うはずもない。
合わせて奈月が此処ぞとばかりに、ラップ音を鳴らしたり、煙をたく。用意していた眼が光る人形も効果を発揮し、カフェを誘導していく。
「甘えん坊な親父はいねがー!?」
ヴォーイが入り口に立ち、外へ逃げるという選択肢を失くす。窓からは、配置しておいたメイドたちが豆を投げ入れる。
さらにヴォーイは金棒を振り回し、カフェをエントランスホールから完全に追い返した。続けざまにビリーをけしかけ、自身もゆっくりとカフェの後を追う。
「みんなノリノリ過ぎて……ちょっと楽しくなってきたな」
奈月は待機部屋で呟いていた。
様子をうかがえば、カフェは屋敷を二周するところだ。
今度は食堂へ誘導する。
「そろそろ、出番だよ」
「それじゃあ、一芝居打つとするかねぇ」
同じ部屋にいた紫吹が、動き出す。
彼女こそ、食堂にカフェを入れるための最後の仕掛けだった。
「どんな太陽の光も君の横顔に比べれば霞む」
「どうか私のそばに居て、私を照らす太陽になってくれないか」
「私は月となり、あなたの光を受けてより一層輝きたいのだ!」
追手や窓に張り付く面々が、口々にそう告げてくる。
「どうして奴らはそれを知っているのだ!?」
カフェは混乱の極みにあった。サチコたちが口走っているのは、カフェのプロポーズの言葉だった。屋敷の人間でも一部しか知らない情報だ。
「えぇい、詮索は後だ……うぉう!?」
急に目の前に現れた鬼に、カフェは方向転換する。
正体は隠密を解いた舞だった。
「さ、仕上げだよ」
笑みを浮かべ、目の前を通るサチコに告げる。
目を細めれば、暗がりの先で紫吹がぼうっと立っていた。
混乱の極みにあるカフェは、女性がなぜここにいるのかという疑問すら起こせなかった。半狂乱に叫ぶようにして、声をかける。
「お嬢さん! そこをどいてくれぇ!」
「そいつぁ……あたしのことかい?」
ゆっくりと振り返った紫吹の半顔は爛れていた。目がくぼみ、皮膚が溶け落ちたようにも見える。グール級の姿に、カフェは腰を抜かした……が。
カフェ以上の叫び声が、後ろから聞こえてきた。
サチコの声だとすぐわかり、カフェは冷静さを取り戻す。
「あはは、化粧だよ。そんなに怖がりなさんな」
紫吹はカフェを立ち上がらせる。
カフェがゆっくりと振り返ればサチコの姿があった。驚いて倒れた衝撃か、ミノもハバキも崩れ落ちていた。剥かれたサチコは、何故か虎柄ビキニを纏っていた。
●
「ほら、あーん。ほら、サチコも」
「は……はい、あーん」
紫吹とサチコに促され、カフェが口を開ける。そして甘々なお菓子を入れられては、咀嚼する時間が続いていた。なお、サチコはまだ虎柄ビキニのままである。
着物姿と聞いていた恰好は、正統派鬼娘たる虎柄ビキニに変更されていたのだ。
「それにしても、気持ちはわからないでもないけどね」
「む?」
「可愛い子には旅をさせるモンだよ。その背中を押してあげンのが親の務め……ってモンじゃないのかい。この子はアンタが胸を晴れる自慢の娘だろう?」
「……紫吹さん」
サチコがおもわず顔を赤くするほど、まっすぐに紫吹はカフェに語りかけていた。
紫吹の微笑みにカフェは、力ない笑みを浮かべる。
「そうだな。あなたの言うとおりだ」
「そうそう、旅先で困ったことがあれば、あたしたちを呼んだらいいんだよ」
舞が皿にお菓子を載せに載せ、会話に混ざる。
「今回みたいに?」
サチコの問いに、舞は思いっきり頷く。そのうち、エルたちも合流し食べ比べが始まった。居心地の悪くなったカフェは、そっと場所を移動する。
移動先で手にとったコーヒーを口にして、思いっきり吹いた。甘ったるい液体だったのだ。慌てて奈月がコップを手に近づいてきた。
「それ僕が用意したチョコレートジュースだよ。お口直しに緑茶をどうぞ」
「チョコに緑茶は……」
「それなら……紅茶もありますよ……」
徐ろに時雨が近づき、紅茶をすすめる。今度は匂いを確かめてから、口に運んでいた。一息ついたところで、時雨はマシュマロを取り出した。
「……ルサスール……サチコさんが、作ったマシュマロです……」
「ほう」
とても嬉しげにカフェが受け取り、嚥下したところで時雨が言う。
「……そういえば……バレンタインに渡すお菓子にも、それぞれ意味がありまして……」
黙って関心を寄せるカフェに、時雨は精一杯の悪戯っぽい笑顔を浮かべた。
「マシュマロは……『大嫌い』、という意味だそうで……」
「なん、だと!?」
目を見開き、愕然とするカフェは思わず膝を折った。
何事かと近づこうとする面々に、奈月がなんでもないと手を振る。
「……えと、ちょっとした悪戯……なので、その」
「今回の仮病がやり過ぎだっただけですよ。本当に嫌いなら、こんなのを作ったりしません」
ヴォーイが持ってきたのは、チョコチップ入りのブレッドだ。
「これは確か……」
「奥様のレシピ通りにサチコが作りましたよ」
ヴォーイの言葉にカフェが破顔する。
美味しそうに頬張ると、時雨の紅茶を景気よく飲み干した。
「甘い思い出って奴です」
ビリーに犬用おやつを与えながら、ヴォーイは微笑む。
甘い思い出、と呟いたカフェはハッと思い出したようにヴァイスやヴォーイに尋ねる。
「ところで、私のプロポーズの言葉が流出していたようなのだが……」
「ちなみに、カフェさんの情報を売ったのは、タロさん&ジロさんですよー!」
困っていたヴァイスたちのところへ、風の声が届いた。
まるで会場全体に聞こえるような風の声に、タロとジロはすぐさま逃げようとしたが無理だった。
「はっはっは、そういえば君たちも旅立つのだったな。どれ、ちょっとお話をしておこうじゃないか」
表情の引きつる二人を連れて、カフェは食堂を一度後にする。
バタンと扉が閉められたのを確認し、風はチョコレートに舌鼓を打った。
「ふぅー。一仕事した後の甘味は、五臓六腑に染み渡りますね―」
サチコの元へ向かう風は、ほっと息をつく。
程なくして会場にタロとジロの叫びが届くのだが、それはまた、別のお話。
サチコの旅立ちには、何ら支障はないのであった。
王国北部ルサスール領に、一軒の山小屋が存在した。
山小屋の前には『ワルワル団』と書かれた看板がある。今日は甘い匂いが、山小屋から漂っていた。
「……素直に、一緒に甘味を食べようと……誘えばいいだけの……気も……」
材料を用意しながら、外待雨 時雨(ka0227)はぽつりと呟く。
それを受けてエルバッハ・リオン(ka2434)が、
「カフェ様が小細工をしなければ、サチコさんは素直に甘いものを渡したのでしょうか?」
と、呟きながら首を傾げていた。
「確か去年は、サチコさんがチョコレートを配るように誘導する依頼を受けましたね。今回は、最終的にはカフェ様に甘い物を渡すようですから、サチコさんも変わったということでしょうか」
「……私が考えるよりも、複雑なこと……なのでしょうか……」
それとも、これがサチコたちなりの愛情表現なのかと時雨は思うのだった。
「しっかしカフェさんもサチコ謹製のお菓子を食べようと必死だね」
天竜寺 舞(ka0377)はわらや樹の皮を紡ぎながら、苦笑する。
「ははは、お嬢ちゃんの方も必死みたいだ。面白いコトになりそうだねぇ」
食材を用意しつつ、紫吹(ka5868)が視線を巡らす。
窓の外では、サチコがナマハゲ姿でヴァイス(ka0364)と組手を行っていた。
ナマハゲ姿はいつもの服装と違って動きにくく、鬼の面は視界が狭まるため注意がいる。
この状態の組手だ。
殺気の込められた一撃をサチコは紙一重でかわすも、尻餅をついてしまう。
「あまり言いたくはないが、こんなご時世だからこそ率先して仕方なく悪事をはたらく人が大勢いる」
ヴァイスがサチコに語りかける。
「はい」
「これからの旅、万が一にも人と相対することもあるんだ。この程度の殺気ぐらいで怖気づくなよ?」
「大丈夫、ですわ。もう一度……お願いします」
起き上がったサチコに、ヴァイスは頷いて構え直す。
ヴォーイ・スマシェストヴィエ(ka1613)は、二人の組手の様子を眺めながら愛犬ビリーと会話していた。
「なあ、ビリー。今回は俺の食い意地も封印すべきか?」
「ばう?」
ヴォーイを見上げ、小首を傾げるようにビリーは鳴いた。
そうだよなぁ、といいながらヴァイスは声を上げる。
「本当はチョココロネとか、きな粉や砂糖たっぷりの揚げパンとか食いてぇっ……と」
遠くから近づいてくる人影に、ヴォーイは手を振る。
「サチコさま。タロたちが戻ってきたみたいですよ」
人影は、サチコの従者タロとジロ。そして、屋敷の従業員数名だった。
サチコは組手を一時止めて、タロたちに近づく。最上 風(ka0891)も待ってましたとばかりに山小屋から出てきた。
「協力を取り付けることができたみたいですねー」
「じゃあ、料理係の方はこっちで」
ヴォーイがやってきた従業員を山小屋内へ案内する。
タロとジロは、サチコに協力を得たことだけ説明すると風が橋の方へと誘導された。
サチコに声が聴こえない距離へ来ると、風は一つ咳払いをして切り出す。
「さて、タロさん&ジロさん。カフェさんの黒歴史や奥さんとのラヴラヴエピソードとか知りませんか?」
「え」
タロとジロの声がダブり、困惑顔で互いを見渡す。
「大丈夫です! 匿名からのタレコミとして処理するので、お二人の身の安全は保証しますよ!」
ウリ文句に合わせて、風はとっておきの笑顔を見せるのだった。
●
「じゃあ、先に僕は行ってくるよ」
鈴胆 奈月(ka2802)は、従業員の一人と仕掛け材料を手に屋敷へと向かう。
奈月を見送った面々は、組手を終えたサチコを交えてお菓子作りを続ける。
舞はザラビアというエジプトの揚げドーナツを作り、紫吹はカスドースなるカステラを更に甘くしたお菓子を作る。
「でも、甘いのこんなに食べたら太っちゃうね」
「確かにものは甘いけどさぁ……そうだ! サチコ、こっちこっち」
紫吹に呼び出され何事かを吹き込まれるサチコ。
その様子を眺めていたタロたちが、ナマハゲをサチコがよくする気になったと疑問を呈すし、エルが理由を説明する。
「リアルブルーの書物によりますと、『なまはげ』は悪を戒めると同時に、幸運をもたらすとも言われているそうです。今回のカフェ様の仮病に対するお仕置きと同時に、ルサスール領を想うサチコさんの気持ちを領民の方々にアピールできる方法……とサチコさんに伝えました」
「なるほど」
「ついでに中身についても話をつけたぜ?」
すっとヴァイスが会話に加わった。
「中身?」と首を傾げるタロとジロに、ヴァイスは不敵な笑みを浮かべた。
「サチコ様が『鬼娘』になることを了解してくれたのさ」
そういいながら、ヴァイスは舞と目配せをする。何故か互いに、グッと親指を立てていた。
「さて、サチコ様はこれを作ってください」
続けてヴォーイがサチコを呼んでお菓子を作る。
チョコチップを入れた簡素なブレッドだった。
「どこかで見たことがあるお菓子ですわね」
「甘い思い出って奴ですよ」
焼きあがる様子を見て呟くサチコに、ヴォーイはそれだけ告げた。
「……次はこちらを……手伝ってくれませんか……?」
引く手あまたのサチコは、続いて時雨の手伝いを始めた。彼女がサチコと作るのは、マシュマロだ。それ以外のお菓子はすでに完成させていた。
「……これはルサスールさんと……作りたいのです……」
理由は語らず、時雨は一生懸命にサチコへ作り方を伝授する。
お菓子が出来上がると、時雨はお茶の準備へと移るのだった。
「皆さん……。頑張ってきてくださいね……」
「もちろんですわ! さぁ、準備をしますわよ」
張り切って拳を握るサチコに、風が近づく。
「サチコさん、サチコさん。風が仕入れた、カフェさんの黒歴史をお伝えしますよ―」
ごにょごにょとサチコに伝えると、
「これを掛け声にしましょー。それにしても、今日のサチコさんは、何かドス黒いオーラが出てて、まさに鬼そのモノですねー」
「鬼娘にもならないとねぇ」
続けて舞が近づき、サチコの肩をつかむ。
サチコはとても明るい笑顔で振り向く。
「そうですわ。着物を着て……え?」
振り向いたサチコの表情は一瞬で凍りついていた。
●
屋敷で工作活動に勤しんでいた奈月は、やってきたヴァイスに片手を上げた。
「個人レベルでここまで大掛かりなドッキリも、そうそう無い体験だよな……」
「違いない。親父さんは自室?」
「メイドの話しによれば、普通に執務室にいるらしいよ」
「じゃあ、俺が来たことを伝えてもらうか」
仮病というには、脇が甘い。自室に移るまでヴァイスは待たされた。
十分ほど経ち、ようやくカフェの部屋にヴァイスは通される。
「ご病気とお伺いしまして、見舞いに参りました」
「すまないね。大したことはないよ」
「じゃあ、世間話でもして帰りますよ」
全く病気らしさすら感じないのは、仮病として如何なものか。肩をすくめ、ヴァイスは世界情勢や歪虚の動きについて意見交換を行う。
流石は領主だけあって、その辺りは詳しい。また、現場の声は貴重だと聞き入っていた。十分ほどたったころ、メイド迫真の悲鳴が部屋に届けられた。
「何事だ!?」
「おっと、親父さん。すぐ逃げる準備を……」
ヴァイスがカフェを庇うと同時に勢い良く入ってきたのは、鬼の面、ケラミノ、ハバキを纏った人物だった。その手には出刃包丁が握られている。
前に出ようとするカフェをヴァイスが無理から後ろへ追いやると、
「ここは任せてくれ」とばかりに剣を抜き放つ。
上段の構えから放たれる一撃を鬼は躱し、回避の勢いを利用してヴァイスを袈裟斬りにする。
「……く、俺が時間を稼ぐ。親父さんは直ぐに逃げろ!」
わずかに血を流しながら、ヴァイスはカフェを入り口の外へ放り出す。
躊躇いを見せるカフェに、
「はやくしろ!」と声を上げると扉を閉めた。カフェの足音が遠ざかると、断末魔の叫びを上げるのだった。
カフェは迫り来る謎部隊から必死に逃げていた。
「悪い子はいねぇが~! 泣ぐ子はいねぇが~!」
部隊の先頭を走る鬼、つまりサチコが叫びながら包丁を振り回す。声でカフェがわからないのは、ドスの効いた声が出せるよう舞が特訓した成果である。
逃げ込もうといくつか部屋のドアノブを握るが、どれも開かない。
鍵のない部屋さえ、だ。
そうした部屋は奈月が開かないよう工夫をしていた。日曜大工の腕を振るい、楽しんでいたのは秘密である。
「……なぜ誰もおらんのだ」
屋敷の人間と出会わないことに、カフェは混乱する。
時折、頭上を誰かが走る音がし、首筋に冷たい謎の物体があたってくる。舞が壁走りをしてこんにゃくを吊るしているとは、思うはずもない。
合わせて奈月が此処ぞとばかりに、ラップ音を鳴らしたり、煙をたく。用意していた眼が光る人形も効果を発揮し、カフェを誘導していく。
「甘えん坊な親父はいねがー!?」
ヴォーイが入り口に立ち、外へ逃げるという選択肢を失くす。窓からは、配置しておいたメイドたちが豆を投げ入れる。
さらにヴォーイは金棒を振り回し、カフェをエントランスホールから完全に追い返した。続けざまにビリーをけしかけ、自身もゆっくりとカフェの後を追う。
「みんなノリノリ過ぎて……ちょっと楽しくなってきたな」
奈月は待機部屋で呟いていた。
様子をうかがえば、カフェは屋敷を二周するところだ。
今度は食堂へ誘導する。
「そろそろ、出番だよ」
「それじゃあ、一芝居打つとするかねぇ」
同じ部屋にいた紫吹が、動き出す。
彼女こそ、食堂にカフェを入れるための最後の仕掛けだった。
「どんな太陽の光も君の横顔に比べれば霞む」
「どうか私のそばに居て、私を照らす太陽になってくれないか」
「私は月となり、あなたの光を受けてより一層輝きたいのだ!」
追手や窓に張り付く面々が、口々にそう告げてくる。
「どうして奴らはそれを知っているのだ!?」
カフェは混乱の極みにあった。サチコたちが口走っているのは、カフェのプロポーズの言葉だった。屋敷の人間でも一部しか知らない情報だ。
「えぇい、詮索は後だ……うぉう!?」
急に目の前に現れた鬼に、カフェは方向転換する。
正体は隠密を解いた舞だった。
「さ、仕上げだよ」
笑みを浮かべ、目の前を通るサチコに告げる。
目を細めれば、暗がりの先で紫吹がぼうっと立っていた。
混乱の極みにあるカフェは、女性がなぜここにいるのかという疑問すら起こせなかった。半狂乱に叫ぶようにして、声をかける。
「お嬢さん! そこをどいてくれぇ!」
「そいつぁ……あたしのことかい?」
ゆっくりと振り返った紫吹の半顔は爛れていた。目がくぼみ、皮膚が溶け落ちたようにも見える。グール級の姿に、カフェは腰を抜かした……が。
カフェ以上の叫び声が、後ろから聞こえてきた。
サチコの声だとすぐわかり、カフェは冷静さを取り戻す。
「あはは、化粧だよ。そんなに怖がりなさんな」
紫吹はカフェを立ち上がらせる。
カフェがゆっくりと振り返ればサチコの姿があった。驚いて倒れた衝撃か、ミノもハバキも崩れ落ちていた。剥かれたサチコは、何故か虎柄ビキニを纏っていた。
●
「ほら、あーん。ほら、サチコも」
「は……はい、あーん」
紫吹とサチコに促され、カフェが口を開ける。そして甘々なお菓子を入れられては、咀嚼する時間が続いていた。なお、サチコはまだ虎柄ビキニのままである。
着物姿と聞いていた恰好は、正統派鬼娘たる虎柄ビキニに変更されていたのだ。
「それにしても、気持ちはわからないでもないけどね」
「む?」
「可愛い子には旅をさせるモンだよ。その背中を押してあげンのが親の務め……ってモンじゃないのかい。この子はアンタが胸を晴れる自慢の娘だろう?」
「……紫吹さん」
サチコがおもわず顔を赤くするほど、まっすぐに紫吹はカフェに語りかけていた。
紫吹の微笑みにカフェは、力ない笑みを浮かべる。
「そうだな。あなたの言うとおりだ」
「そうそう、旅先で困ったことがあれば、あたしたちを呼んだらいいんだよ」
舞が皿にお菓子を載せに載せ、会話に混ざる。
「今回みたいに?」
サチコの問いに、舞は思いっきり頷く。そのうち、エルたちも合流し食べ比べが始まった。居心地の悪くなったカフェは、そっと場所を移動する。
移動先で手にとったコーヒーを口にして、思いっきり吹いた。甘ったるい液体だったのだ。慌てて奈月がコップを手に近づいてきた。
「それ僕が用意したチョコレートジュースだよ。お口直しに緑茶をどうぞ」
「チョコに緑茶は……」
「それなら……紅茶もありますよ……」
徐ろに時雨が近づき、紅茶をすすめる。今度は匂いを確かめてから、口に運んでいた。一息ついたところで、時雨はマシュマロを取り出した。
「……ルサスール……サチコさんが、作ったマシュマロです……」
「ほう」
とても嬉しげにカフェが受け取り、嚥下したところで時雨が言う。
「……そういえば……バレンタインに渡すお菓子にも、それぞれ意味がありまして……」
黙って関心を寄せるカフェに、時雨は精一杯の悪戯っぽい笑顔を浮かべた。
「マシュマロは……『大嫌い』、という意味だそうで……」
「なん、だと!?」
目を見開き、愕然とするカフェは思わず膝を折った。
何事かと近づこうとする面々に、奈月がなんでもないと手を振る。
「……えと、ちょっとした悪戯……なので、その」
「今回の仮病がやり過ぎだっただけですよ。本当に嫌いなら、こんなのを作ったりしません」
ヴォーイが持ってきたのは、チョコチップ入りのブレッドだ。
「これは確か……」
「奥様のレシピ通りにサチコが作りましたよ」
ヴォーイの言葉にカフェが破顔する。
美味しそうに頬張ると、時雨の紅茶を景気よく飲み干した。
「甘い思い出って奴です」
ビリーに犬用おやつを与えながら、ヴォーイは微笑む。
甘い思い出、と呟いたカフェはハッと思い出したようにヴァイスやヴォーイに尋ねる。
「ところで、私のプロポーズの言葉が流出していたようなのだが……」
「ちなみに、カフェさんの情報を売ったのは、タロさん&ジロさんですよー!」
困っていたヴァイスたちのところへ、風の声が届いた。
まるで会場全体に聞こえるような風の声に、タロとジロはすぐさま逃げようとしたが無理だった。
「はっはっは、そういえば君たちも旅立つのだったな。どれ、ちょっとお話をしておこうじゃないか」
表情の引きつる二人を連れて、カフェは食堂を一度後にする。
バタンと扉が閉められたのを確認し、風はチョコレートに舌鼓を打った。
「ふぅー。一仕事した後の甘味は、五臓六腑に染み渡りますね―」
サチコの元へ向かう風は、ほっと息をつく。
程なくして会場にタロとジロの叫びが届くのだが、それはまた、別のお話。
サチコの旅立ちには、何ら支障はないのであった。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/02/10 18:11:29 |
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相談卓 最上 風(ka0891) 人間(リアルブルー)|10才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2016/02/12 19:25:42 |