ゲスト
(ka0000)
【節V】バロテッリ商会還元祭・チョコ放題
マスター:cr

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/02/13 15:00
- 完成日
- 2016/02/20 21:34
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
『突然だけど、今年のヴァレンタインデーを再開する!』
『『『な、なんだってー!!!』』』
●
カカオ減産、そして高騰に伴うチョコレートの供給危機を前に、ハンターズソサエティのショップ店員シルキー・アークライトが敗北し、ソサエティショップ史上初のチョコレート販売停止がなされた事は記憶に新しい。
アカシラが偶さかカカオ豆の原生地を知っていた事から、突如として執り行われることとなった【長江】への進撃は、破竹の勢いを見せた。実に百名を超えるハンター達による怒涛の侵攻に、現地の歪虚達は手も足も出なかった。結果として、ハンター達は東方の支配地域に食い込み、西方へのカカオの供給を回復させしめたのである。
東方での争乱は、西方へも確かな影響を与えていた。西方に溜めこまれていたたカカオ豆は値下がりを免れず、爆発的な勢いで在庫が掃きだされることとなったのだ。カカオ豆は徐々に適正価格に近付いて行き――ついに、チョコレートの流通が、回復したのである。
バレンタインデーというハートウォーミングでキャッチ―なイベントを前にして届いた朗報に、市井には喜びの声が溢れたという。
尤も、裏方は血の涙を流しているかもしれないのだが。
●
「モアさん大丈夫ですか?」
新米受付嬢ルミ・ヘヴンズドアは久しぶりにハンターオフィスに姿を表した先輩受付嬢、モア・プリマクラッセに対して心配そうにそう尋ねた。モアはバロテッリ商会というところで番頭を務める商人でもある、というかそちらが本業である。そしてルミもカカオの減産と高騰、そして東方での騒乱によりカカオ豆が本来の価格まで値下がりした事を知っている。ならば彼女にもモアの状況は想像できる。おそらく希少なカカオ豆を求めて東奔西走し、やっと手に入れたと思ったら暴落を起こして大損したといったところだろう。それ故モアは最近姿を見せられなかったのに違いない。嗚呼、かわいそうなモアさん。私が慰めてあげよう、とそこまで考えていたかはともかく、ルミはモアのことを心配していた。
しかしそれはあっという間に杞憂があったことが判明する。
「まあ確かに最近忙しかったですけど、利益も確定させられましたし、何の問題もありませんよ」
「カカオ豆の暴落……」
「それは予想できましたからね。ルミさん、先物取引というのはご存じですか?」
そこから小一時間モアによる経済学講座が行われルミは頭痛に襲われるのだが、ともかくここ最近の相場変動でモアが抜け目なく随分な利益を出したことは彼女にもよく分かったのであった。
●
「それでモアさん、このバレンタインデーには何をするつもりですか?」
「そうですね。せっかく利益も出ましたし、何かしら還元しようかと思っています」
「それじゃこれなんかどうです? チョコレート作り放題のイベントとか!」
これはルミの完全な思いつきだったのだが、どうやらモアにはピンと来たらしい。
「いいですね、それをやりましょう。早速広場の使用許可を貰ってきましょう」
そしてあっという間にチョコレート作り放題&食べ放題のイベントが広場で行われることに成ったのである。
『突然だけど、今年のヴァレンタインデーを再開する!』
『『『な、なんだってー!!!』』』
●
カカオ減産、そして高騰に伴うチョコレートの供給危機を前に、ハンターズソサエティのショップ店員シルキー・アークライトが敗北し、ソサエティショップ史上初のチョコレート販売停止がなされた事は記憶に新しい。
アカシラが偶さかカカオ豆の原生地を知っていた事から、突如として執り行われることとなった【長江】への進撃は、破竹の勢いを見せた。実に百名を超えるハンター達による怒涛の侵攻に、現地の歪虚達は手も足も出なかった。結果として、ハンター達は東方の支配地域に食い込み、西方へのカカオの供給を回復させしめたのである。
東方での争乱は、西方へも確かな影響を与えていた。西方に溜めこまれていたたカカオ豆は値下がりを免れず、爆発的な勢いで在庫が掃きだされることとなったのだ。カカオ豆は徐々に適正価格に近付いて行き――ついに、チョコレートの流通が、回復したのである。
バレンタインデーというハートウォーミングでキャッチ―なイベントを前にして届いた朗報に、市井には喜びの声が溢れたという。
尤も、裏方は血の涙を流しているかもしれないのだが。
●
「モアさん大丈夫ですか?」
新米受付嬢ルミ・ヘヴンズドアは久しぶりにハンターオフィスに姿を表した先輩受付嬢、モア・プリマクラッセに対して心配そうにそう尋ねた。モアはバロテッリ商会というところで番頭を務める商人でもある、というかそちらが本業である。そしてルミもカカオの減産と高騰、そして東方での騒乱によりカカオ豆が本来の価格まで値下がりした事を知っている。ならば彼女にもモアの状況は想像できる。おそらく希少なカカオ豆を求めて東奔西走し、やっと手に入れたと思ったら暴落を起こして大損したといったところだろう。それ故モアは最近姿を見せられなかったのに違いない。嗚呼、かわいそうなモアさん。私が慰めてあげよう、とそこまで考えていたかはともかく、ルミはモアのことを心配していた。
しかしそれはあっという間に杞憂があったことが判明する。
「まあ確かに最近忙しかったですけど、利益も確定させられましたし、何の問題もありませんよ」
「カカオ豆の暴落……」
「それは予想できましたからね。ルミさん、先物取引というのはご存じですか?」
そこから小一時間モアによる経済学講座が行われルミは頭痛に襲われるのだが、ともかくここ最近の相場変動でモアが抜け目なく随分な利益を出したことは彼女にもよく分かったのであった。
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「それでモアさん、このバレンタインデーには何をするつもりですか?」
「そうですね。せっかく利益も出ましたし、何かしら還元しようかと思っています」
「それじゃこれなんかどうです? チョコレート作り放題のイベントとか!」
これはルミの完全な思いつきだったのだが、どうやらモアにはピンと来たらしい。
「いいですね、それをやりましょう。早速広場の使用許可を貰ってきましょう」
そしてあっという間にチョコレート作り放題&食べ放題のイベントが広場で行われることに成ったのである。
リプレイ本文
●
その時、広場に集まった者たちが見たのはチョコレートの山を通り越してチョコレートの山脈であった。左を見ても右を見てもチョコレート、チョコレート、チョコレート。よくこれだけ集めたものだと思う。
しかもそこにあるのはチョコレートだけではない。ピーナッツなど誰もが思いつく副食材から始まり、あっと驚くものまで全部揃っている。チョコレートを作るための調理器具もどこにでもあるものから中々見つからないものまで何でもある。
「おおぉっ、やっぱり有った~♪」
となると、どんなレアなものでも簡単に見つかる。超級まりお(ka0824)が求めていたのはキノコ型のチョコレート型であった。型を手にご満悦なまりおは早速ミルクチョコレートとホワイトチョコレートを大量に湯煎して溶かす。
「ではではチョコキノコの量産開始~!!」
あとは傘の部分にミルクチョコレート、柄の部分にホワイトチョコレートを流し込めばチョコキノコの完成だ。ささっと型に流し込むと、固まるまで冷やす。その間に次の型を用意してチョコレートを流しこむ。また冷やして次の型へ……と一人黙々と、それでいて楽しそうに作業をするのであった。
「チョコレート作りか。面白そうだね。菓子を作るのは好きなんで参加させて貰うよ」
さてこれだけのチョコレートの山脈を見せられたらお菓子作りが好きな人間は黙っていられない。お菓子作りが好きなロラン・ラコート(ka0363)は早速何か作ろうと材料を見繕っていた。
「作るのはそうだな……。チョコレートを使った菓子でも良いなら、ガトーショコラを作るとしようかね」
製菓用の薄力粉などは当然のように置いてある。これがあればチョコレートケーキ、フランス語でガトーショコラなど作るのは容易い。早速手を伸ばした所、もう一つの手が伸びてきてぶつかった。
「食べられない物を作るなんて料理に対する冒涜ですぅ! お腹いっぱい食べて作って今日という日を堪能ですぅ!」
そこに居たのは星野 ハナ(ka5852)。とにかく彼女は燃えていた。このイベントではチョコレートコンクールが開かれる。彼女はこれに参加して本気で優勝を狙っていたのだ。この日のためにレシピを研究し、暗記してきた。そんな彼女がまず作ろうと考えていたのは、やはりガトーショコラであった。
というわけで二人によるガトーショコラ作りの共演が始まるのであった。
まずは卵を割り、手際よく卵黄と卵白に分けていく二人。卵黄と砂糖を混ぜて白っぽくなるまで泡立てる。お菓子作りは意外と体力勝負である。男性のロランには容易いものだが女性のハナには中々大変だ。しかし、予め積んでいた練習のおかげで難なく乗り切る。
そこに湯煎したチョコレートとバターを混ぜあわせ、さらに卵白を泡立てて作ったメレンゲ、そして薄力粉を混ぜあわせていく。ダマにならないように、それでいて混ぜすぎないように。繊細な感覚が要求されるがこれも二人は上手にこなしていく。
そしてここでロランは一工夫。オレンジピールを加えて味に変化をつける。甘すぎず、苦すぎず、しつこすぎず。程よい味わいの記事に柑橘系のさわやかな香りと心地良いほろ苦さが加わり誰にでもおすすめできる見事な生地が完成していた。
あとはオーブンに入れて焼き上がりを待てば完成だ。40分後出来上がった二人のガトーショコラが現れた。共に表面はふくらみ、ひびが割れている。このひび割れこそが上手に焼き上がったサインなのだ。
最後にロランは上から粉糖をかけ化粧する。
「コンクールって言うのも面白そうだね。色んなチョコレートも見てみたいし、俺も参加するとするよ」
見事なガトーショコラを作り会えたロランはこれをコンクールに回すことにする。
「ま、結果がどうであれ美味しく食べて貰えればそれが一番だね」
といってもハナほど結果にはこだわっては居なかったが。
そしてそんなハナの方は、粉糖を掛けず水平に三枚に切り分けていた。どうやら彼女の方はまだまだ作るものがあるようだ。
●
「女子力を鍛えたいりっちゃんと女子っぽい行事の一環として皆でチョコ作りにきましたっ!」
と受付で元気よく挨拶していたのはミコト=S=レグルス(ka3953)だ。
「好きな人に渡す為の手作りチョコは、大分女子力高いと思うのでっ! うちは特に好きな人とかはいないんですが皆に友チョコをあげたいので頑張りますっ!」
と元気よく話すミコの隣りにいる、りっちゃんと呼ばれたリツカ=R=ウラノス(ka3955)は狼狽していた。チョコ食べ放題に釣られやって来た彼女、チョコ作りをするとは思いもよらなかったのだ。
「チ、チョコ作るとか余裕だし!? 夢の憧れの人にはさすがに負けるけども……!」
しかし、そう言われて黙ってられるほどリツはおとなしいタイプではなかったのだ。というわけでチョコレート作りを行うことになった二人。そんな二人に
「ミコとリツがチョコ作るって言うから来たけどヤバイ予感しかしねえ……」
と二人揃って青い顔をしているのはトルステン=L=ユピテル(ka3946)とルドルフ・デネボラ(ka3749)の男性陣二人。ちなみにこの四人は大の仲良しである。
「ってか、ミコ、チョコ作りとか大丈夫?」
「お料理はそんな大得意って訳じゃないけど溶かしたチョコを固めるぐらいなら大丈夫の筈っ!」
ルドの心配もどこ吹く風。いつものように猪突猛進考え無しなミコの返事に頭を抱える男性陣。そしてその不安はもうものの見事に的中することになったのであった。
「えーっと、まずはチョコレートを湯煎して……」
「湯煎? 何それ? とりあえずチョコ溶かせばいいんだよね!」
最初は恐る恐るチョコレート作りを始めていた二人だが、結局勢いのままにやり始める。仲良しの二人は中身も見事に同じようなタイプであった。家事炊飯は一般的なレベルでこなせるミコだが、お菓子作りに必要な知識は全く別なのである。そして料理がそもそも苦手なリツはもはやどうしようもない。鍋を火にかけてそのままチョコレートを溶かそうとする二人。
「うっ、あいつら湯煎知らねーのかよ。適当にも程があんだろ」
「ちょっ、それはどうなの?」
「「うるさい!」」
ルドのツッコミは一瞬のうちに声を合わせた二人にあしらわれ、冷や汗を流すしか無い男性陣。
とりあえずやることがなくなってしまったルドは自らもチョコを作り始める。手にしたのはビターチョコレートとミルクチョコレート。二つをそれぞれ湯煎して溶かし、これらを重なるように流してまだらになるように混ぜる。すると二つのチョコレートはマーブル模様を作って適度に混ざり合う。彼は女子二人の事を心配しつつも、自分のチョコレートを作ることに集中していた。
「温度計使えよ……焦げる! 焦げるし!」
一方のステンはとりあえずクリムゾンウェストの世界の習慣に従って見守ろうとしていたが適当極まりない女子二人のチョコ作りの様子にだんだんとイライラし始め、そして
「……貸せ!」
とうとう限界に達して手を出した。まずはチョコレートを溶かすべく、鍋を湯の中に入れてその熱で溶かしていく。温度計を挿してチョコレートが50度になったことを確認する。これ以上高くなるとカカオバターが分離をし始める。
50度になったら、ここで一度鍋を降ろし冷水にあてるステン。温度計の数字はゆっくりと下がっていき、やがて28度を示す。
ここで再び鍋を湯にかけ、32度まで温度を上げる。パティシエナイフでチョコレートをひとすくいすると、それは自然と固まり、艶やかな光沢が光を反射していた。
「「おお……」」
鮮やかなその手並みに感心するしか無い女子二人。それを背にステンは溶かしたチョコレートに生クリームを加え、冷やし固めてココアパウダーをまぶしてトリュフを作り上げた。実に見事な出来栄えだ。
しかしだからと言って負けていられない。女子二人もステンのやり方を真似してチョコレートを丸め固める。
「上手に作れるといいなー!」
そこで少しアレンジを加えるミコ。友達たちをイメージしてチョコレートを変化させる。まずはミルクを加え甘くて優しい味わいに。これはルドをイメージしたものだ。
続いて、ロランのやり方を真似してオレンジピールを加えたものを作る。これはリツのイメージ。
次のものには各種ベリーを加えて酸味をプラス。これはステンのイメージだ。
最後に生クリームの量を減らし、ビターチョコレートを加えて大人な味に仕上げる。これはここには居ない先輩のイメージのものだ。
程なくして冷やし固まったそれらを、各々に配るミコ。
「……ま、最初はこんなもんだろ」
それを口に入れ、素直な感想を述べるステン。
ルドも恐る恐る口に入れる。傷つけないような感想の言葉を考えていたが、存外に美味しい。勿論店で売られた物とは比べるまでもないが、だからといって食べられないような代物でも無い。こう上手く出来たのはやはりステンのサポートがギリギリで効いたからだろうか。
そして自分のチョコレートを作り上げたリツもミコのチョコレートを口に入れる。すると口の中でほんのりのした苦味が広がり、爽やかな柑橘系の香りが鼻に抜ける。
「ミ、ミコちゃんには負けたくないけど負けそう……!」
具体的な表現は避けるが、察する様な出来栄えの自分のチョコレートを見て落ち込むリツ。そんな彼女のチョコレートをルドは取り、口に運ぶ。
「えーっと、リツらしい個性的な味だね」
「ありがとう……」
リツがどんよりとした所で
「最後に逆チョコということで」
とルドは自分の作ったチョコレートを二人に配った。もちろんステンもだ。
「しかし何故こうも私たちは男子のほうが女子力高いのか解せぬ!」
パクパクと二人のチョコレートを食べるリツ。そもそも彼女の目的はチョコレート食べ放題だったのだ。
「トリィとかもう店で売ってるんじゃないのこれっていうね!」
「丁寧に作れば何でもうめーんだっつの」
そこに飛ぶステンの冷静なツッコミ。しかしそれにもめげず
「まぁでも美味しいからいいか!」
とチョコレートを食べ続けるリツであった。
●
一方ハナの調理はまだまだ続いていた。溶かしたチョコレートに生クリームとゼラチンを加え、チョコレートムースを作り上げる。それをスライスしたガトーショコラの間に入れ冷やし固める。
冷やし固めている間に二品目の調理に取りかかるハナ。みじん切りにした玉ねぎとニンニクに潰したトマトを加え、塩コショウと唐辛子他スパイスで味をまとめる。その間にもう一枚のフライパンでは鶏胸肉がこんがりと焼かれ、いい香りを漂わせていた。
「とても美味しそうですけど……チョコレート関係ありませんね」
「まあ見ているですぅ」
興味を持って近づいてきたモアをそうあしらうと、各種野菜で作られたソースにブラックチョコレートを加える。薄い茶色だったソースは一気に焦げ茶色のものへと変わる。そこに焼き上がった鶏肉を加え、煮込んでいく。これがリアルブルーのメキシコ料理、ポジョ・デ・モレだ。
どんな味になるのか興味津々のモアをよそ目に、ハナはまだ調理を続けていた。
●
「私の料理の腕は、下手ではないにしてもプロには遠く及ばないでしょうから、ここは下手に手を加えようとはせずに、普通のチョコレートを作ることにしましょうか」
とチョコレート作りに取り掛かったのはエルバッハ・リオン(ka2434)だ。その通り、エルは丁寧にチョコレートを溶かし、丁寧にテンパリングし、丁寧に冷やし固める。そして出来上がるごくごく普通のハート型チョコレート。丁寧に作業を行っただけあって、つやつやと美しく輝いている。
「今回のお祭りが羽目を外しても良かったならば、食べた人が絶叫するようなチョコレートを作ったかもしれませんね」
作り上げたあとで、普段の感覚が出てきたのかそうつぶやいたエル。その表情は、まさしく小悪魔のそれであった。
●
「キノコ♪、キノコ♪、チョコキノコ♪……」
まりおのチョコキノコ生産はまだまだ続いていた。彼女の周りには右を見ても左を見てもチョコキノコ、チョコキノコ、チョコキノコ。皆が自分のチョコレート作りに集中している中、彼女のことを止める者は居ないわけで、ひたすらチョコキノコづくりに精を出していた。
●
「大切な、大切なあの方に、心を込め……」
岩波レイナ(ka3178)には一つの決意があった。彼女が憧れ、あの方と呼び、周りからは歌姫と称される人物、その歌姫へ向け、心のこもったチョコレートを作り渡す。そんな強い決意を胸に彼女はチョコレートを作るための材料を見繕っていた。
「あれ……? 其処にいらっしゃるのはレイナさん? 奇遇ですね」
そんな彼女に旧知の仲のユキヤ・S・ディールス(ka0382)が後ろから声をかける。
「って! 何でアンタがここに居るのよ!! 大体男がバレンタインに用は無いでしょうーが!」
その声に驚いてビクンと反応したレイナは、自分の恥ずかしさを隠すかのようにユキヤに怒りをぶつけた。しかし、ここに来る理由は一つしか無い。すなわち
「僕もチョコレートを作りに来たんです」
「チョコ作るって……アンタ何考えてるの!? 男が女にチョコ贈るイベントじゃないでしょーが!」
そんなユキヤにレイナはすかさずツッコミ。そしてここまで言ってはたと気づいた。すなわち、チョコレートを作るということは
「って、事は誰かあげる宛ては有るって事よね?」
「確かに貰う事はあっても、此方から贈るのは流石に初めてですけれど、日頃の感謝を伝えるには、良い機会だな。と」
そしてユキヤは言葉を続ける。
「レイナさんは誰に…? と聞くのも野暮な気もしますね」
その茶目っ気を出した微笑みと同時に出された質問にも無っていない言葉にレイナはすぐに嫌な予感が閃いた。そしてその閃きは残念ながら当たっていたのである。
「まさかアンタ……」
「僕が差し上げるのは勿論、レイナさんと同じく素敵な歌姫にですよ。レイナさんは察しが良いですね。今回はライバルと言ったトコロですね」
「あたしの大切なあの方にあげるなんて……何? アンタ、あたしにケンカ売ってる訳ー!? あたしがチョコあげるなんて、あの方に決まってるでしょ!」
くすくすと笑いながらそうあしらうユキヤに、顔を真っ赤にして怒るレイナ。しかしここはチョコレート作り放題で食べ放題の場であり、戦いの場ではない。間違っても実力行使なんて訳にはいかない。
顔を真っ赤にしたままチョコレートを作るしか無いレイナ。そしてそんな彼女の隣で、同じようにチョコレート作りに取り掛かるユキヤ。
レイナはユキヤにだけは負けたくないとチョコレート作りに励む。そしてライバル心を向けられているユキヤはどこ吹く風と受け流す。そんな間に二人のチョコレートが完成する。綺麗な球体に作り上げられたチョコレートトリュフが二組分だ。
「さてと、持ち帰りますか」
二人は完成品をラッピングする。二人が思う歌姫へと渡すために。しかし、ユキヤは残った半分をまた別の袋にラッピングしていた。
「はい、どうぞ」
「ちょっとアンタ……これどういう意味よー!?」
「良かったら食べて下さいね」
最後まで掌の上で転がされプンスカしっぱなしだったレイナと、そんな彼女に妖艶な微笑みを残して去っていくユキヤ。確かなのは、二人の手には想い人のために作ったチョコレートがあったことだった。
●
ハナの調理は最後の段階に入っていた。ムースを間に入れたガトーショコラは綺麗に固まっていた。ここで最後の仕上げに入る。溶かしたチョコレートをかけ、パティシエナイフで丁寧に広げていく。やがてかけたチョコレートは固まり、芸術品のような光沢を放ち始める。あとは食べてもらう直前まで冷やし固めれば完成だ。
そしてハナは最後の品に取り掛かる。ミルクを鍋で温め、そこにチョコレートを溶かしていく。白くサラサラとしていた液体は、茶色のトロリとした物へと変わっていく。
その間にハナはイチゴやキウイ、パイナップルやバナナといった各種フルーツ、そしてパンとマシュマロをハート型にカットし、並べていく。
「これは何ですか?」
「チョコレートフォンデュですぅ」
興味津々のモアの質問にハナが答えた時、モアには何かひらめくものがあったようだ。
「すると……これを使えるかもしれませんね」
それはモアが帝国を訪れた時に入手したものだった。帝国自慢の機導術が仕込まれた魔導機械はチョコレート料理のために使うものであると聞いてきたが、覚醒者でないモアには使い道がさっぱりわからない。ただ、その時聞いた話だと、このように溶かしたチョコレートを使うものだということだった。
半信半疑のままハナは溶かしたチョコレートをセットし、機械を動作させる。すると機械の先端からチョコレートが湧き出してきた。湧きだしたそれは下に貯まり、再び機械を通って湧き出す。泉のようにチョコレートを出し続けるこれはファウンテンマシーンと呼ばれるものであった。
二人が驚き、喜んでいる間にケーキの方も完成した。そして、いよいよコンクールの時がやってくるのだった。
●
しばらく後コンクールの審査が終わり、結果が発表される。
3位はルドのマーブルチョコレート。マーブリングしたことによる味の変化が高く評価されたようだ。
2位はロランのガトーショコラ。オレンジピールを加えたことにより、大人にも楽しめる味わいがポイントになった。
そして並み居る強豪たちを押しのけて、見事優勝に輝いたのはハナだった。本格的に作られたチョコレートケーキは王道の持つ万人に愛される味わいを持ち、リアルブルーの文化を見事に持ち込んで作られたポジョ・デ・モレはインパクトを与えながらも高いレベルでまとまった味わいが食したものを唸らせる。そして何よりチョコレートフォンデュ。カットしたフルーツなどにチョコレートを纏わせ口に運ぶ、その体験そのもので楽しめ、見た目で楽しめ、味で楽しめるチョコレートの三重奏。彼女が優勝するのは、ある意味必然だった。
「やっぱり優勝できませんでしたか」
エルはある意味諦めながらも、心の片隅で結果を残念がっていた。そして来年以降にこのような機会があれば、どうしようかと思案を巡らせていた。
コンクールが終われば皆が作ったチョコレートは食べ放題の時間となる。これをリツは待っていた。ずらりと並んだチョコレートにチョコレート菓子、さらには料理。それらを心ゆくまで堪能しつつも、自分の中ではルドとステンのチョコレートが甲乙つけがたいと思った所で、ふと視線は自分の腹部に向いた。
「……ちょっと今後走る距離伸ばそう」
その時、彼女の中では過ぎたことに対する後悔の念がふつふつと湧いてきたようだ。
●
無事コンクールも終了し、各々自ら作ったチョコレートを手に三々五々去っていく。つい先程まで賑やかだった広場も、祭りの後は静かなものだ。
「あの、すいません。もうチョコレート還元祭は終わったのですが」
そんな中、周りで片付けが行われている最中にモアはまだ残っている人物に声をかけた。いや、そこに誰か居るのだろうか。見えるものはうず高く積み上げられたチョコレートの山だった。
「えー、ここからがやっと本番なのにー」
しかしそんな山の中からプンプンと怒りながらまりおが出てきた。しかし残念ながら時間が来てしまった。哀れ、彼女は捕まった宇宙人の様に連れて行かれ強制終了の憂き目に会うのであった。こうして彼女の野望であったチョコキノコで天を目指す計画は頓挫したのであった。
その時、広場に集まった者たちが見たのはチョコレートの山を通り越してチョコレートの山脈であった。左を見ても右を見てもチョコレート、チョコレート、チョコレート。よくこれだけ集めたものだと思う。
しかもそこにあるのはチョコレートだけではない。ピーナッツなど誰もが思いつく副食材から始まり、あっと驚くものまで全部揃っている。チョコレートを作るための調理器具もどこにでもあるものから中々見つからないものまで何でもある。
「おおぉっ、やっぱり有った~♪」
となると、どんなレアなものでも簡単に見つかる。超級まりお(ka0824)が求めていたのはキノコ型のチョコレート型であった。型を手にご満悦なまりおは早速ミルクチョコレートとホワイトチョコレートを大量に湯煎して溶かす。
「ではではチョコキノコの量産開始~!!」
あとは傘の部分にミルクチョコレート、柄の部分にホワイトチョコレートを流し込めばチョコキノコの完成だ。ささっと型に流し込むと、固まるまで冷やす。その間に次の型を用意してチョコレートを流しこむ。また冷やして次の型へ……と一人黙々と、それでいて楽しそうに作業をするのであった。
「チョコレート作りか。面白そうだね。菓子を作るのは好きなんで参加させて貰うよ」
さてこれだけのチョコレートの山脈を見せられたらお菓子作りが好きな人間は黙っていられない。お菓子作りが好きなロラン・ラコート(ka0363)は早速何か作ろうと材料を見繕っていた。
「作るのはそうだな……。チョコレートを使った菓子でも良いなら、ガトーショコラを作るとしようかね」
製菓用の薄力粉などは当然のように置いてある。これがあればチョコレートケーキ、フランス語でガトーショコラなど作るのは容易い。早速手を伸ばした所、もう一つの手が伸びてきてぶつかった。
「食べられない物を作るなんて料理に対する冒涜ですぅ! お腹いっぱい食べて作って今日という日を堪能ですぅ!」
そこに居たのは星野 ハナ(ka5852)。とにかく彼女は燃えていた。このイベントではチョコレートコンクールが開かれる。彼女はこれに参加して本気で優勝を狙っていたのだ。この日のためにレシピを研究し、暗記してきた。そんな彼女がまず作ろうと考えていたのは、やはりガトーショコラであった。
というわけで二人によるガトーショコラ作りの共演が始まるのであった。
まずは卵を割り、手際よく卵黄と卵白に分けていく二人。卵黄と砂糖を混ぜて白っぽくなるまで泡立てる。お菓子作りは意外と体力勝負である。男性のロランには容易いものだが女性のハナには中々大変だ。しかし、予め積んでいた練習のおかげで難なく乗り切る。
そこに湯煎したチョコレートとバターを混ぜあわせ、さらに卵白を泡立てて作ったメレンゲ、そして薄力粉を混ぜあわせていく。ダマにならないように、それでいて混ぜすぎないように。繊細な感覚が要求されるがこれも二人は上手にこなしていく。
そしてここでロランは一工夫。オレンジピールを加えて味に変化をつける。甘すぎず、苦すぎず、しつこすぎず。程よい味わいの記事に柑橘系のさわやかな香りと心地良いほろ苦さが加わり誰にでもおすすめできる見事な生地が完成していた。
あとはオーブンに入れて焼き上がりを待てば完成だ。40分後出来上がった二人のガトーショコラが現れた。共に表面はふくらみ、ひびが割れている。このひび割れこそが上手に焼き上がったサインなのだ。
最後にロランは上から粉糖をかけ化粧する。
「コンクールって言うのも面白そうだね。色んなチョコレートも見てみたいし、俺も参加するとするよ」
見事なガトーショコラを作り会えたロランはこれをコンクールに回すことにする。
「ま、結果がどうであれ美味しく食べて貰えればそれが一番だね」
といってもハナほど結果にはこだわっては居なかったが。
そしてそんなハナの方は、粉糖を掛けず水平に三枚に切り分けていた。どうやら彼女の方はまだまだ作るものがあるようだ。
●
「女子力を鍛えたいりっちゃんと女子っぽい行事の一環として皆でチョコ作りにきましたっ!」
と受付で元気よく挨拶していたのはミコト=S=レグルス(ka3953)だ。
「好きな人に渡す為の手作りチョコは、大分女子力高いと思うのでっ! うちは特に好きな人とかはいないんですが皆に友チョコをあげたいので頑張りますっ!」
と元気よく話すミコの隣りにいる、りっちゃんと呼ばれたリツカ=R=ウラノス(ka3955)は狼狽していた。チョコ食べ放題に釣られやって来た彼女、チョコ作りをするとは思いもよらなかったのだ。
「チ、チョコ作るとか余裕だし!? 夢の憧れの人にはさすがに負けるけども……!」
しかし、そう言われて黙ってられるほどリツはおとなしいタイプではなかったのだ。というわけでチョコレート作りを行うことになった二人。そんな二人に
「ミコとリツがチョコ作るって言うから来たけどヤバイ予感しかしねえ……」
と二人揃って青い顔をしているのはトルステン=L=ユピテル(ka3946)とルドルフ・デネボラ(ka3749)の男性陣二人。ちなみにこの四人は大の仲良しである。
「ってか、ミコ、チョコ作りとか大丈夫?」
「お料理はそんな大得意って訳じゃないけど溶かしたチョコを固めるぐらいなら大丈夫の筈っ!」
ルドの心配もどこ吹く風。いつものように猪突猛進考え無しなミコの返事に頭を抱える男性陣。そしてその不安はもうものの見事に的中することになったのであった。
「えーっと、まずはチョコレートを湯煎して……」
「湯煎? 何それ? とりあえずチョコ溶かせばいいんだよね!」
最初は恐る恐るチョコレート作りを始めていた二人だが、結局勢いのままにやり始める。仲良しの二人は中身も見事に同じようなタイプであった。家事炊飯は一般的なレベルでこなせるミコだが、お菓子作りに必要な知識は全く別なのである。そして料理がそもそも苦手なリツはもはやどうしようもない。鍋を火にかけてそのままチョコレートを溶かそうとする二人。
「うっ、あいつら湯煎知らねーのかよ。適当にも程があんだろ」
「ちょっ、それはどうなの?」
「「うるさい!」」
ルドのツッコミは一瞬のうちに声を合わせた二人にあしらわれ、冷や汗を流すしか無い男性陣。
とりあえずやることがなくなってしまったルドは自らもチョコを作り始める。手にしたのはビターチョコレートとミルクチョコレート。二つをそれぞれ湯煎して溶かし、これらを重なるように流してまだらになるように混ぜる。すると二つのチョコレートはマーブル模様を作って適度に混ざり合う。彼は女子二人の事を心配しつつも、自分のチョコレートを作ることに集中していた。
「温度計使えよ……焦げる! 焦げるし!」
一方のステンはとりあえずクリムゾンウェストの世界の習慣に従って見守ろうとしていたが適当極まりない女子二人のチョコ作りの様子にだんだんとイライラし始め、そして
「……貸せ!」
とうとう限界に達して手を出した。まずはチョコレートを溶かすべく、鍋を湯の中に入れてその熱で溶かしていく。温度計を挿してチョコレートが50度になったことを確認する。これ以上高くなるとカカオバターが分離をし始める。
50度になったら、ここで一度鍋を降ろし冷水にあてるステン。温度計の数字はゆっくりと下がっていき、やがて28度を示す。
ここで再び鍋を湯にかけ、32度まで温度を上げる。パティシエナイフでチョコレートをひとすくいすると、それは自然と固まり、艶やかな光沢が光を反射していた。
「「おお……」」
鮮やかなその手並みに感心するしか無い女子二人。それを背にステンは溶かしたチョコレートに生クリームを加え、冷やし固めてココアパウダーをまぶしてトリュフを作り上げた。実に見事な出来栄えだ。
しかしだからと言って負けていられない。女子二人もステンのやり方を真似してチョコレートを丸め固める。
「上手に作れるといいなー!」
そこで少しアレンジを加えるミコ。友達たちをイメージしてチョコレートを変化させる。まずはミルクを加え甘くて優しい味わいに。これはルドをイメージしたものだ。
続いて、ロランのやり方を真似してオレンジピールを加えたものを作る。これはリツのイメージ。
次のものには各種ベリーを加えて酸味をプラス。これはステンのイメージだ。
最後に生クリームの量を減らし、ビターチョコレートを加えて大人な味に仕上げる。これはここには居ない先輩のイメージのものだ。
程なくして冷やし固まったそれらを、各々に配るミコ。
「……ま、最初はこんなもんだろ」
それを口に入れ、素直な感想を述べるステン。
ルドも恐る恐る口に入れる。傷つけないような感想の言葉を考えていたが、存外に美味しい。勿論店で売られた物とは比べるまでもないが、だからといって食べられないような代物でも無い。こう上手く出来たのはやはりステンのサポートがギリギリで効いたからだろうか。
そして自分のチョコレートを作り上げたリツもミコのチョコレートを口に入れる。すると口の中でほんのりのした苦味が広がり、爽やかな柑橘系の香りが鼻に抜ける。
「ミ、ミコちゃんには負けたくないけど負けそう……!」
具体的な表現は避けるが、察する様な出来栄えの自分のチョコレートを見て落ち込むリツ。そんな彼女のチョコレートをルドは取り、口に運ぶ。
「えーっと、リツらしい個性的な味だね」
「ありがとう……」
リツがどんよりとした所で
「最後に逆チョコということで」
とルドは自分の作ったチョコレートを二人に配った。もちろんステンもだ。
「しかし何故こうも私たちは男子のほうが女子力高いのか解せぬ!」
パクパクと二人のチョコレートを食べるリツ。そもそも彼女の目的はチョコレート食べ放題だったのだ。
「トリィとかもう店で売ってるんじゃないのこれっていうね!」
「丁寧に作れば何でもうめーんだっつの」
そこに飛ぶステンの冷静なツッコミ。しかしそれにもめげず
「まぁでも美味しいからいいか!」
とチョコレートを食べ続けるリツであった。
●
一方ハナの調理はまだまだ続いていた。溶かしたチョコレートに生クリームとゼラチンを加え、チョコレートムースを作り上げる。それをスライスしたガトーショコラの間に入れ冷やし固める。
冷やし固めている間に二品目の調理に取りかかるハナ。みじん切りにした玉ねぎとニンニクに潰したトマトを加え、塩コショウと唐辛子他スパイスで味をまとめる。その間にもう一枚のフライパンでは鶏胸肉がこんがりと焼かれ、いい香りを漂わせていた。
「とても美味しそうですけど……チョコレート関係ありませんね」
「まあ見ているですぅ」
興味を持って近づいてきたモアをそうあしらうと、各種野菜で作られたソースにブラックチョコレートを加える。薄い茶色だったソースは一気に焦げ茶色のものへと変わる。そこに焼き上がった鶏肉を加え、煮込んでいく。これがリアルブルーのメキシコ料理、ポジョ・デ・モレだ。
どんな味になるのか興味津々のモアをよそ目に、ハナはまだ調理を続けていた。
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「私の料理の腕は、下手ではないにしてもプロには遠く及ばないでしょうから、ここは下手に手を加えようとはせずに、普通のチョコレートを作ることにしましょうか」
とチョコレート作りに取り掛かったのはエルバッハ・リオン(ka2434)だ。その通り、エルは丁寧にチョコレートを溶かし、丁寧にテンパリングし、丁寧に冷やし固める。そして出来上がるごくごく普通のハート型チョコレート。丁寧に作業を行っただけあって、つやつやと美しく輝いている。
「今回のお祭りが羽目を外しても良かったならば、食べた人が絶叫するようなチョコレートを作ったかもしれませんね」
作り上げたあとで、普段の感覚が出てきたのかそうつぶやいたエル。その表情は、まさしく小悪魔のそれであった。
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「キノコ♪、キノコ♪、チョコキノコ♪……」
まりおのチョコキノコ生産はまだまだ続いていた。彼女の周りには右を見ても左を見てもチョコキノコ、チョコキノコ、チョコキノコ。皆が自分のチョコレート作りに集中している中、彼女のことを止める者は居ないわけで、ひたすらチョコキノコづくりに精を出していた。
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「大切な、大切なあの方に、心を込め……」
岩波レイナ(ka3178)には一つの決意があった。彼女が憧れ、あの方と呼び、周りからは歌姫と称される人物、その歌姫へ向け、心のこもったチョコレートを作り渡す。そんな強い決意を胸に彼女はチョコレートを作るための材料を見繕っていた。
「あれ……? 其処にいらっしゃるのはレイナさん? 奇遇ですね」
そんな彼女に旧知の仲のユキヤ・S・ディールス(ka0382)が後ろから声をかける。
「って! 何でアンタがここに居るのよ!! 大体男がバレンタインに用は無いでしょうーが!」
その声に驚いてビクンと反応したレイナは、自分の恥ずかしさを隠すかのようにユキヤに怒りをぶつけた。しかし、ここに来る理由は一つしか無い。すなわち
「僕もチョコレートを作りに来たんです」
「チョコ作るって……アンタ何考えてるの!? 男が女にチョコ贈るイベントじゃないでしょーが!」
そんなユキヤにレイナはすかさずツッコミ。そしてここまで言ってはたと気づいた。すなわち、チョコレートを作るということは
「って、事は誰かあげる宛ては有るって事よね?」
「確かに貰う事はあっても、此方から贈るのは流石に初めてですけれど、日頃の感謝を伝えるには、良い機会だな。と」
そしてユキヤは言葉を続ける。
「レイナさんは誰に…? と聞くのも野暮な気もしますね」
その茶目っ気を出した微笑みと同時に出された質問にも無っていない言葉にレイナはすぐに嫌な予感が閃いた。そしてその閃きは残念ながら当たっていたのである。
「まさかアンタ……」
「僕が差し上げるのは勿論、レイナさんと同じく素敵な歌姫にですよ。レイナさんは察しが良いですね。今回はライバルと言ったトコロですね」
「あたしの大切なあの方にあげるなんて……何? アンタ、あたしにケンカ売ってる訳ー!? あたしがチョコあげるなんて、あの方に決まってるでしょ!」
くすくすと笑いながらそうあしらうユキヤに、顔を真っ赤にして怒るレイナ。しかしここはチョコレート作り放題で食べ放題の場であり、戦いの場ではない。間違っても実力行使なんて訳にはいかない。
顔を真っ赤にしたままチョコレートを作るしか無いレイナ。そしてそんな彼女の隣で、同じようにチョコレート作りに取り掛かるユキヤ。
レイナはユキヤにだけは負けたくないとチョコレート作りに励む。そしてライバル心を向けられているユキヤはどこ吹く風と受け流す。そんな間に二人のチョコレートが完成する。綺麗な球体に作り上げられたチョコレートトリュフが二組分だ。
「さてと、持ち帰りますか」
二人は完成品をラッピングする。二人が思う歌姫へと渡すために。しかし、ユキヤは残った半分をまた別の袋にラッピングしていた。
「はい、どうぞ」
「ちょっとアンタ……これどういう意味よー!?」
「良かったら食べて下さいね」
最後まで掌の上で転がされプンスカしっぱなしだったレイナと、そんな彼女に妖艶な微笑みを残して去っていくユキヤ。確かなのは、二人の手には想い人のために作ったチョコレートがあったことだった。
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ハナの調理は最後の段階に入っていた。ムースを間に入れたガトーショコラは綺麗に固まっていた。ここで最後の仕上げに入る。溶かしたチョコレートをかけ、パティシエナイフで丁寧に広げていく。やがてかけたチョコレートは固まり、芸術品のような光沢を放ち始める。あとは食べてもらう直前まで冷やし固めれば完成だ。
そしてハナは最後の品に取り掛かる。ミルクを鍋で温め、そこにチョコレートを溶かしていく。白くサラサラとしていた液体は、茶色のトロリとした物へと変わっていく。
その間にハナはイチゴやキウイ、パイナップルやバナナといった各種フルーツ、そしてパンとマシュマロをハート型にカットし、並べていく。
「これは何ですか?」
「チョコレートフォンデュですぅ」
興味津々のモアの質問にハナが答えた時、モアには何かひらめくものがあったようだ。
「すると……これを使えるかもしれませんね」
それはモアが帝国を訪れた時に入手したものだった。帝国自慢の機導術が仕込まれた魔導機械はチョコレート料理のために使うものであると聞いてきたが、覚醒者でないモアには使い道がさっぱりわからない。ただ、その時聞いた話だと、このように溶かしたチョコレートを使うものだということだった。
半信半疑のままハナは溶かしたチョコレートをセットし、機械を動作させる。すると機械の先端からチョコレートが湧き出してきた。湧きだしたそれは下に貯まり、再び機械を通って湧き出す。泉のようにチョコレートを出し続けるこれはファウンテンマシーンと呼ばれるものであった。
二人が驚き、喜んでいる間にケーキの方も完成した。そして、いよいよコンクールの時がやってくるのだった。
●
しばらく後コンクールの審査が終わり、結果が発表される。
3位はルドのマーブルチョコレート。マーブリングしたことによる味の変化が高く評価されたようだ。
2位はロランのガトーショコラ。オレンジピールを加えたことにより、大人にも楽しめる味わいがポイントになった。
そして並み居る強豪たちを押しのけて、見事優勝に輝いたのはハナだった。本格的に作られたチョコレートケーキは王道の持つ万人に愛される味わいを持ち、リアルブルーの文化を見事に持ち込んで作られたポジョ・デ・モレはインパクトを与えながらも高いレベルでまとまった味わいが食したものを唸らせる。そして何よりチョコレートフォンデュ。カットしたフルーツなどにチョコレートを纏わせ口に運ぶ、その体験そのもので楽しめ、見た目で楽しめ、味で楽しめるチョコレートの三重奏。彼女が優勝するのは、ある意味必然だった。
「やっぱり優勝できませんでしたか」
エルはある意味諦めながらも、心の片隅で結果を残念がっていた。そして来年以降にこのような機会があれば、どうしようかと思案を巡らせていた。
コンクールが終われば皆が作ったチョコレートは食べ放題の時間となる。これをリツは待っていた。ずらりと並んだチョコレートにチョコレート菓子、さらには料理。それらを心ゆくまで堪能しつつも、自分の中ではルドとステンのチョコレートが甲乙つけがたいと思った所で、ふと視線は自分の腹部に向いた。
「……ちょっと今後走る距離伸ばそう」
その時、彼女の中では過ぎたことに対する後悔の念がふつふつと湧いてきたようだ。
●
無事コンクールも終了し、各々自ら作ったチョコレートを手に三々五々去っていく。つい先程まで賑やかだった広場も、祭りの後は静かなものだ。
「あの、すいません。もうチョコレート還元祭は終わったのですが」
そんな中、周りで片付けが行われている最中にモアはまだ残っている人物に声をかけた。いや、そこに誰か居るのだろうか。見えるものはうず高く積み上げられたチョコレートの山だった。
「えー、ここからがやっと本番なのにー」
しかしそんな山の中からプンプンと怒りながらまりおが出てきた。しかし残念ながら時間が来てしまった。哀れ、彼女は捕まった宇宙人の様に連れて行かれ強制終了の憂き目に会うのであった。こうして彼女の野望であったチョコキノコで天を目指す計画は頓挫したのであった。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/02/13 13:15:33 |