ゲスト
(ka0000)
【節V】義理とチョコ/アカシラのレシピ
マスター:ムジカ・トラス

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~7人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/02/13 19:00
- 完成日
- 2016/02/24 00:28
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
『突然だけど、今年のヴァレンタインデーを再開する!』
『『『な、なんだってー!!!』』』
●
カカオ減産、そして高騰に伴うチョコレートの供給危機を前に、ハンターズソサエティのショップ店員シルキー・アークライトが敗北し、ソサエティショップ史上初のチョコレート販売停止がなされた事は記憶に新しい。
アカシラが偶さかカカオ豆の原生地を知っていた事から、突如として執り行われることとなった【長江】への進撃は、破竹の勢いを見せた。実に百名を超えるハンター達による怒涛の侵攻に、現地の歪虚達は手も足も出なかった。結果として、ハンター達は東方の支配地域に食い込み、西方へのカカオの供給を回復させしめたのである。
東方での争乱は、西方へも確かな影響を与えていた。西方に溜めこまれていたたカカオ豆は値下がりを免れず、爆発的な勢いで在庫が掃きだされることとなったのだ。カカオ豆は徐々に適正価格に近付いて行き――ついに、チョコレートの流通が、回復したのである。
バレンタインデーというハートウォーミングでキャッチ―なイベントを前にして届いた朗報に、市井には喜びの声が溢れたという。
尤も、裏方は血の涙を流しているかもしれないのだが。
●
「ぐ、ぬ、ぬ……」
アカシラ(kz0146)は唸っていた。腕を組み、首を傾げ、『長江』での依頼を出した後、ハンターズソサエティの入口でぐーるぐると歩き回る。懊悩するこの鬼の心中を表すように、通りを吹きすさぶ寒風と来たら凄まじいの一言に尽きた。常の装いならば凍えていただろうが、北伐の折にオイマト・バタルトゥ(kz0023)から渡されたコートのお陰で凌ぐことができている。
「ぬ、ぬ、ぬ、ぬ…………っ」
アカシラの額には、豪胆なこの鬼にしては珍しい事に、玉のような汗が浮いていた。どうするか。どうすればいいのか。想起するのは、『長江』での一幕である。
●
『ところでアカしーは誰にチョコレートプレゼントするの?』
とあるハンターに、そう問われた。アカシラは「そりゃあ、アイツらさ」、と調子よく答えようとしたのだ。答えようと、したのだが――。
顔も覚えている。声もだ。店の場所だって覚えている。
だが。
『そういやアイツら、どこのどいつなんだ……?』
あの男たちの悲哀を受けての義理だった筈だ。ゆえにと言うべきか、どこの誰かなんて知らなかった。贈り先として聞いてもいなかった。ヤバい。これは大層ヤバい。こいつはうっかりアカシラさんだ。
それだけじゃあない。
お礼参りと称して東方を訪れたヘクス・シャルシェレット(kz0015)から、こう言われたのだった。
『そういえば君、チョコレートの作り方は知ってるの?』
『あ? ンなもん適当にマメを挽いて練れば出来るンじゃないのかい』
『oh……』
●
アカシラは生涯忘れないだろう。ヘクスのあの、哀れみに満ちた顔を。
あの憐憫がアカシラに向けられたものなのか、はたまた、義理を果される筈だったあの男たちへのものなのかはわからなかった。ただ、居心地の悪さは凄まじい。困窮ぶりを見かねたのだろう。ヘクスは、
『……まぁ、君には借りがあるからね。ハンターズソサエティの方には話を通しておくから、任せといて』
と言ってヘクスは長江の拠点を後にした。だからアカシラも拠点の修復と整理を終えたらすぐにリゼリオに戻り、ハンターズソサエティに顔をだし、依頼を出したのだ。「長江 あと よろしく」と。
アカシラには果たすべき義理がある。だから、長江の事はヘクスの懐に期待し、思い切ってハンター達に託すこととした。
情けないことに、贖うつもりが借りばかりが増えて行っている。ヘクスもそう。ハンター達にもそう。
それに。
――そういえば、”アイツ”にも借りがあったねェ……。
冷気をさえぎるコートを掴みながら、ぽつり、と思った。ならば猶のこと、この義理ばかりは果たさねばならぬ。あの男たち。チョコがほしいと嗚咽していた彼らは、雰囲気だけ見ればハンター達のような荒事に長けた者たちのように思えた。
しかし、どうするか。どうしたものか。
アカシラはチョコを作れず、更には、チョコレートそのものを知らぬ。
なんという事だろう。なんという片手落ち。アカシラ、末代――いや、アカシラ自身は当代をもって末代と定めてはいるのだが――まで残る大失態である。
そう、途方に暮れていた、その時だ。
アカシラ達の前に、影が落ちた。複数のびた影をたどって顔をあげたアカシラは――。
「アンタたちは……」
そう、呟いた。驚愕に満ちた眼差しに、《貴方》達は――。
『突然だけど、今年のヴァレンタインデーを再開する!』
『『『な、なんだってー!!!』』』
●
カカオ減産、そして高騰に伴うチョコレートの供給危機を前に、ハンターズソサエティのショップ店員シルキー・アークライトが敗北し、ソサエティショップ史上初のチョコレート販売停止がなされた事は記憶に新しい。
アカシラが偶さかカカオ豆の原生地を知っていた事から、突如として執り行われることとなった【長江】への進撃は、破竹の勢いを見せた。実に百名を超えるハンター達による怒涛の侵攻に、現地の歪虚達は手も足も出なかった。結果として、ハンター達は東方の支配地域に食い込み、西方へのカカオの供給を回復させしめたのである。
東方での争乱は、西方へも確かな影響を与えていた。西方に溜めこまれていたたカカオ豆は値下がりを免れず、爆発的な勢いで在庫が掃きだされることとなったのだ。カカオ豆は徐々に適正価格に近付いて行き――ついに、チョコレートの流通が、回復したのである。
バレンタインデーというハートウォーミングでキャッチ―なイベントを前にして届いた朗報に、市井には喜びの声が溢れたという。
尤も、裏方は血の涙を流しているかもしれないのだが。
●
「ぐ、ぬ、ぬ……」
アカシラ(kz0146)は唸っていた。腕を組み、首を傾げ、『長江』での依頼を出した後、ハンターズソサエティの入口でぐーるぐると歩き回る。懊悩するこの鬼の心中を表すように、通りを吹きすさぶ寒風と来たら凄まじいの一言に尽きた。常の装いならば凍えていただろうが、北伐の折にオイマト・バタルトゥ(kz0023)から渡されたコートのお陰で凌ぐことができている。
「ぬ、ぬ、ぬ、ぬ…………っ」
アカシラの額には、豪胆なこの鬼にしては珍しい事に、玉のような汗が浮いていた。どうするか。どうすればいいのか。想起するのは、『長江』での一幕である。
●
『ところでアカしーは誰にチョコレートプレゼントするの?』
とあるハンターに、そう問われた。アカシラは「そりゃあ、アイツらさ」、と調子よく答えようとしたのだ。答えようと、したのだが――。
顔も覚えている。声もだ。店の場所だって覚えている。
だが。
『そういやアイツら、どこのどいつなんだ……?』
あの男たちの悲哀を受けての義理だった筈だ。ゆえにと言うべきか、どこの誰かなんて知らなかった。贈り先として聞いてもいなかった。ヤバい。これは大層ヤバい。こいつはうっかりアカシラさんだ。
それだけじゃあない。
お礼参りと称して東方を訪れたヘクス・シャルシェレット(kz0015)から、こう言われたのだった。
『そういえば君、チョコレートの作り方は知ってるの?』
『あ? ンなもん適当にマメを挽いて練れば出来るンじゃないのかい』
『oh……』
●
アカシラは生涯忘れないだろう。ヘクスのあの、哀れみに満ちた顔を。
あの憐憫がアカシラに向けられたものなのか、はたまた、義理を果される筈だったあの男たちへのものなのかはわからなかった。ただ、居心地の悪さは凄まじい。困窮ぶりを見かねたのだろう。ヘクスは、
『……まぁ、君には借りがあるからね。ハンターズソサエティの方には話を通しておくから、任せといて』
と言ってヘクスは長江の拠点を後にした。だからアカシラも拠点の修復と整理を終えたらすぐにリゼリオに戻り、ハンターズソサエティに顔をだし、依頼を出したのだ。「長江 あと よろしく」と。
アカシラには果たすべき義理がある。だから、長江の事はヘクスの懐に期待し、思い切ってハンター達に託すこととした。
情けないことに、贖うつもりが借りばかりが増えて行っている。ヘクスもそう。ハンター達にもそう。
それに。
――そういえば、”アイツ”にも借りがあったねェ……。
冷気をさえぎるコートを掴みながら、ぽつり、と思った。ならば猶のこと、この義理ばかりは果たさねばならぬ。あの男たち。チョコがほしいと嗚咽していた彼らは、雰囲気だけ見ればハンター達のような荒事に長けた者たちのように思えた。
しかし、どうするか。どうしたものか。
アカシラはチョコを作れず、更には、チョコレートそのものを知らぬ。
なんという事だろう。なんという片手落ち。アカシラ、末代――いや、アカシラ自身は当代をもって末代と定めてはいるのだが――まで残る大失態である。
そう、途方に暮れていた、その時だ。
アカシラ達の前に、影が落ちた。複数のびた影をたどって顔をあげたアカシラは――。
「アンタたちは……」
そう、呟いた。驚愕に満ちた眼差しに、《貴方》達は――。
リプレイ本文
●鉄腕の系譜
「ごきげんようですわ、アカシラお姉さま」
揺籃館の厨房は広大の一言に尽きる。言葉をなくしているアカシラにチョココ(ka2449)がちょんとお辞儀をした。
「わたくし、チョココですのー。よろしくお願いいたしますわ」
「アンタ、シンカイの寺での飲み会に居なかったかい?」
「覚えてたんですの?」
「そりゃなぁ」
チョココの風体を見下ろしてアカシラが苦笑していると。
「アカシラさん! 今日はよろしくお願いしますね!」
カリン(ka5456)が、銀糸のような艶やかな髪を揺らしてそう言った。
「アカシラさんのおかげで皆楽しいバレンタインが迎えられるのです!」
「いや、アタシゃなんも解ってなかったからねえ。アンタらの頑張りの」
アカシラが応じた、その時だ。
「で、どのレベルで作るんです?」
少女の目はキラキラと輝き、無邪気なもの。
「カカオから作るんですか?」
「……?」
「型は作ってきました!」
クレール(ka0586)が揚々と掲げた鉄製の型にカリンは喝采を上げた。
なかったら作ればいいではない。あっても作る。これである。
「か、カカオなら此処にあるけどねえ」
「となるとカカオマスから、じゃの」
ヴィルマ・ネーベル(ka2549)はふむ、と頷き、更に不敵な笑みを浮かべた。
「ざっと5日じゃ」
「そうだねー」「ですね!」「腕がなりますね!」
――本気である。
「アカしー、チョコレート作りしたことないの?」
絶句しているアカシラに、エリス・ブーリャ(ka3419)。
「……まさか5日も掛かるモンだとは思っちゃいなかったよ」
「そっかー、ちょうどエルちゃんも友達の為にチョコレート作るところだったから一緒に作ろうよ!」
そんなアカシラ達を余所に、チョココはその小さな肩を落とす。
「……味見、随分と先になりそうですの」
「ふふっ、大丈夫ですよ! 見本として持ってきてますから」
味見担当のチョココの淡い嘆きに、アルマ・アニムス(ka4901)がふわりと笑った。
「アカシラさんも食べてくださいね! どんなものか知っておかないと、作るのは難しいですっ」
「……ってぇか、いいのかい。5日もだよ?」
心底困惑した様子でアカシラが言うと。
「フフッ、アカシラさんたら水臭いじゃないですか」
くつくつと、そいつは笑った。後ろ暗さなんて一切無い快活な笑みだった。
「僕らは同じヒト、仲間、ソウルメイツです。そんな僕らに何を遠慮する必要があるっていうんですか!」
加茂 忠国(ka4451)である。アカシラに急接近して拳銃に見たてた手でバーン★と撃つ。
「さぁさぁドーンと僕らを頼って下さいよ!」
「……」
「そして仲間としてアカシラさんのおっぱい触らせて下さい!」
「世久原さん……!」と叫ぶカリンの傍らでぴりりと奔った殺気に忠国は気付きもしない。いや、気付ける甲斐性があればそもそもこんな事口走りはしない。
「お尻でm」「「あ」」
忠国の言葉を遮って、高く、快音が響いた。
忠国の首が嘘のように伸びるが、その胴はアカシラの左手で支えられ、微動だにしない。
「oh……」
自らの身に起こったことを正しく認識したかは定かではないが、崩れ落ちる膝でアカシラの胸元に倒れ込もうとしたのは少年の本能のなせる技だったのかもしれない。
「無茶しやがって、ですの」
忠国は薄れゆく意識の中で、チョココのそんな言葉を聞いた気がした。
●
ロープで縛りあげられて幸せそうな顔で気を失っている忠国を余所に、ハンター達とアカシラは着々と準備を進めていく。
「へえ! 器用なもんだねぇ……」
型を覗き込んで感嘆するアカシラに、クレールは笑顔を返す。
「何かお好みの形、ありますか?」
「お?」
「私の担当まで時間ありますし、その間に作ってきますよ!」
「……そうだねえ」
と、アカシラとクレールが話し込んでいた頃、
「おー、それかわいいねー!」
「ありがとうございますっ!」
エリスが言うと、アルマはそのままくるり、と回ってみせた。春空の色に似た水色のエプロンに、ひよこが描かれた三角巾だが、性別なんて犬にでも食わせろ、と言わんばかりの堂々とした振る舞いだ。
チョココも白いエプロンに同色の三角巾を身にナプキンと共にマイフォークとマイスプーンを整えると、顔をほころばせる。
「チョココも準備完了ですのー!」
「それじゃあ、始めましょうか!」
カリンの掛け声で、始まった。
「まずはカカオマスと、カカオバターの抽出から……大丈夫です、単純作業ですから! 意味が解らなくても手で覚えたらいいんです!」
聞きなれぬ単語に無言で首を傾げるアカシラにカリンは大きな器に積み上げられたカカオ豆をずずいと差しだした。
●
胚乳を取り分ける作業は単純だが少しばかりコツと知識がいる。ヴィルマが用意した見本と実際にピンセットを用いての作業の仕方を教わると、アカシラはそちらに専従することとした。
今後鬼達でチョコを作らねばならない。エリスにそう指摘され要点を十分に学ぼうというのだろう。
1時間が経過した。
「「「「…………」」」」
最初こそ和気あいあいと進んでいたが、如何せん、今回使用する全てのチョコレートを作るとなると豆の量が多い。最後の一個を終えると、誰ともなく盛大な吐息が零れた。
●
メイドに案内されたオーブンは用向きを聞いていた使用人らによってすでに火はかけられており、適温になっている。
「……アタシらだけで作る時も此処を借りていいかい?」
料理自体には心得があるアカシラだが、この準備は無理とみて早速の弱気を見せていた。
「フライパンでも出来ますよ!」
カリンは苦笑しながらそう言うと、偏らぬよう盆に丁寧に並べてオーブンにかける。火が掛かると直に香りが立ってきた。
「良い香り……」
目を細めて溢すアルマ。もし彼に尻尾がついていたらぶんぶんと尻尾をフルスウィングしていたであろう程に、機嫌の良さが滲んでいた。
「こうやって香りを出していくのも、重要な工程なんですよ!」
「へえ……」
目を輝かせていうアルマに、アカシラは頷く事しかできない。ただ、香りは気に入ったようで、厨房に満ちる香りを味わっていた。
「……さあ、いよいよ本番です!!」
意気高く告げたカリンに、アカシラは安堵の表情を見せた。5日と聞いていたから、身構えていたのだ。
「頑張り所だねー」「ですねー!」
事情を知っているエリス、アルマは敢えて何も言わずヴィルマは完成品をそっと差し出して見せた。
「よいか? これがこの工程の完成品じゃ」
ややざらつきの在る茶色いカカオマスを見て、アカシラは目を細める。
嫌な予感がした。
●
まだ硬い破片を、ごりごりとすりつぶしていく。
「ぐぬ……私、非力なのです……」
まんべんなく、丁寧に。カリンの腕は加速度的に重くなっていく。アカシラは手慣れた様子で擂粉木を回すヴィルマを横目に見ると。
「やけに上手だね?」
「ふふ、慣れておるからのぅ」
自称魔女の矜持からか、そう応じるヴィルマであった。
「頑張りどころですよ! ここの質が高ければ、完成品はおいしくなりますから!」
「「おー!」」
意気十分のハンターを余所に、一方、チョココは、というと。
「……苦いのです」
完成予想品のカカオマスをぺろりと舐めて、渋い顔をしていた。
「これ、どのくらい磨るんだい」
「1時間ですね!」
「1時間」
●計量
「アカシラ。ちょっとこっちに来れるかの?」
「お?」
終わりしな。席を外したヴィルマがアカシラを呼んだ。そこには、大小様々な皿と薄手の紙、それから秤が並べられている。必要な調味料を一つ一つ説明しながら、ヴィルマは夫々に丁寧に秤にかけていく。
「こうして計っていく作業は、薬草や魔法薬の調合に似ていてのぅ」
どこか愉しげなのは、性にあっているのだろうか。
「調合なんてしてるのかい?」
「うむ。見ての通りじゃ。
……さておき、初心者が陥りがちなミスは、『適当に目分量で材料を入れる』じゃな。普通の料理ならともかく、菓子作りでは致命的じゃ。ちょっとした量の間違いでとんでもない事になるでのぅ」
「へえ……」
食えりゃ良い、といった類の料理ばかりしていたアカシラにとっては至言とも言える助言だったのだろう。神妙な顔で頷いていた。
●
湯煎に掛けながら、時折舌で確認しながら作業していくと艶がでてきた。カカオマスの完成である。折よく、クレールが戻ってきた。鍛冶仕事後だが、すでにエプロン姿に髪を纏め、と臨戦態勢であった。
「さあ、それでは、仕込みですよ!」
●
カカオマスを1つのものにまとめた後、砂糖とスキムミルクを追加していく。更にカカオバターを入れてクレールが辛抱強く混ぜていると大分様相が変わってきた。
「これを濾して潰して練って……っと、ありがとうございます!」
「はいですの〜」
ほう、と息をついたクレールは額の汗を拭おうとしたが、チョココがタオルで拭きとってくれた。そこに笑みを返すと、クレールは、
「後は体力勝負です! これを繰り返すんです! これさえ終われば、最高のチョコレートはもうすぐですから!」
「……」
アカシラはまたか、といった調子で息を吐いた。成る程、道はなかなかに険しい。だが、もうすぐと聞けば意気も上がるものである。
「どれくらいするんだい?」
「人力だと最低3日くらいですかね!」
「……3日」
「技術というより、体力と想いです!」
何も言えないアカシラに、鍛冶師の彼女はにへら、と笑った。
「だからこそ、大丈夫!頑張りましょう!」
●
目を覚ました忠国は、じっと息を潜めていた。彼は健全な男子学生である。無論、料理など出来ぬ。
(かわいいなぁー……料理している女性も乙なものですよね……ウフフ……)
ならば、真剣なまなざしで擂鉢やらに向かう女性陣を眺めているほうが100倍マシというものだ。
(僕の心もぴょんぴょんしますね……ウフフ……)
心が弾んでいた、そんな時だ。
「なんだ、アンタ、起きてたのかい」
「ひょっ!?」
視線に気付いたアカシラは、いっそ爽やかに笑うと、こう言った。
「頼っていいんだったっけねぇ?」
――そうして、3日が経過した。
●
忠国にとっては予想外の仕事が積み上がった形になったが、セクハラの罪は重いのである。とはいえ、 灰になりそうなのは忠国に限った話ではない。ハンターもアカシラも疲弊していた。
だが。
「なんて滑らか……」
誰ともなく、そう呟いた。その仕上がりを表現しようと思うと言葉が出てこないくらいには疲労が募っているようだった。
いよいよ、焼成である。いくつも揃えられた型はクレールの手製のものだ。ハート型、花、そして鬼灯に――クレールにとって大事な、龕灯の型。
(……縁って、不思議)
皆の想いの行く末を照らすように、と丹精に打った龕灯は、この場の――かつての敵であるアカシラの為に誂えたものだ。その奇縁を、型の一つ一つを眺めながら素敵だな、とクレールは感じた。
「……これ、タケノコ?」
ふと。エリスが怪訝そうにクレールに問うた。指さしたのはアカシラがクレールに頼んだ型である。
「いえ……その、角、らしいです」
滑らかなチョコレートを型に流し込むとアルマが温度設定をしていたオーブンに再び火が掛かる。「ブラウニー、とっても簡単なんですよ。初心者さんに最適ですっ」
「……本当かい?」
疑心暗鬼になるアカシラだが、チョコレートとは温度設定の都合もあり別の窯に入れられるところまで確り眺めて香り立ち込める厨房で大きく、伸びをした。
凝った身体をほぐすアカシラをアルマは少し眉を顰めると。
「そういえば、お怪我されたって聞いたんですけど……」
「ん? ああ……なんだろうね、なんだか本調子じゃあなくてね」
「……無理されないようにしてくださいね?」
そのまま、きゅ、とアカシラの手を握って言った。
「……あ?」
反応しきれなかったアカシラだが、
「まぁ……そうさね、暫くは休むさ。闘い詰めだったしね」
「絶対ですよ!」
絞り出すように言った声に、アルマはぶんぶんと握った手を振って、そう言った。
●
「……さ、それじゃあ仕上げをするよー! よく見といてね!」
暖かい内にに予め味付けを変えていたチョコを型に流し込み、砕いたチョコ片や色とりどりの砂糖菓子や食用ビーズを載せる。瞬く間に為された装飾は、実に身目麗しい高級銘菓の装いだ。
「……まさか、こうなるとはねえ」
アカシラは今度こそ空いた口が塞がらなくなった。
「お菓子っていうのはー、ただ食べるだけのものじゃないのー。見るだけでも楽しくなるのがお菓子ってものなのよー」
「見て楽しむ……」
そ、と。見やる先。クレールが作った『角』の型で出来たチョコがある。それを眺める横顔に滲んだ者を見たヴィルマは小さく微笑むと、
「こうして1から全部作ると、ほんに思い入れが違うのぅ」
菓子を一つ一つ確かめるように触り、柔らかな声で結ぶ。
「間違いなく心がこもっておるでのぅ。喜んでもらえるのじゃ」
「……そうさね、何となく、わかった気がするよ」
●実食!
「はあ……おいしいですの!」
長きに渡りお預けを喰らっていたチョココは待ちきれぬとばかりに机に並べられたチョコを頬張ると、感極まった様子でそう言った。テーブルの上には今回メインとして作ったチョコレート以外にもブラウニーやカリンが用意したココア、味付けの為にチョココ自身が作ったチョコレートソースが並んでいる。
チョココは身を乗り出してソースを取ると、茶請け用の焼き菓子にかけて味わった。
「……幸せですの」
「甘ぃ……なぁ……」
ほう、と息をつくチョココと同じような顔で、忠国は一滴の涙を零した。女性陣“も”作ったチョコである。一生忘れまじ、と五感をフルに働かせて賞味する。そこに。
「あ、そだ! ハッピーバレンタイン!」
「!?」
エリスがチョコを差しだしたのだ。忠国の顔に喜色が浮かび――。
「こっ、これは!」
「友達の証だよ!」
崩れた。
「友チョコァーーーッ! ううっ、でも嬉しい! 有難うございます!」
叫びながら盛大に転げ倒れた忠国にほのやかに笑みが生まれる。カリンは笑い過ぎて目じりに浮かんだ涙を拭い、視線を転じると。
「アカシラさん、笑ってますね!」
「……そうさね」
指摘に、頬を掻いたアカシラは苦笑したようだ。ただ、彼女は満足げに息を吐くと、こう言った。
「楽しかったよ。凄く、ね」
まさかこんな事になるとは思っていなかったが、ただ、実感のままに言うと――楽しかった。それに尽きた。
「ふふっ、アカシラさんも良いバレンタインをお過ごしくださいね!」
●
こうして、義理人情チョコのレシピは整った。
これは後日、アカシラ達鬼が総出でチョコレートを作った際にも参照されることになり――また、ハンター達の稚気が少しだけ、影響を与えたりもしたのだが。
それはまた、別のお話である。
「ごきげんようですわ、アカシラお姉さま」
揺籃館の厨房は広大の一言に尽きる。言葉をなくしているアカシラにチョココ(ka2449)がちょんとお辞儀をした。
「わたくし、チョココですのー。よろしくお願いいたしますわ」
「アンタ、シンカイの寺での飲み会に居なかったかい?」
「覚えてたんですの?」
「そりゃなぁ」
チョココの風体を見下ろしてアカシラが苦笑していると。
「アカシラさん! 今日はよろしくお願いしますね!」
カリン(ka5456)が、銀糸のような艶やかな髪を揺らしてそう言った。
「アカシラさんのおかげで皆楽しいバレンタインが迎えられるのです!」
「いや、アタシゃなんも解ってなかったからねえ。アンタらの頑張りの」
アカシラが応じた、その時だ。
「で、どのレベルで作るんです?」
少女の目はキラキラと輝き、無邪気なもの。
「カカオから作るんですか?」
「……?」
「型は作ってきました!」
クレール(ka0586)が揚々と掲げた鉄製の型にカリンは喝采を上げた。
なかったら作ればいいではない。あっても作る。これである。
「か、カカオなら此処にあるけどねえ」
「となるとカカオマスから、じゃの」
ヴィルマ・ネーベル(ka2549)はふむ、と頷き、更に不敵な笑みを浮かべた。
「ざっと5日じゃ」
「そうだねー」「ですね!」「腕がなりますね!」
――本気である。
「アカしー、チョコレート作りしたことないの?」
絶句しているアカシラに、エリス・ブーリャ(ka3419)。
「……まさか5日も掛かるモンだとは思っちゃいなかったよ」
「そっかー、ちょうどエルちゃんも友達の為にチョコレート作るところだったから一緒に作ろうよ!」
そんなアカシラ達を余所に、チョココはその小さな肩を落とす。
「……味見、随分と先になりそうですの」
「ふふっ、大丈夫ですよ! 見本として持ってきてますから」
味見担当のチョココの淡い嘆きに、アルマ・アニムス(ka4901)がふわりと笑った。
「アカシラさんも食べてくださいね! どんなものか知っておかないと、作るのは難しいですっ」
「……ってぇか、いいのかい。5日もだよ?」
心底困惑した様子でアカシラが言うと。
「フフッ、アカシラさんたら水臭いじゃないですか」
くつくつと、そいつは笑った。後ろ暗さなんて一切無い快活な笑みだった。
「僕らは同じヒト、仲間、ソウルメイツです。そんな僕らに何を遠慮する必要があるっていうんですか!」
加茂 忠国(ka4451)である。アカシラに急接近して拳銃に見たてた手でバーン★と撃つ。
「さぁさぁドーンと僕らを頼って下さいよ!」
「……」
「そして仲間としてアカシラさんのおっぱい触らせて下さい!」
「世久原さん……!」と叫ぶカリンの傍らでぴりりと奔った殺気に忠国は気付きもしない。いや、気付ける甲斐性があればそもそもこんな事口走りはしない。
「お尻でm」「「あ」」
忠国の言葉を遮って、高く、快音が響いた。
忠国の首が嘘のように伸びるが、その胴はアカシラの左手で支えられ、微動だにしない。
「oh……」
自らの身に起こったことを正しく認識したかは定かではないが、崩れ落ちる膝でアカシラの胸元に倒れ込もうとしたのは少年の本能のなせる技だったのかもしれない。
「無茶しやがって、ですの」
忠国は薄れゆく意識の中で、チョココのそんな言葉を聞いた気がした。
●
ロープで縛りあげられて幸せそうな顔で気を失っている忠国を余所に、ハンター達とアカシラは着々と準備を進めていく。
「へえ! 器用なもんだねぇ……」
型を覗き込んで感嘆するアカシラに、クレールは笑顔を返す。
「何かお好みの形、ありますか?」
「お?」
「私の担当まで時間ありますし、その間に作ってきますよ!」
「……そうだねえ」
と、アカシラとクレールが話し込んでいた頃、
「おー、それかわいいねー!」
「ありがとうございますっ!」
エリスが言うと、アルマはそのままくるり、と回ってみせた。春空の色に似た水色のエプロンに、ひよこが描かれた三角巾だが、性別なんて犬にでも食わせろ、と言わんばかりの堂々とした振る舞いだ。
チョココも白いエプロンに同色の三角巾を身にナプキンと共にマイフォークとマイスプーンを整えると、顔をほころばせる。
「チョココも準備完了ですのー!」
「それじゃあ、始めましょうか!」
カリンの掛け声で、始まった。
「まずはカカオマスと、カカオバターの抽出から……大丈夫です、単純作業ですから! 意味が解らなくても手で覚えたらいいんです!」
聞きなれぬ単語に無言で首を傾げるアカシラにカリンは大きな器に積み上げられたカカオ豆をずずいと差しだした。
●
胚乳を取り分ける作業は単純だが少しばかりコツと知識がいる。ヴィルマが用意した見本と実際にピンセットを用いての作業の仕方を教わると、アカシラはそちらに専従することとした。
今後鬼達でチョコを作らねばならない。エリスにそう指摘され要点を十分に学ぼうというのだろう。
1時間が経過した。
「「「「…………」」」」
最初こそ和気あいあいと進んでいたが、如何せん、今回使用する全てのチョコレートを作るとなると豆の量が多い。最後の一個を終えると、誰ともなく盛大な吐息が零れた。
●
メイドに案内されたオーブンは用向きを聞いていた使用人らによってすでに火はかけられており、適温になっている。
「……アタシらだけで作る時も此処を借りていいかい?」
料理自体には心得があるアカシラだが、この準備は無理とみて早速の弱気を見せていた。
「フライパンでも出来ますよ!」
カリンは苦笑しながらそう言うと、偏らぬよう盆に丁寧に並べてオーブンにかける。火が掛かると直に香りが立ってきた。
「良い香り……」
目を細めて溢すアルマ。もし彼に尻尾がついていたらぶんぶんと尻尾をフルスウィングしていたであろう程に、機嫌の良さが滲んでいた。
「こうやって香りを出していくのも、重要な工程なんですよ!」
「へえ……」
目を輝かせていうアルマに、アカシラは頷く事しかできない。ただ、香りは気に入ったようで、厨房に満ちる香りを味わっていた。
「……さあ、いよいよ本番です!!」
意気高く告げたカリンに、アカシラは安堵の表情を見せた。5日と聞いていたから、身構えていたのだ。
「頑張り所だねー」「ですねー!」
事情を知っているエリス、アルマは敢えて何も言わずヴィルマは完成品をそっと差し出して見せた。
「よいか? これがこの工程の完成品じゃ」
ややざらつきの在る茶色いカカオマスを見て、アカシラは目を細める。
嫌な予感がした。
●
まだ硬い破片を、ごりごりとすりつぶしていく。
「ぐぬ……私、非力なのです……」
まんべんなく、丁寧に。カリンの腕は加速度的に重くなっていく。アカシラは手慣れた様子で擂粉木を回すヴィルマを横目に見ると。
「やけに上手だね?」
「ふふ、慣れておるからのぅ」
自称魔女の矜持からか、そう応じるヴィルマであった。
「頑張りどころですよ! ここの質が高ければ、完成品はおいしくなりますから!」
「「おー!」」
意気十分のハンターを余所に、一方、チョココは、というと。
「……苦いのです」
完成予想品のカカオマスをぺろりと舐めて、渋い顔をしていた。
「これ、どのくらい磨るんだい」
「1時間ですね!」
「1時間」
●計量
「アカシラ。ちょっとこっちに来れるかの?」
「お?」
終わりしな。席を外したヴィルマがアカシラを呼んだ。そこには、大小様々な皿と薄手の紙、それから秤が並べられている。必要な調味料を一つ一つ説明しながら、ヴィルマは夫々に丁寧に秤にかけていく。
「こうして計っていく作業は、薬草や魔法薬の調合に似ていてのぅ」
どこか愉しげなのは、性にあっているのだろうか。
「調合なんてしてるのかい?」
「うむ。見ての通りじゃ。
……さておき、初心者が陥りがちなミスは、『適当に目分量で材料を入れる』じゃな。普通の料理ならともかく、菓子作りでは致命的じゃ。ちょっとした量の間違いでとんでもない事になるでのぅ」
「へえ……」
食えりゃ良い、といった類の料理ばかりしていたアカシラにとっては至言とも言える助言だったのだろう。神妙な顔で頷いていた。
●
湯煎に掛けながら、時折舌で確認しながら作業していくと艶がでてきた。カカオマスの完成である。折よく、クレールが戻ってきた。鍛冶仕事後だが、すでにエプロン姿に髪を纏め、と臨戦態勢であった。
「さあ、それでは、仕込みですよ!」
●
カカオマスを1つのものにまとめた後、砂糖とスキムミルクを追加していく。更にカカオバターを入れてクレールが辛抱強く混ぜていると大分様相が変わってきた。
「これを濾して潰して練って……っと、ありがとうございます!」
「はいですの〜」
ほう、と息をついたクレールは額の汗を拭おうとしたが、チョココがタオルで拭きとってくれた。そこに笑みを返すと、クレールは、
「後は体力勝負です! これを繰り返すんです! これさえ終われば、最高のチョコレートはもうすぐですから!」
「……」
アカシラはまたか、といった調子で息を吐いた。成る程、道はなかなかに険しい。だが、もうすぐと聞けば意気も上がるものである。
「どれくらいするんだい?」
「人力だと最低3日くらいですかね!」
「……3日」
「技術というより、体力と想いです!」
何も言えないアカシラに、鍛冶師の彼女はにへら、と笑った。
「だからこそ、大丈夫!頑張りましょう!」
●
目を覚ました忠国は、じっと息を潜めていた。彼は健全な男子学生である。無論、料理など出来ぬ。
(かわいいなぁー……料理している女性も乙なものですよね……ウフフ……)
ならば、真剣なまなざしで擂鉢やらに向かう女性陣を眺めているほうが100倍マシというものだ。
(僕の心もぴょんぴょんしますね……ウフフ……)
心が弾んでいた、そんな時だ。
「なんだ、アンタ、起きてたのかい」
「ひょっ!?」
視線に気付いたアカシラは、いっそ爽やかに笑うと、こう言った。
「頼っていいんだったっけねぇ?」
――そうして、3日が経過した。
●
忠国にとっては予想外の仕事が積み上がった形になったが、セクハラの罪は重いのである。とはいえ、 灰になりそうなのは忠国に限った話ではない。ハンターもアカシラも疲弊していた。
だが。
「なんて滑らか……」
誰ともなく、そう呟いた。その仕上がりを表現しようと思うと言葉が出てこないくらいには疲労が募っているようだった。
いよいよ、焼成である。いくつも揃えられた型はクレールの手製のものだ。ハート型、花、そして鬼灯に――クレールにとって大事な、龕灯の型。
(……縁って、不思議)
皆の想いの行く末を照らすように、と丹精に打った龕灯は、この場の――かつての敵であるアカシラの為に誂えたものだ。その奇縁を、型の一つ一つを眺めながら素敵だな、とクレールは感じた。
「……これ、タケノコ?」
ふと。エリスが怪訝そうにクレールに問うた。指さしたのはアカシラがクレールに頼んだ型である。
「いえ……その、角、らしいです」
滑らかなチョコレートを型に流し込むとアルマが温度設定をしていたオーブンに再び火が掛かる。「ブラウニー、とっても簡単なんですよ。初心者さんに最適ですっ」
「……本当かい?」
疑心暗鬼になるアカシラだが、チョコレートとは温度設定の都合もあり別の窯に入れられるところまで確り眺めて香り立ち込める厨房で大きく、伸びをした。
凝った身体をほぐすアカシラをアルマは少し眉を顰めると。
「そういえば、お怪我されたって聞いたんですけど……」
「ん? ああ……なんだろうね、なんだか本調子じゃあなくてね」
「……無理されないようにしてくださいね?」
そのまま、きゅ、とアカシラの手を握って言った。
「……あ?」
反応しきれなかったアカシラだが、
「まぁ……そうさね、暫くは休むさ。闘い詰めだったしね」
「絶対ですよ!」
絞り出すように言った声に、アルマはぶんぶんと握った手を振って、そう言った。
●
「……さ、それじゃあ仕上げをするよー! よく見といてね!」
暖かい内にに予め味付けを変えていたチョコを型に流し込み、砕いたチョコ片や色とりどりの砂糖菓子や食用ビーズを載せる。瞬く間に為された装飾は、実に身目麗しい高級銘菓の装いだ。
「……まさか、こうなるとはねえ」
アカシラは今度こそ空いた口が塞がらなくなった。
「お菓子っていうのはー、ただ食べるだけのものじゃないのー。見るだけでも楽しくなるのがお菓子ってものなのよー」
「見て楽しむ……」
そ、と。見やる先。クレールが作った『角』の型で出来たチョコがある。それを眺める横顔に滲んだ者を見たヴィルマは小さく微笑むと、
「こうして1から全部作ると、ほんに思い入れが違うのぅ」
菓子を一つ一つ確かめるように触り、柔らかな声で結ぶ。
「間違いなく心がこもっておるでのぅ。喜んでもらえるのじゃ」
「……そうさね、何となく、わかった気がするよ」
●実食!
「はあ……おいしいですの!」
長きに渡りお預けを喰らっていたチョココは待ちきれぬとばかりに机に並べられたチョコを頬張ると、感極まった様子でそう言った。テーブルの上には今回メインとして作ったチョコレート以外にもブラウニーやカリンが用意したココア、味付けの為にチョココ自身が作ったチョコレートソースが並んでいる。
チョココは身を乗り出してソースを取ると、茶請け用の焼き菓子にかけて味わった。
「……幸せですの」
「甘ぃ……なぁ……」
ほう、と息をつくチョココと同じような顔で、忠国は一滴の涙を零した。女性陣“も”作ったチョコである。一生忘れまじ、と五感をフルに働かせて賞味する。そこに。
「あ、そだ! ハッピーバレンタイン!」
「!?」
エリスがチョコを差しだしたのだ。忠国の顔に喜色が浮かび――。
「こっ、これは!」
「友達の証だよ!」
崩れた。
「友チョコァーーーッ! ううっ、でも嬉しい! 有難うございます!」
叫びながら盛大に転げ倒れた忠国にほのやかに笑みが生まれる。カリンは笑い過ぎて目じりに浮かんだ涙を拭い、視線を転じると。
「アカシラさん、笑ってますね!」
「……そうさね」
指摘に、頬を掻いたアカシラは苦笑したようだ。ただ、彼女は満足げに息を吐くと、こう言った。
「楽しかったよ。凄く、ね」
まさかこんな事になるとは思っていなかったが、ただ、実感のままに言うと――楽しかった。それに尽きた。
「ふふっ、アカシラさんも良いバレンタインをお過ごしくださいね!」
●
こうして、義理人情チョコのレシピは整った。
これは後日、アカシラ達鬼が総出でチョコレートを作った際にも参照されることになり――また、ハンター達の稚気が少しだけ、影響を与えたりもしたのだが。
それはまた、別のお話である。
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