まかろん・うぇすたん

マスター:楠々蛙

シナリオ形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
無し
相談期間
2日
締切
2016/02/10 22:00
完成日
2016/02/15 23:57

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「ねえ、ルーナ。少しくらい持ってくれないの?」
 とある街の市場、紙袋を抱えながら歩くの赤毛の少女は、ラウラ=フアネーレ。その前を首の後ろで結ばれたリボンを揺らしながら歩く黒猫の名はルーナだ。その名が示す通り、紫が掛かった毛並みを持つこの黒猫は雌。年は二歳──人間に換算するなら妙齢の女性であある
 ルーナは主人の方へ振り向くと、どことなく呆れた様な視線を向けた。その蒼い瞳に籠められた思いを人語に翻訳するなら「無茶を言わにゃいで」といったところだろうか。
 彼女達は旅路に必要なあれこれの買い出し中だった。
「はあ、キャロルもバリーも何か忙しくしてるし。買い出しを一人でやるのは骨が折れるわ」
 旅路の同行者の名前を告げて、年齢に不相応な溜息を漏らすラウラ。普段なら彼らの内どちらかが荷物持ち役に任命されるのだが、今回は都合が付かなかったのである。
「せめて手早く終わらせましょ。さあ次に行くわよ、ルーナ」
 彼女は黒猫の脇を過ぎながら、先へと促す。が、ルーナは主人の言葉には従わずに立ち止まったままだ。
「? どうしたの、ルーナ」
 それにラウラは小首を傾げる。ルーナへと振り向くと、黒猫は一枚の張り紙へと視線を注いでいた。紙面には色とりどりの菓子類の絵が描かれている。
「何見てるの? んーとなになに……『今年のバレンタインはマカロンで決まり! 恋する乙女達よ、集え!』──何これ?」
 張り紙の内容を朗読して、ラウラはまた首を傾げた。マカロンという菓子は見知っているが、バレンタインという単語は聞き覚えのないものだ。
「ねえ、そこのお姉さん」
 ラウラは張り紙の事を尋ねようと、近くにあった露店の店員に声を掛ける。陳列棚を見るに、そこは手作りの装飾品を扱っている様だ。
「やあ、お嬢ちゃん。いらっしゃい。何か気に入った物でもあった?」
 中性的な印象を持つ女性店員が、商いの挨拶で応じる。
「ごめんなさい、お客じゃないの」
「なんだそっか。それじゃあ、他に何の用があるのかな?」
 ラウラが首を横に振って誤解を解くと、店員はさして気にした風もなく気さくに問い掛けて来た。
「あの張り紙について聞きたいんだけど、お姉さんは何か知ってる?」
「あー、あれか。バレンタインデーに向けて、この辺りにある菓子屋が教室を開くんだ」
「あの、バレンタインデーって何? わたし、あまり都会のお祭りとか知らないの」
「あー成程。そこからわからないのか、結構手間だな──よし、どうしても知りたいなら条件が一つ」
「条件? あの、そのアクセサリーを買ってとか言われても無理よ。お財布にそんな余裕なんてないもの」
「そんなどうでも良い事は言わないよ」
「ど、どうでも良いの……?」
 商売っ気がなさ過ぎるのではないだろうか。
「そんな事じゃなくてさ、その猫ちゃんを触らせてくれないかな?」
「ルーナを? 別にわたしは構わないけど」
「やった。それじゃあ、遠慮なく」
 女性がルーナに手を伸ばすが、黒猫の前足にはたかれる。
「……私、何か嫌われる様な事したかな?」
「そうじゃなくて、この子はちゃんと許可を取らないと触らせてくれないの」
「なんと。小生意気な猫ちゃんだぜ」
「だぜ……?」
(何か、変な人ね)
「それじゃあ、お触りしてもいいかい?」
 訝しんだ視線を送るラウラを他所に、女性はルーナへ許可を申請する。黒猫が若干たじろぎながら一声鳴くと、女性はそれを肯定と受け取って意気揚々とその小さな額を撫で始めた。
「おお、なんという。得も言われぬ触り心地──えいっ」
 一頻り撫で回したかと思うと、彼女はいきなり黒猫を抱き締めた。女性の腕の中で黒猫が暴れる。
「良いではないか、良いではないか──あっ」
 構わずに頬擦りをする女性から、ルーナは何とか脱出した。毛を逆立てて怒りを露にする彼女に、女性は何故かニヤニヤとした笑みを浮かべる。
「好きな子に嫌われるのって、ゾクゾクするよね」
「あ、あのお姉さん、そろそろ質問に答えてくれないかしら」
 一歩引いていたラウラが恐る恐る声を掛けた。
「ん? 質問ってなんだったけ?」
「バレンタインデーって何って聞いたの!」
「ああ、そうだった。バレンタインデーっていうのはね、女の子が好きな男の子にお菓子を贈る恋愛イベントの事さ」
「……なんかすごいざっくりしてない? 何も手間が掛かってないじゃない」
「そんじゃもう少し詳細を語るけど。もとはリアルブルーの習慣なんだよ。あっちの世界じゃ、国によって色々やり方が違ったんだけどね。何故かこっちに伝わる時に、リアルブルーの日本って国の文化が反映されたお陰で、恋愛要素が強くなったみたいだ。本当は、男も女も関係なく親しい人に贈り物をする日だった筈なんだけど、クリムゾンウェストでは女性が男性への親愛の証としてチョコレートを渡す日として広まっている様だね」
「チョコレート? でも、あの張り紙にはマカロンって」
「ここ最近チョコレートが高騰しているらしいからね。その代わりにマカロンを作ろうって話になったんだよ」
「ふぅん、そうなんだ」
「どうだい? 参加費は無料だから、君も参加してみれば」
「んー、別にいいや。そういう相手が居るわけじゃないもの」
「別に恋だの愛だのに拘らなくても良いんだよ? 普段お世話になっている人へのお礼の気持ちとかでも構わない」
「そうなの? でも今更そんなの渡すのは、ほら、照れ臭いじゃない? だから──ん? どうしたの、ルーナ」
 断ろうとしたラウラの足下で、ルーナが鳴声を上げて主人に呼び掛ける。彼女は尻尾の先で、張り紙の方を指して更に一声鳴いた。
「もしかしてあなた、マカロン食べたいの?」
 その様子から飼い猫の要望を察したラウラがしゃがみ込んで問うと、黒猫は尻尾を揺らしながらまた鳴く。
「へえ、面白そうだね。何なら猫用のレシピも考えたげるよ?」
「考えるって、お姉さんが?」
「言ってなかったっけ? 私、その教室開くっていうお店のオーナーやってんの。この露店はちょっとした趣味みたいなものでね」
「……うそでしょ」
 こんな商売っ気のない変人が店を切り盛りしている姿は、全く想像できないのだが。
「本当だって。これでも中々人気の店なんだよ? で、どうする? 参加してみる?」
「うーん、どうしようかしら」
 迷うラウラの足下で、催促する様にルーナが身を擦り寄せる。
「……調子良いんだから──わかったわ、作るわよ、参加すれば良いんでしょ」
「そんじゃ決まりね。時間と場所はその張り紙にかいてある通りだから。ああ、そうだ。余った張り紙あげるから取っておくと良いよ」
 ラウラに張り紙を手渡した女性が、首を傾げる。
「それにしても、猫の味覚は甘さを感じないんじゃなかったけ?」
「この子もこの子で、大概変わってるから」
 女性の疑問に答えながら、ラウラは誰にも聞こえない様に呟いた。
 
 ついでにあの二人の分も作ってあげようかしら。

リプレイ本文

「結構人が集まってるのね」
 若年層の女性達で賑わう菓子店の厨房を見渡して、ラウラは呟きを漏らした。
 ここに飼い主を送り込んだ当の飼い猫は、外で待たせてある。気儘な彼女の事、適当な日向を見付けては、悪びれもせずに優雅な一時を過ごしている事だろう。
 溜息を零すラウラの背後から抱き着く者があった。
「ラーウラ♪」
「うわっ!? あ、パ、パティ? びっくりした……」
 パトリシア=K=ポラリス(ka5996)である。
「こんなに早くまた会えと思ってなかったカラ、トテモ嬉しーヨ♪」
「わたしも嬉しいけど……抱き着き魔になってない?」
「だって、ラウラは良い匂いがするネ。つい抱き締めたくなりマス♪」
 抱き締めるパトリシアとされるがままにするラウラ。そんな二人に声を掛けたのは、
「よお、ラウラか?」
 金糸の髪にトレードマークの赤頭巾を被ったステラ・レッドキャップ(ka5434)だ。
「あら、あなたも来たの?」
「ああ、今リーリーを一羽飼ってるんだが、好奇心旺盛な奴でさ。こないだ市販のチョコを食べようとしたんだ。ここに来たらペット用おやつを作れるって聞いて参加したんだよ」
「へえ、名前は何て言うの?」
「アザリアってんだ──そっちは、例の飼い猫か?」
「そうよ、うちの女王様のご命令でね」
 会話を交わす二人とは別に、パトリシアはラウラを抱き締めたまましばし固まっていたが、唐突に声を上げた。
「あ、赤ずきんデスカ!?」
「いやまあ、良く言われるけどよ──ステラだ、よろしくな」
 苦笑を浮かべて自己紹介を口にしたステラは、未だに抱き枕状態になっているラウラに向き直ると、
「前にもそんな風に抱き着かれてたな」
「そんな事もあったわね……あんな玩具扱いよりずっとマシよ」

「ちょっと一つ尋ねても良いかい、センセイ」
 この菓子店のオーナーにして今回講師を務める例の中性的な女性に声を掛ける男が一人。
「どうしたの、敢えて乙女の花園に馳せ参じたチャレンジャー君」
「いやなに、よろしければセンセイのお名前をお聞かせ願いたいと思ってね。とその前に、俺の名前はカッツ・ランツクネヒト(ka5177)だ。以後お見知り置きを」
「ほうカッツ少年、まさかこの私を口説いているのかな?」
「もちろん。綺麗なご婦人とお近づきになりたいと思うのは、男の性だからな」
「ふっふっふ、おだてても何も出んぜ。まあ良い、知らざあ言って聞かせやしょう。私はヴィヴィアーナ=ヴァレリアーナ、敬愛を籠めてヴィヴィ先生と呼びなさい」

「初めまして、ナーディルと申します」
 礼と共に自己紹介をしたのはナーディル・K(ka5486)。
「初めましてお姉さん、わたしはラウラ。ところで変わった服を着てるのね」
「そうですね、この辺りでは見慣れないかもしれません」
「黒がとても似合ってるわ。でも、その袖は料理には向かなさそう」
「いえ、心配ご無用です。和服で料理をする時はこうするのですよ」
 ナーディルは襷を使ってゆったりとした袖をたくし上げる。楚々としたその所作は、大和撫子と呼ぶに相応しい。
「か、かっこいい……」
 和服美人の姿にラウラは尊敬の眼差しで見入っていた。

「はいはい、それではエプロンを配りますよーっと。ちゃっちゃか取りに来るよーに」
「は~い、ではお借りします~」
 生徒達へエプロン配り始めた講師の許へエリザベート・アインナッハ(ka6051)がゆったりとした仕草で近付いた。
「んじゃ、はい──むむ」
 ヴィヴィアーナはエプロンを渡そうとした手を止める。そして、エリザベートの身体を矯めつ眇めつ眺めると手を引っ込めた。
「いや、君には必要ないよ」
「えっと、何でですか?」
「うむ、教えて進ぜよう。お菓子作りに必要なのは格好じゃないからさ。何よりも重要なのは──そう、心だ」
「心……なるほどわかりました~、ヴィヴィ先生」
 適当な教えを鵜呑みにしたエリザベートは、何の疑問も持たずに作業台に引き返して行く。
「許せ教え子よ。あの様な逸材を隠す事など私にはできぬ」

「参加してはみたけど、渡す相手なんか居ないのよね」
 エプロンを身に着けながらセリナ・アガスティア(ka6094)は思案気に呟いた。
「美味しくできたら、あの娘に作ってあげようかしら」
 血縁はなくとも妹に等しい探し人の顔を思い浮かべて、微笑みを零すセリナ。
「──その前にお説教だけど」
 しかし、その眼は笑っていない。
「ら、ラウラ、隣の人から何か黒いオーラが伝わってくるヨ?」
「きっと事情があるのよ。バリーが言ってた、女性は憎しみを背に隠しつつ愛情を胸に抱ける生き物だって」
「? どういう意味デスカ?」
「……わたしも良くわかんないけど。たぶん仲直りしたい相手が居るんじゃないかしら」
「そ、そうなんダ。大人の恋ってやつダネ」
 勝手な憶測を立てられているとも気付かず、セリナはマカロン作りに取り掛かり始めた。



「大体あの娘は連絡の一つも寄越さないで」
 探し人への愚痴を呟きながら、セリナは生地を混ぜる。
「私やおばあちゃんがどれだけ心配したと思ってるのよ。おばあちゃんなんか、一時期はご飯も喉に通らなかったっていうのに……!」
 考えれば考える程に苛立ちが募っていく。しかし、その一方で探し人にも事情があるのだとも理解していた。それに探し人の人生は決して順風満帆なものではない。
 幼い頃に両親を、多感な時期に想い人を歪虚に奪われた、過酷な生を辿って来たのだ。
「そりゃあ、あの娘も大変だったのはわかってるけど……」
 だが、一向に音沙汰のないせいで故郷を旅立つ羽目になったセリナからしてみれば、多少の文句も口にしなければやっていられない。
「私も大変なんだからね!」
「落ち着いて、生地が零れてるから!」
 力を入れ過ぎてボウルの中身を零している事にも気付かず一心不乱に掻き混ぜ続けるセリナだったが、慌てたラウラの声に我に返る。
「あはは……ごめんなさい」
 なにやってんだろ、私。内心で溜息を零すセリナだった。

「ナッツでもマカロンって作れんのかね?」
 持参したナッツを前にして思案するステラ。その後ろを通り掛かったヴィヴィアーナが講師らしく助言を口にした。
「ナッツを使うなら、荒めに砕いて生地に混ぜ込んだ方が良いかもね。その方が香ばしさと触感が引き出せるよ」
「──御助言ありがとうございます。では、そうしてみますねヴィヴィ先生」
 口調を整えて礼を返すステラ。その仕草は傍から見れば童話に登場する様な、可憐な少女そのものである。だが──
「うん、そうしたまえ。もう一人のチャレンジャー君」
「……何で男だってバレてんだ?」
 鼻歌を歌って去って行く彼女の背中を、ステラは訝しんだ表情で見送った。

「中々上手くいきませんね」
 絞り袋を使って生地を一口大の大きさに落とす作業に苦戦するナーディル。大きさがバラバラの生地を見て溜息を零す。
 心の籠った一品なら多少形が悪くともと思わなくもないが、未だ再会を果たせない彼女の恋人は菓子作りが得意で、彼の傍に居るといつも甘い香りがしていた。
 優しい彼の事だ。きっとどんな物を贈ったとしても、心から喜んでくれるだろう。けれど、どうせなら自分の気持ちが伝わる様に、美味しくて可愛い物を贈りたい。
「やはり、やり直すべきでしょうか」
 不揃いの生地を見て思い悩む彼女に、早々に作業を済ませたカッツが声を掛ける。
「いやいや、このままで良いんじゃねえのかな。形が揃ってるのが欲しけりゃ、市販品を買えば良い。色んな形があるのは、手作りの味ってやつだろ? 男は寧ろこういう手作り感ってのに愛情を感じるもんだと思うぜ? いや相手が男なのかはわからんし、俺なんかの意見が参考になるかも怪しいが」
「なるほど、いえ参考になりました。そうですね。これも私の味、変に飾らずありのままの方が、きっと気持ちが伝わるでしょう」
 ナーディルは頷いて、生地を乗せたトレイをオーブンへ入れた。

「あうー、生クリームが」
 エリザベートが生地を焼いている間に間に挟む生クリームを掻き混ぜていると、クリームが跳ねて豊満な胸に掛かった。
「おお、見よ。たわわに実った桃の園が純白の雪化粧に覆われる幻想的な光景を──地上に現出した桃源郷を!
 だがむべなるかな、そこに幾ら桃色の花びらを探そうとも、この世に倫理という壁が存在する限り見出す事は叶わないのだ。
 しかし案ずるな、我が同胞よ。哀しみの涙を拭いて、我々にのみ与えられた心眼を今こそ開眼せよ! さすれば見える筈だ。我々に不可能などない。妄想という名のサンクチュアリに座す我らの魂には、たとえ神であろうと干渉する事はできないのだから。
 ああ、この背徳的な果実のなんと甘い事か……」
「あの、ヴィヴィ先生? お願いだから隣で変な解説をするのを止めて、マカロンの作り方を説明して」
「思えば、これを見る為に私はこの教室を開いたのかもしれない──今、私の苦労が報われたよ……!」
「感涙しないで!」
 ラウラの懇願を無視して、ヴィヴィアーナはエリザベートに近付くとハンカチを差し出した。
「さあ教え子よ。これを使いなさい」
「あ、ありがとうございます~、ちゃんと洗って返しますから」
「いや、その必要はない。余計な──ごほん、そんな手間を君に取らせるわけにはいかないよ。これは私が責任を持って処理しておこう」
 クリームの付いたハンカチをエプロンのポケットに大切そうに仕舞うヴィヴィアーナを見て、ラウラは頭を抱えていた。
「もう駄目だわ、あの人」

 
「ん? なあラウラ嬢、このクリームはルーナ嬢にはちと甘過ぎやしねえか?」
「なにつまみ食いしてるのよ──これは良いの。これはルーナのじゃなくて、あの二人の分なんだから。ちなみにそれはキャロルの分ね。バリーのはこっちの抹茶のやつ」
「へえ、旦那方の分ね──そういや知ってるかい。あっちの世界じゃ、マカロンってのは『特別な人』に渡すもんなんだってさ」
 何やら悪戯めいた笑みを浮かべながら、雑学を披露するカッツ。
「ふうん、そうなんだ──じゃあ、あなたにもあげましょうか?」
「へ?」
 予想外のラウラの返事に、彼は狐に摘ままれた様な表情を浮かべる。
「何よ、その反応は。別におかしな事じゃないでしょ。わたしが関わった人はみんな、わたしにとって『特別な人』よ。あなたには、人攫いの件でお世話になったしね」
 事もなげにそう告げたラウラに対し、カッツは苦笑を浮かべつつ両手を上げた。
「降参だ、一本取られたよ。流石はお姫様、ニンジャなんかじゃ太刀打ちできねえ」
「? 変なの──うーん、あなたの分はやっぱり青色が良いかしらね、キャロルと被るんだけど」

「これをこうしテー、アレをこう♪」
 鼻歌交じりに手を動かすパトリシア。
「何してるの、パティ?」
 メレンゲにレモン汁を加えて硬さを調整して、三角錐状に丸めたベーキングペーパーへ流し込む彼女にラウラが話し掛ける。
「この丸めたのはコルネって言うんダヨ。これを使うと、こんな風にお絵描きができるのデス」
 焼き上がった色彩豊かなマカロン生地に、パトリシアはコルネを使って白い編み目を描く。
「ほんとだ。面白そうね、どうやるの?」
「まず、こうしてネ──」
 マカロンに絵を描く作業へ和気あいあいと取り組む二人の少女。仲の良い姉妹の様な彼女達を見て、セリナは溜息を零した──自分を姉の様に慕ってくれた娘を思い出しながら。
 犠牲者の多かった北伐作戦にも参加していたと風の噂で聞いた。怪我をしていないだろうか──それとももしかしたら……
「あーー、何考えてるのよ私は。今から悪い事ばっか考えたってどうにもならないでしょうが」
 悪い方へと流れていく心を払う様に頭を振って、クリームを生地の間に挟む作業を再開する。こういう時は単純作業に没頭して何も考えない様にするのが一番だ。

「うん、良い出来だわ」
 リボンを使って口を閉じたピンク色の袋を手に取り、ナーディルは満足気な笑みを浮かべる。
「ちょっと可愛くし過ぎたかしら? でもきっと彼なら喜んでくれるでしょう」
 可愛い物が好きだった恋人の趣味に合わせたラッピング。だが──
「──いつになったら渡せる日が来るのかしらね」
 未だ訪れぬ再会の日を夢見て、ナーディルは首元に提げた金色のロケットペンダントに手を触れた。

「良し、まあこんなもんだろ」
 フリルリボンをあしらえたラッピング。上々の出来栄えに、ステラは笑みを浮かべる。
「アザリーにはちっとばかし洒落過ぎるかもしんねえがな」
「ステラも終わったの?」
 ステラに声を掛けたのはラウラ。彼女の前の調理台には、それぞれ紫、青、緑のリボンを結んだ小袋が置かれている。
「三つだけか? あのニンジャにもあげるって言ってなかったか」
「さっき渡しておいた。まあ、それなりに喜んでたみたいね──相変わらずの胡散臭い態度だったけど」
 カッツの反応を思い出しながら、呆れた様にラウラは呟く。
「まあ、あれがあのニンジャの処世術なんだろ──そういうのには、俺にも覚えがないわけでもないしな」
「ふうん、そういうものかしらね。けど、そういうのって疲れないのかしら」
「疲れるさ、少なくとも俺はな。だから素で話せる相手ってのは貴重でね」
 と言ってステラが差し出したのは、赤いリボンを結んだ小袋。ラウラはそれを驚きの表情で見詰める。
「……もしかして、わたしにくれるの?」
「頑張ったご褒美ってやつさ、ああちゃんと人間用だから安心しろよ」
「ありがと……うれしい。ちゃんと味わって食べるからね」
 小袋を手に取って、ラウラははにかむ様な笑みを零す。
「そうしてくれると作った甲斐があるってもんだ。あー、そうだ。野郎二人にはこれを渡しておいてくれよ」
 次にステラが差し出したのは、半透明の小袋である。中にはいやに赤いマカロンが入っている。
「これ、なんだか凄く赤いけど、どうしたの?」
「特製唐辛子入りマカロンさ。可愛い女の子からって渡しておいてくれ」
「へえ、面白そうね。うん、任せておいて、ちゃんと渡しておくから」
 悪戯成分を含んだ笑みを交わし合うステラとラウラ。
 そんな二人にパトリシアが呼び掛けた。
「二人ともー、お紅茶を持って来たカラ、余ったマカロンと一緒にTea timeにしようヨ」
「お茶会か、そりゃ気が利いてるな」
「今行くわ、パティ」

 これより幕を開けるは、乙女達のまかろん・うぇすたん。
 爆ぜる火薬が、お砂糖に。飛び交う銃弾は、かしましいお喋りに。
 
 これより先は、男子禁制のまかろん・うぇすたん。
 この花園に迷い込んだ男達が、この後どうなったのかって? それはご想像にお任せしよう。

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重体一覧

参加者一覧

  • この手で救えるものの為に
    カッツ・ランツクネヒト(ka5177
    人間(紅)|17才|男性|疾影士
  • Rot Jaeger
    ステラ・レッドキャップ(ka5434
    人間(紅)|14才|男性|猟撃士
  • 美しき演奏者
    ナーディル・K(ka5486
    エルフ|27才|女性|疾影士
  • 金色のもふもふ
    パトリシア=K=ポラリス(ka5996
    人間(蒼)|19才|女性|符術師

  • エリザベート・アインナッハ(ka6051
    エルフ|17才|女性|魔術師
  • 旋雪の望み
    セリナ・アガスティア(ka6094
    人間(紅)|22才|女性|符術師

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/02/10 14:11:32