• 闇光

【闇光】【刻令】死地戦線

マスター:赤山優牙

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
6~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2016/02/15 22:00
完成日
2016/02/23 18:06

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●???
 その歪虚の名はネル・ベルと言った。
 傲慢に属する歪虚だ。黒大公ベリアルの配下でハンター達に討たれたフラベルという歪虚の部下であった。今は王国内に潜伏している。
「ブルダズルダの街では、ハンター達が一枚上手だった」
 悔しそうな口調でもなく、ただ事実を淡々とネル・ベルは口にする。
 傀儡であるフレッサ領主の勢力を広げようと思った陰謀だったのだが、思う様にはいかないものだ。
「しかし、件の事で、ブルダズルダの街の領主は失脚。結果的に王家派貴族を削ぐ事にはできたようです」
 歪虚に向き合っているのは一人の老人。
 かつては『戦慄の機導師』と呼ばれた凄腕のハンターだった。今は、彼自身の信条により歪虚の従者となっている。
 陰謀が失敗し、緑髪の少女が居なくなったという状況だが、歪虚の機嫌は良いように見えた。
「『虚月』……これの使い方を見極めないとな……」
 歪虚が三日月のように湾曲した妖刀を手にした。
 機嫌が良い理由は、東方から紆余曲折を経て、手に入れたこの刀の為だろう。
「……興味深い話しを耳にしました」
 オキナが少しの間の後に口を開く。
「北伐から続く戦いで人間の兵器が多数破壊されています。それを回収するという事なのです」
「その情報は私の所にも来ている。レチタティーヴォの置き土産というな……」
 フレーベルニンゲン平原には多くのユニットの残骸がそのままになっている。
「残骸には興味はない……だが、レチタティーヴォの残ったマテリアルは気になる所の一つだ」
 スッと背筋を伸ばして歪虚は歩き出す。
「『聖火の氷』についての情報収集は貴様に任せる。私が戻ってくるまでにまとめておくのだな」
「畏まりました」
 歪虚は行くつもりなのだ。
 なにかを得る為に、フレーベルニンゲン平原へと。

●フレーベルニンゲン平原はずれ
 激戦が繰り広げられた戦域の端の方にCAMの残骸が転がっていた。
 小隊が全滅しただの、使えない部品の一時倉庫だったのがそのままになっただの、どこぞの歪虚が持ち込んだだの色々な噂がある場所だ。
「聞いたかよ。なんでも歪虚が狙ってるらしいぜ。CAMをよ」
 民間作業員が手作業で残骸を確認しながら同僚に話しかけた。
「他の所には出たってな」
「まぁ、ここにはでねぇべ」
 見渡す限り様々な残骸を打ち捨てられている。
 大破状態の機体すらない。
「もう、いいよ。適当に部品っぽいのを集めて帰ろうぜ」
 作業員は連日の疲れからそんな言葉を言い放った。
 使える部品がないのかあるのか、一つ一つ確認し、それをロッソへと向けて送っているのだ。
 だが、専門技術があるわけでもなく、そもそも、この世界の住民である彼らには、どれが使えてどれが使えないのか、いまいち判断が難しい。
「今日も冷え込んで来たからな」
「そうだな……。向こうにいるハンター達にも声をかけてくるか」
 作業員が視線を上げた先にも同じように回収作業を行っているハンター達がいる。
 護衛も兼ねているが、ここに歪虚が出るという話しはほぼないので、実質回収要員だ。
「お……おい! あれ、なんだ!」
 別の作業員が唐突に指を差した。
 一斉にその方角を見つめた作業員達は信じられない光景を見た。
「な、な、なんだありゃ!」
「反則だぞ!」
「に、逃げるんだ! ハンター達にも伝えろ!」
 作業員達の視線の先。
 数々の部品が舞っていたそれらが集まっていくと、CAMのような機体へと姿を変えていった。
 歪虚の仕業に違いない。作業員達は寒い中集めた回収品をぶちかましながら逃げ出した。

●音鐘は誰の為に鳴る
 作業員達は全員無事に戦闘区域から脱出したようだ。
 次はCAMモドキを引きつけていたハンター達が、逃げる番だ。
「レチタティーヴォ……やっかいな事を。だが、私にとっては好都合だ」
 高くそびえ立つ残骸の上で、歪虚ネル・ベルがニヤリと笑ってハンター達の逃走をみつめる。
 一人のハンターが反撃した。
 その攻撃は確かにダメージを与えたはずだ。CAMモドキの部品が吹き飛んだ。
 だが、次の瞬間、違う場所から飛んできた部品が飛来してCAMモドキと繋がる。
「なるほど。部品自体に憑依して集合すれば、部品がある限り、再生は可能か」
 冷静にそんな事を観察するネル・ベル。
 部品とレチタティーヴォの『残りカス』がある限り、無敵に近いだろう。
「……もっと、近くで見る必要があるな。かと言って、さすがに私一人では、な……」
 しばしの逡巡の後、ネル・ベルは思った。
 ハンター達を生かさせておけばいいのだ。隙をみて『残りカス』を確保できれば、尚のよし。
「どれ、手伝ってやるか」
 逃避を続けるハンター達の前に歪虚ネル・ベルが現れ、逃亡を手助けすると言いだしたのは、この直後の事であった。

リプレイ本文

●撤退戦
 射撃で吹き飛んだCAMモドキの二の腕。
 飛来してきたのは新たな腕とライフルが融合した物体だった。
「CAMの暴走……ちょっと厄介な事態に巻き込まれたみたいだけど、まずは、ここから離れて倒せる場所まで誘導しないとだね」
 シェラリンデ(ka3332)がCAMモドキの動向を注視しながら呟いた。
 どこにレチタティーヴォ人形が張り付いているのか、可動域の動きが悪くなる所はないかと。
 CAMモドキがライフルを構えた。その動きを見て、サッと立ち位置を変えたアルラウネ(ka4841)が呟く。
「これはちょっと厳しいわね」
 相手の攻撃はこちら側を確実に蝕んでいるのに、こちら側の攻撃はほぼ無効だからだ。
 放たれた射撃は、幾何学模様の角が美しい歪虚に直撃する。
「貴様、私を盾にしているつもりか?」
「頼りにしてるのよ~」
 歪虚ネル・ベルの言葉にアルラウネは満面の笑みで答えた。
 逃亡を手助けするという事で割って入ってきたが、この歪虚ですら、今のCAMモドキには敵わないようだ。
(何か裏がありそうだし、警戒はしておいた方がいいかな)
 視界内に歪虚を捉えながらアイビス・グラス(ka2477)が心の中で思った。
 でなければ、歪虚という存在が人間の手助けをするとは思えない。
「距離を詰めるのも早い!」
 一気に距離を詰めて長大なCAM刀で薙ぎ払うのを上体をのけぞらして避けるアイビス。
 直線的な動きは全力で走ったハンター達を遥かに凌ぐようだ。
「だけど、旋回性能は良くないみたいだ」
 アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)が魔導拳銃でCAMモドキの武器を狙う。
 向きを変えたりするのは、苦手のようだ。だが、それとて、弱点と言える程でもない。本来のCAMの可動域を無視して、腕や足の関節が動くからだ。
「全員、後退方向を合わせて」
 仲間達に呼び掛ける。バラバラに逃げては各個撃破されるだけではなく、反撃する際に不利になるからだ。
 了解の声をあげて、リンカ・エルネージュ(ka1840)が必死に走る。流れる銀髪の先端から氷色の光が零れた。
(今回は素早い子が多いから……うっかり置いていかれないようにしないと!)
 距離を取った所で振り返ると、魔法剣を掲げて土壁を出現させる。
 足元から出現した土壁に身体を隠しながら別の魔法を唱え始めるリンカ。
「カズマさん、離れて!」
「分かった」
 殿を勝手出た仲間に呼び掛ける。
 CAMモドキが振るった刀を受け流して、龍崎・カズマ(ka0178)が離れる。
 そこへ、リンカが放った魔法が冷気の嵐となって吹き荒れた。
「動きが……弱まったのか?」
 ミラーで背後を確認しながら走るカズマ。
 緩慢な動きで銃口をハンター達の方向へ向けようとしているが、明らか遅い。
 そこへ飛来してくるCAMモドキのパーツ。
「壊していないのに……違う、あれは、弾倉!?」
 見上げていたシェラリンデが口にした言葉に、仲間達に向かってカズマが叫ぶ。
「伏せろぉ!」
 だが、一瞬の事だった。
 飛来してきた弾倉の塊にCAMモドキが放った銃撃が直撃。ハンター達の頭上で大爆発を起こした。
 カズマはマテリアルの輝きを全身から発しながら破片の嵐から逃れるが、全員がまともに浴びる。
「ボクも甘いな……」
 十分に警戒していたはずだが、この様な手を使ってくるとは予想にもしなかった。
 効果が有効と認めたのだろうか、第2波の弾倉が飛来する。初撃で体勢が崩れたハンター達には危険なタイミングだった。
「『残りカス』の分際で!」
 白銀の翼を煌めかせてネル・ベルが弾倉に跳びかかろうとした。
 だが、それよりも先にCAMモドキの銃撃。歪虚の近くにいたアルラウネは咄嗟に自身の頭を腕で覆った時、唄のような少女の声が聞こえた気がした。
(……ノゾミちゃんの声!?)
 銃撃が外れたのか誘爆しなかったのか、その弾倉は爆発しなかった。ネル・ベルは渾身の力で弾倉を吹き飛ばした。
「今のうちに、早く!」
 アイビスの呼び掛けに体勢を整えると、一行は再び走り出した。

●CAMモドキ破壊
「協力してくれるのはいいけど、インキュバスさんの名前は何て言うのかしら?」
 アルラウネがそう言いながら歪虚にチョコを渡した。
「あれと一緒にするな。この私の高貴なる名は『ネル・ベル』だ。よく覚えておくがいい」
 チョコレートを受け取ったネル・ベルの表情は硬い。
 色々と理由はあるが、一番の理由はこちらに向かってくるCAMモドキの為だろう。
「部下とかはいないの?」
「貴様らがいるだろう」
 そんな会話の中、カズマもチョコレートを受け取りながら仲間達を見回した。
「結構やられたな」
 単発の攻撃を凌ぐ分はましだった。
 だが、誘爆による攻撃は確実にハンター達にダメージを重ねていたのだ。彼自身は疾影士の術でなんとか切り抜けてはいるが……。
「ここからが本番だね」
 体内のマテリアルを活性化させて傷を癒しているのはシェラリンデだった。
 長期戦の時は、この術が有効だという事を、彼女は過去での依頼から経験していた。今回もそれが生きている。
 残りのメンバーの怪我の状態は芳しくない。こういう時は、聖導士が持つ回復の力が欲しくなる。
「でも、ここから反撃さ」
「私達の強さ、見せつける」
 アルトとアイビスが其々、獲物を構え直した。
 ハンター達は残骸がない所まで逃げてきた。ここなら、別のパーツが飛来してくる事はないだろう。
 故に、ダメージを与え続ければ倒せるはずなのだ。
「上体の方を狙うから、範囲に入らない様にね!」
 元気なリンカの声が響いた。
 サイズが大きいので、強力な範囲魔法を調整して放つ事ができるからだ。

 CAMモドキが長大な刀を振りまわす。
 ハンター達はそれを避け、あるいは、受け流す。
「まずは、脚から狙わせてもらうわ」
 滑らかな体捌きを見せながら、アルラウネが大太刀で連続に斬りつけた。
 硬い装甲に阻まれるが手応えはある。
 脚が集中的に狙われると悟ったのか、CAMモドキが回避行動を取ろうとした所をシェラリンデが放ったワイヤーが絡みついて動きを阻害した。
「逃がさないからね」
「兵は逃がした、武器もある。血は多少足りねぇが、まぁ、支障はない。なんだ、良いコンディションじゃねえか」
 カズマがニヤリと口元を緩めながら刀を突き出した。
 狙い違わず、脚の装甲部分を弾け飛ばす。絶好の攻撃チャンスの所で、アイビスが跳び込んだ。
「今までの鬱憤、一気に叩き込んであげるわ!」
 剥き出しとなった脚に拳を叩き込む。
 ただの拳ではない。彼女用にカスタマイズされた特殊な格闘武器の拳だ。衝撃の振動と相まって、脚が吹き飛んだ。
 バランスが崩れ傾くCAMモドキの上体に冷気を纏ったマテリアルが輝きだす。リンカが唱える魔法の為だ。
「……氷よ、切り裂く氷の嵐となり、全てを凍てつかせて!」
 冷気が吹き荒れ、CAMモドキを包む。
 両腕の動きが弱まった隙を見逃さず、残ったもう片方の脚を狙ってアルトとネル・ベルが同時に駆け出す。
 歪虚が先に斬りつけて装甲を剥がすと、左右の手に持った剣を交差させた。
「借りるよ!」
 苦し紛れに反撃してきたCAMモドキの刀を避け、歪虚が交差させた剣の刀身に壁代わりにし、体勢を整えるアルト。
 マテリアルの光跡を残しながら刀を目にも止まらぬ速さで振るう。

 大響音と共に崩れ落ちるCAMモドキ。
 両脚を失い、地面に転がったが、両腕に持つ武器で執拗に反撃してくる。
 それの勢いは囲っているハンター達へ確実にダメージを重ねていった。そんな中、ふと、無防備に立ちつくすネル・ベル。危険を察知してアイビスがCAMモドキと歪虚の間に割って入った。
「幾ら何でも無用心すぎないかしら? 歪虚だって完全無敵って訳じゃないんでしょ?」
「無用心? そうだな。貴様らほどではないがな……さぁ、強者が命じる。もう片方の手と自爆すると良い」
 傲慢の歪虚が使える特殊な能力【強制】をネル・ベルは使った。
 意識を強く持ち、【強制】に備えるアイビス。だが、彼女自身にはなにも起こらなかった。
「マズイ、離れろ!」
 カズマの声で振り返ったアイビスが見たのは、CAMモドキが手に持つ刀で、もう片方の手に持つ銃を叩きつけようとしている光景だった。【強制】の能力は刀を持つ腕に向けられたようだった。
 刀からは負のマテリアルが強く発せられている。

 次の瞬間、大爆発を起こした。
 残っているのは、胴体だけとなったCAMモドキだった。

●歪虚ネル・ベル
「大丈夫?」
「思った以上に、ダメかも……」
 シェラリンデが地面に伏したアルラウネを抱え起こした。アルラウネは撤退している時のダメージが蓄積された所を先程の爆発に巻き込まれたのだ。
 爆発に巻き込まれのはアルトも同様だ。
 刀を杖代わりに立ち上がるとCAMモドキを確認する。
 もはや、胴体だけになっていたそれは、微動しているが、もう、脅威ではないようだ。これだけでは何の役にも立たないだろう。
「さて、邪魔者はいなくなった……今回は互いに収穫なしで諦めないか?」
 だからアルトは、振り返って歪虚に提案してみた。
 歪虚も撤退戦から続く戦いで消耗が激しいようだ。
「戦いは終わってないぞ。奪い合いはこれからだ」
 CAMモドキを爆発させたのはハンター達の戦力を削ぐ事も兼ねての事だろう。
「助けてくれてありがとう。でも、何を企んでいるの?」
 魔法剣を歪虚に向けながらリンカが訊ねた。
 歪虚は動かなくなったCAMモドキに一度視線を向けてから言い放った。
「答える必要はない、な。私はこの『残りカス』を頂く」
 その言葉にアイビスが拳を握り締め直す。
「助けて貰ったのは感謝するけど、それとはまた別問題だからね」
「ここからが本当の戦いだ! 強者どもよ!」
 歪虚は叫ぶと同時に自身を中心として炎を爆発させる。
 ダメージを受ける事を承知の上で、アイビスとアルトが同時に襲いかかった。それを左右の剣で受け止める歪虚。
「これなら!」
 リンカがいくつもの水球を創りだすと、それらは水の光跡を残しながら歪虚へと飛ばす。
 二人の疾影士への対応で避けれず、歪虚は水球を避けれず、直撃した。
「そういえば、貴様は、あの狼煙台での借りがあった、な!」
 両角の間に炎が渦巻く。
 それは後方から魔法を打っていたリンカに向かって放たれる。射線上にアルトが居たのは、ある意味、幸運だったかもしれない。
「リンカ!」
 咄嗟に庇ったが庇いきれず、炎渦はリンカを直撃した。蓄積されていたダメージもあって、倒れるリンカ。
 だが、アルトが庇ったおかげで威力が下がったのだろう。地面に倒れたリンカは息をしているようだ。
「強者が隙を見せるのはいかがなものかな」
 振り返ると歪虚が次の一撃をアルトに向かって繰り出そうとしていた。
「させないよ!」
 そこをアイビスが割って入った。強烈な長剣の一撃を拳で受け止め――きれず、吹き飛ぶ。
 何度が地面を跳ねて止まったアイビスは、よろよろと立ち上がる。戦えないというわけではないが、今の状況で、この歪虚と戦うには危険かもしれない。
 仲間の怪我を確認して、ギュっと唇をかむアルト。
「まだ……届かない。守るために全てを殺せる強さが必要なのに、ボクはまだ届かないというのか」
 愛刀を歪虚に向けた。もはや、身体はボロボロだ。まともに立っているのも不思議な程だ。
 これ以上の歪虚の追撃は無かった。先程の攻撃もアイビスが庇う事を想定してのものだったのだろう。
「私はいつでも待っているぞ、アルト」
 歪虚が勝ち誇った表情で口を開いた。
 戦闘の事ではない。契約して堕落者とならないかという誘いの事だ。
「ボクは歪虚には絶対にならない」
「そう言いながら、我らの仲間になった人間を私は多く知っているがな」
 そんな二人の会話を遮るように、サッと、目の前にカズマが間に割って入る。
 その横に、アルラウネを退避させたシェラリンデも並んだ。
「間違えんな、目的はあくまで脱出だ」
 カズマの言葉にアルトは冷静に頷いた。
 もはや、戦闘状態が継続できる状況ではないのは明らかだ。アルラウネとリンカは誰かの助け無しでは脱出は困難だろうし、アイビスとアルトも体力の限界を迎えつつある。
 スキルを打ち尽くしマテリアルも枯渇しかけている。
「この私から逃れられると思ったか? それとも、貴様が殿にでもなるつもりか?」
「なに、男は一人位消えようが、人間と言う種には然してダメージにはならん」
 歪虚の言葉に不敵な笑みで答えるとカズマは仲間達を一瞬、振り返って言った。
「だが、女はそうはいかねぇ。未来を考えれば、生き残るべきは彼女らさ」
「ボクもそう思うね」
 爽やかな顔付きでシェラリンデも追随すると、ワイヤーを構え直した。
 退避戦で傷を抑えたカズマと体内のマテリアルを活性化させ体力を回復していたシェラリンデはまだ戦える。掩護役のシェラリンデが歪虚の動きを阻害し、カズマが強力な一撃を与え続ければ、十分勝機はある。
 歪虚も戦える様子ではあるが、かなり消耗しているのは見た目でも十分分かっていた。それでも油断ならない。遠距離攻撃や瞬間移動で後退する仲間を狙われたらただでは済まないだろう。
「……お互い打つ手なしか」
 ネル・ベルが発した台詞にカズマは刀を地面に突き立てた。
「俺達はこのまま脱出する。だが、追撃するなら容赦しない」
「ふむ……譲歩するというのか」
「今この場でってのは個人感情以外に理由はねえだろ」
 鋭い金色の眼差しを歪虚に向けカズマはそう告げた。
「……果たして、このまま戦っていたら、勝者はどっちだったかな。貴様の判断は正しいだろう」
 ネル・ベルは手にしていた長剣を手放した。乾いた音を立てて地面に落ちると塵となって消える。
 コインの表裏を賭けるようなものだったかもしれない。もしかして、この歪虚を倒せたかもしれない。
 だが、ハンター達に致命的な事も起こり得た可能性も高い。
「金眼の人間、貴様の名を聞こう」
「……龍崎・カズマだ」
「覚えておこう」
 歪虚は白銀の翼を広げると、胴体だけとなったCAMモドキを抱えて、空へと飛翔していく。
 戦いは終わったのだ。カズマはシェラリンデと顔を見合わせ頷くと、傷ついた仲間の元へと駆け寄ったのだった。


 おしまい。


●???
 レチタティーヴォの『残りカス』に宿っていた負のマテリアルを喰らい、角折の歪虚が上機嫌な様子で一本の刀を眺めていた。
 得たマテリアルの量は多かったわけではない。それでも成長の糧にはなるだろう。だが、そんな事はもはや、この歪虚にとってはどうでもいい事だ。
 それよりも――。
 三日月を思わすような曲刀を掲げ、内側の空間に現れた映像に満足していた。
「『虚月』……素晴らしい能力だ」
 映し出されている光景の中には――CAMモドキが疾走していたのであった。

依頼結果

依頼成功度成功
面白かった! 6
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

  • 虹の橋へ
    龍崎・カズマka0178
  • 青炎と銀氷の魔術師
    リンカ・エルネージュka1840

重体一覧

参加者一覧

  • 虹の橋へ
    龍崎・カズマ(ka0178
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士
  • 青炎と銀氷の魔術師
    リンカ・エルネージュ(ka1840
    人間(紅)|17才|女性|魔術師
  • 戦いを選ぶ閃緑
    アイビス・グラス(ka2477
    人間(蒼)|17才|女性|疾影士
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • 【魔装】花刀「菖蒲正宗」
    シェラリンデ(ka3332
    人間(紅)|18才|女性|疾影士
  • 甘えん坊な奥さん
    アルラウネ(ka4841
    エルフ|24才|女性|舞刀士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/02/10 15:58:10
アイコン 華麗なる質問卓
ネル・ベル(kz0082
歪虚|22才|男性|歪虚(ヴォイド)
最終発言
2016/02/14 08:35:43
アイコン 相談卓
シェラリンデ(ka3332
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2016/02/15 21:41:51