ゲスト
(ka0000)
節分に泣いて拗ねた女鬼アオユキ
マスター:鳴海惣流

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/02/16 12:00
- 完成日
- 2016/02/21 20:22
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
――女鬼のアオユキは、空を見上げていた。
日中の太陽が嘘みたいに消え失せ、寒くなった夜風を肌に浴びながら、真っ暗な世界で体育座りをしている。
グラズヘイム王国ラスリド領。王国北東部――フェルダー地方に存在する領内のとある小さな田舎村リーラン。村というよりは集落と呼んだ方が相応しい規模である。
夜の闇が深くなった現在、村を歩き回る人間は誰もいない。だが、シンと静まり返ってるわけでもない。
豊かな木々を揺らすように風が吹き、アオユキの前髪を揺らす。導かれるように視線を前方の家に移動させれば、中から楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
そこはアオユキが世話になっている刀匠ドリューの家だった。ドリューには娘がいる。エリーという名前で、少し前まで鬼嫌いだった少女だ。
今ではすっかり仲良くなった。アオユキはそう思っていた。しかし、とある一日がすべてを破壊してしまった。
――節分という日が。
節分に関する情報を得たエリーは、同じ家で暮らすソニア、血は繋がっていないが姉のように慕う少女に是非、豆まきをやりたいと訴えた。
父親のドリューも娘には甘いが、ソニアも甘い。二つ返事で了承し、豆まきをやることになった。
鬼に豆をぶつけて、外へ追い出すという悪夢のイベントを。
「アタシが……アタシが何をしたっていうんだ……この仕打ちは……あんまりじゃないか……」
溢れそうになる涙を堪えるため、アオユキはまた空を見上げた。
豆まきをするにあたって、鬼役――というか鬼だったアオユキは瞬く間に標的にされた。
豆をぶつけられ、追い回され、鬼は外という掛け声とともに家から追い出された。
それから三十分。アオユキはまだ家に戻るのを許されていない。
冬空の下、ポツンとひとりでいるのはあまりにも寂しい。旅をしていた頃は、こんなふうに思ったりしなかった。この村で知り合ったエリーやドリューと過ごすようになった影響だろうか。
温かい部屋で笑顔のエリーとお喋りをしながら、楽しいひと時を過ごす。他愛もない時間が、こんなにもアオユキにとって大切なものになっていたのだと今になって気づいた。
「な、なあ、エリー。そろそろ中に入れてくれよ!」
立ち上がったアオユキは、おもいきって家の中にいるエリーに声をかけてみた。何度も扉を叩き、自分の存在を思い出してくれとアピールする。
けれど中から放たれた言葉は、あまりにも無慈悲だった。
「ごめんね。家の中に福を入れたばかりだし、日付が変わるまでは我慢してね」
アオユキは立ちくらみを覚えた。日付が変わるまで、あと数時間もある。申し訳程度に貸し出されている毛布一枚で、耐え続けろというのか。
家の前で膝をつき、両手で土を掴む。
「どうして福は家の中に入れてもらえて、アタシは駄目なんだ……!」
節分なんて日がなければ、仲良く生活できていたのに。そう考えると、とても悔しくなる。
「大体、どうして鬼だけが豆をぶつけられなければならないんだ。不公平じゃないか!」
忌々しげにそう言ったあとで、アオユキは気付く。
そうだ。人間に豆をぶつければいいんだ。そして、アタシの悲しみを少しでも知ってもらおう。
「エリー、今からアタシは鬼になる。……いや、もう鬼だけど」
言いながらアオユキは、ぶつけられたまま地面に転がっていた豆をひとつずつ拾っていく。
人間へ逆襲するために――。
●
「なーんちゃって。ごめんね。ちょっと意地悪してみました……って、あれ?」
家の中に入れてくれと言われたあとすぐ、エリーは自分の言葉を撤回しつつ扉を開けた。もちろん、外で寂しい思いをしているアオユキを迎えるためだ。
けれど家の外には、アオユキの影も形もなかった。周囲を見渡しても目的の女鬼を発見できなかったエリーは涙目になる。
「もしかして、怒って家出しちゃったの? ごめんなさい。いくらでも謝るから、帰ってきてよぉ」
泣きだしたエリーに反応するかのように、家の裏側にある茂みで何かが動く音がした。
それからすぐ、今度はアオユキの声が周囲に響いた。
「悪いけど、そうはいかない。アタシの辛さをエリーにも味わってもらう」
「うん、わかった。私が悪いんだもん、当然だよ。ごめんね」
「……ええっと、あの、その……」
「ちゃんと怒られるから、帰ってきて。せっかく仲良くなったのに、お別れは嫌だよ。やりすぎたのは謝るから」
「いや、そんなに泣かれると……あうう、そ、そうだ。じゃあ明日、アタシと勝負だ。それでエリーが勝ったら帰るよ。それでいいだろ」
「勝負?」
「指定した日の午前中に、同じく指定したコースを歩いてもらう。ゴールするまで、エリーがアタシに一回……じゃ少ないか。三回、豆をぶつけられなければ勝ちだ。いいね?」
頷いたエリー。涙はだいぶ乾きつつある。
そんなエリーの背後。家の中から音もなくドリューが姿を現した。
「話は聞いていたよ、エリー。確かにお前は意地悪をしすぎた。けれど、アオユキも大人気がなさすぎる。そこで、パパが秘密兵器を貸そう」
「秘密兵器?」
エリーが首を傾げた。
「これは試作豆鉄砲ハート。ハンドガンを改良し、弾丸の代わりに豆を使ったものだ。それでも、一般人を狙って撃ったら駄目なほどの威力がある。それでアオユキを返り討ちにするんだ。そうすれば結果的に豆をぶつけられず、お前の勝ちになる」
「そっか。パパ、頭いいね」
「もちろんだとも。ああ、そうだ。ハンターにも依頼を出しておこう。大人気ない女鬼を懲らしめたいという依頼をね」
「さ、さすがにやりすぎだろ! なんだ、その凶悪な豆鉄砲とやらは。それにハンターまで連れてこようとするなって!」
アオユキの声が震える。
「これでアオユキ対策は完璧だ。エリーが勝ったあとで、改めて仲直りの豆料理パーティーでもすればいい。大量の豆を使うだろうからね」
「うんっ!」
ドリューの提案に、元気よくエリーが頷く。
えらいことになったと隠れている茂みの中で震えるアオユキを、窓から憐れみを含んだ目でソニアが見つめていた。
――女鬼のアオユキは、空を見上げていた。
日中の太陽が嘘みたいに消え失せ、寒くなった夜風を肌に浴びながら、真っ暗な世界で体育座りをしている。
グラズヘイム王国ラスリド領。王国北東部――フェルダー地方に存在する領内のとある小さな田舎村リーラン。村というよりは集落と呼んだ方が相応しい規模である。
夜の闇が深くなった現在、村を歩き回る人間は誰もいない。だが、シンと静まり返ってるわけでもない。
豊かな木々を揺らすように風が吹き、アオユキの前髪を揺らす。導かれるように視線を前方の家に移動させれば、中から楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
そこはアオユキが世話になっている刀匠ドリューの家だった。ドリューには娘がいる。エリーという名前で、少し前まで鬼嫌いだった少女だ。
今ではすっかり仲良くなった。アオユキはそう思っていた。しかし、とある一日がすべてを破壊してしまった。
――節分という日が。
節分に関する情報を得たエリーは、同じ家で暮らすソニア、血は繋がっていないが姉のように慕う少女に是非、豆まきをやりたいと訴えた。
父親のドリューも娘には甘いが、ソニアも甘い。二つ返事で了承し、豆まきをやることになった。
鬼に豆をぶつけて、外へ追い出すという悪夢のイベントを。
「アタシが……アタシが何をしたっていうんだ……この仕打ちは……あんまりじゃないか……」
溢れそうになる涙を堪えるため、アオユキはまた空を見上げた。
豆まきをするにあたって、鬼役――というか鬼だったアオユキは瞬く間に標的にされた。
豆をぶつけられ、追い回され、鬼は外という掛け声とともに家から追い出された。
それから三十分。アオユキはまだ家に戻るのを許されていない。
冬空の下、ポツンとひとりでいるのはあまりにも寂しい。旅をしていた頃は、こんなふうに思ったりしなかった。この村で知り合ったエリーやドリューと過ごすようになった影響だろうか。
温かい部屋で笑顔のエリーとお喋りをしながら、楽しいひと時を過ごす。他愛もない時間が、こんなにもアオユキにとって大切なものになっていたのだと今になって気づいた。
「な、なあ、エリー。そろそろ中に入れてくれよ!」
立ち上がったアオユキは、おもいきって家の中にいるエリーに声をかけてみた。何度も扉を叩き、自分の存在を思い出してくれとアピールする。
けれど中から放たれた言葉は、あまりにも無慈悲だった。
「ごめんね。家の中に福を入れたばかりだし、日付が変わるまでは我慢してね」
アオユキは立ちくらみを覚えた。日付が変わるまで、あと数時間もある。申し訳程度に貸し出されている毛布一枚で、耐え続けろというのか。
家の前で膝をつき、両手で土を掴む。
「どうして福は家の中に入れてもらえて、アタシは駄目なんだ……!」
節分なんて日がなければ、仲良く生活できていたのに。そう考えると、とても悔しくなる。
「大体、どうして鬼だけが豆をぶつけられなければならないんだ。不公平じゃないか!」
忌々しげにそう言ったあとで、アオユキは気付く。
そうだ。人間に豆をぶつければいいんだ。そして、アタシの悲しみを少しでも知ってもらおう。
「エリー、今からアタシは鬼になる。……いや、もう鬼だけど」
言いながらアオユキは、ぶつけられたまま地面に転がっていた豆をひとつずつ拾っていく。
人間へ逆襲するために――。
●
「なーんちゃって。ごめんね。ちょっと意地悪してみました……って、あれ?」
家の中に入れてくれと言われたあとすぐ、エリーは自分の言葉を撤回しつつ扉を開けた。もちろん、外で寂しい思いをしているアオユキを迎えるためだ。
けれど家の外には、アオユキの影も形もなかった。周囲を見渡しても目的の女鬼を発見できなかったエリーは涙目になる。
「もしかして、怒って家出しちゃったの? ごめんなさい。いくらでも謝るから、帰ってきてよぉ」
泣きだしたエリーに反応するかのように、家の裏側にある茂みで何かが動く音がした。
それからすぐ、今度はアオユキの声が周囲に響いた。
「悪いけど、そうはいかない。アタシの辛さをエリーにも味わってもらう」
「うん、わかった。私が悪いんだもん、当然だよ。ごめんね」
「……ええっと、あの、その……」
「ちゃんと怒られるから、帰ってきて。せっかく仲良くなったのに、お別れは嫌だよ。やりすぎたのは謝るから」
「いや、そんなに泣かれると……あうう、そ、そうだ。じゃあ明日、アタシと勝負だ。それでエリーが勝ったら帰るよ。それでいいだろ」
「勝負?」
「指定した日の午前中に、同じく指定したコースを歩いてもらう。ゴールするまで、エリーがアタシに一回……じゃ少ないか。三回、豆をぶつけられなければ勝ちだ。いいね?」
頷いたエリー。涙はだいぶ乾きつつある。
そんなエリーの背後。家の中から音もなくドリューが姿を現した。
「話は聞いていたよ、エリー。確かにお前は意地悪をしすぎた。けれど、アオユキも大人気がなさすぎる。そこで、パパが秘密兵器を貸そう」
「秘密兵器?」
エリーが首を傾げた。
「これは試作豆鉄砲ハート。ハンドガンを改良し、弾丸の代わりに豆を使ったものだ。それでも、一般人を狙って撃ったら駄目なほどの威力がある。それでアオユキを返り討ちにするんだ。そうすれば結果的に豆をぶつけられず、お前の勝ちになる」
「そっか。パパ、頭いいね」
「もちろんだとも。ああ、そうだ。ハンターにも依頼を出しておこう。大人気ない女鬼を懲らしめたいという依頼をね」
「さ、さすがにやりすぎだろ! なんだ、その凶悪な豆鉄砲とやらは。それにハンターまで連れてこようとするなって!」
アオユキの声が震える。
「これでアオユキ対策は完璧だ。エリーが勝ったあとで、改めて仲直りの豆料理パーティーでもすればいい。大量の豆を使うだろうからね」
「うんっ!」
ドリューの提案に、元気よくエリーが頷く。
えらいことになったと隠れている茂みの中で震えるアオユキを、窓から憐れみを含んだ目でソニアが見つめていた。
リプレイ本文
●
依頼を受けて村へ入るなり、依頼を受けたハンターのひとり、エルバッハ・リオン(ka2434)はため息をついた。
「アオユキさんの行動は大人げないとは思いますが、それ以上にエリーさんの悪戯は度が過ぎていると思いますね」
どこかなだめるような口調で、ユピテール・オーク(ka5658)が応じる。
「エリーちゃんはきっと、節分の原型ともいうべき追儺の事なんて知らないんだろうねぇ~。知ってたら、少なからず友人相手にそこまで意地悪したりはしないだろうしさ」
「とはいえ、依頼を放り出す訳にもいきませんので、エリーさんの護衛につきましょうか」
エルバッハの発言に対して、アオユキと同種賊で鬼の恭牙(ka5762)が軽く肩を竦める。
「やれやれ、節分というのもなかなかに大変だな」
そのあとで、同じく鬼の百鬼 雷吼(ka5697)が宣言するように他のハンターへ告げる。
「俺はアオユキ側につくぜ。大人げないと言われても、俺達鬼族にとっちゃこれが初めての節分だ。予備知識が無い状態で、この扱いはな」
「とりあえず依頼主には悪いが、私もアオユキ殿の味方をさせてもらおう。楽しく場を盛り上げられればよいが、とりあえず鬼としては同族を、だからな」
恭牙もまた、雷吼と同様にアオユキ側へつくのを決めた。
「それに俺は陰陽師の流れを汲む符術師だ。節分の由来についても知っているから尚更な」
改めて雷吼が言い、ハンターの中でのチーム分けがなされた。
エルバッハとユピテールが当初の予定通りにエリーの護衛を行い、雷吼と恭牙が同じ鬼族であるアオユキに味方をすることになった。
■
護衛をすると決めたエリーの家に、エルバッハとユピテールが到着した。
ドアをノックし、出迎えてもらうと居間へ案内された。
そこにはエリーだけでなく父親のドリューと、エリーが実の姉のように慕うソニアがいた。
促されて食卓の椅子に座ったエルバッハが、最初にエリーへ挨拶をする。
「初めまして、エルバッハ・リオンです。よろしければ、エルと呼んでください。よろしくお願いします」
ユピテールも一緒に自己紹介をすると、エリーがにぱっと笑った。
「エルお姉ちゃんとユピテールお姉ちゃんだね。よろしくお願いします」
居間にある食卓の椅子に座ったままで、エリーが頭を下げた。
その様子を見て頷いたあとで、エルバッハは再びエリーに声をかける。
「エリーさん、少しお話ししてもよろしいですか?」
「なあに?」
「今回の件はいろいろと原因があったと伺っています。しかし、最初にエリーさんがアオユキさんにされた悪戯については、この勝負が終わってすぐに、あらためて謝罪した方が、今後のためにも良いのではないかと思います」
神妙な顔つきになったエリーが「うん」と顔を上下に振る。エリーなりに思うところがあったらしく、エルバッハの助言もすぐに受け入れてくれた。
「エリーもね、やりすぎだと思ってたから、またアオユキお姉ちゃんに謝る」
「それがいいよ。誰から豆まきのやり方を聞いたかは知らないけど、聞いた話では確かにやりすぎに感じたからね」
ユピテールが言うと、それまで黙っていたソニアがエリーの代わりに口を開いた。
「エリーちゃんが節分の話をどこからか聞いてきたあと、豆まきのやり方を説明したのはドリューさんです」
「――ま、まあ、その辺はいいじゃないか」
話題を逸らすように大きな声を出したドリューは、お茶のお代わりを持ってこようと台所へと移動した。
逃げ出したようにしか思えないドリューの背中を眺めながら、呆れたようにユピテールが呟く。
「アオユキさんを大人気ないって批判しているドリューさんこそ、大人気なさ大爆発だし……ふぅ。色々とフォローもしながら楽しいイベントとして事を荒立てずに終わらせたいものだね」
ため息をついたあと、ユピテールは椅子に座っているエリーへ追儺について教える。
「穢れや苛立ち、形に出来ない鬱積等を、その象徴として鬼と呼称し、逆らう事の出来ない弱い立場の者達に鬼の役目を押し付け豆はまだしも、石を投げつける等謂れなき迫害をもって、厄払い……気晴らしとした追儺の儀式。それが節分の原型とも言われているよ」
エリーだけでなく、一緒に話を聞いていたソニアもゾッとした表情に変わる。小さく体を震わせているのは、きっと恐怖を覚えたせいだろう。
2人の少女の様子を確認しながら、ユピテールはなおも言葉を続ける。
「少なくても、友達にやる行いじゃないよね。エリーちゃんにそんなつもりはなかったとしても、アオユキさんは相当辛い思いをしたと思うよ」
「うん……ごめんなさい」
本当にエリーが反省してると理解したユピテールは、手を伸ばして彼女の髪の毛を優しく撫でた。
「その辺を判った上でさ、仲直りする為のイベントとして折角だから楽しもうじゃないさ。その為にも、こんな無粋な物なんて使わずに、正々堂々やろうじゃないさ」
「うんっ!」
今度の返事には、エリーの元気さが詰まっていた。
「今回の勝負では、私も試作豆鉄砲ハートを使用しません。理由は、部外者であるハンターに凶器レベルの豆鉄砲で攻撃されたら、アオユキさんも気を悪くするでしょうから」
こうしてエルバッハ、ユピテール、エリーの3人は豆鉄砲を使わずにアオユキとの勝負へ挑むことになったのだった。
■
勝負の場となるコースに雷吼と恭牙が辿り着くと、一体の女鬼が今もせっせと準備をしている最中だった。
雷吼は恭牙と顔を見合わせたあと、その女鬼に近寄って声をかける。
「あんたがアオユキか?」
雷吼を見た女鬼が怪訝そうに眉をしかめる。反応から見て、アオユキと考えて間違いなさそうである。
「エリーというか、ドリューが雇ったハンターだね。勝負前に接近するなんて、さすがにルール違反じゃないかい?」
「っと待った! 俺は確かに雇われて来ちゃいるが味方だ」
敵意を向けてくるアオユキに、攻撃する意思はないと示すために雷吼が両手を上げる。隣にいる恭牙もそれに倣った。
「味方?」
「今回は流石に思うところがあるんで協力しようと思ってな。特に良い女の為なら尚更な」
ニヤリとする雷吼に、アオユキも笑みを返して「そうか」と言った。
「豆まき……? なのかは分からんし、楽しそうだが少々やりすぎな気もするのでな。アオユキ殿の味方をする」
そう言った恭牙にも、アオユキは感謝を示してくれた。
「それにしても節分ってのは、難儀なもんだね」
呟くように言ったアオユキに、雷吼が応じる。
「リアルブルー出身者から伝わった際に起源が伝わらなかったな。本来、リアルブルーの鬼の起源は陰(おん)、隠(おぬ)だ」
目に見えない邪気などを指し、想像上の化け物として鬼とした。そして昔、穀物には魔除けの呪力があるとされていた。
「つまり魔除けの呪力がある豆を投げ、目に見えない邪気を払う事が意図なのさ。決して俺達、鬼族を対象にしたものじゃない。習慣だけが伝わって、意図が伝わらなかったんだろうな」
雷吼からの説明を聞いたアオユキは「なるほど」と感心する。
「そうだったのか。あとでエリーにも教えてやるとしよう。さて、あとは時間になるまで準備を続けようかね」
●
指定時間になり、ハンターを巻き込んだエリーとアオユキの勝負が始まった。
全力でゴールを目指すエリーを、完全武装の上に覚醒したエルバッハが護衛する。
高い防御能力を誇るエルバッハがエリーの側に立つだけで、強固な盾が出現したように周囲を威圧する。
エリーのすぐ背後を走るのはユピテールだ。エリーに何かあれば、抱きかかえてでも守るつもりだった。
■
一方のアオユキも行動を開始する。近くにあった茂みに移動し、攻撃されないように身を隠しつつ、エリーたちの様子を窺う。
「ん? 例の豆鉄砲は持ってないみたいだね。ハンターが説得してくれたのか、それともエリーがアタシの事を考えてくれて……」
茂みの中で何やら感動しているアオユキに、恭牙が「感動している場合ではないぞ」と声をかける。
「わかってるよ。勝負といったからには、本気でやらないとね」
手を抜いたとエリーに拗ねられたくないので、アオユキは先制攻撃とばかりに持っていた豆を投げつける。
死角から不意をついた一撃なので確実に命中する。すまないエリーと心の中で謝罪したが、アオユキの思惑通りにはならなかった。
「護衛すると決めたからには、全力でエリーさんを守らせていただきます。宜しくお願いします」
シールドのリパルションを構えたエルバッハがスッと現れ、エリーに向かっていた豆をひとつ残らず受けきったのである。
「う、嘘だろ……け、けど、まだだよ。コースには罠を設置してあるからね!」
アオユキの存在に気づいたエリーが茂みの方へ豆を放ってくるも、手動なので威力は弱い。
まともに受けても影響はまるでないが、勝負中というのもあって手にした金棒で向かってきた豆を打ち返す。
「俺はアオユキのバックアップだ。正面からの攻撃はアオユキが防ぎきれるだろうから、側面からの攻撃をカバーしつつ、アオユキのガードに向かうぜ」
エリーの投げる豆はたいしたことなくとも、ハンターが全力で投げれば話も変わる。
「とりあえずアオユキ殿同様に隠れ、同時に豆を投げるとするか」
恭牙も遠距離からエリーを狙ってみるが、やはり豆の接近を察知したエルバッハに防がれてしまう。
「こりゃ、多少不意をついた程度じゃ、エリーに豆は届かないね。となると、やっぱり罠にかかってくれるのを待つだけか」
アオユキが呟いた直後、コースから「キャア」という悲鳴が聞こえてきた。
■
真っ直ぐ走っていたエリーが、草に隠された落とし穴に落ちそうになったのである。
「急ぐ気持ちはわかるけど、罠が仕掛けられてるみたいだから気をつけてね」
怪しげな草の存在に先に気づいていたユピテールが、落とし穴へ落ちる前にエリーを抱えてジェットブーツで飛び越えた。
エリーを地面へ下ろすと同時に、ユピテールも普通に豆を投げてアオユキたちを牽制する。
その豆を片手に持った旋棍で弾き、恭牙が応戦する。
「悪い訳ではないが鬼であるぞっ」
エリーへ存在をアピールするように姿を見せたあと、アオユキ同様に恭牙も手に持った豆を投げる。
楽しませるものになればいいと思っていたが、折角だから勝ちたいというのも恭牙の本心だった。
「どんな罠があっても負けないもん。エリーが勝って、アオユキお姉ちゃんに帰ってきてもらうんだ……!」
転んで膝を擦りむいても、エリーはゴールを目指して全力で走り続ける。
■
健気なエリーの姿を見たアオユキは、そんなに自分と一緒にいたいのかと目頭が熱くなった。
簡単に戻ればエリーの悪戯癖が悪化するのではと勝負にこだわったが、それも今ではどうでもよくなりつつあった。
そこへエリーの護衛を完璧に務め上げるエルバッハから、スリープクラウドが放たれた。
なんとか抵抗をしたアオユキだったが、途中でバタリと背後に倒れた。その後すぐに寝息をたてるふりをする。
あまりにもわざとらしかったので、アオユキと行動を共にしていた雷吼と恭牙は目を点にした。
恭牙に「どうする?」と尋ねられた雷吼は、苦笑しながら答える。
「アオユキが眠ってしまったからな。護衛しながら起きるのを待つしかあるまい」
気づいていないのはエリーひとりで、眠ったふりをするアオユキを横目で眺めながらもゴールへ急ぐ。
道中には他にも罠が仕掛けられていたが、引っかかりながらでもゴールへ到達するのには何の問題もなかった。
アオユキはエリーがゴールするまで、ずっとわざとらしい寝息を立てていたからである。
●
勝敗は決した。エリーの勝利となり、アオユキは家へ戻ることになった。
決着後全員でエリー宅へ戻り、使った豆を使用しての料理パーティーが行われる。
丁寧にアオユキへ謝罪したエリーが、せめてもの罪滅ぼしにと料理を作ると大はりきりだ。
普段は主にソニアの手伝いしかしておらず、ひとりで工程を全部任せるのは不安だ。
ソニアからそう話を聞いたユピテールは、居間で一緒にいるアオユキへ目配せをする。
「料理を手伝ってきましょう。仲直りにも使えるから」
ユピテールの提案に賛成したのは雷吼だった。
「折角だ、仲直りがてら一緒に料理を作ってくれば良い」
「そ、そうか。そうだな」
アオユキが立ち上がると、エルバッハも一緒に席を立った。
「私もお手伝いしましょう」
全員で台所へ向かい、大変そうにしているエリーへ協力を申し出る。
最初はひとりでと言っていたが、皆で作った方が楽しいという意見を受け入れてくれた。
楽しそうに笑いながら料理するエリーたちを遠目で眺めつつ、雷吼はドリューから振る舞われた酒を飲む。
ちびちびと楽しんでるうちに、作られた豆料理がひとつまたひとつと食卓に並びだす。
「いいね。俺は豆料理を肴に一杯やらせて貰うさ」
次第に料理を終えたエリーたちも戻って来て、食卓は賑やかさを増した。
根無し草な旅鬼で、同じ鬼族と会うのがなかなか無い恭牙が、せっかくの機会だからとアオユキらと会話を楽しむ。
そのうちに結構な時間が経過していた。
改めてアオユキに謝ったあと、エリーは仲直りのきっかけをくれたハンターのひとりひとりにお礼を言った。
「気にしないでください。ただ度の過ぎた悪戯は今後、控えた方がいいと思います」
素直に「はい」と返事をするエリーの姿を見て、今後は大丈夫だろうと豆料理を堪能中のエルバッハは思った。
「そうだぞ、エリー。アタシは悲しかったんだからな。頼んでもドアを開けてくれないなんて、あんまりだ」
「うん、ごめんね。パパにもうちょっとって言われたからって、やっぱりあれはないよね」
エリーの発言を受けて、ハンターたちが一斉にドリューを見る。
「もしかして、すべての元凶ってドリューさん?」
ユピテールがジト目でドリューを見る。
「エリーよりも先に、アンタへの説教が必要だな」
「ま、待て、アオユキ。落ち着くんだ。よく言うじゃないか、好きな子ほど虐めたい」
「はっはっは。悪いが、そんなことを言われて、顔を赤らめるような年じゃないんだよ!」
こめかみに青筋を浮かべたアオユキが、家の中でドリューを追いかける。
「ハ、ハンターの方々、新たな依頼です。どうか鬼から守ってください!」
「おや、これは豆で作ったハンバーグですか。なかなか美味しいですね」
聞こえないふりをするエルバッハが食卓に並ぶ豆料理に舌鼓を打つ。
隣ではユピテールも豆料理を頬張っている。もちろんドリューの頼みには応じない。
逃げきれず、アオユキに捕まったドリューがひと晩中説教をされたのは言うまでもなかった。
依頼を受けて村へ入るなり、依頼を受けたハンターのひとり、エルバッハ・リオン(ka2434)はため息をついた。
「アオユキさんの行動は大人げないとは思いますが、それ以上にエリーさんの悪戯は度が過ぎていると思いますね」
どこかなだめるような口調で、ユピテール・オーク(ka5658)が応じる。
「エリーちゃんはきっと、節分の原型ともいうべき追儺の事なんて知らないんだろうねぇ~。知ってたら、少なからず友人相手にそこまで意地悪したりはしないだろうしさ」
「とはいえ、依頼を放り出す訳にもいきませんので、エリーさんの護衛につきましょうか」
エルバッハの発言に対して、アオユキと同種賊で鬼の恭牙(ka5762)が軽く肩を竦める。
「やれやれ、節分というのもなかなかに大変だな」
そのあとで、同じく鬼の百鬼 雷吼(ka5697)が宣言するように他のハンターへ告げる。
「俺はアオユキ側につくぜ。大人げないと言われても、俺達鬼族にとっちゃこれが初めての節分だ。予備知識が無い状態で、この扱いはな」
「とりあえず依頼主には悪いが、私もアオユキ殿の味方をさせてもらおう。楽しく場を盛り上げられればよいが、とりあえず鬼としては同族を、だからな」
恭牙もまた、雷吼と同様にアオユキ側へつくのを決めた。
「それに俺は陰陽師の流れを汲む符術師だ。節分の由来についても知っているから尚更な」
改めて雷吼が言い、ハンターの中でのチーム分けがなされた。
エルバッハとユピテールが当初の予定通りにエリーの護衛を行い、雷吼と恭牙が同じ鬼族であるアオユキに味方をすることになった。
■
護衛をすると決めたエリーの家に、エルバッハとユピテールが到着した。
ドアをノックし、出迎えてもらうと居間へ案内された。
そこにはエリーだけでなく父親のドリューと、エリーが実の姉のように慕うソニアがいた。
促されて食卓の椅子に座ったエルバッハが、最初にエリーへ挨拶をする。
「初めまして、エルバッハ・リオンです。よろしければ、エルと呼んでください。よろしくお願いします」
ユピテールも一緒に自己紹介をすると、エリーがにぱっと笑った。
「エルお姉ちゃんとユピテールお姉ちゃんだね。よろしくお願いします」
居間にある食卓の椅子に座ったままで、エリーが頭を下げた。
その様子を見て頷いたあとで、エルバッハは再びエリーに声をかける。
「エリーさん、少しお話ししてもよろしいですか?」
「なあに?」
「今回の件はいろいろと原因があったと伺っています。しかし、最初にエリーさんがアオユキさんにされた悪戯については、この勝負が終わってすぐに、あらためて謝罪した方が、今後のためにも良いのではないかと思います」
神妙な顔つきになったエリーが「うん」と顔を上下に振る。エリーなりに思うところがあったらしく、エルバッハの助言もすぐに受け入れてくれた。
「エリーもね、やりすぎだと思ってたから、またアオユキお姉ちゃんに謝る」
「それがいいよ。誰から豆まきのやり方を聞いたかは知らないけど、聞いた話では確かにやりすぎに感じたからね」
ユピテールが言うと、それまで黙っていたソニアがエリーの代わりに口を開いた。
「エリーちゃんが節分の話をどこからか聞いてきたあと、豆まきのやり方を説明したのはドリューさんです」
「――ま、まあ、その辺はいいじゃないか」
話題を逸らすように大きな声を出したドリューは、お茶のお代わりを持ってこようと台所へと移動した。
逃げ出したようにしか思えないドリューの背中を眺めながら、呆れたようにユピテールが呟く。
「アオユキさんを大人気ないって批判しているドリューさんこそ、大人気なさ大爆発だし……ふぅ。色々とフォローもしながら楽しいイベントとして事を荒立てずに終わらせたいものだね」
ため息をついたあと、ユピテールは椅子に座っているエリーへ追儺について教える。
「穢れや苛立ち、形に出来ない鬱積等を、その象徴として鬼と呼称し、逆らう事の出来ない弱い立場の者達に鬼の役目を押し付け豆はまだしも、石を投げつける等謂れなき迫害をもって、厄払い……気晴らしとした追儺の儀式。それが節分の原型とも言われているよ」
エリーだけでなく、一緒に話を聞いていたソニアもゾッとした表情に変わる。小さく体を震わせているのは、きっと恐怖を覚えたせいだろう。
2人の少女の様子を確認しながら、ユピテールはなおも言葉を続ける。
「少なくても、友達にやる行いじゃないよね。エリーちゃんにそんなつもりはなかったとしても、アオユキさんは相当辛い思いをしたと思うよ」
「うん……ごめんなさい」
本当にエリーが反省してると理解したユピテールは、手を伸ばして彼女の髪の毛を優しく撫でた。
「その辺を判った上でさ、仲直りする為のイベントとして折角だから楽しもうじゃないさ。その為にも、こんな無粋な物なんて使わずに、正々堂々やろうじゃないさ」
「うんっ!」
今度の返事には、エリーの元気さが詰まっていた。
「今回の勝負では、私も試作豆鉄砲ハートを使用しません。理由は、部外者であるハンターに凶器レベルの豆鉄砲で攻撃されたら、アオユキさんも気を悪くするでしょうから」
こうしてエルバッハ、ユピテール、エリーの3人は豆鉄砲を使わずにアオユキとの勝負へ挑むことになったのだった。
■
勝負の場となるコースに雷吼と恭牙が辿り着くと、一体の女鬼が今もせっせと準備をしている最中だった。
雷吼は恭牙と顔を見合わせたあと、その女鬼に近寄って声をかける。
「あんたがアオユキか?」
雷吼を見た女鬼が怪訝そうに眉をしかめる。反応から見て、アオユキと考えて間違いなさそうである。
「エリーというか、ドリューが雇ったハンターだね。勝負前に接近するなんて、さすがにルール違反じゃないかい?」
「っと待った! 俺は確かに雇われて来ちゃいるが味方だ」
敵意を向けてくるアオユキに、攻撃する意思はないと示すために雷吼が両手を上げる。隣にいる恭牙もそれに倣った。
「味方?」
「今回は流石に思うところがあるんで協力しようと思ってな。特に良い女の為なら尚更な」
ニヤリとする雷吼に、アオユキも笑みを返して「そうか」と言った。
「豆まき……? なのかは分からんし、楽しそうだが少々やりすぎな気もするのでな。アオユキ殿の味方をする」
そう言った恭牙にも、アオユキは感謝を示してくれた。
「それにしても節分ってのは、難儀なもんだね」
呟くように言ったアオユキに、雷吼が応じる。
「リアルブルー出身者から伝わった際に起源が伝わらなかったな。本来、リアルブルーの鬼の起源は陰(おん)、隠(おぬ)だ」
目に見えない邪気などを指し、想像上の化け物として鬼とした。そして昔、穀物には魔除けの呪力があるとされていた。
「つまり魔除けの呪力がある豆を投げ、目に見えない邪気を払う事が意図なのさ。決して俺達、鬼族を対象にしたものじゃない。習慣だけが伝わって、意図が伝わらなかったんだろうな」
雷吼からの説明を聞いたアオユキは「なるほど」と感心する。
「そうだったのか。あとでエリーにも教えてやるとしよう。さて、あとは時間になるまで準備を続けようかね」
●
指定時間になり、ハンターを巻き込んだエリーとアオユキの勝負が始まった。
全力でゴールを目指すエリーを、完全武装の上に覚醒したエルバッハが護衛する。
高い防御能力を誇るエルバッハがエリーの側に立つだけで、強固な盾が出現したように周囲を威圧する。
エリーのすぐ背後を走るのはユピテールだ。エリーに何かあれば、抱きかかえてでも守るつもりだった。
■
一方のアオユキも行動を開始する。近くにあった茂みに移動し、攻撃されないように身を隠しつつ、エリーたちの様子を窺う。
「ん? 例の豆鉄砲は持ってないみたいだね。ハンターが説得してくれたのか、それともエリーがアタシの事を考えてくれて……」
茂みの中で何やら感動しているアオユキに、恭牙が「感動している場合ではないぞ」と声をかける。
「わかってるよ。勝負といったからには、本気でやらないとね」
手を抜いたとエリーに拗ねられたくないので、アオユキは先制攻撃とばかりに持っていた豆を投げつける。
死角から不意をついた一撃なので確実に命中する。すまないエリーと心の中で謝罪したが、アオユキの思惑通りにはならなかった。
「護衛すると決めたからには、全力でエリーさんを守らせていただきます。宜しくお願いします」
シールドのリパルションを構えたエルバッハがスッと現れ、エリーに向かっていた豆をひとつ残らず受けきったのである。
「う、嘘だろ……け、けど、まだだよ。コースには罠を設置してあるからね!」
アオユキの存在に気づいたエリーが茂みの方へ豆を放ってくるも、手動なので威力は弱い。
まともに受けても影響はまるでないが、勝負中というのもあって手にした金棒で向かってきた豆を打ち返す。
「俺はアオユキのバックアップだ。正面からの攻撃はアオユキが防ぎきれるだろうから、側面からの攻撃をカバーしつつ、アオユキのガードに向かうぜ」
エリーの投げる豆はたいしたことなくとも、ハンターが全力で投げれば話も変わる。
「とりあえずアオユキ殿同様に隠れ、同時に豆を投げるとするか」
恭牙も遠距離からエリーを狙ってみるが、やはり豆の接近を察知したエルバッハに防がれてしまう。
「こりゃ、多少不意をついた程度じゃ、エリーに豆は届かないね。となると、やっぱり罠にかかってくれるのを待つだけか」
アオユキが呟いた直後、コースから「キャア」という悲鳴が聞こえてきた。
■
真っ直ぐ走っていたエリーが、草に隠された落とし穴に落ちそうになったのである。
「急ぐ気持ちはわかるけど、罠が仕掛けられてるみたいだから気をつけてね」
怪しげな草の存在に先に気づいていたユピテールが、落とし穴へ落ちる前にエリーを抱えてジェットブーツで飛び越えた。
エリーを地面へ下ろすと同時に、ユピテールも普通に豆を投げてアオユキたちを牽制する。
その豆を片手に持った旋棍で弾き、恭牙が応戦する。
「悪い訳ではないが鬼であるぞっ」
エリーへ存在をアピールするように姿を見せたあと、アオユキ同様に恭牙も手に持った豆を投げる。
楽しませるものになればいいと思っていたが、折角だから勝ちたいというのも恭牙の本心だった。
「どんな罠があっても負けないもん。エリーが勝って、アオユキお姉ちゃんに帰ってきてもらうんだ……!」
転んで膝を擦りむいても、エリーはゴールを目指して全力で走り続ける。
■
健気なエリーの姿を見たアオユキは、そんなに自分と一緒にいたいのかと目頭が熱くなった。
簡単に戻ればエリーの悪戯癖が悪化するのではと勝負にこだわったが、それも今ではどうでもよくなりつつあった。
そこへエリーの護衛を完璧に務め上げるエルバッハから、スリープクラウドが放たれた。
なんとか抵抗をしたアオユキだったが、途中でバタリと背後に倒れた。その後すぐに寝息をたてるふりをする。
あまりにもわざとらしかったので、アオユキと行動を共にしていた雷吼と恭牙は目を点にした。
恭牙に「どうする?」と尋ねられた雷吼は、苦笑しながら答える。
「アオユキが眠ってしまったからな。護衛しながら起きるのを待つしかあるまい」
気づいていないのはエリーひとりで、眠ったふりをするアオユキを横目で眺めながらもゴールへ急ぐ。
道中には他にも罠が仕掛けられていたが、引っかかりながらでもゴールへ到達するのには何の問題もなかった。
アオユキはエリーがゴールするまで、ずっとわざとらしい寝息を立てていたからである。
●
勝敗は決した。エリーの勝利となり、アオユキは家へ戻ることになった。
決着後全員でエリー宅へ戻り、使った豆を使用しての料理パーティーが行われる。
丁寧にアオユキへ謝罪したエリーが、せめてもの罪滅ぼしにと料理を作ると大はりきりだ。
普段は主にソニアの手伝いしかしておらず、ひとりで工程を全部任せるのは不安だ。
ソニアからそう話を聞いたユピテールは、居間で一緒にいるアオユキへ目配せをする。
「料理を手伝ってきましょう。仲直りにも使えるから」
ユピテールの提案に賛成したのは雷吼だった。
「折角だ、仲直りがてら一緒に料理を作ってくれば良い」
「そ、そうか。そうだな」
アオユキが立ち上がると、エルバッハも一緒に席を立った。
「私もお手伝いしましょう」
全員で台所へ向かい、大変そうにしているエリーへ協力を申し出る。
最初はひとりでと言っていたが、皆で作った方が楽しいという意見を受け入れてくれた。
楽しそうに笑いながら料理するエリーたちを遠目で眺めつつ、雷吼はドリューから振る舞われた酒を飲む。
ちびちびと楽しんでるうちに、作られた豆料理がひとつまたひとつと食卓に並びだす。
「いいね。俺は豆料理を肴に一杯やらせて貰うさ」
次第に料理を終えたエリーたちも戻って来て、食卓は賑やかさを増した。
根無し草な旅鬼で、同じ鬼族と会うのがなかなか無い恭牙が、せっかくの機会だからとアオユキらと会話を楽しむ。
そのうちに結構な時間が経過していた。
改めてアオユキに謝ったあと、エリーは仲直りのきっかけをくれたハンターのひとりひとりにお礼を言った。
「気にしないでください。ただ度の過ぎた悪戯は今後、控えた方がいいと思います」
素直に「はい」と返事をするエリーの姿を見て、今後は大丈夫だろうと豆料理を堪能中のエルバッハは思った。
「そうだぞ、エリー。アタシは悲しかったんだからな。頼んでもドアを開けてくれないなんて、あんまりだ」
「うん、ごめんね。パパにもうちょっとって言われたからって、やっぱりあれはないよね」
エリーの発言を受けて、ハンターたちが一斉にドリューを見る。
「もしかして、すべての元凶ってドリューさん?」
ユピテールがジト目でドリューを見る。
「エリーよりも先に、アンタへの説教が必要だな」
「ま、待て、アオユキ。落ち着くんだ。よく言うじゃないか、好きな子ほど虐めたい」
「はっはっは。悪いが、そんなことを言われて、顔を赤らめるような年じゃないんだよ!」
こめかみに青筋を浮かべたアオユキが、家の中でドリューを追いかける。
「ハ、ハンターの方々、新たな依頼です。どうか鬼から守ってください!」
「おや、これは豆で作ったハンバーグですか。なかなか美味しいですね」
聞こえないふりをするエルバッハが食卓に並ぶ豆料理に舌鼓を打つ。
隣ではユピテールも豆料理を頬張っている。もちろんドリューの頼みには応じない。
逃げきれず、アオユキに捕まったドリューがひと晩中説教をされたのは言うまでもなかった。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/02/15 17:54:24 |
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相談卓 恭牙(ka5762) 鬼|24才|男性|格闘士(マスターアームズ) |
最終発言 2016/02/15 19:29:42 |