ゲスト
(ka0000)
無能力異邦人とチョコレート
マスター:真太郎

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/02/17 07:30
- 完成日
- 2016/02/26 03:51
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
私は柊真緒、16歳。
ひょんな事から異世界のクリムゾンウェストに召喚されてしまった普通の女子高生。
そう、剣と魔法のファンタジー世界に召喚されたにも関わらず、私はなーんの特殊能力も持たちあわせていないのだ。
でも心優しいマルシア・シュタインバーグさんの喫茶店『ひだまり亭』に雇ってもらえたお陰でなんとか暮らせている。
のだけれど……。
元々流行っていない喫茶店に従業員を1人増やしたため、店は赤字になる日が増えるようになってしまったのだ。
「まずい……このままじゃ今週も赤字だわ」
「そうなの? おかしいわねぇ~。マオちゃんが料理作ってくれるようになってからお客さん少し増えた気がするんだけど……」
店が終わった後に2人で家計簿をつけていると、店長のマルシアさんが不思議そうに首を傾げた。
確かに今までお客さんは朝のモーニングの時間帯くらいにしか来ていなかった。
なぜならモーニングのメニューは「トースト」「茹で卵」「コーヒー」という不味く作り様のないものだから。
でもランチメニューはそうはいかない。
決して料理が上手だとはいえない店長が適当に作ったランチではお客さんの舌を満足させる事はできず、朝以降の客足は激減してしまう。
見かねた私が代わりに料理を作るようになってからは少しはお客さんも増えたけど、所詮は私も素人、固定客を増やせる程の料理は作れない。
「でも黒字の日だってあるし、きっとこれからお客さんも増えてくれるわよ。だいじょうぶだいじょうぶ」
時々ネガティブなくせに危機意識は薄い店長がふにゃりと笑う。
店長がそう言ってくれても私は大丈夫だなんて思えない。
だって店が赤字なのは間違いなく私を雇ったせいなんだもん。
責任感じるよ。
なんとかしたいって思うよ。
だから何とかする!
幸いもうすぐバレンタイン。
異世界にバレンタインの風習があった事には驚いたけど、今はその幸運に感謝だわ。
「店長、バレンタインに合わせてチョコレートを売りましょう」
「え? でも私、チョコレートなんて作れないわよ」
「大丈夫です。私、チョコレート菓子作りにはちょっと自信がありますから!」
そう、私は中学の頃にとびっきり美味しいバレンタインチョコを作って告白しようと、チョコ作りの特訓をした事があるのだ。
告白の結果は……まぁ、アレだったから、黒歴史と言えなくもないけれど……。
「まぁまぁ、凄いわマオちゃん」
「ふふぅ~ん! じゃあ、明日にでもさっそく作ってみますね」
尊敬の眼差しな店長に得意満面な私。
宣言通り翌日チョコレート菓子を作ってみた。
「美味しいわマオちゃん。これならバッチリよ~」
「そうでしょうそうでしょう~」
蕩けそうな笑みで私のチョコ菓子を食べる店長の姿に、私はスッカリ天狗になってしまった。
でもその鼻はすぐにポッキリ折れてしまう。
近所の菓子店で私の作ったものと遜色のないチョコ菓子が売られていたからだ。
試食できたから食べてみると、美味しかった。
決して私の物が味で劣っている訳じゃないけど、問題は価格だ。
私が原価計算して付けた値段より遥かに安かった。
うちでこの値段を付けると売上がほとんど出なくなってしまう。
味は食べてみるまで分からないから、お客さんは見た目と価格で選ぶ。
見た目がそんなに変わらないなら安い方が絶対に売れる。
ダメだ……。
私のチョコじゃ売れない……。
私はその事を店長に話した。
「あらあら、そうなの? 残念ねぇ~。マオちゃんのチョコこんなに美味しいのに……」
店長は本当に残念そうにしてくれた。
それが悔しい。
「あの……店長。私まだその……」
「いいわよ。店の事は気にしなくていいから、マオちゃんが満足するまでやりなさい」
最後まで言わなくても意を汲んで即答してくれた店長には感謝の言葉しかない。
私はまず問題点を整理してみた。
味も見た目も問題ない。
1番の問題は価格だ。
価格を相手と同じかそれ以下に抑えないと勝負にならない。
安い素材を使う?
ダメ、味が落ちちゃう。
大きさを小さくする?
ダメ、見栄えが落ちる。
味を落とさず、見栄えも落とさず、単価を落とす……。
何その無茶ぶり……。
いったいどうすればいいの?
途方に暮れそうになりながらも私は考えた。
考えて。
考えて。
考えて。
考えて。
考えて。
知恵熱が出そうなくらい考えて。
ようやく私が辿り着いた結論は『薄利多売』。
今の素材を使ったまま価格を抑えるには、やっぱりサイズを小さくするしかない。
だから見栄えの良さが落ちないギリギリのサイズまで小さくする。
それらを考慮しつつ試行錯誤を重ねた結果。
見た目は500G相当なのに価格は1個200Gというチョコ菓子を作り上げた。
もちろん問題もある。
材料費を安く抑えるには大量買いしなきゃいけないから、最低でも500個分の材料は買わないといけない事。
もう一つの問題は私と店長の2人だと500個も作れない事。
なぜなら防腐剤なんて使えないので作り置きはできないから。
その日の内に作った物はその日の内に売り切らなきゃいけない。
となると……やっぱりアルバイトを雇うしかないよね。
でもバイトを雇うと1個あたりの単価が更に上がっちゃうから、雇えば雇うほど売る数も増やさなきゃいけなくなっちゃう。
時給は600Gくらいかしら?
朝の5時から夜の8時まで働いてもらうと15時間。
4人雇ったと仮定すると……だいたい455個売った時点からようやく黒字になる計算になった。
500個作って455個……。
もう一度計算し直したけど、間違いなかった。
5人だと500個。
6人だと545個から黒字になる。
とてもじゃないけどこんなに売れる気がしない……。
そう思ったけど、一応この事も店長に話した。
「そうなの? じゃあ1000個作りましょ」
笑顔であっさりそう言った。
「いやいやいや待って待って待って! なんでそんなにあっさり決めちゃうんですか? 1000個ですよ1000個っ!」
「大丈夫よ~。このチョコ小さめだから1人で5個くらい買ってくれるわ。200人に売ればいいだけじゃない。楽勝よ~」
「あの、この喫茶店1日20人くれば多い方なんですけど……」
その目論見は楽観的すぎやしませんか?
「売れ残ったら売れ残っただけ赤字になるんですよ」
「大丈夫。ちゃんと売れるわ」
その自信の根拠はなに?
「だってマオちゃんが作ったんだもの~」
信頼度100%の笑顔で答えてくれた。
店長……嬉しいけど、その根拠のない信頼は逆にプレッシャーです。
こうして無謀とも思える私の計画は、スッカリやる気になってしまった店長の鶴の一声で実行に移される事となった。
ひょんな事から異世界のクリムゾンウェストに召喚されてしまった普通の女子高生。
そう、剣と魔法のファンタジー世界に召喚されたにも関わらず、私はなーんの特殊能力も持たちあわせていないのだ。
でも心優しいマルシア・シュタインバーグさんの喫茶店『ひだまり亭』に雇ってもらえたお陰でなんとか暮らせている。
のだけれど……。
元々流行っていない喫茶店に従業員を1人増やしたため、店は赤字になる日が増えるようになってしまったのだ。
「まずい……このままじゃ今週も赤字だわ」
「そうなの? おかしいわねぇ~。マオちゃんが料理作ってくれるようになってからお客さん少し増えた気がするんだけど……」
店が終わった後に2人で家計簿をつけていると、店長のマルシアさんが不思議そうに首を傾げた。
確かに今までお客さんは朝のモーニングの時間帯くらいにしか来ていなかった。
なぜならモーニングのメニューは「トースト」「茹で卵」「コーヒー」という不味く作り様のないものだから。
でもランチメニューはそうはいかない。
決して料理が上手だとはいえない店長が適当に作ったランチではお客さんの舌を満足させる事はできず、朝以降の客足は激減してしまう。
見かねた私が代わりに料理を作るようになってからは少しはお客さんも増えたけど、所詮は私も素人、固定客を増やせる程の料理は作れない。
「でも黒字の日だってあるし、きっとこれからお客さんも増えてくれるわよ。だいじょうぶだいじょうぶ」
時々ネガティブなくせに危機意識は薄い店長がふにゃりと笑う。
店長がそう言ってくれても私は大丈夫だなんて思えない。
だって店が赤字なのは間違いなく私を雇ったせいなんだもん。
責任感じるよ。
なんとかしたいって思うよ。
だから何とかする!
幸いもうすぐバレンタイン。
異世界にバレンタインの風習があった事には驚いたけど、今はその幸運に感謝だわ。
「店長、バレンタインに合わせてチョコレートを売りましょう」
「え? でも私、チョコレートなんて作れないわよ」
「大丈夫です。私、チョコレート菓子作りにはちょっと自信がありますから!」
そう、私は中学の頃にとびっきり美味しいバレンタインチョコを作って告白しようと、チョコ作りの特訓をした事があるのだ。
告白の結果は……まぁ、アレだったから、黒歴史と言えなくもないけれど……。
「まぁまぁ、凄いわマオちゃん」
「ふふぅ~ん! じゃあ、明日にでもさっそく作ってみますね」
尊敬の眼差しな店長に得意満面な私。
宣言通り翌日チョコレート菓子を作ってみた。
「美味しいわマオちゃん。これならバッチリよ~」
「そうでしょうそうでしょう~」
蕩けそうな笑みで私のチョコ菓子を食べる店長の姿に、私はスッカリ天狗になってしまった。
でもその鼻はすぐにポッキリ折れてしまう。
近所の菓子店で私の作ったものと遜色のないチョコ菓子が売られていたからだ。
試食できたから食べてみると、美味しかった。
決して私の物が味で劣っている訳じゃないけど、問題は価格だ。
私が原価計算して付けた値段より遥かに安かった。
うちでこの値段を付けると売上がほとんど出なくなってしまう。
味は食べてみるまで分からないから、お客さんは見た目と価格で選ぶ。
見た目がそんなに変わらないなら安い方が絶対に売れる。
ダメだ……。
私のチョコじゃ売れない……。
私はその事を店長に話した。
「あらあら、そうなの? 残念ねぇ~。マオちゃんのチョコこんなに美味しいのに……」
店長は本当に残念そうにしてくれた。
それが悔しい。
「あの……店長。私まだその……」
「いいわよ。店の事は気にしなくていいから、マオちゃんが満足するまでやりなさい」
最後まで言わなくても意を汲んで即答してくれた店長には感謝の言葉しかない。
私はまず問題点を整理してみた。
味も見た目も問題ない。
1番の問題は価格だ。
価格を相手と同じかそれ以下に抑えないと勝負にならない。
安い素材を使う?
ダメ、味が落ちちゃう。
大きさを小さくする?
ダメ、見栄えが落ちる。
味を落とさず、見栄えも落とさず、単価を落とす……。
何その無茶ぶり……。
いったいどうすればいいの?
途方に暮れそうになりながらも私は考えた。
考えて。
考えて。
考えて。
考えて。
考えて。
知恵熱が出そうなくらい考えて。
ようやく私が辿り着いた結論は『薄利多売』。
今の素材を使ったまま価格を抑えるには、やっぱりサイズを小さくするしかない。
だから見栄えの良さが落ちないギリギリのサイズまで小さくする。
それらを考慮しつつ試行錯誤を重ねた結果。
見た目は500G相当なのに価格は1個200Gというチョコ菓子を作り上げた。
もちろん問題もある。
材料費を安く抑えるには大量買いしなきゃいけないから、最低でも500個分の材料は買わないといけない事。
もう一つの問題は私と店長の2人だと500個も作れない事。
なぜなら防腐剤なんて使えないので作り置きはできないから。
その日の内に作った物はその日の内に売り切らなきゃいけない。
となると……やっぱりアルバイトを雇うしかないよね。
でもバイトを雇うと1個あたりの単価が更に上がっちゃうから、雇えば雇うほど売る数も増やさなきゃいけなくなっちゃう。
時給は600Gくらいかしら?
朝の5時から夜の8時まで働いてもらうと15時間。
4人雇ったと仮定すると……だいたい455個売った時点からようやく黒字になる計算になった。
500個作って455個……。
もう一度計算し直したけど、間違いなかった。
5人だと500個。
6人だと545個から黒字になる。
とてもじゃないけどこんなに売れる気がしない……。
そう思ったけど、一応この事も店長に話した。
「そうなの? じゃあ1000個作りましょ」
笑顔であっさりそう言った。
「いやいやいや待って待って待って! なんでそんなにあっさり決めちゃうんですか? 1000個ですよ1000個っ!」
「大丈夫よ~。このチョコ小さめだから1人で5個くらい買ってくれるわ。200人に売ればいいだけじゃない。楽勝よ~」
「あの、この喫茶店1日20人くれば多い方なんですけど……」
その目論見は楽観的すぎやしませんか?
「売れ残ったら売れ残っただけ赤字になるんですよ」
「大丈夫。ちゃんと売れるわ」
その自信の根拠はなに?
「だってマオちゃんが作ったんだもの~」
信頼度100%の笑顔で答えてくれた。
店長……嬉しいけど、その根拠のない信頼は逆にプレッシャーです。
こうして無謀とも思える私の計画は、スッカリやる気になってしまった店長の鶴の一声で実行に移される事となった。
リプレイ本文
鳥の囀りさえ聞こえぬ夜明け前の早朝5時。
喫茶店『ひだまり亭』には6人のアルバイトが集まっていた。
「おはようございますぅ。チョコレートという名の悪魔と闘いに来ました星野ハナですぅ。本日はよろしくお願いしますぅ」
「私はマルカ・アニチキンといいます。あの……色々至らない事もあると思いますけど、なんでもしますっ……言ってください!」
「ゲン・プロモントリーだ。普段は人にあげるような、ましてや売り物にできるような物は作らないから、作り方は教えてもらえると助かる」
星野 ハナ(ka5852)、マルカ・アニチキン(ka2542)、ゲン・プロモントリー(ka1520)がそれぞれ挨拶する。
そして残りの3人は。
「お久しぶりです、マオさん」
「マオさんの居る喫茶店が面白い事やるってきいたから。来ちゃったわ」
「今回もマオさんがお困りのようなのでお手伝いします!」
以前にコーヒー農園で共に働いた保・はじめ(ka5800)、マリィア・バルデス(ka5848)、マーオ(ka5475)だった。
「うわぁ~! ありがとうございます! 助かります!」
歓喜したマオはマーオの手を取ってブンブン振った。
「さぁて、作って作って作りまくりますよぅ! 耐久チョコ製作レースの始まりですぅ!」
ハナのやる気に満ちた掛け声でチョコケーキ作りは始まった。
最初は少し手間取ったものの皆すぐ作業に慣れてくれた。
「私喫茶店大好きなんですぅ。こう2人前くらいの料理を食べながら休日にまったりぼぉっととか最高じゃないですかぁ?」
ハナは作業の間も終始ハイテンションだ。
やがて最初の200個がオーブンで焼かれ始めた。
しかしオーブンに入りきらないチョコもあり、その分人手が余る。
「チョコ作りと並行して広告用のPOPを作りませんか?」
なので保はそう提案してみた。
「それなら、あの……私が……。『絵画(初級)』スキル、持ってますし……」
普段あまり自己主張しないマルカだが、少しでも役に立ちたいという想いから勇気を出して手を上げ、POP作りも始められた。
そして最初の200個が焼き上がり、店内に甘い匂いが漂う。
「あら~いい匂い~」
匂いに釣られて店長のマルシアが姿を現した。
「ねぇ、マオちゃん。やっぱり後500個作らない?」
「まだ売り始めてもいないのに何言ってんですか!?」
「大丈夫よ~。こんなに美味しそうだし、バイトの子もこんなにいるんだから~」
皆で協議した末、4時までに千個売り切ったら作る事に決定した。
「店長さんのマオさんへの信頼は豪快だよなぁ。でも俺も乗るぜ!」
「そうですよぉ。1500個くらい軽~く売っちゃうですよぉ!」
ゲンやハナも乗り気になり、皆の士気も上がった。
その後も作業は順調に進み、9時には800個のチョコができあがった。
「あの……POP広告、できました」
マルカがおずおずと見せたPOPにはマルシアとマオを可愛くデフォルメさせた似顔絵と。
『ひだまり亭お手製チョコ』
『激安200G』
『精一杯お安くしました』
『本当は500Gで売りたいんです』
等の売り文句が書かれていた。
「ど、どうでしょう……?」
「いい出来ですよマルカさん! バッチリです。ありがとうございます」
「いえ、そんな……お役に立てて、よかったです……」
マオに嘘偽りない笑顔で褒められため、照れたマルカは少し顔を赤らめた。
「まだ千個できてないけど、そろそろ売り始めましょう」
マリィアが促すと手の空いてる者が準備を始める。
「じゃあ僕は広場に行ってきます」
「あ、保さん。私、あの……お供します」
そう告げるマルカは『まるごとうさぎ』のきぐるみを持っていた。
「マルカさん、それは?」
「あの……これなら人目を引けるかと思いまして……。その……やっぱり変でしょうか?」
「そんな事ありません。きっと子供達が集まってきてくれますよ」
「そうですか……よかった」
自信なさ気だったマルカが安堵の笑みを浮かべる。
「こっちはバンバン焼いてますから、そっちはガンガン売って下さいねぇ!」
「はい。目指すは完売ですが、赤字は避けたいですからね」
「では、その……行ってきます」
ハナの声援を受けながら保とマルカは広場に向かった。
保とマルカは広場で販売を始めたが、朝は通勤者、ジョギング者、老人、等が多く、チョコを買いそうな人は少なかった。
この客層ではマルカのきぐるみは目を引いても集客には繋がらず、なかなか売れない。
「ごめんなさい。きっと私のきぐるみがダメなせいです……」
「そんな事ありません。人目は引けてますから、売り方をもっと工夫してみましょう」
そして。
「疲労回復、栄養補給にどうですかー!?」
やや強引な売り文句で何人かのジョギング者に売り、老人も何人か買ってくれたが、まだ繁盛してるとは言えない。
そうして伸び悩む売り上げのまま時は過ぎ、昼前になった。
(あまり売れてません。きっと私のせいです。どうしましょうどうしましょうどうしましょう……)
役に立ててないと思ったマルカはネガティブ思考に陥っていた。
「ママ、ウサたんがいる~」
「あら、ホントね」
そんなマルカに子供が近寄ってくる。
(ど、どうすれば……)
「マルカさん、笑顔で挨拶です」
マルカが戸惑っていると保が小声で指示してくれた。
「こ、こんにちは」
「こんにちは~」
(つ、次は……)
「握手してあげて」
保の指示通り握手する。
「ウサたんの手おっきぃ~」
そうしてしばらく子供の相手をしてあげたら、気をよくした母親がチョコを買ってくれた。
「ふぅ……」
緊張で汗をかいたマルカが水を飲んで気を落ち着かせる。
「親子や若い人も増えてきましたね。今が売り時かもしれません」
保の言うとおり、広場にいる人の割合が変わってきていた。
「マルカさんはさっきの要領で親子をターゲットにしてください」
「分かりました。が、がんばります……」
マルカは積極的に親子に話掛け、出来る限りの愛嬌を振りまき、チョコを売っていった。
昼間になるとランチを食べに来る人も増えたため、保はおやつや食後のデザートとして売り込んでゆく。
若い女性には友チョコや義理チョコとして最適というアピールも行い、2人は確実に売り上げを伸ばしていった。
マオとマーオは店の前で売り場を作り、POP広告も立てて準備を整えた。
「今回も一緒に頑張りましょうマオさん!」
「マオマオコンビ再び、ですね!
マーオとマオはガッチリと握手し、やる気を漲らせる。
「マオちゃん。何やってるんだい?」
ふと、常連客のおじさんが声を掛けてきた。
「バレンタインチョコの販売です。おひとつどうですか?」
「マルシアさんが作ったのか?」
「いえ、私です」
「それなら安心だ。アッハッハッ」
(店長信用ないなぁ……)
マオが内心で苦笑を漏らす。
「じゃ、1つ貰っていくよ」
「ありがとうございます!」
マオは代金を貰うと、常連客に頭をペコペコ下げて見送った。
「売れましたよマーオさん!」
「幸先いいですね」
「ちょっと自信つきました」
マオが小さくガッツポーズをとる。
「おはよう、マオちゃん」
今度は近所のおばあさんが話しかけてきた。
「おはようございます」
「お店のお手伝い? 大変ねぇ。お隣の子は彼氏かしら?」
「いえ、アルバイトのマーオさんです」
「僕達偶然名前が似てたんで、マオマオコンビなんて呼ばれてるんですよ~」
マーオはえへへと微笑んで愛嬌を振りまく。
「あら、可愛らしいコンビ名ね」
「おはよう、おばあちゃん」
「あら奥さん。おはよう」
そんな風に話していると、近所で顔見知り同士の主婦達が集まってきた。
主婦達は売り場の前でペラペラと話し始め、井戸端会議が始まる。
マーオとマオも話しに混ざり、トークの間の隙を見て何とかチョコを売り込んでゆく。
井戸端会議は1時間程続き、その間に20個位売り上げた。
「これなら完売できそうですね」
「はい。この調子でドンドン売りましょう」
しかし他の商店も開き出す時間帯になると呼びかけても足を止めてくれる主婦が減ってしまった。
足を止めてくれなければサクラ効果はなくなり、売れ行きも鈍くなる。
「どうしましょう?」
「保さん達はどうしてるか聞いて参考にしましょう」
マオは連絡用に渡されていたトランシーバーで保と連絡を取ってみた。
「もしもし保さん…………あれ?」
しかし無線の有効範囲外なため繋がらなかった。
仕方なく2人はそのまま販売を続けたものの売り上げはなかなか伸びず、時刻は11時になろうとしていた。
その頃店内では、最後のチョコの50個がオーブンに入れられていた。
「後は焼き上がるのを待つだけか。じゃあ俺は先にギルド街に行って開店の準備をしておくよ」
「いってらっしゃいですぅ。ガッチリ売ってきて下さいねぇ~」
「おぅ、任せとけ!」
ゲンはハナの声援に応えるとチョコの入った箱を持った。
「待って。これも持って行って」
マリィアはゲンを引き止めてランチボックスと水筒を渡す。
「これは、弁当か?」
実は空腹だったゲンの顔に笑みが溢れる。
「そうよ。何もお腹に入れないで元気に売り子なんてできないでしょ。水筒のコーヒーは店長さんが淹れたものよ」
マリィアはチョコ作りの合間にホットサンドを作っておいたのだ。
「それはどっちもありがたい! 店長さんのコーヒーはおいしいって言う話だしな。じゃ、行ってくる」
ゲンはランチを携えると150個のチョコを自分の自転車に積み、ギルド街へ向かった。
やがて最後の50個も焼き上がり、千個のチョコが完成した。
「できたっ……感動ですぅ! んじゃマリィアさん、販売所への配達ヨロですぅ」
チョコを焼き終えたハナが感動に打ち震え、後はマリィアに託す。
そしてチョコ製作をひたすらするつもりでいたハナは、やる事がなくなってしまったのだった。
店を出たマリィアはギルド街に行く前にマーオ達の様子を見に行った。
「どう、売れてる?」
「マリィアさん……」
「いえ、それが、あまり……」
マオもマーオも物凄く落ち込んだ顔をしていた。
チョコの在庫もあまり減っているようには見えない。
「苦戦してるみたいね……」
「チョコは全部焼きあがったんですか?」
「えぇ、できてるわ」
「じゃあ、その焼き立て僕達に譲ってください!」
「『出来立てです!』を売り文句にして売りたいんですぅ~!!」
「わ、分かったわ。じゃあ余りの半分は他に持って行くわね。残りは頑張って売ってちょうだい」
「はい。ありがとうございます!」
「がんばります!」
マリィアは2人にもランチを渡すと、在庫の半分を自分のバイクに積んだ。
ギルド街に来たゲンは店舗を作ると、客寄せのためパルムにタンバリンを鳴らさせた。
可愛くて人目は引いたが、ハンターはパルムを見慣れているため、思ったほど足を止めてはくれなかった。
一般市民の多い場所でならきっと好評だった事だろう。
「仕方ない。腹ごしらえしながらマリィアさんが来るのを待つか」
貰ったホットサンドを早速食べたが、体の大きなゲンには物足りない。
ゲンは焚き火を作って湯を沸かすとチョコを湯せんで溶かし、自前のポテトチップと絡めて食べた。
「うめぇ~!!」
更にナッツの袋も開ける。
「ナッツもイケるっ!」
ジャンクな味が舌鼓を打つ。
「なんかいい匂いがするな」
「チョコレートか?」
すると匂いに釣られた2人のハンターがゲンを見つけて寄ってきた。
「なに食ってんだ?」
「ポテチのチョコレートがけだ」
ゲンが得意気に見せる。
「げ! 美味いのかよソレ?」
「美味いぜ。騙されたと思って食ってみろよ」
「ホントかよ……」
ハンターは疑わしげな顔をしながらゲンからチョコポテチを受け取って食べた。
「……美味い!」
「だろ。ナッツもイケるぜ」
もう1人にはナッツチョコを渡す。
「ホントに美味い……」
「だろ。あ、お前らチョコ買わないか? 今のと同じチョコ使ってるぜ」
「どれだ? お、安いな」
「じゃ、1個貰ってくよ」
「お前らなら2、3個は食えるだろ。もっと買えよ。間違いなく美味いからさ」
「分かったよ。じゃあ3つな」
「まいどあり~」
こうして早速6個売れた。
(……俺ってもしかして商才があるのか?)
自分で自分の手並みに驚くゲンだった。
やがて保とマルカにもランチを届けたマリィアが合流し、本格的に販売を開始。
チョコの匂いの効果は高く、人はすぐに寄ってきてくれた。
ポテチもナッツもすぐに食べつくされたが、一旦人の流れができれば試食がなくても問題なかった。
人が増えればゲンのパルムも『タンバリンを持ったパルムのいる店』という目印的効果を生んだ。
そうして客が増えたところでマリィアは箱入り10個+袋入り1個セットのワンダー10ボックスを販売。
普通に11個分の料金を取ったのだが、勢いがある時にはバレないのか。それとも義理チョコ用なのか。それなりに売れた。
一方、マーオとマオの売り上げはあまり伸びていなかった。
出来立ては売れたが、すぐに冷めたため同じ手はもう使えない。
昼を過ぎれば世間話で足を止めてくれる主婦もまた増えたが、必ずしもチョコを買ってくれる訳ではなかった。
しかし日が暮れ前頃から事態が一変する。
「ひだまり亭のチョコが売ってるのってここですか?」
1人の女の子がそう尋ねてきて5つも買ってゆき、その後も同じように買ってゆく女の子が絶えなくなったのだ。
「これはいったい……?」
「とにかく売りましょう」
しかし2人では捌ききれないほど客は来ており、行列までできていた。
「あの~、まだ追加のチョコ作らないんですかぁ?」
そこにふらっとハナが顔を見せる。
「ハナさんも手伝ってぇー!」
「え?」
マオはハナに引き込んで売り子をやってもらった。
在庫はみるみる減ってゆき、やがて完売。
買えなかったお客さんに頭を下げるくらいだった。
お客さんに話を聞くと、『ひだまり亭のチョコは安くて美味くて適度な大きさだから義理チョコに最適』という噂が流れていたと分かった。
「これで全部売れましたかぁ? じゃあ早速追加を作りますよぉ!」
「ハナさん。もう6時前です。今から500個作っても売り切れないですよ」
「えー。じゃあ追加はなしですかぁ?」
ハナは不満だったが諦めるしかない。
そして日が沈んだ頃、他の4人も店に戻ってきた。
「あの……どうでした?」
マオが真っ先に駆け寄り、不安そうに尋ねる。
すると4人とも笑みを見せた。
「全部売り切ったわ」
「こっちもです」
「やったぁ!」
マオの顔から不安が消し飛び、歓喜の笑みが溢れた。
概ねどの売り場も午前中はあまり売れずに午後から売れ始め、夕方に一気に売れた。
そのため当初の目的の千個を売り切る事ができたようである。
ともかく、この売上ならひだまり亭の家計はしばらく安泰だろう。
喫茶店『ひだまり亭』には6人のアルバイトが集まっていた。
「おはようございますぅ。チョコレートという名の悪魔と闘いに来ました星野ハナですぅ。本日はよろしくお願いしますぅ」
「私はマルカ・アニチキンといいます。あの……色々至らない事もあると思いますけど、なんでもしますっ……言ってください!」
「ゲン・プロモントリーだ。普段は人にあげるような、ましてや売り物にできるような物は作らないから、作り方は教えてもらえると助かる」
星野 ハナ(ka5852)、マルカ・アニチキン(ka2542)、ゲン・プロモントリー(ka1520)がそれぞれ挨拶する。
そして残りの3人は。
「お久しぶりです、マオさん」
「マオさんの居る喫茶店が面白い事やるってきいたから。来ちゃったわ」
「今回もマオさんがお困りのようなのでお手伝いします!」
以前にコーヒー農園で共に働いた保・はじめ(ka5800)、マリィア・バルデス(ka5848)、マーオ(ka5475)だった。
「うわぁ~! ありがとうございます! 助かります!」
歓喜したマオはマーオの手を取ってブンブン振った。
「さぁて、作って作って作りまくりますよぅ! 耐久チョコ製作レースの始まりですぅ!」
ハナのやる気に満ちた掛け声でチョコケーキ作りは始まった。
最初は少し手間取ったものの皆すぐ作業に慣れてくれた。
「私喫茶店大好きなんですぅ。こう2人前くらいの料理を食べながら休日にまったりぼぉっととか最高じゃないですかぁ?」
ハナは作業の間も終始ハイテンションだ。
やがて最初の200個がオーブンで焼かれ始めた。
しかしオーブンに入りきらないチョコもあり、その分人手が余る。
「チョコ作りと並行して広告用のPOPを作りませんか?」
なので保はそう提案してみた。
「それなら、あの……私が……。『絵画(初級)』スキル、持ってますし……」
普段あまり自己主張しないマルカだが、少しでも役に立ちたいという想いから勇気を出して手を上げ、POP作りも始められた。
そして最初の200個が焼き上がり、店内に甘い匂いが漂う。
「あら~いい匂い~」
匂いに釣られて店長のマルシアが姿を現した。
「ねぇ、マオちゃん。やっぱり後500個作らない?」
「まだ売り始めてもいないのに何言ってんですか!?」
「大丈夫よ~。こんなに美味しそうだし、バイトの子もこんなにいるんだから~」
皆で協議した末、4時までに千個売り切ったら作る事に決定した。
「店長さんのマオさんへの信頼は豪快だよなぁ。でも俺も乗るぜ!」
「そうですよぉ。1500個くらい軽~く売っちゃうですよぉ!」
ゲンやハナも乗り気になり、皆の士気も上がった。
その後も作業は順調に進み、9時には800個のチョコができあがった。
「あの……POP広告、できました」
マルカがおずおずと見せたPOPにはマルシアとマオを可愛くデフォルメさせた似顔絵と。
『ひだまり亭お手製チョコ』
『激安200G』
『精一杯お安くしました』
『本当は500Gで売りたいんです』
等の売り文句が書かれていた。
「ど、どうでしょう……?」
「いい出来ですよマルカさん! バッチリです。ありがとうございます」
「いえ、そんな……お役に立てて、よかったです……」
マオに嘘偽りない笑顔で褒められため、照れたマルカは少し顔を赤らめた。
「まだ千個できてないけど、そろそろ売り始めましょう」
マリィアが促すと手の空いてる者が準備を始める。
「じゃあ僕は広場に行ってきます」
「あ、保さん。私、あの……お供します」
そう告げるマルカは『まるごとうさぎ』のきぐるみを持っていた。
「マルカさん、それは?」
「あの……これなら人目を引けるかと思いまして……。その……やっぱり変でしょうか?」
「そんな事ありません。きっと子供達が集まってきてくれますよ」
「そうですか……よかった」
自信なさ気だったマルカが安堵の笑みを浮かべる。
「こっちはバンバン焼いてますから、そっちはガンガン売って下さいねぇ!」
「はい。目指すは完売ですが、赤字は避けたいですからね」
「では、その……行ってきます」
ハナの声援を受けながら保とマルカは広場に向かった。
保とマルカは広場で販売を始めたが、朝は通勤者、ジョギング者、老人、等が多く、チョコを買いそうな人は少なかった。
この客層ではマルカのきぐるみは目を引いても集客には繋がらず、なかなか売れない。
「ごめんなさい。きっと私のきぐるみがダメなせいです……」
「そんな事ありません。人目は引けてますから、売り方をもっと工夫してみましょう」
そして。
「疲労回復、栄養補給にどうですかー!?」
やや強引な売り文句で何人かのジョギング者に売り、老人も何人か買ってくれたが、まだ繁盛してるとは言えない。
そうして伸び悩む売り上げのまま時は過ぎ、昼前になった。
(あまり売れてません。きっと私のせいです。どうしましょうどうしましょうどうしましょう……)
役に立ててないと思ったマルカはネガティブ思考に陥っていた。
「ママ、ウサたんがいる~」
「あら、ホントね」
そんなマルカに子供が近寄ってくる。
(ど、どうすれば……)
「マルカさん、笑顔で挨拶です」
マルカが戸惑っていると保が小声で指示してくれた。
「こ、こんにちは」
「こんにちは~」
(つ、次は……)
「握手してあげて」
保の指示通り握手する。
「ウサたんの手おっきぃ~」
そうしてしばらく子供の相手をしてあげたら、気をよくした母親がチョコを買ってくれた。
「ふぅ……」
緊張で汗をかいたマルカが水を飲んで気を落ち着かせる。
「親子や若い人も増えてきましたね。今が売り時かもしれません」
保の言うとおり、広場にいる人の割合が変わってきていた。
「マルカさんはさっきの要領で親子をターゲットにしてください」
「分かりました。が、がんばります……」
マルカは積極的に親子に話掛け、出来る限りの愛嬌を振りまき、チョコを売っていった。
昼間になるとランチを食べに来る人も増えたため、保はおやつや食後のデザートとして売り込んでゆく。
若い女性には友チョコや義理チョコとして最適というアピールも行い、2人は確実に売り上げを伸ばしていった。
マオとマーオは店の前で売り場を作り、POP広告も立てて準備を整えた。
「今回も一緒に頑張りましょうマオさん!」
「マオマオコンビ再び、ですね!
マーオとマオはガッチリと握手し、やる気を漲らせる。
「マオちゃん。何やってるんだい?」
ふと、常連客のおじさんが声を掛けてきた。
「バレンタインチョコの販売です。おひとつどうですか?」
「マルシアさんが作ったのか?」
「いえ、私です」
「それなら安心だ。アッハッハッ」
(店長信用ないなぁ……)
マオが内心で苦笑を漏らす。
「じゃ、1つ貰っていくよ」
「ありがとうございます!」
マオは代金を貰うと、常連客に頭をペコペコ下げて見送った。
「売れましたよマーオさん!」
「幸先いいですね」
「ちょっと自信つきました」
マオが小さくガッツポーズをとる。
「おはよう、マオちゃん」
今度は近所のおばあさんが話しかけてきた。
「おはようございます」
「お店のお手伝い? 大変ねぇ。お隣の子は彼氏かしら?」
「いえ、アルバイトのマーオさんです」
「僕達偶然名前が似てたんで、マオマオコンビなんて呼ばれてるんですよ~」
マーオはえへへと微笑んで愛嬌を振りまく。
「あら、可愛らしいコンビ名ね」
「おはよう、おばあちゃん」
「あら奥さん。おはよう」
そんな風に話していると、近所で顔見知り同士の主婦達が集まってきた。
主婦達は売り場の前でペラペラと話し始め、井戸端会議が始まる。
マーオとマオも話しに混ざり、トークの間の隙を見て何とかチョコを売り込んでゆく。
井戸端会議は1時間程続き、その間に20個位売り上げた。
「これなら完売できそうですね」
「はい。この調子でドンドン売りましょう」
しかし他の商店も開き出す時間帯になると呼びかけても足を止めてくれる主婦が減ってしまった。
足を止めてくれなければサクラ効果はなくなり、売れ行きも鈍くなる。
「どうしましょう?」
「保さん達はどうしてるか聞いて参考にしましょう」
マオは連絡用に渡されていたトランシーバーで保と連絡を取ってみた。
「もしもし保さん…………あれ?」
しかし無線の有効範囲外なため繋がらなかった。
仕方なく2人はそのまま販売を続けたものの売り上げはなかなか伸びず、時刻は11時になろうとしていた。
その頃店内では、最後のチョコの50個がオーブンに入れられていた。
「後は焼き上がるのを待つだけか。じゃあ俺は先にギルド街に行って開店の準備をしておくよ」
「いってらっしゃいですぅ。ガッチリ売ってきて下さいねぇ~」
「おぅ、任せとけ!」
ゲンはハナの声援に応えるとチョコの入った箱を持った。
「待って。これも持って行って」
マリィアはゲンを引き止めてランチボックスと水筒を渡す。
「これは、弁当か?」
実は空腹だったゲンの顔に笑みが溢れる。
「そうよ。何もお腹に入れないで元気に売り子なんてできないでしょ。水筒のコーヒーは店長さんが淹れたものよ」
マリィアはチョコ作りの合間にホットサンドを作っておいたのだ。
「それはどっちもありがたい! 店長さんのコーヒーはおいしいって言う話だしな。じゃ、行ってくる」
ゲンはランチを携えると150個のチョコを自分の自転車に積み、ギルド街へ向かった。
やがて最後の50個も焼き上がり、千個のチョコが完成した。
「できたっ……感動ですぅ! んじゃマリィアさん、販売所への配達ヨロですぅ」
チョコを焼き終えたハナが感動に打ち震え、後はマリィアに託す。
そしてチョコ製作をひたすらするつもりでいたハナは、やる事がなくなってしまったのだった。
店を出たマリィアはギルド街に行く前にマーオ達の様子を見に行った。
「どう、売れてる?」
「マリィアさん……」
「いえ、それが、あまり……」
マオもマーオも物凄く落ち込んだ顔をしていた。
チョコの在庫もあまり減っているようには見えない。
「苦戦してるみたいね……」
「チョコは全部焼きあがったんですか?」
「えぇ、できてるわ」
「じゃあ、その焼き立て僕達に譲ってください!」
「『出来立てです!』を売り文句にして売りたいんですぅ~!!」
「わ、分かったわ。じゃあ余りの半分は他に持って行くわね。残りは頑張って売ってちょうだい」
「はい。ありがとうございます!」
「がんばります!」
マリィアは2人にもランチを渡すと、在庫の半分を自分のバイクに積んだ。
ギルド街に来たゲンは店舗を作ると、客寄せのためパルムにタンバリンを鳴らさせた。
可愛くて人目は引いたが、ハンターはパルムを見慣れているため、思ったほど足を止めてはくれなかった。
一般市民の多い場所でならきっと好評だった事だろう。
「仕方ない。腹ごしらえしながらマリィアさんが来るのを待つか」
貰ったホットサンドを早速食べたが、体の大きなゲンには物足りない。
ゲンは焚き火を作って湯を沸かすとチョコを湯せんで溶かし、自前のポテトチップと絡めて食べた。
「うめぇ~!!」
更にナッツの袋も開ける。
「ナッツもイケるっ!」
ジャンクな味が舌鼓を打つ。
「なんかいい匂いがするな」
「チョコレートか?」
すると匂いに釣られた2人のハンターがゲンを見つけて寄ってきた。
「なに食ってんだ?」
「ポテチのチョコレートがけだ」
ゲンが得意気に見せる。
「げ! 美味いのかよソレ?」
「美味いぜ。騙されたと思って食ってみろよ」
「ホントかよ……」
ハンターは疑わしげな顔をしながらゲンからチョコポテチを受け取って食べた。
「……美味い!」
「だろ。ナッツもイケるぜ」
もう1人にはナッツチョコを渡す。
「ホントに美味い……」
「だろ。あ、お前らチョコ買わないか? 今のと同じチョコ使ってるぜ」
「どれだ? お、安いな」
「じゃ、1個貰ってくよ」
「お前らなら2、3個は食えるだろ。もっと買えよ。間違いなく美味いからさ」
「分かったよ。じゃあ3つな」
「まいどあり~」
こうして早速6個売れた。
(……俺ってもしかして商才があるのか?)
自分で自分の手並みに驚くゲンだった。
やがて保とマルカにもランチを届けたマリィアが合流し、本格的に販売を開始。
チョコの匂いの効果は高く、人はすぐに寄ってきてくれた。
ポテチもナッツもすぐに食べつくされたが、一旦人の流れができれば試食がなくても問題なかった。
人が増えればゲンのパルムも『タンバリンを持ったパルムのいる店』という目印的効果を生んだ。
そうして客が増えたところでマリィアは箱入り10個+袋入り1個セットのワンダー10ボックスを販売。
普通に11個分の料金を取ったのだが、勢いがある時にはバレないのか。それとも義理チョコ用なのか。それなりに売れた。
一方、マーオとマオの売り上げはあまり伸びていなかった。
出来立ては売れたが、すぐに冷めたため同じ手はもう使えない。
昼を過ぎれば世間話で足を止めてくれる主婦もまた増えたが、必ずしもチョコを買ってくれる訳ではなかった。
しかし日が暮れ前頃から事態が一変する。
「ひだまり亭のチョコが売ってるのってここですか?」
1人の女の子がそう尋ねてきて5つも買ってゆき、その後も同じように買ってゆく女の子が絶えなくなったのだ。
「これはいったい……?」
「とにかく売りましょう」
しかし2人では捌ききれないほど客は来ており、行列までできていた。
「あの~、まだ追加のチョコ作らないんですかぁ?」
そこにふらっとハナが顔を見せる。
「ハナさんも手伝ってぇー!」
「え?」
マオはハナに引き込んで売り子をやってもらった。
在庫はみるみる減ってゆき、やがて完売。
買えなかったお客さんに頭を下げるくらいだった。
お客さんに話を聞くと、『ひだまり亭のチョコは安くて美味くて適度な大きさだから義理チョコに最適』という噂が流れていたと分かった。
「これで全部売れましたかぁ? じゃあ早速追加を作りますよぉ!」
「ハナさん。もう6時前です。今から500個作っても売り切れないですよ」
「えー。じゃあ追加はなしですかぁ?」
ハナは不満だったが諦めるしかない。
そして日が沈んだ頃、他の4人も店に戻ってきた。
「あの……どうでした?」
マオが真っ先に駆け寄り、不安そうに尋ねる。
すると4人とも笑みを見せた。
「全部売り切ったわ」
「こっちもです」
「やったぁ!」
マオの顔から不安が消し飛び、歓喜の笑みが溢れた。
概ねどの売り場も午前中はあまり売れずに午後から売れ始め、夕方に一気に売れた。
そのため当初の目的の千個を売り切る事ができたようである。
ともかく、この売上ならひだまり亭の家計はしばらく安泰だろう。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/02/15 21:07:53 |
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相談卓 保・はじめ(ka5800) 鬼|23才|男性|符術師(カードマスター) |
最終発言 2016/02/17 06:43:16 |