• 闇光

【闇光】トリニティ・トライブ

マスター:神宮寺飛鳥

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
4~10人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/02/15 22:00
完成日
2016/02/23 06:00

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 ――フレーベルニンゲン平原。
 帝国領にまで侵攻した暴食王と人類軍が激突した、そしてサルヴァトーレ・ロッソが墜落した場所。
 既に歪虚の大軍勢は撃破、撤退させる事に成功しているが、未だロッソの主機関は不調にあり、再飛翔の目処は立っていなかった。
 帝国領全域に広がった混乱と戦いの爪あとは、機甲兵器の残骸という形でこの地にも生々しく残されていた。
 魔導型への改装も完了していない、通常状態のCAMすら使用した全力出撃。北伐とそこから続く南への逃避行の旅路の途中、多くのCAMや魔導アーマーが撃破され、取り残されてきた。
 特にサルヴァトーレ・ロッソが出撃した二度の戦闘において機甲兵器の損耗は激しく、辺境領、帝国領共にその残骸の回収は後回しとなっていた。
 しかし、有限である地球製の資源は再利用が必須であり、戦闘終了後暫くはロッソの再稼働に注力していた地球軍と錬金術士組合、錬魔院も、その目処が未だ立たない事から優先順位を再設定し、戦域から再利用可能なユニットの残骸を回収する計画を打ち立てる。
 機甲兵器の存在は、特に帝国領内部に置いて放置は危険である。
 帝国軍が定めし暴食の四勢力、“四霊剣”には剣機と呼ばれるカテゴリーが存在する。
 それは、錬金術ないし機導技術を歪虚に転用する者達の呼び名であり、彼らにとってこれらの戦場跡は宝の山と同義であった――。

「しかし当然、サルヴァトーレ・ロッソ墜落地点周辺は人類側の守りも堅牢……通常であれば取り付く島もありますまいが」
 飛行するリンドヴルムの背に並び立つ男が二人。一人は紳士的な紳士服に身を包んだ紳士的な紳士。もう片方は怪しいヘルメット男である。
「いやあ、既に戦死なされたはずのレチタティーヴォ殿から招待状が届いた時は驚きましたが、お膳立てをしてくれるというのならば是非もない話ですな、刀鬼殿?」
「アーハー……。というかデスネー、ミスター・レチが用意してくれているのならばミーは不要ではないですかネー……」
「そう渋らないで頂きたいですな。これもオルクス殿、そしてシュタイン博士のご依頼ですから」
「剣機系の事は剣機系のPeopleで片付けて欲しいデース。ミーとボスは関係ないデース」
「いや、一応剣機系のやつに頼んだのですが、アホだったので先に行ってしまって……というか忘れてませんぞ。帝都の戦いでおふたりともサボってらしたでしょう」
「主にさぼってたのはボスデース!! ミーはやりたくもないのに門の前でGorogoroしてたデース!」
「いやそれはサボっているのでは……というか、ナイトハルト殿はいずこへ?」
 無言で眼科を指差す刀鬼。よくよく目を凝らしてみると、地上をものすごい速度で疾走している影が見える。
「ボスは進路上にある廃村とか吹き飛ばしながら直進中デース」
「リンドヴルムあるのになぜ……」
 黒い炎をまとって加速していたナイトハルトだが、前方にユニットの残骸を捉え減速を開始する。
 大地を刳り砂埃を巻き上げながら急停止したナイトハルトの前方、既に主を失った残骸であるはずのユニットが徘徊している。
「あれがレチタティーヴォの……ふん。あの状況下でサウンドアンカーだけではなくこちらにも手を回していた計画性は認めるが、機甲兵器とはな……」
 腰に手を当て溜息を零す。不破の剣豪……彼はあまり剣機系の歪虚が好きではなかった。
 前の戦いで暴食王に加勢しなかった事をオルクスに叱責され、「やぁーいやぁーい武神の忠義(笑)」と小馬鹿にされたのが頭にきてここまで汚名返上に来てしまったが。
「シュタインめ……オルクスを後ろ盾に我に命令するとは……思い上がりおって」
「ボース!!」
 頭上からの声に首を傾げる剣豪。直後、その身体に何か巨大なものがめり込んだ。
 勢い良く吹っ飛んだナイトハルトの姿に頭を抱える刀鬼。平原には片腕を失ったデュミナスがスナイパーライフルを構えていた。
「ほぉん!? 話が違いませぬかレチタティーヴォ殿!? 我輩たちがここまで来たら回収を手伝ってくれるのでは!?」
「オーマイガッ!? これは拙いデス……かなり拙いデスネー!」
「ええ、ナイトハルト殿が心配で……」
「そうじゃないデース!!」
 地表で黒い光の柱が立ち上り、衝撃波が草原を揺らす。
 負のマテリアルを滾らせたナイトハルトへ一機の魔導アーマーが駆け寄り大型の剣を振り下ろすが、ナイトハルトはこれを拳で砕くと、回転蹴りを見舞わせた。
 衝撃がほとばしり、木っ端微塵に吹き飛ぶ魔導アーマー。空中の二人は同時に叫ぶ。
「回収予定の機甲兵器があああ!?」
「ホーリシッ!! ボス、それは壊しちゃダメな奴デーーーース!!」
 そうこう言っている間に地上からアサルトライフルが放たれ、リンドヴルムに命中。二人は何か叫びながら墜落して行くが、ナイトハルトはゴキリと拳をならし。
「良かろう……我も丁度此度の依頼、腹に据えかねていた所よ」
「ボォーーーーース!! だからダメだって言ってるデスネー!!」
 突然雷鳴が轟くと紫電が大地を突き抜け、一瞬で刀鬼がナイトハルトの背後に出現。羽交い締めにする。
「邪魔をするな刀鬼……」
「ダメデース! ていうかボスもミーも命令違反ばっかりでいい加減オルちゃんが怖いデスヨ! ここは落ち着いドゥッフ!?」
 背後への肘打ちが刀鬼の鳩尾にめり込み、関節を外し拘束を逃れると、上半身だけ回転して刀鬼の顔面に拳をめり込ませる。
「貴様は東方の時といいヒルデブラントの時といい、いちいち我に口出しするな。臆したのならばそこで指を加えて見ていろ」
「ohhhhhhhh!? ミーの愛用のヘルメットにヒビがー!? これはとてもお気に入りなのデース! ヨクモデース!!」
 地団駄踏んで、機械刀を抜く刀鬼。ナイトハルトはそれを鼻で笑い拳を構えるが、そんな二人の間に再びCAMの狙撃が着弾する。
「ええい、鬱陶しい……!」
「ボス、壊すんじゃなくて取り付いているレチ人形だけ取り除けば持って帰れるデースよ!」
「そういうチマチマしたのは苦手だ」
「苦手とかそういう問題では……ボス、野菜食べられない子供じゃないんデスから……」
 腕を組んでそっぽ向くナイトハルト。と、そこへユニット達を挟んで向こう側、南から新たな勢力が出現する。
「人類軍……ハンター共か。よほどこのクズ鉄どもが大事と見える」
「せめてヴォールにあげる分くらいは持って帰らないと本当に役立たず呼ばわりデース」
「他者の評価が何になる? 己の価値とは己自身が決めるものだ」
 人形に操られたユニットは歪虚だけではなく、きちんと人類にも反応し迎撃を行っているようだ。
 ということは、これは三つ巴の戦いになるのではなかろうか?
 墜落したリンドヴルムの上に座り込んだカブラカンは、一人でそう状況を分析した。

リプレイ本文

●相対戦線
「ユニットが動いている……? 今回の任務は行動不能状態にあるユニットの回収じゃなかったのか?」
「いえ、確かそういう話だったと思いますが……」
 平原を疾走するトラックの荷台上。近衛 惣助(ka0510)と肩を並べた花厳 刹那(ka3984)が長髪を風になびかせながら目を凝らす。
 進行方向上の戦場跡地には既に再起動しているユニット達の姿が見える。そしてその内の何体かは既にハンター達を認識し、迎撃姿勢に移りつつあった。
 振り返った砲戦型デュミナスは移動するトラックに狙いを定め、スナイパーライフルを発砲する。
「ワオ!? 撃ってきたデスよ!?」
 砲弾はトラックに直撃はしなかったが、すぐ側に着弾した衝撃でクロード・N・シックス(ka4741)の身体が僅かに宙に浮く。
 砲戦型のスナイパーライフルの射程距離は圧倒的だ。距離が開いているので精度は低いが、近づけばより被弾確率は高まる事だろう。
「さすがはCAMと言ったところだが、相手が一方的に攻撃できる距離というのは……」
 刹那とクロードに伏せるように合図を出しながら冷や汗を流す惣助。
 トラックは高速で平原を突っ切ろうとしているが、砲戦型は容赦なく攻撃を続けている。が、こちらには反撃の手立てがない。
「神楽、回避できないのか!?」
「いや~できたらしたいっすけど、荷台デカくしすぎたツケもあって全く小回りきかねっす!」
 このトラックの持ち主である神楽(ka2032)は必死にハンドルを切っているが、無理な動きをすればスピードも相まって転倒の可能性もある。
 などと言っていると、トラックの側面に砲弾が命中。車体が大きく斜めに傾き、荷台に乗った三人が放り出されそうになる。
 地べたを満足に掴めないタイヤが甲高い音を立て、トラックは大きく蛇行。転倒は免れるが、直進に失敗する。
「ひぃ~! 俺のトラックが~!? まだろくに乗ってないんすよ~!?」
「神楽! もうチョット距離詰められないデスか!? 荷台の機銃で蜂の巣にしてやるデス!!」
「いえ、蜂の巣はダメですから……というか、闇雲に近づけばただの的ですよ!」
 ひっくり返ったクロードと刹那が叫ぶ。可能なら機甲兵器を無視して突っ切りたかったところだが、攻撃を避ける為の動きに注力しなければならなかった。
「おいおい、めちゃめちゃ撃たれてるぞ!?」
「神楽達、大丈夫なの……?」
 平原を走るのは神楽のトラックだけではない。バイクや馬などに騎乗したハンター達も共に移動しているが、移動速度が早くサイズも大きなトラックが目立っているのだろう。
 イェジドの紅狼刃に跨ったリュー・グランフェスト(ka2419)とバイクを走らせるユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)は並走するトラックに心配げに目を向ける。だが、気がかりなのは仲間だけではない。
「前方に見えるリンドヴルム……あれは恐らく機甲兵器を回収する為のもの。もたもたしていたら、歪虚にユニットを奪われる……」
 ゴースロンで走るコントラルト(ka4753)はユニットを跨いだ反対側に見える歪虚の一団を睨んでいた。
 歪虚もハンターも目的は同じ。あのユニットを回収する事は、それぞれの今後の動きにつながっている……。
 このままでは神楽のトラックに攻撃が集中してしまう。手綱を強く引き、コントラルトは進路を変更。
 トラックを追い抜いて砲戦型に距離を詰めると、狙い通り砲撃はコントラルトを狙う。だが、トラックに比べサイズも小さく小回りも利く馬にそう簡単に命中することはない。
 着弾の衝撃と轟音にもゴースロンは怯まず、嘶きながらもその足を止めはしなかった。
「鉄の車、ユニットなどあれば鎧騎士など無用と思ったが……何事も万能というわけでないのだな」
 同じくゴースロンを駆るアウレール・V・ブラオラント(ka2531)も前に出る。ちょこまかと動く狙いが幾つかあれば、トラックへの被弾率も下げることが出来るだろう。
「神楽さん、スピードを落として下さい。速力での一点突破は難しそうですから、ここからはトラックの護衛につきます」
 魔導アーマーで追いついてきた白神 霧華(ka0915)。その言葉に従い神楽は速度を落とす。トラックの速力は、フルスロットルなら魔導アーマーを置き去りにしてしまう。
 砲戦型の狙撃に対し、霧華のアーマーはシールドで身構える。砲弾の直撃にもどっしりと四足で耐え、大したダメージもない。
「魔導アーマーなら走っているところを撃たれても倒れません。私の後ろについてきてください」
「そ、そうさせてもらうっす……でも、こんなゆっくり移動していたら歪虚側が……」
 そう、急がなければ歪虚側がユニットを奪ってしまう。それを決して忘れてはいけない……が。
「ええい、邪魔をするな刀鬼! 思えば貴様はいつも我の邪魔をする……そう、ヒルデブラントとの戦いの時もそうだった」
「ギクッ……そ、その話はもう忘れるデース……ワーオ!?」
 剣豪の拳を既で回避する剣豪。慌てて背後へ跳び、空中で掌に雷を集める。
「ボス……同じデュラハン同士の戦いでは、魔法攻撃が使える方が有利デース! 大人しくするデース!  Thunderboltをくらえデース!」」
 雷撃は剣豪を貫き、その身体を大きく仰け反らせる。
 そう。剣豪がいくら刀鬼を殴ったところで所詮物理攻撃。非実体が鎧を纏った存在であるデュラハン型同士の戦いにおいて、パンチの強さなど意味を成さない。
「ぬぐうう……き、貴様~!?」
 そんな高位歪虚二体が取っ組み合いを続ける少し後ろ、リンドヴルムとカブラカンは動きを見せず、待機を貫いている。
 つまり、歪虚側はまだユニットに近づこうとしていない。距離の面で言えば、明らかにハンター側が優勢であった。
「ン? アレって……東方で見かけたヘルメットヤロウ!? またノコノコ出てき……何やってるデスか?」
「なんだか勝手に揉めているような……」
 トラックの荷台で怪訝な様子のクロードと刹那。まあ、あの二体が内輪もめしているのはよいとして……。
「何故だ……? カブラカンまで動かないだと?」
 それは予想外だった。カブラカンもリンドヴルムも慌ててユニットを目指す……そう考えていた。
 しかしカブラカンの動きを警戒するアウレールの視界にかの敵は遠く、接近しようと言う意図が見えない。
「まずいわね……」
「どういう事だ?」
 風を切る馬上では汗も髪と共に流れる。コントラルトは戦域全体を眺め、特に機甲兵器の動きに注視する。
 気がついたのは、“自分も同じことを考えていたから”だ。
 機甲兵器は接近するハンター達に反応し、次々に動き出す。今やほぼ全ての機甲兵器がハンターに向かって移動を開始していた。
 それを確認してから、やっとカブラカン達に動きが見えた。つまり……。
「奴ら――私達を陽動に使うつもりよ」
 通常兵装のCAM二体。そのアサルトライフルの射程にハンター達は既に入ろうとしていた。
 まともにリンドヴルムで近づけば、対空迎撃を受けるのは既にわかっている。だからこそ、ハンターに注意が向いている間に接近する――。
「リンドヴルムを前に出すのは危険……まずは我輩一人で。刀鬼殿~、我輩先に出発するでござるよ~」
 帽子を投げ捨てたカブラカンは全身の筋肉を隆起させ、その皮膚を変質させていく。
 傲慢本来の姿となったカブラカンは地を蹴り、馬やバイクにも劣らぬ速力で移動を開始する。
「まずい……向こうも動き出した!」
 思わず叫ぶ惣助。しかしこちらはユニットの迎撃を受けている最中。まだ距離は開いたままだ。
 だが――こちらの射程にも敵を捉えた。
『あたしが連中の目を引き付けるから、みんなはそのまま前進して!』
 二足の足で走る魔導型デュミナス。レベッカ・アマデーオ(ka1963)は外部スピーカーに叫び、フットバーを蹴る。
「行くわよ……ゼーヴィント!」
 機体各部の魔導エンジンが緑色に発光し、アクティブスラスターが起動する。
 大きな跳躍から、滑空するような姿勢で前方に飛び出したゼーヴィントへ通常型CAM二体は銃口を向けた。
 やはり外見的に目立ち、そして自分たちに近づいてくる目標の優先順位が上らしい。
 アサルトライフルを連射する二体のCAMへ、銃火を掻い潜るように疾走する。弾丸の雨全てを交わすことは出来ないが、ゼーヴィントの装甲は簡単には破れない。
「……今のうちに機甲兵器を抜けて、“向こう側”へ!!」
 コントラルトが声を上げる。そう、今のままでは歪虚の思う壺だ。何よりもまず、こうなったら機甲兵器を突破しなければならない。
「多少荒っぽくなるのは想定済みだが、想像以上に荒れそうだ! 頼むぜ、紅狼刃!」
 リューに吼え返すと紅狼刃は加速する。接近するヘイムダルの振り上げたアーマーソードの一撃を掻い潜り、魔導アーマーの脇を抜け、敵の追随を許さない。そんなリューの突破行動のお陰でバイクのユーリも比較的安全に先へ進むことが出来た。
「バイクは直線は早いけど……ああいう動きは難しそうね」
 イェジドは自分の意志で走る幻獣だ。高起動で動くのが当然の生物なのだから、反応速度は機械操作とは雲泥の差がある。
 真っ先にユニット群を抜けたのはリューとユーリだ。しかしそこへ突破を封じるようにカブラカンが駆け寄る。
「邪魔だぜおっさん!」
「邪魔なのはそちらも同じですぞ!」
 急接近しつつ跳躍し、拳を振り下ろすカブラカン。その一撃は大地を粉砕しめくれ上がらせたが、紅狼刃はしなやかに空中を回転し、勢いを殺さずに抜き去った。
「ぬうぅ……わんこォ!」
「貴様の相手は私だ!」
 リューへ振り返ったカブラカンの後頭部へ馬上からバスタードソードを打ち込むアウレール。
 勢いで大きく仰け反ったカブラカン。顔の一部の表皮が崩れ、カブラカンの眼光が鋭く輝く。
「我が名はアウレール・エルンスト・ヘルマン、帝国貴族ブラオラント侯爵家次期当主である! 歪虚達よ、騎士として卿らと手合わせ願う!」
「ぬう……騎士どころかその行いは通り魔のようにすら思えますぞ、我輩」
 馬上から名乗りを上げたアウレールへ振り返り、カブラカンは顔を新たな表皮で覆った。


●交わる嵐
「よし、ユニット行動域を突破したっすぅ!!」
 涙を流しながら叫ぶ神楽。惣助は銃を手にトラックから身を乗り出し……神楽の異変に眉を潜める。
「ど、どうしたんだ神楽……」
「新車が蜂の巣にされた俺の気持ちがわかるっすか?」
「なんだかすまない……」
 冷や汗を流す惣助。ともあれ突破に成功……それは良いとして。
 予定ではリンドヴルムから攻撃を開始するつもりだった。しかし、リンドヴルムは未だ後方。攻撃可能範囲に居ない。
 それどころか無力化せずにユニットを突破してきた為、背後からは追撃の手がかかっている。
「ちょっと思っていた状況と違うけど、やることは同じですよね。優先順位はCAM、そして人形を倒してトラックに詰め込む」
「リンドヴルムが来るまでじっとしているわけにも行きませんし……私、人形を排除しに行きます!」
 荷台から飛び降りる刹那。霧華も魔導アーマーを停止させ反転する。
「これ以上奥にトラック動かしてもしょうがないっすし、俺も機銃で攻撃するっす。……でも人形だけ狙えるっすかねぇ……」
「多少ぶっ壊しても仕方ナイって事デスよ! 私もGOするデス!」
 ひらひらと手を振り走り去るクロード。惣助もライフルを抱え、荷台を降りる。
「神楽、ここは任せたぞ!」
「おうっす! ……ん? 俺が機銃を操作している間身動きの取れないこのトラックは誰が守ってくれるんすか?」
 銃座についてから振り返ったが、そこにはもう仲間は誰もいなかった。

「紋章剣『天槍』(グングニル)!」
 振動刀を手に紅狼刃と共に跳びかかったリューの一撃。剣豪はとっさに背後へ跳び、刀鬼は脇腹を切り裂かれたが中身は霊体、血は流れない。
「ハンター……いつの間に距離を詰めた?」
「ナイトハルト!」
 停車させたバイクの上から叫ぶユーリ。剣豪は二人を交互に見やり。
「またどこかで見た顔か」
「ボスのFUNデスか? ボスが暴れ出す前に来てくれて助かったデース……」
「そう思うのなら手を貸してよ。このままじゃ剣豪は全てのユニットを破壊してしまうわよ? それじゃあお互いに困るでしょう?」
 ユーリの提案に刀鬼は人差し指を振り。
「その必要はありまセーン。何故なら……ボスの相手はユー達がしてくれるからデース!」
 青白い雷を纏った刀鬼は雷鳴と共に瞬時に二人の間を抜け、後方で軽く手を掲げる。
「野郎、俺達に押し付けて逃げやがった!」
「フン……丁度良い。あのようなガラクタ幾ら壊した所で何の意味もない」
「あれは血の通わない鉄くずなんかじゃない。技術も文明も、昔から人が積み重ねてきたもの……CAMってのはその結晶だ!」
 リューの言葉に剣豪は僅かに興味を持ったのか、腕を組み聞き入る。
「戦争の道具だとしても、それだってお前達理不尽に対し磨き上げられた剣。泣く者を増やさないようにって想いを背負ってんだ。それをてめえらに好き勝手にされてたまるかってんだよ!」
「ほう……成程、一理あるな」
 リューとユーリが同時に目を丸くする。
「つまり、あれも一種の武具……武人の魂か。道理で我の守りにも少しは響く」
 剣豪は積み重ねられた想いが宿った武具でなければ傷つけられない。が、その鎧には僅かな傷跡が見えた。
「ならば侮るまい。正々堂々と粉砕してくれる」
「……って、やることは一緒なのね……」
「だからさせねーって言ってんだろ! 俺たちの剣だって、あんたを斬れるんだ!」
 二人の持つ武具は強くマテリアルを親和させたもの。最早手足の延長と言っても良い。
「同じ事だ。貴様らを倒し、あのガラクタを破壊する。我にとっては、ただ順序の問題よ――!」
 刀鬼はそんなやり取りを無視して走る。視線の先にはやはりCAM、だが既にハンターが交戦状態にある。
「人形を剥がされたらこっちの負けデース!」
「我が士魂の叫びを聞くデェェス!!」
 脇見していた刀鬼のヘルメットにめり込むクロードのトンファー。吹っ飛んだ刀鬼にクロードの方が一瞬申し訳無さそうな顔になる。
「まさかアンブッシュが決まってしまうトハ……すまんデス」
「いきなり殴るなんてヒドいデース! ンン……ユーはキャラ被りの……」
 メットをすりすりしながらふわりと浮かび起き上がる刀鬼。
「場合によっては共闘もヤムなしと考えてたケド、交渉決裂したのが見えたので殴ったデス」
「そ、そうデスか……じゃあそういうコトで」
 再び走りだそうとする刀鬼を慌てて追いかけるクロードだが、刀鬼は全くクロードにかまけるつもりがない。
「コラー! 逃げるデスかー!」
「今はユーの相手してる場合じゃないデース」

「歪虚達よ、騎士として卿らと手合わせ願う! そも兵器は人類の物、戦場漁りの如き真似をして恥ずかしくないのか! 欲しければ我々全員を打ち倒し堂々と持ち帰……ま、待て! どこへ行く!?」
「今は仕事中! 我輩も先を急ぐ身故にお話はまた今度聞きましょうぞ、少年!」
 アウレールを無視して全力疾走するカブラカン。アウレールは慌てて馬を走らせその背を追う。
 ゴースロンなら疾走するカブラカンにも追いつける。距離を詰め、二つの影は刃を交えながらも並走する。
「貴様……全力で相手に背を向け逃げ出すとは、誇りはないのか!?」
「我輩基本的に資本主義なので! あとオルクス殿は怖いです!」
「アウレール!」
 前方、回りこんだ惣助は片膝を突いて銃を構える。狙いを定めて引き金を引くと、カブラカンの足が凍結し速度に耐えられず転倒する。
「久しぶりだな供給源。ジャンク屋に転職したのか? 廃品回収は紳士のやる事じゃないぜ?」
 その間にカブラカン前方へ回り込み道を塞ごうとするアウレールだが、突如足下が吹き飛び落馬してしまう。
「遠距離砲撃……CAMか!?」
 アウレール本人は無事だが、馬は爆音にやられたのか立ち上がれずに地べたを藻掻いている。
 好機と見て動こうとするカブラカンだが、そこへ距離を詰めたヘイムダルが剣を振り下ろす。巨大な剣を両手で掴んで止めるが、身動きが取れない。
「ぬぐうう!? 邪魔ですぞぉ!?」
「ええい……こんな状況ではまともに刃を交える事すら……!」
「カブラカン、持っていくならそのヘイムダルで勘弁してくれ! 何なら俺のポケットマネーもつける!」
「CAMでないと意味がないとシュタイン博士に言われているのです! ……というかCAM買える程持っているのですか、お金?」
 銃を構えたまま真顔で惣助は懐を探る。次の瞬間、砲撃が惣助を吹き飛ばした。
「……~~っ、交渉どころじゃないな……!」
 軋む関節を唸らせながらライフルを構える砲撃型。そこへコントラルトは馬で接近していた。
「片腕しかない癖に随分景気よく狙撃してくると思えば……人形がリロードしていたのね」
 片手で手綱を握ったまま魔導銃を構える。そこに魔法陣が浮かび上がり、放たれた閃光はCAMに取り付いた人形を狙う。
 デルタレイの光は三体の人形をまとめて撃破する。それに伴い腕部の制御が失われ、CAMはライフルを取りこぼした。
「まだ動いてる……残りはどこ?」

 アサルトライフルから刀へ持ち替えた通常型の一機がレベッカのゼーヴィントへ襲いかかる。
 それを咄嗟に取り出したナイフで弾いて距離を取るが、後方のもう一機がアサルトライフルでゼーヴィントを襲う。
 腕を十字に構えつつスラスターで移動するが、デュミナス同士の戦いで二対一。基本はレベッカが不利だ。
「撃破してしまうなら簡単なんだけど……生かさず殺さずっていうのは厄介ね……!」
「レベッカさん!」
 大地を走る霧華の魔導アーマー。その肩に乗っていた刹那が飛び降り、一気に加速する。
『人形はそれぞれ手足に一匹ずつ、胴体にも一匹! 銃器にもついてるわ!』
 アサルトライフルの銃撃を走ってかわす刹那。そこへ刀をもう一機が振り下ろすが、側面から接近したゼーヴィントの拳が頭部にめり込む。
『多少の損壊は多目に見てよね……!』
 手にしたナイフを腕の付け根に突き刺す。物理的な接続が途切れたのか、刀を持つ腕がだらりと下がった。
 そのまま霧華の魔導アーマーが体当たりで敵をよろけさせると、跳躍した刹那はCAMを駆け上がり、脚部の人形を切断。その動きを停止させる。
 それぞれの手足の動きが止まれば、レベッカがナイフで人形をはぎ取る事も出来る。そうしている間にもう一機のCAMがアサルトライフルを放ちつつ迫るが、霧華は仲間の盾となり刹那に腕を伸ばす。
「刹那さん! CAMの動きを止めます!」
 アーマーの腕に飛び乗った刹那を乗せて霧華は装甲と盾で銃撃を物ともせず接近。盾を叩きつけ姿勢を崩すと、魔導アーマーは鞭を振るう。
 機体の下半身をアンカーで固定し、上半身を回転させるようにしてCAMの足に巻きつけた鞭を引くと、CAMはそのままどしりと転倒する。
 転倒したままデタラメにアサルトライフルを連射するCAM。霧華が構える盾の影から刹那は銃撃で人形を狙っていく。
「敵の銃撃で耳がおかしくなりそうです!!」
「魔導アーマーのコックピット、風防もなんとかして欲しいですね」
「え!? なんて!?」
 口を紡いで首を横に振る霧華。二機の通常型CAMに取り付いていた人形が取り払われる、それは戦況が動いたという事でもあった。

「ムムッ、あのCAM動きが止まってるデース!」
 走る刀鬼。クロードは必死に追いかけているが、刀鬼の移動力の方が高く追いつけない。
「くっそー! なんでこんな平原でマラソンする事になるデスかー!」
 汗だくで必死に走れども、刀鬼は時々雷化して距離を離す。理不尽である。
 と、そこへ突如刀鬼を銃弾の雨が襲った。トラックの銃座から神楽が狙撃したのだ。
 刀鬼は機械刀を抜き、目にも留まらぬ速さで銃弾を切り払うと雷化、高速で一気にCAMを目指す。
「うおっ、はえーっす!?」
「神楽! 車出すデス、早く!」
 肩で息をしながら駆け寄ってきたクロードは汗をぬぐいつつ荷台へ。神楽は運転席へ移動し、アクセルを踏み込む。
「メットヤロウ、フリィイイズ!!」
「……ん? んん!?」
 後方からトラックが猛追してくる。更にクロードは機銃を乱射、刀鬼はその場でバタバタと足を動かし回避する。
「NO~~!? しつこいデース!」
「刀鬼は亡霊型っす! 銃撃や斬撃はあんまり意味ないっすよ!」
「だとしても足止めだけでもしないと追いつけねーデスよ!」
 走る刀鬼はまっすぐに通常型へ向かわず迂回。片膝をついた砲撃型へ向かう。そこでは人形を取り払おうとするコントラルトがいた。
「え……ちょっと!?」
 みるみる距離を詰める刀鬼を前に右手に魔力を収束。炎の剣を成し正面から薙ぎ払うが、光を纏った刀鬼は既に背後へ回り込んでいる。
 視線が追いつかないほどの超高速移動。ぞっとする背後の悪寒だけを頼りに馬を前に走らせるが、次の瞬間雷鳴が轟きコントラルトの身体は前方に放り出された。
 見れば砲戦型CAMに取り付いていた人形も黒焦げになり完全に排除されている。
「まずい……っ」
 いよいよリンドヴルムが戦域に入ってきた。上空から接近するリンドヴルムへ照準を変えたクロードが銃撃で牽制し接近を許さないが、今度は刀鬼がトラックに狙いを定めた。

 剣豪の強烈な蹴りを受けたリューが地べたを転がる。ユーリもダメージが大きく、既に随分前から肩で息をしていた。
「ぐう……結構良いのを貰っちまった……」
「やはり強いわね……ナイトハルト」
 しかし二人は共にどこか満足そうに見える。
 そもそも、二人だけでどうにかなる敵ではない。最初からこの二人は捨て石……ここで剣豪を封じるだけの役割に過ぎない。
 少なくとも剣豪にCAMを再起不能にされることはない。だが、彼らの命の保証もないのだ。
「不思議ね……こんな状況なのに、心の何処かで嬉しく思う自分がいる」
「へっ、奇遇だな。俺もだぜ」
 鼻の頭を人差し指でこすり、リューは刀を構え直す。
「“英雄”なんだから、強いのはわかってる。だからこそ、負けられない……俺が憧れ、目指すもんはこんなもんじゃねえ!」
 啖呵を切って再び動き出そうとしたその時、紅狼刃が吠えた。
「……チッ。あくまでも邪魔立てするつもりか……人形が」
 振り返ると剣豪の視線の先には、こちらへ接近してくる魔導アーマーの姿があった。


●歩いて帰ろう
「ぎゃー! 俺のトラックがあああ!?」
 雷撃を浴びた神楽が悲鳴を上げる。コントラルトは背後から刀鬼へデルタレイを放つが、機械刀で切り払われる。代わりに指を鳴らすと同時に瞬いた雷鳴に盾を構えるが、受けられたかどうかもわからぬ衝撃にコントラルトの身体がくの字に曲がる。
「刀鬼殿~! リンドヴルムを護衛してください!」
「言われなくてもそうするデスね」
 走ってくるカブラカンだが、惣助は銃撃でその動きを牽制する。引き連れているヘイムダルがカブラカンを襲い、アウレールはそこへ斬りかかる。
「行かせぬと言っている!」
 刀鬼は道すがらふらついていた魔導アーマーを雷を纏った機械刀の一撃で機能停止させると、それを踏み台に一気に跳躍。空中から雷鳴と共に移動し、刹那たちの目の前に現れる。
「え、ちょ……!?」
 慌てて刀を構えて防ごうと試みるが、斬撃を完全には殺せない。血を流しながら背後へ跳び、刹那は銃を連射する。
「ノンノン……銃弾はミーを通過するだけデース……アウチ!?」
 その背中に神楽が発射したパルムがめり込んでいる。霧華が魔導アーマーの鞭で地面ごと薙ぎ払うと、刀鬼は背後へ回転を加えた跳躍を行う。
「花厳さん、下がって!」
「トラックにCAMを積みこむっす……ここは俺らが!」
 燭台を掲げ、ファミリアアタックで刀鬼を狙う神楽。そこへアーマーから飛び降りた霧華が鞭を取り出し、刀鬼へ振るう。狙いは刀鬼へダメージを与える事ではない。
「中身が雷だとしても、外側は実体を持っている……なら、外側を拘束すれば……!」
 つながった鞭から刀鬼が雷撃を流すが、それでも尚霧華はむしろ刀鬼の拘束を強めていく。
 レベッカはその間に既にある程度畳んだ通常型CAM一機を担ぎ上げ、神楽のトラックへ積み込んだ。
「リンドヴルムが来てます!」
 急降下するリンドヴルムがレベッカのゼーヴィントに襲いかかるが、むしろナイフで切りつけアサルトライフルを空に向ける。
「そっちが襲ってくるっていうのなら、むしろ好都合なのよ!」
 超射程のCAM用ライフルによる攻撃はリンドヴルムに効果的だ。それは既に実証されている。
 攻撃を受けたリンドヴルムがよろよろと降下してくると、コントラルトがデルタレイを放つ。三本の光を受け、リンドヴルムはいよいよ墜落した。
「リンドヴルムが!」
 リンドヴルムを失えばユニットの輸送手段を失う。つまり歪虚側の打てる手は機甲兵器を破壊することくらいしかなくなってしまう。
 思わず叫ぶとカブラカンは背後から迫っていたヘイムダルの剣を拳で弾き、変形させた左拳に負のマテリアルを収束。叩き込むと同時に起こした爆発でヘイムダルの胴体を吹き飛ばした。
 そのまま右腕も変形させ、同様のプロセスを経てアウレールへと襲いかかる。
 拳をシールドで受け止めるも、その小柄な身体は爆風で空を舞った。道は開かれた――突破し刀鬼を援護しようとするカブラカンの身体を突然衝撃が襲った。
 大地を転がり受け身を取ったものの、その体の表面を覆っていた装甲が砕かれている。
「何事!?」
 その視線の先には腕ごともげてスナイパーライフルを取りこぼした砲戦型CAM、そして開かれたままのそのコックピットから身を乗り出す惣助の姿があった。
「一発で壊れるとは思わなかったが……やむを得ないか……アウレール!」
 雄叫びを上げながら血を流し駆け寄るアウレール。その刃はカブラカンの砕けた表皮を突き破り、腹を貫通した。
「ぬうううう!? 少年んんん!」
 叫ぶカブラカンの頭上、黒煙を巻き上げながら墜落していくリンドヴルム。
 レベッカは対空攻撃で次々にリンドヴルムを行動不能に追い込んでいく。そして最後の一機、レベッカはライフルを投げ捨てスラスターを起動する。
 腰を落とし、スラスター全開で跳躍したゼーヴィントは、対空攻撃でよろけ高度を落としたリンドヴルムへ両手で握り締めたナイフを突き立てた。
「いい加減……落ちなさいっての――ッ!」
 まるでバスケットボールのダンクシュートのような影が太陽を遮る。墜落したリンドヴルムへ、背部へマウントしていたパイルバンカーを構えると、その引き金を引いた。
 首を穿たれた竜は断末魔の悲鳴を上げ、部品だけを残し生体部分は塵となって消えていった。
「オーマイガッ!? これでは持ち帰る手段がないデース!」
「神楽、トラックを出せ!」
 クロードが叫ぶと神楽は傷を押してトラックに移動。レベッカも一機のCAMを引きずり、戦域からの離脱を図る。
「東方生まれの武人が一、葉桐 舞矢! この身を賭してお前を討つ!!」
「相手は十三魔ですけど……」
「ヤ、本気で倒せるなんて思ってないですケド……ここで止めなきゃこいつはCAMを破壊するデスよ!」
 刹那にそう返し、強く大地を蹴って飛び出すクロード。その拳をかわした隙に、雷に焼かれた霧華がかろうじて機械刀を鞭で奪う事に成功する。
 クロードの拳、そして刹那の刀が同時に左右から襲うが、刀鬼はその両方を掴むと二人の腕をひねりあげ、胸ぐらを掴んで同時に投げ飛ばす。
「ミーもまた、武人の端くれデース」
「行かせないわ!」
 コントラルトは炎の剣で刀鬼を薙ぎ払う。魔法攻撃は霊体にもダメージを与える。回避したいが、今度は瞬間移動が間に合わない。
 範囲攻撃であるファイアスローワーの影響を全く受けないのは難しい。炎を突き抜けたクロードは負けじと拳を繰り出す。
「まだまだ死なないデスよ! こんなどーでもいい戦場でくたばってられるかっつーのッ!」

 ヘイムダルの振り下ろした刃に三人は同時に飛び退く。つづけ、魔導アーマーが鉄球を繰り出すと剣豪はそれを片手で受け止める。
「こんな時に……!」
 アーマー達に付着した人形があざ笑うように顔を覗かせる。アーマーソードを受けたユーリは、その質量差に耐え切れず大きく後退を余儀なくされる。
「人形を打ち払えばいいんだったよな!?」
 屈んで攻撃を回避するリュー。と、そこへ紅狼刃が跳躍。ヘイムダルへ飛びつくと口に咥えた刃で人形を切り裂いた。
「紅狼刃! サンキューな!」
 よろめくヘイムダル。リューとユーリはそれぞれの刃で人形を切り裂いて無効化するが、剣豪はマテリアルを存分に込めた拳で魔導アーマーを粉砕している。
「俺たちアレ何発か貰ってるのになんで生きてんだ?」
「私に聞かないでよ……」
 機能停止したヘイムダルが落としたアーマーソードを手に取ると、剣豪はその剣に負のマテリアルを纏わせていく。
 薙ぎ払うような一撃は衝撃波を纏ってヘイムダルを両断。更に続け、二人をまとめて襲う。
 リューが盾で受け止めれば、衝撃と質量でその両足が地面に陥没。ユーリは刀でアーマーソードを僅かに打ち上げ、二人は同時に身体を捻り、反撃の一撃を繰り出す。
「俺は……あんたを超える!」
「私が……あなたを止める!」
「「ナイトハルト!」」
 同時に繰り出された刃を剣豪はアーマーソードを手放し、左右の手で掴んで受け止める。
 しかし刃は天衣無縫の守りを貫き掌へ食い込むと、そのまま腕を切り裂き肩口辺りまで切断。光を纏った斬撃が突き抜けた。
 刃を振り切ると同時に姿勢を崩し倒れる二人。当然だ。あのアーマーすら砕く一撃を何度も食らってまだ動けているのは、単に二人を守護しようという仲間たちの祈りがあったからこそ。そうでなければとうに倒れている。
 心配そうに鳴き声を上げ、倒れた二人の前に立ちはだかる紅狼刃。剣豪は瞳を輝かせ、ゆっくりと近づいていく……。

 惣助が何とか歩かせた砲戦型CAMが平原に膝をつく。かつての戦いと人形の操作で無理をしすぎた関節はもう動かない。
 だが、既に十分だった。レベッカがトラックへ積み込み、三機のCAMの回収に成功したと言えるだろう。
『とりあえずCAMはなんとかなったけど、魔導アーマーは結構壊されちゃったね……。あたしは戻って皆を援護するから、二人はこのまま離脱して』
「そうっすね。剣豪には言ってやりたい事もあったっすけど……任務遂行が第一っすし……」
「すまないレベッカ。よろしく頼む!」
 神楽と惣助、二人のトラックとレベッカが反対方向へ移動を開始した頃。
 既に多くのユニットは行動不能状態にあり、ハンターたちは傷つき、そして歪虚側も既に無傷とは癒えぬ状態にあった。
「大丈夫デスか、ミスターダンディ?」
「我輩もそこそこ高位なのでこのくらいでは死にはしませぬが……万全とは言いがたいですな。何よりリンドヴルムを失っては……」
 肩を並べ、ハンターと向き合う刀鬼とカブラカン。特にカブラカンが受けたダメージは軽くはない。
 ふと、そこへ紅狼刃の鳴き声が響いた。見れば背中にリューとユーリを乗せてこちらへ走ってくるではないか。
「……って、あなたも一緒ですか」
 霧華に続き全員が息を呑んだ。紅狼刃と一緒に剣豪も歩いてきたからだ。
 剣豪は無言でハンター達を見渡すと紅狼刃の尻を軽く蹴って進むように促す。
「どうやらCAMとやらは奪われたようだな。リンドヴルムもなくては持ち帰る手段もなかろう。終わったのならば帰るぞ」
「ボス……まだ目の前にハンターがいるデスけど……」
 もうこれ以上話す事はないと言わんばかりに踵を返し歩いて行くナイトハルト。それに刀鬼もカブラカンも続いていく。
「つまり……歩いて帰るのですな……」
 遠ざかっていく背中を見送り、どっと疲れが出てくる。ハンター達はそれぞれその場に座り込んだり、溜息をついたりした。
「はあ……なんだかものすごく疲れたわ……」
「しっちゃかめっちゃかでしたね……」
「とりあえずこの二人、起こします?」
 額に手をあて溜息を零すコントラルト。刹那が膝を抱え地面にのの字を書く横で、霧華は傷を片手で抑えながらユーリとリューを指差した。
 レベッカのCAMが近づいてくる。すっかり戦場は静かになり、破壊されたユニットの残骸が散乱している。
 それでもまだ使えるものはあるかもしれないのだから、一応は可能な限り持ち帰らなければならない。
 そんな重労働がまだ待っている事を思うと、誰もが溜息を隠さずにはいられなかった……。

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  • 不屈の鬼神
    白神 霧華ka0915
  • 嵐影海光
    レベッカ・アマデーオka1963
  • 大悪党
    神楽ka2032
  • 最強守護者の妹
    コントラルトka4753

重体一覧

参加者一覧

  • 龍奏の蒼姫
    ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239
    エルフ|15才|女性|闘狩人
  • 双璧の盾
    近衛 惣助(ka0510
    人間(蒼)|28才|男性|猟撃士
  • 不屈の鬼神
    白神 霧華(ka0915
    人間(蒼)|17才|女性|闘狩人
  • 嵐影海光
    レベッカ・アマデーオ(ka1963
    人間(紅)|20才|女性|機導師
  • 大悪党
    神楽(ka2032
    人間(蒼)|15才|男性|霊闘士
  • 巡るスズラン
    リュー・グランフェスト(ka2419
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • ツィスカの星
    アウレール・V・ブラオラント(ka2531
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 紅花瞬刃
    花厳 刹那(ka3984
    人間(蒼)|16才|女性|疾影士
  • 双棍の士
    葉桐 舞矢(ka4741
    人間(紅)|20才|女性|闘狩人
  • 最強守護者の妹
    コントラルト(ka4753
    人間(紅)|21才|女性|機導師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 混沌模様の三つ巴
ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239
エルフ|15才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2016/02/15 21:46:35
アイコン ワカ、ナサニエルさんに質問!
神楽(ka2032
人間(リアルブルー)|15才|男性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2016/02/14 23:27:39
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/02/10 08:48:03