ゲスト
(ka0000)
清涼を求めて!
マスター:朝臣あむ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/08/19 22:00
- 完成日
- 2014/08/26 18:21
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
これは夏も本番になったある日の出来事。
錬金術師組合の執務室で書類の山と格闘していたリーゼロッテ・クリューガー(kz0037)は、自身の部屋に配置された魔導機械を見て息を吐いた。
「ちっとも涼しくありませんね」
配置されているのは『魔導扇風機』と呼ばれる機械だ。
本来は涼風を送り出し、夏を快適に過ごすのに一役かう機械なのだが、残念なことにこの機械、難点があった。
「まさか冷気製造の魔導装置を設置し忘れるなんて……」
設計の段階では確かに冷気製造魔導装置は存在した。では何故、この装置にそれが無いのか。
「先生! 美味しいお菓子を持ってきましたよ♪」
勢いよく開けられた扉の向こうに、赤茶の短い髪の少女がいる。彼女は人懐っこい笑みを浮かべて駆け込んでくると、リーゼロッテの机の上に紅茶セットを置いた。
「温かいお茶と、ほっかほかのお芋パイです♪ 冷めないうちにどうぞ♪」
笑顔で勧める彼女に悪気はない。
そもそもこのお茶とパイはとても美味しそうだ。だが今はそんな気になれない。
「ペリド……この執務室の気温、わかってる?」
「気温、ですか? すっごく暑いって事は分りますけど、細かな数字まではちょっと」
「そう……凄く暑い事がわかっているなら良いの。とりあえず、そのお茶は少し離れた場所に置いてくれる?」
「あ、はい」
何でだろう? そう首を傾げる彼女に頭を抱える。
悪い子ではない。悪い子ではないのだ。
そう言い聞かせながら溜息を吐いていると、ペリドが稼働している魔導扇風機に気付いた。
「あれ? この機械完成したんですか? ボクはてっきり、材料が手に入らなくて製造中止にしたんだと思ってました!」
笑顔で振りかえられて苦笑する。
そう、この機械が未完成なのは材料が手に入らないから。その原因となっているのが歪虚の活性化だ。
「組合員を危険な場所に送り出す訳にはいきませんし、当分は我慢するしかないでしょうね」
この際、夏が終わってしまうのも仕方がない。そう口に仕掛けた時だ。
「だったらボクが採ってきますよ!」
「ちょ、ちょっと、いくらなんでも危険過ぎます。発見されている歪虚はとても狂暴なんですよ?」
「大丈夫ですよ♪」
その自信はどこから来るのか。
呆れるリーゼロッテに彼女は言う。
「ボクは先生に拾われてから、先生のために頑張ろうって決めてます! 先生が困ってるならいかない訳には行きませんっ!」
ペリドがリーゼロッテの元に来たのは今から2年ほど前。錬金術教室の移動の際、行き倒れている彼女を偶然見つけた。
それ以降、リーゼロッテの傍で錬金術を学び、彼女の助手のような存在として働いている。
「ボク、錬金術を使う技術は未熟ですけど、闘いは任せて下さい! 何故か知らないけど、腕っぷしだけはあるんですよ!」
「威張れる事でもないですが、確かに貴女の戦闘能力は目を見張るものがあります……ですが」
どんなに強くても彼女1人で行かせる訳にはいかない。そう考え込んだ時、ある存在を思い出した。
「ハンター……」
そうだ彼等に頼めば、歪虚を倒して材料を手に入れて来てくれるのではないだろうか。
「先生?」
「ペリド。ハンターズソサエティに行って依頼を出して来て下さい」
「それって……」
「貴女にも同行してもらいます。材料がどれなのかは、貴女でないとわからないでしょうから」
リーゼロッテはそう言うと、ハンターに向けた依頼書の概要を書き始めた。
●
そこは暗い岩場の間にあった。
人が1人入れるだけの隙間を持った洞窟を抜けると、その先には広大な荒野が広がっている。
風がいつも絶え間なく拭く場所は『風の洞窟』と呼ばれ、荒野には枯れた大地に順応した生き物しか存在していなかった。
だが今だけは、ある生き物が荒野を徘徊し、そこにある生態系を崩そうとしていた。
ザザ……、ザザザッ……。
砂を擦るような音共に姿を見せたのは、獅子のような姿をした黒い生き物だ。
白の瞳に剥き出しになった牙が特徴的で、口からは絶えず涎が溢れ出している。
見るからに狂暴そうな獅子は、近くを駆けていたネズミに気付くと、凄まじい勢いで飛び付いた。
グルルッ、グルルルルッ。
何度も噛み付き、血飛沫を上げてなぶる姿は、どうみても普通の様子ではない。
獣はネズミの血で汚れた口元を舐め取ると、何かを察したように洞窟を見た。そして荒野で薄ら光る岩に腰を据えると、獲物を待つように瞳を眇めた。
錬金術師組合の執務室で書類の山と格闘していたリーゼロッテ・クリューガー(kz0037)は、自身の部屋に配置された魔導機械を見て息を吐いた。
「ちっとも涼しくありませんね」
配置されているのは『魔導扇風機』と呼ばれる機械だ。
本来は涼風を送り出し、夏を快適に過ごすのに一役かう機械なのだが、残念なことにこの機械、難点があった。
「まさか冷気製造の魔導装置を設置し忘れるなんて……」
設計の段階では確かに冷気製造魔導装置は存在した。では何故、この装置にそれが無いのか。
「先生! 美味しいお菓子を持ってきましたよ♪」
勢いよく開けられた扉の向こうに、赤茶の短い髪の少女がいる。彼女は人懐っこい笑みを浮かべて駆け込んでくると、リーゼロッテの机の上に紅茶セットを置いた。
「温かいお茶と、ほっかほかのお芋パイです♪ 冷めないうちにどうぞ♪」
笑顔で勧める彼女に悪気はない。
そもそもこのお茶とパイはとても美味しそうだ。だが今はそんな気になれない。
「ペリド……この執務室の気温、わかってる?」
「気温、ですか? すっごく暑いって事は分りますけど、細かな数字まではちょっと」
「そう……凄く暑い事がわかっているなら良いの。とりあえず、そのお茶は少し離れた場所に置いてくれる?」
「あ、はい」
何でだろう? そう首を傾げる彼女に頭を抱える。
悪い子ではない。悪い子ではないのだ。
そう言い聞かせながら溜息を吐いていると、ペリドが稼働している魔導扇風機に気付いた。
「あれ? この機械完成したんですか? ボクはてっきり、材料が手に入らなくて製造中止にしたんだと思ってました!」
笑顔で振りかえられて苦笑する。
そう、この機械が未完成なのは材料が手に入らないから。その原因となっているのが歪虚の活性化だ。
「組合員を危険な場所に送り出す訳にはいきませんし、当分は我慢するしかないでしょうね」
この際、夏が終わってしまうのも仕方がない。そう口に仕掛けた時だ。
「だったらボクが採ってきますよ!」
「ちょ、ちょっと、いくらなんでも危険過ぎます。発見されている歪虚はとても狂暴なんですよ?」
「大丈夫ですよ♪」
その自信はどこから来るのか。
呆れるリーゼロッテに彼女は言う。
「ボクは先生に拾われてから、先生のために頑張ろうって決めてます! 先生が困ってるならいかない訳には行きませんっ!」
ペリドがリーゼロッテの元に来たのは今から2年ほど前。錬金術教室の移動の際、行き倒れている彼女を偶然見つけた。
それ以降、リーゼロッテの傍で錬金術を学び、彼女の助手のような存在として働いている。
「ボク、錬金術を使う技術は未熟ですけど、闘いは任せて下さい! 何故か知らないけど、腕っぷしだけはあるんですよ!」
「威張れる事でもないですが、確かに貴女の戦闘能力は目を見張るものがあります……ですが」
どんなに強くても彼女1人で行かせる訳にはいかない。そう考え込んだ時、ある存在を思い出した。
「ハンター……」
そうだ彼等に頼めば、歪虚を倒して材料を手に入れて来てくれるのではないだろうか。
「先生?」
「ペリド。ハンターズソサエティに行って依頼を出して来て下さい」
「それって……」
「貴女にも同行してもらいます。材料がどれなのかは、貴女でないとわからないでしょうから」
リーゼロッテはそう言うと、ハンターに向けた依頼書の概要を書き始めた。
●
そこは暗い岩場の間にあった。
人が1人入れるだけの隙間を持った洞窟を抜けると、その先には広大な荒野が広がっている。
風がいつも絶え間なく拭く場所は『風の洞窟』と呼ばれ、荒野には枯れた大地に順応した生き物しか存在していなかった。
だが今だけは、ある生き物が荒野を徘徊し、そこにある生態系を崩そうとしていた。
ザザ……、ザザザッ……。
砂を擦るような音共に姿を見せたのは、獅子のような姿をした黒い生き物だ。
白の瞳に剥き出しになった牙が特徴的で、口からは絶えず涎が溢れ出している。
見るからに狂暴そうな獅子は、近くを駆けていたネズミに気付くと、凄まじい勢いで飛び付いた。
グルルッ、グルルルルッ。
何度も噛み付き、血飛沫を上げてなぶる姿は、どうみても普通の様子ではない。
獣はネズミの血で汚れた口元を舐め取ると、何かを察したように洞窟を見た。そして荒野で薄ら光る岩に腰を据えると、獲物を待つように瞳を眇めた。
リプレイ本文
人が1人通れるだけの広さを持った洞窟。その中を歩くパープル(ka1067)は、アシフ・セレンギル(ka1073)の用意した灯りを頼りに目的の地を目指していた。
「獅子型の歪虚、か……今回は、アシフと桐壱が鍵になりそうだな」
呟き、後方を歩く仲間に想いを馳せる。
今回の敵は素早さが特化していると言う。そうした敵にアシフと桐壱(ka1503)の攻撃は有効――少なくともパープルはそう思っていた。
(2人とも、頼りにしてるぜ)
表情を引き締め願うその耳に、洞窟を抜ける風の音が響く。それを追うように前を向くと、彼とは違う歪虚への想いが聞こえて来た。
「獅子って事は猫だよね。猫型の動物は大好きだよ」
どんな姿なんだろう。そう目を細めるジュード・エアハート(ka0410)の声に「ふむ」と目を細める。
確かに獅子と言えば猫科だが、今回の獅子はそれだけではなかったはず。
「確かゾン――」
「ジュードさん、獅子とは言ってもゾンビの歪虚ですよー? 怖いワンコですよー?」
「え、わんこ?」
ゾンビ型の歪虚だった。そう言おうとしたパープルの声を遮ったのはペリドだ。
「獅子と言えばワンコですよー♪」
ですよね! と自信満々に前を歩くアシフを見るが、彼の表情を見れば一目瞭然だ。そもそも彼女がワンコと言う前にジュードが言っていたではないか。
「獅子ってぇのは、猫じゃねぇか? なあ?」
ジュードもそう言ってたし。と告げるのはウラル(ka2723)だ。その声に彼の後ろを歩いていた桐壱がヒョイッと顔を覗かせる。
「そうですよ~、獅子は猫です~。言うなれば、ワンコではなくニャンコです~」
間違えたらダメですよ~。そう諭す彼にペリドの目が瞬かれる。だが直ぐに「そっか♪」と笑顔を零すと、彼女は前に進むべく足を踏み出し――
「あ、転んだ」
足を踏み出した直後、彼女の前を歩いていたアシフの背にぶつかった。そうして転がったのだが、何とも情けないドジっぷり。
「……大丈夫なのか?」
アシフの心配は御尤もである。
魔導装置の材料と聞いて以降、素材に興味のあった彼は、歪虚討伐後にどのような物か見せてもらい、似たような物を故郷で探すのも一興と思っていた。だが、材料を採取する人間がこんなんで大丈夫なのか。
「あはは、転んじゃいました! さあ、気を取り直してレッツらゴー☆」
呆れるアシフを他所に、マイペースで立ち上がったペリド。
そんな彼女を見ながら、イーリス・クルクベウ(ka0481)は「ふむ」と自分の顎を摩った。
「あれがリーゼロッテ組合長の秘蔵ッ子か」
錬金術師組合に加入している身としては材料への興味もあるが、ペリドへの興味もある。とは言え、今のところドジなアルケミストであることしかわからないが、はてさて。
「此度の依頼は何が出てくるのかのう」
イーリスはそう呟くと、遠くに見えてきた出口を見据え、ツッと口角を上げた。
●
光る岩の上。獲物の襲来を求めて腰を据えていた獅子の顔が上がった。
ザザ……、ザザザッ……。
風の洞窟からは絶えることなく風が吹いている。それはいつもと変わらない風景。だが獅子はその音よりも、洞窟の中に光る何かに気付いて腰を上げた。
「さあ、狩りの始まりだ」
突如飛び出してきた矢に獅子の身が大きく飛び上がる。と、そこに無数の風の刃が飛び込んで来た。
目を向けた先には洞窟から滑り出してくるパープルの姿。身を低くして洞窟を抜けるその背には、魔導銃を手に飛び出してくるジュードと、風の刃を放ったアシフの姿がある。
「グルルルルルッ」
敵――否、獲物だ。
そう判断した獅子の足が飛んだ。
それに合わせて洞窟の入り口で銃を構えたジュードが照準を合わせる。勿論、外に飛び出したパープルも、普段の明るい表情を消して獅子の動きを捉えるべく弓を構えている。
「ペリドさんは前衛が危ない時のフォローをお願いするね」
言って放った銃弾が荒野を撃つ。
1つ、2つと撃ち込まれる弾、それに合わせて撃ち込まれる弓もまた、地面に突き刺さり獅子には当っていない。
「聞いていた以上に素早いな」
スウッと細めた瞳。赤の髪に黄色を携えた髪が炎のように揺れると、アシフの手にしている魔導書が開いた。
「――燃えろ」
書を飛び出した炎が地を駆ける獅子に飛び掛かる。それを飛翔する事で回避すると、獅子はまず、自身を初手で襲ったパープルに飛び掛かった。
「パープルさん!」
飛び付きに反応しようとするが獅子の方が早い。
あっという間に間合いに飛び込まれたパープルを助ける為にジュードの銃が火を吹いた。
「グァルッ!」
顔を振るい、牙を剥き出しにして風の刃を放つ事で弾丸を落とした獅子が次に狙うのは、洞窟の入口だ。
動く獲物が駄目なら、出て来る獲物を狙えば良い。だが、それを容易に許す者などこの場にはいない。
「パープルさん、アシフさん!」
「「ああ」」
重なる2つの声を耳に、金色に変じた瞳を眇めたジュードが弾を放つ。当然、これも回避すべく獅子は飛躍する。
しかし今度は簡単に接近する事が出来なかった。
「グルルルァァッ!」
涎を垂らした獅子の口から僅かな血が零れている。
よく見ると、獅子の腹から腐った肉が零れかけている。どうやらアシフの放った炎と、パープルの放った矢が獅子の胴を掠めたらしい。
「桐壱さん、ウラルさん、イーリスさんも、もう出て大丈夫ですよ」
ジュードは後ろに控える入口から身をずらすと、残る面々を荒野に招いた。
「わぁ、大きな獅子さんですねぇ……」
「だな。さ、ちゃちゃっと片付けちまおうぜ」
桐壱はそう言いながら獅子と現在の状況を確認。髪と瞳を変化させながら、背に現れた羽根を揺らして術を刻んだ。
「お、ありがてぇ!」
彼が紡いだのは護りの術。それを受けたウラルは不敵な笑みを浮かべて己が武器を抜き取る。先程から戦闘音ばかり聞いていた所為か、異様に興奮している。
「この昂揚感……悪かねぇが、そうも言ってられねぇわな」
荒野には怒りを露わに喉を鳴らす獅子がいる。今は足を横に動かしながら様子を窺っているが、こんなのは一瞬だ。
「ええぃ! もどかしいの!!」
「お待たせしました」
イーリスの声にクスリと笑ってジュードが前に出る。それを見止めて息を吐くと、彼女の左目に光が浮かんだ。
歯車を模したような光が獅子を捉え、彼女の腕が眼前に晒される。そうしてマテリアルを掌に集中させると、傍で精神集中するように獅子を見据えるアシフに攻性強化を施す。
「先のは役に立ったかのう?」
「見ての通りだ」
顎で獅子を示す彼に、イーリスは「そうか」と満足そうに笑む。
彼女の言う「先の」とは洞窟を抜ける際にアシフが放った風の刃の事だ。あの時も彼には攻性強化が掛けられていた。
「さて、改めて戦闘開始かのう! そうそう自由にはさせんぞ!」
改めて構えた魔導銃。その先端から牽制の弾が放たれると、荒野は再び戦場と化した。
「ガルルルルル!」
大地を弾く弾を避けながら飛んでくる獅子の速度が速い。
「怒ると周りが見えなくなるのでしょうか?」
「さあ、な」
桐壱の素朴な疑問に、アシフが淡とした言葉を返す。こうしている間にも獅子の足は加速してゆくが、彼等は狼狽えなかった。
「邪魔はさせませんよ」
クスリと笑んだ桐壱の手に握られた木製の杖が反された。それと同時にアシフの魔導書も淡い光を放って頁を捲り出す。
「グアアアアッ!」
させるか! そう言わんばかりの咆哮だが、叫びと同時に獅子の目が見開かれた。
「敵は彼等だけではないぞ」
「そうそう、周りも見ないとダメだよ」
攻撃の邪魔はさせないと、パープルとジュードが武器の射程を生かして獅子を狙撃する。しかし――
「うああっ!」
「くっ!」
狙撃と同時に風に薙がれたパープルとジュードにイーリスが慌てて照準を合わす。そして胴よりも足下を狙って弾を繰り出すと、獅子は大きく身を捩る様にして飛び退くと、脚力を溜めるように身を屈め、一気に駆け出した。
「盾としての役割り、果たすぜ!」
蛇の精霊に祈りを捧げて浄化した肉体。これに勝る盾はない! そう豪語して飛び出したウラルの目は本気だ。
勿論、敵の能力を軽視している訳ではない。そうではなく、この行動が味方の攻撃する隙を作り出せればと。
「俺は仲間を信じる!」
彼は手にしたモーニングスターを握り締めると、迫り来る脅威に向けて振り下ろした。
ガキイィィィンッ!
大地を叩く金属の音、腕を伝う強烈な痺れにウラルの顔が上がる。その目に映るのは唾液を滴らせた獅子の牙だ。
(万事休す、か……?)
漠然とそう思い奥歯を噛み締める。だが、衝撃を覚悟した彼に与えられたのは、腕を裂く強烈な痛みだけだった。
「……ウラルさん、無茶はダメですよ」
牙が頭を喰らう寸前、ペリドがウラルにタックルを仕掛けたのだ。その結果、彼は直撃を免れて地面に転がった。
「嫌な予感がして後を追い駆けてたですよ。間に合って良かったです」
へへ、と笑う彼女にウラルが面目無さそうに眉を潜める。しかしこうしている間にも戦闘は続いていた。
「グァァアァァッ!」
顔面にダガーを突き刺して身悶える獅子。その前には前足で組み敷かれたパープルがいる。
「口を狙え。いくら攻撃に強かろうと、口の中は鍛えられまい?」
アシフは術を繰り出すべく構えるジュードとイーリスに言い添えると、自らも術を繰り出すべく数珠の嵌った手を掲げた。
「――終わりだ」
3方向から獅子の口を狙って放たれた攻撃。
2つはマテリアルのエネルギーによって噴射された弾、そしてもう1つは炎によって作られた矢だ。
「キィイィィイッ!」
喉を裂くような叫びと同時に、獅子の目が開かれる。そうして腐敗した体が大地に崩れ落ちると、武器を構えていた面々は肩の力を抜いて武器を下ろした。
そこに明るい声が響き渡る。
「すごいです! これがハンターさんの力なんですね!」
ぴょんぴょん飛び跳ねて明るい声を上げたペリドが、興奮した様子でハンターを見回している。
その様子は無邪気でしかないが、ウラルを助けた時の脚力を思い返すと侮りがたい。とは言え、戦闘が終わったのは事実だ。
「あー……えっと、確かに歪虚は倒したが、目的はそれだけじゃねえだろ?」
頭を掻いて首を傾げるウラルの顔には苦笑が浮かんでいる。そんな彼に「そうでした!」と言葉を返してペリドが脚を動かした時だ。
「――ゥゥゥウウッ」
「!」
倒れたはずの獅子が動いた。
「ペリドさん、危ない!」
最後の力を振り絞って口を開いた獅子に、ジュードの叫び声が木霊する。だがペリドはまだ戦闘態勢を整えていない。
咄嗟に鉤爪を構えるがやはりその動作は遅い。このままではペリドが倒れる。そう誰もが思った瞬間、風を放とうとした獅子の首が飛んだ。
腐敗した液体を撒き散らしながら落ちてくる頭。その向こうにいたのは、最後まで警戒を解かずに様子を窺っていた桐壱だった。
「ふぅ……やっとおとなしくなりましたねぇ……」
彼はそう言って杖を下ろすと、驚いた様に自分を見ているペリドに向かってニッコリ微笑んで見せた。
●
「えい! やあ! とうっ!」
「……ご苦労な事だな」
自身の鉤爪で必死に岩を砕くペリドを横目に、アシフは涼しい顔で光る岩を見詰めている。
岩は砕かれる度に石を排出しているのだが、石の色はさまざまで、黒い物から白い物、中にはなんだかよくわからない色の石まである。
「光って見えたのは光の加減なのかな?」
うーん、と首を傾げるジュードの手には白い石がある。石は石に翳しても白のまま。光っていた片鱗など何処にもない。
それでもペリドが砕く岩自体は光っているのだから不思議なものだ。
「ふむ……これが素材かの?」
砕いた岩の中からイーリスが拾い上げた石に、ペリドの動きが止まる。
「あ、それです!」
岩と同様にキラキラ光る小さな石に彼女の目が輝く。
「全部砕くまで出て来ないかと思いましたー! これで先生に良い報告が出来ます!」
どうやら岩は大きいが、採取できる石は希少の様だ。延々と岩を砕いてこれ1個とはだいぶ厳しい。
「これじゃあ、お零れをもらうのは無理そうかな」
「いや、それ以前に魔導扇風機とやらが完成しても、普及は望めないんじゃないかな?」
ガックリ項垂れるジュードの肩をパープルが叩く。その上で採取された石を見ると、彼もまた残念そうな表情を浮かべた。
彼自身、もし素材が採取出来るなら、冷蔵庫を作って森の暮らしを豊かに――とか考えていた。
それだけにガッカリ度はジュード並みに大きい。とは言え、落ち込んでもいられない。
「ま、まあ、なんだ! 無事依頼も成功したし、そうガッカリする事でもないだろ! な!」
頑張って皆を励ますウラルに、イーリスが「そうじゃぞ」と同意を示す。
「依頼は報告するまでが依頼じゃからのう」
最後まで気を抜かぬ事だ。そう諭す彼女は、ペリドと共に石の選別をしている桐壱に目を向けた。
もし彼女の警戒がなければ、今回の依頼は失敗していた可能性がある。そう考えると、益々気を緩める事は出来ない。
「これが必要な素材なのですか? 微かに光を帯びているようですが……魔力でも通っているのですかねぇ?」
「それはわかりませんが、この石が魔導扇風機の完成には不可欠なんです♪」
言って、イーリスから受け取った石を桐壱に見せるペリドはすごく嬉しそうだ。そんな彼女を見てイーリスがふと言葉を添えた。
「機械が完成すれば、是非見に行かせてもらうの」
「はい、是非に! って、あれ?」
まだ残る歪虚の遺体の傍で、何かが光った。
それに気付いたのはアシフも同じだ。
「何だ、これは?」
そう口にしながら拾い上げたのは、何かの機械の部品だ。見るからに錆び付いているそれは、歪虚の遺体の中から出てきたように見える。
「ペリド、何か知らねぇか?」
よもやこれも材料だ、とは言わないだろうが、錬金術師組合組合長の元にいるのなら何か知っているかもしれない。
そう思いウラルはペリドを振り返った。
その視線に彼女の表情が強張る。
「歪虚から機械の部品……もしかすると剣機……あ、でも違うかもですし! あ、あの……それ、ボクが預かって良いですか?」
「ああ、構わん」
誰が持っていても役に立たない物だ。
アシフは近付いてくるペリドに部品を差出すと、何かを探る様に彼女の顔をじっと見詰めた。
●
数日後、完成した魔導扇風機を前に、リーゼロッテは難しい表情で報告書に目を通していた。
「……素材の採取地にいた歪虚から機械の部品が出て来た。ですか」
言って目を向けた先には、歪虚から出て来たと言う機械の部品がある。
「ここ最近の歪虚の増加、そしてこの部品……早急に陛下へ報告が必要ですね」
彼女はそう呟くと、報告書の足りない部分を補う為に筆を走らせ始めた。
「獅子型の歪虚、か……今回は、アシフと桐壱が鍵になりそうだな」
呟き、後方を歩く仲間に想いを馳せる。
今回の敵は素早さが特化していると言う。そうした敵にアシフと桐壱(ka1503)の攻撃は有効――少なくともパープルはそう思っていた。
(2人とも、頼りにしてるぜ)
表情を引き締め願うその耳に、洞窟を抜ける風の音が響く。それを追うように前を向くと、彼とは違う歪虚への想いが聞こえて来た。
「獅子って事は猫だよね。猫型の動物は大好きだよ」
どんな姿なんだろう。そう目を細めるジュード・エアハート(ka0410)の声に「ふむ」と目を細める。
確かに獅子と言えば猫科だが、今回の獅子はそれだけではなかったはず。
「確かゾン――」
「ジュードさん、獅子とは言ってもゾンビの歪虚ですよー? 怖いワンコですよー?」
「え、わんこ?」
ゾンビ型の歪虚だった。そう言おうとしたパープルの声を遮ったのはペリドだ。
「獅子と言えばワンコですよー♪」
ですよね! と自信満々に前を歩くアシフを見るが、彼の表情を見れば一目瞭然だ。そもそも彼女がワンコと言う前にジュードが言っていたではないか。
「獅子ってぇのは、猫じゃねぇか? なあ?」
ジュードもそう言ってたし。と告げるのはウラル(ka2723)だ。その声に彼の後ろを歩いていた桐壱がヒョイッと顔を覗かせる。
「そうですよ~、獅子は猫です~。言うなれば、ワンコではなくニャンコです~」
間違えたらダメですよ~。そう諭す彼にペリドの目が瞬かれる。だが直ぐに「そっか♪」と笑顔を零すと、彼女は前に進むべく足を踏み出し――
「あ、転んだ」
足を踏み出した直後、彼女の前を歩いていたアシフの背にぶつかった。そうして転がったのだが、何とも情けないドジっぷり。
「……大丈夫なのか?」
アシフの心配は御尤もである。
魔導装置の材料と聞いて以降、素材に興味のあった彼は、歪虚討伐後にどのような物か見せてもらい、似たような物を故郷で探すのも一興と思っていた。だが、材料を採取する人間がこんなんで大丈夫なのか。
「あはは、転んじゃいました! さあ、気を取り直してレッツらゴー☆」
呆れるアシフを他所に、マイペースで立ち上がったペリド。
そんな彼女を見ながら、イーリス・クルクベウ(ka0481)は「ふむ」と自分の顎を摩った。
「あれがリーゼロッテ組合長の秘蔵ッ子か」
錬金術師組合に加入している身としては材料への興味もあるが、ペリドへの興味もある。とは言え、今のところドジなアルケミストであることしかわからないが、はてさて。
「此度の依頼は何が出てくるのかのう」
イーリスはそう呟くと、遠くに見えてきた出口を見据え、ツッと口角を上げた。
●
光る岩の上。獲物の襲来を求めて腰を据えていた獅子の顔が上がった。
ザザ……、ザザザッ……。
風の洞窟からは絶えることなく風が吹いている。それはいつもと変わらない風景。だが獅子はその音よりも、洞窟の中に光る何かに気付いて腰を上げた。
「さあ、狩りの始まりだ」
突如飛び出してきた矢に獅子の身が大きく飛び上がる。と、そこに無数の風の刃が飛び込んで来た。
目を向けた先には洞窟から滑り出してくるパープルの姿。身を低くして洞窟を抜けるその背には、魔導銃を手に飛び出してくるジュードと、風の刃を放ったアシフの姿がある。
「グルルルルルッ」
敵――否、獲物だ。
そう判断した獅子の足が飛んだ。
それに合わせて洞窟の入り口で銃を構えたジュードが照準を合わせる。勿論、外に飛び出したパープルも、普段の明るい表情を消して獅子の動きを捉えるべく弓を構えている。
「ペリドさんは前衛が危ない時のフォローをお願いするね」
言って放った銃弾が荒野を撃つ。
1つ、2つと撃ち込まれる弾、それに合わせて撃ち込まれる弓もまた、地面に突き刺さり獅子には当っていない。
「聞いていた以上に素早いな」
スウッと細めた瞳。赤の髪に黄色を携えた髪が炎のように揺れると、アシフの手にしている魔導書が開いた。
「――燃えろ」
書を飛び出した炎が地を駆ける獅子に飛び掛かる。それを飛翔する事で回避すると、獅子はまず、自身を初手で襲ったパープルに飛び掛かった。
「パープルさん!」
飛び付きに反応しようとするが獅子の方が早い。
あっという間に間合いに飛び込まれたパープルを助ける為にジュードの銃が火を吹いた。
「グァルッ!」
顔を振るい、牙を剥き出しにして風の刃を放つ事で弾丸を落とした獅子が次に狙うのは、洞窟の入口だ。
動く獲物が駄目なら、出て来る獲物を狙えば良い。だが、それを容易に許す者などこの場にはいない。
「パープルさん、アシフさん!」
「「ああ」」
重なる2つの声を耳に、金色に変じた瞳を眇めたジュードが弾を放つ。当然、これも回避すべく獅子は飛躍する。
しかし今度は簡単に接近する事が出来なかった。
「グルルルァァッ!」
涎を垂らした獅子の口から僅かな血が零れている。
よく見ると、獅子の腹から腐った肉が零れかけている。どうやらアシフの放った炎と、パープルの放った矢が獅子の胴を掠めたらしい。
「桐壱さん、ウラルさん、イーリスさんも、もう出て大丈夫ですよ」
ジュードは後ろに控える入口から身をずらすと、残る面々を荒野に招いた。
「わぁ、大きな獅子さんですねぇ……」
「だな。さ、ちゃちゃっと片付けちまおうぜ」
桐壱はそう言いながら獅子と現在の状況を確認。髪と瞳を変化させながら、背に現れた羽根を揺らして術を刻んだ。
「お、ありがてぇ!」
彼が紡いだのは護りの術。それを受けたウラルは不敵な笑みを浮かべて己が武器を抜き取る。先程から戦闘音ばかり聞いていた所為か、異様に興奮している。
「この昂揚感……悪かねぇが、そうも言ってられねぇわな」
荒野には怒りを露わに喉を鳴らす獅子がいる。今は足を横に動かしながら様子を窺っているが、こんなのは一瞬だ。
「ええぃ! もどかしいの!!」
「お待たせしました」
イーリスの声にクスリと笑ってジュードが前に出る。それを見止めて息を吐くと、彼女の左目に光が浮かんだ。
歯車を模したような光が獅子を捉え、彼女の腕が眼前に晒される。そうしてマテリアルを掌に集中させると、傍で精神集中するように獅子を見据えるアシフに攻性強化を施す。
「先のは役に立ったかのう?」
「見ての通りだ」
顎で獅子を示す彼に、イーリスは「そうか」と満足そうに笑む。
彼女の言う「先の」とは洞窟を抜ける際にアシフが放った風の刃の事だ。あの時も彼には攻性強化が掛けられていた。
「さて、改めて戦闘開始かのう! そうそう自由にはさせんぞ!」
改めて構えた魔導銃。その先端から牽制の弾が放たれると、荒野は再び戦場と化した。
「ガルルルルル!」
大地を弾く弾を避けながら飛んでくる獅子の速度が速い。
「怒ると周りが見えなくなるのでしょうか?」
「さあ、な」
桐壱の素朴な疑問に、アシフが淡とした言葉を返す。こうしている間にも獅子の足は加速してゆくが、彼等は狼狽えなかった。
「邪魔はさせませんよ」
クスリと笑んだ桐壱の手に握られた木製の杖が反された。それと同時にアシフの魔導書も淡い光を放って頁を捲り出す。
「グアアアアッ!」
させるか! そう言わんばかりの咆哮だが、叫びと同時に獅子の目が見開かれた。
「敵は彼等だけではないぞ」
「そうそう、周りも見ないとダメだよ」
攻撃の邪魔はさせないと、パープルとジュードが武器の射程を生かして獅子を狙撃する。しかし――
「うああっ!」
「くっ!」
狙撃と同時に風に薙がれたパープルとジュードにイーリスが慌てて照準を合わす。そして胴よりも足下を狙って弾を繰り出すと、獅子は大きく身を捩る様にして飛び退くと、脚力を溜めるように身を屈め、一気に駆け出した。
「盾としての役割り、果たすぜ!」
蛇の精霊に祈りを捧げて浄化した肉体。これに勝る盾はない! そう豪語して飛び出したウラルの目は本気だ。
勿論、敵の能力を軽視している訳ではない。そうではなく、この行動が味方の攻撃する隙を作り出せればと。
「俺は仲間を信じる!」
彼は手にしたモーニングスターを握り締めると、迫り来る脅威に向けて振り下ろした。
ガキイィィィンッ!
大地を叩く金属の音、腕を伝う強烈な痺れにウラルの顔が上がる。その目に映るのは唾液を滴らせた獅子の牙だ。
(万事休す、か……?)
漠然とそう思い奥歯を噛み締める。だが、衝撃を覚悟した彼に与えられたのは、腕を裂く強烈な痛みだけだった。
「……ウラルさん、無茶はダメですよ」
牙が頭を喰らう寸前、ペリドがウラルにタックルを仕掛けたのだ。その結果、彼は直撃を免れて地面に転がった。
「嫌な予感がして後を追い駆けてたですよ。間に合って良かったです」
へへ、と笑う彼女にウラルが面目無さそうに眉を潜める。しかしこうしている間にも戦闘は続いていた。
「グァァアァァッ!」
顔面にダガーを突き刺して身悶える獅子。その前には前足で組み敷かれたパープルがいる。
「口を狙え。いくら攻撃に強かろうと、口の中は鍛えられまい?」
アシフは術を繰り出すべく構えるジュードとイーリスに言い添えると、自らも術を繰り出すべく数珠の嵌った手を掲げた。
「――終わりだ」
3方向から獅子の口を狙って放たれた攻撃。
2つはマテリアルのエネルギーによって噴射された弾、そしてもう1つは炎によって作られた矢だ。
「キィイィィイッ!」
喉を裂くような叫びと同時に、獅子の目が開かれる。そうして腐敗した体が大地に崩れ落ちると、武器を構えていた面々は肩の力を抜いて武器を下ろした。
そこに明るい声が響き渡る。
「すごいです! これがハンターさんの力なんですね!」
ぴょんぴょん飛び跳ねて明るい声を上げたペリドが、興奮した様子でハンターを見回している。
その様子は無邪気でしかないが、ウラルを助けた時の脚力を思い返すと侮りがたい。とは言え、戦闘が終わったのは事実だ。
「あー……えっと、確かに歪虚は倒したが、目的はそれだけじゃねえだろ?」
頭を掻いて首を傾げるウラルの顔には苦笑が浮かんでいる。そんな彼に「そうでした!」と言葉を返してペリドが脚を動かした時だ。
「――ゥゥゥウウッ」
「!」
倒れたはずの獅子が動いた。
「ペリドさん、危ない!」
最後の力を振り絞って口を開いた獅子に、ジュードの叫び声が木霊する。だがペリドはまだ戦闘態勢を整えていない。
咄嗟に鉤爪を構えるがやはりその動作は遅い。このままではペリドが倒れる。そう誰もが思った瞬間、風を放とうとした獅子の首が飛んだ。
腐敗した液体を撒き散らしながら落ちてくる頭。その向こうにいたのは、最後まで警戒を解かずに様子を窺っていた桐壱だった。
「ふぅ……やっとおとなしくなりましたねぇ……」
彼はそう言って杖を下ろすと、驚いた様に自分を見ているペリドに向かってニッコリ微笑んで見せた。
●
「えい! やあ! とうっ!」
「……ご苦労な事だな」
自身の鉤爪で必死に岩を砕くペリドを横目に、アシフは涼しい顔で光る岩を見詰めている。
岩は砕かれる度に石を排出しているのだが、石の色はさまざまで、黒い物から白い物、中にはなんだかよくわからない色の石まである。
「光って見えたのは光の加減なのかな?」
うーん、と首を傾げるジュードの手には白い石がある。石は石に翳しても白のまま。光っていた片鱗など何処にもない。
それでもペリドが砕く岩自体は光っているのだから不思議なものだ。
「ふむ……これが素材かの?」
砕いた岩の中からイーリスが拾い上げた石に、ペリドの動きが止まる。
「あ、それです!」
岩と同様にキラキラ光る小さな石に彼女の目が輝く。
「全部砕くまで出て来ないかと思いましたー! これで先生に良い報告が出来ます!」
どうやら岩は大きいが、採取できる石は希少の様だ。延々と岩を砕いてこれ1個とはだいぶ厳しい。
「これじゃあ、お零れをもらうのは無理そうかな」
「いや、それ以前に魔導扇風機とやらが完成しても、普及は望めないんじゃないかな?」
ガックリ項垂れるジュードの肩をパープルが叩く。その上で採取された石を見ると、彼もまた残念そうな表情を浮かべた。
彼自身、もし素材が採取出来るなら、冷蔵庫を作って森の暮らしを豊かに――とか考えていた。
それだけにガッカリ度はジュード並みに大きい。とは言え、落ち込んでもいられない。
「ま、まあ、なんだ! 無事依頼も成功したし、そうガッカリする事でもないだろ! な!」
頑張って皆を励ますウラルに、イーリスが「そうじゃぞ」と同意を示す。
「依頼は報告するまでが依頼じゃからのう」
最後まで気を抜かぬ事だ。そう諭す彼女は、ペリドと共に石の選別をしている桐壱に目を向けた。
もし彼女の警戒がなければ、今回の依頼は失敗していた可能性がある。そう考えると、益々気を緩める事は出来ない。
「これが必要な素材なのですか? 微かに光を帯びているようですが……魔力でも通っているのですかねぇ?」
「それはわかりませんが、この石が魔導扇風機の完成には不可欠なんです♪」
言って、イーリスから受け取った石を桐壱に見せるペリドはすごく嬉しそうだ。そんな彼女を見てイーリスがふと言葉を添えた。
「機械が完成すれば、是非見に行かせてもらうの」
「はい、是非に! って、あれ?」
まだ残る歪虚の遺体の傍で、何かが光った。
それに気付いたのはアシフも同じだ。
「何だ、これは?」
そう口にしながら拾い上げたのは、何かの機械の部品だ。見るからに錆び付いているそれは、歪虚の遺体の中から出てきたように見える。
「ペリド、何か知らねぇか?」
よもやこれも材料だ、とは言わないだろうが、錬金術師組合組合長の元にいるのなら何か知っているかもしれない。
そう思いウラルはペリドを振り返った。
その視線に彼女の表情が強張る。
「歪虚から機械の部品……もしかすると剣機……あ、でも違うかもですし! あ、あの……それ、ボクが預かって良いですか?」
「ああ、構わん」
誰が持っていても役に立たない物だ。
アシフは近付いてくるペリドに部品を差出すと、何かを探る様に彼女の顔をじっと見詰めた。
●
数日後、完成した魔導扇風機を前に、リーゼロッテは難しい表情で報告書に目を通していた。
「……素材の採取地にいた歪虚から機械の部品が出て来た。ですか」
言って目を向けた先には、歪虚から出て来たと言う機械の部品がある。
「ここ最近の歪虚の増加、そしてこの部品……早急に陛下へ報告が必要ですね」
彼女はそう呟くと、報告書の足りない部分を補う為に筆を走らせ始めた。
依頼結果
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MVP一覧
- 酒は命の水
桐壱(ka1503)
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 ジュード・エアハート(ka0410) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2014/08/19 01:33:08 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/08/14 20:55:27 |