ゲスト
(ka0000)
【深棲】TransPORT
マスター:墨上古流人

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~2人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 4日
- 締切
- 2014/08/17 22:00
- 完成日
- 2014/08/24 03:22
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「はい、よーい……」
ぱんっ、と大きな手拍子が一拍、石造りの部屋に反響する。
冷たい床に力を込めて、音と同時に男が駆けだすと、
体を曲げて足に力を込め、一瞬で数m先に数個積んであった木箱の頂点へと到達する。
「あ、そっちは……」
手を合わせたまま立っていた男は、
箱を飛び越えてゆく男の姿が、着地点に置いてあった梱包材の雪崩に埋まっていくところまでを見届けていた。
「けほ……おいユウ……前にもよく似た展開があったが……こんな所に荷物なんてあったか……?」
「足元ちゃんと見とかないからだよ」
「テンドンなんて求めてねーんだよ……」
食べたことないよ、おいしいの? と首を傾げながら、
ユウ、と呼ばれた男はきょとんとしている。
窓から入り込む夏の日差しは、整った顔立ちの長い銀髪を一直線に照らす。
幸の薄そうな、どこか虚ろで透明感のあるその男は、眩しそうに見せる様子もなく、執務用の椅子に腰をかけた。
ここは帝国第九師団―――フリデンルーエンと呼ばれる部隊の執務室。
先日帝国のこの救援師団は、巷を騒がせる『狂気』のヴォイド対策の一環として、
同盟領某所の海岸線の警備、海難救護に赴いていた。
「リベルトの報告書、返ってきたよ」
「なんか言ってるか、うちの女帝様は」
リベルトと呼ばれた先の任務に参加した副師団長は、
ユウの向かいで椅子を反対に座り、背もたれに手と顎を載せてきぃきぃとゆりかごのように揺らす。
「見たよって印押してある」
「それだけか?」
「たまに芋の皮が挟まってる」
「いっぺんルミナちゃんには鼻から芋を食べるコツを教えてやらなきゃならんようだな」
「ダメだよリベルト、仮にも副師団長が不敬罪で連れてかれたら、僕の仕事が増えちゃうからね?」
机を挟んで手を伸ばし、リベルトの口を塞ぐように指を伸ばすユウ。
にこっ、と虚ろな目で微笑まれると、舌打ち混じりで報告書をひったくる。
「んで、次はどーすんだ?」
「わかってるでしょ? ってことなんじゃないかなぁ」
「俺はさっぱりだ。何か意見はあるかい?」
「んー……ヴィルヘルミナさん、あんま派兵はしたくないらしいし、かといって救援師団として全く人出さないのも……」
おもむろに席を立つユウ。
机の周りをぐるぐる歩き、手持無沙汰に棚の本を整理し、壁にかかったマトにダーツを4、5本飛ばしたところで席に戻ってきた。
「忘れてた、物資輸送しなきゃだった」
「おう、そういやそうだったな」
窓際で3本目の煙草に火をつけたところで、リベルトも思い出したように書類の束を放り投げる。
「持ってくものの手配は済んでるぞ。展開中の自軍用と、被害食らったパンピーの慰安用だな」
「ありがとうリベルト。どうやって持ってくんだっけ?」
「うちの師団のリソースはほとんど出す。残しとかなきゃいけねー分もあるから、輸送隊にはAPVからハンターを何人か拾ってくるつもりだ。道は帝国南東から同盟領に入って陸路で、途中分散しつつ大隊はヴァリオスまで」
「なるほど、うーん……でも、結構量多いよね?」
「そうだな、うちの女帝が今回そんなノリ気じゃない以上、下手な事で死なないようにってのもあるし、ハンターについては相変わらず手厚い対応が用意されてる」
「じゃあ……船でいこっか? 陸路は最小限にして」
ユウの提案に目をぱちくりさせるリベルト。伸びきった煙草の灰が窓の外へと零れていった。
「同盟領の北東部あたりのどっかに船止めさせてもらって、そこから陸沿いに輸送するの。量が多いなら船の方がみんな疲れないし、おっきな休憩の必要もないから早いと思うよ」
「そりゃあそうだがよユウ……リゼリオ沿岸から既に警戒態勢なのに、大丈夫なのか? 襲撃を喰らった際のリスクヘッジを考えるなら、陸路だぞ」
船が一隻沈めば、人も、物も、一度に失うものが多い。
確かに運搬は格段に楽になるが、それはハイリスクハイリターンな行動であった。
「でも戦いを控えて、人的疲弊は減らすにこしたことはないよ。それに僕自身、ハイなリターンが望めるなら、ハイなリスクも受けてたつけど……」
「そんなに船に乗りたいのか? 俺だけならいい、師団の連中だけでもない、ハンターや一般の水夫だっている」
「うん、わかってる。それらを蔑ろにするほど僕もまだ冷たくないよ」
だから……と言ってユウが立つ。
「船の方は僕が指揮執るよ。リベルトは一旦ここで待機して、次の行動に備えてて」
「なぁユウ、そういう問題でもねーんだよ。トップが出張るのは責任を果たしてるようで、ある意味責任逃れなんだよ」
さりげなく、ドアとユウの間に立つリベルト。
少し力を込めた顔で見つめるリベルトだが、ユウは動じない。
「ユウ。お前はここのトップだ。マストが揺らぐと船も揺れる。ふてぶてしく、そこで笑って立ってろ。そして俺に汚れてこいと命じろ。それが組織ってもんには必要なんだ」
「ありがとう、リベルト。でも……」
すっ、とリベルトの体ををすり抜けるようにドアへと向かうユウ。
「自分の立場は理解してるつもりだよ。僕の一言が与える影響は時に大きい、こういう作戦の立案だって出来る。だからこそ、今回の船のように僕だけでも手を伸ばしきれる『範囲』がわかってるなら、僕が守ってあげるべきだと思うんだ」
「……結局、やるんだな?」
「人については意地でも守るよ。物資はダメにしても、責任取るのは僕だしね」
相変わらずどこか虚ろな目ではある、が、その目は真っ直ぐにリベルトを見つめていた。
意図があるのか、決意が固いのか……リベルトはため息をひとつ零し、そして師団長の椅子へと向かう。
「ちゃんと戻ってこいよ」
「迷子の時は迎えに来てね」
鉄縁のドアが閉まる音が、石の部屋に響く。
クリムゾンウェストを苛む脅威は、既に錨をあげてすぐそこまで迫って来ていた。
ぱんっ、と大きな手拍子が一拍、石造りの部屋に反響する。
冷たい床に力を込めて、音と同時に男が駆けだすと、
体を曲げて足に力を込め、一瞬で数m先に数個積んであった木箱の頂点へと到達する。
「あ、そっちは……」
手を合わせたまま立っていた男は、
箱を飛び越えてゆく男の姿が、着地点に置いてあった梱包材の雪崩に埋まっていくところまでを見届けていた。
「けほ……おいユウ……前にもよく似た展開があったが……こんな所に荷物なんてあったか……?」
「足元ちゃんと見とかないからだよ」
「テンドンなんて求めてねーんだよ……」
食べたことないよ、おいしいの? と首を傾げながら、
ユウ、と呼ばれた男はきょとんとしている。
窓から入り込む夏の日差しは、整った顔立ちの長い銀髪を一直線に照らす。
幸の薄そうな、どこか虚ろで透明感のあるその男は、眩しそうに見せる様子もなく、執務用の椅子に腰をかけた。
ここは帝国第九師団―――フリデンルーエンと呼ばれる部隊の執務室。
先日帝国のこの救援師団は、巷を騒がせる『狂気』のヴォイド対策の一環として、
同盟領某所の海岸線の警備、海難救護に赴いていた。
「リベルトの報告書、返ってきたよ」
「なんか言ってるか、うちの女帝様は」
リベルトと呼ばれた先の任務に参加した副師団長は、
ユウの向かいで椅子を反対に座り、背もたれに手と顎を載せてきぃきぃとゆりかごのように揺らす。
「見たよって印押してある」
「それだけか?」
「たまに芋の皮が挟まってる」
「いっぺんルミナちゃんには鼻から芋を食べるコツを教えてやらなきゃならんようだな」
「ダメだよリベルト、仮にも副師団長が不敬罪で連れてかれたら、僕の仕事が増えちゃうからね?」
机を挟んで手を伸ばし、リベルトの口を塞ぐように指を伸ばすユウ。
にこっ、と虚ろな目で微笑まれると、舌打ち混じりで報告書をひったくる。
「んで、次はどーすんだ?」
「わかってるでしょ? ってことなんじゃないかなぁ」
「俺はさっぱりだ。何か意見はあるかい?」
「んー……ヴィルヘルミナさん、あんま派兵はしたくないらしいし、かといって救援師団として全く人出さないのも……」
おもむろに席を立つユウ。
机の周りをぐるぐる歩き、手持無沙汰に棚の本を整理し、壁にかかったマトにダーツを4、5本飛ばしたところで席に戻ってきた。
「忘れてた、物資輸送しなきゃだった」
「おう、そういやそうだったな」
窓際で3本目の煙草に火をつけたところで、リベルトも思い出したように書類の束を放り投げる。
「持ってくものの手配は済んでるぞ。展開中の自軍用と、被害食らったパンピーの慰安用だな」
「ありがとうリベルト。どうやって持ってくんだっけ?」
「うちの師団のリソースはほとんど出す。残しとかなきゃいけねー分もあるから、輸送隊にはAPVからハンターを何人か拾ってくるつもりだ。道は帝国南東から同盟領に入って陸路で、途中分散しつつ大隊はヴァリオスまで」
「なるほど、うーん……でも、結構量多いよね?」
「そうだな、うちの女帝が今回そんなノリ気じゃない以上、下手な事で死なないようにってのもあるし、ハンターについては相変わらず手厚い対応が用意されてる」
「じゃあ……船でいこっか? 陸路は最小限にして」
ユウの提案に目をぱちくりさせるリベルト。伸びきった煙草の灰が窓の外へと零れていった。
「同盟領の北東部あたりのどっかに船止めさせてもらって、そこから陸沿いに輸送するの。量が多いなら船の方がみんな疲れないし、おっきな休憩の必要もないから早いと思うよ」
「そりゃあそうだがよユウ……リゼリオ沿岸から既に警戒態勢なのに、大丈夫なのか? 襲撃を喰らった際のリスクヘッジを考えるなら、陸路だぞ」
船が一隻沈めば、人も、物も、一度に失うものが多い。
確かに運搬は格段に楽になるが、それはハイリスクハイリターンな行動であった。
「でも戦いを控えて、人的疲弊は減らすにこしたことはないよ。それに僕自身、ハイなリターンが望めるなら、ハイなリスクも受けてたつけど……」
「そんなに船に乗りたいのか? 俺だけならいい、師団の連中だけでもない、ハンターや一般の水夫だっている」
「うん、わかってる。それらを蔑ろにするほど僕もまだ冷たくないよ」
だから……と言ってユウが立つ。
「船の方は僕が指揮執るよ。リベルトは一旦ここで待機して、次の行動に備えてて」
「なぁユウ、そういう問題でもねーんだよ。トップが出張るのは責任を果たしてるようで、ある意味責任逃れなんだよ」
さりげなく、ドアとユウの間に立つリベルト。
少し力を込めた顔で見つめるリベルトだが、ユウは動じない。
「ユウ。お前はここのトップだ。マストが揺らぐと船も揺れる。ふてぶてしく、そこで笑って立ってろ。そして俺に汚れてこいと命じろ。それが組織ってもんには必要なんだ」
「ありがとう、リベルト。でも……」
すっ、とリベルトの体ををすり抜けるようにドアへと向かうユウ。
「自分の立場は理解してるつもりだよ。僕の一言が与える影響は時に大きい、こういう作戦の立案だって出来る。だからこそ、今回の船のように僕だけでも手を伸ばしきれる『範囲』がわかってるなら、僕が守ってあげるべきだと思うんだ」
「……結局、やるんだな?」
「人については意地でも守るよ。物資はダメにしても、責任取るのは僕だしね」
相変わらずどこか虚ろな目ではある、が、その目は真っ直ぐにリベルトを見つめていた。
意図があるのか、決意が固いのか……リベルトはため息をひとつ零し、そして師団長の椅子へと向かう。
「ちゃんと戻ってこいよ」
「迷子の時は迎えに来てね」
鉄縁のドアが閉まる音が、石の部屋に響く。
クリムゾンウェストを苛む脅威は、既に錨をあげてすぐそこまで迫って来ていた。
リプレイ本文
◆
ライナス・ブラッドリー(ka0360)は、貼られた2本のマストの影の下に立っていた。
航行中の船は、よそ見した母親の揺らすベビーカーのようにゆっくりと、しかし不規則に揺れ、
戦争用の物資と人員を乗せて大海を駆けていた。
空高い白雲に混ぜるように、煙をゆっくりと吐きだし、警戒にあたる。
「その1本の後は、終わるまで我慢ね。船燃えちゃったら皆海水で頭冷やさなきゃいけなくなっちゃうから」
にこにこと笑みを浮かべながら、師団長のユウ=ターナーが水入りの缶をもってライナスに近づく。
「……もちろんだ。終わった後の1本が格別だからな」
しばしの別れを惜しむように深く煙を吸い込んでから、余韻を缶の水へと放り込んだ。
「船で一気に輸送か、確かに海からヴォイド出現の報告もある中だが……」
神凪 宗(ka0499)は船間の連絡手段の確認を終えてから、風切る船首を眺めつつ呟いた。
トランシーバーは持ち込みがなかったが、水夫が手旗信号については熟知していたので問題はない。
最悪、船が沈む場合のボートについても、自分が最後に降りて一般人を優先するつもりでいた。
とはいえ、この船でいう一般人は水夫のみなので『船乗りが先に船を降りるなんてとんでもない!』
と多少のひと悶着があったが「ヴォイドによる命の危険が併せて襲いかかった時」を条件に段取りを共有する事が出来た。
「フフン、ハイリスク・ハイリターンか。そういう考えは嫌いじゃない」
むしろ好ましい、とウィルフォード・リュウェリン(ka1931)
メインマストの見張り台から眺める3艘の船は、確かに無事に届ける事が出来ればかなりの助けになる。
リスクを冒すのは構わないが、被る事はノーサンキュー。
高い潮風に波間の光のような銀髪をなびかせながら、
師団員も数名借り、船の前後左右と上下、しっかりと水中の影まで警戒を行っていた。
一方こちらは3つに分かれたうちのB班。
エルティア・ホープナー(ka0727)が船の縁に体を預けて水夫と話をしていた。
「蒼の世界の方ね…貴方達がこれから綴る物語、楽しみにしているわ」
意味深な微笑に水夫の心臓が魚のように跳ね上がる。
彼女は個人的に、リアルブルーの人物に対して興味を抱いているようで、
帆船の運用方法等については通じる部分も多いため、実際に水夫には何人かリアルブルー出身の者もいた。
如月 鉄兵(ka1142)もその『蒼の世界』の1人で、何かと話の相手をして警戒に戻ってきたところだ。
ふと、東雲 禁魄(ka0463)の背中が先ほどからこちらへ翻っていない事に気づく。
熱心な警戒か、交代を申し出ようとした時、ひゅっ、と上がった腕を見た。
「うむ、海風も気持ちの良いモノだね☆」
腕の先には竿、竿の先には宙を踊る小魚が、如月の頬へ水飛沫を跳ねさせる。
「また厄介な事になりそうだ……とりあえず受けた依頼は完遂しないとな」
溜息ひとつ、頬を伝う潮水を拭ってから、アサルトライフルのスリングをかけなおした。
B班では東雲により色々な案が張り巡らされていた。
一番奇抜な部分は、ロープである。マストから中心にテント状にロープを張り、
蜘蛛の巣のようにして上空や横からの突進を防ぐというものだ。
持ち込んだ物資の余裕から、B班の船且つ後方半分だけに張るという形で落ち着いた。
『おもしろいねー、吉と出たら是非師団の船にも取り入れたいな』
と、ユウはいつも通りのほほんと眺めながら港で言っていた。
C班に振り分けられたライガ・ミナト(ka2153)は、足を滑らせ体を揺らす。
別に濡れたデッキに遊ばれている訳ではない。フロントサイトのように剣先を通して正面を見据える。
踏み抜かんとする勢いで足を床に落とし、同時に刀を振り下ろす。
そこから返す刃で逆袈裟切り。
ライガは、初めて乗った船を良い機会として、滅多にできない型の稽古をしていたのだ。
「精が出るな兄ちゃん!」
「すみません、こういった場所での型稽古とかは中々出来ないのでつい」
「重心の移動とか、下半身の運び方に特に気を付けんだぞ!」
「何言ってんだじいさん、こんなん振れて、当たりゃいいんだよ」
やいのやいのと師団のメンバーが茶々を入れるが、
ライガはぺこ、と頭を下げてまた型に戻る。
(ほんとは私も飛び道具を用意できれば良かったんでしょうけれど……)
その様子をジェーン・ノーワース(ka2004)が見て心の中に浮かべる。
だが、師団メンバーの装備を見ていればそこは問題無さそうで、
彼女は遠距離攻撃の準備を周知しているところだった。
「その分、近づいてきた敵には対応するから……」
「ま、こんだけマンパワーあんだ、補い合ってこうぜ」
師団から朗らかな声がジェーンにかかる。
海面は煌めく、だが、その底は暗く蠢いていた。
◆
「おや、今日は大量だね☆ こんなに食べきれるかな」
小船で沖に釣り、もとい警戒に出ていた東雲が柔らかく口角を上げてから立ち上がる。
リボルバーの弾を確かめて、迫る影など気にも留めていないかのように、
パチン、とゆっくり弾倉をしまう。
「来るぞ!!」
アサルトライフルを構えた如月が叫ぶ。
フロントサイトの奥では沢山のトビウオ型ヴォイドが水面から坂を作るかのように飛び上がっていた。
アーチを描くように東雲の上空で腹を見せるヴォイドに対し、
次々と彼のリボルバーは火を噴いてゆく。
如月は羽を広げて飛びゆくヴォイドを次々と撃ち落としていった。
「火力が足りないわ……少し戻ってきた方が良いんじゃないかしら」
「司令官に万一の事があったら困るし、これでボクが敵を釣って船に行かなければとも思ったけど……ちょーっと危ないみたいだね☆」
「そうね……釣りというのは、餌は犠牲になるものだから」
エルティアが東雲の小舟に落下しようとするヴォイドをピンポイントに串刺してゆく。
その間に、援護のしやすい位置まで東雲も下がってきた。
「今出てる敵だけ見るな、他にも気をつけろ!」
師団メンバーが船から海の攻撃に集中し、海に対する壁が出来ているのを見て、
神凪はバゼラードを収めてコンポジットボウを構える。
見上げた空、厚い雲の1点が蠢いたかと思えば、
靄のように雲を散らしてひとつの影が落ちてきた。
高速で弾丸のように迫るそれに対し、神凪が矢を番える。
近づくにつれ大きくなる影に対し、目の前数寸の所で鋭く見据えて指を離す。
どさっ、と脳天を貫かれた鳥型ヴォイドが、スピードをほとんど落とさないまま神凪の横にすれ違うよう落ちてきた。
「空の客もお出ましか、忙しくなるな」
ライナスが空に向かって猟銃を1発。
射線をなるべくずらさず、腕だけ動かし素早く弾を薬室へ送り、
視線の先へ入ってきた鳥へもう1発。
翼を狙い飛行能力を奪えば、後は落ちてきた鳥に対し師団員がトドメを刺していった。
「帆を畳んでくれ! 援護はこちらで担う」
ウィルフォードが船に迫ったトビウオに対し、
アースバレットをカウンターで撃ち込み海へと還してゆく。
水夫も堅い守りのうちに、急ぎ帆を畳んでいるところだった。
「裸になったら動けないのは船も人も一緒だね」
ウィルフォードの肩を掴んで地面に押し込めるように力を込めるユウ。
屈んだ彼の影になるように、空へ向かってハチェットをひと凪ぎ。
刃に引っかけ、鳥型ヴォイドを船へと引きずり叩き落とした。
「魔法だけだとスタミナ切れちゃうよ、刃が無いなら僕がなる」
顔色を変えず顔にかかった鳥の体液をぬぐい、手を差し出すユウ。
「ボス自ら前に出ようとするか……面白い、面白いなきみは」
「何も考えてないだけだ、なんてよく言われるけどね」
「形はどうあれ味わったなら、スリルは人生最高のスパイスさ、そう思わないかい?」
微笑が交わされ、肩でしていた息を少し落ち着かせてからウィルフォードが口を開く。
「さて、どうする? 僕的にはそろそろ船底を守れるようにしておきたい」
「賛成ー。上に立つ人は『下』を大事にしないとだからね」
颯爽と小舟に跳び下り、弾丸や矢の壁に隠れるようにして2人は水面の警戒にあたった。
「意外と揺れるが百の稽古より一の実戦を地で行くか、面白ぇ」
闘争心が言葉に乗るライガ。
船に向かって飛んできたトビウオに対し、すれ違うように一閃。
鋭い太刀の一振りは、骨を沿う感触を覚えながら、ヴォイドを宙で2枚におろしていた。
一匹だけならひとつひとつの技に集中できるが、弾丸のように飛び込んでくるトビウオを前にするとさすがに手数が足りなくなる。
「当たりが僅かにブレてスマートにいかねえか、しゃあねえ、力任せだ」
正面から突っ込んできたトビウオに対し、身体を逸らすことなく太刀を振り下ろす。
潰れんばかりの勢いで、ヴォイドがライガの目の前で弾けていく。
師団の1人が矢を番える隙に飛び込んできたトビウオに対して、
割り込むように前に入り、太刀の鎬で突進を防ぐ。
舌打ち混じりで左手にて日本刀を抜き、逆手のまま斬りあげる。
飛びあがるトビウオはライガが庇った師団員の矢によりトドメを刺された。
その横を、ジェーンがひゅっと飛び出していった。
船体に突撃してきたトビウオに対し、己の勢いと重力を乗せた槍を振り下ろす。
小舟に着地すると同時に槍を回し、刺さっていたトビウオを振り払う。
そのまま小島のように点在する小舟を跳び、
海に大きく面した船体へ飛び込んでゆくヴォイドに対して刺し、払い、振り下ろしてゆく。
ジェーンに向かって飛び込んできたトビウオを、真横にした槍の柄で受け止め、そのまま上空へトス。
勢いを殺され宙で弄ばれたトビウオは、師団員のホーリーライトの餌食となった。
「攻撃を集中させて早期殲滅が理想だけれど……」
トビウオは魚のカーテンのように次々と船へ迫りくる。
用意こそ万全だが、そこで戦う人に代えはなく、疲弊の色が見え始めてから久しい。
海上での消耗戦となりつつあった。
小舟で援護にきた如月、ウィルフォード、ユウに一回り大きいタカのようなヴォイドが迫りくる。
如月の野生の瞳が捉えた銃弾とウィルフォードのウィンドスラッシュがヴォイドのスピードを正面から受け止める。
小舟へ近づくジェーンが、よろめいた鳥の一瞬を突いて槍を投げる。
鳥の締まった手羽元を穿ち、串刺したまま跳び宙でキャッチ、そのまま圧すように石突の方で飛び込んできたトビウオを叩き落とした。
「くっ……」
ライナスが撃ち落とした鳥をロングソードで絶命させた瞬間、海から強い力で引きずられる。
剣を持った手に絡みつくのは、海面のように光り、波のようにうごめく体。
ウミヘビ型は、そのまま腕を砕くように強い力で締め付け、深い海へとライナスを誘っていった。
骨が鳴る程の痛みに唸りそうになるが、既に酸素も惜しい状態。
片手の自由が利かず、1度に1発しか撃てない猟銃はコッキング出来ず、なんとか酸素だけでも取り込もうと必死に泳ぐ。
ライナスの上から白い煙のような泡が落ちてくる。
水中だがはっきりと水に負けない蒼い瞳がライナスを見据える。
弓を構えた姿のエルティア、水の抵抗、無理な姿勢、ものともせず静かに弓を放つ。
こんなつまらない事で、自分の興味を潰させる訳にはいかない、その為なら水に飛び込み危険に対峙する事だって――
エルティアの中の、行動原理、信念のひとつが闇を払う矢となる。
本来音が良く通るはずの水中が、凄く静かになったかのように思えた。
一本の矢は、近くこそあれ見事にウミヘビの頭部中心部から血煙を立ち上らせていた。
「怪我をしているなら一時後退、無理はしないで。軽傷ならもう少し頑張りなさい」
「怪我は大したことない、酸欠で少しふらつくぐらいだ。ついでに呼吸も助けてくれればよかったんだがな」
「海の男と女の話は、大体船が沈むか女に騙される不幸な男の話よ?」
軽口を飛ばす余裕はあるようで、エルティアに軽くあしらわれつつ、
銃の軽い点検を済ませてからライナスはトビウオを撃ち落としながら舟に戻った。
「貴方達の物語に興味は無いわ。人の綴る物語にこそ好奇心を持てるの」
「ふふ……彼らがいるから、人の物語にも起伏が出来て、味わい深いものになるとも思わない?」
いつのまにかエルティアの横にいたユウ。
その言葉に笑みは浮かばず、涼しい顔のまま、海面から伸びてきたウミヘビを縦に割っていた。
ライガに飛んできた鳥は、彼の刃をすりぬけてバレルロールで迫ってくる。
だが、返す身に返す刃、この殺意、狙いは明らかに自分と踏んで、
ライガは戻ってくる部分を予測し、更に避ける方向へと強打の一撃を乗せて刃を払う。
「下手くそな燕返しだが、それなりに行けたか?」
勢いを乗せた刃は綺麗に一閃、とは言い難いが、絶命させるには充分足る一撃となっていた。
「ユウは無事か、ならばもう少しここで粘らせてもらうか」
縁から覗く神凪の前に、蛇の頭が伸びてくる。
挨拶でもするかのように、口を大きく開いて神凪へと迫る。
刹那、バゼラートを抜いた腕を素早くアッパーのように突きこむ。
牙が袖に掠り、蛇の頭蓋を砕く感触が神凪の腕に響いた。
「あーあ、もうなくなっちゃったぁ……でも、結構頑張ってくれたよね☆」
東雲のロープトラップは、鳥よりも船上に迫るトビウオ型に効いた。
最初こそ地引網のようにロープにかかっていたが、今では猛攻に負けて切れてしまい、みれたものではない。
「海はキミたちの独壇場かも知れないけれど……甲板の上が同じとは限らないよ♪」
だが、無いからどうこうという事でもない。
勢力の弱まってきたヴォイドを感じ、東雲は落ち着いて日本刀を振り下ろした。
「うん……そろそろ、原状復帰させないとかな。皆最初の位置へ戻って、いない人いないか確認して」
最後の魚を断ち切ってからしばらくして、ユウが号令をかける。
死人は出ず、けが人こそ少量で済んだ。人よりも、どちらかといえばやはり船の方に被害が出たようだが、
それも動けない程ではない。
「みんなが無事でよかったよ。でもスピードは落ちるかなぁ……その分は……みんなで手漕ぎかな。大きなオールが側面から出るよね?」
にこにこしたまましれっと重労働を提案するユウ。
僕も漕ぐよ、いや、そういう問題でもない。
一難去って、もうしばらく、この海の受難は続きそうだった。
◆
ヴァリオスを降りたユウは、仕事があるから、と1人リゼリオに来ていた。
「……やっぱり、あながち間違いじゃないと思うなぁ。ホント、うちのトップは何考えてるかわかんないよね」
いい意味でね、とひとりごちてから、くすりと笑みを浮かべる。
ユウの視線の先遠方では、サルバトーレ・ロッソが、物言わず、静かにそこに佇んでいた。
ライナス・ブラッドリー(ka0360)は、貼られた2本のマストの影の下に立っていた。
航行中の船は、よそ見した母親の揺らすベビーカーのようにゆっくりと、しかし不規則に揺れ、
戦争用の物資と人員を乗せて大海を駆けていた。
空高い白雲に混ぜるように、煙をゆっくりと吐きだし、警戒にあたる。
「その1本の後は、終わるまで我慢ね。船燃えちゃったら皆海水で頭冷やさなきゃいけなくなっちゃうから」
にこにこと笑みを浮かべながら、師団長のユウ=ターナーが水入りの缶をもってライナスに近づく。
「……もちろんだ。終わった後の1本が格別だからな」
しばしの別れを惜しむように深く煙を吸い込んでから、余韻を缶の水へと放り込んだ。
「船で一気に輸送か、確かに海からヴォイド出現の報告もある中だが……」
神凪 宗(ka0499)は船間の連絡手段の確認を終えてから、風切る船首を眺めつつ呟いた。
トランシーバーは持ち込みがなかったが、水夫が手旗信号については熟知していたので問題はない。
最悪、船が沈む場合のボートについても、自分が最後に降りて一般人を優先するつもりでいた。
とはいえ、この船でいう一般人は水夫のみなので『船乗りが先に船を降りるなんてとんでもない!』
と多少のひと悶着があったが「ヴォイドによる命の危険が併せて襲いかかった時」を条件に段取りを共有する事が出来た。
「フフン、ハイリスク・ハイリターンか。そういう考えは嫌いじゃない」
むしろ好ましい、とウィルフォード・リュウェリン(ka1931)
メインマストの見張り台から眺める3艘の船は、確かに無事に届ける事が出来ればかなりの助けになる。
リスクを冒すのは構わないが、被る事はノーサンキュー。
高い潮風に波間の光のような銀髪をなびかせながら、
師団員も数名借り、船の前後左右と上下、しっかりと水中の影まで警戒を行っていた。
一方こちらは3つに分かれたうちのB班。
エルティア・ホープナー(ka0727)が船の縁に体を預けて水夫と話をしていた。
「蒼の世界の方ね…貴方達がこれから綴る物語、楽しみにしているわ」
意味深な微笑に水夫の心臓が魚のように跳ね上がる。
彼女は個人的に、リアルブルーの人物に対して興味を抱いているようで、
帆船の運用方法等については通じる部分も多いため、実際に水夫には何人かリアルブルー出身の者もいた。
如月 鉄兵(ka1142)もその『蒼の世界』の1人で、何かと話の相手をして警戒に戻ってきたところだ。
ふと、東雲 禁魄(ka0463)の背中が先ほどからこちらへ翻っていない事に気づく。
熱心な警戒か、交代を申し出ようとした時、ひゅっ、と上がった腕を見た。
「うむ、海風も気持ちの良いモノだね☆」
腕の先には竿、竿の先には宙を踊る小魚が、如月の頬へ水飛沫を跳ねさせる。
「また厄介な事になりそうだ……とりあえず受けた依頼は完遂しないとな」
溜息ひとつ、頬を伝う潮水を拭ってから、アサルトライフルのスリングをかけなおした。
B班では東雲により色々な案が張り巡らされていた。
一番奇抜な部分は、ロープである。マストから中心にテント状にロープを張り、
蜘蛛の巣のようにして上空や横からの突進を防ぐというものだ。
持ち込んだ物資の余裕から、B班の船且つ後方半分だけに張るという形で落ち着いた。
『おもしろいねー、吉と出たら是非師団の船にも取り入れたいな』
と、ユウはいつも通りのほほんと眺めながら港で言っていた。
C班に振り分けられたライガ・ミナト(ka2153)は、足を滑らせ体を揺らす。
別に濡れたデッキに遊ばれている訳ではない。フロントサイトのように剣先を通して正面を見据える。
踏み抜かんとする勢いで足を床に落とし、同時に刀を振り下ろす。
そこから返す刃で逆袈裟切り。
ライガは、初めて乗った船を良い機会として、滅多にできない型の稽古をしていたのだ。
「精が出るな兄ちゃん!」
「すみません、こういった場所での型稽古とかは中々出来ないのでつい」
「重心の移動とか、下半身の運び方に特に気を付けんだぞ!」
「何言ってんだじいさん、こんなん振れて、当たりゃいいんだよ」
やいのやいのと師団のメンバーが茶々を入れるが、
ライガはぺこ、と頭を下げてまた型に戻る。
(ほんとは私も飛び道具を用意できれば良かったんでしょうけれど……)
その様子をジェーン・ノーワース(ka2004)が見て心の中に浮かべる。
だが、師団メンバーの装備を見ていればそこは問題無さそうで、
彼女は遠距離攻撃の準備を周知しているところだった。
「その分、近づいてきた敵には対応するから……」
「ま、こんだけマンパワーあんだ、補い合ってこうぜ」
師団から朗らかな声がジェーンにかかる。
海面は煌めく、だが、その底は暗く蠢いていた。
◆
「おや、今日は大量だね☆ こんなに食べきれるかな」
小船で沖に釣り、もとい警戒に出ていた東雲が柔らかく口角を上げてから立ち上がる。
リボルバーの弾を確かめて、迫る影など気にも留めていないかのように、
パチン、とゆっくり弾倉をしまう。
「来るぞ!!」
アサルトライフルを構えた如月が叫ぶ。
フロントサイトの奥では沢山のトビウオ型ヴォイドが水面から坂を作るかのように飛び上がっていた。
アーチを描くように東雲の上空で腹を見せるヴォイドに対し、
次々と彼のリボルバーは火を噴いてゆく。
如月は羽を広げて飛びゆくヴォイドを次々と撃ち落としていった。
「火力が足りないわ……少し戻ってきた方が良いんじゃないかしら」
「司令官に万一の事があったら困るし、これでボクが敵を釣って船に行かなければとも思ったけど……ちょーっと危ないみたいだね☆」
「そうね……釣りというのは、餌は犠牲になるものだから」
エルティアが東雲の小舟に落下しようとするヴォイドをピンポイントに串刺してゆく。
その間に、援護のしやすい位置まで東雲も下がってきた。
「今出てる敵だけ見るな、他にも気をつけろ!」
師団メンバーが船から海の攻撃に集中し、海に対する壁が出来ているのを見て、
神凪はバゼラードを収めてコンポジットボウを構える。
見上げた空、厚い雲の1点が蠢いたかと思えば、
靄のように雲を散らしてひとつの影が落ちてきた。
高速で弾丸のように迫るそれに対し、神凪が矢を番える。
近づくにつれ大きくなる影に対し、目の前数寸の所で鋭く見据えて指を離す。
どさっ、と脳天を貫かれた鳥型ヴォイドが、スピードをほとんど落とさないまま神凪の横にすれ違うよう落ちてきた。
「空の客もお出ましか、忙しくなるな」
ライナスが空に向かって猟銃を1発。
射線をなるべくずらさず、腕だけ動かし素早く弾を薬室へ送り、
視線の先へ入ってきた鳥へもう1発。
翼を狙い飛行能力を奪えば、後は落ちてきた鳥に対し師団員がトドメを刺していった。
「帆を畳んでくれ! 援護はこちらで担う」
ウィルフォードが船に迫ったトビウオに対し、
アースバレットをカウンターで撃ち込み海へと還してゆく。
水夫も堅い守りのうちに、急ぎ帆を畳んでいるところだった。
「裸になったら動けないのは船も人も一緒だね」
ウィルフォードの肩を掴んで地面に押し込めるように力を込めるユウ。
屈んだ彼の影になるように、空へ向かってハチェットをひと凪ぎ。
刃に引っかけ、鳥型ヴォイドを船へと引きずり叩き落とした。
「魔法だけだとスタミナ切れちゃうよ、刃が無いなら僕がなる」
顔色を変えず顔にかかった鳥の体液をぬぐい、手を差し出すユウ。
「ボス自ら前に出ようとするか……面白い、面白いなきみは」
「何も考えてないだけだ、なんてよく言われるけどね」
「形はどうあれ味わったなら、スリルは人生最高のスパイスさ、そう思わないかい?」
微笑が交わされ、肩でしていた息を少し落ち着かせてからウィルフォードが口を開く。
「さて、どうする? 僕的にはそろそろ船底を守れるようにしておきたい」
「賛成ー。上に立つ人は『下』を大事にしないとだからね」
颯爽と小舟に跳び下り、弾丸や矢の壁に隠れるようにして2人は水面の警戒にあたった。
「意外と揺れるが百の稽古より一の実戦を地で行くか、面白ぇ」
闘争心が言葉に乗るライガ。
船に向かって飛んできたトビウオに対し、すれ違うように一閃。
鋭い太刀の一振りは、骨を沿う感触を覚えながら、ヴォイドを宙で2枚におろしていた。
一匹だけならひとつひとつの技に集中できるが、弾丸のように飛び込んでくるトビウオを前にするとさすがに手数が足りなくなる。
「当たりが僅かにブレてスマートにいかねえか、しゃあねえ、力任せだ」
正面から突っ込んできたトビウオに対し、身体を逸らすことなく太刀を振り下ろす。
潰れんばかりの勢いで、ヴォイドがライガの目の前で弾けていく。
師団の1人が矢を番える隙に飛び込んできたトビウオに対して、
割り込むように前に入り、太刀の鎬で突進を防ぐ。
舌打ち混じりで左手にて日本刀を抜き、逆手のまま斬りあげる。
飛びあがるトビウオはライガが庇った師団員の矢によりトドメを刺された。
その横を、ジェーンがひゅっと飛び出していった。
船体に突撃してきたトビウオに対し、己の勢いと重力を乗せた槍を振り下ろす。
小舟に着地すると同時に槍を回し、刺さっていたトビウオを振り払う。
そのまま小島のように点在する小舟を跳び、
海に大きく面した船体へ飛び込んでゆくヴォイドに対して刺し、払い、振り下ろしてゆく。
ジェーンに向かって飛び込んできたトビウオを、真横にした槍の柄で受け止め、そのまま上空へトス。
勢いを殺され宙で弄ばれたトビウオは、師団員のホーリーライトの餌食となった。
「攻撃を集中させて早期殲滅が理想だけれど……」
トビウオは魚のカーテンのように次々と船へ迫りくる。
用意こそ万全だが、そこで戦う人に代えはなく、疲弊の色が見え始めてから久しい。
海上での消耗戦となりつつあった。
小舟で援護にきた如月、ウィルフォード、ユウに一回り大きいタカのようなヴォイドが迫りくる。
如月の野生の瞳が捉えた銃弾とウィルフォードのウィンドスラッシュがヴォイドのスピードを正面から受け止める。
小舟へ近づくジェーンが、よろめいた鳥の一瞬を突いて槍を投げる。
鳥の締まった手羽元を穿ち、串刺したまま跳び宙でキャッチ、そのまま圧すように石突の方で飛び込んできたトビウオを叩き落とした。
「くっ……」
ライナスが撃ち落とした鳥をロングソードで絶命させた瞬間、海から強い力で引きずられる。
剣を持った手に絡みつくのは、海面のように光り、波のようにうごめく体。
ウミヘビ型は、そのまま腕を砕くように強い力で締め付け、深い海へとライナスを誘っていった。
骨が鳴る程の痛みに唸りそうになるが、既に酸素も惜しい状態。
片手の自由が利かず、1度に1発しか撃てない猟銃はコッキング出来ず、なんとか酸素だけでも取り込もうと必死に泳ぐ。
ライナスの上から白い煙のような泡が落ちてくる。
水中だがはっきりと水に負けない蒼い瞳がライナスを見据える。
弓を構えた姿のエルティア、水の抵抗、無理な姿勢、ものともせず静かに弓を放つ。
こんなつまらない事で、自分の興味を潰させる訳にはいかない、その為なら水に飛び込み危険に対峙する事だって――
エルティアの中の、行動原理、信念のひとつが闇を払う矢となる。
本来音が良く通るはずの水中が、凄く静かになったかのように思えた。
一本の矢は、近くこそあれ見事にウミヘビの頭部中心部から血煙を立ち上らせていた。
「怪我をしているなら一時後退、無理はしないで。軽傷ならもう少し頑張りなさい」
「怪我は大したことない、酸欠で少しふらつくぐらいだ。ついでに呼吸も助けてくれればよかったんだがな」
「海の男と女の話は、大体船が沈むか女に騙される不幸な男の話よ?」
軽口を飛ばす余裕はあるようで、エルティアに軽くあしらわれつつ、
銃の軽い点検を済ませてからライナスはトビウオを撃ち落としながら舟に戻った。
「貴方達の物語に興味は無いわ。人の綴る物語にこそ好奇心を持てるの」
「ふふ……彼らがいるから、人の物語にも起伏が出来て、味わい深いものになるとも思わない?」
いつのまにかエルティアの横にいたユウ。
その言葉に笑みは浮かばず、涼しい顔のまま、海面から伸びてきたウミヘビを縦に割っていた。
ライガに飛んできた鳥は、彼の刃をすりぬけてバレルロールで迫ってくる。
だが、返す身に返す刃、この殺意、狙いは明らかに自分と踏んで、
ライガは戻ってくる部分を予測し、更に避ける方向へと強打の一撃を乗せて刃を払う。
「下手くそな燕返しだが、それなりに行けたか?」
勢いを乗せた刃は綺麗に一閃、とは言い難いが、絶命させるには充分足る一撃となっていた。
「ユウは無事か、ならばもう少しここで粘らせてもらうか」
縁から覗く神凪の前に、蛇の頭が伸びてくる。
挨拶でもするかのように、口を大きく開いて神凪へと迫る。
刹那、バゼラートを抜いた腕を素早くアッパーのように突きこむ。
牙が袖に掠り、蛇の頭蓋を砕く感触が神凪の腕に響いた。
「あーあ、もうなくなっちゃったぁ……でも、結構頑張ってくれたよね☆」
東雲のロープトラップは、鳥よりも船上に迫るトビウオ型に効いた。
最初こそ地引網のようにロープにかかっていたが、今では猛攻に負けて切れてしまい、みれたものではない。
「海はキミたちの独壇場かも知れないけれど……甲板の上が同じとは限らないよ♪」
だが、無いからどうこうという事でもない。
勢力の弱まってきたヴォイドを感じ、東雲は落ち着いて日本刀を振り下ろした。
「うん……そろそろ、原状復帰させないとかな。皆最初の位置へ戻って、いない人いないか確認して」
最後の魚を断ち切ってからしばらくして、ユウが号令をかける。
死人は出ず、けが人こそ少量で済んだ。人よりも、どちらかといえばやはり船の方に被害が出たようだが、
それも動けない程ではない。
「みんなが無事でよかったよ。でもスピードは落ちるかなぁ……その分は……みんなで手漕ぎかな。大きなオールが側面から出るよね?」
にこにこしたまましれっと重労働を提案するユウ。
僕も漕ぐよ、いや、そういう問題でもない。
一難去って、もうしばらく、この海の受難は続きそうだった。
◆
ヴァリオスを降りたユウは、仕事があるから、と1人リゼリオに来ていた。
「……やっぱり、あながち間違いじゃないと思うなぁ。ホント、うちのトップは何考えてるかわかんないよね」
いい意味でね、とひとりごちてから、くすりと笑みを浮かべる。
ユウの視線の先遠方では、サルバトーレ・ロッソが、物言わず、静かにそこに佇んでいた。
依頼結果
依頼成功度 | 普通 |
---|
面白かった! | 4人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/08/13 22:45:59 |
|
![]() |
相談はこっちでね。 ジェーン・ノーワース(ka2004) 人間(リアルブルー)|15才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2014/08/17 20:40:01 |