Macaroni Western

マスター:楠々蛙

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2016/02/21 15:00
完成日
2016/02/28 03:22

みんなの思い出? もっと見る

オープニング

 とある町の外れ、ちらほらと見かける通行人の風体から治安がよろしくない事を否応なしに知らされる通りを歩くのは、キャロル=クルックシャンクとバリー=ランズダウンである。
「チンピラ共の立ち退き勧告ね。けったいな依頼だな」
「いちいち文句を垂れるなよ、呑み込め」
「知らねえのかよ? 愚痴を腹に溜め込むのは健康に悪いって」
「お前こそ知らないのか? 呑み込んだ愚痴は煙草を吸えば煙になって飛んで行くんだよ。その煙草を買う為にゃ何が要る? 金だろうが。だから文句言わずに働け」
 皺のついた煙草を咥えた二人は益体のない軽口を応酬しながら、目的地に向かって行く。
 行く先にあるのは、廃酒場。彼らはこの町にある軍の詰所から、廃酒場を塒にしているギャングをどうにかして欲しいという依頼を受けたのである。
 依頼を受けたのは彼ら二人だけではないのだが、大人数で現場に向かえば相手に余計な警戒心を持たれるという事で、まずはこの二人が代表として送り出されたのである。
「──それで、本当に奴の手掛かりがそこにあるのか?」
 それまでの軽口とはうって変わった低い語調でキャロルがバリーに問う。問いを受けたバリーもまた同様の声で答えを返した。
「ああ。当時、奴の一味に属してた男がそこに居るらしい」
「当たりを引けると思うか?」
「いや、期待薄だな。属してたつっても、下っ端の下っ端。小物も良い所だ。まあ、獲物の大きさを測るのは、釣り上げてからでも遅くはないだろう」
「本命の尻尾が見えるのはいつの事だかな」
「まったくだ」
 彼らの苛立ちを糧にして、じめったい紫煙がシケモクから曇天の空へと伸びて行く。



「何者だ、あんたら?」
 廃酒場のテラスでポーカーに興じていた二人の見張りが、近付いて来たキャロル達に警戒の視線を向ける。
「なあに、ちょっとしたお使いだ」
 バリーが彼らを宥める様に両手を上げながら近付いて行く。普段彼が好んで扱うレバーアクションライフルは後ろに控えているハンター達に預けてある。今のバリーは傍目から見れば空手だ。
「お使い?」
「ああ。この町の軍が退去勧告を出してるのは知ってるだろ? 何せもう三度目だそうじゃないか」
「……最後通告にでも来たのか? ノロマな軍の連中もとうとう堪忍袋の緒が切れたってわけか」
「早とちりしなさんな。俺は軍から雇われた交渉役ってわけさ。当事者同士じゃ話がこじれるばかりだろ? 言うなりゃ俺はあんたらと軍の間に立つ仲介人みたいなもんだ」
「じゃあ、そっちの男は? 見た所、銃を提げている様だが」
 見張りがキャロルを一瞥する。
「ああ、こいつは俺の用心棒ってところだな。いやいや、気にしなくたって良い。ちょっとしたお約束さ。置物みたいなもんだと思ってくれ。それより、ここで立ち話してたって始まらないと思わないか? できれば中に入ってあんたらのボスと酒でも酌み交わしながら、互いが納得し合える条件について話し合いたいんだが?」
 バリーが言葉を重ねると、見張り達は顔を見合わせる。目配せで互いの意見を示し合うと、バリーへと向き直り頷いた。
「良いだろう。ただし、武器はここに置いていけ」
「OK、構わないさ。どうせ、銃の出番はありゃしないからな──おい」
 バリーに促され、キャロルが腰のホルスタ―に差した拳銃を抜くと、自分は銃身を握り相手に銃把を向けながら、見張りへと差し出した。
「あんたが今勝ちを拾った手──」
 見張りの手が差し出したリボルバーの銃把を握る直前に、キャロルは丸テーブルの卓上に広げられたトランプを顎で指す。手を止め訝しんだ視線を向ける見張りに、彼は続けて言った。
「また酷い役を揃えたもんだな」
「手前、何を言って──」
 見張りの注意がキャロルの手元から逸れたその瞬間──その手に握られたリボルバーが半回転し、銃把と銃口の位置が入れ替わる。
「死神の手を握った──」
 回転の際に親指でコッキングし銃把を逆手に握って、キャロルは中指で銃爪を絞った。
「──手前の不運を呪いやがれ」
 Aと8のツーペアという最凶の役を引き当てた男が鉛玉を腹に喰らって倒れた。
「何しやがる!」
 もう一人の見張りが怒声をあげながら、仲間を撃ったキャロルに向けてリボルバーを向ける。が、銃爪を絞るその前にこめかみへ銃口が突き付けられた。
「────!」
 驚愕の声を上げる間もなく鉛玉に脳髄を横断されて、彼は絶命した。
「おいキャロル、手前勝手に始めやがって! 誰がジャック=マッコールの真似事をしろと言った!」
 今しがた見張りのこめかみを撃ち抜いた上下二連の小型拳銃(Derringer)を片手に提げたまま、バリーはキャロルを怒鳴り付ける。対するキャロルは肩を竦めてみせた。
「せめて、カーリー=ビルって言えよ」
「どっちだって同じだ。これじゃどっちが無法者だかわかりゃしない」
「しゃあねえだろ? 奴さん背中に回した手を銃把に掛けてやがったぜ。撃たなきゃこっちが撃たれてた」
「だからってな、タイミングってもんが──」
 二つの死体を前にして言い合いを始めた二人だが、突如口を止めて足を振り上げたかと思うと、靴底を合わせて互いが互いを蹴飛ばす様にして跳んだ
 直後、つい先程まで立っていた空間を、銃弾の雨が薙ぎ払った。
「くそっ、まただ。お前と組むといつもこうだ! 偶には静かに仕事がしたいんだよ、俺は!」
 銃声は更に続き、銃撃に爆ぜ割れる窓硝子が降り注ぐ中、姿勢を低くしながらバリーが声を張り上げる。
「そうがなんじゃねえよ! 軍も端から連中と交渉する気なんざなかったろうよ。今はまだケチな犯罪に手染めてるだけらしいが、こいつらその内、好き放題に散々やらかすぜ。この無駄弾が良い証拠だ。とっくに分水嶺を超えて手前の足が濡れてる事にも気付いてねえ脳足りん共だかんな!」
 キャロルが負けじと叫び終えると同時に、ようやく銃声が止んだ。半壊したウェスタン扉が軋む音を立てて開閉を繰り返す。
「やっとか、弾切れまで撃ち尽くしやがって。脳足りんの上に乱射魔と来た。いよいよもって救いがないな」
 バリーは見張りが落とした拳銃を拾い上げると、硝子が砕け散った窓枠から身を乗り出して銃弾を店内へと叩き込む。
「どうだ、目当ての獲物は居たか?」
 反撃が返って来る前に身を引っ込めたバリーにキャロルが問うと、彼は頷いてみせた。
「カウンターの奥にいる剥げ頭がそうだ──おっと、騎兵隊のお出ましか」
 銃声を聞き付けたハンター達が、二人の許へ到着した。
「悪いが、状況はご覧の通りだ」
 バリーは苦い顔を浮かべながら彼らに預けておいた愛銃を受け取ってる。
「悪いついでに、一つ頼まれてくれないか? あの剥げ頭はなるべく生かしおいて貰いたい。まあ、最優先にとまでは言わないがな」
 コッキングレバーを操作し薬室に弾丸を装填して、バリーがハンター達にそう願い出た。

リプレイ本文

「随分と熱い鉄火場だな」
 キャリコ・ビューイ(ka5044)が銃声轟く廃酒場に目を向ける。
「悪いな。見ての通り交渉は御破算だ」
「いや問題ない。こうなる事は目に見えていた。だからこんなものを持ってきたんだ」
 彼が両手で提げているのは銃身を円状に束ねた重機関銃──ガトリング銃。このゲテモノに比べれば廃酒場に巣食う連中が無闇に鳴らしているのは豆鉄砲も良い所だろう。
「大丈夫か? ミス・ポラリス」
 軒先に転がった死体を前にして固まるパトリシア=K=ポラリス(ka5996)にバリーが声を掛ける。だが彼女は反応しない。
「聞こえないのか──パトリシア?」
「──バ、バリー?」
 肩を揺さぶられてようやく焦点がバリーの碧眼に合う。だが尚も所在無く揺れる翡翠色の瞳を見てバリーは静かに告げた。
「無理なら下がっていても良い」
「ダ、大丈夫ダヨ? これくらいハンターになった時カラ──」
 覚悟してたんダカラ──そう告げる彼女の引き攣った微笑みと膝の震えには気付かない振りをしてバリーは頷いた。
「わかった。なら援護を頼んでも良いか?」
「任せテ」
 ぎこちない挙動でパティも首肯を返す。
 カッツ・ランツクネヒト(ka5177)が正面襲撃組に呼び掛けた
「そんじゃ皆さん方、キャロルの旦那のお蔭でパーティーはもう始まってるみてえだから──」
「おい、なんで今決め付けた」
「何だ違ったのかい? まあ良いさどっちでも。曲はもう掛かっちまってる、お熱いのがな。なら踊らにゃ損ってもんだ」
「わかってんじゃねえかよ。あの阿保共にちゃんとしたステップを教えてやれ」
「へいへい、仰せのままに」
 調子の良い物言いに肩を竦めカッツは二階のベランダに飛び上がろうと構える。
「待っテ──」
 その彼を袖引いたのは切迫した声。
「どした、パティちゃん」
「コレ、守ってくれるカラ」
 パトリシアは緊張した面持ちで、カッツに守護の力を宿した符を手渡した。
「どうせなら笑顔で送ってくれよ。その方がよっぽど御利益がある」
「ウ、ウン──気を付けてネ」
 カッツに促され、懸命に笑みの形を作るパトリシア。
「そっちこそ無理だけはしないでくれよ」
 無理に作った事が明白な笑顔に苦笑を浮かべて応えると、ニンジャはベランダへと舞い上がった。

 軍に要請した見取り図を頼りにエリミネーター(ka5158)は黒犬の相棒を引き連れて裏口へと回り込んでいた。
 角に隠れ裏口前を窺うと、丁度扉を開けて二人の男が飛び出して来る所だった。エリミネーターはSOPMOD──特殊作戦用装備にカスタマイズした突撃銃を構えて男達に銃口を向けると、銃爪を引くその前に警告を発した。
「Drop the gun!  Hold up!」
 警告に対する男達の返答は──BAANG!
「まあ当然こうなるわな……」
 お決まりの反応を見越していた元警察官はすぐさま角に隠れ射線から逃れる。
「こいつばかりは抜けない悪癖だな、まったく」
 鳴り響く銃声に紛れ溜息を零しつつ、足下で同情めいた鳴声を漏らす相棒を促した。
「頼むぜマックス」
 一言だけで全てを理解した相棒が角から勢い良く飛び出した。いきなり姿を現した黒い影に、男達は反射的に銃口を向けるが素早い動きに銃弾は悉く空を切るばかり。
 マックスに気を取られた男達の姿を、心を持たぬ銃口とそれ以上に冷徹な碧眼が見詰める。その凍てついた視線は“排除する者”の名に相応しい。
「Eat this……!」
 銃口が吐き出した鉛玉が男達の腸に叩き込まれる。空薬莢が地に零れ落ちると同時に、男達も骸と化して地に倒れた。障害を排除すると相棒を引き連れて裏口へと侵入する。
「馬鹿共が……」
 骸が伏す場に苦々しい呟きを置き去りにして。

 廃酒場に桜花が舞吹雪く。パトリシアがばら撒いた符が生み出す幻想的な絶景。無数の花弁はその渦中に立つ男達の眼を奪う。その壮麗な光景を、咆哮のような銃声と共に撒き散らされた暴虐の嵐が薙ぎ払った。
 桜吹雪が散らされて、代わりに咲き誇るは彼岸花。死人の血を吸って、鮮やかな紅を宿した毒花があちらこちらで花開く。
「ア……ァ……」
 自分の行動の結果を見届けようと目を凝らしていたパトリシアの口から、声にならない悲鳴が零れる。
「頭を下げてろっ!」
 棒立ちになったパトリシアをキャロルが伏せさせる。あわやという所で弾丸が飛来し、キャロルの肩を掠める。彼は構わずパトリシアに怒声を放った。
「死にたくなけりゃ、不用意に立つな!」
「ソ、ソレ──痛くないノ?」
 その声が聞こえていない様子のパトリシアは、キャロルの銃創に目を釘付けにしたまま消え入りそうな声で問う。
「……痛みを感じられりゃ良い方だ──連中は痛みを感じる暇もなかったろうよ」
 連中というのが誰を指しているのか、痛みを感じる暇もないというのはどういう事か。改めて問うまでもない。そう、死んでしまえば痛みもない──何もない。死なば終わり、それまでだ。
「勘違いをするなよ、あいつらを撃ったのは俺だ。お前は何もやっていない」
 ガトリング銃の再装填を行うキャリコが、不器用ながらも慰めの言葉をパトリシアに向ける。
 だが彼女にとって最後に誰の指が引金を引いたのかは関係なかった。たとえ引金を引いた指が彼女の物でなくとも、その手助けをしたのは自分なのだから。
 響き渡る銃声と飛び交う銃弾よりも、その事が怖くて仕方がなかった。

「HEYHEYHEY,良い感じにアガッて来たんじゃねえの? オレちゃん、テンション上がりっぱなしよ♪」
 店内に木霊する銃声の激しさに昂揚する様子を隠しもしないlol U mad ?(ka3514)。
「ったく、お前ェさんは相変わらずだな」
 その相方の調子に呆れたように肩を竦めるのはJ・D(ka3351)だ。二人は廃酒場の側面に位置する路地裏で突入のタイミングを計っていた。
「いやいや、これでも思う所はあるんだぜ? オレちゃんだって一歩間違えりゃ連中みたいになってたんだ。心が痛くて仕方ねえ」
「ならどうするね。この仕事から下りるのかィ」
「なぁに殺るこたぁ変わんねえよ。『罪を犯す者は罪の奴隷である』連中は、んな事も知らねえんだ。自由を履き違えた阿保にゃ、物の道理って奴を教えてやるのが筋ってもんだろ?」
「問答無用で撃ち殺すにはちょいと気の毒な罪状のようだがな」
「なに言ってんだよJD。見ろよ連中、あんなにパカスカ撃ちやがって」
「確かに撃たれても文句は言えねェか。銃口の先に手前ェの背中がある事にも気付いてねェ。悪党共を殺すのは、手前ェが撃った鉛玉だってのにな」
 会話が交わされる間に銃声の合唱は更に激しさを増してゆく。
「そろそろじゃね?」「ああ、そろそろだ」
 二人はどちらともなしに確認し合うと、それぞれの得物を眠りから覚めさせた。
 lolは自動拳銃のデコッキングレバーを押し上げて、JDはシングルアクションリボルバーの撃鉄を起こして。
 そして硝子の割れた窓から鉄火場の真っ只中へ二人同時に踏み入った。
「ちょいと邪魔するぞ」
 手始めに銃火を轟かせたのはリボルバー。二人の侵入に気付き銃口を向けようとする男を弾丸が穿つ。自分を狙う銃を片付けたJDは続けて二階に屯す男達にも銃口を向けた。
 周囲への警戒を捨て二階の敵に掛かり切るJD。その隙を埋めるようにlolはJDと背を合わせて得物を構える。
「ヨゥ色男、小洒落た服に穴が開くとみっともねーぜ?」
「手前のドタマに鼻の穴が増える事を心配しておきな。敵はまだわんさか居なさるんだ」
「Many Villains?  Then, I'm two hand」
 二挺の拳銃、その銃把を握る腕が交差する。
 右手の銃を左方の敵へ、左手の銃を右方の敵へ。銃口から真っ直ぐに伸びる射線が主の敵を見詰める。互い違いの方向を向いた決して交わる事のない一対の視線──鉛色をした致死の呪いを放つ番いの殺眼が、己が標的を射抜いた。
 背後の相棒にその身を預け、JDは二階でカッツが相手取る男達の身体に次々と急拵えのトンネルを開通してゆく。
「旦那助かった──」
 JDに向けて礼を告げようとしたカッツだったが、突如傍らにあった扉が開き中へと引き摺り込まれる。
「何だおい、何が起きやがった」
 その一部始終を目撃したJDが舌打ちを漏らす。二階に向かってカッツの援護に向かいたくとも、そうすれば一階の手勢が不足になる。
「ようグラサンの兄ちゃんにワッパの兄ちゃん、生きてるか?」
 そこに合流したのは裏口から侵入したエリミネーター。カウンター奥にしぶとく生き残った敵の手勢を突撃銃の牽制射撃で抑える彼に、JDは空欠になったリボルバーを持ち替えながら応じる。
「見ての通りピンシャンしてる。それより大将──」
「ああ、カッツちゃんの方は任せな」
 エリミネーターは頷き、二階へ続く階段へと向かった。

「──野郎の寝室にお招きされるのは勘弁願いたいんだがねえ」
 カッツは突然自身を扉の奥に引き摺り込んだ腕を振り払うと、腕の主から距離を取った。距離と言っても寝台が一つ置かれたこの部屋はそう広くはない。
 部屋の出口、今しがた彼が強制的に潜らせられた扉の前に立つのは屈強な男。カッツの軽口に応じず無言のまま構える男の手に握られているのは大振りのナイフ。
「だんまりかい? 無口な男は好かれんぜ」
 懲りずに軽薄な態度を取るものの内心では苦い表情を浮かべていた。こいつは強者だ、と。こちらの急所に刃先を向けたまま微動だともしないナイフ、それだけで理解できた。だが退路はない。この部屋に窓はなく、そして唯一の退路には障害が立ち塞がっている。
 ──やるしかねえってか。
 腹を括り両手の得物を構えて──翔ける。ニンジャの技と手狭な密室を最大限に利用した高駆動の立体機動。誘うように得物を揺らしながら、踊るように巧みに疾く足を動かす。
 そして──瞬間に垣間見た針の穴のような男の隙。それを目掛けて、直剣を叩き下ろした。
「がっ──」
 漏れ出る苦鳴──直剣は絡め取られ男のナイフがカッツの左胸に突き刺さる。刃元まで埋まる勢いで突き出されたナイフ──しかし、
「──痛ってえじゃねえか」
 パティの護符は刀身の半分程の侵入すら許さなかった。
 九死に一生を得て、男の懐に潜り込み三角錐状の短剣を喉元へ突き出した。予期せぬ事態に気を取られ反応の遅れた男の喉に短剣が深々と刺さる。難敵を刺殺したニンジャは返り血を浴びながら腰を落とした。
「畜生が。なんべん殺されれば気が済むんだ、お前ら悪党は」
 悪態を漏らす彼の元へ、扉を蹴破ってエリミネーターが現れる。
「大丈夫──みたいだな」
「……なあ、エリーの旦那」
 自分とその傍らに伏す喉に短剣を生やした死体を見て状況を悟った彼に、カッツは問い掛けた。
「リアルブルーじゃ、誰かをダンスに誘う時何て言うんだ?」
「……Shall we dance? だ、カッツちゃん」
「だとさ、次からはそう言うこった……もう遅いだろうがな」
 
「降参だ」
 残りわずか三人となった所でギャング達は武装放棄し、JDはリボルバーの銃口を下げて撃鉄を降ろした。
「良い判断だ──もう少し早ければ、だが」
 死屍累々の店内を見渡して溜息を吐くと、彼はリボルバーをホルスターに納め彼らに背を向ける。それを見てギャングの一人がほくそ笑む。懐から小型拳銃を取り出すとその銃口をその背へと向けた。後は銃爪にトリガープルを乗せるだけ。しかしその僅かな暇さえ、ガンスリンガーの銃捌きは許さない──群青色の外套が風を孕んで翻った。
 一瞬──
 響き渡ったのは三つの銃声──重なり合って一つの音のように錯覚する神速の三連射。
 右手親指、左手親指、小指で初弾次弾三弾目の撃鉄を刹那の間に起こす──トリプルショット。
 胴に三発の鉛玉を受けた男が倒れる。硝煙を上げる銃口をJDは別の男に向けた。
「あと残り一発だが、試してみるかィ?」
「か、勘弁してくれ……勘弁してください」
 男は恐怖に慄き懐の銃をホルスターごと捨てる。
「上出来だ──おっと」
 今度こそ降伏したギャングの様子に頷いたJDだったが、振り向き様にナイフを投擲する
「どこ行こうってンでェ。あんたサンにゃァ面通しの予約アリだ」
 ナイフは裏口の方へと続く扉に忍び足で寄っていた禿頭、そのすぐ脇の壁へと突き立った。
「Thanks, Billy the Kid」
 キャロルがJDの肩を叩きながら礼を告げて禿頭の前に進み出た。彼はリボルバーを突き付けて言った。
「聞きたい事がある──ギャレット=コルトハート、奴は今何処に居る」
「な、なんであの人を……知らねえよ。俺は知らねえ」
「そうかい。じゃあお前にもう用はない」
 躊躇なく銃爪が絞られる。だが銃声はなくただ撃鉄が空振る虚しい音が響いた。
「弾切れか。おいバリー、お前のデリンジャーを」
「本当なんだって! 俺は何にも知らねえ勘弁してくれよ!」
 禿頭が必死に首を振って命乞いをする。どうやら白を切っているわけではないらしい。
「それでどうするね? この禿頭は」
 舌打ちを洩らすキャロルにJDが問う。
「軍にでも突き出すさ。こんな小物を喰った所で腹は膨れない」

「コレを、パティが……」
 無数の空薬莢と死体が転がる店内を見渡しながら、パトリシアは肩を震わせた。命というのはもっと重いものだと思っていた。だがこの光景はその価値観を揺らがせる。
 喪心状態に陥る彼女にキャロルが声を掛けた。同時に差し出したのはシングルアクションリボルバーの銃把。
「おい嬢ちゃん、こいつを持ってみな。安心しろ弾は入ってない」
 言われた通りに銃把を握る。「引鉄を引いてみろ」と言われて銃爪を絞る。思いの外軽い銃爪の重さに驚いた表情を見せると「こいつの引鉄は軽いんだ。大体三・五ポンドくらいだな」と説明された。するとキャロルは銃身を掴むと、リボルバーの銃口を自身へと向ける。
「もう一度撃ってみろ」
 今度は引けなかった。あんなに軽かった引鉄はどんなに指に力を籠めても動かない。弾が入っていないと理解していても、銃口の先に人がいるというだけで銃爪はその重さを増した。
「わかるか、それが命の重さだ。そいつを忘れた時、お前はもっと簡単に人間を的にする事ができるようになる。だがもう二度とその重さを思い出せなくなる」
 それだけは憶えとけ、そう言い残してキャロルは軒先の方へと足を向けた。途中で黒犬と擦れ違う。
「耳に痛い言葉だな」
 軒先に出るとガトリング銃を片付けていたキャリコが微苦笑を浮かべる。キャロルはホルスターに拳銃を仕舞いながら応じた。
「単に線引きの差だ。善し悪しがあるわけじゃない」
 軒先の下で壁に身を預けていたエリミネーターが葉巻を咥える。
「湿ってやがる」
 しとしとと泣き出した空を見上げながら、彼は舌打ちを洩らした。

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MVP一覧

  • 自在の弾丸
    キャリコ・ビューイka5044

重体一覧

参加者一覧

  • 交渉人
    J・D(ka3351
    エルフ|26才|男性|猟撃士
  • Two Hand
    lol U mad ?(ka3514
    人間(蒼)|19才|男性|猟撃士
  • 自在の弾丸
    キャリコ・ビューイ(ka5044
    人間(紅)|18才|男性|猟撃士
  • クールガイ
    エリミネーター(ka5158
    人間(蒼)|35才|男性|猟撃士
  • この手で救えるものの為に
    カッツ・ランツクネヒト(ka5177
    人間(紅)|17才|男性|疾影士
  • 金色のもふもふ
    パトリシア=K=ポラリス(ka5996
    人間(蒼)|19才|女性|符術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
キャリコ・ビューイ(ka5044
人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2016/02/21 15:00:27
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/02/16 18:34:14