ゲスト
(ka0000)
巡礼路上の鴨嘴熊
マスター:柏木雄馬

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/02/19 22:00
- 完成日
- 2016/02/27 12:17
みんなの思い出
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オープニング
「茨小鬼の軍勢は、貴族連合軍とハンターたちの奮戦により敗走しましたぁ! 我等が王女殿下の勝利ですよ!」
王国北東部フェルダー地方。王国北方アスランド地方で起きた『茨小鬼』の争乱により足止めされた巡礼者たちが仮の宿として寝起きする村の聖堂──
息せき切って飛び込んで来た侍女の少女・マリーがもたらした報告に、その場にいた巡礼者たちは一瞬の静寂の後、歓喜の雄叫びを上げた。
村の役人が交通の制限が解除されたことを伝えに来たのはその少し後。仮の宿を畳み、すっかり旅立ちの準備を整え終えていた巡礼者たちが急ぎ出立し……
王国南西部に領地を持つオードラン伯爵家が一女、クリスティーヌもまた。侍女たるマリーを引き連れ、お世話になった教会と村人たちへの挨拶回りを済ませ、最後に村を後にした。……彼女らが戦で巡礼の足止めを喰らうのはこれで二度目の事だった。彼女等の事前の手回しと配慮がなければ、村人と巡礼者たちの軋轢はこんなものでは済まなかっただろう。
「いやー、しかし、巡礼中にまさか二度も戦で足止めを食うなんて、思ってもみませんでしたね、クリスお嬢様!」
「ええ。最初は歪虚の黒大公ベリアルの王都侵攻。今回は茨小鬼の争乱── 思った以上に長引いてしまいました。これ以上の旅の遅延は、流石におや……お父様に申し訳が立ちません」
王国北西部。停留していた村から古都アークエルス方面へと続く小さな側道── 珍しく人の多いその巡礼路を歩きながら、クリスは大きく溜め息を吐いた。
元々、王国各地の観光地をあちこち寄り道するルート(マリーの案を元に計画された)で遅れがちだったスケジュールは、今回の足止めが『トドメ』となって完全に破綻した。故郷への帰還は大幅に遅れることが確定し、様々な……様々なところに、皺寄せがいくだろう。
「まー、いーじゃないですか! ビバ、旅行! ビバですよ!」
クリスの横を歩きながら、今にも鼻歌でも歌いだしそうな勢いでニコニコ笑顔で言うマリー。その両腕には村人たちから土産に持たされた抱えきれない程の野菜と果物が。いつも明るく前向きな少女、マリーは、足止めされて暗くなりがちな巡礼者たちの間でマスコット的な存在となっていた。村の子供や大人たちともすぐに仲良くなり、村人と巡礼者たちの間でごたごたが起きそうになる度、両者の間の貴重な潤滑油としての役割を果たしていた。
「まぁ、マリーが良いのならそれで良いのですが……」
クリスはそんなマリーを微苦笑で見やった。最初の足止めの際には「退屈!」を連呼していた少女がまた随分と成長したものだ。
「ですが、マリー。『双丘の泉』(王国北東部山間の巨大な湖)への船旅はキャンセルですよ? さすがにこれ以上の旅の遅延は許されません」
「えーっ!? もういっその事、ゆっくり時間を掛けて旅しましょうよ! それくらい、お父上様は目を瞑ってくれますって!」
その二人の様子にニコニコと笑う巡礼者たち。久方ぶりに旅が再開できたとあって、その表情は皆、明るい。
そんな温かな光景は、だが、背後の道から聞こえてきた笛の音と、馬の嘶きによって吹き散らされた。
「道を空けよ! この後、急ぎの馬車が通る。轢かれたくなくば道を空けよ!」
蹄の音も高らかに。見るからにスタイリッシュなファッションに身を包んだ男が、馬上で笛を吹き鳴らしながら、道行く人々にそう警告の叫びを上げた。
慌てて道から避ける巡礼者たち。クリスとマリーの二人もまた彼らに倣い、道の脇の畑へ下りた。駆け抜けていく人馬…… それから少しばかりして、後方に姿を現した1台の四頭立ての箱馬車が、砂塵を巻き上げながら物凄い勢いで傍らを通り過ぎていった。
「けほっ、けほっ…… 何っ!? なんなの、あの迷惑なのはっ?!」
「……貴族の『弾丸巡礼』の馬車ですね」
砂煙に咳き込みながら、走り去る馬車の背に石を蹴とばすマリーに、クリスがそう説明した。
『弾丸巡礼』── 王国のエクラ教信者であれば、一度は廻っておくべき巡礼の旅。本来は徒歩で何週間と掛かるそれを、馬車を使って短時間で終わらせてしまおうというものだ。多くの場合、有名な保養地や観光地ばかりを『摘み食い』するだけの名ばかりの『巡礼』で、一部の貴族や金持ちの商人たちの間で流行っているという。
「なにそれ!? 意味ないじゃないですか! そもそも強制じゃないんだし、邪魔ですよ! 中には何回かに分けて、一生掛けて巡礼する人だっているのに!」
「名目上だけでも『敬虔な信徒』という方便が必要な人たちなんでしょう。一応、教会も巡礼に馬車を使うこと自体は認めていますし……」
それよりも、とクリスは先程の馬車を思い返して眉をひそめた。
たとえ弾丸巡礼と言えど、先程の馬車は速度を上げ過ぎていた。恐らくは、自分たちと同じ様に足止めを食らってしまい、遅れを取り戻す為に急いでいるのだろうが……
(さすがにアレは速度を出しすぎでしょう。あれじゃあ、いつ事故を起こしたって……)
案の定と言うべきか。道の先から何かが激突したような大きな破壊音が聞こえてきて── クリスはマリーと顔を見合わせると急ぎ、そちらへ走っていった。
現場には、既に大勢の巡礼者が集まっていた。
一軒の茶屋と数件の農家があるだけの、小さな集落の小さな四辻── 先程、高速で走っていた貴族の馬車と、横合いから出て来た大型の乗合馬車が、ここで出会い頭に激突したらしい。
皆が事故現場を遠巻きに眺めている中、クリスは馬車へと走り寄った。
衝突の衝撃はかなりのものだったのだろう。計8頭にもなる馬は殆ど死に絶え、箱馬車を構成する木材も根元から折れ、ひしゃげている。その扉に刻まれた紋章は双頭の鷲──王国北東部フェルダー地方に領地を持つ古き家柄の大貴族・ダフィールド家のものだ。
クリスはそれを横目に横転した馬車の上に飛び乗ると、地上のマリーから投げ受けた棒を梃子に馬車の扉をこじ開けた。そして、まだ息のあった中年の婦人と小太りの少年の手当てを始める。
(しかし、なぜこんな見通しの良い野辻で二台の馬車が衝突を……)
応急処置を終え、負傷者を運び出すべく人手を借りようと馬車から顔を出そうとしたクリスは、だが、突如、巡礼者たちの間に湧き起こった悲鳴に首を引っ込めた。
手鏡を取り出し、そっと外の様子を窺う。
鏡に映った小さな視界に逃げ散る人々の姿が見え── 角度を変えたその小さな視界に、馬車の陰からのそりと身を起こす、巨大な獣の姿が映った。
まるで熊の様なガタイをした二足歩行の、巨大なカモノハシ── それは一際高く鳥の様な雄叫びを上げると、地に倒れた馬に両腕を振り下ろし、その鋭い爪でその亡骸を食べ始めた。
王国北東部フェルダー地方。王国北方アスランド地方で起きた『茨小鬼』の争乱により足止めされた巡礼者たちが仮の宿として寝起きする村の聖堂──
息せき切って飛び込んで来た侍女の少女・マリーがもたらした報告に、その場にいた巡礼者たちは一瞬の静寂の後、歓喜の雄叫びを上げた。
村の役人が交通の制限が解除されたことを伝えに来たのはその少し後。仮の宿を畳み、すっかり旅立ちの準備を整え終えていた巡礼者たちが急ぎ出立し……
王国南西部に領地を持つオードラン伯爵家が一女、クリスティーヌもまた。侍女たるマリーを引き連れ、お世話になった教会と村人たちへの挨拶回りを済ませ、最後に村を後にした。……彼女らが戦で巡礼の足止めを喰らうのはこれで二度目の事だった。彼女等の事前の手回しと配慮がなければ、村人と巡礼者たちの軋轢はこんなものでは済まなかっただろう。
「いやー、しかし、巡礼中にまさか二度も戦で足止めを食うなんて、思ってもみませんでしたね、クリスお嬢様!」
「ええ。最初は歪虚の黒大公ベリアルの王都侵攻。今回は茨小鬼の争乱── 思った以上に長引いてしまいました。これ以上の旅の遅延は、流石におや……お父様に申し訳が立ちません」
王国北西部。停留していた村から古都アークエルス方面へと続く小さな側道── 珍しく人の多いその巡礼路を歩きながら、クリスは大きく溜め息を吐いた。
元々、王国各地の観光地をあちこち寄り道するルート(マリーの案を元に計画された)で遅れがちだったスケジュールは、今回の足止めが『トドメ』となって完全に破綻した。故郷への帰還は大幅に遅れることが確定し、様々な……様々なところに、皺寄せがいくだろう。
「まー、いーじゃないですか! ビバ、旅行! ビバですよ!」
クリスの横を歩きながら、今にも鼻歌でも歌いだしそうな勢いでニコニコ笑顔で言うマリー。その両腕には村人たちから土産に持たされた抱えきれない程の野菜と果物が。いつも明るく前向きな少女、マリーは、足止めされて暗くなりがちな巡礼者たちの間でマスコット的な存在となっていた。村の子供や大人たちともすぐに仲良くなり、村人と巡礼者たちの間でごたごたが起きそうになる度、両者の間の貴重な潤滑油としての役割を果たしていた。
「まぁ、マリーが良いのならそれで良いのですが……」
クリスはそんなマリーを微苦笑で見やった。最初の足止めの際には「退屈!」を連呼していた少女がまた随分と成長したものだ。
「ですが、マリー。『双丘の泉』(王国北東部山間の巨大な湖)への船旅はキャンセルですよ? さすがにこれ以上の旅の遅延は許されません」
「えーっ!? もういっその事、ゆっくり時間を掛けて旅しましょうよ! それくらい、お父上様は目を瞑ってくれますって!」
その二人の様子にニコニコと笑う巡礼者たち。久方ぶりに旅が再開できたとあって、その表情は皆、明るい。
そんな温かな光景は、だが、背後の道から聞こえてきた笛の音と、馬の嘶きによって吹き散らされた。
「道を空けよ! この後、急ぎの馬車が通る。轢かれたくなくば道を空けよ!」
蹄の音も高らかに。見るからにスタイリッシュなファッションに身を包んだ男が、馬上で笛を吹き鳴らしながら、道行く人々にそう警告の叫びを上げた。
慌てて道から避ける巡礼者たち。クリスとマリーの二人もまた彼らに倣い、道の脇の畑へ下りた。駆け抜けていく人馬…… それから少しばかりして、後方に姿を現した1台の四頭立ての箱馬車が、砂塵を巻き上げながら物凄い勢いで傍らを通り過ぎていった。
「けほっ、けほっ…… 何っ!? なんなの、あの迷惑なのはっ?!」
「……貴族の『弾丸巡礼』の馬車ですね」
砂煙に咳き込みながら、走り去る馬車の背に石を蹴とばすマリーに、クリスがそう説明した。
『弾丸巡礼』── 王国のエクラ教信者であれば、一度は廻っておくべき巡礼の旅。本来は徒歩で何週間と掛かるそれを、馬車を使って短時間で終わらせてしまおうというものだ。多くの場合、有名な保養地や観光地ばかりを『摘み食い』するだけの名ばかりの『巡礼』で、一部の貴族や金持ちの商人たちの間で流行っているという。
「なにそれ!? 意味ないじゃないですか! そもそも強制じゃないんだし、邪魔ですよ! 中には何回かに分けて、一生掛けて巡礼する人だっているのに!」
「名目上だけでも『敬虔な信徒』という方便が必要な人たちなんでしょう。一応、教会も巡礼に馬車を使うこと自体は認めていますし……」
それよりも、とクリスは先程の馬車を思い返して眉をひそめた。
たとえ弾丸巡礼と言えど、先程の馬車は速度を上げ過ぎていた。恐らくは、自分たちと同じ様に足止めを食らってしまい、遅れを取り戻す為に急いでいるのだろうが……
(さすがにアレは速度を出しすぎでしょう。あれじゃあ、いつ事故を起こしたって……)
案の定と言うべきか。道の先から何かが激突したような大きな破壊音が聞こえてきて── クリスはマリーと顔を見合わせると急ぎ、そちらへ走っていった。
現場には、既に大勢の巡礼者が集まっていた。
一軒の茶屋と数件の農家があるだけの、小さな集落の小さな四辻── 先程、高速で走っていた貴族の馬車と、横合いから出て来た大型の乗合馬車が、ここで出会い頭に激突したらしい。
皆が事故現場を遠巻きに眺めている中、クリスは馬車へと走り寄った。
衝突の衝撃はかなりのものだったのだろう。計8頭にもなる馬は殆ど死に絶え、箱馬車を構成する木材も根元から折れ、ひしゃげている。その扉に刻まれた紋章は双頭の鷲──王国北東部フェルダー地方に領地を持つ古き家柄の大貴族・ダフィールド家のものだ。
クリスはそれを横目に横転した馬車の上に飛び乗ると、地上のマリーから投げ受けた棒を梃子に馬車の扉をこじ開けた。そして、まだ息のあった中年の婦人と小太りの少年の手当てを始める。
(しかし、なぜこんな見通しの良い野辻で二台の馬車が衝突を……)
応急処置を終え、負傷者を運び出すべく人手を借りようと馬車から顔を出そうとしたクリスは、だが、突如、巡礼者たちの間に湧き起こった悲鳴に首を引っ込めた。
手鏡を取り出し、そっと外の様子を窺う。
鏡に映った小さな視界に逃げ散る人々の姿が見え── 角度を変えたその小さな視界に、馬車の陰からのそりと身を起こす、巨大な獣の姿が映った。
まるで熊の様なガタイをした二足歩行の、巨大なカモノハシ── それは一際高く鳥の様な雄叫びを上げると、地に倒れた馬に両腕を振り下ろし、その鋭い爪でその亡骸を食べ始めた。
リプレイ本文
「ひょわー! 何ですかアレは! 超肉食系ですよ? 鴨嘴なら図鑑で見ましたが、アレは正直気持ち悪いです!」
「はいです! あのカモノハシ、可愛くないです!」
馬の死骸を貪り続ける鴨嘴熊を木々の陰から覗き込みつつ── エルフと符術師の少女、カリン(ka5456)とルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)は、テンション高めにそう感想を口にした。
人間の街にはすごい生き物が棲んでるんですね! と興奮し、握った両拳を上下にぶんぶん振り回すカリン。それを見た秋桜もまたその真似をして可愛らしく両腕を上下に振るものだから、秋桜にあってカリンにないところがふるふると揺れる、揺れる……
「いや、ここは街じゃねぇし(←ツッコミ)」
喧騒を他所に、ポツリと呟くフェイト・クレーエ(ka6127)。──そう、街じゃない。にも関わらず、乗合馬車がなぜここに?
「最高の埴輪を作る旅の途中で埴輪クラッシャー(シレークス(ka0752))に会っただけでも驚きなんだが。これで手持ちの埴輪が割れでもしたら…… いや、これ以上は『フラグ』だな」
視界の端に秋桜を置きつつ、鴨嘴熊の方を見ながら、アルト・ハーニー(ka0113)。……最近、大きいもの(いや、視界の中央の方な)に縁があるような気がする。まったく嬉しくないけどな(いや、端の方なら大歓迎だが)
「……奇遇ですね、自分もです。何か巨大な敵に祟られてるんですかね、自分……」
「わぁっ!?」
突然、木の上から声がして、アルトは驚き、仰け反った。その大声に、別の木の上で昼寝をしていた獅臣 琉那(ka6082)がピタゴラ的にびっくりして落っこちる。
「Σほ、ほえっ!? 何! 何事なん!? 歪虚でも来やはったんか!?」
落ち慣れているのか、器用に受身を取りつつ慌てて周囲を見回す琉那。驚かしてしまった事を謝りながら、最初の声の主、リアン・カーネイ(ka0267)が木の上から下りてきた。その手には双眼鏡── 木の上から事故現場の状況と、鴨嘴熊の様子を観察していたのだとリアンは言った。
「現場の周囲に人はいません。現在の所、被害はあの馬車2台のみ…… ですが、そちらのお嬢さんの話だと、負傷者を救出に行った女の人が馬車の中にいるとのことで」
お嬢さん? と怪訝に振り返ったシレークスは、えぐえぐと半泣きで立ち尽くすマリーを見て驚きの声を上げた。
「マリー?! え? じゃあ、あの馬車の中にいるっていうのは……」
瞬間、堪えきれずに泣き出し、クリスを助けてくださぁい! と飛びついてくるマリー。その背をポンポン叩きながら、シレークスは思った。──またこんな所でこんな事に巻き込まれて。あの娘もいったいどういう星の下に生まれやがったですか……
「中にまだ人がいるんですか? 邪魔なのもいますし、さて、どうしますかねー」
「まだ生きてはる人がおるんやろ? なら助けに行くわ!」
どこか芝居がかった仕草で顎を摘むフェイトの横で、痛む尻をさすりながら「当然!」といった調子で琉那が救出依頼に加わる。
「とりあえず、救助の為には、あのデカブツはこちらで対処しなけりゃならんかねぇ」
「では、誘引は任せます。あの鴨嘴熊を引き離してください。その隙に我々が馬車に取り付き、負傷者を救助します」
呟くアルトに答える狭霧 雷(ka5296)。それしかないだろうなぁ、とアルトは頷いた。
「幸い、こっちには派手な奴がいるしな」
その言葉にシレークスが「ん?」と振り返る……
「おう、そこのデカブツ! 誰に断って馬肉を貪り食ってやがりますか、あ゛ぁ゛っ゛!?」
「そうだよ! 可愛そうなお馬さんたちより、私たちの方が美味しいんだからっ!」
道路上、四つ辻に居座る鴨嘴熊の真正面──
少し離れた場所に堂々と胸を張って立ち。手にした鉄鎖(棘鉄球つき)をブンブンぶん回しながら、覚醒して黄金色に輝いたシレークスが威勢よくそう呼びかけた。
鴨嘴熊の意識を惹きつけるべく、ただでさえ目立つカラーリング(?)にこれでもかと『ソウルトーチ』を追加して、炎の様なオーラを轟々と噴出させるシレークス。
一方、秋桜も愛嬌のある身振りと手振りで鴨嘴熊の誘引を試みた。バイクに跨ったまま、ピンと美しく脚を張り、きゃる~ん♪ と笑顔で手を振りつつ、前に屈み込む秋桜。たゆんと揺れる肉の柔らかさを強調し、鴨嘴熊の食欲を刺激する……つもりらしい。本人は。……うん、『美味しそう』の意味が別の意味に変わりそうだ。──お色気むんむん。ルンルンだけに(
その間に、雷と琉那、フェイトの3人は、道を外れて畑に迂回。音を立てずに前進し、四つ辻の直ぐ側の農家の陰に取り付いた。
雷は琉那とフェイトを振り返ると、手信号で散開の指示を出した。そうしておけば、万一、鴨嘴熊に気づかれたとしても、誰かは馬車へ救助に走れる。
頷き、音もなく移動する琉那とフェイト。建物の壁に背中を貼り付けるようにしながら、そっと現場の状況を窺う……
「……動きませんね」
罵声とポージングを取り続けるシレークスと秋桜の後方、木陰から双眼鏡で鴨嘴熊の様子を窺うリアンがポツリと呟いた。獣は『餌場』から動こうとはしなかった。或いは餌を取られると警戒しているのかもしれない。
「むむむ…… 鴨嘴さんこちらー、ですよっ!」
焦れたカリンが木陰から飛び出し、鴨嘴熊の方へ騎兵銃を1発放った。チュイ~ン! とすぐ側の地面に跳弾する弾丸。鴨嘴熊が立ち上がり、威嚇の咆哮を上げる。
「もう一息……! 埴輪男、手伝いやがれです!」
「マジか」
泣く泣く四つ辻へと突進していくアルト。どどどどどど…… とまさかの魔導バイクで出て来たリアンが支援の為に小型拳銃を発砲する。
「どりゃあ!」
アルトは巨大な錨槌でガンと一回、鴨嘴熊の脚を殴ると、そのまま全速力で離脱を始めた。
「そらっ、嫌がらせをしている奴はこっちにいるんだぞ、と! やり返したいのならこっちに来やがれ!」
鴨嘴熊が動いた。そのもこっとした尻尾を地に立て、座るように体重を預け…… 直後、バネで打ち出されたピンボールの様に、その身を弾丸として突っ込んだ。
「どわあっ!」
ボーリングのピンの様に弾き飛ばされるハンターたち。肉弾と化した鴨嘴熊もただでは済まない。無様に地面を転がった後、這いつくばる様に倒れ込む。
「でかい図体の癖に小癪な手を使いやがって……!」
「あの尻尾…… いかにも何かしてきそうと思っていたとこだったのですっ!」
砂煙と喧騒と悪態が飛び舞う中、がばっと身を起こしたカリンが、鴨嘴熊へカチコミに行くシレークスに『防性強化』のマテリアルを飛ばす。
バイクに乗ったまま(ちゃっかり回避していたのだ)きゃーきゃー言って逃げ回りながら…… その実、突撃してきた鴨嘴熊の後方に回り込む秋桜。路上にキキッとバイクを止めて、2本指でえいしょっと地面に『地縛符』を貼り付ける。
「ジュゲームリリカル…… ルンルン忍法土蜘蛛の術! 場に符を仕掛けてターンエンド☆」
ハンターたちが鴨嘴熊を引きつけている間に、雷、琉那、フェイトの3人は建物の陰から飛び出した。
倒れ付した馬の死骸に、散乱する馬車の破片と残骸── わちゃくちゃになった現場を見ながら、さて、元気な方はいらっしゃいますかねー、と嘯くフェイト。全く、こんな狭い道でかっ飛ばせばどうなるかくらい、予想できないもんかねぇ?
素早く馬車に駆け寄った雷がその傍らに片膝をつき、横転した馬車の天井部をノックした。
「ハンターです。助けに来ました。怪我人の状況を教えてください」
「お年を召した女の方と、身なりの良い少年の2人がいます。共に意識はありません。応急手当はしましたが、女の人の方は何箇所か骨が折れているようです」
落ち着いた声音で車内の状況を報せるクリス。では女の人の方から搬出します、と答えながら、雷はその場に瓦礫で即席の階段を設けた。その横で、万一、鴨嘴熊が戻って来た時の為にワイヤートラップの準備を進めるフェイト。琉那がスルリと馬車の上へと上がり、負傷者の搬出の為、クリスと入れ替わりで車内へ入る。
最初に老婆を持ち上げて車外に出したところでもう一人の『お坊ちゃん』が覚醒し…… わけもわからぬままパニックになって暴れだそうとした瞬間、その口を塞ぎ、後ろ手に動きを封じる。
「暴れんよって、大人しくしとき……? 馬車は事故った。うちらは助けに来たハンターや。外には化けモンがおる。分かったらそろっと外に出るんや」
安心させるようにほわーんと微笑みかける琉那の、だが、その目は少しも笑っていない。怯えた少年がコクコク頷くのを確認してから、琉那はええ子や、と少年を解放し、馬車の上へと押し上げた。
暴れる鴨嘴熊を見て身を堅くした少年を促し、階段を下ろさせる琉那。入れ替わる様に、ワイヤーロープを手にしたフェイトが上へと上がり、ひらひらと手を振った。
「安全な所に下がっててください。私はまだやることがありますので」
さらっと言いつつフェイトは馬車の中へと入り。舌をペロリとさせながら、散乱する荷物の中から貴重品を物色する。
その間、僅か十数秒。意気揚々と馬車の上へと上がった瞬間、雷がその手首を掴んだ。
「……こういう品物は人の目に触れることによって、初めてその価値が有意なものとなるのです。死蔵するくらいなら、私が有効利用をですね……」
説得を試みるフェイトに無言で首を横に振る雷。フェイトはあはは…… と力なく笑うと、手の中の宝石を馬車の中へと落とした。
頷き、馬車から飛び降りる雷。その後方からは、鴨嘴熊が物凄い勢いでこちらに戻って来るのが見える……
鴨嘴熊が救助班の存在に気づいた。
2足でハンターたちと切り結んでいた獣は、餌を取られると思ったのか、4つ足のダッシュで急ぎ馬車の方へと戻る。
雷は琉那とフェイトに怪我人を任せると、自身は馬車の前に立ち塞がって覚醒した。その瞳を蒼く染め…… 白き竜神のオーラを纏う雷。突っ込んでくる獣に対抗すべく、硬き竜鱗のオーラを顕現させ。竜の咆哮を上げて鴨嘴熊の足止めを試みる。
そんな雷を射程に捉え、尻尾で飛翔せんとする鴨嘴熊── それが宙を舞った瞬間、琉那の『気功波』が、そして、フェイトの投げた『酒瓶』(馬車の中にあったものだ)が、空中の鴨嘴熊の顔面を直撃した。迎撃され、地面へ落ちる巨体── 次の瞬間、秋桜の仕掛けておいた『地縛符』が獣の乗る地面を液状化。纏わりついた泥が固まり、その機敏な動きを拘束する。
「ここでトラップカード、発動です! 馬車には行かせません!」
満面のドヤ顔で秋桜。更に、デッキから取り出した符を扇状に広げ、チュッと口付け。近接攻撃を担当する前衛をパワーアップすべく『地脈鳴動』の符を宙へと舞わせる。
「ジュゲームリリカル…… ルンルン忍法ニンジャパワー! 目覚めて貴方のニンジャ力☆」
張り付いた符の力を受けつつ、白銀の槍を構えたリアンがバイクのアクセルを吹かして突撃。一撃離脱で獣の傍らを通り過ぎた後、片足を軸に車輪で弧を描いて停車。挟撃態勢を取りつつ尾を狙って発砲する。
「そろそろ終いにしてやるんだぜ、と。埴輪パワー全開……! 喰らえ、渾身の一撃を!」
渾身の力を込めてぶぅんと振り上げた錨槌を、アルトは獣の頭部目掛けて思いっきり振り下ろした。腕をかざし、その一撃を受け凌ぐ鴨嘴熊。毒鉤爪が折れ砕けるも構わず獣がその身をクルリと回し。周囲へ毒液を撒き散らしつつ、その尻尾でハンターたちを薙ぎ払う。
「ひええ! 何か噴き出しました!」
ゴーグルに飛んで来た毒液を見て叫ぶカリン。尻尾に跳ね飛ばされるアルトの横で、両手に持った鉄鎖でもって獣の一撃を受けるシレークス。その膂力に弾き飛ばされつつも、その勢いを踏ん張った軸足を中心に回転エネルギーへと転換。棘付き鉄球を遠心力でぶん回し、そのまま『カウンターアタック』を叩き込む。
「我が槍よ、穿て、閃光の如く!」
そこへ、後方からリアンが白銀の槍を小脇に抱えてバイクの『チャージング』で突っ込んだ。獣の分厚い毛皮を突き破り、突き立つ穂先── 激痛に怒りの咆哮を上げて獣が四肢振り暴れ回り、反撃を受けたリアンが転倒。地面を転がりつつ受身を取る。
刺さったままのその槍に、身を起こしたアルトが取り付き、更に奥へと押し入れて…… 暴れる鴨嘴熊に背後から近づき、思いっきり腕を伸ばしてちょんと触ったカリンが、『エレクトリックショック』を通電させた。バチンッという音と共に吼える獣に驚いてピューッと逃げ出すカリン。いえ、ヒット&アウェイです! 決してびびったわけではないのです!
焦げ臭い臭いと共に倒れ付す鴨嘴熊。そして、そのまま動かなくなる。
「こっ、これが私の虎のお子さんなのです。びりびりー! なのです」
恐る恐る近づいてその沈黙を確認したカリンを見やり、秋桜がおおーっ! と感心しつつパチパチと手を鳴らした。
●
「さらば、我が愛しき埴輪よ。お前の犠牲は忘れない……!」
戦闘後。残骸や死骸を片付け始めた四つ辻で── アルトは、まるで身代わりの如く服の下で砕けた埴輪の亡骸(残骸)を、四つ辻の傍らに埋めた。
作業には、その場にいた巡礼者たちも加わった。事故時に亡くなっていた貴族の馬車の御者だけは、最初にリアンと雷が仮初の棺に納めた。
乗合馬車の御者の姿はなかった。負傷した跡はあったが…… 誰かが後送したのだろうか。
フェイトは一人、片付けの場を離れると、乗合馬車の車内を覗き込んだ。馬車は確かに乗合馬車だったが、人のいた形跡は──例えば、事故時の血痕などはその場になかった。
作業は続く。
片付けの最中、カリンは初めて巡礼という言葉を耳にして、王国の人間が持つその習慣に興味を惹かれた。
「巡礼って何の為にするの? 何かご利益があるの?」
帰って来た答えは様々だった。
「そりゃあるさ。あるに決まっている!」
「ご利益じゃない。精霊様に日頃の感謝をする為に巡るのさ」
「んー…… 観光?」
巡礼者たち自身、よく分かっていないというのが実情か。ほえー、人間も大変なのですねー、とカリンが腕を組んでうんうん頷く……
全てを片付け終わった後、修道女のシレークスを中心に犠牲者を弔った。
お付きの老婆は医者に搬送される前、「早く坊ちゃまを安全な所に!」とハンターたちに訴えたが、琉那は「手ェくらい合わせて行きよし」と坊ちゃんをその場に残らせた。
棺が下ろされ、土を被せる。最後に、秋桜が花輪を供え、クリスやマリーを初めとする巡礼者たちが祈りを捧げた。
「御者さんだけでなく、馬たちや、あの鴨嘴熊にもお祈りを捧げるのね?」
マリーの言葉に、シレークスは頷いた。
「『死』は平等── それは覚えておかねーと、ですよ、マリー」
「はいです! あのカモノハシ、可愛くないです!」
馬の死骸を貪り続ける鴨嘴熊を木々の陰から覗き込みつつ── エルフと符術師の少女、カリン(ka5456)とルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)は、テンション高めにそう感想を口にした。
人間の街にはすごい生き物が棲んでるんですね! と興奮し、握った両拳を上下にぶんぶん振り回すカリン。それを見た秋桜もまたその真似をして可愛らしく両腕を上下に振るものだから、秋桜にあってカリンにないところがふるふると揺れる、揺れる……
「いや、ここは街じゃねぇし(←ツッコミ)」
喧騒を他所に、ポツリと呟くフェイト・クレーエ(ka6127)。──そう、街じゃない。にも関わらず、乗合馬車がなぜここに?
「最高の埴輪を作る旅の途中で埴輪クラッシャー(シレークス(ka0752))に会っただけでも驚きなんだが。これで手持ちの埴輪が割れでもしたら…… いや、これ以上は『フラグ』だな」
視界の端に秋桜を置きつつ、鴨嘴熊の方を見ながら、アルト・ハーニー(ka0113)。……最近、大きいもの(いや、視界の中央の方な)に縁があるような気がする。まったく嬉しくないけどな(いや、端の方なら大歓迎だが)
「……奇遇ですね、自分もです。何か巨大な敵に祟られてるんですかね、自分……」
「わぁっ!?」
突然、木の上から声がして、アルトは驚き、仰け反った。その大声に、別の木の上で昼寝をしていた獅臣 琉那(ka6082)がピタゴラ的にびっくりして落っこちる。
「Σほ、ほえっ!? 何! 何事なん!? 歪虚でも来やはったんか!?」
落ち慣れているのか、器用に受身を取りつつ慌てて周囲を見回す琉那。驚かしてしまった事を謝りながら、最初の声の主、リアン・カーネイ(ka0267)が木の上から下りてきた。その手には双眼鏡── 木の上から事故現場の状況と、鴨嘴熊の様子を観察していたのだとリアンは言った。
「現場の周囲に人はいません。現在の所、被害はあの馬車2台のみ…… ですが、そちらのお嬢さんの話だと、負傷者を救出に行った女の人が馬車の中にいるとのことで」
お嬢さん? と怪訝に振り返ったシレークスは、えぐえぐと半泣きで立ち尽くすマリーを見て驚きの声を上げた。
「マリー?! え? じゃあ、あの馬車の中にいるっていうのは……」
瞬間、堪えきれずに泣き出し、クリスを助けてくださぁい! と飛びついてくるマリー。その背をポンポン叩きながら、シレークスは思った。──またこんな所でこんな事に巻き込まれて。あの娘もいったいどういう星の下に生まれやがったですか……
「中にまだ人がいるんですか? 邪魔なのもいますし、さて、どうしますかねー」
「まだ生きてはる人がおるんやろ? なら助けに行くわ!」
どこか芝居がかった仕草で顎を摘むフェイトの横で、痛む尻をさすりながら「当然!」といった調子で琉那が救出依頼に加わる。
「とりあえず、救助の為には、あのデカブツはこちらで対処しなけりゃならんかねぇ」
「では、誘引は任せます。あの鴨嘴熊を引き離してください。その隙に我々が馬車に取り付き、負傷者を救助します」
呟くアルトに答える狭霧 雷(ka5296)。それしかないだろうなぁ、とアルトは頷いた。
「幸い、こっちには派手な奴がいるしな」
その言葉にシレークスが「ん?」と振り返る……
「おう、そこのデカブツ! 誰に断って馬肉を貪り食ってやがりますか、あ゛ぁ゛っ゛!?」
「そうだよ! 可愛そうなお馬さんたちより、私たちの方が美味しいんだからっ!」
道路上、四つ辻に居座る鴨嘴熊の真正面──
少し離れた場所に堂々と胸を張って立ち。手にした鉄鎖(棘鉄球つき)をブンブンぶん回しながら、覚醒して黄金色に輝いたシレークスが威勢よくそう呼びかけた。
鴨嘴熊の意識を惹きつけるべく、ただでさえ目立つカラーリング(?)にこれでもかと『ソウルトーチ』を追加して、炎の様なオーラを轟々と噴出させるシレークス。
一方、秋桜も愛嬌のある身振りと手振りで鴨嘴熊の誘引を試みた。バイクに跨ったまま、ピンと美しく脚を張り、きゃる~ん♪ と笑顔で手を振りつつ、前に屈み込む秋桜。たゆんと揺れる肉の柔らかさを強調し、鴨嘴熊の食欲を刺激する……つもりらしい。本人は。……うん、『美味しそう』の意味が別の意味に変わりそうだ。──お色気むんむん。ルンルンだけに(
その間に、雷と琉那、フェイトの3人は、道を外れて畑に迂回。音を立てずに前進し、四つ辻の直ぐ側の農家の陰に取り付いた。
雷は琉那とフェイトを振り返ると、手信号で散開の指示を出した。そうしておけば、万一、鴨嘴熊に気づかれたとしても、誰かは馬車へ救助に走れる。
頷き、音もなく移動する琉那とフェイト。建物の壁に背中を貼り付けるようにしながら、そっと現場の状況を窺う……
「……動きませんね」
罵声とポージングを取り続けるシレークスと秋桜の後方、木陰から双眼鏡で鴨嘴熊の様子を窺うリアンがポツリと呟いた。獣は『餌場』から動こうとはしなかった。或いは餌を取られると警戒しているのかもしれない。
「むむむ…… 鴨嘴さんこちらー、ですよっ!」
焦れたカリンが木陰から飛び出し、鴨嘴熊の方へ騎兵銃を1発放った。チュイ~ン! とすぐ側の地面に跳弾する弾丸。鴨嘴熊が立ち上がり、威嚇の咆哮を上げる。
「もう一息……! 埴輪男、手伝いやがれです!」
「マジか」
泣く泣く四つ辻へと突進していくアルト。どどどどどど…… とまさかの魔導バイクで出て来たリアンが支援の為に小型拳銃を発砲する。
「どりゃあ!」
アルトは巨大な錨槌でガンと一回、鴨嘴熊の脚を殴ると、そのまま全速力で離脱を始めた。
「そらっ、嫌がらせをしている奴はこっちにいるんだぞ、と! やり返したいのならこっちに来やがれ!」
鴨嘴熊が動いた。そのもこっとした尻尾を地に立て、座るように体重を預け…… 直後、バネで打ち出されたピンボールの様に、その身を弾丸として突っ込んだ。
「どわあっ!」
ボーリングのピンの様に弾き飛ばされるハンターたち。肉弾と化した鴨嘴熊もただでは済まない。無様に地面を転がった後、這いつくばる様に倒れ込む。
「でかい図体の癖に小癪な手を使いやがって……!」
「あの尻尾…… いかにも何かしてきそうと思っていたとこだったのですっ!」
砂煙と喧騒と悪態が飛び舞う中、がばっと身を起こしたカリンが、鴨嘴熊へカチコミに行くシレークスに『防性強化』のマテリアルを飛ばす。
バイクに乗ったまま(ちゃっかり回避していたのだ)きゃーきゃー言って逃げ回りながら…… その実、突撃してきた鴨嘴熊の後方に回り込む秋桜。路上にキキッとバイクを止めて、2本指でえいしょっと地面に『地縛符』を貼り付ける。
「ジュゲームリリカル…… ルンルン忍法土蜘蛛の術! 場に符を仕掛けてターンエンド☆」
ハンターたちが鴨嘴熊を引きつけている間に、雷、琉那、フェイトの3人は建物の陰から飛び出した。
倒れ付した馬の死骸に、散乱する馬車の破片と残骸── わちゃくちゃになった現場を見ながら、さて、元気な方はいらっしゃいますかねー、と嘯くフェイト。全く、こんな狭い道でかっ飛ばせばどうなるかくらい、予想できないもんかねぇ?
素早く馬車に駆け寄った雷がその傍らに片膝をつき、横転した馬車の天井部をノックした。
「ハンターです。助けに来ました。怪我人の状況を教えてください」
「お年を召した女の方と、身なりの良い少年の2人がいます。共に意識はありません。応急手当はしましたが、女の人の方は何箇所か骨が折れているようです」
落ち着いた声音で車内の状況を報せるクリス。では女の人の方から搬出します、と答えながら、雷はその場に瓦礫で即席の階段を設けた。その横で、万一、鴨嘴熊が戻って来た時の為にワイヤートラップの準備を進めるフェイト。琉那がスルリと馬車の上へと上がり、負傷者の搬出の為、クリスと入れ替わりで車内へ入る。
最初に老婆を持ち上げて車外に出したところでもう一人の『お坊ちゃん』が覚醒し…… わけもわからぬままパニックになって暴れだそうとした瞬間、その口を塞ぎ、後ろ手に動きを封じる。
「暴れんよって、大人しくしとき……? 馬車は事故った。うちらは助けに来たハンターや。外には化けモンがおる。分かったらそろっと外に出るんや」
安心させるようにほわーんと微笑みかける琉那の、だが、その目は少しも笑っていない。怯えた少年がコクコク頷くのを確認してから、琉那はええ子や、と少年を解放し、馬車の上へと押し上げた。
暴れる鴨嘴熊を見て身を堅くした少年を促し、階段を下ろさせる琉那。入れ替わる様に、ワイヤーロープを手にしたフェイトが上へと上がり、ひらひらと手を振った。
「安全な所に下がっててください。私はまだやることがありますので」
さらっと言いつつフェイトは馬車の中へと入り。舌をペロリとさせながら、散乱する荷物の中から貴重品を物色する。
その間、僅か十数秒。意気揚々と馬車の上へと上がった瞬間、雷がその手首を掴んだ。
「……こういう品物は人の目に触れることによって、初めてその価値が有意なものとなるのです。死蔵するくらいなら、私が有効利用をですね……」
説得を試みるフェイトに無言で首を横に振る雷。フェイトはあはは…… と力なく笑うと、手の中の宝石を馬車の中へと落とした。
頷き、馬車から飛び降りる雷。その後方からは、鴨嘴熊が物凄い勢いでこちらに戻って来るのが見える……
鴨嘴熊が救助班の存在に気づいた。
2足でハンターたちと切り結んでいた獣は、餌を取られると思ったのか、4つ足のダッシュで急ぎ馬車の方へと戻る。
雷は琉那とフェイトに怪我人を任せると、自身は馬車の前に立ち塞がって覚醒した。その瞳を蒼く染め…… 白き竜神のオーラを纏う雷。突っ込んでくる獣に対抗すべく、硬き竜鱗のオーラを顕現させ。竜の咆哮を上げて鴨嘴熊の足止めを試みる。
そんな雷を射程に捉え、尻尾で飛翔せんとする鴨嘴熊── それが宙を舞った瞬間、琉那の『気功波』が、そして、フェイトの投げた『酒瓶』(馬車の中にあったものだ)が、空中の鴨嘴熊の顔面を直撃した。迎撃され、地面へ落ちる巨体── 次の瞬間、秋桜の仕掛けておいた『地縛符』が獣の乗る地面を液状化。纏わりついた泥が固まり、その機敏な動きを拘束する。
「ここでトラップカード、発動です! 馬車には行かせません!」
満面のドヤ顔で秋桜。更に、デッキから取り出した符を扇状に広げ、チュッと口付け。近接攻撃を担当する前衛をパワーアップすべく『地脈鳴動』の符を宙へと舞わせる。
「ジュゲームリリカル…… ルンルン忍法ニンジャパワー! 目覚めて貴方のニンジャ力☆」
張り付いた符の力を受けつつ、白銀の槍を構えたリアンがバイクのアクセルを吹かして突撃。一撃離脱で獣の傍らを通り過ぎた後、片足を軸に車輪で弧を描いて停車。挟撃態勢を取りつつ尾を狙って発砲する。
「そろそろ終いにしてやるんだぜ、と。埴輪パワー全開……! 喰らえ、渾身の一撃を!」
渾身の力を込めてぶぅんと振り上げた錨槌を、アルトは獣の頭部目掛けて思いっきり振り下ろした。腕をかざし、その一撃を受け凌ぐ鴨嘴熊。毒鉤爪が折れ砕けるも構わず獣がその身をクルリと回し。周囲へ毒液を撒き散らしつつ、その尻尾でハンターたちを薙ぎ払う。
「ひええ! 何か噴き出しました!」
ゴーグルに飛んで来た毒液を見て叫ぶカリン。尻尾に跳ね飛ばされるアルトの横で、両手に持った鉄鎖でもって獣の一撃を受けるシレークス。その膂力に弾き飛ばされつつも、その勢いを踏ん張った軸足を中心に回転エネルギーへと転換。棘付き鉄球を遠心力でぶん回し、そのまま『カウンターアタック』を叩き込む。
「我が槍よ、穿て、閃光の如く!」
そこへ、後方からリアンが白銀の槍を小脇に抱えてバイクの『チャージング』で突っ込んだ。獣の分厚い毛皮を突き破り、突き立つ穂先── 激痛に怒りの咆哮を上げて獣が四肢振り暴れ回り、反撃を受けたリアンが転倒。地面を転がりつつ受身を取る。
刺さったままのその槍に、身を起こしたアルトが取り付き、更に奥へと押し入れて…… 暴れる鴨嘴熊に背後から近づき、思いっきり腕を伸ばしてちょんと触ったカリンが、『エレクトリックショック』を通電させた。バチンッという音と共に吼える獣に驚いてピューッと逃げ出すカリン。いえ、ヒット&アウェイです! 決してびびったわけではないのです!
焦げ臭い臭いと共に倒れ付す鴨嘴熊。そして、そのまま動かなくなる。
「こっ、これが私の虎のお子さんなのです。びりびりー! なのです」
恐る恐る近づいてその沈黙を確認したカリンを見やり、秋桜がおおーっ! と感心しつつパチパチと手を鳴らした。
●
「さらば、我が愛しき埴輪よ。お前の犠牲は忘れない……!」
戦闘後。残骸や死骸を片付け始めた四つ辻で── アルトは、まるで身代わりの如く服の下で砕けた埴輪の亡骸(残骸)を、四つ辻の傍らに埋めた。
作業には、その場にいた巡礼者たちも加わった。事故時に亡くなっていた貴族の馬車の御者だけは、最初にリアンと雷が仮初の棺に納めた。
乗合馬車の御者の姿はなかった。負傷した跡はあったが…… 誰かが後送したのだろうか。
フェイトは一人、片付けの場を離れると、乗合馬車の車内を覗き込んだ。馬車は確かに乗合馬車だったが、人のいた形跡は──例えば、事故時の血痕などはその場になかった。
作業は続く。
片付けの最中、カリンは初めて巡礼という言葉を耳にして、王国の人間が持つその習慣に興味を惹かれた。
「巡礼って何の為にするの? 何かご利益があるの?」
帰って来た答えは様々だった。
「そりゃあるさ。あるに決まっている!」
「ご利益じゃない。精霊様に日頃の感謝をする為に巡るのさ」
「んー…… 観光?」
巡礼者たち自身、よく分かっていないというのが実情か。ほえー、人間も大変なのですねー、とカリンが腕を組んでうんうん頷く……
全てを片付け終わった後、修道女のシレークスを中心に犠牲者を弔った。
お付きの老婆は医者に搬送される前、「早く坊ちゃまを安全な所に!」とハンターたちに訴えたが、琉那は「手ェくらい合わせて行きよし」と坊ちゃんをその場に残らせた。
棺が下ろされ、土を被せる。最後に、秋桜が花輪を供え、クリスやマリーを初めとする巡礼者たちが祈りを捧げた。
「御者さんだけでなく、馬たちや、あの鴨嘴熊にもお祈りを捧げるのね?」
マリーの言葉に、シレークスは頷いた。
「『死』は平等── それは覚えておかねーと、ですよ、マリー」
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
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面白かった! | 6人 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/02/16 02:24:59 |
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相談所 フェイト・クレーエ(ka6127) 人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2016/02/19 08:38:33 |