前門のスライム、後門もスライム

マスター:cr

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/08/17 22:00
完成日
2014/08/23 23:43

みんなの思い出

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オープニング

●古代遺跡
 歪みひとつ無い真っ直ぐな灰色の壁が続く。もうすでに作られてから遥かな時間が経っているだろうに塵ひとつ落ちておらず、作られた当時の光景をそのまま残している。
 君たちハンターは冒険都市・リゼリオの近くに存在する古代遺跡の調査、という内容の依頼を請け負った。早速遺跡に向かい内部に潜入、幾何学的に広がる通路を前後左右に歩き回り遺跡全体を一通り巡って今に至る。
 結果は空振りと言ってもいいだろう。もう全て盗掘にあった後なのか、めぼしい品物もかつての歴史を示す資料も存在しない。しいて言うならこの遺跡そのものが古代の技術の高さを表していると言えるが、それぐらいだ。
 何にせよ、依頼の内容は完了した。後はハンターオフィスに戻り、何もなかったと言うことを報告すればそれで完了だ。遺跡から外に出るため、通路の角を曲がった時だった。

●透明なそれ
 その先には同じような通路が続いていた。しかし変わらない風景が続いていたわけではなかった。なぜなら通路の真ん中に一本の剣が浮いていたからである。
 その剣はゆっくりとこちらに近づいてくる。魔法的な罠なのだろうか、それとも何か。目を凝らして見て、そして理解した。
 そこに居たのは透明なゼラチン質の立方体。スライムの一種が、残されていた剣を体内に取り込んだその姿であった。

●遺跡の掃除人
 これでこの遺跡に塵ひとつ無かった理由がわかる。このスライムが遺跡のゴミを体内に取り込んで消化し、掃除していたのだろう。このスライムが古代に作られたこの遺跡のシステムなのか、それとも何かは想像するしかない。ただ一つ分かることは、このままでは君たちもゴミとして扱われスライムの中に取り込まれるであろうことだ。
 無闇に戦う必要は無い、そう思って後ろを振り向く。そこにいたのはバラバラになって空中に浮いている骸骨の姿。骨は端からゆっくりと溶けていきながら、こちらに近づいてくる。そう、そこにはもう一体のスライムが居た。取り込まれるとどうなるか、を示しながら――。
 もはや残された手段は一つしかない。すなわちこのスライムを倒し、遺跡から脱出する。
 危機一髪のところを乗り越えた冒険物語の主役になるか、それとも哀れな遺跡のゴミになるか。君たちハンターの戦いが始まった。

リプレイ本文

●残り40m
「うわぁ、はさまれたのっ……」
 ハンター達が状況を理解したのは、エルレーン(ka1020)のその言葉を聞いたときだった。
 彼らハンターは冒険都市・リゼリオの近くに存在する古代遺跡の調査、という内容の依頼を請け負った。遺跡を隅々まで歩き、あとは帰るだけ、そのはずだった。
 しかし奴らは居た。一体はハンター達の目の前10メートル。もう一体は、ハンター達の右30メートル。
「っていうかどっから湧いてきたんだ?」
 鈴胆 奈月(ka2802)が思わず疑問を口にする。目の前に居るのはスライムと呼ばれるそれ。しかし、今でも目を凝らさないとスライムが存在していることがよく分からない、その透明度のせいで気付かなかったのか、ハンター達が見落とした通路に隠れていたのか、それとも魔法的な装置で出現したのか。今は知る由も無いし、その前にやらなければならないことがある。すなわちこの状況からの脱出だ。
「これがスライムかあ。初めて見るや」
「スライムってのはもっとこう、ちっちぇのかと思ってたぜ……」
 神原 菫(ka0193)はそう言葉を漏らし、立守 円(ka1992)も答える。立守の言う通り、このスライムはあまりにも大きかった。4メートル四方の正方形の通路にピッタリと収まるサイズ。恐らく奥行きも同じだけあるのだろう。ハンター達を遥かに上回る大きさのそれがスライムだとわかるのは、ふるふると体を揺らしながらゆっくり、ゆっくりと接近してきた。
 その様なスライムの様子を見て、リーリア・バックフィード(ka0873)はこのスライムを遺跡に仕掛けられた装置と判断したのだろうか。
「斬新なシステムですが侵入者に優しくないですね」
 そう話す。彼女の言うとおり、かつてこの古代遺跡を作り出した者が設置した警備システムなのかもしれないし、もしかすると自動で遺跡を清掃するためのシステムかもしれない。どちらなのかは今は知る由も無い。それはこれから調べる事になるだろう。唯一つ確かな事は、自分達が異物として扱われている事だ。
「はあ、あれが全部ゼリーだったらいいのにね……なんてこと言ってられないか」
 小柄な体格の黒髪の少女、ティアナ・アナスタシア(ka0546)はそうつぶやくと集中する。
 次の瞬間、ティアナの髪は白く染まった。

●残り32m
「面妖なやつ、我が閃光で滅してやろう! ホーリーライト!」
 覚醒し、髪が白く染まったティアナは口調まで変わっていた。手にした聖印が取り付けられたメイスから光弾が飛び、ハンター達の正面に居るスライムに吸い込まれていく。光はスライムの体内に入っていき、スーっと消えた。透明度の高いスライム故、敵に打ち込まれた光弾がどのように変化するかが良く見える。
「正面の敵から迅速に切り伏せましょう。二正面作戦は愚の骨頂です」
 続けて、リーリアが短く指示を出すとフラメアを構えスライムに突進する。もちろん無意味に取り込まれるわけではない。フラメアの間合いを最大限に生かせる位置を取ると、透明なスライムの体目掛けフラメアを突き出す。
 だが手ごたえが無い。敵を突き刺したという感触が無い。水に石を投げたときのように、スライムの体に波紋が広がると、体の先の光景が屈折し波打つ。ややあって波が消え、スライムに何かが起こったような反応は無い。
「この程度の逆境、慣れ親しんだものです」
 自分の攻撃が効果が薄い事はある意味想定通り。ここで落ち込んでいる場合ではない。リーリアには別にやるべき事があるのだ。そう、前に立ち、スライムの注意を引きつけることだ。リーリアは派手に動き、スライムの注意をひきつけようとする。
 誰かが矢面に立ってくれれば後ろに居る人間は安心して攻撃を行える。後ろに立っていた鈴胆が銃を構え、短い銛型の弾を放つ。放たれたそれはスライムの体内に食い込む。体内の奥深いところまで入っていきながら、貫くことなく勢いをとめると弾はゆっくりと溶けていく。
「掃除されるとか御免だ」
 もし自分がスライムの体内に取り込まれたら……その結果を嫌と言うほど見せてくれた銃弾に対する反応に、鈴胆はゴクリと唾を飲み込んだ。
「うん、取り込まれて、消化されるってのは遠慮したいかな」
 神原 菫(ka0193)もティアナと同じようにスタッフを構えると、法術を行使する。菫はこの世界、クリムゾンウェストの人間ではない。リアルブルーから転移して来た者だ。だから彼女は神への信仰ではなく、ひたむきに生きようとする人々の心こそを信仰の対象として法術を行使する。
 スタッフから放たれた光弾は、ティアナが放ったときと同じようにスライムの体内に入っていく。中で放たれる光がスライムの体内で屈折し、スライムの体全体が光り輝く。
 一方エルレーンはなにやら作業をしていた。
 エルレーンは手にした手裏剣にボロ布を巻きつけるとウィスキーを掛ける。
「わ、私が飲むんじゃないよっ」
 言い訳するかのようにつぶやきながら一通り染み込ませ終えた。エルレーンは目の前で、刺突を受けたスライムがどういう反応を示すのか見た。おそらく、物理攻撃はあまり効果が無い。となるとただの手裏剣も効果が薄いだろう。
「じゅんび、おっけぇ」
 そう考えたエルレーンは炎の手裏剣を作り出して攻撃する事を試みようとしていた。
 そんなエルレーンの様子を一番後ろで見ていた立守は、横目で右側の通路を進んでくるスライムの様子をうかがう。前方のスライムを倒すのが最優先だが、横にいるスライムが近づいてきたらそれを抑えなければならない。そこで立守も銃を構えたまま、持っていたウィスキーの瓶を右側の通路に放り投げる。パリンと瓶が割れ、中身が通路に撒き散らされる。これでウィスキーに引火させられれば、スライムの足止めになるのではないか、それを期待した立守の行動だった。

●残り24m
 ハンター達の抵抗にも関わらず、スライムが動きを止める様子は無い。にじり寄ってくるスライムに対し、後ろに退くしか方法は無い。最初に見つけたときは10メートルほどあったスライムまでの距離は、もう目と鼻の先といってもいい距離になっていた。
「撃つぜっ!」
 立守は声を上げて、構えた銃の引き金を引く。発射された弾丸は一直線に飛びスライムの体内に入っていく。そのまま弾は突き抜けるとスライムの後ろ側の闇の中に消えていった。立守の一撃を受けて激しくその体を揺らすスライム。
「無駄に綺麗な透明度だな……」
 一方鈴胆はLEDライトでスライムの体を照らしながら、先ほどの自分達の攻撃を思い返していた。どうも物理攻撃より魔法攻撃の方が高い威力を示すようだ。それならば、とデバイスを起動させると、LEDライトの先からマテリアルを変換したエネルギーの光を放つ。光はスライムの体内を通り抜け、大きな衝撃を与えたのかその体を揺り動かす。
「ホーリーライト、いくよ! 射線に注意して!」
 菫が叫ぶ。その言葉を聞いて、エルレーンは通路に腹ばいに寝転がる。エルレーンが腹ばいになるのはリーリアのさらに前、全員の中で最もスライムに近い位置だ。頭上を菫とティアナが放った光弾が飛び、同時に命中する。まさに目の前でスライムの体が揺れ動くのがわかる。
「こわいよぅこわいよぅ」
 エルレーンは半泣きになりながらも、狙いを定め松明を構える。
 巨大なスライムに対抗すべく考え出されたハンター達の攻撃を受けてなお、スライムは動きを止めない。ゆらゆらとゆれていたスライムは突然その体を崩し、前に『流れる』。
「液体生物の前動作は読み辛いですね」
 突然のスライムの動きに一瞬戸惑いながらも、リーリアとエルレーンは取り込まれるのを避けてみせた。

●残り12m
 だが、再び体を構成したスライムはただその体が存在するだけでハンター達を後退させる。気付けば最初にスライムを発見した角は、もはやそのスライムに占拠されていた。スライム同士が正対し、間にハンター達が挟まれている。状況はいよいよもって後が無い。
「くらえーっ!」
 ここで手裏剣に炎をまとわせたエルレーンが、その手裏剣を投げつける。手裏剣はスライムの体を捉える。燃え上がっていた炎は一瞬で消化されるが、当たったところはまるで水が沸騰するかのように泡を立て、湯気を立ち上らせている。
「こっちは抑えとくからそっちは頼んだぜ!」
 立守はエルレーンが手裏剣に火をつけた松明の一本を取ると、後ろに投げる。二対のスライムの距離が縮まったことによって、ハンター達の隊列も縮まり、結果的に立守の位置からエルレーンまでも数メートル程度になっていた。
 投げられた松明は撒かれていたウィスキーに引火し、青白い炎を通路一杯に立ち上らせる。これで通路を進むことは一旦出来なくなった。だが、もう一方のスライムに来られてしまってはもうどうしようもない。ならば少しでもスライムにダメージを与え、完全に挟み込まれ、取り込まれるのを遅らせる必要がある。
 最初は離れていたスライムも、随分と近づいてきていた。ぷるぷると震えながらスライムはその体を進め、ゆっくりと炎の立ち上った通路に近づいてくる。スライムの体は炎にあぶられぶくぶくと音を立てて泡立つ。その音を聞いてか、菫が連れて来ていたドーベルマンが吠え立てる。
 その鳴き声を聞いて、菫はもはや残された猶予が少ない事を悟った。菫は最初、攻撃をしつつ傷ついた者が居ればその傷を癒す事を考えていた。だがもうそんな余裕は残されていない。ひたすら攻撃をして目の前のスライムを倒す、その覚悟を決め、もう一度光弾を放つ。菫が放った光弾はスライムの体を穿ち穴を開ける。穴は一瞬開いただけで、すぐに閉じられたが、少なくとも最初とは随分違う。スライムだって傷ついていないわけではない、そう思うことで、再び障害に立ち向かう勇気が不思議と湧いてきたのだった。
 菫の攻撃で、一瞬とはいえスライムの体に穴が空いたことを目撃したリーリアは、ここに置いて自分の戦い方を決める。リーリアは魔力適正が低く、今は魔法を放つことは出来ない。どうやらこのスライムは物理攻撃に対して耐性があるようだ。となると明らかに不利なのは自分だ。だが、ここに居るのは自分ひとりではない。
「窮鼠猫を噛む。追い詰められたのは誰でしょう?」
 マテリアルを全身に巡らせたリーリアは、下から上へ切り裂くようにフラメアを使う。リーリアの鋭い斬撃に、スライムはその体に大きな割れ目を作る。ある意味綺麗とも言えた立方体の形状だったスライムは、今本来の不定形の姿に変わろうとしていた。割れ目はすぐに塞がり始める。だが、そこに鈴胆の機動砲が貫き、割れ目を押し広げる。そして続けて飛び込むティアナの光弾。
「接近戦は得意ではないのだがな、我が直々に手を下してくれるわ!」
 三人の連携攻撃を受け、スライムの肉体に今ぽっかりと大きな穴が開いた。すぐさま塞がり始める穴。だが、ハンター達が与え続けたダメージによってスライムはもはやその肉体を維持する事が困難になってきたらしい、ドロドロとした透明なゲル状のものが、塞がってく穴から漏れ出し、前に立つリーリアとエルレーンを襲う。
「うっうっ、うねうねきもちわるいよぅ」
 涙目でそう訴えつつもスライムの反撃をかわすエルレーン。リーリアも立体的な動きでゲルをかわし着地する。
 そんな中でもただプログラミングされたかのように、ハンター達に近づくスライム。ハンター達に残されたスペースはわずか4m四方の立方体、つまりスライムの肉体と同じ量になっていた。

●残り……
 崩れかけたスライムの体に、ハンター達の最後の攻撃が飛ぶ。
 もう一度伏せたエルレーンが炎の手裏剣を投げつけ、立守が銃を撃つ。
 リーリアがスライムを切り裂き、そこに鈴胆が一条の光を放つ。
「なかなかのタフさだ。だがしかしこれで終わりにしてくれる!」
 菫がホーリーライトを撃ちこみ、最後にティアナがホーリーライトを打ち込む。
 ハンター達の一気呵成の攻めを受け、スライムの表面はズタズタに切り裂かれていた。数多くの裂け目によって、かつては立方体だったスライムももはや原型をとどめていなかった。半ば不定形と化したスライムは、それでもなお体をうごめかせ、ハンター達に覆いかぶさろうとしてくる。
 そのときだった。最初はスライムの裂け目に出来た角が丸みを帯びてなくなっていった。その次に上のほうから、ゆっくりと肉体が溶けはじめた。次の瞬間、スライムの直線的な表面が消え去り、溶解した肉体は液体となって遺跡の床を塗らしていった……。

●事後処理
 片側のスライムを倒して時間制限が無くなれば、もはやハンターがスライムに負ける要素は無い。激しい戦いで疲弊しながらも、ハンター達はありったけの攻撃を撃ちこみもう一つのスライムも討ち滅ぼす。
 終わってみればそこに広がるのは最初と同じ、真っ直ぐな灰色の壁、そして通路。塗れた床に二つのものが残っている。一本の剣と、人間の骸。
「これはハンターオフィスに提出しよう。身元の分かるような遺品などであれば、縁者に渡してもらったりできると嬉しいな 」
 剣を手にした菫がそう語る。
「ええ、そのためにも薄暗い遺跡から速く出ましょうか。液体生物は飛び散るので服が汚れて最悪ですよ」
 やれやれといった感じでそう返したリーリアが肩をすくめる。
「ああ、さっさと外に出てその辺の酒場で一杯と行こうぜ」
 立守も同意する。他の者達も考えることは同じだろう。もうこの遺跡にいる必要は無い。しばらく歩くと、外の光が見えてきた。
 正式に供養しようと骨を拾ってきたリーリアは、外の光を浴びながら供養の言葉をつぶやいていた。
「日の光の下で心穏やかに眠りなさい……」

依頼結果

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MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 辺境調査員
    神原 菫(ka0193
    人間(蒼)|15才|女性|聖導士
  • ホワイト・ライト
    ティアナ・アナスタシア(ka0546
    人間(紅)|15才|女性|聖導士
  • ノブリスオブリージュ
    リーリア・バックフィード(ka0873
    人間(紅)|17才|女性|疾影士
  • ぽわわんはわわん
    エルレーン(ka1020
    人間(紅)|14才|女性|疾影士

  • 立守 円(ka1992
    人間(蒼)|25才|男性|闘狩人
  • 生身が強いです
    鈴胆 奈月(ka2802
    人間(蒼)|18才|男性|機導師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/08/13 08:24:58
アイコン 相談卓
リーリア・バックフィード(ka0873
人間(クリムゾンウェスト)|17才|女性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2014/08/16 20:54:08