ゲスト
(ka0000)
【深棲】消えた荷物を追え!
マスター:樹シロカ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/08/18 12:00
- 完成日
- 2014/08/27 14:28
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●面倒な事態
農業推奨地域ジェオルジの領主執務室。大きな窓から見える青い夏空は、とても美しかった。
だがセスト・ジェオルジ(kz0034)は深刻な顔で執務机に向かい、顎をつまむように左手を添えている。
これは何かを考えこんでいる時の彼の癖である。
彼の前には幾つかの書類や手紙の類が広げられていた。
突然、ノックの音が響く。
返事をするより先にドアが開き、明るくよく通る声が響き渡った。
「セスト、お母様がお茶にいらっしゃいって!」
母親かと思えば、姉のルイーザであった。この2人、行動パターンが実によく似ている。
「姉上……お帰りでしたか」
ルイーザは現在のジェオルジ家で唯一の覚醒者であり、現役のハンターだ。
元々外で動き回るのが性に合うとかで、家を長く空けることも多い。
「なあに、相変わらず眉間に皺を寄せてるの?」
セストは自分と顔立ちこそ似ているが、全く様子の違う快活なルイーザの笑顔を少し眩しいと感じる。
だがいつも通りの淡々とした口調は変わらない。
「ええ、少し面倒なことになりましたので」
セストはかいつまんでルイーザに事情を説明する。
同盟の南方に現れた歪虚達に対応する為に、現在同盟には各国の支援部隊が集まっている。
それは有難いことなのだが、人が集まれば大量の物資が必要になる。特に食糧が不足すれば深刻な問題を引き起こしかねない。
そこでジェオルジからも、普段より多くの農作物を出荷しているのだが、最近その荷物が依頼主に約束通り届かないことがあるというのだ。
当然、出荷の時点ではきちんと確認している。そして先方にその量が届いていないのも事実なのだ。
となると、考えられるのは途中での横流しである。
セストは色々な手段を用いて、その犯人を探っているところだった。
説明を聞いたルイーザが腰に手を当てて仁王立ちする。
「そんなの簡単じゃない。怪しい奴に片っ端から確認すればいいのよ」
当然、拳で。目がそう言っていた。
「……」
セストは普段通りの無表情を崩さないままに姉の顔を見る。
今日もルイーザの身につけている衣服は華麗だった。大きく開けた胸元に少しずつ色の違うレースを重ねたドレスは、極彩色の街ヴァリオスで最近流行しているデザインだ。セストも付き合いで参加したヴァリオスの夜会で、何人もそういう女性を見ている。
だが残念ながらジェオルジでは夜会は開かれない。当然ルイーザも分かっている。単に素敵だと思ったから着ている、それだけだ。
……それにしても。
(あの赤い大きな羽根飾りをつけて外を歩いて、雄牛が突っ込んで来ないのだろうか……)
そう思ったが、良く考えればルイーザなら雄牛にだって勝てるだろう。
セストは僅かな時間でここまで思考を巡らせ、小さく息をついた。
「ちょっと何よ。何か言いたい事があるならはっきり言いなさいよ」
ルイーザが弟を軽く睨む。
「いえ。もしそういう方法が必要なら姉上にお任せします。今回は下手に騒ぎたてて、折角の取引先の機嫌を損ねたくありませんので」
「まあいいわ。領主は貴方なのだもの。頑張んなさいね」
ルイーザは踵を返し、ひらひらと手を振りながら部屋を出て行った。
●囮捜査
ジェオルジ領主の館の一室に、ハンターたちは集められていた。
依頼主が現れるまでお茶を飲みながら待っていると、ひょいと派手な身なりの女が顔を覗かせる。
「あら、御苦労さま!」
女はルイーザ・ジェオルジと名乗った。自分もハンターだという。
「今回は弟をよろしくね。と、ごめんなさい、失礼するわ!」
悪戯っ子のように片目をつぶると、ルイーザは急いで出て行った。
何事かとハンターたちが見送っていると、入れ違いに依頼主のセストが部屋に入って来る。
セストは軽く会釈すると、淡々と用件を切り出した。
「ご足労いただきまして誠に有難うございます。早速、お願いしたい件についてなのですが……」
これまでに調査した結果、依頼した輸送業者が買収されていたらしいことまでは分かった。そこで業者を変えたのだが、また次の業者も気がつけば買収されてしまっていたのだ。
どうやら相手は言葉巧みに接触してきては、すぐにはばれない量を少しずつ横流しさせているらしい。例えば馬車ごとにトウモロコシを一袋だけ、などという具合である。
だがその後、抜き取られた荷物が市場に出回っている形跡はない。
穀物の値上がりを待っているのか、あるいは別の目的があるのか……。
「そこで今回、囮の荷物を出そうと思うのです。僕も同行します。皆様には万一の場合に備えて、護衛をお願い致します」
領主の同行前提。つまり彼がいつものきちんとした格好ではなく、すこしくたびれた服装をしているのはその為であったらしい。
農業推奨地域ジェオルジの領主執務室。大きな窓から見える青い夏空は、とても美しかった。
だがセスト・ジェオルジ(kz0034)は深刻な顔で執務机に向かい、顎をつまむように左手を添えている。
これは何かを考えこんでいる時の彼の癖である。
彼の前には幾つかの書類や手紙の類が広げられていた。
突然、ノックの音が響く。
返事をするより先にドアが開き、明るくよく通る声が響き渡った。
「セスト、お母様がお茶にいらっしゃいって!」
母親かと思えば、姉のルイーザであった。この2人、行動パターンが実によく似ている。
「姉上……お帰りでしたか」
ルイーザは現在のジェオルジ家で唯一の覚醒者であり、現役のハンターだ。
元々外で動き回るのが性に合うとかで、家を長く空けることも多い。
「なあに、相変わらず眉間に皺を寄せてるの?」
セストは自分と顔立ちこそ似ているが、全く様子の違う快活なルイーザの笑顔を少し眩しいと感じる。
だがいつも通りの淡々とした口調は変わらない。
「ええ、少し面倒なことになりましたので」
セストはかいつまんでルイーザに事情を説明する。
同盟の南方に現れた歪虚達に対応する為に、現在同盟には各国の支援部隊が集まっている。
それは有難いことなのだが、人が集まれば大量の物資が必要になる。特に食糧が不足すれば深刻な問題を引き起こしかねない。
そこでジェオルジからも、普段より多くの農作物を出荷しているのだが、最近その荷物が依頼主に約束通り届かないことがあるというのだ。
当然、出荷の時点ではきちんと確認している。そして先方にその量が届いていないのも事実なのだ。
となると、考えられるのは途中での横流しである。
セストは色々な手段を用いて、その犯人を探っているところだった。
説明を聞いたルイーザが腰に手を当てて仁王立ちする。
「そんなの簡単じゃない。怪しい奴に片っ端から確認すればいいのよ」
当然、拳で。目がそう言っていた。
「……」
セストは普段通りの無表情を崩さないままに姉の顔を見る。
今日もルイーザの身につけている衣服は華麗だった。大きく開けた胸元に少しずつ色の違うレースを重ねたドレスは、極彩色の街ヴァリオスで最近流行しているデザインだ。セストも付き合いで参加したヴァリオスの夜会で、何人もそういう女性を見ている。
だが残念ながらジェオルジでは夜会は開かれない。当然ルイーザも分かっている。単に素敵だと思ったから着ている、それだけだ。
……それにしても。
(あの赤い大きな羽根飾りをつけて外を歩いて、雄牛が突っ込んで来ないのだろうか……)
そう思ったが、良く考えればルイーザなら雄牛にだって勝てるだろう。
セストは僅かな時間でここまで思考を巡らせ、小さく息をついた。
「ちょっと何よ。何か言いたい事があるならはっきり言いなさいよ」
ルイーザが弟を軽く睨む。
「いえ。もしそういう方法が必要なら姉上にお任せします。今回は下手に騒ぎたてて、折角の取引先の機嫌を損ねたくありませんので」
「まあいいわ。領主は貴方なのだもの。頑張んなさいね」
ルイーザは踵を返し、ひらひらと手を振りながら部屋を出て行った。
●囮捜査
ジェオルジ領主の館の一室に、ハンターたちは集められていた。
依頼主が現れるまでお茶を飲みながら待っていると、ひょいと派手な身なりの女が顔を覗かせる。
「あら、御苦労さま!」
女はルイーザ・ジェオルジと名乗った。自分もハンターだという。
「今回は弟をよろしくね。と、ごめんなさい、失礼するわ!」
悪戯っ子のように片目をつぶると、ルイーザは急いで出て行った。
何事かとハンターたちが見送っていると、入れ違いに依頼主のセストが部屋に入って来る。
セストは軽く会釈すると、淡々と用件を切り出した。
「ご足労いただきまして誠に有難うございます。早速、お願いしたい件についてなのですが……」
これまでに調査した結果、依頼した輸送業者が買収されていたらしいことまでは分かった。そこで業者を変えたのだが、また次の業者も気がつけば買収されてしまっていたのだ。
どうやら相手は言葉巧みに接触してきては、すぐにはばれない量を少しずつ横流しさせているらしい。例えば馬車ごとにトウモロコシを一袋だけ、などという具合である。
だがその後、抜き取られた荷物が市場に出回っている形跡はない。
穀物の値上がりを待っているのか、あるいは別の目的があるのか……。
「そこで今回、囮の荷物を出そうと思うのです。僕も同行します。皆様には万一の場合に備えて、護衛をお願い致します」
領主の同行前提。つまり彼がいつものきちんとした格好ではなく、すこしくたびれた服装をしているのはその為であったらしい。
リプレイ本文
●
応接室に姿を見せた雇い主に、朱華(ka0841)が片手を差し出した。
「朱華という。どうぞ、宜しく」
「こちらこそ。宜しくお願い致します」
余り表情を崩さないタイプ同士、セスト・ジェオルジ(kz0034)も淡々と挨拶を返す。
「ではまず、普段の輸送ルートを確認しておきたいのだが」
卓上に地図が広げられた。
すすめられたお茶を一口すすり、コルネ(ka0207)が口を開く。
「それから、今まで取られたものの種類と量、ですわね?」
眼鏡の奥で、聡明そうな青い瞳が輝く。
キャラバンに属するコルネにとって荷物の横流しは許し難い行為だ。何としても犯人を捕まえねばならない。
「そうですね……」
セストは尋ねられた事に簡潔に答える。ルーキフェル・ハーツ(ka1064)はそれを聞きながら、もっともらしく頷いた。
「荷物は売られてないみたいですかお? じゃー大事にとってあるんですおね!」
「恐らくはそうだと思います」
「おいしいお肉でも、生とかは大事にとってたら腐っちゃうお……だから相手は腐らないものだけ持っていくんですかお? すおいお、頭いいお!」
だがエーミ・エーテルクラフト(ka2225)には、犯人が頭がいいとは思えなかった。
「横流しされた量と買収の額って見合うの? 戦争があれば食糧は値上がりするとはいえ、海上輸送が駄目で陸路に流れているのだもの。余程の量でなくては見合わないわよね?」
エーミの疑問に、セストも首を横に振った。
「おっしゃる通りです。だから余計に不思議なのです」
ルトガー・レイヴンルフト(ka1847)も腕組みして唸る。
「金を払ってまで、輸送業者に訴えられるリスクを犯して、少量のみ横流し……あり得んな」
「つまり取引先は白、と見ていいだろう」
ヴァージル・チェンバレン(ka1989)が後を続けた。
消えた荷物の量には輸送業者を買収するだけの価値もない。それにもしそんなことが明らかになれば、取引先自身の信用に関わるだろう。商人ならそんな無駄なことは考えないはずだ。
「私の推測が正しければ」
控え目な口調ながら、ニャンゴ・ニャンゴ(ka1590)は言い切った。
「一連の事件の犯人は、保存食むしゃむしゃ団の仕業に違いありません」
「むしゃむしゃ団……?」
一同が怪訝な顔でニャンゴを見る。
「腹が空いたけれども食べるものが何もない……買いに行くのも手間だし店も閉まっている。仕方がない、蓄えておいた干し肉、堅パン、漬物その他を食べてしまおう。そして食べ尽くしてしまって有事の際に困ってしまう。それが保存食むしゃむしゃ団です」
冗談なのか、本気なのか。
「彼らの活動が活発になれば、深刻な食糧不足に陥るのは必然。故に止めなければなりません。この身と引き換えにしても暴食の時代に終止符を打たなければならないのです」
真面目に語るニャンゴの思惑は、判断が難しい。
というわけでディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)は面倒くさくなった。
「犯人の意図はわからぬが……」
なら捕まえてしまえばいいのだ。それに大王たる者、民の困っていることを見過ごすわけにはいかぬ。
「民を脅かす良からぬ事であれば一大事である。さあ皆の者! 必ずや隠された企みを暴くのだ!」
ディアドラは掌で力強く地図を叩いた。
●
「推測だけじゃ解決しないしな、囮になって犯人を迎え撃つとするか」
ルトガーの考えは皆と同じだった。
用意した馬車は二台。一台には輸送業者役のセスト、コルネ、エーミが乗り込んだ。
「御者は慣れていますわ、お任せくださいね?」
コルネが馬の頬を優しく撫でる。
もう一台にはルトガーとディアドラ、ルーキフェルが乗り込む。
「セストをお助けしますお!」
ルーキフェルは麻袋にくるんだ武器を荷台の床に置き、その上にちょこんと座った。エルフの耳は、バンダナで覆った上から帽子をかぶって隠している。
「おとーさん、これでいいですかお!」
「おお、上手いな。よし、こちらはいつでも行けるぞ」
軽装のルトガーが御者台に座る。
朱華とニャンゴ、ヴァージルはそれぞれが単騎で囮の馬車を見張る役割である。
朱華が手持ちのトランシーバーをセストに差し出した。
「使い方は、分かるか?」
「有難うございます。お借りします」
「では先に行く。何か異変があれば知らせる」
軽く片手を上げ、朱華は愛馬の首を巡らせる。
エーミは含み笑いでセストを頭の先から足の先まで眺めた。
「何でしょうか、エーミ殿」
以前の依頼で世話になり、エーミがちゃんと仕事することはセストにも分かっている。だが、どうも調子が狂う相手だ。
「努力は認めるけど、やっぱりあんまり業者には見えないのよね」
エーミはそう言ってぐっと顔を近づける。
「ほら、例えばこんな風に窮屈にしている業者なんかいないわよ」
くすくす笑いながら、セストの襟元に手をかけて開いた。セストは憮然として僅かに顔をそむけている。
「後はそうね、領主様って呼んだら変装が台無しかしら。セスト、いえ、セスって呼ばせて貰うわね」
「……お好きにどうぞ」
「私のこともエーミって呼ばなくちゃ駄目よ?」
「はい?」
ここぞとばかりにセストを玩具にしているのは明白だ。ヴァージルは馬上からその様子を楽しそうに眺めていた。
「お二人さん、若夫婦みたいだな」
「はい?」
振り向いたセストの顔から一切の表情が消えていた。
「おや、領主サマはこんな美人が相手で嬉しくないのか」
「そういう問題ではありません」
固い表情のままで馬車に乗り込むセストを見送り、ヴァージルが肩をすくめる。
「女性が苦手……? それは人生の半分を損しているかもなぁ……」
●
街道をのんびりと進む馬車に揺られ、エーミが尋ねた。
「ねえ、河川輸送と陸上輸送って今、活発なの?」
「そうですね。ですが船に替わる程の輸送力は確保できていないと思います」
「じゃあ、馬が足りないってこともあるのかしら」
食糧は人間だけが食べる物ではない。飼料目的の可能性もあるのではないか?
その考えを遮るように、魔導短伝話が鳴った。
相手はディアドラだ。連絡を取るというよりは、会話を聞かせる目的である。
ルトガーが快活に笑う。
「ハハハ、三人とも顔が似てない? 前妻との子供と、後妻の連れ子だよ! 可愛い子たちだろう」
「お、お父さん、この人達なんなの?」
ディアドラは普段の自信満々の様子はどこへやら、ルトガーの袖を掴み、気弱な子供を演じる。
(フフフ……大王たるボクの完璧な変装だ。ばれることはあるまい!)
確かに、セストよりはかなり上手く化けている。
「心配するな、父さんはお仕事の話をしてるだけだからな」
その話の内容とは。
「なあ、続きはそこの茶店でゆっくりどうだ? とにかく悪いようにはしないぜ」
ルトガーは表情の読み取りにくい薄笑いで、相手の男の話に応じていた。
今回抱いていた懸念の一つが、ジェオルジの評判を敢えて落とすという企みだった。それなら普通の商人には声をかけないのではないか。
そう思っていたのだが。
熱心に話しかけて来る男は、本気で馬車の荷物を丸ごと売って欲しいらしい。馬車にはジェオルジ領主との関わりを示すような物は乗せてない。
結局値段が合わないなどと理由をつけて話を切り上げたが、すぐにそれを待っていたように別の男が近づいてくる始末だ。
「というわけなのである! 丸ごと売ってくれという話ばかりで、少しずつ横流しなどという提案はしてこぬのだ!」
「そう。じゃあもう少し様子を見ないとね」
エーミが短伝話に答えるのを聞きながら、コルネが一瞬、怪訝そうな表情を浮かべた。
「どうしましたか」
「あ、いいえ。あんなところで何かしら、と思っただけですわ?」
コルネが目くばせした先には大きな木があり、その陰から通り過ぎる馬車を伺う人影があった。
「女の人みたいね」
フードを押さえる手を見て、エーミが呟く。
「ねえセス、街が近いのかしら?」
「そうですね、もう暫く行くと宿場町のはずです」
それにしてもこんな所で何をしているのか……気にかかるものはあるが、そのまま馬車は通り過ぎる。
●
ディアドラがルトガーの服の裾を引っ張った。
「あんな所に人がおるのだ。何をしているのであろうな?」
旅人が踏みしめる街道沿いは、見渡す限り灌木や背の高い草が覆い尽くしている。そこに一本の大きな木が生えていた。
と思うや否や、その陰から飛び出した人影が、馬車の前方に倒れ込んでくるではないか。
「とと、危ない!」
ルトガーは急いで手綱を引くと、御者台から滑り降りた。
「何やってんだあんた、怪我はないか?」
「す、すみません……」
若い女だった。被っていたフードを除けると、頼りなげな視線がルトガーを見つめる。
(へえ、なかなかの美人だな)
女がさりげなく上着をずらすと、胸元を強調した服が現れる。……怪しいことこの上ない。
「薪を取りに来て、具合が悪くなりまして。あの、お水をおもちじゃありません?」
「おとーさん、おみずですお!」
ルーキフェルが水筒を差し出す。
その間に、馬車の背後に忍び寄る者があった。
ヴァージルはゆっくりと馬を進め、さりげなく馬車を窺う。
(これはまた、随分と小さな横流し犯だな)
十歳ぐらいの男の子が真っ赤な顔で、馬車の後ろから麻袋を一つ、押しだしていた。
五~七歳ぐらいの女の子が二人、落ちる荷物をこれまた必死で受け止めている。
ヴァージルは上着の内側に隠した短伝話を通じて、小声で状況を報告した。
朱華とニャンゴが前方と後方から近付き、三人はそれぞれが距離を取って草むらに馬を進める。
追手に気付かない子供らは、重そうに麻袋を背負った男の子を先頭に、草むらの間を駆け抜けて行く。
麻袋から零れ落ちる白い粉が、点々と後に続いていた。ルーキフェルが仕掛けたものだ。
「成程、これは具合がいい」
ヴァージルは充分な距離を取ってそれを追っていく。
やがて前方に、かつては猟小屋だったと思しきあばら屋が見え、白い跡は中へと続いていた。
朱華は用心深く辺りを見渡す。他に近付く人影は見当たらない。
姿勢を低くして近付き、ニャンゴは小屋の様子を窺う。話声は子供のものだけである。
暫くして小屋を出て来た子供たちの前に、ニャンゴが姿を見せた。
「やっぱり保存食むしゃむしゃ団の仕業でしたか」
朱華、ヴァージル、そしてニャンゴを見渡し、一番年上の子供がニャンゴに向かってタックルをかけてくる。
「逃げろ!」
どうやら一番小柄な相手を選ぶぐらいの知恵はあったらしい。だが、ニャンゴは簡単にその子供を小脇に抱え上げた。
「諦めてください。世の平穏の為なのです。きちんと話をすれば情状酌量の余地ぐらいはあるかもしれません」
ニャンゴは暴れる子供を抱え、そのままずんずんと草むらを掻き分けて行く。
●
ニャンゴに抱えられた子供の姿を見て、件の女が顔色を変えた。
「このドジ、捕まったのかい!!」
「母ちゃん、ごめんよ~!!」
子供が声を上げてわんわん泣き出した。
「母ちゃん!?」
華やかな女性遍歴の持ち主であるルトガーですら、さすがに女が母親だとは思わなかったらしい。
全貌が明らかになれば、何ということもない。
女が色仕掛けで近付いている間に、子供が持てる荷物を盗んで逃げる。女は水のお礼だの何だのと理由をつけて、相手に小金を握らせる。
後に荷物が消えたことがわかっても、説明するのが色々と気まずい。しかも確証はない。そこで業者は知らぬ存ぜぬを決めこんできたという訳だ。
「どうしてこんなことをしたの?」
呆れ声で尋ねるエーミを、女が睨みつけた。
「食べる物がどんどん値上がりして、子供たちが飢えちまうんだよ! それなのに、儲けてる奴がいるんだ……ちょっとぐらいおこぼれをもらって何が悪いんだい」
三人の子供は母親のスカートを握り締めて、わなわなとふるえている。
セストは小屋から運びだした荷物を馬車に積みこみながら、一つ一つ点検を済ませた。
「……数等は合っているのか?」
手伝いながら朱華が尋ねると、セストが頷く。
「むしゃむしゃ団、良い線でしたね。いずれ食べるつもりだったようでまだ手つかずです」
セストはナイフで麻袋を切りつけた。中からざらざらと碧玉の粒がこぼれ出す。
「宝石……のわけはないな」
セストの手元を覗き込み、朱華が首を傾げた。
「はい、翡翠トウモロコシといいます。父が品種改良でつくりだしたのですが、色のせいか人気がありません」
セストはそのトウモロコシを親子の前に差し出す。
「家畜の餌には喜ばれるのですが。どうですか?」
「何考えてんだよ、あんたの親父はッ!」
女が怯えたように子供を抱きかかえ、後じさる。セストは首を振った。
「残念ですね。粉に比べればとても綺麗だと思うのですが」
どうやら粉にしても物凄い緑色らしい。
セストの服の裾を、ルーキフェルが引っ張った。
「どうしました、ルーキフェル君」
「セストえらいんだおね? この子たち、何とかしてほしいお……」
真っ直ぐな目がじっと見つめて来る。
「盗むのはいくないですお! でも、おなか空いてるのはどうしようもないですお」
コルネが意を決したように進み出た。
「私からもお願いしますわ。必要であれば私も多少なら援助できますけれど?」
セストは困惑の表情を浮かべる。
何とかしてやりたいという気持ちはある。だがもう少しで大事な取引に影響が出るところだったのだ。無罪放免という訳にも行かない立場である。
突然響いた女の声に、セストがぎょっとして振り向いた。
「もー、だから貴方は考えが固いのよ」
姉のルイーザが馬上で笑っている。
「姉上……? どうしてここへ」
「ひと暴れと思ってこっそりついてきてたんだけど、残念! それはともかく。荷物は無事だったんだし、雇ってあげたら? 例えばその不気味なトウモロコシを食べられるようにする実験とか」
「不気味……」
セストは父の仕事を、実は尊敬している。しばし考えた後、口を開いた。
「良いでしょう。その代わり姉上の被服費からも多少回して頂くということで」
「え、ちょっと、セスト!?」
「それでいいですね?」
ルーキフェルの顔がぱっと明るくなる。
「では戻りましょう。皆様、有難うございました」
馬車は向きを変え、元来た方へと帰って行く。当の親子は少々複雑な表情ではあったが……。
「やるじゃない、セス。ちょっと見直したかもね?」
エーミがセストの腕に掴まりながら顔を覗き込んだ。ルイーザがにまりと笑う。
「あっら~どうしたのセスト。あたしにそのお嬢さんを紹介しなさいよ!」
「何がですか」
賑やかな一団を眺め、ヴァージルが小さく肩をすくめた。
(成程ね。領主さんの女嫌いは過保護な姉さんが原因かね?)
まあ頑張れ、青年よ。
心の中でそう声をかけるのだった。
<了>
応接室に姿を見せた雇い主に、朱華(ka0841)が片手を差し出した。
「朱華という。どうぞ、宜しく」
「こちらこそ。宜しくお願い致します」
余り表情を崩さないタイプ同士、セスト・ジェオルジ(kz0034)も淡々と挨拶を返す。
「ではまず、普段の輸送ルートを確認しておきたいのだが」
卓上に地図が広げられた。
すすめられたお茶を一口すすり、コルネ(ka0207)が口を開く。
「それから、今まで取られたものの種類と量、ですわね?」
眼鏡の奥で、聡明そうな青い瞳が輝く。
キャラバンに属するコルネにとって荷物の横流しは許し難い行為だ。何としても犯人を捕まえねばならない。
「そうですね……」
セストは尋ねられた事に簡潔に答える。ルーキフェル・ハーツ(ka1064)はそれを聞きながら、もっともらしく頷いた。
「荷物は売られてないみたいですかお? じゃー大事にとってあるんですおね!」
「恐らくはそうだと思います」
「おいしいお肉でも、生とかは大事にとってたら腐っちゃうお……だから相手は腐らないものだけ持っていくんですかお? すおいお、頭いいお!」
だがエーミ・エーテルクラフト(ka2225)には、犯人が頭がいいとは思えなかった。
「横流しされた量と買収の額って見合うの? 戦争があれば食糧は値上がりするとはいえ、海上輸送が駄目で陸路に流れているのだもの。余程の量でなくては見合わないわよね?」
エーミの疑問に、セストも首を横に振った。
「おっしゃる通りです。だから余計に不思議なのです」
ルトガー・レイヴンルフト(ka1847)も腕組みして唸る。
「金を払ってまで、輸送業者に訴えられるリスクを犯して、少量のみ横流し……あり得んな」
「つまり取引先は白、と見ていいだろう」
ヴァージル・チェンバレン(ka1989)が後を続けた。
消えた荷物の量には輸送業者を買収するだけの価値もない。それにもしそんなことが明らかになれば、取引先自身の信用に関わるだろう。商人ならそんな無駄なことは考えないはずだ。
「私の推測が正しければ」
控え目な口調ながら、ニャンゴ・ニャンゴ(ka1590)は言い切った。
「一連の事件の犯人は、保存食むしゃむしゃ団の仕業に違いありません」
「むしゃむしゃ団……?」
一同が怪訝な顔でニャンゴを見る。
「腹が空いたけれども食べるものが何もない……買いに行くのも手間だし店も閉まっている。仕方がない、蓄えておいた干し肉、堅パン、漬物その他を食べてしまおう。そして食べ尽くしてしまって有事の際に困ってしまう。それが保存食むしゃむしゃ団です」
冗談なのか、本気なのか。
「彼らの活動が活発になれば、深刻な食糧不足に陥るのは必然。故に止めなければなりません。この身と引き換えにしても暴食の時代に終止符を打たなければならないのです」
真面目に語るニャンゴの思惑は、判断が難しい。
というわけでディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)は面倒くさくなった。
「犯人の意図はわからぬが……」
なら捕まえてしまえばいいのだ。それに大王たる者、民の困っていることを見過ごすわけにはいかぬ。
「民を脅かす良からぬ事であれば一大事である。さあ皆の者! 必ずや隠された企みを暴くのだ!」
ディアドラは掌で力強く地図を叩いた。
●
「推測だけじゃ解決しないしな、囮になって犯人を迎え撃つとするか」
ルトガーの考えは皆と同じだった。
用意した馬車は二台。一台には輸送業者役のセスト、コルネ、エーミが乗り込んだ。
「御者は慣れていますわ、お任せくださいね?」
コルネが馬の頬を優しく撫でる。
もう一台にはルトガーとディアドラ、ルーキフェルが乗り込む。
「セストをお助けしますお!」
ルーキフェルは麻袋にくるんだ武器を荷台の床に置き、その上にちょこんと座った。エルフの耳は、バンダナで覆った上から帽子をかぶって隠している。
「おとーさん、これでいいですかお!」
「おお、上手いな。よし、こちらはいつでも行けるぞ」
軽装のルトガーが御者台に座る。
朱華とニャンゴ、ヴァージルはそれぞれが単騎で囮の馬車を見張る役割である。
朱華が手持ちのトランシーバーをセストに差し出した。
「使い方は、分かるか?」
「有難うございます。お借りします」
「では先に行く。何か異変があれば知らせる」
軽く片手を上げ、朱華は愛馬の首を巡らせる。
エーミは含み笑いでセストを頭の先から足の先まで眺めた。
「何でしょうか、エーミ殿」
以前の依頼で世話になり、エーミがちゃんと仕事することはセストにも分かっている。だが、どうも調子が狂う相手だ。
「努力は認めるけど、やっぱりあんまり業者には見えないのよね」
エーミはそう言ってぐっと顔を近づける。
「ほら、例えばこんな風に窮屈にしている業者なんかいないわよ」
くすくす笑いながら、セストの襟元に手をかけて開いた。セストは憮然として僅かに顔をそむけている。
「後はそうね、領主様って呼んだら変装が台無しかしら。セスト、いえ、セスって呼ばせて貰うわね」
「……お好きにどうぞ」
「私のこともエーミって呼ばなくちゃ駄目よ?」
「はい?」
ここぞとばかりにセストを玩具にしているのは明白だ。ヴァージルは馬上からその様子を楽しそうに眺めていた。
「お二人さん、若夫婦みたいだな」
「はい?」
振り向いたセストの顔から一切の表情が消えていた。
「おや、領主サマはこんな美人が相手で嬉しくないのか」
「そういう問題ではありません」
固い表情のままで馬車に乗り込むセストを見送り、ヴァージルが肩をすくめる。
「女性が苦手……? それは人生の半分を損しているかもなぁ……」
●
街道をのんびりと進む馬車に揺られ、エーミが尋ねた。
「ねえ、河川輸送と陸上輸送って今、活発なの?」
「そうですね。ですが船に替わる程の輸送力は確保できていないと思います」
「じゃあ、馬が足りないってこともあるのかしら」
食糧は人間だけが食べる物ではない。飼料目的の可能性もあるのではないか?
その考えを遮るように、魔導短伝話が鳴った。
相手はディアドラだ。連絡を取るというよりは、会話を聞かせる目的である。
ルトガーが快活に笑う。
「ハハハ、三人とも顔が似てない? 前妻との子供と、後妻の連れ子だよ! 可愛い子たちだろう」
「お、お父さん、この人達なんなの?」
ディアドラは普段の自信満々の様子はどこへやら、ルトガーの袖を掴み、気弱な子供を演じる。
(フフフ……大王たるボクの完璧な変装だ。ばれることはあるまい!)
確かに、セストよりはかなり上手く化けている。
「心配するな、父さんはお仕事の話をしてるだけだからな」
その話の内容とは。
「なあ、続きはそこの茶店でゆっくりどうだ? とにかく悪いようにはしないぜ」
ルトガーは表情の読み取りにくい薄笑いで、相手の男の話に応じていた。
今回抱いていた懸念の一つが、ジェオルジの評判を敢えて落とすという企みだった。それなら普通の商人には声をかけないのではないか。
そう思っていたのだが。
熱心に話しかけて来る男は、本気で馬車の荷物を丸ごと売って欲しいらしい。馬車にはジェオルジ領主との関わりを示すような物は乗せてない。
結局値段が合わないなどと理由をつけて話を切り上げたが、すぐにそれを待っていたように別の男が近づいてくる始末だ。
「というわけなのである! 丸ごと売ってくれという話ばかりで、少しずつ横流しなどという提案はしてこぬのだ!」
「そう。じゃあもう少し様子を見ないとね」
エーミが短伝話に答えるのを聞きながら、コルネが一瞬、怪訝そうな表情を浮かべた。
「どうしましたか」
「あ、いいえ。あんなところで何かしら、と思っただけですわ?」
コルネが目くばせした先には大きな木があり、その陰から通り過ぎる馬車を伺う人影があった。
「女の人みたいね」
フードを押さえる手を見て、エーミが呟く。
「ねえセス、街が近いのかしら?」
「そうですね、もう暫く行くと宿場町のはずです」
それにしてもこんな所で何をしているのか……気にかかるものはあるが、そのまま馬車は通り過ぎる。
●
ディアドラがルトガーの服の裾を引っ張った。
「あんな所に人がおるのだ。何をしているのであろうな?」
旅人が踏みしめる街道沿いは、見渡す限り灌木や背の高い草が覆い尽くしている。そこに一本の大きな木が生えていた。
と思うや否や、その陰から飛び出した人影が、馬車の前方に倒れ込んでくるではないか。
「とと、危ない!」
ルトガーは急いで手綱を引くと、御者台から滑り降りた。
「何やってんだあんた、怪我はないか?」
「す、すみません……」
若い女だった。被っていたフードを除けると、頼りなげな視線がルトガーを見つめる。
(へえ、なかなかの美人だな)
女がさりげなく上着をずらすと、胸元を強調した服が現れる。……怪しいことこの上ない。
「薪を取りに来て、具合が悪くなりまして。あの、お水をおもちじゃありません?」
「おとーさん、おみずですお!」
ルーキフェルが水筒を差し出す。
その間に、馬車の背後に忍び寄る者があった。
ヴァージルはゆっくりと馬を進め、さりげなく馬車を窺う。
(これはまた、随分と小さな横流し犯だな)
十歳ぐらいの男の子が真っ赤な顔で、馬車の後ろから麻袋を一つ、押しだしていた。
五~七歳ぐらいの女の子が二人、落ちる荷物をこれまた必死で受け止めている。
ヴァージルは上着の内側に隠した短伝話を通じて、小声で状況を報告した。
朱華とニャンゴが前方と後方から近付き、三人はそれぞれが距離を取って草むらに馬を進める。
追手に気付かない子供らは、重そうに麻袋を背負った男の子を先頭に、草むらの間を駆け抜けて行く。
麻袋から零れ落ちる白い粉が、点々と後に続いていた。ルーキフェルが仕掛けたものだ。
「成程、これは具合がいい」
ヴァージルは充分な距離を取ってそれを追っていく。
やがて前方に、かつては猟小屋だったと思しきあばら屋が見え、白い跡は中へと続いていた。
朱華は用心深く辺りを見渡す。他に近付く人影は見当たらない。
姿勢を低くして近付き、ニャンゴは小屋の様子を窺う。話声は子供のものだけである。
暫くして小屋を出て来た子供たちの前に、ニャンゴが姿を見せた。
「やっぱり保存食むしゃむしゃ団の仕業でしたか」
朱華、ヴァージル、そしてニャンゴを見渡し、一番年上の子供がニャンゴに向かってタックルをかけてくる。
「逃げろ!」
どうやら一番小柄な相手を選ぶぐらいの知恵はあったらしい。だが、ニャンゴは簡単にその子供を小脇に抱え上げた。
「諦めてください。世の平穏の為なのです。きちんと話をすれば情状酌量の余地ぐらいはあるかもしれません」
ニャンゴは暴れる子供を抱え、そのままずんずんと草むらを掻き分けて行く。
●
ニャンゴに抱えられた子供の姿を見て、件の女が顔色を変えた。
「このドジ、捕まったのかい!!」
「母ちゃん、ごめんよ~!!」
子供が声を上げてわんわん泣き出した。
「母ちゃん!?」
華やかな女性遍歴の持ち主であるルトガーですら、さすがに女が母親だとは思わなかったらしい。
全貌が明らかになれば、何ということもない。
女が色仕掛けで近付いている間に、子供が持てる荷物を盗んで逃げる。女は水のお礼だの何だのと理由をつけて、相手に小金を握らせる。
後に荷物が消えたことがわかっても、説明するのが色々と気まずい。しかも確証はない。そこで業者は知らぬ存ぜぬを決めこんできたという訳だ。
「どうしてこんなことをしたの?」
呆れ声で尋ねるエーミを、女が睨みつけた。
「食べる物がどんどん値上がりして、子供たちが飢えちまうんだよ! それなのに、儲けてる奴がいるんだ……ちょっとぐらいおこぼれをもらって何が悪いんだい」
三人の子供は母親のスカートを握り締めて、わなわなとふるえている。
セストは小屋から運びだした荷物を馬車に積みこみながら、一つ一つ点検を済ませた。
「……数等は合っているのか?」
手伝いながら朱華が尋ねると、セストが頷く。
「むしゃむしゃ団、良い線でしたね。いずれ食べるつもりだったようでまだ手つかずです」
セストはナイフで麻袋を切りつけた。中からざらざらと碧玉の粒がこぼれ出す。
「宝石……のわけはないな」
セストの手元を覗き込み、朱華が首を傾げた。
「はい、翡翠トウモロコシといいます。父が品種改良でつくりだしたのですが、色のせいか人気がありません」
セストはそのトウモロコシを親子の前に差し出す。
「家畜の餌には喜ばれるのですが。どうですか?」
「何考えてんだよ、あんたの親父はッ!」
女が怯えたように子供を抱きかかえ、後じさる。セストは首を振った。
「残念ですね。粉に比べればとても綺麗だと思うのですが」
どうやら粉にしても物凄い緑色らしい。
セストの服の裾を、ルーキフェルが引っ張った。
「どうしました、ルーキフェル君」
「セストえらいんだおね? この子たち、何とかしてほしいお……」
真っ直ぐな目がじっと見つめて来る。
「盗むのはいくないですお! でも、おなか空いてるのはどうしようもないですお」
コルネが意を決したように進み出た。
「私からもお願いしますわ。必要であれば私も多少なら援助できますけれど?」
セストは困惑の表情を浮かべる。
何とかしてやりたいという気持ちはある。だがもう少しで大事な取引に影響が出るところだったのだ。無罪放免という訳にも行かない立場である。
突然響いた女の声に、セストがぎょっとして振り向いた。
「もー、だから貴方は考えが固いのよ」
姉のルイーザが馬上で笑っている。
「姉上……? どうしてここへ」
「ひと暴れと思ってこっそりついてきてたんだけど、残念! それはともかく。荷物は無事だったんだし、雇ってあげたら? 例えばその不気味なトウモロコシを食べられるようにする実験とか」
「不気味……」
セストは父の仕事を、実は尊敬している。しばし考えた後、口を開いた。
「良いでしょう。その代わり姉上の被服費からも多少回して頂くということで」
「え、ちょっと、セスト!?」
「それでいいですね?」
ルーキフェルの顔がぱっと明るくなる。
「では戻りましょう。皆様、有難うございました」
馬車は向きを変え、元来た方へと帰って行く。当の親子は少々複雑な表情ではあったが……。
「やるじゃない、セス。ちょっと見直したかもね?」
エーミがセストの腕に掴まりながら顔を覗き込んだ。ルイーザがにまりと笑う。
「あっら~どうしたのセスト。あたしにそのお嬢さんを紹介しなさいよ!」
「何がですか」
賑やかな一団を眺め、ヴァージルが小さく肩をすくめた。
(成程ね。領主さんの女嫌いは過保護な姉さんが原因かね?)
まあ頑張れ、青年よ。
心の中でそう声をかけるのだった。
<了>
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相談卓 エーミ・エーテルクラフト(ka2225) 人間(リアルブルー)|17才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2014/08/17 22:46:33 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/08/14 02:17:29 |