ゲスト
(ka0000)
【闇光】龍の亡骸を川底で争う
マスター:馬車猪

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/02/25 19:00
- 完成日
- 2016/03/02 16:08
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●北の雪原
パルムがこけた。
キノコっぽい頭部から雪原に激突。
それでも勢いが衰えずにころころ転がり雪を巻き込んで大きくなっていく。
「パルム殿!」
全身鎧が全力で追う。
平均の厚みが1センチを超える板金鎧の割には非常に速い。
雪原を駆けるのでは無くほとんど泳ぐように移動して、パルムがこけた場所まで到達した。
ぱきり、と。
繊細で尊い何かにひびが入った音が聞こえた。
分厚い兜の下でメーガン(kz0098)が冷や汗を流す。
雪玉パルムが器用に向きを変えて戻ってきて、万年平騎士の手前1メートルで停止した。
白い弾からパルムの手足が突き出され、数秒遅れでキノコっぽい頭も出てくる。
おーい、とメーガンの前で手を振ったり踊ったりしても反応がない。
仕方なくメーガンに近づくと、雪の上から小さく突き出す金属的な何かに気づいた。
「竜の亡骸……」
呆然とつぶやく騎士を無視してパルムが掘り進める。
何かから逃げるように伸ばされた首と翼……だろうか。
生々しさは全くない。事前知識が無ければ変形した鉱石としか思えない形をしている。
メーガンの足に当たった部分が凹んでいるのが少しだけ痛々しかった。
「う、む、む……。持ち帰る、いや、お連れしなければ」
本人としては可能な限り丁寧に、客観的にはかなり雑に雪から抜き取り背負い袋に突っ込……もうとしてパルムに止められた。
このままだと袋が破れるか大型龍鉱石がさらに壊れてしまいそうだ。
メーガンは素直に助言を聞き入れる。
得物を背中に戻して両手で元亡骸を抱え、いきなりパルムをくわえて真横へ飛んだ。
雪玉が雪原にめり込む。
氷になるまで握り混まれたそれは、雪原を数メートル貫通してようやく止まる。
「あにものだっ」
何者だと言いたいらしい。
考えるまでも無く歪虚である。
薄い皮鎧のリザードマンがスタッフスリングを振り回し、同数の軽装リザードマンがよく切れそうな剣を片手にこちらに走ってこようとして途中で柔らかな雪を踏み抜き立ち往生する。
雪玉パルムがキノコパンチ1発でメーガンの口を開け、よいしょよいしょと鎧を伝って移動し背負い袋に入る。
わずかに遅れて雪玉が飛来。
騎士が抱え込んで大型龍鉱石を守ると、下手な拳銃弾より威力のある雪玉が鎧に数個直撃した。
「焦らす気が」
攻撃されて事に気づいてもいない万年平騎士(24)であった。
●翌日。ハンターオフィスにて
「というのが昨日の話です」
説明中のオフィス職員の後ろでは、謹慎中と書かれた札を首から提げて某騎士が正座中だ。
優れた装甲と有り余る体力で竜の亡骸を遺跡まで運ぶまでは良かったのだが、本人の意識はともかく雑に運んだ竜鉱石が歪んでしまったのだ。
幸い、イニシャライザー化は可能だった。
だが運が悪ければ貴重な龍鉱石が失われたのも事実である。
「主にパルムさんからの情報によると、この大型龍鉱石、現在遺跡で稼働中のこれがあったのは元河川です」
3Dディスプレイが浮き上がる。
北狄によくある雪原だ。
よく見てみると、うっすらとした凹みが画像の上端から下端まであった。
「聞き取り調査と現地調査の結果、河川を守って力尽きた龍が複数いたことが判明しました」
別の3Dディスプレイが浮かび上がり、合成画像らしい鳥瞰図が表示された。
「龍鉱石になった龍をここから掘り出せって?」
話を聞いていたハンターの1人が思わず突っ込みを入れた。
雪が分厚く過酷な労働が予想されるのはまだいい。
問題は、あまりにも防御に向いていないその地形だ。
「歪虚に見つかったらどうするんだ。並の歪虚に負ける気はないがよ。大荷物抱えて大群に囲まれたら捨てて逃げるのも難しいぞ?」
職員がハンカチを取り出し己の額に浮かんだ汗をぬぐう。
メーガンは正座に耐えきれずに震えている。
「はい。なんとかして龍鉱石を回収しカム・ラディ遺跡に運び込んでください。最悪龍の亡骸を小さくなるまで破壊して運んでも構いません」
職員は、苦しげにそう言い説明を終えた。
●潜むリザードマン
『人間を見かけたのはここか?』
メーガン未満通常の鎧以上の甲冑を着込んだ指揮官が問うと、軽装のリザードマンは即座に状況を説明した。
『妙だな。その人間、情報が正しいなら哨戒班を潰せる腕の持ち主だ。何故逃げ……』
軽く目を見開く。
『龍の死体を見つけたのかもしれん。おい、何体か連れてここの捜索を行え。私は残りを率いてそこに伏せる』
小高い丘を示して獰猛に笑う。
『南に隠れ住んでいればもう1世代は生き延びられただろうが……早死にしたいならさせてやろう』
ドラゴンに似た口から嘲笑が響く。
空は暗く風は勢いを増している。
嵐は、すぐそこまで迫っていた。
パルムがこけた。
キノコっぽい頭部から雪原に激突。
それでも勢いが衰えずにころころ転がり雪を巻き込んで大きくなっていく。
「パルム殿!」
全身鎧が全力で追う。
平均の厚みが1センチを超える板金鎧の割には非常に速い。
雪原を駆けるのでは無くほとんど泳ぐように移動して、パルムがこけた場所まで到達した。
ぱきり、と。
繊細で尊い何かにひびが入った音が聞こえた。
分厚い兜の下でメーガン(kz0098)が冷や汗を流す。
雪玉パルムが器用に向きを変えて戻ってきて、万年平騎士の手前1メートルで停止した。
白い弾からパルムの手足が突き出され、数秒遅れでキノコっぽい頭も出てくる。
おーい、とメーガンの前で手を振ったり踊ったりしても反応がない。
仕方なくメーガンに近づくと、雪の上から小さく突き出す金属的な何かに気づいた。
「竜の亡骸……」
呆然とつぶやく騎士を無視してパルムが掘り進める。
何かから逃げるように伸ばされた首と翼……だろうか。
生々しさは全くない。事前知識が無ければ変形した鉱石としか思えない形をしている。
メーガンの足に当たった部分が凹んでいるのが少しだけ痛々しかった。
「う、む、む……。持ち帰る、いや、お連れしなければ」
本人としては可能な限り丁寧に、客観的にはかなり雑に雪から抜き取り背負い袋に突っ込……もうとしてパルムに止められた。
このままだと袋が破れるか大型龍鉱石がさらに壊れてしまいそうだ。
メーガンは素直に助言を聞き入れる。
得物を背中に戻して両手で元亡骸を抱え、いきなりパルムをくわえて真横へ飛んだ。
雪玉が雪原にめり込む。
氷になるまで握り混まれたそれは、雪原を数メートル貫通してようやく止まる。
「あにものだっ」
何者だと言いたいらしい。
考えるまでも無く歪虚である。
薄い皮鎧のリザードマンがスタッフスリングを振り回し、同数の軽装リザードマンがよく切れそうな剣を片手にこちらに走ってこようとして途中で柔らかな雪を踏み抜き立ち往生する。
雪玉パルムがキノコパンチ1発でメーガンの口を開け、よいしょよいしょと鎧を伝って移動し背負い袋に入る。
わずかに遅れて雪玉が飛来。
騎士が抱え込んで大型龍鉱石を守ると、下手な拳銃弾より威力のある雪玉が鎧に数個直撃した。
「焦らす気が」
攻撃されて事に気づいてもいない万年平騎士(24)であった。
●翌日。ハンターオフィスにて
「というのが昨日の話です」
説明中のオフィス職員の後ろでは、謹慎中と書かれた札を首から提げて某騎士が正座中だ。
優れた装甲と有り余る体力で竜の亡骸を遺跡まで運ぶまでは良かったのだが、本人の意識はともかく雑に運んだ竜鉱石が歪んでしまったのだ。
幸い、イニシャライザー化は可能だった。
だが運が悪ければ貴重な龍鉱石が失われたのも事実である。
「主にパルムさんからの情報によると、この大型龍鉱石、現在遺跡で稼働中のこれがあったのは元河川です」
3Dディスプレイが浮き上がる。
北狄によくある雪原だ。
よく見てみると、うっすらとした凹みが画像の上端から下端まであった。
「聞き取り調査と現地調査の結果、河川を守って力尽きた龍が複数いたことが判明しました」
別の3Dディスプレイが浮かび上がり、合成画像らしい鳥瞰図が表示された。
「龍鉱石になった龍をここから掘り出せって?」
話を聞いていたハンターの1人が思わず突っ込みを入れた。
雪が分厚く過酷な労働が予想されるのはまだいい。
問題は、あまりにも防御に向いていないその地形だ。
「歪虚に見つかったらどうするんだ。並の歪虚に負ける気はないがよ。大荷物抱えて大群に囲まれたら捨てて逃げるのも難しいぞ?」
職員がハンカチを取り出し己の額に浮かんだ汗をぬぐう。
メーガンは正座に耐えきれずに震えている。
「はい。なんとかして龍鉱石を回収しカム・ラディ遺跡に運び込んでください。最悪龍の亡骸を小さくなるまで破壊して運んでも構いません」
職員は、苦しげにそう言い説明を終えた。
●潜むリザードマン
『人間を見かけたのはここか?』
メーガン未満通常の鎧以上の甲冑を着込んだ指揮官が問うと、軽装のリザードマンは即座に状況を説明した。
『妙だな。その人間、情報が正しいなら哨戒班を潰せる腕の持ち主だ。何故逃げ……』
軽く目を見開く。
『龍の死体を見つけたのかもしれん。おい、何体か連れてここの捜索を行え。私は残りを率いてそこに伏せる』
小高い丘を示して獰猛に笑う。
『南に隠れ住んでいればもう1世代は生き延びられただろうが……早死にしたいならさせてやろう』
ドラゴンに似た口から嘲笑が響く。
空は暗く風は勢いを増している。
嵐は、すぐそこまで迫っていた。
リプレイ本文
●雪原
リザードマン5体の隊が2つ、雪を掘って何かを探していた。
「この数を倒して増援前に脱出か……こりゃなかなかにハードだな」
レオーネ・インヴェトーレ(ka1441)がちらりとリザードマン達の向こうを見た。
何の変哲も無い丘にしては、人に似た何かがいた痕跡がある。
しかも時折何かの気配まで感じる。明らかに罠だ。
風が吹きはじめ、丘と歪虚の一部を隠した。
「うぅ、寒っ。リザードマンはトカゲなのに元気だよな、この寒さで。動いてあったなりゃいいけど……いくか。」
軽口を叩いてスクーターのアクセルを踏む。
加速する。向かい風が清楚なエプロンドレスに見える装備を上品に揺らした。
「暖めてやるよ!」
純白の杖で宙に印を描く。
無色の光球がリザードマンの集団に向かって打ち出され、先頭の歪虚にぶつかる直前に3つの光弾に分かれた。
光の三原色が3体のリザードマンの胸に当たる。決して薄くは無い鱗を砕いてよろめかせる。
「良い感じだ。新しい力も試させてもらうぜ!」
マテリアルがスクーターに浸透する。
本来の限界以上の速度に無理なく到達して、その速度と勢いを利用しレオーネが杖を振り下ろす。
「……まずっ」
彼は機導師で魔法が得意。
現在の装備では白兵に向いたスキルは不向きで手応えが非常に控えめだった。
リザードマンが体制を立て直し殺到する。
白兵武器としては貧相な杖しか持たないが数は5体。こしゃくな人間に最低でも深手を負わせられるはずだった。
「と思ったかばーか!」
極悪な雷付き障壁を展開させ1体を吹き飛ばす。開いた穴に滑り込むように前進し、4本の杖の直撃を避け一部を受け一部を躱す。
「行け、メーガンさん!」
鎧が剣風の鉄塊を振り下ろす。
雷で動きが鈍った状態では歪虚も回避はできず、防ごうとした杖ごと両断され息絶えた。
「征きて果てた龍よ」
単体でも美しく色っぽい指から符がするりと離れる。
マテリアルで形作られた小鳥が表面を撫でる前に、別種のマテリアルが符に触れその進路をねじ曲げた。
「私たちを導……自己主張強いのね」
幻影の小鳥がティリル(ka5672)の肩に戻って何かをささやいた。
愚痴をこぼしているように見えたのは気のせいだろうか。
彼女は軽くうなずいて次の符を放つ。
小鳥以上のマテリアルを受けて符が稲妻に変じ、レオーネ達との戦いで傷ついていたリザードマン3体を打ち抜き消滅させた。
「マッシュさん! あっちと、こっちと、そっちです!」
黙っていたらほんのり健康的な色香漂う巫女であるのに、雪原の特定の箇所を指し示す動作は素晴らしく速くて切れがある。
「なるほど」
マッシュ・アクラシス(ka0771) はスコップを両腕で構え、全身の力を込めて雪に差し込んだ。
「なぁっ!?」
鎧女が慌てているが気にしない。
メーガンが思い切りぶつかって壊れなかったのだ。この程度では機能を失うほど脆くは無いはずだ。
「ここはないようですが?」
何度か刺しては横に振るのを繰り返すが、石や鉱石に当たった感触は無かった。
「占いに的中率10割を求められても困りますよ」
ティリルが雪上を滑る。
直前まで彼女がいた場所に堅い氷玉がめり込む。
スタッフスリング持ちのリザードマンが射撃を開始したのだ。
「それは確かに」
マッシュは特に気にした様子も無く次の候補地に移動し突き入れる。
堅い感触があった瞬間、メッシュは己にできる全力でスコップの動きを止めた。
力を加える方向を変える。
工事用の道具は本来の力を完全に発揮し数十キロ分の雪を枯れた川底から除けた。
『アレハッ』
発音がおかしい声がリザードマンから聞こえる。
マッシュが2度雪を除ける動作を繰り返すと、不格好な岩が外気にさらされた。
片手で保持して第3の目標へ。
今度は近くで見るだけで竜鉱石の出っ張りに気づき、20秒もかからず掘り出しが完了する。
「全滅させればいいのではないですかね、これ」
川の上流と丘の上から、激しい戦闘の気配が伝わってきていた。
最初から全力で歪虚排除を目指すと時間稼ぎされて最悪20メートルを超える大物増援が出現しかねないので仕方が無い面もある。
ひひんと馬がなく。
彼はスコップを腰につるし両手でそれぞれ竜鉱石を抱えて全力移動。川の側まで運んで自分の馬の左右に固定した。
「まあ、金になるのなら大歓迎、なのですが」
軽く息を吐いて振り返る。
複数方向から堅く大きな雪玉が飛び、小さな雪山あの影を調べていた紙で出来た人形が全壊する。
「ありました。これまでのより倍は大きいです」
「なんとまあ」
最も効率の良い道具を揃えた彼が、最も探索に優れた彼女の指示に従い龍の亡骸に向かった。
●丘強襲
「隠れている様に見えて全然気配を隠しきれて居ない」
フィルメリア・クリスティア(ka3380)は魔導二輪「龍雲」のアクセルを踏み、冷たい北の風を全身で感じる。
仲間からある程度離れて時点でハンドルを切る。
小さな丘が正面に移動し、動揺した気配が複数現れる。
「伏兵としては失格ね。それじゃ、引っ掻き回してあげましょうか」
速度を保ったまま坂を駆け上がり、跳んだ。
『見つかった。先に仕留めろ!』
7体のリザードマンが雪の中から起き上がる、
先頭に立つ1体は名品らしき大剣を装備しており発音にも違和感が無い。
フィルメリアはアクセルを踏み込んだまま片手でハンドルを切る。
リザードマン1隊の鼻先を掠めて右に向かい反転、構えたパニッシュメントを起点に青い炎を解き放つ。
『グァッ』
『肉ガ焼ケッ』
見た目は冷たく体感温度も低く、しかし対象を破壊する力は非常に大きい。
5体が蒼い焔へ巻き込まれて苦痛に満ちた悲鳴をあげた。
『下がるな。行』
銃声にわずかに遅れて隊長格の額に小さな穴が開き、倒れた。
「面倒な地形ね」
左手に射撃直後のベンティスカを構えたままアクセルを踏む。
両手を離しての運転だが問題は無い。
バイクから離れてジェットブーツを使えばさらに容易に敵を翻弄出来ただろうが、いつでも壊せる状態でバイクを放置するほど切羽詰まってはいない。
『ギッ!?』
焼いて、焼いて、雷纏う障壁ではじき飛ばして銃で止めを指す。
かかった時間は決して長くは無い。
しかし敵勢に反応を許さないと表現できるほどには短くもない。
真横から氷弾多数が飛来する。
大半を躱すか防ぐ。遮蔽物のない地形では連続攻撃を防ぐのはつらい。
『確実に仕留めるまで攻撃を緩めるな!』
北の丘でリザードマンリーダーが吠えている。
油断は無い。主力の1つを潰されてなお慢心できるほど馬鹿では無いのだ。
だが利口でも無い。全く予想外の方向から多数の弾が降り注ぐ。虚を突かれた彼とその部下は慌てて守りに集中してしまい、フィルメリアが射程外に逃れる隙をつくってしまう。
『馬鹿な、どこから』
制圧射撃で歪虚の作戦を砕いた瀬崎・統夜(ka5046)は、わざと雪まみれになりながら10メートルほど横にある凹みに滑り込む。
「敵のボス、中央ののっぽはまだいるか?」
トランシーバー越しに中傷以上重傷未満という報告が帰ってくる。
「ありがとよ」
仲間に礼を言い凹みから顔を出す。
生き残りのリザードマン主力が丘の上で動いている。
多少は頭がまわるようだ。リザードマンは身を伏せて射撃攻撃に備え、その上でスタッフスリングを巧みに操り射撃を再開していた。
統夜の口の端に苦笑が浮かぶ。
「判断が遅い」
練度の高い軍なら既に撤退を開始している。
気合いの入りすぎた軍なら全滅覚悟で敵重要目標……今なら龍の亡骸破壊に全てをかけている。
しかしリザードマン達は目の前の状況に対処しようとしているだけだ。
「このまま馬鹿な蜥蜴でいてもらおう」
これ以上近づくとさすがに気づかれると判断し銃を構える。
『攻撃に移』
指揮官が命令を出すタイミングで、狙い澄ませて弾を送り込む。
地面からわずかに顔を出す単なる石へ当たり、統夜以外は予想できない角度から銃弾が迫る。
リザードマンの脇腹に当たり口から意味の無い音が吐き出される。
素早く左右を見て、2度見直して統夜に気づく。
「どんな場所にも射線を通すのが狙撃手だ。覚えておきな」
『っ……。二手に分かれる。大剣持ちは私について突撃だ』
横から銃弾を浴びても動きは止めず、数体のリザードマンを率いて雪の丘から駆け下りていく。
出迎えたのは竜鉱石捜索を担当するスリング持ちリザードマンではなく、斜め横から降り注ぐ光の線だった。
リザードマンが大剣を盾として構える。
氷弾なら無傷ですませる程度に分厚く重い。だが飛来する光が持つエネルギーは巨大だ。厚い鉄を貫き鱗と肉と内蔵を焼いた。
『何の術だ』
指揮官は戸惑いを隠せない。
長い間人類と接触していないので機導師の存在も知らないのだ。
『無視しろ。人間にこれほどの術が何度も使えるはずが』
ないと言い終える前にコントラルト(ka4753)のデルタレイが発動。何体かのリザードマンは辛うじて躱し、残る数体と指揮官は直撃を受けて血を吐き出した。
「人間ごときがって思うんでしょうけれど」
光の雨は止まらない。
歪虚の指揮官が予想していたような命と引き替えに行使する術でなく、知識の蓄積と弛まぬ訓練と良質の装備がもたらす、今の人類にとっては普通の術なのだ。
『ダメダァッ』
指揮官の次に大きかった個体が悲鳴をあげて大剣を捨てた。
混乱し、コントラルトから逃げる方向へ、人間の守りが薄いように見えた川へ向かって走る。
士気の崩壊は止まらない。
あるリザードマンは指揮官を見捨て、またあるリザードマンは直前の命令以外何も考えずに前に向かって走る。
ひとり残された歪虚が、大剣を手に呆然と立ち尽くしていた。
「滅びるまでの間考えさせてあげるわ」
コントラルトは油断しない。
敵には近づない。
術が届く距離を維持して
光の線があたるたびに、リザードマンの鱗と肉が貫かれその存在を維持する力が失われていく。
「足りないお頭で考えてみてごらんなさい。なぜ私たちが南から出てこれるようになったのかを」
恐怖と絶望を浮かべて消えゆく歪虚の瞳を、彼女は特に感慨もなく見下ろすのだった。
●殺戮の川
かつて水が流れ、水で削られ、水が失われた地形に積もった雪。
濃密な負のマテリアルにさらされ続け、今では酷く不安定なものに成り果てた。
そんな死地に戦馬が踏み込んだ。
目視の時点で何があるか大まかに把握および推測。
蹄鉄が触れた時点で実際に何があったか確認して力加減と重さのかけかたを調整する。
「突撃を仕掛けます」
ヴァルナ=エリゴス(ka2651)は座標と距離をトランシーバーに語りかけて、柄を含めれば身長を超えるサイズの剣を鞘から抜いた。
愛馬が加速する。
彼女の意を察して絶妙の進路を選び、1列4体並んだリザードマンをかすめるように接近する。
スタッフスリングを回していた歪虚達にとり、ヴァルナ主従の動きの意図は分からず動きも追いきれない。
ただ、人馬の速度と重さが乗った刃が擦った時点で滅ぼされることだけは理解出来ていた。
「掘っていた跡、龍鉱石目当てですか」
小声でつぶやく間も両手剣を持つ手は不動だ。
端の歪虚が衝撃に耐えかね頭蓋を失い、次のリザードマンが胸から背骨まで切り裂かれ、3体目は躱そうとして足が滑った。
ヴァルナが瞬きする。
聖剣「ヴィジーリア」は3体目の胸に髪の毛1本より細い傷だけを残す。
「百発百中とはいきませんね」
4体目には回避も許さず腰を両断し、ヴァルナは馬上で後ろを振り返る。
リザードマンが恐怖で震えている。丘の方向から重装の歪虚が駆け下りてくる。
「ヴァルナさん、ここは私が」
ゴースロン種の上でワンドを構えたアニス・エリダヌス(ka2491)がヴァルナを促す。
うなずき新手の迎撃に向かうヴァルナを見送りながら、アニスは我が身のうちに押さえていたマテリアルを開放した。
苛酷な人生の中で磨かれたそれは透明でありながら強靱で、アニスの背後を守る形で広がり天使の翼のようだ。
攻撃する意思に従うマテリアルはワンドを中心に集まり、大型剣型の光となって安定した。
「私なら勝てると思いましたね?」
武器の大きさに回避の切れに受けの精度。どれもヴァルナに劣ると判断して露骨に安堵した歪虚に対し、アニスは特に怒った気配もなくワンドを横に振る。
ワンドは当たらない。
ワンドを覆う大型剣型の光も当たらない。
しかし新たに注がれたマテリアルは負のマテリアルを許さぬ力に変わり、1つ1つは薄く可憐な花弁が重なり合うようにして横へ横へ平面的に広がる。
上空から見れば、剣閃が巨大な円を描く破壊の渦に見えたはずだ。
リザードマンの腹から腰が大きく凹む。
痛みを感じる時間も与えられず倒れて絶命、それだけでなくヴァルナ相手に必死の防戦をしていた重装備リザードマンまで切り裂かれた。
『敵戦力全滅を確認。準備が出来ている人は龍鉱石回収作業を……』
「フィルメリアさん、今どこに」
丘で手を振る負傷した仲間に気付き、アニスは目を思わず見開いた。
『まぐれ当たりは怖いわね。治療お願いできる?』
アニスは警戒をヴァルナに任せて馬を駆けさせた。
●龍鉱石
マッシュが掘り出した龍鉱石が川の外へ運び出されていく。
「龍……丁重にお迎えしないといけませんね」
アニスが一度だけ手をあわせた。
はるか昔に命をかけて戦い抜き、龍鉱石として後の世に力を託した龍達がいる。
彼等に捧げたい感謝も儀式もやろうと思えば何時間でも喜んで続けられる。
「失礼します」
けれど今は時間が無い。
レオーネと一緒にテントの布で龍鉱石を梱包、可能な限り慎重かつ安全な持ち運びが出来るよう固定するしかない。
「できれば大きさを最優先して運びたいですね」
ティリルの表情は非常に硬い。
竜鉱石をこの場に残せば確実に歪虚に破壊される。
想像するだけで腹が立つ。でも今は感情より優先することがある。
「運んでください」
ゴムボートから伸びるロープをメーガンに手渡した。
ボートには毛布で保護した大型竜鉱石が固定され、隙間には小さめの竜鉱石がみっしり詰め込まれている。
「ぎりぎりいけますか」
残った竜鉱石と空荷の馬の数を比べて息を吐く。
確実に運べる。
ただし馬に負担をかけるのでハンターは徒歩になる上通常より速度が落ちる。
それでもやるしかない。
「この成果に、北の未来が掛かっていますから」
ハンター達は素早く荷造りを終えてカム・ラディに向かった。
歪虚増援の数十体が到着し人間と竜鉱石を探し始めたのはこれよりほんの数分後のこと。
戦場跡を数時間捜索して竜鉱石全てを掘り出されていたことに気づき、歯ぎしりすることになる。
リザードマン5体の隊が2つ、雪を掘って何かを探していた。
「この数を倒して増援前に脱出か……こりゃなかなかにハードだな」
レオーネ・インヴェトーレ(ka1441)がちらりとリザードマン達の向こうを見た。
何の変哲も無い丘にしては、人に似た何かがいた痕跡がある。
しかも時折何かの気配まで感じる。明らかに罠だ。
風が吹きはじめ、丘と歪虚の一部を隠した。
「うぅ、寒っ。リザードマンはトカゲなのに元気だよな、この寒さで。動いてあったなりゃいいけど……いくか。」
軽口を叩いてスクーターのアクセルを踏む。
加速する。向かい風が清楚なエプロンドレスに見える装備を上品に揺らした。
「暖めてやるよ!」
純白の杖で宙に印を描く。
無色の光球がリザードマンの集団に向かって打ち出され、先頭の歪虚にぶつかる直前に3つの光弾に分かれた。
光の三原色が3体のリザードマンの胸に当たる。決して薄くは無い鱗を砕いてよろめかせる。
「良い感じだ。新しい力も試させてもらうぜ!」
マテリアルがスクーターに浸透する。
本来の限界以上の速度に無理なく到達して、その速度と勢いを利用しレオーネが杖を振り下ろす。
「……まずっ」
彼は機導師で魔法が得意。
現在の装備では白兵に向いたスキルは不向きで手応えが非常に控えめだった。
リザードマンが体制を立て直し殺到する。
白兵武器としては貧相な杖しか持たないが数は5体。こしゃくな人間に最低でも深手を負わせられるはずだった。
「と思ったかばーか!」
極悪な雷付き障壁を展開させ1体を吹き飛ばす。開いた穴に滑り込むように前進し、4本の杖の直撃を避け一部を受け一部を躱す。
「行け、メーガンさん!」
鎧が剣風の鉄塊を振り下ろす。
雷で動きが鈍った状態では歪虚も回避はできず、防ごうとした杖ごと両断され息絶えた。
「征きて果てた龍よ」
単体でも美しく色っぽい指から符がするりと離れる。
マテリアルで形作られた小鳥が表面を撫でる前に、別種のマテリアルが符に触れその進路をねじ曲げた。
「私たちを導……自己主張強いのね」
幻影の小鳥がティリル(ka5672)の肩に戻って何かをささやいた。
愚痴をこぼしているように見えたのは気のせいだろうか。
彼女は軽くうなずいて次の符を放つ。
小鳥以上のマテリアルを受けて符が稲妻に変じ、レオーネ達との戦いで傷ついていたリザードマン3体を打ち抜き消滅させた。
「マッシュさん! あっちと、こっちと、そっちです!」
黙っていたらほんのり健康的な色香漂う巫女であるのに、雪原の特定の箇所を指し示す動作は素晴らしく速くて切れがある。
「なるほど」
マッシュ・アクラシス(ka0771) はスコップを両腕で構え、全身の力を込めて雪に差し込んだ。
「なぁっ!?」
鎧女が慌てているが気にしない。
メーガンが思い切りぶつかって壊れなかったのだ。この程度では機能を失うほど脆くは無いはずだ。
「ここはないようですが?」
何度か刺しては横に振るのを繰り返すが、石や鉱石に当たった感触は無かった。
「占いに的中率10割を求められても困りますよ」
ティリルが雪上を滑る。
直前まで彼女がいた場所に堅い氷玉がめり込む。
スタッフスリング持ちのリザードマンが射撃を開始したのだ。
「それは確かに」
マッシュは特に気にした様子も無く次の候補地に移動し突き入れる。
堅い感触があった瞬間、メッシュは己にできる全力でスコップの動きを止めた。
力を加える方向を変える。
工事用の道具は本来の力を完全に発揮し数十キロ分の雪を枯れた川底から除けた。
『アレハッ』
発音がおかしい声がリザードマンから聞こえる。
マッシュが2度雪を除ける動作を繰り返すと、不格好な岩が外気にさらされた。
片手で保持して第3の目標へ。
今度は近くで見るだけで竜鉱石の出っ張りに気づき、20秒もかからず掘り出しが完了する。
「全滅させればいいのではないですかね、これ」
川の上流と丘の上から、激しい戦闘の気配が伝わってきていた。
最初から全力で歪虚排除を目指すと時間稼ぎされて最悪20メートルを超える大物増援が出現しかねないので仕方が無い面もある。
ひひんと馬がなく。
彼はスコップを腰につるし両手でそれぞれ竜鉱石を抱えて全力移動。川の側まで運んで自分の馬の左右に固定した。
「まあ、金になるのなら大歓迎、なのですが」
軽く息を吐いて振り返る。
複数方向から堅く大きな雪玉が飛び、小さな雪山あの影を調べていた紙で出来た人形が全壊する。
「ありました。これまでのより倍は大きいです」
「なんとまあ」
最も効率の良い道具を揃えた彼が、最も探索に優れた彼女の指示に従い龍の亡骸に向かった。
●丘強襲
「隠れている様に見えて全然気配を隠しきれて居ない」
フィルメリア・クリスティア(ka3380)は魔導二輪「龍雲」のアクセルを踏み、冷たい北の風を全身で感じる。
仲間からある程度離れて時点でハンドルを切る。
小さな丘が正面に移動し、動揺した気配が複数現れる。
「伏兵としては失格ね。それじゃ、引っ掻き回してあげましょうか」
速度を保ったまま坂を駆け上がり、跳んだ。
『見つかった。先に仕留めろ!』
7体のリザードマンが雪の中から起き上がる、
先頭に立つ1体は名品らしき大剣を装備しており発音にも違和感が無い。
フィルメリアはアクセルを踏み込んだまま片手でハンドルを切る。
リザードマン1隊の鼻先を掠めて右に向かい反転、構えたパニッシュメントを起点に青い炎を解き放つ。
『グァッ』
『肉ガ焼ケッ』
見た目は冷たく体感温度も低く、しかし対象を破壊する力は非常に大きい。
5体が蒼い焔へ巻き込まれて苦痛に満ちた悲鳴をあげた。
『下がるな。行』
銃声にわずかに遅れて隊長格の額に小さな穴が開き、倒れた。
「面倒な地形ね」
左手に射撃直後のベンティスカを構えたままアクセルを踏む。
両手を離しての運転だが問題は無い。
バイクから離れてジェットブーツを使えばさらに容易に敵を翻弄出来ただろうが、いつでも壊せる状態でバイクを放置するほど切羽詰まってはいない。
『ギッ!?』
焼いて、焼いて、雷纏う障壁ではじき飛ばして銃で止めを指す。
かかった時間は決して長くは無い。
しかし敵勢に反応を許さないと表現できるほどには短くもない。
真横から氷弾多数が飛来する。
大半を躱すか防ぐ。遮蔽物のない地形では連続攻撃を防ぐのはつらい。
『確実に仕留めるまで攻撃を緩めるな!』
北の丘でリザードマンリーダーが吠えている。
油断は無い。主力の1つを潰されてなお慢心できるほど馬鹿では無いのだ。
だが利口でも無い。全く予想外の方向から多数の弾が降り注ぐ。虚を突かれた彼とその部下は慌てて守りに集中してしまい、フィルメリアが射程外に逃れる隙をつくってしまう。
『馬鹿な、どこから』
制圧射撃で歪虚の作戦を砕いた瀬崎・統夜(ka5046)は、わざと雪まみれになりながら10メートルほど横にある凹みに滑り込む。
「敵のボス、中央ののっぽはまだいるか?」
トランシーバー越しに中傷以上重傷未満という報告が帰ってくる。
「ありがとよ」
仲間に礼を言い凹みから顔を出す。
生き残りのリザードマン主力が丘の上で動いている。
多少は頭がまわるようだ。リザードマンは身を伏せて射撃攻撃に備え、その上でスタッフスリングを巧みに操り射撃を再開していた。
統夜の口の端に苦笑が浮かぶ。
「判断が遅い」
練度の高い軍なら既に撤退を開始している。
気合いの入りすぎた軍なら全滅覚悟で敵重要目標……今なら龍の亡骸破壊に全てをかけている。
しかしリザードマン達は目の前の状況に対処しようとしているだけだ。
「このまま馬鹿な蜥蜴でいてもらおう」
これ以上近づくとさすがに気づかれると判断し銃を構える。
『攻撃に移』
指揮官が命令を出すタイミングで、狙い澄ませて弾を送り込む。
地面からわずかに顔を出す単なる石へ当たり、統夜以外は予想できない角度から銃弾が迫る。
リザードマンの脇腹に当たり口から意味の無い音が吐き出される。
素早く左右を見て、2度見直して統夜に気づく。
「どんな場所にも射線を通すのが狙撃手だ。覚えておきな」
『っ……。二手に分かれる。大剣持ちは私について突撃だ』
横から銃弾を浴びても動きは止めず、数体のリザードマンを率いて雪の丘から駆け下りていく。
出迎えたのは竜鉱石捜索を担当するスリング持ちリザードマンではなく、斜め横から降り注ぐ光の線だった。
リザードマンが大剣を盾として構える。
氷弾なら無傷ですませる程度に分厚く重い。だが飛来する光が持つエネルギーは巨大だ。厚い鉄を貫き鱗と肉と内蔵を焼いた。
『何の術だ』
指揮官は戸惑いを隠せない。
長い間人類と接触していないので機導師の存在も知らないのだ。
『無視しろ。人間にこれほどの術が何度も使えるはずが』
ないと言い終える前にコントラルト(ka4753)のデルタレイが発動。何体かのリザードマンは辛うじて躱し、残る数体と指揮官は直撃を受けて血を吐き出した。
「人間ごときがって思うんでしょうけれど」
光の雨は止まらない。
歪虚の指揮官が予想していたような命と引き替えに行使する術でなく、知識の蓄積と弛まぬ訓練と良質の装備がもたらす、今の人類にとっては普通の術なのだ。
『ダメダァッ』
指揮官の次に大きかった個体が悲鳴をあげて大剣を捨てた。
混乱し、コントラルトから逃げる方向へ、人間の守りが薄いように見えた川へ向かって走る。
士気の崩壊は止まらない。
あるリザードマンは指揮官を見捨て、またあるリザードマンは直前の命令以外何も考えずに前に向かって走る。
ひとり残された歪虚が、大剣を手に呆然と立ち尽くしていた。
「滅びるまでの間考えさせてあげるわ」
コントラルトは油断しない。
敵には近づない。
術が届く距離を維持して
光の線があたるたびに、リザードマンの鱗と肉が貫かれその存在を維持する力が失われていく。
「足りないお頭で考えてみてごらんなさい。なぜ私たちが南から出てこれるようになったのかを」
恐怖と絶望を浮かべて消えゆく歪虚の瞳を、彼女は特に感慨もなく見下ろすのだった。
●殺戮の川
かつて水が流れ、水で削られ、水が失われた地形に積もった雪。
濃密な負のマテリアルにさらされ続け、今では酷く不安定なものに成り果てた。
そんな死地に戦馬が踏み込んだ。
目視の時点で何があるか大まかに把握および推測。
蹄鉄が触れた時点で実際に何があったか確認して力加減と重さのかけかたを調整する。
「突撃を仕掛けます」
ヴァルナ=エリゴス(ka2651)は座標と距離をトランシーバーに語りかけて、柄を含めれば身長を超えるサイズの剣を鞘から抜いた。
愛馬が加速する。
彼女の意を察して絶妙の進路を選び、1列4体並んだリザードマンをかすめるように接近する。
スタッフスリングを回していた歪虚達にとり、ヴァルナ主従の動きの意図は分からず動きも追いきれない。
ただ、人馬の速度と重さが乗った刃が擦った時点で滅ぼされることだけは理解出来ていた。
「掘っていた跡、龍鉱石目当てですか」
小声でつぶやく間も両手剣を持つ手は不動だ。
端の歪虚が衝撃に耐えかね頭蓋を失い、次のリザードマンが胸から背骨まで切り裂かれ、3体目は躱そうとして足が滑った。
ヴァルナが瞬きする。
聖剣「ヴィジーリア」は3体目の胸に髪の毛1本より細い傷だけを残す。
「百発百中とはいきませんね」
4体目には回避も許さず腰を両断し、ヴァルナは馬上で後ろを振り返る。
リザードマンが恐怖で震えている。丘の方向から重装の歪虚が駆け下りてくる。
「ヴァルナさん、ここは私が」
ゴースロン種の上でワンドを構えたアニス・エリダヌス(ka2491)がヴァルナを促す。
うなずき新手の迎撃に向かうヴァルナを見送りながら、アニスは我が身のうちに押さえていたマテリアルを開放した。
苛酷な人生の中で磨かれたそれは透明でありながら強靱で、アニスの背後を守る形で広がり天使の翼のようだ。
攻撃する意思に従うマテリアルはワンドを中心に集まり、大型剣型の光となって安定した。
「私なら勝てると思いましたね?」
武器の大きさに回避の切れに受けの精度。どれもヴァルナに劣ると判断して露骨に安堵した歪虚に対し、アニスは特に怒った気配もなくワンドを横に振る。
ワンドは当たらない。
ワンドを覆う大型剣型の光も当たらない。
しかし新たに注がれたマテリアルは負のマテリアルを許さぬ力に変わり、1つ1つは薄く可憐な花弁が重なり合うようにして横へ横へ平面的に広がる。
上空から見れば、剣閃が巨大な円を描く破壊の渦に見えたはずだ。
リザードマンの腹から腰が大きく凹む。
痛みを感じる時間も与えられず倒れて絶命、それだけでなくヴァルナ相手に必死の防戦をしていた重装備リザードマンまで切り裂かれた。
『敵戦力全滅を確認。準備が出来ている人は龍鉱石回収作業を……』
「フィルメリアさん、今どこに」
丘で手を振る負傷した仲間に気付き、アニスは目を思わず見開いた。
『まぐれ当たりは怖いわね。治療お願いできる?』
アニスは警戒をヴァルナに任せて馬を駆けさせた。
●龍鉱石
マッシュが掘り出した龍鉱石が川の外へ運び出されていく。
「龍……丁重にお迎えしないといけませんね」
アニスが一度だけ手をあわせた。
はるか昔に命をかけて戦い抜き、龍鉱石として後の世に力を託した龍達がいる。
彼等に捧げたい感謝も儀式もやろうと思えば何時間でも喜んで続けられる。
「失礼します」
けれど今は時間が無い。
レオーネと一緒にテントの布で龍鉱石を梱包、可能な限り慎重かつ安全な持ち運びが出来るよう固定するしかない。
「できれば大きさを最優先して運びたいですね」
ティリルの表情は非常に硬い。
竜鉱石をこの場に残せば確実に歪虚に破壊される。
想像するだけで腹が立つ。でも今は感情より優先することがある。
「運んでください」
ゴムボートから伸びるロープをメーガンに手渡した。
ボートには毛布で保護した大型竜鉱石が固定され、隙間には小さめの竜鉱石がみっしり詰め込まれている。
「ぎりぎりいけますか」
残った竜鉱石と空荷の馬の数を比べて息を吐く。
確実に運べる。
ただし馬に負担をかけるのでハンターは徒歩になる上通常より速度が落ちる。
それでもやるしかない。
「この成果に、北の未来が掛かっていますから」
ハンター達は素早く荷造りを終えてカム・ラディに向かった。
歪虚増援の数十体が到着し人間と竜鉱石を探し始めたのはこれよりほんの数分後のこと。
戦場跡を数時間捜索して竜鉱石全てを掘り出されていたことに気づき、歯ぎしりすることになる。
依頼結果
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相談卓~よりよい結果を出す為に フィルメリア・クリスティア(ka3380) 人間(リアルブルー)|25才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2016/02/25 12:10:51 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/02/24 18:49:20 |