• 深棲

【深棲】星の友とタコ

マスター:藤城とーま

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/08/17 19:00
完成日
2014/08/23 22:23

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●リゼリオ内

 久しぶりに来たリゼリオは……やはり凄く、辺境とは違う――とファリフ・スコール(kz0009)は思った。
 立ち並ぶ煉瓦造りの建物と多様な服装の人々や露店。
 だが、人々はあわただしく過ぎ去っていく。
(……ラッツィオ島の歪虚のせいもあるよね)
 とても巨大な歪虚なのだという。

 辺境のユニオン『ガーディナ』のリーダー、リムネラも無事なようではあったが、普段柔らかな笑みを浮かべていたはずの彼女の顔も緊張で引き締まっていた。
 ファリフが気に掛けているのはもう一人……ヴァネッサは、きっとポルトワールのダウンタウンで色々と策を講じている事だろう。
(ヴァネッサさん……本当は会って一緒に戦いたいけど、僕らはヴァネッサさんだけじゃなくて、同盟の人たちが戦っている間、リゼリオで援護をするために来たんだから……)
 ファリフが不安そうな顔をしていると、一緒に来てくれた戦士らにも伝わってしまう。
 自分はスコール族の代表だ。しっかりしなくては――。
(赤き狼よ。僕らを見守っていてください)
 祖霊へと祈りを捧げ、ファリフが一度ガーディナへ戻ろうとすると……帝国の服を着た男に声を掛けられた。
「……ファリフ・スコール様ですね」
「なっ……帝国軍か、きみは! 何だっ」
 咄嗟に身構えたファリフだが、若い男は、ヴェルナーからの書状を持ってきたと伝えて赤い封蝋を施された手紙を彼女の前に差し出した。
 ファリフだけではなく、控えていた戦士らも驚きの表情を浮かべていた。
「……なんで、あの人が僕にそんな……」
「内容はそちらに記載してあり、受ける・受けないはあなたの判断に任せる、との事でした。それでは、確かにお渡ししましたので」
 差し出された手紙を受取ろうとしないファリフだったが、男は彼女の手を握って押し付けるように掌へ置くと、すぐに背を向けて去っていく。

「……ファリフ様。内容だけでも確認されてみては……」
「う、うん……」
 気は全く進まなかったが、わざわざ使者を出してまで持ってきた内容である。
 封を開けると、白い便箋に目を通す。

 内容としては、ハンターと協力してリゼリオにいる商人の護衛をしてほしい、とのことだ。
 港で荷の積み下ろしを行うが、最近の混乱に乗じて悪意ある人間や歪虚が襲ってこない……とは限らない。
 その中には、辺境の商人ギルド……『ゴルドゲイル』のものもある。
 ゴルドゲイルに被害が出れば、部族も要塞も物資の調達が滞るため、との内容が記載されていた。
 他にも要塞に出入りする商人はあるが、いくらヴェルナーであっても兵力を裂いてまで護衛させる余裕はない。
 部族会議内で、ファリフがリゼリオへ向かうと言っていたのを覚えていたのだろう。
 費用はきちんとした成果を上げてくれさえすれば、要塞側で出資してもいいともある。
 相互利益、といえば納得できるところもある。それとも……他に何らかの意図があるのか……。
 要塞内部の事は興味もないのでファリフもあまり知らないが、ヴェルナーの意見に従うのは気が進まない。

「……この人の事は好きじゃないけど、商人さん達が来なくなるのは皆が困るよね……」
 ファリフは唇を尖らせ、気乗りしない様子を見せたが……戦士らの説得もあり、やるしかないと腹を決めたようだ。
「探している仲間……星の友も見つかるかもしれないよね……ヴェルナーさんも星の友だったら、ちょっと嫌だけど」
 笑顔で『星の友です』と言ってくれるヴェルナーを想像したファリフは頭の中から追い払う。

 とりあえず、ファリフはハンターズソサエティに向かうことにしたようだ。

リプレイ本文

●リゼリオ港内

 荷を積んだ船が、数多く停泊するリゼリオ港。
 カイ(ka0104)は積荷の護衛として船上におり、海側の様子を注意深く眺めていた。
「どうぞよろしくお願いします」
 東條 克己(ka1076)は荷降ろしや商品のリストを見ながら作業をしている男たちに会釈しながら挨拶すると、最近変わったことや海の状況など……些細な事でも情報を得るため、彼らへと近づいていった。
 どうやらこうして商人が護衛をつける意味は、歪虚が活発になっていることのほか、急激な消費拡大のため、一部の店では品薄や値上がりも出たらしく、強奪を防ぐ意味もあるそうだ。
「なるほど……それで護衛を。ですが、荷物より命が大事です。有事の際の避難場所などをお伺いしても?」
 物資も重要だが人命は何よりも尊い。克己は彼らとも綿密な打ち合わせを行っていた。

 波は穏やかで、海上を風に乗って飛んでいる海鳥たちも気持ちよさそうだった――が、突然、その海鳥がけたたましい声を上げた。
(なんだ……?)
 はっと顔を上げたカイが咄嗟に周囲へと視線を走らせた瞬間、船体が大きく左右に揺れる。
「ひええ、歪虚だー!!」
 作業員が悲鳴を上げ、荷物などそっちのけで蜘蛛の子を散らすようにその場を離れていくのが見える。
 水面に、にょきりと現れた――吸盤が無数についた赤い触腕。船体に取り付くと、それにしがみつきながら顔……いや、細長い胴を出した。
「わぁ?! あれは……ええと、タコ……だったっけ?」
 内陸部で育ったファリフ・スコール(kz0009)は、目を丸くして海面に現れた歪虚を見つめる。
「いや……あれはタコというか……イカなのか? どちらともつかないが……いろいろな意味で『悪意ある』生き物のようだな」
 判断に困っているらしい伊勢 渚(ka2038)は、眉をひそめて謎の歪虚を凝視する。
 体は赤いが、足を広げた大きさは渚の身長をゆうに越える。
 船上では、克己とカイが船員に下がるよう告げ、上がってくる雑魔を睨んでいた。
「タコなのに足が8本とは、これイカに……ってな!」
 ニヤニヤと笑いながらジョークを言うナハティガル・ハーレイ(ka0023)だったが、ファリフが首を傾げる。
「え、タコの足は8本なんじゃないの? イカは10本って聞いたよ」
「マジで言ってんのかよファリフ。イカの頭は丸くねェよ。どうしたらタコに見えるんだッつの」
 もーいろいろイカでいいだろ、と面倒くさそうに言うナハティガル。
 悩ましいイカタコ問題が発生しているが、そんなものどうでもいいやろ、とばかりにもう一匹タコ雑魔が現れた。
「あっ、またタコが!」
「イカだろ!」
 ファリフとナハティガルの言葉をまぁまぁと宥める星垂(ka1344)は、二人の間に入ると笑顔を向けた。
「ボクはイカでもタコでもどっちでもいいけどさ……切り身にして炙ったやつを冷や酒でキュッとやりたくなるような雑魔、だって事は分かるよ……未成年だから出来ないのが残念だけどね」
 ふふ、と笑ってから『そろそろ退治しなくちゃ』と言って、星垂は日本刀を構える。
「そーだな。二体同時に相手するってのは正直ツライけど……やるしか無ェよな!」
 ナハティガルは船上の克己に視線を向け、合図を行う。
「まずは、積荷が乗った船から敵を引き離すことが先です!」
「了解。それじゃファリフ、スコール族の戦士さんも手伝ってくれよな!」
「任せて! いくよ、みんな!」
 ファリフ率いるスコール族は、協力して歪虚の気を引き陽動と挑発を行うことにしたらしい。
「ほら、そっちは美味しくないよ?」
 星垂は雑魔に向かって声をかける。
 克己は船体に傷を付けぬよう気を配りながら、船上より雑魔の足へ攻撃を当てていく。ここで集中的に攻撃を浴びせ、倒すことが出来れば上々でもあるし、万一陸上へ上がって仲間のところへ向かっても、連携がとりやすくなる。
 無数の攻撃を浴びせられ、一向に船上へ向かえない雑魔の機嫌も悪くなってきたようだ。ぎょろりとした赤い瞳を星垂に向け、くるりと一匹が向きを変える。
「よし、一匹があっちに向かったようだ……オレたちはこっちを担当して撃破するとしよう!」
 渚は水中用アサルトライフルで強弾をタコの頭部に狙いを定めて打ち込み、覚悟しろよと呟く。
「何しにきたかは興味も無いが、オレの前に立ちふさがるって事は……悔い改めにきたって事でいいんだな?」
 誅される、という結論しかないのだが、雑魔にそれが分かるはずもない。タコ型雑魔は、彼へ向かってその手を伸ばす。
 それを素早く避けつつ、強弾を触腕へたたき込んだ渚は、チッと舌打ちする。
「やれやれ……タバコが不味くならないよう気をつけないとな……」
 荷台の上に愛用のタバコを置き、その場を離れて再び戦闘に加わっていく。


 タコがナハティガルを狙って真っ黒の墨を吐いた。
 僅かに届かず、地面へ飛び散った墨だまり。
「ハッ、どこ狙って……? げっ、汚ねェ」
 その一部が足にかかった。粘着性のあるソレに、ナハティガルの顔が歪む。
「なんだこりゃ……イカ墨みてぇに粘っこいぞ?!」
 やっぱりイカじゃねーのか、と毒づくナハティガル。肉体的なダメージはないようだが、精神的にやや不快指数が上がったようだ。
「うわぁ、ボクもあの攻撃は受けたくないな……洋服が汚れちゃう」
 嫌そうな表情を浮かべた星垂は、海上からのそのそと陸地へ上がってきたタコに近づき、素早くタコの胴体前へ回り込むようにして間合いに入る。
(タコの弱点は目と目の間……ここを狙って行けば……)
 星垂は即座に柔らかい顔へと躊躇なく日本刀での突きを繰り出した。
 それが効いたのかタコの色が白っぽく変化し――、次の瞬間狂ったように触腕を振り回す。
 刀を引き抜くと瞬時に後方へと下がり、星垂を狙っていた太い触腕は空を切った。
「胴体は特に硬いというわけでは無いようだな……」
 一方で倒されかけているタコを見て、渚はふむ、と感嘆の声を上げた。
「足一本ずつ潰すのも悪くないが、生憎オレにいたぶる趣味はないんでな。楽にしてやるよ」
 歪虚退治に時間を掛けたくはないし、早く倒して仲間の加勢に移りたいというのも本音である。
 スコール族の戦士が弓で応戦し、長い胴を狙って矢を射っていた。タコの胴には放たれた矢がいくつも突き刺さっているが、覚醒者ではないスコール族の戦士たちの攻撃は、歪虚を弱らせるのに十分な攻撃を加えられているわけではない。
 それに、このタコも狂気の歪虚というわけあって、がむしゃらに攻めてくる。
 船上のカイ目がけてタコ墨が水鉄砲のように飛ばされたが、カイはそれを即座に躱す。
(このままでは、荷に被害が及ぶな……やむを得ない)
 甲板を汚す墨を横目で見たカイは、ロングソードを携え、船から飛び降りる。
 ロングソードを下向きに構え、体重を乗せた一撃をタコの胴体上部へと落とす。
 タコが苦しげにもがき、長い触腕がカイの胴を打つ。
「くっ……」
 攻撃が当たる瞬間、引き抜いた剣を盾がわりに構えたものの、その力は強い。
 体制を整え、渚の近くへ着地したカイは、衝撃を和らげるため片膝をつく。
「大丈夫か?」
 渚が牽制の射撃を行いながらカイへと声をかけると、無口な男は頷きを返して問題ない事を告げている。

「そのタコも先ほどより、若干動きが鈍くなりました……一気に畳み掛けましょう!」
 克己がナハティガルに声をかけ、膝射でタコが振り上げた足を狙った。
 船上から星垂たちが戦っているタコまで少々距離がある。ぶれないよう射撃の瞬間に呼吸を止め、マテリアルを強く込めて強弾を使用。
 弾は見事に命中し、筋肉の塊のような触腕に風穴を開けた。
 千切れかけた腕で星垂を狙ったが、触腕の先はあらぬ方向を向いており、彼女には当たらない。
「あれあれ? 残念だったね! このまま少しずつ、切り身にしちゃうよっ♪」
 にこりと微笑んだ星垂は、地面を叩いた触腕の先を素早く斬り飛ばす。
 2、3度小さくバウンドした腕先は、うねうねと数秒の間激しく動いたが、徐々に黒くなって消えていく。
「特に弱点が無いイカよりゃ、タコの方がマシ……ってか? ともあれ、これでくたばんなッ!」
 星垂にタコが気を取られている間にナハティガルは踏込と強打を使用してタコの眼前へと移動し、クレイモアを両目の間へ差し込むようにして突き入れた。
 剣から手に伝わる柔い感覚に、ナハティガルも嫌そうな顔をしたが、これが必殺の一撃だったのだろう。
 タコは身体を紅白に明滅させ、もがくように地面を触腕が這い回り……やがて、ピクリとも動かなくなった。


 残すところはあと一匹。
「集中的に攻撃すれば倒せるはずです。波状で行きましょう!」
 前衛の援護をすべく克己も船上から降り立ち、緋色の瞳でタコを見据える。
 8本の足は完全に残ってはいるが、渚たちが弱点を集中的に狙っていたため、仲間と連携して押していけば――難しい相手ではないだろうと推測する。
「援護を……頼む」
 カイと星垂がタコへと向かい疾走していき、克己が射撃でタコの攻撃を牽制する。
 鋭い斬撃がタコの顔を切り裂き、斬り付けの隙を縫うように渚の放った銃弾がタコの右眼を潰す。
「イイカンジの連携じゃねーか? ま、タコといつまでも遊びたくは無ェし?」
 ナハティガルが死角となった右方向から攻め、胴体を薙ぐ。
 皮が裂けタコの身……白い肉が露出し、己の体を傷つけられて、憤慨したかのようにタコの口から墨が吐きだされ、周囲にまき散らされる。
「癇癪を起こすと、嫌われちゃうよ! 僕も落ち着けってよく怒られるんだから!」
 ファリフがぷんぷん怒りながらバトルアックスを振り、さらにタコの胴体を痛めつける。
 彼女が怒られるのは、一族の長であるが不慮の出来事に直面すると、慌ててしまう節があるからだ。
「そろそろトドメといこうか」
 カイが再び強打で攻め、仲間に合図を送る。
「そうですね。出し惜しみはしません……!」
 克己も力強く頷くと強弾を使用し、拳銃で狙い撃つ。長い胴の至る所に弾痕が開いた。
「てやああッ!」
 気合と共に、星垂の一閃が振るわれ、タコの顔肉と共に口が切り裂かれる。
「そろそろタバコが恋しいんだ……これで終いにしようぜ、デカブツ!」
 渚の水中用アサルトライフルから、マテリアルを多量に含んだ銃弾が射出され――吸い込まれるように眼間へと直撃し、体内へとめり込んだ。

 これが決定的だったのか――タコはだらしなく胴体をふらつかせ、ゆっくりと地面に倒れた。


●討伐完了!!

 歪虚を倒したハンター達は、すぐに商人や作業員と一緒になって荷物や被害状況の確認に移る。
 無事を確認した彼らはほっとした表情を浮かべ、渚はタバコを、ナハティガルは葉巻を満足そうな表情で咥えた。
「あのタコイカ野郎のせいで、あわやタバコが不味くなるところだったが……仕事が無事に終わった後の一服は最高だな」
 ふぅ、と紫煙を空へ向かって吐き出した渚。
 その横で、難しい顔をしながらナハティガルがファリフを見つめていた。
「どうしたの……? ちょっと疲れた?」
 視線に気づき、ファリフも彼を怪訝そうな顔で見上げる。
「なぁ? ファリフ……、俺はやっぱり、あの雑魔はイカだと思うんだわ……」
 納得できない事にはとことん突き詰めないと気が済まないタイプなのか、ナハティガルは『歪虚はイカだよ派』としての意見を譲らないようだ。
(また蒸し返してしまうのか……。まぁ、首を突っ込むと折角のタバコが味わえなくなるな)
 隣で何ともいえぬ顔をしているのは渚だ。話には加わらない方向で、黙ってタバコをくゆらせている。
「違うよっ! だって赤かったし、足8本だったからタコだよ! 絶対タコ!」
 かくいうファリフは『特徴からあれはタコだよ派』のようだ。
 克己は二人の様子を困った表情で眺め、カイは我関せずといった体で船の方を眺めていた。
「あはは……まだ、やってるんだ……」
 冷や汗を浮かべつつ『どっちでもいい派』の星垂は苦笑いをしていた。
 さて、この歪虚は一体タコだったのかイカだったのか……調査ができない以上、真相は闇の中にある――……。

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MVP一覧

  • 仕事人
    東條 克己ka1076
  • 静かな闘志
    星垂ka1344

重体一覧

参加者一覧

  • 一刀必滅
    ナハティガル・ハーレイ(ka0023
    人間(紅)|24才|男性|闘狩人

  • カイ(ka0104
    人間(紅)|21才|男性|闘狩人
  • 夢を魅せる歌姫
    ケイ・R・シュトルツェ(ka0242
    人間(蒼)|21才|女性|猟撃士
  • 仕事人
    東條 克己(ka1076
    人間(蒼)|23才|男性|猟撃士
  • 静かな闘志
    星垂(ka1344
    エルフ|12才|女性|霊闘士
  • 白煙の狙撃手
    伊勢 渚(ka2038
    人間(紅)|25才|男性|猟撃士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン ファリフに質問!
ナハティガル・ハーレイ(ka0023
人間(クリムゾンウェスト)|24才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2014/08/15 22:14:33
アイコン 相談卓
星垂(ka1344
エルフ|12才|女性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2014/08/17 13:05:53
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/08/14 04:45:31