ゲスト
(ka0000)
妖精の住まう花嫁に星の幸運を
マスター:真太郎

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 6~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 寸志
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/03/02 15:00
- 完成日
- 2016/03/10 06:26
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
私の名前はエリシィス・アインベルク。
私の頭の中には妖精が住んでいて、妖精の命と私の命は繋がっている。
妖精は小さくてすぐに死んでしまうから、激しい運動はしてはいけない。
子供の頃にそう言われて育てられてきた。
でも大人になったある日、私は真実を教えられた。
私の頭の中にいるのは妖精ではなく、血の詰まった腫瘍なのだと。
その腫瘍は年々大きくなり、それが破れた時、私は死ぬのだと。
そう聞かされた私は目の前が真っ暗になった。
それは生まれて初めて絶望を感じた瞬間だったろう。
でも、リアルブルーの医療技術なら私の腫瘍を取り除けると、お父様は言った。
腫瘍を取り除けば運動でも何でもできるようになると。
私の絶望は一瞬にして希望に変わった。
ずっと篭りがちだった私の生活が一変する明るい未来を夢想した。
でもメイド達の噂話を耳にした途端、そんな夢想は消え去った。
私の手術の成功率は50%だと言うのだ。
お父様に問いただしたら『そんな事はない』と言っていたけれど、それはすぐに嘘だと分かった。
お父様は昔から嘘がヘタなのだ。
50%……。
半分の確率で私は死ぬ。
その事実を前にして、私は急に怖くなった。
嘘だと信じたかった。
頭にいるのは腫瘍じゃなくて妖精なんだから手術なんて受けなくていい。
だから私は死んだりしない。
そう思いたかった……。
けれどそんな夢想をしても現実からは逃れられず、死は私の中で日毎に重みを増していった。
それと同時に私はこれまでの人生を思う事が多くなった。
体は健康なのに他の子達と同じようには遊べず、家に篭って毎日を過ごす。
そんな人生だった。
なんて寂しい人生なんだろう。
そんな生活を過ごしただけの人生で私の一生は終わってしまうのか……。
酷く虚しくなった。
もっと生きたい。
もっと彩りのある人生を過ごしたい。
でも手術を受けるのは怖い。
死ぬのは怖い。
どうすればいいの?
どうすればいいの?
分からない。
分からない。
誰か助けて。
助けて。
助けて……。
そんな焦燥感に打ちひしがれる日々を過ごしていたある日、幼馴染で庭師の息子のケイが私を訪ねてくれた。
「エリはサルバトーレ・ロッソって船を知ってる?」
異世界から来た船だという噂話くらいは知っていたので、私は頷いた。
「その船は空の彼方、星の世界を渡ってきたんだって」
異世界ではなく、星の世界から?
「だからその船には幸運を呼び寄せる星の力が宿っている。だからサルバトーレ・ロッソの見える教会で結婚したカップルは星の幸運を授かって一生幸せになれるらしいよ。だから……えっと……その……」
ケイはそこで口篭り、妙に真剣で強張った表情をした。
こんな顔をしたケイは初めて見る。
私は「どうしたの?」と尋ねようとした。
「結婚しよう!」
ケイは私の手を取り、勢い込んで告げてきた。
ケイの顔が近い。
息が止まる。
ケイの真剣な瞳から目を離せない。
ケイは家の庭師の息子で、私の子供の頃からの友達で、私がずっと好きだった人。
そんな人が私の事を……。
でも私はもうすぐ死んでしまうかもしれない。
そんな私と結婚してもケイを悲しませるだけかもしれない。
私は……。
私はどうすれば……?
「エリの手術の成功率が低い事は知ってる。それでも僕はエリが好きだ! エリを失いたくない! だから僕とリゼリオへ行こう。そして星の幸運を手にして、この先もずっと一緒に生きていこう! 2人で、ずっと……」
歓喜が胸から込み上げてくる。
嬉しいのに目が涙で潤んでくる。
頬が熱い。
きっと顔は真っ赤だ。
嬉しさで顔や頬が緩む。
私、顔を真っ赤しながら涙を流して笑ってる。
きっと変な顔だ。
でも幸せすぎて止められない。
嬉しい……。
嬉しいよケイ。
私、アナタを好きになってよかった。
私の心から、不安が消えた。
私の未来はきっと薔薇色だ。
今はもうそう思える。
私は喜び勇んでお父様にケイと結婚する事を報告に行った。
「ばかもーーーん!! 手術前に結婚だ? しかもリゼリオで? 何を馬鹿な事を言っている。リゼリオまでは船で行くしかないぞ。お前は船に乗った事などあるまい。それどころか旅すらした事もなかろう。道中に何かあったらどうする? 嵐にあったら船は大きく揺れるぞ。頭を打ったらどうするつもりだ!」
「ちゃんと天気の良い日を選んで行くわ」
「そういう問題ではない!!」
お父様は一喝すると、大きくため息をついた。
「ワシはな、別に結婚に反対しておるわけではない。だが何故リゼリオなのだ? この町にだって教会はあるだろう。それに何故手術後ではいかん? 何を急いでおるのだ?」
私はお父様にサルバトーレ・ロッソがもたらす幸運の事を話した。
「なるほどな。お前の気持ちも分からなくはないが……。やはりダメだ。危険すぎる。結婚式は手術の後にしなさい。分かったね」
手術後では意味がないのです、お父様。
私は今、手術に対する幸運と勇気が欲しいのです……。
だから私はお父様の許しを得ることなく、ケイと共にリゼリオに行く決心をし、準備を始めた。
決行前夜、私は緊張と興奮で眠れない夜を過ごしていた。
明日、私はケイの花嫁となる。
そう思うと嬉しさで自然と笑みがこぼれてくるのだ。
「お嬢様」
そんな時、ばあやが部屋を訪ねてきた。
「どうしたのばあや?」
「お嬢様の計画、旦那様にバレております」
「え!」
「旦那様は屋敷の者達を使って、明日のお嬢様の計画を止めるおつもりです」
「そんな……」
「今すぐに御発ちくださいお嬢様。今ならまだ旦那様の裏をかけるやもしれません」
「ありがとう、そうするわ」
「ケイ様にはお嬢様を迎えに来てくださるよう手配してあります」
ばあやには昔から助けられてばかり、本当にありがとう、ばあや。
私は急いで支度してケイと合流し、馬小屋に向かった。
「エリ! 止まって!」
「どうしたのケイ?」
「馬車が見張られてる」
「え!」
こっそり馬小屋を覗うと、予め用意していた馬車の近くにお父様のメイド達が立っていた。
これでは近づいた途端に見つかってしまうだろう。
でも私の足じゃ馬車なしで港まで行けない。
いったいどうすれば……。
「エリ、町へ行こう。そしてハンターオフィスで護衛と馬車を雇うんだ。ハンターと一緒なら旦那様の追っ手も振り切れるよ」
「そうね。行きましょう」
世間知らずの私と違ってケイはやっぱり頼りになるわ。
私達は手に手を取ってハンターズソサエティに向かった。
そして事情を話し、今ある手持ちのお金で依頼を受けてくれる人を探してもらった。
更に馬車も用意してもらったのだけど、何故か2台あった。
理由は聞くと、もう1台は囮に使うという事だった。
私の頭の中には妖精が住んでいて、妖精の命と私の命は繋がっている。
妖精は小さくてすぐに死んでしまうから、激しい運動はしてはいけない。
子供の頃にそう言われて育てられてきた。
でも大人になったある日、私は真実を教えられた。
私の頭の中にいるのは妖精ではなく、血の詰まった腫瘍なのだと。
その腫瘍は年々大きくなり、それが破れた時、私は死ぬのだと。
そう聞かされた私は目の前が真っ暗になった。
それは生まれて初めて絶望を感じた瞬間だったろう。
でも、リアルブルーの医療技術なら私の腫瘍を取り除けると、お父様は言った。
腫瘍を取り除けば運動でも何でもできるようになると。
私の絶望は一瞬にして希望に変わった。
ずっと篭りがちだった私の生活が一変する明るい未来を夢想した。
でもメイド達の噂話を耳にした途端、そんな夢想は消え去った。
私の手術の成功率は50%だと言うのだ。
お父様に問いただしたら『そんな事はない』と言っていたけれど、それはすぐに嘘だと分かった。
お父様は昔から嘘がヘタなのだ。
50%……。
半分の確率で私は死ぬ。
その事実を前にして、私は急に怖くなった。
嘘だと信じたかった。
頭にいるのは腫瘍じゃなくて妖精なんだから手術なんて受けなくていい。
だから私は死んだりしない。
そう思いたかった……。
けれどそんな夢想をしても現実からは逃れられず、死は私の中で日毎に重みを増していった。
それと同時に私はこれまでの人生を思う事が多くなった。
体は健康なのに他の子達と同じようには遊べず、家に篭って毎日を過ごす。
そんな人生だった。
なんて寂しい人生なんだろう。
そんな生活を過ごしただけの人生で私の一生は終わってしまうのか……。
酷く虚しくなった。
もっと生きたい。
もっと彩りのある人生を過ごしたい。
でも手術を受けるのは怖い。
死ぬのは怖い。
どうすればいいの?
どうすればいいの?
分からない。
分からない。
誰か助けて。
助けて。
助けて……。
そんな焦燥感に打ちひしがれる日々を過ごしていたある日、幼馴染で庭師の息子のケイが私を訪ねてくれた。
「エリはサルバトーレ・ロッソって船を知ってる?」
異世界から来た船だという噂話くらいは知っていたので、私は頷いた。
「その船は空の彼方、星の世界を渡ってきたんだって」
異世界ではなく、星の世界から?
「だからその船には幸運を呼び寄せる星の力が宿っている。だからサルバトーレ・ロッソの見える教会で結婚したカップルは星の幸運を授かって一生幸せになれるらしいよ。だから……えっと……その……」
ケイはそこで口篭り、妙に真剣で強張った表情をした。
こんな顔をしたケイは初めて見る。
私は「どうしたの?」と尋ねようとした。
「結婚しよう!」
ケイは私の手を取り、勢い込んで告げてきた。
ケイの顔が近い。
息が止まる。
ケイの真剣な瞳から目を離せない。
ケイは家の庭師の息子で、私の子供の頃からの友達で、私がずっと好きだった人。
そんな人が私の事を……。
でも私はもうすぐ死んでしまうかもしれない。
そんな私と結婚してもケイを悲しませるだけかもしれない。
私は……。
私はどうすれば……?
「エリの手術の成功率が低い事は知ってる。それでも僕はエリが好きだ! エリを失いたくない! だから僕とリゼリオへ行こう。そして星の幸運を手にして、この先もずっと一緒に生きていこう! 2人で、ずっと……」
歓喜が胸から込み上げてくる。
嬉しいのに目が涙で潤んでくる。
頬が熱い。
きっと顔は真っ赤だ。
嬉しさで顔や頬が緩む。
私、顔を真っ赤しながら涙を流して笑ってる。
きっと変な顔だ。
でも幸せすぎて止められない。
嬉しい……。
嬉しいよケイ。
私、アナタを好きになってよかった。
私の心から、不安が消えた。
私の未来はきっと薔薇色だ。
今はもうそう思える。
私は喜び勇んでお父様にケイと結婚する事を報告に行った。
「ばかもーーーん!! 手術前に結婚だ? しかもリゼリオで? 何を馬鹿な事を言っている。リゼリオまでは船で行くしかないぞ。お前は船に乗った事などあるまい。それどころか旅すらした事もなかろう。道中に何かあったらどうする? 嵐にあったら船は大きく揺れるぞ。頭を打ったらどうするつもりだ!」
「ちゃんと天気の良い日を選んで行くわ」
「そういう問題ではない!!」
お父様は一喝すると、大きくため息をついた。
「ワシはな、別に結婚に反対しておるわけではない。だが何故リゼリオなのだ? この町にだって教会はあるだろう。それに何故手術後ではいかん? 何を急いでおるのだ?」
私はお父様にサルバトーレ・ロッソがもたらす幸運の事を話した。
「なるほどな。お前の気持ちも分からなくはないが……。やはりダメだ。危険すぎる。結婚式は手術の後にしなさい。分かったね」
手術後では意味がないのです、お父様。
私は今、手術に対する幸運と勇気が欲しいのです……。
だから私はお父様の許しを得ることなく、ケイと共にリゼリオに行く決心をし、準備を始めた。
決行前夜、私は緊張と興奮で眠れない夜を過ごしていた。
明日、私はケイの花嫁となる。
そう思うと嬉しさで自然と笑みがこぼれてくるのだ。
「お嬢様」
そんな時、ばあやが部屋を訪ねてきた。
「どうしたのばあや?」
「お嬢様の計画、旦那様にバレております」
「え!」
「旦那様は屋敷の者達を使って、明日のお嬢様の計画を止めるおつもりです」
「そんな……」
「今すぐに御発ちくださいお嬢様。今ならまだ旦那様の裏をかけるやもしれません」
「ありがとう、そうするわ」
「ケイ様にはお嬢様を迎えに来てくださるよう手配してあります」
ばあやには昔から助けられてばかり、本当にありがとう、ばあや。
私は急いで支度してケイと合流し、馬小屋に向かった。
「エリ! 止まって!」
「どうしたのケイ?」
「馬車が見張られてる」
「え!」
こっそり馬小屋を覗うと、予め用意していた馬車の近くにお父様のメイド達が立っていた。
これでは近づいた途端に見つかってしまうだろう。
でも私の足じゃ馬車なしで港まで行けない。
いったいどうすれば……。
「エリ、町へ行こう。そしてハンターオフィスで護衛と馬車を雇うんだ。ハンターと一緒なら旦那様の追っ手も振り切れるよ」
「そうね。行きましょう」
世間知らずの私と違ってケイはやっぱり頼りになるわ。
私達は手に手を取ってハンターズソサエティに向かった。
そして事情を話し、今ある手持ちのお金で依頼を受けてくれる人を探してもらった。
更に馬車も用意してもらったのだけど、何故か2台あった。
理由は聞くと、もう1台は囮に使うという事だった。
リプレイ本文
馬車で町を出るには西門か東門のどちらかを通らなければならない。
しかしどちらの門にも見張りがいる。
そこでシルヴェーヌ=プラン(ka1583)はエリィシスに、キー=フェイス(ka0791)はケイに変装して囮になってもらう事となった。
キーはケイと服を交換し、馬車に自分の愛馬を繋いだ。
シルヴェーヌもエリシィスと服を交換すると、長い銀髪をリボンで纏めて帽子を被り、更にファー・マフラーとホワイトスノーコートを着る。
これで一目では見破られなくなるがエリィシスにも見えないため、指輪を嵌めてブーケも持った。
「勇気が欲しい、か。そうだよな……例えこれが9割大丈夫とか言われても、何か安心するようなものとか、頑張る為の支えが欲しいものだよな」
「それに自分の人生なんですから、納得できる選択をしたいものですよね」
グリムバルド・グリーンウッド(ka4409)と保・はじめ(ka5800)はエリシィスの心情に共感したため、手を貸そうと思った。
八原 篝 (ka3104) も心情を理解していたが、エリィシスには尋ねておく事があった。
「反対したお父さんの気持ちは良く考えたの? 危険は覚悟している?」
「……はい。お父様が私を想ってくれている事は分かります。でもお父様の言うとおりにして、もし手術に失敗したら……私は未練を残し、過去を悔やんだまま死ぬでしょう。
でも今リゼリオに行けば、例え手術が失敗したとしても、私は自分を誇らしく思って死ねると思います」
エリシィスの瞳には断固たる決意が満ちていた。
「そう……分かったわ。それだけの覚悟があるなら力を貸すわ」
篝は険しく問い詰めていた表情を柔和させた。
「俺もお二人さんさんの幸せの為に、精一杯やらせてもらうぜ」
グリムバルドも笑顔で親指を立てる。
やがて朝一番の船の出港時間が迫り、作戦が開始される時刻になる。
「ケイ」
キーはケイを呼び止めるとコインを弾いて手で掴んだ。
「2分の1を引いてみろよ。裏が出れば俺の勝ち、表が出ればお前の勝ちってな」
「いいでしょう。受けて立ちます」
「え! ケイ……」
外れれば縁起の悪い勝負にエリィシスの表情が曇る。
「いくぜ」
キーが手を開くとコインは表だった。
「ふぅ……」
不安に染まっていたエリシィスの表情に安堵が浮かぶ。
「幸運のお守りだ。持って行け」
キーはケイに向かってコインを弾くと、シルヴェーヌを連れて馬車に向かう。
「あれは表だけが出るイカサマコインじゃろ」
シルヴェーヌが小声で尋ねる。
「ただの幸運のコインだよ」
見透かされていたがキーはうそぶき、シルヴェーヌの手を引いて荷台に引き上げた。
そして毛布を被り、ケイとは違う髪色を隠す。
「病弱な新婦とは……こんな感じかのぅ?」
シルヴェーヌはキーの隣に座るとギュとしがみついた。
「あ、あぁ、そんな感じだと思うぜ」
キーも軽く抱きしめ返すと、シルヴェーヌの頭を軽くあやし、髪を撫でる。
(シルヴィのヤツなんでこんなにいい香りがするんだ? 体も柔らかくて温かいし……。くそっ! 今はドキマギするような状況じゃないぞ。落ち着け俺!)
キーはシルヴェーヌに内心を気取られないよう平静を保とうとした。
「なんじゃ? 鼓動が早いのぅ。緊張しておるのかのぅ?」
(バレた!)
「わしらの役目は囮じゃ。危険は少ないじゃろ。もっと肩の力を抜くのじゃ」
シルヴェーヌはキーを安心させるために優しく微笑んで頭を撫でてくる。
(ドキドキしてるのはお前になんだよ! そんな事されたらもっと緊張するだろうが!)
とは言えないキーは。
「そうだな」
と返すのが精一杯だった。
「じゃ、出発するぜ」
グリムバルドの運転で囮の馬車が出発。
門まで来ると見張りらしい人影が慌しく動くのが見えた。
(うまく喰いついてくださいよ)
保は見張りに気づかないフリをしながら門を抜けた。
「そろそろこっちも出発するわ。2人とも乗って」
囮の出発から数刻経った後、八原 篝(ka3104)はエリシィスとケイを荷台に乗せた。
荷台には樽や空箱などを積み込んで2人が隠れやすいようにしてあり、ルカ(ka0962)の作った偽装人形も乗っていた。
「あの……これは何ですか?」
ケイが思わずそう尋ねてしまう。
なぜなら偽装人形は布に藁詰めて紐で形作った物にローブ着せただけの簡素な物だったからだ。
「御二人を模した人形です。仲睦まじく見える様に寄り添わせてみました」
ルカが解説してくれたものの、遠めには人っぽく見えるかもしれないが、近くで見れば単なる大きい藁人形である。
「誰かに見られそうな時にはこれを被ってください」
ルカが底蓋を外した樽を見せる。
「はい」
「分かりました」
「揺れると思いますから気をつけてくださいね。では行きます」
2人の安全を確認したルカは馬車を出発させた。
門を通り過ぎる時は警戒したが、見張りらしき人影は見えなかった。
「囮に引っかかってくれたんでしょうか?」
「だといいんだけど、十分に警戒していきましょう」
ルカはエリィシスの体を気遣って揺れないように、でもできるだけ速く馬車を走らせる。
篝は周囲の警戒を怠らない。
港までの行程の半分までは何事もなく行けたが、やがて後方から2頭の馬が接近してくるのを篝が発見する。
「何か来た! 2人は隠れて」
「はい!」
エリシィスとケイは言われていた通り樽を被る。
篝が目を凝らすと、馬に乗ってるのはメイドと執事に見えた。
「……」
目を擦ってもう一度見たが、やはりメイドと執事だ。
「なんか……メイドと執事が追ってきてるんだけど……」
「え? メイドと執事?」
ルカも思わず後ろを振り返ってしまう。
「たぶんお父様のメイドと執事だと思います」
樽からくぐもったエリシィスの声が聞こえる。
「気をつけてください。お父様の使用人はほとんど覚醒者か元ハンターです。その2人もたぶんそうだと思います」
「はあ!? 執事とメイドが追手で覚醒者? どんな家なのよ!」
篝は呆れ返りながらも『短弓「テムジン」』を構え、殺傷力を抑えるために予め鏃を外しておいた矢を番える。
『ダブルシューティング』で2人同時に狙ったが、メイドには避けられ、執事は命中したが落馬はしなかった。
「くっ! いきなり射ってきた!?」
「怪しいわ。止めるわよ」
追手が速度を上げて迫ってくる。
「落ちなかったか……」
「篝さん樽を落とす準備をして下さい」
篝は次の矢を番えようとしたが、ルカに言われた通り準備する。
ルカは追手との距離を慎重に見極め、予め用意しておいた塩を後方に振りまいた。
「今です!」
その直後に樽を落とす。
「うっ!」
「目がっ!」
塩が追手の目潰しになると同時に、馬が樽で足を取られた。
「わっ!」
追手が馬を御しきれずに落馬する。
「よし!」
篝は馬車から飛び降りるとメイドが起き上がる前に手足を拘束した。
残る執事は魔導短伝話を取り出したが、使われる前にルカが魔導拳銃で撃って破壊する。
「お前達……何が望みだ」
「とある恋人達の幸せよ。だから大人しく縛られてほしいの」
篝はルカと二人掛りで執事も拘束した。
一方、囮の馬車は門を出てしばらくした頃から馬に乗ったメイド2人に追いかけられていた。
「お嬢様ー!」
「お戻りくださいお嬢様ー!」
「早速お出ましか」
グリムバルドは手綱を握りながら振り返り、『リボルバー「ピースメイカー」』を撃つ。
「撃ってきたわ?」
「なんて野蛮な!」
牽制なので弾は外したが、追手は怯むどころか怒りを露にして加速してくる。
「あまり近寄られると困るんですよ」
保は追手の頭上に符を投げると『風雷陣』を発動。メイド達に稲妻が降り注ぐ。
「キャー!」
威力は抑えたのでメイド達のダメージは少ないが、馬が驚いて暴走し始める。
「今のうちに引き離すぞ」
その隙にグリムバルドは馬車に鞭打ち、加速させる。
だがしばらくすると、馬をなだめ終えたメイド達が再び追ってきた。
「しつこいですよ!」
しかし保が『風雷陣』を放つと馬は怯えて失速する。
そのためメイド達は馬車に近づく事さえできなくなっていた。
キーは予め放っておいたフクロウの眼を通して『ファミリアズアイ』で状況を把握し、それをシルヴェーヌに聞かせた。
「それなら追手をわしらに引き寄せ続けていられそうじゃ」
「いい時間稼ぎになってるぜ」
ギーとシルヴェーヌは満足気にほくそ笑んだが、不意にキーの表情が引き締まる。
「どうしたのじゃ?」
「マズイ。また追手だ」
フクロウの眼は更に2人の追手が馬で駆けてくる様を捉えていた。
「4人か……」
『風雷陣』は1度に3人までしか攻撃できないため、保の表情が険しくなる。
「止まりなさい。そしてお嬢様を返したまえ」
2人の執事がそれぞれ馬車の左右で並走し、要求してくる。
「この馬車は各停じゃなくて港までの直行なんだ。残念ながら止められねぇよ」
「ならば力づくで止める!」
グリムバルドが不敵な笑みで応じると、執事は槍を構えた。
「遅ぇ!」
だがグリムバルドが先に『エレクトリックショック』を放つ。
「お帰りはあちら!」
そして執事が電撃で硬直している間に蹴りを食らわせて落馬させた。
保は目の前の執事とメイド2人を標的に『風雷陣』を放つ。
たが執事も執事の馬は稲妻に怯まず、保は槍で体を突かれた。
「ぐっ!」
「保っ!」
更に保を攻撃しようとした執事にグリムバルドが『エレクトリックショック』を放つ。
保は執事が硬直した隙を逃さず、馬から蹴り落とす。
「大丈夫か?」
「はい。刃の付いてない槍でしたから、ダメージはほとんどありません」
「どういう事だ?」
「どうやら相手も不殺で済ませたいみたいですね」
「なるほどな」
血生臭い事にはならずに済みそうなので、2人の顔には自然と笑みが浮かんだ。
最初のメイド2人は落馬した執事達を介抱しているのか姿が見えず、今は追手が1人もいない状態だ。
「諦めたか?」
「そうだと嬉しいんですけど」
「いや、どうやらまだ諦めてないらしい」
キーのフクロウの眼は初老の執事と中年メイドの追手を捉えていたので、それを小声で2人に告げた。
馬車に追いついた追手は一定の距離を置いて並走してくる。
「馬車を止めて、お嬢様を返しなさい」
「だからこの馬車は港までの直行で……」
メイドはグリムバルドの軽口の途中で発砲してきた。
「おぉっと!」
グリムバルドは咄嗟に盾で防ぐ。
「不殺じゃなかったのかよ?」
「どうやら本気で取り返しに来たみたいですね」
手加減して無力化できる相手ではないと感じた保はカイヤワンドを握り、威力を高めた『風雷陣』を放つ。
老執事には避けられたが、メイドには命中した。
だがメイドは怯まず銃弾を放ち、保の左腕に弾痕を刻む。
「く……」
手から力が抜けて掴んでいた符がパラパラと落ちる。
だが保は右手だけで4枚の符を抜くと『コンボカード』を発動。
「死なないでくださいよ!」
残る3枚で再び『風雷陣』を放つ。
「キャーー!!」
手加減抜きの電撃を喰らわせ、メイドを馬上で失神させた。
一方、グリムバルトは老執事を警戒していたが、相手はなかなか仕掛けてこない。
(エレクトリックショックを警戒してるのか?)
疑念を抱いていると、不意に頭上の樹木から別の執事が飛び降りてきて馬車に降り立ち、グリムバルドの延髄を狙って蹴りを放ってくる。
「ちぃ!」
グリムバルドは辛くも盾で蹴りを受けた。
すると盾が紫電が走り、執事を後方に弾き飛ばした。
グリムバルドは攻撃を受ける直前に『攻性防御』を発動させていたのだ。
馬車から飛ばされた執事は地面に叩き付けられ、そのまま置き去りにされる。
だが一連の攻防の間に老執事が馬を馬車に寄せて『エレクトリックショック』を放ち、グリムバルドを電撃で硬直させる。
(これが狙いか!?)
それに気づいてもグリムバルドは指1本動かせず、老執事に馬車からを引きずり出されて落車させられた。
「お嬢様を返していただこう」
馬車に乗り移ってきた老執事が保に間近で告げる。
「お断りします。お宅のお嬢さんは、安全よりも安心が欲しいようですからね」
保は会話の隙に抜いた符で『コンボカード』と『風雷陣』を発動し、至近距離から電撃を放った。
しかし老執事は電撃に耐え切り、保の顔を鷲掴んで『エレクトリックショック』を放つ。
老執事は体を硬直させた保を投げ捨てようとしたが、周囲が一瞬青白い雲のようなものに包まれ、急激な眠気に襲われた。
「スリープクラウド……いったい、どこから……」
めぐらせた視線の先でオッドアイの少女が目に留まる。
「お嬢様、では……な……い……」
老執事は最後の気力を振り絞って魔導短伝話を使おうとしたが、その前に眠りに落ちたのだった。
「バレたか?」
「まだこやつにしかバレとらん。捕らえて口を封じておけば問題ないじゃろ」
キーとシルヴェーヌで眠った老執事を拘束する。
「あのメイドも捕らえておきましょう」
体の硬直の解けた保は馬上のメイドも捕らえて拘束した。
「不覚を取ったぜ……」
その間に走って追いついてきたグリムバルドを乗せて囮を再開した。
その後は追手が現れず、やがて遠方に港が見えてきた。
本人達の馬車もそろそろ港に着いている頃だ。
「あっちは上手くやってるかな……」
グリムバルドは2人が乗る予定の船の方へ馬車を走らせた。
その頃、本人達の馬車は無事港に到着できていた。
「港に待ち伏せがいるかと思ったけど、いないわね」
篝が意外そうに周囲を見渡す。
「ここまで辿り着けたエリシィスさんを無理矢理連れ帰るなんて事、お父さんもしたくなかったのではないでしょうか」
「はい、きっとそうです」
ルカの推測にエリシィスが嬉しそうに賛同する。
「2人とも、わたし達は向こうの世界で歪虚の襲撃に遭い、ロッソに助けられたわ。本当にロッソが幸運の船だとすれば、その『幸運』はたくさんの人の意志と努力に支えられたものよ」
「私達は……その幸運に見合うでしょうか?」
エリシィスが不安げに呟く。
「それはあなた達の意志と努力と行動次第じゃないかしら」
「さ、もう船が出ます。乗ってください」
ルカに促されて船に乗ったエリィシスとケイが舷側から手を降ってくる。
満面の笑みで手を振るその姿は未来への希望に満ちていた。
「皆さん本当にありがとうございましたー!」
「私達きっと幸せになりまーす!」
「お幸せに~!」
「結婚式にはお父さんも呼んであげなさいよー!」
ルカと篝も2人に手を振り返した。
やがて船が遠ざかり、2人の声も届かなくなる。
そこへ囮の馬車が到着した。
「出港には間に合いませんでしたか」
「でも上手くいったみたいだな。ちゃんとリゼリオに着くよう祈ってるぜ」
本人達の見送りには間に合わなかったが、囮の4人も2人の幸せを願って船を見送った。
しかしどちらの門にも見張りがいる。
そこでシルヴェーヌ=プラン(ka1583)はエリィシスに、キー=フェイス(ka0791)はケイに変装して囮になってもらう事となった。
キーはケイと服を交換し、馬車に自分の愛馬を繋いだ。
シルヴェーヌもエリシィスと服を交換すると、長い銀髪をリボンで纏めて帽子を被り、更にファー・マフラーとホワイトスノーコートを着る。
これで一目では見破られなくなるがエリィシスにも見えないため、指輪を嵌めてブーケも持った。
「勇気が欲しい、か。そうだよな……例えこれが9割大丈夫とか言われても、何か安心するようなものとか、頑張る為の支えが欲しいものだよな」
「それに自分の人生なんですから、納得できる選択をしたいものですよね」
グリムバルド・グリーンウッド(ka4409)と保・はじめ(ka5800)はエリシィスの心情に共感したため、手を貸そうと思った。
八原 篝 (ka3104) も心情を理解していたが、エリィシスには尋ねておく事があった。
「反対したお父さんの気持ちは良く考えたの? 危険は覚悟している?」
「……はい。お父様が私を想ってくれている事は分かります。でもお父様の言うとおりにして、もし手術に失敗したら……私は未練を残し、過去を悔やんだまま死ぬでしょう。
でも今リゼリオに行けば、例え手術が失敗したとしても、私は自分を誇らしく思って死ねると思います」
エリシィスの瞳には断固たる決意が満ちていた。
「そう……分かったわ。それだけの覚悟があるなら力を貸すわ」
篝は険しく問い詰めていた表情を柔和させた。
「俺もお二人さんさんの幸せの為に、精一杯やらせてもらうぜ」
グリムバルドも笑顔で親指を立てる。
やがて朝一番の船の出港時間が迫り、作戦が開始される時刻になる。
「ケイ」
キーはケイを呼び止めるとコインを弾いて手で掴んだ。
「2分の1を引いてみろよ。裏が出れば俺の勝ち、表が出ればお前の勝ちってな」
「いいでしょう。受けて立ちます」
「え! ケイ……」
外れれば縁起の悪い勝負にエリィシスの表情が曇る。
「いくぜ」
キーが手を開くとコインは表だった。
「ふぅ……」
不安に染まっていたエリシィスの表情に安堵が浮かぶ。
「幸運のお守りだ。持って行け」
キーはケイに向かってコインを弾くと、シルヴェーヌを連れて馬車に向かう。
「あれは表だけが出るイカサマコインじゃろ」
シルヴェーヌが小声で尋ねる。
「ただの幸運のコインだよ」
見透かされていたがキーはうそぶき、シルヴェーヌの手を引いて荷台に引き上げた。
そして毛布を被り、ケイとは違う髪色を隠す。
「病弱な新婦とは……こんな感じかのぅ?」
シルヴェーヌはキーの隣に座るとギュとしがみついた。
「あ、あぁ、そんな感じだと思うぜ」
キーも軽く抱きしめ返すと、シルヴェーヌの頭を軽くあやし、髪を撫でる。
(シルヴィのヤツなんでこんなにいい香りがするんだ? 体も柔らかくて温かいし……。くそっ! 今はドキマギするような状況じゃないぞ。落ち着け俺!)
キーはシルヴェーヌに内心を気取られないよう平静を保とうとした。
「なんじゃ? 鼓動が早いのぅ。緊張しておるのかのぅ?」
(バレた!)
「わしらの役目は囮じゃ。危険は少ないじゃろ。もっと肩の力を抜くのじゃ」
シルヴェーヌはキーを安心させるために優しく微笑んで頭を撫でてくる。
(ドキドキしてるのはお前になんだよ! そんな事されたらもっと緊張するだろうが!)
とは言えないキーは。
「そうだな」
と返すのが精一杯だった。
「じゃ、出発するぜ」
グリムバルドの運転で囮の馬車が出発。
門まで来ると見張りらしい人影が慌しく動くのが見えた。
(うまく喰いついてくださいよ)
保は見張りに気づかないフリをしながら門を抜けた。
「そろそろこっちも出発するわ。2人とも乗って」
囮の出発から数刻経った後、八原 篝(ka3104)はエリシィスとケイを荷台に乗せた。
荷台には樽や空箱などを積み込んで2人が隠れやすいようにしてあり、ルカ(ka0962)の作った偽装人形も乗っていた。
「あの……これは何ですか?」
ケイが思わずそう尋ねてしまう。
なぜなら偽装人形は布に藁詰めて紐で形作った物にローブ着せただけの簡素な物だったからだ。
「御二人を模した人形です。仲睦まじく見える様に寄り添わせてみました」
ルカが解説してくれたものの、遠めには人っぽく見えるかもしれないが、近くで見れば単なる大きい藁人形である。
「誰かに見られそうな時にはこれを被ってください」
ルカが底蓋を外した樽を見せる。
「はい」
「分かりました」
「揺れると思いますから気をつけてくださいね。では行きます」
2人の安全を確認したルカは馬車を出発させた。
門を通り過ぎる時は警戒したが、見張りらしき人影は見えなかった。
「囮に引っかかってくれたんでしょうか?」
「だといいんだけど、十分に警戒していきましょう」
ルカはエリィシスの体を気遣って揺れないように、でもできるだけ速く馬車を走らせる。
篝は周囲の警戒を怠らない。
港までの行程の半分までは何事もなく行けたが、やがて後方から2頭の馬が接近してくるのを篝が発見する。
「何か来た! 2人は隠れて」
「はい!」
エリシィスとケイは言われていた通り樽を被る。
篝が目を凝らすと、馬に乗ってるのはメイドと執事に見えた。
「……」
目を擦ってもう一度見たが、やはりメイドと執事だ。
「なんか……メイドと執事が追ってきてるんだけど……」
「え? メイドと執事?」
ルカも思わず後ろを振り返ってしまう。
「たぶんお父様のメイドと執事だと思います」
樽からくぐもったエリシィスの声が聞こえる。
「気をつけてください。お父様の使用人はほとんど覚醒者か元ハンターです。その2人もたぶんそうだと思います」
「はあ!? 執事とメイドが追手で覚醒者? どんな家なのよ!」
篝は呆れ返りながらも『短弓「テムジン」』を構え、殺傷力を抑えるために予め鏃を外しておいた矢を番える。
『ダブルシューティング』で2人同時に狙ったが、メイドには避けられ、執事は命中したが落馬はしなかった。
「くっ! いきなり射ってきた!?」
「怪しいわ。止めるわよ」
追手が速度を上げて迫ってくる。
「落ちなかったか……」
「篝さん樽を落とす準備をして下さい」
篝は次の矢を番えようとしたが、ルカに言われた通り準備する。
ルカは追手との距離を慎重に見極め、予め用意しておいた塩を後方に振りまいた。
「今です!」
その直後に樽を落とす。
「うっ!」
「目がっ!」
塩が追手の目潰しになると同時に、馬が樽で足を取られた。
「わっ!」
追手が馬を御しきれずに落馬する。
「よし!」
篝は馬車から飛び降りるとメイドが起き上がる前に手足を拘束した。
残る執事は魔導短伝話を取り出したが、使われる前にルカが魔導拳銃で撃って破壊する。
「お前達……何が望みだ」
「とある恋人達の幸せよ。だから大人しく縛られてほしいの」
篝はルカと二人掛りで執事も拘束した。
一方、囮の馬車は門を出てしばらくした頃から馬に乗ったメイド2人に追いかけられていた。
「お嬢様ー!」
「お戻りくださいお嬢様ー!」
「早速お出ましか」
グリムバルドは手綱を握りながら振り返り、『リボルバー「ピースメイカー」』を撃つ。
「撃ってきたわ?」
「なんて野蛮な!」
牽制なので弾は外したが、追手は怯むどころか怒りを露にして加速してくる。
「あまり近寄られると困るんですよ」
保は追手の頭上に符を投げると『風雷陣』を発動。メイド達に稲妻が降り注ぐ。
「キャー!」
威力は抑えたのでメイド達のダメージは少ないが、馬が驚いて暴走し始める。
「今のうちに引き離すぞ」
その隙にグリムバルドは馬車に鞭打ち、加速させる。
だがしばらくすると、馬をなだめ終えたメイド達が再び追ってきた。
「しつこいですよ!」
しかし保が『風雷陣』を放つと馬は怯えて失速する。
そのためメイド達は馬車に近づく事さえできなくなっていた。
キーは予め放っておいたフクロウの眼を通して『ファミリアズアイ』で状況を把握し、それをシルヴェーヌに聞かせた。
「それなら追手をわしらに引き寄せ続けていられそうじゃ」
「いい時間稼ぎになってるぜ」
ギーとシルヴェーヌは満足気にほくそ笑んだが、不意にキーの表情が引き締まる。
「どうしたのじゃ?」
「マズイ。また追手だ」
フクロウの眼は更に2人の追手が馬で駆けてくる様を捉えていた。
「4人か……」
『風雷陣』は1度に3人までしか攻撃できないため、保の表情が険しくなる。
「止まりなさい。そしてお嬢様を返したまえ」
2人の執事がそれぞれ馬車の左右で並走し、要求してくる。
「この馬車は各停じゃなくて港までの直行なんだ。残念ながら止められねぇよ」
「ならば力づくで止める!」
グリムバルドが不敵な笑みで応じると、執事は槍を構えた。
「遅ぇ!」
だがグリムバルドが先に『エレクトリックショック』を放つ。
「お帰りはあちら!」
そして執事が電撃で硬直している間に蹴りを食らわせて落馬させた。
保は目の前の執事とメイド2人を標的に『風雷陣』を放つ。
たが執事も執事の馬は稲妻に怯まず、保は槍で体を突かれた。
「ぐっ!」
「保っ!」
更に保を攻撃しようとした執事にグリムバルドが『エレクトリックショック』を放つ。
保は執事が硬直した隙を逃さず、馬から蹴り落とす。
「大丈夫か?」
「はい。刃の付いてない槍でしたから、ダメージはほとんどありません」
「どういう事だ?」
「どうやら相手も不殺で済ませたいみたいですね」
「なるほどな」
血生臭い事にはならずに済みそうなので、2人の顔には自然と笑みが浮かんだ。
最初のメイド2人は落馬した執事達を介抱しているのか姿が見えず、今は追手が1人もいない状態だ。
「諦めたか?」
「そうだと嬉しいんですけど」
「いや、どうやらまだ諦めてないらしい」
キーのフクロウの眼は初老の執事と中年メイドの追手を捉えていたので、それを小声で2人に告げた。
馬車に追いついた追手は一定の距離を置いて並走してくる。
「馬車を止めて、お嬢様を返しなさい」
「だからこの馬車は港までの直行で……」
メイドはグリムバルドの軽口の途中で発砲してきた。
「おぉっと!」
グリムバルドは咄嗟に盾で防ぐ。
「不殺じゃなかったのかよ?」
「どうやら本気で取り返しに来たみたいですね」
手加減して無力化できる相手ではないと感じた保はカイヤワンドを握り、威力を高めた『風雷陣』を放つ。
老執事には避けられたが、メイドには命中した。
だがメイドは怯まず銃弾を放ち、保の左腕に弾痕を刻む。
「く……」
手から力が抜けて掴んでいた符がパラパラと落ちる。
だが保は右手だけで4枚の符を抜くと『コンボカード』を発動。
「死なないでくださいよ!」
残る3枚で再び『風雷陣』を放つ。
「キャーー!!」
手加減抜きの電撃を喰らわせ、メイドを馬上で失神させた。
一方、グリムバルトは老執事を警戒していたが、相手はなかなか仕掛けてこない。
(エレクトリックショックを警戒してるのか?)
疑念を抱いていると、不意に頭上の樹木から別の執事が飛び降りてきて馬車に降り立ち、グリムバルドの延髄を狙って蹴りを放ってくる。
「ちぃ!」
グリムバルドは辛くも盾で蹴りを受けた。
すると盾が紫電が走り、執事を後方に弾き飛ばした。
グリムバルドは攻撃を受ける直前に『攻性防御』を発動させていたのだ。
馬車から飛ばされた執事は地面に叩き付けられ、そのまま置き去りにされる。
だが一連の攻防の間に老執事が馬を馬車に寄せて『エレクトリックショック』を放ち、グリムバルドを電撃で硬直させる。
(これが狙いか!?)
それに気づいてもグリムバルドは指1本動かせず、老執事に馬車からを引きずり出されて落車させられた。
「お嬢様を返していただこう」
馬車に乗り移ってきた老執事が保に間近で告げる。
「お断りします。お宅のお嬢さんは、安全よりも安心が欲しいようですからね」
保は会話の隙に抜いた符で『コンボカード』と『風雷陣』を発動し、至近距離から電撃を放った。
しかし老執事は電撃に耐え切り、保の顔を鷲掴んで『エレクトリックショック』を放つ。
老執事は体を硬直させた保を投げ捨てようとしたが、周囲が一瞬青白い雲のようなものに包まれ、急激な眠気に襲われた。
「スリープクラウド……いったい、どこから……」
めぐらせた視線の先でオッドアイの少女が目に留まる。
「お嬢様、では……な……い……」
老執事は最後の気力を振り絞って魔導短伝話を使おうとしたが、その前に眠りに落ちたのだった。
「バレたか?」
「まだこやつにしかバレとらん。捕らえて口を封じておけば問題ないじゃろ」
キーとシルヴェーヌで眠った老執事を拘束する。
「あのメイドも捕らえておきましょう」
体の硬直の解けた保は馬上のメイドも捕らえて拘束した。
「不覚を取ったぜ……」
その間に走って追いついてきたグリムバルドを乗せて囮を再開した。
その後は追手が現れず、やがて遠方に港が見えてきた。
本人達の馬車もそろそろ港に着いている頃だ。
「あっちは上手くやってるかな……」
グリムバルドは2人が乗る予定の船の方へ馬車を走らせた。
その頃、本人達の馬車は無事港に到着できていた。
「港に待ち伏せがいるかと思ったけど、いないわね」
篝が意外そうに周囲を見渡す。
「ここまで辿り着けたエリシィスさんを無理矢理連れ帰るなんて事、お父さんもしたくなかったのではないでしょうか」
「はい、きっとそうです」
ルカの推測にエリシィスが嬉しそうに賛同する。
「2人とも、わたし達は向こうの世界で歪虚の襲撃に遭い、ロッソに助けられたわ。本当にロッソが幸運の船だとすれば、その『幸運』はたくさんの人の意志と努力に支えられたものよ」
「私達は……その幸運に見合うでしょうか?」
エリシィスが不安げに呟く。
「それはあなた達の意志と努力と行動次第じゃないかしら」
「さ、もう船が出ます。乗ってください」
ルカに促されて船に乗ったエリィシスとケイが舷側から手を降ってくる。
満面の笑みで手を振るその姿は未来への希望に満ちていた。
「皆さん本当にありがとうございましたー!」
「私達きっと幸せになりまーす!」
「お幸せに~!」
「結婚式にはお父さんも呼んであげなさいよー!」
ルカと篝も2人に手を振り返した。
やがて船が遠ざかり、2人の声も届かなくなる。
そこへ囮の馬車が到着した。
「出港には間に合いませんでしたか」
「でも上手くいったみたいだな。ちゃんとリゼリオに着くよう祈ってるぜ」
本人達の見送りには間に合わなかったが、囮の4人も2人の幸せを願って船を見送った。
依頼結果
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相談卓 シルヴェーヌ=プラン(ka1583) 人間(クリムゾンウェスト)|15才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2016/03/02 14:45:47 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/02/28 19:02:38 |