ゲスト
(ka0000)
狙われた魔導書
マスター:篠崎砂美

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~15人
- サポート
- 0~15人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/08/24 07:30
- 完成日
- 2014/08/31 13:56
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
『いらっしゃいませー。その本でしたら、E書架の中段右あたりになります』
新しい就職口を見つけた魔導書ディアーリオ君ですが、魔術学院資料館職員として、受付の業務を元気にこなしているようです。
自分のページに自由に文字を浮かびあがらせることのできる力を持った魔導書ですが、実はそれだけです。
特別な能力を持っていて、未来を予言できるだの、過去を全て見通すだの、相手の意志を読みとって暴くだの、文字に力を込めて魔術を発動させるだの……なんてことはまったくできません。出自に関しては、黙秘権を行使しています。
「あら? それ、なんですか?」
館員のセリオ・テカリオが、ディアーリオのページに挟まった栞に気がつきました。もう午後になった頃のことです。
『なんのことですか?』
ディアーリオが、パタパタとページをめくりました。挟まっていた栞のような紙片が、はらりとカウンターの上に落ちます。
「こ、これはあ!!」
紙片を見たセリオが驚きの声をあげました。
そのカードに書かれていた文字は……。
『世にも珍しい魔導書があるとのこと。
その魔導書をいただきに、本日参上。
虹の怪盗アルコバレーノ』
「これ、予告状じゃない! いつの間に挟まれたの!?」
『ええと、分かりません……』
セリオに詰め寄られて、ディアーリオの文字が踊りました。
「犯人の顔見た?」
『ええと、私、目はついてませんので……』
あっさりと、ディアーリオがページに文字を浮かべました。
「ああ、そうよね……って、じゃあ、どうやって周りを把握してるのよ!」
『根性です』
「聞いた私がバカだった……。そんなことより、これは、あなたの問題ではなくて、資料館全体に対する挑戦よ。なんとしても、怪盗を撃退するわよ!」
ギリギリしながらセリオが言いました。
かくして、怪盗捕縛大作戦となったわけですが……。
「奴が現れたって!」
夕方のことです。どこから噂を聞きつけたのか、陸軍のアルマート・トレナーレ少佐がどかどかと資料館へとやってきました。手伝いとして、わさわさとハンターたちも一緒です。相変わらず非公式の行動のようですね。毎回、良く情報を聞きつけるものです。怪しい……。
館員以外には箝口令を敷いていたはずですが、どこからか情報がもれていたようです。それとも、怪盗がリークしたのでしょうか。
それにしても、良くこんなにすぐにハンターたちが集まったものです。怪しい……。
「今度こそ、奴をとっ捕まえてやる」
「ええと、あまり邪魔はしないでほしいんですが……」
意気込む少佐に、セリオが迷惑そうに言いました。せっかくの援軍を追い返すなんて、怪しい……。
「とりあえず、あなたたちが不審者でないことだけは伝えておきますけれど」
ポケットからトランシーバーを取り出して、セリオが他の館員に連絡しました。
「玄関は押さえました。ねずみ一匹通しませんとも」
扉をドンドンと叩いて確認した男性館員がトランシーバーで答えます。人の出入りは彼が管理するわけです。誰も通せませんが、誰でも通せます。怪しい……。
「二階は大丈夫です。窓もちゃんと閉めました」
二階に待機した女性館員がピカピカしている天井を見あげて言いました。窓の管理は、彼女担当のようです。怪しい……。
「面白そうだなあ。僕は、見学しているよ」
たまさか資料館に来ていた魔術師の学生がガタガタと机をゆらしてのんびりしたことを言います。理由がないなんて怪しい……。
警備の人員は配置はしましたが、大小の閲覧室がありますし、広大な資料館の天井や壁や窓や床を全て調べるには時間も足りません。
「何か策はあるのか?」
セリオに少佐が聞きました。
「みんなで見張っていれば大丈夫でしょう」
ちょっと安直な作戦にもなっていない作戦のような気もします。
ともあれ、時間は過ぎていきます。
何ごとも起きずに、無事、閉館時間が来ました。
「畜生、またガセかあ!?」
少佐が悔しがります。
いえいえ、まだ今日という日は終わってはいません。気を抜くのは早すぎます。
とにかく、有志たちが残って魔導書を見張ることにしました。
「やれ、今日はなんか騒がしいねえ」
清掃のおじさんが、ポコポコとフローリングの床の上を歩いてきて不思議そうに首をかしげました。怪しい……。
『いやあ、みんながボクのために。なんだか申し訳ないです。有名ベストセラーはつらいですねえ。ははははは……』
なんだか、ディアーリオがいらぬ言葉をフワフワとページに浮かべています。なんかむかつく……。
それはおいておいて、資料館の御厚意でお弁当が出されることになりました。
「はーい、御注文の夜食の配達ですねえ」
なんだかイントネーションのおかしな青年が、長持ちをごそごそして夜食のカップ麺を配達に来ました。怪しい……。
「カップ麺って……。こんなときに支給品でもないだろうに……」
さすがに一部からぶーぶー言う声が聞こえますが、まあ、ただ飯ですからそんなに文句も言えません。ハンターって、いつもこんな物を食べているのでしょうか?
「じゃ、俺は海鮮で」
「私は鳥で」
「キツネやタヌキってあるの?」
とりあえず、みんな思い思いのカップ麺を啜ります。
「それじゃあ、食べ終わったカップ回収していきます」
青年が、食器を回収し終わったその時でした。突然、館内の明かりが消えたのです!
再び明かりがついたとき、魔導書が一冊なくなっていました。
「本物がない!? 捕まえて! それから応援を呼ぶわよ!」
カウンターの上を見たセリオが叫びました。
ガシャン!
閲覧室のどこからか、ガラスの割れる音がしました。
「逃がすな!」
少佐が叫びました。
新しい就職口を見つけた魔導書ディアーリオ君ですが、魔術学院資料館職員として、受付の業務を元気にこなしているようです。
自分のページに自由に文字を浮かびあがらせることのできる力を持った魔導書ですが、実はそれだけです。
特別な能力を持っていて、未来を予言できるだの、過去を全て見通すだの、相手の意志を読みとって暴くだの、文字に力を込めて魔術を発動させるだの……なんてことはまったくできません。出自に関しては、黙秘権を行使しています。
「あら? それ、なんですか?」
館員のセリオ・テカリオが、ディアーリオのページに挟まった栞に気がつきました。もう午後になった頃のことです。
『なんのことですか?』
ディアーリオが、パタパタとページをめくりました。挟まっていた栞のような紙片が、はらりとカウンターの上に落ちます。
「こ、これはあ!!」
紙片を見たセリオが驚きの声をあげました。
そのカードに書かれていた文字は……。
『世にも珍しい魔導書があるとのこと。
その魔導書をいただきに、本日参上。
虹の怪盗アルコバレーノ』
「これ、予告状じゃない! いつの間に挟まれたの!?」
『ええと、分かりません……』
セリオに詰め寄られて、ディアーリオの文字が踊りました。
「犯人の顔見た?」
『ええと、私、目はついてませんので……』
あっさりと、ディアーリオがページに文字を浮かべました。
「ああ、そうよね……って、じゃあ、どうやって周りを把握してるのよ!」
『根性です』
「聞いた私がバカだった……。そんなことより、これは、あなたの問題ではなくて、資料館全体に対する挑戦よ。なんとしても、怪盗を撃退するわよ!」
ギリギリしながらセリオが言いました。
かくして、怪盗捕縛大作戦となったわけですが……。
「奴が現れたって!」
夕方のことです。どこから噂を聞きつけたのか、陸軍のアルマート・トレナーレ少佐がどかどかと資料館へとやってきました。手伝いとして、わさわさとハンターたちも一緒です。相変わらず非公式の行動のようですね。毎回、良く情報を聞きつけるものです。怪しい……。
館員以外には箝口令を敷いていたはずですが、どこからか情報がもれていたようです。それとも、怪盗がリークしたのでしょうか。
それにしても、良くこんなにすぐにハンターたちが集まったものです。怪しい……。
「今度こそ、奴をとっ捕まえてやる」
「ええと、あまり邪魔はしないでほしいんですが……」
意気込む少佐に、セリオが迷惑そうに言いました。せっかくの援軍を追い返すなんて、怪しい……。
「とりあえず、あなたたちが不審者でないことだけは伝えておきますけれど」
ポケットからトランシーバーを取り出して、セリオが他の館員に連絡しました。
「玄関は押さえました。ねずみ一匹通しませんとも」
扉をドンドンと叩いて確認した男性館員がトランシーバーで答えます。人の出入りは彼が管理するわけです。誰も通せませんが、誰でも通せます。怪しい……。
「二階は大丈夫です。窓もちゃんと閉めました」
二階に待機した女性館員がピカピカしている天井を見あげて言いました。窓の管理は、彼女担当のようです。怪しい……。
「面白そうだなあ。僕は、見学しているよ」
たまさか資料館に来ていた魔術師の学生がガタガタと机をゆらしてのんびりしたことを言います。理由がないなんて怪しい……。
警備の人員は配置はしましたが、大小の閲覧室がありますし、広大な資料館の天井や壁や窓や床を全て調べるには時間も足りません。
「何か策はあるのか?」
セリオに少佐が聞きました。
「みんなで見張っていれば大丈夫でしょう」
ちょっと安直な作戦にもなっていない作戦のような気もします。
ともあれ、時間は過ぎていきます。
何ごとも起きずに、無事、閉館時間が来ました。
「畜生、またガセかあ!?」
少佐が悔しがります。
いえいえ、まだ今日という日は終わってはいません。気を抜くのは早すぎます。
とにかく、有志たちが残って魔導書を見張ることにしました。
「やれ、今日はなんか騒がしいねえ」
清掃のおじさんが、ポコポコとフローリングの床の上を歩いてきて不思議そうに首をかしげました。怪しい……。
『いやあ、みんながボクのために。なんだか申し訳ないです。有名ベストセラーはつらいですねえ。ははははは……』
なんだか、ディアーリオがいらぬ言葉をフワフワとページに浮かべています。なんかむかつく……。
それはおいておいて、資料館の御厚意でお弁当が出されることになりました。
「はーい、御注文の夜食の配達ですねえ」
なんだかイントネーションのおかしな青年が、長持ちをごそごそして夜食のカップ麺を配達に来ました。怪しい……。
「カップ麺って……。こんなときに支給品でもないだろうに……」
さすがに一部からぶーぶー言う声が聞こえますが、まあ、ただ飯ですからそんなに文句も言えません。ハンターって、いつもこんな物を食べているのでしょうか?
「じゃ、俺は海鮮で」
「私は鳥で」
「キツネやタヌキってあるの?」
とりあえず、みんな思い思いのカップ麺を啜ります。
「それじゃあ、食べ終わったカップ回収していきます」
青年が、食器を回収し終わったその時でした。突然、館内の明かりが消えたのです!
再び明かりがついたとき、魔導書が一冊なくなっていました。
「本物がない!? 捕まえて! それから応援を呼ぶわよ!」
カウンターの上を見たセリオが叫びました。
ガシャン!
閲覧室のどこからか、ガラスの割れる音がしました。
「逃がすな!」
少佐が叫びました。
リプレイ本文
●閉館後
さて、時間は、閉館直後まで遡る。
カウンターにおかれたディアーリオのそばには、話を聞いた物好きたちが集まってきた。
「これからが勝負だぜ」
アルマート・トレナーレ(kz0044)少佐が意気込む。
「なんだか、騒がしい人ですねえ~」
こんな人が警備に来て大丈夫なのかと、聖盾(ka2154)が少佐を見つめた。
「ハッハッハァー! 海からの使者、グル仮面参上だ!」
そう言って、やってきたのは、紫月・海斗(ka0788)だ。
仮面で素顔を隠している。不審人物No1だ。
「こいつが、その魔導書か。もう心配する必要はないぜ、俺がやってきたんだからな」
ディアーリオを見た海斗が、豪快に言った。
「ふふふ、慌てる必要はないわ。犯人はこの中にいる!! ……いや~、一度は言ってみたかったのよね、この台詞」
Jyu=Bee(ka1681)ことジュウベエちゃんが、中央に進み出つつ自信満々で言った。
「少佐! アルコバレーノは、変装の名人と聞くであります!!」
敷島 吹雪(ka1358)が、敬礼しつつ少佐に近づいてきた。
「その通りだ。奴の変装は、本物と見分けがつかない」
聞くなり、吹雪が少佐の両頬を引っぱった。
「いてててて、何をする!」
「大丈夫、少佐は本物であります」
「そんなんで分かったら、苦労しないだろが!」
どや顔の吹雪にむかって、少佐が怒鳴り返した。
「あっ、それっていい方法かも」
私もと、天川 麗美(ka1355)が、そばにいる者たちのほっぺを引っぱろうとし始める。
「でも、魔術的な変装だったら、そんな方法じゃ確認できないわよ」
あっさりと、セリオが吹雪を否定した。
「お嬢さん、よろしければ後で夜のデートなどいかがかな?」
ガルシア・ペレイロ(ka0213)が、セリオに馴れ馴れしく声をかけてきた。なんだこいつという顔で、セリオが軽く睨み返す。それも当然だった。なにしろ、ガルシアはうさぎの着ぐるみ姿だったからだ。強面サングラスの顔とのギャップが酷すぎる。現時点での不審人物No2である。
「怪盗がどうしてこの魔導書に目をつけたのかはよく分かりませんけれど、私も全力で警備させていただきます」
セリオのメガネキラーンに呼応するように、ほんわかのんびりメガネの日下 菜摘(ka0881)が言った。
「こんなことならば、もっと探偵小説とかを読み込んでおくべきでしたわね」
「そうですね。怪盗なんて推理小説の世界の住人かとばかり思っていましたが。実在するとは思いませんでした」
エヴリル・コーンウォリス(ka2206)が菜摘の言葉にうなずいた。
二人は、男女の館員をマークしているようだ。もっとも、向こうから見れば、着ぐるみなんかがいる彼女たちの方がよっぽど怪しいのかもしれない。そういえば、少佐も、どうして怪盗のことを知ったのだろうか。
「少佐は、どこで今回のことを聞いたのでありますか?」
エヴリルと同じ疑問を、吹雪が口にだして少佐に訊ねた。
「まあ、情報屋には困っていないんでな」
暗にミチーノ・インフォルのことを示唆して、少佐が答えた。
「他にも、奴は姿隠しの名人だ。着ているマントが虹色に変化して身を隠すので、虹の怪盗と渾名されている」
「あっ、そのマントほしい!」
その話を聞いて、盾や、海斗や、フェルムが目を輝かせる。
「そのような魔導具が実在するなら、当然、当、資料館で収蔵するので提出するように」
男性館員が、きっちりと釘を刺した。
「もしかしたら、今もそのマントとやらで姿を隠して、そのへんをうろついているかもな」
フェルム・ニンバス(ka2974)が、周囲を見回しながら言った。
「でも、虹の怪盗って、義賊なんでしょぉ。なんで、その魔導書狙ってるのかなぁ」
「怪盗さんも変な物ほしがりますねぇ。薄い本の方が価値あると思いますよ」
首をかしげる麗美に、うんうんと盾がうなずく。
「その本、どこかから盗まれた物だったりして」
「それはないですね」
麗美の言葉を、セリオがきっぱりと否定する。
「怪盗が誰かに変装するなら、合い言葉を決めておきましょうよ」
「この中にもう怪盗がいたら無駄じゃないのか?」
フェルムが、菜摘の提案にツッコミを入れた。
「そうですねぇ。それに、複数犯の可能性も視野に入れませんと」
「ですね。できれば二人一組で動く方がいいでしょう」
天央 観智(ka0896)の言葉を受けて、麗美が言った。
「こんなこともあろうかと、ディアーリオ君の偽物を用意しました」
セリオが5冊の偽魔導書を取り出した。
「うーん、でも、それだと魔導書を知ってる怪盗に見破られる可能性がありますね。ここは、ディアーリオ君を変装させましょうよ」
そう言うと、菜摘がブックカバーを取り出した。これですべての本をつつんでしまえば、見分けはつかなくなる。
「定番って言ったら、突然明かりが消えて、宝物がなくなっているという展開よね。じゃあ、ここにランタンをおいておこうよ」
そう言って、ミリア・アンドレッティ(ka1467)が、カウンターの上にランタンをおいた。
「火は危ないんじゃないですか?」
心配そうに、女性館員が言う。確かに、ディアーリオ自体が紙でできている本だし、火は倒れたときに危険だ。
「なるべく端っこの方、そう、そのへんが安全そうね」
セリオに指示されて、ミリアがランタンをおいた。
「それよりも、盗めないようにケースに入れればいいのよ」
エルティア・ホープナー(ka0727)が言った。透明なケースの中に魔導書を入れてしまえば、外からは手が出せないはずだ。
「どこにそんな箱があるの?」
セリオが聞き返した。さすがに、普段から誰も持っていない物を設置する方法はない。
「仕方ないなあ」
館内の椅子を集めてくると、エルティアがカウンターの周りにおいた椅子の間にロープを渡した。これで、簡単にはカウンターの上の魔導書に近づけないはずだ。
「よければ、この香水を染み込ませた栞を挟んでおけませんか? 香りで、本物かどうか分かると思うのですが」
持っていた栞を取り出して、摩耶(ka0362)が言った。
「それならば、うちのプードルの方が役にたつぜ。この紙巻煙草をほぐしてなすりつけておけば、臭いで追いかけることができるさ」
連れてきた愛犬を撫でながら、カイトが言った。
「それじゃあ、本物には印を……」
ジュウベエが、チョークの粉をディアーリオになすりつけようとした。
「あなたたちは! うちの蔵書に何をする!」
すかさず、セリオと二人の職員が、スパーンとハリセンで三人の頭を叩いた。
それはそうだ。いくら盗まれないためとはいえ、香りをつけたり、粉で汚すなどはもってのほかだ。
「じゃあ、うちのレオ君に、みんなの臭いを覚えさせましょう。もし犯人が逃げても、それなら追いかけることができるでしょうし」
盾は自信満々で、連れてきたゴールデン・レトリバーのレオ君を紹介した。だが、本当に役にたつのだろうか?
「とりあえず、近くで見張るしかないですね」
盾が、カウンターの前に立った。
「資料館の見取り図みたいな物はあるんでしょうかぁ?」
観智が、セリオに訊ねた。
「大まかな物はあるけれど、なにせ、結構勝手に変動するから……」
ちょっと困ったように、セリオが言った。膨大な量の資料を保管するために、資料館の内部の空間はちょっと特殊になっている。地上三階建てだが、見た目と内容積は一致していない。部屋も、必要に応じて変化するといういいかげんさ……いや、便利さである。まさに、魔術師協会の持ち物であると言えよう。
ひとまず、ハンターたちはそれぞれに館内を調べることにした。
「さて、どこから怪盗が現れて、どこから逃げるかよね」
橘 遥(ka1390)が、館内を見渡してつぶやいた。
怪盗を名乗るような者は目立ちたがりであるはずだ。きっと、全員を見下ろせるような高い位置から登場するに決まっている。窓なども、定番の逃走経路だ。
「逃げるとすれば、玄関か、窓か」
フェルムがつぶやく。
「一応、すべての窓の鍵は確認しましたから」
それらを担当している女性館員が請け負った。だが、彼女以外が確かめたわけではない。フェルムと遥は、二階と三階を手分けしてチェックしていった。
エルティアも二階へと調べに行ったが、こちらは学生に案内を頼んでいた。
「館員の方は忙しそうだから案内をお願いしたいの」
「まあ、いいさ。一階の書架は館員の命令で動いて配置を変えるからね。仕掛けをするには適さないだろう。何かあるとすれば、こっちだろうさ」
そう言って、学生がエルティアを案内してくれた。
踊り場を囲む壁も、あちこちに本が埋め込まれていて、とにかく空いているスペースはすべて貯蔵庫にしてしまおうという館員の苦労がしのばれる。その数は半端なく、すべてを調べていたら、何週間もかかってしまいそうだ。
「これだけの蔵書があるわりには警備が薄い気がするのだけれど」
窓や廊下を調べつつ、エルティアが素朴な疑問を口にした。窓の外に猫でもいるのか、変な唸り声のような音が聞こえるのが、ちょっと不気味だ。
「ここにあるのは、学生にむけて公開された資料だからね。稀少的な資料は多いけれど、すべてがオンリーワンというわけじゃない。そういうのは別の場所にあるって話だし。当然、予備だって、用意してあるんじゃないかな」
生徒は面白そうに解説してくれた。盗まれたら盗まれたで、学院としてはすぐに取り返せるつもりなのだろう。
魔法を駆使しての泥棒の捜索など、生徒の実技としてはもってこいだ。
「そんな、こんなすばらしい本を前にして、そんなこと言えるの!」
閲覧室に並んだ本を見て、エルティアが目をキラキラと輝かせながら言った。スライド式の本棚に、これでもかと本が収納されている。ここは、彼女にとって宝の山だ。そのまま、エルティアは状況も忘れて本を読みだしてしまった。
一階では、掃除道具を持ったおじさんが中に入ってきた。
盾のペットのレオ君が、勢いよくおじさんにむかって吠えだした。
「ああ、その人は、清掃の人だから、中に入れてあげて」
セリオが、一同に説明する。
ぶつくさと言いながら、おじさんが仕事を始めた。
「お手伝いしましょうか?」
摩耶がおじさんに、愛想よく申し出た。
「そりゃ助かるが……」
怪訝そうなおじさんを半ば無視して、摩耶がぞうきんで床を拭きだした。
「ああ、そんなにびしょびしょにしたらダメだろうが!」
摩耶の掃除の仕方に、おじさんが慌てて床を拭き直した。足跡が残るようにと摩耶がわざとそうしたのであって、ワックスでもあればよかったのだが、失敗のようだ。
大ホールの閲覧室では、麗美が書架の間をチェックしていた。
「おじさんって、いつ頃からここで働いているの?」
摩耶と共に掃除を続けるおじさんに、シェール・L・アヴァロン(ka1386)が訊ねた。
「わしは先週からだが、それが何か?」
その言葉に、シェールがちょっと疑いを深めた。もしかしたら、盗みのために潜入したのかもしれない。
「ここって、何人ぐらいの人が働いているの?、それから……」
矢継ぎ早におじさんに質問を始めたシェールであったが、おじさんの回答は素っ気なかった。
「そんなこと、わしが分かるわけないだろ。だいたい、今来たばかりで、誰か見なかったとか、掃除以外の仕事をしたとか。それに、その魔導書ってなんだ? わしゃ、知らんぞ!」
なんで今日は仕事の邪魔ばかりされるんだと、へそを曲げたおじさんはそのまま黙りこくってしまった。
「逃げるとしたら、堂々と玄関からかしら」
そう考えて、シェールは玄関をカバーする位置へと移動した。
「もう、誰も来ないわよね。だったら、鍵を閉めてもいいしら?」
玄関では、エルティアが、男性職員に言っていた。
「いや、せっかくだからと夜食を頼んだんだが……」
そう男性職員が答えたとき、ちょうどその出前がやってきた。
「ど~も~。ハンターズソサエティー御用達の夜食デリバリーです~」
長持ちを持った出前の青年が、なんとも間延びした様子で中に入ってきた。またレオ君に吠えられて、ちょっと一悶着ある。
「よし、これで最後ね」
鍵をかけましょうと、シェールが男性職員をうながした。
「念のために、罠も張っとこうぜ」
フェルムが、玄関の足許の高さにロープを張って、慌てて逃げだそうとしたら転ぶように罠を仕掛けた。まあ、中の者たちにはもろバレだが、牽制にはなるだろう。他にも、階段あたりにも同様の罠を仕掛けていく。
●夜食
「簡単に部外者を入れやがって。あ、俺は蕎麦を頼む」
愚痴を言いつつも、ガルシアが、カップ麺を指定した。蕎麦を啜るうさぎの着ぐるみ……シュールである。
「ちょっと調べさせてもらうぞ」
長持ちの中からいくつものカップ麺を取り出す青年に、一言断ってから海斗が長持ちを調べ始めた。何かを隠すには手頃な物だ。が、ひっくり返しても何も出てこなかった。
「いつ見ても得体の知れない食べ物よねえ。あっ、私は自前があるからいいわ」
ホール内に、罠のような物がないか調べていたエルティアが、差し入れを警戒してそう言った。
同様に、観智や麗美やミリアやエヴリルが警戒して夜食を遠慮した。こういう夜食に一服盛るのは、怪盗のお約束だからだ。
「あっ、私はそのキツネと書かれている奴で」
そんなことは気にせず、盾が夜食を注文した。
他の者は、警備を優先しているらしく、館内のあちこちで食べたり食べなかったりしたようだ。
そして、青年が、回収した容器を分別してゴミ袋に入れているときであった。
●怪盗現る!
突然、館内の照明が一斉に消えた。
「すぐに、非常用の明かりをつけて」
ミリアのおいたランタンの明かりに、カウンターそばにいたセリオの顔が浮かびあがったが、直後にランタンが床に落ちて火が燃え広がった。同時に、ガラスの割れる音が二階の方から聞こえる。
「だから、言わんこっちゃ……」
キャーキャー言いながら火を消そうとするミリアを見て、女性館員が駆けつけようとして階段の罠に引っ掛かって転んだ。後を追ってきた菜摘が、すぐに助け起こす。
ガルシアが、だぶだぶの着ぐるみを利用し、身を挺して火を消している間に、摩耶がペンライト、エルティアがカンテラ、観智、吹雪、エヴリルがLEDライトでカウンター付近を照らした。そして、盾が、シャインを宿したワンドを掲げた。
「ああっ、魔導書がない!」
セリオが叫んだ。カウンターの上においてあった魔導書はすべて床に落ちていた。
「さあ、出番だ。本物の魔導書の臭いを……おいっ!?」
さっそく海斗がプードルにディアーリオを探させようとしたが、煙草の臭いを追うのと勘違いしたプードルが、一番たばこ臭い海斗にむかって吠えた。
そのとき、ふと、上を見ろと言われた気がして、麗美が天井近くを見た。
「あ、あそこに!」
指さす方に、みんながライトをむける。空中に怪盗がふわふわと浮かんでいた。
そのまま、割れた窓に吸い込まれるようにして外へと飛び出していく。
「だまされないで、多分陽動よ! きっと、まだ魔導書は動いてないわよ!」
ジュウベエが決めつけて叫んだ。
すぐに麗美とシェールが男性職員と共に玄関を固める。
「まだカウンターの上に隠しているかも……」
姿隠しのマントでくるんだら、魔導書を隠せるんじゃないかと想像した海斗がカウンターに飛びついて上を確認した。
ガルシアと麗美とフェルムも同じように、カウンターの上や落ちた魔導書を確認する。だが、どこにも透明な魔導書は発見できなかった。
「二階はどうだ!」
エヴリル、吹雪、菜摘、摩耶が、すぐさま魔導短伝話を取り出して二階にいるハンターたちにむかって叫んだ。
「みんな一斉に叫んでも、混信するだけだろうが!」
フェルムが、耳から魔導短伝話を離して叫んだ。
「これを見て」
三階にいて、即座に怪盗の後を追った遥が、近くまで駆けつけた観智に、見つけた物を見せた。それは、書架の中に隠されていた、本を擬装した何かの発射装置だ。そこからは、ワイヤーがのびている。
「端に重りがついていて、窓を割って外へと人型風船を引っぱっていったみたい」
遥が、調べた結果を告げる。やはり、こっちは陽動であったようだ。
「こっちは陽動だ」
観智が魔導短伝話で報告しつつ、階段を駆け下りていった。
「いてててて……」
突然、吹雪が、隣にいた少佐の頬をまた引っぱった。
「どうやら偽物ではないようであります」
しれっと言う吹雪を、少佐が睨みつけた。
「いや、少佐じゃない。一番近くにいたのはあなただ。いつ本物と入れ替わった?」
ガルシアが、セリオを指さして決めつけた。格好はいいが、焦げた【まるごとうさぎ】を着た男である。
「確かに、怪しいな」
二階から下りてきた観智が、ガルシアに同意した。セリオを疑っていたわけではなかったが、ガルシアの言うことには一理あると思ったからだ。
「何を言いだすかと思えば……。怪盗に振り回されてどうするのよ。この間にも、怪盗は外に逃げだしているかもしれないのよ。今ここにいない人は誰? もしその人が犯人だったら、手遅れになるわ。すぐに、みんなで外に出て資料館を包囲して怪盗を捕まえるのよ。この人数のハンターなら可能だわ」
ぐずぐずしていては相手の思うつぼだと、セリオが言った。
「ここにいないというと、二階にむかった……、確か、エルティアか?」
少佐が、二階を見やって言った。
「私じゃないですよー」
そこへ、セリオに肩を貸したエルティアと学生が現れた。
「閲覧室の可動書架の後ろに閉じ込められていたんです」
エルティアが言った。本物のセリオは、最初から縛られた上に口も塞がれて、書架の裏に転がされていたのだ。
「そいつが、怪盗よ!」
本物のセリオが、偽物のセリオを指さした。
即座に、摩耶とエルティアとエヴリルとガルシアが怪盗に飛びかかった。そのまま、折り重なって怪盗を押さえ込む。
「よくやった!」
少佐が小躍りして駆け寄ろうとした。
「まだまだ甘いよ」
急に声の変わったセリオが、ほくそ笑んだとき、いきなり大きな音と共にカウンター内の床が抜けた。同時にもうもうと煙が噴きあがり、何も見えなくなる。
「あいたたた、逃がすものかあ!」
一緒に穴に落ちた四人が、とにかく怪盗を逃がしてなるものかと無茶苦茶につかみかかる。
「わ、ちょっと、さわらないでください」
「捕まえた!」
しっちゃかめっちゃかの中、怪盗はするりと着ていたローブを脱いで逃げだしていった。
みんなが、穴の方へ駆けつけてくる。
「待てー、であります!」
みんなが落ちた穴に、吹雪がダイブした。
「ぐえ」
よけいな落下物に、下にいた者たちが軽く押し潰される。
「えーい!」
逃がすものかと、ミリアが緑茶を穴の中にぶちまけた。逃げようとしても、濡れていれば目印になるはずだ。
「魔導書は?」
盾が、ディアーリオの安否を確認した。
「無事だ」
穴の中から息も絶え絶えに這い上がってきたガルシアが、ディアーリオを差し出して言った。
変装のローブを脱ぎ捨てるときに、怪盗はディアーリオを落としたらしい。
だが、肝心の怪盗は横穴から逃げだしてしまっていた。最初から、逃走経路として地下にトンネルを掘ってあったようだ。周到なことに、逃げた後はわざと崩して追跡できないようにしてある。
「くそう、また逃がしたか。だが、今度は、一泡吹かせてやれたぞ」
ディアーリオをセリオに返しながら、多少は溜飲が下がったと言う顔で少佐が言った。
「探偵って大変なのね。でも、楽しかったわ?」
犯人をあてて貢献したのに、なぜかぼろぼろにされているガルシアを見て、エルティアがつぶやいた。
さて、時間は、閉館直後まで遡る。
カウンターにおかれたディアーリオのそばには、話を聞いた物好きたちが集まってきた。
「これからが勝負だぜ」
アルマート・トレナーレ(kz0044)少佐が意気込む。
「なんだか、騒がしい人ですねえ~」
こんな人が警備に来て大丈夫なのかと、聖盾(ka2154)が少佐を見つめた。
「ハッハッハァー! 海からの使者、グル仮面参上だ!」
そう言って、やってきたのは、紫月・海斗(ka0788)だ。
仮面で素顔を隠している。不審人物No1だ。
「こいつが、その魔導書か。もう心配する必要はないぜ、俺がやってきたんだからな」
ディアーリオを見た海斗が、豪快に言った。
「ふふふ、慌てる必要はないわ。犯人はこの中にいる!! ……いや~、一度は言ってみたかったのよね、この台詞」
Jyu=Bee(ka1681)ことジュウベエちゃんが、中央に進み出つつ自信満々で言った。
「少佐! アルコバレーノは、変装の名人と聞くであります!!」
敷島 吹雪(ka1358)が、敬礼しつつ少佐に近づいてきた。
「その通りだ。奴の変装は、本物と見分けがつかない」
聞くなり、吹雪が少佐の両頬を引っぱった。
「いてててて、何をする!」
「大丈夫、少佐は本物であります」
「そんなんで分かったら、苦労しないだろが!」
どや顔の吹雪にむかって、少佐が怒鳴り返した。
「あっ、それっていい方法かも」
私もと、天川 麗美(ka1355)が、そばにいる者たちのほっぺを引っぱろうとし始める。
「でも、魔術的な変装だったら、そんな方法じゃ確認できないわよ」
あっさりと、セリオが吹雪を否定した。
「お嬢さん、よろしければ後で夜のデートなどいかがかな?」
ガルシア・ペレイロ(ka0213)が、セリオに馴れ馴れしく声をかけてきた。なんだこいつという顔で、セリオが軽く睨み返す。それも当然だった。なにしろ、ガルシアはうさぎの着ぐるみ姿だったからだ。強面サングラスの顔とのギャップが酷すぎる。現時点での不審人物No2である。
「怪盗がどうしてこの魔導書に目をつけたのかはよく分かりませんけれど、私も全力で警備させていただきます」
セリオのメガネキラーンに呼応するように、ほんわかのんびりメガネの日下 菜摘(ka0881)が言った。
「こんなことならば、もっと探偵小説とかを読み込んでおくべきでしたわね」
「そうですね。怪盗なんて推理小説の世界の住人かとばかり思っていましたが。実在するとは思いませんでした」
エヴリル・コーンウォリス(ka2206)が菜摘の言葉にうなずいた。
二人は、男女の館員をマークしているようだ。もっとも、向こうから見れば、着ぐるみなんかがいる彼女たちの方がよっぽど怪しいのかもしれない。そういえば、少佐も、どうして怪盗のことを知ったのだろうか。
「少佐は、どこで今回のことを聞いたのでありますか?」
エヴリルと同じ疑問を、吹雪が口にだして少佐に訊ねた。
「まあ、情報屋には困っていないんでな」
暗にミチーノ・インフォルのことを示唆して、少佐が答えた。
「他にも、奴は姿隠しの名人だ。着ているマントが虹色に変化して身を隠すので、虹の怪盗と渾名されている」
「あっ、そのマントほしい!」
その話を聞いて、盾や、海斗や、フェルムが目を輝かせる。
「そのような魔導具が実在するなら、当然、当、資料館で収蔵するので提出するように」
男性館員が、きっちりと釘を刺した。
「もしかしたら、今もそのマントとやらで姿を隠して、そのへんをうろついているかもな」
フェルム・ニンバス(ka2974)が、周囲を見回しながら言った。
「でも、虹の怪盗って、義賊なんでしょぉ。なんで、その魔導書狙ってるのかなぁ」
「怪盗さんも変な物ほしがりますねぇ。薄い本の方が価値あると思いますよ」
首をかしげる麗美に、うんうんと盾がうなずく。
「その本、どこかから盗まれた物だったりして」
「それはないですね」
麗美の言葉を、セリオがきっぱりと否定する。
「怪盗が誰かに変装するなら、合い言葉を決めておきましょうよ」
「この中にもう怪盗がいたら無駄じゃないのか?」
フェルムが、菜摘の提案にツッコミを入れた。
「そうですねぇ。それに、複数犯の可能性も視野に入れませんと」
「ですね。できれば二人一組で動く方がいいでしょう」
天央 観智(ka0896)の言葉を受けて、麗美が言った。
「こんなこともあろうかと、ディアーリオ君の偽物を用意しました」
セリオが5冊の偽魔導書を取り出した。
「うーん、でも、それだと魔導書を知ってる怪盗に見破られる可能性がありますね。ここは、ディアーリオ君を変装させましょうよ」
そう言うと、菜摘がブックカバーを取り出した。これですべての本をつつんでしまえば、見分けはつかなくなる。
「定番って言ったら、突然明かりが消えて、宝物がなくなっているという展開よね。じゃあ、ここにランタンをおいておこうよ」
そう言って、ミリア・アンドレッティ(ka1467)が、カウンターの上にランタンをおいた。
「火は危ないんじゃないですか?」
心配そうに、女性館員が言う。確かに、ディアーリオ自体が紙でできている本だし、火は倒れたときに危険だ。
「なるべく端っこの方、そう、そのへんが安全そうね」
セリオに指示されて、ミリアがランタンをおいた。
「それよりも、盗めないようにケースに入れればいいのよ」
エルティア・ホープナー(ka0727)が言った。透明なケースの中に魔導書を入れてしまえば、外からは手が出せないはずだ。
「どこにそんな箱があるの?」
セリオが聞き返した。さすがに、普段から誰も持っていない物を設置する方法はない。
「仕方ないなあ」
館内の椅子を集めてくると、エルティアがカウンターの周りにおいた椅子の間にロープを渡した。これで、簡単にはカウンターの上の魔導書に近づけないはずだ。
「よければ、この香水を染み込ませた栞を挟んでおけませんか? 香りで、本物かどうか分かると思うのですが」
持っていた栞を取り出して、摩耶(ka0362)が言った。
「それならば、うちのプードルの方が役にたつぜ。この紙巻煙草をほぐしてなすりつけておけば、臭いで追いかけることができるさ」
連れてきた愛犬を撫でながら、カイトが言った。
「それじゃあ、本物には印を……」
ジュウベエが、チョークの粉をディアーリオになすりつけようとした。
「あなたたちは! うちの蔵書に何をする!」
すかさず、セリオと二人の職員が、スパーンとハリセンで三人の頭を叩いた。
それはそうだ。いくら盗まれないためとはいえ、香りをつけたり、粉で汚すなどはもってのほかだ。
「じゃあ、うちのレオ君に、みんなの臭いを覚えさせましょう。もし犯人が逃げても、それなら追いかけることができるでしょうし」
盾は自信満々で、連れてきたゴールデン・レトリバーのレオ君を紹介した。だが、本当に役にたつのだろうか?
「とりあえず、近くで見張るしかないですね」
盾が、カウンターの前に立った。
「資料館の見取り図みたいな物はあるんでしょうかぁ?」
観智が、セリオに訊ねた。
「大まかな物はあるけれど、なにせ、結構勝手に変動するから……」
ちょっと困ったように、セリオが言った。膨大な量の資料を保管するために、資料館の内部の空間はちょっと特殊になっている。地上三階建てだが、見た目と内容積は一致していない。部屋も、必要に応じて変化するといういいかげんさ……いや、便利さである。まさに、魔術師協会の持ち物であると言えよう。
ひとまず、ハンターたちはそれぞれに館内を調べることにした。
「さて、どこから怪盗が現れて、どこから逃げるかよね」
橘 遥(ka1390)が、館内を見渡してつぶやいた。
怪盗を名乗るような者は目立ちたがりであるはずだ。きっと、全員を見下ろせるような高い位置から登場するに決まっている。窓なども、定番の逃走経路だ。
「逃げるとすれば、玄関か、窓か」
フェルムがつぶやく。
「一応、すべての窓の鍵は確認しましたから」
それらを担当している女性館員が請け負った。だが、彼女以外が確かめたわけではない。フェルムと遥は、二階と三階を手分けしてチェックしていった。
エルティアも二階へと調べに行ったが、こちらは学生に案内を頼んでいた。
「館員の方は忙しそうだから案内をお願いしたいの」
「まあ、いいさ。一階の書架は館員の命令で動いて配置を変えるからね。仕掛けをするには適さないだろう。何かあるとすれば、こっちだろうさ」
そう言って、学生がエルティアを案内してくれた。
踊り場を囲む壁も、あちこちに本が埋め込まれていて、とにかく空いているスペースはすべて貯蔵庫にしてしまおうという館員の苦労がしのばれる。その数は半端なく、すべてを調べていたら、何週間もかかってしまいそうだ。
「これだけの蔵書があるわりには警備が薄い気がするのだけれど」
窓や廊下を調べつつ、エルティアが素朴な疑問を口にした。窓の外に猫でもいるのか、変な唸り声のような音が聞こえるのが、ちょっと不気味だ。
「ここにあるのは、学生にむけて公開された資料だからね。稀少的な資料は多いけれど、すべてがオンリーワンというわけじゃない。そういうのは別の場所にあるって話だし。当然、予備だって、用意してあるんじゃないかな」
生徒は面白そうに解説してくれた。盗まれたら盗まれたで、学院としてはすぐに取り返せるつもりなのだろう。
魔法を駆使しての泥棒の捜索など、生徒の実技としてはもってこいだ。
「そんな、こんなすばらしい本を前にして、そんなこと言えるの!」
閲覧室に並んだ本を見て、エルティアが目をキラキラと輝かせながら言った。スライド式の本棚に、これでもかと本が収納されている。ここは、彼女にとって宝の山だ。そのまま、エルティアは状況も忘れて本を読みだしてしまった。
一階では、掃除道具を持ったおじさんが中に入ってきた。
盾のペットのレオ君が、勢いよくおじさんにむかって吠えだした。
「ああ、その人は、清掃の人だから、中に入れてあげて」
セリオが、一同に説明する。
ぶつくさと言いながら、おじさんが仕事を始めた。
「お手伝いしましょうか?」
摩耶がおじさんに、愛想よく申し出た。
「そりゃ助かるが……」
怪訝そうなおじさんを半ば無視して、摩耶がぞうきんで床を拭きだした。
「ああ、そんなにびしょびしょにしたらダメだろうが!」
摩耶の掃除の仕方に、おじさんが慌てて床を拭き直した。足跡が残るようにと摩耶がわざとそうしたのであって、ワックスでもあればよかったのだが、失敗のようだ。
大ホールの閲覧室では、麗美が書架の間をチェックしていた。
「おじさんって、いつ頃からここで働いているの?」
摩耶と共に掃除を続けるおじさんに、シェール・L・アヴァロン(ka1386)が訊ねた。
「わしは先週からだが、それが何か?」
その言葉に、シェールがちょっと疑いを深めた。もしかしたら、盗みのために潜入したのかもしれない。
「ここって、何人ぐらいの人が働いているの?、それから……」
矢継ぎ早におじさんに質問を始めたシェールであったが、おじさんの回答は素っ気なかった。
「そんなこと、わしが分かるわけないだろ。だいたい、今来たばかりで、誰か見なかったとか、掃除以外の仕事をしたとか。それに、その魔導書ってなんだ? わしゃ、知らんぞ!」
なんで今日は仕事の邪魔ばかりされるんだと、へそを曲げたおじさんはそのまま黙りこくってしまった。
「逃げるとしたら、堂々と玄関からかしら」
そう考えて、シェールは玄関をカバーする位置へと移動した。
「もう、誰も来ないわよね。だったら、鍵を閉めてもいいしら?」
玄関では、エルティアが、男性職員に言っていた。
「いや、せっかくだからと夜食を頼んだんだが……」
そう男性職員が答えたとき、ちょうどその出前がやってきた。
「ど~も~。ハンターズソサエティー御用達の夜食デリバリーです~」
長持ちを持った出前の青年が、なんとも間延びした様子で中に入ってきた。またレオ君に吠えられて、ちょっと一悶着ある。
「よし、これで最後ね」
鍵をかけましょうと、シェールが男性職員をうながした。
「念のために、罠も張っとこうぜ」
フェルムが、玄関の足許の高さにロープを張って、慌てて逃げだそうとしたら転ぶように罠を仕掛けた。まあ、中の者たちにはもろバレだが、牽制にはなるだろう。他にも、階段あたりにも同様の罠を仕掛けていく。
●夜食
「簡単に部外者を入れやがって。あ、俺は蕎麦を頼む」
愚痴を言いつつも、ガルシアが、カップ麺を指定した。蕎麦を啜るうさぎの着ぐるみ……シュールである。
「ちょっと調べさせてもらうぞ」
長持ちの中からいくつものカップ麺を取り出す青年に、一言断ってから海斗が長持ちを調べ始めた。何かを隠すには手頃な物だ。が、ひっくり返しても何も出てこなかった。
「いつ見ても得体の知れない食べ物よねえ。あっ、私は自前があるからいいわ」
ホール内に、罠のような物がないか調べていたエルティアが、差し入れを警戒してそう言った。
同様に、観智や麗美やミリアやエヴリルが警戒して夜食を遠慮した。こういう夜食に一服盛るのは、怪盗のお約束だからだ。
「あっ、私はそのキツネと書かれている奴で」
そんなことは気にせず、盾が夜食を注文した。
他の者は、警備を優先しているらしく、館内のあちこちで食べたり食べなかったりしたようだ。
そして、青年が、回収した容器を分別してゴミ袋に入れているときであった。
●怪盗現る!
突然、館内の照明が一斉に消えた。
「すぐに、非常用の明かりをつけて」
ミリアのおいたランタンの明かりに、カウンターそばにいたセリオの顔が浮かびあがったが、直後にランタンが床に落ちて火が燃え広がった。同時に、ガラスの割れる音が二階の方から聞こえる。
「だから、言わんこっちゃ……」
キャーキャー言いながら火を消そうとするミリアを見て、女性館員が駆けつけようとして階段の罠に引っ掛かって転んだ。後を追ってきた菜摘が、すぐに助け起こす。
ガルシアが、だぶだぶの着ぐるみを利用し、身を挺して火を消している間に、摩耶がペンライト、エルティアがカンテラ、観智、吹雪、エヴリルがLEDライトでカウンター付近を照らした。そして、盾が、シャインを宿したワンドを掲げた。
「ああっ、魔導書がない!」
セリオが叫んだ。カウンターの上においてあった魔導書はすべて床に落ちていた。
「さあ、出番だ。本物の魔導書の臭いを……おいっ!?」
さっそく海斗がプードルにディアーリオを探させようとしたが、煙草の臭いを追うのと勘違いしたプードルが、一番たばこ臭い海斗にむかって吠えた。
そのとき、ふと、上を見ろと言われた気がして、麗美が天井近くを見た。
「あ、あそこに!」
指さす方に、みんながライトをむける。空中に怪盗がふわふわと浮かんでいた。
そのまま、割れた窓に吸い込まれるようにして外へと飛び出していく。
「だまされないで、多分陽動よ! きっと、まだ魔導書は動いてないわよ!」
ジュウベエが決めつけて叫んだ。
すぐに麗美とシェールが男性職員と共に玄関を固める。
「まだカウンターの上に隠しているかも……」
姿隠しのマントでくるんだら、魔導書を隠せるんじゃないかと想像した海斗がカウンターに飛びついて上を確認した。
ガルシアと麗美とフェルムも同じように、カウンターの上や落ちた魔導書を確認する。だが、どこにも透明な魔導書は発見できなかった。
「二階はどうだ!」
エヴリル、吹雪、菜摘、摩耶が、すぐさま魔導短伝話を取り出して二階にいるハンターたちにむかって叫んだ。
「みんな一斉に叫んでも、混信するだけだろうが!」
フェルムが、耳から魔導短伝話を離して叫んだ。
「これを見て」
三階にいて、即座に怪盗の後を追った遥が、近くまで駆けつけた観智に、見つけた物を見せた。それは、書架の中に隠されていた、本を擬装した何かの発射装置だ。そこからは、ワイヤーがのびている。
「端に重りがついていて、窓を割って外へと人型風船を引っぱっていったみたい」
遥が、調べた結果を告げる。やはり、こっちは陽動であったようだ。
「こっちは陽動だ」
観智が魔導短伝話で報告しつつ、階段を駆け下りていった。
「いてててて……」
突然、吹雪が、隣にいた少佐の頬をまた引っぱった。
「どうやら偽物ではないようであります」
しれっと言う吹雪を、少佐が睨みつけた。
「いや、少佐じゃない。一番近くにいたのはあなただ。いつ本物と入れ替わった?」
ガルシアが、セリオを指さして決めつけた。格好はいいが、焦げた【まるごとうさぎ】を着た男である。
「確かに、怪しいな」
二階から下りてきた観智が、ガルシアに同意した。セリオを疑っていたわけではなかったが、ガルシアの言うことには一理あると思ったからだ。
「何を言いだすかと思えば……。怪盗に振り回されてどうするのよ。この間にも、怪盗は外に逃げだしているかもしれないのよ。今ここにいない人は誰? もしその人が犯人だったら、手遅れになるわ。すぐに、みんなで外に出て資料館を包囲して怪盗を捕まえるのよ。この人数のハンターなら可能だわ」
ぐずぐずしていては相手の思うつぼだと、セリオが言った。
「ここにいないというと、二階にむかった……、確か、エルティアか?」
少佐が、二階を見やって言った。
「私じゃないですよー」
そこへ、セリオに肩を貸したエルティアと学生が現れた。
「閲覧室の可動書架の後ろに閉じ込められていたんです」
エルティアが言った。本物のセリオは、最初から縛られた上に口も塞がれて、書架の裏に転がされていたのだ。
「そいつが、怪盗よ!」
本物のセリオが、偽物のセリオを指さした。
即座に、摩耶とエルティアとエヴリルとガルシアが怪盗に飛びかかった。そのまま、折り重なって怪盗を押さえ込む。
「よくやった!」
少佐が小躍りして駆け寄ろうとした。
「まだまだ甘いよ」
急に声の変わったセリオが、ほくそ笑んだとき、いきなり大きな音と共にカウンター内の床が抜けた。同時にもうもうと煙が噴きあがり、何も見えなくなる。
「あいたたた、逃がすものかあ!」
一緒に穴に落ちた四人が、とにかく怪盗を逃がしてなるものかと無茶苦茶につかみかかる。
「わ、ちょっと、さわらないでください」
「捕まえた!」
しっちゃかめっちゃかの中、怪盗はするりと着ていたローブを脱いで逃げだしていった。
みんなが、穴の方へ駆けつけてくる。
「待てー、であります!」
みんなが落ちた穴に、吹雪がダイブした。
「ぐえ」
よけいな落下物に、下にいた者たちが軽く押し潰される。
「えーい!」
逃がすものかと、ミリアが緑茶を穴の中にぶちまけた。逃げようとしても、濡れていれば目印になるはずだ。
「魔導書は?」
盾が、ディアーリオの安否を確認した。
「無事だ」
穴の中から息も絶え絶えに這い上がってきたガルシアが、ディアーリオを差し出して言った。
変装のローブを脱ぎ捨てるときに、怪盗はディアーリオを落としたらしい。
だが、肝心の怪盗は横穴から逃げだしてしまっていた。最初から、逃走経路として地下にトンネルを掘ってあったようだ。周到なことに、逃げた後はわざと崩して追跡できないようにしてある。
「くそう、また逃がしたか。だが、今度は、一泡吹かせてやれたぞ」
ディアーリオをセリオに返しながら、多少は溜飲が下がったと言う顔で少佐が言った。
「探偵って大変なのね。でも、楽しかったわ?」
犯人をあてて貢献したのに、なぜかぼろぼろにされているガルシアを見て、エルティアがつぶやいた。
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- 壮健なる偉丈夫
ガルシア・ペレイロ(ka0213)
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捜査本部(相談卓) 天川 麗美(ka1355) 人間(クリムゾンウェスト)|20才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2014/08/24 02:56:58 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/08/20 00:23:14 |