ゲスト
(ka0000)
【??】Sneak Shot
マスター:剣崎宗二

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 7日
- 締切
- 2016/03/03 22:00
- 完成日
- 2016/03/08 21:41
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●隠者の一策
森の中。
鹿が一匹、駆け抜ける。
襲い来る狩人から辛うじて逃げ切ったそれは、一息つく為に、水場の傍に立ち止まる。
水面は静かで、鹿の姿が映る。水を飲もうとそこに口をつけた、その瞬間。
バシャン。
足元から水のような物が湧き上がり、鹿の全身を包み込む。暴れる暇もなくその液体は全身に周り、そして一瞬にして、鹿の姿はその場から消滅した。
「さてはて……人目につかないまま体力補給を行うのにも、限界がありますな」
地面から伸びる液体が、人の形を形成する。
――ノーフェイス。形無き邪悪。
ハンターたちとの激戦により、体積の大半を失い、人間で言えば瀕死状態にまで至った『それ』ではあったが、人目から隠れながら小動物類を捕食する事により、今は全盛期の8割の力を取り戻していたのである。
「あっれー?おかしいな。確かにこっちに来た筈なんだけどな」
鹿を追ってきた猟師たちが、四方を見渡す。
それを見て、ノーフェイスは一つの計画を思いつく。
「さて――こちらをご覧になってください」
体の表面に、精神的抵抗を溶解させる紋を浮かび上がらせ、体内にある、精神を操る妖刀――『天問』の力を全開にする。
元より一般人の精神を操るだけならば、紋は必要なかった筈。それでもこの歪虚が全ての力を注いだのは――「完全に支配下に置く」その為だ。
「さて、ご助力頂きましょうか」
●渦巻く陰謀
マフォジョ族集落、入り口。
ここを訪れていたハンターたちは……族長、ガルヴァンに迎え入れられる事になる。
「流石にまだ、完全に信用する訳には行きませぬが……交流に来ると言うのであれば、歓迎でございますな」
彼らが集落の中に入ろうとしたその瞬間。胸騒ぎがした。
それは何も確固とした証拠のない胸騒ぎ。所謂「嫌な予感」と言った物だ。だが、その予感は、彼らを――同時期に村の入り口に到着した、二人の狩人に導いた。
「どうしました?」
にこやかに対応する狩人。その反応が、更にハンターたちの違和感を加速させる。
――トランシーバーを取り出す。僅かに走るノイズ。それは、歪虚が付近に居るかもしれない証拠。だがその反応は小さい。遠いのか、それとも――
――気配の隠蔽に長けた者か。
ハンターたちは思案する。
如何なる陰謀が、彼らの周りに渦巻いているのか。
如何に、状況に対応すべきか。
ガルヴァンの目線は彼らを真っ直ぐ見つめている。対応を間違えれば、再度マフォジョ族とハンターの間の関係が険悪になりかねない。
かくして、後の事件の前兆とも言える一件が、幕を開けたのであった――
森の中。
鹿が一匹、駆け抜ける。
襲い来る狩人から辛うじて逃げ切ったそれは、一息つく為に、水場の傍に立ち止まる。
水面は静かで、鹿の姿が映る。水を飲もうとそこに口をつけた、その瞬間。
バシャン。
足元から水のような物が湧き上がり、鹿の全身を包み込む。暴れる暇もなくその液体は全身に周り、そして一瞬にして、鹿の姿はその場から消滅した。
「さてはて……人目につかないまま体力補給を行うのにも、限界がありますな」
地面から伸びる液体が、人の形を形成する。
――ノーフェイス。形無き邪悪。
ハンターたちとの激戦により、体積の大半を失い、人間で言えば瀕死状態にまで至った『それ』ではあったが、人目から隠れながら小動物類を捕食する事により、今は全盛期の8割の力を取り戻していたのである。
「あっれー?おかしいな。確かにこっちに来た筈なんだけどな」
鹿を追ってきた猟師たちが、四方を見渡す。
それを見て、ノーフェイスは一つの計画を思いつく。
「さて――こちらをご覧になってください」
体の表面に、精神的抵抗を溶解させる紋を浮かび上がらせ、体内にある、精神を操る妖刀――『天問』の力を全開にする。
元より一般人の精神を操るだけならば、紋は必要なかった筈。それでもこの歪虚が全ての力を注いだのは――「完全に支配下に置く」その為だ。
「さて、ご助力頂きましょうか」
●渦巻く陰謀
マフォジョ族集落、入り口。
ここを訪れていたハンターたちは……族長、ガルヴァンに迎え入れられる事になる。
「流石にまだ、完全に信用する訳には行きませぬが……交流に来ると言うのであれば、歓迎でございますな」
彼らが集落の中に入ろうとしたその瞬間。胸騒ぎがした。
それは何も確固とした証拠のない胸騒ぎ。所謂「嫌な予感」と言った物だ。だが、その予感は、彼らを――同時期に村の入り口に到着した、二人の狩人に導いた。
「どうしました?」
にこやかに対応する狩人。その反応が、更にハンターたちの違和感を加速させる。
――トランシーバーを取り出す。僅かに走るノイズ。それは、歪虚が付近に居るかもしれない証拠。だがその反応は小さい。遠いのか、それとも――
――気配の隠蔽に長けた者か。
ハンターたちは思案する。
如何なる陰謀が、彼らの周りに渦巻いているのか。
如何に、状況に対応すべきか。
ガルヴァンの目線は彼らを真っ直ぐ見つめている。対応を間違えれば、再度マフォジョ族とハンターの間の関係が険悪になりかねない。
かくして、後の事件の前兆とも言える一件が、幕を開けたのであった――
リプレイ本文
●外に狼は居るか?
交渉は成った。
『怪しい事をした者には、その者のみが分かる質問を行う事』――ハンターたちの要求は、受け入れられた。
だが、未だに敵の正体、そして所在は不明。それを探る為、各々の工夫をハンターたちは行う事となる。
「ねね、俺、狩人さんの猟って見た事無いんだよね。良かったら猟場に戻って、見せてくれると嬉しいな」
好奇心に目を輝かせ、鈴木悠司(ka0176)が狩人の二人に語りかける。
「えー…勘弁してくれよ。2日歩いた所にある狩場なんだぜ?くったくたで戻って来たってのに、もう一回出て行けって?」
あからさまに嫌な表情を見せる狩人たち。それを言われてしまっては、悠司もまた、余り強くは出られない。
「弓を射るくらいなら、ある程度近場でも見せられるだろう。案内してやりなさい」
ガルヴァンに促され、狩人たちは渋々、荷物を置き、弓矢のみを持って悠司を案内する。
その際、悠司は、相方であるヤナギ・エリューナク(ka0265)に目配せする。その彼は、静かに頷いた。
「――まぁ、こんな感じだが、あんまし面白いもんでもねぇぞ」
幾度か弓を、的に向かって射る。矢は何れも、的の中央に突き刺さる。確かに狩人らしい腕前だ。
「いやいや、俺にとっては十分に面白いよ。他人の弓術を見るってのは」
気をよくして、再度弓を構える狩人に背を向け、悠司はヤナギに連絡を取った。
「どうだ?」
「あー……ノイズ、消えねぇな」
両方にノイズが走っている。そんな状況だ。
悠司にとって、これは予想外であった。 …敵は二体居るのだろうか、それとも……?
「……へぇ」
一か八か、試してみるか。ハッタリでも――そう考えた悠司が、笑顔を貼り付け、静かに歩み寄る。
「いい弓術だったよ」
ぱちぱちと拍手する。
「最近、物騒な敵が居るみたいだからね。その弓術も、役に立つと思う」
狩人の表情は、全く変わらない。
「……確か名前はノーフェイス。とかって言ったっけ」
「へぇ……余り聞いた事はない名前だね」
飽くまでも知らぬ存ぜぬを通す気だろうか。
「出来ればお互い、戦わずに通したいけどね。…今の僕では、役不足だろうから」
「さっきからお前は何の話をしてんだ?」
まるで、不可思議な話をされたかのように。狩人は疑いの目を悠司に向けた。
――どうする。仕掛けて、炙り出すか。然し若しも本当にこの者が人間――一般人だったとしたら、一撃で撃殺してしまい、マフォジョ族との関係に致命的なヒビを入れる事になる。だが、相手がシラを切り続ける限り、証拠が無ければ――相手に引き下がらせる事は出来ない。
(仕方ない、か)
静かに目を閉じる。
「いや、ごめんごめん、ちょっとしたジョークだよ。さて、帰ろうか」
目を開けて、いつもの笑顔を浮かべ。悠司は、狩人と共に、村へと戻っていった。
●カルチャーサーチ
狩人を引き離した間に。残ったハンターたちは、ガルヴァンと――交渉と言う名の情報収集を始めていた。
「この装備のままで失礼します。僕にとってはこれが『正装』ですが――郷に入っては郷に従え、とするべきでしたね」
フルアーマーのままのジョージ・ユニクス(ka0442)が、ガルヴァンに一礼する。
「いえ、構いません。それぞれの文化がありますでしょうし……戦士として常時、備えておくのは、間違いではありませんからな」
「それで……この異変ですからね。 何か最近、変わった事はありませんか?」
「…御座いませんね。そもそも、我々は貴方がたと違って、そのような通信手段を持っておりませぬ。…なので、このような現象が以前も起こったとしても、我々では気づけなかったと思いますぞ」
――そもそも、ガルヴァンの視点から見れば。自らが知らない現象で、ハンターたちが騒ぎ始めたに過ぎない。ある程度はハンターたちから理由の説明があったとは言え、完全に納得がいかないのも、無理があるまい。
「――ん……強弱はこの距離では判断できないか。とすると…こっちに居る方が歪虚かな?」
同時期。エリス・ブーリャ(ka3419)もまた、彼女なりの方法で、歪虚の位置の特定を試みていた。
トランシーバーを携行したまま、門の前からできるだけ離れずに――付近を練り歩く。
機械に関する知識を総動員し、ノイズの大小から、敵との距離を測ろうと試みる。
――だが、この程度の距離では、ノイズの変動は微差と言わざるを得ない。そして、微細なノイズであれば――通信機器ならどれも発生する物だ。故に、その差による特定は、困難を極める。
(敵がここで偽装したって事は――狙いは恐らく時間を掛けずに集落に入る事の筈。…ならばそろそろ、何かしらのアクションを起こしても良さそうなんだけど――)
エリスの推測は、大まかには当たっていた。然しそれには、一点のみ間違いがあった。
――時間を掛ければ掛けるほど、緊張状態を維持する周囲の人間は疲弊し、集中力は落ちる。それこそが、偽装と欺瞞を特性とするノーフェイスが、己の特徴を発揮するのに最適な環境である。故に――ノーフェイスに急ぐ理由はない。彼自身に、探査の手が迫らない限りは、彼は静を以って、疲を待てばいいのだ。
「然し……その筋肉は、一体如何様にして……羨ましい限りです。若しかしてその服装に秘密が――?」
「いえ、我らマフォジョ族の戦士は、己の肉体を武器としますからな。貴方がたが武器を磨き上げるのと同様に――我等は己の肉体を鍛え上げまする」
『僕も着てみよう』と考えた矢先に、ガルヴァンの言葉によって否定されるジョージ。良かった、着る羽目にならなくて。
「あ、あのー」
おずおずと、アルマ・アニムス(ka4901)が、ガルヴァンに近づく。
「如何致しました?」
急にヒュン、と振り向いたガルヴァンに、思わずびくっとなって二歩ほど、後ずさりしてしまう。
けれども、尚もゆっくりと近づき、他愛の無い雑談を。そして、各員に、その人と親しい人しか分からない質問をすべきと言う、交渉を。
(「アレックスさんと因縁のあるひとですねぇ…まぁいっか。なかよくするですー」)
余り深くは、考えなかった。目の前の巨漢が、過去に何をしていたのか、等とは。
●幕間~綱渡りのサスペンス~
村へと戻る中。歪虚、ノーフェイスは、自身に『汗をかく』と言う機能が備わっていなかった事を幸運に思っていた。でなければ、恐らく今頃、冷や汗を流していたでしょうから。
悠司が若し、あの場で仕掛けてきていたのならば、自身が取り付いているこの者を盾にしてでも、逃げ切れたかどうかは怪しかった。『物』として死体に取り付こうとも、そもそも埋葬されるかが怪しい。火葬ならば正体の露呈は避けられないだろう。……そもそも、今の姿に変わるための体積減少、そして万一の時の『仕掛け』の為に、今の彼の体積、そして力は、全盛期の4割しかない。元々直接戦闘に特化していないその能力は、悠司一人だったとしても梃子摺っていた。ましてや、正体が露見してしまえば、ハンターたちの追跡そして攻撃を受けるのは必至だったのだ。
(やれやれ、何とか切り抜けましたね)
狩人のズボンを上半身に固定する為の、長くて太いレザーベルトに変化していたノーフェイスは、心の中で、そう一息ついたのであった。
●狼の帰還
「戻りました」
笑顔を浮かべた悠司と、狩人が、村の入り口まで戻る。悠司の笑顔の僅かな変化から、炙り出しが失敗した事を悟ったヤナギは、チッ、と静かに舌打ちする。
「さて、お願いしていいですか」
交渉が成立したようで、アルマの言葉に、ガルヴァンが頷く。
――村の中から人が出て来る。狩人たちに親しい者…その祖父母等、だ。
空中には、ボルディア・コンフラムス(ka0796)のカラス。その目を通して、ボルディアは地上を監視する。若しも本当に隠れている歪虚が居るのならば、混乱を起こしてその間に侵入を行う可能性もあるからだ。
空中からの監視と同時に、ハンターたちは別の一手をも打つ。――狩人が歪虚の化けた者ではないかを暴く為の、決定的な一手を。
「いい場所ですね、ここ。私も辺境の出身ですが…少し離れただけでも習慣や文化が違いますね」
「ええ」
ガルヴァンが彼女につけた案内役と共に、夜桜 奏音(ka5754)が、村から少し離れる。
「マフォジョ族とは、マフォジョなる英霊を信仰する部族と聞きましたが――」
「はい。彼女は、三十年前、我らを滅びから救ってくれました。故に我等は…彼女の教えを守り、生きて来ました」
「なるほど。私の部族は――風を、使いました」
軽く、舞うように、ステップを踏んでみせる。
「ここでお見せしても?」
こくりと、案内役が頷いたのを確認し、奏音は舞い踊ると共に――スキルを発動させる。
『生命感知』。範囲内の生命の数と、その位置を確認する、不可視の陣。歪虚には生命反応が無い故、若しも姿が見えており、尚且つ生命反応がない者が居るのならば、その者が歪虚であるという事が確定する。静かに舞いながら、奏音は、範囲内の『姿』と『生命反応』を一つずつ照合させていく。
「と、こんな物でしたが、どうだったでしょうか」
「いやはや、お見事です。我等マフォジョ族は…マフォジョ様自身が、余り舞いを得意としてはいなかったのもありましてな。踊る事は殆ど、御座いませぬ」
「機会がありましたら、又お見せしますね」
――ハンターたちの元に戻る際、奏音は静かに、すれ違いざまに仲間たちに耳打ちする。
――照合の結果。歪虚は「視認できる人間には化けていない」。
●動き出す事態
(ふむ…やはり、手を出さずに済んだのが正解でしたか)
その結果を受け、三里塚 一(ka5736)が考え込む。
彼は――以前、ノーフェイスと交戦した事がある。反応があるのに敵を発見できないと言う事は――敵はあれ自身か、或いはあれと同等の偽装能力を持った何者かと言う事になる。
若しも本当に『ノーフェイス』であったならば、前回既に探査によって破られた『人に成り代わる』を用いる可能性は低く、何かしら一ひねり入れて来るだろう。そう、推測したのだ。
(と、なれば――)
一の目線が向いたのは、獲物を入れる、そのバッグ。それを改めさせてもらうべく、彼は族長の元へと向かう。
それとほぼ同時に、狩人たちと親しい者による尋問は、終了していた。結果、何一つ不審な回答は無かったそうだ。
――これもまた、奏音の結論『歪虚は人に化けている訳ではない』を裏付ける事となる。
「――ジョージさん。ジョージさんの好きな人って、だれでしたっけっ」
事前に定められた、質問。
「――」
彼は正確に、その名を答える。そして聞き返す。
「アルマさん、あなたのパートナーの名前は?」
「――」
一寸の淀みも無く、アルマもまた回答する。その名は――ジョージが先ほど口にした名と、一寸違わず。
この問答が、彼らの間の微妙な関係を――暗示していた。
――が、それはともかくとして、どちらも「歪虚に偽装されていない」以上、次の手に移らせるしかない。
既にマフォジョ族の顔には、多少なりとも苛立ちの色が見える。長い間拘束され、結果が出ていないのだ。それも已む無し、と言った所か。
「では、一人ずつ、門を守っていた方の身体検査を受けさせてください。それで問題なければ中に入っても大丈夫ですよ」
エリスがそう言うと、やっとか、と言った表情を浮かべ、狩人たちを先頭に、マフォジョ族の者たちが一人ずつ、並んで身体検査を受け始める。同時に、ヤナギもまた、己のペットである犬を使い、狩人たちの家族から貰った物資についていた匂いを覚えさせ、チェックを開始させる。
――あるいは装飾品に化けているかも知れない。そのエリスの推測は――これ以上無い程に当たっていた。
だが、マフォジョ族の門番を身体検査に回したのは――あまり良いアイデアではなかったと言わざるを得ない。
事前にハンターたちが質問し、得た情報には、こんな一文がある。
「ガルヴァンを除き、マフォジョ族は覚醒者ではない」
そして、前回の依頼から分かっていた事。
――ノーフェイスが一般人に天問を用いる際、彼は変身を解いて『紋』を使わずとも、そのまま人に誤認を引き起こす事が出来る。
若しも身体検査を行ったのがハンターたち、或いはせめて、ガルヴァン自身を指名していたのであれば、この状態で触られる訳にはいかないノーフェイスは、正体を現さざるを得なかっただろう。
だが、それが一般人である門番ならば別。完全に狩人を『支配下に置いた』のも、一瞬、天問を他用に転用しても問題ないようにするためだったのだ。先ほど、ヤナギの犬が『反応しなかった』のもその為。覚醒者のペットは、覚醒者ではない。
(さて――一芝居打つと致しますかね)
狩人に荷物を取りに行かせる――そう見せかけた直後。
獲物に手を伸ばした一に向け、ノーフェイスは獲物――ウサギの内部に潜ませていた自分の体の一部から、遠隔操作で棘のような触手を射出する!
「どうも綺麗過ぎる獲物だと思ったのだがな」
警戒していた一は、難なくそれを回避する。
「ちっ…そこか!」
トランシーバーを持ってノイズの状況から敵の位置の特定を試みていたヤナギも、即座に足に力を込め、一瞬で目標への距離を詰める。
「おいおっさん、自分の部族守りたいんだろ!?なら、協力してくれ!」
願うは、共闘。ガルヴァンもまたそれに応じ、参戦する。
「早く避難してください!」
奏音が、残った民衆に呼びかける。
「え、ちょっと!?」
それに困惑したのはエリス。
――ハンターたちの行動は、統一性を欠いていた。
ガルヴァンに共闘を願う者がいれば、避難誘導を願う者もいる。
集落内への避難を願う者がいれば、これに乗じられる事を危惧する者も居る。
――結果として、それは付け込まれる事となる。
集落内へ民が避難した直後、奏音が攻撃に転じる。
守る為に視界を遮っていた桜の符を収納し、投げつけられる符によって形成された光輝の陣が、ーの火炎の符と共に、中に居るノーフェイスを焼く。
そして――その攻撃を受け、尚も四方に棘を突き出し続けるノーフェイスに。アルマの銃撃による援護を受けながら、ボルディアが突進する。
突き出された棘を、彼女を庇うようにジョージが受け、そのまま掴み、動きを封じる。
「もう逃さねぇ…体の一片までも、粉々にしてやらぁ!」
無数の斬撃が、ボルディアのハルバードから繰り出され、目標を完全に粉砕した。
「――やったかな?」
エリスが、確認の為トランシーバーを取り出す。
――だが。
ノイズは、消えなかった――
交渉は成った。
『怪しい事をした者には、その者のみが分かる質問を行う事』――ハンターたちの要求は、受け入れられた。
だが、未だに敵の正体、そして所在は不明。それを探る為、各々の工夫をハンターたちは行う事となる。
「ねね、俺、狩人さんの猟って見た事無いんだよね。良かったら猟場に戻って、見せてくれると嬉しいな」
好奇心に目を輝かせ、鈴木悠司(ka0176)が狩人の二人に語りかける。
「えー…勘弁してくれよ。2日歩いた所にある狩場なんだぜ?くったくたで戻って来たってのに、もう一回出て行けって?」
あからさまに嫌な表情を見せる狩人たち。それを言われてしまっては、悠司もまた、余り強くは出られない。
「弓を射るくらいなら、ある程度近場でも見せられるだろう。案内してやりなさい」
ガルヴァンに促され、狩人たちは渋々、荷物を置き、弓矢のみを持って悠司を案内する。
その際、悠司は、相方であるヤナギ・エリューナク(ka0265)に目配せする。その彼は、静かに頷いた。
「――まぁ、こんな感じだが、あんまし面白いもんでもねぇぞ」
幾度か弓を、的に向かって射る。矢は何れも、的の中央に突き刺さる。確かに狩人らしい腕前だ。
「いやいや、俺にとっては十分に面白いよ。他人の弓術を見るってのは」
気をよくして、再度弓を構える狩人に背を向け、悠司はヤナギに連絡を取った。
「どうだ?」
「あー……ノイズ、消えねぇな」
両方にノイズが走っている。そんな状況だ。
悠司にとって、これは予想外であった。 …敵は二体居るのだろうか、それとも……?
「……へぇ」
一か八か、試してみるか。ハッタリでも――そう考えた悠司が、笑顔を貼り付け、静かに歩み寄る。
「いい弓術だったよ」
ぱちぱちと拍手する。
「最近、物騒な敵が居るみたいだからね。その弓術も、役に立つと思う」
狩人の表情は、全く変わらない。
「……確か名前はノーフェイス。とかって言ったっけ」
「へぇ……余り聞いた事はない名前だね」
飽くまでも知らぬ存ぜぬを通す気だろうか。
「出来ればお互い、戦わずに通したいけどね。…今の僕では、役不足だろうから」
「さっきからお前は何の話をしてんだ?」
まるで、不可思議な話をされたかのように。狩人は疑いの目を悠司に向けた。
――どうする。仕掛けて、炙り出すか。然し若しも本当にこの者が人間――一般人だったとしたら、一撃で撃殺してしまい、マフォジョ族との関係に致命的なヒビを入れる事になる。だが、相手がシラを切り続ける限り、証拠が無ければ――相手に引き下がらせる事は出来ない。
(仕方ない、か)
静かに目を閉じる。
「いや、ごめんごめん、ちょっとしたジョークだよ。さて、帰ろうか」
目を開けて、いつもの笑顔を浮かべ。悠司は、狩人と共に、村へと戻っていった。
●カルチャーサーチ
狩人を引き離した間に。残ったハンターたちは、ガルヴァンと――交渉と言う名の情報収集を始めていた。
「この装備のままで失礼します。僕にとってはこれが『正装』ですが――郷に入っては郷に従え、とするべきでしたね」
フルアーマーのままのジョージ・ユニクス(ka0442)が、ガルヴァンに一礼する。
「いえ、構いません。それぞれの文化がありますでしょうし……戦士として常時、備えておくのは、間違いではありませんからな」
「それで……この異変ですからね。 何か最近、変わった事はありませんか?」
「…御座いませんね。そもそも、我々は貴方がたと違って、そのような通信手段を持っておりませぬ。…なので、このような現象が以前も起こったとしても、我々では気づけなかったと思いますぞ」
――そもそも、ガルヴァンの視点から見れば。自らが知らない現象で、ハンターたちが騒ぎ始めたに過ぎない。ある程度はハンターたちから理由の説明があったとは言え、完全に納得がいかないのも、無理があるまい。
「――ん……強弱はこの距離では判断できないか。とすると…こっちに居る方が歪虚かな?」
同時期。エリス・ブーリャ(ka3419)もまた、彼女なりの方法で、歪虚の位置の特定を試みていた。
トランシーバーを携行したまま、門の前からできるだけ離れずに――付近を練り歩く。
機械に関する知識を総動員し、ノイズの大小から、敵との距離を測ろうと試みる。
――だが、この程度の距離では、ノイズの変動は微差と言わざるを得ない。そして、微細なノイズであれば――通信機器ならどれも発生する物だ。故に、その差による特定は、困難を極める。
(敵がここで偽装したって事は――狙いは恐らく時間を掛けずに集落に入る事の筈。…ならばそろそろ、何かしらのアクションを起こしても良さそうなんだけど――)
エリスの推測は、大まかには当たっていた。然しそれには、一点のみ間違いがあった。
――時間を掛ければ掛けるほど、緊張状態を維持する周囲の人間は疲弊し、集中力は落ちる。それこそが、偽装と欺瞞を特性とするノーフェイスが、己の特徴を発揮するのに最適な環境である。故に――ノーフェイスに急ぐ理由はない。彼自身に、探査の手が迫らない限りは、彼は静を以って、疲を待てばいいのだ。
「然し……その筋肉は、一体如何様にして……羨ましい限りです。若しかしてその服装に秘密が――?」
「いえ、我らマフォジョ族の戦士は、己の肉体を武器としますからな。貴方がたが武器を磨き上げるのと同様に――我等は己の肉体を鍛え上げまする」
『僕も着てみよう』と考えた矢先に、ガルヴァンの言葉によって否定されるジョージ。良かった、着る羽目にならなくて。
「あ、あのー」
おずおずと、アルマ・アニムス(ka4901)が、ガルヴァンに近づく。
「如何致しました?」
急にヒュン、と振り向いたガルヴァンに、思わずびくっとなって二歩ほど、後ずさりしてしまう。
けれども、尚もゆっくりと近づき、他愛の無い雑談を。そして、各員に、その人と親しい人しか分からない質問をすべきと言う、交渉を。
(「アレックスさんと因縁のあるひとですねぇ…まぁいっか。なかよくするですー」)
余り深くは、考えなかった。目の前の巨漢が、過去に何をしていたのか、等とは。
●幕間~綱渡りのサスペンス~
村へと戻る中。歪虚、ノーフェイスは、自身に『汗をかく』と言う機能が備わっていなかった事を幸運に思っていた。でなければ、恐らく今頃、冷や汗を流していたでしょうから。
悠司が若し、あの場で仕掛けてきていたのならば、自身が取り付いているこの者を盾にしてでも、逃げ切れたかどうかは怪しかった。『物』として死体に取り付こうとも、そもそも埋葬されるかが怪しい。火葬ならば正体の露呈は避けられないだろう。……そもそも、今の姿に変わるための体積減少、そして万一の時の『仕掛け』の為に、今の彼の体積、そして力は、全盛期の4割しかない。元々直接戦闘に特化していないその能力は、悠司一人だったとしても梃子摺っていた。ましてや、正体が露見してしまえば、ハンターたちの追跡そして攻撃を受けるのは必至だったのだ。
(やれやれ、何とか切り抜けましたね)
狩人のズボンを上半身に固定する為の、長くて太いレザーベルトに変化していたノーフェイスは、心の中で、そう一息ついたのであった。
●狼の帰還
「戻りました」
笑顔を浮かべた悠司と、狩人が、村の入り口まで戻る。悠司の笑顔の僅かな変化から、炙り出しが失敗した事を悟ったヤナギは、チッ、と静かに舌打ちする。
「さて、お願いしていいですか」
交渉が成立したようで、アルマの言葉に、ガルヴァンが頷く。
――村の中から人が出て来る。狩人たちに親しい者…その祖父母等、だ。
空中には、ボルディア・コンフラムス(ka0796)のカラス。その目を通して、ボルディアは地上を監視する。若しも本当に隠れている歪虚が居るのならば、混乱を起こしてその間に侵入を行う可能性もあるからだ。
空中からの監視と同時に、ハンターたちは別の一手をも打つ。――狩人が歪虚の化けた者ではないかを暴く為の、決定的な一手を。
「いい場所ですね、ここ。私も辺境の出身ですが…少し離れただけでも習慣や文化が違いますね」
「ええ」
ガルヴァンが彼女につけた案内役と共に、夜桜 奏音(ka5754)が、村から少し離れる。
「マフォジョ族とは、マフォジョなる英霊を信仰する部族と聞きましたが――」
「はい。彼女は、三十年前、我らを滅びから救ってくれました。故に我等は…彼女の教えを守り、生きて来ました」
「なるほど。私の部族は――風を、使いました」
軽く、舞うように、ステップを踏んでみせる。
「ここでお見せしても?」
こくりと、案内役が頷いたのを確認し、奏音は舞い踊ると共に――スキルを発動させる。
『生命感知』。範囲内の生命の数と、その位置を確認する、不可視の陣。歪虚には生命反応が無い故、若しも姿が見えており、尚且つ生命反応がない者が居るのならば、その者が歪虚であるという事が確定する。静かに舞いながら、奏音は、範囲内の『姿』と『生命反応』を一つずつ照合させていく。
「と、こんな物でしたが、どうだったでしょうか」
「いやはや、お見事です。我等マフォジョ族は…マフォジョ様自身が、余り舞いを得意としてはいなかったのもありましてな。踊る事は殆ど、御座いませぬ」
「機会がありましたら、又お見せしますね」
――ハンターたちの元に戻る際、奏音は静かに、すれ違いざまに仲間たちに耳打ちする。
――照合の結果。歪虚は「視認できる人間には化けていない」。
●動き出す事態
(ふむ…やはり、手を出さずに済んだのが正解でしたか)
その結果を受け、三里塚 一(ka5736)が考え込む。
彼は――以前、ノーフェイスと交戦した事がある。反応があるのに敵を発見できないと言う事は――敵はあれ自身か、或いはあれと同等の偽装能力を持った何者かと言う事になる。
若しも本当に『ノーフェイス』であったならば、前回既に探査によって破られた『人に成り代わる』を用いる可能性は低く、何かしら一ひねり入れて来るだろう。そう、推測したのだ。
(と、なれば――)
一の目線が向いたのは、獲物を入れる、そのバッグ。それを改めさせてもらうべく、彼は族長の元へと向かう。
それとほぼ同時に、狩人たちと親しい者による尋問は、終了していた。結果、何一つ不審な回答は無かったそうだ。
――これもまた、奏音の結論『歪虚は人に化けている訳ではない』を裏付ける事となる。
「――ジョージさん。ジョージさんの好きな人って、だれでしたっけっ」
事前に定められた、質問。
「――」
彼は正確に、その名を答える。そして聞き返す。
「アルマさん、あなたのパートナーの名前は?」
「――」
一寸の淀みも無く、アルマもまた回答する。その名は――ジョージが先ほど口にした名と、一寸違わず。
この問答が、彼らの間の微妙な関係を――暗示していた。
――が、それはともかくとして、どちらも「歪虚に偽装されていない」以上、次の手に移らせるしかない。
既にマフォジョ族の顔には、多少なりとも苛立ちの色が見える。長い間拘束され、結果が出ていないのだ。それも已む無し、と言った所か。
「では、一人ずつ、門を守っていた方の身体検査を受けさせてください。それで問題なければ中に入っても大丈夫ですよ」
エリスがそう言うと、やっとか、と言った表情を浮かべ、狩人たちを先頭に、マフォジョ族の者たちが一人ずつ、並んで身体検査を受け始める。同時に、ヤナギもまた、己のペットである犬を使い、狩人たちの家族から貰った物資についていた匂いを覚えさせ、チェックを開始させる。
――あるいは装飾品に化けているかも知れない。そのエリスの推測は――これ以上無い程に当たっていた。
だが、マフォジョ族の門番を身体検査に回したのは――あまり良いアイデアではなかったと言わざるを得ない。
事前にハンターたちが質問し、得た情報には、こんな一文がある。
「ガルヴァンを除き、マフォジョ族は覚醒者ではない」
そして、前回の依頼から分かっていた事。
――ノーフェイスが一般人に天問を用いる際、彼は変身を解いて『紋』を使わずとも、そのまま人に誤認を引き起こす事が出来る。
若しも身体検査を行ったのがハンターたち、或いはせめて、ガルヴァン自身を指名していたのであれば、この状態で触られる訳にはいかないノーフェイスは、正体を現さざるを得なかっただろう。
だが、それが一般人である門番ならば別。完全に狩人を『支配下に置いた』のも、一瞬、天問を他用に転用しても問題ないようにするためだったのだ。先ほど、ヤナギの犬が『反応しなかった』のもその為。覚醒者のペットは、覚醒者ではない。
(さて――一芝居打つと致しますかね)
狩人に荷物を取りに行かせる――そう見せかけた直後。
獲物に手を伸ばした一に向け、ノーフェイスは獲物――ウサギの内部に潜ませていた自分の体の一部から、遠隔操作で棘のような触手を射出する!
「どうも綺麗過ぎる獲物だと思ったのだがな」
警戒していた一は、難なくそれを回避する。
「ちっ…そこか!」
トランシーバーを持ってノイズの状況から敵の位置の特定を試みていたヤナギも、即座に足に力を込め、一瞬で目標への距離を詰める。
「おいおっさん、自分の部族守りたいんだろ!?なら、協力してくれ!」
願うは、共闘。ガルヴァンもまたそれに応じ、参戦する。
「早く避難してください!」
奏音が、残った民衆に呼びかける。
「え、ちょっと!?」
それに困惑したのはエリス。
――ハンターたちの行動は、統一性を欠いていた。
ガルヴァンに共闘を願う者がいれば、避難誘導を願う者もいる。
集落内への避難を願う者がいれば、これに乗じられる事を危惧する者も居る。
――結果として、それは付け込まれる事となる。
集落内へ民が避難した直後、奏音が攻撃に転じる。
守る為に視界を遮っていた桜の符を収納し、投げつけられる符によって形成された光輝の陣が、ーの火炎の符と共に、中に居るノーフェイスを焼く。
そして――その攻撃を受け、尚も四方に棘を突き出し続けるノーフェイスに。アルマの銃撃による援護を受けながら、ボルディアが突進する。
突き出された棘を、彼女を庇うようにジョージが受け、そのまま掴み、動きを封じる。
「もう逃さねぇ…体の一片までも、粉々にしてやらぁ!」
無数の斬撃が、ボルディアのハルバードから繰り出され、目標を完全に粉砕した。
「――やったかな?」
エリスが、確認の為トランシーバーを取り出す。
――だが。
ノイズは、消えなかった――
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【質問&交渉卓】 エリス・ブーリャ(ka3419) エルフ|17才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2016/03/03 20:36:19 |
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相談卓 ボルディア・コンフラムス(ka0796) 人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2016/03/03 21:12:50 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/03/02 07:23:18 |