ゲスト
(ka0000)
少年、知追う者に依頼する
マスター:狐野径

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/03/08 12:00
- 完成日
- 2016/03/14 00:02
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●見学
グラズヘイム王国の鉱山がある町にエトファリカ連邦国陰陽寮符術師である大江 紅葉(kz0163)はやってきていた。
「……ざ・あれくれ者の町っ、ですっ!」
鉱山で働く者はおおむね体格がいい男が多し、一瞬の迷いが生死を分ける。
「大江殿……楽しそうですね」
一応、護衛兼監視を兼ねて別の部署の武人である松永 光頼が一緒に来ている。監視といっても紅葉が暴走してどこかに行くのを止める係なので、目付よりお守りの方が近いと大概の人はいう。
「刻令術や機導で使うマテリアル鉱石も取れるんですよ? 気にならないわけがありません」
知追う者や知識喰いと言うわれる紅葉なのだ、楽しくないはずはない。
「今日の目的地は観光スポットです。廃鉱と言う価値のない物が価値のある物に生まれ変わる、その好例です! 廃鉱を使ったワイナリーとレストランがあり、ちょっとした冒険気分が味わえるスペースがあるそうです」
紅葉はガイドブックを見せる。
「待ってください……出張届の理由『観光地拡大』と書いていましたね」
「資料集めです」
「陰陽寮って何をするところでしたっけ?」
「龍脈を見、帝を助け、結界を張ったり、符術の力でエトファリカを支えます」
「観光?」
光頼は公費の無駄遣いを疑い、片棒を担がされているためきちんとさせたかった。
「観光をすることにより、人々の気が休まり、活力が生まれます。活力と言うのは強力で巡り巡ってエトファリカのためになるのです。実にマテリアルにあふれ素晴らしい状態は――」
光頼は紅葉の熱弁にヒューガの里を思い出す、温泉が湧く土地だったはずだ、と。
「……分かりました……」
「良かったです」
「……とりあえず、何か理由をつけたと言うことが」
「……ぐう」
「確かに拠点を築いても人の往来がなければしぼんでいくものですし、エトファリカの活性という意味は納得しました」
歪虚を倒したとしても奪われ活力がない土地は人が住みにくいし、何か対策が必要というのは事実なのだ。
早速二人は施設で、ヘルメットを借りて洞窟探検に向かった。
●落下
「うわあああああああああああああああああ」
プエル(kz0127)は悲鳴を上げる。ワイバーンの首にしがみつき、肩掛け鞄も抱きしめる。
ゾンネンシュラール帝国からグラズヘイム王国に入った直後に、ワイバーンはバランスを崩し始めていた。プエルを救出する際に攻撃を食らっていたらしかった。
(……怖いよぉ。落ちたら死んじゃうよぉ……でも僕、歪虚だし、あれ? ん?)
プエルは悲鳴を上げながらもあれこれ考える。
木に引っかかるようにワイバーンは着地した。その衝撃でプエルはワイバーンから転げ落ちた。
「いたたっ……お前、翼がやられているんだね……」
ワイバーンはじっとプエルを見ている。
「うーん、こういう時はどうすればいいんだろう? 僕はお前がいないと帰るのが大変なんだよ……そうだ……駄目だ……歪虚になるのを待つのは」
ひとしきり悩んだ後、プエルは枯草を集めてワイバーンにかける。大きすぎて足りないのだが、途中で満足する。
「ちょっと考えてくる」
プエルは歩き始めたが、ワイバーンは彼の悲鳴を聞くこととなる。竪穴があったらしく、落ちたのだった。
●事件
何か大きなものが落ちたような音が響いた。
紅葉と光頼以外にも客がおり、係の人が様子を見て来るまで安全なところで待つように指示があった。
紅葉は溜息をもらす。
「……仕方がないですね」
「そうですね。大江殿、寒くはありませんか?」
「それはないですよ。松永殿こそ? 私より薄着ですよね?」
「いえいえ」
会話をしながら、他の客を見つつ待つ。客としては家族連れや友達同士らしい子どもたちなどがいる。
紅葉は袖を引っ張られた気がして後ろを見た。
「……ひっ!」
ヒトがいるはずはないので驚き、紅葉は大きく飛び退く。
光頼は紅葉をかばうように刀を抜こうとしたが、入口で武器は回収されていた。
この様子を見た他の客から悲鳴が上がる。
「……なんだ! 余は、これが気になったから触ろうとしただけだ!」
少年特有のキンとした声が響いた。
「……大江殿……」
紅葉は光頼の背を突いて首を横に振る。
「あ、すみません、皆さま、弟が袖を引いたに驚いてしまって」
紅葉はへこへこと頭を下げた。そのおかげで人々は安堵した様子だった。
立ち入り禁止の線がある先にいる少年を紅葉は見た。人間の少年に見えるが、肌が陶器を思い起こさせた。
「大江? んー、知識喰い?」
この瞬間、紅葉はこの歪虚が何かを知っていると気付いた。
(この子は何? 私の嫌な方の二つ名を知っているということはエトファリカに来ていたことがあるということ?)
紅葉は少年の姿をした歪虚を見つめる。
光頼も警戒している。紅葉に振りかかった災難はおおむね理解しているし、もし、紅葉が歪虚に近づくなら離さないといけないと認識していた。
「ねえ、知識たくさんあるんでしょ? なら、僕のパタリンをどうにかして!」
「パタリン?」
「ワイバーンの名前」
「……」
紅葉と光頼は「歪虚ならありうる?」という感じに互いを見た。
「ねえ」
少年の歪虚はせかす。
紅葉は歪虚について行こうと決心し、光頼に小声で告げる。
「松永殿……私、この子から情報が欲しいのです。だから、見逃してください」
「しかし」
「私は知りたいのです、私に以前情報を持ってきた人物たちの背後を」
「……無茶はしないでくださいね」
光頼は己の手を握り締め紅葉を見つめる。
「ねー、何話しているの!」
「ん? 君の名前は何? 私は、大江紅葉だけど……」
「余は憂悦孤唱プエルだっ!」
「ワイバーンの怪我を見ればいいのね?」
「うん」
プエルは紅葉の腕に抱きついた。
「行こう!」
光頼は紅葉の背を見送る。付いていくべきかと自問したが、彼は入り口に急いだ。
●討伐
観光地でもあるところにワイバーンが墜落したとの情報が入り、調査と討伐を兼ねた依頼がハンターオフィスに掲げられる。
「ただ、近くにゴブリン達もいたらしく、そのワイバーンを肉として狙っているのか、影が見えたと通報してきた店の従業員が言っています」
職員は情報をテキパキとまとめ、注意事項等もハンターに告げた。
立ち去ろうとするハンターの前に駆け込んできたのは光頼だった。
「す、すみません、ワイバーン討伐依頼って出てますか?」
ハンターの足が止まる、かもしれない。
「ワイバーンの側に、大江殿が……歪虚に連れられて行った、エトファリカの役人である大江紅葉がいるかもしれません」
光頼はプエルとのことを語った、プエルの名も出す。
「ただ、私も大江殿が何を知りたがっているから分かっていません。ワイバーンの討伐は構いません、大江殿を助けてください」
グラズヘイム王国の鉱山がある町にエトファリカ連邦国陰陽寮符術師である大江 紅葉(kz0163)はやってきていた。
「……ざ・あれくれ者の町っ、ですっ!」
鉱山で働く者はおおむね体格がいい男が多し、一瞬の迷いが生死を分ける。
「大江殿……楽しそうですね」
一応、護衛兼監視を兼ねて別の部署の武人である松永 光頼が一緒に来ている。監視といっても紅葉が暴走してどこかに行くのを止める係なので、目付よりお守りの方が近いと大概の人はいう。
「刻令術や機導で使うマテリアル鉱石も取れるんですよ? 気にならないわけがありません」
知追う者や知識喰いと言うわれる紅葉なのだ、楽しくないはずはない。
「今日の目的地は観光スポットです。廃鉱と言う価値のない物が価値のある物に生まれ変わる、その好例です! 廃鉱を使ったワイナリーとレストランがあり、ちょっとした冒険気分が味わえるスペースがあるそうです」
紅葉はガイドブックを見せる。
「待ってください……出張届の理由『観光地拡大』と書いていましたね」
「資料集めです」
「陰陽寮って何をするところでしたっけ?」
「龍脈を見、帝を助け、結界を張ったり、符術の力でエトファリカを支えます」
「観光?」
光頼は公費の無駄遣いを疑い、片棒を担がされているためきちんとさせたかった。
「観光をすることにより、人々の気が休まり、活力が生まれます。活力と言うのは強力で巡り巡ってエトファリカのためになるのです。実にマテリアルにあふれ素晴らしい状態は――」
光頼は紅葉の熱弁にヒューガの里を思い出す、温泉が湧く土地だったはずだ、と。
「……分かりました……」
「良かったです」
「……とりあえず、何か理由をつけたと言うことが」
「……ぐう」
「確かに拠点を築いても人の往来がなければしぼんでいくものですし、エトファリカの活性という意味は納得しました」
歪虚を倒したとしても奪われ活力がない土地は人が住みにくいし、何か対策が必要というのは事実なのだ。
早速二人は施設で、ヘルメットを借りて洞窟探検に向かった。
●落下
「うわあああああああああああああああああ」
プエル(kz0127)は悲鳴を上げる。ワイバーンの首にしがみつき、肩掛け鞄も抱きしめる。
ゾンネンシュラール帝国からグラズヘイム王国に入った直後に、ワイバーンはバランスを崩し始めていた。プエルを救出する際に攻撃を食らっていたらしかった。
(……怖いよぉ。落ちたら死んじゃうよぉ……でも僕、歪虚だし、あれ? ん?)
プエルは悲鳴を上げながらもあれこれ考える。
木に引っかかるようにワイバーンは着地した。その衝撃でプエルはワイバーンから転げ落ちた。
「いたたっ……お前、翼がやられているんだね……」
ワイバーンはじっとプエルを見ている。
「うーん、こういう時はどうすればいいんだろう? 僕はお前がいないと帰るのが大変なんだよ……そうだ……駄目だ……歪虚になるのを待つのは」
ひとしきり悩んだ後、プエルは枯草を集めてワイバーンにかける。大きすぎて足りないのだが、途中で満足する。
「ちょっと考えてくる」
プエルは歩き始めたが、ワイバーンは彼の悲鳴を聞くこととなる。竪穴があったらしく、落ちたのだった。
●事件
何か大きなものが落ちたような音が響いた。
紅葉と光頼以外にも客がおり、係の人が様子を見て来るまで安全なところで待つように指示があった。
紅葉は溜息をもらす。
「……仕方がないですね」
「そうですね。大江殿、寒くはありませんか?」
「それはないですよ。松永殿こそ? 私より薄着ですよね?」
「いえいえ」
会話をしながら、他の客を見つつ待つ。客としては家族連れや友達同士らしい子どもたちなどがいる。
紅葉は袖を引っ張られた気がして後ろを見た。
「……ひっ!」
ヒトがいるはずはないので驚き、紅葉は大きく飛び退く。
光頼は紅葉をかばうように刀を抜こうとしたが、入口で武器は回収されていた。
この様子を見た他の客から悲鳴が上がる。
「……なんだ! 余は、これが気になったから触ろうとしただけだ!」
少年特有のキンとした声が響いた。
「……大江殿……」
紅葉は光頼の背を突いて首を横に振る。
「あ、すみません、皆さま、弟が袖を引いたに驚いてしまって」
紅葉はへこへこと頭を下げた。そのおかげで人々は安堵した様子だった。
立ち入り禁止の線がある先にいる少年を紅葉は見た。人間の少年に見えるが、肌が陶器を思い起こさせた。
「大江? んー、知識喰い?」
この瞬間、紅葉はこの歪虚が何かを知っていると気付いた。
(この子は何? 私の嫌な方の二つ名を知っているということはエトファリカに来ていたことがあるということ?)
紅葉は少年の姿をした歪虚を見つめる。
光頼も警戒している。紅葉に振りかかった災難はおおむね理解しているし、もし、紅葉が歪虚に近づくなら離さないといけないと認識していた。
「ねえ、知識たくさんあるんでしょ? なら、僕のパタリンをどうにかして!」
「パタリン?」
「ワイバーンの名前」
「……」
紅葉と光頼は「歪虚ならありうる?」という感じに互いを見た。
「ねえ」
少年の歪虚はせかす。
紅葉は歪虚について行こうと決心し、光頼に小声で告げる。
「松永殿……私、この子から情報が欲しいのです。だから、見逃してください」
「しかし」
「私は知りたいのです、私に以前情報を持ってきた人物たちの背後を」
「……無茶はしないでくださいね」
光頼は己の手を握り締め紅葉を見つめる。
「ねー、何話しているの!」
「ん? 君の名前は何? 私は、大江紅葉だけど……」
「余は憂悦孤唱プエルだっ!」
「ワイバーンの怪我を見ればいいのね?」
「うん」
プエルは紅葉の腕に抱きついた。
「行こう!」
光頼は紅葉の背を見送る。付いていくべきかと自問したが、彼は入り口に急いだ。
●討伐
観光地でもあるところにワイバーンが墜落したとの情報が入り、調査と討伐を兼ねた依頼がハンターオフィスに掲げられる。
「ただ、近くにゴブリン達もいたらしく、そのワイバーンを肉として狙っているのか、影が見えたと通報してきた店の従業員が言っています」
職員は情報をテキパキとまとめ、注意事項等もハンターに告げた。
立ち去ろうとするハンターの前に駆け込んできたのは光頼だった。
「す、すみません、ワイバーン討伐依頼って出てますか?」
ハンターの足が止まる、かもしれない。
「ワイバーンの側に、大江殿が……歪虚に連れられて行った、エトファリカの役人である大江紅葉がいるかもしれません」
光頼はプエルとのことを語った、プエルの名も出す。
「ただ、私も大江殿が何を知りたがっているから分かっていません。ワイバーンの討伐は構いません、大江殿を助けてください」
リプレイ本文
●ワイバーン?
ステラ・レッドキャップ(ka5434)はこのような所にいるワイバーンを不思議に思いつつ、退治の仕事に登録した直後、ややこしい事態に巻き込まれたと知る。
「役人の救出が追加されてるし……」
溜息を洩らしつつも、彼女が怪我をしている時のために治療薬や傷薬を用意しておく。
「あの少年が紅葉さんを人質にしていると言う状況でしょうか? いい加減、れちたんの野望を終わりにしないといけません」
ミオレスカ(ka3496)は先日の戦いでプエルに至近距離で範囲魔法を食らったため、少し身を震わせた。
「ワイバーンは墜落らしいが、歪虚に関しては何らかの思惑はあるのだろうが……ひとまず状況把握が優先だな」
ロニ・カルディス(ka0551)は地図を見ながらつぶやく。
「大江 紅葉が知りたいこと……そうか、あの時の事か」
レイオス・アクアウォーカー(ka1990)は焦る、以前紅葉の妹が死んだ現場に居合わせたから。遺体を抱き泣く姿は否応なく胸を突く。その上、東方にいる間、何者かの手の平で踊らされている感覚が続いていた。
「プエルですか。紅葉さんと接触したのは偶然でしょうが、下手をしたら最悪な事態もあり得ますね。とにかく、紅葉さんと合流しなければ」
エルバッハ・リオン(ka2434)も焦りが胸を占める。話に聞くところによると、プエルが穏便に連れて行ったとは言うが、生殺与奪は握られているといって過言ではない。
「大江のお嬢が何か聞きたいなら……その意図は汲む」
百鬼 雷吼(ka5697)は複雑な思いにはなる。紅葉の事が心配でもあり、彼女が求める情報を手に入れられるなら一歩前進なのだから。
「本当に申し訳ない……大江殿を止めるにもあの場で騒ぎにはできず、かといって付いて行けばミイラ取りになりかねない……言い訳に聞こえるとは思うが……」
「そうです! せっかく、紅葉さん、お勤めしていたのに。でも、そこに一般の方がいて被害が及ぶことを考えると……仕方がないのかもしれません」
「面目ない」
ミオレスカに言われ光頼は小さくなる。
「そういえば……これで料金もらい損ねたら、怒るからなー。そうなったらちゃんと払ってくれよ」
「……面目ない」
ステラに追撃され、光頼は一層小さくなった。
「あのお嬢は天然のトラブルメーカーだな。松永の旦那、お嬢を嫁にするなら苦労するぜ」
雷吼がにやにやと笑いながら肩を叩いた。
言われた光頼はきょとんとしている。
「さあ行こう、時間は惜しい」
ロニが促した。
レイオスとエルバッハは走り出している。
●少年と符術師
ハンターたちは岩陰から様子を見る。
ワイバーンはなぜか少々草に埋もれている。
「……まあ、プエルが関わっていると分かっているから、変な状況だけど、隠すためにやったんだろうな……と分かるんだけど」
「一応、隠すつもりがあったんですね」
「一応……だろうけど……でもなぁ、全く隠れてない」
ステラとミオレスカは隠れているところからゴブリンでもワイバーンでも狙えるように武器を構える。
「ゴブリンがあそこにいる」
「ワイバーンとゴブリンと言ったらどっちが強い」
「ワイバーンだろう、普通は」
ロニと雷吼が状況を確認した。ゴブリンたちがあのワイバーンを狙っているのは、相当相手が弱っていると見たからだろうかと。
「プエルはいないのか?」
レイオスはきっと唇をかんだ。
「プエルがいるのは分かっていますし、あのワイバーンの出所もそこ。ゴブリンは退治してもひとまずは放置ですね」
エルバッハは状況を確認した。
紅葉は楽しそうなプエルを邪魔しないように相槌を打つが話を進められない。
「ねーねー、紅葉がパタリンの事治してくれたら、この人形を触らせてあげる」
プエルは肩掛け鞄から、全長50センチの人形を取り出す。赤毛の男性の姿をしているそれは、布とボタン、毛糸などで作られ、誰かの手作りのように写る。
「お母さんが作ってくれたの?」
紅葉は人間の子ども相手のように尋ねた。
「ん? オカアさん? 分からないんだよ、誰かが作って僕にくれたんだよ。だって、僕が一番レチタティーヴォ様のこと好きだって知っているヒト」
プエルはにこにこ言いながら鞄に人形をしまった。
「あ、こっから登れる」
プエルが紅葉の手を引っ張った。
ゴブリン達に攻撃の矛先を定めたハンターたちの視界に、プエルが走ってくる。後ろには息を切らせている紅葉がいる。
「ああっ!? パタリンを狙ってるのかっ」
プエルはハンターに気付いていないようで、ゴブリンに声をかける。
その後ろで、紅葉が符を出して何か術を使った。
(武器は回収されても符は懐に入るよな)
見ていたステラは思うが、何の術を使ったかわ分からない。
「……プエル君」
紅葉はハンターがいる方をちらりと見て、プエルの顔を袖で隠すように引っ張った。
「離せ! 邪魔をするな!」
「危ないですよ」
「……ふへぇ?」
紅葉はプエルをなでる。
「……ふえっ……でも、パタリンが!」
ワイバーンはゴブリンに対して威嚇を行い戦うそぶりは見せる。
「ったく」
ステラはゴブリンの投石に対して銃弾を撃ち込んだ。
「え?」
プエルは銃声に驚く。
「ゴブリンは蹴散らします」
ミオレスカが矢を放った。
「倒したい、引き離したいが! 今は、テメェと事を構えねぇよ!」
レイオスはプエルへの苛立ちを隠せないが、ゴブリンを退治する。
「そうですね。大人しくしてくれて、ワイバーンをこちらに向けさせなければ、あなたをどうこうしません」
エルバッハは距離を詰めて、魔法でゴブリンを討つ。
ロニは状況を見て前に出た。
「お嬢、大丈夫か!」
雷吼が近寄りながらかける言葉に、紅葉は返事をしつつ、目を逸らした。
「なんで? なんで? ハンターが……レチタティーヴォ様たちを消しちゃったハンターが?」
紅葉の袖の隙間からプエルは呆然として見ている。自分の方にはやってこず、ゴブリンだけを退治している。
ほどなくしてゴブリン達は消された。
●少年とハンター
「人質のはずですよね……」
「かばってるよな……」
ミオレスカと雷吼が紅葉とプエルを見て言う。
紅葉はプエルの顔を見せないようにしているため、そうすれば歪虚だとばれないと分かっている行動のようにも見える。
「あの……紅葉さん……こっちに来ませんか」
「お嬢、ほら……」
ミオレスカと雷吼が手招きする。
「ったく……俺は難しい話は嫌いだし、ゴブリンいないか見て来るぜ。アイツ倒すなら話は別だけどな……そうそう、松永ってやつからあんたがそれと一緒にいるいきさつ聞いているぜ?」
ステラは仲間が見える範囲で移動を開始した。
紅葉はステラの言葉に、プエルを隠す理由がないと知る。もし、歪虚と気付かれいないなら隠し通せればいいと考えていたのだった。プエルの顔の前にかけていた自分の袖を外した。
「……で、なんでお前はここにいるんだ」
レイオスの問いかけにプエルはぶすっとして紅葉に張り付く。
「……このワイバーンはお前のだな」
ロニはそろりと近づく。翼がボロボロになっているため、攻撃を受けたのは分かる。
「余、余のパタリンをいじめるつもりだな」
紅葉の抵抗むなしく、プエルは飛びだした。その隙に、プエルと紅葉の間にミオレスカと雷吼が入り込む。
「いじめないかも知れないですよ、あなたが質問に答えたら」
「……に、人間に答える事なんてない……」
エルバッハの言葉にプエルはそわそわする。
「でも、あいつはピカッてするから信用できない!」
「……セイクリッドフラッシュのことだな……攻撃をするならとっくにしている」
ロニは意外な指摘に逡巡したが、正直なことを伝えた。
「紅葉さんの事をご存知だったと聞きますが、どこで知られたのですか?」
エルバッハは淡々とした口調で質問を投げた。
「教えてもらったんだ、大人から」
プエルは意外と素直だった。そわそわとパタリンを見つつ、紅葉を見ようとしている。
「大人ぁ?」
雷吼の不審そうな声にプエルはコクコクとうなずく。
「歪虚の大人子どもの差って?」
「たぶん、プエルの感覚なんじゃないのか……」
ロニとレイオスが知識を引っ張り出してつぶやく。
「プエルの中で大人って誰です?」
「レチタティーヴォ様とかラトスとかクロフェド……うぅ」
エルバッハの問いかけに答えたものの、思い出したらしく大剣に手が伸びる。
「外見年齢とも実力とも取れますが……ひとまずは……いいですね」
エルバッハは次の質問者を見る。
「で、その教えた奴はお嬢の何を教えたんだ?」
「……え? 鬼に優しい巫子がいるって!」
「だからどうなんだ?」
「うまく目玉のよ……ねーねー、パタリンを返して」
雷吼の問いに答えかかったが、プエルは不自然なほど無邪気さを出しごまかした。
「……アカシラって鬼に会ってたか?」
レイオスの問いかけにプエルは首をかしげる。
「余は忙しいんだ!」
「何時もそれだな!」
「本当だよ! 余はアカシラってお……あっ、うっ」
プエルは手で口をふさぐ。
「余、余は何も言わないぞ! レチタティーヴォ様のためにっ!」
プエルは首を横に振った。
「こちらの質問に答えたら、ワイバーンもお前も見逃してやる」
雷吼が明言した。
「……パタリンが落ちたのは、お前達が攻撃したからだろ!」
ミオレスカと戻ってきたステラの目は泳いだ。前回、ワイバーンに向けて発砲している、当たったかは不明だが。戦場だったため、どこで被弾したかなど分からない。
「まだ、話はつかないのか?」
「はい……応対はしてますが、のらりくらりとかわされる感じですね」
ステラにミオレスカが答える。
「……あなたはレチタさん……いえ、あなたにとってレチタティーヴォはなんですか?」
紅葉が不意に尋ねる。
「レチタティーヴォ様は恩人だよ……レチタティーヴォ様は余が人間にいじめられて消えかかっていたのを助けてくれたんだよ! だからね、余はレチタティーヴォ様のために頑張ったんだ! おそばにいたいから頑張ったんだよ! 目を覚ました時以来、なかなかお会いできなかった……そのと間、余に嫉妬する愚かな者たちは余をいじめたんだよ! 個性がないし、どこがいいのかって! でもね、エクエスが助けてくれたし、頑張って余はそいつらをやっつけて、レチタティーヴォ様のおそばにいられるようになったんだ! それからクロフェドとラトスと遊んでもらったり……楽しかった。人間嫌いだけど、人間を無に帰すなら、人間を観察するといいんだってレチタティーヴォ様に教わったんだ。だからね、頑張ったんだ!」
プエルはしゃべった、誰も遮らなかったために。
「……質問にも答えたぞ?」
ロニを見てプエルは言う。
「……答えたうちに入らないだろう」
レイオスは絞り出すように告げる。肝心なところが抜けているのだ。
「いえ、十分すぎるほど答えてくださっています」
紅葉がプエルの様子を見つつ制止に入る。
「余はレチタティーヴォ様いなくて寂しいんだ。だから、紅葉来るなら嬉しいけど、余じゃ紅葉を歪虚にできないし」
プエルはしおれる。
これ以上は引き延ばせないと、ロニは神に祈り、ヒーリングスフィアを使った。
「事情と状況が違うとはいえ、手助けをすることになるとはな……」
ロニはつぶやきながら複雑な表情で怪我がふさがるワイバーンを見る。さすがに、ある程度治るまで複数回使った。下手すると元気になって襲い掛かってくるかもしれない。
ステラはこの様子を見つつ、銃弾を放てるように筋肉を緩める。約束を反故にしてプエルがワイバーンと共に攻撃をしてくる可能性はゼロではない。
「本当に治してくれた!」
プエルはロニを見つめる。
「お礼にお前を殺すのがいいのかな?」
「お礼はいずれでいい」
ロニはとっさに答えた、プエルが大剣を抜きかかっていたため。
機嫌がいいプエルはハンターさっさとワイバーンによじ登る。
「あ、紅葉、また遊ぼうね!」
倒すべき相手を前に怒りや気持ちをセーブしていたために、ハンターたちは異様に疲労していた。
●符術師の思い
「……えと……」
紅葉は何を言っていいのか困った。
「まずはここを離れよう」
ロニが告げた。ゴブリンの死体もあるし、報告にもいかないといけないのだから。
ハンターズソサエティの一角を借りて、光頼と合流する。
「大江殿……心配したのです……」
「申し訳ありありません」
紅葉はうなだれる。
「でさ……こういうことにならないように護衛つけるなら二人じゃねーのか」
ステラは光頼と紅葉を前に大きく息を吐く。
「いえ、街中でしたし……松永殿は全く悪くありません。最善を尽くされました。申し訳ありません」
紅葉は光頼をかばう。
「紅葉さん、あなたは行動を考えないと、また歪虚と手を組むのではと疑われるかもしれませんよ!」
ミオレスカは必死に訴える。
「ご、ごめんなさい……本当に。ミオレスカさん」
初めてあったときから紅葉は彼女に頭が上がらない、見習わないといけない所がたくさんあるから。
「結局……聞きたいことは聞けたんですか?」
エルバッハの問いかけに紅葉はうなずいた。
「明確ではありませんが、みなさんが聞いてくれました……正直言って、プエル君は……おしゃべりのようで肝心なところは隠しますね」
それでもプエルはぽろぽろと欠片は落としていっている。
「あんたが聞きたかったのって、あの時の事の周りだろう?」
「……え、ええ」
紅葉はレイオスの言葉を肯定するが、目は妙に動いた、涙が浮かぶために隠すように。
「オレ、あの後、鬼の使者に会ってんだ。そいつが言うには作戦をほのめかした妖怪がいたという。そいつも濁していたけど、アカシラって鬼に告げた奴がいるのは確実だろう?」
「……そういうことになりますね……やはり、当事者の一人はアカシラ殿ですね」
紅葉はうなずいた。
「穿り返すのも嫌なのですが……性分です、きちんと白黒つけたいのは」
紅葉は雷吼を見る。もし穿り返して良くないことが出ると、被るのは彼をはじめとした鬼なのだから。
「レチタさんの関与……話に聞くと……らしいと言うのかなんというのか」
悲劇を好むと言う性質は十三魔に関しての知識にある。
「……その、言い方、敬称みたいですね……どうせなら、『れちたん』ってどうですか?」
「……可愛いですね」
紅葉はミオレスカに微笑みかける。
ステラは「ははっ」と乾いた笑いを漏らし「無事だったおかげだよな」とつぶやく。それを耳にしてロニがうなずく。
「お嬢は天然のトラブルメーカー……」
「……ごめんなさい」
「ど、土下座しなくていい」
雷吼が慌てる。
「ふふっ……紅葉さんが無事で良かったです……」
エルバッハは様子を見て思わず笑いを漏らし、胸をなでおろした。
ステラ・レッドキャップ(ka5434)はこのような所にいるワイバーンを不思議に思いつつ、退治の仕事に登録した直後、ややこしい事態に巻き込まれたと知る。
「役人の救出が追加されてるし……」
溜息を洩らしつつも、彼女が怪我をしている時のために治療薬や傷薬を用意しておく。
「あの少年が紅葉さんを人質にしていると言う状況でしょうか? いい加減、れちたんの野望を終わりにしないといけません」
ミオレスカ(ka3496)は先日の戦いでプエルに至近距離で範囲魔法を食らったため、少し身を震わせた。
「ワイバーンは墜落らしいが、歪虚に関しては何らかの思惑はあるのだろうが……ひとまず状況把握が優先だな」
ロニ・カルディス(ka0551)は地図を見ながらつぶやく。
「大江 紅葉が知りたいこと……そうか、あの時の事か」
レイオス・アクアウォーカー(ka1990)は焦る、以前紅葉の妹が死んだ現場に居合わせたから。遺体を抱き泣く姿は否応なく胸を突く。その上、東方にいる間、何者かの手の平で踊らされている感覚が続いていた。
「プエルですか。紅葉さんと接触したのは偶然でしょうが、下手をしたら最悪な事態もあり得ますね。とにかく、紅葉さんと合流しなければ」
エルバッハ・リオン(ka2434)も焦りが胸を占める。話に聞くところによると、プエルが穏便に連れて行ったとは言うが、生殺与奪は握られているといって過言ではない。
「大江のお嬢が何か聞きたいなら……その意図は汲む」
百鬼 雷吼(ka5697)は複雑な思いにはなる。紅葉の事が心配でもあり、彼女が求める情報を手に入れられるなら一歩前進なのだから。
「本当に申し訳ない……大江殿を止めるにもあの場で騒ぎにはできず、かといって付いて行けばミイラ取りになりかねない……言い訳に聞こえるとは思うが……」
「そうです! せっかく、紅葉さん、お勤めしていたのに。でも、そこに一般の方がいて被害が及ぶことを考えると……仕方がないのかもしれません」
「面目ない」
ミオレスカに言われ光頼は小さくなる。
「そういえば……これで料金もらい損ねたら、怒るからなー。そうなったらちゃんと払ってくれよ」
「……面目ない」
ステラに追撃され、光頼は一層小さくなった。
「あのお嬢は天然のトラブルメーカーだな。松永の旦那、お嬢を嫁にするなら苦労するぜ」
雷吼がにやにやと笑いながら肩を叩いた。
言われた光頼はきょとんとしている。
「さあ行こう、時間は惜しい」
ロニが促した。
レイオスとエルバッハは走り出している。
●少年と符術師
ハンターたちは岩陰から様子を見る。
ワイバーンはなぜか少々草に埋もれている。
「……まあ、プエルが関わっていると分かっているから、変な状況だけど、隠すためにやったんだろうな……と分かるんだけど」
「一応、隠すつもりがあったんですね」
「一応……だろうけど……でもなぁ、全く隠れてない」
ステラとミオレスカは隠れているところからゴブリンでもワイバーンでも狙えるように武器を構える。
「ゴブリンがあそこにいる」
「ワイバーンとゴブリンと言ったらどっちが強い」
「ワイバーンだろう、普通は」
ロニと雷吼が状況を確認した。ゴブリンたちがあのワイバーンを狙っているのは、相当相手が弱っていると見たからだろうかと。
「プエルはいないのか?」
レイオスはきっと唇をかんだ。
「プエルがいるのは分かっていますし、あのワイバーンの出所もそこ。ゴブリンは退治してもひとまずは放置ですね」
エルバッハは状況を確認した。
紅葉は楽しそうなプエルを邪魔しないように相槌を打つが話を進められない。
「ねーねー、紅葉がパタリンの事治してくれたら、この人形を触らせてあげる」
プエルは肩掛け鞄から、全長50センチの人形を取り出す。赤毛の男性の姿をしているそれは、布とボタン、毛糸などで作られ、誰かの手作りのように写る。
「お母さんが作ってくれたの?」
紅葉は人間の子ども相手のように尋ねた。
「ん? オカアさん? 分からないんだよ、誰かが作って僕にくれたんだよ。だって、僕が一番レチタティーヴォ様のこと好きだって知っているヒト」
プエルはにこにこ言いながら鞄に人形をしまった。
「あ、こっから登れる」
プエルが紅葉の手を引っ張った。
ゴブリン達に攻撃の矛先を定めたハンターたちの視界に、プエルが走ってくる。後ろには息を切らせている紅葉がいる。
「ああっ!? パタリンを狙ってるのかっ」
プエルはハンターに気付いていないようで、ゴブリンに声をかける。
その後ろで、紅葉が符を出して何か術を使った。
(武器は回収されても符は懐に入るよな)
見ていたステラは思うが、何の術を使ったかわ分からない。
「……プエル君」
紅葉はハンターがいる方をちらりと見て、プエルの顔を袖で隠すように引っ張った。
「離せ! 邪魔をするな!」
「危ないですよ」
「……ふへぇ?」
紅葉はプエルをなでる。
「……ふえっ……でも、パタリンが!」
ワイバーンはゴブリンに対して威嚇を行い戦うそぶりは見せる。
「ったく」
ステラはゴブリンの投石に対して銃弾を撃ち込んだ。
「え?」
プエルは銃声に驚く。
「ゴブリンは蹴散らします」
ミオレスカが矢を放った。
「倒したい、引き離したいが! 今は、テメェと事を構えねぇよ!」
レイオスはプエルへの苛立ちを隠せないが、ゴブリンを退治する。
「そうですね。大人しくしてくれて、ワイバーンをこちらに向けさせなければ、あなたをどうこうしません」
エルバッハは距離を詰めて、魔法でゴブリンを討つ。
ロニは状況を見て前に出た。
「お嬢、大丈夫か!」
雷吼が近寄りながらかける言葉に、紅葉は返事をしつつ、目を逸らした。
「なんで? なんで? ハンターが……レチタティーヴォ様たちを消しちゃったハンターが?」
紅葉の袖の隙間からプエルは呆然として見ている。自分の方にはやってこず、ゴブリンだけを退治している。
ほどなくしてゴブリン達は消された。
●少年とハンター
「人質のはずですよね……」
「かばってるよな……」
ミオレスカと雷吼が紅葉とプエルを見て言う。
紅葉はプエルの顔を見せないようにしているため、そうすれば歪虚だとばれないと分かっている行動のようにも見える。
「あの……紅葉さん……こっちに来ませんか」
「お嬢、ほら……」
ミオレスカと雷吼が手招きする。
「ったく……俺は難しい話は嫌いだし、ゴブリンいないか見て来るぜ。アイツ倒すなら話は別だけどな……そうそう、松永ってやつからあんたがそれと一緒にいるいきさつ聞いているぜ?」
ステラは仲間が見える範囲で移動を開始した。
紅葉はステラの言葉に、プエルを隠す理由がないと知る。もし、歪虚と気付かれいないなら隠し通せればいいと考えていたのだった。プエルの顔の前にかけていた自分の袖を外した。
「……で、なんでお前はここにいるんだ」
レイオスの問いかけにプエルはぶすっとして紅葉に張り付く。
「……このワイバーンはお前のだな」
ロニはそろりと近づく。翼がボロボロになっているため、攻撃を受けたのは分かる。
「余、余のパタリンをいじめるつもりだな」
紅葉の抵抗むなしく、プエルは飛びだした。その隙に、プエルと紅葉の間にミオレスカと雷吼が入り込む。
「いじめないかも知れないですよ、あなたが質問に答えたら」
「……に、人間に答える事なんてない……」
エルバッハの言葉にプエルはそわそわする。
「でも、あいつはピカッてするから信用できない!」
「……セイクリッドフラッシュのことだな……攻撃をするならとっくにしている」
ロニは意外な指摘に逡巡したが、正直なことを伝えた。
「紅葉さんの事をご存知だったと聞きますが、どこで知られたのですか?」
エルバッハは淡々とした口調で質問を投げた。
「教えてもらったんだ、大人から」
プエルは意外と素直だった。そわそわとパタリンを見つつ、紅葉を見ようとしている。
「大人ぁ?」
雷吼の不審そうな声にプエルはコクコクとうなずく。
「歪虚の大人子どもの差って?」
「たぶん、プエルの感覚なんじゃないのか……」
ロニとレイオスが知識を引っ張り出してつぶやく。
「プエルの中で大人って誰です?」
「レチタティーヴォ様とかラトスとかクロフェド……うぅ」
エルバッハの問いかけに答えたものの、思い出したらしく大剣に手が伸びる。
「外見年齢とも実力とも取れますが……ひとまずは……いいですね」
エルバッハは次の質問者を見る。
「で、その教えた奴はお嬢の何を教えたんだ?」
「……え? 鬼に優しい巫子がいるって!」
「だからどうなんだ?」
「うまく目玉のよ……ねーねー、パタリンを返して」
雷吼の問いに答えかかったが、プエルは不自然なほど無邪気さを出しごまかした。
「……アカシラって鬼に会ってたか?」
レイオスの問いかけにプエルは首をかしげる。
「余は忙しいんだ!」
「何時もそれだな!」
「本当だよ! 余はアカシラってお……あっ、うっ」
プエルは手で口をふさぐ。
「余、余は何も言わないぞ! レチタティーヴォ様のためにっ!」
プエルは首を横に振った。
「こちらの質問に答えたら、ワイバーンもお前も見逃してやる」
雷吼が明言した。
「……パタリンが落ちたのは、お前達が攻撃したからだろ!」
ミオレスカと戻ってきたステラの目は泳いだ。前回、ワイバーンに向けて発砲している、当たったかは不明だが。戦場だったため、どこで被弾したかなど分からない。
「まだ、話はつかないのか?」
「はい……応対はしてますが、のらりくらりとかわされる感じですね」
ステラにミオレスカが答える。
「……あなたはレチタさん……いえ、あなたにとってレチタティーヴォはなんですか?」
紅葉が不意に尋ねる。
「レチタティーヴォ様は恩人だよ……レチタティーヴォ様は余が人間にいじめられて消えかかっていたのを助けてくれたんだよ! だからね、余はレチタティーヴォ様のために頑張ったんだ! おそばにいたいから頑張ったんだよ! 目を覚ました時以来、なかなかお会いできなかった……そのと間、余に嫉妬する愚かな者たちは余をいじめたんだよ! 個性がないし、どこがいいのかって! でもね、エクエスが助けてくれたし、頑張って余はそいつらをやっつけて、レチタティーヴォ様のおそばにいられるようになったんだ! それからクロフェドとラトスと遊んでもらったり……楽しかった。人間嫌いだけど、人間を無に帰すなら、人間を観察するといいんだってレチタティーヴォ様に教わったんだ。だからね、頑張ったんだ!」
プエルはしゃべった、誰も遮らなかったために。
「……質問にも答えたぞ?」
ロニを見てプエルは言う。
「……答えたうちに入らないだろう」
レイオスは絞り出すように告げる。肝心なところが抜けているのだ。
「いえ、十分すぎるほど答えてくださっています」
紅葉がプエルの様子を見つつ制止に入る。
「余はレチタティーヴォ様いなくて寂しいんだ。だから、紅葉来るなら嬉しいけど、余じゃ紅葉を歪虚にできないし」
プエルはしおれる。
これ以上は引き延ばせないと、ロニは神に祈り、ヒーリングスフィアを使った。
「事情と状況が違うとはいえ、手助けをすることになるとはな……」
ロニはつぶやきながら複雑な表情で怪我がふさがるワイバーンを見る。さすがに、ある程度治るまで複数回使った。下手すると元気になって襲い掛かってくるかもしれない。
ステラはこの様子を見つつ、銃弾を放てるように筋肉を緩める。約束を反故にしてプエルがワイバーンと共に攻撃をしてくる可能性はゼロではない。
「本当に治してくれた!」
プエルはロニを見つめる。
「お礼にお前を殺すのがいいのかな?」
「お礼はいずれでいい」
ロニはとっさに答えた、プエルが大剣を抜きかかっていたため。
機嫌がいいプエルはハンターさっさとワイバーンによじ登る。
「あ、紅葉、また遊ぼうね!」
倒すべき相手を前に怒りや気持ちをセーブしていたために、ハンターたちは異様に疲労していた。
●符術師の思い
「……えと……」
紅葉は何を言っていいのか困った。
「まずはここを離れよう」
ロニが告げた。ゴブリンの死体もあるし、報告にもいかないといけないのだから。
ハンターズソサエティの一角を借りて、光頼と合流する。
「大江殿……心配したのです……」
「申し訳ありありません」
紅葉はうなだれる。
「でさ……こういうことにならないように護衛つけるなら二人じゃねーのか」
ステラは光頼と紅葉を前に大きく息を吐く。
「いえ、街中でしたし……松永殿は全く悪くありません。最善を尽くされました。申し訳ありません」
紅葉は光頼をかばう。
「紅葉さん、あなたは行動を考えないと、また歪虚と手を組むのではと疑われるかもしれませんよ!」
ミオレスカは必死に訴える。
「ご、ごめんなさい……本当に。ミオレスカさん」
初めてあったときから紅葉は彼女に頭が上がらない、見習わないといけない所がたくさんあるから。
「結局……聞きたいことは聞けたんですか?」
エルバッハの問いかけに紅葉はうなずいた。
「明確ではありませんが、みなさんが聞いてくれました……正直言って、プエル君は……おしゃべりのようで肝心なところは隠しますね」
それでもプエルはぽろぽろと欠片は落としていっている。
「あんたが聞きたかったのって、あの時の事の周りだろう?」
「……え、ええ」
紅葉はレイオスの言葉を肯定するが、目は妙に動いた、涙が浮かぶために隠すように。
「オレ、あの後、鬼の使者に会ってんだ。そいつが言うには作戦をほのめかした妖怪がいたという。そいつも濁していたけど、アカシラって鬼に告げた奴がいるのは確実だろう?」
「……そういうことになりますね……やはり、当事者の一人はアカシラ殿ですね」
紅葉はうなずいた。
「穿り返すのも嫌なのですが……性分です、きちんと白黒つけたいのは」
紅葉は雷吼を見る。もし穿り返して良くないことが出ると、被るのは彼をはじめとした鬼なのだから。
「レチタさんの関与……話に聞くと……らしいと言うのかなんというのか」
悲劇を好むと言う性質は十三魔に関しての知識にある。
「……その、言い方、敬称みたいですね……どうせなら、『れちたん』ってどうですか?」
「……可愛いですね」
紅葉はミオレスカに微笑みかける。
ステラは「ははっ」と乾いた笑いを漏らし「無事だったおかげだよな」とつぶやく。それを耳にしてロニがうなずく。
「お嬢は天然のトラブルメーカー……」
「……ごめんなさい」
「ど、土下座しなくていい」
雷吼が慌てる。
「ふふっ……紅葉さんが無事で良かったです……」
エルバッハは様子を見て思わず笑いを漏らし、胸をなでおろした。
依頼結果
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相談卓 レイオス・アクアウォーカー(ka1990) 人間(リアルブルー)|20才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2016/03/08 03:08:22 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/03/07 13:53:12 |