ゲスト
(ka0000)
【闇光】嘘を真に
マスター:奈華里

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/03/11 07:30
- 完成日
- 2016/03/21 23:30
このシナリオは2日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
「おい、遅れてるぞ。急げ」
隊長が僕に声をかけてくる。
気にかけてくれるのは正直嬉しい。しかしだ。初任務からこんな危険な所に赴く事になるとは思わなかった。
リグ・サンガマ――そこは忘れられた国。青龍の加護を受けていた筈の土地は今や人と歪虚の戦場となりつつある。ある種の汚染が進む場所も多く、今自分が運んでいる龍鉱石がなければ覚醒者とてあまり長く滞在すると命の危機にもさらされる。そんな土地に来る事になったのはつい先日の事だった。
「予定していた者が体調を崩してしまってな。着任早々悪いが、輸送部隊に加わって欲しい」
尊敬していた上官からの移動命令に僕は首を縦に振る。
しかし、詳しい話を聞くうちに昔からの性格が災いして、どうにも気が重くなってゆく。
(うそだろ…あんな土地に行くなんて)
強欲の眷属がうようよしていると聞いている。でも、それは名誉ある任務でもあった。
なぜなら、その任務は人類のこれからを担う大事な任務だ。龍鉱石は普通の鉱石より力が強いらしく、ハンター達の力で奪還したカム・ラディ遺跡に運び復活させる事が出来れば、今後の戦いを有利に運ぶ事が出来るという…いわば切り札であると言っていい。だから、それを無事運び届ける事は最重要事項となっている。
「期待しているぞ」
上官の言葉――言葉を賜った時はとても嬉しかったのだが、今はその嬉しさより自分の弱さがついて回る。
(自分は決して強くないのに…)
むしろ臆病な部類に入る。なのに、こんな場所に送られたという事はもしかすると自分は捨て駒にされたのかもと邪推を巡らせてしまう。
(あぁ、駄目だ。あの方はそんな人ではないのに…)
判っていても頭はそちらへと気持ちを引っ張ってゆく。そんな自分に天罰が下った。
「お、おい…あれは!」
「敵だ! 皆、配置につけ…恐れ…グッ!?」
言いかけた隊長の肩に小さな影――
よく見てみればそこには三十センチほどの大きさの爬虫類に似た姿の敵が隊長の肩に喰らいついている。
「た、隊長!」
次第に食い込みが増し、苦悶の表情を浮かべる隊長に僕は声をかける事しかできない。
足がすくみ、汗が流れて…剣を握る手がガタガタと震える。
「俺は、いい…それより荷物を」
肩の敵をむんずと掴んで、隊長は強引に引き剥がそうとする。小さいながらも食い込んだ細かい歯は多く、肉を引き裂き血飛沫が飛ぶ。
「あ、ああぁぁぁぁ~」
僕はその光景に堪らず逃げ出していた。敵前逃亡とはまさにこの事を言うのだろう。
仲間が立ち向かう中、僕はそのまま荷車を置いて来た道をひたすら引き返す。
遠ざかっていく…後方では剣戟の音やら悲鳴が絶えず聞こえていたが、気にする余裕なんてなかった。
だけど、その後聞こえた言葉ははっきりと覚えている。それは隊長の言葉だ。
「あいつに救援を任せた。だから、持ち堪えるんだっ、いいなっ!」
ただ逃げ出しただけなのに…あの隊長は自分を庇ってくれたのだ。帰った時腰抜けだと言われないように。
いや、その時は士気を落としたくないと思っただけかもしれない。けれど、その言葉に救われて――。
●
「何、第1班が襲撃された?」
「はい。敵は複数…ワイバーンが何体かと、小型の、歩くトカゲみたいなやつが沢山です!」
輸送部隊は自分の隊だけではない。
出発日をズラして二班、三班がくる予定となっていた事を思い出し、僕は第二班に報告する。
「で、今の状況は?」
「隊長が交戦命令を出しましたが、あの様子だと長くはもたないと…」
逃げ出した自分が言える立場ではないが、敵にはあの翼竜がいるのだ。
小型のやつも動きは機敏だったから戦闘は厳しいものとなっている事だろう。
二班から本部へと情報は飛んで、僕が襲撃地に戻った時にはそこに隊長他生きた仲間の姿は見当らない。残っていたのは無残に引き裂かれた仲間の遺体とズタボロに壊された荷台のみだ。
「隊長…」
あの出血で大丈夫だっただろうか。
万一の為に回復魔法の使える仲間もいた筈だが、この分だとそれが行えたかは判らない。
「お、おい。あそこに人影があるぞっ!」
そんな折、同行していた一人がそれを見つけて駆けよれば、血だらけの隊長の姿がそこにある。
「おぉ……すまんな。派手にやられた……仲間も散じりに逃げて隠れてる筈だ。幸い、敵さんは鉱石を優先したらしいしなぁ…」
木に身体を預けながら、か細い声で隊長が言う。
「そうか…ま、処分は免れんが、生きていて何よりだ」
駆け寄った一人――隊長の見知った顔だったようで、彼が静かに慰める。
「ははっ、違いねぇ……けどな。まだ取り返す方法は、あるんだせぇ?」
隊長がそう言って小さく口元を吊り上げる。
「おまえ、まさか…」
「これでも隊長、なんでな。備えあれば憂いなしだ…」
隊長はそう言って、何故だか僕の方に視線を向けると何かを放って寄こす。
それは小さな笛だった。
その笛に息を吹き込むと同時に、近付いてくる小さな足音。大地を駆け、徐々にこちらに近付いてくる。
「何、俺のピエールは優秀だからな…きっとやってくれる」
隊長はそこで力尽きたようだった。かくりと力を失くし、目を閉じる。
「託されたのはお前だ。大方敵に何か仕込んだんだろうな…ピエールはそれを追う事が出来る」
すらっとした体格の恰好のいい犬だった。その犬の瞳の強さに勇気を貰って、僕はチャンスだと思った。
腑抜けた心に鞭を打って、もう一度…いや、今度はちゃんと向き合わなければならない。
時間はない。今度こそやれる事をちゃんとやらなければ。
「おい、遅れてるぞ。急げ」
隊長が僕に声をかけてくる。
気にかけてくれるのは正直嬉しい。しかしだ。初任務からこんな危険な所に赴く事になるとは思わなかった。
リグ・サンガマ――そこは忘れられた国。青龍の加護を受けていた筈の土地は今や人と歪虚の戦場となりつつある。ある種の汚染が進む場所も多く、今自分が運んでいる龍鉱石がなければ覚醒者とてあまり長く滞在すると命の危機にもさらされる。そんな土地に来る事になったのはつい先日の事だった。
「予定していた者が体調を崩してしまってな。着任早々悪いが、輸送部隊に加わって欲しい」
尊敬していた上官からの移動命令に僕は首を縦に振る。
しかし、詳しい話を聞くうちに昔からの性格が災いして、どうにも気が重くなってゆく。
(うそだろ…あんな土地に行くなんて)
強欲の眷属がうようよしていると聞いている。でも、それは名誉ある任務でもあった。
なぜなら、その任務は人類のこれからを担う大事な任務だ。龍鉱石は普通の鉱石より力が強いらしく、ハンター達の力で奪還したカム・ラディ遺跡に運び復活させる事が出来れば、今後の戦いを有利に運ぶ事が出来るという…いわば切り札であると言っていい。だから、それを無事運び届ける事は最重要事項となっている。
「期待しているぞ」
上官の言葉――言葉を賜った時はとても嬉しかったのだが、今はその嬉しさより自分の弱さがついて回る。
(自分は決して強くないのに…)
むしろ臆病な部類に入る。なのに、こんな場所に送られたという事はもしかすると自分は捨て駒にされたのかもと邪推を巡らせてしまう。
(あぁ、駄目だ。あの方はそんな人ではないのに…)
判っていても頭はそちらへと気持ちを引っ張ってゆく。そんな自分に天罰が下った。
「お、おい…あれは!」
「敵だ! 皆、配置につけ…恐れ…グッ!?」
言いかけた隊長の肩に小さな影――
よく見てみればそこには三十センチほどの大きさの爬虫類に似た姿の敵が隊長の肩に喰らいついている。
「た、隊長!」
次第に食い込みが増し、苦悶の表情を浮かべる隊長に僕は声をかける事しかできない。
足がすくみ、汗が流れて…剣を握る手がガタガタと震える。
「俺は、いい…それより荷物を」
肩の敵をむんずと掴んで、隊長は強引に引き剥がそうとする。小さいながらも食い込んだ細かい歯は多く、肉を引き裂き血飛沫が飛ぶ。
「あ、ああぁぁぁぁ~」
僕はその光景に堪らず逃げ出していた。敵前逃亡とはまさにこの事を言うのだろう。
仲間が立ち向かう中、僕はそのまま荷車を置いて来た道をひたすら引き返す。
遠ざかっていく…後方では剣戟の音やら悲鳴が絶えず聞こえていたが、気にする余裕なんてなかった。
だけど、その後聞こえた言葉ははっきりと覚えている。それは隊長の言葉だ。
「あいつに救援を任せた。だから、持ち堪えるんだっ、いいなっ!」
ただ逃げ出しただけなのに…あの隊長は自分を庇ってくれたのだ。帰った時腰抜けだと言われないように。
いや、その時は士気を落としたくないと思っただけかもしれない。けれど、その言葉に救われて――。
●
「何、第1班が襲撃された?」
「はい。敵は複数…ワイバーンが何体かと、小型の、歩くトカゲみたいなやつが沢山です!」
輸送部隊は自分の隊だけではない。
出発日をズラして二班、三班がくる予定となっていた事を思い出し、僕は第二班に報告する。
「で、今の状況は?」
「隊長が交戦命令を出しましたが、あの様子だと長くはもたないと…」
逃げ出した自分が言える立場ではないが、敵にはあの翼竜がいるのだ。
小型のやつも動きは機敏だったから戦闘は厳しいものとなっている事だろう。
二班から本部へと情報は飛んで、僕が襲撃地に戻った時にはそこに隊長他生きた仲間の姿は見当らない。残っていたのは無残に引き裂かれた仲間の遺体とズタボロに壊された荷台のみだ。
「隊長…」
あの出血で大丈夫だっただろうか。
万一の為に回復魔法の使える仲間もいた筈だが、この分だとそれが行えたかは判らない。
「お、おい。あそこに人影があるぞっ!」
そんな折、同行していた一人がそれを見つけて駆けよれば、血だらけの隊長の姿がそこにある。
「おぉ……すまんな。派手にやられた……仲間も散じりに逃げて隠れてる筈だ。幸い、敵さんは鉱石を優先したらしいしなぁ…」
木に身体を預けながら、か細い声で隊長が言う。
「そうか…ま、処分は免れんが、生きていて何よりだ」
駆け寄った一人――隊長の見知った顔だったようで、彼が静かに慰める。
「ははっ、違いねぇ……けどな。まだ取り返す方法は、あるんだせぇ?」
隊長がそう言って小さく口元を吊り上げる。
「おまえ、まさか…」
「これでも隊長、なんでな。備えあれば憂いなしだ…」
隊長はそう言って、何故だか僕の方に視線を向けると何かを放って寄こす。
それは小さな笛だった。
その笛に息を吹き込むと同時に、近付いてくる小さな足音。大地を駆け、徐々にこちらに近付いてくる。
「何、俺のピエールは優秀だからな…きっとやってくれる」
隊長はそこで力尽きたようだった。かくりと力を失くし、目を閉じる。
「託されたのはお前だ。大方敵に何か仕込んだんだろうな…ピエールはそれを追う事が出来る」
すらっとした体格の恰好のいい犬だった。その犬の瞳の強さに勇気を貰って、僕はチャンスだと思った。
腑抜けた心に鞭を打って、もう一度…いや、今度はちゃんと向き合わなければならない。
時間はない。今度こそやれる事をちゃんとやらなければ。
リプレイ本文
●心構え
「皮袋の数は大小合わせて二十近くあった筈です。加えて大きいものは五キロは有に超えていたかと…」
超級まりお(ka0824)からの質問に出発時の事を思い出しながら新人君が答える。
「となると運ぶのも重労働だよね。やっぱり連れてきて良かったよー」
彼女の隣りにはゴースロン種の戦馬が一頭。
他のハンターも奪還後の事を考えて、運搬役としてペットの戦馬を同行させている。
「あや、流石にバイクは駄目ってカンジぃ?」
そんな中、一人眉を顰めたのはエリス・ブーリャ(ka3419)だった。
意気揚々と用意してきた魔導バイク…しかしながら足場は余り宜しくない。
でこぼこ道に加えて、泥濘もあるとなればバイクのタイヤがはまりかねない。隊員達が運んでいた荷台でさえ、その辺を考慮して作られていたが、途中ひやっとした場面があったと聞けばここは置いて行くしか他ない。
「まあ、これだけいれば問題ないだろうぜ? と俺はリュー。リュー・グランフェスト(ka2419)だ。よろしくな」
リューは愛馬のテンペストの手綱を引き皆に挨拶する。
「私の名前は星野 ハナ(ka5852)ですぅ。君の名前は? 一緒に行動するんだから名前くらい教え合いましょうよぅ?」
そう彼女に言われて、慌てて姿勢を正す新人君。終始緊張した様子で既に額に汗が滲んでいる。
「あっと…申し遅れました。ぼ…いや、自分はメルロと申します。その、自分、不甲斐無いですが」
「あー…はいはーい、自分で不甲斐無いとか言わないの。初の任務だったんでしょ? 初陣で無事に帰れれば上出来よぉ」
出だしからネガティブ全開の彼を見て、エリスが軽く注意する。
「とは言いましても…自分…」
「あぁ、もう。いーい、エルちゃんがいいこと教えてあげる。自分以外の全ての人がキミをダメだと思ってても自分が自分に誇りを持っていたらなんとかなるものさ。どう、わかったぁ?」
彼を覗き込む形で彼女が言う。
「むしろ逃げ出したって状況からよく逃げなかったもんだ」
とこれはリューだ。
「ですです。あなたに隊長さんがピエールを託したんですから大丈夫です」
夜桜 奏音(ka5754)が彼に向けて、にこりと笑う。その言葉達を力に変えて、彼も再び心を奮い立たせる。
「どんな恐怖だってきっと乗り越えられるよ。みんな同じだから」
まりおが静かに言う。
「ま、最悪俺がおまえを護る。だから安心しろって」
「はい。宜しくお願いします!」
リューのその言葉がお守りとなるか。実際のところはさておいても少しだけメルロの肩から力が抜けて、
(まだまだ硬そうですが、ひとまずこれで…と言った所でしょうか)
奏音はそう思いながら彼に注意を払うのだった。
●発見、強襲
「追いついた?」
眼前を歩いていたピエールが立ち止まり振り返った事に気付いて、まりおが双眼鏡で確認する。
その先には確かに無数に動く影――そこで皆が周辺に隠れ、じっとそれを観察する。場所は余り綺麗とは言えない水の流れた川の淵。砂利と泥濘の間のような場所で小型のトカゲが皮袋を置き、何やらその近くをうろついている。
「間違いありません。隊長を襲った奴です」
まりおから双眼鏡を借りて、見取った敵の姿にメルロがごくりと唾を飲み込む。
しなやかな肢体で二足歩行するトカゲ達。リアルブルーの言葉を借りればそれは小型の恐竜と言っていい。皮膚は爬虫類のそれに近いが、その姿には重量感がないせいか何処か鳥にも似ている。
「川が深くて渡れない、とかだろうか」
立ち往生している様にも見えて、何となく推測する。ともあれ、それはある意味絶好のチャンスだ。だが、
「そう言えば強襲方法は相談していませんでしたね…」
奏音が少し困ったように言う。けれど、無理もなかった。
追跡には迅速さが鍵であったし、相手の数や場所が完全に特定されていた訳ではなかったのだから作戦の練り様もない。唯一、決めていたのは隊列と各自のポジション。ちなみに隊列はピエールとメルロを中央とし前衛にエリスと真が、間にリューと奏音、後衛にまりお、ハナと続き、馬持ちは騎乗。敵捕捉まではエリスの提案した木々に隠れて進む方法を取っている。
「まぁ、とにかく奴らをやらなくては話にならない。従って、ぶつかる他ないだろう」
ピエールの隣りを歩いていた鞍馬 真(ka5819)が腰に携えていた刀を鞘から抜き言う。
「それしかないってカンジぃ? ただ、少し厄介なのかやっぱりアレかなァ?」
ちらりと上空に目をやってエリスが言うのは翼竜、つまりワイバーンの存在だ。川辺には木々の枝が及んでおらず、その隙間から二匹の翼竜が交互に眼下を警戒している。
「あの…どうしますか?」
震える声でメルロが尋ねる。
「そんなの勿論みんなまとめてブッコロですよぅ」
それに爽やかな笑顔でハナが返す。
「殲滅とはいかないまでもやるしかないよな。そのつもりで来た訳だし」
そう言い、リューが愛馬から降る。
「あの様子だと数は三十前後でしょ。大丈夫、軽い軽い~♪」
よっぽど自信があるのかカードバインダーから符を取り出してハナはやる気だ。
そんな中にいてもメルロの自信は未だ底辺にあった。
それを察して、奏音は彼の背中にぺたりと加護符を張り付ける。
「念の為に…大丈夫、皆を信じて下さい。それにまた力が入りすぎですよ。適度に緊張するのはいいですが、過度な緊張はすぐには動けませんから」
落ち着いた様子で彼女が彼に深呼吸を促す。
「では、始めるか」
彼が落ち着くのを待って、真は静かに行動を開始した。
彼の狙いは兎に角多い小型の排除だ。小型が多く集まっている場所に飛び込んで真っ向から刀で薙ぎ払う。しかし、足音を察知したのか、彼が飛び込んだ時には多くのものは機敏に対応し、散じりに回避行動を取っている。
(ッ…思ったより素早いな)
それでも彼は刀を揮うのをやめない。
囲まれるのを覚悟で入ったその場所で跳躍してくる敵目掛けて、カウンターアタックで応戦する。終始、甲高い声で鳴く小型のトカゲ達であるが、真は至って冷静だった。しっかりと相手を見据えて、状況を把握する。
(どうやら役割分担でもなされているのか)
好戦的に向かってくる奴がいる一方で、中には少し引いた位置で鉱石を咥えその場から離脱を計ろうとする者もいる。小さいながらに…いや小さいからこそ、そういった連携がなされているのかもしれない。
「とは言え、逃がすつもりはないのだがな」
真はそう呟いて、手前の一匹を斬り裂きもう一匹を追おうと大地を蹴り出す。
がその時後方から飛び来た弓がそれを捕えて…振り返ればそこにはリューの姿。いつの間にか武器を持ち代え、こちらの援護に回ってくれたらしい。彼の背後ではメルロもおぼつかながら、剣を構えて小型の攻撃を何とか凌いでいる。
「さてっと、じゃあエルちゃんはこっちかな」
肩にかかる髪を後ろに送って、エリスは地上にくる翼竜の相手をかって出る。
相手がこちらの襲撃に気付いたばかりの今、先手を取って速攻で仕留めてしまいたい。そう思い彼女は木の枝を踏み台にして、ジェットブーツで空中に跳び出す。そして、手にしていたライフルを構え翼を打ち抜く。が空にいたのは一匹ではない。もう一匹が彼女の元へと突進を仕掛けてくる。
「ヤバッ!?」
エリスは咄嗟に体を捻って、前方に攻勢防壁の展開に入る。が彼女にその技を発動させるには及ばない。
「空を飛んでないで地上に降りましょうか」
そう呟いた奏音からの加勢によって、二匹目の翼竜の翼に稲妻が直撃。飛べない龍はなんとやらだ。
そんな中で後方のハンターも負けてはいない。
「私の符でやれないものはないんですぅ」
些か無差別とも思える攻撃ではあったが、符による結界の効果範囲は大きい。従って、闇雲に投げても当たる確率は高くなる。すばしっこい小型もランダム攻撃には対応しきれないか巻き込まれる形で彼女の五色光符陣の餌食となってゆく。戦況は七:三…ハンターの優勢。
符の張った結界内には膨大な光が弾け、中のものを焼きつくす。直撃しなくともその光が視界を奪い、その後の動きを封じてしまうから敵にとっては迷惑な事極まりない。各々が前後に分かれて役目を果たし、ハンター達は手早く効率的に敵の数を減らしてゆく。
(凄い…凄過ぎる…)
実戦を体感。そんなハンター達の実力にメルロは正直驚きを隠せなかった。
敵の情報をあらかじめ知っていたとはいえ、第一部隊が遭遇した時とは明らかに違う。
この場で戦う仲間は皆隊長クラスなのだと思わせる強さがあり、とても心強い。
「何、ぼーとしてるんですかっ。メルロくんは前衛が突破されないようそこで防戦していてくださいぃ」
ハナの言葉に頷いて、メルロは手にした剣で撃ちもらしてやってくる小型と対峙する。
(大丈夫。これなら自分にもやれる)
そう自分に言い聞かせて、ピエールの唸り声を聞きながら一心に剣を揮う。実際のところ、彼の元にくる大半の敵はハンター達から受けた傷によりパワーが半減している敵であったが、彼は初陣。それでも噂通り筋は良いらしい。
(これが自信になってくれるといいよな)
リューが彼の動きに目を配りながら思う。が、次の瞬間場は一転する。
●思考か本能か
(ピエールは賢い。ちゃんと判ってる…とすると)
戦闘に入って暫くしてからのピエールの様子はおかしい。
後衛でトカゲを狙いアサルトディスタンスで応戦しつつ、鉱石を回収するように動いていたまりおはピエールの異変に気付いていた。追跡をあれ程静かに行っていた彼が、敵を前にしたからといって唸り続けているのは少し違和感がある。そこで彼女はピエールに近付いて、彼の見ている先に視線を移す。するとそこにはもう一つの影――。
「うそ、空からって…反則だよね…」
まりおが回収していた皮袋を取り落とす。
そこには新手の翼竜が今まさに突風を起こそうかとしている場面――ピエールはその事を何らかの…例えば音でそれを感じ取っていたのかもしれない。そう言えば、あのトカゲの鳴き声はうるさかったではないか。それに気付くと同時に解答を示すが如く降ってくるとかげ達。周囲の木の枝をうまく利用し、落下の衝撃を抑えて次々と華麗に着地を決めてゆく。そして、一部はこちらに向かってくるのだが全てではなくて…彼女はハッとする。
「もしかして…馬を?」
知能があるとは思えなかった。だから本能で弱いものから狙っているのかもしれない。ただそれだけの事だが、今の状況にとって、それが一番厄介である事は間違いない。更に理由をつけ足すとすれば、既にいくつかの皮袋を回収し馬に乗せているから、その力に反応してそちらに向かっているとも考えられる。
「やらせる訳にはいかないんだよ――!」
そう思い、彼女はビーダッシュで馬の元へ走る。
一方、新手と突然の出来事に固まってしまったのはメルロだ。
「嘘だ…そんな、リューさん…」
新手の翼竜の突風で転んだ彼…そんな彼を狙ってきたトカゲの数は異常だ。
どうやら新手の小型は翼竜の上に乗っていたらしい。信じがたい連携であるが、第一部隊の襲撃もそれに近かった事を思い出す。翼竜を見つけた瞬間、次にはトカゲ達の姿があったのだ。その時の状況が重なり彼のトラウマを呼び起こしたようでさっきまでの雄姿はもう面影もない。
なぜなら彼を守る為に動いたリューの怪我が彼の恐怖に火をつけたのだ。
「まさか援軍をよこしてくるとはな。大丈夫か?」
砂埃にまみれ、痛みに堪えながらリューが問う。彼の足にはトカゲの歯がみっちりと食い込んでいる。
「え、ええ…でも、貴方が…」
「言っただろ、護るって…だからよそ見すんな」
そう言って彼はかすり傷だとでもいうように笑って見せて、足に噛みついた小型に刀を振り下ろす。リューは上空からのトカゲから彼を守る為、盾を上に構え地上にいたものを後回しにしたのだ。その結果、隙に気付いた小型からの攻撃をその身で受ける事となった訳である。
「そんな、僕のせいで…」
あの時と同じ…突然の出来事にまた身体が硬くなる。けれど、そこで真の一喝が木霊する。
「翼竜が小型を運んできただけだ…落ち着けっ!」
真には珍しく声を荒らげての叱咤。その声にメルロがびくりと反応する。
同じ失敗はもう犯したくない。守ってくれたリューの為にも、励ましてくれた仲間にも…怖気付いてはいられない。そう思いリューの盾から跳び出して、彼は眼前の敵に剣を向ける。
「すいません、リューさん。僕、貴方の分まで頑張ります!」
怖さがないと言ったら嘘になる。けれど、今、やるべき事は一つだ。
「よぉし、よく言ったぁ。じゃあ今度もすぱぁーとやっちゃうかぁ」
「いいですねぇ。気が合いそうですぅ」
エリスとハナが積極的に翼竜の相手に向かう。
ハナの五色光符陣とエリスのファイアスローワーのコンボがあれば大丈夫だろう。
そこで残りの者は散らばった鉱石を後に戦馬の方へと向かう。
「よっ、ほっと、とぉ」
とそこではグレートソードを片手に華麗に敵を馬に寄せ付けないよう立ち回るまりおの姿がある。
が、やはり四頭分を一人となると大変そうだ。辛うじて防いでいるが、暴れる馬の動きも考慮しなくてはならず苦しい戦いとなっている。そこでリュー、真、メルロが加勢し、奏音がサポートに入る。
「やっふー! これで百人力ってね~」
盾を持つリューの存在は大きい。それに一人が一頭ずつにつけるのだから、さっきに比べれば苦労は四分の一だ。
「全く、小さい身体で大したものだがこれまでだ」
真の刀身がきらめく。
「相手が悪かったと思うんだな」
リューも同種の刀を振るい、トカゲの息の根を止める。そんな彼らに負けじと、メルロも奮戦していた。
そして、彼らはその足で鉱石を遺跡へと運び終える事に成功する。
幸い、あの後敵の襲撃はなかった。あるだけの散らばった鉱石を拾い集め、直接ここまでやって来た訳だ。
「ほらほら、メルロくん。キミから任務成功の報告をして下さいよぅ」
「これは、あなたががんばった証です」
そう言うのはハナと奏音だ。あくまでこの依頼は彼が報告する事に意味があると彼女らは考えたらしい。
「あの、本当に有難う御座います」
メルロはそんな皆にぺこりと一礼して、遺跡の責任者に報告へと向かう。
その時の顔は出会った時とは違って見えて、ハンターらは彼の僅かな成長を見て取り嬉しく思う。
「いや~、しかし疲れた疲れた」
足に大げさな包帯を巻いたリューが言う。
「さっき聞いた話だとメルロの隊長さんも生きているようだ」
とこれは真だ。何でも隊長は目覚めると再び仲間の隊員の為、この地に足を踏み入れていると言う。
「ピエールもお疲れ様」
メルロの帰りを待ちつつ彼らはそれぞれを労い、この先の未来が明るくある事を願うのだった。
「皮袋の数は大小合わせて二十近くあった筈です。加えて大きいものは五キロは有に超えていたかと…」
超級まりお(ka0824)からの質問に出発時の事を思い出しながら新人君が答える。
「となると運ぶのも重労働だよね。やっぱり連れてきて良かったよー」
彼女の隣りにはゴースロン種の戦馬が一頭。
他のハンターも奪還後の事を考えて、運搬役としてペットの戦馬を同行させている。
「あや、流石にバイクは駄目ってカンジぃ?」
そんな中、一人眉を顰めたのはエリス・ブーリャ(ka3419)だった。
意気揚々と用意してきた魔導バイク…しかしながら足場は余り宜しくない。
でこぼこ道に加えて、泥濘もあるとなればバイクのタイヤがはまりかねない。隊員達が運んでいた荷台でさえ、その辺を考慮して作られていたが、途中ひやっとした場面があったと聞けばここは置いて行くしか他ない。
「まあ、これだけいれば問題ないだろうぜ? と俺はリュー。リュー・グランフェスト(ka2419)だ。よろしくな」
リューは愛馬のテンペストの手綱を引き皆に挨拶する。
「私の名前は星野 ハナ(ka5852)ですぅ。君の名前は? 一緒に行動するんだから名前くらい教え合いましょうよぅ?」
そう彼女に言われて、慌てて姿勢を正す新人君。終始緊張した様子で既に額に汗が滲んでいる。
「あっと…申し遅れました。ぼ…いや、自分はメルロと申します。その、自分、不甲斐無いですが」
「あー…はいはーい、自分で不甲斐無いとか言わないの。初の任務だったんでしょ? 初陣で無事に帰れれば上出来よぉ」
出だしからネガティブ全開の彼を見て、エリスが軽く注意する。
「とは言いましても…自分…」
「あぁ、もう。いーい、エルちゃんがいいこと教えてあげる。自分以外の全ての人がキミをダメだと思ってても自分が自分に誇りを持っていたらなんとかなるものさ。どう、わかったぁ?」
彼を覗き込む形で彼女が言う。
「むしろ逃げ出したって状況からよく逃げなかったもんだ」
とこれはリューだ。
「ですです。あなたに隊長さんがピエールを託したんですから大丈夫です」
夜桜 奏音(ka5754)が彼に向けて、にこりと笑う。その言葉達を力に変えて、彼も再び心を奮い立たせる。
「どんな恐怖だってきっと乗り越えられるよ。みんな同じだから」
まりおが静かに言う。
「ま、最悪俺がおまえを護る。だから安心しろって」
「はい。宜しくお願いします!」
リューのその言葉がお守りとなるか。実際のところはさておいても少しだけメルロの肩から力が抜けて、
(まだまだ硬そうですが、ひとまずこれで…と言った所でしょうか)
奏音はそう思いながら彼に注意を払うのだった。
●発見、強襲
「追いついた?」
眼前を歩いていたピエールが立ち止まり振り返った事に気付いて、まりおが双眼鏡で確認する。
その先には確かに無数に動く影――そこで皆が周辺に隠れ、じっとそれを観察する。場所は余り綺麗とは言えない水の流れた川の淵。砂利と泥濘の間のような場所で小型のトカゲが皮袋を置き、何やらその近くをうろついている。
「間違いありません。隊長を襲った奴です」
まりおから双眼鏡を借りて、見取った敵の姿にメルロがごくりと唾を飲み込む。
しなやかな肢体で二足歩行するトカゲ達。リアルブルーの言葉を借りればそれは小型の恐竜と言っていい。皮膚は爬虫類のそれに近いが、その姿には重量感がないせいか何処か鳥にも似ている。
「川が深くて渡れない、とかだろうか」
立ち往生している様にも見えて、何となく推測する。ともあれ、それはある意味絶好のチャンスだ。だが、
「そう言えば強襲方法は相談していませんでしたね…」
奏音が少し困ったように言う。けれど、無理もなかった。
追跡には迅速さが鍵であったし、相手の数や場所が完全に特定されていた訳ではなかったのだから作戦の練り様もない。唯一、決めていたのは隊列と各自のポジション。ちなみに隊列はピエールとメルロを中央とし前衛にエリスと真が、間にリューと奏音、後衛にまりお、ハナと続き、馬持ちは騎乗。敵捕捉まではエリスの提案した木々に隠れて進む方法を取っている。
「まぁ、とにかく奴らをやらなくては話にならない。従って、ぶつかる他ないだろう」
ピエールの隣りを歩いていた鞍馬 真(ka5819)が腰に携えていた刀を鞘から抜き言う。
「それしかないってカンジぃ? ただ、少し厄介なのかやっぱりアレかなァ?」
ちらりと上空に目をやってエリスが言うのは翼竜、つまりワイバーンの存在だ。川辺には木々の枝が及んでおらず、その隙間から二匹の翼竜が交互に眼下を警戒している。
「あの…どうしますか?」
震える声でメルロが尋ねる。
「そんなの勿論みんなまとめてブッコロですよぅ」
それに爽やかな笑顔でハナが返す。
「殲滅とはいかないまでもやるしかないよな。そのつもりで来た訳だし」
そう言い、リューが愛馬から降る。
「あの様子だと数は三十前後でしょ。大丈夫、軽い軽い~♪」
よっぽど自信があるのかカードバインダーから符を取り出してハナはやる気だ。
そんな中にいてもメルロの自信は未だ底辺にあった。
それを察して、奏音は彼の背中にぺたりと加護符を張り付ける。
「念の為に…大丈夫、皆を信じて下さい。それにまた力が入りすぎですよ。適度に緊張するのはいいですが、過度な緊張はすぐには動けませんから」
落ち着いた様子で彼女が彼に深呼吸を促す。
「では、始めるか」
彼が落ち着くのを待って、真は静かに行動を開始した。
彼の狙いは兎に角多い小型の排除だ。小型が多く集まっている場所に飛び込んで真っ向から刀で薙ぎ払う。しかし、足音を察知したのか、彼が飛び込んだ時には多くのものは機敏に対応し、散じりに回避行動を取っている。
(ッ…思ったより素早いな)
それでも彼は刀を揮うのをやめない。
囲まれるのを覚悟で入ったその場所で跳躍してくる敵目掛けて、カウンターアタックで応戦する。終始、甲高い声で鳴く小型のトカゲ達であるが、真は至って冷静だった。しっかりと相手を見据えて、状況を把握する。
(どうやら役割分担でもなされているのか)
好戦的に向かってくる奴がいる一方で、中には少し引いた位置で鉱石を咥えその場から離脱を計ろうとする者もいる。小さいながらに…いや小さいからこそ、そういった連携がなされているのかもしれない。
「とは言え、逃がすつもりはないのだがな」
真はそう呟いて、手前の一匹を斬り裂きもう一匹を追おうと大地を蹴り出す。
がその時後方から飛び来た弓がそれを捕えて…振り返ればそこにはリューの姿。いつの間にか武器を持ち代え、こちらの援護に回ってくれたらしい。彼の背後ではメルロもおぼつかながら、剣を構えて小型の攻撃を何とか凌いでいる。
「さてっと、じゃあエルちゃんはこっちかな」
肩にかかる髪を後ろに送って、エリスは地上にくる翼竜の相手をかって出る。
相手がこちらの襲撃に気付いたばかりの今、先手を取って速攻で仕留めてしまいたい。そう思い彼女は木の枝を踏み台にして、ジェットブーツで空中に跳び出す。そして、手にしていたライフルを構え翼を打ち抜く。が空にいたのは一匹ではない。もう一匹が彼女の元へと突進を仕掛けてくる。
「ヤバッ!?」
エリスは咄嗟に体を捻って、前方に攻勢防壁の展開に入る。が彼女にその技を発動させるには及ばない。
「空を飛んでないで地上に降りましょうか」
そう呟いた奏音からの加勢によって、二匹目の翼竜の翼に稲妻が直撃。飛べない龍はなんとやらだ。
そんな中で後方のハンターも負けてはいない。
「私の符でやれないものはないんですぅ」
些か無差別とも思える攻撃ではあったが、符による結界の効果範囲は大きい。従って、闇雲に投げても当たる確率は高くなる。すばしっこい小型もランダム攻撃には対応しきれないか巻き込まれる形で彼女の五色光符陣の餌食となってゆく。戦況は七:三…ハンターの優勢。
符の張った結界内には膨大な光が弾け、中のものを焼きつくす。直撃しなくともその光が視界を奪い、その後の動きを封じてしまうから敵にとっては迷惑な事極まりない。各々が前後に分かれて役目を果たし、ハンター達は手早く効率的に敵の数を減らしてゆく。
(凄い…凄過ぎる…)
実戦を体感。そんなハンター達の実力にメルロは正直驚きを隠せなかった。
敵の情報をあらかじめ知っていたとはいえ、第一部隊が遭遇した時とは明らかに違う。
この場で戦う仲間は皆隊長クラスなのだと思わせる強さがあり、とても心強い。
「何、ぼーとしてるんですかっ。メルロくんは前衛が突破されないようそこで防戦していてくださいぃ」
ハナの言葉に頷いて、メルロは手にした剣で撃ちもらしてやってくる小型と対峙する。
(大丈夫。これなら自分にもやれる)
そう自分に言い聞かせて、ピエールの唸り声を聞きながら一心に剣を揮う。実際のところ、彼の元にくる大半の敵はハンター達から受けた傷によりパワーが半減している敵であったが、彼は初陣。それでも噂通り筋は良いらしい。
(これが自信になってくれるといいよな)
リューが彼の動きに目を配りながら思う。が、次の瞬間場は一転する。
●思考か本能か
(ピエールは賢い。ちゃんと判ってる…とすると)
戦闘に入って暫くしてからのピエールの様子はおかしい。
後衛でトカゲを狙いアサルトディスタンスで応戦しつつ、鉱石を回収するように動いていたまりおはピエールの異変に気付いていた。追跡をあれ程静かに行っていた彼が、敵を前にしたからといって唸り続けているのは少し違和感がある。そこで彼女はピエールに近付いて、彼の見ている先に視線を移す。するとそこにはもう一つの影――。
「うそ、空からって…反則だよね…」
まりおが回収していた皮袋を取り落とす。
そこには新手の翼竜が今まさに突風を起こそうかとしている場面――ピエールはその事を何らかの…例えば音でそれを感じ取っていたのかもしれない。そう言えば、あのトカゲの鳴き声はうるさかったではないか。それに気付くと同時に解答を示すが如く降ってくるとかげ達。周囲の木の枝をうまく利用し、落下の衝撃を抑えて次々と華麗に着地を決めてゆく。そして、一部はこちらに向かってくるのだが全てではなくて…彼女はハッとする。
「もしかして…馬を?」
知能があるとは思えなかった。だから本能で弱いものから狙っているのかもしれない。ただそれだけの事だが、今の状況にとって、それが一番厄介である事は間違いない。更に理由をつけ足すとすれば、既にいくつかの皮袋を回収し馬に乗せているから、その力に反応してそちらに向かっているとも考えられる。
「やらせる訳にはいかないんだよ――!」
そう思い、彼女はビーダッシュで馬の元へ走る。
一方、新手と突然の出来事に固まってしまったのはメルロだ。
「嘘だ…そんな、リューさん…」
新手の翼竜の突風で転んだ彼…そんな彼を狙ってきたトカゲの数は異常だ。
どうやら新手の小型は翼竜の上に乗っていたらしい。信じがたい連携であるが、第一部隊の襲撃もそれに近かった事を思い出す。翼竜を見つけた瞬間、次にはトカゲ達の姿があったのだ。その時の状況が重なり彼のトラウマを呼び起こしたようでさっきまでの雄姿はもう面影もない。
なぜなら彼を守る為に動いたリューの怪我が彼の恐怖に火をつけたのだ。
「まさか援軍をよこしてくるとはな。大丈夫か?」
砂埃にまみれ、痛みに堪えながらリューが問う。彼の足にはトカゲの歯がみっちりと食い込んでいる。
「え、ええ…でも、貴方が…」
「言っただろ、護るって…だからよそ見すんな」
そう言って彼はかすり傷だとでもいうように笑って見せて、足に噛みついた小型に刀を振り下ろす。リューは上空からのトカゲから彼を守る為、盾を上に構え地上にいたものを後回しにしたのだ。その結果、隙に気付いた小型からの攻撃をその身で受ける事となった訳である。
「そんな、僕のせいで…」
あの時と同じ…突然の出来事にまた身体が硬くなる。けれど、そこで真の一喝が木霊する。
「翼竜が小型を運んできただけだ…落ち着けっ!」
真には珍しく声を荒らげての叱咤。その声にメルロがびくりと反応する。
同じ失敗はもう犯したくない。守ってくれたリューの為にも、励ましてくれた仲間にも…怖気付いてはいられない。そう思いリューの盾から跳び出して、彼は眼前の敵に剣を向ける。
「すいません、リューさん。僕、貴方の分まで頑張ります!」
怖さがないと言ったら嘘になる。けれど、今、やるべき事は一つだ。
「よぉし、よく言ったぁ。じゃあ今度もすぱぁーとやっちゃうかぁ」
「いいですねぇ。気が合いそうですぅ」
エリスとハナが積極的に翼竜の相手に向かう。
ハナの五色光符陣とエリスのファイアスローワーのコンボがあれば大丈夫だろう。
そこで残りの者は散らばった鉱石を後に戦馬の方へと向かう。
「よっ、ほっと、とぉ」
とそこではグレートソードを片手に華麗に敵を馬に寄せ付けないよう立ち回るまりおの姿がある。
が、やはり四頭分を一人となると大変そうだ。辛うじて防いでいるが、暴れる馬の動きも考慮しなくてはならず苦しい戦いとなっている。そこでリュー、真、メルロが加勢し、奏音がサポートに入る。
「やっふー! これで百人力ってね~」
盾を持つリューの存在は大きい。それに一人が一頭ずつにつけるのだから、さっきに比べれば苦労は四分の一だ。
「全く、小さい身体で大したものだがこれまでだ」
真の刀身がきらめく。
「相手が悪かったと思うんだな」
リューも同種の刀を振るい、トカゲの息の根を止める。そんな彼らに負けじと、メルロも奮戦していた。
そして、彼らはその足で鉱石を遺跡へと運び終える事に成功する。
幸い、あの後敵の襲撃はなかった。あるだけの散らばった鉱石を拾い集め、直接ここまでやって来た訳だ。
「ほらほら、メルロくん。キミから任務成功の報告をして下さいよぅ」
「これは、あなたががんばった証です」
そう言うのはハナと奏音だ。あくまでこの依頼は彼が報告する事に意味があると彼女らは考えたらしい。
「あの、本当に有難う御座います」
メルロはそんな皆にぺこりと一礼して、遺跡の責任者に報告へと向かう。
その時の顔は出会った時とは違って見えて、ハンターらは彼の僅かな成長を見て取り嬉しく思う。
「いや~、しかし疲れた疲れた」
足に大げさな包帯を巻いたリューが言う。
「さっき聞いた話だとメルロの隊長さんも生きているようだ」
とこれは真だ。何でも隊長は目覚めると再び仲間の隊員の為、この地に足を踏み入れていると言う。
「ピエールもお疲れ様」
メルロの帰りを待ちつつ彼らはそれぞれを労い、この先の未来が明るくある事を願うのだった。
依頼結果
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龍鉱石を取り返せ! エリス・ブーリャ(ka3419) エルフ|17才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2016/03/10 21:59:30 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/03/08 16:10:23 |