ゲスト
(ka0000)
【幻魂】荒れ狂う暴風
マスター:猫又ものと
- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
- 1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/03/14 09:00
- 完成日
- 2016/03/25 06:48
このシナリオは3日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●魂が遺したもの
蛇の戦士シバが遺した霊闘士の技。
ハンター達は、幻獣の森に住む大幻獣『ナーランギ』より技の正体は霊闘士の奥義であると教えられる。
奥義を取得できるのは、厳しい試練を潜り抜けた霊闘士のみ。覚悟を決めたハンター達は辺境各地に点在する『魂の道』に向かって歩き出した。
●遠い記憶
その男は一族の誰よりも強かった。
その強さは文武に渡り、常人を遥かに超えていた。
人間との戦いはもちろん、歪虚との戦いにおいても一度も敗走はなく、個人戦であれば不敗を誇っていた。
――超越した能力は過剰な自信へと繋がり、一族の者との乖離を生んだ。
それゆえに、彼は独りだった。友と呼べる者もただ一人だけ。
しかし、その男は友を嫌っていた。
大した力も持たぬのに、一族の者はやたらと友を持て囃す。
自分の方が強く賢いのに。
何故、誰も認めようとしない。
己の方がよほど一族の役に立っているというのに――。
「……お前の強さは皆知っているよ。私の息子もお前のように強くなりたいと言っていた。ただな……力を持たぬ者の気持ちというのも、理解すべきだと思うぞ」
「何故だ? 儂を理解せぬ者達を理解してやる義理はなかろう」
「人は、独りでは生きていけないのだよ。人を思いやり、支えあってこそだ。それが一族の安全と反映に繋がる。……ハイルタイ。賢いお前なら分かるだろう?」
「くだらんな。所詮、弱い者達は群れたがるのか……」
――その男は、誰かに理解されることも、誰かを理解することもなかった。
そして……あの悲劇は起きた。
●密談
「何、『祖霊の欠片』だと?」
災厄の13魔ハイルタイは、青木燕太郎(kz0166)の言葉に耳を疑った。
先日、城塞『ノアーラ・クンタウ』の攻防にて負傷したハイルタイは辺境北部で治癒に専念していた。負傷した事で人類への憎しみを増加させていたハイルタイに、青木は『祖霊の欠片』の情報を持ち込んだ。
『祖霊の欠片』は膨大なマテリアルを保有しており、大幻獣の持つマテリアルとは比較にならないという。
「ああ。それがあればそんな怪我など一瞬で治る。……いや、それ以上に強大な力が手に入る。その傷を付けた奴に復讐したいのだろう?」
「そうだ。儂をこんな目に遭わせた連中は、絶対に許さん! その祖霊の欠片とやら、儂がもらってやろう」
怒り狂うハイルタイ。
今までは怠けてばかりだったが、怒りを抑えきれない様子だ。ハンター達へ報復する為に本気を出して来るようだ。
「だが、問題も一つある。祖霊の欠片がある魂の道に入ったのは、ハンターだけじゃない。大幻獣のフェンリルが目撃されている。そう簡単に手には入らないだろうな」
青木は祖霊の欠片入手に障害となりそうな存在を明示した。
敵はハンターだけじゃない。人間に手を貸そうとしている大幻獣の存在も明らかにした。先日、青木自身も『幻獣の森での攻防』で痛感している。
それに対し、ハイルタイは笑みを浮かべる。
「傷を癒す為に静養していたが、鈍った体を叩き直すにはちょうど良いわ。久しぶりの――狼狩りだ」
●荒れ狂う暴風
「……お前が案内人? いや、案内猫か……」
「シャレーヌの眷属だっていうからどんな幻獣かと思ったら……ちょっとツキウサギに似てるわね」
「にゃ!」
己を見つめるハンター達に深々と頭を下げる二足歩行の猫。
レイピアを持ち、長靴を履いたこの幻獣は、『ルピナ』というらしい。
協力者を得て『魂の道』へと進もうとしていたハンター達。
その異変に気付いたのは、見張りの兵だった。
「北の方角に大型歪虚が出現! あれは恐らく災厄の十三魔、ハイルタイ! ものすごい速度で『魂の道』の方角に進んでいます!」
「……何だと……!?」
見張りの兵の悲鳴に近い声に、凍りつくハンター達。バタルトゥ・オイマト(kz0023)の表情が硬くなる。
――ハイルタイ。
災厄の十三魔が一将、辺境に今なお伝わる災禍『ベスタハの悲劇』の主犯――。
「何でハイルタイがこんな所に……?」
「分からぬ。……が、迷わず『魂の道』に向かっているということは、何らかの方法でこちらの動きを察知したのかもしれんな……」
バタルトゥの呟きに青ざめるハンター達。
歪虚であるハイルタイが霊闘士の奥義に興味があるとは思えない。
「だとしたら狙いは、『祖霊の欠片』そのものか……?」
「ありえるわね。『祖霊の欠片』は沢山マテリアルを保有してるってシャレーヌが言ってたし」
のんびりとしたシャレーヌの口調を思い出し、ため息をつくハンター達。
そういうことであれば、歪虚達が狙うのも頷ける。
「……これも試練のひとつ、ってことなのかな」
「……分からん。が、とにかくあれを止めないとならぬな……」
唇を噛むバタルトゥに頷き返すハンター。
そこに、イェルズ・オイマト(kz0143)が立ちはだかる。
「族長! 今回の戦い、俺にやらせてもらえませんか!?」
赤毛の青年の叫びに近い声に、目を丸くするハンター達。
イェルズはそのまま族長へと迫る。
「俺も霊闘士の端くれです。俺じゃ力不足かもしれませんが……シバ様が何を遺したのか。『力と魂』が何なのか……俺、この目で確かめたいんです! お願いします!」
「……厳しい戦いになるぞ。『魂の道』までの道のりも険しいと言う。文字通り命を懸けることになるだろう。その覚悟はあるか……?」
「……勿論です。シバ様が見たものを、俺も見たい」
ぶつかり合うバタルトゥとイェルズの強い目線。
その目に覚悟を感じたのか、バタルトゥはふう、とため息をつく。
「……分かった。ここは任せよう」
「……! ありがとうございます!」
了承が貰えて、本人が一番驚いたらしい。目を丸くするイェルズ。
ハイルタイは、オイマト族の恥であり、バタルトゥの父の仇だ。
族長としても譲れぬ戦いであっただろうに……。
その温情に、イェルズは深く腰を折って頭を下げる。
「話はまとまったのかしら?」
「ああ……。悪いが、イェルズに同行してやってくれ……」
「了解。お前の分も殴ってきてやるよ。任せとけ」
「……期待している。……武運を祈る」
バタルトゥの胸をとん、と拳で殴るハンター。
出発する彼らの背を、バタルトゥは静かに見守る。
「……まんまと動き出したか。手間が省けて助かった。あれが勝っても負けても、損になることはない、な。……精々勤めを果たしてくれ」
くつりと笑う黒い影。
戦場に、見えない悪意が交錯する。
「くそっ。何て足場の悪さだ」
「このペースだと私達より先にハイルタイが『魂の道』に辿り着いちゃうわ!」
「これも試練ってことですかね……。急ぎましょう!」
『魂の道』への道のりが思いの他険しく、肩で息をするハンター達。
こうしている間もハイルタイは進軍を続けている。立ち止まっている暇はない……。
――こうして、『霊闘士の奥義』を巡る戦いが幕を開けた。
蛇の戦士シバが遺した霊闘士の技。
ハンター達は、幻獣の森に住む大幻獣『ナーランギ』より技の正体は霊闘士の奥義であると教えられる。
奥義を取得できるのは、厳しい試練を潜り抜けた霊闘士のみ。覚悟を決めたハンター達は辺境各地に点在する『魂の道』に向かって歩き出した。
●遠い記憶
その男は一族の誰よりも強かった。
その強さは文武に渡り、常人を遥かに超えていた。
人間との戦いはもちろん、歪虚との戦いにおいても一度も敗走はなく、個人戦であれば不敗を誇っていた。
――超越した能力は過剰な自信へと繋がり、一族の者との乖離を生んだ。
それゆえに、彼は独りだった。友と呼べる者もただ一人だけ。
しかし、その男は友を嫌っていた。
大した力も持たぬのに、一族の者はやたらと友を持て囃す。
自分の方が強く賢いのに。
何故、誰も認めようとしない。
己の方がよほど一族の役に立っているというのに――。
「……お前の強さは皆知っているよ。私の息子もお前のように強くなりたいと言っていた。ただな……力を持たぬ者の気持ちというのも、理解すべきだと思うぞ」
「何故だ? 儂を理解せぬ者達を理解してやる義理はなかろう」
「人は、独りでは生きていけないのだよ。人を思いやり、支えあってこそだ。それが一族の安全と反映に繋がる。……ハイルタイ。賢いお前なら分かるだろう?」
「くだらんな。所詮、弱い者達は群れたがるのか……」
――その男は、誰かに理解されることも、誰かを理解することもなかった。
そして……あの悲劇は起きた。
●密談
「何、『祖霊の欠片』だと?」
災厄の13魔ハイルタイは、青木燕太郎(kz0166)の言葉に耳を疑った。
先日、城塞『ノアーラ・クンタウ』の攻防にて負傷したハイルタイは辺境北部で治癒に専念していた。負傷した事で人類への憎しみを増加させていたハイルタイに、青木は『祖霊の欠片』の情報を持ち込んだ。
『祖霊の欠片』は膨大なマテリアルを保有しており、大幻獣の持つマテリアルとは比較にならないという。
「ああ。それがあればそんな怪我など一瞬で治る。……いや、それ以上に強大な力が手に入る。その傷を付けた奴に復讐したいのだろう?」
「そうだ。儂をこんな目に遭わせた連中は、絶対に許さん! その祖霊の欠片とやら、儂がもらってやろう」
怒り狂うハイルタイ。
今までは怠けてばかりだったが、怒りを抑えきれない様子だ。ハンター達へ報復する為に本気を出して来るようだ。
「だが、問題も一つある。祖霊の欠片がある魂の道に入ったのは、ハンターだけじゃない。大幻獣のフェンリルが目撃されている。そう簡単に手には入らないだろうな」
青木は祖霊の欠片入手に障害となりそうな存在を明示した。
敵はハンターだけじゃない。人間に手を貸そうとしている大幻獣の存在も明らかにした。先日、青木自身も『幻獣の森での攻防』で痛感している。
それに対し、ハイルタイは笑みを浮かべる。
「傷を癒す為に静養していたが、鈍った体を叩き直すにはちょうど良いわ。久しぶりの――狼狩りだ」
●荒れ狂う暴風
「……お前が案内人? いや、案内猫か……」
「シャレーヌの眷属だっていうからどんな幻獣かと思ったら……ちょっとツキウサギに似てるわね」
「にゃ!」
己を見つめるハンター達に深々と頭を下げる二足歩行の猫。
レイピアを持ち、長靴を履いたこの幻獣は、『ルピナ』というらしい。
協力者を得て『魂の道』へと進もうとしていたハンター達。
その異変に気付いたのは、見張りの兵だった。
「北の方角に大型歪虚が出現! あれは恐らく災厄の十三魔、ハイルタイ! ものすごい速度で『魂の道』の方角に進んでいます!」
「……何だと……!?」
見張りの兵の悲鳴に近い声に、凍りつくハンター達。バタルトゥ・オイマト(kz0023)の表情が硬くなる。
――ハイルタイ。
災厄の十三魔が一将、辺境に今なお伝わる災禍『ベスタハの悲劇』の主犯――。
「何でハイルタイがこんな所に……?」
「分からぬ。……が、迷わず『魂の道』に向かっているということは、何らかの方法でこちらの動きを察知したのかもしれんな……」
バタルトゥの呟きに青ざめるハンター達。
歪虚であるハイルタイが霊闘士の奥義に興味があるとは思えない。
「だとしたら狙いは、『祖霊の欠片』そのものか……?」
「ありえるわね。『祖霊の欠片』は沢山マテリアルを保有してるってシャレーヌが言ってたし」
のんびりとしたシャレーヌの口調を思い出し、ため息をつくハンター達。
そういうことであれば、歪虚達が狙うのも頷ける。
「……これも試練のひとつ、ってことなのかな」
「……分からん。が、とにかくあれを止めないとならぬな……」
唇を噛むバタルトゥに頷き返すハンター。
そこに、イェルズ・オイマト(kz0143)が立ちはだかる。
「族長! 今回の戦い、俺にやらせてもらえませんか!?」
赤毛の青年の叫びに近い声に、目を丸くするハンター達。
イェルズはそのまま族長へと迫る。
「俺も霊闘士の端くれです。俺じゃ力不足かもしれませんが……シバ様が何を遺したのか。『力と魂』が何なのか……俺、この目で確かめたいんです! お願いします!」
「……厳しい戦いになるぞ。『魂の道』までの道のりも険しいと言う。文字通り命を懸けることになるだろう。その覚悟はあるか……?」
「……勿論です。シバ様が見たものを、俺も見たい」
ぶつかり合うバタルトゥとイェルズの強い目線。
その目に覚悟を感じたのか、バタルトゥはふう、とため息をつく。
「……分かった。ここは任せよう」
「……! ありがとうございます!」
了承が貰えて、本人が一番驚いたらしい。目を丸くするイェルズ。
ハイルタイは、オイマト族の恥であり、バタルトゥの父の仇だ。
族長としても譲れぬ戦いであっただろうに……。
その温情に、イェルズは深く腰を折って頭を下げる。
「話はまとまったのかしら?」
「ああ……。悪いが、イェルズに同行してやってくれ……」
「了解。お前の分も殴ってきてやるよ。任せとけ」
「……期待している。……武運を祈る」
バタルトゥの胸をとん、と拳で殴るハンター。
出発する彼らの背を、バタルトゥは静かに見守る。
「……まんまと動き出したか。手間が省けて助かった。あれが勝っても負けても、損になることはない、な。……精々勤めを果たしてくれ」
くつりと笑う黒い影。
戦場に、見えない悪意が交錯する。
「くそっ。何て足場の悪さだ」
「このペースだと私達より先にハイルタイが『魂の道』に辿り着いちゃうわ!」
「これも試練ってことですかね……。急ぎましょう!」
『魂の道』への道のりが思いの他険しく、肩で息をするハンター達。
こうしている間もハイルタイは進軍を続けている。立ち止まっている暇はない……。
――こうして、『霊闘士の奥義』を巡る戦いが幕を開けた。
リプレイ本文
「髭の相手が試練ですか……。また面倒なこと」
「何であいつがここに……?」
大きく息を吐く白神 霧華(ka0915)に、ラミア・マクトゥーム(ka1720)の呻くような声。それに答えるものはなく、ただ仲間達の荒い息遣いが聞こえてくる。
霊闘士の奥義、あたしにも使えるかな! ……なんて、少し前にイェルズ・オイマト(kz0143)とのんびり話していたと言うのに、今は迫って来る巨大な歪虚を気にしながら、切り立つ岩々を登っている。
「詩さん、大丈夫ですか?」
「う? うん。さすがにちょっと厳しいけど……」
岩に果敢に挑みつつ、肩で息をする天竜寺 詩(ka0396)を気遣うシルヴィア=ライゼンシュタイン(ka0338)。
シルヴィア自身、覆われた鎧で表情は伺い知れないが……少し、肩が揺れているあたり、息が上がっているのかもしれない。
無理もない。いくら鍛錬を積んだハンターと言えども、この悪路を全速前進するのは無理があるというもの。
しかし、あれがいるからには、足を止める訳にはいかない。
馬を駆り、疾走し続けるハイルタイの動きを見て、アルファス(ka3312)が眉を顰める。
「動きが鈍る様子もなし、か……。あの巨体じゃ、この高低差もあまり障害にならないのかな」
「怠惰なおっさんにしては、やけにやる気になってるじゃないか、ね。普段だったらこんな岩山、面倒臭がって上がって来ないだろ」
「じゃが、祖霊の欠片を奪われるわけにはいかんの」
ひょいひょい、と器用に岩を渡り歩くアルト・ハーニー(ka0113)。その後を追うフラメディア・イリジア(ka2604)が不敵な笑みを浮かべる。
「まぁな。しかし、どう転んでも面倒な事になりそうだな」
「そうだね。とりあえず、僕は先行して祖霊の欠片を回収するよう努めるよ」
アルファスにおう、と頷くヴォルフガング・エーヴァルト(ka0139)。
怒りは思考を鈍らせると思いたいが……怒りに任せて暴れられると手の施しようがねぇって言うのが凄まじく面倒だ。
とはいえ、何とかしなければ……。
「まぁ……仕事だ。戦るぞ」
「うん。頑張ろう!」
ハイルタイを見据えたまま言う彼に、こくりと頷く詩。
「僕は先に行くけど、くれぐれも無理しないでね」
「分かったわ。なるべく……」
「……ラミアさん?」
「……アルファスさん。ここは私に任せて下さい。すぐに追いつきます」
様子のおかしいラミアを気遣うアルファス。シルヴィアに促され、彼は少し考えた後に頷く。
確かに、もたもたしている時間はない。
彼は高い場所にある岩にショットアンカーの鉤爪をかけ、足に白い虎の足爪のマテリアルを纏い、一気に跳躍する――!
飛び去ったアルファスを追おうとするラミア。身体がガクガクと震えて上手く歩けない。
遠目にも分かる、見間違えようのない容貌に身が竦む。
――ハイルタイ。
幾度も挑み、CAMを駆使したにも関わらず、力負けして煮え湯を飲まされた、因縁の……。
……だからどうした。立て、あたし。気合入れろ。いつまでも、負けてらんないでしょ――!
「……動けますか?」
己を支えるシルヴィアの手。そう。自分は一人じゃない。
頬を叩き、上を見て、笑顔を作る。
「……ありがと。大丈夫。よし、行こう! イェルズ! あんたも一緒に来な!」
「了解しました!」
一歩踏み出し、駆け出すラミア。その後を、シルヴィアとイェルズが追う。
「……祖霊の欠片がある洞窟はもう少し上、かな」
鉤爪を収納しながら呟くアルファス。
ハイルタイの進行方向に先回りした彼は、少し開けたその場所をきょろきょろと見渡す。
祖霊の欠片がある場所は、開けていると聞いた。
この場所に、似たような洞窟があれば良いのだが――。
急いで来たせいか、身体が重い。しかし休んでいる暇はない。
一刻も早く準備しないと。仲間が、あれの気を引いてくれているうちに……。
めまぐるしく動くアルファスの翠眼。耳に届く、下方から岩が崩落する音。
急勾配に悲鳴をあげる身体。マテリアルを活性化させ身体の回復に努めるが、気休めでしかなく……それでも、移動を続ける。
「くそっ。まだ大分距離あるな!」
「攻撃が通れば話は早いが、それが無理となると……音で気を引くのが早いか」
「我に任せるがよい」
ハイルタイに大分接近はしたが、攻撃するにはまだ遠い。
汗を拭うアルトとヴォルフガングに笑みを返し、矢を番えるフラメディア。
放った矢は岩へと当たり、鈍い音を立てて砕け散り、大小様々な石が巨馬の足元へ降り注ぐ。
馬はそれを避けるように身体を揺らし……ハイルタイの顔が、こちらに向いた。
「こちらに気づいたみたい!」
「よし、狙い通りだ! もうちょっと接近する! 続けてくれ!」
「了解した!」
詩とアルトの声に、矢を番えて応えるフラメディア。
次々と突き刺さる矢に、岩が崩れて形を変え、巨馬の往く手を阻む。
ハイルタイは忌々しげに舌打ちすると、ゆっくりとハンター達に冷たい視線を投げる。
「……何だ。ぶんぶん騒がしい羽虫がおるな」
「お久しぶりですね、ハイルタイ。私の事を覚えていらしゃいます?」
「さてな。……そこを退け。先を急いでおるゆえ……今なら見逃してやるぞ」
「あら。つれないですこと。……何をそんなに急いでいるのです? ちょっとお話していかれませんか?」
にこやかに語りかける霧華。
歪虚の目線を正面から受け止めて、その巨大な躯体に負けじと睨み返す。
「……歩みが遅くなっているようです。今のうちに、早く!」
「分かった!」
大きな岩の上で銃を構え、見張りを続けるシルヴィアに頷くアルファス。
彼が探索をした結果、洞窟と言えるほど大きなのものはなかったが、大きな岩が重なって、人間が入れるくらいの穴になっている部分があり……。
そこを更に洞窟らしく偽装するべくドリルで掘削を始めたところで、後続のシルヴィアとラミア、イェルズが到着した。
「よっこいしょ、と! 材料には困らないのが幸いだね」
「アルファスさん。こんな感じでいいですか?」
「ああ、ばっちりだ」
もりもりと岩を運ぶイェルズとラミアに、手を止める事なく答えるアルファス。
アルファスの指示で、大きく開いた穴を岩で軽く塞ぎ、洞窟の入り口に見えるように加工を続けていた。
「ところで、あんまり掘ると岩が崩れそうだけど大丈夫?」
「それが目的だよ。いざとなったら、ここを壊すのさ。これが欠片のダミー」
「あー……。そういう事ですか」
掌の上にブローチを見せるアルファスに、納得するように頷くラミアとイェルズ。
祖霊の力を借り、身体能力を向上させる事ができる霊闘士が揃っていたのは幸いしたが、それでも。それらしく見せるのにはもう少し時間が必要で……。
「シルヴィアさん、ハイルタイの動きはどう?」
「今のところはまだ……。じわじわとこちらへ向かってはいるようですが。時間を稼いでくれている味方を信じましょう」
アルファスの問いに目線を動かさずに答えるシルヴィア。
こうしている間も、仲間達とハイルタイの攻防は続いている――。
「……怠惰なおっさんにしてはやけにやる気になってるじゃないかね。どうしたんだい?」
「今回はあなたの寝床の辺りで騒ぎを起こしてもいないと思うのですが。こんな所に何の用でしょうか?」
一触即発の雰囲気の中、のんびりと語りかけるアルト。続いた霧華に、ハイルタイは表情を変えず。
「……そういうお前達こそ、何故こんな所にいる」
「質問に質問で返すのはどうかと思うけど、いいよ。教えてあげる。……ある人の遺志を、継ぎに来たの」
「ほう? なるほどな。お前達も『祖霊の欠片』が狙いか。ご苦労な事よ」
「……どなたからお話しを聞いたのかわかりませんが、騙されていませんか? 『祖霊の欠片』がどのようなものか……」
詩の言葉に眉を上げたハイルタイ。霧華の声は、歪虚の大きな笑い声で遮られる。
「ふむ。そうか。面白い……。あれの言う事はどこまで信用出来るか分からんかったが、お前らが必死になる理由はある、という事じゃな」
「あれ、というのは誰の事じゃ」
「青木とか言う歪虚だ。最近この辺りをうろちょろしておる」
聞き覚えのある名に眉を顰めるフラメディア。
暫く姿を見なかったが。あの男が動いておるのか――。
――何だろう。凄く、嫌な予感がする。
「さて、羽虫の相手にも飽きた。そろそろそこを退いて貰おう」
「そう言われて、はいそうですかと退くと思うか?」
「ならば跨いで行くまでよ」
「……させるか!」
「この先には行かせない! 絶対に!!」
ヴォルフガングと詩の叫びはほぼ同時。
馬めがけてショットアンカーを投げつける彼の横で、詩の放つ他者を断罪する光の杭が馬の足に突き刺さる。
詩は見た。
シバと戦い、最期を看取ったあの日。蛇の戦士がその魂を燃やして放ったあの技を――。
彼が命を賭して伝えたそれを、ここで終わらせるような事があってはならないのだ。
「貴方なんかに欠片は渡さない! あれはシバさんが遺した想いを、力を受け継いでくれる人の為の物なんだから! 例え貴方がどんなに強くても、私の意思を砕く事は出来ない! 誰にも出来ないんだから!」
例え身体が砕けても想いは砕けない。あの人がそうだったように。
絶対ここは通さない――!
詩の杭に行動を阻害される度、それを打ち砕いて進む巨馬。
その歩みは、確かに遅くなっているが……スキルは無限には続かない。
その機会を逃さず、仲間達は総攻撃を加える。
「大人しく帰った方が身の為じゃぞ!」
矢を番えるハイルタイの手を狙い、矢を放つフラメディア。
その一撃は手の動きを鈍らせ、確実に攻撃の機会を奪う。
「ほーら! 鬼さんこちら、と!」
「私も、超えなければいけませんから……!」
炎のオーラを纏い、敵の目を引き付けながら、ハンマーでちくちくと馬を叩くアルト。
霧華のまた武器にマテリアルの力を込め、強い踏み込みで馬の足に鞭を叩きつける。
何度も叩いているが、馬の足は鋼のように固い。
出来ればさっさと引いて欲しい。そろそろ飽きてくれてもいいんだが――。
「あっちは対応終わったか…? 流石に結構きついわけなんだがね……」
「ごめんなさい! スキルが……!」
アルトに続く、申し訳なさそうな詩の声。
馬は大きく跳躍して……アルファス達の前に立ち、その目は、彼が必死に掘っている洞窟を見ている。
「ふむ。そこが例の洞窟か……。虫けら、そこを退け」
「……お断りするよ。お前に渡す気はない」
憮然と言い返す彼。そのまま言葉を続けようとして……後方で伏せているシルヴィアと目が合う。
彼女のジェスチャーに小さく指で丸を作るアルファス。
ラミアに目配せすると、そのまま目の前の歪虚に目線を移す。
「大人しく欠片を渡せば命までは取らぬぞ」
「お前に渡すくらいなら!」
「壊した方がマシよ!!」
ハイルタイの淡々とした声を遮るように叫ぶアルファスとラミア。
次の瞬間、繰り出された強烈な一撃。それは洞窟に吸い込まれ……ガラガラと言う音を立てて崩落する。
突然の事に唖然とするハイルタイ。
祖霊の欠片ならば、膨大なマテリアルを感じるはずだ。現状マテリアルの放出は感じないが……しかし。この虫けら共が自棄を起こす理由はただ一つ……。
「こんなものがなくたって、あたし達は勝てる! あんたには聞こえないだろ? この赤き大地の声が……。あんた以外の全てが、あたし達の味方さ! ハイルタイ!!」
「おのれ、この虫けら共め! どこまでも儂の邪魔をしおって……!」
ラミアの挑発に怒りに震えるハイルタイ。止める間もなく、矢を番えて――。
次の瞬間、巻き起こる激しい衝撃と烈風。宙に浮き、飛ばされるイェルズ。直撃を食らい、アルファスとラミアも吹き飛ばされ、岩に叩き付けられる。
「相変わらずありえない威力です……。が、次は止めます……!」
狙いを定めるシルヴィア。
伏せていた為吹き飛ばされずに済んだが、巻き起こる暴風で石が飛んできて身体が揺れる。
――良く狙え。外すな……!!
刹那、放たれる銃弾。それは、ハイルタイの瞼を掠り……。
「……貰ったァ!!」
その間、じっと馬の身体に張り付いていたヴォルフガング。
リールを巻き上げると、ハイルタイの怪我をした腕目掛け、持ちうる全ての力を込めた刀を振り下ろす――!
「ぐおあああッ!」
感じた手ごたえ。耳を劈く歪虚の叫び。傷口から溢れるのは負のマテリアルだろうか……?
ヴォルフガングはまた吹き飛ばされては敵わぬと、自ら地面に身を投げ出す。
「くそっ! そこのお前、名を名乗れ!」
「俺か? ヴォルフガング・エーヴァルトだ。覚えてくれなくても構わんぞ」
「覚えておれ……! 次は必ず殺す!!」
「まるっとお断りだね」
ハイルタイの怒りに燃える瞳。抉られた腕を押さえながら馬の手綱を引き、その場を去っていった。
暴風が去った後、ハンター達は洞窟を探索し、その奥でひっそりと鎮座まします『祖霊の欠片』を発見した。
「皆! 祖霊の欠片あったよ!」
欠片を手に戻ってきた詩。シバの遺した意思を、手にする事が出来た――。
……霊闘士じゃない私には、あの人の技は受け継げないけれど、次の世代に繋ぐ事は出来たかな。
彼女の問いかけに応えるように不思議な輝きを放つ欠片。
深い傷を負い、動けぬアルファスとラミアは、その報告に安堵のため息を漏らして……フラメディアは欠片を覗き込み、ふむ……と首を傾げる。
「これが祖霊の欠片か。何ぞ割れた宝珠の一片のようじゃな」
「触れても何も起きないようですが……」
「確かこれ複数あるんですよね? 一つでは機能しないのでは」
欠片にそっと触れるシルヴィアと霧華。それにアルトも頷く。
「欠片っていうくらいだし、そうなのかもな。どう組み合わせるのかまでは分からんが」
「とりあえず、持って帰ってみるしかねぇわな。別働隊も欠片を手に入れてる筈だ」
煙草に火をつけるヴォルフガング。
前回と同じ攻撃をしかけて、今回は避ける事が出来たが……あれは、思いの外あの歪虚が弱っているからかもしれない。
――まあ、いい。勝ちは勝ちだ。
そんな事を考えながら、彼は深手を負った二人を見る。
「さて、お二人さん動ける……訳ねえな。手を貸そう」
「俺も手伝います。ラミアさんちょっと失礼しますね」
「……ごめんね、イェルズ。詩ちゃんもありがと」
「痛いでしょ。あんまり動かさないようにするからね」
「アルファスさんも、どうぞご無理なさらず」
「……うん。……バタルトゥ。務めは果たしたよ……」
イェルズと詩に抱えられるラミア。ヴォルフガングとシルヴィアの肩を借りて、アルファスは小さく呟き……。
「……青木、か。また見える事になりそうじゃ」
フラメディアの呟きは、強く吹いた風にかき消された。
「何であいつがここに……?」
大きく息を吐く白神 霧華(ka0915)に、ラミア・マクトゥーム(ka1720)の呻くような声。それに答えるものはなく、ただ仲間達の荒い息遣いが聞こえてくる。
霊闘士の奥義、あたしにも使えるかな! ……なんて、少し前にイェルズ・オイマト(kz0143)とのんびり話していたと言うのに、今は迫って来る巨大な歪虚を気にしながら、切り立つ岩々を登っている。
「詩さん、大丈夫ですか?」
「う? うん。さすがにちょっと厳しいけど……」
岩に果敢に挑みつつ、肩で息をする天竜寺 詩(ka0396)を気遣うシルヴィア=ライゼンシュタイン(ka0338)。
シルヴィア自身、覆われた鎧で表情は伺い知れないが……少し、肩が揺れているあたり、息が上がっているのかもしれない。
無理もない。いくら鍛錬を積んだハンターと言えども、この悪路を全速前進するのは無理があるというもの。
しかし、あれがいるからには、足を止める訳にはいかない。
馬を駆り、疾走し続けるハイルタイの動きを見て、アルファス(ka3312)が眉を顰める。
「動きが鈍る様子もなし、か……。あの巨体じゃ、この高低差もあまり障害にならないのかな」
「怠惰なおっさんにしては、やけにやる気になってるじゃないか、ね。普段だったらこんな岩山、面倒臭がって上がって来ないだろ」
「じゃが、祖霊の欠片を奪われるわけにはいかんの」
ひょいひょい、と器用に岩を渡り歩くアルト・ハーニー(ka0113)。その後を追うフラメディア・イリジア(ka2604)が不敵な笑みを浮かべる。
「まぁな。しかし、どう転んでも面倒な事になりそうだな」
「そうだね。とりあえず、僕は先行して祖霊の欠片を回収するよう努めるよ」
アルファスにおう、と頷くヴォルフガング・エーヴァルト(ka0139)。
怒りは思考を鈍らせると思いたいが……怒りに任せて暴れられると手の施しようがねぇって言うのが凄まじく面倒だ。
とはいえ、何とかしなければ……。
「まぁ……仕事だ。戦るぞ」
「うん。頑張ろう!」
ハイルタイを見据えたまま言う彼に、こくりと頷く詩。
「僕は先に行くけど、くれぐれも無理しないでね」
「分かったわ。なるべく……」
「……ラミアさん?」
「……アルファスさん。ここは私に任せて下さい。すぐに追いつきます」
様子のおかしいラミアを気遣うアルファス。シルヴィアに促され、彼は少し考えた後に頷く。
確かに、もたもたしている時間はない。
彼は高い場所にある岩にショットアンカーの鉤爪をかけ、足に白い虎の足爪のマテリアルを纏い、一気に跳躍する――!
飛び去ったアルファスを追おうとするラミア。身体がガクガクと震えて上手く歩けない。
遠目にも分かる、見間違えようのない容貌に身が竦む。
――ハイルタイ。
幾度も挑み、CAMを駆使したにも関わらず、力負けして煮え湯を飲まされた、因縁の……。
……だからどうした。立て、あたし。気合入れろ。いつまでも、負けてらんないでしょ――!
「……動けますか?」
己を支えるシルヴィアの手。そう。自分は一人じゃない。
頬を叩き、上を見て、笑顔を作る。
「……ありがと。大丈夫。よし、行こう! イェルズ! あんたも一緒に来な!」
「了解しました!」
一歩踏み出し、駆け出すラミア。その後を、シルヴィアとイェルズが追う。
「……祖霊の欠片がある洞窟はもう少し上、かな」
鉤爪を収納しながら呟くアルファス。
ハイルタイの進行方向に先回りした彼は、少し開けたその場所をきょろきょろと見渡す。
祖霊の欠片がある場所は、開けていると聞いた。
この場所に、似たような洞窟があれば良いのだが――。
急いで来たせいか、身体が重い。しかし休んでいる暇はない。
一刻も早く準備しないと。仲間が、あれの気を引いてくれているうちに……。
めまぐるしく動くアルファスの翠眼。耳に届く、下方から岩が崩落する音。
急勾配に悲鳴をあげる身体。マテリアルを活性化させ身体の回復に努めるが、気休めでしかなく……それでも、移動を続ける。
「くそっ。まだ大分距離あるな!」
「攻撃が通れば話は早いが、それが無理となると……音で気を引くのが早いか」
「我に任せるがよい」
ハイルタイに大分接近はしたが、攻撃するにはまだ遠い。
汗を拭うアルトとヴォルフガングに笑みを返し、矢を番えるフラメディア。
放った矢は岩へと当たり、鈍い音を立てて砕け散り、大小様々な石が巨馬の足元へ降り注ぐ。
馬はそれを避けるように身体を揺らし……ハイルタイの顔が、こちらに向いた。
「こちらに気づいたみたい!」
「よし、狙い通りだ! もうちょっと接近する! 続けてくれ!」
「了解した!」
詩とアルトの声に、矢を番えて応えるフラメディア。
次々と突き刺さる矢に、岩が崩れて形を変え、巨馬の往く手を阻む。
ハイルタイは忌々しげに舌打ちすると、ゆっくりとハンター達に冷たい視線を投げる。
「……何だ。ぶんぶん騒がしい羽虫がおるな」
「お久しぶりですね、ハイルタイ。私の事を覚えていらしゃいます?」
「さてな。……そこを退け。先を急いでおるゆえ……今なら見逃してやるぞ」
「あら。つれないですこと。……何をそんなに急いでいるのです? ちょっとお話していかれませんか?」
にこやかに語りかける霧華。
歪虚の目線を正面から受け止めて、その巨大な躯体に負けじと睨み返す。
「……歩みが遅くなっているようです。今のうちに、早く!」
「分かった!」
大きな岩の上で銃を構え、見張りを続けるシルヴィアに頷くアルファス。
彼が探索をした結果、洞窟と言えるほど大きなのものはなかったが、大きな岩が重なって、人間が入れるくらいの穴になっている部分があり……。
そこを更に洞窟らしく偽装するべくドリルで掘削を始めたところで、後続のシルヴィアとラミア、イェルズが到着した。
「よっこいしょ、と! 材料には困らないのが幸いだね」
「アルファスさん。こんな感じでいいですか?」
「ああ、ばっちりだ」
もりもりと岩を運ぶイェルズとラミアに、手を止める事なく答えるアルファス。
アルファスの指示で、大きく開いた穴を岩で軽く塞ぎ、洞窟の入り口に見えるように加工を続けていた。
「ところで、あんまり掘ると岩が崩れそうだけど大丈夫?」
「それが目的だよ。いざとなったら、ここを壊すのさ。これが欠片のダミー」
「あー……。そういう事ですか」
掌の上にブローチを見せるアルファスに、納得するように頷くラミアとイェルズ。
祖霊の力を借り、身体能力を向上させる事ができる霊闘士が揃っていたのは幸いしたが、それでも。それらしく見せるのにはもう少し時間が必要で……。
「シルヴィアさん、ハイルタイの動きはどう?」
「今のところはまだ……。じわじわとこちらへ向かってはいるようですが。時間を稼いでくれている味方を信じましょう」
アルファスの問いに目線を動かさずに答えるシルヴィア。
こうしている間も、仲間達とハイルタイの攻防は続いている――。
「……怠惰なおっさんにしてはやけにやる気になってるじゃないかね。どうしたんだい?」
「今回はあなたの寝床の辺りで騒ぎを起こしてもいないと思うのですが。こんな所に何の用でしょうか?」
一触即発の雰囲気の中、のんびりと語りかけるアルト。続いた霧華に、ハイルタイは表情を変えず。
「……そういうお前達こそ、何故こんな所にいる」
「質問に質問で返すのはどうかと思うけど、いいよ。教えてあげる。……ある人の遺志を、継ぎに来たの」
「ほう? なるほどな。お前達も『祖霊の欠片』が狙いか。ご苦労な事よ」
「……どなたからお話しを聞いたのかわかりませんが、騙されていませんか? 『祖霊の欠片』がどのようなものか……」
詩の言葉に眉を上げたハイルタイ。霧華の声は、歪虚の大きな笑い声で遮られる。
「ふむ。そうか。面白い……。あれの言う事はどこまで信用出来るか分からんかったが、お前らが必死になる理由はある、という事じゃな」
「あれ、というのは誰の事じゃ」
「青木とか言う歪虚だ。最近この辺りをうろちょろしておる」
聞き覚えのある名に眉を顰めるフラメディア。
暫く姿を見なかったが。あの男が動いておるのか――。
――何だろう。凄く、嫌な予感がする。
「さて、羽虫の相手にも飽きた。そろそろそこを退いて貰おう」
「そう言われて、はいそうですかと退くと思うか?」
「ならば跨いで行くまでよ」
「……させるか!」
「この先には行かせない! 絶対に!!」
ヴォルフガングと詩の叫びはほぼ同時。
馬めがけてショットアンカーを投げつける彼の横で、詩の放つ他者を断罪する光の杭が馬の足に突き刺さる。
詩は見た。
シバと戦い、最期を看取ったあの日。蛇の戦士がその魂を燃やして放ったあの技を――。
彼が命を賭して伝えたそれを、ここで終わらせるような事があってはならないのだ。
「貴方なんかに欠片は渡さない! あれはシバさんが遺した想いを、力を受け継いでくれる人の為の物なんだから! 例え貴方がどんなに強くても、私の意思を砕く事は出来ない! 誰にも出来ないんだから!」
例え身体が砕けても想いは砕けない。あの人がそうだったように。
絶対ここは通さない――!
詩の杭に行動を阻害される度、それを打ち砕いて進む巨馬。
その歩みは、確かに遅くなっているが……スキルは無限には続かない。
その機会を逃さず、仲間達は総攻撃を加える。
「大人しく帰った方が身の為じゃぞ!」
矢を番えるハイルタイの手を狙い、矢を放つフラメディア。
その一撃は手の動きを鈍らせ、確実に攻撃の機会を奪う。
「ほーら! 鬼さんこちら、と!」
「私も、超えなければいけませんから……!」
炎のオーラを纏い、敵の目を引き付けながら、ハンマーでちくちくと馬を叩くアルト。
霧華のまた武器にマテリアルの力を込め、強い踏み込みで馬の足に鞭を叩きつける。
何度も叩いているが、馬の足は鋼のように固い。
出来ればさっさと引いて欲しい。そろそろ飽きてくれてもいいんだが――。
「あっちは対応終わったか…? 流石に結構きついわけなんだがね……」
「ごめんなさい! スキルが……!」
アルトに続く、申し訳なさそうな詩の声。
馬は大きく跳躍して……アルファス達の前に立ち、その目は、彼が必死に掘っている洞窟を見ている。
「ふむ。そこが例の洞窟か……。虫けら、そこを退け」
「……お断りするよ。お前に渡す気はない」
憮然と言い返す彼。そのまま言葉を続けようとして……後方で伏せているシルヴィアと目が合う。
彼女のジェスチャーに小さく指で丸を作るアルファス。
ラミアに目配せすると、そのまま目の前の歪虚に目線を移す。
「大人しく欠片を渡せば命までは取らぬぞ」
「お前に渡すくらいなら!」
「壊した方がマシよ!!」
ハイルタイの淡々とした声を遮るように叫ぶアルファスとラミア。
次の瞬間、繰り出された強烈な一撃。それは洞窟に吸い込まれ……ガラガラと言う音を立てて崩落する。
突然の事に唖然とするハイルタイ。
祖霊の欠片ならば、膨大なマテリアルを感じるはずだ。現状マテリアルの放出は感じないが……しかし。この虫けら共が自棄を起こす理由はただ一つ……。
「こんなものがなくたって、あたし達は勝てる! あんたには聞こえないだろ? この赤き大地の声が……。あんた以外の全てが、あたし達の味方さ! ハイルタイ!!」
「おのれ、この虫けら共め! どこまでも儂の邪魔をしおって……!」
ラミアの挑発に怒りに震えるハイルタイ。止める間もなく、矢を番えて――。
次の瞬間、巻き起こる激しい衝撃と烈風。宙に浮き、飛ばされるイェルズ。直撃を食らい、アルファスとラミアも吹き飛ばされ、岩に叩き付けられる。
「相変わらずありえない威力です……。が、次は止めます……!」
狙いを定めるシルヴィア。
伏せていた為吹き飛ばされずに済んだが、巻き起こる暴風で石が飛んできて身体が揺れる。
――良く狙え。外すな……!!
刹那、放たれる銃弾。それは、ハイルタイの瞼を掠り……。
「……貰ったァ!!」
その間、じっと馬の身体に張り付いていたヴォルフガング。
リールを巻き上げると、ハイルタイの怪我をした腕目掛け、持ちうる全ての力を込めた刀を振り下ろす――!
「ぐおあああッ!」
感じた手ごたえ。耳を劈く歪虚の叫び。傷口から溢れるのは負のマテリアルだろうか……?
ヴォルフガングはまた吹き飛ばされては敵わぬと、自ら地面に身を投げ出す。
「くそっ! そこのお前、名を名乗れ!」
「俺か? ヴォルフガング・エーヴァルトだ。覚えてくれなくても構わんぞ」
「覚えておれ……! 次は必ず殺す!!」
「まるっとお断りだね」
ハイルタイの怒りに燃える瞳。抉られた腕を押さえながら馬の手綱を引き、その場を去っていった。
暴風が去った後、ハンター達は洞窟を探索し、その奥でひっそりと鎮座まします『祖霊の欠片』を発見した。
「皆! 祖霊の欠片あったよ!」
欠片を手に戻ってきた詩。シバの遺した意思を、手にする事が出来た――。
……霊闘士じゃない私には、あの人の技は受け継げないけれど、次の世代に繋ぐ事は出来たかな。
彼女の問いかけに応えるように不思議な輝きを放つ欠片。
深い傷を負い、動けぬアルファスとラミアは、その報告に安堵のため息を漏らして……フラメディアは欠片を覗き込み、ふむ……と首を傾げる。
「これが祖霊の欠片か。何ぞ割れた宝珠の一片のようじゃな」
「触れても何も起きないようですが……」
「確かこれ複数あるんですよね? 一つでは機能しないのでは」
欠片にそっと触れるシルヴィアと霧華。それにアルトも頷く。
「欠片っていうくらいだし、そうなのかもな。どう組み合わせるのかまでは分からんが」
「とりあえず、持って帰ってみるしかねぇわな。別働隊も欠片を手に入れてる筈だ」
煙草に火をつけるヴォルフガング。
前回と同じ攻撃をしかけて、今回は避ける事が出来たが……あれは、思いの外あの歪虚が弱っているからかもしれない。
――まあ、いい。勝ちは勝ちだ。
そんな事を考えながら、彼は深手を負った二人を見る。
「さて、お二人さん動ける……訳ねえな。手を貸そう」
「俺も手伝います。ラミアさんちょっと失礼しますね」
「……ごめんね、イェルズ。詩ちゃんもありがと」
「痛いでしょ。あんまり動かさないようにするからね」
「アルファスさんも、どうぞご無理なさらず」
「……うん。……バタルトゥ。務めは果たしたよ……」
イェルズと詩に抱えられるラミア。ヴォルフガングとシルヴィアの肩を借りて、アルファスは小さく呟き……。
「……青木、か。また見える事になりそうじゃ」
フラメディアの呟きは、強く吹いた風にかき消された。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
相談卓 アルファス(ka3312) 人間(リアルブルー)|20才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2016/03/14 00:53:51 |
||
質問卓 アルファス(ka3312) 人間(リアルブルー)|20才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2016/03/12 01:43:19 |
||
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/03/12 10:18:08 |