ゲスト
(ka0000)
【闇光】嘘を真に 隊長編
マスター:奈華里

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/03/14 09:00
- 完成日
- 2016/03/29 00:48
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
「まだ入ったばかりなんだ。目をかけておいてくれ」
「ああ、わかった」
馴染みの顔、と言っても今では上司と部下の関係…。
昇進を断って隊長に留まっている自分であるからそれは仕方のない事。でも、同期に軍に入った仲であるから、周りの目がない時は普通に親友として言葉を交わす仲でもある。そんな友が注意して欲しいといえば、まぁそれは何かしらの理由がある事は察しがついた。けれど、任された隊員の成績は思った程悪くはない。しかし、書き添えられた言葉に成程と思う所はある。
「臆病…か。こりゃ、また…」
ちらりと視線を友の方に向ければ、何が言いたいと無言の圧力――。
目の前の友自身の映し鏡のような性格に思わず笑みが零れてしまう。
「なんとなくお前がこいつを気にかける理由が判ったよ」
今ではそんな影を微塵も見せない友に俺はそう言い、資料を手に自室に帰る。
明日から龍鉱石の運搬任務に当たる事になっていた。
場所はあのリグ・サンガマだ。青龍の加護の有った筈の土地であるが、今は見る影もないと聞く。けれど、そこがまた注目されたのは少し前の事だ。その中の遺跡の一つが歪虚との戦いの役に立つかもしれないという事になり、龍鉱石とやらをその遺跡に運び復活させる事が目下、現在の重要事項となっている。
「難しい事はわかんねぇが、これは一つ気を引き締めて行かんとなぁ」
がちゃりと戸を開け部屋に入れば、駆け寄ってくるのは一匹の犬。
軍に来て暫くした頃、戦場で迷子になっていたのを保護したのがきっかけだった。犬種は定かではないが、少し厳つい顔のこいつは貰い手が見つからなかった。そこで自分が引き取り、面倒を見ているという訳だ。こんな場所だからただのペットにしておくのは勿体ない。幸い、覚えもよく訓練するうちに捜索や救助に役立つ相棒にまで成長している。
「よーしよし、明日からまた頼むぞ」
屈み込んで一頻り撫でてやると、相棒犬・ピエールもワンと元気な声を返す。
「何もなけりゃいいが…」
現地は既に戦場。きっと何もない訳もなく…。
●
逃げ出してゆく問題の新人、動揺に揺れる仲間の姿――。
何度も経験した事だ。ここで焦ってはいけない。
肩に噛みついた敵を半ば強引に引き剥がして、俺は考える。そして、思いついたのは小さな嘘だ。
「あいつに救援を任せた。だから、持ち堪えるんだ、いいなっ!」
遠ざかっていく新人の背を前に、けれどこれでいいと俺は確信する事が出来る。それは一種の勘によるものだ。
これまで潜ってきた修羅場の数は経験となって、今の言葉がきっといい方向に転ぶ筈だと自分に言い聞かせる。するとどういう訳か言葉に魂が宿ったように、その願いが現実になる事があるのだ。
「し、しかし隊長! 数が多過ぎますッ」
見た事もない姿の小さな敵に苦戦する隊員達。体長三十センチ程のその敵は、一言で言えば歩くトカゲのようだった。しかしトカゲといっても歯は鋭く、口に沿ってびっしりと生え揃った歯で噛みつかれれば引き剥がすのに相当な苦痛を伴う。現に自分がそうなのだ。傷口は深く、筋組織が一部露になっている。
「全部やろうと思うな。鉱石に近付くやつに絞れっ!」
俺はそう言って荷台を背に手にしていた剣を片腕で構える。
がそこへ新たな刺客が姿を現した。
いや正確には、新たなというよりさっき目撃したそれが接近してきたに過ぎない。
「くっ、連携でお出ましか…」
大空を飛ぶ、その強靭な翼の風は自然とこちらを煽る。
地にしっかりと足を踏ん張っていなければ、吹き飛ばす力があるもしれない。そんな翼竜が狙うのはやはり荷台の荷物――龍鉱石。大小大きさはそれぞれ異なるが、鉱石の皮袋に詰め、乗せられているのだ。
(この人数で守れるか?)
敵にばれないように最少人数での行軍となったこの班の人員は自分を含めた十二名。
うち一人は逃げ出し、自分は負傷。目の前にいる仲間も必死に堪えてはいるが、傷は増えるばかりである。
そうこうしているうちに一匹のワイバーンが荷台に滑空し、かけていたカバーを破り去ると、次のアタックで俺の隊員達を押しのけそのまま何個かの袋を奪い取って行く。
「こなくそぉー!」
そのワイバーンに対して一人の隊員が跳躍した。
そして、足を切り落とそうと剣を振り被る。だが、無情にも彼の刃は届かない。
それどころかはじき返され、地上に転落したと同時に小さいやつの餌食となってまだ若い命を奪われてゆく。
「くそがっ」
それからの事ははっきりとは覚えていない。モノより命を優先し、俺は傷の深い者を庇うように立ち回って徐々に隊員らを逃がしていった。処分覚悟の事だ。それに自分にはもう一つの切り札・ピエールの存在があったから、ここで引く判断を下せたのだと思う。
粗方の鉱石を奪われて…気付いた折には見知った顔と少し離れた場所で顔を俯けたままの逃げた筈の新人の姿があって、かなり時が経っていた事を知る。
(はは、やっぱり俺の勘はよく当たる…)
救援が来た。ならば、次にやる事は一つだ。だが、動かぬ身体では何も出来やしない。
そこで俺は彼にピエールを託す事にした。
●
そして、三日後。
「これは俺の責任だ。俺も同行させて貰う…あいつらが待ってるんでな」
治療魔法のお蔭で傷口は塞がった。痛みがないといえば嘘になるが、未だ見つかっていない仲間を思えばじっとしてはいられない。痛み止めの薬を飲み込んで、着慣れた鎧を纏う。
「まあ、あんたは言っても聞かんからな。後三人だ」
「名前は?」
「シウ、ケイ、ライト…だったか」
名を聞いて、俺は少しホッとする。
『・シウ(32)
小柄で色白、白髪。戦闘の際は援護専門であり、獲物はロッド。
典型的魔法使いタイプで、勿論回復魔法も習得済み。隊唯一の覚醒者。
普段は物静かなのだが、虫が大の苦手で発見すると錯乱し暫く手が付けられなくなる。
・ケイ(20)
長身、切れ長の目のイケメン短刀使い(二刀流)。年は若いが、13歳から軍にいる為経験豊富。
勝気な性格ながらも状況判断能力にもたけている為、無鉄砲な行動に出る事は少ない。
連携よりも個人プレーを好む。
・ライト(20)
ケイと同期であるが得物は槍。好戦的ではなく、どちらかと言えば敵が自分の射程に入るのを待って動くタイプ。
但し、一歩入れば容赦しない完璧主義。自分の決めた道を進むあまり、融通の利かない性格である。
実は仲間思い』
皆一癖も二癖もあり、この手のピンチには慣れている筈だ。
例え場所が場所でも、生き残ってくれているに違いない。
「本当に行くのか?」
応急処置を施してくれた軍医が俺に問う。
「ああ。奴らの事だ。まだくたばっちゃいない筈だからな…行かんと何言われるか」
冗談めかして俺が言う。そう、見捨てる訳にはいかない。
彼らとて大事な戦友であり、自分を信じてついてきてくれた仲間なのだから…。
「まだ入ったばかりなんだ。目をかけておいてくれ」
「ああ、わかった」
馴染みの顔、と言っても今では上司と部下の関係…。
昇進を断って隊長に留まっている自分であるからそれは仕方のない事。でも、同期に軍に入った仲であるから、周りの目がない時は普通に親友として言葉を交わす仲でもある。そんな友が注意して欲しいといえば、まぁそれは何かしらの理由がある事は察しがついた。けれど、任された隊員の成績は思った程悪くはない。しかし、書き添えられた言葉に成程と思う所はある。
「臆病…か。こりゃ、また…」
ちらりと視線を友の方に向ければ、何が言いたいと無言の圧力――。
目の前の友自身の映し鏡のような性格に思わず笑みが零れてしまう。
「なんとなくお前がこいつを気にかける理由が判ったよ」
今ではそんな影を微塵も見せない友に俺はそう言い、資料を手に自室に帰る。
明日から龍鉱石の運搬任務に当たる事になっていた。
場所はあのリグ・サンガマだ。青龍の加護の有った筈の土地であるが、今は見る影もないと聞く。けれど、そこがまた注目されたのは少し前の事だ。その中の遺跡の一つが歪虚との戦いの役に立つかもしれないという事になり、龍鉱石とやらをその遺跡に運び復活させる事が目下、現在の重要事項となっている。
「難しい事はわかんねぇが、これは一つ気を引き締めて行かんとなぁ」
がちゃりと戸を開け部屋に入れば、駆け寄ってくるのは一匹の犬。
軍に来て暫くした頃、戦場で迷子になっていたのを保護したのがきっかけだった。犬種は定かではないが、少し厳つい顔のこいつは貰い手が見つからなかった。そこで自分が引き取り、面倒を見ているという訳だ。こんな場所だからただのペットにしておくのは勿体ない。幸い、覚えもよく訓練するうちに捜索や救助に役立つ相棒にまで成長している。
「よーしよし、明日からまた頼むぞ」
屈み込んで一頻り撫でてやると、相棒犬・ピエールもワンと元気な声を返す。
「何もなけりゃいいが…」
現地は既に戦場。きっと何もない訳もなく…。
●
逃げ出してゆく問題の新人、動揺に揺れる仲間の姿――。
何度も経験した事だ。ここで焦ってはいけない。
肩に噛みついた敵を半ば強引に引き剥がして、俺は考える。そして、思いついたのは小さな嘘だ。
「あいつに救援を任せた。だから、持ち堪えるんだ、いいなっ!」
遠ざかっていく新人の背を前に、けれどこれでいいと俺は確信する事が出来る。それは一種の勘によるものだ。
これまで潜ってきた修羅場の数は経験となって、今の言葉がきっといい方向に転ぶ筈だと自分に言い聞かせる。するとどういう訳か言葉に魂が宿ったように、その願いが現実になる事があるのだ。
「し、しかし隊長! 数が多過ぎますッ」
見た事もない姿の小さな敵に苦戦する隊員達。体長三十センチ程のその敵は、一言で言えば歩くトカゲのようだった。しかしトカゲといっても歯は鋭く、口に沿ってびっしりと生え揃った歯で噛みつかれれば引き剥がすのに相当な苦痛を伴う。現に自分がそうなのだ。傷口は深く、筋組織が一部露になっている。
「全部やろうと思うな。鉱石に近付くやつに絞れっ!」
俺はそう言って荷台を背に手にしていた剣を片腕で構える。
がそこへ新たな刺客が姿を現した。
いや正確には、新たなというよりさっき目撃したそれが接近してきたに過ぎない。
「くっ、連携でお出ましか…」
大空を飛ぶ、その強靭な翼の風は自然とこちらを煽る。
地にしっかりと足を踏ん張っていなければ、吹き飛ばす力があるもしれない。そんな翼竜が狙うのはやはり荷台の荷物――龍鉱石。大小大きさはそれぞれ異なるが、鉱石の皮袋に詰め、乗せられているのだ。
(この人数で守れるか?)
敵にばれないように最少人数での行軍となったこの班の人員は自分を含めた十二名。
うち一人は逃げ出し、自分は負傷。目の前にいる仲間も必死に堪えてはいるが、傷は増えるばかりである。
そうこうしているうちに一匹のワイバーンが荷台に滑空し、かけていたカバーを破り去ると、次のアタックで俺の隊員達を押しのけそのまま何個かの袋を奪い取って行く。
「こなくそぉー!」
そのワイバーンに対して一人の隊員が跳躍した。
そして、足を切り落とそうと剣を振り被る。だが、無情にも彼の刃は届かない。
それどころかはじき返され、地上に転落したと同時に小さいやつの餌食となってまだ若い命を奪われてゆく。
「くそがっ」
それからの事ははっきりとは覚えていない。モノより命を優先し、俺は傷の深い者を庇うように立ち回って徐々に隊員らを逃がしていった。処分覚悟の事だ。それに自分にはもう一つの切り札・ピエールの存在があったから、ここで引く判断を下せたのだと思う。
粗方の鉱石を奪われて…気付いた折には見知った顔と少し離れた場所で顔を俯けたままの逃げた筈の新人の姿があって、かなり時が経っていた事を知る。
(はは、やっぱり俺の勘はよく当たる…)
救援が来た。ならば、次にやる事は一つだ。だが、動かぬ身体では何も出来やしない。
そこで俺は彼にピエールを託す事にした。
●
そして、三日後。
「これは俺の責任だ。俺も同行させて貰う…あいつらが待ってるんでな」
治療魔法のお蔭で傷口は塞がった。痛みがないといえば嘘になるが、未だ見つかっていない仲間を思えばじっとしてはいられない。痛み止めの薬を飲み込んで、着慣れた鎧を纏う。
「まあ、あんたは言っても聞かんからな。後三人だ」
「名前は?」
「シウ、ケイ、ライト…だったか」
名を聞いて、俺は少しホッとする。
『・シウ(32)
小柄で色白、白髪。戦闘の際は援護専門であり、獲物はロッド。
典型的魔法使いタイプで、勿論回復魔法も習得済み。隊唯一の覚醒者。
普段は物静かなのだが、虫が大の苦手で発見すると錯乱し暫く手が付けられなくなる。
・ケイ(20)
長身、切れ長の目のイケメン短刀使い(二刀流)。年は若いが、13歳から軍にいる為経験豊富。
勝気な性格ながらも状況判断能力にもたけている為、無鉄砲な行動に出る事は少ない。
連携よりも個人プレーを好む。
・ライト(20)
ケイと同期であるが得物は槍。好戦的ではなく、どちらかと言えば敵が自分の射程に入るのを待って動くタイプ。
但し、一歩入れば容赦しない完璧主義。自分の決めた道を進むあまり、融通の利かない性格である。
実は仲間思い』
皆一癖も二癖もあり、この手のピンチには慣れている筈だ。
例え場所が場所でも、生き残ってくれているに違いない。
「本当に行くのか?」
応急処置を施してくれた軍医が俺に問う。
「ああ。奴らの事だ。まだくたばっちゃいない筈だからな…行かんと何言われるか」
冗談めかして俺が言う。そう、見捨てる訳にはいかない。
彼らとて大事な戦友であり、自分を信じてついてきてくれた仲間なのだから…。
リプレイ本文
●目星
隊員の発見を最優先、しかし遭遇する敵に対しては出来るだけ殲滅を希望とする。
そんな内容になったのはやはり襲撃されたその道が龍鉱石運送路になっているからに他ならない。
「全く、随分とまぁスリリングなハイド・アンド・シークだネ」
出発前にぷかりと紙煙草の煙を吹かしてフォークス(ka0570)が言う。
「かくれんぼか…しかし、ちゃんと隠れててくれればいいが、負傷しているとしたら生存率急減の七十二時間は過ぎている…急がねば」
そう言うのはザレム・アズール(ka0878)だ。現地の地図を広げて準備に入る。
「とりあえず距離は限られてしまうけど、トランシーバーで連絡を取り合おうぜ」
青の世界出身のレイオス・アクアウォーカー(ka1990)が連絡手段としてトランシーバーの使用を進言する。
「最悪わたくしのエレメンタルコールがありますから安心なのです」
とこれは赤の世界のアシェ-ル(ka2983)の言葉。マテリアルを介して一方通行ではあるが言葉を送る事が出来るスキルだ。
「そう言えばシウさんは魔術を扱うのよね? そのなんたらってやつは使えないのかしら?」
もし使えるなら連絡はきていないかとマリィア・バルデス(ka5848)が隊長に尋ねる。
「まあ、使えるっちゃ使えるが受ける側の問題だな…あれは親しい仲の覚醒者同士でないと使えないんだろう?」
隊長からの問いにアシェールが頷く。となればやはり頼みの綱はトランシーバーか。
「闇雲に行っても埒が明かないだろう。どうするんだ?」
木陰や岩場、木の上など。
各々が検討をつけてはいるが、場所は広い。人間が三日歩き続けられる最大範囲を考えたらかなりの広さとなる。
「隊長さんも病み上がりですし、こういう時こそ私に任せて下さい」
そこで立ち上がったのはティリル(ka5672)だった。しまってあった符を取り出し、地図の上に翳す。
「今こそこの符に、私の魂を込めましょう」
その言葉と共にふわりと符が揺れる。すると同時にマテリアルが急速に符に集まり、地図全体を包み始める。
「ほう、占術か…」
隊長が興味深げに見つめながら呟く。
「そう言えばあんたの名前は何て言うんだ?」
ザレムの問いに隊長は悪戯な笑みを見せる。
「俺か。俺はスニークだ」
彼の性格とは真反対の名にザレムからも笑みが零れる。
「出ました」
それから暫くして、彼女の占いは大まかに二か所を指し示す結果となった。
「シウさんとライトさんは大体同じ方面にいるようです。ただケイさんは情報通り単独なのかもしれません」
精度を高める為にスキルを使い、一人につき二回ずつ占った結論。シウ、ライトの二人については大凡同じ方角が出たのに対して、ケイだけが少し外れて一回目と二回目でもズレが生じている。
「まあ、そのケイは経験も豊富なんだろう? なら何らかの印なり何なり残している可能性が高い。が念の為、何か三人の持ち物は残っていないか?」
ペットでの捜索を考えていたザレムが問う。
「ある…と言いたい所だが、すまんな。宿舎に戻っている暇はない」
「なあ、じゃあ隊員達の食料はどうなってるんだ? やっぱり少しは何かもってくべきだよな?」
続いてレイオスが隊員達の空腹の気にして隊長に尋ねる。
そこでザレムはハッとした。もし食料を持っていれば、その匂いで隊員を辿る事は出来ないだろう。
「あぁ、まあ軍配布の乾パン程度なら携帯していた筈だが…」
「それだ」
三日を過ぎているのだから何処かでそれを食べている筈だ。
となれば僅かではあるが匂いが残っているかもしれない。隊長のピエールも借りたいと思ったザレムであったが、残念ながら別任務に当たっており、助けは借りれない事が判明する。
「仕方ないな。シバだけでもいくか」
彼の猟犬に早速隊長の持っている食料の匂いを覚えさせる。
かくて、彼ら一行は問題の襲撃ポイントから各々ツーマンセルでの捜索を開始するのだった。
●沼の主
方向が同じであるから急遽ご一緒する事になったのはザレムとフォークスを除く四名。
彼らは上空に注意を払いつつ樹海を慎重に進む。
「食料も無くなってそうだし、とっとと連れ帰ってちゃんとしたメシを食わせてやりたいな」
虫嫌いのシウ目指して落ち葉の少ない所を重点的に見つつ、レイオスが言う。
「だったら尚の事本人達が見つかるアピールをしてくれたら楽なのですが…」
と言うのはアシェールだ。ライトと言う名なのだから、目印に灯りを持ってくれていたらと思うのだが、現実は難しい。
「そんな事してたら私達が行く前に敵に見つかるでしょうしね」
サバイバル知識からも得られる事だ。マリィアは己が直感も活かして、聞き耳を立てつつ進む。
「この辺でもう一度やってみるなの」
そこでティリルはもう一度の占いを敢行した。そうする事で更なる正確な場所が出せないかと考えたのである。
「ねぇ、ちょっとアレ…誰かの布切れじゃないですか?」
占い結果を待つ間にアシェールが小枝から重要な手掛かりを発見する。
「そうね…なんかハーブ臭いし間違いないかもね」
切れ端を手に取りマリィアが言う。
隊長の話ではシウは虫嫌いだ。とすると、服に虫よけの何かを仕込んでいてもおかしくない。リアルブルーでは虫よけスプレーという便利なものがあるが、こちらではそんなものがある筈もなく専ら香やこういった香草の類いを燻してそれにする事が多い。
「ってことはこの辺か?」
近くの木に登り、木の葉に隠れつつもレイオスが高い視点から周囲を確認する。
ティリルは占いに続いて、出た方向の生命感知。生き物の気配を探る。
「ん……あれって生首!?」
そうして一行が見つけたのは小さな沼だ。
「嘘、だろ…」
隊長から借りた双眼鏡で見つけた沼の中央。そこに浮かぶ二つの首に驚きを隠せない。しかもよく見れば、その一つがパクパクしていてとても気持ち悪い。更にはその首を囲むように沼の淵に無数のトカゲっぽいの――恐らく依頼書にあったそれだろう。生首を狙っているようだが、彼らは沼にはまるのが嫌らしく、近付けないでいるようだ。
「とりあえずコール入れますね」
アシェールがザレムに状況を報告する。
「ワイバーンでないだけマシね。私達が引付けるわ。だからそのうちに二人を」
マリィアは携帯していた二丁の銃を構える。アシェールもコールの後、銃の準備に入る。
「ティリル、突っ込むから遅れんなよ」
「はいなの」
その返事が合図となった。沼に向かう二人を悟らせないよう囮の二人の銃がうなる。その音にトカゲ達の注目は集まり、沼からそちらへと向かってゆく。
「くっ、予想以上に速いわね」
飛び込んでくるトカゲを撃ち落としながらマリィアが言う。
「甘く見てると怪我するんですよ」
そう言うアシュールの銃からはなんと雷撃が発生し、直線状のトカゲをふっ飛ばす。
どうやら彼女の銃は魔術機構が組み込まれている為、魔法を発動する事も出来るらしい。
その隙に救出組が生首の元へ。近付けば何の事はない。下は沼にすっぽりとはまり込んでしまっているだけらしい。
「助けに来たぜ。ちょっと待ってろよ」
レイオスがそう言いロープになりそうなものを探す。しかし、そんなものが早々に見つかる筈もなく、彼が閃いたのは自分の帯だ。それを躊躇なく外して、片側を沼へと投げ入れる。
「ティリル、手伝って」
その潔さに驚いていた彼女であったが、慌てて帯を掴む。
「助かる。シウ、お前からだ」
ライトの言葉にシウは情けなく従う。が、そこへやって来たのは大型の影――。
『悪い、そっち方面に屍竜が行った!』
慌てた声でトランシーバーから仲間の声がする。
「あぁ、来たよ。でかいのが…」
レイオスは呆気に取られながらも、この際ライトも帯に捕まらせ全速力で二人を引き上げるのだった。
●屍竜
一方、隊長を含む三人が今まで何をしていたのかを説明するには、少しばかり時間を遡る。
まずケイは確かに冷静だった。皆が考えた通り、木に印を残して移動を繰り返していたようで占い結果を頼りに暫く歩くと、その印を発見する事が出来たのだ。加えて、ザレムのシバもなかなかの働きを見せる。始めは携帯食料の香りという微妙な物であったから頼りにはならなかったのだが、その後幹に残されたケイの血液付きの包帯によって、探索はグッと進んだのだ。
「あいつが包帯を持ってきていたとは驚きだな」
隊長が呟いた言葉。持参したというより襲われた後、咄嗟に荷車にあった事を思い出し使ったのかもしれない。
その辺は定かではないが、それが鍵となり彼らは追いつく事が出来たのだ。
けれど、彼はそこで何故か無謀な戦いに身を置いていた。
「おい、あれ…」
「ひゅ~、タフだねぇ」
剣戟の音を耳にして駆け寄った先には体長十メートルは有ろうかという一匹の竜――。
しかも普通の竜ではなく、その外見がまた頂けない。鱗は所々剥がれ落ち、一部は筋肉の先にある骨が剥き出しだ。そのグロテスクさといったら、グールの比ではない。どす黒く腐食した肉体と零れ落ちる唾液のようなもので大地を汚しつつ、その巨体が彼らを見下ろす。
「あんた、よくこんなのとやりあってるねェ」
それを知ってフォークスが称賛する。だが、ケイの方は笑うでもなく、ただ目の前の敵に集中しているようだ。
しかし、傍から見れば彼が立っているのは不思議な位で…その場をフォークスに任せ、ザレムは彼を横に避ける。
「Come on bitch…と言いたい所だが、一人ってのはキツイかもなァ」
彼女はそう言いつつも屍竜にレイタ―コールドショットをお見舞いする。
その効果により屍龍の肉体が一部凍り、気持ちの悪い肉片を一時的に硬直させる。
「全く、俺の部下って奴は何でこう何だか…」
多分理由があったのだろうが、こんな敵を相手にしているとは思わず隊長も苦笑いだ。ザレムがケイへの応急手当をする間の時間稼ぎに彼も剣を構える。
「あんた、本当にいけんのかい…ウールになるのは勘弁だぜ」
そんな彼を見て冷やかすフォークス。けれど、思った程隊長の動きは悪くない。
さすがは隊長を務めるだけあって、そこらの中級ハンターには引けを取らない腕だ。
「ケイ、しっかりしろ…後は俺達がどうにかするから」
ザレムが応急手当を施しつつ、呼びかける。そこへアシェールからの連絡が入ってホッする彼。
フォークスと隊長にもその事を告げると、心なしか動きが良くなる。が問題はここからだ。
「あれを…やれるか?」
出来れば殲滅が条件だった。しかし、ここにいるのはたったの四名。うち一人は負傷者であるし、逃げるにしてもアレ相手ではなかなか難しいかもしれない。だが、そこで銃声が響いて――屍龍の動きが一変する。
「ッ…駄目だ。あいつを、飛び立たせたら…」
ケイが言う。だが、もう遅い。ぼろぼろの翼ではあるが、屍龍は銃声があった方へと飛び立っていく。
「なんで、あっちに…」
「あいつの、塒なんだろうさ……くそっ、折角こっちに誘き出したのに」
ケイが苦しそうに言う。誘き出す…つまりは、ケイは何かしらの理由があってあの屍龍を相手にしていたと推測される。その理由とは…別動隊の状況を知れば判るだろうが、今の彼等にはまだ理解できない。
「とにかく追うぞ」
「ああ」
ケイをザレムが背負って、残りの二人も竜を追い駆け出した。
「ごめんなさいごめんなさい、だから来るの嫌だったんですぅ~」
シウが怯えを隠そうともせず叫ぶ。
幸いと言うべきか、トカゲの数はそれほど多くなかったのかその頃には囮組の手によってトカゲの殲滅は完了。ひとまず近くの木に隠れて、ケイを含む別動隊の戻りを待つ。その間に聞いた話によれば、事の発端はやはりこのシウという男だったらしい。
「簡単に言えばあれだ。危なかったんで虫がいるとけしかけて逃がしたは良かったんだが、途中ですっ転んであの沼に落ちた。そしてその叫び声がトカゲとあの竜を呼んでしまったという訳だけだ」
ライトが簡潔に事の成り行きを説明する。
その後彼を助けようとしたらしいのだが、ライトの槍は重く、彼自身も囚われの身になってしまったらしい。
そこまで話した辺りで別動隊が彼等に合流する。
「すまない。遅くなった」
ケイを背負っていたから仕方がない。けれど、これで戦力は十分だろう。
「出来れば殲滅だからな。逃げ戻る途中でまた出くわすより、今やる方がずっといい」
隊員達にひとまず水と食料を分けていたレイオスが言う。
「そうね。後は今の所あれだけだし…隊長さんは部下達をお願い」
マリィアも栄養価が高いされる蜂蜜を提供して、再び得物を手に取る。
「じゃ、いくか」
ハンター達がそこで立ち上がった。敵は屍竜――しかし、彼らにはマテリアルの恩恵がついている。
前衛となるのはザレムとレイオス。彼らの射程に入るまでは後衛の四名がカバーする。
さっき同様フォークスの冷気を帯びたショットで足元を、ティリルの雷撃符とアシェールの極弩重雷撃砲が翼を破る。
ぬめついた身体であるから電気を帯びた攻撃は思いの外効果的であり、屍竜が悶え必死の抵抗。毒を帯びている様な液体を口から零すと、懸命に近付いてくるハンターを圧し留めようと試みる。けれど、そこにマリィアの弾丸が飛んで、腐り切っていた眼球は破裂し視界も奪われてはもう抵抗のしようがない。感覚だけで暴れるだけでは、手練れのハンターには通用しない。
「うぉぉぉぉりゃぁあああ!」
軽々と屍竜の爪を避けて、レイオスがカウンターアタックを腹に決める。
「これで終わりだ」
そう静かに呟いたのはザレムだ。スキルで剣の威力を上げて、彼は跳躍すると屍竜の首を裁断する。
それは見事な連携だった。屍竜に反撃の隙を与えることなく、終わる頃には屍竜はさらさらと砂のようになり姿を消してゆく。
「す、凄い…」
シウが目を輝かせ…頻りにそう呟いていた。
後日、隊員達の体力も回復に向かい改めて隊長からハンター達にお礼の手紙が届けられる。
そしてそれによると、ケイがあの竜と闘っていた理由はこうだ。ライトを追いかけていた彼は沼にはまった二人を発見し、近付く屍竜を逸早く察知して彼らを守る為囮になっていたという事だ。
『まぁ、あんたらに比べたら力は劣るが、あいつらもあいつらなりに頑張ってたようだ。そして、シウもこれから心機一転、頑張り直すとさ』
そんな言葉と共に、シウがまずは虫克服の為虫よけローブを封印した事や今回の事で遺跡への新たな道の発見等が書き綴られている。
そして最後には機会があったら奢らせて欲しいと親しみを感じる言葉で締め括られていて…覚醒者とそうでない者――それでも人には変わりない。闘う場所が違っても、互いに協力していけば更なる成果に辿りつける事だろう。
隊員の発見を最優先、しかし遭遇する敵に対しては出来るだけ殲滅を希望とする。
そんな内容になったのはやはり襲撃されたその道が龍鉱石運送路になっているからに他ならない。
「全く、随分とまぁスリリングなハイド・アンド・シークだネ」
出発前にぷかりと紙煙草の煙を吹かしてフォークス(ka0570)が言う。
「かくれんぼか…しかし、ちゃんと隠れててくれればいいが、負傷しているとしたら生存率急減の七十二時間は過ぎている…急がねば」
そう言うのはザレム・アズール(ka0878)だ。現地の地図を広げて準備に入る。
「とりあえず距離は限られてしまうけど、トランシーバーで連絡を取り合おうぜ」
青の世界出身のレイオス・アクアウォーカー(ka1990)が連絡手段としてトランシーバーの使用を進言する。
「最悪わたくしのエレメンタルコールがありますから安心なのです」
とこれは赤の世界のアシェ-ル(ka2983)の言葉。マテリアルを介して一方通行ではあるが言葉を送る事が出来るスキルだ。
「そう言えばシウさんは魔術を扱うのよね? そのなんたらってやつは使えないのかしら?」
もし使えるなら連絡はきていないかとマリィア・バルデス(ka5848)が隊長に尋ねる。
「まあ、使えるっちゃ使えるが受ける側の問題だな…あれは親しい仲の覚醒者同士でないと使えないんだろう?」
隊長からの問いにアシェールが頷く。となればやはり頼みの綱はトランシーバーか。
「闇雲に行っても埒が明かないだろう。どうするんだ?」
木陰や岩場、木の上など。
各々が検討をつけてはいるが、場所は広い。人間が三日歩き続けられる最大範囲を考えたらかなりの広さとなる。
「隊長さんも病み上がりですし、こういう時こそ私に任せて下さい」
そこで立ち上がったのはティリル(ka5672)だった。しまってあった符を取り出し、地図の上に翳す。
「今こそこの符に、私の魂を込めましょう」
その言葉と共にふわりと符が揺れる。すると同時にマテリアルが急速に符に集まり、地図全体を包み始める。
「ほう、占術か…」
隊長が興味深げに見つめながら呟く。
「そう言えばあんたの名前は何て言うんだ?」
ザレムの問いに隊長は悪戯な笑みを見せる。
「俺か。俺はスニークだ」
彼の性格とは真反対の名にザレムからも笑みが零れる。
「出ました」
それから暫くして、彼女の占いは大まかに二か所を指し示す結果となった。
「シウさんとライトさんは大体同じ方面にいるようです。ただケイさんは情報通り単独なのかもしれません」
精度を高める為にスキルを使い、一人につき二回ずつ占った結論。シウ、ライトの二人については大凡同じ方角が出たのに対して、ケイだけが少し外れて一回目と二回目でもズレが生じている。
「まあ、そのケイは経験も豊富なんだろう? なら何らかの印なり何なり残している可能性が高い。が念の為、何か三人の持ち物は残っていないか?」
ペットでの捜索を考えていたザレムが問う。
「ある…と言いたい所だが、すまんな。宿舎に戻っている暇はない」
「なあ、じゃあ隊員達の食料はどうなってるんだ? やっぱり少しは何かもってくべきだよな?」
続いてレイオスが隊員達の空腹の気にして隊長に尋ねる。
そこでザレムはハッとした。もし食料を持っていれば、その匂いで隊員を辿る事は出来ないだろう。
「あぁ、まあ軍配布の乾パン程度なら携帯していた筈だが…」
「それだ」
三日を過ぎているのだから何処かでそれを食べている筈だ。
となれば僅かではあるが匂いが残っているかもしれない。隊長のピエールも借りたいと思ったザレムであったが、残念ながら別任務に当たっており、助けは借りれない事が判明する。
「仕方ないな。シバだけでもいくか」
彼の猟犬に早速隊長の持っている食料の匂いを覚えさせる。
かくて、彼ら一行は問題の襲撃ポイントから各々ツーマンセルでの捜索を開始するのだった。
●沼の主
方向が同じであるから急遽ご一緒する事になったのはザレムとフォークスを除く四名。
彼らは上空に注意を払いつつ樹海を慎重に進む。
「食料も無くなってそうだし、とっとと連れ帰ってちゃんとしたメシを食わせてやりたいな」
虫嫌いのシウ目指して落ち葉の少ない所を重点的に見つつ、レイオスが言う。
「だったら尚の事本人達が見つかるアピールをしてくれたら楽なのですが…」
と言うのはアシェールだ。ライトと言う名なのだから、目印に灯りを持ってくれていたらと思うのだが、現実は難しい。
「そんな事してたら私達が行く前に敵に見つかるでしょうしね」
サバイバル知識からも得られる事だ。マリィアは己が直感も活かして、聞き耳を立てつつ進む。
「この辺でもう一度やってみるなの」
そこでティリルはもう一度の占いを敢行した。そうする事で更なる正確な場所が出せないかと考えたのである。
「ねぇ、ちょっとアレ…誰かの布切れじゃないですか?」
占い結果を待つ間にアシェールが小枝から重要な手掛かりを発見する。
「そうね…なんかハーブ臭いし間違いないかもね」
切れ端を手に取りマリィアが言う。
隊長の話ではシウは虫嫌いだ。とすると、服に虫よけの何かを仕込んでいてもおかしくない。リアルブルーでは虫よけスプレーという便利なものがあるが、こちらではそんなものがある筈もなく専ら香やこういった香草の類いを燻してそれにする事が多い。
「ってことはこの辺か?」
近くの木に登り、木の葉に隠れつつもレイオスが高い視点から周囲を確認する。
ティリルは占いに続いて、出た方向の生命感知。生き物の気配を探る。
「ん……あれって生首!?」
そうして一行が見つけたのは小さな沼だ。
「嘘、だろ…」
隊長から借りた双眼鏡で見つけた沼の中央。そこに浮かぶ二つの首に驚きを隠せない。しかもよく見れば、その一つがパクパクしていてとても気持ち悪い。更にはその首を囲むように沼の淵に無数のトカゲっぽいの――恐らく依頼書にあったそれだろう。生首を狙っているようだが、彼らは沼にはまるのが嫌らしく、近付けないでいるようだ。
「とりあえずコール入れますね」
アシェールがザレムに状況を報告する。
「ワイバーンでないだけマシね。私達が引付けるわ。だからそのうちに二人を」
マリィアは携帯していた二丁の銃を構える。アシェールもコールの後、銃の準備に入る。
「ティリル、突っ込むから遅れんなよ」
「はいなの」
その返事が合図となった。沼に向かう二人を悟らせないよう囮の二人の銃がうなる。その音にトカゲ達の注目は集まり、沼からそちらへと向かってゆく。
「くっ、予想以上に速いわね」
飛び込んでくるトカゲを撃ち落としながらマリィアが言う。
「甘く見てると怪我するんですよ」
そう言うアシュールの銃からはなんと雷撃が発生し、直線状のトカゲをふっ飛ばす。
どうやら彼女の銃は魔術機構が組み込まれている為、魔法を発動する事も出来るらしい。
その隙に救出組が生首の元へ。近付けば何の事はない。下は沼にすっぽりとはまり込んでしまっているだけらしい。
「助けに来たぜ。ちょっと待ってろよ」
レイオスがそう言いロープになりそうなものを探す。しかし、そんなものが早々に見つかる筈もなく、彼が閃いたのは自分の帯だ。それを躊躇なく外して、片側を沼へと投げ入れる。
「ティリル、手伝って」
その潔さに驚いていた彼女であったが、慌てて帯を掴む。
「助かる。シウ、お前からだ」
ライトの言葉にシウは情けなく従う。が、そこへやって来たのは大型の影――。
『悪い、そっち方面に屍竜が行った!』
慌てた声でトランシーバーから仲間の声がする。
「あぁ、来たよ。でかいのが…」
レイオスは呆気に取られながらも、この際ライトも帯に捕まらせ全速力で二人を引き上げるのだった。
●屍竜
一方、隊長を含む三人が今まで何をしていたのかを説明するには、少しばかり時間を遡る。
まずケイは確かに冷静だった。皆が考えた通り、木に印を残して移動を繰り返していたようで占い結果を頼りに暫く歩くと、その印を発見する事が出来たのだ。加えて、ザレムのシバもなかなかの働きを見せる。始めは携帯食料の香りという微妙な物であったから頼りにはならなかったのだが、その後幹に残されたケイの血液付きの包帯によって、探索はグッと進んだのだ。
「あいつが包帯を持ってきていたとは驚きだな」
隊長が呟いた言葉。持参したというより襲われた後、咄嗟に荷車にあった事を思い出し使ったのかもしれない。
その辺は定かではないが、それが鍵となり彼らは追いつく事が出来たのだ。
けれど、彼はそこで何故か無謀な戦いに身を置いていた。
「おい、あれ…」
「ひゅ~、タフだねぇ」
剣戟の音を耳にして駆け寄った先には体長十メートルは有ろうかという一匹の竜――。
しかも普通の竜ではなく、その外見がまた頂けない。鱗は所々剥がれ落ち、一部は筋肉の先にある骨が剥き出しだ。そのグロテスクさといったら、グールの比ではない。どす黒く腐食した肉体と零れ落ちる唾液のようなもので大地を汚しつつ、その巨体が彼らを見下ろす。
「あんた、よくこんなのとやりあってるねェ」
それを知ってフォークスが称賛する。だが、ケイの方は笑うでもなく、ただ目の前の敵に集中しているようだ。
しかし、傍から見れば彼が立っているのは不思議な位で…その場をフォークスに任せ、ザレムは彼を横に避ける。
「Come on bitch…と言いたい所だが、一人ってのはキツイかもなァ」
彼女はそう言いつつも屍竜にレイタ―コールドショットをお見舞いする。
その効果により屍龍の肉体が一部凍り、気持ちの悪い肉片を一時的に硬直させる。
「全く、俺の部下って奴は何でこう何だか…」
多分理由があったのだろうが、こんな敵を相手にしているとは思わず隊長も苦笑いだ。ザレムがケイへの応急手当をする間の時間稼ぎに彼も剣を構える。
「あんた、本当にいけんのかい…ウールになるのは勘弁だぜ」
そんな彼を見て冷やかすフォークス。けれど、思った程隊長の動きは悪くない。
さすがは隊長を務めるだけあって、そこらの中級ハンターには引けを取らない腕だ。
「ケイ、しっかりしろ…後は俺達がどうにかするから」
ザレムが応急手当を施しつつ、呼びかける。そこへアシェールからの連絡が入ってホッする彼。
フォークスと隊長にもその事を告げると、心なしか動きが良くなる。が問題はここからだ。
「あれを…やれるか?」
出来れば殲滅が条件だった。しかし、ここにいるのはたったの四名。うち一人は負傷者であるし、逃げるにしてもアレ相手ではなかなか難しいかもしれない。だが、そこで銃声が響いて――屍龍の動きが一変する。
「ッ…駄目だ。あいつを、飛び立たせたら…」
ケイが言う。だが、もう遅い。ぼろぼろの翼ではあるが、屍龍は銃声があった方へと飛び立っていく。
「なんで、あっちに…」
「あいつの、塒なんだろうさ……くそっ、折角こっちに誘き出したのに」
ケイが苦しそうに言う。誘き出す…つまりは、ケイは何かしらの理由があってあの屍龍を相手にしていたと推測される。その理由とは…別動隊の状況を知れば判るだろうが、今の彼等にはまだ理解できない。
「とにかく追うぞ」
「ああ」
ケイをザレムが背負って、残りの二人も竜を追い駆け出した。
「ごめんなさいごめんなさい、だから来るの嫌だったんですぅ~」
シウが怯えを隠そうともせず叫ぶ。
幸いと言うべきか、トカゲの数はそれほど多くなかったのかその頃には囮組の手によってトカゲの殲滅は完了。ひとまず近くの木に隠れて、ケイを含む別動隊の戻りを待つ。その間に聞いた話によれば、事の発端はやはりこのシウという男だったらしい。
「簡単に言えばあれだ。危なかったんで虫がいるとけしかけて逃がしたは良かったんだが、途中ですっ転んであの沼に落ちた。そしてその叫び声がトカゲとあの竜を呼んでしまったという訳だけだ」
ライトが簡潔に事の成り行きを説明する。
その後彼を助けようとしたらしいのだが、ライトの槍は重く、彼自身も囚われの身になってしまったらしい。
そこまで話した辺りで別動隊が彼等に合流する。
「すまない。遅くなった」
ケイを背負っていたから仕方がない。けれど、これで戦力は十分だろう。
「出来れば殲滅だからな。逃げ戻る途中でまた出くわすより、今やる方がずっといい」
隊員達にひとまず水と食料を分けていたレイオスが言う。
「そうね。後は今の所あれだけだし…隊長さんは部下達をお願い」
マリィアも栄養価が高いされる蜂蜜を提供して、再び得物を手に取る。
「じゃ、いくか」
ハンター達がそこで立ち上がった。敵は屍竜――しかし、彼らにはマテリアルの恩恵がついている。
前衛となるのはザレムとレイオス。彼らの射程に入るまでは後衛の四名がカバーする。
さっき同様フォークスの冷気を帯びたショットで足元を、ティリルの雷撃符とアシェールの極弩重雷撃砲が翼を破る。
ぬめついた身体であるから電気を帯びた攻撃は思いの外効果的であり、屍竜が悶え必死の抵抗。毒を帯びている様な液体を口から零すと、懸命に近付いてくるハンターを圧し留めようと試みる。けれど、そこにマリィアの弾丸が飛んで、腐り切っていた眼球は破裂し視界も奪われてはもう抵抗のしようがない。感覚だけで暴れるだけでは、手練れのハンターには通用しない。
「うぉぉぉぉりゃぁあああ!」
軽々と屍竜の爪を避けて、レイオスがカウンターアタックを腹に決める。
「これで終わりだ」
そう静かに呟いたのはザレムだ。スキルで剣の威力を上げて、彼は跳躍すると屍竜の首を裁断する。
それは見事な連携だった。屍竜に反撃の隙を与えることなく、終わる頃には屍竜はさらさらと砂のようになり姿を消してゆく。
「す、凄い…」
シウが目を輝かせ…頻りにそう呟いていた。
後日、隊員達の体力も回復に向かい改めて隊長からハンター達にお礼の手紙が届けられる。
そしてそれによると、ケイがあの竜と闘っていた理由はこうだ。ライトを追いかけていた彼は沼にはまった二人を発見し、近付く屍竜を逸早く察知して彼らを守る為囮になっていたという事だ。
『まぁ、あんたらに比べたら力は劣るが、あいつらもあいつらなりに頑張ってたようだ。そして、シウもこれから心機一転、頑張り直すとさ』
そんな言葉と共に、シウがまずは虫克服の為虫よけローブを封印した事や今回の事で遺跡への新たな道の発見等が書き綴られている。
そして最後には機会があったら奢らせて欲しいと親しみを感じる言葉で締め括られていて…覚醒者とそうでない者――それでも人には変わりない。闘う場所が違っても、互いに協力していけば更なる成果に辿りつける事だろう。
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
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面白かった! | 5人 |
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【相談卓】Rescue me! フォークス(ka0570) 人間(リアルブルー)|25才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2016/03/14 08:14:15 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/03/12 00:58:11 |