ゲスト
(ka0000)
【幻魂】過ぎたる夢か
マスター:鷹羽柊架

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/03/14 22:00
- 完成日
- 2016/03/20 16:13
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
蛇の戦士シバが遺した霊闘士の技。
ハンター達は、幻獣の森に住む大幻獣『ナーランギ』より技の正体は霊闘士の奥義であると教えられる。
奥義を取得できるのは、厳しい試練を潜り抜けた霊闘士のみ。覚悟を決めたハンター達は辺境各地に点在する『魂の道』に向かって歩き出した。
※※※
そこは戦場であった。
必死になって目的の場所へと駆けていく。
無事でいてほしいとは思えない。
死の気配が仲間の足元に忍び寄っていないことを一心に祈るだけ。
「生きててくれ……っ!」
祈りは風にかき消されるよりも早く前へと走っていく。
元より荒れた土地であったが、地は不自然に抉れているところが目立ってきた。
視界に入って来たのは眷属達が、共に戦っていた人間達が横たわっている姿。
眷属たちが何故そうしているのかはすぐに理解できた。
一番見たくない姿であり、瞬時に歪虚に対する殺気がどす黒い何かが身体中を染めていく。
奔って、跳躍した。
誰かが自身の名を呼んでいる。
応えたいが、身体に歯止めが利かないのだ。
そこにいた歪虚が自身に気付き、こちらを見て愉しそうに嗤う。
更に呼ぶ声は止まない。
誰が呼んでいたのだろうか。
それどころではない。
殺さねばならないんだ。
殺してやる……!
「フェンリル!」
大きく見開いたフェンリルの赤い瞳とファリフの青い瞳がぶつかった。
一際大きな声をあげたのはファリフの声。
「お嬢……ちゃん?」
「……なんか、寝てたよ?」
心配するファリフにフェンリルは「すまない」とだけ言った。
人間で言うところのうたた寝でもしていたのだろうが、気を緩ませて意識を手放していたことにフェンリルは恥を感じざるを得ない。
しかし、このようなだらけた姿はチューダではあるまいしと、そっとため息を吐いた。
じっとフェンリルを見ていたファリフであったが、いつもならば気障な台詞の一つでも飛んでくるはずのフェンリルだが、今回はそれがない。
「大丈夫……?」
心配の色を表情と声音に滲ませたファリフの声に気付いたフェンリルはファリフの頬を自身の鼻で摩る。
「お嬢ちゃんは何も心配することはない。しかし、この俺様の相手になるにはまだ早いからな、もう少しレディとしての成長を心配をしたほうがいい」
いつもの調子が戻ってきたのはいいが、ファリフはむーっと、頬を膨らませる。
「もー、心配したんだからね。ボクが心配するのは無事に魂の道から戻れる事だよっ」
腕を組んで胡坐をかくファリフには元気が戻ってきており、先ほどの心配する様子はなくなっている。
「夢でも見てたの?」
「昔の事だ」
「どんなの?」
「聞いていいものではない」
はぐらかしつつ、逃げるように俯こうとするフェンリルの顔をファリフが両手で掴んで向き合わそうとする。
「言わないとだめだよ」
真摯な蒼穹の瞳に捕らわれたようにフェンリルはじっと見つめてしまう。
観念したようにフェンリルは内容を告げた。
内容を話せば、ファリフの表情はどこか沈んでしまったように見えたが、それは一瞬だけ。
「フェンリル。現実は『ここ』なんだ。夢の中ではないよ。ボクがここにいるんだし」
穏やかに微笑むファリフはフェンリルの額に自分の額をくっつける。
ファリフの温もりにフェンリルは目を細めて頷く。
優しい時間も束の間、ファリフは額を離してフェンリルを見つめる。
「夢を見るなんてチューダみたいだね」
それは言わないでほしかった。
●
魂の道に着いたファリフとハンター達をよそに、フェンリルは嫌そうな表情を滲ませていた。
フェンリル曰く、苦手な幻獣がいるからと言っていたのがファリフには密かに興味もっているし、フェンリルが苦手としているシャレーヌもフェンリルがファリフを大事にしているのはすぐに見極めており、興味を示している。
シャレーヌは歩きつつ、ファリフより、最近のフェンリルの話を聞いていた。
先日、フェンリルがうたた寝していた話で夢の内容まで喋っており、シャレーヌもハンターもしっかり耳を傾けていた。
「フェンリルに大事にされてるのね~」
シャレーヌはストレートにファリフに語りかけると、ファリフは眉を八の字にして首を傾げる。
「確かに大事にしてるとは思うけど……」
フェンリルの言葉の端々にからかいの言葉があり、真面目なファリフは嫌いじゃないけど、何か素直になれない気がしてしまう。
「ふふっ。まぁ、それぞれよね~。じゃ、頑張ってね」
これからの事を仄めかすように、茶化すようにシャレーヌが言うと、先ほどまで歩いていた場所とは違うと見える光景が広がっていた。
昼なのか夜なのかも分からないその『場所』は赤き大地の荒野なのかも分からない。
周囲には岩が点在しており、植物は見受けられない。
地面は不自然な亀裂や穴が開いており、戦う者であれば、戦闘の爪痕であることを察することが出来る。
「向こうで音が聞こえる」
同行していたハンターがその方向を見ていた。
「行こう!」
皆が駆け出すと、横たわっている人間や獣……イェジドが多数横たわっている。
その場にいる者達が指一本動かなかったところから察せられる状況にファリフ達はまっすぐ更に向こうを見た。
いる。
敵がいる。
獣型、トロル型、骸骨型……一見しても数がどれだけいるか分からない。
歪虚と交戦しているイェジドがトロルより殴られて地面に背を叩きつけられた。トロルの攻撃力とイエジドの体重で地面が抉れてしまっている。
「やめろ!」
同行していたハンターの一人が叫んだ。
トロルは足を上げ、まだ動いているイェジドの腹に落とした。
イェジドは追撃に身をくの字に折って、短い悲鳴を上げ、力尽きたように動かなくなる。
歪虚の群れはハンターを視認したようであり、足をそちらへと向けはじめた。
「よくも!」
血気を逆上せたファリフが駆け出し、一気に戦いの火蓋が切り落とされた。
ハンター達は、幻獣の森に住む大幻獣『ナーランギ』より技の正体は霊闘士の奥義であると教えられる。
奥義を取得できるのは、厳しい試練を潜り抜けた霊闘士のみ。覚悟を決めたハンター達は辺境各地に点在する『魂の道』に向かって歩き出した。
※※※
そこは戦場であった。
必死になって目的の場所へと駆けていく。
無事でいてほしいとは思えない。
死の気配が仲間の足元に忍び寄っていないことを一心に祈るだけ。
「生きててくれ……っ!」
祈りは風にかき消されるよりも早く前へと走っていく。
元より荒れた土地であったが、地は不自然に抉れているところが目立ってきた。
視界に入って来たのは眷属達が、共に戦っていた人間達が横たわっている姿。
眷属たちが何故そうしているのかはすぐに理解できた。
一番見たくない姿であり、瞬時に歪虚に対する殺気がどす黒い何かが身体中を染めていく。
奔って、跳躍した。
誰かが自身の名を呼んでいる。
応えたいが、身体に歯止めが利かないのだ。
そこにいた歪虚が自身に気付き、こちらを見て愉しそうに嗤う。
更に呼ぶ声は止まない。
誰が呼んでいたのだろうか。
それどころではない。
殺さねばならないんだ。
殺してやる……!
「フェンリル!」
大きく見開いたフェンリルの赤い瞳とファリフの青い瞳がぶつかった。
一際大きな声をあげたのはファリフの声。
「お嬢……ちゃん?」
「……なんか、寝てたよ?」
心配するファリフにフェンリルは「すまない」とだけ言った。
人間で言うところのうたた寝でもしていたのだろうが、気を緩ませて意識を手放していたことにフェンリルは恥を感じざるを得ない。
しかし、このようなだらけた姿はチューダではあるまいしと、そっとため息を吐いた。
じっとフェンリルを見ていたファリフであったが、いつもならば気障な台詞の一つでも飛んでくるはずのフェンリルだが、今回はそれがない。
「大丈夫……?」
心配の色を表情と声音に滲ませたファリフの声に気付いたフェンリルはファリフの頬を自身の鼻で摩る。
「お嬢ちゃんは何も心配することはない。しかし、この俺様の相手になるにはまだ早いからな、もう少しレディとしての成長を心配をしたほうがいい」
いつもの調子が戻ってきたのはいいが、ファリフはむーっと、頬を膨らませる。
「もー、心配したんだからね。ボクが心配するのは無事に魂の道から戻れる事だよっ」
腕を組んで胡坐をかくファリフには元気が戻ってきており、先ほどの心配する様子はなくなっている。
「夢でも見てたの?」
「昔の事だ」
「どんなの?」
「聞いていいものではない」
はぐらかしつつ、逃げるように俯こうとするフェンリルの顔をファリフが両手で掴んで向き合わそうとする。
「言わないとだめだよ」
真摯な蒼穹の瞳に捕らわれたようにフェンリルはじっと見つめてしまう。
観念したようにフェンリルは内容を告げた。
内容を話せば、ファリフの表情はどこか沈んでしまったように見えたが、それは一瞬だけ。
「フェンリル。現実は『ここ』なんだ。夢の中ではないよ。ボクがここにいるんだし」
穏やかに微笑むファリフはフェンリルの額に自分の額をくっつける。
ファリフの温もりにフェンリルは目を細めて頷く。
優しい時間も束の間、ファリフは額を離してフェンリルを見つめる。
「夢を見るなんてチューダみたいだね」
それは言わないでほしかった。
●
魂の道に着いたファリフとハンター達をよそに、フェンリルは嫌そうな表情を滲ませていた。
フェンリル曰く、苦手な幻獣がいるからと言っていたのがファリフには密かに興味もっているし、フェンリルが苦手としているシャレーヌもフェンリルがファリフを大事にしているのはすぐに見極めており、興味を示している。
シャレーヌは歩きつつ、ファリフより、最近のフェンリルの話を聞いていた。
先日、フェンリルがうたた寝していた話で夢の内容まで喋っており、シャレーヌもハンターもしっかり耳を傾けていた。
「フェンリルに大事にされてるのね~」
シャレーヌはストレートにファリフに語りかけると、ファリフは眉を八の字にして首を傾げる。
「確かに大事にしてるとは思うけど……」
フェンリルの言葉の端々にからかいの言葉があり、真面目なファリフは嫌いじゃないけど、何か素直になれない気がしてしまう。
「ふふっ。まぁ、それぞれよね~。じゃ、頑張ってね」
これからの事を仄めかすように、茶化すようにシャレーヌが言うと、先ほどまで歩いていた場所とは違うと見える光景が広がっていた。
昼なのか夜なのかも分からないその『場所』は赤き大地の荒野なのかも分からない。
周囲には岩が点在しており、植物は見受けられない。
地面は不自然な亀裂や穴が開いており、戦う者であれば、戦闘の爪痕であることを察することが出来る。
「向こうで音が聞こえる」
同行していたハンターがその方向を見ていた。
「行こう!」
皆が駆け出すと、横たわっている人間や獣……イェジドが多数横たわっている。
その場にいる者達が指一本動かなかったところから察せられる状況にファリフ達はまっすぐ更に向こうを見た。
いる。
敵がいる。
獣型、トロル型、骸骨型……一見しても数がどれだけいるか分からない。
歪虚と交戦しているイェジドがトロルより殴られて地面に背を叩きつけられた。トロルの攻撃力とイエジドの体重で地面が抉れてしまっている。
「やめろ!」
同行していたハンターの一人が叫んだ。
トロルは足を上げ、まだ動いているイェジドの腹に落とした。
イェジドは追撃に身をくの字に折って、短い悲鳴を上げ、力尽きたように動かなくなる。
歪虚の群れはハンターを視認したようであり、足をそちらへと向けはじめた。
「よくも!」
血気を逆上せたファリフが駆け出し、一気に戦いの火蓋が切り落とされた。
リプレイ本文
ぞわりと、八島 陽(ka1442)の背筋に嫌な滑り落ちていく。
自分の奥深くに突き刺さり、溜まる『それ』はきっかけさえあればすぐにも陽の脳裏へフラッシュバックさせてしまう。
誰が叫んだか分らない静止の声は自分なのか、仲間の声なのか分らなくない。
陽自身が止まったのは平常心と、視界を覆った褐色と灰白狼の毛並み。
「アカン、頭に血ィのぼってる!」
陽の後ろで叫んだのはアカーシャ・ヘルメース(ka0473)。
自分の事ではない。
彼女が上げる悲鳴の先は……!
「ファリフ!」
瞬時、陽の視界を奪った二色……ファリフが敵へと踊りかかろうとした所をバルバロス(ka2119)の大きな手がファリフのトレードマークといえる大頭巾ごと掴んだ。
素早いファリフの動きを相殺する為とはいえ、バルバロスがとった行動にチョココ(ka2449)は「あ!」と声を上げ、叢雲 伊織(ka5091)が反射的に目を瞑ってしまうのは仕方ない。
ファリフはその地に叩きつけられてしまう形になった。
「いったぁ……」
鼻でも打ったのだろうか、手で鼻を覆っていた。
「ファリフはん! バーサーカーになったらアカンで!」
更にアカーシャが勢いよく走ってきて両手でファリフの頬をしっかり挟む。
「……いい音がしたわね」
冷静に実況する高瀬 未悠(ka3199)。
アカーシャの言葉に陽は自身が以前に提示したリアルブルーの伝承、バーサーカー……かの伝説は自我はないという。
しかし、シバは奥義を発動させる器が完成されたが、死合いという状況を弁えていた。
ぱちりと、暘の中で何かがはじける。
「ええか、ファリフはん! 多分、『これは……うちらに課せられた試練』なんや」
陽もまた、同じ考えを出していた。
このままファリフが特攻していたら、我を忘れ、奥義を獲得するどころか、死んでしまうのではないか。
「そっか、あのまま特攻していったら、リアルブルーの伝説のバーサーカーになっちゃうのか……」
ぽつりと、ファリフが呟いた。
「せや」
バーサーカーは自我を無くし、肉親ですら殺した。一族を、赤き大地を守りたい気持ちを強くもつファリフにとってはそれは最悪のケースだろう。
「あの状況は止めなきゃだめだと思う」
「せやな」
ファリフの瞳がしっかりとアカーシャを見つめる。
本当は心配なアカーシャであるが、この事態はどのような代物でも止めたいと思う。
アカーシャが頭に血が上ったファリフを説得している間、遠距離攻撃を主とするチョココと伊織が敵を警戒していた。
ファリフが怒りで我を忘れた時、未悠は足が……否、身体が竦んでしまったかのような感覚になり頭が真っ白になってしまう。
未悠もまた、眼前の光景で広がる命が尽きるこの場を間近にして、自身の中で渦巻く過去に捕らわれかけていた。
ひとたび、びくり……と、手が震えてしまうと、肩、全身へと震えが回るような感覚。
未悠を支配するのは『あの日』感じた『恐怖』に他ならない。
彼女の意思が全身に動けと命令する。
守るには動くしかないから。
震える手がしっかり握り締めるのは聖槍「ロンゴミニアド」。
音がするほど歯を食いしばり眼前の敵を見据える。
先行する敵は鹿型、狙いをハンター達に絞ったようだ。
チョココと伊織は顔を見合わせて攻撃のタイミングをチョココにあわせた。
虚空より練成される炎が渦を巻き、火球へと姿を現していく。
狙いの歪虚を見定めたチョココは一気にファイアーボール敵へと発動させた。
渦巻く炎は鹿型歪虚へと飛んでいき、逃げようとする歪虚を逃すことなく飲み込んだ。炎に毛並みを燃やされても尚、歪虚はハンター達へと突き進む。
伊織はその想定もしており、取り乱すことはなかった。
素早く、クイックリロードを展開させ、ロングボウ「ソウルクラッシュ」を構えて標準を定めた。
初手の敵は突出して先を走っているのだが、すぐ後ろに同じ鹿型歪虚が走り、狼型歪虚が扇状なるように広がって鹿を追いかけている。
ならば、打つ手を決めた伊織は矢を放つ。
放たれた矢は弾幕のように素早く連続で敵へと向かっていく。
先鋒の鹿型歪虚の体勢を崩すことに成功し、後ろを走っている歪虚が先鋒の鹿型歪虚に躓くように体勢を崩していった。
それも束の間であり、歪虚達は体勢を戻そうとし、陽が歪虚達目掛けてデルタレイを発動させる。
「少しは削れましたの」
削れたのは数匹程度。チョココの追加のファイアーボールで動きを完全に止めたかはまだ分らない。
尚も歪虚達はこちらへと向かってきている。
伊織がレイターコールドショットを発動させた矢を放った。
広がって向かってくる狼の内、中央にいた狼に対して狙いうち、動きを阻害していく。
更にチョココのファイアーボールが直撃すると、蒸発を起こして、狼の所だけの周囲が霧のように覆われてしまう。
視界を奪われた狼は陽の攻撃に気付かずに倒れて行き、伊織の制圧射撃に撃たれて動けなくなっていく。
「出るぞ」
仲間を守るように前に出たのはバルバロスだ。
更にファリフが前に出た。
「ファリフさん!」
伊織が明るく彼女の名を呼ぶ。
「皆、ごめん! もう大丈夫!」
ファリフは振り向いてハンターの皆に謝る。
「敵が来ます!」
伊織が叫ぶと、射撃手の攻撃から逃れた狼型歪虚が前衛達が接近戦へと入って行った。
二メートルを越える巨体のバルバロスが握り締めるのは三メートルあると言われるギガースアックス。
「さぁ……て、本気を出すかのぅ」
ゆったりとした動きから大斧をしっかり両手で構え、自身の体内を巡るマテリアルの循環を整える。
バルバロスの体躯に構いもせず、飛び掛ろうとする狼に対し、大斧を思いっきり振り下ろした。
大きな巨体から繰り出される攻撃と体内にマテリアルを満たした攻撃を真っ向から飛び掛った狼は斧の刃を受けて、逃れる事も叶わずにそのまま倒れこんで痙攣している。
一度、動いて武器を振るえば、余計な事を考えずに済んでいるのは未悠。
身を低くして槍を横に薙ぎ、狼型歪虚の脚の先を一本飛ばし、機動力を潰していく。
未悠が槍を持つ手を変え、槍を思い切り狼の口へと入れて、思いっきり穂先を下に向けて下顎から喉笛、胸まで切り裂いていった。
身体を大きく裂けられた狼は立つ力をなくし、その場に倒れる。
大きく息を吐いた未悠は次の敵を見据えた。
ファリフを守らんとするアカーシャは彼女を守ろうにも思いの他、歪虚の多さに閉口してしまう。
「こんだけ多かったら、戦ってる間に気も狂いそうになるっちゅうもんや」
動いている口の数だけアカーシャは動いており、射撃手からの攻撃を避けた鹿型歪虚からの攻撃を凌いでいる。
突き出される鹿の角の向きを交わしつつも、手でその威力を半減させて鹿の足の関節を蹴り砕いて動きを止めた。
「最後まで正気を保って、皆で魂の欠片を見つけよう!」
ファリフの言葉に全員が同意する。
向こうよりトロルと骸骨型が迫ってきていた。チョココと伊織が離れない程度に残りの獣型を引き付けるように射撃を始めた。
骸骨型をファリフとアカーシャが引き受ける。
獣型のひきつけに成功した伊織とチョココは再び顔を見合わせる。
「早く片付けて、行きましょう」
「そうですね」
伊織の返事より早くチョココは氷の矢を錬成して狼型へと狙いをつける。
前線では、バルバロスと未悠がトロル達と激突していた。
「全力全壊で迎えうとう」
トロルの知能でバルバロスの言葉が理解できるかは分からないが、トロルは武器を思いっきり振り上げ、バルバロスも武器を構えた。
先を向かっていたトロルがバルバロスへ狙いを定めた。
「こい。ワシが相手じゃ」
バルバロスの挑発にトロルは武器を振り降ろした。
トロルは先が丸く太った棍棒をバルバロスの肩へと振り降ろした。鈍い痛みにバルバロスは痛みで深い皺の顔をしかめてしまう。
「ぬぅん!」
唸り声を上げたバルバロスはトロルの首めがけて大斧を叩きつける。大斧の刃が埋まると、その先からトロルの能力の一つ、再生能力が発動していった。
「再生の暇は与えないわ」
そう言ったのは、バルバロスに気を取られていたトロルの背後を取った未悠。
ワイルドラッシュを発動させ、再生されゆく傷口へ振り降ろした。
槍の穂先を引くことなく、そのまま穂先を横に薙いで、トロルの背中の筋肉を分断するように切り裂く。
「引け!」
バルバロスの言葉に未悠は槍を引き、横へ飛びずさる。大斧の刃先を水平にして構えたバルバロスは勢いを殺すことなく、トロルへと叩きつけた。
内臓や骨すら分断されたトロルはそのまま倒れてしまう。
レイターコールドショットを発動させ、狼型の動きを鈍らせていた伊織は少しずつ移動しており、他のハンターの皆と離れないように気をつけていた。
チョココも少しずつ、離れていくように歪虚を移動させている。
獣型は複数残っており、まだ戦う意思は残っていた。
前衛を見ると、トロル達が到達しており、数とトロルの能力を鑑みても早く支援に駆けつけるのがベストだろう。
「もう、いいですよね」
伊織が言えばチョココは再びスタッフを構える。
二人は水属性のスキルを発動させて、仲間とはぐれないように敵を誘いこんでいた。
仲間達を自身の術で巻き込まない為のもの。
「いきますのー」
可愛らしい声を発する少女から放たれた火球は、伊織とチョココが放っていた水属性の矢を受けて動きを遅くなり、離れることなく固まっていた獣型へと投げ込まれ、轟炎となって歪虚を燃やす。
骸骨型の歪虚と対峙していたアカーシャは大きく息を吐き、六角棍を構えていた。
敵もまた、連携をしており、ハンター達を攻撃している。
弓矢を持った骸骨型が仲間に隠れるように動いていることに気付いた陽は注意深く標的と見定めた骸骨型の動きを観察していく。
ファリフが大斧を骸骨型の一体へと振り下ろしたとき、弓を持った骸骨型が矢を構えていた。
「陽は……」
アカーシャが弓矢を持った骸骨型に警告するように陽の名を叫びかける。
言葉が切れたのは、彼女の死角から忍び寄る気配に気付き、六角棍を構えるも、敵が振り下ろした剣が早くアカーシャの肩から斬りつけられる。
陽は返事の代わりにデルタレイを発動させて、矢を放とうとする腕ごと破壊した。
しかし、敵はアカーシャを尚も攻撃しようとし、ファリフは地を駆けるものの力を借り、敵の剣を弾き飛ばし、陽が前へと飛び出して刀で骸骨型を叩き斬る。
ファリフの速さに陽が一瞬、先ほどの状態を警戒したが、ファリフはアカーシャを守るように立ち、周囲を見失うことはなく、戦況を確認していた。
更にハンター達の所まで到着したトロルは、他のトロルと対抗していた未悠の背後を狙い、鉈を振り下ろす。
「……あ……っ!」
唐突かつ、背に受けるあまりの激痛に未悠は叫ぶ声も上げられず、槍の柄を地に着け、自身の身体を巻き詰めるように握り締めた。
マテリアルを全身にめぐらせ、自己治癒をしてもその衝撃は和らがない。
もう一撃が振り下ろされようとしたとき、竜をかたどったオーラがトロルへと向かっていく。
未悠が振り向いた瞬間、ファリフとアカーシャが駆けつけた。
ファリフが狼の如くに疾走し、未悠とすれ違い鉈を持ったトロルの鉈を受けても負けじと大斧を振り下ろした。
「未悠さん」
「私は……まだ、戦えるわ……」
ゆっくりと、未悠が体勢を整える。
身体はダメージを負い、疲労しているが、彼女の意思は揺らがない。
「鼓動が止まるより先に諦めるものか……」
血を吐くような声は凛としている。
「絶望してなるものか……!」
真紅の瞳は精気に満ち煌き、傷ついた彼女を輝かせる。
ファリフは同時に共にシバの想いを受け継ごうとするハンターたちの事を思い出していた。
シバの奥義を受け継ぎたいと、心の底から覚悟を決めているのだ。
「ボクもだよ。共に戦い、生き残ろう!」
ファリフの言葉に未悠は再び戦闘態勢を取り、バルバロスの支援へと向かった。
伊織とチョココが獣型を討伐し終え、バルバロスの後衛につく。
バルバロスが攻撃した後、水属性の攻撃をして、付着する冷気で再生能力を遅らせる。
トロル複数体を後衛達を守るように立ちはだかっていたバルバロスは打撲や創傷が見られ、超再生を発動させても隆々とした筋肉から流血している。
「バルバロスさん!」
「頭に昇った血は下がったか」
大怪我を負っている状態なのに軽口を叩くバルバロスにファリフは「もうしないよ!」と叫んで、トロルが再生しようとしている傷口を斧で更に叩き付けた。
「ファリフよ……霊とは、感情や記憶に宿る魂の力を理解しやすい形にしたものだ」
バルバロスはトロルの首を刎ねた。
「我等、霊闘士はそんな霊と共に戦う者だ」
首を刎ねられたトロルはそのまま、棍棒を振り下ろし、バルバロスの斧に食い込む。違和感に気付いたトロルは引っこ抜こうとしても上手く引けずにいる。
「怒りや憎しみの感情に振り回されるな」
バルバロスは力を使って、トロルより棍棒を抜き取とった。
「その怒り、憎悪すらも共に戦う力とするのだぁあああああああ!!」
地が割れんばかりの気合を張り上げたバルバロスはそのままトロルの首があった場所に棍棒ごと叩き付け、その身体を引きちぎってしまう。
最後の一体となった頃には、皆の体力は消耗していたが、諦める事はなかった。
マテリアルの消耗を感じとった陽はデルタレイを発動させ、トロルの頭を粉砕する。
跳躍したファリフが上段より斧を振り下ろし、腹部まで肉を裂く。
「……これが最後の……」
しくじるわけにはいかないと感じた未悠がワイルドラッシュを発動させ、腹部に槍を突き刺し、そのまま更に奥深く突き刺して真っ二つにした。
トロルの身体が分れ、倒れると、ハンター達の荒い息遣いの音しか残らない。
「イェジドさん達を弔ってあげたいですの……」
「うん」
チョココの言葉に皆が同意し、その方向へ向かおうとすると、今まで戦っていた光景が消えて再び魂の道と認識していた光景となった。
しかし、魂の欠片は見当たらない。
どういったことだろうと思ったが、遭った事を伝える為、道を戻る。
フェンリルとシャレーヌに伝えると、シャレーヌは爆笑していた。
戦闘でぼさぼさになったバルバロスの白髪に女性の拳大くらいの輝くもの……魂の欠片が引っ掛かっていたのだ。
どうにしろ分らないので、交戦の最中に引っ掛かったのではないかという事にした。
呆気にとられるファリフに伊織が「よかったですね」と声をかけると、彼女は笑顔で頷く。
「皆、ありがとう!」
笑顔となったファリフを見て、アカーシャはどこか心配そうな顔をしていた。
自分の奥深くに突き刺さり、溜まる『それ』はきっかけさえあればすぐにも陽の脳裏へフラッシュバックさせてしまう。
誰が叫んだか分らない静止の声は自分なのか、仲間の声なのか分らなくない。
陽自身が止まったのは平常心と、視界を覆った褐色と灰白狼の毛並み。
「アカン、頭に血ィのぼってる!」
陽の後ろで叫んだのはアカーシャ・ヘルメース(ka0473)。
自分の事ではない。
彼女が上げる悲鳴の先は……!
「ファリフ!」
瞬時、陽の視界を奪った二色……ファリフが敵へと踊りかかろうとした所をバルバロス(ka2119)の大きな手がファリフのトレードマークといえる大頭巾ごと掴んだ。
素早いファリフの動きを相殺する為とはいえ、バルバロスがとった行動にチョココ(ka2449)は「あ!」と声を上げ、叢雲 伊織(ka5091)が反射的に目を瞑ってしまうのは仕方ない。
ファリフはその地に叩きつけられてしまう形になった。
「いったぁ……」
鼻でも打ったのだろうか、手で鼻を覆っていた。
「ファリフはん! バーサーカーになったらアカンで!」
更にアカーシャが勢いよく走ってきて両手でファリフの頬をしっかり挟む。
「……いい音がしたわね」
冷静に実況する高瀬 未悠(ka3199)。
アカーシャの言葉に陽は自身が以前に提示したリアルブルーの伝承、バーサーカー……かの伝説は自我はないという。
しかし、シバは奥義を発動させる器が完成されたが、死合いという状況を弁えていた。
ぱちりと、暘の中で何かがはじける。
「ええか、ファリフはん! 多分、『これは……うちらに課せられた試練』なんや」
陽もまた、同じ考えを出していた。
このままファリフが特攻していたら、我を忘れ、奥義を獲得するどころか、死んでしまうのではないか。
「そっか、あのまま特攻していったら、リアルブルーの伝説のバーサーカーになっちゃうのか……」
ぽつりと、ファリフが呟いた。
「せや」
バーサーカーは自我を無くし、肉親ですら殺した。一族を、赤き大地を守りたい気持ちを強くもつファリフにとってはそれは最悪のケースだろう。
「あの状況は止めなきゃだめだと思う」
「せやな」
ファリフの瞳がしっかりとアカーシャを見つめる。
本当は心配なアカーシャであるが、この事態はどのような代物でも止めたいと思う。
アカーシャが頭に血が上ったファリフを説得している間、遠距離攻撃を主とするチョココと伊織が敵を警戒していた。
ファリフが怒りで我を忘れた時、未悠は足が……否、身体が竦んでしまったかのような感覚になり頭が真っ白になってしまう。
未悠もまた、眼前の光景で広がる命が尽きるこの場を間近にして、自身の中で渦巻く過去に捕らわれかけていた。
ひとたび、びくり……と、手が震えてしまうと、肩、全身へと震えが回るような感覚。
未悠を支配するのは『あの日』感じた『恐怖』に他ならない。
彼女の意思が全身に動けと命令する。
守るには動くしかないから。
震える手がしっかり握り締めるのは聖槍「ロンゴミニアド」。
音がするほど歯を食いしばり眼前の敵を見据える。
先行する敵は鹿型、狙いをハンター達に絞ったようだ。
チョココと伊織は顔を見合わせて攻撃のタイミングをチョココにあわせた。
虚空より練成される炎が渦を巻き、火球へと姿を現していく。
狙いの歪虚を見定めたチョココは一気にファイアーボール敵へと発動させた。
渦巻く炎は鹿型歪虚へと飛んでいき、逃げようとする歪虚を逃すことなく飲み込んだ。炎に毛並みを燃やされても尚、歪虚はハンター達へと突き進む。
伊織はその想定もしており、取り乱すことはなかった。
素早く、クイックリロードを展開させ、ロングボウ「ソウルクラッシュ」を構えて標準を定めた。
初手の敵は突出して先を走っているのだが、すぐ後ろに同じ鹿型歪虚が走り、狼型歪虚が扇状なるように広がって鹿を追いかけている。
ならば、打つ手を決めた伊織は矢を放つ。
放たれた矢は弾幕のように素早く連続で敵へと向かっていく。
先鋒の鹿型歪虚の体勢を崩すことに成功し、後ろを走っている歪虚が先鋒の鹿型歪虚に躓くように体勢を崩していった。
それも束の間であり、歪虚達は体勢を戻そうとし、陽が歪虚達目掛けてデルタレイを発動させる。
「少しは削れましたの」
削れたのは数匹程度。チョココの追加のファイアーボールで動きを完全に止めたかはまだ分らない。
尚も歪虚達はこちらへと向かってきている。
伊織がレイターコールドショットを発動させた矢を放った。
広がって向かってくる狼の内、中央にいた狼に対して狙いうち、動きを阻害していく。
更にチョココのファイアーボールが直撃すると、蒸発を起こして、狼の所だけの周囲が霧のように覆われてしまう。
視界を奪われた狼は陽の攻撃に気付かずに倒れて行き、伊織の制圧射撃に撃たれて動けなくなっていく。
「出るぞ」
仲間を守るように前に出たのはバルバロスだ。
更にファリフが前に出た。
「ファリフさん!」
伊織が明るく彼女の名を呼ぶ。
「皆、ごめん! もう大丈夫!」
ファリフは振り向いてハンターの皆に謝る。
「敵が来ます!」
伊織が叫ぶと、射撃手の攻撃から逃れた狼型歪虚が前衛達が接近戦へと入って行った。
二メートルを越える巨体のバルバロスが握り締めるのは三メートルあると言われるギガースアックス。
「さぁ……て、本気を出すかのぅ」
ゆったりとした動きから大斧をしっかり両手で構え、自身の体内を巡るマテリアルの循環を整える。
バルバロスの体躯に構いもせず、飛び掛ろうとする狼に対し、大斧を思いっきり振り下ろした。
大きな巨体から繰り出される攻撃と体内にマテリアルを満たした攻撃を真っ向から飛び掛った狼は斧の刃を受けて、逃れる事も叶わずにそのまま倒れこんで痙攣している。
一度、動いて武器を振るえば、余計な事を考えずに済んでいるのは未悠。
身を低くして槍を横に薙ぎ、狼型歪虚の脚の先を一本飛ばし、機動力を潰していく。
未悠が槍を持つ手を変え、槍を思い切り狼の口へと入れて、思いっきり穂先を下に向けて下顎から喉笛、胸まで切り裂いていった。
身体を大きく裂けられた狼は立つ力をなくし、その場に倒れる。
大きく息を吐いた未悠は次の敵を見据えた。
ファリフを守らんとするアカーシャは彼女を守ろうにも思いの他、歪虚の多さに閉口してしまう。
「こんだけ多かったら、戦ってる間に気も狂いそうになるっちゅうもんや」
動いている口の数だけアカーシャは動いており、射撃手からの攻撃を避けた鹿型歪虚からの攻撃を凌いでいる。
突き出される鹿の角の向きを交わしつつも、手でその威力を半減させて鹿の足の関節を蹴り砕いて動きを止めた。
「最後まで正気を保って、皆で魂の欠片を見つけよう!」
ファリフの言葉に全員が同意する。
向こうよりトロルと骸骨型が迫ってきていた。チョココと伊織が離れない程度に残りの獣型を引き付けるように射撃を始めた。
骸骨型をファリフとアカーシャが引き受ける。
獣型のひきつけに成功した伊織とチョココは再び顔を見合わせる。
「早く片付けて、行きましょう」
「そうですね」
伊織の返事より早くチョココは氷の矢を錬成して狼型へと狙いをつける。
前線では、バルバロスと未悠がトロル達と激突していた。
「全力全壊で迎えうとう」
トロルの知能でバルバロスの言葉が理解できるかは分からないが、トロルは武器を思いっきり振り上げ、バルバロスも武器を構えた。
先を向かっていたトロルがバルバロスへ狙いを定めた。
「こい。ワシが相手じゃ」
バルバロスの挑発にトロルは武器を振り降ろした。
トロルは先が丸く太った棍棒をバルバロスの肩へと振り降ろした。鈍い痛みにバルバロスは痛みで深い皺の顔をしかめてしまう。
「ぬぅん!」
唸り声を上げたバルバロスはトロルの首めがけて大斧を叩きつける。大斧の刃が埋まると、その先からトロルの能力の一つ、再生能力が発動していった。
「再生の暇は与えないわ」
そう言ったのは、バルバロスに気を取られていたトロルの背後を取った未悠。
ワイルドラッシュを発動させ、再生されゆく傷口へ振り降ろした。
槍の穂先を引くことなく、そのまま穂先を横に薙いで、トロルの背中の筋肉を分断するように切り裂く。
「引け!」
バルバロスの言葉に未悠は槍を引き、横へ飛びずさる。大斧の刃先を水平にして構えたバルバロスは勢いを殺すことなく、トロルへと叩きつけた。
内臓や骨すら分断されたトロルはそのまま倒れてしまう。
レイターコールドショットを発動させ、狼型の動きを鈍らせていた伊織は少しずつ移動しており、他のハンターの皆と離れないように気をつけていた。
チョココも少しずつ、離れていくように歪虚を移動させている。
獣型は複数残っており、まだ戦う意思は残っていた。
前衛を見ると、トロル達が到達しており、数とトロルの能力を鑑みても早く支援に駆けつけるのがベストだろう。
「もう、いいですよね」
伊織が言えばチョココは再びスタッフを構える。
二人は水属性のスキルを発動させて、仲間とはぐれないように敵を誘いこんでいた。
仲間達を自身の術で巻き込まない為のもの。
「いきますのー」
可愛らしい声を発する少女から放たれた火球は、伊織とチョココが放っていた水属性の矢を受けて動きを遅くなり、離れることなく固まっていた獣型へと投げ込まれ、轟炎となって歪虚を燃やす。
骸骨型の歪虚と対峙していたアカーシャは大きく息を吐き、六角棍を構えていた。
敵もまた、連携をしており、ハンター達を攻撃している。
弓矢を持った骸骨型が仲間に隠れるように動いていることに気付いた陽は注意深く標的と見定めた骸骨型の動きを観察していく。
ファリフが大斧を骸骨型の一体へと振り下ろしたとき、弓を持った骸骨型が矢を構えていた。
「陽は……」
アカーシャが弓矢を持った骸骨型に警告するように陽の名を叫びかける。
言葉が切れたのは、彼女の死角から忍び寄る気配に気付き、六角棍を構えるも、敵が振り下ろした剣が早くアカーシャの肩から斬りつけられる。
陽は返事の代わりにデルタレイを発動させて、矢を放とうとする腕ごと破壊した。
しかし、敵はアカーシャを尚も攻撃しようとし、ファリフは地を駆けるものの力を借り、敵の剣を弾き飛ばし、陽が前へと飛び出して刀で骸骨型を叩き斬る。
ファリフの速さに陽が一瞬、先ほどの状態を警戒したが、ファリフはアカーシャを守るように立ち、周囲を見失うことはなく、戦況を確認していた。
更にハンター達の所まで到着したトロルは、他のトロルと対抗していた未悠の背後を狙い、鉈を振り下ろす。
「……あ……っ!」
唐突かつ、背に受けるあまりの激痛に未悠は叫ぶ声も上げられず、槍の柄を地に着け、自身の身体を巻き詰めるように握り締めた。
マテリアルを全身にめぐらせ、自己治癒をしてもその衝撃は和らがない。
もう一撃が振り下ろされようとしたとき、竜をかたどったオーラがトロルへと向かっていく。
未悠が振り向いた瞬間、ファリフとアカーシャが駆けつけた。
ファリフが狼の如くに疾走し、未悠とすれ違い鉈を持ったトロルの鉈を受けても負けじと大斧を振り下ろした。
「未悠さん」
「私は……まだ、戦えるわ……」
ゆっくりと、未悠が体勢を整える。
身体はダメージを負い、疲労しているが、彼女の意思は揺らがない。
「鼓動が止まるより先に諦めるものか……」
血を吐くような声は凛としている。
「絶望してなるものか……!」
真紅の瞳は精気に満ち煌き、傷ついた彼女を輝かせる。
ファリフは同時に共にシバの想いを受け継ごうとするハンターたちの事を思い出していた。
シバの奥義を受け継ぎたいと、心の底から覚悟を決めているのだ。
「ボクもだよ。共に戦い、生き残ろう!」
ファリフの言葉に未悠は再び戦闘態勢を取り、バルバロスの支援へと向かった。
伊織とチョココが獣型を討伐し終え、バルバロスの後衛につく。
バルバロスが攻撃した後、水属性の攻撃をして、付着する冷気で再生能力を遅らせる。
トロル複数体を後衛達を守るように立ちはだかっていたバルバロスは打撲や創傷が見られ、超再生を発動させても隆々とした筋肉から流血している。
「バルバロスさん!」
「頭に昇った血は下がったか」
大怪我を負っている状態なのに軽口を叩くバルバロスにファリフは「もうしないよ!」と叫んで、トロルが再生しようとしている傷口を斧で更に叩き付けた。
「ファリフよ……霊とは、感情や記憶に宿る魂の力を理解しやすい形にしたものだ」
バルバロスはトロルの首を刎ねた。
「我等、霊闘士はそんな霊と共に戦う者だ」
首を刎ねられたトロルはそのまま、棍棒を振り下ろし、バルバロスの斧に食い込む。違和感に気付いたトロルは引っこ抜こうとしても上手く引けずにいる。
「怒りや憎しみの感情に振り回されるな」
バルバロスは力を使って、トロルより棍棒を抜き取とった。
「その怒り、憎悪すらも共に戦う力とするのだぁあああああああ!!」
地が割れんばかりの気合を張り上げたバルバロスはそのままトロルの首があった場所に棍棒ごと叩き付け、その身体を引きちぎってしまう。
最後の一体となった頃には、皆の体力は消耗していたが、諦める事はなかった。
マテリアルの消耗を感じとった陽はデルタレイを発動させ、トロルの頭を粉砕する。
跳躍したファリフが上段より斧を振り下ろし、腹部まで肉を裂く。
「……これが最後の……」
しくじるわけにはいかないと感じた未悠がワイルドラッシュを発動させ、腹部に槍を突き刺し、そのまま更に奥深く突き刺して真っ二つにした。
トロルの身体が分れ、倒れると、ハンター達の荒い息遣いの音しか残らない。
「イェジドさん達を弔ってあげたいですの……」
「うん」
チョココの言葉に皆が同意し、その方向へ向かおうとすると、今まで戦っていた光景が消えて再び魂の道と認識していた光景となった。
しかし、魂の欠片は見当たらない。
どういったことだろうと思ったが、遭った事を伝える為、道を戻る。
フェンリルとシャレーヌに伝えると、シャレーヌは爆笑していた。
戦闘でぼさぼさになったバルバロスの白髪に女性の拳大くらいの輝くもの……魂の欠片が引っ掛かっていたのだ。
どうにしろ分らないので、交戦の最中に引っ掛かったのではないかという事にした。
呆気にとられるファリフに伊織が「よかったですね」と声をかけると、彼女は笑顔で頷く。
「皆、ありがとう!」
笑顔となったファリフを見て、アカーシャはどこか心配そうな顔をしていた。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
魂を受け継ぐために 八島 陽(ka1442) 人間(リアルブルー)|20才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2016/03/14 21:29:25 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/03/09 23:01:41 |