ゲスト
(ka0000)
甘い罠? 残念天才博士を捕まえろ!
マスター:星群彩佳

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 8日
- 締切
- 2016/03/19 19:00
- 完成日
- 2016/04/02 04:08
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
グラズヘイム王国の3月14日のホワイトデーは、最初のうちは普通に賑わっていた。
「我がウィクトーリア家でも、何だかフワフワした空気が流れているわね」
ルサリィ・ウィクトーリア(kz0133)は屋敷の中に流れる空気に、少々うんざりしている。
「何でしたら注意してきましょうか?」
そんな中でも冷静を保っているフェイト・アルテミス(kz0134)は、廊下へ続く扉に視線を向けた。
「いえ、流石に野暮なことはしたくないわ。それに使用人達は義理のお返しの対応で、忙しいだろうしね」
今現在、二人は書斎で仕事をしている。
しかし引っ切り無しに来客が訪れていることが、ドアベルの音で分かるのだ。
バレンタインデーにルサリィは、ウィクトーリア家の令嬢として貴族の知り合いや、一般市民の孤児達にチョコレートを使用人達に配らせた。
そのお返しが今朝から届けられているのだが、使用人達の間でもお返しのやり取りが起こっているのが見ていて分かる。
「フェイトはお返しをあげる相手はいないの?」
「ルサリィお嬢様とメイド達には、朝一で手作りマカロンをお渡ししたではありませんか」
「……そっち?」
フェイトはバレンタインデーにチョコレートをあげるよりも、貰う立場だったようだ。
ルサリィには有名パティシエが作ったチョコトリュフを貰い、メイド達からも様々なチョコを受け取ったらしい。
「バレンタインはチョコオンリーだけど、ホワイトデーっていろんなスイーツがあるのよね。マカロンもそうだけど、クッキー、マシュマロ、キャンディーとか。ちなみにお父様からはキャンディーブーケをいただいたわ」
「我々メイドにはクッキーを贈ってくださいました。ありがたいことです」
「まあウチのお父様は無愛想な方だけど、女性へのそういう気づかいは……」
「きゃあああっ!」
――そこへ空気を切り裂くような女性の悲鳴が、屋敷に響き渡った。
ルサリィとフェイトは顔を見合わせると、すぐに書斎から飛び出す。
「どうしたの……って、えっ!?」
「何があったのですか……って、はい?」
悲鳴の出所は、書斎から出てすぐだった。
廊下の真ん中に、ふくよかな女性が蹲っている。しかしその顔は、メイドで十五歳のエルサなのだが……。
「……疲れ目かしら? エルサが太っているように見えるんだけど」
「お嬢様、私もです……」
「はわわっ……! どっどうしよう?」
しかしエルサを見て驚いているのは、使用人で十八歳のカルも同じだった。
「カル、一体何があったの?」
「ルサリィお嬢様……! 実は先程エルサにバレンタインのお返しに、とあるスイーツショップで購入したマシュマロを渡したんです。彼女がソレを一つ食べた途端に、いきなり体型が変形しちゃったんですよ~!」
「エルサ、本当ですか?」
「フェイト先輩~、本当ですぅ」
エルサはどちらかと言えば小柄で痩せていたのだが、今はぽっちゃり体型になっている。
すると屋敷の至る所から、女性達の悲鳴が続く。
「ちょっ……ちょっとちょっと! どうなっているのよ?」
ルサリィは思わず頭を抱え、フェイトは顔をしかめる。
そして三十分後、大広間にはぽっちゃり体型になったメイド達数名と、その原因をプレゼントしてしまった青い顔をした使用人達が集まった。
ルサリィもゲッソリした表情でソファー椅子に座り、傍らに立つフェイトを見上げる。
「……で、調査の結果はどうなの?」
「どうも男性達は同じ店で商品を購入したそうです」
買ったお菓子の種類は違っても、食べた効果は同じ――。
「とにかく、そのお店に行ってみましょう。店主を問い詰めて、このコ達の体型を元に戻さなきゃ」
「ですね」
ルサリィとフェイトはカルの案内で、街まで出たのだが……。
「ああっ!? 閉店しているっ!」
「コレはまた……」
「ある意味、計画的ですね」
スイーツショップは閉店しており、中はがらん……としていた。
しかも街の至る所から女性の悲鳴が聞こえてくるということは、やはりこの店には何かがあったのだろう。
「……んっ? あっ、ルサリィお嬢様、フェイト先輩! あの男が店主ですよ!」
カルは、人込みの中にまぎれている一人の青年を指さす。
二十代後半ぐらいの真面目そうだが地味な青年は、メガネをかけて黒い布を全身にかぶっており、混乱する街の中を笑顔を浮かばせながら歩いていた。
しかしルサリィ達の方を見ると、何かを勘付いたように突然目を見開いて走り出す。
「追うわよ! 二人とも!」
「「はいっ!」」
青年は街を出ると、広い自然公園に入った。
「ちょっと待ちなさい! 変なスイーツを売って、女性を太らせたのはアンタね!」
ルサリィが声をかけると、青年はピタッと立ち止まる。
「ふっふっふ……! カップルなんて、作らせるものか!」
明らかに非モテ男子のセリフを言いながら振り返った青年の顔を見て、フェイトは首を傾げた。
「あなた……もしかして、ハデス博士ではありませんか?」
「えっ! 『ハデス博士』ってあの……」
「くくくっ……! わたしの顔はそんなに有名かね?」
フェイトとルサリィは何とも言えない表情を浮かべているものの、カルだけ彼が誰だか理解できていないようだ。
「あの……、何をなさっている方なんですか?」
「才能あふれる有能な方として、まずは有名ですね。魔術のみならず、機導術にも詳しく、教師になれるほどの実力の持ち主です――が」
「それと同時に引きこもりの研究オタクとしても有名でね。そのせいで女性の扱い方が下手なことでも有名よ」
「んがっ!?」
二人の女性の言葉にショックを受けたらしく、ハデスはその場に倒れ込む。
だがすぐにむくり……と起き上がったかと思うと、黒い布を自ら脱ぎ捨てた。
布の下から現れたハデスの全身を見て、三人はギョッとする。
「はーっはっは! 驚いたかね? コレはわたしが開発した特殊アーマーだ!」
ハデスの首から下は銀色の鎧に包まれており、時折機械音を響かせた。
咄嗟にフェイトとカルは、ルサリィを守るように前に出る。しかしルサリィは顔をひょっこり出して、ハデスを見た。
「そんな物を作って、どうする気?」
「無論、ハンターから逃げるのさ! この特殊アーマーは運動音痴のわたしでも、歴戦のハンター並みの運動能力を与えてくれるのだ! ――こんな風にな!」
シュパッと空気を切り裂く音が聞こえたかと思うと、あっと言う間にハデスはその場から姿を消す。
「……どうやらあの女性を太らせるお菓子は、ハデス博士が魔法薬で作った物でしょう。元に戻らせるには、彼を捕まえなくてはいけません」
「また面倒な事を……。別名・『残念天才博士』と呼ばれているだけはあるわね」
しかし残念な天才でも、捕まえられるのはハンターのみである。
「我がウィクトーリア家でも、何だかフワフワした空気が流れているわね」
ルサリィ・ウィクトーリア(kz0133)は屋敷の中に流れる空気に、少々うんざりしている。
「何でしたら注意してきましょうか?」
そんな中でも冷静を保っているフェイト・アルテミス(kz0134)は、廊下へ続く扉に視線を向けた。
「いえ、流石に野暮なことはしたくないわ。それに使用人達は義理のお返しの対応で、忙しいだろうしね」
今現在、二人は書斎で仕事をしている。
しかし引っ切り無しに来客が訪れていることが、ドアベルの音で分かるのだ。
バレンタインデーにルサリィは、ウィクトーリア家の令嬢として貴族の知り合いや、一般市民の孤児達にチョコレートを使用人達に配らせた。
そのお返しが今朝から届けられているのだが、使用人達の間でもお返しのやり取りが起こっているのが見ていて分かる。
「フェイトはお返しをあげる相手はいないの?」
「ルサリィお嬢様とメイド達には、朝一で手作りマカロンをお渡ししたではありませんか」
「……そっち?」
フェイトはバレンタインデーにチョコレートをあげるよりも、貰う立場だったようだ。
ルサリィには有名パティシエが作ったチョコトリュフを貰い、メイド達からも様々なチョコを受け取ったらしい。
「バレンタインはチョコオンリーだけど、ホワイトデーっていろんなスイーツがあるのよね。マカロンもそうだけど、クッキー、マシュマロ、キャンディーとか。ちなみにお父様からはキャンディーブーケをいただいたわ」
「我々メイドにはクッキーを贈ってくださいました。ありがたいことです」
「まあウチのお父様は無愛想な方だけど、女性へのそういう気づかいは……」
「きゃあああっ!」
――そこへ空気を切り裂くような女性の悲鳴が、屋敷に響き渡った。
ルサリィとフェイトは顔を見合わせると、すぐに書斎から飛び出す。
「どうしたの……って、えっ!?」
「何があったのですか……って、はい?」
悲鳴の出所は、書斎から出てすぐだった。
廊下の真ん中に、ふくよかな女性が蹲っている。しかしその顔は、メイドで十五歳のエルサなのだが……。
「……疲れ目かしら? エルサが太っているように見えるんだけど」
「お嬢様、私もです……」
「はわわっ……! どっどうしよう?」
しかしエルサを見て驚いているのは、使用人で十八歳のカルも同じだった。
「カル、一体何があったの?」
「ルサリィお嬢様……! 実は先程エルサにバレンタインのお返しに、とあるスイーツショップで購入したマシュマロを渡したんです。彼女がソレを一つ食べた途端に、いきなり体型が変形しちゃったんですよ~!」
「エルサ、本当ですか?」
「フェイト先輩~、本当ですぅ」
エルサはどちらかと言えば小柄で痩せていたのだが、今はぽっちゃり体型になっている。
すると屋敷の至る所から、女性達の悲鳴が続く。
「ちょっ……ちょっとちょっと! どうなっているのよ?」
ルサリィは思わず頭を抱え、フェイトは顔をしかめる。
そして三十分後、大広間にはぽっちゃり体型になったメイド達数名と、その原因をプレゼントしてしまった青い顔をした使用人達が集まった。
ルサリィもゲッソリした表情でソファー椅子に座り、傍らに立つフェイトを見上げる。
「……で、調査の結果はどうなの?」
「どうも男性達は同じ店で商品を購入したそうです」
買ったお菓子の種類は違っても、食べた効果は同じ――。
「とにかく、そのお店に行ってみましょう。店主を問い詰めて、このコ達の体型を元に戻さなきゃ」
「ですね」
ルサリィとフェイトはカルの案内で、街まで出たのだが……。
「ああっ!? 閉店しているっ!」
「コレはまた……」
「ある意味、計画的ですね」
スイーツショップは閉店しており、中はがらん……としていた。
しかも街の至る所から女性の悲鳴が聞こえてくるということは、やはりこの店には何かがあったのだろう。
「……んっ? あっ、ルサリィお嬢様、フェイト先輩! あの男が店主ですよ!」
カルは、人込みの中にまぎれている一人の青年を指さす。
二十代後半ぐらいの真面目そうだが地味な青年は、メガネをかけて黒い布を全身にかぶっており、混乱する街の中を笑顔を浮かばせながら歩いていた。
しかしルサリィ達の方を見ると、何かを勘付いたように突然目を見開いて走り出す。
「追うわよ! 二人とも!」
「「はいっ!」」
青年は街を出ると、広い自然公園に入った。
「ちょっと待ちなさい! 変なスイーツを売って、女性を太らせたのはアンタね!」
ルサリィが声をかけると、青年はピタッと立ち止まる。
「ふっふっふ……! カップルなんて、作らせるものか!」
明らかに非モテ男子のセリフを言いながら振り返った青年の顔を見て、フェイトは首を傾げた。
「あなた……もしかして、ハデス博士ではありませんか?」
「えっ! 『ハデス博士』ってあの……」
「くくくっ……! わたしの顔はそんなに有名かね?」
フェイトとルサリィは何とも言えない表情を浮かべているものの、カルだけ彼が誰だか理解できていないようだ。
「あの……、何をなさっている方なんですか?」
「才能あふれる有能な方として、まずは有名ですね。魔術のみならず、機導術にも詳しく、教師になれるほどの実力の持ち主です――が」
「それと同時に引きこもりの研究オタクとしても有名でね。そのせいで女性の扱い方が下手なことでも有名よ」
「んがっ!?」
二人の女性の言葉にショックを受けたらしく、ハデスはその場に倒れ込む。
だがすぐにむくり……と起き上がったかと思うと、黒い布を自ら脱ぎ捨てた。
布の下から現れたハデスの全身を見て、三人はギョッとする。
「はーっはっは! 驚いたかね? コレはわたしが開発した特殊アーマーだ!」
ハデスの首から下は銀色の鎧に包まれており、時折機械音を響かせた。
咄嗟にフェイトとカルは、ルサリィを守るように前に出る。しかしルサリィは顔をひょっこり出して、ハデスを見た。
「そんな物を作って、どうする気?」
「無論、ハンターから逃げるのさ! この特殊アーマーは運動音痴のわたしでも、歴戦のハンター並みの運動能力を与えてくれるのだ! ――こんな風にな!」
シュパッと空気を切り裂く音が聞こえたかと思うと、あっと言う間にハデスはその場から姿を消す。
「……どうやらあの女性を太らせるお菓子は、ハデス博士が魔法薬で作った物でしょう。元に戻らせるには、彼を捕まえなくてはいけません」
「また面倒な事を……。別名・『残念天才博士』と呼ばれているだけはあるわね」
しかし残念な天才でも、捕まえられるのはハンターのみである。
リプレイ本文
○ハデス博士、捕獲開始!
自然公園に逃げ込んだハデスを追い掛ける為に、ハンター達も足を踏み入れる。
ペットを連れて来たメリエル=ファーリッツ(ka1233)は、ハデスの研究所に残っていた例のお菓子と白いハンカチを柴犬のミューリィに嗅がせた。
「さあミューリィ、ハデス博士を見つけてくださいねぇ」
ミューリィは「了解!」と言うようにあくまでも小声で力強く吠えた後、自然公園の奥へ走り出す。
ミューリィを先頭に、ハンター達も駆け出した。
今回唯一男性ハンターである龍崎・カズマ(ka0178)はアクティブスキルの隠の徒を使い、自分の気配を消しながら走る。
「ハデス博士め、幸せそうなカップルの不幸を願うのは自由だが、恨みを実現しちゃあいけねぇよな」
「女性を太らせるお菓子を作り出すなんて、絶対に許されない大罪よね! ただでさえお菓子は食べたら少なからず太るんだから、余計なことはしなくても良いのにっ……!」
ソニア(ka0350)は私怨を込めて、ハデスがいるであろう前を睨み付けた。
「そうですね。今回の事件、女性にとっては犯罪行為に等しい気がします。ハデス博士は裁判にかけられるのではないんでしょうか?」
エルバッハ・リオン(ka2434)は難しい表情で唸る。
「女性の扱いが下手だから恋人ができないのに、こんなことをするなんて努力の方向が間違っているわよ。モテる研究でもすれば良かったのにね」
ケイルカ(ka4121)は呆れた顔をしながら、肩を竦めた。
しかし突然ミューリィが走るのを止めたのを見て、五人のハンターは慌てて口を閉じて木の影に身を隠す。
数メートル先にいるハデスは地面に座り込み、大きなバズーカの手入れをしているようで、こちらには気付いていない。
まずは説得する為に、カズマとエルバッハが進み出た。
「誰だっ!」
物音で気付いたハデスが振り返ると、カズマが最初に話しかける。
「ハンターだ。依頼であんたを捕まえに来た。なあ、あんたは天才博士として有名なんだろう? それなのに女達を悲しませるようなことをしやがって……。被害に合った女達がどれだけ苦しんでいるのか、分かんねーのかよ!」
「まあまあ、カズマさん落ち着いてください。ハデス博士、おとなしく捕まってくだされば、減刑されることだってあります。私達と共に来てくれませんか?」
「……お前達、何か勘違いしていないか?」
ハデスが冷静に問い掛けてきたので、二人は意味が分からず首を傾げた。
「コレを読んでみろ。店の壁に貼っていたチラシだ」
そう言ってハデスは一枚のチラシを、二人へ向けて投げる。
地面に落ちたチラシを拾い上げて、二人は書かれていることを読んでみた。
「『ホワイトデー向けのお菓子を発売しております。美味しいマカロン・クッキー・マシュマロ・キャンディーはどうですか?』って、普通のチラシじゃねーか」
「そこではない。一番下だ」
「えぇっと……、『なお、お菓子は食べると太ってしまいますので、ご注意を』って……、小さな文字の注意書きがあります!」
チラシの一番下の行を読み上げたエルバッハは、複雑な表情を浮かべる。
「はーっはっは! 分かったかね? わたしが作ったお菓子を食べれば太るということは、先に知らせていたのだよ! チラシをよく見なかった男の方が悪いのではないか!」
「けっけど他の文章の文字と違って、注意書きはメチャクチャ小さい文字で書いてあるから読みにくいだろうっ!」
「それがチラシというものだよ。読みにくくても見づらくても、書いてあることには間違いはない」
「……コレじゃあ裁判は難しいですね」
チラシは宣伝文章の文字は大きく書かれているものの、注意書きはよく目を凝らさないと見えにくい。だがハデスの言う通り、しっかりと読んでいれば今回の事件は回避できた可能性は否定できないのだ。
「くそっ! 変なところで頭を働かせやがって!」
カズマは悔しそうにチラシをグシャッと握り潰して、エルバッハは呆れたようにため息を吐く。
「まっ、簡単に捕まえられるとは思っていませんでしたけどね」
呟きながらエルバッハはドレス・カプリチョーザの胸元を緩めて、 ビキニアーマーに覆われた上半身を露わにした。
「でもハンターオフィスに依頼がきている以上、私達はあなたを連れて行かなければなりません。私と一緒じゃあ……イヤですか?」
エルバッハは胸元を強調させるように屈み込むも、ハデスは首を横に振る。
「生憎と少女趣味はない。せめてあと五年だな」
「アラまあ……。意外なところで常識人でしたか」
言葉とは裏腹にさほど傷付いた様子がないエルバッハは、服装をさっさと整えた。
「それじゃあ私はどうかしら? 私は知的な男の人が好きなの!」
ケイルカは木の影から飛び出して、走りながら叫ぶ。
「可愛い寝顔を見せてちょうだい! 私の気持ちを受け取って! えいっ、スリープクラウド!」
「甘いわっ!」
ワンドのゴールデン・バウ から放たれたアクティブスキルを、ハデスは特殊アーマーの回避力を上げて避けた。
「ハンターどもめ! やはり力尽くに出るか! ならばコレでも食らえ!」
ハデスはお菓子入りのバズーカを、ケイルカへ向けて撃つ。
「きゃあんっ! ……もぐもぐ、美味しい♪ って、体がどんどん膨らんでいくぅ!」
バズーカから放たれたお菓子を思わず食べてしまったケイルカの体が、ぽっちゃり体型に変わってしまった。
「イヤあぁ! こんなの私じゃないわ!」
「ケイルカ、落ち着いて持たされた解毒剤を食べろっ!」
「カズマちゃんっ……! そうね、解毒剤があったのよね」
ハデスの研究所から見つかったアメのような解毒剤を口に入れたケイルカは、思いっきり顔をしかめる。
「ううっ……! すっごくスースーするぅ。……あっ、でも体が縮んできたわ」
濃いミント味の解毒剤を舐めていくうちに、ケイルカの体型は元に戻っていく。
「チィッ! わたしの研究所に無断で入った挙句、解毒剤の試作品を持ち出すとは……忌々しい!」
ハデスの視線がケイルカへ向いている間に、カズマはワイヤーウィップのブラッドストリングを握り締めて、アクティブスキルのエンタングルを発動させる。
「逃がさねーぜ!」
「おわっと! 小癪な罠を!」
腰に鞭が巻き付きそうになるも、ハデスは間一髪で避けた。
「あの特殊アーマー、恐ろしいほど有能ですが、存在されると困りますね」
エルバッハはワンドのアブルリーを両手で握り締めて、アクティブスキルのアイスボルトを二回、ハデスのアーマーに包まれた両足へ向けて放つ。
「無駄だっ!」
しかしハデスはバズーカを足元へ向けて、お菓子に二発のアイスボルトをわざと当てた。
「逃げるのを防ごうと思ったんですけど、まさかお菓子を身代わりにするとは……。頭のネジが緩んでても、覚醒者なだけはありますね」
「やかましいわっ!」
「おっと、危ないです」
ハデスは続けてエルバッハへバズーカを撃つも、アクティブスキルのウインドガストがお菓子の動きを鈍らせた上に、シールドのリパルションで防がれる。
その間に、木の影に隠れ続けているソニアはアクティブスキルの攻性強化を自分自身へかけて、攻撃力を上げた。そしてアルケミストタクトを手に持つ。
「まったく……。ただでさえわたしは戦っている最中に太ってしまう体質なのに、太らせるお菓子を飛び道具にするなんてとんでもないわ。さっさと終わらせるわよ!」
ソニアは木の影から飛び出ると、アクティブスキルの機導砲をハデスへ向けて撃った。
「二度と女性を太らせようなんて考えられないようにしてあげる!」
「ふんっ! 攻撃が届くまで時間がかかり過ぎだ!」
ハデスは攻撃を避けると、体勢を崩したままでもソニアへ向けてバズーカを撃つ。
「しまっ……んぐぅっ!? もぐもぐ、ごっくん。……ああ、嫌ぁ! 体がいつも以上に膨らんだわ!」
ぽっちゃりどころかぶっくり体型になったソニアを見て、ハデスは怪訝そうに首を傾げる。
「何だかわたしが作ったお菓子の効果以上の事が起きている気が……」
「うるさいわね! もう怒った! この体型のまま押し潰して、反省させてやるわ!」
そう言って涙目のソニアは、ハデス目指して走り出す。ドスドスと地響きがするほどの重い体で走ったソニアは、しかしスピードがあまりなかったので、ハデスに飛びかかったもののヒラリッと避けられてしまう。
ドッスーンと地面にめり込んだソニアを見て、ハデスはヤレヤレと肩を竦める。
「妙な八つ当たりは止めてくれ。それと大丈夫だ。その体型がたまらないと思う男は、必ずこの世にいる」
「変な慰め方をしないでっ!」
ハデスの様子を見続けていたケイルカは、何かに気付いたようにハッとした。
「もしかして……ハデス博士は女嫌いなの? だから女性を太らせるお菓子を作ったのかしら? 大丈夫よ! 男性が好きでも、世の中には理解してくれる人は必ず……」
「変な勘違いは止めろっ!」
ハデスが青ざめた顔で叫ぶと、ソニアとケイルカは突如隠し持っていたモノを放り投げる。
「コレでもくらいなさい!」
「えいっ!」
「んっ? ……虫のオモチャと、春の草の実か。いくら自然公園の中とはいえ、草の実を勝手に取るものではないぞ?」
全く動じていないハデスは、体に降りかかったオモチャと草の実を冷静に手で払う。
「驚いて泣き出すと思っていたのに!」
「冷静に対処するなんて!」
予想外のハデスの反応を見て、悔しそうにソニアとケイルカは叫ぶ。
「はっはっは! 実はわたし、子供の頃は昆虫博士や植物博士と呼ばれていたのだ!」
得意そうに胸を張って高笑いをするハデスを見て、カズマとエルバッハはとある事を思い出す。
「そういやぁアイツ、『研究オタク』というあだ名で有名だったな」
「そういう意味だったのですか……」
「ちなみに一時、ハンターオタクでもあった。そのおかげで、お前達の戦い方が手に取るように分かるのだよ!」
「本当に『残念天才博士』なんですねぇ」
そこへメリエルが、木の影から姿を現した。今まで携帯品のロープを二つ使って、投げ網を作っていたのだ。
「むっ! そこにもいたかっ!」
「そぉれっ!」
ハデスがバズーカを撃つのと、メリエルが網を投げるのは、ほぼ同時だった。
「あむっ……もぐもぐ、ごくんっ。あらぁ、凄く美味しいですぅ♪ これなら太ると分かっていても、つい食べちゃいますねぇ」
「ぐあっ!? しまった!」
メリエルがお菓子を食べてしまうのと、ハデスが網に捕らえられたのも、ほぼ同時。今まで激しく動き続けていたせいで、特殊アーマーの動きが鈍くなってしまったのだ。
「メリエルさん、ナイスです!」
「もう逃がさないからね!」
すかさずエルバッハとケイルカは、アクティブスキルのウィンドスラッシュを特殊アーマーの両腕・両足の付け根を狙って放つ。
「くぅっ! わたしの特殊アーマーがっ……!」
両腕と両足の付け根を切り裂かれたことによって、ハデスは体勢を崩して地面に倒れる。
「みんなっ、ハデス博士から離れて!」
ケイルカの言葉で、ハンター達はハデスから距離を取った。
「お休み、ハデスちゃん♪」
ケイルカはニッコリ微笑むと、再びスリープクラウドを発動させる――。
○捕獲完了
「……良し。特殊アーマーはこれだけ破壊すればいいだろう」
カズマの手には斬龍刀・天墜が握られており、アクティブスキルの部位狙いで、ハデスから脱がせた特殊アーマーを破壊したのだ。
ハデスはケイルカに眠らされており、今はメリエル特製の投げ網に縛られながら地面に横たわっている。
その姿を見ながら、ソニアが恐ろしい表情で呟く。
「今の内に、押し潰しておこうかな?」
「ソニアさん、解毒剤を食べて体型が元に戻っている今、その言葉はブーメランになって自分へ返ってきますよ?」
「はうっ!?」
カズマと同じく特殊アーマーをウィンドスラッシュで破壊していたエルバッハの冷静で現実的な言葉を聞いて、ソニアは痛む胸を両手で押さえた。
ケイルカはハデスの寝顔を見ながら、頬を指でツンツンとつっつく。
「うふふっ、ハデスちゃんったら子供のような無邪気な顔で寝ているわ。……って、アラ? メリエルちゃん、ハデスちゃんの特製お菓子入りバズーカを持って、どこへ行くの?」
「ぎくりっ★」
背を向けているメリエルのぽっちゃり体型を見て、カズマは不思議そうに首を傾げる。
「それに何で解毒剤を食べていないんだ?」
「ぎくぎくっ★」
メリエルは太ったまま、ハデスのバズーカを隠すように持ちながらどこかへ行こうとしていたが、仲間達の視線を受けて立ち止まり、作り笑顔を浮かばせながら振り返った。
「……あのぅ、私は料理が得意でしてぇ、こういう食品を研究したいと思っているんですよぉ」
「メリエルまで研究者気質なんてね。ほどほどにしなさいよ?」
「……って、ダメですよ、ソニアさん。お菓子と解毒剤はハデス博士が事件を起こしたことの証拠品なんですから、押収品になるんです」
エルバッハは慌ててメリエルの前に立ちふさがる。
「大人しく解毒剤を食べて、お菓子とバズーカは置いてください。じゃないと、ケイルカさんに一発放ってもらいますよ?」
メリエルが振り返ると、ケイルカはワンドのゴールデン・バウを持ってニコッと笑みを浮かべていた。
「メリエルちゃんも眠る?」
「はあ……。大人しく、言う通りにしますぅ」
ケイルカから暗に「スリープクラウドを使っちゃうよ?」と言われたメリエルは、バズーカをエルバッハに渡して、解毒剤を口の中に入れる。
残念そうに項垂れるメリエルに、慰めるようにミューリィが体を寄せた――。
◎後日談
「実は『ぽっちゃりになる薬』は短時間しか効果が出ないんだ。せいぜい一・二時間がいいとこだな」
ハデスはハンター達に捕らえられた後、素直に事情聴取に応じる。
「だから解毒剤は試作品しか作らなかったんだ」
ハデスの言う通り、例のお菓子を食べた女性達は時間が経つと、一人残らず元の体型に戻った。
「『本気で恋人達を困らせようとしたのか?』だと? まあ半分はそれが原因だが……実はわたし、若くてぽっちゃりした女性が好みなんだ。特にわたしを捕まえに来た三人の女性ハンターの太った姿は素晴らしかった……!」
ぽっと顔を赤らめて、ハデスはモジモジと体を揺らす。
――が、それはそれとして。
いくらチラシに注意書きをしていたとはいえ、おかしな薬を開発して混乱を起こしたことは事実。
ハデスは被害者達に謝りに行き、賠償金を支払って許しを得た。
だが後に「ぽっちゃりの女性、ステキだ♪」と言う男性が増えたことは……、ハデスの計画通りだったのだろうか?
<終わり>
自然公園に逃げ込んだハデスを追い掛ける為に、ハンター達も足を踏み入れる。
ペットを連れて来たメリエル=ファーリッツ(ka1233)は、ハデスの研究所に残っていた例のお菓子と白いハンカチを柴犬のミューリィに嗅がせた。
「さあミューリィ、ハデス博士を見つけてくださいねぇ」
ミューリィは「了解!」と言うようにあくまでも小声で力強く吠えた後、自然公園の奥へ走り出す。
ミューリィを先頭に、ハンター達も駆け出した。
今回唯一男性ハンターである龍崎・カズマ(ka0178)はアクティブスキルの隠の徒を使い、自分の気配を消しながら走る。
「ハデス博士め、幸せそうなカップルの不幸を願うのは自由だが、恨みを実現しちゃあいけねぇよな」
「女性を太らせるお菓子を作り出すなんて、絶対に許されない大罪よね! ただでさえお菓子は食べたら少なからず太るんだから、余計なことはしなくても良いのにっ……!」
ソニア(ka0350)は私怨を込めて、ハデスがいるであろう前を睨み付けた。
「そうですね。今回の事件、女性にとっては犯罪行為に等しい気がします。ハデス博士は裁判にかけられるのではないんでしょうか?」
エルバッハ・リオン(ka2434)は難しい表情で唸る。
「女性の扱いが下手だから恋人ができないのに、こんなことをするなんて努力の方向が間違っているわよ。モテる研究でもすれば良かったのにね」
ケイルカ(ka4121)は呆れた顔をしながら、肩を竦めた。
しかし突然ミューリィが走るのを止めたのを見て、五人のハンターは慌てて口を閉じて木の影に身を隠す。
数メートル先にいるハデスは地面に座り込み、大きなバズーカの手入れをしているようで、こちらには気付いていない。
まずは説得する為に、カズマとエルバッハが進み出た。
「誰だっ!」
物音で気付いたハデスが振り返ると、カズマが最初に話しかける。
「ハンターだ。依頼であんたを捕まえに来た。なあ、あんたは天才博士として有名なんだろう? それなのに女達を悲しませるようなことをしやがって……。被害に合った女達がどれだけ苦しんでいるのか、分かんねーのかよ!」
「まあまあ、カズマさん落ち着いてください。ハデス博士、おとなしく捕まってくだされば、減刑されることだってあります。私達と共に来てくれませんか?」
「……お前達、何か勘違いしていないか?」
ハデスが冷静に問い掛けてきたので、二人は意味が分からず首を傾げた。
「コレを読んでみろ。店の壁に貼っていたチラシだ」
そう言ってハデスは一枚のチラシを、二人へ向けて投げる。
地面に落ちたチラシを拾い上げて、二人は書かれていることを読んでみた。
「『ホワイトデー向けのお菓子を発売しております。美味しいマカロン・クッキー・マシュマロ・キャンディーはどうですか?』って、普通のチラシじゃねーか」
「そこではない。一番下だ」
「えぇっと……、『なお、お菓子は食べると太ってしまいますので、ご注意を』って……、小さな文字の注意書きがあります!」
チラシの一番下の行を読み上げたエルバッハは、複雑な表情を浮かべる。
「はーっはっは! 分かったかね? わたしが作ったお菓子を食べれば太るということは、先に知らせていたのだよ! チラシをよく見なかった男の方が悪いのではないか!」
「けっけど他の文章の文字と違って、注意書きはメチャクチャ小さい文字で書いてあるから読みにくいだろうっ!」
「それがチラシというものだよ。読みにくくても見づらくても、書いてあることには間違いはない」
「……コレじゃあ裁判は難しいですね」
チラシは宣伝文章の文字は大きく書かれているものの、注意書きはよく目を凝らさないと見えにくい。だがハデスの言う通り、しっかりと読んでいれば今回の事件は回避できた可能性は否定できないのだ。
「くそっ! 変なところで頭を働かせやがって!」
カズマは悔しそうにチラシをグシャッと握り潰して、エルバッハは呆れたようにため息を吐く。
「まっ、簡単に捕まえられるとは思っていませんでしたけどね」
呟きながらエルバッハはドレス・カプリチョーザの胸元を緩めて、 ビキニアーマーに覆われた上半身を露わにした。
「でもハンターオフィスに依頼がきている以上、私達はあなたを連れて行かなければなりません。私と一緒じゃあ……イヤですか?」
エルバッハは胸元を強調させるように屈み込むも、ハデスは首を横に振る。
「生憎と少女趣味はない。せめてあと五年だな」
「アラまあ……。意外なところで常識人でしたか」
言葉とは裏腹にさほど傷付いた様子がないエルバッハは、服装をさっさと整えた。
「それじゃあ私はどうかしら? 私は知的な男の人が好きなの!」
ケイルカは木の影から飛び出して、走りながら叫ぶ。
「可愛い寝顔を見せてちょうだい! 私の気持ちを受け取って! えいっ、スリープクラウド!」
「甘いわっ!」
ワンドのゴールデン・バウ から放たれたアクティブスキルを、ハデスは特殊アーマーの回避力を上げて避けた。
「ハンターどもめ! やはり力尽くに出るか! ならばコレでも食らえ!」
ハデスはお菓子入りのバズーカを、ケイルカへ向けて撃つ。
「きゃあんっ! ……もぐもぐ、美味しい♪ って、体がどんどん膨らんでいくぅ!」
バズーカから放たれたお菓子を思わず食べてしまったケイルカの体が、ぽっちゃり体型に変わってしまった。
「イヤあぁ! こんなの私じゃないわ!」
「ケイルカ、落ち着いて持たされた解毒剤を食べろっ!」
「カズマちゃんっ……! そうね、解毒剤があったのよね」
ハデスの研究所から見つかったアメのような解毒剤を口に入れたケイルカは、思いっきり顔をしかめる。
「ううっ……! すっごくスースーするぅ。……あっ、でも体が縮んできたわ」
濃いミント味の解毒剤を舐めていくうちに、ケイルカの体型は元に戻っていく。
「チィッ! わたしの研究所に無断で入った挙句、解毒剤の試作品を持ち出すとは……忌々しい!」
ハデスの視線がケイルカへ向いている間に、カズマはワイヤーウィップのブラッドストリングを握り締めて、アクティブスキルのエンタングルを発動させる。
「逃がさねーぜ!」
「おわっと! 小癪な罠を!」
腰に鞭が巻き付きそうになるも、ハデスは間一髪で避けた。
「あの特殊アーマー、恐ろしいほど有能ですが、存在されると困りますね」
エルバッハはワンドのアブルリーを両手で握り締めて、アクティブスキルのアイスボルトを二回、ハデスのアーマーに包まれた両足へ向けて放つ。
「無駄だっ!」
しかしハデスはバズーカを足元へ向けて、お菓子に二発のアイスボルトをわざと当てた。
「逃げるのを防ごうと思ったんですけど、まさかお菓子を身代わりにするとは……。頭のネジが緩んでても、覚醒者なだけはありますね」
「やかましいわっ!」
「おっと、危ないです」
ハデスは続けてエルバッハへバズーカを撃つも、アクティブスキルのウインドガストがお菓子の動きを鈍らせた上に、シールドのリパルションで防がれる。
その間に、木の影に隠れ続けているソニアはアクティブスキルの攻性強化を自分自身へかけて、攻撃力を上げた。そしてアルケミストタクトを手に持つ。
「まったく……。ただでさえわたしは戦っている最中に太ってしまう体質なのに、太らせるお菓子を飛び道具にするなんてとんでもないわ。さっさと終わらせるわよ!」
ソニアは木の影から飛び出ると、アクティブスキルの機導砲をハデスへ向けて撃った。
「二度と女性を太らせようなんて考えられないようにしてあげる!」
「ふんっ! 攻撃が届くまで時間がかかり過ぎだ!」
ハデスは攻撃を避けると、体勢を崩したままでもソニアへ向けてバズーカを撃つ。
「しまっ……んぐぅっ!? もぐもぐ、ごっくん。……ああ、嫌ぁ! 体がいつも以上に膨らんだわ!」
ぽっちゃりどころかぶっくり体型になったソニアを見て、ハデスは怪訝そうに首を傾げる。
「何だかわたしが作ったお菓子の効果以上の事が起きている気が……」
「うるさいわね! もう怒った! この体型のまま押し潰して、反省させてやるわ!」
そう言って涙目のソニアは、ハデス目指して走り出す。ドスドスと地響きがするほどの重い体で走ったソニアは、しかしスピードがあまりなかったので、ハデスに飛びかかったもののヒラリッと避けられてしまう。
ドッスーンと地面にめり込んだソニアを見て、ハデスはヤレヤレと肩を竦める。
「妙な八つ当たりは止めてくれ。それと大丈夫だ。その体型がたまらないと思う男は、必ずこの世にいる」
「変な慰め方をしないでっ!」
ハデスの様子を見続けていたケイルカは、何かに気付いたようにハッとした。
「もしかして……ハデス博士は女嫌いなの? だから女性を太らせるお菓子を作ったのかしら? 大丈夫よ! 男性が好きでも、世の中には理解してくれる人は必ず……」
「変な勘違いは止めろっ!」
ハデスが青ざめた顔で叫ぶと、ソニアとケイルカは突如隠し持っていたモノを放り投げる。
「コレでもくらいなさい!」
「えいっ!」
「んっ? ……虫のオモチャと、春の草の実か。いくら自然公園の中とはいえ、草の実を勝手に取るものではないぞ?」
全く動じていないハデスは、体に降りかかったオモチャと草の実を冷静に手で払う。
「驚いて泣き出すと思っていたのに!」
「冷静に対処するなんて!」
予想外のハデスの反応を見て、悔しそうにソニアとケイルカは叫ぶ。
「はっはっは! 実はわたし、子供の頃は昆虫博士や植物博士と呼ばれていたのだ!」
得意そうに胸を張って高笑いをするハデスを見て、カズマとエルバッハはとある事を思い出す。
「そういやぁアイツ、『研究オタク』というあだ名で有名だったな」
「そういう意味だったのですか……」
「ちなみに一時、ハンターオタクでもあった。そのおかげで、お前達の戦い方が手に取るように分かるのだよ!」
「本当に『残念天才博士』なんですねぇ」
そこへメリエルが、木の影から姿を現した。今まで携帯品のロープを二つ使って、投げ網を作っていたのだ。
「むっ! そこにもいたかっ!」
「そぉれっ!」
ハデスがバズーカを撃つのと、メリエルが網を投げるのは、ほぼ同時だった。
「あむっ……もぐもぐ、ごくんっ。あらぁ、凄く美味しいですぅ♪ これなら太ると分かっていても、つい食べちゃいますねぇ」
「ぐあっ!? しまった!」
メリエルがお菓子を食べてしまうのと、ハデスが網に捕らえられたのも、ほぼ同時。今まで激しく動き続けていたせいで、特殊アーマーの動きが鈍くなってしまったのだ。
「メリエルさん、ナイスです!」
「もう逃がさないからね!」
すかさずエルバッハとケイルカは、アクティブスキルのウィンドスラッシュを特殊アーマーの両腕・両足の付け根を狙って放つ。
「くぅっ! わたしの特殊アーマーがっ……!」
両腕と両足の付け根を切り裂かれたことによって、ハデスは体勢を崩して地面に倒れる。
「みんなっ、ハデス博士から離れて!」
ケイルカの言葉で、ハンター達はハデスから距離を取った。
「お休み、ハデスちゃん♪」
ケイルカはニッコリ微笑むと、再びスリープクラウドを発動させる――。
○捕獲完了
「……良し。特殊アーマーはこれだけ破壊すればいいだろう」
カズマの手には斬龍刀・天墜が握られており、アクティブスキルの部位狙いで、ハデスから脱がせた特殊アーマーを破壊したのだ。
ハデスはケイルカに眠らされており、今はメリエル特製の投げ網に縛られながら地面に横たわっている。
その姿を見ながら、ソニアが恐ろしい表情で呟く。
「今の内に、押し潰しておこうかな?」
「ソニアさん、解毒剤を食べて体型が元に戻っている今、その言葉はブーメランになって自分へ返ってきますよ?」
「はうっ!?」
カズマと同じく特殊アーマーをウィンドスラッシュで破壊していたエルバッハの冷静で現実的な言葉を聞いて、ソニアは痛む胸を両手で押さえた。
ケイルカはハデスの寝顔を見ながら、頬を指でツンツンとつっつく。
「うふふっ、ハデスちゃんったら子供のような無邪気な顔で寝ているわ。……って、アラ? メリエルちゃん、ハデスちゃんの特製お菓子入りバズーカを持って、どこへ行くの?」
「ぎくりっ★」
背を向けているメリエルのぽっちゃり体型を見て、カズマは不思議そうに首を傾げる。
「それに何で解毒剤を食べていないんだ?」
「ぎくぎくっ★」
メリエルは太ったまま、ハデスのバズーカを隠すように持ちながらどこかへ行こうとしていたが、仲間達の視線を受けて立ち止まり、作り笑顔を浮かばせながら振り返った。
「……あのぅ、私は料理が得意でしてぇ、こういう食品を研究したいと思っているんですよぉ」
「メリエルまで研究者気質なんてね。ほどほどにしなさいよ?」
「……って、ダメですよ、ソニアさん。お菓子と解毒剤はハデス博士が事件を起こしたことの証拠品なんですから、押収品になるんです」
エルバッハは慌ててメリエルの前に立ちふさがる。
「大人しく解毒剤を食べて、お菓子とバズーカは置いてください。じゃないと、ケイルカさんに一発放ってもらいますよ?」
メリエルが振り返ると、ケイルカはワンドのゴールデン・バウを持ってニコッと笑みを浮かべていた。
「メリエルちゃんも眠る?」
「はあ……。大人しく、言う通りにしますぅ」
ケイルカから暗に「スリープクラウドを使っちゃうよ?」と言われたメリエルは、バズーカをエルバッハに渡して、解毒剤を口の中に入れる。
残念そうに項垂れるメリエルに、慰めるようにミューリィが体を寄せた――。
◎後日談
「実は『ぽっちゃりになる薬』は短時間しか効果が出ないんだ。せいぜい一・二時間がいいとこだな」
ハデスはハンター達に捕らえられた後、素直に事情聴取に応じる。
「だから解毒剤は試作品しか作らなかったんだ」
ハデスの言う通り、例のお菓子を食べた女性達は時間が経つと、一人残らず元の体型に戻った。
「『本気で恋人達を困らせようとしたのか?』だと? まあ半分はそれが原因だが……実はわたし、若くてぽっちゃりした女性が好みなんだ。特にわたしを捕まえに来た三人の女性ハンターの太った姿は素晴らしかった……!」
ぽっと顔を赤らめて、ハデスはモジモジと体を揺らす。
――が、それはそれとして。
いくらチラシに注意書きをしていたとはいえ、おかしな薬を開発して混乱を起こしたことは事実。
ハデスは被害者達に謝りに行き、賠償金を支払って許しを得た。
だが後に「ぽっちゃりの女性、ステキだ♪」と言う男性が増えたことは……、ハデスの計画通りだったのだろうか?
<終わり>
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
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面白かった! | 6人 |
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「残念天才博士」捕縛相談所 メリエル=ファーリッツ(ka1233) 人間(リアルブルー)|14才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2016/03/19 18:04:08 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/03/16 09:46:23 |