ゲスト
(ka0000)
帰ってきた死者
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2016/03/24 22:00
- 完成日
- 2016/03/29 02:31
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
裏通りにあるアパートの一室。
魔術師スペットは、新聞にある以下の記事を読み、猫の顔をしかめていた。
『――当市は歪虚事件が多発していることを重く見、今年中に下水道の一斉清掃を行うことを決めた。そのための予算の確保や詳しい日程などについては、これから引き続き市議会で議論し、なるべく早いうちに結論を出すとのことで――』
「あんまりきれいにされたくないねんけど……あそこ時々、掘り出し物が流れてくることあるしなあ」
掘り出し物とは、死骸のことである。
生物の融合と分離を研究している身の上にとってそれは、欠くべからざる実験材料なのだ。
実にありがたいことに、埋めてやる手間が惜しいのか、死んだ動物をマンホールから投げ込む不届きな輩が結構いるのだ。
時々だが、生きた犬の子猫の子等も投げ込まれる。まれに人間の赤ん坊も、同じ憂き目を見ていたりする。
「今のうちに、使えそうなもんかき集めとこか」
新聞を閉じたスペットは、早速下水道に向かった。
円形の天井に足音を響かせ歩き回る。
そして、発見する。
「ややっ!!」
新鮮な男の死体。
足が変な方向にひん曲がっているのは、上から落とされた際の衝撃によるものだろう。
直接的な死因は絞殺かと思われた。首のぐるりに圧迫跡がある。
「おおー、大収穫や!」
スペットは恐れ気もなく死体を担ぎ、来た道を戻って行く。
暗渠の角を曲がって、姿を消す。
●
――極彩色の町ヴァリオスで、わずか一日の間に、続けて2件の殺人事件が起きた。
殺されたのは商工ギルドの理事である、バスコとカブラル。
前者も後者も自宅で絞殺。
容疑者として名が挙がっているのは、事務局長のジョルディ。
数日前に横領の件を、同ギルドの理事バスコ氏、カブラル氏、並びに監事のアンヘル氏に告発され姿をくらまし、現在も逃亡中――
商工ギルド監事のアンヘルは、以上の記事が掲載された新聞を畳み、机に投げ出した。
眉が吊り上がり、頬がたるみ、目は視点が定まらない。恐れの感情が全身から滲み出している。
応接間には彼のほかに、警察官と刑事がいる。
前者は気の毒そうにアンヘルを見ているが、後者はそうではない。窓から外に顔を向けている。
「こりゃ間違いありませんよ。犯人はあのジョルディに間違いありません。あの男、てっきり死んだと思っていたのに、わしらが横領の件を告発したのを根に持ってこんな凶行に出て来たのに違いありません。次はきっとわしを狙いに来る。おまわりさん頼みます、わしの身辺警護をしてください、あいつが捕まるまで、24時間、万全の態勢で! 警察はもちろん善良な市民の味方でしょう?」
「ええ、ええ、もちろんそうです。ですから落ち着いてください。既に警備体制は敷いていますし、ジョルディの捜索も併せて行っておりますから」
「頼みますぞ、本当に。このままでは恐ろしくて、自宅から一歩も出られやしない……」
警官に宥められ、椅子に腰掛け直すアンヘル。
それまでずっと窓の方を見ていた刑事が、ふと振り向いた。
「……アンヘルさん、なぜジョルジュのことを、死んだと思っていたんですか? 彼が行方をくらました後、遺書でも見つけたのですか?」
「い――いいえ、いいえ、そんなものありゃしませんよ。ただあんなことをしたのなら普通良心の呵責を感じてですね、自殺ということもあるかもしれないとそういうふうに思っただけのことですよ」
●
「商工ギルド監事って、お金持ちなんですねえ」
警備する邸宅の華麗さに、カチャを始めとするハンターたちは感心する。
「うわー、高そうな錦鯉がいっぱい」
「自家用馬車が6台もあるぞ」
彼らが守りを任されたのは、外方面だ。
既に夜だが、敷地全体に照明がたくさんついているため、そんなに暗くない。
「しかし、自宅警護にハンターまで呼び寄せるなんて、ちょっと物々しすぎないか?」
「まあな。警官も大勢いるんだから、それで間に合うと思うけどな」
「いいじゃないですか、別に。報酬はしっかり払ってくれてるんですから」
●
スペットは、柵の外から屋敷を覗き、呻いた。
「ハンターめっちゃ集まってるやん……」
完成するなり逃げ出した合成歪虚の行方を追ってここまで来たのだが、これでは手が出しづらい。
しかし、是非とも回収したい。滅多にないほどよい出来なのだ、あれは。
仕方ない。結界術を駆使しつつ、侵入するとしよう。
「中途半端に記憶が残っとると、あかんなあ」
●
寝室のアンヘルは、やっと一息つく。
屋敷の内外に多数の人員を配置した。ジョルジュがどんな手で来るとしても、この包囲網は破れまい。
「くそっ……よもや息を吹き返すとはな……だからちゃんとどこぞに埋めておけと言ったのだ……バスコもカブラルもとんだ間抜け野郎だ……手間を省いてマンホールなんぞに捨てやがって……わしらは悪くないぞ。大体な、あの若造が生意気に、強請ってこようとするからいかんのだ……」
ぶつぶつ毒づきながら、棚に置いてあるウイスキーを取ろうとする。
そのとき背後で、カタンと小さな音がした。
なんだ、と思う間も与えずクローゼットから這い出してくる。胸から上が人、胸から下が大蛇の化け物が。
「ジョッ……」
化け物はアンヘルに、3メートルの長さはあろうかという蛇の体で巻きつき、喉に手をかけ、締め上げた。
アンヘルは声も上げられないまま足掻こうとする。手にしたウイスキーのビンが床に落ち割れた。
物音を聞き付け、部屋の前で待機していた警官が入ってくる。
「アンヘルさん、どうし――うあああああ!?」
その声と銃声は、外にいたハンターたちにも、ちゃんと聞こえた。
魔術師スペットは、新聞にある以下の記事を読み、猫の顔をしかめていた。
『――当市は歪虚事件が多発していることを重く見、今年中に下水道の一斉清掃を行うことを決めた。そのための予算の確保や詳しい日程などについては、これから引き続き市議会で議論し、なるべく早いうちに結論を出すとのことで――』
「あんまりきれいにされたくないねんけど……あそこ時々、掘り出し物が流れてくることあるしなあ」
掘り出し物とは、死骸のことである。
生物の融合と分離を研究している身の上にとってそれは、欠くべからざる実験材料なのだ。
実にありがたいことに、埋めてやる手間が惜しいのか、死んだ動物をマンホールから投げ込む不届きな輩が結構いるのだ。
時々だが、生きた犬の子猫の子等も投げ込まれる。まれに人間の赤ん坊も、同じ憂き目を見ていたりする。
「今のうちに、使えそうなもんかき集めとこか」
新聞を閉じたスペットは、早速下水道に向かった。
円形の天井に足音を響かせ歩き回る。
そして、発見する。
「ややっ!!」
新鮮な男の死体。
足が変な方向にひん曲がっているのは、上から落とされた際の衝撃によるものだろう。
直接的な死因は絞殺かと思われた。首のぐるりに圧迫跡がある。
「おおー、大収穫や!」
スペットは恐れ気もなく死体を担ぎ、来た道を戻って行く。
暗渠の角を曲がって、姿を消す。
●
――極彩色の町ヴァリオスで、わずか一日の間に、続けて2件の殺人事件が起きた。
殺されたのは商工ギルドの理事である、バスコとカブラル。
前者も後者も自宅で絞殺。
容疑者として名が挙がっているのは、事務局長のジョルディ。
数日前に横領の件を、同ギルドの理事バスコ氏、カブラル氏、並びに監事のアンヘル氏に告発され姿をくらまし、現在も逃亡中――
商工ギルド監事のアンヘルは、以上の記事が掲載された新聞を畳み、机に投げ出した。
眉が吊り上がり、頬がたるみ、目は視点が定まらない。恐れの感情が全身から滲み出している。
応接間には彼のほかに、警察官と刑事がいる。
前者は気の毒そうにアンヘルを見ているが、後者はそうではない。窓から外に顔を向けている。
「こりゃ間違いありませんよ。犯人はあのジョルディに間違いありません。あの男、てっきり死んだと思っていたのに、わしらが横領の件を告発したのを根に持ってこんな凶行に出て来たのに違いありません。次はきっとわしを狙いに来る。おまわりさん頼みます、わしの身辺警護をしてください、あいつが捕まるまで、24時間、万全の態勢で! 警察はもちろん善良な市民の味方でしょう?」
「ええ、ええ、もちろんそうです。ですから落ち着いてください。既に警備体制は敷いていますし、ジョルディの捜索も併せて行っておりますから」
「頼みますぞ、本当に。このままでは恐ろしくて、自宅から一歩も出られやしない……」
警官に宥められ、椅子に腰掛け直すアンヘル。
それまでずっと窓の方を見ていた刑事が、ふと振り向いた。
「……アンヘルさん、なぜジョルジュのことを、死んだと思っていたんですか? 彼が行方をくらました後、遺書でも見つけたのですか?」
「い――いいえ、いいえ、そんなものありゃしませんよ。ただあんなことをしたのなら普通良心の呵責を感じてですね、自殺ということもあるかもしれないとそういうふうに思っただけのことですよ」
●
「商工ギルド監事って、お金持ちなんですねえ」
警備する邸宅の華麗さに、カチャを始めとするハンターたちは感心する。
「うわー、高そうな錦鯉がいっぱい」
「自家用馬車が6台もあるぞ」
彼らが守りを任されたのは、外方面だ。
既に夜だが、敷地全体に照明がたくさんついているため、そんなに暗くない。
「しかし、自宅警護にハンターまで呼び寄せるなんて、ちょっと物々しすぎないか?」
「まあな。警官も大勢いるんだから、それで間に合うと思うけどな」
「いいじゃないですか、別に。報酬はしっかり払ってくれてるんですから」
●
スペットは、柵の外から屋敷を覗き、呻いた。
「ハンターめっちゃ集まってるやん……」
完成するなり逃げ出した合成歪虚の行方を追ってここまで来たのだが、これでは手が出しづらい。
しかし、是非とも回収したい。滅多にないほどよい出来なのだ、あれは。
仕方ない。結界術を駆使しつつ、侵入するとしよう。
「中途半端に記憶が残っとると、あかんなあ」
●
寝室のアンヘルは、やっと一息つく。
屋敷の内外に多数の人員を配置した。ジョルジュがどんな手で来るとしても、この包囲網は破れまい。
「くそっ……よもや息を吹き返すとはな……だからちゃんとどこぞに埋めておけと言ったのだ……バスコもカブラルもとんだ間抜け野郎だ……手間を省いてマンホールなんぞに捨てやがって……わしらは悪くないぞ。大体な、あの若造が生意気に、強請ってこようとするからいかんのだ……」
ぶつぶつ毒づきながら、棚に置いてあるウイスキーを取ろうとする。
そのとき背後で、カタンと小さな音がした。
なんだ、と思う間も与えずクローゼットから這い出してくる。胸から上が人、胸から下が大蛇の化け物が。
「ジョッ……」
化け物はアンヘルに、3メートルの長さはあろうかという蛇の体で巻きつき、喉に手をかけ、締め上げた。
アンヘルは声も上げられないまま足掻こうとする。手にしたウイスキーのビンが床に落ち割れた。
物音を聞き付け、部屋の前で待機していた警官が入ってくる。
「アンヘルさん、どうし――うあああああ!?」
その声と銃声は、外にいたハンターたちにも、ちゃんと聞こえた。
リプレイ本文
ハンターの面々は、少数の隊に分かれ庭を巡回中。
それぞれの持ち場で、ひそひそ話が交わされている。
今回の依頼、逆恨みが引き起こした事件にしては、不透明な部分が多過ぎる。
星野 ハナ(ka5852)とカチャは、声を潜めて囁きあい。
「これは事件の匂いがしますぅ。横領で告発された人がわざわざ戻って告発者を殺すとか不自然極まりないですぅ……どう考えたって怨恨ですよねぇ」
「横領告発以外にも何かされたとか?」
ファル・グリン(ka5449)は何がおかしいのか、くすくす笑っている。
「かもですよねぇ。ごく自然に考えれば、戻ってくる必要はありませんよぉ。ねぇ?」
「あ、そうそう。私さっき、ちょろっと警察の人達から聞いたのよぉ……アンヘルさん、ジョルジュが死んでるはずだって言ってたんだってぇ」
「おやおや。それは相当に確信を持っていないと、出てこない台詞ですねぇ」
ボルディア・コンフラムス(ka0796)は、ゴルフクラブよろしく、戦斧をぶんと一振り。
「フツーに考えたら、わざわざ殺して回る意味ねぇよな。額がでかいって言ったって、横領だろ。そのまま逃げ切れば取り得だし、仮にパクられたとしても、何年か食らいこんでりゃすむ話だ。殺人はその程度じゃすまねえぞ?」
ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)が首を傾げる。
「ですよえ。下手したら、いや下手しなくても死刑の公算が高いですよ。すでに2人もやってしまっていますから……告発されて、それほど腹が立ったってことなんですかねえ?」
メイム(ka2290)は地面に突き立てたスピアに寄りかかり、思案顔。
「そもそも、事件を起こしているのが本当にジョルジュなのかどうかも、あやしいっちゃあやしいし。警察、疑ってるんだよね。アンヘルたちがジョルジュを殺しているんじゃなかって。もし今襲ってきているのがジョルジュ本人なら、殺し損ねたってことになるんだろうけど」
「読めた……この連続殺人事件の真犯人は、別にいるッ!」
「……どこ見て喋ってんだルンルン」
「ああ、気にしないでボルディアさん。演出です演出」
「へえ、猫怪人が墓荒らししてたっすか」
「そうそう。名前は確か――スペットとか名乗ってたかな」
「名前があるってことは、野良じゃないっすね。しかし広いっすね~。信じられないくらい広くて面倒臭い庭っすね~。どんだけ金出したらこんな家が建てられるんすかね」
「ハンター業じゃ絶対手が届かない額だよね、きっと」
「そうっすよね~、どう考えても……」
西蓮寺 咏(ka5700)と軽口を叩きながら天竜寺 詩(ka0396)は、横にいた超級まりお(ka0824)が不意に立ち止まったので、何事かと足を止める。
「まりおさん、どうしたの?」
「…………」
まりおは、キツネにつままれたような顔で目を擦った。
「いや、なんかあそこの柵のところに人がいたんだけど、急に消えちゃって」
詩と咏は彼女が指す方向を見た。なるほど、確かに誰もいない。鉄柵がしらじら照明に照らされているだけだ。
「……どんな人だったの?」
「えーと、全身真っ黒のローブ着てて、顔が見えないくらい目深にフード被ってて。こっちを、そわそわしながら見てたんですよ。何て言うか、すっごく怪しいよねー。もしかして問題のジョルジュだったり?」
まりおは割と本気でそう思ったのだが、詩は違った。
(真っ黒のローブ。目深なフード。消える……それってもしかして……)
頭の中にもわもわと猫の顔が浮かびかけたところで、けたたましい悲鳴が響き渡った。
「アンヘルさん、どうし――うあああああ!?」
続けて銃声。
「マンマ・ミーア! もう襲われてる!?!」
まりおは即座に屋敷を見上げた。
襲われたのはアンヘル。アンヘルがいるのは寝室。寝室へ行くならいったん中に入るよりも、壁伝いの方が早い。
瞬時にそこまで判断し、勢いつけて壁に飛びつく。
「二人とも、お先っ!」
すみやかに寝室の窓までたどり着き、窓ガラスを叩き割る。
「ジョルジュ、アンヘルさんから離れ………って、え~!!?」
飛び込んだ先に広がっていたのは、想像していたのと全く違う光景だった。
アンヘルが首を絞められ殺されかけているまでは予想もついたが、それをやっている相手ときたら。
「人間じゃないじゃん。化け物じゃんジョルジュ」
なにしろ胸から下が蛇だ。そう表現して差し支えなかろう。警官が開いた扉の向こうに倒れている。あの人が銃を撃ったのだろうか。
「――って混乱してる場合じゃなくて!」
とりあえず救助優先。
まりおはMURAMASAで、化け物に切りかかった。
●
屋敷に飛び込んだボルディアとメイムは階段を駆け登る。屋内警備をしていた警官たちをかき分けるようにして。その後にルンルンが続く。
ただ犯人が現れただけで、あの悲鳴はあり得ない。
寝室のある階に到達すると、大きな重いものがのたくっているような激しい物音が聞こえた。
部屋の前に警官が倒れている。
とりあえずそれが死んでいないことだけ確かめ、中に飛び込んだ彼女たちは、蛇男の姿を目の当たりにした。
片手でアンヘルの喉を、もう片方の手でまりおの腕を掴んでいる。
間髪入れずボルディアは、とぐろを巻く蛇体に戦斧を叩きつけた。
「よお、初めましてジョルジュ! 蛇臭いなお前!」
黒い血が飛び散る。
(とにかくアンヘルを引き剥がさないと!)
メイムはアンヘルを掴んでいるほうの腕をスピアを突き刺した。
しかしジョルジュは腕を貫かれようとも、アンヘルを離そうとしない。むしろまりおを離す。投げつけるように。
「おっとお!」
メイムはそれを避け、連続攻撃に専念した。
頭を振って起きてきたまりおも、すぐ攻撃に戻る。
「蛇なら、腕は要らないはずだけど!」
ジョルジュの意識が彼女らに向いているうちに、ルンルンは、部屋の周囲や窓の外に地縛符を仕掛けて行く。
「ジュゲームリリカル……カードを伏せてターンエンド! こうしておけば、簡単には逃げられないもの――うひぃ!?」
ザラリと蛇体が触れた感触に飛び上がり、急いで脇に引っ込む。
そこに、ハナとカチャが駆けつけた。
「ひぃぃ、もうダメかもぉ~」
など言いつつハナは、五色光と桜幕府を立て続けに放つ。
ジョルジュの手が崩れる。白目のアンヘルを放す。
その機を逃さずカチャ、メイムは、アンヘルの足を掴み、引きはがしにかかった。
しかし、それは容易なことでなかった。ジョルジュは手が使えないと見るや、いきなりアンヘルの頭に、力の限り食らいついたのである。
歯が食い込んで血が流れる。その痛みで気絶していたアンヘルは、目を覚ました。
「ぎゃあああああ! はなせ、はなせえ!」
「あああまずいですこのまま引っ張ったらアンヘルさん頭の皮がずる剥けになります!」
「問題ないよカチャ! 死ぬよりマシだ引っ張れ!」
その騒ぎの真っ只中に入ってくる咏と詩。
「やばい、アンヘルさん呑まれるっす!」
飛び込むなり咏は、ジョルジュに、雨あられと八角棍を浴びせる。
追って詩は、ジャッジメントを放つ。
ジョルジュの動きがつかの間止まった。アンヘルが、ようやく引き離される。
ハナがそれを引き取り、部屋の隅まで引きずって行く。
詩は手早くアンヘルにヒールをかけ、保護のための結界を作り、改めてジョルジョに向き直った。
そして、眉を顰める。ジョルジュの首に、圧迫痕があるのを認めて。
(……あれって……)
●
ファルは寝室の扉の前で、周囲を警戒していた。
ここに来るまでに探ってみたが、これといった足跡は見つけられなかった。だが、妙だなと思うことはあった。
この屋敷の窓は防犯上、ひとつ残らず鍵をかけていたはず。なのに、何カ所か全開になっていた。
(逃走経路を確保するためですよねぇ……全部かけ直してきましたが……間違いなく第三者がいますね。どこかに)
部屋の中から、ハナとアンヘルの声が響いてくる。それはファルのみでなく、近くにいる警察関係者の耳にも入る。
「――なんでアンヘルさんだけ襲われたんだと思いますぅ!? 謝らないと、アンヘルさん殺されちゃいますよぅ!?」
「わしは知らん! バスコとカブラルが殺したんだ! わしだけは指一本触れとらん、恨むのは筋違いだ!」
●
アンヘルが絶叫したその瞬間、ジョルジュの姿が消えた。
メイムは荒れた部屋の中を睨み回した。
この唐突な消失、覚えがある。
「む、例の猫幻獣の気配! ……皆、注意して。見えないし触れないけど、確かに今結界が張られているはずだから」
ルンルンは額に指を当て、フフフと含み笑いをする。
「謎は全て解けた、真犯人はこの中にいます……そこに居るのは分かってるんだからっ!」
分かってはいても、さてどこにいるのかとなると、さっぱり感じ取れない。そのへんは前と一緒だ。
(何か隙を誘う手とか、ないかなあ)
思って詩は、鞄の中を探る。どういう次第か、ススキの束が出てきた。
(……そういえば、猫頭だったよね)
ならもしかして猫の習性に引き摺られるかもしれない。そのように期待し彼女は、ススキを、猫じゃらしの用に振ってみる。
それを見たカチャは、鳴き真似をしてみた。
「ニャ~オ~ミャ~オ~」
咏も行動を起こす。自分も動揺を誘えれば、と。確信が持てないながら、あさっての方向を指さして。
「見つけたっす!」
そのとき空中に、パリンっと微かな火花が走った。
メイムはかっと目を見開き、虚空目がけ、スピアでの二段攻撃を行う。
「そこかあっ!」
一段目の攻撃で立方体が浮かび上がり、砕けた。
「こら、やめえ! 出るな! 帰るんや! 作ったった俺の言うことを聞――」
ジョルジュが飛び出してくる。スペットを太い尾で思い切り弾き飛ばして――どうやら制作者に対し忠誠心を持たない仕様らしい。
二段目の攻撃が、その胸に突き刺さった。
しかしジョルジュはわき目も振らず、アンヘルのいる方向に向かう。
アンヘルは場から逃げたくても逃げられない。ハナがこっそり足元に、地縛符を仕掛けていたので。
「ひぃ、動けません~、これもジョルジュさんの呪いかもぉ!」
「ぎゃあやめろお!! わしは見てただけだそれだけだ! あの2人が勝手にやったんだ! いや殺せと言ったかも知れないがあれは単なる言葉のあやで……」
詩の結界が、ジョルジュの侵入を阻む。
ジョルジュはのたくるような声を絞り出す。それはもう人間のものではなかった。
オぉぉぁあエぇえこぅロぉおすぅうゥ
「ぐおお……助けに来てやったのに何さらすねんお前……」
起き上がったスペットが魂の叫びを上げる。
「あかーん! 融合とけてまうー!」
ボルディアは、犬歯が生えた口を歪めた。
「死んだやつぁ生き返ったりしねぇンだよ……」
ジョルジュの脳天目がけ振り下ろされる鉄の塊。
「だからよ、可哀想なジョルジュ。テメェにゃ悪いが黙って死にな!」
人間の頭が砕け散った。
蛇の体はピクピク痙攣した後、煙を上げ急速に溶解して行く。
メイムはぬかりなくスペットに注意を向ける。歪虚がいなくなった以上、必ず場から逃げ出そうとするはずだと踏んで。
その予想は正しかった。いち早く自己の回りに結界を敷いたのか、今そこにいたはずのスペットの姿が、ない。
だが案ずるには及ばなかった。立方体が半透明に浮かび上がっていたからだ。ダメージを受けた上に急ごしらえで、うまく作れなかったらしい。
ファルが一言。
「侵入者さん、分かっていますよ?」
メイムはパルムたちに命じた。
「行ってキノコ!」
パルムがキノコ弾として飛ぶ。結界が砕ける。
スペットはとっさに両手を、ハンターたちに向けた。彼らの側を閉じ込めようと。
それよりわずかに早く、詩がジャッジメントを放つ。
張ろうとしていた結界は不完全なままに終わった。
そこでボルディアが、みぞおちに一発。
「ぶへ!」
膝をついたスペットの手を後ろにねじ上げる。これ以上の行動を取れないようにするため。
「よーし、いい子だな。正直に質問に答えてやれば喉もなでるし、魚もやるぜ? で、お前あの歪虚とはどういう関係だ?」
スペットがボルディアにまだ何も答えないうち、ルンルンが脇から入り、鼻に指を突き付ける。
「又吉、貴方が怪物を使った全ての連続殺人事件の真犯人だという事は、私がまるっとお見通しなのです! 悪の人造人間兵器で世界人類を征服し神聖ネコネコ帝国を作る野望を抱いているのだということくらい、想定の範囲内のたった一つの真実見抜く頭脳はニンジャ、名探偵ルンルン!」
咏はその推理を聞き、よろめいた。演技であることはいうまでもない。
「なんて恐ろしい陰謀っすか……」
わけの分からない容疑をかけられそうになって、スペットはかなり動揺した。
「ちゃうちゃうあれを作ったのは確かに俺やけど、誰も殺せなんてこと命令しとらへん! あれはベースにした死体に残っとった、記憶によるものやがな。ちゅうか俺は猫やないぞ!」
畳み掛けるハナ。
「死体って、どういうこと? ジョルジュさんは失踪していただけのはずですけどぉ」
「そんなん知らんがな。下水道に捨てられとったから拾うて使うただけや。リサイクルや」
「捨てられてたって、どんな風にぃ?」
「どんなふうにて、マンホールから落とされて足ベキベキや」
「猫、それは間違いないですかぁ?」
「猫やないちゅうに!」
まりおは、アンヘルを見た。
すうっと近づき、ぼそりと一言。
「アンヘルさん。あなた、バスコやカブラルと一緒にジョルジュを殺害したんだね?」
「なっ、何を言うか! わしは知らん!」
詩が聞こえよがしに言う。
「そうかなー……あの人、下水道で死体を見つけたんだって言ってるけど?」
アンヘルの額に筋が浮いた。
興奮仕切った様子で彼は、声を荒げる。
「だから何だ! し、し、死体を使って歪虚を作るような奴だぞ、そうだ、ジョルジュを殺したのもきっとや、や、奴に違いない!」
ファルは人の悪い笑いを浮かべる。
「さっき自分で『殺せと言った』って仰いましたよね?……ジョルジュさん、残念でしたね?」
「きっ、ききっ、貴様ら、わしを犯人扱いするとはどういうことだ! 無礼だぞ、無礼な! 名誉棄損だ!」
わめき続けるアンヘルを尻目に、ハナは、外で待機していた警官隊を呼ぶ。
入ってきた刑事が、アンヘルの肩に手をかけ、言う。
「アンヘルさん、署までご同行願えますかな?」
まりおは口笛を吹いた。
「これが年貢の納め時ってヤツ?」
両脇を挟まれ連れて行かれるアンヘル。とスペット。
「何だ貴様ら、わしは何も、何も……」
「えええ、なんで俺まで、俺関係ないやんけー!」
予想していた幕切れと大分違っても、ルンルンは高らかに胸を張る。
「……でも、これにて一件落着です!」
後日詩は、こっそりスペットの面会に行ってあげたらしい。
それぞれの持ち場で、ひそひそ話が交わされている。
今回の依頼、逆恨みが引き起こした事件にしては、不透明な部分が多過ぎる。
星野 ハナ(ka5852)とカチャは、声を潜めて囁きあい。
「これは事件の匂いがしますぅ。横領で告発された人がわざわざ戻って告発者を殺すとか不自然極まりないですぅ……どう考えたって怨恨ですよねぇ」
「横領告発以外にも何かされたとか?」
ファル・グリン(ka5449)は何がおかしいのか、くすくす笑っている。
「かもですよねぇ。ごく自然に考えれば、戻ってくる必要はありませんよぉ。ねぇ?」
「あ、そうそう。私さっき、ちょろっと警察の人達から聞いたのよぉ……アンヘルさん、ジョルジュが死んでるはずだって言ってたんだってぇ」
「おやおや。それは相当に確信を持っていないと、出てこない台詞ですねぇ」
ボルディア・コンフラムス(ka0796)は、ゴルフクラブよろしく、戦斧をぶんと一振り。
「フツーに考えたら、わざわざ殺して回る意味ねぇよな。額がでかいって言ったって、横領だろ。そのまま逃げ切れば取り得だし、仮にパクられたとしても、何年か食らいこんでりゃすむ話だ。殺人はその程度じゃすまねえぞ?」
ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)が首を傾げる。
「ですよえ。下手したら、いや下手しなくても死刑の公算が高いですよ。すでに2人もやってしまっていますから……告発されて、それほど腹が立ったってことなんですかねえ?」
メイム(ka2290)は地面に突き立てたスピアに寄りかかり、思案顔。
「そもそも、事件を起こしているのが本当にジョルジュなのかどうかも、あやしいっちゃあやしいし。警察、疑ってるんだよね。アンヘルたちがジョルジュを殺しているんじゃなかって。もし今襲ってきているのがジョルジュ本人なら、殺し損ねたってことになるんだろうけど」
「読めた……この連続殺人事件の真犯人は、別にいるッ!」
「……どこ見て喋ってんだルンルン」
「ああ、気にしないでボルディアさん。演出です演出」
「へえ、猫怪人が墓荒らししてたっすか」
「そうそう。名前は確か――スペットとか名乗ってたかな」
「名前があるってことは、野良じゃないっすね。しかし広いっすね~。信じられないくらい広くて面倒臭い庭っすね~。どんだけ金出したらこんな家が建てられるんすかね」
「ハンター業じゃ絶対手が届かない額だよね、きっと」
「そうっすよね~、どう考えても……」
西蓮寺 咏(ka5700)と軽口を叩きながら天竜寺 詩(ka0396)は、横にいた超級まりお(ka0824)が不意に立ち止まったので、何事かと足を止める。
「まりおさん、どうしたの?」
「…………」
まりおは、キツネにつままれたような顔で目を擦った。
「いや、なんかあそこの柵のところに人がいたんだけど、急に消えちゃって」
詩と咏は彼女が指す方向を見た。なるほど、確かに誰もいない。鉄柵がしらじら照明に照らされているだけだ。
「……どんな人だったの?」
「えーと、全身真っ黒のローブ着てて、顔が見えないくらい目深にフード被ってて。こっちを、そわそわしながら見てたんですよ。何て言うか、すっごく怪しいよねー。もしかして問題のジョルジュだったり?」
まりおは割と本気でそう思ったのだが、詩は違った。
(真っ黒のローブ。目深なフード。消える……それってもしかして……)
頭の中にもわもわと猫の顔が浮かびかけたところで、けたたましい悲鳴が響き渡った。
「アンヘルさん、どうし――うあああああ!?」
続けて銃声。
「マンマ・ミーア! もう襲われてる!?!」
まりおは即座に屋敷を見上げた。
襲われたのはアンヘル。アンヘルがいるのは寝室。寝室へ行くならいったん中に入るよりも、壁伝いの方が早い。
瞬時にそこまで判断し、勢いつけて壁に飛びつく。
「二人とも、お先っ!」
すみやかに寝室の窓までたどり着き、窓ガラスを叩き割る。
「ジョルジュ、アンヘルさんから離れ………って、え~!!?」
飛び込んだ先に広がっていたのは、想像していたのと全く違う光景だった。
アンヘルが首を絞められ殺されかけているまでは予想もついたが、それをやっている相手ときたら。
「人間じゃないじゃん。化け物じゃんジョルジュ」
なにしろ胸から下が蛇だ。そう表現して差し支えなかろう。警官が開いた扉の向こうに倒れている。あの人が銃を撃ったのだろうか。
「――って混乱してる場合じゃなくて!」
とりあえず救助優先。
まりおはMURAMASAで、化け物に切りかかった。
●
屋敷に飛び込んだボルディアとメイムは階段を駆け登る。屋内警備をしていた警官たちをかき分けるようにして。その後にルンルンが続く。
ただ犯人が現れただけで、あの悲鳴はあり得ない。
寝室のある階に到達すると、大きな重いものがのたくっているような激しい物音が聞こえた。
部屋の前に警官が倒れている。
とりあえずそれが死んでいないことだけ確かめ、中に飛び込んだ彼女たちは、蛇男の姿を目の当たりにした。
片手でアンヘルの喉を、もう片方の手でまりおの腕を掴んでいる。
間髪入れずボルディアは、とぐろを巻く蛇体に戦斧を叩きつけた。
「よお、初めましてジョルジュ! 蛇臭いなお前!」
黒い血が飛び散る。
(とにかくアンヘルを引き剥がさないと!)
メイムはアンヘルを掴んでいるほうの腕をスピアを突き刺した。
しかしジョルジュは腕を貫かれようとも、アンヘルを離そうとしない。むしろまりおを離す。投げつけるように。
「おっとお!」
メイムはそれを避け、連続攻撃に専念した。
頭を振って起きてきたまりおも、すぐ攻撃に戻る。
「蛇なら、腕は要らないはずだけど!」
ジョルジュの意識が彼女らに向いているうちに、ルンルンは、部屋の周囲や窓の外に地縛符を仕掛けて行く。
「ジュゲームリリカル……カードを伏せてターンエンド! こうしておけば、簡単には逃げられないもの――うひぃ!?」
ザラリと蛇体が触れた感触に飛び上がり、急いで脇に引っ込む。
そこに、ハナとカチャが駆けつけた。
「ひぃぃ、もうダメかもぉ~」
など言いつつハナは、五色光と桜幕府を立て続けに放つ。
ジョルジュの手が崩れる。白目のアンヘルを放す。
その機を逃さずカチャ、メイムは、アンヘルの足を掴み、引きはがしにかかった。
しかし、それは容易なことでなかった。ジョルジュは手が使えないと見るや、いきなりアンヘルの頭に、力の限り食らいついたのである。
歯が食い込んで血が流れる。その痛みで気絶していたアンヘルは、目を覚ました。
「ぎゃあああああ! はなせ、はなせえ!」
「あああまずいですこのまま引っ張ったらアンヘルさん頭の皮がずる剥けになります!」
「問題ないよカチャ! 死ぬよりマシだ引っ張れ!」
その騒ぎの真っ只中に入ってくる咏と詩。
「やばい、アンヘルさん呑まれるっす!」
飛び込むなり咏は、ジョルジュに、雨あられと八角棍を浴びせる。
追って詩は、ジャッジメントを放つ。
ジョルジュの動きがつかの間止まった。アンヘルが、ようやく引き離される。
ハナがそれを引き取り、部屋の隅まで引きずって行く。
詩は手早くアンヘルにヒールをかけ、保護のための結界を作り、改めてジョルジョに向き直った。
そして、眉を顰める。ジョルジュの首に、圧迫痕があるのを認めて。
(……あれって……)
●
ファルは寝室の扉の前で、周囲を警戒していた。
ここに来るまでに探ってみたが、これといった足跡は見つけられなかった。だが、妙だなと思うことはあった。
この屋敷の窓は防犯上、ひとつ残らず鍵をかけていたはず。なのに、何カ所か全開になっていた。
(逃走経路を確保するためですよねぇ……全部かけ直してきましたが……間違いなく第三者がいますね。どこかに)
部屋の中から、ハナとアンヘルの声が響いてくる。それはファルのみでなく、近くにいる警察関係者の耳にも入る。
「――なんでアンヘルさんだけ襲われたんだと思いますぅ!? 謝らないと、アンヘルさん殺されちゃいますよぅ!?」
「わしは知らん! バスコとカブラルが殺したんだ! わしだけは指一本触れとらん、恨むのは筋違いだ!」
●
アンヘルが絶叫したその瞬間、ジョルジュの姿が消えた。
メイムは荒れた部屋の中を睨み回した。
この唐突な消失、覚えがある。
「む、例の猫幻獣の気配! ……皆、注意して。見えないし触れないけど、確かに今結界が張られているはずだから」
ルンルンは額に指を当て、フフフと含み笑いをする。
「謎は全て解けた、真犯人はこの中にいます……そこに居るのは分かってるんだからっ!」
分かってはいても、さてどこにいるのかとなると、さっぱり感じ取れない。そのへんは前と一緒だ。
(何か隙を誘う手とか、ないかなあ)
思って詩は、鞄の中を探る。どういう次第か、ススキの束が出てきた。
(……そういえば、猫頭だったよね)
ならもしかして猫の習性に引き摺られるかもしれない。そのように期待し彼女は、ススキを、猫じゃらしの用に振ってみる。
それを見たカチャは、鳴き真似をしてみた。
「ニャ~オ~ミャ~オ~」
咏も行動を起こす。自分も動揺を誘えれば、と。確信が持てないながら、あさっての方向を指さして。
「見つけたっす!」
そのとき空中に、パリンっと微かな火花が走った。
メイムはかっと目を見開き、虚空目がけ、スピアでの二段攻撃を行う。
「そこかあっ!」
一段目の攻撃で立方体が浮かび上がり、砕けた。
「こら、やめえ! 出るな! 帰るんや! 作ったった俺の言うことを聞――」
ジョルジュが飛び出してくる。スペットを太い尾で思い切り弾き飛ばして――どうやら制作者に対し忠誠心を持たない仕様らしい。
二段目の攻撃が、その胸に突き刺さった。
しかしジョルジュはわき目も振らず、アンヘルのいる方向に向かう。
アンヘルは場から逃げたくても逃げられない。ハナがこっそり足元に、地縛符を仕掛けていたので。
「ひぃ、動けません~、これもジョルジュさんの呪いかもぉ!」
「ぎゃあやめろお!! わしは見てただけだそれだけだ! あの2人が勝手にやったんだ! いや殺せと言ったかも知れないがあれは単なる言葉のあやで……」
詩の結界が、ジョルジュの侵入を阻む。
ジョルジュはのたくるような声を絞り出す。それはもう人間のものではなかった。
オぉぉぁあエぇえこぅロぉおすぅうゥ
「ぐおお……助けに来てやったのに何さらすねんお前……」
起き上がったスペットが魂の叫びを上げる。
「あかーん! 融合とけてまうー!」
ボルディアは、犬歯が生えた口を歪めた。
「死んだやつぁ生き返ったりしねぇンだよ……」
ジョルジュの脳天目がけ振り下ろされる鉄の塊。
「だからよ、可哀想なジョルジュ。テメェにゃ悪いが黙って死にな!」
人間の頭が砕け散った。
蛇の体はピクピク痙攣した後、煙を上げ急速に溶解して行く。
メイムはぬかりなくスペットに注意を向ける。歪虚がいなくなった以上、必ず場から逃げ出そうとするはずだと踏んで。
その予想は正しかった。いち早く自己の回りに結界を敷いたのか、今そこにいたはずのスペットの姿が、ない。
だが案ずるには及ばなかった。立方体が半透明に浮かび上がっていたからだ。ダメージを受けた上に急ごしらえで、うまく作れなかったらしい。
ファルが一言。
「侵入者さん、分かっていますよ?」
メイムはパルムたちに命じた。
「行ってキノコ!」
パルムがキノコ弾として飛ぶ。結界が砕ける。
スペットはとっさに両手を、ハンターたちに向けた。彼らの側を閉じ込めようと。
それよりわずかに早く、詩がジャッジメントを放つ。
張ろうとしていた結界は不完全なままに終わった。
そこでボルディアが、みぞおちに一発。
「ぶへ!」
膝をついたスペットの手を後ろにねじ上げる。これ以上の行動を取れないようにするため。
「よーし、いい子だな。正直に質問に答えてやれば喉もなでるし、魚もやるぜ? で、お前あの歪虚とはどういう関係だ?」
スペットがボルディアにまだ何も答えないうち、ルンルンが脇から入り、鼻に指を突き付ける。
「又吉、貴方が怪物を使った全ての連続殺人事件の真犯人だという事は、私がまるっとお見通しなのです! 悪の人造人間兵器で世界人類を征服し神聖ネコネコ帝国を作る野望を抱いているのだということくらい、想定の範囲内のたった一つの真実見抜く頭脳はニンジャ、名探偵ルンルン!」
咏はその推理を聞き、よろめいた。演技であることはいうまでもない。
「なんて恐ろしい陰謀っすか……」
わけの分からない容疑をかけられそうになって、スペットはかなり動揺した。
「ちゃうちゃうあれを作ったのは確かに俺やけど、誰も殺せなんてこと命令しとらへん! あれはベースにした死体に残っとった、記憶によるものやがな。ちゅうか俺は猫やないぞ!」
畳み掛けるハナ。
「死体って、どういうこと? ジョルジュさんは失踪していただけのはずですけどぉ」
「そんなん知らんがな。下水道に捨てられとったから拾うて使うただけや。リサイクルや」
「捨てられてたって、どんな風にぃ?」
「どんなふうにて、マンホールから落とされて足ベキベキや」
「猫、それは間違いないですかぁ?」
「猫やないちゅうに!」
まりおは、アンヘルを見た。
すうっと近づき、ぼそりと一言。
「アンヘルさん。あなた、バスコやカブラルと一緒にジョルジュを殺害したんだね?」
「なっ、何を言うか! わしは知らん!」
詩が聞こえよがしに言う。
「そうかなー……あの人、下水道で死体を見つけたんだって言ってるけど?」
アンヘルの額に筋が浮いた。
興奮仕切った様子で彼は、声を荒げる。
「だから何だ! し、し、死体を使って歪虚を作るような奴だぞ、そうだ、ジョルジュを殺したのもきっとや、や、奴に違いない!」
ファルは人の悪い笑いを浮かべる。
「さっき自分で『殺せと言った』って仰いましたよね?……ジョルジュさん、残念でしたね?」
「きっ、ききっ、貴様ら、わしを犯人扱いするとはどういうことだ! 無礼だぞ、無礼な! 名誉棄損だ!」
わめき続けるアンヘルを尻目に、ハナは、外で待機していた警官隊を呼ぶ。
入ってきた刑事が、アンヘルの肩に手をかけ、言う。
「アンヘルさん、署までご同行願えますかな?」
まりおは口笛を吹いた。
「これが年貢の納め時ってヤツ?」
両脇を挟まれ連れて行かれるアンヘル。とスペット。
「何だ貴様ら、わしは何も、何も……」
「えええ、なんで俺まで、俺関係ないやんけー!」
予想していた幕切れと大分違っても、ルンルンは高らかに胸を張る。
「……でも、これにて一件落着です!」
後日詩は、こっそりスペットの面会に行ってあげたらしい。
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事件解決するにゃ ファル・グリン(ka5449) 人間(クリムゾンウェスト)|26才|男性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2016/03/24 21:15:36 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/03/23 04:23:03 |