ゲスト
(ka0000)
クルセイダーのがっこう!
マスター:馬車猪

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 4日
- 締切
- 2016/03/20 15:00
- 完成日
- 2016/03/25 14:11
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●学校
正午を告げる鐘が鳴った。
教室内は静かだ。
10歳前後の少年少女が無言でノートにペンを走らせ、板書された教義解釈を必死で書き写している。
「今日はここまで」
教壇から金壺眼がぎろりと教室を見渡した。
子供達は追い立てられるようにペンを置く。
「起立!」
最年長の少女が号令をかけ生徒達が緊張した顔で立ち上がる。
「気をつけ!」
幼い子供も精一杯背筋を伸ばす。
「礼!」
ありがとうございましたと声を揃えて頭を下げた。
「今期の座学は今日で終わりだ。来週から実践演習を行う。体調と装備を調えておくように」
黒々とした髪の老司教がそう言い残し、子供達よりしっかりした姿勢と足取りで教室を出て行った。
「着席!」
姿勢が崩れる。
ある者は着席し損ねて目の前の机のしがみつき、またある者は着席には成功して脱力し、極少数は気力を振り絞って黒板を最後まで書き写そうとしていた。
「ねぇ」
「なんだよ級長」
主席と次席を争う少女と少年が、お互い視線も向けずにペンを動かす。
「どの装備を選ぶつもり」
「あん? ンなのメイスと革鎧に決まってンだろ。課題はどうせ今回も出来たてスケルトンだろーが」
少年が鼻を鳴らす。
少女は最後まで書き終えてから、隣を見て口元だけで冷たく笑った。
「本当に?」
少年の眉間にしわが寄る。
ここに来るまで毎日浴びせられていた罵詈雑言をぶちまける直前、ようやくライバルの意図に気づく。
「あの司教がンな甘い演習するはずがねぇってことか。チッ、重装備の使用許可とって練習……げ」
何かに気づいて思わず呻く。
「なあ、先週リアルブルーの銃が運び込まれたよな?」
「初耳ね。情報収集も評価対象ってことか。……これで貸し借り無しね」
ノートと筆記用具を鞄にしまい、彼女は同性の後輩たちの面倒を見に教室内を回る。
「最後の最後まで楽をさせねぇつもりか」
大きく息を吐きいて自分の額に手を当てる。
熱い。頭の使いすぎだ。
「ヘッ、上等だ。ここを卒業して助祭位を手に入れて、上の上まで上がってやらぁ」
野望に燃えているのは彼だけではない。
教室にいる全員が、それぞれ強い望みを持ち心身を鍛え続けていた。
●校長
「参ったのう」
校舎に隣接する見張り台の上で、黒髪の老司教が腕を組んでいる。
見渡しても校舎と宿舎と細い道しかない。
勉学と訓練に集中するには良い土地だ。育成も順調でこのままいけばホロウレイドの穴埋めも出来るはずだった。
が、この場所では最新の情報に触れる機会が無いも同然だ。
サルヴァトーレ・ロッソ出現以後変化していく社会への対応できるかどうかを考えると、かなり大きな不安がある。
「リアルブルーに詳しい司祭か司教を呼ぶ……いやいや」
候補はどれも問題がある。
聖堂教会への貢献は大きいが、欲に忠実過ぎ肥え太った金満司教。
能力と志望が正反対の若手司祭。
どちらも多感な少年少女に悪影響を与えること間違いなしの問題児どもだ。
「司教!」
学校警備に雇われた兵士3人が走ってやって来る。
「演習予定地域に新たな歪虚は発生していません。1つ奥地側の地域も調査しましたが、そこには演習に使うには大きすぎる群れがいたためやむなく殲滅しました」
群れとはいっても負のマテリアルが凝って形をとったスケルトンが数体だ。
駆け出しハンターでも装備を調えれば1人で無理なく倒せる程度。しかし覚醒者とはいえ駆け出し未満の子供達には強すぎる相手だった。
「ご苦労」
司祭が兵士をねぎらう。
教育のため強面では無く、第一線を退いた老人らしい穏やかさがあった。
「君達は明日から休暇だったね」
「はい。酒しか娯楽がないですし北の街に出て羽を伸ばして来ようかと」
にやりと笑って指で下品な仕草をする。
「若いのう、うむ」
愉快そうに笑って、懐から財布を取り出し兵士に渡す。
「ハンターズソサエティに依頼を頼む。余った分は飲み代に当てて構わんよ」
3人は気合の入った敬礼を司教に捧げた後、翌日の夜明けまで完全な安全を学校と生徒達に提供した。
●オフィス
新たな依頼票が3Dディスプレイとして立ち上がる。
依頼目的は聖堂教会が運営する全寮制私塾のサポートだ。
具体的な仕事内容は以下の通り。
生徒に対する教育。特にリアルブルーやそれに影響された王国内の人や物や出来事について。体験談可。
演習予定地での歪虚の間引き。スケルトン1組2~4体が複数徘徊しているので1体ずつになるように。
奥地での歪虚駆除。動きの鈍いやや大型または大型を含むスケルトンがいると思われる。
「職員さーん、全寮制私塾ってなんですかー?」
辺境出の少年ハンターが素直にたずねた。
「はい……その依頼ですか」
職員の1人が眼鏡を直しながら依頼票に近づく。
「リアルブルーでいう小学校の年代の子が通う学校からの依頼です。生徒は覚醒者限定で出資は聖堂教会ですね」
「きょうかい? かたくるしい?」
小首をかしげるハンターに、職員が頬と耳を淡い桜色に染める。
「はい、多分」
「そっかー、ありがとー!」
元気に礼を言って別の依頼を物色し始める。
「堅苦しいだけで済めばいいんですけどね。ここ、聖堂教会のあの派閥が関わっているはずですから」
笑顔で歪虚に襲いかかる人たちはちょっと……と内心つぶやいて、職員はカウンターに戻って受けつけ業務を再開するのだった。
●あり得る未来
「行くわよ、上の上まで」
「ヘッ、まさかこうなるなんてよ」
2人の司教に率いられ狂信者の群れが動き出す。
彼等は反地球の旗を掲げ、王城および大聖堂を急襲し膨大な血を流すことになる。
正午を告げる鐘が鳴った。
教室内は静かだ。
10歳前後の少年少女が無言でノートにペンを走らせ、板書された教義解釈を必死で書き写している。
「今日はここまで」
教壇から金壺眼がぎろりと教室を見渡した。
子供達は追い立てられるようにペンを置く。
「起立!」
最年長の少女が号令をかけ生徒達が緊張した顔で立ち上がる。
「気をつけ!」
幼い子供も精一杯背筋を伸ばす。
「礼!」
ありがとうございましたと声を揃えて頭を下げた。
「今期の座学は今日で終わりだ。来週から実践演習を行う。体調と装備を調えておくように」
黒々とした髪の老司教がそう言い残し、子供達よりしっかりした姿勢と足取りで教室を出て行った。
「着席!」
姿勢が崩れる。
ある者は着席し損ねて目の前の机のしがみつき、またある者は着席には成功して脱力し、極少数は気力を振り絞って黒板を最後まで書き写そうとしていた。
「ねぇ」
「なんだよ級長」
主席と次席を争う少女と少年が、お互い視線も向けずにペンを動かす。
「どの装備を選ぶつもり」
「あん? ンなのメイスと革鎧に決まってンだろ。課題はどうせ今回も出来たてスケルトンだろーが」
少年が鼻を鳴らす。
少女は最後まで書き終えてから、隣を見て口元だけで冷たく笑った。
「本当に?」
少年の眉間にしわが寄る。
ここに来るまで毎日浴びせられていた罵詈雑言をぶちまける直前、ようやくライバルの意図に気づく。
「あの司教がンな甘い演習するはずがねぇってことか。チッ、重装備の使用許可とって練習……げ」
何かに気づいて思わず呻く。
「なあ、先週リアルブルーの銃が運び込まれたよな?」
「初耳ね。情報収集も評価対象ってことか。……これで貸し借り無しね」
ノートと筆記用具を鞄にしまい、彼女は同性の後輩たちの面倒を見に教室内を回る。
「最後の最後まで楽をさせねぇつもりか」
大きく息を吐きいて自分の額に手を当てる。
熱い。頭の使いすぎだ。
「ヘッ、上等だ。ここを卒業して助祭位を手に入れて、上の上まで上がってやらぁ」
野望に燃えているのは彼だけではない。
教室にいる全員が、それぞれ強い望みを持ち心身を鍛え続けていた。
●校長
「参ったのう」
校舎に隣接する見張り台の上で、黒髪の老司教が腕を組んでいる。
見渡しても校舎と宿舎と細い道しかない。
勉学と訓練に集中するには良い土地だ。育成も順調でこのままいけばホロウレイドの穴埋めも出来るはずだった。
が、この場所では最新の情報に触れる機会が無いも同然だ。
サルヴァトーレ・ロッソ出現以後変化していく社会への対応できるかどうかを考えると、かなり大きな不安がある。
「リアルブルーに詳しい司祭か司教を呼ぶ……いやいや」
候補はどれも問題がある。
聖堂教会への貢献は大きいが、欲に忠実過ぎ肥え太った金満司教。
能力と志望が正反対の若手司祭。
どちらも多感な少年少女に悪影響を与えること間違いなしの問題児どもだ。
「司教!」
学校警備に雇われた兵士3人が走ってやって来る。
「演習予定地域に新たな歪虚は発生していません。1つ奥地側の地域も調査しましたが、そこには演習に使うには大きすぎる群れがいたためやむなく殲滅しました」
群れとはいっても負のマテリアルが凝って形をとったスケルトンが数体だ。
駆け出しハンターでも装備を調えれば1人で無理なく倒せる程度。しかし覚醒者とはいえ駆け出し未満の子供達には強すぎる相手だった。
「ご苦労」
司祭が兵士をねぎらう。
教育のため強面では無く、第一線を退いた老人らしい穏やかさがあった。
「君達は明日から休暇だったね」
「はい。酒しか娯楽がないですし北の街に出て羽を伸ばして来ようかと」
にやりと笑って指で下品な仕草をする。
「若いのう、うむ」
愉快そうに笑って、懐から財布を取り出し兵士に渡す。
「ハンターズソサエティに依頼を頼む。余った分は飲み代に当てて構わんよ」
3人は気合の入った敬礼を司教に捧げた後、翌日の夜明けまで完全な安全を学校と生徒達に提供した。
●オフィス
新たな依頼票が3Dディスプレイとして立ち上がる。
依頼目的は聖堂教会が運営する全寮制私塾のサポートだ。
具体的な仕事内容は以下の通り。
生徒に対する教育。特にリアルブルーやそれに影響された王国内の人や物や出来事について。体験談可。
演習予定地での歪虚の間引き。スケルトン1組2~4体が複数徘徊しているので1体ずつになるように。
奥地での歪虚駆除。動きの鈍いやや大型または大型を含むスケルトンがいると思われる。
「職員さーん、全寮制私塾ってなんですかー?」
辺境出の少年ハンターが素直にたずねた。
「はい……その依頼ですか」
職員の1人が眼鏡を直しながら依頼票に近づく。
「リアルブルーでいう小学校の年代の子が通う学校からの依頼です。生徒は覚醒者限定で出資は聖堂教会ですね」
「きょうかい? かたくるしい?」
小首をかしげるハンターに、職員が頬と耳を淡い桜色に染める。
「はい、多分」
「そっかー、ありがとー!」
元気に礼を言って別の依頼を物色し始める。
「堅苦しいだけで済めばいいんですけどね。ここ、聖堂教会のあの派閥が関わっているはずですから」
笑顔で歪虚に襲いかかる人たちはちょっと……と内心つぶやいて、職員はカウンターに戻って受けつけ業務を再開するのだった。
●あり得る未来
「行くわよ、上の上まで」
「ヘッ、まさかこうなるなんてよ」
2人の司教に率いられ狂信者の群れが動き出す。
彼等は反地球の旗を掲げ、王城および大聖堂を急襲し膨大な血を流すことになる。
リプレイ本文
●講義
全身金属鎧が教壇に上がる。
生徒達では押し潰されるほどの重量があるのに、金属鎧の動きは実に滑らかだ。
熟練教師に迫る速度でチョークを振るう。
寛容。
その単語を黒板全体を使って書き込んだ後、セリス・アルマーズ(ka1079)が生徒に向き直って兜を脱いだ。
「エクラの教義は他の命への寛容である」
強い力を湛えた碧眼が生徒達の心を覗き込む。
「例えどんなに理解が困難な考え方、生き方であっても、それを否定してはいけない」
凡人が言えば美しく響くだけの空論になる。
だがセリスは他国人や他世界人と出会い共闘しときには激しくぶつかり合ってきた。
共通する部分と相容れぬ部分があることを実感した上で、理想に近づく意思と強さがある。
「ただし歪虚は除く」
うっかり殺気が漏れてしまい最前列の生徒数名が体を硬直させ。
「西を見れば分かるようあれ等は強い」
ホロウレイドで当時の王国軍主力が半壊しただけではない。大きな島を占領され今でも取り返せていない。
「幸いなことにリアルブルーから同志が来てくれた。彼等の力としてこれが目立つがこれだけではない」
大型のライフルを持ち上げる。
「銃を前提とした戦術、銃を生産維持運用するための膨大な技術と知識」
大はCAMから小は調味料まで、異なる世界との接触はクリムゾンウェストに大きな影響を与えている。
「これらを持つ彼等は我らと共に歩む力強い友人です。共に手を取り合い、歪虚を完滅しましょう」
白い歯を見せ穏やかに微笑む。
生徒達は徹底的に圧倒されていて、気を取り直して拍手を始めるまで1分以上の時間が必要だった。
「はいみなさん注目」
セリスと交代してルシェン・グライシス(ka5745)が教壇に立った。
鎧兜に身を包んだセリスとは対照的に、すこぶる色っぽい体を薄手のローブで包んでいる。
性に目覚めたばかりらしい少年数名が顔を赤くしていた。
「ルシェン・グライシスです。司教様から生徒指導を任されました」
動揺して聞いていない少年達の名を1人1人呼んで軽く注意をし、級長に藁半紙の束を渡し全員へ配らせる。
「良い機会ですので進路指導と併せて行います。皆さん、正直に現状と志望を記入してくださいね」
なんとか気を取り直した生徒達が藁半紙を見えると、進路と学力と戦闘技能についての質問がびっしりと書き込まれていた。
ルシェンが教壇を降り机と机の間を歩む。
女性徒からは憧れと嫉妬の視線が、男子生徒からは情欲と憧れの視線が予想通り集まってくる。
ただ、それ以外の、心当たりのない感情が向けられていることにも気づく。
答えが出ないので生徒の相手に集中する。
志望は聖堂戦士団が多いようだった。
「あなたは今のうちに体力錬成しないと入団後に耐えきれないわ。あなたは……後1年で知識面を補うこと」
同年齢の子供に比べれば頭も体も鍛えられているとはいえ、席を争う相手はもっと育っている者もいるし才人もいる。
「次の時間は補修を行います」
ルシェンは白墨で、全生徒の名とそれぞれの予定を黒板に書いていった。
●間引き
黒い錫杖が頭蓋の脆くなった箇所を打ち抜いた。
消滅してもおかしくないはずだがぎりぎりで耐え、反撃の拳を日下 菜摘(ka0881)に向かって繰り出した。
「っ」
錫杖を引き戻すのは間に合わない。
回避するにもたまたま足場が悪すぎた。
乾いた拳が戦闘用カソックに直撃し、しかし仕込まれたチェインメイルが防ぎきる。
「手加減も大変です」
半壊した頭蓋に止めの一撃をプレゼント。
頭部を失い消滅していく雑魔を確認した後、改めて演習予定地を見渡した。
出現する雑魔の数も質も低く、牧草地と使えそうなのに人の気配が全くない。
戦馬があくびをする。
全力の半分も出さない速度で歩くだけで、1体のみ生き残ったスケルトンが引き離された。
「子供達の演習の安全性を確保する為も……いえでも」
獣が潜んでいそうな草だらけの元畑や半壊状態の民家など、子供向け演習場としては難易度が高そうなものが多数ある。
「どこまでしてあげればよいのか迷ってしまいますね」
ほぼ無意識の動作でマテリアルを放つ。
宙を移動する間に攻撃的な性質を持つ光弾になり、壊れた扉から覗いていたスケルトンのうち1体を射貫き止めを刺した。
ふと気付く。
東よりを掃討中だったルシェンが、菜摘の表情を見てから何やら考え込んでいる。
あの子達母性に飢えているのかしらとつぶやいてもいたが、遠くて通信機もないので菜摘の耳には届かない。
「未探査地域からの歪虚流入は確認できず、演習予定の歪虚出現頻度も予想の範囲内。演習は予定通り明日ですね」
楽すぎて気が抜けかかった馬に注意を促し、菜摘は複数で行動する雑魔を見つけては攻撃を繰り返す。
校舎を挟んで逆側でも間引きが行われていた。
「えいっ」
ソナ(ka1352)が最初に仕掛けた。
赤く鋭い刃が汚れた肋骨を切り飛ばす。
手のひらに伝わる感触が気持ち悪い。亡骸からではなく負のマテリアルから発生した雑魔とはいえ見た目も正直ホラーだ。
スケルトンの影から無傷のスケルトンが飛び出した。
「たぁっ!」
通常サイズの盾で迎撃する。
スケルトンは速度と体重を載せた拳を突き出してくる。
分厚い盾と乾いた骨がぶつかり合う。
数秒の拮抗。
筋肉の有無の分ソナがスケルトンを上回り、骸骨の上体が不自然な形で逸らされた。
その状況で、ソナは追撃は行わずに一歩後退する。
片側の肋骨を失った雑魔が直前までソナがいた空間を左から右に横切った。
「負けませんよ」
いつもはおっとりした表情を引き締め、若いエルフは複数の雑魔と互角以上に戦っていた。
「防具は服と盾だけか。女の聖導士は士気が高いな」
北西担当のクルス(ka3922)は、ソナの奮闘を馬上から眺めていた。
受けか回避が後少しだけ上達すれば1つか2つ格上の歪虚を圧倒できるようになるはずだ。
西に向き直る。
未探査地域から流れてきたらしき武装スケルトンが5体、陣形に見えないこともない配置でこちらに近づいてくる。
「気付いているよな?」
一瞬振り返って校舎の状況を確かめる。
見張り台の上の傭兵が反応している。大きく身を乗り出し、床が壊れでもしたようにバランスを崩していた。
「あの物見台、何とかしといた方がよくねえか」
雑魔を待ち受けながら大型メイスに力を注ぐ。
マテリアルが零れ、クルスの意思に従い光弾となって飛び、右端の武装雑魔の頸骨を射貫いた。
「俺の時は修行だか授業だかにかこつけて、よく肉体労働させられたぞ。物くらい治せないで人が治せるかってな」
依頼人と生徒の目がないせいか愚痴に近い思考が口から漏れた。
軽く息を吐いて改めて雑魔を見る。
法術の精度と威力には自信がある。最初に当たったスケルトンは完全に消滅していた。
「1つ残すぞ」
鬼が仕掛けた。
骸骨が受けに用いた錆び長剣が半ばから折れ、太刀は止まらず骸骨を頭から押し潰した。
「……ふん」
イッカク(ka5625)が一度だけ振り返る。
陸の孤島あるいは牢獄に見える校舎で、1つやらねばならぬことに気づいていた。
●社会の上と下で
昼過ぎの食堂で、エステル(ka5826)はフォークとナイフを上品に動かしている。
昼食に用意されたのは作り置きのパンと野菜たっぷりスープ、メインは厚い猪肉の塩焼き。
見た目と味は並でも栄養と量は十分な内容だ。
「懐かしいですね」
エステルは生徒達より2、3歳年上の聖導士だ。
彼等の先輩にあたり、細部は違うが彼等と同じように聖導士としての教育を受けた。
後輩であり将来肩を並べる仲間を眺めると、自然と心が浮き立つ。
「こういう学校……ま、あるだろうな。そりゃあ、あるだろうよ」
対照的に内心クルスは苛苛している。
彼も聖導士だ。師と出会えた以外は実質1人で必要な技術と知識と力を身につけ、ハンターとして身を立てた聖導士なのだ。
「こんなご立派なトコは知らねえけどな」
泥水でも白湯でもなく、檸檬と砂糖で味付けられた水を飲み干し立ち上がる。
「ちっ」
ここの生徒達は衣食住が揃った環境で経験豊かな先達から教えを受けている。
少し苛立つ程度で済んでいることが、クルスの心が十分に鍛えられていることの証明になっていた。
「おい」
生徒の中で一番体が仕上がっている少年に声をかける。
「クルセイダーは何かに勝つための力ってより、負けないための力って部分が大きい。折角持ってる力の使い方、間違えんなよ。……頭の使い方もな」
不快な感情を薄っぺらな笑顔で隠す少年に気付きはしたがそれ以上何も言わず、クルスは間引きを続けるため建物の外へ出た。
「おい、お前。お前だ」
クルスと比べても遠慮の全くない声で呼びかけられ少年の笑顔がひび割れる。
眉間に皺を寄せて振り返り、座っていてなお見上げるほど大きな鬼に気づいて目を剥いた。
「ぎらぎらした目をしやがって……。なあ、お前はこん先偉くなってどうしたいんだ?」
使い終わった爪楊枝を指で挟んで粉にする。
「そ、それはもちろん」
エクラを信じ世のため人のためと建前を述べる少年を、イッカクはただ見つめるだけで黙らせた。
「本音を言っても司教の爺さんには伝えねぇよ」
ジョッキを傾け新鮮で清潔な水を飲み干す。
「懺悔を聞いたりもすんだろ? 練習と思って黙って聞いてろ」
察したエステルが他の生徒を誘導して外へ。
2人だけが残った大部屋で、イッカクは淡々と話を続けた。
「俺ぁ物心ついた時にゃ親はいなくてよ、食う物にも困ってた有様だ。だからでけぇ声じゃ言えねぇが他人様の物奪って何とか食い繋いできた。そんな俺だからよ、立派な奴にゃなれるとは思えなかった。けどお前らは違ぇだろ? 才能もあって親もいて金もある、おまけにこんな寺子屋で学んでいやがる。ハッ、親はいねぇって顔だな。打算があってもここまで面倒見てくれる赤の他人がいるかよ」
笑う。
侮辱ではなく子供の幼さを面白がる声に少年が激昂しかかった。
「なあ、そんなお前らは、偉くなった先、どうしたいんだ?」
紅の瞳が少年を見据える。
その色があまりに深すぎて、まだ己の都合しか頭に無い子供は、一言も返すことが出来なかった。
●戦闘演習
間引きという演習準備がハンターによって完遂されたため、演習が数週間前倒しで行われることになった。
「これより演習を開始する」
ロニ・カルディス(ka0551)が静かに宣言した。
「諸君等には班ごとに分かれた上で演習を行ってもらう。班分けと演習の場所は今から配る紙に書いてある」
「はい、人数分ありますから順番に取りに来てくださいね」
ソナは机の上に印刷済み藁半紙を置き、生徒達に向かって手招きした。
一番体力が無さそうな子も結構筋肉がついている。身のこなしについては個人差はあるが、濃いマテリアルを感じるので皆覚醒はできるはずだ。
「はい、頑張ってね」
後輩の面倒を見る聖導士エルフは、本当に楽しそうだ。
「4月に卒業予定の者は最も厳しい場所に向かってもらう。行動全てが評価の対象になる。決して油断せず、硬くならず、ここで磨いたものを発揮するように。では解散」
少年少女による哨戒と戦闘は、相手が骸骨1体でも意欲に実力が追いついていない。
緊張のあまり近くにいる雑魔を見落としたり、実力の半分も出せたら軽傷未満で倒せるはずの骸骨に骨を折られるものまでいた。
「何をしている。まだ演習は終わっていないぞ。ヒールが尽きたならそれ以外の手段で戦友を助けなさい」
助けを求める年長組にそう答え、ロニは傷ついた少女達を静かに見下ろしていた。
「ロニ様」
エステルが縋るような目でみつめる。
実際はどこまで自主性に任せるかの無言の相談だけれども、疲れ傷ついた子供達には険悪な空気にしか感じられなかった。
空が赤く染まっていく。ロニが小型の照明を取り出す。
「君、これの名称と機能、利点と欠点を説明しなさい。ああ、応急治療はエステルさんに任せなさい。今の君には出来ないようだからね」
年長の少女が唇を噛んで屈辱に耐え、しかしすぐに表情を取り繕ってLED式ライトの説明を始める。
「事前に説明した通りに処置しますからね」
エステルは汚れるのも気にせず跪く。
年少の少女の呼吸を確かめ服の一部を咲いて肌と骨の状態を確認。
癒しの術を使いたくなるのを頑張って我慢して、添え木も当てて固定する。
ただ早いだけではなく苛酷な状況での最善を目指した実用的な技だ。
「頑張りましたね」
背中を撫でてやる。
泣きながら礼を言う少女はただ感激しているだけだが、ロニに厳しく指導されている年長の少女は技術の高さに気づいている。
「よろしい。合格点だ。付け加えるなら現時点では手に入れづらい点だな。対歪虚戦にも予算の限界がある。両者利点と欠点があるが、今のところ伝統的な手法が勝ることも多い。クリムゾンウェストの技術と組み合わせる研究も実際に行われているが……」
いずれ確実に成果は出るがいつ完成するかまでは分からないと、ロニは少し残念そうな顔で説明を終えた。
ロニが演習終了と現地解散を言い渡す。
「あなたは……」
この時点で主席卒業が確定した少女が、悔しさの隠しきれない態度でエステルに近づいてくる。
表情と姿勢の上品さがここ数年の訓練によるものであることも、食堂で羨望と嫉妬の視線をこっそり向けられていたことも、エステルは最初から気づいていた。
「戦場では何もかも足りません」
ノアーラ・クンタウでの戦いを思い出す。
一兵卒から東方帝まで全てを振り絞って戦ったあの日。足りないものを補うため自らを酷使した兵士達。
エステルも限界まで力を尽くした確信はあるけれども、思い出すたびに心の深い部分に痛みを感じる。
「だから私も、他の皆さんと同じように努力を続けるのです」
自分がなりたい存在である、社会の上層の人間が自分以上に苛酷な生き様をしているのに気付き、少女は何も言えなくなった。
「手隙の人集まってください。すごいですよここ」
ソナの明るい声が緊迫した雰囲気をかき消した。
「貴重な薬草が自生しています。多分もとは腕のいい農家さんの畑ですね。手入れは必要ですけどこれなら……」
彼女は植物採集と薬調合が趣味なのだ。
「まあ」
エステルが目を輝かせる。
武門の生まれであり、聖導士であり、あの戦場をくぐり抜けた1人として非常に興味がある。
「あ、でも依頼期間が」
残念ながら、畑の手入れをできるだけの依頼期間はない。
「……任地が決まってここを出るまで、私が世話をするつもりです」
少女の顔には、ハンターが初めて見る穏やかな表情が浮かんでいた。
最終的に3分の1近くが卒業を認められ、主に聖堂戦士団配属された。
在校生と学校は、来月の新入生入学へ向け準備を進めている。
全身金属鎧が教壇に上がる。
生徒達では押し潰されるほどの重量があるのに、金属鎧の動きは実に滑らかだ。
熟練教師に迫る速度でチョークを振るう。
寛容。
その単語を黒板全体を使って書き込んだ後、セリス・アルマーズ(ka1079)が生徒に向き直って兜を脱いだ。
「エクラの教義は他の命への寛容である」
強い力を湛えた碧眼が生徒達の心を覗き込む。
「例えどんなに理解が困難な考え方、生き方であっても、それを否定してはいけない」
凡人が言えば美しく響くだけの空論になる。
だがセリスは他国人や他世界人と出会い共闘しときには激しくぶつかり合ってきた。
共通する部分と相容れぬ部分があることを実感した上で、理想に近づく意思と強さがある。
「ただし歪虚は除く」
うっかり殺気が漏れてしまい最前列の生徒数名が体を硬直させ。
「西を見れば分かるようあれ等は強い」
ホロウレイドで当時の王国軍主力が半壊しただけではない。大きな島を占領され今でも取り返せていない。
「幸いなことにリアルブルーから同志が来てくれた。彼等の力としてこれが目立つがこれだけではない」
大型のライフルを持ち上げる。
「銃を前提とした戦術、銃を生産維持運用するための膨大な技術と知識」
大はCAMから小は調味料まで、異なる世界との接触はクリムゾンウェストに大きな影響を与えている。
「これらを持つ彼等は我らと共に歩む力強い友人です。共に手を取り合い、歪虚を完滅しましょう」
白い歯を見せ穏やかに微笑む。
生徒達は徹底的に圧倒されていて、気を取り直して拍手を始めるまで1分以上の時間が必要だった。
「はいみなさん注目」
セリスと交代してルシェン・グライシス(ka5745)が教壇に立った。
鎧兜に身を包んだセリスとは対照的に、すこぶる色っぽい体を薄手のローブで包んでいる。
性に目覚めたばかりらしい少年数名が顔を赤くしていた。
「ルシェン・グライシスです。司教様から生徒指導を任されました」
動揺して聞いていない少年達の名を1人1人呼んで軽く注意をし、級長に藁半紙の束を渡し全員へ配らせる。
「良い機会ですので進路指導と併せて行います。皆さん、正直に現状と志望を記入してくださいね」
なんとか気を取り直した生徒達が藁半紙を見えると、進路と学力と戦闘技能についての質問がびっしりと書き込まれていた。
ルシェンが教壇を降り机と机の間を歩む。
女性徒からは憧れと嫉妬の視線が、男子生徒からは情欲と憧れの視線が予想通り集まってくる。
ただ、それ以外の、心当たりのない感情が向けられていることにも気づく。
答えが出ないので生徒の相手に集中する。
志望は聖堂戦士団が多いようだった。
「あなたは今のうちに体力錬成しないと入団後に耐えきれないわ。あなたは……後1年で知識面を補うこと」
同年齢の子供に比べれば頭も体も鍛えられているとはいえ、席を争う相手はもっと育っている者もいるし才人もいる。
「次の時間は補修を行います」
ルシェンは白墨で、全生徒の名とそれぞれの予定を黒板に書いていった。
●間引き
黒い錫杖が頭蓋の脆くなった箇所を打ち抜いた。
消滅してもおかしくないはずだがぎりぎりで耐え、反撃の拳を日下 菜摘(ka0881)に向かって繰り出した。
「っ」
錫杖を引き戻すのは間に合わない。
回避するにもたまたま足場が悪すぎた。
乾いた拳が戦闘用カソックに直撃し、しかし仕込まれたチェインメイルが防ぎきる。
「手加減も大変です」
半壊した頭蓋に止めの一撃をプレゼント。
頭部を失い消滅していく雑魔を確認した後、改めて演習予定地を見渡した。
出現する雑魔の数も質も低く、牧草地と使えそうなのに人の気配が全くない。
戦馬があくびをする。
全力の半分も出さない速度で歩くだけで、1体のみ生き残ったスケルトンが引き離された。
「子供達の演習の安全性を確保する為も……いえでも」
獣が潜んでいそうな草だらけの元畑や半壊状態の民家など、子供向け演習場としては難易度が高そうなものが多数ある。
「どこまでしてあげればよいのか迷ってしまいますね」
ほぼ無意識の動作でマテリアルを放つ。
宙を移動する間に攻撃的な性質を持つ光弾になり、壊れた扉から覗いていたスケルトンのうち1体を射貫き止めを刺した。
ふと気付く。
東よりを掃討中だったルシェンが、菜摘の表情を見てから何やら考え込んでいる。
あの子達母性に飢えているのかしらとつぶやいてもいたが、遠くて通信機もないので菜摘の耳には届かない。
「未探査地域からの歪虚流入は確認できず、演習予定の歪虚出現頻度も予想の範囲内。演習は予定通り明日ですね」
楽すぎて気が抜けかかった馬に注意を促し、菜摘は複数で行動する雑魔を見つけては攻撃を繰り返す。
校舎を挟んで逆側でも間引きが行われていた。
「えいっ」
ソナ(ka1352)が最初に仕掛けた。
赤く鋭い刃が汚れた肋骨を切り飛ばす。
手のひらに伝わる感触が気持ち悪い。亡骸からではなく負のマテリアルから発生した雑魔とはいえ見た目も正直ホラーだ。
スケルトンの影から無傷のスケルトンが飛び出した。
「たぁっ!」
通常サイズの盾で迎撃する。
スケルトンは速度と体重を載せた拳を突き出してくる。
分厚い盾と乾いた骨がぶつかり合う。
数秒の拮抗。
筋肉の有無の分ソナがスケルトンを上回り、骸骨の上体が不自然な形で逸らされた。
その状況で、ソナは追撃は行わずに一歩後退する。
片側の肋骨を失った雑魔が直前までソナがいた空間を左から右に横切った。
「負けませんよ」
いつもはおっとりした表情を引き締め、若いエルフは複数の雑魔と互角以上に戦っていた。
「防具は服と盾だけか。女の聖導士は士気が高いな」
北西担当のクルス(ka3922)は、ソナの奮闘を馬上から眺めていた。
受けか回避が後少しだけ上達すれば1つか2つ格上の歪虚を圧倒できるようになるはずだ。
西に向き直る。
未探査地域から流れてきたらしき武装スケルトンが5体、陣形に見えないこともない配置でこちらに近づいてくる。
「気付いているよな?」
一瞬振り返って校舎の状況を確かめる。
見張り台の上の傭兵が反応している。大きく身を乗り出し、床が壊れでもしたようにバランスを崩していた。
「あの物見台、何とかしといた方がよくねえか」
雑魔を待ち受けながら大型メイスに力を注ぐ。
マテリアルが零れ、クルスの意思に従い光弾となって飛び、右端の武装雑魔の頸骨を射貫いた。
「俺の時は修行だか授業だかにかこつけて、よく肉体労働させられたぞ。物くらい治せないで人が治せるかってな」
依頼人と生徒の目がないせいか愚痴に近い思考が口から漏れた。
軽く息を吐いて改めて雑魔を見る。
法術の精度と威力には自信がある。最初に当たったスケルトンは完全に消滅していた。
「1つ残すぞ」
鬼が仕掛けた。
骸骨が受けに用いた錆び長剣が半ばから折れ、太刀は止まらず骸骨を頭から押し潰した。
「……ふん」
イッカク(ka5625)が一度だけ振り返る。
陸の孤島あるいは牢獄に見える校舎で、1つやらねばならぬことに気づいていた。
●社会の上と下で
昼過ぎの食堂で、エステル(ka5826)はフォークとナイフを上品に動かしている。
昼食に用意されたのは作り置きのパンと野菜たっぷりスープ、メインは厚い猪肉の塩焼き。
見た目と味は並でも栄養と量は十分な内容だ。
「懐かしいですね」
エステルは生徒達より2、3歳年上の聖導士だ。
彼等の先輩にあたり、細部は違うが彼等と同じように聖導士としての教育を受けた。
後輩であり将来肩を並べる仲間を眺めると、自然と心が浮き立つ。
「こういう学校……ま、あるだろうな。そりゃあ、あるだろうよ」
対照的に内心クルスは苛苛している。
彼も聖導士だ。師と出会えた以外は実質1人で必要な技術と知識と力を身につけ、ハンターとして身を立てた聖導士なのだ。
「こんなご立派なトコは知らねえけどな」
泥水でも白湯でもなく、檸檬と砂糖で味付けられた水を飲み干し立ち上がる。
「ちっ」
ここの生徒達は衣食住が揃った環境で経験豊かな先達から教えを受けている。
少し苛立つ程度で済んでいることが、クルスの心が十分に鍛えられていることの証明になっていた。
「おい」
生徒の中で一番体が仕上がっている少年に声をかける。
「クルセイダーは何かに勝つための力ってより、負けないための力って部分が大きい。折角持ってる力の使い方、間違えんなよ。……頭の使い方もな」
不快な感情を薄っぺらな笑顔で隠す少年に気付きはしたがそれ以上何も言わず、クルスは間引きを続けるため建物の外へ出た。
「おい、お前。お前だ」
クルスと比べても遠慮の全くない声で呼びかけられ少年の笑顔がひび割れる。
眉間に皺を寄せて振り返り、座っていてなお見上げるほど大きな鬼に気づいて目を剥いた。
「ぎらぎらした目をしやがって……。なあ、お前はこん先偉くなってどうしたいんだ?」
使い終わった爪楊枝を指で挟んで粉にする。
「そ、それはもちろん」
エクラを信じ世のため人のためと建前を述べる少年を、イッカクはただ見つめるだけで黙らせた。
「本音を言っても司教の爺さんには伝えねぇよ」
ジョッキを傾け新鮮で清潔な水を飲み干す。
「懺悔を聞いたりもすんだろ? 練習と思って黙って聞いてろ」
察したエステルが他の生徒を誘導して外へ。
2人だけが残った大部屋で、イッカクは淡々と話を続けた。
「俺ぁ物心ついた時にゃ親はいなくてよ、食う物にも困ってた有様だ。だからでけぇ声じゃ言えねぇが他人様の物奪って何とか食い繋いできた。そんな俺だからよ、立派な奴にゃなれるとは思えなかった。けどお前らは違ぇだろ? 才能もあって親もいて金もある、おまけにこんな寺子屋で学んでいやがる。ハッ、親はいねぇって顔だな。打算があってもここまで面倒見てくれる赤の他人がいるかよ」
笑う。
侮辱ではなく子供の幼さを面白がる声に少年が激昂しかかった。
「なあ、そんなお前らは、偉くなった先、どうしたいんだ?」
紅の瞳が少年を見据える。
その色があまりに深すぎて、まだ己の都合しか頭に無い子供は、一言も返すことが出来なかった。
●戦闘演習
間引きという演習準備がハンターによって完遂されたため、演習が数週間前倒しで行われることになった。
「これより演習を開始する」
ロニ・カルディス(ka0551)が静かに宣言した。
「諸君等には班ごとに分かれた上で演習を行ってもらう。班分けと演習の場所は今から配る紙に書いてある」
「はい、人数分ありますから順番に取りに来てくださいね」
ソナは机の上に印刷済み藁半紙を置き、生徒達に向かって手招きした。
一番体力が無さそうな子も結構筋肉がついている。身のこなしについては個人差はあるが、濃いマテリアルを感じるので皆覚醒はできるはずだ。
「はい、頑張ってね」
後輩の面倒を見る聖導士エルフは、本当に楽しそうだ。
「4月に卒業予定の者は最も厳しい場所に向かってもらう。行動全てが評価の対象になる。決して油断せず、硬くならず、ここで磨いたものを発揮するように。では解散」
少年少女による哨戒と戦闘は、相手が骸骨1体でも意欲に実力が追いついていない。
緊張のあまり近くにいる雑魔を見落としたり、実力の半分も出せたら軽傷未満で倒せるはずの骸骨に骨を折られるものまでいた。
「何をしている。まだ演習は終わっていないぞ。ヒールが尽きたならそれ以外の手段で戦友を助けなさい」
助けを求める年長組にそう答え、ロニは傷ついた少女達を静かに見下ろしていた。
「ロニ様」
エステルが縋るような目でみつめる。
実際はどこまで自主性に任せるかの無言の相談だけれども、疲れ傷ついた子供達には険悪な空気にしか感じられなかった。
空が赤く染まっていく。ロニが小型の照明を取り出す。
「君、これの名称と機能、利点と欠点を説明しなさい。ああ、応急治療はエステルさんに任せなさい。今の君には出来ないようだからね」
年長の少女が唇を噛んで屈辱に耐え、しかしすぐに表情を取り繕ってLED式ライトの説明を始める。
「事前に説明した通りに処置しますからね」
エステルは汚れるのも気にせず跪く。
年少の少女の呼吸を確かめ服の一部を咲いて肌と骨の状態を確認。
癒しの術を使いたくなるのを頑張って我慢して、添え木も当てて固定する。
ただ早いだけではなく苛酷な状況での最善を目指した実用的な技だ。
「頑張りましたね」
背中を撫でてやる。
泣きながら礼を言う少女はただ感激しているだけだが、ロニに厳しく指導されている年長の少女は技術の高さに気づいている。
「よろしい。合格点だ。付け加えるなら現時点では手に入れづらい点だな。対歪虚戦にも予算の限界がある。両者利点と欠点があるが、今のところ伝統的な手法が勝ることも多い。クリムゾンウェストの技術と組み合わせる研究も実際に行われているが……」
いずれ確実に成果は出るがいつ完成するかまでは分からないと、ロニは少し残念そうな顔で説明を終えた。
ロニが演習終了と現地解散を言い渡す。
「あなたは……」
この時点で主席卒業が確定した少女が、悔しさの隠しきれない態度でエステルに近づいてくる。
表情と姿勢の上品さがここ数年の訓練によるものであることも、食堂で羨望と嫉妬の視線をこっそり向けられていたことも、エステルは最初から気づいていた。
「戦場では何もかも足りません」
ノアーラ・クンタウでの戦いを思い出す。
一兵卒から東方帝まで全てを振り絞って戦ったあの日。足りないものを補うため自らを酷使した兵士達。
エステルも限界まで力を尽くした確信はあるけれども、思い出すたびに心の深い部分に痛みを感じる。
「だから私も、他の皆さんと同じように努力を続けるのです」
自分がなりたい存在である、社会の上層の人間が自分以上に苛酷な生き様をしているのに気付き、少女は何も言えなくなった。
「手隙の人集まってください。すごいですよここ」
ソナの明るい声が緊迫した雰囲気をかき消した。
「貴重な薬草が自生しています。多分もとは腕のいい農家さんの畑ですね。手入れは必要ですけどこれなら……」
彼女は植物採集と薬調合が趣味なのだ。
「まあ」
エステルが目を輝かせる。
武門の生まれであり、聖導士であり、あの戦場をくぐり抜けた1人として非常に興味がある。
「あ、でも依頼期間が」
残念ながら、畑の手入れをできるだけの依頼期間はない。
「……任地が決まってここを出るまで、私が世話をするつもりです」
少女の顔には、ハンターが初めて見る穏やかな表情が浮かんでいた。
最終的に3分の1近くが卒業を認められ、主に聖堂戦士団配属された。
在校生と学校は、来月の新入生入学へ向け準備を進めている。
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/03/16 23:39:59 |
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そうだーん セリス・アルマーズ(ka1079) 人間(クリムゾンウェスト)|20才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2016/03/20 15:07:42 |