ゲスト
(ka0000)
雪見桜見ゆ
マスター:月宵

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/03/23 19:00
- 完成日
- 2016/03/30 18:37
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
辺境の地。そこには様々な部族が存在している。彼らにはそれぞれ崇拝し、信仰するトーテムと言うものが存在する。彼ら部族をまとめあげるに不可欠なもの、言わば生命線と言ったところだろうか。
そんな部族の中に『イチヨ族』と言うものがいる。彼らは流浪の少数部族で、各地を転々とする者達。彼らのトーテムの名は『概念精霊・コリオリ』と言う。
彼らの信条は『他部族の信仰を信仰する』と言う変わったものだ。
それが例え、如何なる信仰であろうとも……
●
洞窟。もうどれくらい歩いたのだろうか、黒髪の隙間から垂れる汗の湿り気をうんざりしつつ、10歳の少年ヤ・マダはその場所を歩いていた。
「っ……は…」
催事の補助はもう何年も経験しているので、体力は通常の子供のそれよりも勝っている、と多分思う。
多分思うが、それでも慣れない洞窟はマダを疲労させた。
「着きましたよ」
案内役の人間は、彼を導くように洞窟の入り口を譲ってくれている。出口、それを潜った先に目的の物はあったのだ。
頬をなでた暖かな風はそっと優しい薫りも運んでくる。マダの見上げた視線の先にそれはあった。巨大な怪物、そう見間違えてもおかしくない。それほどの大樹がマダの視覚をめいっぱい支配した。
「すごい……」
それはとんでもないサイズの桜の樹だった。
「一つに見えますけど、実は細かな桜の木々がより集まってこう見えるのですよ」
男は自慢気に語る。この地では春をトーテムとし、この桜は近隣の集落でもちょっとした名物となっているらしい。
決して濃いとは言えない桃色花弁を僅かに散らす桜を見ながら、出掛け際に聞いたイチヨ族、族長であるサ・ナダの言葉を思い出していた。
『マダ君。今回、彼処の部族は貴方の担当でしたね』
『はい。ハンターの皆さんと花祭りの準備です』
『あそこはいいよ。何年かに一度しか桜は開かないけど、素晴らしい場所だ』
『そ、そうなんですか?』
『いやぁ、残念。私も観に行きたかったよ……もう見られるか、わからないからね』
その時のナダの表情は、いつもと変わらない微笑み。それなのに、何処か影が射しているように、少年ながらにマダは感じられた。
「どうしましたか?」
彼は族長がこの桜を見たがっていたことを、案内役の男に話してみた。
「そうですか、ナダ様が……わかりました! 催事後、ひと振り桜の枝を誂えましょう」
「え? 怒られません?」
「大丈夫、大丈夫。ミコは俺なんだから」
ちょっとした無理は聞くよ、と白い歯を見せて男は笑った。聞けば、祖父、父親の代からナダに世話になっていたらしい。
ただ、彼が補助する年に限って桜も咲かないと言った始末。
「お世話になったお礼です」
「あ、ありがとうございます……」
いたずらに口元に人差し指をあて、男はウインクを一つ。
「それじゃ確認も終わったし、戻ろっか。明日の準備しないとね」
「はい。ハンターの皆さん、待たせてしまいましたね」
●天災は突然に
春をトーテムとする集落のお祭り。それは言ってしまえば、一般的なお花見である。彼ら部族はイチヨ族と同じく、東方の血を受け継ぐ者達。そこで祭り用にちらし寿司の様な料理を食すと言う。
彼らの成人の儀式は10歳の頃に行われる。その為この日は、9歳最後の祝いの日とも言われているのだ。
そんな理由からか、明日の花祭りも子供が多かったりする。
夜遅く、子供達の為にハンター達がちらし寿司等の料理を準備していた時、その言葉が誰の口からでもなく漏れた。
「雪だ。雪が降っているぞ!」
その言葉に驚き、ミコとマダは天幕をくぐり外へと飛び出した。その後をハンター達も、調理用具を置いて追う。
「そんな、この時季に……」
風は無くとも、視界に敷き詰められた雪と言う白。そこへ更に吐息の白が混ざる。地面を見れば、もう既に白化粧は施され始めていた。
「これは、朝までにかなり積もるぞ」
その言葉に、マダはハッとする。
「桜が!!」
そう、あの大きな桜の樹にもまた、雪が降り積もると言うことなのだ。つまりそれは……
「花が殆んど散ってしまう」
それだけではない。雪の重みで、咲きかけのつぼみや、最悪枝が折れてしまうことも有り得る。
「何か布をかけて、それで防ぐのは!?」
「布が桜に被ったら、結局散ってしまうだろ」
「傘はどうだ?」
「あの大きさをか? いくつあっても足りやせん」
「それに朝まで傘を持っていろと?」
折角久しぶりに咲いた、子供達が楽しみにしていたのに……聴こえてくる悔やみの声が降雪の中で染み入る。
巨大な桜。それはとても一般人では、どうにかなるものでは無いのだろう……しかし、覚醒者ならば……
マダはあの桜を思い出す様に瞳を一度閉じてから、ハンター達に振り返り言葉を絞り出した。
「お願い……出来ます、か?」
「俺からもお願いしたい」
ミコの男も、頭を垂れてこう願った。先程までヘラヘラしていた雰囲気が嘘のようだ。
「どうか、桜を護ってくれ!」
そんな部族の中に『イチヨ族』と言うものがいる。彼らは流浪の少数部族で、各地を転々とする者達。彼らのトーテムの名は『概念精霊・コリオリ』と言う。
彼らの信条は『他部族の信仰を信仰する』と言う変わったものだ。
それが例え、如何なる信仰であろうとも……
●
洞窟。もうどれくらい歩いたのだろうか、黒髪の隙間から垂れる汗の湿り気をうんざりしつつ、10歳の少年ヤ・マダはその場所を歩いていた。
「っ……は…」
催事の補助はもう何年も経験しているので、体力は通常の子供のそれよりも勝っている、と多分思う。
多分思うが、それでも慣れない洞窟はマダを疲労させた。
「着きましたよ」
案内役の人間は、彼を導くように洞窟の入り口を譲ってくれている。出口、それを潜った先に目的の物はあったのだ。
頬をなでた暖かな風はそっと優しい薫りも運んでくる。マダの見上げた視線の先にそれはあった。巨大な怪物、そう見間違えてもおかしくない。それほどの大樹がマダの視覚をめいっぱい支配した。
「すごい……」
それはとんでもないサイズの桜の樹だった。
「一つに見えますけど、実は細かな桜の木々がより集まってこう見えるのですよ」
男は自慢気に語る。この地では春をトーテムとし、この桜は近隣の集落でもちょっとした名物となっているらしい。
決して濃いとは言えない桃色花弁を僅かに散らす桜を見ながら、出掛け際に聞いたイチヨ族、族長であるサ・ナダの言葉を思い出していた。
『マダ君。今回、彼処の部族は貴方の担当でしたね』
『はい。ハンターの皆さんと花祭りの準備です』
『あそこはいいよ。何年かに一度しか桜は開かないけど、素晴らしい場所だ』
『そ、そうなんですか?』
『いやぁ、残念。私も観に行きたかったよ……もう見られるか、わからないからね』
その時のナダの表情は、いつもと変わらない微笑み。それなのに、何処か影が射しているように、少年ながらにマダは感じられた。
「どうしましたか?」
彼は族長がこの桜を見たがっていたことを、案内役の男に話してみた。
「そうですか、ナダ様が……わかりました! 催事後、ひと振り桜の枝を誂えましょう」
「え? 怒られません?」
「大丈夫、大丈夫。ミコは俺なんだから」
ちょっとした無理は聞くよ、と白い歯を見せて男は笑った。聞けば、祖父、父親の代からナダに世話になっていたらしい。
ただ、彼が補助する年に限って桜も咲かないと言った始末。
「お世話になったお礼です」
「あ、ありがとうございます……」
いたずらに口元に人差し指をあて、男はウインクを一つ。
「それじゃ確認も終わったし、戻ろっか。明日の準備しないとね」
「はい。ハンターの皆さん、待たせてしまいましたね」
●天災は突然に
春をトーテムとする集落のお祭り。それは言ってしまえば、一般的なお花見である。彼ら部族はイチヨ族と同じく、東方の血を受け継ぐ者達。そこで祭り用にちらし寿司の様な料理を食すと言う。
彼らの成人の儀式は10歳の頃に行われる。その為この日は、9歳最後の祝いの日とも言われているのだ。
そんな理由からか、明日の花祭りも子供が多かったりする。
夜遅く、子供達の為にハンター達がちらし寿司等の料理を準備していた時、その言葉が誰の口からでもなく漏れた。
「雪だ。雪が降っているぞ!」
その言葉に驚き、ミコとマダは天幕をくぐり外へと飛び出した。その後をハンター達も、調理用具を置いて追う。
「そんな、この時季に……」
風は無くとも、視界に敷き詰められた雪と言う白。そこへ更に吐息の白が混ざる。地面を見れば、もう既に白化粧は施され始めていた。
「これは、朝までにかなり積もるぞ」
その言葉に、マダはハッとする。
「桜が!!」
そう、あの大きな桜の樹にもまた、雪が降り積もると言うことなのだ。つまりそれは……
「花が殆んど散ってしまう」
それだけではない。雪の重みで、咲きかけのつぼみや、最悪枝が折れてしまうことも有り得る。
「何か布をかけて、それで防ぐのは!?」
「布が桜に被ったら、結局散ってしまうだろ」
「傘はどうだ?」
「あの大きさをか? いくつあっても足りやせん」
「それに朝まで傘を持っていろと?」
折角久しぶりに咲いた、子供達が楽しみにしていたのに……聴こえてくる悔やみの声が降雪の中で染み入る。
巨大な桜。それはとても一般人では、どうにかなるものでは無いのだろう……しかし、覚醒者ならば……
マダはあの桜を思い出す様に瞳を一度閉じてから、ハンター達に振り返り言葉を絞り出した。
「お願い……出来ます、か?」
「俺からもお願いしたい」
ミコの男も、頭を垂れてこう願った。先程までヘラヘラしていた雰囲気が嘘のようだ。
「どうか、桜を護ってくれ!」
リプレイ本文
ユキヤ・S・ディールス(ka0382)は空を仰いだ。今も微かに散る桜と降る雪。枝々の間から垣間見る雲は厚く月を隠す。
(これなら、本番は三時間後ですね)
現在の天候から予測するユキヤ。それとは別に伊勢・明日奈(ka4060)は四神護符を其々の方角を合わせ、桜の四方向に貼った。
(守ってあげてね)
前大戦でお世話になった札だ。きっと後利益もあろう……はず。
「伊勢・明日奈です。よろしくお願いしますね」
明日菜はミコへと挨拶し、次にこの桜より大きな木はないかと聞いた。
「残念だけど、ないよ。この桜がここいらじゃ一番」
「なら、この近くに竹林はありませんか?」
明日菜との話に割って入ったのは、希崎 十夜(ka3752)明日菜の幼馴染みだ。十夜は更にこう説明する。木の棒より、しなる竹の方が雪への負担を軽減出来る筈だ、と。
「この辺りはないけど、集落周辺なら」
部族でも筍取りなども行っていると言う。
「流石、十くん!」
「急いで連絡します」
「白銀の世界に桜色。なんだか不思議な光景ですわね………って、保護が目的でしたわね」
木板を使い、テントを設置する為に除雪を行うステラ・フォーク(ka0808)は暫し呆然としていた。
「雪は美しいけれど、侮ってはいけない。降らない地方の人にはピンとこないかもしれないけれどね…」
諭すのはザレム・アズール(ka0878)だ。彼はバルトアンデルス出身のためか、雪の恐ろしさを心得ていた。
現に首と着く場所をしっかり暖め、靴下の中には唐辛子と小麦粉を練ったものを入れているくらいだ。
「わ、わかっているわよ」
そう口にすれば、二人は大樹の根を傷付けぬよう除雪に専念するのであった。
「人と同じさ。樹も足元から暖めないと、なのさ」
●
「皆さんの協力が必要です!よろしくお願いします」
マダと集落に戻ったアシェ-ル(ka2983)は、残った住民達から薪を集めるため頭を下げた。恐らく火を長時間焚くため沢山の燃料が必要になる筈だ。
他にも篝火台や敷物であったろう布が、大型のソリに積まれていく。それを馬に乗りながらディーナ・フェルミ(ka5843)が現場まで引いて行く。
「以上です。行きましょう!」
「しゅっぱ~つ!」
「お花見のために寒中一晩ハイクなの頑張るの」
●
洞窟を抜けディーナのソリが到着。荷がおろされ、本格的な作業が始まった。
ザレムは、我先にと桜の木を上った。ハタキを片手に、枝の雪を払い始めた。作業前に積もった雪を落とす。
「ザレムさん。手元の下の方まだ残ってますよ」
「ああ、ありがとう」
遥か下から声をかけたのは夜桜 奏音(ka5754)である。彼女は熱湯を用意しつつ、式符を用いて死角となる場所を探し指示をザレムに出した。
彼女の周りには、いくつもの沸騰させた鍋が置かれ、湯気がもうもうとしている。
少しでも気温を上げ、雪を溶けやすくするためだ。
少し向こうでは十夜が、借りた鉈や鋸を使い竹を加工していた。竹の節を削り繋いで、長い一本の支柱にするためだ。
「こうですかしら?」
「それじゃ、解けるから……こう」
「なるほど。こうすると、ある程度の重いものでもしっかり支えることができる結び方になるのですね♪」
その傍らでは、ステラがマダより結び方の手解きを受けていた。当たり前の話だが、一つでも結び目が緩ければ、忽ち雪の重みで全て潰れるのだ。練習して、損はない。
「篝火、まだ大丈夫そうなの」
しっかりとロープで固定した篝火台に、ディーナは薪をくべていた。無論、桜の枝からはしっかり距離を遠ざけている。燃え移った未来なんて、考えたくない。
(でももし風が渦巻いたら? 思った以上に雪避けに重みがかかったら? 私達は偶然の積み重ねで木が守れてるだけなの。だから、朝まで絶対気を抜けないの)
今日は寝ずの晩だ。そう桜を見つめながらディーナは改めて決意するのであった。
桜を護るために動いているのは、勿論ハンターだけじゃない。部族達も作業に参加してくれている。
「どうぞ。みんなで桜を守りましょうね!」
皆、手袋などの簡易的な防寒具をつけてはいるが彼らには慣れない雪だ。手は霜焼けで真っ赤に腫れてしまっていた。
そんな手を、明日菜は出来うる限りマテリアルヒーリングで癒してくれる。
「せーの!」
竹の支柱を建て、ユキヤは地面深くに打ち込んだ。これを計三本、先端を傘の骨組みのようにしならせ、これをザレムが縄で括ってゆく。
「結び方(または組み方)は、これでよろしいかしら?」
下では、杭に垂らされたロープを結ぶステラの姿も見える。
最後にユキヤとザレムが手分けをし、桜の幹に毛布を巻いて縄で固定をし始めた。
「リアルブルーなら、本来『やわら』を使うらしいですね」
「腹巻…だな」
そうザレムは大木を眺め、微かに笑った。本当は櫓も組みたかったが、材料の都合で断念。
ここで、ミコと部族の皆さんは集落へ戻ることになる。明日に備え、英気をやしなわなければならないからだ。何より、料理の準備も途中だ。
「あとは、任せました。どうか、桜をお願いします」
そう言って、彼らは洞窟の奥へと消えて行くのであった……
ここからが、ハンター達の本当の仕事、と言っても良いだろう。
●深々
ハンター達は、各交代で桜を見張ることに決めた。番でない面子は、テントの中で仮眠をとることとした。
最初の見張りは、ユキヤと奏音。
「夜、雪の降る中、篝火に照らされた桜は、本当に綺麗ですね」
「私の部族でも風の精霊が宿るとされる桜が信仰されてますよ」
そう、夜食のカップ麺の完成を、両手で持ちながら奏音は語ってくれた。
「僕の名前の由来でもあるんですよ。雪の降る夜に生まれたんです」
微笑みを浮かべるユキヤとの談笑。今この時、雪の静けさに聴こえるのははぜる篝火の音だけ……ではなかった。
「風がない……なら、振り落ちてくる前に消しさるのみです」
ドッッカァァァァン
アシェールが桜の大樹の天辺に座りながら、超上空に向けて炎弾を打ち上げる。桜に負けないくらいのドピンクが度々炸裂する。
実際、桜に影響ない範囲で破裂。暫く雪は吹き飛ぶので、有効ではあるが……
「情緒も何もありませんね」
テントの仮眠組に弊害が出るのは、間違いないであろう。
「仮眠中の方がいらしたら申し訳ありませんが……眠気覚ましの花火です」
因みに季節違いのこの風物詩。六分に一回訪れる。
「とりあえず、一度見回りましたし、少し占いましょうか」
●
次の番は、ザレムとステラ。ユキヤと奏音の予想では、この時が一番降雪量が増えると言う話で一致したそうだ。
その予想と予見とおり、視界は更に白と黒のまだら模様にうめつくされてきた。
「本格的になってきた」
ザレムは木に登りながら、ロープを一本一本点検を始めた。花を落とさぬよう、入念にハタキをあててゆく。
「寒い中お疲れ様ですわ♪………粗茶ですが、どうぞ」
「…ありがとう」
ステラは、テントの中全員への紅茶を配り終え、ザレムの元まで紅茶を届けにきた。
ティーカップに琥珀色の紅茶、ハラハラと雪が浮かんでいる。傍らで、マダが彼女を手伝う。
熱湯だけは、そこらじゅうで沸いているのだから。
「あなたにも、ずっと外にいたら冷えるわ」
ランタン片手に、篝火が消えてないか見回りを続けるディーナへステラが紅茶を手渡した。
「ありがとうなの! あ、お砂糖はいいの」
そう言ってから、にこやかに天然蜂蜜を取り出して紅茶の中に滴を落とした。本当は、水と一緒に舐めながら使うつもりだったが、これもまた悪くないだろう。
「寒い中歩いてるとぼーっとしちゃうの。だからお手伝いさせてほしいの。雪避けのためなら何でも試してみたいの」
「この辺りは、雪少ないね」
「微細な雪は樹が自分の力で蒸発させるよ根の周りは雪が少なくなるだろ?あれと同じさ」
「なるほど、勉強になります」
「……マダ、戻っても良いぞ」
ちらちらと、桜の様子をイチヨ族の彼も確認していたようだ。だが、彼は一般人。増してや、少年だ。徹夜出来る体力があるのか、少々ザレムも不安ではある。
「ぼくは、裏方なので出ませんから、大丈夫です。お祭り成功させたい……それに、桜を見せたい人がいるんです」
決意は固いようだ、ザレムは気付くと余っていたコートをマダのコートに掛けてやった。
「あまり、雪をなめるな。……無理しないようにな」
●
十夜と明日菜が見張りをする頃には、空は白み初めて来ていた。グローブで眼を擦りながら、積もり膨らんできた雪を手で払っていた。
頭上の音で桜は大事に至ってないのも確かだが、頭上の音で寝不足なのもまた確かだ。
「止みましたかね?」
明日菜は、それを確認するように手のひらを空に添えた。新たに、落ちる新たな雪は、もうない。
「や、やんだのです、か?」
ピョンピョン、と言う音が似合うように、アシェールが木を降りて確認しにくる。
「これで終わり、かな」
(あの破裂音も漸く)
内心凄く十夜はほっと安堵した。あの音に邪魔されては、折角の『おくりもの』が明日菜に渡せないところだった。
テント内部に戻ってきた二人。どことなく落ち着かない十夜を他所に、明日菜は何かを準備するため火をかけていた。
「…ここまで辿り着くのにものすごく疲れたな…」
「うん!」
疲労と達成感を噛み締めつつ、十夜はそっとおくりものであるマシュマロを取り出した。
「そう言えば、少し遅れたけど…」
振り向く明日菜に、マシュマロを手渡した。少し遅れたホワイトデーのお返し、そう喜ぶ明日菜に伝えるつもりだった。
「ありがとう! 丁度良かった」
「え?」
ラッピングを開いて、その場でマシュマロを取り出すと先程手作りしていたホットチョコレートのマグカップに浮かべた。
「あ……あの」
「ホットチョコレートに、マシュマロなんて気が利いてるよね♪」
スプーンでかき混ぜ、あわや溶けて沈むマシュマロ。
「はい。これ十くんの」
「特別製だよ」とカップを渡され、十夜は視線をチョコに移せば、それはもうほんの小さな欠片になっていた。雪のように儚いとは、まさにこのこと。
ここまで来ると、もう違うと訂正も出来ない。
「さすがにちょっと疲れました」
明日菜がそう言えば、暖かな重みが十夜の肩にのし掛かった。それは、自らに何とも嬉しげにマグカップを持ちながら寄り添って窓から桜を見て笑う、大切な人の姿。
(まぁ……いいか)
●早く起きた朝には
辺りが雪に包まれ、眩しさに眼を眩ませながらもミコと集落の子供達が桜の元へやって来た。
今まで見たこともない光景に、子供達は眼をキラキラと輝かせてるようだ。
桜の木の下にて、ザレムが雑煮用の鍋をかき回しながらミコ達へと会釈していた。
「どうやら、無事だったみたい」
「ああ……無事花見は出来そうだな」
ディーナは、幹に巻いてあった毛布の撤去。奏音は紅茶の準備を行いつつ篝火台の撤去を初めていた。
「ボクも手伝うー!!」
「これは危ないの、おねーさんに任せるの!」
ふと、ミコはハンター達の数が減っているのに気付く。まぁ、何となく理由はわかってはいるが……
「マダ達はどうしたのかな?」
「……ぐっすりさ」
「だろうね。お疲れ様」
●
此方はテントの中。
「………ん」
漸く静かになって眼を閉じて、ずっと眠っていた様で慌ててユキヤが身を起こした。
明かりが落とされたテントの中は、薄暗く朝日だけが光量となり覗き窓から光を漏らす。雪に反射しているためか、その一箇所だけ物凄く明るい。
ふと、周りを見渡せば自分以外にもダウンした面子に毛布がしっかり掛けられている。
ステラは座りながら、十夜と明日菜は互いに寄り添いながら静かに寝息をたてていた。マダもまた、小さな身体を毛布ですっぽり包んでいた。
「桜が桜いっぱい咲いているのですー」
声の方を見れば、アシェールが縄と共に絡んで眠っていた。恐らく雪吊りの撤去を行った後力尽きた
。ずっと覚醒しながらドンパチやったのだ、寧ろ良く持ったほうだろう。
「あぁ!ダメです。ザレムさんとユキヤさんが、そんな!?」
「…………」
何も聞かなかったことにして、アシェールに毛布を被せ、花見の準備に加わるためテントを後にするユキヤであった……
●
彼がテントを出た頃には、もう花見は始まっていた。ディーナはちらし寿司を頬張り、ザレムは熱燗を桜肴にチビチビとやっているようだ。
「では、ここで少しやりましょうか」
桜を前に、奏音は符を閃かす。桜幕府は、桜の花片の幻影を空いっぱいに巻き上げた。
現と幻の桜の中、彼女は確かに足に残る薄い白を踏み締めながら天を仰ぎ舞うのであった……
(皆さんは雪、お好きですか…?)
(これなら、本番は三時間後ですね)
現在の天候から予測するユキヤ。それとは別に伊勢・明日奈(ka4060)は四神護符を其々の方角を合わせ、桜の四方向に貼った。
(守ってあげてね)
前大戦でお世話になった札だ。きっと後利益もあろう……はず。
「伊勢・明日奈です。よろしくお願いしますね」
明日菜はミコへと挨拶し、次にこの桜より大きな木はないかと聞いた。
「残念だけど、ないよ。この桜がここいらじゃ一番」
「なら、この近くに竹林はありませんか?」
明日菜との話に割って入ったのは、希崎 十夜(ka3752)明日菜の幼馴染みだ。十夜は更にこう説明する。木の棒より、しなる竹の方が雪への負担を軽減出来る筈だ、と。
「この辺りはないけど、集落周辺なら」
部族でも筍取りなども行っていると言う。
「流石、十くん!」
「急いで連絡します」
「白銀の世界に桜色。なんだか不思議な光景ですわね………って、保護が目的でしたわね」
木板を使い、テントを設置する為に除雪を行うステラ・フォーク(ka0808)は暫し呆然としていた。
「雪は美しいけれど、侮ってはいけない。降らない地方の人にはピンとこないかもしれないけれどね…」
諭すのはザレム・アズール(ka0878)だ。彼はバルトアンデルス出身のためか、雪の恐ろしさを心得ていた。
現に首と着く場所をしっかり暖め、靴下の中には唐辛子と小麦粉を練ったものを入れているくらいだ。
「わ、わかっているわよ」
そう口にすれば、二人は大樹の根を傷付けぬよう除雪に専念するのであった。
「人と同じさ。樹も足元から暖めないと、なのさ」
●
「皆さんの協力が必要です!よろしくお願いします」
マダと集落に戻ったアシェ-ル(ka2983)は、残った住民達から薪を集めるため頭を下げた。恐らく火を長時間焚くため沢山の燃料が必要になる筈だ。
他にも篝火台や敷物であったろう布が、大型のソリに積まれていく。それを馬に乗りながらディーナ・フェルミ(ka5843)が現場まで引いて行く。
「以上です。行きましょう!」
「しゅっぱ~つ!」
「お花見のために寒中一晩ハイクなの頑張るの」
●
洞窟を抜けディーナのソリが到着。荷がおろされ、本格的な作業が始まった。
ザレムは、我先にと桜の木を上った。ハタキを片手に、枝の雪を払い始めた。作業前に積もった雪を落とす。
「ザレムさん。手元の下の方まだ残ってますよ」
「ああ、ありがとう」
遥か下から声をかけたのは夜桜 奏音(ka5754)である。彼女は熱湯を用意しつつ、式符を用いて死角となる場所を探し指示をザレムに出した。
彼女の周りには、いくつもの沸騰させた鍋が置かれ、湯気がもうもうとしている。
少しでも気温を上げ、雪を溶けやすくするためだ。
少し向こうでは十夜が、借りた鉈や鋸を使い竹を加工していた。竹の節を削り繋いで、長い一本の支柱にするためだ。
「こうですかしら?」
「それじゃ、解けるから……こう」
「なるほど。こうすると、ある程度の重いものでもしっかり支えることができる結び方になるのですね♪」
その傍らでは、ステラがマダより結び方の手解きを受けていた。当たり前の話だが、一つでも結び目が緩ければ、忽ち雪の重みで全て潰れるのだ。練習して、損はない。
「篝火、まだ大丈夫そうなの」
しっかりとロープで固定した篝火台に、ディーナは薪をくべていた。無論、桜の枝からはしっかり距離を遠ざけている。燃え移った未来なんて、考えたくない。
(でももし風が渦巻いたら? 思った以上に雪避けに重みがかかったら? 私達は偶然の積み重ねで木が守れてるだけなの。だから、朝まで絶対気を抜けないの)
今日は寝ずの晩だ。そう桜を見つめながらディーナは改めて決意するのであった。
桜を護るために動いているのは、勿論ハンターだけじゃない。部族達も作業に参加してくれている。
「どうぞ。みんなで桜を守りましょうね!」
皆、手袋などの簡易的な防寒具をつけてはいるが彼らには慣れない雪だ。手は霜焼けで真っ赤に腫れてしまっていた。
そんな手を、明日菜は出来うる限りマテリアルヒーリングで癒してくれる。
「せーの!」
竹の支柱を建て、ユキヤは地面深くに打ち込んだ。これを計三本、先端を傘の骨組みのようにしならせ、これをザレムが縄で括ってゆく。
「結び方(または組み方)は、これでよろしいかしら?」
下では、杭に垂らされたロープを結ぶステラの姿も見える。
最後にユキヤとザレムが手分けをし、桜の幹に毛布を巻いて縄で固定をし始めた。
「リアルブルーなら、本来『やわら』を使うらしいですね」
「腹巻…だな」
そうザレムは大木を眺め、微かに笑った。本当は櫓も組みたかったが、材料の都合で断念。
ここで、ミコと部族の皆さんは集落へ戻ることになる。明日に備え、英気をやしなわなければならないからだ。何より、料理の準備も途中だ。
「あとは、任せました。どうか、桜をお願いします」
そう言って、彼らは洞窟の奥へと消えて行くのであった……
ここからが、ハンター達の本当の仕事、と言っても良いだろう。
●深々
ハンター達は、各交代で桜を見張ることに決めた。番でない面子は、テントの中で仮眠をとることとした。
最初の見張りは、ユキヤと奏音。
「夜、雪の降る中、篝火に照らされた桜は、本当に綺麗ですね」
「私の部族でも風の精霊が宿るとされる桜が信仰されてますよ」
そう、夜食のカップ麺の完成を、両手で持ちながら奏音は語ってくれた。
「僕の名前の由来でもあるんですよ。雪の降る夜に生まれたんです」
微笑みを浮かべるユキヤとの談笑。今この時、雪の静けさに聴こえるのははぜる篝火の音だけ……ではなかった。
「風がない……なら、振り落ちてくる前に消しさるのみです」
ドッッカァァァァン
アシェールが桜の大樹の天辺に座りながら、超上空に向けて炎弾を打ち上げる。桜に負けないくらいのドピンクが度々炸裂する。
実際、桜に影響ない範囲で破裂。暫く雪は吹き飛ぶので、有効ではあるが……
「情緒も何もありませんね」
テントの仮眠組に弊害が出るのは、間違いないであろう。
「仮眠中の方がいらしたら申し訳ありませんが……眠気覚ましの花火です」
因みに季節違いのこの風物詩。六分に一回訪れる。
「とりあえず、一度見回りましたし、少し占いましょうか」
●
次の番は、ザレムとステラ。ユキヤと奏音の予想では、この時が一番降雪量が増えると言う話で一致したそうだ。
その予想と予見とおり、視界は更に白と黒のまだら模様にうめつくされてきた。
「本格的になってきた」
ザレムは木に登りながら、ロープを一本一本点検を始めた。花を落とさぬよう、入念にハタキをあててゆく。
「寒い中お疲れ様ですわ♪………粗茶ですが、どうぞ」
「…ありがとう」
ステラは、テントの中全員への紅茶を配り終え、ザレムの元まで紅茶を届けにきた。
ティーカップに琥珀色の紅茶、ハラハラと雪が浮かんでいる。傍らで、マダが彼女を手伝う。
熱湯だけは、そこらじゅうで沸いているのだから。
「あなたにも、ずっと外にいたら冷えるわ」
ランタン片手に、篝火が消えてないか見回りを続けるディーナへステラが紅茶を手渡した。
「ありがとうなの! あ、お砂糖はいいの」
そう言ってから、にこやかに天然蜂蜜を取り出して紅茶の中に滴を落とした。本当は、水と一緒に舐めながら使うつもりだったが、これもまた悪くないだろう。
「寒い中歩いてるとぼーっとしちゃうの。だからお手伝いさせてほしいの。雪避けのためなら何でも試してみたいの」
「この辺りは、雪少ないね」
「微細な雪は樹が自分の力で蒸発させるよ根の周りは雪が少なくなるだろ?あれと同じさ」
「なるほど、勉強になります」
「……マダ、戻っても良いぞ」
ちらちらと、桜の様子をイチヨ族の彼も確認していたようだ。だが、彼は一般人。増してや、少年だ。徹夜出来る体力があるのか、少々ザレムも不安ではある。
「ぼくは、裏方なので出ませんから、大丈夫です。お祭り成功させたい……それに、桜を見せたい人がいるんです」
決意は固いようだ、ザレムは気付くと余っていたコートをマダのコートに掛けてやった。
「あまり、雪をなめるな。……無理しないようにな」
●
十夜と明日菜が見張りをする頃には、空は白み初めて来ていた。グローブで眼を擦りながら、積もり膨らんできた雪を手で払っていた。
頭上の音で桜は大事に至ってないのも確かだが、頭上の音で寝不足なのもまた確かだ。
「止みましたかね?」
明日菜は、それを確認するように手のひらを空に添えた。新たに、落ちる新たな雪は、もうない。
「や、やんだのです、か?」
ピョンピョン、と言う音が似合うように、アシェールが木を降りて確認しにくる。
「これで終わり、かな」
(あの破裂音も漸く)
内心凄く十夜はほっと安堵した。あの音に邪魔されては、折角の『おくりもの』が明日菜に渡せないところだった。
テント内部に戻ってきた二人。どことなく落ち着かない十夜を他所に、明日菜は何かを準備するため火をかけていた。
「…ここまで辿り着くのにものすごく疲れたな…」
「うん!」
疲労と達成感を噛み締めつつ、十夜はそっとおくりものであるマシュマロを取り出した。
「そう言えば、少し遅れたけど…」
振り向く明日菜に、マシュマロを手渡した。少し遅れたホワイトデーのお返し、そう喜ぶ明日菜に伝えるつもりだった。
「ありがとう! 丁度良かった」
「え?」
ラッピングを開いて、その場でマシュマロを取り出すと先程手作りしていたホットチョコレートのマグカップに浮かべた。
「あ……あの」
「ホットチョコレートに、マシュマロなんて気が利いてるよね♪」
スプーンでかき混ぜ、あわや溶けて沈むマシュマロ。
「はい。これ十くんの」
「特別製だよ」とカップを渡され、十夜は視線をチョコに移せば、それはもうほんの小さな欠片になっていた。雪のように儚いとは、まさにこのこと。
ここまで来ると、もう違うと訂正も出来ない。
「さすがにちょっと疲れました」
明日菜がそう言えば、暖かな重みが十夜の肩にのし掛かった。それは、自らに何とも嬉しげにマグカップを持ちながら寄り添って窓から桜を見て笑う、大切な人の姿。
(まぁ……いいか)
●早く起きた朝には
辺りが雪に包まれ、眩しさに眼を眩ませながらもミコと集落の子供達が桜の元へやって来た。
今まで見たこともない光景に、子供達は眼をキラキラと輝かせてるようだ。
桜の木の下にて、ザレムが雑煮用の鍋をかき回しながらミコ達へと会釈していた。
「どうやら、無事だったみたい」
「ああ……無事花見は出来そうだな」
ディーナは、幹に巻いてあった毛布の撤去。奏音は紅茶の準備を行いつつ篝火台の撤去を初めていた。
「ボクも手伝うー!!」
「これは危ないの、おねーさんに任せるの!」
ふと、ミコはハンター達の数が減っているのに気付く。まぁ、何となく理由はわかってはいるが……
「マダ達はどうしたのかな?」
「……ぐっすりさ」
「だろうね。お疲れ様」
●
此方はテントの中。
「………ん」
漸く静かになって眼を閉じて、ずっと眠っていた様で慌ててユキヤが身を起こした。
明かりが落とされたテントの中は、薄暗く朝日だけが光量となり覗き窓から光を漏らす。雪に反射しているためか、その一箇所だけ物凄く明るい。
ふと、周りを見渡せば自分以外にもダウンした面子に毛布がしっかり掛けられている。
ステラは座りながら、十夜と明日菜は互いに寄り添いながら静かに寝息をたてていた。マダもまた、小さな身体を毛布ですっぽり包んでいた。
「桜が桜いっぱい咲いているのですー」
声の方を見れば、アシェールが縄と共に絡んで眠っていた。恐らく雪吊りの撤去を行った後力尽きた
。ずっと覚醒しながらドンパチやったのだ、寧ろ良く持ったほうだろう。
「あぁ!ダメです。ザレムさんとユキヤさんが、そんな!?」
「…………」
何も聞かなかったことにして、アシェールに毛布を被せ、花見の準備に加わるためテントを後にするユキヤであった……
●
彼がテントを出た頃には、もう花見は始まっていた。ディーナはちらし寿司を頬張り、ザレムは熱燗を桜肴にチビチビとやっているようだ。
「では、ここで少しやりましょうか」
桜を前に、奏音は符を閃かす。桜幕府は、桜の花片の幻影を空いっぱいに巻き上げた。
現と幻の桜の中、彼女は確かに足に残る薄い白を踏み締めながら天を仰ぎ舞うのであった……
(皆さんは雪、お好きですか…?)
依頼結果
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相談。 ステラ・フォーク(ka0808) 人間(リアルブルー)|12才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2016/03/23 18:55:47 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/03/22 02:28:09 |