ゲスト
(ka0000)
心悪しき商人の企みと新婚夫婦の夢
マスター:鳴海惣流
- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
- 1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/03/25 12:00
- 完成日
- 2016/03/29 23:30
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
「助けてください!」
のどかだったはずの昼下がりは、切羽詰まった女性の涙声によって一気に緊迫感を増した。
グラズヘイム王国ラスリド領内にある小さな町で事件は起こった。
存在するハンターオフィス支部の扉を開けたばかりの女性が、偶然に居合わせたハンターたちの前で伸ばした手を震わせる。
腕にはところどころ真っ赤な痕がある。推測するに、どうやら何かに刺されたらしい。
ハンターの視線に気づいた女性は、腕を悲しげに見つめながら「大丈夫です」と言った。
「すでに処置を済ませてもらってあります。でも……私たちの家が……私たちの夢が……!」
堪えきれなくなり、溜まっていた涙をボロボロとこぼす若い女性に、ハンターのひとりが事情を説明してほしいとお願いする。
オフィスの受付にいる若い男性が椅子に座るのを勧め、温かい紅茶をカップに入れて女性へ差し出す。
お礼を言ってカップを受け取った女性は紅茶をひと口飲んで唇を潤したあと、改めてハンターたちへ向き直った。
「私はアイラと言います。結婚したばかりの夫と一緒に、この町へやってきました。夫の名前はスミスといいます。今は薬師の方に調合してもらった薬を全身に塗り、宿のベッドで休んでいます」
よほどの恐怖を味わったのか、事情説明をし始めた瞬間から、アイラは体を震わせていた。
「夫は故郷の村にあるパン屋で働いていました。作り手ではなかったのですが、結婚を機に私がパンを焼いてみたところ、夫はとても喜んでくれて……」
いつか一緒にパン屋をやろうと笑顔で言われて、アイラもその気になった。
夫のスミスが働くパン屋へ修行に行き、筋がいいと褒められた。
作り方や味の良し悪しは知っていても、調理の腕がなかったスミスには最高のパートナーとなった。
スミスの夢は夫婦の夢となり、パン屋を開業するために資金を溜めようと一生懸命に働いた。そのため、まだ子供はいない。
「まだしばらく時間はかかると思っていましたが、そんな時にとてもいいお話を持ちかけられたのです」
黙って聞いているハンターに、沈痛な面持ちのアイラが言葉を続ける。
「村を訪れた男性が、私たちに店舗兼自宅となる物件を格安で提供してくれると言ったのです。とても評判の良い商人ということで、私も夫もその方を信用しました。それが大きな間違いだとも知らずに……」
アイラの両手が怒りと後悔で大きく震え、持っているカップがカタカタと鳴る。紅茶の中に、ひと粒の涙がこぼれ落ちる。
「店の準備も順調に進み、これから本格的に営業を開始しようとした矢先です。突如、店にも自宅にも通常の倍はあろうかという蜂が現れたのです」
いきなり現れた蜂を追い払おうとスミスは掃除用具片手に奮戦したが、やはり普通の蜂とは違っていた。
すぐに気づいてアイラを逃がしてくれたが、その分だけスミスは蜂の攻撃を受けるはめになった。
周辺住民の助けもあってなんとか助け出せたが、全身を刺されてしまった。
治療してくれた薬師の見解では命に別状はないが、しばらくは安静にする必要があるとのことだった。
「幸せの象徴と思えた新居は蜂に占拠されました。スミスのお見舞い後、必要な物を買おうと町を歩いていたら、偶然にも物件を紹介してくれた商人を見かけました」
そこで一旦言葉を区切ったアイラが、憎々しげにおもいきり奥歯を噛んだ。カップを挟むように持つ両手にも、相当な力が入っているのがわかる。
「私は商人の方に事情を説明しました。なんとかしてほしいとも。けれど返ってきたのは、あまりにも薄情な言葉でした」
購入後の責任まで持てない。蜂が怖いのなら家を出て行けばいい。後処理の手間もかかるから、売値の十分の一の価格で買い戻してやる。蜂が他の住民に危害を加える前に決断しろ。
商人から言われたという台詞を、一字一句自らの口で再現するアイラ。燃え上がる怒りの炎で、瞳を潤ませていた涙が乾いていく。
「ハンターに相談しても無駄。このような住民の依頼は受けてもらえない、とも言われました。でも、私とスミスは知っています。決して、そんなことはないと」
だから依頼に来たとも、アイラは付け加えた。
「お願いです。どうか、あの狂暴な蜂をなんとかしてください!」
涙ながらに懇願するアイラの肩に手を置き、受付の男性が「わかりました」と頷く。
「アイラさんの依頼を受理します。それだけ狂暴な蜂なのであれば、歪虚の可能性もあるでしょうしね」
「まさか、あの商人が……」
「いえ、それはないでしょう。人間が歪虚を意のままに操るなんて無理です。可能性があるとしたら、歪虚がいると知っていながらアイラさんに紹介したというものでしょう。悪質な手法ですね。仮にアイラさんが売却を決断しても、今度は他の方に売って儲けるつもりかもしれません」
だとすれば商人の企みを阻止する意味でも、店や家の中にいる蜂をすべて駆除してしまえばいい。受付の男性はそうも言った。
「ですが逆に逃がせば、仲間を連れてきてしまうかもしれません。逃がさずに完全駆除が主な目的になりそうですね。大丈夫ですよ。すぐにハンターが解決に向かいますから」
「お願いします! どうか私たち夫婦の夢を救ってください。お金儲けしか頭にないような商人の男――ダンダ・ダッダの企みから!」
「助けてください!」
のどかだったはずの昼下がりは、切羽詰まった女性の涙声によって一気に緊迫感を増した。
グラズヘイム王国ラスリド領内にある小さな町で事件は起こった。
存在するハンターオフィス支部の扉を開けたばかりの女性が、偶然に居合わせたハンターたちの前で伸ばした手を震わせる。
腕にはところどころ真っ赤な痕がある。推測するに、どうやら何かに刺されたらしい。
ハンターの視線に気づいた女性は、腕を悲しげに見つめながら「大丈夫です」と言った。
「すでに処置を済ませてもらってあります。でも……私たちの家が……私たちの夢が……!」
堪えきれなくなり、溜まっていた涙をボロボロとこぼす若い女性に、ハンターのひとりが事情を説明してほしいとお願いする。
オフィスの受付にいる若い男性が椅子に座るのを勧め、温かい紅茶をカップに入れて女性へ差し出す。
お礼を言ってカップを受け取った女性は紅茶をひと口飲んで唇を潤したあと、改めてハンターたちへ向き直った。
「私はアイラと言います。結婚したばかりの夫と一緒に、この町へやってきました。夫の名前はスミスといいます。今は薬師の方に調合してもらった薬を全身に塗り、宿のベッドで休んでいます」
よほどの恐怖を味わったのか、事情説明をし始めた瞬間から、アイラは体を震わせていた。
「夫は故郷の村にあるパン屋で働いていました。作り手ではなかったのですが、結婚を機に私がパンを焼いてみたところ、夫はとても喜んでくれて……」
いつか一緒にパン屋をやろうと笑顔で言われて、アイラもその気になった。
夫のスミスが働くパン屋へ修行に行き、筋がいいと褒められた。
作り方や味の良し悪しは知っていても、調理の腕がなかったスミスには最高のパートナーとなった。
スミスの夢は夫婦の夢となり、パン屋を開業するために資金を溜めようと一生懸命に働いた。そのため、まだ子供はいない。
「まだしばらく時間はかかると思っていましたが、そんな時にとてもいいお話を持ちかけられたのです」
黙って聞いているハンターに、沈痛な面持ちのアイラが言葉を続ける。
「村を訪れた男性が、私たちに店舗兼自宅となる物件を格安で提供してくれると言ったのです。とても評判の良い商人ということで、私も夫もその方を信用しました。それが大きな間違いだとも知らずに……」
アイラの両手が怒りと後悔で大きく震え、持っているカップがカタカタと鳴る。紅茶の中に、ひと粒の涙がこぼれ落ちる。
「店の準備も順調に進み、これから本格的に営業を開始しようとした矢先です。突如、店にも自宅にも通常の倍はあろうかという蜂が現れたのです」
いきなり現れた蜂を追い払おうとスミスは掃除用具片手に奮戦したが、やはり普通の蜂とは違っていた。
すぐに気づいてアイラを逃がしてくれたが、その分だけスミスは蜂の攻撃を受けるはめになった。
周辺住民の助けもあってなんとか助け出せたが、全身を刺されてしまった。
治療してくれた薬師の見解では命に別状はないが、しばらくは安静にする必要があるとのことだった。
「幸せの象徴と思えた新居は蜂に占拠されました。スミスのお見舞い後、必要な物を買おうと町を歩いていたら、偶然にも物件を紹介してくれた商人を見かけました」
そこで一旦言葉を区切ったアイラが、憎々しげにおもいきり奥歯を噛んだ。カップを挟むように持つ両手にも、相当な力が入っているのがわかる。
「私は商人の方に事情を説明しました。なんとかしてほしいとも。けれど返ってきたのは、あまりにも薄情な言葉でした」
購入後の責任まで持てない。蜂が怖いのなら家を出て行けばいい。後処理の手間もかかるから、売値の十分の一の価格で買い戻してやる。蜂が他の住民に危害を加える前に決断しろ。
商人から言われたという台詞を、一字一句自らの口で再現するアイラ。燃え上がる怒りの炎で、瞳を潤ませていた涙が乾いていく。
「ハンターに相談しても無駄。このような住民の依頼は受けてもらえない、とも言われました。でも、私とスミスは知っています。決して、そんなことはないと」
だから依頼に来たとも、アイラは付け加えた。
「お願いです。どうか、あの狂暴な蜂をなんとかしてください!」
涙ながらに懇願するアイラの肩に手を置き、受付の男性が「わかりました」と頷く。
「アイラさんの依頼を受理します。それだけ狂暴な蜂なのであれば、歪虚の可能性もあるでしょうしね」
「まさか、あの商人が……」
「いえ、それはないでしょう。人間が歪虚を意のままに操るなんて無理です。可能性があるとしたら、歪虚がいると知っていながらアイラさんに紹介したというものでしょう。悪質な手法ですね。仮にアイラさんが売却を決断しても、今度は他の方に売って儲けるつもりかもしれません」
だとすれば商人の企みを阻止する意味でも、店や家の中にいる蜂をすべて駆除してしまえばいい。受付の男性はそうも言った。
「ですが逆に逃がせば、仲間を連れてきてしまうかもしれません。逃がさずに完全駆除が主な目的になりそうですね。大丈夫ですよ。すぐにハンターが解決に向かいますから」
「お願いします! どうか私たち夫婦の夢を救ってください。お金儲けしか頭にないような商人の男――ダンダ・ダッダの企みから!」
リプレイ本文
●
ダンダ……妙に聞き覚えがあるんだが……。
心の中で呟いた万歳丸(ka5665)は軽く首をひねる。オフィスで報告書を読んだりもしたが、商人の正体については認識できていなかった。
「……ま、置いとくか。念願の店と家、だろ。キッチリ無事に取り返してやろうじゃねェか!」
アルスレーテ・フュラー(ka6148)は万歳丸の言葉に頷く。
「二人の愛の巣を取り戻す……私も彼氏持ちな身、他人事じゃないわね……喜んで協力させてもらうわ。二人の幸せを邪魔した商人を直接ぶん殴ってやれないのは残念だけど」
「そうだね。ボクの剣は彼女らのような人のために振るうものだ」
現場へやってくる前、アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)はアイラに伝えていた。
大丈夫、安心してほしい。貴女の依頼、確かに受けた。しっかりと駆除してくるから、旦那さんの傍で報告を待っていて、と。
仲間の声を聞きながら、天地 王仁丸(ka6154)は物心ついた時から覚えている、泣き暮らす母の涙を思い出していた。女に涙を流させた者を許しておくつもりはなかった。
「悪質な商人ですね。詐欺罪や殺人未遂などの罪で捕まえることができないか、このあたりの法律を調べておきましょうか」
依頼のため戦闘準備と並行して、エルバッハ・リオン(ka2434)は法関連の書物を調べていた。
●
店へ入るなりザレム・アズール(ka0878)は、悪意ある気配を察知した。
「元の生物の生態がある程度は残ってるかもと思い、蜂の活動が低下する夜明け前を狙ったのだが……どうやら敵は元気みたいだな」
「激しい戦闘になってしまうかもしれませんが、お店ですし、この後のことを考えたら壊さないようにしないといけませんね」
夜桜 奏音(ka5754)の言葉に全員が同意を示す。念願の夫婦の店を、自分たちが暴れて壊すわけにはいかなかった。
ザレムはまず入口にランタンをひとつ置き、固定光源とした。次いで両手を使えるようにライトのひとつを左肩に固定。左手にも一個持つ。
機械って便利ね。アルスレーテはハンディLEDライトのスイッチを入れた。光源を持っている他のハンターも次々と店内を照らす。
複数のライトの光によってだいぶ明るくなった店内に驚いたのか、正面から巨大な蜂が三体一組で向かってきた。
接近に気づいたザレムの飛ばしたデルタレイが蜂を貫く。床に落ちた死骸はすぐに消えた。
巨大な蜂は歪虚と判明。一行はより慎重に進む。
途中でアルトが天然蜂蜜を何個かに分けて、店の中へ置いた。相手が蜂であれば引き寄せられるのではと考えた。
「巨大な蜂の羽音がここまで聞こえてくる。俺達ならともかく、一般人には恐怖の対象でしかないな」
王仁丸は周囲を見渡す。羽音はすれど、姿は見えない。
「気をつけて。カウンターの陰に潜んでるかもしれないわよ」
アルスレーテの注意喚起に、王仁丸だけでなく前衛にいる万歳丸やアルトも了解の意を示した。
直後に羽音が一層激しくなり、三体ずつの蜂が二組姿を現して襲い掛かってくる。
「早速やってきましたね。私がスリープクラウドを撃ち込んで眠らせます。巻き込まれないように注意して下さい」
待ってましたとばかりにスリープクラウドを放ったエルバッハだったが、次の瞬間にはかすかな驚きが表情に含まれた。六体の蜂歪虚が揃って眠らなかったからだ。
「抵抗されたのですか? それにしては様子が……まさか、効いてないのでしょうか」
「ボクが置いた天然蜂蜜にも興味を示してないね。単純に蜂蜜を集める種じゃない可能性もあるけど、睡眠も含めて蜂の習性は残ってないと考えた方がいいかもしれないね」
店に設置されたままの蜂蜜を見てアルトが言った。
「蜂というより単純に歪虚扱いすればいい。どっちにしても蜂の突撃で物品が壊れないようにする必要があるんだ」
片手にランタンを持った万歳丸が前に出る。台詞の通り、蜂との間に物を入れないように、立ち位置を細かに変える。
「ひょっとしたら慎重かもしれねェな。攻勢が乏しければ遠慮なく突撃するが、周りを壊すくれェなら刺されてもいい」
突っ込んでくる蜂の一撃をあえて回避せずに受け止める。
もう一組の蜂の前にはアルスレーテが対応する。前に出て、金剛を使って肉体を頑健にする。
「敵の攻撃がひと段落したら、北斗で仕留めてあげるわ。蝿叩きで蝿を叩くようなもんでしょ、こんなの」
どことなく、そうなのか的な空気が流れる。けれどアルスレーテは気にしない。
「え、違う? まあ、どっちでもいいわ。きっちりダイエットして、もっといい女になって帰らないといけないんだから、せいぜい私を動かせてよね」
アルスレーテが蜂の攻撃を防いだあと、エルバッハがウィンドスラッシュで一体を倒す。続いてアルトが店の床を蹴った。
「注意するのは逃がさないことと、床を踏み抜かないこと。では踏鳴からの散華にて、まとめての排除を開始する」
寸分違わずに蜂を狙うも、素早さに優れているだけに二体がギリギリで回避をした。
しかし生き残った蜂歪虚を、今度は奏音が狙う。舞と符術を合わせた独特の動きで五色光符陣を炸裂させる。
「羽を焼かれて落ちなさい」
残っていた二体の蜂の消滅を確認すると、奏音はすぐに使った符の補充を行う。
店内の敵が一層できたのを受け、二手に別れる。
カウンターの内部から先に進む左班はザレム、アルト、奏音、アルスレーテの四人。
右側から奥へ向かうのがエルバッハ、万歳丸、王仁丸の三人で、右班となる。
左班のアルトと右班の万歳丸がトランシーバーを所持しており、有効距離であれば各班で連絡をとれるようにもした。
■
「よし。俺達は右側から住居の奥を目指す。万歳丸を先頭に俺が続くか、または一緒に動こう」
魔導槍にハンディLEDライトを括り付け、槍先を照らすようにした王仁丸が言った。
万歳丸と王仁丸が並び、すぐ後ろにエルバッハという陣形で進む。すると小部屋をひとつ発見した。
前を歩く二人に扉を開けるのを待ってもらい、エルバッハは静かに扉へ耳を当てた。羽音が聞こえる。
「どうやら室内にいるみたいですね。数はさほど多くないみたいですが……本当に効かないか確かめるためにも、もう一度だけスリープクラウドを使います」
王仁丸が扉を開けるとすぐに、エルバッハは魔法を使った。
結果は先ほどと同じ。歪虚となった蜂たちに効果はなかった。
「なら突撃だ。屋内で槍は不利だからな。短く持って、大型ナイフで突く様に攻撃していくか」
小部屋に置かれているたくさんの物に槍が当たらないよう気遣いながら、王仁丸は蜂歪虚に仕掛ける。
槍先を相手に当て、エレクトリックショックを食らわせて動きが鈍くなったところを槍先からの機導剣で突く。
向かってきた一体は万歳丸が拳で迎撃し、残る一体はエルバッハのウィンドスラッシュで吹き飛ばした。
小部屋にいたのは三体だけだった。三人は扉を閉めて、住居のさらに奥を目指す。
■
カウンター内部から奥を目指した左班。覗いた先は厨房になっていた。
入ってすぐにザレムは別のランタンを床に置いて固定光源とした。
「犬の耳と鼻は高性能レーダーだからな。シバ、お前も警戒してくれよ」
すぐにシバが吠える。厨房内には多くの蜂が飛んでいた。
向かってきた一体を回避しつつ左手でガードしたザレムが、同時に手でうりゃっとぶん殴る。
「あ……一寸感触が気持ち悪いかも」
拳に残った感触に嫌な汗を流しながら、あとで洗おうとザレムは強く決める。
一般スキルを駆使し、建物や家具に傷をつけぬよう留意してアルトは蜂との戦闘に臨む。
アルスレーテも鉄扇を振るい、それこそ蝿叩きの要領で蜂を床に叩き落していく。
カウンター内部での戦闘時と同様に、奏音は五色光符陣を使う。複数の蜂が生命力を失い、墜落するように落下する。
アルトの散華やザレムのデルタレイもあり、さしたる被害もなく全滅させるのに成功した。
「では、扉の前に危険がないか確認してみましょうか」
厨房から出ようとしたところで、奏音が式符を使って廊下の様子を確認する。
「どうやら近くにいるみたいです」
「了解よ」
応じたアルスレーテは不用意にいきなり全開にするのではなく、片手に鉄扇を構えつつそっと開ける。
「出会い頭の奇襲にだけは警戒しておかないとね」
事前に警戒していたのもあり、廊下から向かってきた蜂を難なくアルスレーテは迎撃する。新たに金剛のスキルを使い、肉体に傷を受けない。
奏音とアルトも迎撃に加わり、ザレムのデルタレイでとどめを刺し、廊下にも蜂の姿は見えなくなった。近くにあったトイレ内も確認するが、敵の気配は感じられない。
ここで一度アルトはトランシーバーを使って、右班の万歳丸に連絡を取る。
「こっちは大体片がついたよ。そっちはどうかな」
繋がったトランシーバーから万歳丸の声が返ってくる。
「寝室の奥で女王蜂と取り巻きを発見した。自由にさせると後方が危なそうだから、マズは女王蜂を抑えにいくぜ!」
威勢のいい台詞とともに通信が途切れる。顔を見合わせたアルトたちは、急いで寝室へと向かう。
■
「……夢の詰まった、新しい家、だろ。壊させるワケにはいかねェ。味方の流れ弾がありそうなら間に入ってでも止めるぜ!」
猛然と女王蜂目指してダッシュする万歳丸のすぐ横を、エルバッハの放った一本の冷たい氷の矢が追い越していく。
狙い通りに命中したアイスボルトは強烈な衝撃を発生させ、女王蜂に瀕死のダメージを与える。さらにその冷気により、対象を凍りつかせた。
「スリープクラウドが効かないからといって、調子に乗らないでくださいね。接近される前に倒せばいいだけなのですから」
そう言ってエルバッハは、にっこりと笑った。
壁際から引き離すように万歳丸は女王蜂を吹き飛ばす。そこへ王仁丸が致命的な一撃を食らわせる。
「敵は確実に潰す」
女王を殺された生き残りの蜂たちは怒り狂うも、統率もなく突っ込んでくるので逆に対処し易くなる。
援軍として左班の面々も到着し、程なく羽音は聞こえなくなった。
「これで大丈夫だと思うのですが、一応確認しましょうか」
「ついでに掃除もしていこう」
奏音とザレムの提案で見回りと掃除を終えた頃、依頼主であるアイラが様子を見にきた。
不安そうなアイラに微笑む奏音が歩み寄って告げる。
「蜂の駆除は終わりましたので、もう大丈夫だと思います」
ありがとうございますと頭を下げたアイラに、今度はアルトが話しかける。
「パン屋さん、ぜひ頑張ってほしいし、お店が開店したら購入させてほしいな。美味しかったらバイト先の友人のカフェでお勧めしたいしね。報酬はお金よりも仕入れさせてくれる権利とか欲しいかも」
和やかな雰囲気になっているが、ハンターたちにはまだやるべきことが残っていた。
「……まだ後始末がある。商人に一泡吹かせたくないか? やる気があるなら力を貸す」
商人にお灸を据えたいというのは、王仁丸だけでなくハンター全員の思いだった。
●
都合よくダンダは宿屋に宿泊していた。王仁丸の提案のもと、日が高く昇ってからアイラにダンダを訪ねてもらった。以前のやりとりを繰り返すためだ。
その後すぐに隠れていた王仁丸を先頭にハンターたちが、話し合いの場となっていた宿屋に姿を現した。
怒りに燃える王仁丸が宿屋内に響くように、全会話を復唱しながら話す。
「この内容で合っているな?」
「さて? 記憶にありませんね」
真顔でダンダを睨みつける王仁丸は、女性からの依頼はソサエティで正式に受理され、朝方、討伐も完了した旨を告げた。
「聞かせてもらおうか。このような住民の依頼は受けてもらえないと言った理由を。あんたのその行為はソサエティに対する営業妨害だ」
「言った覚えがありませんね。奥さんから聞いた? 勘違いでしょう」
「ふざけるな。この場にいる者全てが証人だ、納得のいく説明をしてみろ。相手を泣き寝入りさせるのが真っ当なやり方か?」
あくまでも知らぬ存ぜぬで通すダンダ。罪悪感を覚えている様子は微塵もない。
「卵はなかったが痕跡はあった。以前から問題物件だった証拠だ。告知せず売ったのは不法行為だな。役人に話そうか?」
「購入後についた痕でしょう。責任を押しつけられても困ります」
王仁丸の援護をしたザレムに、ダンダはいけしゃあしゃあと告げた。
あくまでも罪すら認めようとしないダンダに、今度はエルバッハが言葉をぶつける。
「私は夫婦に調べた法律知識を基に助言しています。今のうちにおとなしく非を認めた方がいいですよ」
「ない非を認めるのは無理ですね」
不愉快さを隠そうともしないエルバッハに代わり、アルトがダンダの前に出る。
「確かにたまたま雑魔が住み着いたのは彼らには不幸だったね。けれど彼らはもうボクの友人で、取引相手になるかもしれない人だ」
そう告げたあとで、アルトは今後何かあった時は手助けをしたいと思うと笑顔で付け加えた。
「是非そうしてあげてください」
アルトと正面から視線をぶつけるダンダ瞳には、狂気の欠片みたいなものが宿ってるように見えた。
「あ――っ!」
状況を黙って見守っていた万歳丸は、唐突にダンダの名を思い出した。心優しき商人。そう思っていた商人の名だった筈だ。
どうかしたのか周囲に尋ねられた万歳丸は、あえて説明はしなかった。
ならばと発言の機会を窺っていた奏音が口を開いた。
「アイラさんの旦那さんが怪我をしたのは事実です。治療費や損害の賠償はしてもいいかと思います」
「販売後の怪我については自己責任でお願いします」
「その言い分はあんまりだわ。貴方には人の心がないの?」
強い口調のアルスレーテを前に、ダンダは首を傾げる。
「そのような商品は取り扱ってませんので」
全力でダンダに罪を認めさせようとするハンターに、もういいですと言ったのはアイラだった。
「皆さんのおかげで店や家は無事でした。夫が元気になったら、今回のことは忘れて商売に励みます」
「フフ。懸命な判断です」
それだけ言うと、ダンダは仕事があるのでと宿から立ち去った。遠ざかる背中をハンターたちはずっと睨みつけていた。
■
――翌朝。
ダンダが泊まっている宿屋を万歳丸はひとりで訪ねた。
どうしたのか問うダンダに、万歳丸は単刀直入に問いかける。
「初対面だが、一度聞いておきてェンだ。話に聞くアンタらしくねェ振る舞い……娘とやらに何か、あったのか?」
一瞬だけダンダの表情が強張った。
「……仲良くしていますよ、母親と一緒にね。では失礼」
これ以上の会話を拒絶するようにダンダは万歳丸に背を向けた。
そのダンダを見送りながら、万歳丸は依頼者の夫婦にだけは自分の知っている情報を伝えておこうと思った。
ダンダ……妙に聞き覚えがあるんだが……。
心の中で呟いた万歳丸(ka5665)は軽く首をひねる。オフィスで報告書を読んだりもしたが、商人の正体については認識できていなかった。
「……ま、置いとくか。念願の店と家、だろ。キッチリ無事に取り返してやろうじゃねェか!」
アルスレーテ・フュラー(ka6148)は万歳丸の言葉に頷く。
「二人の愛の巣を取り戻す……私も彼氏持ちな身、他人事じゃないわね……喜んで協力させてもらうわ。二人の幸せを邪魔した商人を直接ぶん殴ってやれないのは残念だけど」
「そうだね。ボクの剣は彼女らのような人のために振るうものだ」
現場へやってくる前、アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)はアイラに伝えていた。
大丈夫、安心してほしい。貴女の依頼、確かに受けた。しっかりと駆除してくるから、旦那さんの傍で報告を待っていて、と。
仲間の声を聞きながら、天地 王仁丸(ka6154)は物心ついた時から覚えている、泣き暮らす母の涙を思い出していた。女に涙を流させた者を許しておくつもりはなかった。
「悪質な商人ですね。詐欺罪や殺人未遂などの罪で捕まえることができないか、このあたりの法律を調べておきましょうか」
依頼のため戦闘準備と並行して、エルバッハ・リオン(ka2434)は法関連の書物を調べていた。
●
店へ入るなりザレム・アズール(ka0878)は、悪意ある気配を察知した。
「元の生物の生態がある程度は残ってるかもと思い、蜂の活動が低下する夜明け前を狙ったのだが……どうやら敵は元気みたいだな」
「激しい戦闘になってしまうかもしれませんが、お店ですし、この後のことを考えたら壊さないようにしないといけませんね」
夜桜 奏音(ka5754)の言葉に全員が同意を示す。念願の夫婦の店を、自分たちが暴れて壊すわけにはいかなかった。
ザレムはまず入口にランタンをひとつ置き、固定光源とした。次いで両手を使えるようにライトのひとつを左肩に固定。左手にも一個持つ。
機械って便利ね。アルスレーテはハンディLEDライトのスイッチを入れた。光源を持っている他のハンターも次々と店内を照らす。
複数のライトの光によってだいぶ明るくなった店内に驚いたのか、正面から巨大な蜂が三体一組で向かってきた。
接近に気づいたザレムの飛ばしたデルタレイが蜂を貫く。床に落ちた死骸はすぐに消えた。
巨大な蜂は歪虚と判明。一行はより慎重に進む。
途中でアルトが天然蜂蜜を何個かに分けて、店の中へ置いた。相手が蜂であれば引き寄せられるのではと考えた。
「巨大な蜂の羽音がここまで聞こえてくる。俺達ならともかく、一般人には恐怖の対象でしかないな」
王仁丸は周囲を見渡す。羽音はすれど、姿は見えない。
「気をつけて。カウンターの陰に潜んでるかもしれないわよ」
アルスレーテの注意喚起に、王仁丸だけでなく前衛にいる万歳丸やアルトも了解の意を示した。
直後に羽音が一層激しくなり、三体ずつの蜂が二組姿を現して襲い掛かってくる。
「早速やってきましたね。私がスリープクラウドを撃ち込んで眠らせます。巻き込まれないように注意して下さい」
待ってましたとばかりにスリープクラウドを放ったエルバッハだったが、次の瞬間にはかすかな驚きが表情に含まれた。六体の蜂歪虚が揃って眠らなかったからだ。
「抵抗されたのですか? それにしては様子が……まさか、効いてないのでしょうか」
「ボクが置いた天然蜂蜜にも興味を示してないね。単純に蜂蜜を集める種じゃない可能性もあるけど、睡眠も含めて蜂の習性は残ってないと考えた方がいいかもしれないね」
店に設置されたままの蜂蜜を見てアルトが言った。
「蜂というより単純に歪虚扱いすればいい。どっちにしても蜂の突撃で物品が壊れないようにする必要があるんだ」
片手にランタンを持った万歳丸が前に出る。台詞の通り、蜂との間に物を入れないように、立ち位置を細かに変える。
「ひょっとしたら慎重かもしれねェな。攻勢が乏しければ遠慮なく突撃するが、周りを壊すくれェなら刺されてもいい」
突っ込んでくる蜂の一撃をあえて回避せずに受け止める。
もう一組の蜂の前にはアルスレーテが対応する。前に出て、金剛を使って肉体を頑健にする。
「敵の攻撃がひと段落したら、北斗で仕留めてあげるわ。蝿叩きで蝿を叩くようなもんでしょ、こんなの」
どことなく、そうなのか的な空気が流れる。けれどアルスレーテは気にしない。
「え、違う? まあ、どっちでもいいわ。きっちりダイエットして、もっといい女になって帰らないといけないんだから、せいぜい私を動かせてよね」
アルスレーテが蜂の攻撃を防いだあと、エルバッハがウィンドスラッシュで一体を倒す。続いてアルトが店の床を蹴った。
「注意するのは逃がさないことと、床を踏み抜かないこと。では踏鳴からの散華にて、まとめての排除を開始する」
寸分違わずに蜂を狙うも、素早さに優れているだけに二体がギリギリで回避をした。
しかし生き残った蜂歪虚を、今度は奏音が狙う。舞と符術を合わせた独特の動きで五色光符陣を炸裂させる。
「羽を焼かれて落ちなさい」
残っていた二体の蜂の消滅を確認すると、奏音はすぐに使った符の補充を行う。
店内の敵が一層できたのを受け、二手に別れる。
カウンターの内部から先に進む左班はザレム、アルト、奏音、アルスレーテの四人。
右側から奥へ向かうのがエルバッハ、万歳丸、王仁丸の三人で、右班となる。
左班のアルトと右班の万歳丸がトランシーバーを所持しており、有効距離であれば各班で連絡をとれるようにもした。
■
「よし。俺達は右側から住居の奥を目指す。万歳丸を先頭に俺が続くか、または一緒に動こう」
魔導槍にハンディLEDライトを括り付け、槍先を照らすようにした王仁丸が言った。
万歳丸と王仁丸が並び、すぐ後ろにエルバッハという陣形で進む。すると小部屋をひとつ発見した。
前を歩く二人に扉を開けるのを待ってもらい、エルバッハは静かに扉へ耳を当てた。羽音が聞こえる。
「どうやら室内にいるみたいですね。数はさほど多くないみたいですが……本当に効かないか確かめるためにも、もう一度だけスリープクラウドを使います」
王仁丸が扉を開けるとすぐに、エルバッハは魔法を使った。
結果は先ほどと同じ。歪虚となった蜂たちに効果はなかった。
「なら突撃だ。屋内で槍は不利だからな。短く持って、大型ナイフで突く様に攻撃していくか」
小部屋に置かれているたくさんの物に槍が当たらないよう気遣いながら、王仁丸は蜂歪虚に仕掛ける。
槍先を相手に当て、エレクトリックショックを食らわせて動きが鈍くなったところを槍先からの機導剣で突く。
向かってきた一体は万歳丸が拳で迎撃し、残る一体はエルバッハのウィンドスラッシュで吹き飛ばした。
小部屋にいたのは三体だけだった。三人は扉を閉めて、住居のさらに奥を目指す。
■
カウンター内部から奥を目指した左班。覗いた先は厨房になっていた。
入ってすぐにザレムは別のランタンを床に置いて固定光源とした。
「犬の耳と鼻は高性能レーダーだからな。シバ、お前も警戒してくれよ」
すぐにシバが吠える。厨房内には多くの蜂が飛んでいた。
向かってきた一体を回避しつつ左手でガードしたザレムが、同時に手でうりゃっとぶん殴る。
「あ……一寸感触が気持ち悪いかも」
拳に残った感触に嫌な汗を流しながら、あとで洗おうとザレムは強く決める。
一般スキルを駆使し、建物や家具に傷をつけぬよう留意してアルトは蜂との戦闘に臨む。
アルスレーテも鉄扇を振るい、それこそ蝿叩きの要領で蜂を床に叩き落していく。
カウンター内部での戦闘時と同様に、奏音は五色光符陣を使う。複数の蜂が生命力を失い、墜落するように落下する。
アルトの散華やザレムのデルタレイもあり、さしたる被害もなく全滅させるのに成功した。
「では、扉の前に危険がないか確認してみましょうか」
厨房から出ようとしたところで、奏音が式符を使って廊下の様子を確認する。
「どうやら近くにいるみたいです」
「了解よ」
応じたアルスレーテは不用意にいきなり全開にするのではなく、片手に鉄扇を構えつつそっと開ける。
「出会い頭の奇襲にだけは警戒しておかないとね」
事前に警戒していたのもあり、廊下から向かってきた蜂を難なくアルスレーテは迎撃する。新たに金剛のスキルを使い、肉体に傷を受けない。
奏音とアルトも迎撃に加わり、ザレムのデルタレイでとどめを刺し、廊下にも蜂の姿は見えなくなった。近くにあったトイレ内も確認するが、敵の気配は感じられない。
ここで一度アルトはトランシーバーを使って、右班の万歳丸に連絡を取る。
「こっちは大体片がついたよ。そっちはどうかな」
繋がったトランシーバーから万歳丸の声が返ってくる。
「寝室の奥で女王蜂と取り巻きを発見した。自由にさせると後方が危なそうだから、マズは女王蜂を抑えにいくぜ!」
威勢のいい台詞とともに通信が途切れる。顔を見合わせたアルトたちは、急いで寝室へと向かう。
■
「……夢の詰まった、新しい家、だろ。壊させるワケにはいかねェ。味方の流れ弾がありそうなら間に入ってでも止めるぜ!」
猛然と女王蜂目指してダッシュする万歳丸のすぐ横を、エルバッハの放った一本の冷たい氷の矢が追い越していく。
狙い通りに命中したアイスボルトは強烈な衝撃を発生させ、女王蜂に瀕死のダメージを与える。さらにその冷気により、対象を凍りつかせた。
「スリープクラウドが効かないからといって、調子に乗らないでくださいね。接近される前に倒せばいいだけなのですから」
そう言ってエルバッハは、にっこりと笑った。
壁際から引き離すように万歳丸は女王蜂を吹き飛ばす。そこへ王仁丸が致命的な一撃を食らわせる。
「敵は確実に潰す」
女王を殺された生き残りの蜂たちは怒り狂うも、統率もなく突っ込んでくるので逆に対処し易くなる。
援軍として左班の面々も到着し、程なく羽音は聞こえなくなった。
「これで大丈夫だと思うのですが、一応確認しましょうか」
「ついでに掃除もしていこう」
奏音とザレムの提案で見回りと掃除を終えた頃、依頼主であるアイラが様子を見にきた。
不安そうなアイラに微笑む奏音が歩み寄って告げる。
「蜂の駆除は終わりましたので、もう大丈夫だと思います」
ありがとうございますと頭を下げたアイラに、今度はアルトが話しかける。
「パン屋さん、ぜひ頑張ってほしいし、お店が開店したら購入させてほしいな。美味しかったらバイト先の友人のカフェでお勧めしたいしね。報酬はお金よりも仕入れさせてくれる権利とか欲しいかも」
和やかな雰囲気になっているが、ハンターたちにはまだやるべきことが残っていた。
「……まだ後始末がある。商人に一泡吹かせたくないか? やる気があるなら力を貸す」
商人にお灸を据えたいというのは、王仁丸だけでなくハンター全員の思いだった。
●
都合よくダンダは宿屋に宿泊していた。王仁丸の提案のもと、日が高く昇ってからアイラにダンダを訪ねてもらった。以前のやりとりを繰り返すためだ。
その後すぐに隠れていた王仁丸を先頭にハンターたちが、話し合いの場となっていた宿屋に姿を現した。
怒りに燃える王仁丸が宿屋内に響くように、全会話を復唱しながら話す。
「この内容で合っているな?」
「さて? 記憶にありませんね」
真顔でダンダを睨みつける王仁丸は、女性からの依頼はソサエティで正式に受理され、朝方、討伐も完了した旨を告げた。
「聞かせてもらおうか。このような住民の依頼は受けてもらえないと言った理由を。あんたのその行為はソサエティに対する営業妨害だ」
「言った覚えがありませんね。奥さんから聞いた? 勘違いでしょう」
「ふざけるな。この場にいる者全てが証人だ、納得のいく説明をしてみろ。相手を泣き寝入りさせるのが真っ当なやり方か?」
あくまでも知らぬ存ぜぬで通すダンダ。罪悪感を覚えている様子は微塵もない。
「卵はなかったが痕跡はあった。以前から問題物件だった証拠だ。告知せず売ったのは不法行為だな。役人に話そうか?」
「購入後についた痕でしょう。責任を押しつけられても困ります」
王仁丸の援護をしたザレムに、ダンダはいけしゃあしゃあと告げた。
あくまでも罪すら認めようとしないダンダに、今度はエルバッハが言葉をぶつける。
「私は夫婦に調べた法律知識を基に助言しています。今のうちにおとなしく非を認めた方がいいですよ」
「ない非を認めるのは無理ですね」
不愉快さを隠そうともしないエルバッハに代わり、アルトがダンダの前に出る。
「確かにたまたま雑魔が住み着いたのは彼らには不幸だったね。けれど彼らはもうボクの友人で、取引相手になるかもしれない人だ」
そう告げたあとで、アルトは今後何かあった時は手助けをしたいと思うと笑顔で付け加えた。
「是非そうしてあげてください」
アルトと正面から視線をぶつけるダンダ瞳には、狂気の欠片みたいなものが宿ってるように見えた。
「あ――っ!」
状況を黙って見守っていた万歳丸は、唐突にダンダの名を思い出した。心優しき商人。そう思っていた商人の名だった筈だ。
どうかしたのか周囲に尋ねられた万歳丸は、あえて説明はしなかった。
ならばと発言の機会を窺っていた奏音が口を開いた。
「アイラさんの旦那さんが怪我をしたのは事実です。治療費や損害の賠償はしてもいいかと思います」
「販売後の怪我については自己責任でお願いします」
「その言い分はあんまりだわ。貴方には人の心がないの?」
強い口調のアルスレーテを前に、ダンダは首を傾げる。
「そのような商品は取り扱ってませんので」
全力でダンダに罪を認めさせようとするハンターに、もういいですと言ったのはアイラだった。
「皆さんのおかげで店や家は無事でした。夫が元気になったら、今回のことは忘れて商売に励みます」
「フフ。懸命な判断です」
それだけ言うと、ダンダは仕事があるのでと宿から立ち去った。遠ざかる背中をハンターたちはずっと睨みつけていた。
■
――翌朝。
ダンダが泊まっている宿屋を万歳丸はひとりで訪ねた。
どうしたのか問うダンダに、万歳丸は単刀直入に問いかける。
「初対面だが、一度聞いておきてェンだ。話に聞くアンタらしくねェ振る舞い……娘とやらに何か、あったのか?」
一瞬だけダンダの表情が強張った。
「……仲良くしていますよ、母親と一緒にね。では失礼」
これ以上の会話を拒絶するようにダンダは万歳丸に背を向けた。
そのダンダを見送りながら、万歳丸は依頼者の夫婦にだけは自分の知っている情報を伝えておこうと思った。
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
---|
面白かった! | 5人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/03/23 21:09:43 |
||
相談卓 アルスレーテ・フュラー(ka6148) エルフ|27才|女性|格闘士(マスターアームズ) |
最終発言 2016/03/25 11:55:11 |