ゲスト
(ka0000)
火山洞窟調査依頼
マスター:T谷

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 不明
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/03/24 12:00
- 完成日
- 2016/04/01 02:48
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
団長からしてあれなのだ。その下に付いて喜んでいるような奴らが、まともなはずがない。
そう自分に言い聞かせ、湯水の如く湧く不満の数々を必死に受け流し続けて幾星霜。
ここまで穏便に円滑に、時に過度なストレスに部屋を埋め付くす機械群を爆破してしまいたくなったとしても、必死で爪を噛み唇を噛み頭を掻きむしって何とか堪えて、この上なく完璧に上手くやって来たというのに。
その努力が、音を立てて崩壊していく。
「……はい、何故君が今ここに呼び出されているのか。説明してみて」
蚊の鳴くような声でジギー・デデキントは呟いた。
幽鬼のように青白い肌、枯れ木のように細長い手足、こけた頬、手入れを全くしていないぼさぼさの髪。どれだけ寝ていないのか、濃いクマに縁取られた目はまるで爬虫類のように細められねっとりと虚空を見つめている。
彼が戦闘部隊である第二師団の兵長の一人だと、誰が一目で気付くだろうか。
そんなジギーの目の前には、一人の団員が立っている。筋骨隆々な青年だ。カールスラーエ要塞の外壁に針山のように設置されている数々の兵器群、それを制御管理するこの部屋に配属された、そこそこに機械が得意と周りから思われていたであろう人物だった。
ジギー以外に機導師の存在しない第二師団において、彼の助手になると目され送られてきた人材の一人である。
ふざけるなと言いたい。
てへへと可愛くもないアホ丸出しの曖昧な笑みでばつの悪そうに頭を掻く、この爪先から脳みそまであらゆる全てが筋肉で構成された物体が機導に通じるなどと、そう思った愚か者は一体どこの誰なのか。よしんば機械の扱いが多少なりと得意だったと仮定して……かけ算割り算を習得した程度の秀才五歳児に、数学者の助手が務まるとでも言うつもりなのだろうか。
「あー、えっと……」
そしてそいつは、自分が何故ここに呼ばれたのか、この期に及んで理解していない顔をしていた。曖昧な笑みは、あわよくば事無かれという叶わぬ期待の現れだろう。
「……これ、配線。こっちに差し込む奴が、あっちに差してあった。ねえ、プラグの形、違ったよね。大きさも。なんで無理矢理繋げたの?」
とはいえ、純粋に興味もあった。
言葉の分からない猿でもあるまいし、それより少しはマシな存在であるはずなのに、何故そんなことをしたのか。
猿以下なら猿以下で、その頭の中にどんな思考回路を構築しているのか。
「え、と……他に差すとこ見当たらなかったもんで……まあ、放っておく訳にもいかないかなーって。とりあえず適当に……」
バチンと、頭の中で何かが弾けた。
ジギーの中でスイッチが入る。瞬時にカッと目を見開くと、
「まだ! 差さずにおいた方がマシだったわこの無能野郎が!! 僕が気付くのがあと十秒、いやあと五秒でも遅かったら!! 壁ごと!! 街もお前らも何より僕も!! 全部纏めて吹き飛んでたかもしれないんだぞ!!」
口角泡を飛ばし、所々むせて咳を挟みつつ、ジギーは喉の奥からあらん限りの罵倒を絞り出す。
しかしあろう事か、目の前のそいつはその言葉を聞いて、
「いや、そんな大げさな」
そうのたまった。
「じゃあテメエの首かっさばいて動脈静脈入れ替えて試してみっかオラァっ!!」
魂からの金切り声が、薄暗い部屋にこだました。
●
数ヶ月掛けての調整は全てパーになり、充填していたマテリアルも余計な動作でその殆どが消費されてしまった。
機械上部に浮かぶディスプレイに並んだ数字の寂しさに、ジギーは大きくため息をつく。無能な部下をクビにしたは良いが、だからといって問題が解決するわけではない。
「それで、どうなってるの」
顔も向けずに尋ねた。
先程、団本部に連絡してマテリアル鉱石の要請をしたのだが、やってきたのは物資係の団員一人。その後ろに荷車を引いている訳でもないらしく、新たに配属された優秀な助手、というわけでもないようだ。
「それが、今すぐの納入はどこも難しいとのことでして……」
申し訳なさげな態度で、物資係は頭を下げた。
「それをどうにかするのが、君の仕事じゃないの?」
「一応、色々と問い合わせてはみたのですが……」
つらつらと、聞こえてくるのは言い訳の羅列。
近頃の情勢も合わさり、急な大量発注に答えられる在庫を残した場所などどこにもない。とのことだ。
「……そんなこと言ってさ、こっちの兵器が使えなかったら色々まずいの、分かってるよね。ここ、落とされるよ?」
「それは、そうなのですが」
歯切れの悪い答え。
ジギーはまたため息をつく。結局、下っ端に陳情など意味が無い。
とはいえ現実問題、無い物ねだりをしても仕方が無い。ジギーとしてはこの都市が落ちようがなんだろうが知ったことではないが、受けた仕事を完遂できないというのはプライドに傷が付く。
「……そうだ」
そして、ぐるぐると考えを巡らせてしばらく。一つ、思い出したことがあった。
「火山に鉱脈があるかもしれないって、前に言ってたよね。洞窟があるとかないとか」
「は、確かにハルクス副団長がそう仰っていましたが……探査が困難だということで保留に」
「じゃ、そこ調べてきて」
「いやそんな簡単に……」
「情勢がどうとか言うなら、供給元も多い方がいいでしょ」
「しかし――」
「ハンターに頼んだらいいよ、お金払えばやってくれるでしょ。地下のドワーフ連れてさ、鉱脈探し」
ほら行った行ったと、ジギーは一瞥もくれずにしっしと手を振る。物資係が何を言っても、最早我関せずと一言も発することはなかった。
●
第二師団からの正式な依頼がオフィスに降りる。
そして団本部に集められたハンター達の前には、一人のドワーフが待っていた。身長は一メートルほど、体の横幅も同じくらいで、遠目に見れば玉のようなずんぐりむっくり。しかしその表情は天真爛漫といった風で、髭もなく、まだ若いドワーフだと一目で分かった。
ドワーフは大きめの鞄を背負って、そわそわと火山のある方角に目をやっている。どうやら火山に行くのが、楽しみで仕方が無いらしい。
「えっとー、エミールです。よろしくねー」
ハンター達が集まっていることに気付くと、ほわほわと間延びした穏やかな調子で、エミールと名乗ったドワーフはぺこりと頭を下げた。
聞けば、だだをこねて大人のドワーフと無理に代わって貰ったらしい。危険なのは承知の上だと、エミールはふんと胸を張った。
そう自分に言い聞かせ、湯水の如く湧く不満の数々を必死に受け流し続けて幾星霜。
ここまで穏便に円滑に、時に過度なストレスに部屋を埋め付くす機械群を爆破してしまいたくなったとしても、必死で爪を噛み唇を噛み頭を掻きむしって何とか堪えて、この上なく完璧に上手くやって来たというのに。
その努力が、音を立てて崩壊していく。
「……はい、何故君が今ここに呼び出されているのか。説明してみて」
蚊の鳴くような声でジギー・デデキントは呟いた。
幽鬼のように青白い肌、枯れ木のように細長い手足、こけた頬、手入れを全くしていないぼさぼさの髪。どれだけ寝ていないのか、濃いクマに縁取られた目はまるで爬虫類のように細められねっとりと虚空を見つめている。
彼が戦闘部隊である第二師団の兵長の一人だと、誰が一目で気付くだろうか。
そんなジギーの目の前には、一人の団員が立っている。筋骨隆々な青年だ。カールスラーエ要塞の外壁に針山のように設置されている数々の兵器群、それを制御管理するこの部屋に配属された、そこそこに機械が得意と周りから思われていたであろう人物だった。
ジギー以外に機導師の存在しない第二師団において、彼の助手になると目され送られてきた人材の一人である。
ふざけるなと言いたい。
てへへと可愛くもないアホ丸出しの曖昧な笑みでばつの悪そうに頭を掻く、この爪先から脳みそまであらゆる全てが筋肉で構成された物体が機導に通じるなどと、そう思った愚か者は一体どこの誰なのか。よしんば機械の扱いが多少なりと得意だったと仮定して……かけ算割り算を習得した程度の秀才五歳児に、数学者の助手が務まるとでも言うつもりなのだろうか。
「あー、えっと……」
そしてそいつは、自分が何故ここに呼ばれたのか、この期に及んで理解していない顔をしていた。曖昧な笑みは、あわよくば事無かれという叶わぬ期待の現れだろう。
「……これ、配線。こっちに差し込む奴が、あっちに差してあった。ねえ、プラグの形、違ったよね。大きさも。なんで無理矢理繋げたの?」
とはいえ、純粋に興味もあった。
言葉の分からない猿でもあるまいし、それより少しはマシな存在であるはずなのに、何故そんなことをしたのか。
猿以下なら猿以下で、その頭の中にどんな思考回路を構築しているのか。
「え、と……他に差すとこ見当たらなかったもんで……まあ、放っておく訳にもいかないかなーって。とりあえず適当に……」
バチンと、頭の中で何かが弾けた。
ジギーの中でスイッチが入る。瞬時にカッと目を見開くと、
「まだ! 差さずにおいた方がマシだったわこの無能野郎が!! 僕が気付くのがあと十秒、いやあと五秒でも遅かったら!! 壁ごと!! 街もお前らも何より僕も!! 全部纏めて吹き飛んでたかもしれないんだぞ!!」
口角泡を飛ばし、所々むせて咳を挟みつつ、ジギーは喉の奥からあらん限りの罵倒を絞り出す。
しかしあろう事か、目の前のそいつはその言葉を聞いて、
「いや、そんな大げさな」
そうのたまった。
「じゃあテメエの首かっさばいて動脈静脈入れ替えて試してみっかオラァっ!!」
魂からの金切り声が、薄暗い部屋にこだました。
●
数ヶ月掛けての調整は全てパーになり、充填していたマテリアルも余計な動作でその殆どが消費されてしまった。
機械上部に浮かぶディスプレイに並んだ数字の寂しさに、ジギーは大きくため息をつく。無能な部下をクビにしたは良いが、だからといって問題が解決するわけではない。
「それで、どうなってるの」
顔も向けずに尋ねた。
先程、団本部に連絡してマテリアル鉱石の要請をしたのだが、やってきたのは物資係の団員一人。その後ろに荷車を引いている訳でもないらしく、新たに配属された優秀な助手、というわけでもないようだ。
「それが、今すぐの納入はどこも難しいとのことでして……」
申し訳なさげな態度で、物資係は頭を下げた。
「それをどうにかするのが、君の仕事じゃないの?」
「一応、色々と問い合わせてはみたのですが……」
つらつらと、聞こえてくるのは言い訳の羅列。
近頃の情勢も合わさり、急な大量発注に答えられる在庫を残した場所などどこにもない。とのことだ。
「……そんなこと言ってさ、こっちの兵器が使えなかったら色々まずいの、分かってるよね。ここ、落とされるよ?」
「それは、そうなのですが」
歯切れの悪い答え。
ジギーはまたため息をつく。結局、下っ端に陳情など意味が無い。
とはいえ現実問題、無い物ねだりをしても仕方が無い。ジギーとしてはこの都市が落ちようがなんだろうが知ったことではないが、受けた仕事を完遂できないというのはプライドに傷が付く。
「……そうだ」
そして、ぐるぐると考えを巡らせてしばらく。一つ、思い出したことがあった。
「火山に鉱脈があるかもしれないって、前に言ってたよね。洞窟があるとかないとか」
「は、確かにハルクス副団長がそう仰っていましたが……探査が困難だということで保留に」
「じゃ、そこ調べてきて」
「いやそんな簡単に……」
「情勢がどうとか言うなら、供給元も多い方がいいでしょ」
「しかし――」
「ハンターに頼んだらいいよ、お金払えばやってくれるでしょ。地下のドワーフ連れてさ、鉱脈探し」
ほら行った行ったと、ジギーは一瞥もくれずにしっしと手を振る。物資係が何を言っても、最早我関せずと一言も発することはなかった。
●
第二師団からの正式な依頼がオフィスに降りる。
そして団本部に集められたハンター達の前には、一人のドワーフが待っていた。身長は一メートルほど、体の横幅も同じくらいで、遠目に見れば玉のようなずんぐりむっくり。しかしその表情は天真爛漫といった風で、髭もなく、まだ若いドワーフだと一目で分かった。
ドワーフは大きめの鞄を背負って、そわそわと火山のある方角に目をやっている。どうやら火山に行くのが、楽しみで仕方が無いらしい。
「えっとー、エミールです。よろしくねー」
ハンター達が集まっていることに気付くと、ほわほわと間延びした穏やかな調子で、エミールと名乗ったドワーフはぺこりと頭を下げた。
聞けば、だだをこねて大人のドワーフと無理に代わって貰ったらしい。危険なのは承知の上だと、エミールはふんと胸を張った。
リプレイ本文
「はーい、到着したよー」
エミールがほわほわと浮き足だって指差す先、岩の目立つ山の中腹に洞窟はぽっかりと開いていた。
その入り口は小さい。大人の背丈なら、屈まなければ頭をぶつけてしまいそうだ。
「おお、この洞窟ですかっ!」
「ここに宝物が眠ってるんだね!」
ブレナー ローゼンベック(ka4184)と時音 ざくろ(ka1250)が、テンション高く目を輝かせながら洞窟を覗き込む。
穴の中には、深い暗闇が広がっていた。
「あちらじゃ出来ないような、凄い探検ですね!」
「ええ、人の手の入ってない洞窟なんて、あっちじゃ入れるものじゃないものね」
同じく覗き込みながら、マリィア・バルデス(ka5848)が淡々と入り口を確かめている。
「そなたも楽しそうじゃな。浮かれるのは良いが、油断はせぬようにな」
しかしミグ・ロマイヤー(ka0665)は、マリィアの目に灯ったブレナーと同じ輝きを見逃さなかった。
ミグは面白そうにニヤリと笑い、ひょいとマリィアの顔を覗き込めば、
「……子供の頃は、ジュブナイルが大好きだったのよ。地下帝国に憧れる程度の素養の持ち合わせはあるもの」
見透かされ、少し赤面しつつマリィアは早口に呟く。その様子に、ミグは微笑ましそうにケラケラと笑った。
「ええと、水、ロープ、ライト、製図道具……」
メル・アイザックス(ka0520)は口に出して、自分の持ってきた道具の再確認をしていた。準備はしっかりと、経験を生かして抜かりのないように。
恐らくは、自分がこの中で最年長。安全とは行かないだろう道中を、お姉さんとして頑張らなければならないのだ。
「でもこの辺りは、まだ暑くないみたいだね。中に入ると暑くなるのかな」
ルーエル・ゼクシディア(ka2473)は、そんな感想を抱いた。
とはいえ自分は詳しい訳ではない。難しい調査はそういった人に任せ、とりあえず入り口の状態を分かる限りメモに書き記した。
●
メルとミグの提案で、全員の体を一本のロープで繋ぐ。薄暗い洞窟のどこに、クレバスなどの天然の落とし穴が口を開けて待っているか分からないからだ。
道具と心の準備が終わり、まずマリィアが洞窟に入っていく。ライトで前方を照らしながら、空いた手に持った拳銃を突き出して罠がないかを確かめる。
「流石に十フィート棒は持ってこなかったわ……」
危険を確かめる術が少ないことに不安はあったが、とりあえず入り口付近に突き出した銃に何かの反応はない。
どうやら大丈夫なようだと判断し、マリィアはゆっくりと慎重に歩を進める。
続いてざくろが洞窟に入り、
「さっ、行こうか。エミール君!」
エミールの手を引いて、メルが後を追う。
そして若いドワーフの背中を押すようにミグが、その後にルーエル、ブレナーと並んで狭い洞窟を進んでいった。
入り口から続く洞窟の天井は低く、屈んでいないと進むことが出来ない。横幅もないため隊列も崩すことが出来ず、一列に並ばざるを得ない状況だ。
「ふむ、昔を思い出すのう」
ひょいひょいと進みながらミグは、従軍時代を思い出して呟いていた。
明かりの数は多く薄暗さは大分軽減されているが、それでも遮蔽物や段差のおかげで足下は快適とは言えない。ミグは適宜老婆心ながら、苦戦していそうな味方にアドバイスを送った。
「……それにしても、何だろう。この洞窟、少し嫌な感じがする」
ルーエルが何気に言った一言は、全員に共通する感覚だった。
「うん、ざくろもさっきから何だか違和感が……なんだろう」
特にざくろは、その違和感の正体に興味を抱いていた。壁面に手を這わせ、周囲に注意深く目を配る。
「何もないと良いのですけど……」
ブレナーが不安げに呟く。どうやらはしゃいでばかりもいられない様子に、最後尾として最悪を想定し撤退時のイメージを浮かべる。
どうあっても、非戦闘員であるエミールに怪我をさせることだけは避けなければ。
●
百メートルは進んだだろうか。足場の悪さと体勢の悪さで判然としないが、マリィアは歩数を数えて大体の距離を測っていた。
「どうやら、蝙蝠はいないようね。いえ、というよりも……」
そうして狭い道を進み、やがて、気付けば腰を屈める必要がなくなっていることに気付く。
額の汗を拭いながら、マリィアが久しぶりに立ち上がって辺りを見渡す。
ここに来て気温は上がってきたが、足下に蝙蝠の糞が堆積している様子はない。
「うん、おかしいよね」
それに対し、ざくろはランタンの光を高く掲げ、得心を得たように頷いた。
「ここ、蝙蝠どころか虫の一匹もいないみたい」
ただそれが、気温が高いせいなのか、何かがあるからなのか。それは分からない。ただ、マリィアの直感視でもってしても、何の気配も感じられないことは確かだった。
「エミール君、大丈夫?」
「うんー、まだまだ元気だよー」
非覚醒者には、この場所は少しきついかもしれない。しかし、メルの気遣いにエミールは変わらぬ笑みを見せた。
「うむうむ、若者はそうではなくてはな。だが、過信はするでないぞ? 少しでも体に異変があれば、すぐに言うのだ」
ミグは全員の顔色を確かめて、諭すように言った。
「洞窟を入ってすぐ、低い洞窟っと……それから、広い洞窟が曲がりくねりながら下っていって……」
ルーエルは細かくメモを取る。メルとミグがより正確な地図を書いてはいるが、より多くの視点から情報があった方が良いかもしれない。「滑りやすいから注意」と、矢印と共にメモに強調して書き込んだ。
「――ほあーっ!」
その直後、エミールの悲鳴が響いた。同時に全員を繋いだロープが、ぐんと強く引っ張られる。
「エミール君!」
「おっと!」
だがそのロープが功を奏した。ミグが咄嗟に反応し、ロープを掴んで滑落を食い止める。
大事には至らず全員が胸を撫で下ろす。
「平らな場所を見つけて、少し小休止を入れた方が良いかもしれませんね」
そんなブレナーの提案に、反対する者はいなかった。
更に道を下って行くと、段々と傾斜が緩やかになってきた。しかし同時に、穴の先から熱気と赤い光が流れ込んでくるのが見えてくる。
ハンター達は、少し広くなった場所に腰を下ろした。
「エミール君、あめ玉食べる?」
「あ、ありがとー!」
メルが持ってきたあめ玉を、全員に配っていく。それをエミールは嬉しそうに受け取った。
「急に暑くなってきたね……」
「……火山活動が活発になってきてるんだったら、ちょっと怖いな」
ぱたぱたと自分を仰ぐルーエルとざくろが、不安そうに呟く。
「何だか不気味と言いますか、奇妙な感じがして。何もないと良いのですけど……」
言い知れぬ感覚に、ブレナーの言葉にも不安が覗く。
「皆、今のうちに確りと水分補給をしておくのだぞ。水を節約して熱中症にでもなれば、事であるからの」
ミグは目前の健康に気を遣った。何が待っているにしろ、体調が良くなければ乗り越えられるはずがない。
そうして一行が最後の休憩を取っている中、マリィアは地面に目を落としていた。堆積した砂を指先で弄る。
「……エミールがあそこで転んだの、少し唐突だったわよね」
その指先が、カリ、と何かを引っ掻く。
砂を払ってみれば、そこに透明な硬いものがあった。
「水晶……いえ、ガラス、ですか?」
ブレナーが覗き込む。
つるりとした表面は、天然の水晶では有り得ない。どうやら、エミールが転んだのは、これと同じ物が原因のようだ。
「こういうの、凄くワクワクするわよね」
それが髑髏の形をしていないことに少し落胆しながらも、マリィアは不安と共に胸を躍らせた。
●
洞窟の先から漏れ出す赤い光の中に、一行は足を踏み入れる。
途端に視界が開け、目の前には見渡す限りの溶岩が、湖のように横たわっていた。
「溶岩だ……神秘的だけど、落ちたらひとたまりも無いね……」
しかしそこは、湖というには騒がしい。ボコボコと泡立ち、眩く発光しながら煮え立つ岩石。熱せられた大気が渦巻き、立ち上る陽炎で遠くを見通すことは難しかった。
ルーエルの言うように、覚醒者といえど過酷な環境だ。
「あ! あれが目的地かな?」
ざくろが指を差す先、陽炎の向こうに色の違う場所がうっすらと見える。どうやら、広い空間になっているようだ。
「子供の鉱脈が、あっちに伸びてるのー」
「へえ、そんなの分かるんだ」
得意げに胸を張るエミール。彼の言う”子供”は、こちら側の壁面に細く走っているらしいが、メルの目にはよく分からなかった。
「皆、今一度ロープの結び目を確認するのである」
「ええ。万が一にも、足を踏み外す訳にはいきませんからね」
一行は溶岩の向こうを目指し、湖の外縁に沿って移動することにした。
「こういう所で、オーバーテクノロジーが見つかるといいなぁって思うのよ。……けど、多分見つかるのは別の物だろうとも思うのよね……」
進めば進むほど、感じる違和感は強くなる。
先頭に立つマリィアは、今まで以上に気をつけて周囲に直感視を向けた。
溶岩の沸く音、吹き出す蒸気、時折の小さな爆発音。
肌を焼かんばかりの熱気に、溶岩から出来るだけ離れることで耐えながら、一行は慎重に進んでいく。
そして、その道程を半分ほど過ぎたところだった。
「……止まって」
マリィアが手を上げ、隊列を制する。その目は、真横を流れる溶岩に向けられていた。
――溶岩の流れがおかしい。
マテリアルを込めた視線に捉えられた光景が、そう告げていた。
「戦闘準備! かな?」
ざくろが背負った大剣を引き抜く。
その瞬間。
突如、溶岩の一部がせり上がった。
「まずい、流れ込んでくるぞ!」
ミグが叫ぶ。
せり上がった部分が周囲を巻き込み、余波によって溶岩が岩場に押し寄せる。
「エミール君っ、こっち!」
「わーっ!」
メルは咄嗟に全員の体に繋がったロープを刀で切り離し、エミールの手を掴んで引き寄せた。
「退路が……! 皆さん、目的地へ走りましょう!」
「こっちよ、急いで!」
最後尾のブレナーの背後、歩いてきた岩場を溶岩が覆っていく。まるでこちらの退路を断つようなその流れに、ハンター達は嫌な感覚が確かだったことに気付く。
――溶岩の中に何かがいる。
そしてそれは、間もなく姿を現した。
高熱が周囲を焦がす異音と共に、溶岩の一部が腕のように形成される。その腕が、ハンター達を追うように伸びて背後の岩場に叩き付けられた。
「何あれ、溶岩が人型に……?」
先頭組を庇うように歩を遅らせるルーエルの目の前で、溶岩から突き出た腕に引き上げられるようにまた溶岩で象られた体が現れる。
両足を確かめるようにそれは岩場に起き上がり、その頭が溶岩を垂れ流しながらぐるりとこちらに顔らしき部位を向けた。そして、人型の腕の先、溶岩が渦巻いて剣のようなものを作り出す。
「超機導パワーオン!」
次の瞬間、ジェットブーツで仲間の頭を飛び越えざくろが人型の前に飛び出した。
反応し、ざくろの落下に合わせて人型が剣を振りかぶり、
「弾け飛べっ!」
バチンと、ざくろの展開した光の障壁に溶岩の剣が振り下ろされる。
雷撃が弾け、人型が大きく仰け反った。
「――熱っ!」
剣を弾き返した瞬間に、僅かに散った飛沫がざくろの腕を掠める。
「ざくろさん!」
「大丈夫、掠っただけ!」
声を上げたルーエルに笑顔を向けると、
「さ、逃げるよ!」
ざくろは更に敵の足を鈍らすべく、眼前にマテリアルを込めた。
●
最深部は、黒々とした壁面に囲まれた空間だった。半球状に、抉られたような形状だ。
「わ、わ! これ、殆ど鉱石だよー!」
そこにハンター達が転がり込むと、メルに抱えられたエミールが興奮の声を上げた。
だが、今はそれどころではない。人型溶岩は、その見た目にそぐわない速度でハンター達を追ってきていた。
「エミール君、ちょっと下がっててね。大丈夫、お姉さん達は皆、強いんだから!」
「うん、分かったー」
メルは庇うべく、エミールの前に出る。
「うむ、頼りにするが良いぞ」
同じくエミールの前に出て、ミグはメルに防性強化を施した。
「流石に、あれに格闘は厳しいかしら」
「そ、それは難しいでしょうね」
「剣で斬ったら、剣の方がダメになっちゃいそうだよねー」
「魔法の衝撃でも、溶岩が飛び散っちゃいそうだし……」
さらにその前に、マリィア、ブレナー、ざくろ、ルーエルが並んで、人型溶岩と相対する。
敵は更にその形状を変え、剣に盾、鎧や兜なども溶岩で作り出していた。その姿はまるで、帝国軍兵士のようだ。
――敵が吼える。剣を高く振り上げて、戦意も満々といった様子だ。
「でも、やってみなきゃ分からないし、援護よろしくね!」
敵は未知数とはいえ、足場は万全だ。ざくろは意気揚々と大剣を構えて一直線に敵へと肉薄する。
「僕も行くよ!」
続いてルーエルが飛び出し、
「火は効かなそうですしね……っ!」
ブレナーはその場で、マテリアルを込めた剣を振り下ろした。発生した衝撃波が、空気を裂いて人型へと叩き付けられる。
「竜種よりは、マシって考えるべきかしら?」
追ってマリィアは、両手に構えた拳銃の引き金を交互に引いた。無数の弾丸が突き刺さり、人型の表面に小さな穴を穿っていく。
人型は盾を構えてそれらを防ごうとするが、溶岩で出来た盾に強度はなく全てを受けてよろめいた。
ざくろとルーエルがそこに飛び込む。
人型はそれに対し威嚇のような仕草を見せたが――翻る大剣と、爆音と共に射出された杭の刺突が、その頭を綺麗に吹き飛ばしていた。
●
「ほら、ざくろさん」
ルーエルのヒールが、ざくろの火傷を癒やしていく。
「何だかあっけなかったね」
人型は体の大部分を崩されると、それだけで元の溶岩に戻っていった。耐久力が高いわけでは無かったようだ。
「でも、これで鉱石は持って帰れそうね。水晶髑髏は、なかったようだけど」
「リハビリがてらにはちょうど良かったのう」
目当てのアイテムが見つからず小さくマリィアは肩を竦める。その横で、ミグは背伸びをして肩を回した。
「エミールさん、怪我はなかったですか?」
「うん、大丈夫だよー」
「よく頑張ったね、偉いぞ!」
幸いにも、エミールに大きな傷はない。この気温での疲れはあるが、元気な顔で鉱脈を弄っている。
ブレナーはほっと胸を撫で下ろし、メルはエミールの頭を思い切り撫でてあげた。
「さ、後は無事に帰還するだけだねっ。あ、そうだ。鉱脈発見の証拠として、一欠けら持って行った方が良いんじゃない?」
「そうするー」
ルーエルの言葉にエミールは頷き、腰元から取り出した小さなハンマーで鉱石を砕く。そうして零れた欠片を仕舞うと、エミールは鼻息荒く、今回の冒険のこととハンター達への感謝を、身振り手振り交えて元気よく話すのだった。
エミールがほわほわと浮き足だって指差す先、岩の目立つ山の中腹に洞窟はぽっかりと開いていた。
その入り口は小さい。大人の背丈なら、屈まなければ頭をぶつけてしまいそうだ。
「おお、この洞窟ですかっ!」
「ここに宝物が眠ってるんだね!」
ブレナー ローゼンベック(ka4184)と時音 ざくろ(ka1250)が、テンション高く目を輝かせながら洞窟を覗き込む。
穴の中には、深い暗闇が広がっていた。
「あちらじゃ出来ないような、凄い探検ですね!」
「ええ、人の手の入ってない洞窟なんて、あっちじゃ入れるものじゃないものね」
同じく覗き込みながら、マリィア・バルデス(ka5848)が淡々と入り口を確かめている。
「そなたも楽しそうじゃな。浮かれるのは良いが、油断はせぬようにな」
しかしミグ・ロマイヤー(ka0665)は、マリィアの目に灯ったブレナーと同じ輝きを見逃さなかった。
ミグは面白そうにニヤリと笑い、ひょいとマリィアの顔を覗き込めば、
「……子供の頃は、ジュブナイルが大好きだったのよ。地下帝国に憧れる程度の素養の持ち合わせはあるもの」
見透かされ、少し赤面しつつマリィアは早口に呟く。その様子に、ミグは微笑ましそうにケラケラと笑った。
「ええと、水、ロープ、ライト、製図道具……」
メル・アイザックス(ka0520)は口に出して、自分の持ってきた道具の再確認をしていた。準備はしっかりと、経験を生かして抜かりのないように。
恐らくは、自分がこの中で最年長。安全とは行かないだろう道中を、お姉さんとして頑張らなければならないのだ。
「でもこの辺りは、まだ暑くないみたいだね。中に入ると暑くなるのかな」
ルーエル・ゼクシディア(ka2473)は、そんな感想を抱いた。
とはいえ自分は詳しい訳ではない。難しい調査はそういった人に任せ、とりあえず入り口の状態を分かる限りメモに書き記した。
●
メルとミグの提案で、全員の体を一本のロープで繋ぐ。薄暗い洞窟のどこに、クレバスなどの天然の落とし穴が口を開けて待っているか分からないからだ。
道具と心の準備が終わり、まずマリィアが洞窟に入っていく。ライトで前方を照らしながら、空いた手に持った拳銃を突き出して罠がないかを確かめる。
「流石に十フィート棒は持ってこなかったわ……」
危険を確かめる術が少ないことに不安はあったが、とりあえず入り口付近に突き出した銃に何かの反応はない。
どうやら大丈夫なようだと判断し、マリィアはゆっくりと慎重に歩を進める。
続いてざくろが洞窟に入り、
「さっ、行こうか。エミール君!」
エミールの手を引いて、メルが後を追う。
そして若いドワーフの背中を押すようにミグが、その後にルーエル、ブレナーと並んで狭い洞窟を進んでいった。
入り口から続く洞窟の天井は低く、屈んでいないと進むことが出来ない。横幅もないため隊列も崩すことが出来ず、一列に並ばざるを得ない状況だ。
「ふむ、昔を思い出すのう」
ひょいひょいと進みながらミグは、従軍時代を思い出して呟いていた。
明かりの数は多く薄暗さは大分軽減されているが、それでも遮蔽物や段差のおかげで足下は快適とは言えない。ミグは適宜老婆心ながら、苦戦していそうな味方にアドバイスを送った。
「……それにしても、何だろう。この洞窟、少し嫌な感じがする」
ルーエルが何気に言った一言は、全員に共通する感覚だった。
「うん、ざくろもさっきから何だか違和感が……なんだろう」
特にざくろは、その違和感の正体に興味を抱いていた。壁面に手を這わせ、周囲に注意深く目を配る。
「何もないと良いのですけど……」
ブレナーが不安げに呟く。どうやらはしゃいでばかりもいられない様子に、最後尾として最悪を想定し撤退時のイメージを浮かべる。
どうあっても、非戦闘員であるエミールに怪我をさせることだけは避けなければ。
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百メートルは進んだだろうか。足場の悪さと体勢の悪さで判然としないが、マリィアは歩数を数えて大体の距離を測っていた。
「どうやら、蝙蝠はいないようね。いえ、というよりも……」
そうして狭い道を進み、やがて、気付けば腰を屈める必要がなくなっていることに気付く。
額の汗を拭いながら、マリィアが久しぶりに立ち上がって辺りを見渡す。
ここに来て気温は上がってきたが、足下に蝙蝠の糞が堆積している様子はない。
「うん、おかしいよね」
それに対し、ざくろはランタンの光を高く掲げ、得心を得たように頷いた。
「ここ、蝙蝠どころか虫の一匹もいないみたい」
ただそれが、気温が高いせいなのか、何かがあるからなのか。それは分からない。ただ、マリィアの直感視でもってしても、何の気配も感じられないことは確かだった。
「エミール君、大丈夫?」
「うんー、まだまだ元気だよー」
非覚醒者には、この場所は少しきついかもしれない。しかし、メルの気遣いにエミールは変わらぬ笑みを見せた。
「うむうむ、若者はそうではなくてはな。だが、過信はするでないぞ? 少しでも体に異変があれば、すぐに言うのだ」
ミグは全員の顔色を確かめて、諭すように言った。
「洞窟を入ってすぐ、低い洞窟っと……それから、広い洞窟が曲がりくねりながら下っていって……」
ルーエルは細かくメモを取る。メルとミグがより正確な地図を書いてはいるが、より多くの視点から情報があった方が良いかもしれない。「滑りやすいから注意」と、矢印と共にメモに強調して書き込んだ。
「――ほあーっ!」
その直後、エミールの悲鳴が響いた。同時に全員を繋いだロープが、ぐんと強く引っ張られる。
「エミール君!」
「おっと!」
だがそのロープが功を奏した。ミグが咄嗟に反応し、ロープを掴んで滑落を食い止める。
大事には至らず全員が胸を撫で下ろす。
「平らな場所を見つけて、少し小休止を入れた方が良いかもしれませんね」
そんなブレナーの提案に、反対する者はいなかった。
更に道を下って行くと、段々と傾斜が緩やかになってきた。しかし同時に、穴の先から熱気と赤い光が流れ込んでくるのが見えてくる。
ハンター達は、少し広くなった場所に腰を下ろした。
「エミール君、あめ玉食べる?」
「あ、ありがとー!」
メルが持ってきたあめ玉を、全員に配っていく。それをエミールは嬉しそうに受け取った。
「急に暑くなってきたね……」
「……火山活動が活発になってきてるんだったら、ちょっと怖いな」
ぱたぱたと自分を仰ぐルーエルとざくろが、不安そうに呟く。
「何だか不気味と言いますか、奇妙な感じがして。何もないと良いのですけど……」
言い知れぬ感覚に、ブレナーの言葉にも不安が覗く。
「皆、今のうちに確りと水分補給をしておくのだぞ。水を節約して熱中症にでもなれば、事であるからの」
ミグは目前の健康に気を遣った。何が待っているにしろ、体調が良くなければ乗り越えられるはずがない。
そうして一行が最後の休憩を取っている中、マリィアは地面に目を落としていた。堆積した砂を指先で弄る。
「……エミールがあそこで転んだの、少し唐突だったわよね」
その指先が、カリ、と何かを引っ掻く。
砂を払ってみれば、そこに透明な硬いものがあった。
「水晶……いえ、ガラス、ですか?」
ブレナーが覗き込む。
つるりとした表面は、天然の水晶では有り得ない。どうやら、エミールが転んだのは、これと同じ物が原因のようだ。
「こういうの、凄くワクワクするわよね」
それが髑髏の形をしていないことに少し落胆しながらも、マリィアは不安と共に胸を躍らせた。
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洞窟の先から漏れ出す赤い光の中に、一行は足を踏み入れる。
途端に視界が開け、目の前には見渡す限りの溶岩が、湖のように横たわっていた。
「溶岩だ……神秘的だけど、落ちたらひとたまりも無いね……」
しかしそこは、湖というには騒がしい。ボコボコと泡立ち、眩く発光しながら煮え立つ岩石。熱せられた大気が渦巻き、立ち上る陽炎で遠くを見通すことは難しかった。
ルーエルの言うように、覚醒者といえど過酷な環境だ。
「あ! あれが目的地かな?」
ざくろが指を差す先、陽炎の向こうに色の違う場所がうっすらと見える。どうやら、広い空間になっているようだ。
「子供の鉱脈が、あっちに伸びてるのー」
「へえ、そんなの分かるんだ」
得意げに胸を張るエミール。彼の言う”子供”は、こちら側の壁面に細く走っているらしいが、メルの目にはよく分からなかった。
「皆、今一度ロープの結び目を確認するのである」
「ええ。万が一にも、足を踏み外す訳にはいきませんからね」
一行は溶岩の向こうを目指し、湖の外縁に沿って移動することにした。
「こういう所で、オーバーテクノロジーが見つかるといいなぁって思うのよ。……けど、多分見つかるのは別の物だろうとも思うのよね……」
進めば進むほど、感じる違和感は強くなる。
先頭に立つマリィアは、今まで以上に気をつけて周囲に直感視を向けた。
溶岩の沸く音、吹き出す蒸気、時折の小さな爆発音。
肌を焼かんばかりの熱気に、溶岩から出来るだけ離れることで耐えながら、一行は慎重に進んでいく。
そして、その道程を半分ほど過ぎたところだった。
「……止まって」
マリィアが手を上げ、隊列を制する。その目は、真横を流れる溶岩に向けられていた。
――溶岩の流れがおかしい。
マテリアルを込めた視線に捉えられた光景が、そう告げていた。
「戦闘準備! かな?」
ざくろが背負った大剣を引き抜く。
その瞬間。
突如、溶岩の一部がせり上がった。
「まずい、流れ込んでくるぞ!」
ミグが叫ぶ。
せり上がった部分が周囲を巻き込み、余波によって溶岩が岩場に押し寄せる。
「エミール君っ、こっち!」
「わーっ!」
メルは咄嗟に全員の体に繋がったロープを刀で切り離し、エミールの手を掴んで引き寄せた。
「退路が……! 皆さん、目的地へ走りましょう!」
「こっちよ、急いで!」
最後尾のブレナーの背後、歩いてきた岩場を溶岩が覆っていく。まるでこちらの退路を断つようなその流れに、ハンター達は嫌な感覚が確かだったことに気付く。
――溶岩の中に何かがいる。
そしてそれは、間もなく姿を現した。
高熱が周囲を焦がす異音と共に、溶岩の一部が腕のように形成される。その腕が、ハンター達を追うように伸びて背後の岩場に叩き付けられた。
「何あれ、溶岩が人型に……?」
先頭組を庇うように歩を遅らせるルーエルの目の前で、溶岩から突き出た腕に引き上げられるようにまた溶岩で象られた体が現れる。
両足を確かめるようにそれは岩場に起き上がり、その頭が溶岩を垂れ流しながらぐるりとこちらに顔らしき部位を向けた。そして、人型の腕の先、溶岩が渦巻いて剣のようなものを作り出す。
「超機導パワーオン!」
次の瞬間、ジェットブーツで仲間の頭を飛び越えざくろが人型の前に飛び出した。
反応し、ざくろの落下に合わせて人型が剣を振りかぶり、
「弾け飛べっ!」
バチンと、ざくろの展開した光の障壁に溶岩の剣が振り下ろされる。
雷撃が弾け、人型が大きく仰け反った。
「――熱っ!」
剣を弾き返した瞬間に、僅かに散った飛沫がざくろの腕を掠める。
「ざくろさん!」
「大丈夫、掠っただけ!」
声を上げたルーエルに笑顔を向けると、
「さ、逃げるよ!」
ざくろは更に敵の足を鈍らすべく、眼前にマテリアルを込めた。
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最深部は、黒々とした壁面に囲まれた空間だった。半球状に、抉られたような形状だ。
「わ、わ! これ、殆ど鉱石だよー!」
そこにハンター達が転がり込むと、メルに抱えられたエミールが興奮の声を上げた。
だが、今はそれどころではない。人型溶岩は、その見た目にそぐわない速度でハンター達を追ってきていた。
「エミール君、ちょっと下がっててね。大丈夫、お姉さん達は皆、強いんだから!」
「うん、分かったー」
メルは庇うべく、エミールの前に出る。
「うむ、頼りにするが良いぞ」
同じくエミールの前に出て、ミグはメルに防性強化を施した。
「流石に、あれに格闘は厳しいかしら」
「そ、それは難しいでしょうね」
「剣で斬ったら、剣の方がダメになっちゃいそうだよねー」
「魔法の衝撃でも、溶岩が飛び散っちゃいそうだし……」
さらにその前に、マリィア、ブレナー、ざくろ、ルーエルが並んで、人型溶岩と相対する。
敵は更にその形状を変え、剣に盾、鎧や兜なども溶岩で作り出していた。その姿はまるで、帝国軍兵士のようだ。
――敵が吼える。剣を高く振り上げて、戦意も満々といった様子だ。
「でも、やってみなきゃ分からないし、援護よろしくね!」
敵は未知数とはいえ、足場は万全だ。ざくろは意気揚々と大剣を構えて一直線に敵へと肉薄する。
「僕も行くよ!」
続いてルーエルが飛び出し、
「火は効かなそうですしね……っ!」
ブレナーはその場で、マテリアルを込めた剣を振り下ろした。発生した衝撃波が、空気を裂いて人型へと叩き付けられる。
「竜種よりは、マシって考えるべきかしら?」
追ってマリィアは、両手に構えた拳銃の引き金を交互に引いた。無数の弾丸が突き刺さり、人型の表面に小さな穴を穿っていく。
人型は盾を構えてそれらを防ごうとするが、溶岩で出来た盾に強度はなく全てを受けてよろめいた。
ざくろとルーエルがそこに飛び込む。
人型はそれに対し威嚇のような仕草を見せたが――翻る大剣と、爆音と共に射出された杭の刺突が、その頭を綺麗に吹き飛ばしていた。
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「ほら、ざくろさん」
ルーエルのヒールが、ざくろの火傷を癒やしていく。
「何だかあっけなかったね」
人型は体の大部分を崩されると、それだけで元の溶岩に戻っていった。耐久力が高いわけでは無かったようだ。
「でも、これで鉱石は持って帰れそうね。水晶髑髏は、なかったようだけど」
「リハビリがてらにはちょうど良かったのう」
目当てのアイテムが見つからず小さくマリィアは肩を竦める。その横で、ミグは背伸びをして肩を回した。
「エミールさん、怪我はなかったですか?」
「うん、大丈夫だよー」
「よく頑張ったね、偉いぞ!」
幸いにも、エミールに大きな傷はない。この気温での疲れはあるが、元気な顔で鉱脈を弄っている。
ブレナーはほっと胸を撫で下ろし、メルはエミールの頭を思い切り撫でてあげた。
「さ、後は無事に帰還するだけだねっ。あ、そうだ。鉱脈発見の証拠として、一欠けら持って行った方が良いんじゃない?」
「そうするー」
ルーエルの言葉にエミールは頷き、腰元から取り出した小さなハンマーで鉱石を砕く。そうして零れた欠片を仕舞うと、エミールは鼻息荒く、今回の冒険のこととハンター達への感謝を、身振り手振り交えて元気よく話すのだった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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作戦相談ですっ! ブレナー ローゼンベック(ka4184) 人間(リアルブルー)|14才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2016/03/24 00:31:56 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/03/21 20:39:05 |