ゲスト
(ka0000)
【禁断】雪山と吹雪と謎の幻獣
マスター:蒼かなた

- シナリオ形態
- シリーズ(続編)
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,300
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/03/30 22:00
- 完成日
- 2016/04/03 10:43
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●幻獣の森
辺境の一角にて、幻獣の姿が確認されたことは記憶に新しい。
幻獣の森で住んでいる彼らだが、その場所は完全に安全とは言い難い。森に張られた結界から一歩でも外に出れば、そこは外敵の闊歩する危険地帯だ。最近でも結界の外へ出た幻獣が帰らず、そのまま行方不明になってしまう事件が相次いでいる。
この事態を受けて、幻獣を守る為に部族会議からハンター達に歪虚討伐の依頼が複数だされることとなった。
そんな一仕事を終えて幻獣の森に戻ってきたハンター達は、用意されたテントの周りで思い思いの休憩の時間を取っていた。
「皆さん、お疲れ様です」
そんなハンター達の元に、猫型の大幻獣――三毛猫のトリィが近寄ってきて労いの言葉をかける。その手には小さなバスケットを持っていた。
「こちらは細やかですが、皆さんへの感謝の印です。どうぞお受け取りください」
バスケットに掛かっているハンカチを取れば、そこにはクルミ入りのクッキーが大量に詰め込まれていた。
幻獣達は未だに人間を信じきれていない者も多い。だが、ここにいるハンター達が自分達の為に戦ってくれていることには感謝している。このクッキーはその証であろう。
「ところで、実は皆さんに折り入って頼みたいことがあるのです。話だけでも聞いて頂けないでしょうか?」
トリィからそんな提案をされたのはここに来てから初めてであった。ハンター達は一度視線をかわし、トリィに了解の意を伝える。
「ありがとうございます。頼みとは勿論、皆様のハンターの腕を買ってのことです。その力をお貸し頂きたい」
力を貸して欲しいとは、やはりハンターとしての腕を見込んでのことだろう。力仕事か、はたまた行方不明の幻獣の本格的な捜索か。とにかくハンター達はトリィに話の続きを促す。
「数十年前、歪虚共が南下してきたおり、ナーランギ様は幻獣達を集めこの森に結界を張りお守りくださいました。しかし、その時にこの森に避難しなかった幻獣も少なからずいたのです」
この幻獣の森の成り立ちはハンター達も話には聞いていた。そして、避難をしなかった幻獣がいたというのも少なからず予想はついていた。辺境の部族達も、故郷を捨てきれずに死んでいった者が数多くいたのだから。
「森の外にいた多くの幻獣達は死に絶えたでしょう。しかし、もしかすると生き残っている可能性がある者達がいるのです」
トリィはそう続けた。これにはハンター達も予想外だった。
「あの者達は少々特殊で、他の生物ならば到底生きてはいけない極寒の地を住処としているのです。あの場所ならば、歪虚の魔の手も及んでいない可能性があるのです」
それは標高数千メートルを誇る霊峰。頂上付近には雪が降り積もり、その雪は1年中溶けることなく冷気を放ち続けているという。
そんな山の頂上に、その幻獣達は住んでいるのだとトリィは言う。
「もしかすれば、あの者達はまだ生きているかもしれない。もし生きているのならば、この場所のことを伝えたいのです」
この幻獣の森に多くの者達が避難してきた時、彼らはついぞその姿を見せなかった。あの極寒の地を離れたくなかったのか、そもそも話が届いていなかったのかもしれない。
もし前者ならば、今再びこの場所の話をしても無駄かもしれない。だが、この森で多くの幻獣達が生きていることを伝えるだけでも大きな意味があるだろう。
「そこで私が使者となりあの者達の元へ向かうつもりなのですが、皆様にはその護衛をお願いしたいのです。どうか頼まれてはくれないでしょうか」
即答はできない。だが、彼らはハンターなのだ。それが依頼というのならば、受けない理由はなかった。
●少女と白猫
全てが凍り付くような極寒の世界で、毛皮のコートに身を包んだ少女は崖を登りその場所に立った。
その目に映るのは氷の柱。いや、よく見ればそれは沢山の枝を持つ氷の木と呼ぶ方が正しいだろう。
そんな氷の木で出来た森を前にして、少女は僅かに顔色を曇らせた。
「――ニィ」
そんな彼女の足元で猫が鳴いた。周りに積もる雪の色に溶け込んでしまいそうな白い毛並みの猫だ。
その白猫に促されるようにして、少女は氷の森へと歩き始める。
「……じっとしてて」
その目に映った白い羽に、少女はそっと左手をかざした。
●雪山中腹
「あの者達――ユキスズメはこの山の頂上に住んでいるのです」
防寒着に身を包んでまん丸くなったトリィがそう説明する。
この山の頂上で待つ者、ユキスズメと言うらしいが名前の通り雪のように白く小さな体をした鳥系の幻獣らしい。
「彼らはとにかく見つからないようにするのが得意なんです。空を飛んでも羽音はしませんし、相手の気を反らす力を持っているので余程注意して見ないと姿を捉えられないのです」
そういった能力を持っていることもあり、歪虚達からも逃げ延びている可能性は十分にあるのだと言う。
そんな話をしているうちに、ハンター達とトリィは丁度山の中腹へと差し掛かった。険しかった坂道を超えたそこには一休みできそうな洞窟がぽっかり開いていた。
「丁度いい。あそこで一休み――」
トリィもそう提案しようとしたところで、途中でその言葉を止めた。その様子に警戒したハンター達も周囲の気配を探る。
何かがいる様子はない、だが、トリィは匂いますと告げて洞窟の入り口に近づいていく。ハンター達もそれに続くと、洞窟の丁度入り口に積もった雪の上に赤い染みがあった。
「っ! ユキスズメではないですか。どうしたのです!」
トリィが慌てた様子で駆け寄る。そしてよく見れば、不自然に思えた雪の上の赤い染みは、そこに蹲っていた白い小さな鳥の羽に血が滲んでいたものであった。
「ああ、貴方達が生きていた事を喜びたいが、これは一体どういうことです。何があったのですか?」
手のひらで掬うようにしてトリィはユキスズメの体を持ち上げる。ユキスズメはトリィに顔を向けると、何か小さな声で鳴いた。
「襲撃者? 人間と、白い猫? 一体なぜこんなところに……いや、今は考えている場合じゃありません」
トリィは傷ついたユキスズメをそっと懐に入れると、ハンター達へと視線を向ける。
「急ぎユキスズメ達の住処へと向かいます。着いて来てください」
ハンター達はその言葉に力強く頷いた。
辺境の一角にて、幻獣の姿が確認されたことは記憶に新しい。
幻獣の森で住んでいる彼らだが、その場所は完全に安全とは言い難い。森に張られた結界から一歩でも外に出れば、そこは外敵の闊歩する危険地帯だ。最近でも結界の外へ出た幻獣が帰らず、そのまま行方不明になってしまう事件が相次いでいる。
この事態を受けて、幻獣を守る為に部族会議からハンター達に歪虚討伐の依頼が複数だされることとなった。
そんな一仕事を終えて幻獣の森に戻ってきたハンター達は、用意されたテントの周りで思い思いの休憩の時間を取っていた。
「皆さん、お疲れ様です」
そんなハンター達の元に、猫型の大幻獣――三毛猫のトリィが近寄ってきて労いの言葉をかける。その手には小さなバスケットを持っていた。
「こちらは細やかですが、皆さんへの感謝の印です。どうぞお受け取りください」
バスケットに掛かっているハンカチを取れば、そこにはクルミ入りのクッキーが大量に詰め込まれていた。
幻獣達は未だに人間を信じきれていない者も多い。だが、ここにいるハンター達が自分達の為に戦ってくれていることには感謝している。このクッキーはその証であろう。
「ところで、実は皆さんに折り入って頼みたいことがあるのです。話だけでも聞いて頂けないでしょうか?」
トリィからそんな提案をされたのはここに来てから初めてであった。ハンター達は一度視線をかわし、トリィに了解の意を伝える。
「ありがとうございます。頼みとは勿論、皆様のハンターの腕を買ってのことです。その力をお貸し頂きたい」
力を貸して欲しいとは、やはりハンターとしての腕を見込んでのことだろう。力仕事か、はたまた行方不明の幻獣の本格的な捜索か。とにかくハンター達はトリィに話の続きを促す。
「数十年前、歪虚共が南下してきたおり、ナーランギ様は幻獣達を集めこの森に結界を張りお守りくださいました。しかし、その時にこの森に避難しなかった幻獣も少なからずいたのです」
この幻獣の森の成り立ちはハンター達も話には聞いていた。そして、避難をしなかった幻獣がいたというのも少なからず予想はついていた。辺境の部族達も、故郷を捨てきれずに死んでいった者が数多くいたのだから。
「森の外にいた多くの幻獣達は死に絶えたでしょう。しかし、もしかすると生き残っている可能性がある者達がいるのです」
トリィはそう続けた。これにはハンター達も予想外だった。
「あの者達は少々特殊で、他の生物ならば到底生きてはいけない極寒の地を住処としているのです。あの場所ならば、歪虚の魔の手も及んでいない可能性があるのです」
それは標高数千メートルを誇る霊峰。頂上付近には雪が降り積もり、その雪は1年中溶けることなく冷気を放ち続けているという。
そんな山の頂上に、その幻獣達は住んでいるのだとトリィは言う。
「もしかすれば、あの者達はまだ生きているかもしれない。もし生きているのならば、この場所のことを伝えたいのです」
この幻獣の森に多くの者達が避難してきた時、彼らはついぞその姿を見せなかった。あの極寒の地を離れたくなかったのか、そもそも話が届いていなかったのかもしれない。
もし前者ならば、今再びこの場所の話をしても無駄かもしれない。だが、この森で多くの幻獣達が生きていることを伝えるだけでも大きな意味があるだろう。
「そこで私が使者となりあの者達の元へ向かうつもりなのですが、皆様にはその護衛をお願いしたいのです。どうか頼まれてはくれないでしょうか」
即答はできない。だが、彼らはハンターなのだ。それが依頼というのならば、受けない理由はなかった。
●少女と白猫
全てが凍り付くような極寒の世界で、毛皮のコートに身を包んだ少女は崖を登りその場所に立った。
その目に映るのは氷の柱。いや、よく見ればそれは沢山の枝を持つ氷の木と呼ぶ方が正しいだろう。
そんな氷の木で出来た森を前にして、少女は僅かに顔色を曇らせた。
「――ニィ」
そんな彼女の足元で猫が鳴いた。周りに積もる雪の色に溶け込んでしまいそうな白い毛並みの猫だ。
その白猫に促されるようにして、少女は氷の森へと歩き始める。
「……じっとしてて」
その目に映った白い羽に、少女はそっと左手をかざした。
●雪山中腹
「あの者達――ユキスズメはこの山の頂上に住んでいるのです」
防寒着に身を包んでまん丸くなったトリィがそう説明する。
この山の頂上で待つ者、ユキスズメと言うらしいが名前の通り雪のように白く小さな体をした鳥系の幻獣らしい。
「彼らはとにかく見つからないようにするのが得意なんです。空を飛んでも羽音はしませんし、相手の気を反らす力を持っているので余程注意して見ないと姿を捉えられないのです」
そういった能力を持っていることもあり、歪虚達からも逃げ延びている可能性は十分にあるのだと言う。
そんな話をしているうちに、ハンター達とトリィは丁度山の中腹へと差し掛かった。険しかった坂道を超えたそこには一休みできそうな洞窟がぽっかり開いていた。
「丁度いい。あそこで一休み――」
トリィもそう提案しようとしたところで、途中でその言葉を止めた。その様子に警戒したハンター達も周囲の気配を探る。
何かがいる様子はない、だが、トリィは匂いますと告げて洞窟の入り口に近づいていく。ハンター達もそれに続くと、洞窟の丁度入り口に積もった雪の上に赤い染みがあった。
「っ! ユキスズメではないですか。どうしたのです!」
トリィが慌てた様子で駆け寄る。そしてよく見れば、不自然に思えた雪の上の赤い染みは、そこに蹲っていた白い小さな鳥の羽に血が滲んでいたものであった。
「ああ、貴方達が生きていた事を喜びたいが、これは一体どういうことです。何があったのですか?」
手のひらで掬うようにしてトリィはユキスズメの体を持ち上げる。ユキスズメはトリィに顔を向けると、何か小さな声で鳴いた。
「襲撃者? 人間と、白い猫? 一体なぜこんなところに……いや、今は考えている場合じゃありません」
トリィは傷ついたユキスズメをそっと懐に入れると、ハンター達へと視線を向ける。
「急ぎユキスズメ達の住処へと向かいます。着いて来てください」
ハンター達はその言葉に力強く頷いた。
リプレイ本文
●雪山の障害を乗り越えて
「トリィさん、ユキスズメを見せてください。治療いたします」
「鳳城さん。ええ、お願いします」
洞窟の奥へと進む前に、鳳城 錬介(ka6053)はトリィの腕の中に収まっているユキスズメに回復魔法をかける。
「一先ずはこれでいいでしょう。さあ、急ぎましょうか。他のユキスズメ達も心配です」
錬介の言葉にハンター達とトリィは頷き、凍り付いた洞窟の中に足を踏み入れる。しかし、洞窟内に入り数メートル進んだところで彼らが進むのを拒むようにして大量の氷の柱が聳えていた。
「うわぁ、見事に塞がれていますね。本当にこの洞窟であってるんですか?」
葛音 水月(ka1895)は思わずトリィにそう尋ねた。
「ええ、この洞窟であっています。寧ろこうやって塞がれていることこそその証です」
その問いに対してトリィはそう返した。
「他に道がないって言うなら、この氷の柱を壊していくしかないね」
リアリュール(ka2003)はそう言って氷の柱に触れてみる。防寒具の手袋越しに触れてもひんやりと冷たさが伝わってくるその氷柱は、軽く押す程度ではびくともしない。
「おっし! そうと決まれば。壊すのなら俺に任せておけ! ひと暴れするぜ!」
そこで前に出た凰牙(ka5701)はぐっと拳を握り、大きく振りかぶって目の前の氷柱を殴りつけた。ビキリと音を立てた氷の柱が真ん中からへし折れる。
「どんなもんだ!」
「あっ、凰牙、危ない!」
「へっ? っとと、あぶねっ!?」
一撃で氷柱をへし折った凰牙は振り返ってにっと笑みを作る。だがそこで折れた氷柱がこちらに向かって倒れてきたのを見て、ネムリア・ガウラ(ka4615)が声を上げた。
凰牙が後ろから迫る気配に気づき慌ててその場を飛び退く。倒れてきた氷柱はそのまま地面にぶつかり、いくつかの塊に砕けて周囲に散らばる。
「ふう、助かったぜ。ありがとな、ネムリア」
「うん、怪我がなくて良かった。氷の柱を壊す時は倒れてくるのにも注意しないとだね」
間一髪と額を拭った凰牙は改めて振り返りネムリアに感謝の言葉をかける。ネムリアはそれに笑顔で返した。
「一気に破壊せず、一度罅を入れたあとに壊すタイミングを確かめたほうが良さそうだね」
「多少時間は掛かるけど、下手して怪我をするよりはマシね」
ナタナエル(ka3884)の言葉にケイ(ka4032)が同意して頷く。ハンター達は役割を分担して協力しながら柱を一本ずつ破壊して道を作っていく。
それから時間をかけ氷柱を壊しながら数十メートル進み、漸く洞窟の出口らしき場所が見えてきた。
しかし、前に最後の障害物が待ち受けていた。目の前を塞ぐように現れた洞窟の道を完全に塞ぐ氷の壁が立ちはだかる。
「ここまで来て引き返すわけにはいかねぇ。出口もすぐそこみたいだし、ここは本気を出して一気にぶっ壊すしかねぇな」
「ええ、デルフィーノさんの仰る通りですね。よろしくお願い致します」
「お、おう……任せな。だからお前さんはすこーし、後ろに下がっててくれ。なっ?」
トリィの謝辞にデルフィーノ(ka1548)は若干顔を引きつらせながら笑みを浮かべる。実は動物が苦手な彼だが、それに今のところ気づいていないトリィは改めて感謝の意を示し後ろへと下がった。
それを見て一息ついたデルフィーノは、改めて背負っていた杖を手に取る。ここで時間を取るわけにもいかない。なら多少の消耗を覚悟でデルフィーノは杖にマテリアルを込める。
「そらよっ!」
杖にマテリアルを充填し終えたデルフィーノは、気合と共に光の剣となった杖を氷の壁に向かって振るった。すると氷の壁は亀裂音と共に、小さな罅が入っていく。だが砕くにはまだまだ力が足りないようだ。
「上等っ。ここで頑張れば兄さんにまた一歩近づけるんだ。氷の壁如きに邪魔はさせないぜ!」
凰牙も体内でマテリアルを練り上げ、それを乗せた拳を氷の壁に叩きこむ。他のハンター達もそれに加勢し、小さな罅はどんどん大きくなり、氷の壁全体へと行き届いたところで、ついに音を立てて崩れ落ちた。
氷で塞がれていた洞窟を抜けると、次に待っていたのは大きく裂けた谷だった。そこに掛けられた橋の前で一同は一度足を止める。
「これを渡らないといけないのですか」
錬介は思わずそう呟いた。それは目の前の橋が氷で出来ていると気づいたからであろう。
「こりゃあ、落ちたら一巻の終わりだな」
凰牙は谷の底を覗いてそう口にする。うっすらとした暗がりの先に見えた谷底は、落ちてしまったら例え覚醒したハンターでも耐えられる高さではなかった。
「ロープを用意して正解だったな。ちょっと待ってな」
デルフィーノはそう言ってロープの先に重りとなる剣の鞘を結び、谷底に向かって垂らす。そしてロープを振って勢いを付けると、橋の下を潜って橋の反対側から上ってきた鞘を掴んだ。
「成程。それなら万が一足を踏み外して落ちても大丈夫ですねー。それなら僕も同じようにするので、デルフィーノさんが一番前。僕が一番後ろになりましょう」
「そして私のロープで皆を繋げば、命綱としては十分そうね」
水月もデルフィーノと同じように橋の下へとロープを潜らせ、ケイのロープで皆を繋ぐ。これで準備は万端。皆は慎重にゆっくりと氷の橋を渡り始める。
ハンター達は時折足を滑らせる仲間をフォローしながら橋の半ばに差し掛かったところで、ネムリアのエルフ特有の耳がぴくりと揺れた。
「風の音……皆、伏せて!」
ネムリアの叫ぶような声に、ハンター達は迷うことなくそれに従って伏せた。瞬間、ごうっという音と共に谷の間を突風が吹きつける。ハンター達は風を受ける面積を減らすように体を丸め、風が通り過ぎるのをじっと耐える。
「……止んだみたいですねー。ひゃー、危なかったですね」
水月は顔を上げて皆の様子を確認する。どうやら滑り落ちた仲間は誰もいないようで、ほっと胸を撫で下ろす。
「次の風が吹く前に渡りきってしまいたいですね。急ぎましょう」
錬介の言葉に皆頷き、また慎重に氷の橋の進み始めた。
●ユキスズメと白猫と少女
霊峰の山頂を目の前にして、そこへと至る坂道を登る途中でハンター達に襲いかかってきたのは、大きな雪玉であった。
「トリィ、俺の後ろから出るんじゃねぇぞ!」
「ええ、ありがとうございます。凰牙さん」
凰牙はトリィを背中で庇いながら、坂道の上から転がってきた雪玉に拳を叩きつけてバラバラに粉砕する。
「というか、ユキスズメさんは罠の位置とか解除方法とか知らないんですかー?」
「そうですね……いえ、どうやらこのユキスズメはどちらも知らないようです」
水月の期待はどうやら叶いそうにない。どうやら大分前に仕掛けられた罠らしく、これまでこの坂を使う侵入者などいなかったのでユキスズメ達ももしかしたら仕掛けたことすら忘れていたのかもしれない。
「よっと! よし、ここまでくれば……皆、走れ走れ! 頂上に着いたぞ!」
雪玉をジャンプして飛び越えたデルフィーノは、皆に声を掛けて一気に走り出す。他のハンター達もそれに続き、一気に坂道を駆け登った。
「ここがユキスズメの住処……幻想的な場所ですね」
目の前に広がる氷で出来た木々の林に、錬介は感嘆の意を込めて言葉を溢した。
「確かに綺麗だが、ゆっくりと見物するのは後にしよう」
ナタナエルは氷の林をざっと見渡す。木の葉が茂っているわけではないが、乱立する氷の木々の所為で視界は遮られて中は見通せそうにない。
「手分けして探したほうがいいかな?」
「そうですね。襲撃者の正確な数が分かっていないので少し不安ですが……」
リアリュールの言葉にトリィは悩む。しかし事は急を要する事態。多少のリスクには目を瞑らないといけないか……。
そんな悩むトリィが何かを決める前に、ネムリアが一歩前へ出た。
「これは、誰かが走ってる音?」
「走る? それならユキスズメではないわね。方角は分かる?」
ケイの言葉にネムリアは目の前に広がる氷の林の右側を指差す。
「よっしゃ、それなら急ごうぜ! 悪者をとっちめてやる!」
ハンター達は林の中に向かって駆けだした。ただ、その中でネムリアだけは不安げな表情を浮かべる。
(この香り……まさか違う、よね?)
嗅ぎ覚えのある人の香り。普通の人間では感じ取れないだろうその残り香を感じ取り、ある人物を思い出したネムリアは胸のざわつきを覚えながら皆の後に続いた。
氷の林を走ること数分。ハンター達はついに襲撃者らしき人影を捉えた。
「まずはその足を止めて貰いましょうか」
ナタナエルは牽制の意味も込めて飛輪を飛ばす。飛輪は氷の木々の間を抜けて襲撃者の背中に迫るが、しかし当たると思った瞬間に襲撃者は横に跳んでそれを避けた。だがそれで脚は止まり、ハンター達は襲撃者に追いついた。
「……」
襲撃者らしき人物は振り返るハンター達に顔を見せる。そこには猫のような縦割れの瞳をした少女――シャルの姿があった。
「あれ……前にも僕らの依頼に割り込んできた人ー?」
見覚えのあるその顔に水月はかくりと首を傾げる。
「シャル、こんなトコで何してんだ?」
「……」
デルフィーノの問いにシャルは答えない。デルフィーノはそんなシャルの様子に少し思い出す。この少女は答えられない時は決まって口を閉ざすのだ。
「ねえ、シャル。何か欲しいものがあって来たの? 前の教会みたいに何か……」
「……もう手に入れた」
続くリアリュールの問いに、僅かな間を置いてシャルは頷いて返した。
その時、氷の林の間に風が吹いた。それはシャルの羽織るマントを翻らせ、そしてその腰にある小さな籠を僅かに覗かせる。
「その籠、ユキスズメではないですか!」
その一瞬でトリィは籠の中にユキスズメが捉えられているのを見つけて声を上げる。
「どうやら襲撃者は彼女で決まりのようね」
他に襲撃者がいる可能性も考え周囲を警戒していたケイが呟くように口にする。
「君はいつも何かを探しているね。でも、今回のやり方はダメだよ。それじゃ、タダの強盗だ」
「……?」
ナタナエルの感情の乗らない言葉に対して、シャルは一瞬きょとんとした表情を見せた。そして少し間を置き、ゆっくりと口を開く。
「この鳥は生き物。だから、強盗じゃなくて誘拐」
その言葉は正しい、のかもしれないが、今問われているのはそういうことではない。その事がシャルに伝わっていないことに、ナタナエルは僅かに困ったような表情を浮かべる。
「誘拐って、それが悪い事だって分かってやってるのかよ。そんな悪事を働く奴なのかお前は!」
「分かってる。でも、やらないといけない」
凰牙の言葉にシャルは迷わず答えた。全く変わらないその表情からは何も読み取れない。その代わりに、表情に出さないくらいの決意が彼女にあるのだということが分かる。
「シャル」
「……ネムリア」
シャルの瞳がネムリアを映す。
「どうして? 何でそんなことをしないといけないの?」
「……」
シャルは答えない。ただ、その瞳が僅かに揺れたのがネムリアには見えた。
「……私は、本当の私にならないといけない」
そして、そんな言葉を返した。意味は不明だ。
「本当のシャル? それって――」
ネムリアが言葉を続けようとした時、強い風が吹いた。同時に空から雪が降ってくるのに気付く。風も雪もその勢いを強めていき、あっという間に周囲は吹雪始めた。
「どうやらゆっくりお話をしている暇はないようです。シャルさんと仰いましたね。そのユキスズメさんは返して頂けませんか?」
「断る」
錬介の願いに間髪入れずに拒否の言葉を返したシャル。その後の動きは素早かった。ハンター達の視界を遮る為に傍にあった木の裏に跳ぶと、そのまま背を向けて走りだす。
「逃がしませんよー!」
それにいち早く反応した水月がすぐさまそれに追いつき、鞘から抜いた機械刀でその背中に斬りつける。シャルは一太刀目を伏せて避け、返す刃の二太刀目を背負う大剣に当てることで防いだ。
「悪いな、シャル。ユキスズメは攫わせねぇ」
「謝る必要はない」
水月がシャルの脚を止めた隙に、正面に回り込んだデルフィーノがシャルの前に立ちはだかる。それに対してシャルはまっすぐにデルフィーノに向かって突っ込んだ。デルフィーノはそれを止めようと杖を構えるが、その前に彼の肩に何かが降り立った。
「――ニィ」
「なっ、ね、セイン!?」
周囲に積もる雪と同じ真っ白な毛並みをした白猫がデルフィーノの頬を舐める。ぞわりと、デルフィーノの全身に鳥肌が立った。
その隙を突き、シャルはデルフィーノの脇を走り抜ける。白猫もそのタイミングでデルフィーノの肩から飛び、シャルの肩へと移った。
「このまま逃がしはしないわ」
ケイの投げた飛輪がシャルの行く手を遮る様にして飛ぶ。それに速度を殺されたシャルに対し、ナタナエルが追いついた。
「シャル、止めるんだ。人の道から外れてはいけない」
「それは出来ない」
「なら、仕方ない」
ナタナエルの放つワイヤーがシャルを捉えようと走る。だが、シャルもそれに対して片手を振るい鋼糸をぶつけてその軌道を反らして躱す。
だが、そこでさらに一本のワイヤーがシャルに伸びた。シャルはそれを身を捻って避けようとするが、完璧とはいかずにマントが引き裂かれる。更にその拍子に、シャルの腰にあった小さな籠が宙に投げ出された。
「うおっと!」
それが地面に落ちる前に、滑り込んだ凰牙がそれをキャッチした。
「……」
シャルは一瞬ちらりとその籠を見るが、脚は止めずにそのまま走り去って行く。
「どうする。追うのか?」
「いや、シャルの脚はかなり早い。僕と水月さんなら何とかなるかもしれないけど、他の皆と離れ離れになるのは不味い」
そう会話している間にシャルの姿は吹雪く氷の林の向こうへと消えて行った。
●――
シャルは古びた扉の前に立っていた。そこで立ち続けて数分、ドアノブに何度か手を伸ばすもすぐに降ろす動作を繰り返す。
「――ニィ」
「セイン……うん」
そんな彼女の元に白猫が声を掛ける。その言葉に勇気づけられたかのように、シャルは今度こそ扉の中へと入った。
扉の先は広い空間が広がっている。窓のない部屋の中には沢山の蝋燭が灯っており、その明かりに照らされている部屋の中には沢山の棚が並んでいる。
その棚には目もくれず、シャルは部屋の奥へと歩いていく。その先には1つの小さな机があった。その机の上にはガラスのケースが置かれている。そしてその中には2つの台座があり、それぞれ淡い輝きを発している結晶が飾られていた。シャルはそのガラスケースにそっと触れる。
「ただいま、お母さん。ただいま、私」
そう告げて、そっと手を放す。そしてゆっくりと振り返り、もう一度口を開く。
「ただいま、お父さん」
「トリィさん、ユキスズメを見せてください。治療いたします」
「鳳城さん。ええ、お願いします」
洞窟の奥へと進む前に、鳳城 錬介(ka6053)はトリィの腕の中に収まっているユキスズメに回復魔法をかける。
「一先ずはこれでいいでしょう。さあ、急ぎましょうか。他のユキスズメ達も心配です」
錬介の言葉にハンター達とトリィは頷き、凍り付いた洞窟の中に足を踏み入れる。しかし、洞窟内に入り数メートル進んだところで彼らが進むのを拒むようにして大量の氷の柱が聳えていた。
「うわぁ、見事に塞がれていますね。本当にこの洞窟であってるんですか?」
葛音 水月(ka1895)は思わずトリィにそう尋ねた。
「ええ、この洞窟であっています。寧ろこうやって塞がれていることこそその証です」
その問いに対してトリィはそう返した。
「他に道がないって言うなら、この氷の柱を壊していくしかないね」
リアリュール(ka2003)はそう言って氷の柱に触れてみる。防寒具の手袋越しに触れてもひんやりと冷たさが伝わってくるその氷柱は、軽く押す程度ではびくともしない。
「おっし! そうと決まれば。壊すのなら俺に任せておけ! ひと暴れするぜ!」
そこで前に出た凰牙(ka5701)はぐっと拳を握り、大きく振りかぶって目の前の氷柱を殴りつけた。ビキリと音を立てた氷の柱が真ん中からへし折れる。
「どんなもんだ!」
「あっ、凰牙、危ない!」
「へっ? っとと、あぶねっ!?」
一撃で氷柱をへし折った凰牙は振り返ってにっと笑みを作る。だがそこで折れた氷柱がこちらに向かって倒れてきたのを見て、ネムリア・ガウラ(ka4615)が声を上げた。
凰牙が後ろから迫る気配に気づき慌ててその場を飛び退く。倒れてきた氷柱はそのまま地面にぶつかり、いくつかの塊に砕けて周囲に散らばる。
「ふう、助かったぜ。ありがとな、ネムリア」
「うん、怪我がなくて良かった。氷の柱を壊す時は倒れてくるのにも注意しないとだね」
間一髪と額を拭った凰牙は改めて振り返りネムリアに感謝の言葉をかける。ネムリアはそれに笑顔で返した。
「一気に破壊せず、一度罅を入れたあとに壊すタイミングを確かめたほうが良さそうだね」
「多少時間は掛かるけど、下手して怪我をするよりはマシね」
ナタナエル(ka3884)の言葉にケイ(ka4032)が同意して頷く。ハンター達は役割を分担して協力しながら柱を一本ずつ破壊して道を作っていく。
それから時間をかけ氷柱を壊しながら数十メートル進み、漸く洞窟の出口らしき場所が見えてきた。
しかし、前に最後の障害物が待ち受けていた。目の前を塞ぐように現れた洞窟の道を完全に塞ぐ氷の壁が立ちはだかる。
「ここまで来て引き返すわけにはいかねぇ。出口もすぐそこみたいだし、ここは本気を出して一気にぶっ壊すしかねぇな」
「ええ、デルフィーノさんの仰る通りですね。よろしくお願い致します」
「お、おう……任せな。だからお前さんはすこーし、後ろに下がっててくれ。なっ?」
トリィの謝辞にデルフィーノ(ka1548)は若干顔を引きつらせながら笑みを浮かべる。実は動物が苦手な彼だが、それに今のところ気づいていないトリィは改めて感謝の意を示し後ろへと下がった。
それを見て一息ついたデルフィーノは、改めて背負っていた杖を手に取る。ここで時間を取るわけにもいかない。なら多少の消耗を覚悟でデルフィーノは杖にマテリアルを込める。
「そらよっ!」
杖にマテリアルを充填し終えたデルフィーノは、気合と共に光の剣となった杖を氷の壁に向かって振るった。すると氷の壁は亀裂音と共に、小さな罅が入っていく。だが砕くにはまだまだ力が足りないようだ。
「上等っ。ここで頑張れば兄さんにまた一歩近づけるんだ。氷の壁如きに邪魔はさせないぜ!」
凰牙も体内でマテリアルを練り上げ、それを乗せた拳を氷の壁に叩きこむ。他のハンター達もそれに加勢し、小さな罅はどんどん大きくなり、氷の壁全体へと行き届いたところで、ついに音を立てて崩れ落ちた。
氷で塞がれていた洞窟を抜けると、次に待っていたのは大きく裂けた谷だった。そこに掛けられた橋の前で一同は一度足を止める。
「これを渡らないといけないのですか」
錬介は思わずそう呟いた。それは目の前の橋が氷で出来ていると気づいたからであろう。
「こりゃあ、落ちたら一巻の終わりだな」
凰牙は谷の底を覗いてそう口にする。うっすらとした暗がりの先に見えた谷底は、落ちてしまったら例え覚醒したハンターでも耐えられる高さではなかった。
「ロープを用意して正解だったな。ちょっと待ってな」
デルフィーノはそう言ってロープの先に重りとなる剣の鞘を結び、谷底に向かって垂らす。そしてロープを振って勢いを付けると、橋の下を潜って橋の反対側から上ってきた鞘を掴んだ。
「成程。それなら万が一足を踏み外して落ちても大丈夫ですねー。それなら僕も同じようにするので、デルフィーノさんが一番前。僕が一番後ろになりましょう」
「そして私のロープで皆を繋げば、命綱としては十分そうね」
水月もデルフィーノと同じように橋の下へとロープを潜らせ、ケイのロープで皆を繋ぐ。これで準備は万端。皆は慎重にゆっくりと氷の橋を渡り始める。
ハンター達は時折足を滑らせる仲間をフォローしながら橋の半ばに差し掛かったところで、ネムリアのエルフ特有の耳がぴくりと揺れた。
「風の音……皆、伏せて!」
ネムリアの叫ぶような声に、ハンター達は迷うことなくそれに従って伏せた。瞬間、ごうっという音と共に谷の間を突風が吹きつける。ハンター達は風を受ける面積を減らすように体を丸め、風が通り過ぎるのをじっと耐える。
「……止んだみたいですねー。ひゃー、危なかったですね」
水月は顔を上げて皆の様子を確認する。どうやら滑り落ちた仲間は誰もいないようで、ほっと胸を撫で下ろす。
「次の風が吹く前に渡りきってしまいたいですね。急ぎましょう」
錬介の言葉に皆頷き、また慎重に氷の橋の進み始めた。
●ユキスズメと白猫と少女
霊峰の山頂を目の前にして、そこへと至る坂道を登る途中でハンター達に襲いかかってきたのは、大きな雪玉であった。
「トリィ、俺の後ろから出るんじゃねぇぞ!」
「ええ、ありがとうございます。凰牙さん」
凰牙はトリィを背中で庇いながら、坂道の上から転がってきた雪玉に拳を叩きつけてバラバラに粉砕する。
「というか、ユキスズメさんは罠の位置とか解除方法とか知らないんですかー?」
「そうですね……いえ、どうやらこのユキスズメはどちらも知らないようです」
水月の期待はどうやら叶いそうにない。どうやら大分前に仕掛けられた罠らしく、これまでこの坂を使う侵入者などいなかったのでユキスズメ達ももしかしたら仕掛けたことすら忘れていたのかもしれない。
「よっと! よし、ここまでくれば……皆、走れ走れ! 頂上に着いたぞ!」
雪玉をジャンプして飛び越えたデルフィーノは、皆に声を掛けて一気に走り出す。他のハンター達もそれに続き、一気に坂道を駆け登った。
「ここがユキスズメの住処……幻想的な場所ですね」
目の前に広がる氷で出来た木々の林に、錬介は感嘆の意を込めて言葉を溢した。
「確かに綺麗だが、ゆっくりと見物するのは後にしよう」
ナタナエルは氷の林をざっと見渡す。木の葉が茂っているわけではないが、乱立する氷の木々の所為で視界は遮られて中は見通せそうにない。
「手分けして探したほうがいいかな?」
「そうですね。襲撃者の正確な数が分かっていないので少し不安ですが……」
リアリュールの言葉にトリィは悩む。しかし事は急を要する事態。多少のリスクには目を瞑らないといけないか……。
そんな悩むトリィが何かを決める前に、ネムリアが一歩前へ出た。
「これは、誰かが走ってる音?」
「走る? それならユキスズメではないわね。方角は分かる?」
ケイの言葉にネムリアは目の前に広がる氷の林の右側を指差す。
「よっしゃ、それなら急ごうぜ! 悪者をとっちめてやる!」
ハンター達は林の中に向かって駆けだした。ただ、その中でネムリアだけは不安げな表情を浮かべる。
(この香り……まさか違う、よね?)
嗅ぎ覚えのある人の香り。普通の人間では感じ取れないだろうその残り香を感じ取り、ある人物を思い出したネムリアは胸のざわつきを覚えながら皆の後に続いた。
氷の林を走ること数分。ハンター達はついに襲撃者らしき人影を捉えた。
「まずはその足を止めて貰いましょうか」
ナタナエルは牽制の意味も込めて飛輪を飛ばす。飛輪は氷の木々の間を抜けて襲撃者の背中に迫るが、しかし当たると思った瞬間に襲撃者は横に跳んでそれを避けた。だがそれで脚は止まり、ハンター達は襲撃者に追いついた。
「……」
襲撃者らしき人物は振り返るハンター達に顔を見せる。そこには猫のような縦割れの瞳をした少女――シャルの姿があった。
「あれ……前にも僕らの依頼に割り込んできた人ー?」
見覚えのあるその顔に水月はかくりと首を傾げる。
「シャル、こんなトコで何してんだ?」
「……」
デルフィーノの問いにシャルは答えない。デルフィーノはそんなシャルの様子に少し思い出す。この少女は答えられない時は決まって口を閉ざすのだ。
「ねえ、シャル。何か欲しいものがあって来たの? 前の教会みたいに何か……」
「……もう手に入れた」
続くリアリュールの問いに、僅かな間を置いてシャルは頷いて返した。
その時、氷の林の間に風が吹いた。それはシャルの羽織るマントを翻らせ、そしてその腰にある小さな籠を僅かに覗かせる。
「その籠、ユキスズメではないですか!」
その一瞬でトリィは籠の中にユキスズメが捉えられているのを見つけて声を上げる。
「どうやら襲撃者は彼女で決まりのようね」
他に襲撃者がいる可能性も考え周囲を警戒していたケイが呟くように口にする。
「君はいつも何かを探しているね。でも、今回のやり方はダメだよ。それじゃ、タダの強盗だ」
「……?」
ナタナエルの感情の乗らない言葉に対して、シャルは一瞬きょとんとした表情を見せた。そして少し間を置き、ゆっくりと口を開く。
「この鳥は生き物。だから、強盗じゃなくて誘拐」
その言葉は正しい、のかもしれないが、今問われているのはそういうことではない。その事がシャルに伝わっていないことに、ナタナエルは僅かに困ったような表情を浮かべる。
「誘拐って、それが悪い事だって分かってやってるのかよ。そんな悪事を働く奴なのかお前は!」
「分かってる。でも、やらないといけない」
凰牙の言葉にシャルは迷わず答えた。全く変わらないその表情からは何も読み取れない。その代わりに、表情に出さないくらいの決意が彼女にあるのだということが分かる。
「シャル」
「……ネムリア」
シャルの瞳がネムリアを映す。
「どうして? 何でそんなことをしないといけないの?」
「……」
シャルは答えない。ただ、その瞳が僅かに揺れたのがネムリアには見えた。
「……私は、本当の私にならないといけない」
そして、そんな言葉を返した。意味は不明だ。
「本当のシャル? それって――」
ネムリアが言葉を続けようとした時、強い風が吹いた。同時に空から雪が降ってくるのに気付く。風も雪もその勢いを強めていき、あっという間に周囲は吹雪始めた。
「どうやらゆっくりお話をしている暇はないようです。シャルさんと仰いましたね。そのユキスズメさんは返して頂けませんか?」
「断る」
錬介の願いに間髪入れずに拒否の言葉を返したシャル。その後の動きは素早かった。ハンター達の視界を遮る為に傍にあった木の裏に跳ぶと、そのまま背を向けて走りだす。
「逃がしませんよー!」
それにいち早く反応した水月がすぐさまそれに追いつき、鞘から抜いた機械刀でその背中に斬りつける。シャルは一太刀目を伏せて避け、返す刃の二太刀目を背負う大剣に当てることで防いだ。
「悪いな、シャル。ユキスズメは攫わせねぇ」
「謝る必要はない」
水月がシャルの脚を止めた隙に、正面に回り込んだデルフィーノがシャルの前に立ちはだかる。それに対してシャルはまっすぐにデルフィーノに向かって突っ込んだ。デルフィーノはそれを止めようと杖を構えるが、その前に彼の肩に何かが降り立った。
「――ニィ」
「なっ、ね、セイン!?」
周囲に積もる雪と同じ真っ白な毛並みをした白猫がデルフィーノの頬を舐める。ぞわりと、デルフィーノの全身に鳥肌が立った。
その隙を突き、シャルはデルフィーノの脇を走り抜ける。白猫もそのタイミングでデルフィーノの肩から飛び、シャルの肩へと移った。
「このまま逃がしはしないわ」
ケイの投げた飛輪がシャルの行く手を遮る様にして飛ぶ。それに速度を殺されたシャルに対し、ナタナエルが追いついた。
「シャル、止めるんだ。人の道から外れてはいけない」
「それは出来ない」
「なら、仕方ない」
ナタナエルの放つワイヤーがシャルを捉えようと走る。だが、シャルもそれに対して片手を振るい鋼糸をぶつけてその軌道を反らして躱す。
だが、そこでさらに一本のワイヤーがシャルに伸びた。シャルはそれを身を捻って避けようとするが、完璧とはいかずにマントが引き裂かれる。更にその拍子に、シャルの腰にあった小さな籠が宙に投げ出された。
「うおっと!」
それが地面に落ちる前に、滑り込んだ凰牙がそれをキャッチした。
「……」
シャルは一瞬ちらりとその籠を見るが、脚は止めずにそのまま走り去って行く。
「どうする。追うのか?」
「いや、シャルの脚はかなり早い。僕と水月さんなら何とかなるかもしれないけど、他の皆と離れ離れになるのは不味い」
そう会話している間にシャルの姿は吹雪く氷の林の向こうへと消えて行った。
●――
シャルは古びた扉の前に立っていた。そこで立ち続けて数分、ドアノブに何度か手を伸ばすもすぐに降ろす動作を繰り返す。
「――ニィ」
「セイン……うん」
そんな彼女の元に白猫が声を掛ける。その言葉に勇気づけられたかのように、シャルは今度こそ扉の中へと入った。
扉の先は広い空間が広がっている。窓のない部屋の中には沢山の蝋燭が灯っており、その明かりに照らされている部屋の中には沢山の棚が並んでいる。
その棚には目もくれず、シャルは部屋の奥へと歩いていく。その先には1つの小さな机があった。その机の上にはガラスのケースが置かれている。そしてその中には2つの台座があり、それぞれ淡い輝きを発している結晶が飾られていた。シャルはそのガラスケースにそっと触れる。
「ただいま、お母さん。ただいま、私」
そう告げて、そっと手を放す。そしてゆっくりと振り返り、もう一度口を開く。
「ただいま、お父さん」
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依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/03/30 16:31:46 |
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質問って受け付けて貰えますか? ナタナエル(ka3884) エルフ|20才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2016/03/26 09:51:11 |
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ユキスズメを救え! ナタナエル(ka3884) エルフ|20才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2016/03/30 22:13:32 |