ゲスト
(ka0000)
選びたる、挟まれたる
マスター:練子やきも

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/03/28 09:00
- 完成日
- 2016/04/05 06:31
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「大丈夫大丈夫、次の村までは近いんだし、ちょっと急いでるんだ」
付近で数頭のトラの群れが目撃されていた田舎道。エクラ教巡礼路を巡る1人の巡礼者。宿の主人の心配する声をよそに、彼は足早に旅立って行った。
グラズヘイム王国に張り巡らされたエクラ教巡礼路。その点検補修任務に当たっていた 騎士団の小隊がそこに居合わせたのはたまたまであったが、そこに不足人員の補填としてハンター達が雇われていたのは、偶然か必然か。
工兵で編成されたその小隊の隊長は、アッサリと、その巡礼者の捜索をハンターへと一任し、自らの役割である巡礼路の補修任務に取り掛かるようだ。
肩を竦めたハンター達だったが、まぁ元々の依頼内容の内でもあり、大荷物を抱えた工兵を引き連れて行っても足が遅くなるばかりなので、隊長の指示もおかしいという程の物でもなく。ハンター達は早速とばかりに巡礼路の捜索任務に取り掛かった。
●彷徨いたる
グラズヘイム王国北部の森の外れからややはみ出した場所で、その者は彷徨っていた。
目的がある訳でもなく、ただ生きるために生きる。その事に不満も退屈もなく、ただ、生きるために日々を戦っていた。
以前の事、森の中にまで入り込んで来て自分に友好的に話しかけて来た二本足……ニンゲン達の言葉。その意味は勿論解らないのだが、何となく通じる物はある。
(自分がニンゲン達の住処の近くに長く居ると、どうやらニンゲンにとっての不都合があるらしい)
とりあえずその事だけは理解したその者は、その一帯を離れ、当てもない旅を続けていた。
道すがらに狩った野ウサギで腹を満たし、そろそろ今日の寝床でも探そうかと考え始めた、ニンゲンの通る路が連なる夜闇の草原、森との境に程近いその場所で耳に入ったのはニンゲンの悲鳴と、獣の唸り声。
駆け付けたその者の目に入ったそれは、3頭のトラと、襲われる1人のニンゲン。
(……どうしたものか……)
瞬時の迷いと、決意する瞳。
その者……50センチ程の大きさのトラは、自分の信じる物のため、その戦いへと乱入した。
巡礼者を背に庇い、『ここは任せてサッサと逃げろ』とばかりにトラの群れを威嚇するその者。自らの種を捨てて人に加担するその選択は、しかしその巡礼者に意思として通じる物では無かった。
「こいつ!」
せめてもの抵抗と決め込んだ、巡礼者の振るった剣を躱し、縄張り荒らしとでも判断したのであろう大人のトラ達の攻撃も躱すと、後足で相手の鼻先を蹴り付けつつ距離を取る。
(……面倒な事になった……)
そのまま巡礼者を見捨てて逃げ去る事は容易だが、それはそれで癪に触るしその者がわざわざ関わった意味自体が無くなってしまう。
(……ギリギリまでは付き合うか)
庇い切るのは無理だろうが、このニンゲンが死ぬ迄は付き合ってやるか、と決意を固めたその者の耳に、数人のニンゲンの足音が聞こえて来た。
付近で数頭のトラの群れが目撃されていた田舎道。エクラ教巡礼路を巡る1人の巡礼者。宿の主人の心配する声をよそに、彼は足早に旅立って行った。
グラズヘイム王国に張り巡らされたエクラ教巡礼路。その点検補修任務に当たっていた 騎士団の小隊がそこに居合わせたのはたまたまであったが、そこに不足人員の補填としてハンター達が雇われていたのは、偶然か必然か。
工兵で編成されたその小隊の隊長は、アッサリと、その巡礼者の捜索をハンターへと一任し、自らの役割である巡礼路の補修任務に取り掛かるようだ。
肩を竦めたハンター達だったが、まぁ元々の依頼内容の内でもあり、大荷物を抱えた工兵を引き連れて行っても足が遅くなるばかりなので、隊長の指示もおかしいという程の物でもなく。ハンター達は早速とばかりに巡礼路の捜索任務に取り掛かった。
●彷徨いたる
グラズヘイム王国北部の森の外れからややはみ出した場所で、その者は彷徨っていた。
目的がある訳でもなく、ただ生きるために生きる。その事に不満も退屈もなく、ただ、生きるために日々を戦っていた。
以前の事、森の中にまで入り込んで来て自分に友好的に話しかけて来た二本足……ニンゲン達の言葉。その意味は勿論解らないのだが、何となく通じる物はある。
(自分がニンゲン達の住処の近くに長く居ると、どうやらニンゲンにとっての不都合があるらしい)
とりあえずその事だけは理解したその者は、その一帯を離れ、当てもない旅を続けていた。
道すがらに狩った野ウサギで腹を満たし、そろそろ今日の寝床でも探そうかと考え始めた、ニンゲンの通る路が連なる夜闇の草原、森との境に程近いその場所で耳に入ったのはニンゲンの悲鳴と、獣の唸り声。
駆け付けたその者の目に入ったそれは、3頭のトラと、襲われる1人のニンゲン。
(……どうしたものか……)
瞬時の迷いと、決意する瞳。
その者……50センチ程の大きさのトラは、自分の信じる物のため、その戦いへと乱入した。
巡礼者を背に庇い、『ここは任せてサッサと逃げろ』とばかりにトラの群れを威嚇するその者。自らの種を捨てて人に加担するその選択は、しかしその巡礼者に意思として通じる物では無かった。
「こいつ!」
せめてもの抵抗と決め込んだ、巡礼者の振るった剣を躱し、縄張り荒らしとでも判断したのであろう大人のトラ達の攻撃も躱すと、後足で相手の鼻先を蹴り付けつつ距離を取る。
(……面倒な事になった……)
そのまま巡礼者を見捨てて逃げ去る事は容易だが、それはそれで癪に触るしその者がわざわざ関わった意味自体が無くなってしまう。
(……ギリギリまでは付き合うか)
庇い切るのは無理だろうが、このニンゲンが死ぬ迄は付き合ってやるか、と決意を固めたその者の耳に、数人のニンゲンの足音が聞こえて来た。
リプレイ本文
小さな村の宿屋のロビー、とでも言うべきか。食堂を兼ねた部屋では、宿屋の主人に頼まれた隊長の要請を受けたハンター達が、早速とばかりに出立の準備を調えていた。
「巡礼ってのはこの道を通るから意味があるんだよな?」
クルス(ka3922)が確認するように隊長に尋ねる声が響く。
「そうですね、巡礼は巡礼路を通って最終的に王都の聖ヴェレニウス大聖堂を目指す事になります。近道や転移門を使っては意味がありませんし」
「なら近道しようとするような罰当たりな事はしねえか」
肯首し、軽く薀蓄を語る隊長に、頷き返すクルス。
「まずは巡礼者の方を見付けて保護が優先ですね、可能な限り急ぎましょう」
「そうだね、何かあったら大変だもん、急いで探さなくちゃ」
巡礼路の路を思い出しながら話すエステル(ka5826)に、勢い込みながら黒髪を縦に揺らしながら時音 ざくろ(ka1250)が頷く。エステルの記憶では、巡礼路は、その造りの都合上森の傍を通る場所があった。
「まぁ、僕も旅するハンター自称してる訳だし、旅の道の安全ぐらい確保しないとね」
その2人の横では、仁川 リア(ka3483)が腰に帯びた独特の形状のコリシュマルド、刺突剣をカチャリと鳴らす。既に準備は万全のようだ。
他方、宿の主人に細い首を傾げながら
「近道できそうな別の道があったら教えてくださいなの」
お願いするように質問しているディーナ・フェルミ(ka5843)に、若干鼻の下を伸ばした主人が詳しい説明をしているのを聞きながら
「トラかー、……トラかぁ(……ちょっと戦いにくい、とか言えないよなぁ……)」
ダイン(ka2873)の頭に浮かぶ、以前出会った人間に友好的な子トラの姿。
(ガツーンとお仕置きしたら人間襲うのに懲りてくれたりしないかなぁ)
と、できるだけ穏便に済めばいいな、というダインの切ない願いを残し、一行はそれぞれの乗り物へと向かった。
巡礼路沿いに進んだざくろ、リア、クルス、エステルの4人
「もうすぐ森の側だ、警戒頼むぜ」
望遠鏡を覗いていたクルスの目に、月の光に照らされた夜の森が映る。
「動物の足跡、それに音とか臭いも感じ取らないとね」
頷いたリアが気合いを入れるように表情を引き締める。
「野営を挟むなら道の脇に逸れているかも知れませんしね、気を付けましょう」
片手に構えたハンディライトの光を視線に合わせて動かしつつ、頷くエステル。
「あとは、何かあって森に逃げ込んだりした跡とかあるかもね」
ざくろの言葉が終わるか終わらないか、一行の前に見えてきたのは、後は火を付けるだけ、といった状態の、焚火の跡と、打ち捨てられた背負い袋。
「バイクと馬は……無理かな」
まだ新しく折れたばかりの、草木の匂いが漂う痕跡。生い茂る草木に騎乗を諦めた4人の耳に、獣の唸り声が響く。
「こっちだ(です)!」
異口同音にお互いに仲間へと声をかけ、走り出す一行。
「……なんか、懐かしい気配……?」
不意に感じた、何だか懐かしい気配。気のせいかな? と首を傾げたリアは、先に走り出した3人の背を追い、暗闇に包まれた森の奥へと走り出した。
「戦馬は大きすぎなの。この子くらいの方が可愛いの」
前を走っていく戦馬の速度をちょっぴり羨ましそうに見ながら、先行する4人とは別の宿屋の主人に尋ねたルート取りで乗用馬を走らせるディーナとダイン。
「完全に森の中だね」
分け入った森の入口の木に目印を付けながらディーナの後を追うダインだったが
「向こうで見付けたみたいなの!」
魔導短伝話で短いやり取りを済ませたディーナの声の後、森の奥から魔法の炸裂音が響く。
「あっちだな!」
馬を向かわせようとするダインとディーナの耳に、どうやら炸裂音の聞こえた辺りから獣の吠える声が聞こえて来る。前を横切るように走る数匹の獣。
「仲間を呼ばれた、って感じなの」
「そしてこっちを見逃す気は無いみたいだな」
目の前で殺気を漲らせるトラの中に虎鉄は居なそうな事に安堵しながら、ダインは武器を構え、
「生態おかしいの。普通のトラじゃなさそうなの」
群れで狩りをするトラに、警戒心を露わにしながら、ディーナも武器を構える。
騎乗のまま前に出たダインに向けて飛び掛かって来たトラをダインの槍が打ち払い、体勢が崩れた所を、ディーナの放った光の波動に飲み込まれたトラは、弾き飛ばされてそのまま動かなくなる。
「死体が消えないから雑魔じゃないみたいなの」
「弱いから群れてるって事なのかな?」
厳しい自然の摂理に想いを馳せつつ、2人は今も戦いの音が聞こえる場所、仲間の元へと走った。
「くそっ! あっちに行きやがれ! 俺は餌じゃないんだよ!」
聞こえ来る、切羽詰まった男の声。
ざくろのランタンとエステルのライトの照らす光がすかさず声の聞こえた方へと向かい、照らし出される、獣とヒト。
見て取れる状況は4頭のトラに襲われるヒト、なのだが、その中の1頭、小さな虎の動きはヒト……巡礼者を背に庇うように、他の3頭のトラへとその牙を向けていた。
「この感じ……もしかして虎鉄? まさか、こんなに早く再会できるとはね」
リア的には既に旅人仲間として認識しているらしい。知人に接する態度で小さな虎に声をかけるリアの姿に、残りの3人、ざくろ、クルス、エステルも子虎への警戒を解き、視線を3頭のトラへと向ける。
虎鉄、と呼ばれた小さなトラの方も、トラと巡礼者の牙と剣を躱しながら、リアの方へと視線を送ると何だかニヤリと、久し振りだなと笑いかけるように、口の端を歪ませる。
「助けに来たよ、もう大丈夫」
ジェットブーツでトラと巡礼者の間へと飛び込み、巨大な剣を構えながら巡礼者に声をかけるざくろ。人に庇われた事でようやく巡礼者も落ち着きを取り戻したようだ。
「無益な殺生は好きじゃねえが、人の味を覚えた獣じゃ仕方ねえな」
クルスの構えた巨大なメイスの先端に刻まれた聖印がトラを睨みつけるように構えられ、振り抜かれた一撃に怯んだトラが距離を取る。
「退いて下さい!」
タイミングを合わせ、すかさず放たれたエステルの渾身の一撃が大音声と共に激しく地面を抉る。エステルとしては(これで退いてくれれば)という思いだったが、どうやらトラ達は未だ退く様子は無い。
トラの1頭が上げた咆哮。それに似た物に、リアは聞き覚えがあった。
「……狼とかが仲間を呼ぶ声に似てない?」
呟いた言葉に反応したかのように襲い掛かって来たトラのフェイントを交えつつ振るわれた爪を
「おっと、悪いけどそう簡単にやらせはしないよ」
ステップを踏むように躱すリア。軽やかな動きから一転、鋭く静かに突き出した炎の刃がトラの身を貫き、血と共に悲鳴を撒き散らす。
戦力差は既に圧倒的に覆っている。劣勢を悟り、動きに迷いが見え始めたトラだったが、意地だとでも言うのだろうか。退くことなく飛び掛かり、爪を、牙を、振るう。
「巡礼路がこのまま危険なら、どの道あとで駆除されちまうんだ」
ここで狩られた事で素直に退いてくれれば。そんな想いと共に振るわれた巨大な聖印が1頭のトラの頭部を破壊し、
「申し訳ありませんが……駆除します」
エステルの言葉と共に、聖印から煌めく尾を引いて翔んでいったホーリーライトの白い光が、別の1頭のトラを貫き、叩き付けられたトラの生命を狩る。
「手負いで逃がすわけにはいかないよ、超機導パワーオン、必殺、デルタエンド!」
そしてざくろの放った光の三角形から伸びた光が残ったトラを撃ち貫き、……戦いは、終わった。 仲間を呼んだトラの声で集まって来ていたトラ達は、仲間の末路を見届けた時点で勝ち目がない事を理解したらしく、そのまま森の闇の中へと逃げ去って行ったようだ。
リアとダインの顔を覚えていたらしい子虎は、挨拶するかのようにリアとダインの足にコツンと軽く頭をぶつけ、少し離れた場所に座り込む。
「その虎も、子供とは言え駆除しておいた方が良いと思うんだが」
巡礼者は気味悪そうな表情で子虎を見ている。
「僕の友達に手を出そうっていうなら、いくら保護対象でもタダでは済まさないからね?」
巡礼者に冷ややかな目を向けるリア。
「と、ともだち……?」
意味が分からない、といった表情の巡礼者の言葉に、「何か文句あるのか?」とでもいうような表情をハモらせる子虎とリアと、ダイン。
「虎鉄はね、もう何度も人のこと助けてくれてるんだ」
信じられない話かも知れないけど……助けてくれてるんだ。ダインの表情に、口を閉ざす巡礼者。実際にこの子虎からは攻撃されていない上に今も戦意が全くないのは、まぁ流石に見れば解るというか……。
「子虎さん可愛いの……モフモフは正義なの……」
我慢が限界突破したらしいディーナが、乙女としてどうなのかというギリギリラインまでデレデレした顔で子虎の頭をモッフモッフと撫でているのを見て尚、殺せと言い張れる者はあまり居なそうである。
ヒールをかけられた礼なのだろうか、嫌がる様子もなくモフられている子虎だが、たまに何かを期待するような表情でディーナの顔を眺めている所を見ると、何か考えている事があるのかも知れない。
その横から、怒られないかな、噛まれないかな、と恐る恐る手を出して頭を撫でる事に成功したざくろが、ニッコリと子虎に微笑みかける。
じっとされるがままにしていた子虎はやがて飽きたのか、そこに居るそれぞれのメンバーの顔をジーッと眺め始める。
「いや何でこっち来んだよ……?」
そっちで撫でられてろよ、と視線を逸らすクルスの、わざわざ正面に回ってじっと見ている子虎の表情に、ふと何かに気付いたのはダインだった。
「……あー。ごめんよー、今日はミルクないんだ……」
「!!!」
「……俺、トラのガッカリ顔って初めて見たぜ……」
ダインの言葉に、露骨にガッカリした顔になった子虎は、スッと身を翻すとそのまま森の中へと消えて行った。
数日の後、倒した虎を埋葬した場所で。修行のついで、とばかりにトラの縄張りが完全に移動した事を確認するべく、しばらくこの場へ通っていたエステルは
(人間の都合で、ごめんなさい)
墓碑なき墓へと静かに祈りを捧げ、帰路に着いた。
「巡礼ってのはこの道を通るから意味があるんだよな?」
クルス(ka3922)が確認するように隊長に尋ねる声が響く。
「そうですね、巡礼は巡礼路を通って最終的に王都の聖ヴェレニウス大聖堂を目指す事になります。近道や転移門を使っては意味がありませんし」
「なら近道しようとするような罰当たりな事はしねえか」
肯首し、軽く薀蓄を語る隊長に、頷き返すクルス。
「まずは巡礼者の方を見付けて保護が優先ですね、可能な限り急ぎましょう」
「そうだね、何かあったら大変だもん、急いで探さなくちゃ」
巡礼路の路を思い出しながら話すエステル(ka5826)に、勢い込みながら黒髪を縦に揺らしながら時音 ざくろ(ka1250)が頷く。エステルの記憶では、巡礼路は、その造りの都合上森の傍を通る場所があった。
「まぁ、僕も旅するハンター自称してる訳だし、旅の道の安全ぐらい確保しないとね」
その2人の横では、仁川 リア(ka3483)が腰に帯びた独特の形状のコリシュマルド、刺突剣をカチャリと鳴らす。既に準備は万全のようだ。
他方、宿の主人に細い首を傾げながら
「近道できそうな別の道があったら教えてくださいなの」
お願いするように質問しているディーナ・フェルミ(ka5843)に、若干鼻の下を伸ばした主人が詳しい説明をしているのを聞きながら
「トラかー、……トラかぁ(……ちょっと戦いにくい、とか言えないよなぁ……)」
ダイン(ka2873)の頭に浮かぶ、以前出会った人間に友好的な子トラの姿。
(ガツーンとお仕置きしたら人間襲うのに懲りてくれたりしないかなぁ)
と、できるだけ穏便に済めばいいな、というダインの切ない願いを残し、一行はそれぞれの乗り物へと向かった。
巡礼路沿いに進んだざくろ、リア、クルス、エステルの4人
「もうすぐ森の側だ、警戒頼むぜ」
望遠鏡を覗いていたクルスの目に、月の光に照らされた夜の森が映る。
「動物の足跡、それに音とか臭いも感じ取らないとね」
頷いたリアが気合いを入れるように表情を引き締める。
「野営を挟むなら道の脇に逸れているかも知れませんしね、気を付けましょう」
片手に構えたハンディライトの光を視線に合わせて動かしつつ、頷くエステル。
「あとは、何かあって森に逃げ込んだりした跡とかあるかもね」
ざくろの言葉が終わるか終わらないか、一行の前に見えてきたのは、後は火を付けるだけ、といった状態の、焚火の跡と、打ち捨てられた背負い袋。
「バイクと馬は……無理かな」
まだ新しく折れたばかりの、草木の匂いが漂う痕跡。生い茂る草木に騎乗を諦めた4人の耳に、獣の唸り声が響く。
「こっちだ(です)!」
異口同音にお互いに仲間へと声をかけ、走り出す一行。
「……なんか、懐かしい気配……?」
不意に感じた、何だか懐かしい気配。気のせいかな? と首を傾げたリアは、先に走り出した3人の背を追い、暗闇に包まれた森の奥へと走り出した。
「戦馬は大きすぎなの。この子くらいの方が可愛いの」
前を走っていく戦馬の速度をちょっぴり羨ましそうに見ながら、先行する4人とは別の宿屋の主人に尋ねたルート取りで乗用馬を走らせるディーナとダイン。
「完全に森の中だね」
分け入った森の入口の木に目印を付けながらディーナの後を追うダインだったが
「向こうで見付けたみたいなの!」
魔導短伝話で短いやり取りを済ませたディーナの声の後、森の奥から魔法の炸裂音が響く。
「あっちだな!」
馬を向かわせようとするダインとディーナの耳に、どうやら炸裂音の聞こえた辺りから獣の吠える声が聞こえて来る。前を横切るように走る数匹の獣。
「仲間を呼ばれた、って感じなの」
「そしてこっちを見逃す気は無いみたいだな」
目の前で殺気を漲らせるトラの中に虎鉄は居なそうな事に安堵しながら、ダインは武器を構え、
「生態おかしいの。普通のトラじゃなさそうなの」
群れで狩りをするトラに、警戒心を露わにしながら、ディーナも武器を構える。
騎乗のまま前に出たダインに向けて飛び掛かって来たトラをダインの槍が打ち払い、体勢が崩れた所を、ディーナの放った光の波動に飲み込まれたトラは、弾き飛ばされてそのまま動かなくなる。
「死体が消えないから雑魔じゃないみたいなの」
「弱いから群れてるって事なのかな?」
厳しい自然の摂理に想いを馳せつつ、2人は今も戦いの音が聞こえる場所、仲間の元へと走った。
「くそっ! あっちに行きやがれ! 俺は餌じゃないんだよ!」
聞こえ来る、切羽詰まった男の声。
ざくろのランタンとエステルのライトの照らす光がすかさず声の聞こえた方へと向かい、照らし出される、獣とヒト。
見て取れる状況は4頭のトラに襲われるヒト、なのだが、その中の1頭、小さな虎の動きはヒト……巡礼者を背に庇うように、他の3頭のトラへとその牙を向けていた。
「この感じ……もしかして虎鉄? まさか、こんなに早く再会できるとはね」
リア的には既に旅人仲間として認識しているらしい。知人に接する態度で小さな虎に声をかけるリアの姿に、残りの3人、ざくろ、クルス、エステルも子虎への警戒を解き、視線を3頭のトラへと向ける。
虎鉄、と呼ばれた小さなトラの方も、トラと巡礼者の牙と剣を躱しながら、リアの方へと視線を送ると何だかニヤリと、久し振りだなと笑いかけるように、口の端を歪ませる。
「助けに来たよ、もう大丈夫」
ジェットブーツでトラと巡礼者の間へと飛び込み、巨大な剣を構えながら巡礼者に声をかけるざくろ。人に庇われた事でようやく巡礼者も落ち着きを取り戻したようだ。
「無益な殺生は好きじゃねえが、人の味を覚えた獣じゃ仕方ねえな」
クルスの構えた巨大なメイスの先端に刻まれた聖印がトラを睨みつけるように構えられ、振り抜かれた一撃に怯んだトラが距離を取る。
「退いて下さい!」
タイミングを合わせ、すかさず放たれたエステルの渾身の一撃が大音声と共に激しく地面を抉る。エステルとしては(これで退いてくれれば)という思いだったが、どうやらトラ達は未だ退く様子は無い。
トラの1頭が上げた咆哮。それに似た物に、リアは聞き覚えがあった。
「……狼とかが仲間を呼ぶ声に似てない?」
呟いた言葉に反応したかのように襲い掛かって来たトラのフェイントを交えつつ振るわれた爪を
「おっと、悪いけどそう簡単にやらせはしないよ」
ステップを踏むように躱すリア。軽やかな動きから一転、鋭く静かに突き出した炎の刃がトラの身を貫き、血と共に悲鳴を撒き散らす。
戦力差は既に圧倒的に覆っている。劣勢を悟り、動きに迷いが見え始めたトラだったが、意地だとでも言うのだろうか。退くことなく飛び掛かり、爪を、牙を、振るう。
「巡礼路がこのまま危険なら、どの道あとで駆除されちまうんだ」
ここで狩られた事で素直に退いてくれれば。そんな想いと共に振るわれた巨大な聖印が1頭のトラの頭部を破壊し、
「申し訳ありませんが……駆除します」
エステルの言葉と共に、聖印から煌めく尾を引いて翔んでいったホーリーライトの白い光が、別の1頭のトラを貫き、叩き付けられたトラの生命を狩る。
「手負いで逃がすわけにはいかないよ、超機導パワーオン、必殺、デルタエンド!」
そしてざくろの放った光の三角形から伸びた光が残ったトラを撃ち貫き、……戦いは、終わった。 仲間を呼んだトラの声で集まって来ていたトラ達は、仲間の末路を見届けた時点で勝ち目がない事を理解したらしく、そのまま森の闇の中へと逃げ去って行ったようだ。
リアとダインの顔を覚えていたらしい子虎は、挨拶するかのようにリアとダインの足にコツンと軽く頭をぶつけ、少し離れた場所に座り込む。
「その虎も、子供とは言え駆除しておいた方が良いと思うんだが」
巡礼者は気味悪そうな表情で子虎を見ている。
「僕の友達に手を出そうっていうなら、いくら保護対象でもタダでは済まさないからね?」
巡礼者に冷ややかな目を向けるリア。
「と、ともだち……?」
意味が分からない、といった表情の巡礼者の言葉に、「何か文句あるのか?」とでもいうような表情をハモらせる子虎とリアと、ダイン。
「虎鉄はね、もう何度も人のこと助けてくれてるんだ」
信じられない話かも知れないけど……助けてくれてるんだ。ダインの表情に、口を閉ざす巡礼者。実際にこの子虎からは攻撃されていない上に今も戦意が全くないのは、まぁ流石に見れば解るというか……。
「子虎さん可愛いの……モフモフは正義なの……」
我慢が限界突破したらしいディーナが、乙女としてどうなのかというギリギリラインまでデレデレした顔で子虎の頭をモッフモッフと撫でているのを見て尚、殺せと言い張れる者はあまり居なそうである。
ヒールをかけられた礼なのだろうか、嫌がる様子もなくモフられている子虎だが、たまに何かを期待するような表情でディーナの顔を眺めている所を見ると、何か考えている事があるのかも知れない。
その横から、怒られないかな、噛まれないかな、と恐る恐る手を出して頭を撫でる事に成功したざくろが、ニッコリと子虎に微笑みかける。
じっとされるがままにしていた子虎はやがて飽きたのか、そこに居るそれぞれのメンバーの顔をジーッと眺め始める。
「いや何でこっち来んだよ……?」
そっちで撫でられてろよ、と視線を逸らすクルスの、わざわざ正面に回ってじっと見ている子虎の表情に、ふと何かに気付いたのはダインだった。
「……あー。ごめんよー、今日はミルクないんだ……」
「!!!」
「……俺、トラのガッカリ顔って初めて見たぜ……」
ダインの言葉に、露骨にガッカリした顔になった子虎は、スッと身を翻すとそのまま森の中へと消えて行った。
数日の後、倒した虎を埋葬した場所で。修行のついで、とばかりにトラの縄張りが完全に移動した事を確認するべく、しばらくこの場へ通っていたエステルは
(人間の都合で、ごめんなさい)
墓碑なき墓へと静かに祈りを捧げ、帰路に着いた。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/03/25 08:12:29 |
|
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相談卓 仁川 リア(ka3483) 人間(クリムゾンウェスト)|16才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2016/03/27 19:44:48 |