ゲスト
(ka0000)
ダイエットの代償
マスター:葉槻

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 不明
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/03/28 09:00
- 完成日
- 2016/04/13 12:30
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●微睡む闇の揺籠にて
……まだだ。まだ、足りぬ。
……多少、質が落ちても構わぬ。
……数を、数が、重要だ。
……あの『役立たず』をもっと働かせろ。
……しかし、あまり派手に動いてハンターの目に留まっても目障りだ。
……いや、構わん。もう計画は終盤だ。
……精々、数を稼いで我々の役に立って貰おう。
●ある報告事例
朝から酷く寒い日だった。
3月も半ばになった頃、再び帝都は寒波に見舞われていた。
まるで年始に戻ったような骨まで染み入るような冷気に、人々は仕舞いかけた厚手のコートを再び引っ張り出して前を寄せる。
男は漸くこの日、山積みだった仕事を終え、同僚達と軽く夕食を済ませて帰宅途中だった。馬車を降り、玄関の鍵を開けようとして、目の端に何やら蠢くモノを見た気がして振り返る。
「……飲み過ぎたかな?」
時間はまだ日が変わる前。とはいえ、帝都襲撃からこの2ヶ月はほぼ休み無く働いてきた為、疲れが溜まっている感は否めない。
「気のせいか」
呟きながら鍵を回し、再び気配に振り返る。
目を凝らし、茂みの中を見れば暗がりに蠢く『何か』がいた。
「ひっ!」
男は護衛の為に身につけていた拳銃を震える手で取り出すと、わたわたと構えた。
それは全身がゼリー状の化け物だった。それが、男には目にもくれずぞろぞろと地面を這うように歩道へと向かって行く。
男は初めて間近で見る雑魔を前に、歯を鳴らしながらも、視線を逸らせずその行動を見守る。
雑魔はずるずると動き、そして雨水用の側溝に落ちると、そのまま下水道へと落ちていった。
1時間以上、恐怖からその側溝を見守っていたが、雑魔が出てこないことに漸く、男はへたりとその場にしゃがみ込んだ。
それから、這うようにして自宅へ帰ると、大声で妻の名を呼んだ。
しかし姿を現さない為、不審に思いながらも寝室へ向かう。
2ヶ月ぶりに帰る家は他人の家のように冷えていて、うっすらと埃すら溜まっているようだった。
男は得も言われぬ不安に襲われながら寝室の扉を開く。
だがそこ妻の姿はなく、ただ脱ぎ捨てられた寝間着と、開かれた窓があるだけだった。
●変異
「……そんなにそれが美味いのか……?」
娘がシェフに頼んで作らせたという、レアよりも限りなく生に近いブルーと言われる両面を数秒焼いた程度のステーキを行儀良く――しかし、二人前の量を――食べる娘を見て、うんざりしたように父親は問う。
「お父様ったら。今、生食がとてももてはやされているのよ? 流石、リアルブルーの調理法よね。この血が滴る新鮮さと、肉の柔らかさがいいの。今までこんな美味しい食べ方は帝都には無かったもの」
ちらりと、赤い舌を見せながら娘は微笑む。耳にはダイエット効果があると言われる銀のピアスが光っている。
ぽっちゃりとしていた娘にダイエットをしてはどうだと進めたのは自分だったが、この4ヶ月で娘の体重はみるみる落ちて今はもう女性らしい丸みすら失われつつあった。
「……お前、その、そろそろダイエットも止めて良いんじゃ無いか?」
そう父親が告げると、娘は片眉を跳ね上げて父親を見た。ぎょろりとした目に射竦められて、父親は思わずゴクリと生唾を飲み込む。
「お父様がやせろと言うから今頑張っているのよ。あともうちょっとで目標のドレスが着られるようになるの」
「……お、おぉ、そ、そうか」
娘はほぼ生肉のままのステーキだけを平らげるとフォークとナイフを置いた。机の上のスープとパンにはほとんど手を付けていない。
「も、もういいのか? せっかく母さんが焼いたパンなのに……」
「えぇ。パンは太る原因になるんですって」
それでは、ゴチソウサマでしたと、静かに席を立つと、優雅にお辞儀をして娘は食堂を出て行く。父親はその一挙一動を見守ったあと、知らず知らずのうちに溜息を吐いて、食事を再開したのだった。
その夜。
いつものようにメイドが娘の髪に櫛を入れ、寝支度を整えていた時だった。
ふらりと娘は立ち上がると、窓を開け放った。まだ冷たい春の夜風が室内を駆ける。
「お嬢様」
メイドが声を掛けた時だった。
「……行かなきゃ」
そう娘が告げると、その姿は突如ぐにゃりと溶けた。
ぱさり、と軽い音を立てて寝間着が床に落ちる。
窓の枠の上には赤みの強いゼリー状の雑魔。
――メイドの上げた悲鳴と同時に、雑魔は窓の外へと消えた。
何事かと走ってきた屋敷の主人に、メイドは窓の外を指差しながら何とか自分が目撃したものを説明をする。
男は――父親は――窓の外を見て、そこにずるずると移動するスライムを見つけ、メイドの言葉が少なくとも『雑魔が出た』という点において嘘を吐いていないことを確認した。
彼は猟銃を手に取ると、スライムの後を追って家を飛び出した。
「……ご主人、どうされました?」
そんな彼に背後から声をかけたのは、ハンターの一人だった。
……まだだ。まだ、足りぬ。
……多少、質が落ちても構わぬ。
……数を、数が、重要だ。
……あの『役立たず』をもっと働かせろ。
……しかし、あまり派手に動いてハンターの目に留まっても目障りだ。
……いや、構わん。もう計画は終盤だ。
……精々、数を稼いで我々の役に立って貰おう。
●ある報告事例
朝から酷く寒い日だった。
3月も半ばになった頃、再び帝都は寒波に見舞われていた。
まるで年始に戻ったような骨まで染み入るような冷気に、人々は仕舞いかけた厚手のコートを再び引っ張り出して前を寄せる。
男は漸くこの日、山積みだった仕事を終え、同僚達と軽く夕食を済ませて帰宅途中だった。馬車を降り、玄関の鍵を開けようとして、目の端に何やら蠢くモノを見た気がして振り返る。
「……飲み過ぎたかな?」
時間はまだ日が変わる前。とはいえ、帝都襲撃からこの2ヶ月はほぼ休み無く働いてきた為、疲れが溜まっている感は否めない。
「気のせいか」
呟きながら鍵を回し、再び気配に振り返る。
目を凝らし、茂みの中を見れば暗がりに蠢く『何か』がいた。
「ひっ!」
男は護衛の為に身につけていた拳銃を震える手で取り出すと、わたわたと構えた。
それは全身がゼリー状の化け物だった。それが、男には目にもくれずぞろぞろと地面を這うように歩道へと向かって行く。
男は初めて間近で見る雑魔を前に、歯を鳴らしながらも、視線を逸らせずその行動を見守る。
雑魔はずるずると動き、そして雨水用の側溝に落ちると、そのまま下水道へと落ちていった。
1時間以上、恐怖からその側溝を見守っていたが、雑魔が出てこないことに漸く、男はへたりとその場にしゃがみ込んだ。
それから、這うようにして自宅へ帰ると、大声で妻の名を呼んだ。
しかし姿を現さない為、不審に思いながらも寝室へ向かう。
2ヶ月ぶりに帰る家は他人の家のように冷えていて、うっすらと埃すら溜まっているようだった。
男は得も言われぬ不安に襲われながら寝室の扉を開く。
だがそこ妻の姿はなく、ただ脱ぎ捨てられた寝間着と、開かれた窓があるだけだった。
●変異
「……そんなにそれが美味いのか……?」
娘がシェフに頼んで作らせたという、レアよりも限りなく生に近いブルーと言われる両面を数秒焼いた程度のステーキを行儀良く――しかし、二人前の量を――食べる娘を見て、うんざりしたように父親は問う。
「お父様ったら。今、生食がとてももてはやされているのよ? 流石、リアルブルーの調理法よね。この血が滴る新鮮さと、肉の柔らかさがいいの。今までこんな美味しい食べ方は帝都には無かったもの」
ちらりと、赤い舌を見せながら娘は微笑む。耳にはダイエット効果があると言われる銀のピアスが光っている。
ぽっちゃりとしていた娘にダイエットをしてはどうだと進めたのは自分だったが、この4ヶ月で娘の体重はみるみる落ちて今はもう女性らしい丸みすら失われつつあった。
「……お前、その、そろそろダイエットも止めて良いんじゃ無いか?」
そう父親が告げると、娘は片眉を跳ね上げて父親を見た。ぎょろりとした目に射竦められて、父親は思わずゴクリと生唾を飲み込む。
「お父様がやせろと言うから今頑張っているのよ。あともうちょっとで目標のドレスが着られるようになるの」
「……お、おぉ、そ、そうか」
娘はほぼ生肉のままのステーキだけを平らげるとフォークとナイフを置いた。机の上のスープとパンにはほとんど手を付けていない。
「も、もういいのか? せっかく母さんが焼いたパンなのに……」
「えぇ。パンは太る原因になるんですって」
それでは、ゴチソウサマでしたと、静かに席を立つと、優雅にお辞儀をして娘は食堂を出て行く。父親はその一挙一動を見守ったあと、知らず知らずのうちに溜息を吐いて、食事を再開したのだった。
その夜。
いつものようにメイドが娘の髪に櫛を入れ、寝支度を整えていた時だった。
ふらりと娘は立ち上がると、窓を開け放った。まだ冷たい春の夜風が室内を駆ける。
「お嬢様」
メイドが声を掛けた時だった。
「……行かなきゃ」
そう娘が告げると、その姿は突如ぐにゃりと溶けた。
ぱさり、と軽い音を立てて寝間着が床に落ちる。
窓の枠の上には赤みの強いゼリー状の雑魔。
――メイドの上げた悲鳴と同時に、雑魔は窓の外へと消えた。
何事かと走ってきた屋敷の主人に、メイドは窓の外を指差しながら何とか自分が目撃したものを説明をする。
男は――父親は――窓の外を見て、そこにずるずると移動するスライムを見つけ、メイドの言葉が少なくとも『雑魔が出た』という点において嘘を吐いていないことを確認した。
彼は猟銃を手に取ると、スライムの後を追って家を飛び出した。
「……ご主人、どうされました?」
そんな彼に背後から声をかけたのは、ハンターの一人だった。
リプレイ本文
●
エリオ・アスコリ(ka5928)は振り向いた恰幅の良い紳士の顔にどことなく見覚えがあった。
「貴方は……」
「娘が、あのスライムが、娘かもしれないんだ……!」
「あー……ちょっと、すいません。話を聞かせてください」
言い淀んだエリオの代わりに金目(ka6190)がスライムの後を追いながらも男に話しを促す。動転しているのか話す内容は支離滅裂だが、どうやら娘がスライムに変わったとメイドが騒ぎ、男はそのスライムを追ってきたらしいということは分かった。
一同は視線を交わし、金目が頷いて了承の意を伝えると男へと向き直る。
「なるほど。こちらのスライムに関しては僕達ハンターが追いましょう。ご主人は一度戻られた方がいい。……もしかすると、お嬢さんが戻られているかもしれない」
「そうですね。奥様やメイドさんも不安に思っていらっしゃるでしょうし、ここは私達に任せて、お家でついていてあげて下さい」
ソナ(ka1352)が穏やかに微笑みながら、金目の意見を後押しする。男は不安げに一同の顔を見回した後、「……そうか、そうだな」と頷いた。
金目が男を家まで送ろうと連れ添って歩いて行く。その後姿を見送った後、浅黄 小夜(ka3062)が不安げに先を行くスライムを見る。
(人が……スライムに……エマさんの時は病院の薬……今度はダイエットの薬……?)
「何の為に……こんな事、してるんやろ……」
「……腹立つなぁ」
思わず言葉が漏れた横から、低い、呻くような呟きが聞こえて小夜はびくりと声の主を見る。
一つの推論に達した水流崎トミヲ(ka4852)はそんな小夜の様子に気付くこと無く、険しい表情のままスライムを睨み付けていた。
「さて、コイツは意外なところで線が繋がってきたなぁ」
トミヲの武者兜に手を置いて、左右にがしゃがしゃと揺さぶりながら劉 厳靖(ka4574)が飄々と言うと、小夜を見て口角を上げる。
「もー、何するんだよ」とトミヲが劉を睨め上げ、そして、小さく溜息を吐いた。それを見て、劉は今度はエリオを見る。
「んで、エリオ、あのおっさんと知り合いか?」
「……いえ。ただ……人違いであって欲しい、と」
ハンターとして初依頼だった。そこで出会ったぽっちゃりとした外見の、色白で笑うとえくぼの可愛らしい少女。彼女の顔の造形……特に鼻と口元が、先ほどの紳士と重なる。人違いであって欲しい。だけれど、自分の記憶がその願いを否定する。
(吐き気がするやせ薬。吐き気がする病院の薬。この二つの事件が繋がるなら……ボクはその背後で糸を引く奴らを絶対に許さない)
エリオは鞄からワインを取り出し、それをスライムに浴びせかけようとした所を「あ!」と小夜に止められた。
「前、エ……、スライムと戦った時、攻撃したら攻撃して来たんです。そぉっと、した方が……ええかもしれません」
「なるほど」
エリオはスライムから距離を取りながら先回りをして地面にワインを零した。スライムはワイン溜まりを避ける事無く踏み越えて、真っ直ぐに道を進んでいく。
「勿体ねぇなぁ……」
思わず劉から溢れた本音は黙殺された。
「この先は行政地区に入ってしまいます」
「じゃぁ、ほとんど人は居ないと思っていいね」
行政地区内には一般店舗や住宅はほとんど無く、帝国内の官公庁ばかりが立ち並ぶ。深夜ともなればそれはゴーストタウンじみて、ソナは薄ら寒さすら感じ始めていた。道中に最低限の街灯は灯っているが、ソナは鞄の中からライトを取りだして、いつでも点けられるよう手に持った。
その先、スライムが突然かき消えるように姿を消した。
「下水か!」
トミヲの声に目の粗いグレーチング――鉄材を格子状に組んだ溝蓋――へと駆け寄り、その奥へとスライムが進んでいくの見て、ソナは地図を見る。
「1番近い入口は……こっちです」
エリオが暗記した地図情報を思い出し道を指差す。
「鍵、これで行けるといいんだが」
劉が事前に借りてきていた鍵を差し込んだ。
下水へ続く分厚く重い鉄の扉が音を立てて開く。
むわっと蒸れた腐臭が上がってきて、思わず小夜は口元を抑える。ソナが照らしたライトの先、その暗闇に、小さな……しかし、大量の負のマテリアルの気配を感じ、エリオは思わず生唾を飲み込んだ。
●
「行かなきゃ、と彼女は言ったんですね?」
男の屋敷で、金目はメイドから状況を確認していた。金目の問いにメイドは小さく頷き、不安げに指を組み替えたり自身を抱きしめるようにして両腕をさすったりしている。
「……突然、ふらっと立って、窓を開けて。それまで普通にお話していたのに……えぇ、別に変な匂いとかは無かったです。本能……というよりは、心ここにあらず、という感じの声でした」
人がスライムに変わる、という恐ろしい瞬間を思い出したのだろう、メイドの顔からみるみる血の気が引き始めたのに気付いて、金目はメイドをソファに横たえさせた。そして隣室で妻の背をさすりながら待機している男の元へと戻った。
「そういえば、お嬢さんはダイエットをされていたとか? その薬はどこから買っていたのですか?」
「病院からですわ。あの、街外れのエンスリン病院。今日、行ったばかりでしたわ。月に一度、診察を受けてひと月分づつ処方して貰っておりました」
何故? という表情ながらも、夫人が丁寧に答えてくれた。その病院名に金目はカチリと脳内にピースが埋まるのを感じた。
「……あぁ、今人気の病院ですよね。あそこそんな薬の処方もしていたんだ」
「えぇ、何でもリアルブルー仕込みの新薬だっていうお話で。ねぇ?」
「あ、あぁ。あそこで世話になっている元貴族の方から紹介を頂いてね。あそこは紹介が無いと見て貰う事も出来ない格式高い病院だからね。有り難く通わせて貰っていたんだが……それが、何か?」
「随分お痩せになっていたとメイドの方からお話を聞きまして」
金目の言葉に、男は深い溜息を吐いた。
「あぁ……もう骨と皮しかないんじゃないかってくらい痩せてしまって……生肉料理ばかりを食べるようになってしまったし、これはおかしいからもう薬は止めさせようと思っていたんだ」
「先生から『新鮮な生野菜と生肉料理を欲しますので、与えて上げてください』とは言われていたんですけれど……流石にちょっと、偏食が過ぎましたから、心配しておりましたの」
夫人の言葉を金目は指先でこめかみを叩きながら暗記する。
「肉を生で……で、ソレは、いったい何の肉なんです?」
金目の問いに、夫人はきょとんとした表情で首を傾げた。
「羊肉や牛肉ですわ。ただもともと娘は羊は肉の臭みを嫌っていましたから、牛肉を出すことの方が多かったですけれども」
流石に穿ちすぎか、と金目は頬を掻いた。
「とりあえず、娘さんの捜索にはハンター一同でかかります。もしも娘さんが帰ってくることがあれば、明るくなってからで結構ですから、ハンターオフィスまでご連絡下さい」
その可能性が限りなく低いことを分かっていたが、そう伝えるしかなかった。
金目は屋敷を後にすると皆と別れた場所まで戻り、ソウルウルフのオルさんに追跡を頼んだのだった。
●
近代都市であるバルトアンデルスの地下を走る下水道は迷路のように張り巡らされている。そして最新鋭の機導術を誇る代償としての魔導汚染に常に悩まされている帝国首都ともなれば、下水道の汚染から雑魔が発生するレベルの汚染となっている……というのは耳にしたことのある者もいただろう。もっとも、所詮雑魔であり、手練のハンターである一同にはさほど脅威という訳では無いのだが……
スライムが下水に入っていったという前情報から、今回もその可能性があると目星を付けて行動したまでは良かったが、一同は完全に『下水』という汚水の溜まり場に対しての想定が甘かったと後悔していた。
「ひっ!!」
顔の横を掠めて行った羽音に小夜が引きつった小さな悲鳴を上げる。
「っきゃぁっ!!」
ソナの足元を丸々と太った鼠型の雑魔が駆けていった。
「……みふなー、らいじょーふかー?」
フラメアで1m程のオオムカデを切り裂いた劉が、直ぐ様口元をワークスーツの裾で鼻と口を覆って後ろを振り返る。
酷い悪臭を放つヘドロでぬかるんだ通路。壁には苔だかカビだかが群生しており、絶対に触りたくない様相となっている。
ソナとエリオが連れてきた愛犬達もこの悪臭と負のマテリアルの充満具合から下水の中までは入ってくれなかった。幸いにもソナがスライムの通った側溝が繋がっている下水路を地図から予測し、周囲を探索したところスライムを見つけることが出来たので、今もこうして雑魔に脅かされながらも追跡することが出来ていた。
天井から首筋へと落ちてきたヒル状の雑魔を思わずバチンと叩き潰し、エリオはべったりと汚れたグローブを見て頬を引きつらせた。
「これは、みんなの精神値がゴリゴリ削られてる音がするね……」
「心臓に……悪いです」
水路を越える為に全員にウォーターウォークを施し、たいまつを片手に、もう片手は羽織の袖口で口元を覆いながら劉と共に前を歩くトミヲのぼやきに、小夜が小さく頷く。その時、たいまつの炎がゆらりと大きく揺れた。
「風が……」
「このまま行くと、イルリ河に出ますね」
跡を付け始めた頃から病院とはまったくの逆方向だということは気付いていたが、これはあまり良い状況ではないと劉は唸った。もしも河に出て、そのまま水に流れていくような事があればどうやって追えば良いのか。
「シッ!」
スライムが曲がった角、その向こうに何かの気配を察知したトミヲが一同の脚を止めさせた。
遅いかも知れないが全ての明かりを消し、壁からそっと顔を出し闇の中を窺う。
スライムはこの闇の中でも薄ぼんやりと赤く煌めいて見えた。一同は灯りを消して、足元に注意しながら、その跡を追う。すると、スライムの先にももう1匹似たような薄ぼんやりとした赤みが見えた。
スライムは何かをよじ登り、その中へと消えたように見えた。
そして、その傍で動く影を感じて、劉は静かに槍を構える。暗闇になれてきた目をこらすと影は人型に近く、なにやら抱えて動いているのが分かった。
追っていたスライムが、小さな箱状の物に入ったのが見えて、一同は顔を見合わせると、一気に灯りを点けて影へと迫った。
●
突然灯りを向けられても影は……フードを被った人物は動じること無かった。むしろ、突然の明るさにトミヲとエリオ以外の3人の方が顔をしかめた。
「ちょっとお話いいですかねぇ?」
トミヲが声を掛けると、フードの人物はスライムが入っていった箱を抱えて、通路の奥へと踵を返した。
「ちょっ!」
劉が慌てて追いかけようとして、ソナが咄嗟に光の杭を打ち放った。
フードの人物は動きを止められ、手にしていた箱が落ちる。石床に叩き付けられた箱からはスライムと、赤い血と大きな肉片が散らばり出た。
フードの人物のさらに奥で大きな鳥の羽ばたきが聞こえる。小夜がそちらへライトを向けると、鴉のような鳥の影が箱を掴んで奥へと飛んで行くのが見えた。
「待って……!」
小夜がアイスボルトを放とうと燭台を掲げ……それをナイフの刃のような物で弾き飛ばされた。
「……やっぱり、歪虚が絡んでるのか……!」
舌打ちしそうな勢いで、トミヲが忌々しげに呟く。
視線の先、フードの外れた人物は、人では無かった。頭部には髪の毛の代わりに銀の刃を生やし、顔面の中央には大きな機械仕掛けのモノアイと、口のある所には大きな銃口がつけられている――見紛うことのない、剣機だ。しかも、かなり機械化されている。
そして、床のスライムは肉片を取り込むと、傍らを駆け抜けようとした鼠型雑魔も捕食したのを見て、エリオが眉根を寄せた。
「僕を……覚えていない?」
似たようなスライムと戦った時、声を掛けたら動きが止まった様に見えたと聞いたが、残念ながらこのスライムにはエリオの声は届かないようだ。そもそも光りが苦手だという報告だったが、少なくともLEDライトの光には影響を受けているようにも見えない。個体による特製なのか、それとも『日光』がダメなのか。今知ることは出来ない。
スライムがエリオに向かって赤い刃を放った。それはエリオの太腿を抉ったが、その痛みよりも駆け出し、振り下ろした拳の方が痛かった。朗らかな、あの笑顔がエリオの胸を抉る。
劉はソウルトーチで気を引くか逡巡し……止めて、堅守で剣機の刃を受け止めた。周囲に雑魔が多いこと、それらを引き寄せてしまう可能性、そしてスライムがその雑魔を捕食した事からいたずらに引き寄せるのは愚策だと判断したのだ。
トミヲのライトニングボルトが剣機を貫き、轟音が身体を震わせた。その隙に劉はバックステップで後ろへ下がると槍を構え直す。
「追いついたっ!」
オルさんに下水からの道案内は拒否されてしまったものの、皆の足跡や戦闘の痕跡、響く剣戟などを頼りに何とか5人と合流した金目は、真っ先に小夜に向かって攻性強化を放つ。
小夜が氷の矢を剣機へとぶつける。ピシピシッと凍り付く音と共に剣機の動きが鈍くなる。
ソナが奇蹟に縋る思いでキュアをスライムへとかける。……が、スライムに変化は無い。それを証明するかのように、スライムは周囲へと赤い刃を降らした。
それを受け止めたエリオはこみ上げてくる全ての感情を噛み殺し、練り上げた気を拳に乗せてスライムの中心を殴り貫いた。
スライムが塵へと変わった途端、剣機のモノアイが赤く光った。
「みんな! 伏せて!!」
咄嗟にトミヲがヘドロから美少女の像を作りあげるのとほぼ同時に、銃口から衝撃波が放たれ、それは像を破壊し、周囲を薙いだ。
「……逃げられたか」
通路の奥、劉が辿り着いた先にあったのは、腐食し壊れた鉄柵。そして星空を映して煌めくイルリ河の水面だった。
●
『黒幕はエンスリン病院にあり、目的はスライムの蒐集である』
トミヲが中心となって纏めた報告書は、APV内に衝撃を走らせた。
翌日ソナが他の失踪者の家族にも確認をしたところ、状況の酷似している者の殆どがエンスリン病院に通院していた事が分かったのもトミヲの推論を後押しした。
「ともかく、まずはダイエット薬の内服の中止を呼びかけて下さい」
そして一刻も早い病院の調査を、という要求にAPVの職員も神妙な顔で頷いたのだった。
●微睡む闇の揺籠にて
……流石、ハンター。嗅覚だけは野良犬並よ。
……まぁ、そろそろ潮時ではあった。
……折角、いい隠れ蓑だったのだがな、惜しいことだ。
……あの『役立たず』が存外役に立ったのだ、僥倖だろう。
……しかし、ヒトの欲とは実に美味い。お陰でかなり捗った。
……『血』の提供もおおよそ終わったのだろう?
……ならば問題無い。後は『自由』にしてやれば良い。
エリオ・アスコリ(ka5928)は振り向いた恰幅の良い紳士の顔にどことなく見覚えがあった。
「貴方は……」
「娘が、あのスライムが、娘かもしれないんだ……!」
「あー……ちょっと、すいません。話を聞かせてください」
言い淀んだエリオの代わりに金目(ka6190)がスライムの後を追いながらも男に話しを促す。動転しているのか話す内容は支離滅裂だが、どうやら娘がスライムに変わったとメイドが騒ぎ、男はそのスライムを追ってきたらしいということは分かった。
一同は視線を交わし、金目が頷いて了承の意を伝えると男へと向き直る。
「なるほど。こちらのスライムに関しては僕達ハンターが追いましょう。ご主人は一度戻られた方がいい。……もしかすると、お嬢さんが戻られているかもしれない」
「そうですね。奥様やメイドさんも不安に思っていらっしゃるでしょうし、ここは私達に任せて、お家でついていてあげて下さい」
ソナ(ka1352)が穏やかに微笑みながら、金目の意見を後押しする。男は不安げに一同の顔を見回した後、「……そうか、そうだな」と頷いた。
金目が男を家まで送ろうと連れ添って歩いて行く。その後姿を見送った後、浅黄 小夜(ka3062)が不安げに先を行くスライムを見る。
(人が……スライムに……エマさんの時は病院の薬……今度はダイエットの薬……?)
「何の為に……こんな事、してるんやろ……」
「……腹立つなぁ」
思わず言葉が漏れた横から、低い、呻くような呟きが聞こえて小夜はびくりと声の主を見る。
一つの推論に達した水流崎トミヲ(ka4852)はそんな小夜の様子に気付くこと無く、険しい表情のままスライムを睨み付けていた。
「さて、コイツは意外なところで線が繋がってきたなぁ」
トミヲの武者兜に手を置いて、左右にがしゃがしゃと揺さぶりながら劉 厳靖(ka4574)が飄々と言うと、小夜を見て口角を上げる。
「もー、何するんだよ」とトミヲが劉を睨め上げ、そして、小さく溜息を吐いた。それを見て、劉は今度はエリオを見る。
「んで、エリオ、あのおっさんと知り合いか?」
「……いえ。ただ……人違いであって欲しい、と」
ハンターとして初依頼だった。そこで出会ったぽっちゃりとした外見の、色白で笑うとえくぼの可愛らしい少女。彼女の顔の造形……特に鼻と口元が、先ほどの紳士と重なる。人違いであって欲しい。だけれど、自分の記憶がその願いを否定する。
(吐き気がするやせ薬。吐き気がする病院の薬。この二つの事件が繋がるなら……ボクはその背後で糸を引く奴らを絶対に許さない)
エリオは鞄からワインを取り出し、それをスライムに浴びせかけようとした所を「あ!」と小夜に止められた。
「前、エ……、スライムと戦った時、攻撃したら攻撃して来たんです。そぉっと、した方が……ええかもしれません」
「なるほど」
エリオはスライムから距離を取りながら先回りをして地面にワインを零した。スライムはワイン溜まりを避ける事無く踏み越えて、真っ直ぐに道を進んでいく。
「勿体ねぇなぁ……」
思わず劉から溢れた本音は黙殺された。
「この先は行政地区に入ってしまいます」
「じゃぁ、ほとんど人は居ないと思っていいね」
行政地区内には一般店舗や住宅はほとんど無く、帝国内の官公庁ばかりが立ち並ぶ。深夜ともなればそれはゴーストタウンじみて、ソナは薄ら寒さすら感じ始めていた。道中に最低限の街灯は灯っているが、ソナは鞄の中からライトを取りだして、いつでも点けられるよう手に持った。
その先、スライムが突然かき消えるように姿を消した。
「下水か!」
トミヲの声に目の粗いグレーチング――鉄材を格子状に組んだ溝蓋――へと駆け寄り、その奥へとスライムが進んでいくの見て、ソナは地図を見る。
「1番近い入口は……こっちです」
エリオが暗記した地図情報を思い出し道を指差す。
「鍵、これで行けるといいんだが」
劉が事前に借りてきていた鍵を差し込んだ。
下水へ続く分厚く重い鉄の扉が音を立てて開く。
むわっと蒸れた腐臭が上がってきて、思わず小夜は口元を抑える。ソナが照らしたライトの先、その暗闇に、小さな……しかし、大量の負のマテリアルの気配を感じ、エリオは思わず生唾を飲み込んだ。
●
「行かなきゃ、と彼女は言ったんですね?」
男の屋敷で、金目はメイドから状況を確認していた。金目の問いにメイドは小さく頷き、不安げに指を組み替えたり自身を抱きしめるようにして両腕をさすったりしている。
「……突然、ふらっと立って、窓を開けて。それまで普通にお話していたのに……えぇ、別に変な匂いとかは無かったです。本能……というよりは、心ここにあらず、という感じの声でした」
人がスライムに変わる、という恐ろしい瞬間を思い出したのだろう、メイドの顔からみるみる血の気が引き始めたのに気付いて、金目はメイドをソファに横たえさせた。そして隣室で妻の背をさすりながら待機している男の元へと戻った。
「そういえば、お嬢さんはダイエットをされていたとか? その薬はどこから買っていたのですか?」
「病院からですわ。あの、街外れのエンスリン病院。今日、行ったばかりでしたわ。月に一度、診察を受けてひと月分づつ処方して貰っておりました」
何故? という表情ながらも、夫人が丁寧に答えてくれた。その病院名に金目はカチリと脳内にピースが埋まるのを感じた。
「……あぁ、今人気の病院ですよね。あそこそんな薬の処方もしていたんだ」
「えぇ、何でもリアルブルー仕込みの新薬だっていうお話で。ねぇ?」
「あ、あぁ。あそこで世話になっている元貴族の方から紹介を頂いてね。あそこは紹介が無いと見て貰う事も出来ない格式高い病院だからね。有り難く通わせて貰っていたんだが……それが、何か?」
「随分お痩せになっていたとメイドの方からお話を聞きまして」
金目の言葉に、男は深い溜息を吐いた。
「あぁ……もう骨と皮しかないんじゃないかってくらい痩せてしまって……生肉料理ばかりを食べるようになってしまったし、これはおかしいからもう薬は止めさせようと思っていたんだ」
「先生から『新鮮な生野菜と生肉料理を欲しますので、与えて上げてください』とは言われていたんですけれど……流石にちょっと、偏食が過ぎましたから、心配しておりましたの」
夫人の言葉を金目は指先でこめかみを叩きながら暗記する。
「肉を生で……で、ソレは、いったい何の肉なんです?」
金目の問いに、夫人はきょとんとした表情で首を傾げた。
「羊肉や牛肉ですわ。ただもともと娘は羊は肉の臭みを嫌っていましたから、牛肉を出すことの方が多かったですけれども」
流石に穿ちすぎか、と金目は頬を掻いた。
「とりあえず、娘さんの捜索にはハンター一同でかかります。もしも娘さんが帰ってくることがあれば、明るくなってからで結構ですから、ハンターオフィスまでご連絡下さい」
その可能性が限りなく低いことを分かっていたが、そう伝えるしかなかった。
金目は屋敷を後にすると皆と別れた場所まで戻り、ソウルウルフのオルさんに追跡を頼んだのだった。
●
近代都市であるバルトアンデルスの地下を走る下水道は迷路のように張り巡らされている。そして最新鋭の機導術を誇る代償としての魔導汚染に常に悩まされている帝国首都ともなれば、下水道の汚染から雑魔が発生するレベルの汚染となっている……というのは耳にしたことのある者もいただろう。もっとも、所詮雑魔であり、手練のハンターである一同にはさほど脅威という訳では無いのだが……
スライムが下水に入っていったという前情報から、今回もその可能性があると目星を付けて行動したまでは良かったが、一同は完全に『下水』という汚水の溜まり場に対しての想定が甘かったと後悔していた。
「ひっ!!」
顔の横を掠めて行った羽音に小夜が引きつった小さな悲鳴を上げる。
「っきゃぁっ!!」
ソナの足元を丸々と太った鼠型の雑魔が駆けていった。
「……みふなー、らいじょーふかー?」
フラメアで1m程のオオムカデを切り裂いた劉が、直ぐ様口元をワークスーツの裾で鼻と口を覆って後ろを振り返る。
酷い悪臭を放つヘドロでぬかるんだ通路。壁には苔だかカビだかが群生しており、絶対に触りたくない様相となっている。
ソナとエリオが連れてきた愛犬達もこの悪臭と負のマテリアルの充満具合から下水の中までは入ってくれなかった。幸いにもソナがスライムの通った側溝が繋がっている下水路を地図から予測し、周囲を探索したところスライムを見つけることが出来たので、今もこうして雑魔に脅かされながらも追跡することが出来ていた。
天井から首筋へと落ちてきたヒル状の雑魔を思わずバチンと叩き潰し、エリオはべったりと汚れたグローブを見て頬を引きつらせた。
「これは、みんなの精神値がゴリゴリ削られてる音がするね……」
「心臓に……悪いです」
水路を越える為に全員にウォーターウォークを施し、たいまつを片手に、もう片手は羽織の袖口で口元を覆いながら劉と共に前を歩くトミヲのぼやきに、小夜が小さく頷く。その時、たいまつの炎がゆらりと大きく揺れた。
「風が……」
「このまま行くと、イルリ河に出ますね」
跡を付け始めた頃から病院とはまったくの逆方向だということは気付いていたが、これはあまり良い状況ではないと劉は唸った。もしも河に出て、そのまま水に流れていくような事があればどうやって追えば良いのか。
「シッ!」
スライムが曲がった角、その向こうに何かの気配を察知したトミヲが一同の脚を止めさせた。
遅いかも知れないが全ての明かりを消し、壁からそっと顔を出し闇の中を窺う。
スライムはこの闇の中でも薄ぼんやりと赤く煌めいて見えた。一同は灯りを消して、足元に注意しながら、その跡を追う。すると、スライムの先にももう1匹似たような薄ぼんやりとした赤みが見えた。
スライムは何かをよじ登り、その中へと消えたように見えた。
そして、その傍で動く影を感じて、劉は静かに槍を構える。暗闇になれてきた目をこらすと影は人型に近く、なにやら抱えて動いているのが分かった。
追っていたスライムが、小さな箱状の物に入ったのが見えて、一同は顔を見合わせると、一気に灯りを点けて影へと迫った。
●
突然灯りを向けられても影は……フードを被った人物は動じること無かった。むしろ、突然の明るさにトミヲとエリオ以外の3人の方が顔をしかめた。
「ちょっとお話いいですかねぇ?」
トミヲが声を掛けると、フードの人物はスライムが入っていった箱を抱えて、通路の奥へと踵を返した。
「ちょっ!」
劉が慌てて追いかけようとして、ソナが咄嗟に光の杭を打ち放った。
フードの人物は動きを止められ、手にしていた箱が落ちる。石床に叩き付けられた箱からはスライムと、赤い血と大きな肉片が散らばり出た。
フードの人物のさらに奥で大きな鳥の羽ばたきが聞こえる。小夜がそちらへライトを向けると、鴉のような鳥の影が箱を掴んで奥へと飛んで行くのが見えた。
「待って……!」
小夜がアイスボルトを放とうと燭台を掲げ……それをナイフの刃のような物で弾き飛ばされた。
「……やっぱり、歪虚が絡んでるのか……!」
舌打ちしそうな勢いで、トミヲが忌々しげに呟く。
視線の先、フードの外れた人物は、人では無かった。頭部には髪の毛の代わりに銀の刃を生やし、顔面の中央には大きな機械仕掛けのモノアイと、口のある所には大きな銃口がつけられている――見紛うことのない、剣機だ。しかも、かなり機械化されている。
そして、床のスライムは肉片を取り込むと、傍らを駆け抜けようとした鼠型雑魔も捕食したのを見て、エリオが眉根を寄せた。
「僕を……覚えていない?」
似たようなスライムと戦った時、声を掛けたら動きが止まった様に見えたと聞いたが、残念ながらこのスライムにはエリオの声は届かないようだ。そもそも光りが苦手だという報告だったが、少なくともLEDライトの光には影響を受けているようにも見えない。個体による特製なのか、それとも『日光』がダメなのか。今知ることは出来ない。
スライムがエリオに向かって赤い刃を放った。それはエリオの太腿を抉ったが、その痛みよりも駆け出し、振り下ろした拳の方が痛かった。朗らかな、あの笑顔がエリオの胸を抉る。
劉はソウルトーチで気を引くか逡巡し……止めて、堅守で剣機の刃を受け止めた。周囲に雑魔が多いこと、それらを引き寄せてしまう可能性、そしてスライムがその雑魔を捕食した事からいたずらに引き寄せるのは愚策だと判断したのだ。
トミヲのライトニングボルトが剣機を貫き、轟音が身体を震わせた。その隙に劉はバックステップで後ろへ下がると槍を構え直す。
「追いついたっ!」
オルさんに下水からの道案内は拒否されてしまったものの、皆の足跡や戦闘の痕跡、響く剣戟などを頼りに何とか5人と合流した金目は、真っ先に小夜に向かって攻性強化を放つ。
小夜が氷の矢を剣機へとぶつける。ピシピシッと凍り付く音と共に剣機の動きが鈍くなる。
ソナが奇蹟に縋る思いでキュアをスライムへとかける。……が、スライムに変化は無い。それを証明するかのように、スライムは周囲へと赤い刃を降らした。
それを受け止めたエリオはこみ上げてくる全ての感情を噛み殺し、練り上げた気を拳に乗せてスライムの中心を殴り貫いた。
スライムが塵へと変わった途端、剣機のモノアイが赤く光った。
「みんな! 伏せて!!」
咄嗟にトミヲがヘドロから美少女の像を作りあげるのとほぼ同時に、銃口から衝撃波が放たれ、それは像を破壊し、周囲を薙いだ。
「……逃げられたか」
通路の奥、劉が辿り着いた先にあったのは、腐食し壊れた鉄柵。そして星空を映して煌めくイルリ河の水面だった。
●
『黒幕はエンスリン病院にあり、目的はスライムの蒐集である』
トミヲが中心となって纏めた報告書は、APV内に衝撃を走らせた。
翌日ソナが他の失踪者の家族にも確認をしたところ、状況の酷似している者の殆どがエンスリン病院に通院していた事が分かったのもトミヲの推論を後押しした。
「ともかく、まずはダイエット薬の内服の中止を呼びかけて下さい」
そして一刻も早い病院の調査を、という要求にAPVの職員も神妙な顔で頷いたのだった。
●微睡む闇の揺籠にて
……流石、ハンター。嗅覚だけは野良犬並よ。
……まぁ、そろそろ潮時ではあった。
……折角、いい隠れ蓑だったのだがな、惜しいことだ。
……あの『役立たず』が存外役に立ったのだ、僥倖だろう。
……しかし、ヒトの欲とは実に美味い。お陰でかなり捗った。
……『血』の提供もおおよそ終わったのだろう?
……ならば問題無い。後は『自由』にしてやれば良い。
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ダイエット? 知りませんね 水流崎トミヲ(ka4852) 人間(リアルブルー)|27才|男性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2016/03/28 07:17:46 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/03/25 17:09:16 |