ゲスト
(ka0000)
【深棲】Yog=Sothoth
マスター:のどか

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/08/25 19:00
- 完成日
- 2014/09/05 01:58
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
○オープニング
ラッツィオ島での大掛かりな作戦が一定の成功を収め、意気が上がるリゼリオ。
帰還したハンター達により、ハンターズオフィスではその戦果や武勇伝の話で持ちきりであり、次いで発令された新たな大掛かりな作戦に向け、現場で力を尽くすハンター達も作戦を成功に導くため、関連依頼を斡旋するオフィス職員達も大いに燃えていた。
「海とか良いなぁ。こっちにきて初めての夏だし、リゼリオとか同盟の海があんな状態じゃなかったらルミちゃん喜んで泳ぎに行ったんだけどなぁ」
そんな土産話を聞きながら、新米受付嬢はぽつりと小さな本音を漏らしていた。
ハンター達が語る武勇伝は彼女も興味があるもので、面白おかしく、時に辛辣鮮明に語られるそれらの話は聞いてて飽きることが無い。
しかし、話のところどころに出てくる『海』や『砂浜』と言ったようなワードに平和な夏のビーチの情景が思い浮かべられ、この夏歪虚のせいで多忙&危険とされる海岸にはなかなか近づけない彼女達(あからさまに不満を見せるのは彼女くらいのものだが)は若干鬱憤が溜まっているものだった。
「この戦いが終わったら思いっきり夏を楽しみに行きたいなぁ。暦の上ではわかんないけど、気候的に遅いって事は無いでしょ~」
そんな行けるかどうかも分からない言葉で自分を納得させながら、彼女は椅子の背もたれにぐったりと背を預けると視点も定まらずただ天井を見上げると、一つ大きなため息を吐いた。
「海と言えば、この間出発した輸送船団に乗った皆は元気してるかな? 毎度のごとくお土産話もお願いしたし、無事に物資を届けられてたら良いんだけど」
数日前に彼女が送り出した依頼――ラッツィオ島海岸拠点への補給物資輸送。
同盟海軍から要請を受けたその依頼は、先の作戦でラッツィオ島の海岸に築かれた拠点へと食料などの物資を輸送する船舶の護衛を行うものだった。何事もなければ数日の船旅を楽しむだけの楽な依頼ではあったが、情勢が情勢。同盟海軍も万が一の事を想定してのハンター達への協力を依頼したのだ。
心配……と言うと正直なところ語弊があるのだが、それでも自分の担当した依頼の安否と言うのは気になるものだ。それはここで待つ人たちの共通の思いであることは間違い無い。
――その頃。
同盟海軍の輸送船では常時らしからぬ喧騒が広がっていた。
「左舷、来ます!」
「面舵いっぱい! 回避せよ!!」
唾が飛ぶ事もはばからず指示を放つ船長。その令を受け、船舶が大きく旋回する。
「ダメです、間に合いません……!」
「くっ……総員、衝撃に備えろ!」
言い放つと同時に輸送船が大きく左右に揺れる。必死に周辺にしがみ付く船員達であるが、その衝撃は船への確かなダメージを物語っていた。
「損傷確認!」
「はっ! 敵影、海中より本艦へ突進! 船底に穴を開け、船体を貫通したものと思われます! 下層浸水中!」
「損傷箇所の補修を急げ! 砲撃の準備はどうなっている!?」
「何時でも撃てます!」
主砲を眼前に砲手が叫ぶ。
「よし! 目標、正面のデカブツ……てぇぇぇぇぇ!!」
叫びと同時に船体ゆらす爆音。1番、2番、3番と船に備え付けられた主砲が順次火を噴く。
狙うは正面、空に浮かぶ巨大な『1匹の』歪虚。
大小さまざまな大きさの泡のような球体の集まり。その泡は一つ一つが個別の存在に見えるが、一つの生物であるかのように集まり、蠢いていた。
砲弾は緩やかな弧を描き巨大な身体へと吸い込まれるように迫ってゆく。クリムゾンウェスト随一を誇る同盟海軍。その腕に狂いは無い。だが、敵もまた自然の理の外にある異形の存在だ。海戦の理が正しく通じるとは限らない。そのひときわ大きな球体が一瞬輝いたかと思うと、無数の光の針らしき光線が放たれる。その針は迫る砲弾を貫き、砲弾は着弾前に次々と爆発炎に消えた。海域に響き渡る轟音。
「くっ……ただでさえラッツィオ島のデカブツを相手にしなければならない時に、こんなヤツまで」
異形の怪物を前に奥歯をかみ締める船長。しかし、ここで沈むわけにはいかない。この船はラッツィオ島の前線拠点に物資を届けなければならないのだ。その胸に刻んだ、同盟海軍の誇りにかけて。
「右舷上空、敵影多数! 小型歪虚と思われます!」
「まだ増えるのか……!?」
舌打ち気味に報告を受けた空を見ると空を飛ぶ奇妙なノコギリザメのような奇妙な姿の群れ。それらは何かに呼び寄せられるようにどこからともなくこの海域を狙って飛んでくる。
「射撃部隊、配置に付け! 撃ち落とせッ!」
空に響く銃声。放たれた銃弾は右舷より迫る歪虚の群れを貫き、その身体が力なく海へと落ちてゆく。
「続けて目標、左舷敵群! 放てぇぇぇぇ!」
そのまま反対方向の敵へと向け放たれた銃弾。不意を付く形となったであろう、立て続けの銃撃。しかし、空飛ぶサメは示し合わせたかのように一斉に空中散会すると、その銃弾を見事避けてみせる。まるで、その攻撃を、知っていたかのように。
「ばかな……ヤツらに状況を認識する知恵でもあるというのか!? ただ破壊を繰り返すだけのヤツ等が……!?」
その後、射撃や砲撃を試みるも結果は同じ。有効な一撃を与えられず、代わりにマストが、船体が、その鋭い刃のような頭部で傷つけられてゆく。
「補給船を一時撤退! 本艦はその間、可能な限り敵を引き付ける!」
船長は悔し紛れに船体を叩くと、震える唇で静かに言い放った。
「この場に留まり、補給船の安全確保を最優先にするものとする! 補給船だけは、積荷だけはこの命に代えても守らねばならん……その間にヤツの始末を頼みたい。出来るか、ハンター諸君」
船長がその視線を向けたのは甲板で状況を確認していたハンター達。経由したリゼリオから乗船した、この船の用心棒達であった。
「我々の戦いは補給船を守ることだ。よって、進路の確保は君達に委ねざるを得ない。必要であれば小型艇は用意できる。どうか……頼んだ」
悲痛の思いでそう口にする船長に、ハンター達は静かに頷いた。
ラッツィオ島での大掛かりな作戦が一定の成功を収め、意気が上がるリゼリオ。
帰還したハンター達により、ハンターズオフィスではその戦果や武勇伝の話で持ちきりであり、次いで発令された新たな大掛かりな作戦に向け、現場で力を尽くすハンター達も作戦を成功に導くため、関連依頼を斡旋するオフィス職員達も大いに燃えていた。
「海とか良いなぁ。こっちにきて初めての夏だし、リゼリオとか同盟の海があんな状態じゃなかったらルミちゃん喜んで泳ぎに行ったんだけどなぁ」
そんな土産話を聞きながら、新米受付嬢はぽつりと小さな本音を漏らしていた。
ハンター達が語る武勇伝は彼女も興味があるもので、面白おかしく、時に辛辣鮮明に語られるそれらの話は聞いてて飽きることが無い。
しかし、話のところどころに出てくる『海』や『砂浜』と言ったようなワードに平和な夏のビーチの情景が思い浮かべられ、この夏歪虚のせいで多忙&危険とされる海岸にはなかなか近づけない彼女達(あからさまに不満を見せるのは彼女くらいのものだが)は若干鬱憤が溜まっているものだった。
「この戦いが終わったら思いっきり夏を楽しみに行きたいなぁ。暦の上ではわかんないけど、気候的に遅いって事は無いでしょ~」
そんな行けるかどうかも分からない言葉で自分を納得させながら、彼女は椅子の背もたれにぐったりと背を預けると視点も定まらずただ天井を見上げると、一つ大きなため息を吐いた。
「海と言えば、この間出発した輸送船団に乗った皆は元気してるかな? 毎度のごとくお土産話もお願いしたし、無事に物資を届けられてたら良いんだけど」
数日前に彼女が送り出した依頼――ラッツィオ島海岸拠点への補給物資輸送。
同盟海軍から要請を受けたその依頼は、先の作戦でラッツィオ島の海岸に築かれた拠点へと食料などの物資を輸送する船舶の護衛を行うものだった。何事もなければ数日の船旅を楽しむだけの楽な依頼ではあったが、情勢が情勢。同盟海軍も万が一の事を想定してのハンター達への協力を依頼したのだ。
心配……と言うと正直なところ語弊があるのだが、それでも自分の担当した依頼の安否と言うのは気になるものだ。それはここで待つ人たちの共通の思いであることは間違い無い。
――その頃。
同盟海軍の輸送船では常時らしからぬ喧騒が広がっていた。
「左舷、来ます!」
「面舵いっぱい! 回避せよ!!」
唾が飛ぶ事もはばからず指示を放つ船長。その令を受け、船舶が大きく旋回する。
「ダメです、間に合いません……!」
「くっ……総員、衝撃に備えろ!」
言い放つと同時に輸送船が大きく左右に揺れる。必死に周辺にしがみ付く船員達であるが、その衝撃は船への確かなダメージを物語っていた。
「損傷確認!」
「はっ! 敵影、海中より本艦へ突進! 船底に穴を開け、船体を貫通したものと思われます! 下層浸水中!」
「損傷箇所の補修を急げ! 砲撃の準備はどうなっている!?」
「何時でも撃てます!」
主砲を眼前に砲手が叫ぶ。
「よし! 目標、正面のデカブツ……てぇぇぇぇぇ!!」
叫びと同時に船体ゆらす爆音。1番、2番、3番と船に備え付けられた主砲が順次火を噴く。
狙うは正面、空に浮かぶ巨大な『1匹の』歪虚。
大小さまざまな大きさの泡のような球体の集まり。その泡は一つ一つが個別の存在に見えるが、一つの生物であるかのように集まり、蠢いていた。
砲弾は緩やかな弧を描き巨大な身体へと吸い込まれるように迫ってゆく。クリムゾンウェスト随一を誇る同盟海軍。その腕に狂いは無い。だが、敵もまた自然の理の外にある異形の存在だ。海戦の理が正しく通じるとは限らない。そのひときわ大きな球体が一瞬輝いたかと思うと、無数の光の針らしき光線が放たれる。その針は迫る砲弾を貫き、砲弾は着弾前に次々と爆発炎に消えた。海域に響き渡る轟音。
「くっ……ただでさえラッツィオ島のデカブツを相手にしなければならない時に、こんなヤツまで」
異形の怪物を前に奥歯をかみ締める船長。しかし、ここで沈むわけにはいかない。この船はラッツィオ島の前線拠点に物資を届けなければならないのだ。その胸に刻んだ、同盟海軍の誇りにかけて。
「右舷上空、敵影多数! 小型歪虚と思われます!」
「まだ増えるのか……!?」
舌打ち気味に報告を受けた空を見ると空を飛ぶ奇妙なノコギリザメのような奇妙な姿の群れ。それらは何かに呼び寄せられるようにどこからともなくこの海域を狙って飛んでくる。
「射撃部隊、配置に付け! 撃ち落とせッ!」
空に響く銃声。放たれた銃弾は右舷より迫る歪虚の群れを貫き、その身体が力なく海へと落ちてゆく。
「続けて目標、左舷敵群! 放てぇぇぇぇ!」
そのまま反対方向の敵へと向け放たれた銃弾。不意を付く形となったであろう、立て続けの銃撃。しかし、空飛ぶサメは示し合わせたかのように一斉に空中散会すると、その銃弾を見事避けてみせる。まるで、その攻撃を、知っていたかのように。
「ばかな……ヤツらに状況を認識する知恵でもあるというのか!? ただ破壊を繰り返すだけのヤツ等が……!?」
その後、射撃や砲撃を試みるも結果は同じ。有効な一撃を与えられず、代わりにマストが、船体が、その鋭い刃のような頭部で傷つけられてゆく。
「補給船を一時撤退! 本艦はその間、可能な限り敵を引き付ける!」
船長は悔し紛れに船体を叩くと、震える唇で静かに言い放った。
「この場に留まり、補給船の安全確保を最優先にするものとする! 補給船だけは、積荷だけはこの命に代えても守らねばならん……その間にヤツの始末を頼みたい。出来るか、ハンター諸君」
船長がその視線を向けたのは甲板で状況を確認していたハンター達。経由したリゼリオから乗船した、この船の用心棒達であった。
「我々の戦いは補給船を守ることだ。よって、進路の確保は君達に委ねざるを得ない。必要であれば小型艇は用意できる。どうか……頼んだ」
悲痛の思いでそう口にする船長に、ハンター達は静かに頷いた。
リプレイ本文
●時、既に緊急にして
ハンター達が行動に出た時、既に戦場には暗雲が立ち込めていた。
飛来し、潜航する歪虚『コモン』。そして艦隊の眼前に立ち塞がる球体群『マザー』。時を置くにつれ増え続けるコモン達。それは何者かに呼び寄せられるようにこの海域に群がり、眼前の敵へと文字通り『突き刺さる』。その鋭利な頭部を唯一無二の武器として。それをマザーは高みの見物とばかりに見下ろすのだ。自身は手を下さずに。
もっとも、本当にそういう生物なのかは分からない。歪虚の事は見たままありのままに感じ、思考する他ないのだから。
「さぁて、あ奴を早いところなんとかせねば、ジリ貧じゃのぅ?」
同盟軍の用意したカッターボートに乗り込みながらフラメディア・イリジア(ka2604)は『マザー』を遠巻きに見上げた。
漕ぎ手として同盟軍の海兵達もまたカッターボートへと乗り込む。
「命の保証はできない。だが……あのデカブツは必ず倒そう。それは約束する」
キャメリア(ka2992)が兵士達にそう告げる。
「こういう日のために覚悟も修練も積んできた。例え覚醒者でなくともな。だから安心して、俺達に舵を任せてくれ」
そう力強く言った海兵にキャメリアは静かに頷いた。
「いやー、船に揺られて島を往復するだけの楽な依頼だと思ってたんだけど……まー、こうして可愛い女の子ふたりとボートに乗れて得した気分だなー」
そんなふたりの女性の傍らで、緊張感の無い笑みを浮かべるラン・ヴィンダールヴ(ka0109)。
「緊張感の無い男じゃな……シャキッとせんかシャキッと」
「いやー、コレでも大真面目なんだけどなぁ……!」
不意に、一発の銃声が海上に轟く。数瞬の後、ぼちゃりとコモンが一匹ボート周辺の海に沈んでゆくのが見え、ランのライフルの銃口からはゆらりと硝煙が昇っていた。
「さー、さくっと終わらせてクルーズに戻ろうじゃない」
そう、飄々とした態度のランを前に、フラメディアは一息吐きながら髪をかき上げる。
「……まぁ、腕に狂いは無いようじゃな」
そうして周囲の安全が確保された後、カッターボートは標的を目指して漕ぎ出した。
ボートが出立した頃、護衛船には2人のハンターが残った。
長身の堂々とした風格の男・海原 京介(ka0137)と、船上の大砲の様子を伺う女性・アイリス・グラナート(ka2766)である。
「どうだろう、使えそうか?」
発射方法などを確認していたアイリスに海原が声を掛ける。
「構造は単純だし、私でも十分扱えると思う。ただこれ、どのくらい持つかしら?」
「船自体の損傷が大きいので、もってあと1回くらいかと」
アイリスの問いに傍でレクチャーを行っていた海兵が答える。
「十分よ、その一発で最大の戦果を出すだけ。ただ問題は――」
ドォンと大きな音がして船体が大きく揺れた。同時に海兵や将校達の慌しい叫び声や足音が船内に響く。
「それまで、この船を持たせられるかどうかね」
「それを成すのが、我々の任務だ」
アイリスは海原の言葉に頷くと両手のスピアガンに弾を詰め込んだ。
●それは一にして全、全にして一
「めんどくせーのが出てきやがって! 一体どこから沸いてくるんだよ!」
眼前に迫るコモンを切り落としながら、岩井崎 旭(ka0234)は思わず悪態を付く。
彼もまたフラメディア達とは別のボートで海域の根源、マザーへの接近と撃破を狙うひとりだ。訓練された海兵の漕ぎ手達によりスムーズにマザーの近くへとボートは進んで行くが、それにしても相手するコモンの数が多い。右から左から、かと思えば上から下から。文字通り全方向へ気を張っていないと、いつ奇襲を受けるかも分からない状況だ。
「ぐあぁぁぁ!」
不意に搭乗員の中から悲痛のうめき声が漏れる。慌てて状況を確認すると、漕ぎ手の一人が真っ赤に染まった肩を抑え苦しんでいた。
「おい、あんた大丈夫か!」
エアルドフリス(ka1856)が慌てて駆け寄り、傷の具合を確かめる。幸い掠っただけ……だが、それでもガッツリと抉られた傷口は、刃の殺傷力がいかほどであるかを強く印象付けた。
「掠っただけだ……大丈夫、無事にあんた達をヤツの所まで送り届けるぜ。命に変えてもな」
そう、不敵な笑みを浮かべる海兵。そんな彼の背後に迫るコモンをドロテア・フィリアス(ka2999)の大バサミが切り裂いた。
「少し速度を上げた方がいいかもね。大変かもしれないけど……頼むよ!」
そう海兵に告げると再び周囲の警戒に神経を尖らせるドロテア。
「ああ、分かった」
怪我を負った海兵はその言葉に力強く頷くと、手早く傷口を布で押さえ、歯を食いしばりながらオールを漕ぎ出す。
「命に代えても……なんて言わんで欲しいな、その為に我々が居るんだ」
魔法はマザーに接敵するまで撃つ事はできない。それならば、せめて今は壁にだけでも。そう想いバゼラードを握り締めるエアルドフリスの拳には人知れず力が篭っていた。
一方、戦場のヘイトを稼ぐ護衛船の上では激しい攻防が繰り広げられていた。
ボートの周辺以上に四方八方から飛来するコモン達。少しでも犠牲を減らしたいがために、一度は船員は全員船の修理のために船内へ篭ることも考えたが、敵は護衛船に残ったふたりだけでは到底相手にできる数をゆうに超えており、結局は船員達も皆ライフルやサーベルを手に、飛来する魚達の相手に相対していた。
「時間に余裕があるわけでもなし……手を抜いて船が落ちても意味が無いわ。最初から飛ばしていこうかしら」
アイリスの瞳にマテリアルの輝きが宿り、その銃口がゆらりと飛来するコモン群の一つを捉える。そのまま正確無比に撃ち出された銛状の弾丸はコモンの胴体を打ち抜き、かの者を水底へと沈めた。
「さて……どう出るかしら?」
アイリスの放った一撃はマストの陰――マザーに対し、その身を隠すようにして撃たれたものだ。というのも、あまりにマザーが部隊の統率を行っているがごとくコモン達が動くものだから、その真意を確かめる必要であると彼女は判断した。
「さぁ、もう一発行くわよ」
続けざまに放たれる2発目の弾丸。全く同じタイミングで、全く同じ力を乗せた一撃である。その弾丸を前にコモンは咄嗟に翼を羽ばたかせ、飛行速度を上げる。完全に避けることこそ無かったものの、その弾丸は想定を外れ顧問の尾びれを貫いた。
「あらあら……別にマザーが見聞きした事を実行できるってわけじゃないのね。どういうカラクリなのかしら」
マザーから姿を隠し身動きの取りづらい状況に意味を無くしたアイリスは再び船上へその身を躍らせる。
「京介、バックサポートをお願い。どうやら一筋縄では行かないみたい」
「ふむ、砲の一手まで君に深手を負わせるわけにもいかない。この船にもな」
「頼りにしてるわ」
歳相応の威厳と風格を見せ、海原はその長大なチェーンを空中へと振り上げた。
護衛船が兵とを集める間、2隻のボートはなんとかマザーの周囲まで漕ぎつける事に成功。近くで見上げるその生物は気泡が集まったような、およそ生物と言っていいのかも分からないようなものであり、歪虚という存在がいかに人外の存在であるかを窺わせる。
近づくまでの間、ボート自体にもコモンによる損傷を受けたが、まだ作戦を続けるには十分な装いであった。
「まずは小手調べ、とね」
エアルドフリスの杖から風の刃が放たれる。同時に旭もマザーへ向かい矢を放った。対面からはランの持つライフルの銃声、フラメディアとキャメリアの矢も同時に。可能である最大射程からの総攻撃。避ける気配もなくその全てを身に受けたマザーは、ブクブクと泡を吐き出すように身を躍動させる。
「反撃に備えるのじゃ……!」
直後に叫ぶフラメディア。しかしマザーはしばらくしてその躍動をと治めると、再びシンと元の状態に戻った。
「反撃は無い……か」
その様子を見てランは呟く。
「効いてるかどうかすらもわかんねーな、これ」
一般に知る生物とは違う姿をしている事が祟ってか、有効な一撃を与えられているのかも分からない。だが、挨拶代わりにと周囲を遊回していたコモン達の刃が一斉に二隻のボートに狙いを定める。
「どちらにしろ、もう少し近づかないと様子すらも分からんか……!」
すぐに船を出すようにエアルドフリスが合図を送ると、ボートはぐんと加速を付けてマザーの方角へと突っ込んで行く。
「撃ってこないって事は、逆にまだまだ大砲を迎撃できるって事だもんね。何か決定的なチャンスを掴まないと、だねー」
迫り来るマザーを前に、ドロテアは懐に入れたトランシーバーにそっと触れる。その決定的なチャンスを待つ船上の仲間を想いながら。
船は少しずつマザーへと近づく。その途中、機会を見ては攻撃を仕掛けるも、敵にダメージが入っているのかが分からない。しかし、その船がマザーからある一定の距離に達したとき――
「――屈めッ!」
咄嗟に叫ぶキャメリア。同時に船底に身をかがめる乗り手達。その直後、彼らの頭上を青白い光の針がかすめ通って行った。
「一旦下がるのじゃ!」
フラメディアの声に船が反転する。が、初動が一瞬送れたもう一隻のボートの方へも同じように針が打ち込まれる。今度の針はその船の船底を深く貫き、大きな穴をこしらえた。
「浸水ー! 修復急げ!!」
漕ぎ手の海兵達が慌てて板と釘を取り出す。が、その間にも見る見るうちに船の中には水が溢れてゆく。
「次が来る……!」
旭が刺す指の先には同じようにブクブクとあわ立つように青白く光り始めたマザーの姿。
「俺がやる! アンタたちは船を下げてくれ!!」
応急処置セットを奪い取るようにしてエアルドフリスが海兵を促す。慌てて船が後退を始めるも、既にマザーの光の針は打ち出される寸前であった。
「ダメ……間に合わない!」
思わず目を覆うドロテア……が、覚悟したその衝撃は襲ってくる事が無かった。
不意に身体から輝きを失うマザー。そうしてそのまま、先ほどまでと同じような物言わぬ泡の姿へとその身を変えていた。
「撃って来ない……?」
助かった、とほっ一息を吐く旭。しかし何故――
不意に、フラメディアが傍らにあった修復材の板を掴みマザーの方へと放り投げる。空を弧を描いて飛ぶ木の板。しかしその板がとある地点を過ぎた時、マザーによる光の針によってその中心を深く打ち貫かれた。
「なるほどな……」
その様子を目の当たりにしたフラメディアは小さく唸る。
「よーするに、一定のラインを超えたら自動的に攻撃してくる装置……って感じだね」
彼女の心の内を代弁するように、ライフルへ弾を込めながらランが言う。
「さて、そう言うことならこのまま迎撃の範囲外からチクチク削り続けるのも一つの手だけど……」
そう言いながらチラリと護衛船の方へ視線を動かす。既に増援に次ぐ増援で大量のコモンに群がられているその船は、転覆していないのが奇跡にも見えるほど危険な状態でその命を繋がれていた。
「悠長にしている暇は無さそうだ。ドロテア、聞こえておるか?」
フラメディアはトランシーバーを通じてもう一隻のボートへ通信を図る。
通信は正常に繋がったようで、スピーカーからドロテアの返事が返ってきた。
「今から話す事を良く聞いてくれ、そしてその通りに頼む」
そう言って最後の策を彼女へと伝えるのであった。
●紅き世界の海を越えて
ここに来てコモンの勢いの増す中、二隻の船がマザーへ目掛けてその身を走らせる。
作戦は単純にして明快である。ボートが囮となること。
先の様子を見るに、マザーの針は範囲内の複数の対象へ一度に攻撃することができない。そうであるならばどちらかの船が囮となり攻撃を引き付け、それと同時に砲撃を打ち込めば……見事砲弾はマザーへ直撃するハズである。
「大事なのはタイミングだ。俺達が突入するタイミングと砲撃のタイミング、ずれればそれだけで『おじゃん』だ」
エアルドフリスの言葉にトランシーバーを握るドロテアの手が汗ばむ。護衛船に乗るアイリスへ連絡を送るのは彼女……遠距離武器を持っておらず、マザーへのヘイト稼ぎも周囲を飛ぶコモンの数減らしもできない彼女がその役を買って出たのだ。
「大丈夫、落ち着いて行けばきっと成功するって」
同じ船に乗る旭がその肩を叩く。
「うん……そうだよね」
その肩は緊張に震えるも、その言葉からは確かな意志が感じ取れた。
「間もなくポイントじゃ……」
迫り来るコモンを弓で打ち落としながらフラメディアは呟いた。囮となる以上、その役目を果たすまで落ちるわけには行かない。なお勢いを増すコモン達の猛攻を退けながら、二隻のボートはマザーの懐を目指す。
「あと20……」
肩に続き、汗ばむ手も震える。
「あと10……」
大きく、深呼吸をする。ぼうっと、マザーの身体が青白く発光を始める。
「あと5――」
――今だよッ!
トランシーバーへ向かい叫ぶドロテア。
その報は護衛船上のアイリスへと確かに伝わっていた。合図を受け、アイリスがその砲に火を入れようとした瞬間、目の前を一匹のコモンが遮る。
「そんな……コレじゃ撃てない!」
一瞬躊躇するアイリス。このままでは目の前のコモンに直撃するだけ……が、その背後から長大な鎖が飛び、コモンを射線外へと引きずり出した。
「撃て、アイリスッ!!」
船上へと引き上げたコモンにトドメを刺しながら叫ぶ海原の声を受け、砲の轟音が戦場に轟いた。放たれる護衛船の主砲。それは的確にマザーの中枢を捉え飛来する。同時に放たれる青白い光の針。その針はフラメディア達の乗るボートの方へと飛んでゆく。
コモンの追撃も避け接近するために乗ったスピードは緩めることが出来ず、吸い込まれるようにその針の先へと迫る。間違いなく、直撃コース。
「命の保障はできないと言った……でも、護らないとは一言も言っていない!」
キャメリアが船首へ立ちはだかり、バックラーをその身に抱え持つ。そのまま巨大な針をバックラーの中心で受け止め、その身に受ける。
「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
持ちこたえようと足を踏みしめる……が、その衝撃にボートの後方へと吹き飛ばされてしまった。それでもボートは、それに乗る人々は護られた。
同時に鳴り響く爆音。そして炎。
大砲の一撃に包まれたマザーは沸騰するかのようにその泡を次第に細かく、激しく震わせ、消滅した。
その後、新たなコモンが飛来することも無く、統率を失ったコモン達を討ち切る事はたやすい事である。
護衛船も多少時間を掛けた補修の後、なんとか任務に戻ることができた。
補給船の物資は無事に島へと届けられたのであった。
ハンター達が行動に出た時、既に戦場には暗雲が立ち込めていた。
飛来し、潜航する歪虚『コモン』。そして艦隊の眼前に立ち塞がる球体群『マザー』。時を置くにつれ増え続けるコモン達。それは何者かに呼び寄せられるようにこの海域に群がり、眼前の敵へと文字通り『突き刺さる』。その鋭利な頭部を唯一無二の武器として。それをマザーは高みの見物とばかりに見下ろすのだ。自身は手を下さずに。
もっとも、本当にそういう生物なのかは分からない。歪虚の事は見たままありのままに感じ、思考する他ないのだから。
「さぁて、あ奴を早いところなんとかせねば、ジリ貧じゃのぅ?」
同盟軍の用意したカッターボートに乗り込みながらフラメディア・イリジア(ka2604)は『マザー』を遠巻きに見上げた。
漕ぎ手として同盟軍の海兵達もまたカッターボートへと乗り込む。
「命の保証はできない。だが……あのデカブツは必ず倒そう。それは約束する」
キャメリア(ka2992)が兵士達にそう告げる。
「こういう日のために覚悟も修練も積んできた。例え覚醒者でなくともな。だから安心して、俺達に舵を任せてくれ」
そう力強く言った海兵にキャメリアは静かに頷いた。
「いやー、船に揺られて島を往復するだけの楽な依頼だと思ってたんだけど……まー、こうして可愛い女の子ふたりとボートに乗れて得した気分だなー」
そんなふたりの女性の傍らで、緊張感の無い笑みを浮かべるラン・ヴィンダールヴ(ka0109)。
「緊張感の無い男じゃな……シャキッとせんかシャキッと」
「いやー、コレでも大真面目なんだけどなぁ……!」
不意に、一発の銃声が海上に轟く。数瞬の後、ぼちゃりとコモンが一匹ボート周辺の海に沈んでゆくのが見え、ランのライフルの銃口からはゆらりと硝煙が昇っていた。
「さー、さくっと終わらせてクルーズに戻ろうじゃない」
そう、飄々とした態度のランを前に、フラメディアは一息吐きながら髪をかき上げる。
「……まぁ、腕に狂いは無いようじゃな」
そうして周囲の安全が確保された後、カッターボートは標的を目指して漕ぎ出した。
ボートが出立した頃、護衛船には2人のハンターが残った。
長身の堂々とした風格の男・海原 京介(ka0137)と、船上の大砲の様子を伺う女性・アイリス・グラナート(ka2766)である。
「どうだろう、使えそうか?」
発射方法などを確認していたアイリスに海原が声を掛ける。
「構造は単純だし、私でも十分扱えると思う。ただこれ、どのくらい持つかしら?」
「船自体の損傷が大きいので、もってあと1回くらいかと」
アイリスの問いに傍でレクチャーを行っていた海兵が答える。
「十分よ、その一発で最大の戦果を出すだけ。ただ問題は――」
ドォンと大きな音がして船体が大きく揺れた。同時に海兵や将校達の慌しい叫び声や足音が船内に響く。
「それまで、この船を持たせられるかどうかね」
「それを成すのが、我々の任務だ」
アイリスは海原の言葉に頷くと両手のスピアガンに弾を詰め込んだ。
●それは一にして全、全にして一
「めんどくせーのが出てきやがって! 一体どこから沸いてくるんだよ!」
眼前に迫るコモンを切り落としながら、岩井崎 旭(ka0234)は思わず悪態を付く。
彼もまたフラメディア達とは別のボートで海域の根源、マザーへの接近と撃破を狙うひとりだ。訓練された海兵の漕ぎ手達によりスムーズにマザーの近くへとボートは進んで行くが、それにしても相手するコモンの数が多い。右から左から、かと思えば上から下から。文字通り全方向へ気を張っていないと、いつ奇襲を受けるかも分からない状況だ。
「ぐあぁぁぁ!」
不意に搭乗員の中から悲痛のうめき声が漏れる。慌てて状況を確認すると、漕ぎ手の一人が真っ赤に染まった肩を抑え苦しんでいた。
「おい、あんた大丈夫か!」
エアルドフリス(ka1856)が慌てて駆け寄り、傷の具合を確かめる。幸い掠っただけ……だが、それでもガッツリと抉られた傷口は、刃の殺傷力がいかほどであるかを強く印象付けた。
「掠っただけだ……大丈夫、無事にあんた達をヤツの所まで送り届けるぜ。命に変えてもな」
そう、不敵な笑みを浮かべる海兵。そんな彼の背後に迫るコモンをドロテア・フィリアス(ka2999)の大バサミが切り裂いた。
「少し速度を上げた方がいいかもね。大変かもしれないけど……頼むよ!」
そう海兵に告げると再び周囲の警戒に神経を尖らせるドロテア。
「ああ、分かった」
怪我を負った海兵はその言葉に力強く頷くと、手早く傷口を布で押さえ、歯を食いしばりながらオールを漕ぎ出す。
「命に代えても……なんて言わんで欲しいな、その為に我々が居るんだ」
魔法はマザーに接敵するまで撃つ事はできない。それならば、せめて今は壁にだけでも。そう想いバゼラードを握り締めるエアルドフリスの拳には人知れず力が篭っていた。
一方、戦場のヘイトを稼ぐ護衛船の上では激しい攻防が繰り広げられていた。
ボートの周辺以上に四方八方から飛来するコモン達。少しでも犠牲を減らしたいがために、一度は船員は全員船の修理のために船内へ篭ることも考えたが、敵は護衛船に残ったふたりだけでは到底相手にできる数をゆうに超えており、結局は船員達も皆ライフルやサーベルを手に、飛来する魚達の相手に相対していた。
「時間に余裕があるわけでもなし……手を抜いて船が落ちても意味が無いわ。最初から飛ばしていこうかしら」
アイリスの瞳にマテリアルの輝きが宿り、その銃口がゆらりと飛来するコモン群の一つを捉える。そのまま正確無比に撃ち出された銛状の弾丸はコモンの胴体を打ち抜き、かの者を水底へと沈めた。
「さて……どう出るかしら?」
アイリスの放った一撃はマストの陰――マザーに対し、その身を隠すようにして撃たれたものだ。というのも、あまりにマザーが部隊の統率を行っているがごとくコモン達が動くものだから、その真意を確かめる必要であると彼女は判断した。
「さぁ、もう一発行くわよ」
続けざまに放たれる2発目の弾丸。全く同じタイミングで、全く同じ力を乗せた一撃である。その弾丸を前にコモンは咄嗟に翼を羽ばたかせ、飛行速度を上げる。完全に避けることこそ無かったものの、その弾丸は想定を外れ顧問の尾びれを貫いた。
「あらあら……別にマザーが見聞きした事を実行できるってわけじゃないのね。どういうカラクリなのかしら」
マザーから姿を隠し身動きの取りづらい状況に意味を無くしたアイリスは再び船上へその身を躍らせる。
「京介、バックサポートをお願い。どうやら一筋縄では行かないみたい」
「ふむ、砲の一手まで君に深手を負わせるわけにもいかない。この船にもな」
「頼りにしてるわ」
歳相応の威厳と風格を見せ、海原はその長大なチェーンを空中へと振り上げた。
護衛船が兵とを集める間、2隻のボートはなんとかマザーの周囲まで漕ぎつける事に成功。近くで見上げるその生物は気泡が集まったような、およそ生物と言っていいのかも分からないようなものであり、歪虚という存在がいかに人外の存在であるかを窺わせる。
近づくまでの間、ボート自体にもコモンによる損傷を受けたが、まだ作戦を続けるには十分な装いであった。
「まずは小手調べ、とね」
エアルドフリスの杖から風の刃が放たれる。同時に旭もマザーへ向かい矢を放った。対面からはランの持つライフルの銃声、フラメディアとキャメリアの矢も同時に。可能である最大射程からの総攻撃。避ける気配もなくその全てを身に受けたマザーは、ブクブクと泡を吐き出すように身を躍動させる。
「反撃に備えるのじゃ……!」
直後に叫ぶフラメディア。しかしマザーはしばらくしてその躍動をと治めると、再びシンと元の状態に戻った。
「反撃は無い……か」
その様子を見てランは呟く。
「効いてるかどうかすらもわかんねーな、これ」
一般に知る生物とは違う姿をしている事が祟ってか、有効な一撃を与えられているのかも分からない。だが、挨拶代わりにと周囲を遊回していたコモン達の刃が一斉に二隻のボートに狙いを定める。
「どちらにしろ、もう少し近づかないと様子すらも分からんか……!」
すぐに船を出すようにエアルドフリスが合図を送ると、ボートはぐんと加速を付けてマザーの方角へと突っ込んで行く。
「撃ってこないって事は、逆にまだまだ大砲を迎撃できるって事だもんね。何か決定的なチャンスを掴まないと、だねー」
迫り来るマザーを前に、ドロテアは懐に入れたトランシーバーにそっと触れる。その決定的なチャンスを待つ船上の仲間を想いながら。
船は少しずつマザーへと近づく。その途中、機会を見ては攻撃を仕掛けるも、敵にダメージが入っているのかが分からない。しかし、その船がマザーからある一定の距離に達したとき――
「――屈めッ!」
咄嗟に叫ぶキャメリア。同時に船底に身をかがめる乗り手達。その直後、彼らの頭上を青白い光の針がかすめ通って行った。
「一旦下がるのじゃ!」
フラメディアの声に船が反転する。が、初動が一瞬送れたもう一隻のボートの方へも同じように針が打ち込まれる。今度の針はその船の船底を深く貫き、大きな穴をこしらえた。
「浸水ー! 修復急げ!!」
漕ぎ手の海兵達が慌てて板と釘を取り出す。が、その間にも見る見るうちに船の中には水が溢れてゆく。
「次が来る……!」
旭が刺す指の先には同じようにブクブクとあわ立つように青白く光り始めたマザーの姿。
「俺がやる! アンタたちは船を下げてくれ!!」
応急処置セットを奪い取るようにしてエアルドフリスが海兵を促す。慌てて船が後退を始めるも、既にマザーの光の針は打ち出される寸前であった。
「ダメ……間に合わない!」
思わず目を覆うドロテア……が、覚悟したその衝撃は襲ってくる事が無かった。
不意に身体から輝きを失うマザー。そうしてそのまま、先ほどまでと同じような物言わぬ泡の姿へとその身を変えていた。
「撃って来ない……?」
助かった、とほっ一息を吐く旭。しかし何故――
不意に、フラメディアが傍らにあった修復材の板を掴みマザーの方へと放り投げる。空を弧を描いて飛ぶ木の板。しかしその板がとある地点を過ぎた時、マザーによる光の針によってその中心を深く打ち貫かれた。
「なるほどな……」
その様子を目の当たりにしたフラメディアは小さく唸る。
「よーするに、一定のラインを超えたら自動的に攻撃してくる装置……って感じだね」
彼女の心の内を代弁するように、ライフルへ弾を込めながらランが言う。
「さて、そう言うことならこのまま迎撃の範囲外からチクチク削り続けるのも一つの手だけど……」
そう言いながらチラリと護衛船の方へ視線を動かす。既に増援に次ぐ増援で大量のコモンに群がられているその船は、転覆していないのが奇跡にも見えるほど危険な状態でその命を繋がれていた。
「悠長にしている暇は無さそうだ。ドロテア、聞こえておるか?」
フラメディアはトランシーバーを通じてもう一隻のボートへ通信を図る。
通信は正常に繋がったようで、スピーカーからドロテアの返事が返ってきた。
「今から話す事を良く聞いてくれ、そしてその通りに頼む」
そう言って最後の策を彼女へと伝えるのであった。
●紅き世界の海を越えて
ここに来てコモンの勢いの増す中、二隻の船がマザーへ目掛けてその身を走らせる。
作戦は単純にして明快である。ボートが囮となること。
先の様子を見るに、マザーの針は範囲内の複数の対象へ一度に攻撃することができない。そうであるならばどちらかの船が囮となり攻撃を引き付け、それと同時に砲撃を打ち込めば……見事砲弾はマザーへ直撃するハズである。
「大事なのはタイミングだ。俺達が突入するタイミングと砲撃のタイミング、ずれればそれだけで『おじゃん』だ」
エアルドフリスの言葉にトランシーバーを握るドロテアの手が汗ばむ。護衛船に乗るアイリスへ連絡を送るのは彼女……遠距離武器を持っておらず、マザーへのヘイト稼ぎも周囲を飛ぶコモンの数減らしもできない彼女がその役を買って出たのだ。
「大丈夫、落ち着いて行けばきっと成功するって」
同じ船に乗る旭がその肩を叩く。
「うん……そうだよね」
その肩は緊張に震えるも、その言葉からは確かな意志が感じ取れた。
「間もなくポイントじゃ……」
迫り来るコモンを弓で打ち落としながらフラメディアは呟いた。囮となる以上、その役目を果たすまで落ちるわけには行かない。なお勢いを増すコモン達の猛攻を退けながら、二隻のボートはマザーの懐を目指す。
「あと20……」
肩に続き、汗ばむ手も震える。
「あと10……」
大きく、深呼吸をする。ぼうっと、マザーの身体が青白く発光を始める。
「あと5――」
――今だよッ!
トランシーバーへ向かい叫ぶドロテア。
その報は護衛船上のアイリスへと確かに伝わっていた。合図を受け、アイリスがその砲に火を入れようとした瞬間、目の前を一匹のコモンが遮る。
「そんな……コレじゃ撃てない!」
一瞬躊躇するアイリス。このままでは目の前のコモンに直撃するだけ……が、その背後から長大な鎖が飛び、コモンを射線外へと引きずり出した。
「撃て、アイリスッ!!」
船上へと引き上げたコモンにトドメを刺しながら叫ぶ海原の声を受け、砲の轟音が戦場に轟いた。放たれる護衛船の主砲。それは的確にマザーの中枢を捉え飛来する。同時に放たれる青白い光の針。その針はフラメディア達の乗るボートの方へと飛んでゆく。
コモンの追撃も避け接近するために乗ったスピードは緩めることが出来ず、吸い込まれるようにその針の先へと迫る。間違いなく、直撃コース。
「命の保障はできないと言った……でも、護らないとは一言も言っていない!」
キャメリアが船首へ立ちはだかり、バックラーをその身に抱え持つ。そのまま巨大な針をバックラーの中心で受け止め、その身に受ける。
「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
持ちこたえようと足を踏みしめる……が、その衝撃にボートの後方へと吹き飛ばされてしまった。それでもボートは、それに乗る人々は護られた。
同時に鳴り響く爆音。そして炎。
大砲の一撃に包まれたマザーは沸騰するかのようにその泡を次第に細かく、激しく震わせ、消滅した。
その後、新たなコモンが飛来することも無く、統率を失ったコモン達を討ち切る事はたやすい事である。
護衛船も多少時間を掛けた補修の後、なんとか任務に戻ることができた。
補給船の物資は無事に島へと届けられたのであった。
依頼結果
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質問卓 エアルドフリス(ka1856) 人間(クリムゾンウェスト)|30才|男性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2014/08/24 02:19:01 |
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相談卓 エアルドフリス(ka1856) 人間(クリムゾンウェスト)|30才|男性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2014/08/24 20:36:52 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/08/20 12:38:04 |