ゲスト
(ka0000)
【審判】バックハンドブロウ
マスター:赤山優牙

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/03/31 07:30
- 完成日
- 2016/04/09 20:29
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●臨時指揮官
王国騎士団副団長ゲオルギウス・グラニフ・グランフェルトが率いる青の隊本隊は王都から離れていた。
これは、作戦上の事ではない。騎士団の編成上の事であり、王都と周辺の防衛には、騎士団長エリオット・ヴァレンタイン(kz0025)が率いる白の隊が行うのが通例であった。
「私に、臨時指揮権ですか?」
通信機器に向かって疑問の声をあげたのは、ソルラ・クート(kz0096)だ。
『既に青の隊本隊は巡礼路ルート上で作戦行動中だ。今から王都防衛は間に合わん。騎士団本部に待機中である青の隊を率いて、敵本隊との合流を目指す支隊を迎撃せよ』
忙しいのか、通信相手のゲオルギウスは若干早口だった。
騎士団本部に残してある青の隊隊員は、ソルラと同様、王都を離れて単独行動をしていた者、一時的な休暇を得て戻っていた者など様々だ。
全員集めれば、それなりの数にはなる。
「……分かりました。ただ、副官に関しては私から指名してもよろしいでしょうか?」
『誰だ?』
「ノセヤをお願いします」
知る人ぞ知る、『軍師騎士』と名高い騎士の名をソルラは挙げた。
ここ一年、王国各地を転戦し、作戦を立案。勝利を収めてきた人物である。
『構わん。好きに使え』
「必ずや、迎撃任務、成功させてみせます」
忙しいのか、ソルラの言葉が言い終わる前に通信が切れた。
●軍師騎士
「ソルラ先輩じゃないですか、お久しぶりです」
騎士団本部の一室に詰めていたノセヤが、訪れたソルラに声をかけた。
本が高く積み上がっており、換気もろくにしていないのか、凄く埃っぽい。
「え、えぇ……凄い本の数ね」
「ちょっと、ある任務中でして。研究の為に書物が増えるばかりです」
ソルラは本の一冊を手に取った。
刻令術という文字だけは読み取れた。魔術に系統する本なのだろうか。
「テスカ教団の軍勢が迫っているという話しは聞いてるかしら?」
「はい。忌々しき事態かと」
「王都に残っている青の隊を率いて、本隊と合流する支隊の迎撃を命ざれたわ」
その台詞でノセヤは手に持っていた分厚い本を落とした。
「まさか……ソルラ先輩、迎撃任務を受けたのですか?」
「そうよ。そして、ノセヤ君が、私の副官よ!」
驚愕したノセヤはヨロヨロとしながら倒れそうになる。
咄嗟にテーブルの角に手をついて、なんとか身体を支えた。
「ソルラ先輩……支隊の規模、知っていますか?」
頭を抱えた後輩騎士の言葉にソルラは首を傾げた。
「報告によると数百は下らない軍勢ですよ! 対して、王都に待機中の青の隊隊員と一般兵を集めても、百にも達しないのです」
「……え? で、でも、敵が本隊と合流するのはよくないでしょ」
支隊には巡礼路上で口封じの為、惨殺された人々やテスカ教団の教信者等々、様々だ。
それらの群れは巡礼路を通って本隊への合流を目指している。
数だけは無駄に多い。そして、規模の大きい戦いでは数がものを言う。
「これは、少し、策を練る必要がありますね」
大きな溜め息を漏らしてからノセヤは何冊かの本を探し出し、部下になにかを命じた。
そして、それらが終わると、ポカーンとして様子を見ていたソルラに声をかける。
「すぐに出立しましょう。移動しながら作戦を説明します」
●鉄壁の騎士
揺れる馬車の中でノセヤの説明は続いた。
「……という事で、この位置にて支隊を迎撃。敵を壊滅させます」
地図には王都郊外の草原一帯に青色の凸駒を置く。
ソルラは意外に思った。それは野戦だったからだ。同じ野戦なら、地形的に有利な場所を選びそうなものなのに。
「陣を築き、防衛戦となります」
「防衛戦で敵を壊滅? というか、今から築陣なんて間に合うのかしら」
顔をしかめるソルラ。
百にも満たない部隊で倍以上の敵を受け止める程の陣地だ。
「この辺りは、今は休耕地となっていますから、掘りを作ったり、土塁を作ったりする分には問題ありません」
「た、戦う前に激しく体力を失いそうね」
「実は……あれを使います」
指差した先には奇妙な農耕器具があった。
形状からして土を掘り返すのだろうか。
「刻令術の研究で、幾台か『農作業用の刻令術式機械』を預かっていました。試作品も含めて、かなりの台数にはなるので、これらを使います」
ノセヤの台詞にソルラはポンと手を叩いた。
「間に合う……という事?」
「はい。そして、陣地の方ですが……」
広げられた計画書を見て驚いた。
それは、複雑な掘りと土塁、木柵によって一大陣地と化していたからだ。
「ど、どうなっているの?」
「今回の敵勢力の特徴、数と能力。そして、こちら側からの迎撃方法を色々計算した結果です」
自信満々に応えるノセヤは計画書を指でなぞっていく。
「一見複雑な陣地に見えますが、一ヶ所、『わざと脆い箇所』が存在します」
「偽陣というわけね」
「敵から見れば突破しているように見えるでしょうが、実は誘導路になっています。そして……」
その誘導路の出口は三方から完全に囲まれている空間となっていた。
「ここで、強力な打撃により敵を撃破していきます」
「陣地、そして、誘導路で敵の勢いを弱め、流入量を制限すると」
「各個撃破は戦術の基本ですから」
確かにこれならとソルラは唸った。
だが、誘導路の出口で敵を撃破続ける事ができなくなったら、誘導路から溢れ出た敵に陣を背後から突かれる事になる。
「最大の火力であるハンター達は、『敵を倒し続ける』という、もっとも重要な任務にあたってもらいます」
「……兵士達の士気が心配ね」
ソルラが心配するのも無理はない。
待機していた騎士や兵士達の中には実戦も経験した事もない者もいる。陣地でひたすら耐えるというストレスは相当なものだ。おまけにハンター達の作戦が失敗すれば、敵に包囲される。戦場で敵に包囲されるという意味は口にするまでもないだろう。
「こればかりは、ソルラ先輩に任せます」
「…………」
押し黙ったソルラ。
心の中で、カム・ラディ遺跡での出来事を彼女は思い出していた。
(今のお前の表情や態度は隊を率いる者としては失格じゃないのか……)
グッと拳を強く握った。
「私は『鉄壁の騎士』。必ず、士気を保って見せるわ」
その瞳に宿る強さに、ノセヤは頼もしさを感じたのだった。
――――――――――――――――――――
○解説
●目的
テスカ教団本隊との合流を目指す支隊を壊滅させる
●内容
王都郊外にて陣を構えた青の隊と協力し、敵勢力を壊滅させる。
●判定
陣地の耐久力として『陣地ポイント』がゲーム開始時に50点あります
毎ラウンド開始時、誘導路を突破してきた敵の数を2D10します
そのラウンド内に全滅させる事ができなかった場合、誘導がスムーズに進まず、陣地に損害が出たとして陣地ポイントが1D4点減少します
『陣地ポイント』が0点になった時点で陣地は崩壊し、作戦は失敗となります
王国騎士団副団長ゲオルギウス・グラニフ・グランフェルトが率いる青の隊本隊は王都から離れていた。
これは、作戦上の事ではない。騎士団の編成上の事であり、王都と周辺の防衛には、騎士団長エリオット・ヴァレンタイン(kz0025)が率いる白の隊が行うのが通例であった。
「私に、臨時指揮権ですか?」
通信機器に向かって疑問の声をあげたのは、ソルラ・クート(kz0096)だ。
『既に青の隊本隊は巡礼路ルート上で作戦行動中だ。今から王都防衛は間に合わん。騎士団本部に待機中である青の隊を率いて、敵本隊との合流を目指す支隊を迎撃せよ』
忙しいのか、通信相手のゲオルギウスは若干早口だった。
騎士団本部に残してある青の隊隊員は、ソルラと同様、王都を離れて単独行動をしていた者、一時的な休暇を得て戻っていた者など様々だ。
全員集めれば、それなりの数にはなる。
「……分かりました。ただ、副官に関しては私から指名してもよろしいでしょうか?」
『誰だ?』
「ノセヤをお願いします」
知る人ぞ知る、『軍師騎士』と名高い騎士の名をソルラは挙げた。
ここ一年、王国各地を転戦し、作戦を立案。勝利を収めてきた人物である。
『構わん。好きに使え』
「必ずや、迎撃任務、成功させてみせます」
忙しいのか、ソルラの言葉が言い終わる前に通信が切れた。
●軍師騎士
「ソルラ先輩じゃないですか、お久しぶりです」
騎士団本部の一室に詰めていたノセヤが、訪れたソルラに声をかけた。
本が高く積み上がっており、換気もろくにしていないのか、凄く埃っぽい。
「え、えぇ……凄い本の数ね」
「ちょっと、ある任務中でして。研究の為に書物が増えるばかりです」
ソルラは本の一冊を手に取った。
刻令術という文字だけは読み取れた。魔術に系統する本なのだろうか。
「テスカ教団の軍勢が迫っているという話しは聞いてるかしら?」
「はい。忌々しき事態かと」
「王都に残っている青の隊を率いて、本隊と合流する支隊の迎撃を命ざれたわ」
その台詞でノセヤは手に持っていた分厚い本を落とした。
「まさか……ソルラ先輩、迎撃任務を受けたのですか?」
「そうよ。そして、ノセヤ君が、私の副官よ!」
驚愕したノセヤはヨロヨロとしながら倒れそうになる。
咄嗟にテーブルの角に手をついて、なんとか身体を支えた。
「ソルラ先輩……支隊の規模、知っていますか?」
頭を抱えた後輩騎士の言葉にソルラは首を傾げた。
「報告によると数百は下らない軍勢ですよ! 対して、王都に待機中の青の隊隊員と一般兵を集めても、百にも達しないのです」
「……え? で、でも、敵が本隊と合流するのはよくないでしょ」
支隊には巡礼路上で口封じの為、惨殺された人々やテスカ教団の教信者等々、様々だ。
それらの群れは巡礼路を通って本隊への合流を目指している。
数だけは無駄に多い。そして、規模の大きい戦いでは数がものを言う。
「これは、少し、策を練る必要がありますね」
大きな溜め息を漏らしてからノセヤは何冊かの本を探し出し、部下になにかを命じた。
そして、それらが終わると、ポカーンとして様子を見ていたソルラに声をかける。
「すぐに出立しましょう。移動しながら作戦を説明します」
●鉄壁の騎士
揺れる馬車の中でノセヤの説明は続いた。
「……という事で、この位置にて支隊を迎撃。敵を壊滅させます」
地図には王都郊外の草原一帯に青色の凸駒を置く。
ソルラは意外に思った。それは野戦だったからだ。同じ野戦なら、地形的に有利な場所を選びそうなものなのに。
「陣を築き、防衛戦となります」
「防衛戦で敵を壊滅? というか、今から築陣なんて間に合うのかしら」
顔をしかめるソルラ。
百にも満たない部隊で倍以上の敵を受け止める程の陣地だ。
「この辺りは、今は休耕地となっていますから、掘りを作ったり、土塁を作ったりする分には問題ありません」
「た、戦う前に激しく体力を失いそうね」
「実は……あれを使います」
指差した先には奇妙な農耕器具があった。
形状からして土を掘り返すのだろうか。
「刻令術の研究で、幾台か『農作業用の刻令術式機械』を預かっていました。試作品も含めて、かなりの台数にはなるので、これらを使います」
ノセヤの台詞にソルラはポンと手を叩いた。
「間に合う……という事?」
「はい。そして、陣地の方ですが……」
広げられた計画書を見て驚いた。
それは、複雑な掘りと土塁、木柵によって一大陣地と化していたからだ。
「ど、どうなっているの?」
「今回の敵勢力の特徴、数と能力。そして、こちら側からの迎撃方法を色々計算した結果です」
自信満々に応えるノセヤは計画書を指でなぞっていく。
「一見複雑な陣地に見えますが、一ヶ所、『わざと脆い箇所』が存在します」
「偽陣というわけね」
「敵から見れば突破しているように見えるでしょうが、実は誘導路になっています。そして……」
その誘導路の出口は三方から完全に囲まれている空間となっていた。
「ここで、強力な打撃により敵を撃破していきます」
「陣地、そして、誘導路で敵の勢いを弱め、流入量を制限すると」
「各個撃破は戦術の基本ですから」
確かにこれならとソルラは唸った。
だが、誘導路の出口で敵を撃破続ける事ができなくなったら、誘導路から溢れ出た敵に陣を背後から突かれる事になる。
「最大の火力であるハンター達は、『敵を倒し続ける』という、もっとも重要な任務にあたってもらいます」
「……兵士達の士気が心配ね」
ソルラが心配するのも無理はない。
待機していた騎士や兵士達の中には実戦も経験した事もない者もいる。陣地でひたすら耐えるというストレスは相当なものだ。おまけにハンター達の作戦が失敗すれば、敵に包囲される。戦場で敵に包囲されるという意味は口にするまでもないだろう。
「こればかりは、ソルラ先輩に任せます」
「…………」
押し黙ったソルラ。
心の中で、カム・ラディ遺跡での出来事を彼女は思い出していた。
(今のお前の表情や態度は隊を率いる者としては失格じゃないのか……)
グッと拳を強く握った。
「私は『鉄壁の騎士』。必ず、士気を保って見せるわ」
その瞳に宿る強さに、ノセヤは頼もしさを感じたのだった。
――――――――――――――――――――
○解説
●目的
テスカ教団本隊との合流を目指す支隊を壊滅させる
●内容
王都郊外にて陣を構えた青の隊と協力し、敵勢力を壊滅させる。
●判定
陣地の耐久力として『陣地ポイント』がゲーム開始時に50点あります
毎ラウンド開始時、誘導路を突破してきた敵の数を2D10します
そのラウンド内に全滅させる事ができなかった場合、誘導がスムーズに進まず、陣地に損害が出たとして陣地ポイントが1D4点減少します
『陣地ポイント』が0点になった時点で陣地は崩壊し、作戦は失敗となります
リプレイ本文
●襲来―誘導路
巡礼者達の不気味な叫び声と奇怪なまでに響く足音。
「さって、まともじゃなく戦おうか」
黄金の拳銃を構え、龍崎・カズマ(ka0178)が口元を緩める。
目の前には陣地の柵がある。わざと脆く作ってある偽の柵だ。
「いよいよ、テスカ教団との決戦ですか……」
ヴァルナ=エリゴス(ka2651)が一瞬、顔を伏せ、王国西部でのテスカ教団との戦いを思い返す。
「……あの日、彼らを止める機会を逃した身ですが……今度こそ、止めて見せます」
強い決意に反応してか、彼女の周囲を纏っていた燐光が一瞬、明るくみえた。
巡礼者達は眼前の柵に取りついた。
二人の背中をぼんやりと眺めながら南條 真水(ka2377)は肺に溜まった空気をゆっくりと吐き出す。
「はぁ、なんだか、どこも大変そうだなぁ」
真水を含めた3人のハンター達がこれから行う作戦の事ではない。
(帝国周辺の方が、むしろ静かで、なんだかなぁ――)
少し前までは帝国の方が大変な事態になっていたのもあるが……。
その時、柵が巡礼者によってあっさりと壊されてしまう。
「退くぞ!」
カズマが叫びながら銃を放つ。
わざと敵を突破させる偽陣ではあるが、陣を突破したと思わせなければ意味がない。
そこで、『囮』を進言し、彼を掩護する形で、ヴァルナと真水も同行しているのだ。
「引き込んだ敵がバラけ過ぎないようにしたいです」
一気に退くのではなく、時々、振り返っては武器を構えてみせる。
「囲まれると厄介だから。分かってると思うけどね」
ぐるぐる眼鏡を押さえながら後退する真水。
万が一に備え、機導術の用意も忘れてはいない。
「追いつかれちまう!」
カズマが無様な囮を演じているのは二人から見れば、すぐに分かる事であった。
●戦闘開始―殲滅エリア
「頑張るですのー」
偽陣と誘導路を突破してきた巡礼者達が、用意しておいた殲滅エリアに入って来て、チョココ(ka2449)が跳ねながら杖を構えた。
今まさに誘導路を突破してきた敵に向かって身振りと共に胸を揺らし、ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)は符を投げつける。
「ジュゲームリリカル……ルンルン忍法五星花! 更に神も呼んじゃいます、めがね、うくれれ、おいーっす!」
複数枚の符が結界を張り、光で敵を焼いていく。
凄まじい光の中、前進を続ける敵に向かって、ライフルを放つコーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)。
「デスゲームだ、躊躇すれば命取りだと思え。敵を見たら迷わず葬るまでだ!」
光の結界から突出して出てくる敵から順に狙撃。
鮮やかな手並みで次から次へと射撃を行うと、リロードして再び狙いをつける。必要に応じ、マテリアルを操り、猟撃士としての能力も発揮する。
「……出来ることを、出来る限り。後悔を、しないように」
柏木 千春(ka3061)はキュッと短杖を握った。
後衛の仲間達の盾に、成るべく前に立っていた。誘導路を突破して侵入してきた敵の数や位置を確認しながら、仲間達の攻撃から討ち漏れた敵もいないか注意深く観察する。
「……我らの願いを、我らに救いを、彼の者に光を、彼の者に聖なる輝きを!」
千春が放った輝く光の弾が敵の一体に向かって飛翔した。
テスカ教団の巡礼者に直撃すると粉々に消え去っていく。
それは、彼らが既に歪虚化している証拠でもあった。歪虚化して倒されると一般的には死体は残らない。稀に死体は残る場合はあるが……少なくとも、今回の戦場でそのパターンはなさそうである。
死体が残らないという事は、それが障害となって道を塞ぐ事もない。次から次へと敵の集団が誘導路から姿を現した。
「エクラ教が救いにならないなんて、私には思えません」
育ての老夫婦の姿を思い出しながら千春はそんな言葉を呟き、短杖を握る手で翡翠石のペンダントに触れた。
心の在り様だ。テスカ教団はそれを悪用しているだけであり、救いにならないのは彼らの方である。
ハンター達の集中砲火が誘導路から湧き出てくるテスカ教団の勢力に向かって放たれ始めた。
●青の隊―防衛陣地
簡易的とは言え、掘りと柵によって築かれた陣地の内側からテスカ教団の軍勢を眺めていたシガレット=ウナギパイ(ka2884)が声をあげた。
「ヒューッ! こいつは圧巻だねェ」
数える気にもならない。視界はテスカ教団の巡礼者――狂信者や堕落者、雑魔等々――で埋め尽くされていた。
戦闘は開始されたばかりだ。戦闘序盤は仲間達に任せ、青の隊への手助けに来ていた。必要であれば回復魔法も使用し、継戦能力の維持を図る。
鞍馬 真(ka5819)もそれは同様だった。ロングボウを構えて狙いを定める。
敵の中からも陣地に向かって遠距離攻撃が放たれてくる。その一撃が兵士の脇を掠めて後方で破裂した。慌てる兵士に向かって真は声を掛ける。
「なにかあってからでは遅いな。闇雲に動かない方がいい。安全を確保しつつ、ここは慎重にいこう」
陣地の中にいる限り地の利はこちら側にあるのだ。
遮蔽物を使い、安全を確保しつつ、戦うように促すと、先程の攻撃を放ってきた敵に向かって矢を放った。
●青の隊―前衛陣地
「あんたらは兵士だ。兵士は生き延びればいい。どうやって勝つかは上の奴が考える事だ」
いかにも新人兵士ですみたいな青の隊の兵士らに向かってウィンス・デイランダール(ka0039)がぶっきらぼうに言い放った。
そう――生き残ればいいのだ。なにも恐れる事はない――なにも……。
命綱代わりにロープを柵に掛けて作業中の彼の姿を不安そうな表情のまま見つめていた兵士達の背後で一際大きな歓声が上がる。
「ジャック様がいる以上、クソ共に勝ちはねぇ!」
勝ち誇った顔でジャック・J・グリーヴ(ka1305)が別の兵士達に向かって叫んでいた。
青い顔した坊っちゃんらを散々煽って焚き付けながら、最後に共闘の意思を、貴族の演説よろしく伝えていたのだ。
ここまで兵士らを焚き付けておきながら、安全な後方に下がるなんて事をする男ではない。ジャックは武器を構えた。
●青の隊―最前線陣地
作戦は計画通り進行している。
「上等だ――」
最前線の陣地の外へと飛び出したウィンスが残した言葉に兵士達は振い立った。
兵士らの負担を減らし、かつ、敵の数を減らしつつ、誘導路への誘いこみを助ける――それを身体を張って、彼は見せてくれたのだ。
言われた通りに動くのが気に喰わないという個人的な理由ではあるが、兵士達にそんな彼の心情は分からない。
「魂の――反逆だ」
眩く輝く直刃が光跡を残して敵の集団を吹き飛ばしていく。
ひたすら薙ぎ払う。
薙ぎ払う。
薙ぎ――。
「大変だ! ハンターが敵の集団に囲まれて飲まれたぞぉ!」
兵士達は騒ぎ声を上げた。
偶然にも前線まで出ていたジャックがそれを目撃して思わず刀を落としそうになる。
「ウィンス! なにをやってやがる、あの馬鹿!」
大慌てでジャックと数名の兵士達が陣地から飛び出した。
群がってくる敵を文字通りなぎ倒しながら血路を開く。
「手を掛けさせるんじゃねぇ!」
「……」
意識は既にないみたいだが、命に別状は無い様子だ。
もし、囲まれたままなら、最悪のケースも考えられただろう。運が良かったといえば、それまでではあるが。
ジャックは汚物でも持つように、ウィンスの首根っこを掴んで、陣地へと無事に戻ったのであった。
●中盤―殲滅エリア
誘導路出口の正面に陣取りながらジルボ(ka1732)はライフルを構えていた。
意識を集中させて狙撃に専念している。敵の数は多い。撃てばどこかに当たろうだろう。だが、それでは意味がないのだ。
「『死体が残らないだけマシさ』か……」
戦闘前に青の隊隊員に言った軽口を再び呟いていた。
二重の意味を持っていた。1つは心情的な事。そして、もう一つは、狙撃する上で遮蔽物にならないという事だ。
「敵の数はまだまだ多い。打ち合わせ通り、無意味なオーバーキルは抑えよう」
傍らでトランシーバーを片手に仲間と連絡を取り合っているのはキヅカ・リク(ka0038)だった。
覚醒者が持つ力のうち、スキルは格段の威力を誇る。だが、スキルを行使できる回数には限度がある。いくらマテリアルを操る訓練を行っても、無制限に使えるという訳ではないのだ。攻撃が重なる事で無駄な消耗は避けたい所だ。
それを彼は危惧し、仲間達との連携を重視させていた。必要であれば、ジェットブーツで宙に上がり、誘導路の確認も行う。
「……私の後ろには、道を示してくれたアークエルスが、グラズヘイム・シュバリエがある……!」
クレール(ka0586)が決意と共に機導術を使う為、マテリアルを集中させる。
テスカ教団が引き起こしているこの一連の戦いに負ける事は許されない。大勢の人々の命が掛っている。
「……絶対に、誰も通さない……! 例え、人間の姿をしていてもっ!!」
三振りの三日月刀のマテリアルが、それぞれ、敵に向かって放たれる。
次から次へと誘導路から湧き出てくるテスカ教団の集団に向かってハンター達の攻勢は続いた。
●中盤―殲滅エリア
「人型でワラワラと……亡者の群れとは薄気味悪いわ……死んで歩くのは常世の土だけにせいよ?」
星輝 Amhran(ka0724)が、テスカ教団の堕落者を撃ち抜いた。
その堕落者が塵になって消滅すると同時に煙幕のように煙を周囲にまき散らす。
こうなると、遠距離攻撃を行っているハンターにはやっかいだ。
「その程度で抜けられると思ったら、大間違いじゃぞ」
ニヤリと口元を緩めた。
ライフルから武器を持ち替え、一気に煙の中へと駆ける。
同様にアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)も煙の中へと飛び込んでいた。
「ド派手に目立つ位置に立つ人間も必要だろうけど、細部を地味に詰めるのも必要だろう」
敵の中には、こうして煙を撒き散らす者や土煙りを無駄に出す者もおり、やっかいであった。
おかげで戦場全体の動きが読み辛い場合もあるが、今の所、討ち洩らしの数は少なく、陣地への被害は最小限だ。
「誘導路出口で足止めはさせないよ」
煙の隙間から太陽の光が差し込み、愛刀が光を反射した。
●青の隊―防衛陣地
殲滅火力に問題はないと判断し、真水は青の隊が守る防衛陣地へと足を運んだ。
ずっと戦い続けてても良いが、休めるなら休んでいた方が良いというのもあるが。
「ついでに青の隊の様子を見ようかな」
陣地では、ちょうど臨時指揮官であるソルラ・クート(kz0096)の姿が見えていた。彼女は陣地のあちらこちらに足を運び、士気の維持に努めていた。
今は休憩がてらヴァルナが淹れたお茶を受け取っている。
「士気を維持する意味でも、お茶を淹れて皆さんに配りますね」
「ありがとうございます、ヴァルナさん。でも、いいのでしょうか……」
疲れが吹き飛ぶような笑顔を向けながら、ヴァルナは休憩中の兵士らにお茶を配っていく。我先にと紅茶に群がる兵士達。
一方、なにやら少し迷っているソルラに真水は近づくと一声かけた。
「士気を上げるのは簡単だけど、保つのは難しいんだから、適度に休ませてあげなよ」
「そ、そうですよね」
真水のアドバイスに安心した表情を浮かべたソルラは視線をシガレットに向ける。
彼は現場レベルの励ましで士気が高められればと思って兵士達を鼓舞していたからだ。
「……そういう訳で、鉄壁の騎士様が総大将だから、そらもうガッチガチだァ! ここが落ちる訳がねェ! おまけに、ノセヤは実績は確かだから、余裕でいけるぜェ!」
その台詞にソルラが涙目でなにか叫んだのは言うまでもない。
彼女の士気は一時的に下がっただろうが、この聖導士の言葉に兵士達は笑顔を見せたのであった。
●中盤―殲滅エリア
「見事な機動防御になったな」
先程から容赦なく銃撃を続けているが、コーネリアは作戦の推移を冷静にみていた。
堅牢な陣地。複雑な誘導路。敵の分断と、こちらの戦力の集中。この作戦展開なら、問題はないはずだ。
「有象無象に過ぎぬ貴様らに、私の銃弾が止められるものか!」
凶悪な表情を浮かべ、コーネリアは再び引き金を引いた。
スキルを撃ち尽くしても銃弾がある限り、射撃は継続できる。
「これなら、どうだろう」
リクがマテリアルで三角形を宙に作り、機導術を放つ。
敵の数が多いと判断した場合は銃撃ではなくスキルを行使していた。
「後衛の踏ん張りのおかげ、かな」
彼が言った通り、戦況が有利に進んでいるのは後衛の踏ん張りが大きい。
もちろん、最前線で撃ち洩らしを倒している仲間達の存在も大きいものがあるが。
敵の集団の中から反撃の様に負のマテリアルが打ち出された。狙いは出鱈目だが、威力はそれなりにあるだろう。
「気をつけろ。遠距離から攻撃してくるのが何体かいる」
仲間に告げながら、視線は狙いを定めたままだ。
ジルボは後衛達の脅威となる可能性がある敵を見定め、的確に処理していた。
特に今回、殲滅役を兼ねる後衛職は前衛職ほど打たれ強い訳でもないし、スキルに集中してもらうにも障害となる敵は早急に倒す必要がある。
「陣地を破壊しようとする奴もいるはずだ……リク! コーネリア!」
左目から緑色の光を発しながらジルボは次の標的に向かって銃口を向けた。
いかにも自爆しそうですという雰囲気を発している敵を発見し、ジルボは仲間に合図をする。
「集中攻撃しよう」
「了解した。タイミングを合わす」
3人の集中砲火が戦場を飛翔した。
●青の隊―前衛陣地
力をセーブして戦っていた紅薔薇(ka4766)は、一段落した事もあり、陣地へと足を運んだ。
かなりの数を倒してきたはずであるが、波があるのか誘導路を突破するのに時間がかかるのか、とにかく戦闘状態が立て続けではない。
「お主、ここにおったのか」
陣地で兵士達の士気を鼓舞しているエヴァンス・カルヴィ(ka0639)に話しかけた。
エヴァンスは愛剣を担ぎながら自信満々の様子だった。彼の堂々たる演説に感化されて兵士達が持ち場へと戻っていく。
「こういうのは、勢いが大事だからな」
そこへ、隊を率いるソルラも姿を現した。
エヴァンスに一礼すると、紅薔薇に視線を向ける。
「紅薔薇さんも、一言頂けると……北方動乱でのご活躍は私も聞き及んでいますし……」
ソルラの顔は疲労が溜まっている様にも見えた。
「胸を張って悠然と構えておれ。あの程度の敵なら妾達で何とでもしてみせるのじゃ。指揮官が不安がっていたら兵士達も安心して戦えなかろう」
「は、はい」
頼りない返事をしながらもビシっと背筋を伸ばすソルラ。
「皆さんが、最後の砦です。なにとぞ、よろしくお願いします」
その時、陣地の一角から一際大きい歓声が響いた。
ルンルンが意識している訳ではないだろうが、女性らしい体型を惜しげも無くアピールするポーズを取りながら符で占いを披露していたからだ。
「こんな時こそ、私が、吉兆凶兆まるっとお見通し☆」
素早い動きで宙に並べた符から無造作に1枚選び取る。
「ジュゲームリリカル……ルンルン忍法花占い! 敵の企みは、まるっとお見通しなんだからっ!」
ポヨンと音が鳴ったような気がする程、胸を揺らし、取りだした符を見て、ルンルンはビシっと人差し指を敵の集団に向けた。
「今までよりちょーと強いのが来ます! でも、大丈夫です! 私達の勝利と出ています!」
根拠はない占いだからこそ、縋りに足る事なのだろうか。
兵士達の歓声は一際大きくなった。
●中盤―殲滅エリア
後衛からの攻撃から逃れた敵や倒しきれなかった敵がエリアを進んでくる。
土塁と柵で防御されているが、青の隊の陣地ほど強固な物ではない。
「移動手段を奪えば、後は、他の仲間が撃ち漏らし無くやってくれるだろう」
カズマが斬龍刀を振いながら疾走する。
彼が敵集団を駆け抜ける度にテスカ教団の堕落者や雑魔は崩れ落ちた。
もちろん、カズマが無事という保障もない。敵集団の中に飛び込んでいくのだ。そのカズマを掩護するように真が刀を振り回した。
「全く、どこも大変な状況で忙しいな」
突いたり、或いは、薙ぎ払ってカズマが移動不能にした敵にトドメを差していく。
さっと、刀を地面に突き刺すと、背負っていた弓を素早く構えた。
「掩護する!」
マテリアルを込めて狙いを定める。
カズマの前方に堕落者達が寄せ集まってちょっとした合体形態になっていたからだ。
「頼んだ!」
仲間のフォローを信じ、カズマが体内のマテリアルを絞りだす。
真が放った矢が貫通し、脆くなった部位に向けて、まるで風のように駆け抜けると、強烈な一撃を叩き込んだ。
轟音と共に堕落者達の合体形態が崩れるが、同時にそれは二人が囲まれる事態となった。
「ここは、私達が」
「突破口を開きます。お二人はその隙に」
千春とUisca Amhran(ka0754)の二人は勢いよく、飛び込んで来た。
二人はさっと二手に分かれると、其々が短杖を振り上げる。
二種の光がパッと放たれると一気に包囲が崩れ落ちた。
「私も前に出ます」
中衛に徹していた千春がカズマや真と並ぶ。
疾影士や闘狩人の様な動きは出来ないが、防御力には自信があった。事実、敵の攻撃は少女に傷一つつける事はできない。
「もう一度、白龍の力で敵を攻撃します!」
仲間達に告げると、Uiscaは黄金色に輝く愛杖を掲げた。
翡翠色の立ち上る龍の姿は発する光の波動が周囲に広がっていく。
その光は魂すら震わすといわれるらしいが、確実に堕落者達の身体に衝撃を与えていった。
「別の一角を崩して、一時離脱する」
「分かった。いいだろう」
カズマと真の二人が再び戦場を駆け出した。
●終盤―殲滅エリア
手裏剣が宙で軌道を変えた。通常ではあり得ない事だが、星輝がマテリアルで操っているのだ。
「数だけではなく、強さも変わって来たようじゃな」
誘導路を通過してくる敵の数に大きな変化は見られない。仲間達の攻撃が弱まっているという訳ではない。
それでも、討ち洩らしが出てくるという事は、敵の強さに僅かなりとも変化があるのだろう。
「これならどうじゃ!」
手元に戻した手裏剣を手早く構え直しつつ、ワイヤーを括りつけると視線を離れた場所で戦うアルトに向けた。
意図をアルトは瞬時に理解した。持っていた盾を地面に突き刺す。
「星輝さん!」
名前を叫ぶよりも先に星輝が投げた手裏剣がワイヤーを低空に引きつつ、盾に絡んだ。
即席の足罠にまとめてひっかかり将棋倒しになった所へ、アルトが猛スピードで迫る。
「ここからは全力で行くよ!」
一陣の風のように彼女が通り抜けた後は、敵が塵となって消えていく。
序盤から中盤にかけてスキルを温存してきたのが意味を成してきた。アルトは星輝と協力し、討ち洩らした敵を確実に倒していった。
●青の隊―防衛陣地
戦場全体が慌ただしくなった。敵の大集団が押し寄せてきているのだろう。
「はい! どうぞなのですわ!」
負傷や休憩で下がって陣地で休んでいる青の隊の兵士達にチョココが水と蜂蜜を配っていた。
クレールが提案しての事だ。幸いな事に物資が多いのは準備が良いからだろう。
震える手でクレールは項垂れている兵士に水を手渡した。
「私も、手が震えてるんです……人を、殺してるみたいで……」
兵士は驚いた表情を浮かべた。ハンターも同じ様に思っていた事を知ったのだろう。
「でも、ここを越えられたら、本当に人が死んじゃう……だから……あと少し……頑張りましょう!」
彼女の真剣な眼差しに項垂れていた兵士は力強く頷いた。
そこへ、重傷者が数人運ばれてきた。
「わぁ! 酷い怪我なのです。すぐに案内しますー」
チョココは急いでUiscaの元へと案内する。
Uiscaも戦場の合間を診て陣地への応援に来ていたからだ。
「見た目に騙されてはいけません! あの人達は死んでいるんです。もう休ませてあげましょう」
彼女は休憩中の兵士達を鼓舞している最中だった。
敵の集団は堕落者や人の姿をしている雑魔等だ。新米の兵士達は頭で分かっていても気持ちの切り替えが上手くいかないみたいである。
「Uisca様、重傷者なのです」
「これは……酷いですね。癒しの魔法を使います。クレールさんは、傷口を強く抑えて下さい」
容体を診て、すぐに回復魔法を行使すべきと判断し、Uiscaは仲間に呼び掛けた。
クレールは白いタオルで兵士の傷口をぐっと抑えて止血する――すぐに真っ赤に染まるが気にしている場合ではない。
「我らと聖地を守りし白龍よ。我らの祈りの歌を、我らの願いの想いを……」
歌の様に奏でるUiscaの詠唱と共に周囲を柔らかいマテリアルの光が包み込む。
傷が痛むのか、重傷の兵士が動く。止血で抑えているクレールを手伝おうと、先程の兵士が手を伸ばした。
「……白龍よ、我らに光の加護を!」
その時、Uiscaの祈りの歌が一際大きく響いた。
癒しの力は重傷だった兵士達を確かに救ったのだった。
●終盤―殲滅エリア
「防衛戦と殲滅を両立させた戦いか……いいねぇ、燃えるじゃねぇか」
大剣をどんと大地に突き刺し、エヴァンスが誘導路から飛び出してくる敵の集団を睨んでいた。
様々な戦いを体験してきた事であるが、今回の様な珍しい戦いは、燃えてくる。
「長期戦はむしろ望むところ! 兵士達の士気が下がり気味ってんなら俺が率先してあげてやらぁ!」
今回は防衛しながら敵を攻撃し殲滅しなくてはならない。士気は重要な事だ。
「相変わらずじゃな。妾もここからは本気の本気じゃ」
薔薇の刻印がされ紅い光を纏う愛刀を構え、紅薔薇はエヴァンスの横に並んだ。
ソルラは紅薔薇らの事を『最後の砦』と称した。その意味は間違ってはいないだろう。ここに並んだ二人はそれに見合う実力と実績を重ねてきた歴戦のハンターなのだから。
「悪いが、一番に突撃する役は、俺だからな」
「“貸し”にしておこうかのう」
その台詞が終わるか終わらないかという所でエヴァンスは大地突き刺した大剣を引き抜きながら駆け出した。
まさに一騎駆け。後衛の攻撃が放たれた直後、土煙り漂う中へと突撃していく姿はある意味、圧巻であった。
「邪悪を砕く、不屈の大剣を魅せてやるぜ!」
嵐の如く大剣が戦場を噴き回った。
●青の隊―前衛陣地
幾度となく持ち場である殲滅エリアと陣地をヴァイス(ka0364)は往復していた。
小まめに青の隊への声掛けを行い、士気を保つようにと思って事だ。戦闘中も意識して声を出していたのもその為だ。
「時雨か、どうした?」
最前線の柵の近くで小鳥遊 時雨(ka4921)の姿を見かけた。
彼女もまた、殲滅エリアで弓矢を放ち続けていた。前衛に居たヴァイスにとっては頼もしい掩護射撃に感じられた。
「なんと言うか……青の隊の兵士を励ま……したいけど、堕落者を相手にし続けて『ふぁいとー!』って気軽に言えないよね」
振り返ってヴァイスを見る事なく、視線は柵の先へと向けられていた。
堕落者は歪虚との『契約』で存在する。強制的かそれとも盲心的か、或いは……自ら望んだ者もいるかもしれない。
「でも、ここで止めなきゃ……終わらせなきゃ。この“人”たちは助けらんない。ううん……助けられなかった、から」
王国西部でのテスカ教団との戦いを思い出していた。
テスカ教団が引き起こした一連の事件が、あの村で終わらせる事ができたかどうかは分からない。
「……あまり、力むな」
ポンポンとヴァイスは時雨の頭に手を伸ばした。
「ヴァイス……」
「悔いの心は反省や改善を促す一面もあるが、悔い過ぎると碌な事はない、からな」
その結果、身を滅ぼす事になった者も知っている。
「戦うなら、きっちりと決意を持て」
歴戦の戦士の言葉に彼女は深く頷いた。
そして、背負っていた弓を掴むと、持ち場へと振り返った。
「しんどいけど、こんな戦い、これっきりにするために。私は……戦う……頑張る……挑む、よ」
そこに1人の拍手。
ソルラが微笑みながら近づいてきていた。
「時雨さん、素晴らしい決意です」
少し照れたような表情を浮かべながら時雨は同じ制服姿のソルラに応えた。
細部は違うが、今はそこに触れている場合ではない。
「ここで落ち込んでいたら、きっと笑われるだろうし」
「そうですよ」
戦いは優勢だからか、ソルラから戦闘開始前の緊張感は感じられない。
「不安や恐怖が安堵に代わり、緩みが伝染することもある……指揮に引き締めと大変だが、最後まで宜しく頼むぜ、ソルラ」
ヴァイスがの忠告に女騎士は少し照れるような仕草を見せた。
「なんというか、ヴァイスさんは隊長向きですよね」
「お父さんみたいな安心感だね」
二人の言葉に、ヴァイスがコホンとわざとらしく咳をしたのであった。
●殲滅戦
中盤以降、戦線を支えていた後衛職の活躍が目立っていた。
「散らばった敵を集めますので、攻撃をお願いします」
符が不可視の結界を張り、誘導路から湧き出て来た敵の動きを阻害する。夜桜 奏音(ka5754)が放った符術だ。
大多数の敵は思う様な身動きが取れなくなり、そこへ、強烈無比な炎の魔法が大爆発を起こした。
「敵勢は多いようですが、こういう時こそ、魔術師の力の振るうべき時でしょう」
レイレリア・リナークシス(ka3872)が力強く言った。
魔術師が行使するスキルは強力な術が多い。中には、敵味方の区別なく、効果を発揮するものもあり、行使する際に気を使わないと仲間を巻き込む恐れもある。
「一人で何体倒せば、いいんでしょ……」
十色 エニア(ka0370)が稲妻の魔法を唱えて、複数体の敵を電撃で貫く。
出現してきた敵の数を数えていたのだが、60を越える辺りから数えるのがバカバカしくなって止めた。
「果たして、我らにまで、その歩みが届くかえ?」
短杖を振るって宙に魔法陣を描き、ヴィルマ・ネーベル(ka2549)も魔法を放つ。
冷気の嵐が敵の集団で吹き荒れ、瞬く間に崩れていく堕落者や雑魔共。
「私はまだ、撃てます」
特にレイレリアの炎の魔法は絶大であった。
炎の魔法は経験をそこそこ積んだ魔術師であれば覚える事ができるスキルではあるが、フルセット習得し、訓練するには多大な労力を必要とする。
惜しげも無く魔法を放ち続け、撃ち漏れた敵に残った術師達が適したスキルを撃っているのだ。
「まだまだ、いくよ~」
エニアが爆発から生き残った敵の集団に向かって炎の魔法を唱える。
前衛の頑張りもあるので、魔法で倒しきれなかった場合も今の所、問題ではなかった。
「この様子なら、我は鉛玉を撃たなくで良さそうじゃのぅ」
ヴィルマはスキル温存用にと別の武器を持ちこんできていたが必要ない様子だ。
余裕の表情で拳銃をくるくると回す。
「私達は、まだまだ余裕ですから、隊の皆さん、頑張りましょう!」
誘導路出口付近にて様子を見に来た青の隊隊員に奏音がありったけの大声で叫ぶ。
戦闘の音が響いていたが、聞こえたのだろう。隊員達は手を振って返して来た。
戦闘は極めて有利に、そして、圧倒的に進んでいる。
「どうやら、終わりが見えて来た見たいだね」
トランシーバーから入ってくる仲間からの連絡にエニアがそう告げた。
「もっとも、最後の最後のあがきか、誘導路を多く突破してきそうじゃ」
別の仲間からの連絡を受けたヴィルマも口を開いた。
いよいよ佳境である。
それらを迎え撃ち、蹴散らせば、この度の戦いは完全に決するだろう。
「私達で殲滅しましょう」
符を5枚、手に取って構える奏音を見て、レイレリアは頷いた。
そして、一緒に術を放ち続けて来た仲間達と一人一人、目を合わせる。
「最後は一斉発射で行きましょう」
そのレイレリアの提案に其々は応じる。
「分かったわ」
「分かったのじゃ」
「分かりました」
そして、4人は一列に並ぶと、マテリアルを集中させた。
エニアの背中に9つの羽のような形のオーラが出現した。風で靡くように広がる。
瞳のハイライトが消え、さながら人形のような表情を湛えながら、周囲を電撃が駆け廻る。
身体の周囲を美しい水の透き通る青い色の霧が包み込み、ヴィルマの姿が重なった。
ふわりと浮きあがった前髪が普段は他人には見せない右目は青色に輝いていた。
足元の地面から風が吹き上がると同時に、奏音の身体全体がうっすらとした幻想的な燐光に覆われた。
符術を行使する為の舞と共に身体を覆っている燐光が七色に変化していく。
レイレリアが6色の宝水晶の輪の幻影をいくつか浮かばせた。
宝水晶の輝きを持つ輪を自身の周りに投影させながら、マテリアルを高める。
「……風よ、大空を貫く稲妻となり、我らに仇を成す者に天罰を!」
「……氷よ、切り裂く氷の嵐となり、全てを凍てつかせるのじゃ!」
「五方の理を持って、千里を束ね、東よ、西よ、南よ、北よ、ここに光と成れ! 五色光符陣!」
「……炎よ、森羅万象を灰燼と帰す絶対なる力となり、あらゆるものを焼き尽くせよ!」
浅葱色の光が一瞬だけ杖の軌跡を描いたと思った次の瞬間、眩い稲妻が大気を切り裂き、短杖が描く青白い魔法陣の中心部から放たれた冷気のマテリアルが、敵の集団で吹き荒れ、宙で符が光り輝く結界となり、結界内部が眩しい程の光に満たされ焼いていき、幾度目か分からない炎の魔法が敵の集団の中で大爆発を起こした。
最後の一斉攻撃が大音響と共に爆風と生み――それらが治まった時、テスカ教団の信徒の姿は皆無となっていたのだった。
こうして、戦闘は圧倒的な程の完全勝利で決した。
青の隊への被害は極めて軽微で、テスカ教団の支隊は本隊と合流する前に文字通り、壊滅したのである。
おしまい
巡礼者達の不気味な叫び声と奇怪なまでに響く足音。
「さって、まともじゃなく戦おうか」
黄金の拳銃を構え、龍崎・カズマ(ka0178)が口元を緩める。
目の前には陣地の柵がある。わざと脆く作ってある偽の柵だ。
「いよいよ、テスカ教団との決戦ですか……」
ヴァルナ=エリゴス(ka2651)が一瞬、顔を伏せ、王国西部でのテスカ教団との戦いを思い返す。
「……あの日、彼らを止める機会を逃した身ですが……今度こそ、止めて見せます」
強い決意に反応してか、彼女の周囲を纏っていた燐光が一瞬、明るくみえた。
巡礼者達は眼前の柵に取りついた。
二人の背中をぼんやりと眺めながら南條 真水(ka2377)は肺に溜まった空気をゆっくりと吐き出す。
「はぁ、なんだか、どこも大変そうだなぁ」
真水を含めた3人のハンター達がこれから行う作戦の事ではない。
(帝国周辺の方が、むしろ静かで、なんだかなぁ――)
少し前までは帝国の方が大変な事態になっていたのもあるが……。
その時、柵が巡礼者によってあっさりと壊されてしまう。
「退くぞ!」
カズマが叫びながら銃を放つ。
わざと敵を突破させる偽陣ではあるが、陣を突破したと思わせなければ意味がない。
そこで、『囮』を進言し、彼を掩護する形で、ヴァルナと真水も同行しているのだ。
「引き込んだ敵がバラけ過ぎないようにしたいです」
一気に退くのではなく、時々、振り返っては武器を構えてみせる。
「囲まれると厄介だから。分かってると思うけどね」
ぐるぐる眼鏡を押さえながら後退する真水。
万が一に備え、機導術の用意も忘れてはいない。
「追いつかれちまう!」
カズマが無様な囮を演じているのは二人から見れば、すぐに分かる事であった。
●戦闘開始―殲滅エリア
「頑張るですのー」
偽陣と誘導路を突破してきた巡礼者達が、用意しておいた殲滅エリアに入って来て、チョココ(ka2449)が跳ねながら杖を構えた。
今まさに誘導路を突破してきた敵に向かって身振りと共に胸を揺らし、ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)は符を投げつける。
「ジュゲームリリカル……ルンルン忍法五星花! 更に神も呼んじゃいます、めがね、うくれれ、おいーっす!」
複数枚の符が結界を張り、光で敵を焼いていく。
凄まじい光の中、前進を続ける敵に向かって、ライフルを放つコーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)。
「デスゲームだ、躊躇すれば命取りだと思え。敵を見たら迷わず葬るまでだ!」
光の結界から突出して出てくる敵から順に狙撃。
鮮やかな手並みで次から次へと射撃を行うと、リロードして再び狙いをつける。必要に応じ、マテリアルを操り、猟撃士としての能力も発揮する。
「……出来ることを、出来る限り。後悔を、しないように」
柏木 千春(ka3061)はキュッと短杖を握った。
後衛の仲間達の盾に、成るべく前に立っていた。誘導路を突破して侵入してきた敵の数や位置を確認しながら、仲間達の攻撃から討ち漏れた敵もいないか注意深く観察する。
「……我らの願いを、我らに救いを、彼の者に光を、彼の者に聖なる輝きを!」
千春が放った輝く光の弾が敵の一体に向かって飛翔した。
テスカ教団の巡礼者に直撃すると粉々に消え去っていく。
それは、彼らが既に歪虚化している証拠でもあった。歪虚化して倒されると一般的には死体は残らない。稀に死体は残る場合はあるが……少なくとも、今回の戦場でそのパターンはなさそうである。
死体が残らないという事は、それが障害となって道を塞ぐ事もない。次から次へと敵の集団が誘導路から姿を現した。
「エクラ教が救いにならないなんて、私には思えません」
育ての老夫婦の姿を思い出しながら千春はそんな言葉を呟き、短杖を握る手で翡翠石のペンダントに触れた。
心の在り様だ。テスカ教団はそれを悪用しているだけであり、救いにならないのは彼らの方である。
ハンター達の集中砲火が誘導路から湧き出てくるテスカ教団の勢力に向かって放たれ始めた。
●青の隊―防衛陣地
簡易的とは言え、掘りと柵によって築かれた陣地の内側からテスカ教団の軍勢を眺めていたシガレット=ウナギパイ(ka2884)が声をあげた。
「ヒューッ! こいつは圧巻だねェ」
数える気にもならない。視界はテスカ教団の巡礼者――狂信者や堕落者、雑魔等々――で埋め尽くされていた。
戦闘は開始されたばかりだ。戦闘序盤は仲間達に任せ、青の隊への手助けに来ていた。必要であれば回復魔法も使用し、継戦能力の維持を図る。
鞍馬 真(ka5819)もそれは同様だった。ロングボウを構えて狙いを定める。
敵の中からも陣地に向かって遠距離攻撃が放たれてくる。その一撃が兵士の脇を掠めて後方で破裂した。慌てる兵士に向かって真は声を掛ける。
「なにかあってからでは遅いな。闇雲に動かない方がいい。安全を確保しつつ、ここは慎重にいこう」
陣地の中にいる限り地の利はこちら側にあるのだ。
遮蔽物を使い、安全を確保しつつ、戦うように促すと、先程の攻撃を放ってきた敵に向かって矢を放った。
●青の隊―前衛陣地
「あんたらは兵士だ。兵士は生き延びればいい。どうやって勝つかは上の奴が考える事だ」
いかにも新人兵士ですみたいな青の隊の兵士らに向かってウィンス・デイランダール(ka0039)がぶっきらぼうに言い放った。
そう――生き残ればいいのだ。なにも恐れる事はない――なにも……。
命綱代わりにロープを柵に掛けて作業中の彼の姿を不安そうな表情のまま見つめていた兵士達の背後で一際大きな歓声が上がる。
「ジャック様がいる以上、クソ共に勝ちはねぇ!」
勝ち誇った顔でジャック・J・グリーヴ(ka1305)が別の兵士達に向かって叫んでいた。
青い顔した坊っちゃんらを散々煽って焚き付けながら、最後に共闘の意思を、貴族の演説よろしく伝えていたのだ。
ここまで兵士らを焚き付けておきながら、安全な後方に下がるなんて事をする男ではない。ジャックは武器を構えた。
●青の隊―最前線陣地
作戦は計画通り進行している。
「上等だ――」
最前線の陣地の外へと飛び出したウィンスが残した言葉に兵士達は振い立った。
兵士らの負担を減らし、かつ、敵の数を減らしつつ、誘導路への誘いこみを助ける――それを身体を張って、彼は見せてくれたのだ。
言われた通りに動くのが気に喰わないという個人的な理由ではあるが、兵士達にそんな彼の心情は分からない。
「魂の――反逆だ」
眩く輝く直刃が光跡を残して敵の集団を吹き飛ばしていく。
ひたすら薙ぎ払う。
薙ぎ払う。
薙ぎ――。
「大変だ! ハンターが敵の集団に囲まれて飲まれたぞぉ!」
兵士達は騒ぎ声を上げた。
偶然にも前線まで出ていたジャックがそれを目撃して思わず刀を落としそうになる。
「ウィンス! なにをやってやがる、あの馬鹿!」
大慌てでジャックと数名の兵士達が陣地から飛び出した。
群がってくる敵を文字通りなぎ倒しながら血路を開く。
「手を掛けさせるんじゃねぇ!」
「……」
意識は既にないみたいだが、命に別状は無い様子だ。
もし、囲まれたままなら、最悪のケースも考えられただろう。運が良かったといえば、それまでではあるが。
ジャックは汚物でも持つように、ウィンスの首根っこを掴んで、陣地へと無事に戻ったのであった。
●中盤―殲滅エリア
誘導路出口の正面に陣取りながらジルボ(ka1732)はライフルを構えていた。
意識を集中させて狙撃に専念している。敵の数は多い。撃てばどこかに当たろうだろう。だが、それでは意味がないのだ。
「『死体が残らないだけマシさ』か……」
戦闘前に青の隊隊員に言った軽口を再び呟いていた。
二重の意味を持っていた。1つは心情的な事。そして、もう一つは、狙撃する上で遮蔽物にならないという事だ。
「敵の数はまだまだ多い。打ち合わせ通り、無意味なオーバーキルは抑えよう」
傍らでトランシーバーを片手に仲間と連絡を取り合っているのはキヅカ・リク(ka0038)だった。
覚醒者が持つ力のうち、スキルは格段の威力を誇る。だが、スキルを行使できる回数には限度がある。いくらマテリアルを操る訓練を行っても、無制限に使えるという訳ではないのだ。攻撃が重なる事で無駄な消耗は避けたい所だ。
それを彼は危惧し、仲間達との連携を重視させていた。必要であれば、ジェットブーツで宙に上がり、誘導路の確認も行う。
「……私の後ろには、道を示してくれたアークエルスが、グラズヘイム・シュバリエがある……!」
クレール(ka0586)が決意と共に機導術を使う為、マテリアルを集中させる。
テスカ教団が引き起こしているこの一連の戦いに負ける事は許されない。大勢の人々の命が掛っている。
「……絶対に、誰も通さない……! 例え、人間の姿をしていてもっ!!」
三振りの三日月刀のマテリアルが、それぞれ、敵に向かって放たれる。
次から次へと誘導路から湧き出てくるテスカ教団の集団に向かってハンター達の攻勢は続いた。
●中盤―殲滅エリア
「人型でワラワラと……亡者の群れとは薄気味悪いわ……死んで歩くのは常世の土だけにせいよ?」
星輝 Amhran(ka0724)が、テスカ教団の堕落者を撃ち抜いた。
その堕落者が塵になって消滅すると同時に煙幕のように煙を周囲にまき散らす。
こうなると、遠距離攻撃を行っているハンターにはやっかいだ。
「その程度で抜けられると思ったら、大間違いじゃぞ」
ニヤリと口元を緩めた。
ライフルから武器を持ち替え、一気に煙の中へと駆ける。
同様にアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)も煙の中へと飛び込んでいた。
「ド派手に目立つ位置に立つ人間も必要だろうけど、細部を地味に詰めるのも必要だろう」
敵の中には、こうして煙を撒き散らす者や土煙りを無駄に出す者もおり、やっかいであった。
おかげで戦場全体の動きが読み辛い場合もあるが、今の所、討ち洩らしの数は少なく、陣地への被害は最小限だ。
「誘導路出口で足止めはさせないよ」
煙の隙間から太陽の光が差し込み、愛刀が光を反射した。
●青の隊―防衛陣地
殲滅火力に問題はないと判断し、真水は青の隊が守る防衛陣地へと足を運んだ。
ずっと戦い続けてても良いが、休めるなら休んでいた方が良いというのもあるが。
「ついでに青の隊の様子を見ようかな」
陣地では、ちょうど臨時指揮官であるソルラ・クート(kz0096)の姿が見えていた。彼女は陣地のあちらこちらに足を運び、士気の維持に努めていた。
今は休憩がてらヴァルナが淹れたお茶を受け取っている。
「士気を維持する意味でも、お茶を淹れて皆さんに配りますね」
「ありがとうございます、ヴァルナさん。でも、いいのでしょうか……」
疲れが吹き飛ぶような笑顔を向けながら、ヴァルナは休憩中の兵士らにお茶を配っていく。我先にと紅茶に群がる兵士達。
一方、なにやら少し迷っているソルラに真水は近づくと一声かけた。
「士気を上げるのは簡単だけど、保つのは難しいんだから、適度に休ませてあげなよ」
「そ、そうですよね」
真水のアドバイスに安心した表情を浮かべたソルラは視線をシガレットに向ける。
彼は現場レベルの励ましで士気が高められればと思って兵士達を鼓舞していたからだ。
「……そういう訳で、鉄壁の騎士様が総大将だから、そらもうガッチガチだァ! ここが落ちる訳がねェ! おまけに、ノセヤは実績は確かだから、余裕でいけるぜェ!」
その台詞にソルラが涙目でなにか叫んだのは言うまでもない。
彼女の士気は一時的に下がっただろうが、この聖導士の言葉に兵士達は笑顔を見せたのであった。
●中盤―殲滅エリア
「見事な機動防御になったな」
先程から容赦なく銃撃を続けているが、コーネリアは作戦の推移を冷静にみていた。
堅牢な陣地。複雑な誘導路。敵の分断と、こちらの戦力の集中。この作戦展開なら、問題はないはずだ。
「有象無象に過ぎぬ貴様らに、私の銃弾が止められるものか!」
凶悪な表情を浮かべ、コーネリアは再び引き金を引いた。
スキルを撃ち尽くしても銃弾がある限り、射撃は継続できる。
「これなら、どうだろう」
リクがマテリアルで三角形を宙に作り、機導術を放つ。
敵の数が多いと判断した場合は銃撃ではなくスキルを行使していた。
「後衛の踏ん張りのおかげ、かな」
彼が言った通り、戦況が有利に進んでいるのは後衛の踏ん張りが大きい。
もちろん、最前線で撃ち洩らしを倒している仲間達の存在も大きいものがあるが。
敵の集団の中から反撃の様に負のマテリアルが打ち出された。狙いは出鱈目だが、威力はそれなりにあるだろう。
「気をつけろ。遠距離から攻撃してくるのが何体かいる」
仲間に告げながら、視線は狙いを定めたままだ。
ジルボは後衛達の脅威となる可能性がある敵を見定め、的確に処理していた。
特に今回、殲滅役を兼ねる後衛職は前衛職ほど打たれ強い訳でもないし、スキルに集中してもらうにも障害となる敵は早急に倒す必要がある。
「陣地を破壊しようとする奴もいるはずだ……リク! コーネリア!」
左目から緑色の光を発しながらジルボは次の標的に向かって銃口を向けた。
いかにも自爆しそうですという雰囲気を発している敵を発見し、ジルボは仲間に合図をする。
「集中攻撃しよう」
「了解した。タイミングを合わす」
3人の集中砲火が戦場を飛翔した。
●青の隊―前衛陣地
力をセーブして戦っていた紅薔薇(ka4766)は、一段落した事もあり、陣地へと足を運んだ。
かなりの数を倒してきたはずであるが、波があるのか誘導路を突破するのに時間がかかるのか、とにかく戦闘状態が立て続けではない。
「お主、ここにおったのか」
陣地で兵士達の士気を鼓舞しているエヴァンス・カルヴィ(ka0639)に話しかけた。
エヴァンスは愛剣を担ぎながら自信満々の様子だった。彼の堂々たる演説に感化されて兵士達が持ち場へと戻っていく。
「こういうのは、勢いが大事だからな」
そこへ、隊を率いるソルラも姿を現した。
エヴァンスに一礼すると、紅薔薇に視線を向ける。
「紅薔薇さんも、一言頂けると……北方動乱でのご活躍は私も聞き及んでいますし……」
ソルラの顔は疲労が溜まっている様にも見えた。
「胸を張って悠然と構えておれ。あの程度の敵なら妾達で何とでもしてみせるのじゃ。指揮官が不安がっていたら兵士達も安心して戦えなかろう」
「は、はい」
頼りない返事をしながらもビシっと背筋を伸ばすソルラ。
「皆さんが、最後の砦です。なにとぞ、よろしくお願いします」
その時、陣地の一角から一際大きい歓声が響いた。
ルンルンが意識している訳ではないだろうが、女性らしい体型を惜しげも無くアピールするポーズを取りながら符で占いを披露していたからだ。
「こんな時こそ、私が、吉兆凶兆まるっとお見通し☆」
素早い動きで宙に並べた符から無造作に1枚選び取る。
「ジュゲームリリカル……ルンルン忍法花占い! 敵の企みは、まるっとお見通しなんだからっ!」
ポヨンと音が鳴ったような気がする程、胸を揺らし、取りだした符を見て、ルンルンはビシっと人差し指を敵の集団に向けた。
「今までよりちょーと強いのが来ます! でも、大丈夫です! 私達の勝利と出ています!」
根拠はない占いだからこそ、縋りに足る事なのだろうか。
兵士達の歓声は一際大きくなった。
●中盤―殲滅エリア
後衛からの攻撃から逃れた敵や倒しきれなかった敵がエリアを進んでくる。
土塁と柵で防御されているが、青の隊の陣地ほど強固な物ではない。
「移動手段を奪えば、後は、他の仲間が撃ち漏らし無くやってくれるだろう」
カズマが斬龍刀を振いながら疾走する。
彼が敵集団を駆け抜ける度にテスカ教団の堕落者や雑魔は崩れ落ちた。
もちろん、カズマが無事という保障もない。敵集団の中に飛び込んでいくのだ。そのカズマを掩護するように真が刀を振り回した。
「全く、どこも大変な状況で忙しいな」
突いたり、或いは、薙ぎ払ってカズマが移動不能にした敵にトドメを差していく。
さっと、刀を地面に突き刺すと、背負っていた弓を素早く構えた。
「掩護する!」
マテリアルを込めて狙いを定める。
カズマの前方に堕落者達が寄せ集まってちょっとした合体形態になっていたからだ。
「頼んだ!」
仲間のフォローを信じ、カズマが体内のマテリアルを絞りだす。
真が放った矢が貫通し、脆くなった部位に向けて、まるで風のように駆け抜けると、強烈な一撃を叩き込んだ。
轟音と共に堕落者達の合体形態が崩れるが、同時にそれは二人が囲まれる事態となった。
「ここは、私達が」
「突破口を開きます。お二人はその隙に」
千春とUisca Amhran(ka0754)の二人は勢いよく、飛び込んで来た。
二人はさっと二手に分かれると、其々が短杖を振り上げる。
二種の光がパッと放たれると一気に包囲が崩れ落ちた。
「私も前に出ます」
中衛に徹していた千春がカズマや真と並ぶ。
疾影士や闘狩人の様な動きは出来ないが、防御力には自信があった。事実、敵の攻撃は少女に傷一つつける事はできない。
「もう一度、白龍の力で敵を攻撃します!」
仲間達に告げると、Uiscaは黄金色に輝く愛杖を掲げた。
翡翠色の立ち上る龍の姿は発する光の波動が周囲に広がっていく。
その光は魂すら震わすといわれるらしいが、確実に堕落者達の身体に衝撃を与えていった。
「別の一角を崩して、一時離脱する」
「分かった。いいだろう」
カズマと真の二人が再び戦場を駆け出した。
●終盤―殲滅エリア
手裏剣が宙で軌道を変えた。通常ではあり得ない事だが、星輝がマテリアルで操っているのだ。
「数だけではなく、強さも変わって来たようじゃな」
誘導路を通過してくる敵の数に大きな変化は見られない。仲間達の攻撃が弱まっているという訳ではない。
それでも、討ち洩らしが出てくるという事は、敵の強さに僅かなりとも変化があるのだろう。
「これならどうじゃ!」
手元に戻した手裏剣を手早く構え直しつつ、ワイヤーを括りつけると視線を離れた場所で戦うアルトに向けた。
意図をアルトは瞬時に理解した。持っていた盾を地面に突き刺す。
「星輝さん!」
名前を叫ぶよりも先に星輝が投げた手裏剣がワイヤーを低空に引きつつ、盾に絡んだ。
即席の足罠にまとめてひっかかり将棋倒しになった所へ、アルトが猛スピードで迫る。
「ここからは全力で行くよ!」
一陣の風のように彼女が通り抜けた後は、敵が塵となって消えていく。
序盤から中盤にかけてスキルを温存してきたのが意味を成してきた。アルトは星輝と協力し、討ち洩らした敵を確実に倒していった。
●青の隊―防衛陣地
戦場全体が慌ただしくなった。敵の大集団が押し寄せてきているのだろう。
「はい! どうぞなのですわ!」
負傷や休憩で下がって陣地で休んでいる青の隊の兵士達にチョココが水と蜂蜜を配っていた。
クレールが提案しての事だ。幸いな事に物資が多いのは準備が良いからだろう。
震える手でクレールは項垂れている兵士に水を手渡した。
「私も、手が震えてるんです……人を、殺してるみたいで……」
兵士は驚いた表情を浮かべた。ハンターも同じ様に思っていた事を知ったのだろう。
「でも、ここを越えられたら、本当に人が死んじゃう……だから……あと少し……頑張りましょう!」
彼女の真剣な眼差しに項垂れていた兵士は力強く頷いた。
そこへ、重傷者が数人運ばれてきた。
「わぁ! 酷い怪我なのです。すぐに案内しますー」
チョココは急いでUiscaの元へと案内する。
Uiscaも戦場の合間を診て陣地への応援に来ていたからだ。
「見た目に騙されてはいけません! あの人達は死んでいるんです。もう休ませてあげましょう」
彼女は休憩中の兵士達を鼓舞している最中だった。
敵の集団は堕落者や人の姿をしている雑魔等だ。新米の兵士達は頭で分かっていても気持ちの切り替えが上手くいかないみたいである。
「Uisca様、重傷者なのです」
「これは……酷いですね。癒しの魔法を使います。クレールさんは、傷口を強く抑えて下さい」
容体を診て、すぐに回復魔法を行使すべきと判断し、Uiscaは仲間に呼び掛けた。
クレールは白いタオルで兵士の傷口をぐっと抑えて止血する――すぐに真っ赤に染まるが気にしている場合ではない。
「我らと聖地を守りし白龍よ。我らの祈りの歌を、我らの願いの想いを……」
歌の様に奏でるUiscaの詠唱と共に周囲を柔らかいマテリアルの光が包み込む。
傷が痛むのか、重傷の兵士が動く。止血で抑えているクレールを手伝おうと、先程の兵士が手を伸ばした。
「……白龍よ、我らに光の加護を!」
その時、Uiscaの祈りの歌が一際大きく響いた。
癒しの力は重傷だった兵士達を確かに救ったのだった。
●終盤―殲滅エリア
「防衛戦と殲滅を両立させた戦いか……いいねぇ、燃えるじゃねぇか」
大剣をどんと大地に突き刺し、エヴァンスが誘導路から飛び出してくる敵の集団を睨んでいた。
様々な戦いを体験してきた事であるが、今回の様な珍しい戦いは、燃えてくる。
「長期戦はむしろ望むところ! 兵士達の士気が下がり気味ってんなら俺が率先してあげてやらぁ!」
今回は防衛しながら敵を攻撃し殲滅しなくてはならない。士気は重要な事だ。
「相変わらずじゃな。妾もここからは本気の本気じゃ」
薔薇の刻印がされ紅い光を纏う愛刀を構え、紅薔薇はエヴァンスの横に並んだ。
ソルラは紅薔薇らの事を『最後の砦』と称した。その意味は間違ってはいないだろう。ここに並んだ二人はそれに見合う実力と実績を重ねてきた歴戦のハンターなのだから。
「悪いが、一番に突撃する役は、俺だからな」
「“貸し”にしておこうかのう」
その台詞が終わるか終わらないかという所でエヴァンスは大地突き刺した大剣を引き抜きながら駆け出した。
まさに一騎駆け。後衛の攻撃が放たれた直後、土煙り漂う中へと突撃していく姿はある意味、圧巻であった。
「邪悪を砕く、不屈の大剣を魅せてやるぜ!」
嵐の如く大剣が戦場を噴き回った。
●青の隊―前衛陣地
幾度となく持ち場である殲滅エリアと陣地をヴァイス(ka0364)は往復していた。
小まめに青の隊への声掛けを行い、士気を保つようにと思って事だ。戦闘中も意識して声を出していたのもその為だ。
「時雨か、どうした?」
最前線の柵の近くで小鳥遊 時雨(ka4921)の姿を見かけた。
彼女もまた、殲滅エリアで弓矢を放ち続けていた。前衛に居たヴァイスにとっては頼もしい掩護射撃に感じられた。
「なんと言うか……青の隊の兵士を励ま……したいけど、堕落者を相手にし続けて『ふぁいとー!』って気軽に言えないよね」
振り返ってヴァイスを見る事なく、視線は柵の先へと向けられていた。
堕落者は歪虚との『契約』で存在する。強制的かそれとも盲心的か、或いは……自ら望んだ者もいるかもしれない。
「でも、ここで止めなきゃ……終わらせなきゃ。この“人”たちは助けらんない。ううん……助けられなかった、から」
王国西部でのテスカ教団との戦いを思い出していた。
テスカ教団が引き起こした一連の事件が、あの村で終わらせる事ができたかどうかは分からない。
「……あまり、力むな」
ポンポンとヴァイスは時雨の頭に手を伸ばした。
「ヴァイス……」
「悔いの心は反省や改善を促す一面もあるが、悔い過ぎると碌な事はない、からな」
その結果、身を滅ぼす事になった者も知っている。
「戦うなら、きっちりと決意を持て」
歴戦の戦士の言葉に彼女は深く頷いた。
そして、背負っていた弓を掴むと、持ち場へと振り返った。
「しんどいけど、こんな戦い、これっきりにするために。私は……戦う……頑張る……挑む、よ」
そこに1人の拍手。
ソルラが微笑みながら近づいてきていた。
「時雨さん、素晴らしい決意です」
少し照れたような表情を浮かべながら時雨は同じ制服姿のソルラに応えた。
細部は違うが、今はそこに触れている場合ではない。
「ここで落ち込んでいたら、きっと笑われるだろうし」
「そうですよ」
戦いは優勢だからか、ソルラから戦闘開始前の緊張感は感じられない。
「不安や恐怖が安堵に代わり、緩みが伝染することもある……指揮に引き締めと大変だが、最後まで宜しく頼むぜ、ソルラ」
ヴァイスがの忠告に女騎士は少し照れるような仕草を見せた。
「なんというか、ヴァイスさんは隊長向きですよね」
「お父さんみたいな安心感だね」
二人の言葉に、ヴァイスがコホンとわざとらしく咳をしたのであった。
●殲滅戦
中盤以降、戦線を支えていた後衛職の活躍が目立っていた。
「散らばった敵を集めますので、攻撃をお願いします」
符が不可視の結界を張り、誘導路から湧き出て来た敵の動きを阻害する。夜桜 奏音(ka5754)が放った符術だ。
大多数の敵は思う様な身動きが取れなくなり、そこへ、強烈無比な炎の魔法が大爆発を起こした。
「敵勢は多いようですが、こういう時こそ、魔術師の力の振るうべき時でしょう」
レイレリア・リナークシス(ka3872)が力強く言った。
魔術師が行使するスキルは強力な術が多い。中には、敵味方の区別なく、効果を発揮するものもあり、行使する際に気を使わないと仲間を巻き込む恐れもある。
「一人で何体倒せば、いいんでしょ……」
十色 エニア(ka0370)が稲妻の魔法を唱えて、複数体の敵を電撃で貫く。
出現してきた敵の数を数えていたのだが、60を越える辺りから数えるのがバカバカしくなって止めた。
「果たして、我らにまで、その歩みが届くかえ?」
短杖を振るって宙に魔法陣を描き、ヴィルマ・ネーベル(ka2549)も魔法を放つ。
冷気の嵐が敵の集団で吹き荒れ、瞬く間に崩れていく堕落者や雑魔共。
「私はまだ、撃てます」
特にレイレリアの炎の魔法は絶大であった。
炎の魔法は経験をそこそこ積んだ魔術師であれば覚える事ができるスキルではあるが、フルセット習得し、訓練するには多大な労力を必要とする。
惜しげも無く魔法を放ち続け、撃ち漏れた敵に残った術師達が適したスキルを撃っているのだ。
「まだまだ、いくよ~」
エニアが爆発から生き残った敵の集団に向かって炎の魔法を唱える。
前衛の頑張りもあるので、魔法で倒しきれなかった場合も今の所、問題ではなかった。
「この様子なら、我は鉛玉を撃たなくで良さそうじゃのぅ」
ヴィルマはスキル温存用にと別の武器を持ちこんできていたが必要ない様子だ。
余裕の表情で拳銃をくるくると回す。
「私達は、まだまだ余裕ですから、隊の皆さん、頑張りましょう!」
誘導路出口付近にて様子を見に来た青の隊隊員に奏音がありったけの大声で叫ぶ。
戦闘の音が響いていたが、聞こえたのだろう。隊員達は手を振って返して来た。
戦闘は極めて有利に、そして、圧倒的に進んでいる。
「どうやら、終わりが見えて来た見たいだね」
トランシーバーから入ってくる仲間からの連絡にエニアがそう告げた。
「もっとも、最後の最後のあがきか、誘導路を多く突破してきそうじゃ」
別の仲間からの連絡を受けたヴィルマも口を開いた。
いよいよ佳境である。
それらを迎え撃ち、蹴散らせば、この度の戦いは完全に決するだろう。
「私達で殲滅しましょう」
符を5枚、手に取って構える奏音を見て、レイレリアは頷いた。
そして、一緒に術を放ち続けて来た仲間達と一人一人、目を合わせる。
「最後は一斉発射で行きましょう」
そのレイレリアの提案に其々は応じる。
「分かったわ」
「分かったのじゃ」
「分かりました」
そして、4人は一列に並ぶと、マテリアルを集中させた。
エニアの背中に9つの羽のような形のオーラが出現した。風で靡くように広がる。
瞳のハイライトが消え、さながら人形のような表情を湛えながら、周囲を電撃が駆け廻る。
身体の周囲を美しい水の透き通る青い色の霧が包み込み、ヴィルマの姿が重なった。
ふわりと浮きあがった前髪が普段は他人には見せない右目は青色に輝いていた。
足元の地面から風が吹き上がると同時に、奏音の身体全体がうっすらとした幻想的な燐光に覆われた。
符術を行使する為の舞と共に身体を覆っている燐光が七色に変化していく。
レイレリアが6色の宝水晶の輪の幻影をいくつか浮かばせた。
宝水晶の輝きを持つ輪を自身の周りに投影させながら、マテリアルを高める。
「……風よ、大空を貫く稲妻となり、我らに仇を成す者に天罰を!」
「……氷よ、切り裂く氷の嵐となり、全てを凍てつかせるのじゃ!」
「五方の理を持って、千里を束ね、東よ、西よ、南よ、北よ、ここに光と成れ! 五色光符陣!」
「……炎よ、森羅万象を灰燼と帰す絶対なる力となり、あらゆるものを焼き尽くせよ!」
浅葱色の光が一瞬だけ杖の軌跡を描いたと思った次の瞬間、眩い稲妻が大気を切り裂き、短杖が描く青白い魔法陣の中心部から放たれた冷気のマテリアルが、敵の集団で吹き荒れ、宙で符が光り輝く結界となり、結界内部が眩しい程の光に満たされ焼いていき、幾度目か分からない炎の魔法が敵の集団の中で大爆発を起こした。
最後の一斉攻撃が大音響と共に爆風と生み――それらが治まった時、テスカ教団の信徒の姿は皆無となっていたのだった。
こうして、戦闘は圧倒的な程の完全勝利で決した。
青の隊への被害は極めて軽微で、テスカ教団の支隊は本隊と合流する前に文字通り、壊滅したのである。
おしまい
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
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面白かった! | 20人 |
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現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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小隊員への協力要請表明卓 ソルラ・クート(kz0096) 人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2016/03/31 06:44:27 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/03/31 06:45:43 |
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質問卓 シガレット=ウナギパイ(ka2884) 人間(クリムゾンウェスト)|32才|男性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2016/03/29 20:33:33 |
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【相談卓】後手からの一撃を! Uisca=S=Amhran(ka0754) エルフ|17才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2016/03/31 06:45:08 |