ゲスト
(ka0000)
身も心も清らな乙女緊急募集
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2016/04/05 19:00
- 完成日
- 2016/04/12 02:47
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
ユニコーン。
純白の体に純白の鬣、額にたかだか一本角を生やした優美な外見とは裏腹に、とてつもなく凶暴な幻獣。
あまたの狩人が日々付け狙っているにもかかわらず、クリムゾン全体での平均年間捕獲数は、わずか1頭と言われる。0の年もざらではない。
一方逆襲され命を落とす狩人の数は、年間平均40人。
とはいえこれは、正式にギルドに入っている狩人に限られた数。ギルド登録なしで活動している人間を合わせれば、実数は倍近くに及ぶのではないか、という見方をする人もいる。
しかしそれでもなお、ユニコーンを狙う人間は後を絶たない。
捕獲に成功すれば、間違いなくひと財産を築くことが出来るのだ。
ユニコーンの角は、強力な解毒の力を持つと信じられているのだ。それで作ったスプーンや杯など、まさに天にも届く高値で取引される。
とはいえ一般的に言って、ユニコーン狩りはドラゴン狩りよりも、タブー視される傾向が強い。
昔話、伝承、騎士物語の中で『高貴な存在』『精霊に近い存在』として描写される傾向が強いためだ。
積極的に保護を求める人もいる。今回の依頼者ランサムも、その1人。
●
自由都市同盟とゾンネンシュタール帝国の国境に程近い、森の奥。
「ユニコーンはこのあたりにいるはずなんです。数日前から狩人たちが集まってきていますから」
さわさわ木擦れの音が耳に心地いい。
地面は柔らかい苔に覆われ、木漏れ日が降り落ちている。
鳥の声さえも控えめな、深く静かな森。なるほどユニコーンが出てくるとすれば、こんな所以外にはあり得ないような気がする。
「皆さんにお頼みしたいのは、ユニコーンを狩人たちよりも先に捕まえることです。もし狩人に捕まってしまったら、間違いなく殺されてしまいます。角を取るためだけに。私は、そういうことをさせたくないんです」
頭を下げてくる青年に、杏子が尋ねる。
「捕まえた後はどうするんです、ランサムさん」
「エルフハイムまで運んで行きます。あそこなら狩人もやすやすとは入り込めませんから」
「あなた一人で?」
「いいえ。ユニコーンの保護に賛同してくれる仲間が大勢いますので、その協力を得て」
青年は自慢げに一冊の手帳を取り出した。
手帳の革表紙にはユニコーンのマークと併せ、以下の文字が刻印してある。
『クリムゾン希少幻獣保護協会・会員証』
「ユニコーンはとても美しい。それに賢い。そんな生き物を殺したりするようなことは、文明人として全く恥ずべきことですよ。早くクリムゾン全体から、この悪習が絶えるといいんですが……」
美しくも賢くもない幻獣はどうなるんだろうとハンターたちは思ったが、このさい任務にはあんまり関係ないことなので、突っ込むことはしなかった。
●
ハンターたちは実に運がよかった。探し始めてほどなくして、ユニコーンを見つけたのだから。
森の木立の間に立つ、ほっそりした白い影。
「あれじゃない?」
なるほど、遠目に見ても美しい姿。
しかし捕まえるのは相当骨が折れそうだ。蹄で地面を引っ掻き、頭を下げ角を突き出し、臨戦態勢に入っている。
でも早くしないと。森にいるほかの狩人に気づかれたらことだ。
どうしたものか。
悩むハンターたちはそこで、ユニコーンにまつわる言い伝えを思い出した。
「……確かユニコーンて女に弱いんじゃなかったっけ? 呼べば素直に来るとか……」
違う。
『若く』『美しい』『心の清らな』『処女』に弱いのだ。それ以外の女には見向きもしない。
ユニコーンとは、そういう幻獣である。
リプレイ本文
「なーんだ、女に弱いなら楽勝だよね。あたしたち女だらけのパーティーだし」
と言うウーナ(ka1439)にドゥアル(ka3746)は、ランサムから事前に渡されていた保護協会のパンフレットを見せた。
「……待ってください……ことはそう単純ではない様子……」
ユニコーンの項にイラスト付きで、このような一文が踊っている。
『ユニコーン――容姿端麗。その性潔癖にして猛々し。身も心も美しく清らな若き処女を好み、その膝を枕に眠るという性質がある。』
ウーナがぱちんと指を弾く。
「若さ! 美少女! 純粋な心で、もちろん乙女! 完璧だね!」
リリーベル・A・ラミアス(ka5488)もウーナ同様、己に自信がある様子。
「ユニコーンね。物語で何度も聞いたことがあるわ。一度会ってみたいと思っていたの。きっと美しくて神々しく、賢い生き物なんでしょうね。私なら条件にも合致するのではないかしら?」
幻獣に会えるという期待に、胸躍らせるリンカ・エルネージュ(ka1840)。
「ユニコーンってよく色々なお話に出てくるアレだよね? 研究者として一度はお話してみたいと思うんだけど」
十色 乃梛(ka5902)は、こっそり思った。
(幻獣じゃなかったら、ただの変態よね……)
清簾(ka3314)は頭をかく。
「『乙女』……私も一応は当てはまるか。『心が清らか』かどうかは何とも言えないが」
彼女はユニコーンよりも、森に住む他の動物たちを心配している。
「とばっちりで罠にかかったり、矢を射かけられたりしたら、たまったものではないな」
それと同じ意見をティア・ユスティース(ka5635)も持っていた。
ユニコーン目当ての狩人たちに、森の生き物たちや森を生活の糧にする人達の生業が脅かされる様な事があってはならない。
「狩人たちにしたって、いくら自業自得とは言っても、むざむざ命を落とさせるわけにいきませんし……ユニコーンを説得してみる必要がありそうですね」
そこで柏部 狭綾(ka2697)が、すっと手を挙げた。
「わたしは確実に『ユニコーンの好みに合わない』と思うから、この辺りに潜んでる狩人さんたちの足止めに回るわ」
杏子も言った。
「あー、私もそっちに回るわ。条件にあってなさそうだから」
要求されている条件のどれがどのように合致しないのか――そこは聞かずに察するのが、マナーというものであろう。
意見が出揃ったところで清廉は、改めて仲間を見回した。
(これだけ頭数がいれば、誰かには引っ掛かるだろう)
というわけで彼女は、狭綾たちの方を手伝うと決める。
先にも言ったが気掛かりなのは卓越した力を持つ幻獣ではなく、身を守るすべを持たない一般動物たちなのだ。
●
隠れたるものの気配を捜し当てるのは、狭綾の得意とするところ。
静謐な森の中なればこそ人間の存在は察知しやすい。都会の雑踏などより、よほど。
それはそれとして彼女、ユニコーンにあまり好感を抱いていない。
(正直、ユニコーンなんてセクハラ処女厨幻獣は全滅しても良いのだけれど……でもお仕事だものね……)
ため息つきつつ探索を続け――目当ての狩人たちを見つける。木立の間にうまく隠れたつもりでも、ハンターの目はごまかせない。
早速同行者である杏子と清廉に教える。仄暗い木立の奥を指さして。
「……あちらに、数人いますわ……それでは、万事打ち合わせ通りに……」
●
乙女たちはユニコーンの捕獲に向け動き始めた。
「では……まず私から……」
一番手はドゥアル。
木立の後ろに見え隠れしているユニコーンに、ふらふら近づいて行き、中途で立ち止まる。
そこには、おあつらえむきの日だまりがあった。乾燥した柔らかい苔が地面を覆い、可憐な花が群れ咲いている。
「……なんて素敵な睡眠スポット……寝るしか……ない……」
言うや否や本当にその場に転がり、爆睡し始める。
本能のまま動いているだけ――では断じてない。何を隠そうこれも作戦なのだ。題して『眠れる森の美女ドゥアル』。
他のメンバーは少し離れた茂みに潜み、事態の推移を見守った。
ウーナとリンカは、一緒に双眼鏡を覗きこむ。
「正直さぁ。狩人とか、どうせユニコーンに殺されるんだし、その前にあたしらが殺っちゃえば万事解決だと思うんだよね」
「一般人を殺したらこっちが罪に問わちゃうよ、ウーナさん」
「そーなんだよねぇ。面倒くさいなぁ。早く法規制とかしちゃえばいいのに……っと。きたきた」
ユニコーンは寝ているドゥアルの元に近づき、眺め回した。
……コレジャナイ。
そんな感情を表情に滲ませ通り過ぎてしまう。
そこで二番手のティアが打って出た。警戒心を起こさせないよう、盾以外の装備を全て解除して。
「あなたがユニコーンさん……ですね? 少しの間、お話よろしいでしょうか?」
ユニコーンは優雅な足取りで彼女に歩み寄り、頭からつま先まで眺め回し――また通り過ぎた。
相当好みがうるさいようだ。
三番手はリリーベル、並びに乃梛。
「いよいよ、私たちの出番のようね。行きますわよ」
「い、一応『乙女』の基準は満たしてるけど……大丈夫よね?」
●
「――この森にユニコーンと似た姿の歪虚が侵入しているの。すでに他の地域では、大量に人間が殺傷されているわ。ここであなたがたに会えたのは、本当に幸いだったわ。どうか、今のうちに避難して――途中もし他の狩人さんたちに会えたら、このことを伝えて頂戴」
狩人たちは疑わしげな顔をして、狭綾に聞き返す。
「おいおい、本当か? そんな話、ここに来てから一度も聞いたことねえんだが」
「俺らを引っかけて、ユニコーンを横取りしようって腹じゃねえだろうな」
(いい読みだな。端的に言えばその通りだ)
と心の中で返す清廉は、狩人たちにやれやれと首を振ってみせた。
「歪虚の出現は常に唐突なのだ。いつどこに出没するか予測をつけるのは、残念ながら、私たちハンターにさえ至難の業。一般人なら、近くにいながら気づかぬということも十分あり得る――ところであなたがたは、なぜユニコーンを狩ろうとしているのだ? あれは狩りの対象にすべきではないものだと思うが」
最後の問に狩人たちは、いささか得意げに応じてきた。
「知らんのか。ユニコーンの角は、どえらい高値で取引されるんだぞ」
「なぜそこまでして財を欲する?」
「なぜって、儲けたいと思うのは誰しも同じだろうよ」
「もっと堅実に稼ぐという手もあるだろう」
「そんなこたあ、馬鹿らしくって出来たもんじゃねえや。大体堅実にやってたら、いつまで経っても大金なんて掴めねえよ」
言葉だけの説得が不可能だと判断した狭綾は、狩人たちを手招きした。
「ちょっと、一緒に来てください」
彼らを連れて行ったのは、半ばから折れ凍りついている巨木のたもと。
それをとっくり見せ、改めて言う。
「これが歪虚の暴れた痕跡よ。お解りかしら? ハンターでなければ、歯が立つものではないの」
実のところそれは、彼女自身が前以てコールダーショットで(朽ち木を選んで)打ち倒しておいたものだ。
が、狩人も一般人。そういう小細工が見抜けない。半信半疑ながら、不安げに顔を見合わせる。
「実はわたしたち以外にも仲間のハンターが来ているの。総出で森を探索している所――」
と狭綾が言いかけたところで、近くの茂みが動く。杏子が出てきた。痛そうに腕を押さえて。
「……大変よ……歪虚が現れたわ……」
押さえた腕から血が流れているのを見た狩人たちは、動揺した。彼女自身がわざと傷をつけそれらしく見せているのだとは、むろん知る由もない。
タイミングよく狭綾のトランシーバーが、受信音を発した。
彼女はそれを受け、耳元に当てる。
「もしもし……ええ、分かったわ……ええ……こちらもなるべく早く合流するわ……」
深刻な表情で話し込む様を目の当たりに、狩人たちの顔色がどんどん曇ってくる。
幻獣は獣だが、歪虚は化け物。猟に使う武器など、まず通じないと思って間違いない。
「ちっ、仕方ねえな」
命あっての物種と、狩人たちが退散して行く。
狭綾たちは一安心。仲間との合流地点に向かう。
●
ユニコーンがリリーベルの歌う子守歌に目を細め、静かに近寄ってくる。
純白の体に青い瞳。
見るからに神々しい幻獣に乃梛は、上目使いのお願いをする。
「ユニコーンさん、聞いて。この森にはね、狩人さんたちがいるんだよ。あなたの角を狙ってのことなんだけど……わたしたちは、あなたと狩人さんたちが争うところを見たくないんだ。だから、エルフハイムへ来てくれる?」
ユニコーンは乃梛に長い顔をぐりぐり擦りつけた。ふん、ふんと鼻を鳴らして。
近づいて大丈夫そうだと見たリリーベルは、つややかな鬣に触れてみる。喜んでいるのだろう、ユニコーンは彼女の髪をそっと甘噛みした。
ひとまず作戦成功。
ウーナは綾瀬らにその旨を、トランシーバーで伝えた。
その間にリンカは、ユニコーンへの説得に加わる。
「ねえユニコーンさん、平穏を乱す狩人が少ないところのほうが居心地が良いよ? この森よりもあっちは更に神秘的で君に似合うんじゃないかなー……エルフには美形が多いって聞くし。とにかく私たちは、君を守りたいんだ。早くこの場を離れた方がいいよ?」
彼女がそう言っている間にもユニコーンは、乃梛をぐいぐい押して座らせ、ひざ枕を始めた。
「うひっ!? ひゃっ、ちょ、くすぐったいぃ」
太ももを鼻先でぐりぐりしている。
ちょうどいい頭の乗せ位置を探しているのだろう――なんていう好意的な解釈をドゥアルはとらなかった。
「……やはり……ロリコーン……」
ティアもちょっと疑ってしまう。
「……そうかもしれないな……」
しかし、幾らか若さに乏しい乙女も完全に拒絶されるというわけでないらしい。彼女らが触ってみても、嫌がりはしないのだ。格別喜びもしていないが。
兎にも角にもティアは、座ったきりの幻獣に説き聞かせる。
「起きてください、ユニコーンさん。早く一緒に行きましょう。この場に止まるのは危険なんです」
しかし相手は全然応じず、立とうとしない。
怒らないのをいいこと背中へ乗ったリリーベルから、首筋を撫でられご満悦。いともたやすく寝始める。
もともと強いだけに、危機意識というものが乏しいのだろうか。
ウーナは頭を悩ませる。
「早く立って欲しいんだけど……担いで運ぶしかないのかなー」
まだ狩人たちが残っていないかどうか、直感視で周囲を警戒していた彼女は、ふと木の根元に光るものを見つけた。
「ん?」
見ればテグス糸が張ってある。調べてみれば仕掛け罠。糸に体が引っ掛かると、近くに隠されている自動弓が発射されるというタイプの奴である。
「ふーん?」
この際ユニコーンに危機感を与えるのもいいかもしれない。
思って彼女は、わざと引っ掛かってみた。
矢が放たれ、脇腹に突き刺さる。もちろん体には全くダメージがない。アーマーを下に着込んでいるので。
が、さも重症である振りをする。
「ぐあっ……りょっ、りょうしにやられたああ!!」
ユニコーンの前へいき、倒れる。月並みな台詞を吐いて。
「無事で……よかった……」
ユニコーンは逆上した。彼にとって乙女という存在を傷つけられるほど、腹立たしい事はないのである。
鋭くいななき立ち上がり、おのれ敵はどこにいるとばかり、木立に猪突猛進。
ゆうに二抱えはある木々を、軽くなぎ倒していく。
●
駆け足で合流地点までやってきた狭綾たちは、見た。なぎ倒されていく巨木と、荒れ狂うユニコーンを。振り落とされないよう必死でユニコーンの背にしがみついている、リリーベルの姿を。
完全に我を見失っているユニコーンは、急に出て来た綾瀬と杏子に血走った目を向けた。
「え? あの、違うわよ、わたしたち敵じゃ……」
「ちょっ……お、落ち着いてー!」
問答無用、猛スピードで突進してくる。
もちろん2人は逃げた。串刺しにされてはたまらない。
それた攻撃を食らう羽目になった木が、ベキベキ倒れて行く。
乙女であるからだろう。狭綾たちと一緒にいたのに攻撃から除外されている清廉は、倒木から投げ出された鳥や小動物たちを急ぎ回収し、手当していく。
「怖くない、怖くない、大丈夫だ……ほら、な?」
リンカは森林破壊を食い止めんと、アースウォールを発動。
行く手を塞がれたユニコーンは、棒立ちになる。騒ぎの発端であるウーナが走り寄り、その首に飛びつく。
「大丈夫、大丈夫だから! ウソウソ今のはみーんなウソだから!」
乙女の無事を確認したユニコーンは、やっと動きを止めた。
まだ荒い鼻息をついているところを、リリーベル、乃梛、ティア、リンカが総出で宥めたおし、やっと機嫌を直させる。
相手が落ち着いたのを見計らい、ドゥアルは、ポートレイト「シルキー・アークライト」を見せた。
「……さあ……新しい森に行きましょう……あわよくばこんな子に出会えるかも知れませんよ……」
ニンジンに釣られた馬よろしくユニコーンは、歩き出すドゥアルにかぽかぽついていく。
(……絵でもいいとは……想像以上の変態……保護して……どうするのでしょうか……好みの異種族に強制的に膝枕をさせ……勝手に忠誠を誓ってストーカーする……問題種族なのに……)
●
ランサムは数人の仲間とともに、森の端で待っていた。
「おお……皆さんありがとうございます!」
伝説の幻獣を前に目を輝かせる彼の肩をティアは、力を込めてがしりと掴む。
「依頼の前にも言いましたが……事後対応はきちんとしてくださいねランサムさん。この幻獣はどうやら、私が考えていた以上に純情な生き物のようですから」
ウーナは重ねてクギを押す。
「ランサムさん、移住先の環境は大丈夫だよね? ユニコーンに拒否られたりとかない、よね? ほら、うまい話いって嘘だとコトじゃない?」
乃梛に言えることはひとつしかなかった。
「アフターケアは、しっかりね?」
リンカが続ける。
「乙女がいないと相当困ったことになると思うよ」
狭綾は張り付いた微笑を受かべている。
「そのあたりは十分認識してるのよね、当然」
杏子もまた、似たような表情であった。
「返品はノーサンキューですから」
清廉は忠告を与える。
「とにかくユニコーンを興奮させないようにな?」
ドァアルは珍しく目を開いていた。
「捕まえて……放置とかは……やめて下さいね……」
よってたかって仲間たちが引き取り先に注意を与えている中、ユニコーンの背から降りたリリーベルは、その真っ白な鼻面を撫でてやっていた。
「……まだ名前を持っていなくても引越先では名前がつくかもしれないわね。そうしたら私、引越先へお邪魔するわ。あなたの名前を呼びに」
ユニコーンはそれに、優しいいななきで返す。
エルフハイムにてこの先どんな騒ぎが起きるかは、天のみぞ知る。
と言うウーナ(ka1439)にドゥアル(ka3746)は、ランサムから事前に渡されていた保護協会のパンフレットを見せた。
「……待ってください……ことはそう単純ではない様子……」
ユニコーンの項にイラスト付きで、このような一文が踊っている。
『ユニコーン――容姿端麗。その性潔癖にして猛々し。身も心も美しく清らな若き処女を好み、その膝を枕に眠るという性質がある。』
ウーナがぱちんと指を弾く。
「若さ! 美少女! 純粋な心で、もちろん乙女! 完璧だね!」
リリーベル・A・ラミアス(ka5488)もウーナ同様、己に自信がある様子。
「ユニコーンね。物語で何度も聞いたことがあるわ。一度会ってみたいと思っていたの。きっと美しくて神々しく、賢い生き物なんでしょうね。私なら条件にも合致するのではないかしら?」
幻獣に会えるという期待に、胸躍らせるリンカ・エルネージュ(ka1840)。
「ユニコーンってよく色々なお話に出てくるアレだよね? 研究者として一度はお話してみたいと思うんだけど」
十色 乃梛(ka5902)は、こっそり思った。
(幻獣じゃなかったら、ただの変態よね……)
清簾(ka3314)は頭をかく。
「『乙女』……私も一応は当てはまるか。『心が清らか』かどうかは何とも言えないが」
彼女はユニコーンよりも、森に住む他の動物たちを心配している。
「とばっちりで罠にかかったり、矢を射かけられたりしたら、たまったものではないな」
それと同じ意見をティア・ユスティース(ka5635)も持っていた。
ユニコーン目当ての狩人たちに、森の生き物たちや森を生活の糧にする人達の生業が脅かされる様な事があってはならない。
「狩人たちにしたって、いくら自業自得とは言っても、むざむざ命を落とさせるわけにいきませんし……ユニコーンを説得してみる必要がありそうですね」
そこで柏部 狭綾(ka2697)が、すっと手を挙げた。
「わたしは確実に『ユニコーンの好みに合わない』と思うから、この辺りに潜んでる狩人さんたちの足止めに回るわ」
杏子も言った。
「あー、私もそっちに回るわ。条件にあってなさそうだから」
要求されている条件のどれがどのように合致しないのか――そこは聞かずに察するのが、マナーというものであろう。
意見が出揃ったところで清廉は、改めて仲間を見回した。
(これだけ頭数がいれば、誰かには引っ掛かるだろう)
というわけで彼女は、狭綾たちの方を手伝うと決める。
先にも言ったが気掛かりなのは卓越した力を持つ幻獣ではなく、身を守るすべを持たない一般動物たちなのだ。
●
隠れたるものの気配を捜し当てるのは、狭綾の得意とするところ。
静謐な森の中なればこそ人間の存在は察知しやすい。都会の雑踏などより、よほど。
それはそれとして彼女、ユニコーンにあまり好感を抱いていない。
(正直、ユニコーンなんてセクハラ処女厨幻獣は全滅しても良いのだけれど……でもお仕事だものね……)
ため息つきつつ探索を続け――目当ての狩人たちを見つける。木立の間にうまく隠れたつもりでも、ハンターの目はごまかせない。
早速同行者である杏子と清廉に教える。仄暗い木立の奥を指さして。
「……あちらに、数人いますわ……それでは、万事打ち合わせ通りに……」
●
乙女たちはユニコーンの捕獲に向け動き始めた。
「では……まず私から……」
一番手はドゥアル。
木立の後ろに見え隠れしているユニコーンに、ふらふら近づいて行き、中途で立ち止まる。
そこには、おあつらえむきの日だまりがあった。乾燥した柔らかい苔が地面を覆い、可憐な花が群れ咲いている。
「……なんて素敵な睡眠スポット……寝るしか……ない……」
言うや否や本当にその場に転がり、爆睡し始める。
本能のまま動いているだけ――では断じてない。何を隠そうこれも作戦なのだ。題して『眠れる森の美女ドゥアル』。
他のメンバーは少し離れた茂みに潜み、事態の推移を見守った。
ウーナとリンカは、一緒に双眼鏡を覗きこむ。
「正直さぁ。狩人とか、どうせユニコーンに殺されるんだし、その前にあたしらが殺っちゃえば万事解決だと思うんだよね」
「一般人を殺したらこっちが罪に問わちゃうよ、ウーナさん」
「そーなんだよねぇ。面倒くさいなぁ。早く法規制とかしちゃえばいいのに……っと。きたきた」
ユニコーンは寝ているドゥアルの元に近づき、眺め回した。
……コレジャナイ。
そんな感情を表情に滲ませ通り過ぎてしまう。
そこで二番手のティアが打って出た。警戒心を起こさせないよう、盾以外の装備を全て解除して。
「あなたがユニコーンさん……ですね? 少しの間、お話よろしいでしょうか?」
ユニコーンは優雅な足取りで彼女に歩み寄り、頭からつま先まで眺め回し――また通り過ぎた。
相当好みがうるさいようだ。
三番手はリリーベル、並びに乃梛。
「いよいよ、私たちの出番のようね。行きますわよ」
「い、一応『乙女』の基準は満たしてるけど……大丈夫よね?」
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「――この森にユニコーンと似た姿の歪虚が侵入しているの。すでに他の地域では、大量に人間が殺傷されているわ。ここであなたがたに会えたのは、本当に幸いだったわ。どうか、今のうちに避難して――途中もし他の狩人さんたちに会えたら、このことを伝えて頂戴」
狩人たちは疑わしげな顔をして、狭綾に聞き返す。
「おいおい、本当か? そんな話、ここに来てから一度も聞いたことねえんだが」
「俺らを引っかけて、ユニコーンを横取りしようって腹じゃねえだろうな」
(いい読みだな。端的に言えばその通りだ)
と心の中で返す清廉は、狩人たちにやれやれと首を振ってみせた。
「歪虚の出現は常に唐突なのだ。いつどこに出没するか予測をつけるのは、残念ながら、私たちハンターにさえ至難の業。一般人なら、近くにいながら気づかぬということも十分あり得る――ところであなたがたは、なぜユニコーンを狩ろうとしているのだ? あれは狩りの対象にすべきではないものだと思うが」
最後の問に狩人たちは、いささか得意げに応じてきた。
「知らんのか。ユニコーンの角は、どえらい高値で取引されるんだぞ」
「なぜそこまでして財を欲する?」
「なぜって、儲けたいと思うのは誰しも同じだろうよ」
「もっと堅実に稼ぐという手もあるだろう」
「そんなこたあ、馬鹿らしくって出来たもんじゃねえや。大体堅実にやってたら、いつまで経っても大金なんて掴めねえよ」
言葉だけの説得が不可能だと判断した狭綾は、狩人たちを手招きした。
「ちょっと、一緒に来てください」
彼らを連れて行ったのは、半ばから折れ凍りついている巨木のたもと。
それをとっくり見せ、改めて言う。
「これが歪虚の暴れた痕跡よ。お解りかしら? ハンターでなければ、歯が立つものではないの」
実のところそれは、彼女自身が前以てコールダーショットで(朽ち木を選んで)打ち倒しておいたものだ。
が、狩人も一般人。そういう小細工が見抜けない。半信半疑ながら、不安げに顔を見合わせる。
「実はわたしたち以外にも仲間のハンターが来ているの。総出で森を探索している所――」
と狭綾が言いかけたところで、近くの茂みが動く。杏子が出てきた。痛そうに腕を押さえて。
「……大変よ……歪虚が現れたわ……」
押さえた腕から血が流れているのを見た狩人たちは、動揺した。彼女自身がわざと傷をつけそれらしく見せているのだとは、むろん知る由もない。
タイミングよく狭綾のトランシーバーが、受信音を発した。
彼女はそれを受け、耳元に当てる。
「もしもし……ええ、分かったわ……ええ……こちらもなるべく早く合流するわ……」
深刻な表情で話し込む様を目の当たりに、狩人たちの顔色がどんどん曇ってくる。
幻獣は獣だが、歪虚は化け物。猟に使う武器など、まず通じないと思って間違いない。
「ちっ、仕方ねえな」
命あっての物種と、狩人たちが退散して行く。
狭綾たちは一安心。仲間との合流地点に向かう。
●
ユニコーンがリリーベルの歌う子守歌に目を細め、静かに近寄ってくる。
純白の体に青い瞳。
見るからに神々しい幻獣に乃梛は、上目使いのお願いをする。
「ユニコーンさん、聞いて。この森にはね、狩人さんたちがいるんだよ。あなたの角を狙ってのことなんだけど……わたしたちは、あなたと狩人さんたちが争うところを見たくないんだ。だから、エルフハイムへ来てくれる?」
ユニコーンは乃梛に長い顔をぐりぐり擦りつけた。ふん、ふんと鼻を鳴らして。
近づいて大丈夫そうだと見たリリーベルは、つややかな鬣に触れてみる。喜んでいるのだろう、ユニコーンは彼女の髪をそっと甘噛みした。
ひとまず作戦成功。
ウーナは綾瀬らにその旨を、トランシーバーで伝えた。
その間にリンカは、ユニコーンへの説得に加わる。
「ねえユニコーンさん、平穏を乱す狩人が少ないところのほうが居心地が良いよ? この森よりもあっちは更に神秘的で君に似合うんじゃないかなー……エルフには美形が多いって聞くし。とにかく私たちは、君を守りたいんだ。早くこの場を離れた方がいいよ?」
彼女がそう言っている間にもユニコーンは、乃梛をぐいぐい押して座らせ、ひざ枕を始めた。
「うひっ!? ひゃっ、ちょ、くすぐったいぃ」
太ももを鼻先でぐりぐりしている。
ちょうどいい頭の乗せ位置を探しているのだろう――なんていう好意的な解釈をドゥアルはとらなかった。
「……やはり……ロリコーン……」
ティアもちょっと疑ってしまう。
「……そうかもしれないな……」
しかし、幾らか若さに乏しい乙女も完全に拒絶されるというわけでないらしい。彼女らが触ってみても、嫌がりはしないのだ。格別喜びもしていないが。
兎にも角にもティアは、座ったきりの幻獣に説き聞かせる。
「起きてください、ユニコーンさん。早く一緒に行きましょう。この場に止まるのは危険なんです」
しかし相手は全然応じず、立とうとしない。
怒らないのをいいこと背中へ乗ったリリーベルから、首筋を撫でられご満悦。いともたやすく寝始める。
もともと強いだけに、危機意識というものが乏しいのだろうか。
ウーナは頭を悩ませる。
「早く立って欲しいんだけど……担いで運ぶしかないのかなー」
まだ狩人たちが残っていないかどうか、直感視で周囲を警戒していた彼女は、ふと木の根元に光るものを見つけた。
「ん?」
見ればテグス糸が張ってある。調べてみれば仕掛け罠。糸に体が引っ掛かると、近くに隠されている自動弓が発射されるというタイプの奴である。
「ふーん?」
この際ユニコーンに危機感を与えるのもいいかもしれない。
思って彼女は、わざと引っ掛かってみた。
矢が放たれ、脇腹に突き刺さる。もちろん体には全くダメージがない。アーマーを下に着込んでいるので。
が、さも重症である振りをする。
「ぐあっ……りょっ、りょうしにやられたああ!!」
ユニコーンの前へいき、倒れる。月並みな台詞を吐いて。
「無事で……よかった……」
ユニコーンは逆上した。彼にとって乙女という存在を傷つけられるほど、腹立たしい事はないのである。
鋭くいななき立ち上がり、おのれ敵はどこにいるとばかり、木立に猪突猛進。
ゆうに二抱えはある木々を、軽くなぎ倒していく。
●
駆け足で合流地点までやってきた狭綾たちは、見た。なぎ倒されていく巨木と、荒れ狂うユニコーンを。振り落とされないよう必死でユニコーンの背にしがみついている、リリーベルの姿を。
完全に我を見失っているユニコーンは、急に出て来た綾瀬と杏子に血走った目を向けた。
「え? あの、違うわよ、わたしたち敵じゃ……」
「ちょっ……お、落ち着いてー!」
問答無用、猛スピードで突進してくる。
もちろん2人は逃げた。串刺しにされてはたまらない。
それた攻撃を食らう羽目になった木が、ベキベキ倒れて行く。
乙女であるからだろう。狭綾たちと一緒にいたのに攻撃から除外されている清廉は、倒木から投げ出された鳥や小動物たちを急ぎ回収し、手当していく。
「怖くない、怖くない、大丈夫だ……ほら、な?」
リンカは森林破壊を食い止めんと、アースウォールを発動。
行く手を塞がれたユニコーンは、棒立ちになる。騒ぎの発端であるウーナが走り寄り、その首に飛びつく。
「大丈夫、大丈夫だから! ウソウソ今のはみーんなウソだから!」
乙女の無事を確認したユニコーンは、やっと動きを止めた。
まだ荒い鼻息をついているところを、リリーベル、乃梛、ティア、リンカが総出で宥めたおし、やっと機嫌を直させる。
相手が落ち着いたのを見計らい、ドゥアルは、ポートレイト「シルキー・アークライト」を見せた。
「……さあ……新しい森に行きましょう……あわよくばこんな子に出会えるかも知れませんよ……」
ニンジンに釣られた馬よろしくユニコーンは、歩き出すドゥアルにかぽかぽついていく。
(……絵でもいいとは……想像以上の変態……保護して……どうするのでしょうか……好みの異種族に強制的に膝枕をさせ……勝手に忠誠を誓ってストーカーする……問題種族なのに……)
●
ランサムは数人の仲間とともに、森の端で待っていた。
「おお……皆さんありがとうございます!」
伝説の幻獣を前に目を輝かせる彼の肩をティアは、力を込めてがしりと掴む。
「依頼の前にも言いましたが……事後対応はきちんとしてくださいねランサムさん。この幻獣はどうやら、私が考えていた以上に純情な生き物のようですから」
ウーナは重ねてクギを押す。
「ランサムさん、移住先の環境は大丈夫だよね? ユニコーンに拒否られたりとかない、よね? ほら、うまい話いって嘘だとコトじゃない?」
乃梛に言えることはひとつしかなかった。
「アフターケアは、しっかりね?」
リンカが続ける。
「乙女がいないと相当困ったことになると思うよ」
狭綾は張り付いた微笑を受かべている。
「そのあたりは十分認識してるのよね、当然」
杏子もまた、似たような表情であった。
「返品はノーサンキューですから」
清廉は忠告を与える。
「とにかくユニコーンを興奮させないようにな?」
ドァアルは珍しく目を開いていた。
「捕まえて……放置とかは……やめて下さいね……」
よってたかって仲間たちが引き取り先に注意を与えている中、ユニコーンの背から降りたリリーベルは、その真っ白な鼻面を撫でてやっていた。
「……まだ名前を持っていなくても引越先では名前がつくかもしれないわね。そうしたら私、引越先へお邪魔するわ。あなたの名前を呼びに」
ユニコーンはそれに、優しいいななきで返す。
エルフハイムにてこの先どんな騒ぎが起きるかは、天のみぞ知る。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/03/31 00:25:27 |
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ユニコーン捕獲相談卓 清簾(ka3314) 人間(リアルブルー)|19才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2016/04/04 23:17:44 |