• 審判

【審判】坊ちゃん剣士、調査に行く

マスター:狐野径

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/04/05 07:30
完成日
2016/04/12 00:52

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●かっこいい動物
 グラズヘイム王国の中央北東にある小さな町フォークベリーのエクラ教会をまかされている司祭であるマークは得られた情報に溜息を洩らした。
「結局……状況はこれ以上は分からないんですね」
 配られた新聞など王都にいる知り合いが送ってきてくれたが、行動への正解は見えない。
「……シャールズ君からも情報欲しいと言ってますが……」
 この町を含むこの近辺の領主の名をつぶやく。
「……先日、リシャール君が独りで出かけて大変だったと言ってましたね」
 結局隣の家に住む魔術師に保護者として行くように頼み、何とか無事帰宅したとのことだった。
「その間、弟子の方が放置なんですけどね」
 師匠の魔術師がいないのが慣れっこで独りでその弟子はのびのびとしている。
「おや?」
 目をキラキラさせた魔術師の弟子であるルゥルが走ってくる。バンと良い音を立てて扉を開き、入ってきた。
「聞いてください! この領地の端っこの巡礼路にかっこいい動物が出るそうです! 見たいですっ!」
「駄目ですっ!」
「何でですか!」
「最近、巡礼路で事件が多いのです。そんな変な動物、歪虚に違いありません」
「幻獣かもしれません!」
 ルゥルがきちんと反論したため、マークは返答できなかった。確かに存在はするかも知れないが、もし幻獣なら、もっと大々的に宣伝なり話題になるはずだ。
「……それより、マーナが残した課題は終わったのですか」
「……みぎゃ。スリープクラウド」
「がんばりましょう」
 会話はこれで終わったはずだった。ルゥルはスリープクラウドをペット相手に練習しているはずだったのだ。

●坊ちゃん、調査に行く
 シャールズ・ベリンガーは巡礼路の警戒警備について頭を抱える。町から外れているところであるため、常時人を置いておけない。兵力も大して持っていないためハンター頼りになるだろう。
「フォークベリーの城門は閉められるようにしておかないといけない」
 街道が一番近い町に人をやるとともに、自分はここにいるべきかと悩む。動きたいが指揮の中心が動くのもいけない。
「父上は全体を見るので忙しいでしょうから、私が街道に行ってきます」
 息子のリシャールは役に立てるところだとばかりに提案した。
「待てっ! 行かなくていいから、大人しく家で剣術のけいこや……」
「何故です! 私だってちゃんとやれるって証明したではないですか」
「それは、ハンター諸氏がいたおかげだ」
「う……今回は、領内の事です。なら、父上の代わりに見て来るだけなら、そこまで危険ではないはずです」
 リシャールはめげずにアピールする。
「馬で行って、問題があればそのままハンターズソサエティの支部に行きます」
「……そこまで言うなら……危険ならすぐに帰るんだぞ?」
「必ず、成果を上げますっ!」
 任されたことで満面の笑みの息子を見て、不安と信頼でシャールズは溜息をついた。

 リシャールは翌日、さっそく調査に出かけ、現場の近くの小さな町フォークベリーのエクラ教会で話を聞こうとした。
「あの、すみません。何かあったのですか? あわてているみたいですが」
 飛び出してきたマーク司祭とぶつかりかかる。
「いや、なんでもありませんよ? 教会に用があるのですね?」
「はい、街道を進んだ先にある村の近くを通る巡礼路の事で……」
 マークはぎょっとした。そして冷静に来た少年を見て一つ思ったことがあった。
「ひょっとしたらシャールズ君の息子さん?」
「……え?」
 マーク司祭はシャールズとハンター仲間だったことを告げ、リシャールが赤ちゃんの頃はたびたびあっていたという。
「初めましてと言っておきますね」
「は、はい、よろしくお願いします」
「いえいえ」
 穏やかな町の司祭はふさわしく思える笑顔だ。
「街道ですね……実は、隣の魔術師の……マーナの弟子が独りで行ってしまったみたいなんですよ」
「え?」
「かっこいい動物が出るらしく確かめに行くと」
「かっこいい動物」
 リシャールはごくりと生唾を飲む。
「巡礼路の夜に現れるらしいのです。隠れたら彼女を見つけるのは難しいので、ハンターに真相を確かめに依頼をしに行くところです」
「……巡礼路で起る事件を調べに来たんです」
 マークは驚きつつリシャールを見る。リシャールは小柄で細く頼りなさげ、馬はゴースロンのようだ。
 色々考えつつ見ていると、見え隠れする執事ぽい男の姿がある。
「……行ってみてくるだけなら……」
「はいっ、日があるうちに行って戻ってきて……」
「ここに泊まればいいですよ」
「ありがとうございます」
「ところで、じいやさん、連れてきていますか?」
 リシャールははっとして振り返る。紳士は素早く隠れた。
「……いましたか?」
「いましたよ……」
「追い返してから出かけてきます」
 マーク司祭は不安もあったが、ハンターへの依頼が先だと思い出かけて行った。

●坊ちゃん剣士と魔術師の弟子
 ルゥルは茂みに隠れてじっとしていた。
 昼間は人がそれなりに通っていたが、今はいない。
「フレオ暖かいです」
 ペットのフェレットを抱きしめ、まだ寒い外で待つ。
「羽のあるライオンさん……楽しみです」
 立派な馬に乗った少年がやってきた。
「みぎゃ、ルゥルの耳を引っ張った、偉い人のお子さんタイプです」
 ルゥルは耳を隠した。町に住んでいた赤ちゃんの頃、腹違いの兄や近所の貴族か裕福な商人の子どもに耳を引っ張られた。それは大嫌いなことで、エルフだと言うことを隠している。
「ルゥルさん、いますか? マーク司祭が心配していますよ」
 少年は大きな声でルゥルを探している。
「……きっと罠です!」
 しかし、本当に悪い奴ならマークがそんなことを頼むわけがないとルゥルは考えた。その時、ガサガサと言う音がしたため、ルゥルは振り返る。背後に燕尾服の老紳士が立っていた。
「みぎゃあ!」
 ルゥルは悲鳴を上げた。
「坊ちゃま、当該のお嬢様を発見いたしました」
 老紳士は何もなかったように、少年に声をかけた。
「坊ちゃまと言うな! なぜ、町で待っていない!」
 少年は怒って馬をルゥルたちの方に向けようとした。
 表情が一層険しくなる。
「……じい、その子を連れて離れろ!」
 リシャールは手綱を引くと、馬を走らせる。
「た、助けてくださいっ」
 必死に走ってくるエクラ教の巡礼者数人と追いかける生き物が見えたのだった。
 リシャールは唾を飲み込む。
「わ、私が相手だ! 下郎!」
 リシャールは馬から飛び降りると、マテリアルを解放した。刀を握る手に冷や汗がにじむ。
「坊ちゃまもお逃げください!」
 じいの声が響く。
 リシャールだって分かっている、無茶だと言うことが。複数体いる上に、大きさも馬以上ある。ひるめば、誰も助からない。
「こっちです、みなさん、こっちですぅ! おじいさん、駄目ですよぉ」
 ルゥルは必死に巡礼者たちを誘導しようとしていた。
 この声でリシャールはじいやが近付いているのを知った。

リプレイ本文

●後少し!
 依頼を受けてルゥルの保護および運悪く歪虚出現の場合の対処にやってきたハンターたちは切羽詰まった声を耳にした。
「あちらです、急ぎましょう」
 レイ・T・ベッドフォード(ka2398)は仲間に声をかけるが早いか、ゴースロンのスピードを上げた。
 その方向に巡礼者らしい影が見え隠れしている。
「巡礼者?」
「被害を食い止めないと!」
 柊 真司(ka0705)とザレム・アズール(ka0878)が機導術を使い、バイクを加速させる。
「巡礼者を襲う歪虚か」
 春日 啓一(ka1621)は盾にナイトマントを巻きつける、正面に十字が来るように。巡礼路に出る歪虚がどうやって巡礼者と一般人を識別するのか分からないが、もし、目に見える印に寄るならばおとりになるかもしれない。
(啓一きゅんと一緒……とか考えている場合ではないっ!)
 クリスティン・ガフ(ka1090)は愛しい人と一緒のうっとり思考から、助けを求める者へ手を差し伸べるハンターに切り替わる。
「巡礼路に出る有翼獅子が同じか分からないが」
 アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)は仲間に危惧していることとして伝えていた。かっこいい動物かは別としてキメラ状の歪虚が現れ、爆発する可能性もあるということを。
「要救援者の全員を救出……あの声はリシャール? まったく、ゲンコツくらいはあげようかしら」
 マリィア・バルデス(ka5848)は怒りながらも、冷静に位置を把握する。
「想定の内の悪い方に転がっているようだな」
 ロニ・カルディス(ka0551)は丁字路のあたりにいる小さな影が、今回探しに来た知り合いの女の子に似ていると感じ、ハンターとして頑張るとよりも逃げてくれることを祈った。

 リシャールはここまで自分の心臓の音を意識したことはなかった。歪虚たちを攻撃するにできず、退くに退けない。マテリアルを活性化させ傷を和らげることしかできない。
「おじいさん、下がってください! お兄さんも下がっていいですよぉ! 【まじっくあろー】」
 舌足らずだが、必死で現実に抗おうとしている女の子の声。リシャールの横を通った魔法の矢が有翼子獅子に刺さったのを見た。
 その後、リシャールの耳に入る音に機械や馬が地を踏む音が加わった。視線は動かせないが、希望が湧いた。このような音を立てる一般人はいないはずだから。

●交代
「止めろっ! 【デルタレイ】」
 リシャールと敵の間に割るように入りバイクを止めたのはザレムだった。リシャールのけがの程度を見た瞬間、逃がさないとまずいと判断した。彼の判断力を伸ばしたいと思うが要注意であり、考える暇はない。
 ザレムは有翼獅子たちの攻撃を一身に受けることとなる。幸い、盾でほぼ受け止めたが、仲間が追いつくのはすぐなのでそれまで耐えればいいのだ。
「リシャール、君はどうしたい?」
 ザレムの問いかけへの返答よりも先に耳に入ったのは気の抜けた「まじっくあろー」という声だった。その魔法は避けられた。
「ん? 普通に攻撃しているけれど、幻獣って可能性あるんじゃないのか?」
 わざと術を外したザレムは困惑をし、リシャール達に確かめたかった。歪虚である可能性が高いが、幻獣がいないという保証はなかった。
「……幻獣の巣があるとか聞いたことないです」
 刀をだらりと下げたリシャールであるが、意識はしっかりしているようでザレムの疑問に答えた。
「道を歩いていたら突然それが来たんです」
 巡礼者の中で若い男が答える。幻獣がいるという話がなかったと言うことに他ならない。旅する者は情報を得ようと努力するだろうから。
 その横を大きな音を立ててバイクが通り、乗り手から【デルタレイ】が獅子に向かって放たれる。
「お前達の相手はこっちだぜ。かかってこいよ」
 真司は挑発するように有翼獅子たちに声をかけると、巡礼者がそれらの視界から消えるように移動した。
 バイクの音が気に障ったのか、歪虚たちはうなり声をあげて動くバイクを目で追う。
 この間に、ハンターが次々と追いつき適宜位置を取っていく。
「よい気概だ。私達に任せてもらってもいいが、実践は訓練の何倍もの密度となる……」
 アルトは下馬しつつ、リシャールに声をかける。マテリアルヒーリングで耐えているリシャールだが、もし、戦うという気持ちがあるならフォローしても後進を育てる意義もあると考える。アルトはちらりとじいや――改めアネスト・イースの状況を見る。
「あなたはじいや様を連れてルゥル様をお守りください」
 レイは追いついたところで告げる。視線の先のアネストを見て、リシャールを説得する方が早いと考えた。一般人らしいアネストが安全なところから飛びだしたなら、坊ちゃんたるリシャールがいるところに向かうだろう。
「やっぱり説得難しいのか……」
 武器を構えたアルトは苦虫をつぶしたような顔になる。一瞬視線が合ったリシャールから戦意が失せていないことは、将来はあると安堵する。
 リシャールはアネストの側に行くと、支えられるように後退を始める。
「ガキの頃は混ぜモンがかっこいいと思ったがなぁ……。おらおらドラ猫ども、こっちを向けや!」
 歪虚の左側に回り込んだ啓一からマテリアルの炎が上がる。効いたのか、脅しが効いたのか、歪虚の一部は意識している様子だ。
「安心して下がれ、もちろん油断はできないがな」
 クリスティンが前衛たちの後方に構え、歪虚たちが突破したときに備える。
「下がるなら、早くこっちよ」
 巡礼者たちがいるあたりにサブマシンガンを構えたマリィアがいる。
「ルゥル、攻撃を止めてこっちに」
「はいですぅ」
 ロニに呼ばれてルゥルは両手を上げて返事をした。近くにいる巡礼者と足並みをそろえルゥルはロニがいる方向に足を進めた。

●激突
 リシャールがアネストをつれて下がり始めた直後、敵の目の前にいるハンターたちとの攻防が始まる。
「爆発される可能性もあるが、まずは」
 アルトはトンと大地を踏みしめ歪虚たちをすり抜けるように移動した。そこから仲間の方に戻る際、素早く刀を振るう。幾重も振られた刃の元、有翼獅子から白い物が吹き出し、塵と化して消える。血ではなく、羽が飛び散ったのかもしれない。
「その爪牙、折らせていただきます」
 レイは状況を見て、手前の子獅子に【ワイルドクラッシュ】を叩きこむ。羽が折れればそれが一番であるが、うまくは行かない。それでも、攻撃を続けることは重要だ、歪虚を滅するためには。
 羽をパタパタさせて跳ぶのか、脚力で跳んでいるのか子獅子は鬱陶しいほど上下に動く。
「歪虚の外見っていろいろだからな」
 ザレムは【デルタレイ】を使いながら改めて歪虚の姿を見る。出会えるなら歪虚より幻獣の方がいいに決まっている。
「リアルブルーなら『幻』でも、こっちだと存在する動物かもしれない。厄介だぜ」
 真司は敵からやや離れ、マシンガンで攻撃をする。移動する者たちを守るために。
「ドラ猫ども、爪とぎには強い人間の方が面白いだろう?」
 啓一は構えつつ、歪虚を挑発する。仲間が遮っているとはいえ、歪虚が巡礼者たちの方向に行くの気をそぐ。
「アルトや啓一き……が前にいるからまだ……」
 クリスティンは敵が抜けてくることがあれば、その翼を叩き折るつもりで構えて状況を見る。
「守ること、攻めること……両方重要よね」
 マリィアはやってくる巡礼者たちを守るように、少しずつ敵に近づきつつマテリアルを込めて引き金を絞る。

●守備
 後方に下がったリシャールはロニに癒しを貰う。
「ありがとうございます」
 うなだれているリシャールがロニにお礼を言う。
「まだ、戦いは終わっていない」
「みぎゃああ、歪虚がもっといて、コッチから来る可能性もあるですよぉ」
 ロニはルゥルの言葉に驚く。彼が出会うとルゥルは危なっかしい行動を取っているが、状況を把握する能力は持ち合わせているようだと初めて知ったのだった。
 別働隊がいると考えずとも、前衛のハンターたちを突破してくる可能性もあるのだ。後方にいるからといって安心はできない。
「そうだな……仲間の射撃は届くがいざとなったら俺が守る」
 ロニは安心させるように告げる。
「……巡礼者さんたちはルゥルも守るです」
「はいっ、私もまだやれます」
 ルゥルとリシャールは力強く宣言した。
「あてにしているぞ」
 ロニの言葉にルゥルとリシャールがうなずいた。

●炎
 前衛の攻防は続く。
 ハンターにも歪虚にも傷は積み重なる。
 子獅子が一体が無に還ったとき、大きな獅子が動いた。
 ハンターは何かしらの『炎』や『爆発』の攻撃を予期していたためできる限り離れる。離れすぎて後ろに控える巡礼者たちに影響があってもならないため難しいところだった。
 獅子は大きく息を吐きだした、炎と共に。
「範囲が広いっ!」
 アルトは回避しつつ後方を見る。この後に戦線が下がれば被害が出かねない。
「熱いですね……」
 レイは眉を顰めるとともに、己の体内のマテリアルが傷を治そうと動くのを感じる。
「だからと言って攻撃しないわけではない」
 ザレムは奥歯を噛むように次の行動へ移る。
「これでガソリン引火なんてことはないからいいけど」
 頬を撫でた炎に真司はバイクのことを考えた。
「こっちだって、怒ってるんだぜ?」
 啓一は次の攻撃のために前に出た。
「私は……一気にたたみかけるべきか」
 クリスティンは後方に下がった巡礼者を見て逡巡した。
「私達も加わって一気に行ったほうが、いいかも」
 攻撃をしつつ追いついたマリィアが告げる。
 クリスティンは後方の巡礼者のところにロニに加え、駆け出しハンターが二人の姿が見えたため、前進した。
 
 炎に用心をしつつ、ハンターたちは攻撃を叩きこむ。
 炎の攻撃を何度も使ってくることはないが、鋭く重い爪は当たると確実にハンターに傷を負わせた。
 ハンターたちは独自に編み出した技や伝来の技など惜しみなく使う。磨きこまれた技によって歪虚は無に還っていかざるを得なかった。

●安堵
「リシャール、無事だったか?」
「ザレムさん……はい」
 ザレムの前にいるリシャールはかろうじて立っているという風にしか見えない。怪我の程度は重いようだ。手当をするとリシャールは泣き出しそうな顔になるが耐えている。
「頑張ったな」
 ザレムに微笑まれ、リシャールはほっと息を吐いた。
「癒しは行っているから、後は自然に疲労が取れるのを待つだけだ」
 【ヒーリングスフィア】を使ったロニは、ルゥルの前にしゃがむ。
「マーク司祭が、我々を送った理由が分かるかな?」
「……みぎゃああ。ごめんなさい、だって、かっこいい動物見たくて……ごめんなさいぃ」
 ルゥルはロニを見ると泣き始める。彼女のペットたちは必死にルゥルをなだめている。
「無事で良かった」
 ロニは溜息交じりにルゥルの手を取り、優しく包んだ。
 ルゥルは温かさに大泣きになった。
「かっこいい動物……幻獣ということでしょうか?」
 レイはルゥルの無茶で可愛らしい理由に苦笑する。無事で何よりであり、できれば幻獣だったら胸がいっぱいになったのかもしれない。
「状況はともあれ……巡礼者の方々は助かったような物ですね……」
 レイはふとつぶやいた。歪虚が出ないことが一番なのだが状況としてそうなる。
「そ、そうですね。ありがとうございました。我々にはエクラの加護があったと祈らねば」
「ばあ様の疲労が激しくて休みが増えておったんじゃ。巡礼には怖い話もあったし、不安だったが」
 はっとした巡礼者たちは口々にお礼を言う。助かったことで安堵していたため忘れていたことであった。
 ルゥルもリシャールもお礼を言われたところで、素直に喜べる事態ではない。助けたのはハンターなのだから。
「二人とも分かっているみたいだけれど……運良かったとはいえ、今は有翼獅子とか狼とか変わった歪虚が出現している。ルゥルはちゃんと調査もしないで現地に入るのは学者の卵としてうかつ過ぎよ。それに、リシャールは指揮官の卵なのよ。自分も他人も守れる部隊を率いて巡回していたら、他の人たちを守るのも簡単だった。ハンターになることもいいけれど、部隊の動かし方を考えた方がいいわよ、あなたは」
 マリィアは拳を固めて軽い拳骨を食らわせるつもりでいたが、すでに後悔しているルゥルとリシャールを見て手は下した。
「みぎゃあああ、ルゥルが悪いんです、お兄さんは悪くないです」
「いえ、私が、もっと早くルゥルさんを探しに来られていれば良かったんです。じいを置いてくるのに手間取って……」
「ルゥルがいけないんですぅ。お兄さんのお蔭でルゥルは何ともないんです!」
「いえ、私がもっと早く……」
「ええ、坊ちゃまはひとつも悪くありません」
 じいやの言葉にルゥルとリシャールは黙った、何かおかしい。
「二人とも反省しているんだ、今後に……ん? 待って……君が来るのが遅れた理由って」
「じいが付いてくるから……ルゥルさんの事も心配で」
 真司はリシャールの返答に頭痛を覚えた。
「あー、さっきから気になっていたんだが! 忠義のつもりか知らないが、坊ちゃんを信じて括目して、成長を見届ける忠義はないのか?」
 クリスティンが苛立ちを募らせ、アネストに言葉を投げた。
「見届けております。坊ちゃまの為なら、たとえ火の中、水の中お守りすることも厭いません」
 アネストの淡々とした言葉に沈黙が漂う。
「ルゥルは司祭が言っていた子だよね? そっちの少年は、世話好き過ぎるアネストがいるということはここの領主の息子とか?」
 アルトが確認をすると、ルゥルが「ルゥルです」と答え、リシャールが自己紹介をした。
「丁寧にありがとう。で、本題だけど、将来の主が成長を望むのを遮るのか? あんたの行動は雑事を取り除いてやるどころか、窮地に陥らせているじゃないか」
 きっぱりと言ったところで、リシャールが目をぱちくりさせている。一方のアネストは堪えた様子もなく、馬耳東風。
「……たぶん、ここでもめても仕方がねぇ問題だよなぁ」
 啓一は溜息交じりにアネストを見た。
「それより、帰ろう。どうする、馬に乗れるか?」
 言葉を向けられたリシャールはうなずいたが、乗る力がないためどうしようかと一瞬考える。巡礼者もいるため、早くは移動できないため、押すバイクに乗せてもらうこととなった。
 ハンターたちを眺めリシャールは自然と微笑む、憧れと安堵とともに。

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MVP一覧

  • 幻獣王親衛隊
    ザレム・アズールka0878
  • SKMコンサルタント
    レイ・T・ベッドフォードka2398
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニka3109

重体一覧

参加者一覧

  • 支援巧者
    ロニ・カルディス(ka0551
    ドワーフ|20才|男性|聖導士
  • オールラウンドプレイヤー
    柊 真司(ka0705
    人間(蒼)|20才|男性|機導師
  • 幻獣王親衛隊
    ザレム・アズール(ka0878
    人間(紅)|19才|男性|機導師
  • 天に届く刃
    クリスティン・ガフ(ka1090
    人間(紅)|19才|女性|闘狩人
  • 破れず破り
    春日 啓一(ka1621
    人間(蒼)|18才|男性|闘狩人
  • SKMコンサルタント
    レイ・T・ベッドフォード(ka2398
    人間(蒼)|26才|男性|霊闘士
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデス(ka5848
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
レイ・T・ベッドフォード(ka2398
人間(リアルブルー)|26才|男性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2016/04/05 06:56:04
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/04/03 19:41:38