悪意撒き散らす不定形

マスター:T谷

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2016/03/30 19:00
完成日
2016/04/08 13:45

みんなの思い出

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オープニング

 それは暗闇の中で生まれた。
 石畳の隙間を縫い、溶け広がっていく体を繋ぎ止めるように本能が芽生え、徐々に広がる世界にそれは大きく感動を覚えた。
 世界は、音に満ちあふれていた。数え切れない音の群れが、それの体を震わせる。

 ――悲鳴、怨嗟、嗚咽。命を乞い、帰してくれと叫ぶ声。罵り、あらん限りに叩き付けられる怒号。潰れ、千切れ、ねじ切られ、摺り下ろされ、抉り取られ、剥がし、引き抜き、突き刺し、流れ出て、噴き出して、垂れ流されて、そして滴り落ちて広がっていく。

 様々な音を聞いた。だがそれが、いま聞こえているものなのか、元々別の何かだったときの記憶なのか。
 そんなことは、最早それにとってどうだって良いことだった。
 その音をかつて自分が発していたことさえ、忘れてしまっていた。



「なんかここ、超くっさくね?」
「はい」「長らく」「放置」「しておりました故」
 とある小屋の地下室の扉を開いた途端、溢れ出した臭気に、エリザベートは顔をしかめた。真っ先に扉の先に顔を入れた事が災いし、長く封鎖され濃縮された上澄みを吸ってしまったらしい。
 普段から腐臭や死臭など嗅ぎ慣れて、むしろそれらを好む性質すら持つ彼女が嫌悪するほどの、圧倒的にこの世ならざるな臭いが地下に満ちていた。
「つか、管理とかさ、やんねえ? ふつーさ。こんなんじゃこの別荘もう使えねえじゃん」
 エリザベートは鼻を摘まんで後退る。戸棚の奥に取っておいたお菓子が、いつの間にかダメになっていたような落胆と苛立ちを隠しもしない。
 非難を向けられて、彼女の背後に付き添った、燕尾服とメイド服をきっちりと着こなす二体のゾンビが深く頭を下げた。
「……別に、捨てたら良いじゃないか。こんなところ」
 続いて、静かな声が響く。その男の声が聞こえた途端、エリザベートはバッと勢いよく振り返っていた。
「は? 何、あたしに口出しすんの?」
 眉間に皺を寄せ、牙を剥き、敵意も露わにエリザベートが声の主に詰め寄る。
 声の主、青黒い鎧に身を包んだ戦士風の男は、その勢いにも全く動じず、目を細めて彼女に目を向けた。
「あんたは、あたしの部下なの。命令は絶対だし、あたしのやることに一々ケチ付けんじゃねえ。そういうの、マジムカつくから!」
 指を差す要領で、男の首に尖った爪をぐりぐりと突き刺して、エリザベートが怒鳴りつける。
 指を伝って流れ出る血を見ながらも、男は表情一つ変えない。
「……分かった」
 そして静かにそれだけを返した。
「――ちっ」
 面白くない反応だったのだろう、エリザベートは舌打ちと共に爪を引き抜くと、濡れた爪を一舐めしながら男の顔を睨むと踵を返した。
「で、掃除屋は? 出来てたんでしょ」
 気を取り直したように、ゾンビに声を掛ける。
「はい」「どうやら」「捕らえておいた内の一人が」「変化した」「ようですが」「壁の隙間から」「外に出てしまったようです」
「はあ? 何それマジ使えねえじゃん。じゃあ何? このくっさい部屋が残っただけ?」
 有り得ねえと呟き、エリザベートはため息をつく。
 どうやら、この小屋は本当に捨てた方が良いようだ。一度掃除屋が生まれてしまうと、そこはオモチャを保存するに適さない空間になってしまう。それを改善するくらいなら、新たな拠点を見つけた方が断然早いし楽だろう。
 スカートの裾を翻し、聞こえがしに高らかな足音を響かせてエリザベートは小屋を後にする。
「おら、行くよ!」
 すれ違い様に、ひっそりと佇む男に腹いせの蹴りを叩き込みながら。
「……何故蹴る」
「ムカつくから!」
 小屋の外に置いたアイアンメイデンの鎖を乱暴に掴むと、エリザベートは次の拠点を目指し宙に浮かび上がった。



 第二師団都市カールスラーエ要塞の地下に広がる大空間。今日も今日とてドワーフ達がせっせと作業を続けるそこに、野太い悲鳴が響き渡った。
「おい、どうした!」
 親方と呼ばれるドワーフ達のまとめ役は、慌てて作業を中断すると声の聞こえた場所へと向かう。
 声には聞き覚えがあった。部下のドワーフの一人だ。
 悲鳴に驚いたのだろうか、地下は軽いパニックに陥っていた。現場と思われる方角から、次々に人が逃げていく。それこそ、流れに逆らう親方の姿も見えていないように、必死な形相だ。
 不安が募る。
 そして、それを裏付けるようにまたいくつかの悲鳴が上がった。
「何があった!」
「お、親方! グレオンの奴が!」
 そこは、魔導アーマー格納庫予定地の近く、物資倉庫として掘り進めていた地点だ。未だ壁は全て岩で覆われていて、これから金属によって補強を施す予定になっていた。
 その奥に、よく知るドワーフの倒れた姿と――何か、赤黒い水溜まりのようなものが広がっていた。
「きゅ、急にあれが岩の間から!」
 よく見れば、水溜まりは蠢いている。
 一目で分かった、あれは間違いなく歪虚だ。
「グレオンが触った途端に、あいつ急に苦しみだして……!」
「全員下がれ! 地上に逃げるんだ」
 言葉を遮り、親方は叫ぶ。
 あれは危険だ。
 遠目から見ても分かる。グレオンは、既に事切れている。その肌は黒く変色し、まるで流行病に罹患して病魔が急速に体を蝕んだようだった。
「で、でもあいつが……!」
「そう思うなら、さっさと走って誰でもいいから呼んでこい!」
 親方の一喝に、若いドワーフはもんどり打って走って行く。
 その足音が消えないうちに、水溜まりに変化があった。
「……やめて、助けて、痛い、嫌だ、ふざけんな、死ね、殺す、てめえ覚えてろ、許さねえからな、殺してくれ、うぎゃあああ……」
 ぐちゅぐちゅと粘液の混ざる音で象った、そんな言葉が聞こえてきた。同時に、水溜まりの蠢きが激しくなる。
 水溜まりの中心に、粘液の柱がせり上がる。水は吸い込まれるように柱に集まって行き――そして全てが集まった後、赤黒い液体は二本足で立つ巨大な人型へと形を変えていた。
 人型がのそりと歩き出す。その先には、倒れ伏したグレオンの姿。
「おい、おいやめろ!」
 親方が駆け出す。そのまま背負ったツルハシを引き抜くと、人型の頭に向け思い切り振り下ろした。
 ぐちゃりと、人型の頭が弾ける。同時に、鼻がもげるような悪臭が親方を襲った。
 それは、憤怒に燃える心を一瞬に折るほどに強力で。
 親方は思わず鼻を覆って地面を転がっていた。
 対して人型は、頭を失ったことを気にもとめず、崩れた体でグレオンの元へと辿り着き。
 その体に、覆い被さった。
「や、やめ……!」
 ぐつぐつと、粘液に包まれた体が泡立つ。肉体が、骨が、見知った姿が見る間に醜く変貌していく。
 ほんの、十数秒の出来事だった。
 グレオンというドワーフがこの世に存在した、その証はもう、どこにも残っていなかった。

 ぐるりと人型が、既に再生した頭を親方へと向ける。どうやら、次の獲物を見つけたようだ。

リプレイ本文

 地上にてドワーフ達から事情を聞き、ハンター達は現場へと急いだ。
 近づくにつれ、聞いていた臭いが漂い始める。想像よりも、数段強烈だ。
「うおっ、くせぇ!」
 岩井崎 旭(ka0234)は思わず鼻を押さえていた。
 強靱な覚醒者の肉体や精神を以てしても脳の芯まで侵し揺さぶるような悪臭に、全員が図らずも似た反応を示してしまう。
「五感への刺激は、厄介だわ……」
 臭いの話を聞いてから十色 エニア(ka0370)が直ぐに用意できたマスクは、本格的なものとは言えなかった。 
 だがそれでも、かなりマシにはなるだろう。鼻と口を確りと覆い隠し、意を決して前に進む。
 同じようにハンター達は、それぞれに用意したバンダナや布で口元を隠す。フォークス(ka0570)とブレナー ローゼンベック(ka4184)はそういったものを持ってきていなかったが、仲間に勧められドワーフ達に借りたタオルで代用した。

 ハンター達が部屋の入り口へと駆け込んだとき、それは部屋の中央に佇んでいた。天井まで届く人のような形をした赤黒い粘液の塊が、ぶつぶつと声を発している。
「ドリアンとシュールストレミングかき混ぜたってンな臭いしないネ」
 軽口を叩きながらフォークスは、更に増した悪臭に辟易と肩を竦める。
「……この酷い臭いの発生源はアレでしょうか。アレでしょうね」
 その存在を目にしたフランシスカ(ka3590)は、どことなくデジャブを感じていた。
 絶えず続く怨嗟の声。それに意味があるのなら、あれが記憶している、実際に聞いた音なのだろうか。
「確か、取り残されたドワーフがいるという話でしたよね!」
「そう言ってたわね。あの致命的に面白そうなのを前に生きていられたら、だけど」
 霧崎 灯華(ka5945)が地上でドワーフに状況の説明を求めたとき、同じく話を聞いていたブレナーは、必死に部屋の中に目を凝らす。
「目は無いみたいだし、音でも検知しているのかしら?」
 対して灯華は、濡らした布を鼻に詰めて臭いを防ぎながら、粘液の塊に観察の目を向けていた。



「くっせーーーッ!! テメー、ご近所迷惑だ!!」
 怖気の走る臭いに罵倒を飛ばし、旭が斧を担いで飛び出した。
「触るのはマズいだろうが、こっから逃がすのはもっとマズいよな。ならここで、この場でぶっ倒す!」
 口元を覆ったバンダナの下で旭はニヤリと大きく笑い、一息に斧の射程に身を滑らせる。
「さぁ、来いよ! テメーのエサはここだ!」
 叫ぶと共に、旭の体と武器に攻撃的なマテリアルが絡みつく。そのまま大きく振り抜けば、粘液の一部は容易く両断された。
 粘液の体がぐらりと傾く。しかし反応は薄い。
「スライム……なのかな、あれ。そこに分類するのは、ちょっと、認めたくないかも」
 部屋に突入しながら、二対の羽のようにも見える緑の風をエニアは纏う。
 スライムだとしたら、体を飛ばして攻撃してくるかもしれない。そう予測し、壁を背にするように移動する。
「……生きていますよ、絶対!」
 ブレナーもまた、部屋の中に飛び込んでいた。その目は粘液ではない場所に向いている。
 何かに隠れているのかもしれない。そう思って、ブレナーが大きく迂回したときだった。
「――居た!」
 倒れた工具棚に隠れるように、一人のドワーフが横たわっているのが見えた。見たところ肌の変色も起こっておらず、聞いていた毒の影響も受けていないようだ。
「……アレの注意は旭に向いているようですね。今のうちに、助けに向かいましょう」
 フランシスカがブレナーを追う。
「へえ、生きてたなんて中々やるネ!」
 フォークスは距離を取って、銃を構えた。ここならば臭いは薄く、またどんな攻撃が来ても対応が多少容易になるだろう。
「何が効くかは分からないけど、図体がでかいならこれかしら?」
 敵の様子からして、前衛を盾に後ろからスキルを撃つしかなさそうだ。
 灯華は符にマテリアルを込め、放り投げる。次の瞬間、空中で符が稲妻と化した。
 バチバチと空気を焦がし、瞬きよりも早く雷撃が粘液を貫き。

 粘液が咆吼を上げた。

 雷撃に全身を大きく震わし、それまでの緩慢さが嘘のように顔部分がぐるりと回る。顔のない顔が灯華を見据えた。
「んー、効果抜群だったのかしら」
 そして粘液の一部が盛り上がり、射出される。
「させないヨ!」
 ほぼ同時に、フォークスの銃が火を噴いていた。
 放たれた粘液は銃弾のような速度で灯華に向かい――しかしフォークスの銃撃が的確にそれを撃ち抜く。
 パンと弾ける音が響き、粘液が辺りに散らばった。
 だがそれにより発生した細かな飛沫を、灯華は避けることが出来なかった。咄嗟に腕を出し、急所を庇う。
「Oh,sorry!」
「直ぐに回復を」
 状況を見てフランシスカが踵を返そうとするが、
「あら、気にしないで?」
 灯華の持つ符が炎を放ち、腕ごと付着した粘液を焼いていた。
「む、無茶するわね」
「死ななければ安いものよ」
 灯華は事も無げに言い放つ。
 即座に焼いたことが功を奏したのか、毒の侵食は起こっていないようだった。



 ブレナーは急いで倒れたドワーフに駆け寄った。
 息がある。それが分かっただけで、抑えきれない安堵が胸に広がった。
「大丈夫ですかっ?」
「……おう、ハンターが来たか。ありがてえ」
「回復をしましょう、少しだけじっとしていて下さい」
 フランシスカを中心に、柔らかい光が広がっていく。その光が肌に染みこむ度に、ドワーフの顔色は良くなっていった。
 その間にドワーフは、ことの顛末をブレナーに伝えた。
 粘液が生き物を簡単に溶かし取り込むこと。死ぬ気で躱すことに専念すれば、ただのドワーフでもギリギリ生き残れること。
「……分かりません。何で歪虚は、人を襲うのでしょうか」
 一人のドワーフが、あれに跡形もなく飲み込まれた。そのドワーフの、今後広がっていただろう未来を思ってブレナーは胸を痛める。
 どうしてそんなことが出来るのか、聞けるものなら聞いてみたかった。
「これくらいで十分でしょう。さあ、逃げてください」
 回復が終わり、フランシスカが静かに促す。
「悪いな姉ちゃん、助かったぜ」
「ボクが時間を稼ぎます、急いで!」
 ブレナーが、粘液とドワーフの間に入る。背後で足音を聞きながら、万が一に備えて刀を構えた。

「ドワーフのおっさん元気だったか!」
 旭が長大な斧を翻す。粘液を容易く斬り裂く刃は、その一部を落とすことに成功する。
 これが分裂し別の個体になるかどうか、それを確かめるためだ。
 しかしてべちゃりと地面に落ちた赤黒い塊は――ぐねぐねと奇妙に動き、這うように本体へと移動を始めた。
「ちっ、分裂しやがるみたいだな」
 それが攻撃能力を持っているかは分からないが、少なくとも斬ってそれで終わりとはならないようだ。
 そして粘液の顔が、今度は旭をぎろりと見た。
 再び粘液が、旭に向けて放たれる。
「Failure teaches success.ってネ」
 その粘液の先端を、フォークスが狙い澄まして撃ち抜いた。
 先程の一撃で、粘液の飛び散る感覚は掴んでいる。弾けた飛沫は仲間を外し、バラバラと地面に落ちる。
「さて、上手く効いてくれればいいけど」
 そこにエニアの魔法が炸裂する。一定範囲を凍結させる冷気の嵐が、白く粘液を包み込んだ。
 その瞬間に粘液は、体を倒すように逃げる動きを見せた。半身が範囲から逃れ、残りが凍り付くと――粘液は凍った部分を剥離させ、同時に咆吼しエニアに粘液を飛ばす。
 だが十分に距離がある上、エニアは強烈な風を纏っている。半歩ステップを踏めば粘液は逸れ、壁を穿つに留まった。
「あの動き、半身を犠牲にした……?」
 間近で粘液を見ていたブレナーは、先程の回避に、どこか慌てたような印象を受けた。
 凍った側は、捨てたことから恐らく大事ではない部分なのだろう。そして、”大事な部分”があるということは、
「核があるかもしれません!」
「Okey! 蜂の巣になりな!」
 フォークスが残った半身を狙い、引き金を引いた。機関銃から無数の弾丸が一息に吐き出される。
 次々に小さな穴が粘液の表面に穿たれるがしかし、密度のためか弾の通りが悪い。
「気持ち悪い手応えだねえ」
 中に核があるのか判別できなかった。
 そして見る間に、凍っていた半身がぶるぶると震えたかと思うとシャーベットのような質感で蠢き元の位置に戻っていく。
 濁っていて見た目では核の位置は分からない。そして凍結の効果も一時的だとなると、
「こりゃ、ひたすら体積減らしてみるしかねえかもな」
 粘液がより大きく声を上げる。怒濤のような怨嗟の声が、早回しのように垂れ流される。
 怒っているのだろうと、簡単に予想ができた。



 敵の手数が俄に増した。次々に全身から放たれる攻撃が、岩壁を穿っていく。
「旭さん!」
 ブレナーが叫び、剣を振る。発生した衝撃派が旭の背後から回り込むように迫っていた粘液を弾き飛ばす。
「悪い!」
 砕けた飛沫を地を駆けることで潜り抜け、その勢いのまま旭は疾風の如き速度で無数の突きを叩き込んだ。
 同時にマテリアルが爆発を起こす。敵の体が抉れ、弾ける。
 最早分裂を気にする必要は無い。何せ、部屋中が敵の飛ばす粘液塗れになっているのだ。
 分裂体単体の攻撃性は低い。しかし死角から飛びかかられることを考えれば意識しないわけに行かず、だからといって倒す方法も少なかった。
 いよいよ増す悪臭に意識を朦朧とさせたたらを踏みながらも、ハンター達は気力で武器を振るい魔法を放つ。
「回復を展開します」
 フランシスカがマテリアルを込める。広がった淡い光はハンター達の傷を癒やし、悪臭にやられた精神を少しでも持ち直させる。
 彼女の回復がなければ、とっくに神経をやられていたかもしれない。
 敵もそれを分かっているのかマテリアルに反応したのか、フランシスカに振り返り攻撃を飛ばす。
 旭がその間に入り込み、盾を構えて寸でのところで粘液を叩き落とす。嫌な音が響き、気付けば盾の表面が爛れたように変色していた。
 次いでエニアのブリザードが、次の攻撃を予兆させる敵の部位を凍結させてそれを防ぐ。
 ブレナーはエニア、フォークスの射線に入らないよう側面に回り込む。迫っていた敵の本体を飛び退って躱すと、突進を伴う高速の刺突で目の前の粘液を一気に貫いた。
 大きく距離を取っているフォークスは、飛んでくる攻撃を余裕を持って躱していく。そして回避と同時に、味方に飛んだ、致命になり得る攻撃を選んで弾丸を叩き込みその勢いを削いでいった。
 追って投げ放たれる灯華の雷撃は、非常に効果が高い。当てる度に敵は大きく体勢を崩し、その瞬間に行おうとしていた攻撃も全て止まるほどだ。
「さあ、今だヨ!」
「おう!」
 敵が移動したその隙に、フォークスは背後に指示を出す。その瞬間に、熊のような体格の男達が一斉に走り出した。
 彼ら第二師団の得意分野の一つ、土木建築。それを活かす方法としてフォークスは、敵の侵入してきた壁の封鎖を提案していた。
 侵入してきた部分から、今度は逃げられてはたまらない。確実にここで倒してしまう為の保険だ。
「まだ核見つからねえの!」
 旭が再び、爆風により粘液を大きく吹き飛ばす。近距離でそれを行う彼の負担は大きく、早くしなければ大事にもなり得るだろう。
「もうちょっとっ……段々絞り込めてきたわ!」
 魔法も底を尽きてきた。エニアは鞭を手に駆け寄り、敵の脚部を払うように打つ。
「無制限に再生とは、厄介ですね……!」
 敵の体は砕けようと、総体積はあまり変わっていないように見えた。気付けば破片を吸収して、元の大きさに戻っている。
「やっぱり、燃やすべきかしら。これ以上臭くなるのは、勘弁して欲しいけど」
 奥の手を切るべきか、灯華は鼻栓を押し込み直しながら考える。
 しかし、その結論が出る前に、
「あった!」
「今、何かあそこに!」
 エニアとブレナーが声を上げた。刻まれ薄くなった粘液の向こうに、何か、影がちらりと見えたのだ。
「鎮魂の言葉も捧げられませんからね……そろそろ、消滅していただきましょう」
 すかさずフランシスカは光球を放っていた。それは過たず、核を覆う粘液の表面で炸裂し分厚い層を破壊する。
「あら、もう終わりなの? じゃあ、取っておいても仕方ないわね」
 穿たれた穴に、ひらりと一枚の符が舞い込んでいった。その瞬間、明るい光が閃き内側から粘液を焼く。
「そこよ!」
 その光の中に、エニアは白いものを見た。
 鞭を持った手首を複雑に捻る。繰り出されるのは、音速を超える自在の一撃。その先端が穴の中に、吸い込まれるように姿を消すと、
「フォークスさん!」
 しっかりと、器用に核に巻き付いていた。
 引きずり出された核が宙を舞う。それは真っ白な、下顎のない人の頭蓋骨。
「任せな!」
 そしてフォークスの銃口が、真っ直ぐにそれを射線に捉えると。
「Hasta la vista, baby!」
 牛の目を抜くような狙い澄ました一撃が、核の中心を正確に撃ち抜いていた。



「グレオンの奴もあの世で喜んでらぁ」
 無事だった親方の大声が、地下に響き渡っている。
 核を破壊した途端に、全ての粘液は綺麗に塵と化した。同時に臭いも綺麗に消えたのだが……トラウマのように、ハンター達の鼻には残り香が漂っている。
「長く、苦しい、戦いだった……シャワー浴びたい!」
「同感ネ」
 げんなりと肩を落とし声を上げたエニアの横で、口直しとばかりにフォークスは葉巻に火を付けた。
「あれが辿ってきた道って、追えるものなのかしら?」
「うーん、詳しいやつ連れてこねえと何とも言えねえなぁ」
 部屋の後始末に追われる第二師団員を捕まえて、灯華が尋ねる。
「負のマテリアルの溜まった穴でも開いてんのか……どっかから移動してきた、ってのもあるかもしんねーな」
 旭は部屋の奥で、粘液の染み出してきた場所を師団員と共に調べていた。
 ぺたぺたと岩の隙間に触れる。微かに何かを感じるような気がしたが……しかし、はっきりとは分からない。
「人に、理不尽に不幸を与えること。これ以上……そんなことさせちゃ駄目だ」
 ブレナーは名も知らぬドワーフに向け、弔うと共に今一度、自らの望みを強く思った。
「……ああ、何だか思い出しました。いつかの、あの炎を」
 フランシスカは、一人部屋の隅に佇んでいた。胸の中に蘇るのは、日々の温もりに埋もれ忘れかけていた、あの赤い光。そして殊更に不愉快で、不快な、倒すべき敵の姿を。

 後日、歪虚の襲撃を受けたその部屋は、完全に埋め立て取り壊されることになった。臭いや毒素は全て消えたのだが、住民の精神的影響を鑑みての判断だ。
 だがその前に、本格的な侵入経路の特定、追跡が行われる。もしも発生源があるのなら、それを特定し、破壊しなければならない。

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MVP一覧

  • 戦地を駆ける鳥人間
    岩井崎 旭ka0234
  • 幸福な日々を願う
    フローラ・ソーウェルka3590

重体一覧

参加者一覧

  • 戦地を駆ける鳥人間
    岩井崎 旭(ka0234
    人間(蒼)|20才|男性|霊闘士
  • 【ⅩⅧ】また"あした"へ
    十色・T・ エニア(ka0370
    人間(蒼)|15才|男性|魔術師
  • SUPERBIA
    フォークス(ka0570
    人間(蒼)|25才|女性|猟撃士
  • 幸福な日々を願う
    フローラ・ソーウェル(ka3590
    人間(紅)|20才|女性|聖導士
  • 刃の先に見る理想
    ブレナー ローゼンベック(ka4184
    人間(蒼)|14才|男性|闘狩人
  • 焼灼
    霧崎 灯華(ka5945
    人間(蒼)|18才|女性|符術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 【相談卓】INFECTION
フォークス(ka0570
人間(リアルブルー)|25才|女性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2016/03/30 17:13:36
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/03/27 07:14:48