ゲスト
(ka0000)
サクランボ畑にて
マスター:江口梨奈

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~8人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/04/02 15:00
- 完成日
- 2016/04/10 10:04
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
まったく、騒がしい連中だ。
リアルブルー人が持ち込んだ『花見』とやらの風習のせいで、大事なサクランボ畑が見知らぬ他人に踏み荒らされるようになった。
そりゃあ、サクランボの花は綺麗だとわしも思うよ、こんなに花付きのいい樹はそうそうないだろう。それを綺麗だ綺麗だと言って愛でる分には一向に構わないさ。だけどな、なんでおまえらは酒を持ち込むんだ? 酔ってその辺に小便を撒き散らすんだ? そうやって樹の根を傷めて、土壌の質を変えて、大事なサクランボの味が変わると気付かないのか?
人ん家の畑を踏み荒らして馬鹿騒ぎをするのがおまえらの風習とやらなのか? この畑がどれだけ大事か、おまえらは分かってるのか?
このサクランボの樹は、このわしのものだ。
このサクランボの樹ハ、コのワシのもノダ、
コノサくらンボノキは、コノワシノモノダ、
コノ…………、、、
サクランボ畑の権利を買い取ったギンネズは、さっそく樹の植わってある山の点検に訪れた。
ここは元々、バクダ氏が所有していたものだが、その氏はこの冬の初めに亡くなった。人が多いとはいえないこの小さな村では、それぞれ己の持つ畑の世話に手一杯で、持て余していたと言うのが正直なところだ。可哀想に、ここの村人は知らないのか。バクダ氏のサクランボは粒が揃って味も良く、評価も価格も高かったことを。ギンネズはこれを好機だと思った。バクダ氏の手が入らなくなってからまだ数ヶ月しか経っていない、となると、去年までの品質はまだそう落ちてはいないだろう、今の内に人を雇いこのサクランボ畑を管理し続けていけば、去年までと同じような品質と価格のサクランボを売り出すことができる、と。
だが、実際のサクランボ畑を見てギンネズは、おや、と首をかしげた。
樹は数十本、等間隔に植えられているのだが、この時期にしてはどれも蕾の膨らみが小さい。
しかもその内の1本は枯れていて、上の方に、あれはヤドリギでも取り付いたか、妙な葉っぱと枝が固まってからみついている。
「買い急いだかな……」
などと呟きながら、回りを見て歩くギンネズは、頭上で何かが動く気配を感じた。
「風か……?」
ヤドリギらしいものが揺れている。
いや……、動いている!?
「コノ、キワ、キハ、ワシノモノ、ワシノモノ、ワシモノワシノノォォオオオオオ!!」
耳をつんざく金切り声を上げて、その葉っぱの塊はギンネズに襲いかかってきた。塊から5つの突起が出てきて……人の形になり……腰の異様に曲がった四つん這いの獣のような姿勢で走りながら迫ってくる。
幸い、距離があった。樹上から化け物が降りてくるより早くギンネズは逃げ出すことが出来た。ギンネズが畑の領域から遠く離れると、化け物は追うのを止め、また元の樹の上に戻った。
冷や汗と息切れと共に、ギンネズはハンターオフィスへ駆け込んだ。
「あの化け物を、私の畑から追っ払ってくれ!」
リアルブルー人が持ち込んだ『花見』とやらの風習のせいで、大事なサクランボ畑が見知らぬ他人に踏み荒らされるようになった。
そりゃあ、サクランボの花は綺麗だとわしも思うよ、こんなに花付きのいい樹はそうそうないだろう。それを綺麗だ綺麗だと言って愛でる分には一向に構わないさ。だけどな、なんでおまえらは酒を持ち込むんだ? 酔ってその辺に小便を撒き散らすんだ? そうやって樹の根を傷めて、土壌の質を変えて、大事なサクランボの味が変わると気付かないのか?
人ん家の畑を踏み荒らして馬鹿騒ぎをするのがおまえらの風習とやらなのか? この畑がどれだけ大事か、おまえらは分かってるのか?
このサクランボの樹は、このわしのものだ。
このサクランボの樹ハ、コのワシのもノダ、
コノサくらンボノキは、コノワシノモノダ、
コノ…………、、、
サクランボ畑の権利を買い取ったギンネズは、さっそく樹の植わってある山の点検に訪れた。
ここは元々、バクダ氏が所有していたものだが、その氏はこの冬の初めに亡くなった。人が多いとはいえないこの小さな村では、それぞれ己の持つ畑の世話に手一杯で、持て余していたと言うのが正直なところだ。可哀想に、ここの村人は知らないのか。バクダ氏のサクランボは粒が揃って味も良く、評価も価格も高かったことを。ギンネズはこれを好機だと思った。バクダ氏の手が入らなくなってからまだ数ヶ月しか経っていない、となると、去年までの品質はまだそう落ちてはいないだろう、今の内に人を雇いこのサクランボ畑を管理し続けていけば、去年までと同じような品質と価格のサクランボを売り出すことができる、と。
だが、実際のサクランボ畑を見てギンネズは、おや、と首をかしげた。
樹は数十本、等間隔に植えられているのだが、この時期にしてはどれも蕾の膨らみが小さい。
しかもその内の1本は枯れていて、上の方に、あれはヤドリギでも取り付いたか、妙な葉っぱと枝が固まってからみついている。
「買い急いだかな……」
などと呟きながら、回りを見て歩くギンネズは、頭上で何かが動く気配を感じた。
「風か……?」
ヤドリギらしいものが揺れている。
いや……、動いている!?
「コノ、キワ、キハ、ワシノモノ、ワシノモノ、ワシモノワシノノォォオオオオオ!!」
耳をつんざく金切り声を上げて、その葉っぱの塊はギンネズに襲いかかってきた。塊から5つの突起が出てきて……人の形になり……腰の異様に曲がった四つん這いの獣のような姿勢で走りながら迫ってくる。
幸い、距離があった。樹上から化け物が降りてくるより早くギンネズは逃げ出すことが出来た。ギンネズが畑の領域から遠く離れると、化け物は追うのを止め、また元の樹の上に戻った。
冷や汗と息切れと共に、ギンネズはハンターオフィスへ駆け込んだ。
「あの化け物を、私の畑から追っ払ってくれ!」
リプレイ本文
●ヤドリギのお化け
「どうしてっ、どうしてサクランボが無いんですかあっ!!?」
任務の場所が『サクランボ畑』と聞いて心躍らせながらやってきた星野 ハナ(ka5852)は、そこが寒々しい立木だらけと知って愕然とした。
「花が咲いてくれないことには、実は成りませんよねえ」
ファル・グリン(ka5449)が尤もなことを言う。
「楽しみにッ、楽しみにしてましたのにいぃ~~」
「分かる。分かるぞ」
ザレム・アズール(ka0878)は、へたり込むハナの肩に手を遣った。
「サクランボは美味い。食事に使ってもスイーツにしても良い。贅沢に果実酒という手もある。ましてここの畑からは一級品が出来ていたと聞く。ならば……」
味わってみたいものだ、とザレムは呟く。しかし、彼らのそんなささやかな期待を壊すモノがいる。あの、遠くからでもはっきりわかる、枯木に繁る奇妙な塊だ。畑中の葉を全て集めたかのような大きさの。
「畑に入ったらすっごく怒るんでしょ?」
と、ノノトト(ka0553)が周りに尋ねる。依頼主も、畑に入ってから襲われたと言っていた。
「だから、『おじゃまします』って挨拶しておけばいいのかな?」
「入らなきゃ、いいじゃないか」
言うなり、鳳凰院ひりょ(ka3744)は覚醒し、同時に体を炎に包みだした。挑発するべく歪虚に向かって指をさし、炎を揺らめかせる。マテリアルが産み出す炎には熱も音もない、しかし歪虚はその気配に『燃やされる』危険でも感じたか、ざわざわと動き出した。
このまま挑発に乗って近付いてくれれば……果樹園から離れてくれればいい。しかし、歪虚は動きはするが、樹からはなかなか降りてきそうにない。向こうも、こちらの様子を伺っているのか?
「まだるっこしい」
しびれを切らしたか、ウィアズ(ka1187)が、『シャープシューティング』を伴った視線でボウの狙いを定め、最も直接的な挑発を試みる。
放たれた矢は見事、塊のど真ん中を射抜いた。
「やった!」と歓声を上げそうになった次の瞬間、それがぬか喜びだと知った。
ど真ん中に確かに刺さった矢は、そのまま塊の後ろに滑り落ちたのだ。さながら、梢の先を通り抜けたように。
『コ、コノ、……コノウォオオオオオオ!!!』
だが、ウィアズの目的は達成された。体を射られた歪虚は奇声を発し、その姿を変えた。丸い塊から突起が伸びて足になり(矢が通ったのは、丸めていた足の間だったか)、猿のように器用に樹を逆さまに降りてきて、まっすぐに『侵入者』たちに迫ってきた。
「眠りなさい」
マルカ・アニチキン(ka2542)の『スリープクラウド』が発動される。しかし歪虚は眠らず、どんどん距離を縮めてくる。
(失敗した……!?)
普段のマルカならここで落ち込んでしまうところだろうが、覚醒している今は違う。気を取り直し、もう一度、眠りの雲を発生させようと試みる。
「眠りなさい!!」
再び繰り出されるマテリアルの眠り。今度は成功だ! 歪虚の体がぐらりと揺れ、駆ける勢いはそのままに、つんのめるように傾き、地面で跳ね返るほどの強さで倒れ込んだ。……倒れる衝撃が強すぎたか、歪虚は眠り続けることはなく、体を起こそうとする。
けれど、一瞬でも動きを止めることが出来れば、これほどの好機はない。
「さぞ、よく燃えるんだろうな」
「長引かせるつもりはないからな」
いつの間にか歪虚の後方に回り込んでいたファルとザレムの手にある、それぞれのマテリアルを炎に変換したもの、それを未だ這っている歪虚の背に向かって迷うことなく撃った。
『ガァアッ!!』
先ほどは手応えのなかった体だが、目の前の敵は決して幻影ではなく、実体を持っているのだ。背中を清浄なマテリアルの炎に焼かれた歪虚は、苦痛の悲鳴をあげた。
それでも、歪虚を浄化するには至らない。寧ろ怒りを増幅させ、自分の背を焼いたのは誰かとかそんなことはお構いなく、手近な侵入者に牙を剥いた。
「くッ」
その、『手近な侵入者』であるひりょも、歪虚のそんな行動を予期していなかったわけではない。万全の防御の態勢をとっており、向かってくる枝葉の塊をシールドで受け止め、それを左右に弾いたりせず、じっとそのまま膠着させる。
「いいぞ、ひりょ」
ウィアズは動かない的に対して、再び矢をつがえる。これで射殺せるとは思っていない、あくまで、畑の樹々たちから遠ざけるためだ。射られて均衡を崩したヤドリギの化け物は同時にひりょのシールドで叩きつけるように押し返された。よろめく化け物は、体からぼたぼたと枝の破片を落としながら、口(と思われる場所)から妙なぜいぜい言う息を漏らす。
「うわっ、こっち来んな!」
わざとそんな大声を上げてウィアズは注意を惹きつけ、歪虚に狙われやすそうな距離に近付き、誘い出す。歪虚は、同じ呼吸を続けながらじりじりと追う。徐々に、畑から距離が空いていく。
「良~い位置ですぅ♪」
にんまりと、ハナは笑った。大事なサクランボの蕾ひとつ落とすことなく『五色光符陣』を発動させるのに、十分な場所だ。一気にとどめをさしちゃおう、そう思ってタロットカードを取り出したときだった。
「ま、待って!」
ハナを止めたのは、ノノトトだった。
「待ってください」
「どうしたんですぅ?」
「そのヴォイド、何か言ってるような気がするんです……」
「言ってる?」
歪虚の呼吸に耳を澄ます。
『ワシノ……、ノ……、コノ……オオオオオ』
確かに、何かを言っているようにも聞こえる。恨みをたたえた、そんな言葉を。
「聞いてあげた方が、いいのかな……?」
「いいえ」
きっぱりと答えたのは、マルカだった。
「……優先させるべきは今を生きる人間の意志、なんです……」
歪虚の元の姿は、この畑の前の持ち主だという噂もある。それが事実かどうかは分からない。分からないが、確実に言えることは、この歪虚と化した存在は、そんな元の生命を陵辱したものであり、たとえ発する言葉が人間のものに近くても、人間のものであると錯覚してはならないということである。
「前の所有主の成れの果て、という可能性もあるとは聞いてますが……」
ファルの手には新しい炎の矢が作られている。
「自らの畑を守りたいという執念は理解もしますが、このままでは荒れる一方ですしねぇ……ここはきっちりと畑の土に還って頂きましょうか」
「貴方は、サクランボを、畑を愛していた筈だ。丹精こめて育ててきたんだろ? けど、貴方が憑くと、サクランボも枯れてしまうんだ。サクランボを愛しているなら、どうかもう楽になってくれ」
正体が誰であろうと、もうその本人ではない。けれど、もしかして……もしかして、の祈りを込めて、ザレムは最後の説得を行った。言葉は虚空に散ったが、覚悟していたことだ、落胆はしない。瞳と同じ色の炎はザレムの手の中で更に勢いを強めた。
『コノ、キワ、キィワアアアアア!!』
ハンター達の全ての力が、歪虚に向けられる。
穢れたヤドリギは、絶叫と共に消え去ったのだった。
●サクランボ畑にて
葉の一片まで浄化されつくして、文字通り跡形も無くなった空を見つめ、ひりょは「安らかに眠って欲しい」と黙祷を捧げた。
「おじさんの完熟さくらんぼでジャム作ってみたかったですよぅ。……成仏して下さいねぇ」
ハナは呟いた。歪虚は完全に消滅したのだ、これでこの畑も正常に戻り、初夏にはサクランボが実るだろう。バクダ氏の作っていたという一級品のサクランボ、その品質を受け継ごうと考えるギンネズ。季節になったら、改めてここを訪れようか、そんなことを考える。
「被害があったのは、結局この一本だけだったな」
ウィアズは畑の真ん中にある、枯れた樹に手を遣った。歪虚が最初に登っていた樹だ。あの歪虚はずっと、ここを拠点としていて、そのために本来この樹が得るべきマテリアルが奪われてしまったのだろう。
「その樹、焼いて灰にできないかな。灰って、樹の栄養になるんでしょ?」
提案したのは、ノノトトだった。
かつてバクダ氏の持ち物であったこの畑は歪虚によって踏みにじられてしまった。とうに花も咲いてよい頃合いなのに、未だ蕾は小さい。このままサクランボ畑が衰えた状態が続けば、再びヤドリギのお化けが出てくるかもしれない、ノノトトはそんなことを考えた。
「どうするかは、今の持ち主に聞いてみるとしましょうかねぇ。1本、枯木とはいえ、勝手に切り倒すワケにはいきませしねぇ」
ファルはそう言うと、くるりと向きを変え、帰り支度を始めた。
まだやることがあるのだ。
この後、依頼主のところへ行って、報告と同時に、こう言うつもりだ。「畑を大事に、綺麗に運営してくださいね」と。
「ノノトトさん」
「は、はいっ?」
「貴方はギンネズ氏をどう見ます? あの人は1本の樹の損失を、利益の欠損と怒るのか、大切な樹を死なせたと悼むのか、どっちなんでしょうねぇ」
「えっと、……あのひとは……」
ここへ来る前に1度だけ会った依頼人の顔を思い出す。中年の、しかし農作業に慣れていそうな背筋の伸びた男だった。
あの男がこの畑を買ったのは、単に質の良い畑が安く売られていたからか、それとも、バクダ氏の作品が市場から消えるのを憂えたためか。
後日。
報告を受けたギンネズは、枯木の処理のため、数人の雇い人と共に畑に入った。
後継者として。
「どうしてっ、どうしてサクランボが無いんですかあっ!!?」
任務の場所が『サクランボ畑』と聞いて心躍らせながらやってきた星野 ハナ(ka5852)は、そこが寒々しい立木だらけと知って愕然とした。
「花が咲いてくれないことには、実は成りませんよねえ」
ファル・グリン(ka5449)が尤もなことを言う。
「楽しみにッ、楽しみにしてましたのにいぃ~~」
「分かる。分かるぞ」
ザレム・アズール(ka0878)は、へたり込むハナの肩に手を遣った。
「サクランボは美味い。食事に使ってもスイーツにしても良い。贅沢に果実酒という手もある。ましてここの畑からは一級品が出来ていたと聞く。ならば……」
味わってみたいものだ、とザレムは呟く。しかし、彼らのそんなささやかな期待を壊すモノがいる。あの、遠くからでもはっきりわかる、枯木に繁る奇妙な塊だ。畑中の葉を全て集めたかのような大きさの。
「畑に入ったらすっごく怒るんでしょ?」
と、ノノトト(ka0553)が周りに尋ねる。依頼主も、畑に入ってから襲われたと言っていた。
「だから、『おじゃまします』って挨拶しておけばいいのかな?」
「入らなきゃ、いいじゃないか」
言うなり、鳳凰院ひりょ(ka3744)は覚醒し、同時に体を炎に包みだした。挑発するべく歪虚に向かって指をさし、炎を揺らめかせる。マテリアルが産み出す炎には熱も音もない、しかし歪虚はその気配に『燃やされる』危険でも感じたか、ざわざわと動き出した。
このまま挑発に乗って近付いてくれれば……果樹園から離れてくれればいい。しかし、歪虚は動きはするが、樹からはなかなか降りてきそうにない。向こうも、こちらの様子を伺っているのか?
「まだるっこしい」
しびれを切らしたか、ウィアズ(ka1187)が、『シャープシューティング』を伴った視線でボウの狙いを定め、最も直接的な挑発を試みる。
放たれた矢は見事、塊のど真ん中を射抜いた。
「やった!」と歓声を上げそうになった次の瞬間、それがぬか喜びだと知った。
ど真ん中に確かに刺さった矢は、そのまま塊の後ろに滑り落ちたのだ。さながら、梢の先を通り抜けたように。
『コ、コノ、……コノウォオオオオオオ!!!』
だが、ウィアズの目的は達成された。体を射られた歪虚は奇声を発し、その姿を変えた。丸い塊から突起が伸びて足になり(矢が通ったのは、丸めていた足の間だったか)、猿のように器用に樹を逆さまに降りてきて、まっすぐに『侵入者』たちに迫ってきた。
「眠りなさい」
マルカ・アニチキン(ka2542)の『スリープクラウド』が発動される。しかし歪虚は眠らず、どんどん距離を縮めてくる。
(失敗した……!?)
普段のマルカならここで落ち込んでしまうところだろうが、覚醒している今は違う。気を取り直し、もう一度、眠りの雲を発生させようと試みる。
「眠りなさい!!」
再び繰り出されるマテリアルの眠り。今度は成功だ! 歪虚の体がぐらりと揺れ、駆ける勢いはそのままに、つんのめるように傾き、地面で跳ね返るほどの強さで倒れ込んだ。……倒れる衝撃が強すぎたか、歪虚は眠り続けることはなく、体を起こそうとする。
けれど、一瞬でも動きを止めることが出来れば、これほどの好機はない。
「さぞ、よく燃えるんだろうな」
「長引かせるつもりはないからな」
いつの間にか歪虚の後方に回り込んでいたファルとザレムの手にある、それぞれのマテリアルを炎に変換したもの、それを未だ這っている歪虚の背に向かって迷うことなく撃った。
『ガァアッ!!』
先ほどは手応えのなかった体だが、目の前の敵は決して幻影ではなく、実体を持っているのだ。背中を清浄なマテリアルの炎に焼かれた歪虚は、苦痛の悲鳴をあげた。
それでも、歪虚を浄化するには至らない。寧ろ怒りを増幅させ、自分の背を焼いたのは誰かとかそんなことはお構いなく、手近な侵入者に牙を剥いた。
「くッ」
その、『手近な侵入者』であるひりょも、歪虚のそんな行動を予期していなかったわけではない。万全の防御の態勢をとっており、向かってくる枝葉の塊をシールドで受け止め、それを左右に弾いたりせず、じっとそのまま膠着させる。
「いいぞ、ひりょ」
ウィアズは動かない的に対して、再び矢をつがえる。これで射殺せるとは思っていない、あくまで、畑の樹々たちから遠ざけるためだ。射られて均衡を崩したヤドリギの化け物は同時にひりょのシールドで叩きつけるように押し返された。よろめく化け物は、体からぼたぼたと枝の破片を落としながら、口(と思われる場所)から妙なぜいぜい言う息を漏らす。
「うわっ、こっち来んな!」
わざとそんな大声を上げてウィアズは注意を惹きつけ、歪虚に狙われやすそうな距離に近付き、誘い出す。歪虚は、同じ呼吸を続けながらじりじりと追う。徐々に、畑から距離が空いていく。
「良~い位置ですぅ♪」
にんまりと、ハナは笑った。大事なサクランボの蕾ひとつ落とすことなく『五色光符陣』を発動させるのに、十分な場所だ。一気にとどめをさしちゃおう、そう思ってタロットカードを取り出したときだった。
「ま、待って!」
ハナを止めたのは、ノノトトだった。
「待ってください」
「どうしたんですぅ?」
「そのヴォイド、何か言ってるような気がするんです……」
「言ってる?」
歪虚の呼吸に耳を澄ます。
『ワシノ……、ノ……、コノ……オオオオオ』
確かに、何かを言っているようにも聞こえる。恨みをたたえた、そんな言葉を。
「聞いてあげた方が、いいのかな……?」
「いいえ」
きっぱりと答えたのは、マルカだった。
「……優先させるべきは今を生きる人間の意志、なんです……」
歪虚の元の姿は、この畑の前の持ち主だという噂もある。それが事実かどうかは分からない。分からないが、確実に言えることは、この歪虚と化した存在は、そんな元の生命を陵辱したものであり、たとえ発する言葉が人間のものに近くても、人間のものであると錯覚してはならないということである。
「前の所有主の成れの果て、という可能性もあるとは聞いてますが……」
ファルの手には新しい炎の矢が作られている。
「自らの畑を守りたいという執念は理解もしますが、このままでは荒れる一方ですしねぇ……ここはきっちりと畑の土に還って頂きましょうか」
「貴方は、サクランボを、畑を愛していた筈だ。丹精こめて育ててきたんだろ? けど、貴方が憑くと、サクランボも枯れてしまうんだ。サクランボを愛しているなら、どうかもう楽になってくれ」
正体が誰であろうと、もうその本人ではない。けれど、もしかして……もしかして、の祈りを込めて、ザレムは最後の説得を行った。言葉は虚空に散ったが、覚悟していたことだ、落胆はしない。瞳と同じ色の炎はザレムの手の中で更に勢いを強めた。
『コノ、キワ、キィワアアアアア!!』
ハンター達の全ての力が、歪虚に向けられる。
穢れたヤドリギは、絶叫と共に消え去ったのだった。
●サクランボ畑にて
葉の一片まで浄化されつくして、文字通り跡形も無くなった空を見つめ、ひりょは「安らかに眠って欲しい」と黙祷を捧げた。
「おじさんの完熟さくらんぼでジャム作ってみたかったですよぅ。……成仏して下さいねぇ」
ハナは呟いた。歪虚は完全に消滅したのだ、これでこの畑も正常に戻り、初夏にはサクランボが実るだろう。バクダ氏の作っていたという一級品のサクランボ、その品質を受け継ごうと考えるギンネズ。季節になったら、改めてここを訪れようか、そんなことを考える。
「被害があったのは、結局この一本だけだったな」
ウィアズは畑の真ん中にある、枯れた樹に手を遣った。歪虚が最初に登っていた樹だ。あの歪虚はずっと、ここを拠点としていて、そのために本来この樹が得るべきマテリアルが奪われてしまったのだろう。
「その樹、焼いて灰にできないかな。灰って、樹の栄養になるんでしょ?」
提案したのは、ノノトトだった。
かつてバクダ氏の持ち物であったこの畑は歪虚によって踏みにじられてしまった。とうに花も咲いてよい頃合いなのに、未だ蕾は小さい。このままサクランボ畑が衰えた状態が続けば、再びヤドリギのお化けが出てくるかもしれない、ノノトトはそんなことを考えた。
「どうするかは、今の持ち主に聞いてみるとしましょうかねぇ。1本、枯木とはいえ、勝手に切り倒すワケにはいきませしねぇ」
ファルはそう言うと、くるりと向きを変え、帰り支度を始めた。
まだやることがあるのだ。
この後、依頼主のところへ行って、報告と同時に、こう言うつもりだ。「畑を大事に、綺麗に運営してくださいね」と。
「ノノトトさん」
「は、はいっ?」
「貴方はギンネズ氏をどう見ます? あの人は1本の樹の損失を、利益の欠損と怒るのか、大切な樹を死なせたと悼むのか、どっちなんでしょうねぇ」
「えっと、……あのひとは……」
ここへ来る前に1度だけ会った依頼人の顔を思い出す。中年の、しかし農作業に慣れていそうな背筋の伸びた男だった。
あの男がこの畑を買ったのは、単に質の良い畑が安く売られていたからか、それとも、バクダ氏の作品が市場から消えるのを憂えたためか。
後日。
報告を受けたギンネズは、枯木の処理のため、数人の雇い人と共に畑に入った。
後継者として。
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
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MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談スレッド ノノトト(ka0553) ドワーフ|10才|男性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2016/04/02 08:58:43 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/04/01 23:55:33 |