• 審判

【審判】忘れられた巡礼路

マスター:芹沢かずい

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/04/03 19:00
完成日
2016/04/09 20:29

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●忘れられた教会
 人里から離れた山奥、切り立った崖を背に、それは静かに佇んでいた。
 質素な造りの壁は剥がれかけ、屋根も一部壊れてはいるが、それは教会だった。

 過去、この教会は村人だけでなく、王国の多くの巡礼者たちが静かに祈りを捧げる場所であり、村もそれなりに賑わっていた。
 数年前に村を襲った災害。それによって村は壊滅的な被害を受けた。巡礼路の一つとして最低限の修復がなされたが、村に移住する者はなく、その佇まいは寂しさだけを映し出しているようだ。
 巡礼者を拒むことはないが、過去の災害の影響を危惧した教会が早々に立ち去ることを布告し、巡礼路の中では非常に影の薄い教会となっている。
 現在では、一人残った老齢の司教が孤児たちの世話をしながら暮らしている。時折、他の教会から施される僅かな生活物資が届けられる他は、巡礼以外の訪問者もない。
 住む家や家族を失ってしまった子供たちが身を寄せる。そんな寂しい場所になってしまっているが、一人残った司教に愛され、慎ましくも幸せな暮らしが、ここにはあった。

●翼を持つ者
『こんな物寂しい教会とはねぇ……。ま、どれだけ寂れていても、巡礼路の一つであるならば教徒に見捨てられることもないということでしょうか……』
 背に純白の翼を負った人でない『それ』は、教会の屋根を見下ろす木の上で独り呟く。……呆れるような、嘲るような。何とも形容し難い声色。
 『それ』が言うように、数日に一度程度だが、巡礼者がエクラに祈りを捧げながらやってくる。ただ、教会から言われているのだろう。長居することなく、すぐに次の教会へと向かっていく。最低限の修復がなされたとはいえ、手入れする者がないために、年月によって荒れた山道。自然豊かと言えば聞こえは良いだろうが、人を襲う獣も多い。

●降り立った『天使』
 その日、外からの巡礼者はなかった。教会の中には、司教と子供たちの姿。
 祈りを捧げる彼らの前に、突如としてそれは現れた。
『皆さん……』
 翼を持つ者は、礼拝中の彼らの前に神々しく舞い降りると、彼らに順に視線を送りながら、恭しく声をかけた。
『あぅ……』
 誰が漏らした言葉か、虚しく宙を舞う。
『わたくしは、皆さんに救いを授けにきたのです……さあ』
 永遠なる安寧の地に……。

 この時、礼拝堂で何が起こったのか。それを知る者はいない。だが、命ある者が存在しなくなったのは、確かなことだった。

●翼を持つ者たち
 数羽のカラスが、不気味とさえ感じる声で鳴き交わしながら、教会の上空を旋回している。

 この教会に生活物資を届けに来ていた者からの依頼だった。山の麓、近くの村からだ。
 数人のハンターたちが、細く険しい山道を登っていく。
 これまでに何度も山頂の教会を尋ねていた依頼人の話では、いつも聞こえてくる子供達の声が聞こえないのだという。司教を尋ねても、扉は固く閉ざされたまま。
 物音ひとつしないその教会は、壊れかけの佇まいとも相まって、背筋が凍り付くような感覚さえ与えた。
「……ここです」
 山道を登りきり、後ろに控えるハンターたちに向き直って伝える依頼人。
 不気味なカラスの鳴き声、崖を吹き抜ける風の物悲しい音、揺れる木々のざわめき。その風に混じって、ハンターたちの鼻をつく『匂い』があった。

 ぎぎぎぃぃ……。

 彼らを招き入れるように、教会の扉が開く。

『お待ちしておりました、ハンターさん。……本当ならば、訪れる巡礼者たちをお連れするつもりだったのですがねぇ』
 翼を持ち、歪んで不格好な顔をした『それ』が、言葉を巧みに操り言う。
 彼の後ろには、どろりと濁った瞳を虚ろにこちらに向ける老人と、七人の子供達。……誰もが背中に純白の翼を背負わされ、すでに生気を失っている。哀れにも生前の信仰を奪われ、翼持つ者の命令に従わされているのだろう。
『ふむ……ハンターさんがお相手では、このヒトたちでは少々荷が重いでしょうね』
 翼持つ者は表情を変えたようだが、その継ぎ接ぎされたような奇妙な顔は、ぎこちなく首を回しただけ。
『いえね、この地がエクラ教の巡礼路と知りましてね。わたくしごときでも、あの方のお力になりたいのです。ええ! ごくごく僅かなものであろうとも、少しでもお力に、ね!』
 言うなり片方の手をかざす。着ていた純白の外套がばさりっ、と翻る。瞬間、教会の左右の森から、黒い影が幾つも姿を現していた。
 いずれも背に翼を負っている。
 鷲のような純白の翼を持っている、狼。鹿や蛇の身体に、不似合いな翼を縫い付けられた奇妙な姿の、雑魔だろう。
 気付けば、上空を舞っていたカラスたちは姿を消している。 
『さあ、皆さんも……行きましょう。永遠なる安寧の地へ!』

リプレイ本文


 翼を広げ、天使は堕落者を盾に後ろに下がる。見物を決め込むつもりのようだ。
「あのお方が導いて下さいます……安寧の地へと……」
 恍惚とした声が響く。
「……わたしは依頼人を連れて一旦さがる」
 噴出しそうになるのは黒く染まる感情。それを呑み込んで呟くのは八原 篝(ka3104)。仲間は篝の退路を開くため、そして目の前の敵を討つため、動く。
「落ち着いて」
 依頼人を背中に庇う篝が声をかける。依頼人に、そして自身に言い聞かせるように。
 
 少しずつ距離をとる雲類鷲 伊路葉 (ka2718)は、堕落者達を見て眉を寄せる。
「こんなトコロだというのに……いえ、こんな所だからこそ無関係な貴方達が犠牲になったのかしらね」
 この刹那も精一杯生きていたはずの生命。
(……それを踏み躙ったのは誰だ? 罪は無いのか? 許されるものか?)
 静かだが確かに、義憤が彼女の胸の雷管を撃つ。

 教会を背に半円を描くようにハンター達を取り囲む、翼を持った、敵。
 ここにひっそりとあった村はもうない。廃墟同然の村に思いを寄せ、J・D(ka3351)は静かに構える。……村を壊滅にまで追い込んだ『災害』とは何だったのか。残された者たちは……彼らはどんな想いで日々を、そして未来に何を見て生きてきたのだろうか。
「……『あのお方』ってなァ、何者でえ」
 怒り、哀しみの感情が渦巻く。それは清冽な湧水のように彼の中に満ち、敵の姿を捕らえる。
「手前の言う『救い』ってなァ、何でえ」

 堕落者に向ける思いは、水流崎トミヲ(ka4852)も、松瀬 柚子(ka4625)も同じ。勿論、ヒズミ・クロフォード(ka4246)も。
(……護れなくて、ごめんなさい。すぐに……送ってあげますから)
 柚子は全てが自分の責任であるかのように、奪われた生命に対し心中で呟く。仲間の生命を護るために、自らを犠牲にしかねない。
 柚子の攻撃を援護するため、トミヲは魔力を集中させる。
(……世界を救うって、こういうこと、なんだよなぁ……)
 世界を壊す事を選ぶ心境を察することなら、できる。歪虚や雑魔ならば。……だが、彼の目の前にいる堕落者達は、違う。
「厭になるなぁまったく……!」
 呟き漏れる声と共に、トミヲの集中力が高まる。


「高まり、溢れろ、僕のDT魔力……!」
 彼自身がイメージする魔力が形となる直前、伊路葉とJ・Dの銃が吠える。
 伊路葉の弾幕が雑魔をその場に留める。
 トミヲの狙いと対岸にいた雑魔は、J・Dによって退路を塞がれ、さらにヒズミの銃が二体に向かう。
 戦闘の火蓋が切って落とされた瞬間、篝は依頼人と共に後退する。
「っ!」

 ガンッ!

 地を這って近付き、間近で跳んだ蛇型雑魔の牙を手にした盾で受け止める。地に落ちて尚追い縋るそれに銃弾を浴びせ、さらに後退する。

 ごっ……!

 轟音と共に火球が爆発する。周辺を紅く染め上げた炎は、瞬時に複数の雑魔を巻き込んで、消えた。
 余韻に浸る間もなく、トミヲは再び魔力を集中させる。
 爆発を逃れた雑魔の狙いがこちらへ向く。足元には、蛇。縫い付けられたような翼と胴体をくねらせて、こちらへ飛び跳ねてくる。……鋭い牙を剥き出して。
 だが蛇の牙が何かに届くことはなかった。魔法攻撃と共に突っ込んでいた柚子の鞭がそれを捉え、容易く切り裂いたのだ。

 ガガンッ!

「狩猟のシーズン到来デスネェ……援護シマスヨ。存分に且つ自由にヤッちゃってクダサイ♪」 
 味方の動きを見ながら二丁の銃で鹿型雑魔を撃ち抜いたヒズミは、指先で銃を回しながら、次の相手に狙いを定める。
「近付かせない……!」
 瞬時に状況を読み間に入った柚子の鞭が、風のような唸りを上げる。横薙ぎに払われた鞭は、その鋼の腕が届く範囲の敵を切り裂き無へ導く。
 柚子の鞭から逃れようと動く雑魔には、伊路葉の銃口が向けられている。
「読んでいるわ、その向き。この攻撃、あなたは読んでいるかしら?」
 眼鏡の奥の瞳は、全てを見通しているようにさえ見えた。
「あなたをその檻から出すわけにはいかないの、ごめんなさいね」
 伊路葉とJ・Dの牽制は、ほぼ完全に敵の動きを封じ、形成は逆転したかに見える。
 彼らの凶弾が敵の動きを封じ、トミヲの魔法効果範囲に閉じ込める。再び生み出された火球が炸裂した跡には、何も残らなかった。
 武器を猟銃に持ち替えた篝も、敵の数を減らすべく攻撃に移行している。……依頼人は離れた木の陰。巻き込まれる事もないだろう。
 篝の狙い澄ました銃撃で、残る雑魔も塵と消えた。
 

 残されたのは堕落者達。そして、その後ろに控える天使。呼び寄せた雑魔がハンター達に容易く倒された事は想定外だったのか、恍惚と語っていた声がほんの少し、苛立ちを孕む。
「こうまでして足掻いて……安寧の地へ導いて差し上げようとしているだけなのですよ? そう、この方達のように」
 天使、いや歪虚が彼らから未来を奪い、弄んだのだーーJ・Dは察した。
「手前、そいつらに何をやりやがった……」
 押し殺した声が天使に届く。継ぎ接ぎの奇妙な顔を傾げ、当然のように答える天使。
「そいつらは手前にそれを望んだかよ? 手前の言う『救い』ってなァ、何でえ……!」
「『あのお方』が仰ることに間違いはないのですよ。このわたくしが忠誠を誓っているのですから! 皆さんも、ここで我々の仲間になるのです……それが最善の選択肢なのですよ?」
 朗々と、天使は語る。
(……よくも、生者を堕落者にしてくれましたね……ッ! ……いえ、怒っても仕方ないですね。時間は戻せない……)
「ならば……」
 柚子は呼吸を整えると、武器を握る手に力を込める。
「私のすべき事……今を生きる生命を護るだけです」
 天使はさらに高度を上げるつもりだろうか、大きく翼を広げる。その時を見計らっていたように、伊路葉の弾丸が天使の翼に向かっていく! 
「私の銃弾が逃がす訳無いじゃない、穿ち潰すわ」
 強い口調だった。……が、天使の回避が速かった。弾丸は翼を少し掠めただけ。天使の動きに影響は無かった。
「その紛いモノの翼で天使のツモリ、デスカ? ……くだらないジョークは終わりにしましょう」
 冷酷に発したヒズミの言葉が怒りを孕む。
 ふわりと羽ばたく天使に向けて放たれるのは、連続する弾丸の雨。
 しかしそれさえも、軌道を変え、余裕の笑みさえ見せながら躱す天使。……天使が言う。
「ほらほら、わたくしを相手にしている間に、堕落者の皆さんがあなた方を仲間にしたいと仰っていますよぉ?」
『っ!』
 いつの間にか堕落者達は、教会の傍を離れこちらに向かってきていた。老人は柔和な笑みを浮かべ、子供たちは楽しそうな、軽やかな足取りで。背に純白の翼を負った彼らは、教会へと舞い降りた神の使いのように彼らハンターには映った。
 だが、こんな悲しい神の使いを誰が望んだというのだろう。
 散らばってこちらに向かって来る堕落者の動きを止めたのは、やはり伊路葉とJ・Dの銃弾だった。
「自由にしてあげるわ……肉体という牢獄から、ね……。その水先案内人は私の銃弾よ」
 躊躇無く銃口を突きつけ、伊路葉が言う。
「あなたたちに罪は無い、わ。罰しなければいけない相手は、貴方よ」
 伊路葉の最後の言葉は強く、天使に向ける。
 トミヲは精神を集中させ、堕落者達に向かって言う。独白めいているが、それが彼の覚悟だ。
「悪いのは君たちを引き込んだ何者か、だけどさ。……恨んでもいいよ。終わらせるのは、僕達だ」
(できるのは、忘れないだけだ)
 堕落者達は背負わされた翼で空を掴む。……足が地面から離れる。空を泳ぐように、遊ぶように、子供たちが散らばってハンター達に迫る……速い!
「っ?」

 がっ……!

「……柚子っ!」
 鈍い音と共に柚子の足が地面を擦る。想像以上の速さで向かってきた堕落者は、依頼人を庇う位置にいた篝を狙っていた。が、その間に走り込んだ柚子が体当たりでそれを止めたのだ。
「篝さんっ、構わず狙いを! 悪いですけれど、お相手はこちらでお願いしますよっ!」
 柚子の動きを気配で察し、篝は狙いを定めーー撃つ!
「碌でもねえ話だ。……まるきり碌でもねえ……」
 呟くJ・D。その言葉の裏に、怒りでもあり、哀しみでもある感情が渦巻き、告げている。……これを繰り返させてはならない、と。
 胸が据わり、肩の力が抜ける。冴えた目が、撃つべき標的の姿を捕らえる。J・Dの中で構築されていくのは、確実にそれを斃すための手順。
 J・Dが放つのは、冷気を纏った弾丸。それは着弾と同時に爆発し、標的となった堕落者を包み込む。
 後退しようとするJ・D。その死角に、一体の堕落者が笑みを浮かべながら突進する構えを見せる。

 ガンっ!

 鈍い音に振り返ると、そこには身を翻し空中の敵を落としたヒズミの姿。起き上がってくる敵の後頭部に、容赦なく銃床が振り下ろされた。すぐにその場から移動するが、前方にも後方にも、数人の堕落者達。
「……傘はお持ちデスカ? 本日は……“雨”デス」
 放たれた弾丸の雨は、堕落者達からその体力を洗い流していく。
 J・Dとヒズミは共に常に移動しながら、トミヲと、そして柚子の攻撃を待つ。
「灼き払うよ!」
 宣言と共に放たれた火球が、動きを制限された堕落者達を包み込んで炸裂する……!
「皆さんの相手は、私が引き受けますっ!」
 叫ぶように言って、柚子は爆炎に突っ込むような形で疾る。その後ろにいる、護るべき生命……仲間の援護を信じて。
「いいわ、私に任せて」
 伊路葉は宣言通り、柚子の動きに合わせた連続する射撃で、敵の動き、タイミングを見事にずらしていく。
 篝の狙い澄ました銃弾は確実に堕落者達を穿ちダメージを与え、宙を移動しようと翼を広げる者には、威嚇し、動きを鈍らせる。
 伊路葉と篝によって導かれた堕落者達を待ち構えていたのは、柚子の雷刀。振るう度に千鳥の鳴き声にも似た風切り音が聞こえてくる。
 そして、動きを制限された堕落者達が一定範囲に集まる。……それを見越して魔力を溜めていたトミヲから、雷撃が迸る!

「な、何という悪あがきでしょう……」
 堕落者達が次々と倒れていく様を見て、天使は呆然と声を出す。自らが発した言葉に思わぬ屈辱を感じた天使は、翼を大きく広げ羽ばたいた。純白の外套が翻る。
「わたくしはあのお方のためにと……そう、少しでもお力に……このような……っ」
「そんな似合わないもの、へし折ってやるわ」

 ガウンッ!

「っ!?」
 篝が放った一撃は、込められたマテリアルの光を弾けさせ、一瞬だが天使の注意をこちらへ逸らした。
「手前は生かしちゃおかねえ。ここでくたばっていきやがれ!」
 吠えるようなJ・Dの声。放たれた冷気の弾丸は翼を穿ち、霧が天使を包み込む。
「くうっ……鬱陶しいですねぇ……っ!」
 対側の翼と両の腕で払うような動作を見せる天使。少しだが確実にダメージを受けている。そこへ柚子が突っ込んでいく!
「ーー堕ちろ、羽虫」
「っ!」
 教会の壁を使い、宙に浮いた天使へとその刃を振り抜く!
「うぐぁっ」
 柚子の刃は天使の足を深々と薙ぎ、篝が放った弾丸は翼を撃ち抜いた。天使はたまらず苦悶の声を上げる。……が。
「小賢しいッ……!」
 片腕を振り上げ、同時に何事かを呟く。……聞き取れないが、ハンター達は直感で身構える。

 次の瞬間。
 凄まじいまでの衝撃が彼らを襲った。辺り一帯が眩い白に包まれ、空を裂くような雷が迸る!
『ぅああっ……!!』
 轟音の中、ハンター達の悲鳴が混じる。

● 
 目の前から白い余韻が消え、静けさが戻ってきた。天使は教会の屋根の上で、自らの翼を整えながら継ぎ接ぎの顔に屈辱の色をにじませている。
「……っ? な、何故です? 何故死なない……?」
 天使が見たのは、全身に傷を負いながらも立ち上がろうとするハンター達の姿だった。
「永遠の安寧も、生者が、自らの手で作るもの。……与えられたり、まして、元からある場所へ行こうだなんて……つまらないでしょう……?」
 荒い息の下、柚子が強い意志を瞳に宿し、告げる。必死に身体を持ち上げ立ち上がると、トミヲがそれに続く。
 気付けば、ハンター達は全員立ち上がっている。
 ゴミのようにさえ思っていたハンター達。それを相手に自らが苦戦を強いられるなど、考えてもいなかった。天使の顔が歪む。

 ガッ! ガウンッ!

 一瞬の隙だった。篝とJ・Dの銃弾が、継ぎ接ぎされたその頭部を狙い放たれた。二つの銃弾は継ぎ接ぎの顔の形を変える。
「ぐあぁあぅ……」
 顔面に銃弾を受けながら、天使は歪んだ顔で叫ぶ!
「わ、わたくしに平伏しなさい!!」
『!』
 ……それは天使の『命令』だった。
 歪に変わった顔には、圧倒的な屈辱の色が浮かんでいる。
(……あんなゴミどもに……このような真似をすることになるとは……)
 そして、命令に従って跪いているであろうハンター達に視線を送る。……おかしい。
 ハンターの半分は跪いている。半分は、片膝をついてはいるが、必死に抵抗している。跪いている者も、頭を上げようと抵抗し、その目は強い意志を宿したままだ。
 歪虚たる天使にとって、これほどの屈辱は無い。だが、この場で本気を出すことはそれ以上に自尊心を抉られる。
「こんな……このような僻地では駄目なのです……最も美しき巡礼路。その浄化こそがわたくしには相応しい……そう、あのお方のために……!」
 両手を自身の顔に当てながら呟く天使。広げた翼には銃弾の跡が微かに残っている。
「こっ、ここまでやられて、ににに逃げ帰るとか、ダダダダサくないかい!」
 必死に絞り出した震える声で、トミヲが煽る。
(必ず此処で、仕留める……!)
 天使の『命令』に打ち勝ったトミヲが、渾身の魔力を込めて火球を放つ!
 顔から手を離し、前へ突き出すと聞き取り辛い何かを唱える天使。かざされた手の前で、トミヲの火球は風に流されるように天使から逸れた。
 天使はそのまま上空へ飛び立つと、教会の裏へと消えた……。


 残されたのは、天使を仕留められなかった悔しさ。そして、それ以上の哀しみと怒り。雑魔は勿論、堕落者達も、そこにいた痕跡さえ残さなかった。……何も。

 だが教会は、巡礼路は護られたのだ。

「堕落者……彼らがソレを望んだのか望まなかったのか……それでもハッキリしていることは、人として生まれ生きたこと。……せめて、弔いマショウ」
「……まるきり碌でもねえ……」
 呟くような声で言うと、ヒズミとJ・Dは帽子を脱ぎ胸に抱く。
(せめて、あの子達の眠りが安らかでありますように……)
 戦いを見守っていた教会。扉の奥に目を向ける篝は、心中で祈る。
 何も残さず消えてしまった老人と子供たち。トミヲは木の枝を教会の傍らに立てる。……墓標の代わりだ。
 
 それぞれの想いを胸に秘めたまま、この依頼は幕を閉じた。

依頼結果

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MVP一覧

  • 交渉人
    J・Dka3351
  • むなしい愛の夢を見る
    松瀬 柚子ka4625

重体一覧

参加者一覧


  • 雲類鷲 伊路葉 (ka2718
    人間(蒼)|26才|女性|猟撃士
  • 弓師
    八原 篝(ka3104
    人間(蒼)|19才|女性|猟撃士
  • 交渉人
    J・D(ka3351
    エルフ|26才|男性|猟撃士
  • 一瞬の狙撃者
    ヒズミ・クロフォード(ka4246
    人間(蒼)|26才|男性|猟撃士
  • むなしい愛の夢を見る
    松瀬 柚子(ka4625
    人間(蒼)|18才|女性|疾影士
  • DTよ永遠に
    水流崎トミヲ(ka4852
    人間(蒼)|27才|男性|魔術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 忘れられないひとびと
水流崎トミヲ(ka4852
人間(リアルブルー)|27才|男性|魔術師(マギステル)
最終発言
2016/04/03 00:39:45
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/03/31 12:59:27