ゲスト
(ka0000)
【幻魂】迫り来る黒い影
マスター:猫又ものと

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/04/06 19:00
- 完成日
- 2016/04/14 05:17
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●遠い記憶・2
その頃、辺境は未曾有の危機に陥っていた。
辺境北部、および東部から歪虚が大挙として押し寄せ、赤き大地は汚染され、多くの部族の生きる土地が奪われ……。
同時に、男の一族の族長が歪虚との戦いによる後遺症を理由に退位を宣言。
早急に次代の族長の選出をしなければならぬ事態となっていた。
――その男は野心を持っていた。否、信念と言うべきだろうか。
己が族長の地位に就き、指揮官の位置に立ち、赤き大地に蔓延る歪虚を一掃する。
その為の作戦は、既に男の中に出来上がっていた。
友は一族自体の強化を唱えていたが、己の考案した作戦を実行すれば、その必要もなく、最低限の兵と労力で実行できる。
その作戦の説明を幾度となく行ったが、一族の中でそれを理解するものは誰一人としていなかった。
「難しい」
「無理だ」
「そんなことできっこない」
繰り返される否定の言葉。
そんな中、一人だけ、その作戦に理解と興味を示した者がいた。
それは蛇の戦士――シバ族の、最後の生き残り。
「……お前は聡い。その作戦が実行できれば、確かに大分有利にことが進められるじゃろう。……だが、残念ながら、今の辺境にお前の考えを理解できるものはおらぬ。お前は少し、生まれるのが早すぎたのやもしれぬな」
どこか悲しげな蛇の戦士の言葉。
蛇の戦士自身も、蒼の世界から得たという戦略を話してくれたことがあった。
それは確かに未完成な部分もあった。が、実践できれば間違いなく勝てる、素晴らしい案だった。
だが、スコールの長も、己の一族も、その考えを一蹴した。
勝てるとわかっているのに、何故実行しない。
変化を嫌い、昔のやり方を頑なに守り続ける。
それが仲間達の命を無駄に散らしていると、何故気付かないのか――。
だからこそ、彼は『族長』になりたかった。
誰も己のことを理解しようとしない。
一人だったとしても、己が善戦すれば作戦の有用性に気付いて貰える。
一族を思い、立案していることも、理解して貰える。
族長になりさえすれば――沢山の命を、守ることができる。
そう信じて。そう願って。ただ一人前線に立ち、戦い続けていた。
彼なりに、一族の繁栄を願っていたのだ。
――あの時までは。
●談合
災厄の十三魔の一人、ハイルタイは怒りに満ちていた。
連合軍との戦いで辛酸を舐めてばかりではなく、『魂の道』にてハンターから手痛い目に合わされていた。
怠惰の中でも比較的高位の存在であるが故に、我慢の限界は近付いていた。
「あの小童共め。一度ならず、二度三度と……」
「敵には幻獣も手を貸している。油断しない方がいい」
「油断などしておらぬわ!」
青木燕太郎(kz0166)の言葉に、怒気を孕んだ声をあげる。
怒りが冷静な判断を鈍らせ、物事を正しく計れなくなる。それは歪虚でも変わらない。
――ならば。
「連中の居場所は予想がついてる」
「本当か!」
勢い良く振り返るハイルタイ。
青木はハイルタイからの期待を無視するかのように話を続ける。
「しかし、見たところこちらも万全の態勢とは言い難い。……戦力を貸してもらえれば俺が露払いをしてやろう。その間に力を蓄えるというのはどうだ?」
ハンター達の居場所はおそらく幻獣の森だ。
あそこは結界が貼られていて歪虚であっても簡単には侵入できない。先の戦いで青木もハンター達に邪魔されて森への侵入できなかった。
しかし、ハイルタイの持つ戦力を投入できれば話は別だ。
「……良かろう。儂の部下を貸してやる。儂が休んでいる間、しっかり働くが良い」
熟慮の末、ハイルタイは青木に戦力を貸すことにした。
できれば、今すぐに自らの手でハンター達を蹂躙してやりたい。だが、今までの戦いで蓄積したダメージを抱えたままで敵と対峙するのは愚策。ここは青木に戦力を削がせ、後から参戦する方がベストだ。
「儂は寝る。……儂が行くまで、ちゃんと敵を遺しておけよ」
ハイルタイは、青木に釘を刺す。
あくまでも美味しい所を持って行くのは自分だと。
「ああ、分かってる」
そう返答した青木は、踵を返す。
ゆっくりと歩き出し、静かにほくそ笑んだ。
●迫り来る黒い影
――幻獣の森が、沢山の歪虚によって包囲されている。
ツキウサギの報せに、ハンター達に緊張が走る。
先日も、幻獣の森が歪虚達に襲撃されたが、今回はその比ではない軍勢が結集している。
急ぎ戦略を考えねば……と思っていたところに、見張りの兵が走りこんで来た。
「……報告します! 東の方角に大型歪虚が出現! 馬型歪虚です!」
「巨大な馬……? またハイルタイかしら」
「違います! あれは青木 燕太郎と名乗る歪虚と思われます! ハイルタイの馬を操り、巨人型歪虚を引き連れてこちらに向かっています!」
「……何だと……!?」
見張りの兵の悲鳴に近い声に、凍りつくハンター達。
何故、青木がハイルタイの馬に……?
兵の報告によると、巨人型歪虚も連れていると言っていた。
何らかの理由で、ハイルタイと手を組んだということか――。
「こりゃまた厄介なことになったな……」
「……歪虚は森を囲むように全方位から進軍している。このままじゃ森が全滅するぞ」
「……これも奥義取得の試練ってことなんでしょうか」
「ったく。試練にしちゃあキツすぎるな」
唇を噛むハンター。その話を今まで黙って聞いていたイェルズ・オイマト(kz0143)は、大剣を担ぐとハンター達を見る。
「迎撃しましょう。青木ってヤツが親玉なんでしょ? 討ち取ればきっと何とかなりますよね」
「討ち取るってお前な。簡単に言うなよ。俺達が束になってかかってやっと追い返した相手だぞ!?」
「……まあ、確かにそうじゃな。あれを討ち取るまではいかずとも、追い返さねばどの道この森はおしまいじゃ。何もせずに負けるより、勝てる可能性を探った方が良かろう?」
「そーですよ! やってみなきゃ分からないじゃないですか!」
ハンターとイェルズの言葉に、もう一人のハンターが腕を組んで考え込む。
「どの道、今幻獣の森にいる面々だけで何とかしなきゃならない状況なのは変わらんか……。分かった。とりあえず、今ここにいる面子だけであいつらを迎撃しよう。いいか、くれぐれも命を捨てるような真似はするなよ! 特にイェルズ!」
「分かってますよ! 族長遺して死ねる訳ないでしょ!」
「仕方ないわね。私も一緒に行ってあげるわ」
そのやり取りにため息をつくハンター。
そう。この事態を、このまま放っておくことは出来ない。
――こうして、ごく一部の精鋭で、闇黒の魔人、青木 燕太郎を迎え撃つことになった。
「俺は森に向かって結界を解く手段を探る。読みが当たっていれば結界の元を直接叩くのは難しいが……まあいい。お前達はハンター達の相手をしろ」
青木の指示に黙って頷く巨人達。
黒い影の密やかな悪意が、森を包む。
その頃、辺境は未曾有の危機に陥っていた。
辺境北部、および東部から歪虚が大挙として押し寄せ、赤き大地は汚染され、多くの部族の生きる土地が奪われ……。
同時に、男の一族の族長が歪虚との戦いによる後遺症を理由に退位を宣言。
早急に次代の族長の選出をしなければならぬ事態となっていた。
――その男は野心を持っていた。否、信念と言うべきだろうか。
己が族長の地位に就き、指揮官の位置に立ち、赤き大地に蔓延る歪虚を一掃する。
その為の作戦は、既に男の中に出来上がっていた。
友は一族自体の強化を唱えていたが、己の考案した作戦を実行すれば、その必要もなく、最低限の兵と労力で実行できる。
その作戦の説明を幾度となく行ったが、一族の中でそれを理解するものは誰一人としていなかった。
「難しい」
「無理だ」
「そんなことできっこない」
繰り返される否定の言葉。
そんな中、一人だけ、その作戦に理解と興味を示した者がいた。
それは蛇の戦士――シバ族の、最後の生き残り。
「……お前は聡い。その作戦が実行できれば、確かに大分有利にことが進められるじゃろう。……だが、残念ながら、今の辺境にお前の考えを理解できるものはおらぬ。お前は少し、生まれるのが早すぎたのやもしれぬな」
どこか悲しげな蛇の戦士の言葉。
蛇の戦士自身も、蒼の世界から得たという戦略を話してくれたことがあった。
それは確かに未完成な部分もあった。が、実践できれば間違いなく勝てる、素晴らしい案だった。
だが、スコールの長も、己の一族も、その考えを一蹴した。
勝てるとわかっているのに、何故実行しない。
変化を嫌い、昔のやり方を頑なに守り続ける。
それが仲間達の命を無駄に散らしていると、何故気付かないのか――。
だからこそ、彼は『族長』になりたかった。
誰も己のことを理解しようとしない。
一人だったとしても、己が善戦すれば作戦の有用性に気付いて貰える。
一族を思い、立案していることも、理解して貰える。
族長になりさえすれば――沢山の命を、守ることができる。
そう信じて。そう願って。ただ一人前線に立ち、戦い続けていた。
彼なりに、一族の繁栄を願っていたのだ。
――あの時までは。
●談合
災厄の十三魔の一人、ハイルタイは怒りに満ちていた。
連合軍との戦いで辛酸を舐めてばかりではなく、『魂の道』にてハンターから手痛い目に合わされていた。
怠惰の中でも比較的高位の存在であるが故に、我慢の限界は近付いていた。
「あの小童共め。一度ならず、二度三度と……」
「敵には幻獣も手を貸している。油断しない方がいい」
「油断などしておらぬわ!」
青木燕太郎(kz0166)の言葉に、怒気を孕んだ声をあげる。
怒りが冷静な判断を鈍らせ、物事を正しく計れなくなる。それは歪虚でも変わらない。
――ならば。
「連中の居場所は予想がついてる」
「本当か!」
勢い良く振り返るハイルタイ。
青木はハイルタイからの期待を無視するかのように話を続ける。
「しかし、見たところこちらも万全の態勢とは言い難い。……戦力を貸してもらえれば俺が露払いをしてやろう。その間に力を蓄えるというのはどうだ?」
ハンター達の居場所はおそらく幻獣の森だ。
あそこは結界が貼られていて歪虚であっても簡単には侵入できない。先の戦いで青木もハンター達に邪魔されて森への侵入できなかった。
しかし、ハイルタイの持つ戦力を投入できれば話は別だ。
「……良かろう。儂の部下を貸してやる。儂が休んでいる間、しっかり働くが良い」
熟慮の末、ハイルタイは青木に戦力を貸すことにした。
できれば、今すぐに自らの手でハンター達を蹂躙してやりたい。だが、今までの戦いで蓄積したダメージを抱えたままで敵と対峙するのは愚策。ここは青木に戦力を削がせ、後から参戦する方がベストだ。
「儂は寝る。……儂が行くまで、ちゃんと敵を遺しておけよ」
ハイルタイは、青木に釘を刺す。
あくまでも美味しい所を持って行くのは自分だと。
「ああ、分かってる」
そう返答した青木は、踵を返す。
ゆっくりと歩き出し、静かにほくそ笑んだ。
●迫り来る黒い影
――幻獣の森が、沢山の歪虚によって包囲されている。
ツキウサギの報せに、ハンター達に緊張が走る。
先日も、幻獣の森が歪虚達に襲撃されたが、今回はその比ではない軍勢が結集している。
急ぎ戦略を考えねば……と思っていたところに、見張りの兵が走りこんで来た。
「……報告します! 東の方角に大型歪虚が出現! 馬型歪虚です!」
「巨大な馬……? またハイルタイかしら」
「違います! あれは青木 燕太郎と名乗る歪虚と思われます! ハイルタイの馬を操り、巨人型歪虚を引き連れてこちらに向かっています!」
「……何だと……!?」
見張りの兵の悲鳴に近い声に、凍りつくハンター達。
何故、青木がハイルタイの馬に……?
兵の報告によると、巨人型歪虚も連れていると言っていた。
何らかの理由で、ハイルタイと手を組んだということか――。
「こりゃまた厄介なことになったな……」
「……歪虚は森を囲むように全方位から進軍している。このままじゃ森が全滅するぞ」
「……これも奥義取得の試練ってことなんでしょうか」
「ったく。試練にしちゃあキツすぎるな」
唇を噛むハンター。その話を今まで黙って聞いていたイェルズ・オイマト(kz0143)は、大剣を担ぐとハンター達を見る。
「迎撃しましょう。青木ってヤツが親玉なんでしょ? 討ち取ればきっと何とかなりますよね」
「討ち取るってお前な。簡単に言うなよ。俺達が束になってかかってやっと追い返した相手だぞ!?」
「……まあ、確かにそうじゃな。あれを討ち取るまではいかずとも、追い返さねばどの道この森はおしまいじゃ。何もせずに負けるより、勝てる可能性を探った方が良かろう?」
「そーですよ! やってみなきゃ分からないじゃないですか!」
ハンターとイェルズの言葉に、もう一人のハンターが腕を組んで考え込む。
「どの道、今幻獣の森にいる面々だけで何とかしなきゃならない状況なのは変わらんか……。分かった。とりあえず、今ここにいる面子だけであいつらを迎撃しよう。いいか、くれぐれも命を捨てるような真似はするなよ! 特にイェルズ!」
「分かってますよ! 族長遺して死ねる訳ないでしょ!」
「仕方ないわね。私も一緒に行ってあげるわ」
そのやり取りにため息をつくハンター。
そう。この事態を、このまま放っておくことは出来ない。
――こうして、ごく一部の精鋭で、闇黒の魔人、青木 燕太郎を迎え撃つことになった。
「俺は森に向かって結界を解く手段を探る。読みが当たっていれば結界の元を直接叩くのは難しいが……まあいい。お前達はハンター達の相手をしろ」
青木の指示に黙って頷く巨人達。
黒い影の密やかな悪意が、森を包む。
リプレイ本文
「もう来た……! またここに手を伸ばしてくるなんて、しつこいなぁ」
「話には聞いていたけど、ついに動いたか……」
「向こうから来てくれるなんて好都合じゃない」
迫り来る敵を睨み付ける天竜寺 詩(ka0396)。森を撫でるような風に、アルバ・ソル(ka4189)の黒髪が揺れる。
そして余裕を見せるエリス・ブーリャ(ka3419)に、蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)がため息をつく。
「油断は大敵じゃぞ。如何様な策を弄して来よるか分からぬ。攻めるには少しばかり手数が少な過ぎるが……」
「幻獣達も協力してくれています。やるしかありません」
「よーし! どーんと行ってみるのだー!」
励ますようなレオン(ka5108)とネフィリア・レインフォード(ka0444)の声に頷くハンター達。
巨人達を置いて先行を始める青木を見つめて、チョココ(ka2449)は、思い出したように仲間達を振り返る。
「さっきもお話したですけど、青木はとっても危ないですの。気をつけてですの」
「了解した。我々は青木を足止めする! 巨人を頼んだぞ!」
「やれやれ。挨拶する暇もないようだな。……気をつけろよ、アルバ」
「ああ、君もな。武運を祈る」
叫び、走り出すHolmes(ka3813)。その声を合図に、レオンとアルバは拳を合わせ……仲間達もまた、幻獣に跨り臨戦態勢に入る。
我先にと巨人へ向かおうとしたイェルズ・オイマト(kz0143)は、蜜鈴に扇で視界を塞がれて立ち止まる。
「ちょっと待つのじゃ、イェルズ」
「わわっ。何です? 蜜鈴さん」
「おぬしに折り入って頼みがある。妾はこの通りか弱かろう? 悪いが護っては貰えぬかのう」
「あ、それいーね! じゃ、イェルズちゃん、あたしもお願い!」
「え。でも俺でいいんです?」
「もっちろーん。こんな美人の騎士役だよ? 光栄だと思ってよね!」
イェルズの背をばしばしと叩くエリスに、くつりと笑う蜜鈴。
――守って貰うというのは建前だ。
この青年が傷つけば、己の友人である仏頂面の族長が、きっと無茶をするであろうから――。
護ってやらなければなるまい。それこそ身を呈してでも……。
そんな蜜鈴の考えを他所に、うら若い女子2人に頼られてイェルズはすっかりその気になっているようだったが。
「森は幻獣さん達のお家ですの。絶対守るですのよー!」
「厄介な置き土産だけど……何とかしないとね」
「うん! 大きな戦いになりそうだけど、頑張るのだ!」
イェジドに跨り、その背を励ますように撫でるチョココとレオン、ネフィリア。
チョココの愛イェジドであるアーデルベルトにとっても、この森は大事な故郷だ。失われるようなことがあってはならない。
それに応えるようなイェジド達の咆哮が響き……。
「魂の灯火よ。満ちて我に光を与えよ」
レオンの短い詠唱。青い炎のようなオーラに包まれた彼に、巨人達は引き寄せられるように向かってくる。
「さ、君達の相手はボクだ。かかってきなよ」
振るわれる巨人の腕を、盾で受け止めたレオン。
重い一撃。だが、身体が持っていかれる程ではない。
「風の力でー! ズバッといくですのよー!!」
チョココの愛らしい詠唱と共に空を切る風の刃。
それは、腕を切り刻み……巨人が怒りの咆哮をあげる。
「待ーってましたぁー! 精霊さん、ボクに力貸してー! そーれ! バンカーナックル!!」
仲間の攻撃に合わせ、イェジドを跳躍させたネフィリア。
『闘心昂揚』で力を高めた重い一撃を巨人の足に叩き込む。
巨人は大きくて硬いが、足の一点を狙っていけばきっと攻撃も通る。
相手の攻撃だって、当たらなければどうということはないのだ♪ 当たったら痛いけどっ!
一撃当てて離脱するネフィリアに合わせ、後ろに飛びずさるレオン。
彼の『ソウルトーチ』の効果もあってか、巨人の攻撃が向かいやすい。
チョココは巨人から目を離さず、燃え盛る炎の矢を生み出しながら叫ぶ。
「ネフィ様! どんどん撃ち込んじゃいますわよ!」
「お願いするのだ! ボクもヒットアンドアウェイで行くのだ!」
巨人だけに耐久力はありそうだが、これを続ければ長くは持つまい――。
「イェルズ、踏み込みすぎじゃ! 下がれ!」
蜜鈴の声に反応し、咄嗟に後退したイェルズ。
紙一重で、大きく振われた巨人の腕が彼の身体を掠める。
「ありがとうございます。何か俺、守るって言うより守られてません?」
「気のせいじゃろ」
涼しい顔で答える蜜鈴。イェルズの攻撃に合わせて放たれる彼女の炎の矢は、確実に巨人の勢いを削ぎ、彼を助ける結果となっていたのだが。それを悟らせないのもまた蜜鈴の技術の賜物といったところか。
「イェルズちゃん、ちょっと頭下げてー!」
聞こえてきた声に反射的に首を引っ込めたイェルズ。エリスの生み出した光でできた三角形から発射された光線が、彼の髪を一部焦がして巨人に吸い込まれる。
「うぉあっ!!? 危うく髪なくなるとこでしたよ!?」
「当たらなかったんだからいーじゃん。ちゃんと知らせたし!」
「何でそんなギリギリ狙うんです!?」
「さっさとこいつら倒して次行きたいんだもん!!」
むくれるエリス。
そう。彼女の目的はあくまでも青木だ。上から目線とか何かムカつくし、シバの仇の仲間だというのなら、尚更生かして帰すつもりはない。
「そんな訳だからイェルズちゃんも協力してよね!」
「してますよ!!」
「ほれ、イェルズ前を見ろ! 来よるぞ!」
蜜鈴の声に応え、大剣を構え直すイェルズ。
「……魔力の矢よ、炎を纏て彼の敵を穿て」
「おらおらー! 光よ! 敵をどんどん切り裂いちゃえー!」
囁くような蜜鈴と相反して明るく元気なエリスの詠唱。
巨人の身体が燃える炎の赤と、光の白に包まれて――。
その頃、レオン達は1体目の巨人を沈め、もう1体の巨人の相手をしていた。
「レオンちゃん、大丈夫?」
「大丈夫だ。まだまだ行ける」
「ごめんね。あともう数発でいけると思うのだ」
「分かった。持ち堪えてみせよう」
気遣うネフィリアに頷くレオン。
敵を引き付け続けた為か、何度か重い攻撃を食らい、消耗していた。
彼が体内のマテリアルを活性化させ傷を癒す間、チョココが土の壁を作り出し、巨人の往く手を阻む。
レオンは体勢を立て直し、再び前衛に立ち、蒼い炎を立ち上らせ――。
「よし、続けるぞ」
「ネフィ様! 今のうちですわ!」
「あいよー! 霊魔撃! いっけー!」
巨人の目を狙って打ち込まれたチョココの炎の矢。続いたイェジドの高い跳躍。響き渡るぼこっと言う鈍い音。
ネフィリアの拳は巨人の顎にクリーンヒットし……巨体が、周囲の樹を巻き込み、ゆっくりと地に倒れた。
木々の間を走り抜ける巨馬、その背には、黒衣の男……。
「歪虚がこんな所に何の用なの!?」
「来たか、ハンター。……わざわざ説明してやる義理はないな。そこを退け。今なら見逃してやる」
「悪いけど、僕達としてもここを突破される訳にはいかないんだ」
詩の隣に立つアルバの後ろで、慌てて何かを隠す素振りを見せるHolmes。彼はその様子にぎょっとした顔をして、すぐさま表情を元に戻す。
Holmesに向けられる、青木の鋭い目線。
――ここまでは計画通り。さあ、どう出る? 青木君。
「……この先には行かせないよ!」
詩の短い叫び。続く鎮魂歌。静かで穏やかな旋律が辺りに響くが、巨馬に変化はなく、青木も涼しい顔をしたままだ。
「レクイエムは効かないようだね……。詩君、切り替えるよ!」
「了解!」
巨馬を睨みつけ、剥き出しの殺意をぶつけるHolmes。
それに続いて、詩が馬の足に光の杭を打ち込む。
続いた攻撃に不快感を感じたのか、身を揺らす巨馬。それを宥めることもせず、青木は遠くを見ていて……それに気付いたアルバも、その目線を追う。
――何だ。何を見ている?
樹……いや、違う。森か。
森に隠されているものを探しているのだとしたら……しかし、この位置からナーランギは見えまい。
まさか、マテリアルの量を見ているのか――?
「先に馬を潰すぞ!」
「天照! 馬の足を狙って!」
「凍える息吹よ。凍てつく衣となりて、覆いつくせ!」
Holmesの声に応えるように、イェジドをけしかける詩。
アルバの詠唱が冷気の嵐を呼び起こし、巨馬に襲いかかる。
Holmesも身体中にマテリアルを満たし、大鎌を振るうが、その動きは精彩を欠き……時々服の上から隠した何かを確認する仕草を見せていた。
攻めたいが、下手に攻める訳にはいかない……。そんな様子を見せる彼女に、青木は口の端を上げて笑う。
「……随分と必死だな」
「何のことかな?」
「お前が何を隠し持っているのかは知らんが、それで騙せると思っているのか?」
「何故そう思う?」
――ここで動じたら負けだ。
黒い歪虚を睨むHolmes。青木はそれを受け止めて、ククク……と嗤う。
「お前の持っているそれが結界に纏わる何かだと仮定しよう。だが、それからはさほどのマテリアルの匂いは感じない。この森を覆う結界を維持できるとは到底思えん。それに……何故こんな辺鄙な場所に結界の要がある。持ち運びが出来るのなら、遠くに隠さずわざわざ俺の前に持って来た意味は?」
「それは……」
「……説明を聞くのも面倒だ。お前ごとそれを壊して結果を見るのも悪くはないな」
そう続いた青木の声に、唇を噛む彼女。
――そうだ。この歪虚は、一度この森を訪れている。
既に、『何が結界を張っているのか』という事実を覚りつつあったのだとしたら……逆にこの行為は、『森の中に結界の核がある』という裏付けとなってしまいかねない。
「……成程。魔人型というのは伊達ではないようだね」
「あなたが強くて知恵があるのは、良く分かった。でも、ここは通さないよ!」
「この期に及んで威勢がいいな。俺を止めたいというのなら、その身を賭けることだ」
迷いのない詩。今まで戦う素振りを見せなかった青木が、槍を構える。
巨人に対応している者達が来るまで足止めしておきたかったが、こうなってしまっては――。
今は出来うる限り、持ち堪えるしかない。
幸い、馬には光の杭が打ち込まれたまま。動きを阻害することは成功しているようにも見える。
これなら、何とかなるかもしれない……。
「厄介な御仁のようだね。どれほどのものか確かめさせて貰うよ」
アルバの呟き。
閃く槍。その一撃を大鎌でいなすHolmes。
その異様な程の重さ。感じる腕の痺れに歯を食いしばる。
「負けるか……!」
切り返し、振り下ろす鎌。風を切る音。青木はそれを受け流す。
飛びずさり、また距離を詰め、幾度となく打ち合うが、青木にはまだ余裕が見える。
「天照! 食らいついて!」
「光の矢よ! 闇を裂き、敵を撃て!」
続いた詩の光の杭。彼女の声に応えて、イェジドが宙を舞い……アルバから放たれる光弾。
青木はひらりと身を翻し馬の後方へ飛びずさり――その結果、男が受けるはずだった攻撃が巨馬に吸い込まれた。
「馬を盾にするなんて……!」
「その馬は借り物なんじゃないのか?!」
「こちらの事情を心配して貰う必要はないな」
「目的の為に手段を選ばぬというのは本当のようだ……!」
詩とアルバの叫びを、馬の嘶きがかき消す。
馬を盾として使ってくるのは計算外だったが、どの道先に足を奪うつもりだった。
やることは変わらない……!
「……もう少しお相手願おうか、青木君」
「俺は援軍が来る前に帰りたいんだが、ね」
横に振われたHolmesの鎌を跳躍で避けた青木。次の瞬間、感じる急激な寒気と、周囲のマテリアルが吸い取られるような感覚。
男の槍が黒い気を纏うのが見えて――。
「……Holmesさん! 下がって!!」
「……っ!」
詩の悲鳴に近い声。Holmesは身を翻したが、一歩及ばず。彼女の身体に鮮血の花が咲く。
「やはり隠し持っていたものは偽物か。つまらん真似を。……まだやる気か?」
「当たり前よ。私は大切な友人が遺した物を、絶対護りぬくんだから!!」
「ここで引き下がる訳にはいかない」
「そうか。ならば死ね!」
詩から再び打たれる光の杭。アルバから放たれる輝く光の弾が、黒いコートに穴を開け……青木は槍を構えると、大きく振るい衝撃波を放つ。
ビリビリと震える空気。
詩とアルバの指示で回り込もうとしていたイェジドも巻き込まれ、吹き飛ばされる。
何とか立ち上がり、反撃に転じようとする2人。青木に行動阻害のスキルはさして効いたように見えず、幾度となくイェジドごと衝撃波に飲み込まれ――。
「……まだ立つか」
「当たり前だよ! あたしは諦めない!」
「詩さん……。くそっ」
全身血まみれで、満身創痍になりながら杖を支えにして立つ詩。
アルバは、アースウォールを活性化して来なかったことを悔やんでいた。
あれがあれば、もう少し持ちこたえられたはず――。
いや、まだだ。まだ終わりじゃない……!
「潮時だな。……行け!」
クク、と嗤う青木。突然叩かれ、嘶いた巨馬。凄い勢いで走り出す。
いけない。あの先には幻獣の森が……!
――突き動かされるように走り出したアルバ。大地を踏みしめ、馬の前に立ち塞がり……。
辺りに響く、耳を劈く轟音。
感じる、空気の震え。
巨馬は結界に体当たりする結果となり、怪我を負いもがき苦しんでいる。
そしてアルバは弾き飛ばされ、樹に叩きつけられて動かなくなった。
「……ハンターに勢いを殺がれたか。まあ、いい。綻びくらいは生じただろう。概ね計画通りだ。感謝するぞ」
「あなた、一体何を企んでるの……?」
「さて、な。今日はこれで帰るとしよう」
「待ちなさい……! まだ勝負は……!」
言いかけて、膝をつく詩。主を庇うイェジドもまた傷だらけで……。
青木は彼女に冷たい目線を向けると、巨馬を起こし去って行った。
「間に合わなかったか……」
悔しそうに唇を噛むレオン。対巨人班が巨人を倒し、駆けつけた時には青木は去り、仲間達が動けずに地に伏した状態だった。
「うわっ。ちょっと皆、大丈夫!?」
「しっかりしてくださいですの!」
「早く戻って手当てをしましょう」
慌てて仲間達に駆け寄り、助け起こすエリスとチョココ。
それをイェルズと共に手伝おうとして……蜜鈴はふと顔を上げる。
「……何じゃ?」
「蜜鈴ちゃん、どうかしたのだ?」
「いや、悲鳴のようなものが聞こえた気がしたのじゃが……」
「……ん? 悲鳴は分からないけど、変な空気は感じるのだ」
小首を傾げるネフィリア。
負のマテリアルが急に増えて、そして消えた。そんな奇妙な感覚……。
「……何ぞ、嫌な予兆でなければ良いのじゃがな」
「そうだな……」
「青木の首取りたかったのになー」
ため息交じりに呟く蜜鈴。レオンとエリスは、青木達が去って行った方角をじっと見つめていた。
「話には聞いていたけど、ついに動いたか……」
「向こうから来てくれるなんて好都合じゃない」
迫り来る敵を睨み付ける天竜寺 詩(ka0396)。森を撫でるような風に、アルバ・ソル(ka4189)の黒髪が揺れる。
そして余裕を見せるエリス・ブーリャ(ka3419)に、蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)がため息をつく。
「油断は大敵じゃぞ。如何様な策を弄して来よるか分からぬ。攻めるには少しばかり手数が少な過ぎるが……」
「幻獣達も協力してくれています。やるしかありません」
「よーし! どーんと行ってみるのだー!」
励ますようなレオン(ka5108)とネフィリア・レインフォード(ka0444)の声に頷くハンター達。
巨人達を置いて先行を始める青木を見つめて、チョココ(ka2449)は、思い出したように仲間達を振り返る。
「さっきもお話したですけど、青木はとっても危ないですの。気をつけてですの」
「了解した。我々は青木を足止めする! 巨人を頼んだぞ!」
「やれやれ。挨拶する暇もないようだな。……気をつけろよ、アルバ」
「ああ、君もな。武運を祈る」
叫び、走り出すHolmes(ka3813)。その声を合図に、レオンとアルバは拳を合わせ……仲間達もまた、幻獣に跨り臨戦態勢に入る。
我先にと巨人へ向かおうとしたイェルズ・オイマト(kz0143)は、蜜鈴に扇で視界を塞がれて立ち止まる。
「ちょっと待つのじゃ、イェルズ」
「わわっ。何です? 蜜鈴さん」
「おぬしに折り入って頼みがある。妾はこの通りか弱かろう? 悪いが護っては貰えぬかのう」
「あ、それいーね! じゃ、イェルズちゃん、あたしもお願い!」
「え。でも俺でいいんです?」
「もっちろーん。こんな美人の騎士役だよ? 光栄だと思ってよね!」
イェルズの背をばしばしと叩くエリスに、くつりと笑う蜜鈴。
――守って貰うというのは建前だ。
この青年が傷つけば、己の友人である仏頂面の族長が、きっと無茶をするであろうから――。
護ってやらなければなるまい。それこそ身を呈してでも……。
そんな蜜鈴の考えを他所に、うら若い女子2人に頼られてイェルズはすっかりその気になっているようだったが。
「森は幻獣さん達のお家ですの。絶対守るですのよー!」
「厄介な置き土産だけど……何とかしないとね」
「うん! 大きな戦いになりそうだけど、頑張るのだ!」
イェジドに跨り、その背を励ますように撫でるチョココとレオン、ネフィリア。
チョココの愛イェジドであるアーデルベルトにとっても、この森は大事な故郷だ。失われるようなことがあってはならない。
それに応えるようなイェジド達の咆哮が響き……。
「魂の灯火よ。満ちて我に光を与えよ」
レオンの短い詠唱。青い炎のようなオーラに包まれた彼に、巨人達は引き寄せられるように向かってくる。
「さ、君達の相手はボクだ。かかってきなよ」
振るわれる巨人の腕を、盾で受け止めたレオン。
重い一撃。だが、身体が持っていかれる程ではない。
「風の力でー! ズバッといくですのよー!!」
チョココの愛らしい詠唱と共に空を切る風の刃。
それは、腕を切り刻み……巨人が怒りの咆哮をあげる。
「待ーってましたぁー! 精霊さん、ボクに力貸してー! そーれ! バンカーナックル!!」
仲間の攻撃に合わせ、イェジドを跳躍させたネフィリア。
『闘心昂揚』で力を高めた重い一撃を巨人の足に叩き込む。
巨人は大きくて硬いが、足の一点を狙っていけばきっと攻撃も通る。
相手の攻撃だって、当たらなければどうということはないのだ♪ 当たったら痛いけどっ!
一撃当てて離脱するネフィリアに合わせ、後ろに飛びずさるレオン。
彼の『ソウルトーチ』の効果もあってか、巨人の攻撃が向かいやすい。
チョココは巨人から目を離さず、燃え盛る炎の矢を生み出しながら叫ぶ。
「ネフィ様! どんどん撃ち込んじゃいますわよ!」
「お願いするのだ! ボクもヒットアンドアウェイで行くのだ!」
巨人だけに耐久力はありそうだが、これを続ければ長くは持つまい――。
「イェルズ、踏み込みすぎじゃ! 下がれ!」
蜜鈴の声に反応し、咄嗟に後退したイェルズ。
紙一重で、大きく振われた巨人の腕が彼の身体を掠める。
「ありがとうございます。何か俺、守るって言うより守られてません?」
「気のせいじゃろ」
涼しい顔で答える蜜鈴。イェルズの攻撃に合わせて放たれる彼女の炎の矢は、確実に巨人の勢いを削ぎ、彼を助ける結果となっていたのだが。それを悟らせないのもまた蜜鈴の技術の賜物といったところか。
「イェルズちゃん、ちょっと頭下げてー!」
聞こえてきた声に反射的に首を引っ込めたイェルズ。エリスの生み出した光でできた三角形から発射された光線が、彼の髪を一部焦がして巨人に吸い込まれる。
「うぉあっ!!? 危うく髪なくなるとこでしたよ!?」
「当たらなかったんだからいーじゃん。ちゃんと知らせたし!」
「何でそんなギリギリ狙うんです!?」
「さっさとこいつら倒して次行きたいんだもん!!」
むくれるエリス。
そう。彼女の目的はあくまでも青木だ。上から目線とか何かムカつくし、シバの仇の仲間だというのなら、尚更生かして帰すつもりはない。
「そんな訳だからイェルズちゃんも協力してよね!」
「してますよ!!」
「ほれ、イェルズ前を見ろ! 来よるぞ!」
蜜鈴の声に応え、大剣を構え直すイェルズ。
「……魔力の矢よ、炎を纏て彼の敵を穿て」
「おらおらー! 光よ! 敵をどんどん切り裂いちゃえー!」
囁くような蜜鈴と相反して明るく元気なエリスの詠唱。
巨人の身体が燃える炎の赤と、光の白に包まれて――。
その頃、レオン達は1体目の巨人を沈め、もう1体の巨人の相手をしていた。
「レオンちゃん、大丈夫?」
「大丈夫だ。まだまだ行ける」
「ごめんね。あともう数発でいけると思うのだ」
「分かった。持ち堪えてみせよう」
気遣うネフィリアに頷くレオン。
敵を引き付け続けた為か、何度か重い攻撃を食らい、消耗していた。
彼が体内のマテリアルを活性化させ傷を癒す間、チョココが土の壁を作り出し、巨人の往く手を阻む。
レオンは体勢を立て直し、再び前衛に立ち、蒼い炎を立ち上らせ――。
「よし、続けるぞ」
「ネフィ様! 今のうちですわ!」
「あいよー! 霊魔撃! いっけー!」
巨人の目を狙って打ち込まれたチョココの炎の矢。続いたイェジドの高い跳躍。響き渡るぼこっと言う鈍い音。
ネフィリアの拳は巨人の顎にクリーンヒットし……巨体が、周囲の樹を巻き込み、ゆっくりと地に倒れた。
木々の間を走り抜ける巨馬、その背には、黒衣の男……。
「歪虚がこんな所に何の用なの!?」
「来たか、ハンター。……わざわざ説明してやる義理はないな。そこを退け。今なら見逃してやる」
「悪いけど、僕達としてもここを突破される訳にはいかないんだ」
詩の隣に立つアルバの後ろで、慌てて何かを隠す素振りを見せるHolmes。彼はその様子にぎょっとした顔をして、すぐさま表情を元に戻す。
Holmesに向けられる、青木の鋭い目線。
――ここまでは計画通り。さあ、どう出る? 青木君。
「……この先には行かせないよ!」
詩の短い叫び。続く鎮魂歌。静かで穏やかな旋律が辺りに響くが、巨馬に変化はなく、青木も涼しい顔をしたままだ。
「レクイエムは効かないようだね……。詩君、切り替えるよ!」
「了解!」
巨馬を睨みつけ、剥き出しの殺意をぶつけるHolmes。
それに続いて、詩が馬の足に光の杭を打ち込む。
続いた攻撃に不快感を感じたのか、身を揺らす巨馬。それを宥めることもせず、青木は遠くを見ていて……それに気付いたアルバも、その目線を追う。
――何だ。何を見ている?
樹……いや、違う。森か。
森に隠されているものを探しているのだとしたら……しかし、この位置からナーランギは見えまい。
まさか、マテリアルの量を見ているのか――?
「先に馬を潰すぞ!」
「天照! 馬の足を狙って!」
「凍える息吹よ。凍てつく衣となりて、覆いつくせ!」
Holmesの声に応えるように、イェジドをけしかける詩。
アルバの詠唱が冷気の嵐を呼び起こし、巨馬に襲いかかる。
Holmesも身体中にマテリアルを満たし、大鎌を振るうが、その動きは精彩を欠き……時々服の上から隠した何かを確認する仕草を見せていた。
攻めたいが、下手に攻める訳にはいかない……。そんな様子を見せる彼女に、青木は口の端を上げて笑う。
「……随分と必死だな」
「何のことかな?」
「お前が何を隠し持っているのかは知らんが、それで騙せると思っているのか?」
「何故そう思う?」
――ここで動じたら負けだ。
黒い歪虚を睨むHolmes。青木はそれを受け止めて、ククク……と嗤う。
「お前の持っているそれが結界に纏わる何かだと仮定しよう。だが、それからはさほどのマテリアルの匂いは感じない。この森を覆う結界を維持できるとは到底思えん。それに……何故こんな辺鄙な場所に結界の要がある。持ち運びが出来るのなら、遠くに隠さずわざわざ俺の前に持って来た意味は?」
「それは……」
「……説明を聞くのも面倒だ。お前ごとそれを壊して結果を見るのも悪くはないな」
そう続いた青木の声に、唇を噛む彼女。
――そうだ。この歪虚は、一度この森を訪れている。
既に、『何が結界を張っているのか』という事実を覚りつつあったのだとしたら……逆にこの行為は、『森の中に結界の核がある』という裏付けとなってしまいかねない。
「……成程。魔人型というのは伊達ではないようだね」
「あなたが強くて知恵があるのは、良く分かった。でも、ここは通さないよ!」
「この期に及んで威勢がいいな。俺を止めたいというのなら、その身を賭けることだ」
迷いのない詩。今まで戦う素振りを見せなかった青木が、槍を構える。
巨人に対応している者達が来るまで足止めしておきたかったが、こうなってしまっては――。
今は出来うる限り、持ち堪えるしかない。
幸い、馬には光の杭が打ち込まれたまま。動きを阻害することは成功しているようにも見える。
これなら、何とかなるかもしれない……。
「厄介な御仁のようだね。どれほどのものか確かめさせて貰うよ」
アルバの呟き。
閃く槍。その一撃を大鎌でいなすHolmes。
その異様な程の重さ。感じる腕の痺れに歯を食いしばる。
「負けるか……!」
切り返し、振り下ろす鎌。風を切る音。青木はそれを受け流す。
飛びずさり、また距離を詰め、幾度となく打ち合うが、青木にはまだ余裕が見える。
「天照! 食らいついて!」
「光の矢よ! 闇を裂き、敵を撃て!」
続いた詩の光の杭。彼女の声に応えて、イェジドが宙を舞い……アルバから放たれる光弾。
青木はひらりと身を翻し馬の後方へ飛びずさり――その結果、男が受けるはずだった攻撃が巨馬に吸い込まれた。
「馬を盾にするなんて……!」
「その馬は借り物なんじゃないのか?!」
「こちらの事情を心配して貰う必要はないな」
「目的の為に手段を選ばぬというのは本当のようだ……!」
詩とアルバの叫びを、馬の嘶きがかき消す。
馬を盾として使ってくるのは計算外だったが、どの道先に足を奪うつもりだった。
やることは変わらない……!
「……もう少しお相手願おうか、青木君」
「俺は援軍が来る前に帰りたいんだが、ね」
横に振われたHolmesの鎌を跳躍で避けた青木。次の瞬間、感じる急激な寒気と、周囲のマテリアルが吸い取られるような感覚。
男の槍が黒い気を纏うのが見えて――。
「……Holmesさん! 下がって!!」
「……っ!」
詩の悲鳴に近い声。Holmesは身を翻したが、一歩及ばず。彼女の身体に鮮血の花が咲く。
「やはり隠し持っていたものは偽物か。つまらん真似を。……まだやる気か?」
「当たり前よ。私は大切な友人が遺した物を、絶対護りぬくんだから!!」
「ここで引き下がる訳にはいかない」
「そうか。ならば死ね!」
詩から再び打たれる光の杭。アルバから放たれる輝く光の弾が、黒いコートに穴を開け……青木は槍を構えると、大きく振るい衝撃波を放つ。
ビリビリと震える空気。
詩とアルバの指示で回り込もうとしていたイェジドも巻き込まれ、吹き飛ばされる。
何とか立ち上がり、反撃に転じようとする2人。青木に行動阻害のスキルはさして効いたように見えず、幾度となくイェジドごと衝撃波に飲み込まれ――。
「……まだ立つか」
「当たり前だよ! あたしは諦めない!」
「詩さん……。くそっ」
全身血まみれで、満身創痍になりながら杖を支えにして立つ詩。
アルバは、アースウォールを活性化して来なかったことを悔やんでいた。
あれがあれば、もう少し持ちこたえられたはず――。
いや、まだだ。まだ終わりじゃない……!
「潮時だな。……行け!」
クク、と嗤う青木。突然叩かれ、嘶いた巨馬。凄い勢いで走り出す。
いけない。あの先には幻獣の森が……!
――突き動かされるように走り出したアルバ。大地を踏みしめ、馬の前に立ち塞がり……。
辺りに響く、耳を劈く轟音。
感じる、空気の震え。
巨馬は結界に体当たりする結果となり、怪我を負いもがき苦しんでいる。
そしてアルバは弾き飛ばされ、樹に叩きつけられて動かなくなった。
「……ハンターに勢いを殺がれたか。まあ、いい。綻びくらいは生じただろう。概ね計画通りだ。感謝するぞ」
「あなた、一体何を企んでるの……?」
「さて、な。今日はこれで帰るとしよう」
「待ちなさい……! まだ勝負は……!」
言いかけて、膝をつく詩。主を庇うイェジドもまた傷だらけで……。
青木は彼女に冷たい目線を向けると、巨馬を起こし去って行った。
「間に合わなかったか……」
悔しそうに唇を噛むレオン。対巨人班が巨人を倒し、駆けつけた時には青木は去り、仲間達が動けずに地に伏した状態だった。
「うわっ。ちょっと皆、大丈夫!?」
「しっかりしてくださいですの!」
「早く戻って手当てをしましょう」
慌てて仲間達に駆け寄り、助け起こすエリスとチョココ。
それをイェルズと共に手伝おうとして……蜜鈴はふと顔を上げる。
「……何じゃ?」
「蜜鈴ちゃん、どうかしたのだ?」
「いや、悲鳴のようなものが聞こえた気がしたのじゃが……」
「……ん? 悲鳴は分からないけど、変な空気は感じるのだ」
小首を傾げるネフィリア。
負のマテリアルが急に増えて、そして消えた。そんな奇妙な感覚……。
「……何ぞ、嫌な予兆でなければ良いのじゃがな」
「そうだな……」
「青木の首取りたかったのになー」
ため息交じりに呟く蜜鈴。レオンとエリスは、青木達が去って行った方角をじっと見つめていた。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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【質問卓】状況把握 Holmes(ka3813) ドワーフ|8才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2016/04/06 00:30:49 |
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【相談卓】幻獣といっしょ Holmes(ka3813) ドワーフ|8才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2016/04/05 23:02:32 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/04/02 20:23:23 |