• 幻魂

【幻魂】 孤立部隊救出作戦

マスター:桐咲鈴華

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
4~10人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/04/06 09:00
完成日
2016/04/14 05:11

みんなの思い出

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オープニング


 魂の道で祖霊の欠片を集めたファリフ・スコール。
 幻獣の森にて祖霊の欠片を繋ぎ合わせ、一つの宝珠として蘇らせた。
 光り輝く祖霊の欠片。
 光に包まれるファリフとハンター達。
 しかし、そこへ敵襲来の一報。
 敵は幻獣の森を取り囲むように布陣。圧倒的な物量で幻獣の森へ襲い掛かる。指揮官は幻獣の森に因縁を持つ青木燕太郎。

 絶望に近い状況でも抗わんとするハンター達。
 自らの命を賭けたサバイバルが、今始まる--。




「後方部隊が、敵の群れに飲まれた……ですって……!?」
 幻獣の森内。傷ついたハンター達の治療をしながらエフィーリア・タロッキ(kz077)は凶報に言葉を詰まらせる。付近では既に敵との交戦が始まっており、エフィーリアは負傷したハンターの治療、ならびに作戦中継の役割を担って後方にて従軍していた。
 報告をもたらしたハンターによると、後方より支援を行おうとしていた部隊が圧倒的な数の敵の波に飲まれて連絡が途絶したとのこと。味方が見えなくなる程に埋め尽くされた敵の数には現実味が沸かないが、これが実際に今で起こっている事だとエフィーリアは自らの頬を叩いて呆けた思考を巡らせる。今まさに、人命が失われようとしている自体を黙って見過ごす訳にはいかない。
「解りました。報告に感謝します……! 此方ではすぐさま、孤立部隊の救援の為の人員を募ります!」
 エフィーリアの判断を聞き、報告を終えたハンターは前線へと戻ってゆく。負傷者の治療を終えたエフィーリアは、袖の裾を捲りながら後方に待機しているハンター達の元へと駆けてゆく。
(敵の数が想定よりも多いようです……戦況は間違いなく此方が不利……。何か、決定的な打開策がなければ、もしかして……)
 エフィーリアは思いかけた最悪の予感を振り払うように頭を振り、編成中のハンター達の元へと急ぐのだった。

 幻獣の森での戦いは、混迷を極めようとしている――。

リプレイ本文

●歪虚達の海の中で

 幻獣の森南部では、歪虚による怒涛の侵攻が展開されていた。先が見えなくなる程に多くの歪虚がひしめきあい、大挙として襲い掛かってくる。その様子は波濤猛り狂う波のように激しく、押し寄せるように激しい。
 前線の報により、そんな敵の渦中に取り残された後方支援部隊がいる事が判明した。ハンター達は孤立した部隊を救出する為、森の中を走る。
「むしろこの状況下で、まだ抵抗できてるのはありがたいわね」
 アルラウネ(ka4841)は敵の群れを見て率直な感想を口にする。向こう側が見えなくなるほどの敵の大群だ。四方八方を敵に囲まれてなお現存している方が稀有な状況だろう。その隣を走る時音 ざくろ(ka1250)は応えるように大剣に手をかける。
「うん。支援部隊の人たちは、きっと今も助けを信じて頑張ってるんだ。だからざくろも絶対に諦めない。必ず駆けつけて、助け出すよ!」
 敵の群れへと接近し、巨剣を抜き放ちながら言い放つ。どれほど多くの敵がいようとも、そこに助けられる人がいるなら放ってはおけない。それがざくろの冒険者としての意地だ。やがて森の木々を越えた先に、いくつもの甲冑がひしめいているのが見えてくる。鎧たちは背後より迫り来るハンター達の存在に気付いたか、その中身のない兜をこちらに振り向かせてくる。

「正ならざる冷たき鎧たちよ、鎮まりなさい……!」
  淡い光を纏いながら先行したUisca Amhran(ka0754)は、神聖なる旋律を奏で始める。鎮魂歌にも似た清らかで荘厳な音響は、聖なる魔力を得て蠢く鎧たちを縫い止めた。敵の海の一部が一瞬、凍りついたように動きを止める。
「――さぁ、華やかに火祭り(フェリア)を開催しましょうか」
 Uiscaから入れ替わるように前に躍り出たフェリア(ka2870)が、艶めく銀髪の隙間から同色の翼を展開させると同時に、轟々と燃え盛る火炎を凝縮した火球を動きの止まった敵軍に投射する。鎧の一体に当たると圧縮されていた焔が一気呵成に解き放たれて大爆発を起こし、衝撃波と爆炎が敵陣に穴を開ける。
「そぉーれっ、稲妻ですよぉ!」
 続いて束ねた符を虚空に展開し、星野 ハナ(ka5852)が魔力を迸らせる。投げつけた符が雷撃へと変容し、雷光となって融解していた虚空の鎧たちを貫き粉砕した。
「行こう、アルラっ!」
「ええざくろん。合わせるわ」
 敵の群れの一部薄くなった所に、ざくろとアルラウネは突撃を仕掛ける。ざくろは走りながら大剣による三閃で前方を切り払うように振るうと、光で出来た三角形が前方に形成され、それを目掛けて両手で剣を構える。
「ざくろたちの邪魔をするな……食らえ必殺――――」
 その三角形の中心へ、構えた剣を突き抜く!
「――デルタエンド!」
 三角形の頂点から放出された光線が、現存するリビングアーマーを貫く。その光と平行するように駆け出したアルラウネは、敵の中心部で身の丈より巨大な剣を抜き放ながら馬から飛び降り乱舞を繰り出す。斬り、叩き、身を翻して蹴りを入れ、地に突き刺した剣を支点に身体ごと回転させて一刀両断。敵に開いた穴を無理矢理に抉じ開け、文字通り道を切り開く。
「どうかしら? 美しい薔薇には棘があるのよ、ってね」
 アルラウネは覚醒により舞い散った薔薇の花弁を舞わせながら跳ねるように馬に飛び戻り、悪戯っぽく舌を出す。4人の怒涛の攻撃により不意を撃たれたリビングアーマーの数体は数秒のうちに吹き飛ばされて行動不能になる。だが、ギリギリで範囲攻撃を免れた対象や攻撃の渦中に晒されなかった鎧たちはまだまだ厭という程に押し寄せてくる。意思ではなく悪意で、害意ではなく殺意で剣を、槍を、弓を構えて、その物量で突入したハンター達を包み潰すように群がってくる。
「させん!」
 そこへレイア・アローネ(ka4082)は炎のようなオーラを纏い、自分の身を敵と味方の隙間に割り込ませて敵の侵攻を阻害する。鎧達はレイアの方へ注意を向け、孤立した奴から潰そうと群がるが、防御の構えを取るレイアに技術もない剣など当たるはずもない。レイアが敵を引き付けているうちに、敵陣を削岩機のように掻き分けて進んでいき、厚い敵の群を目指して突っ込んでゆくのはカイン・マッコール(ka5336)。突撃のエネルギーを殺さぬまま敵にそのまま叩き込んでいき、迸る剛剣が周囲の敵を叩き潰してゆく。
「無駄に数が多いな、殺しきれないのならば、半端に壊してしまうのが得策か」
 リビングアーマーは頑強な鎧が本体となるが故に防御力が高く、しぶとい。強力な攻撃を受けてもすぐさま立ち上がってくる。カインはそこで足や手など、継戦に必要な部位を優先して叩き壊してゆく。攻撃できなくなった敵を無理に倒しきる必要はない。作戦の概要を理解した合理的な戦法へと切り替えてゆく。カインが敵を叩き潰していき道が拓けた所へ、ヴァイス(ka0364)もまた突っ込んでくる。疾風のように踏み込んできたヴァイスは、その勢いを剣に乗せて振りぬく。勢いを殺さないまま円を描くように、軸足を踏みしめ腰を捻り、身体全体で斬龍刀を操り、眼前の敵を薙ぎ払う。

「秘剣――旋風!」

 一切の無駄のない、洗練された体捌きから繰り出される剣撃は、扇状に広がるようにリビングアーマー達を両断してゆく。前方がまとめて切り裂かれ、敵陣に穴が空き……向こう側にて防戦をしていた支援部隊が、見えた。


●撤退戦
「た、助けが来たのか……!?」
 バリケードを作り奮戦したと思われる後方支援部隊は、見るからに疲労困憊だ。慣れない武器や装備を使い、必死で抗戦していたのが見てとれる。一瞬、油断したそこへ鎧が剣を振りかざすが、魔を切り裂くオウカ・レンヴォルト(ka0301)の刀の一閃が迸り、両断する。
「助けに来た……離脱する、ぞ」
「ありがとう、もう限界だった……!」
 体中傷だらけの支援部隊はそれぞれが安堵の息を漏らす。フェリアもまた心底ほっとしたように、その無事を祝福した。「よく、耐えてくれたわ。動ける? もう少しだけ、頑張って」
 フェリアの慈しむような声に、息も絶え絶えな支援部隊が奮い、立ち上がる。ハンター達はそれぞれが彼ら支援部隊を挟むように、前衛と後衛に分かれて布陣する。依然として敵の渦中たるここは一切の予断を許さない状況だ。ハンター達は反転し、既に塞がってしまった道を放棄し、敵陣の薄いところを探す。すると周囲の木を跳ね、崖を蹴り、リビングアーマーの一体を踏みつけて跳躍し、銀色の風が一陣、ハンター達の前に飛んでくる。空を舞い天を踏むが如し機動で駆けつけたのは、星輝 Amhran(ka0724)だ。
「待たせたの!」
「姉さま、お待ちしてました。状況は?」
「うむ、ここから3時の方向ならば敵総数は少ない。其方に向けて突破するがよかろう!」
 Uiscaの問いかけに星輝は応える。星輝は予め先行し、斥候として敵陣系を探っていたのだ。支援部隊まで一直線で進めたのも、星輝がサインを作っていたのが大きい。
「よし。救助対象は確保した。離脱する、ぞ」
「動ける人は動けない人を背負って。あとの人はけが人を背負っている人の護衛を!」
 オウカはハンター達に、Uiscaは救助した部隊へ的確に指示を出してゆく。Uiscaの指令通り、支援部隊はそれぞれがフォローしあって隊列を組む。
「助かる事を考えろ、臆するな。俺たちがついている」
「敵は私達が抑えます。安心して下さい。みんなで一丸となって、この危機を脱しましょう!」

「「「おおおっ!」」」

 ヴァイスの激励とUiscaの号令に、ハンター達と支援部隊は奮い立つ。馬上より奏でる鎮魂歌が周囲の歪虚を縫いとめ、白く淡い光を放つその雄姿に勇気を貰う。
「邪魔よ、道を開けなさい!」
 凛として言い放たれた言葉と共に、フェリアの手から雷光が迸り、一直線に突き進む。彼女の不断の覚悟を現したかのような閃光は敵陣を突き抜けてゆく……。
 そこへ、突如としてゴブリンが横合いから現れる。
「っ!?」
 ゴブリンは虚ろな目で、今にも爆発しそうな大きな爆弾を抱え、フェリアへと飛び込んできた。心中狙いの特攻を避けられないフェリアへ、横合いからレイアが割り込み
「やらせんぞ!」
 守りの構えによって受け流すようにゴブリンを打ち払う。横合いへ弾き飛ばされたゴブリンは即座に対象を変え、手近な対象へ襲い掛かろうとするが、雷撃を纏う光の壁を展開したざくろが身を盾にするように相対する。
「超機導パワーオン……弾け飛べっ!!」
 ざくろへと攻撃を仕掛けたゴブリンは障壁の反作用に弾き飛ばされ、敵中へと飛んでいく。
「そこだ! 貫け、光の矢!」
 剣を振り、光線で空中のゴブリンを撃ち貫くと、その手に抱えた爆弾が起爆し、敵陣営にダメージを与える。フェリアの雷撃でダメージを受けていた敵軍は爆風で吹き飛ばされて瓦解し、道が出来上がる。
「ありがとう、レイア」
「フェリア、背中は任せろ。お前は道を切り開いていってくれ!」
 二人は短くそう交わすと、背中合わせに互いをカバーし合うよう布陣する。強力な魔法攻撃を放つフェリアを、守りと敵の注意を引き付ける事に特化したレイアがカバーすることで、攻守において安定した成果を挙げ続ける。

 ハンター達は来た時と同じように、敵の海を切り分けて少しずつ進んでゆく。ただやはりというべきか守るべき救助対象を抱えているせいで、突入時のように攻撃にのみ専念という訳にはいかない。必然的に行軍の足は遅くなり、それだけ敵の押し寄せるタイミングを作ってしまう。ハナは符を投げて展開させ、陣を敷く。指定された領域に光が満ち、熱量を持つ光が範囲内の敵を焼却し、眩ませる。
「どこに打っても当たるんですぅ、すっごくドキワクしませんかぁ!」
 見渡す限りの敵、敵、敵だ。一定領域を攻撃する五色光符陣による攻撃は多くの敵を一度に攻撃しつつ、攻撃を鈍らせている。
「お姉さんについてきて、皆!」
 範囲攻撃で敵の動きが脆い所を見定めたアルラウネは先陣を切る。縦横無尽馬を走らせ、巨剣で敵を切り刻んでいくが……。
「アルラ、危ない!」
「っ!」
  ざくろの声に反射的に身をそらすと、鼻先を巨大な斧が通過していく。あと一歩回避行動が遅れてれば胴体と首がおさらばしていただろう。そのまま馬から落ちるように後転し、剣を後方に突き刺す。

 ――円の型【長夜】

 突き刺した剣を支点に身体を回転させ、身体が落ちる動きを転化させて剣を振り上げる。地面に突き立った剣は地を抉るように奔り、攻撃してきたオークを下段から切り上げて怯ませる。
「そこだ!」
 その隙を逃すヴァイスではない。疾風の如く踏み込み、強烈な斬撃を繰り出してオークの胴体を寸断する。
「ヴぁっ君、ありがと!」
「気にするな、それより気をつけろ。新手が来ているぞ」
 ヴァイスとアルラウネは眼前を見据える。鎧だらけだった集団にちらほらと、ゴブリンやオークなどが混じっている。どちらも奇襲を狙っているようで、乱戦を狙って横槍を入れてこようとしているようだ。
「敵指揮官と思しき奴も見えてきたのう……」
 木々を跳び、戦場を俯瞰している星輝も戦場の変遷に気付く。多々居る厄介な敵の位置を仲間に合図で知らせつつ、まだ遠くにいるが確かな存在感を放つ、巨人……サイクロプスを見据える。
「しかもあの様相は魔法が通りにくいか? 厄介じゃの」
  星輝は木の枝を蹴って飛んできた矢を避けると、空中で宙返りしながらアサルトライフルを発砲する。味方陣形に向かって跳躍特攻してきたスーサイドゴブリンの抱えた爆弾に着弾すると、空中で誘爆して多数の敵が巻き込まれた。
「疾きは颯の如し……戦場ではより早く、情報を得なければの」
 星輝はまた戦場に溶け込む。 撤退戦で最も危険なのは後背からの攻撃だ。退くという性質上晒さなければならない背後。最も防備が薄くなり、同時に最も攻撃に適さぬ場所である。故に殿を務める者は最も攻撃に晒されるだろう。特に広範囲に対してレクイエムによる妨害を加え続けているUiscaは、敵軍からも明確な攻撃対象に認識されていた。
「っ……!」
 寸での所で回避した首狩り斧が頬を掠め、白く美しい顔に紅い線が走る。Uiscaは反撃で翡翠色の光を放つ波動で迎撃し、飛び掛ってくるゴブリンもろとも弾き飛ばして距離を取る。そこへすかさずハナの放った稲妻が飛来し、隙の出来た相手をまとめて貫いた。
「面白い状況、とはあんまり言えませんねぇ。そっちは大丈夫ですかぁ!」
「気にするな。いつもと何も変わらない。敵を殺して道を拓く。それだけだ」
 ハナの言葉にカインは冷静に応える。敵味方入り混じる大乱戦の中、向かってくる敵を正確に見据えては正確な切り替えしで剣を叩き込んで沈黙させてゆく。オークが不意打ちに巨大な斧を振りかざせば、空いた胴体に容赦なく剣を突き穿ち、ゴブリンが飛び込んできたら真正面から斬撃を叩き込んで真っ二つにする。自身の防御力に信頼があるからこそ活きるカウンター戦術で、次々と向かい来る敵を斬り伏せてゆく。
「……流石に数が多い、な」
「怯むな、我々が遅れを取る訳にはいかん!」
 飛んできたゴブリンを満月を映し出すかのような障壁で弾き飛ばし距離を稼ぐオウカ。仲間に檄を飛ばしながらレイアがヘイトを集め耐える。前衛・後衛・遊撃に分かれたハンター達はそれぞれがカバーし合い、被弾を最小限に抑えてはいるものの、無数の敵からなる全ての攻撃を捌ききる事は出来ない。隊の中心に負傷者を大量に抱えていれば尚更だ。
「ダメだ……オレはここで死ぬのか……」
 支援部隊の一人が、ふと呟く。周囲のハンター達が懸命に戦ってる姿を見ていても、多すぎる敵の数に気圧されているようだ。そんな弱気な心情を呟いた矢先に、前衛からアルラウネが跳び下がってくる。
「大丈夫? こっちに流れ弾は来てないかしら」
 そう言ってアルラウネは、支援部隊に微笑みかける。
「まだ私達は戦える。皆も生きてるわ。上々よ。お姉さん達に任せて」
 きゅっとウィンクするアルラウネ。激しい戦いで体中に傷があるにも関わらず、支援部隊に気丈に微笑みかけるその様子は、諦めかけていた心に沸々と勇気を奮い立たせる。
「……ああ、ありがとう。そうだ、こんな所で諦める訳にはいかねえ」
「うん、その意気よ。絶対に守り抜いてみせるからね」
 決意を新たにすっと立ち上がるアルラウネ。

 その時、ぷつっ、とビキニアーマーの紐が切れた。

「へっ? きゃ……っ!?」
 ばっ、と慌てて押さえるも、ほんの一瞬だがその柔肌が露になった。ほんの一瞬、ほんの刹那だが、桃源郷をバッチリ見てしまった支援部隊は思わず硬直する。
「……だ、大丈夫、大丈夫よ。守ってみせるからっ……」
 懐から取り出したバンダナを巻いて補強し、戦場へ戻っていくアルラウネ。その様子を見ていた支援部隊(の男性)達は、「頑張って生き残るぞ!」「おぉー!」と、何か別のベクトルで気合が入ったのだった。


 依然として切迫した状況だが、活路が全く見えない訳ではない。敵を切り払い、進んでゆくハンター達は少しずつでも確実に戦場を動かしている。敵部隊は少しずつ数が少なくなり、活路が見え始める。
「まずい、来たぞ! サイクロプスじゃ!」
「!」
 その時だ。星輝の掛け声と共に巨体が姿を現した。一つ目を持つ巨人は自分たちの数倍高い目線から、その体躯と等しく巨大なウォーハンマーを振りかざし、鎧の兵隊をかき分けて襲ってくる。その数は2体。斜め前、斜め後ろから挟み込むように接近してくる。
「彼奴らが指揮官じゃ、その目線の高さから戦場を見渡しておる! そやつらを潰せば奇襲の機会も減ろうぞ!」
 星輝が号令を迸らせる。事実彼らは『怠惰』の歪虚の一部だ。用兵に長け、配下を動かす事を得意としている。星輝はその一つ目を潰すため、ライフルを構えるが……
「ち、っ」
 同じく気を張って警戒していたオークエクスキューショナーの首狩り斧が視界の端に映る。鉄扇により上手くいなすも、重い一撃に手が痺れる。
「迷わず首狙いとは欲の深いやつじゃ、全く……!」
 すかさず構えたライフルを斉射し、『天踏』により距離を取る。星輝は不敵に笑うが、明確にわかりやすく『死』を振りかざしてくる存在はなかなかに肝を冷やす。空へと跳んだ星輝だが、丁度そのタイミングでスーサイドゴブリンが爆弾を着火させながら飛んでくる。
「なっ、この……!」
 すぐさまその爆弾を狙おうとするも、回避行動をとったばかりで迎撃が追いつかない。マズイ、と思った矢先に、横合いから影が割り込む。
「やぁぁぁっ!」
 跳躍し、巨剣を振り、アルラウネが飛来するゴブリンを一刀の元に切り伏せる。ゴブリンが抱えていた爆弾は導火線が切り裂かれて不発となり、空中に遺ったそれを星輝が射撃し起爆させた。
「助かったぞ!」
「どういたしまして、よ!」
 短いやり取りの後に、入れ替わるように前に出、サイクロプスに突撃するのはヴァイス。
「悪いが、こじ開けさせて貰うぞ!」
 足を踏みしめ地面を蹴り、巨体へと肉迫する。振り下ろされるウォーハンマーが唸りをあげてヴァイスを襲うが、それを戦いの『理』によって受け流し、無防備になっている腕を狙う。
「基礎ってのはすべてに通じるから基礎ってんだ。覚えておきな……っ!」
 攻撃が終わったばかりの弛緩した筋肉を容赦なく斬りつける。更に返す刀で勢いを殺さずに体全体を捻り、その存在そのものを旋風の如く昇華させ、叩きつける!
「こいつも……持っていけぇ!」
 斬りつけて弱くなった箇所に強烈な斬撃を重ねられ、斬撃が腕を通り抜ける。丸太のように太い腕は切断され、激痛に声をあげるサイクロプス。攻撃を受け、返す。戦いの基本中の基本の動作だが、それは使い手の技量が明確に現れる最大の要素。ヴァイス程の達人が振るうならば、基礎さえも奥義たりうる。堅実に研鑽を重ねた彼だからこそ辿り着いた一つの答えだ。
「今だ!」
「了解!」
 ヴァイスの声と共に躍り出たざくろは、ありったけのマテリアルを武器に流し込んだ。
「勇気の剣が未来を開く! 剣よ……今一度、元の姿に!」
 もともと巨大だったグレートソードが、更に巨大な武器へとなる。サイクロプスの全長にすら匹敵するほどの大きさとなった剣を振りかぶり、激痛に怯むサイクロプスに、振り下ろす!!
「喰らえっ……超・重・斬っ!!」
 振り下ろされた巨剣が、痛みに怯むサイクロプスを頭から股まで両断する。一つ目がずれ、強大な体躯は両側に倒れ、沈黙した。
「やった……っ!」
 完全な隙を狙い、急所を捉えた為に即座に撃破に成功したのだった。ざくろは思わず拳を握りしめる。

 もう片方のサイクロプスもまた、後衛の方へと辿り着いていた。最も攻撃を受けた後衛は疲弊していた為に、サイクロプスの攻撃を一度でもまともに受ければ死は免れないだろう。
 そんな危機に瀕していても、彼らは静かに敵を見据える。背後には守り通すべき者達が居る。そんな気迫がいつもよりも身体の奥から力を沸かせる。Uiscaは巨人を相手にするために馬を離れさせようとしたが、敵が多すぎたために断念し、救助対象の支援部隊に貸し与えて先攻させることにした。
「邪なるものよ、退きなさい……!」
 レクイエムを奏で、巨人の動きを抑制する。振るわれた巨斧を盾でなんとか受け流しながら、迸る衝撃波で体力を削る。Uiscaを狙う隙を突いて、横合いから迫る影が一つ。
「そこだ!」
 カインは跳び、攻撃後のサイクロプスの頭を狙って剣を振るう。攻撃は回避され、巨大な一つ目がこちらをぎょろりと睨む。ターゲットが変わり、Uiscaに振るわれていた斧を横薙ぎにカインへと振るう。
 だが、それこそがカインの狙い。敵の攻撃を誘い、振るわれる斧を持つ手の動きを阻むように――いや、突き崩すように剣を奔らせる。
「はぁぁぁぁっ!!!」
 振るわれる豪腕の、その速度をそのまま利用し、自らの剣を差し込む。なまじ破壊力が高く速度の早い攻撃だった為に、カインの剣をまともに受けて腕が真っ二つに裂けてしまう。思わず怯み斧を落とした時にはすでに、カインは足の関節を叩き壊していた。
「潰れろ!」
 そのまま対角線上の脇腹に斬り上げるように剣を叩きつけると、ゆっくりと身体が倒れこむ。その先には、複数の符によって作り上げられていた陣が一つ。
「あははぁ、大当たり、ですね♪」
 ハナは倒れこむ位置に仕掛けていた五色光符陣を起動させる。強大な熱量を持つ閃光が煌めき、サイクロプスの身体を灼いた。熱さにのたうつサイクロプスへ、カインが頭上から眼球目掛けて剣を振り下ろした。
「これで、トドメだ!」
 剛剣を急所に突き立てられ、巨大な腕がズゥゥゥン、と大きな音を立てて倒れ伏した。

 こうして瓦解した敵の戦線、相変わらず敵の数は多いが、最初に比べると随分と少なくなり、明確に敵の波の『出口』が見えた。
「あそこだ、フェリア!」
「了解よ……有象無象がどれだけ居ても、無駄と知りなさい!」
 凛として言い放つと同時に火球を投射し、爆発により道を拓けるフェリア。同時にレイアがオーラを纏い、注意を引くように立ちまわると自然と道が出来上がる。
「今よ、皆! あそこを突破して!」
「おう!」
「ええ!」
「了解だよ!」
 ヴァイス、アルラウネ、ざくろが応え、それぞれが得意とする突破攻撃を仕掛けると、大きな穴が戦線に出来上がる。雪崩れ込むように全員がそこへ突入し……見事、敵の人海戦術を抜けたのだった。


●救援成功

「助かった!」
「もう、ダメかと思った……!」
 敵の群れを抜け、追撃を迎撃し、敵の群れを撒いたハンター達と支援部隊。絶体絶命の危機を救われた支援部隊は、それぞれが生き残れた嬉しさに歓声をあげていた。
 そんな彼らに、フェリアは嬉しさに目尻を拭いながら微笑む。
「ありがとう、よく挫けずにもってくれて……ほんとうに、生きていてくれて、ありがとう……」
 助け出せて、救い出せてよかった。誰一人命を失うことなく、危機を乗り越えられたのだと、フェリアの心は喜びに満ちていた。
「ふふ、本当によかったわねぇ」
「うん。良かったよ。……ところで、その、アルラ……」
 やや恥ずかしそうに頬を掻きながらそっぽを向くざくろに、アルラウネは不思議そうに「どうかした?」と尋ねる。顔を赤らめたざくろが遠慮がちに指さすと、アルラウネのビキニアーマーの、バンダナが解けて、隠さなきゃいけない所が露わになってしまっている。
「っっっ!」
 跳ねるように口から飛び出そうになった心臓を押し込んだかのような声にならない声をあげながら、バッとそこを隠すアルラウネ。目のやり場に困りつつもざくろはそっと、隠す為の布をアルラウネに渡すのだった。
「皆さん、本当に無事で良かったです……」
「あなたたちのお陰ですよ。本当にありがとう。命を救われました」
 激しい戦いに傷ついた支援部隊の一人ひとりにUiscaは慈しむような声をかけ、そうして白龍への祈りの歌を、天へと捧げるように歌い出す。
「どうか、皆様に白龍の加護がありますように……」
 柔らかい光が広がり、傷を、血を包み、癒やしてゆく。支援部隊も、ハンター達も、彼女の歌声にひとまず戦いの終わりを想い、安堵するのだった。


 こうして幻獣の森南部における、孤立部隊救出作戦は無事成功し、誰一人として喪う事なく離脱する事に成功した。
 だが、倒しきれずに多く残った歪虚達は本格的に幻獣の森へと侵攻してゆく。かつてない物量はそのまま暴力となり、中心部へと魔の手を伸ばしていくのだった……。

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MVP一覧


  • ヴァイス・エリダヌスka0364
  • 緑龍の巫女
    Uisca=S=Amhranka0754
  • 【Ⅲ】命と愛の重みを知る
    フェリアka2870

重体一覧

参加者一覧

  • 和なる剣舞
    オウカ・レンヴォルト(ka0301
    人間(蒼)|26才|男性|機導師

  • ヴァイス・エリダヌス(ka0364
    人間(紅)|31才|男性|闘狩人
  • 【魔装】の監視者
    星輝 Amhran(ka0724
    エルフ|10才|女性|疾影士
  • 緑龍の巫女
    Uisca=S=Amhran(ka0754
    エルフ|17才|女性|聖導士
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • 【Ⅲ】命と愛の重みを知る
    フェリア(ka2870
    人間(紅)|21才|女性|魔術師
  • 乙女の護り
    レイア・アローネ(ka4082
    人間(紅)|24才|女性|闘狩人
  • 甘えん坊な奥さん
    アルラウネ(ka4841
    エルフ|24才|女性|舞刀士
  • イコニアの夫
    カイン・A・A・カーナボン(ka5336
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師

サポート一覧

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依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
カイン・A・A・カーナボン(ka5336
人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2016/04/06 02:07:03
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/04/04 09:05:00