器様、花見に行かされる!

マスター:神宮寺飛鳥

シナリオ形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
少なめ
相談期間
5日
締切
2016/04/06 12:00
完成日
2016/04/08 17:04

このシナリオは3日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「器様~! 浄化術の稽古をつけてください!」
 エルフハイムの中でも特に維新派が多く暮らす集落、ナデルハイム。その道端で器は無表情に片方の眉だけを動かした。
 少女を取り囲むように集まっているのは浄化の巫女見習い達。つまり、彼女の後輩たちである。
「いや……私は物を考えて術を使っていないから、教えるとかそういうの無理だから」
「でも、器様はこの森で一番の浄化術者なんですよね!?」
「ナデルハイムが襲われた事件の時も、次々に歪虚をやっつけたんだよね!?」
 ぽりぽりと頬を掻き、面倒くさそうにため息を零しても子供たちの羨望の眼差しからは逃れられない。
 そんな時だ。一人の巫女が駆け寄り、屯する見習い達を注意したのは。
「こら! みんな、器様はとっても位の高い巫女様なんだから、困らせちゃ駄目だよ!」
 ぶーぶー言いながら走り去っていく子供たちを見送り、巫女は苦笑を浮かべる。
「大丈夫ですか、器様?」
「その器“様”っていうのやめて欲しいんだけど。浄化の器を様付けするなんて前代未聞だよ」
「でも禁じられては居ませんし、高位の巫女なのも事実ですし……ナデルハイムは恭順派の監視も薄いですから」
 そう言って笑う巫女は、先日のナデルハイム防衛戦で行動を共にした一人。名をカリンと言った。
 警備隊からはぐれたところを助けてみれば懐かれたようで、元はと言えば彼女が器に話しかけるようになったのが騒動の発端だ。
「私は別のあなた達の為に戦ったわけじゃない」
「だとしても大勢の命を救ったのは事実です。本当のあなたを知って憧れて、巫女の志願者はとっても増えたんですよ」
「本当の私……?」
 そんなもの、他人にわかるものか。自分自身ですらわかっていないのに。
 と、いうのも面倒くさいので、器はあくびを一つ残して歩き出す。
「あの……やっぱり迷惑でしたか?」
「別に。私は私以外の誰かがどこで何をしようが興味ないから」
 振り返ることも足を止めることもせずに立ち去る器を、カリンは複雑な眼差しで見送っていた。

「聞いたわよ。あんた、友達ができたって」
 ナデルハイム内にあるハイデマリーの工房も、最近は留守にされる事が増えた。
 機導浄化の発表に伴いハイデマリーは帝都の錬金術師組合に滞在する時間が多くなったからだ。
 忙しそうに工房を歩きまわり鞄に荷物を詰め込むハイデマリーの横顔を、少女はベッドに腰掛けて見つめる。
「友達……?」
「私とジエルデみたいな関係性のことよ」
 頭上にクエスチョンマークを浮かべながら小刻みに震える器の妄想を振り払い。
「自分でも例えが悪かったと思うわ……でもまあ、そういう関係性も生きる為に必要なのよ」
「友達……友達……」
 考えてもよくわからない。“同郷”でも“役職”でも“使命”でも“仲間”でもない。
 それはきっと本当は生きる為に必要ではないもの。けれど共にあれば人生を豊かにするもの。
「あんたは本来、すこぶるシンボリックな存在でしょ。圧倒的な力を持ち、仲間にすら畏れられる怪物。でもだからこそ、その力を正しく使えるのならあんたは“英雄”にだってなれる。浄化の器という制度そのものを変えることさえ可能なのよ」
 鞄を背負ったハイデマリーは優しい声でそう言って、少女の頭を少し乱暴に撫でる。
「歪められてしまった誰かの願いを、力を、本来あるべき形に戻し証明する。それができるのはあんただけよ」
「ハイデマリーもそうなの?」
「……そうね。私もきっとそう。本当は“そうあるべき”だった未来を証明する為に戦ってる。今を生きている。これがあの人の……私の存在証明だから」
 またしばらく仕事で留守にすると言って女は立ち去った。
 その手が閉じた扉の音が工房に響き渡ると、少女は胸に手を当て目を細めた。

「……え? 遠征?」
「はい。といっても近場ですけど……今や浄化の巫女は各地の戦場に派遣される立場にありますが、見習いの子たちは森から出たこと自体がまだないんです」
 翌日。道端を歩いていると子供たちに捕まりカリンに助けられるという一連の流れを繰り返した後、相談を受けてしまった。
「かくいう私も実はそうでして……器様は遠征経験も豊富ですし、ご同道いただければ心強いかなと」
 ぴくりと器の耳が動き瞳が輝く。もう森の中でヒマをしているのはうんざりだった。
「東方への遠征に北伐作戦、帝国領防衛もやってるからね。自慢じゃないけど。自慢じゃないけど……!」
「じゃあ、一緒に来てくれますか?」
 無言でサムズアップしたのが運の尽きだった。
 更に翌日、器は子供たちに左右の手を引かれ、もみくちゃにされながら青ざめていた。
 エルフハイムの外交が閉ざされていた頃でもほそぼそとした取引のあった中立都市、ピースホライズン。
 暴食王との戦いの傷跡が癒え始めたその町に、何故か器は足を踏み入れていた。
「なんでピースホライズン……近すぎでしょ」
「まずは森の外の世界になれる事が目的だからよ」
「なんでジエルデがいるの?」
「なんでって……私は浄化の巫女のトップみたいなものだから、監督役として……というかどうしてあなたがいるの?」
 互いに顔を見合わせる器とジエルデ。そこへどっと巫女見習いたちが雪崩れ込み器をさらっていく。
「器様ー! 今はお花見っていうのをやってるんですって!」
「珍しいものが沢山売ってるんだって! 一緒に見に行こー!」
「あああああああああああああ!!!!」
 絶叫する器の姿が遠ざかっていくのをジエルデは苦笑しつつ見つめる。
「あの子達はもう……! 申し訳ありません、ジエルデ様!」
「いいのよ。でも、外の世界の常識がわからない子も多いだろうから、目を離さないようにしなきゃね」
 深々と頭を下げるカリンに優雅に笑顔を返すジエルデ。しかし頬に手を当て、内心理解不能な疑問に苦しんでいた。
「器………………“様”?」
 暖かい風が吹き、ジエルデの長い髪を揺らす。
 変わっていく世界。少しだけ遠くに行ってしまった少女。
 追いかける足取りはゆっくりと大地を踏みしめる。今はそれを楽しめる……そんな気がした。

リプレイ本文

 冷や汗を流しつつ苦笑を浮かべるシルウィス・フェイカー(ka3492)の視線の先には桜の咲く広場があった。
 いや、厳密にはそこで走り回る傍若無人な子供たちが。
 木箱を置いて小走りに移動するシルウィス。そこにエイル・メヌエット(ka2807)とシュネー・シュヴァルツ(ka0352)が近づいてくる。
「あら、シルウィスさん?」
 実は三人は丁度一年ほど前にこの街で会った事があった。
「お久しぶりですね。お二人は観光ですか?」
「それもあるけれど、今は武者修行の旅の最中でね。買い出しに寄ったのよ……あ、戦いのじゃなくてね?」
「医師としての、ですよね……? 私は仕事終わりに寄ってみただけですので、たまたまです」
 補足するシュネーの言葉に微笑むエイル。シルウィスは頷き。
「では、本当に偶然ですね。私はピースホライズンの復興ボランティアで……」
「ああ……そうだったわね」
 神妙な面持ちで頷くエイル。この街は先日、帝国領を襲撃した歪虚の攻撃を受け、戦渦に巻かれてしまった。
「ですが……むしろ去年より賑やかですよね?」
「お花見の季節というのもありますが、皆さん頑張っていらっしゃいますから」
 シュネーの言葉にぐっと拳を握るシルウィス。と、そこで三人は顔を見合わせ。
「「「それよりも」」」
 振り返るとそこには混沌とした状況。エルフハイムの面々だというのは、三人には直ぐにわかった。
「ホリィさんいますしね……」
「再会の感動に浸っている場合じゃないわね……あら?」
 その時だ。突如三人の頭上を影が通り抜けた。
 どっしりと広場に着地した大男、デスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)はぬうっと立ち上がり。
「やかましいぞ器軍団! なっちゃいねぇ……お前ら全員なっちゃいねぇぜ! このデスドクロ様が正しい花見の所作ってモンを叩き込んでやる!!」
 ビシリと指差し叫ぶが、子供たちは一斉に器の後ろの隠れてしまった。その中にはアーシェ(ka6089)も混ざっている。
「あの人……急に出てきて怖い」
「私が元凶みたいなまとめ方を……というか誰?」
「あ……アーシェです。はじめまして……よろしく、ね」
 話すと長くなるのだが。
 ピースホライズンに初めてやってきたアーシェだったが、人もモノもとにかく多く翻弄されていた。
 観光しているヒマもなく迷子になってしまったのだが、そこへワイワイと通りがかった巫女っぽい子供たちを見つけ、その後をつけてきたら桜の広場に辿りつけたのだが、子供たちが騒ぎ始めたら離脱できなくなってしまい、現在に至る。
 リタ・ティトから出てきたばかりなわけだから、要するに子供たちと立場は一緒である。
「あのおじさんはおかしいだけで怖くはないよ」
「そ、そうかな……もうお顔が怖いよ」
 ひそひそ話をする二人。そこへ三人が駆けつける。
「デスドクロさん」
「あん? チッ、また俺様のファンが駆けつけやがったか……」
 ぐっと親指を立てるデスドクロに苦笑するエイル。そこへ遠くから手を振りジルボ(ka1732)がやってくる。
「おーい、エイル」
「ジルボさん! 来ていたの?」
「おう。結構前から居たんだが、あまりにヒデェ有様だったんで見てるだけにしてたんだ」
「何を?」
「何をって……」
 腕を組み思案する。見ていたのはジエルデの豊満な胸、そして子供たちの胸だが……。
 そんな事を言ったら絶対エイルは怒るだろう。こんな日に好き好んで怒られる必要はない。
「桜に決まってるだろ? いいよな、桜……」
 爽やかな笑みを浮かべるジルボ。と、こうして一行は無事に集まりました。

「本来、桜の開花を楽しむという行為はこのデスドクロ様クラスの高貴かつ超越した存在にのみ許される特権だ。しかし春の訪れをその目で、身体で感じる喜びを凡人達も味わいたいという心情も理解はできる。であれば、ここは花見の何たるかを……聞けぇえええーーッ!!」
 デスドクロの怒号にピタリと行動を停止する子供たち。だがすぐにまたはしゃぎ初めてしまう。
「まーこうなるとは思ってたが、ものの見事に話を聞いてないな」
 頭の後ろで手を組み笑うジルボ。正直こういう元気の有り余っている子供たちは苦手だ。
「一人残らず美少女だからまだ許せる……」
「はい、皆さん。少し宜しいでしょうか?」
 手を叩くシルウィスだが、やはり子供は一瞬こっちを見るがまた騒いでしまう。
 そこでシルウィスの隣に立ったアーシェがごそごそと懐から飴玉を取り出し、それを子供たちの前に差し出す。
「ちゃんと話を聞いてくれたいい子には、キャンディーをあげるよ。甘くて美味しいよ」
 瞳を光らせた子供たちがどっと押し寄せ飴玉を奪っていく。アーシェはもみくちゃにされて倒れたが、子供は大人しくなった。
「あ、ありがとうございます……。ここには私達の他にもお花見を楽しんでいらっしゃる方々が沢山います。楽しいお花見にするために、約束してほしいことがあります」
 飴玉を舐めている間おとなしい子供たちに説明するシルウィスを横目に、ジルボはジエルデに声をかける。
「久しぶりだな、ジエルデね~ちゃん。相変わらず引率か」
「あなたは……」
「ジエルデ様のお知り合いですか?」
 カリンの質問に難しい表情を浮かべるジエルデ。
「まあ、色々とあったのです」
「色々って?」
「おわっ!? エ、エイルが気にするほどの事じゃないと思うぜ……なっ?」
 助け舟を求めるようなジルボの視線にジエルデは笑いながら頷く。
「色々ありましたが、結果的には助けになっていますから」
「さすがジルボさんね」
 全く疑いのない視線の眩しさにジルボは僅かに目をそらした。
「それにしてもまた会えて嬉しいわ」
「うん。久しぶり」
 退屈そうに欠伸する器。エイルは続けてジルボと共にジエルデと話し込む。
 そんな様子を一歩後ろで見ていたシュネーに気づいた器が小さく手を振ると、シュネーも同じ動作を繰り返した。
「わからない事や困った事があったらなんでも聞いてくださいね。この広場の近くなら、自由に行動して構いませんから」
 説明を終えたシルウィスは頬に手を当て。
「でも、もし何かあった時の為に目印が必要ですよね」
「このおっさんでいいんじゃねぇか?」
「ブラックホールさんで……」
「デスドクロさんなら目印になるかしら?」
 一斉にデスドクロを見るハンター達。
「仕方ねぇな。実に仕方のねぇ事だ。俺様程の存在になると、ただそこに居るだけであらゆる衆目を集めてしまう……自然の摂理だぜ」
「本人まんざらでもなさそうだし、じゃあそれでいいんじゃね?」
 テキトーにジルボがそう言うと、おずおずとアーシェが手を挙げ。
「合図の一つ、ポーズはどう? 右手を上げてくるりと回ったら、集まって~とか。くるくるくるりん、く~るくる」
「なにそれー!」
「私もやるー!」
「うん。そうじゃなくてね、これは合図……合図だから……っ」
 集まってきた子供たちに回転させられるアーシェ。開放されたのは、目を回して倒れた後だった。

 子供たちを引率するシルウィスとアーシェ。一方、ジエルデにはジルボが近づく。
「よし、ね~ちゃんは俺と腕を組もうぜ」
「え? 何故ですか?」
「ホラ、逸れるといけないだろ?」
「まあ……エスコートしてくれるのですね?」
 では遠慮無くと言わんばかりに腕を取るジエルデ。エルフとしてはやや不自然な巨乳が腕に当たるが……。
(チョロ過ぎる……ね~ちゃん男に対する警戒とか全然ないのか)
 なんだかイマイチ心の底からは楽しめなかった。横にエイルいるし。
「ジエルデさん、甘いものは好きかしら?」
「まあこれはこれで両手に花かな……」
 一方、目印として桜の木の下に残されたデスドクロは、買い出しに出て行った仲間達をレジャーシートの上で眺めていた。
「桜を見てはしゃぎたくなる気持ちはよく分かる。だが“花より団子”って言葉があってな。これはあえて“桜? いやそんなん興味ねーし。俺団子の方が好きだし”ってな雰囲気を出して、孤高を演出しろって意味だ」
「そうでしたっけ……」
 リアルブルー出身のシュネーには違和感のある説明だ。尤も、自分も花より団子かもしれないと考えたが。
「奴らは全員まるでダメだが……器、お前は中々見どころがあるぜ。さっきから一回も桜を見ずに団子食ってやがるたぁ俺様も驚きの才能だ」
 一心不乱に団子を口に詰め込む器だが、詰め込みすぎてハムスターのようになっている。
「もう少しゆっくり食べた方がいいんじゃ……」
 喉につまらせたのか、青ざめる器の背中を慌てて叩くシュネーだが、飛び出した団子がシュネーの顔にべちゃりとへばりついた。
「シュネーさん……お顔大丈夫?」
 苦笑するエイル。シュネーは無言で顔を拭く。
「あいつら買い込みすぎじゃないか? 金持ってんだな~エルフハイムは」
「巫女は危険な仕事ですから、給金はいいんですよ」
 ジルボにカリンがそう応えると、ジエルデは少し複雑な表情を浮かべた。
「うっし、そろそろ一回集めるか!」
 そう言ってジルボが取り出したのはハーモニカだ。
 軽く音を鳴らしてから改めて曲を奏で始めると、子供たちも興味を持ったのか戻ってくる。
「なんでブラックホールさんに……」
「目印って言われたから……かな?」
 戻ってきたアーシェの答えにああ、と納得するシュネー。
「おい、お前ら……やめろ! 他は構いやしねぇがマスクをいじるのはやめろおおお!!」
 のたうつデスドクロを見かねたのか、シュネーは二匹の猫を取り出す。
「にゃー……。僕達は猫だにゃー。皆に遊んで欲しいにゃー……」
「わー! 何かの生き物だ!」
「初めてみた!」
 Uターンした子供たちがどっとシュネーに押し寄せもみくちゃになる。
 更にそれを見かねたエイルがペットのスクルドに目配せすると、スクルドは“自分も行くの!?”という感じに目を丸くする。
「お願い♪」
 しぶしぶ立ち上がり子供らに近づくが、案の定のしかかられたり耳や尻尾をいじられたりで、げんなりしていた。
「せっかくだ。リクエストがありゃあやるけど?」
「ん……そうね。ホリィは何かない?」
 エイルの問いに器は少し考え、それから急に歌い出した。
 それは帝国の戦いで十三魔に憑依された皇帝を救う為に歌われた一曲。帝国アイドルの持ち歌だった。
「器様がいつも歌ってるやつだ!」
「お? まさかチビどもまで歌えるのか? だったら伴奏してやるよ」
 気合を入れたジルボが上着でゴシゴシとハーモニカを擦り構える。
 器が歌うのに続くように、子供達も歌い出す。それがシルウィスには驚きだった。
「以前この街で彼女と会った時。恐らくジエルデ様のことでしょうが、“飼い主”だと言っていました。あの時とは、態度も声も全く違います。まるで別人のよう……」
 歌う器の表情は普段より柔らかく、子供たちも今だけは大人しい。
「安心しました……本当に。沢山の事を経験して、乗り越えて……きっとこれから彼女は、もっと素敵な人になれますね」

「俺様の桜餅を横取りしやがった事は水に流し……いよいよメインイベントだぜ。このデケぇ桜は伝説の樹だ」
「そうなの?」
「まあここに限らず大きめのは大体伝説の樹だ。卒業式にこの木の下で告白して生まれたカップルは幸せになれるってもんよ」
「なんの卒業式なんだよ!」
 アーシェとジルボの横槍を無視し、デスドクロは腕を組み。
「チャンスは今しかねぇ! 告りてぇ奴は今すぐしろ。あと願い事があるやつはなんか言っとけ。だいたい叶う」
「そんな万能でしたっけ……」
「まあ、皆その気になって楽しんでいますから、嘘も方便ということで」
 首を傾げるシュネーにシルウィスが笑いかける。見れば子供たちは思い思いに願い事を語りかけていた。
「元々自然を信仰するエルフハイムでは、大樹は神の象徴足りえるんですよ」
 というカリンの説明に二人は成る程と声を揃えた。
「願い事は思い浮かばないけど、今日は皆に会えて良かったな。まだまだ知らない事だらけだけど、楽しかったから」
 そう言ってアーシェはリボンを取り出す。
「わたしからの贈り物。ごく普通のリボンだけど……皆の髪に結んであげるね」
「私も何か贈りましょうか……桜モチーフのものがいいかな……」
「なら、お手伝いしますよ。人数もかなりいますからね」
 アーシェからリボンを受け取るシルウィスシュネーは売店を物色している。
「ねえ、ホリィ。あなたがホリィでも、器でも、器様でも、私はあなたが好きよ」
「卒業式なの?」
 エイルの言葉に無表情に返す器。
「卒業式ではないけれど……好きってね、その人が大切で、幸せを祈りたくなることよ。あと――ふふ、抱きしめたくなること?」
「そうなんだ」
 そっけない返事だが、話をちゃんと聞いているのは経験でわかっていた。
「シルウィスは変わったって言ってたけどよ、アレが器ちゃんの本来の姿なんじゃないか?」
 ジエルデと肩を並べ、二人の姿を見つめるジルボ。
「教育は後付だからな。人の根本的な部分は変わらない。ね~ちゃんもそうだろ?」
 何度か行動を共にすればわかる。ジエルデは度が過ぎる程に優しく誠実だ。
 とても器の管理者には向いていない。冷徹な行動には、必ず理由があるはずだ。
「強くなりたかったのかもしれませんね」
「いや。ね~ちゃんはもう強さを持ってるよ」
 そんな言葉にジエルデは目を瞑り、小さく「ありがとう」と言った。

「お前ら、後片付けは完璧にな! 来た時よりも美しくが合言葉だ!」
 そろそろ日も陰り撤収の頃合い。デスドクロの怒号に従い子供たちは片付けを始める。
「今日は楽しかった。えっと、ホリィ?」
「で、いいよ」
「あ、うん……。巫女の皆とも、また会えるよね?」
「運が良ければね。遠い聖地の同胞さん」
 不安げなアーシェの言葉に器は微笑み、右手を差し出す。
 アーシェはそれを両手でしっかりと掴み頷いた。
「あ。ホリィにもリボン結んであげよっか?」
「私はいいよ……既に死ぬほど編みこんでるし」
「ホリィさん、結構面倒見がいいんですね」
 遠巻きに眺めていたシルウィスの言葉にエイルは瞳を輝かせ。
「そうなのよ! 意外とあれでちゃんと人の話も聞いてるし、子供たちの面倒も見るし、いい子なのよ!」
「まるでエイルん家の子みたいな反応だな」
 苦笑するジルボ。と、そこでシュネーが前に出る。
「今日は楽しかったですか?」
「うん……っ」
 即答するアーシェ。器は少し考えた後。
「まあまあかな」
 結局観光どころじゃなかったし、疲れたし……と、言い訳のように肩を竦める姿にシュネーは目を細める。
「そうですか。それは、よかったです」
「一応、伝説の樹にもお願いしたよ」
「何をです……?」
「また来年も、ここに皆で来られますようにって」
 楽しかった時間が夕日と共に沈んでいく。
 その記憶を刻みつけるように、紫色の瞳はいつまでも太陽をじっと見つめていた。

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参加者一覧

  • 完璧魔黒暗黒皇帝
    デスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013
    人間(蒼)|34才|男性|機導師
  • 癒しへの導き手
    シュネー・シュヴァルツ(ka0352
    人間(蒼)|18才|女性|疾影士
  • ライフ・ゴーズ・オン
    ジルボ(ka1732
    人間(紅)|16才|男性|猟撃士
  • 愛にすべてを
    エイル・メヌエット(ka2807
    人間(紅)|23才|女性|聖導士
  • 平穏を望む白矢
    シルウィス・フェイカー(ka3492
    人間(紅)|28才|女性|猟撃士
  • 里を守りし獣乙女
    アーシェ(ka6089
    人間(紅)|15才|女性|霊闘士

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依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/04/01 22:57:02
アイコン お花見相談・質問会場
エイル・メヌエット(ka2807
人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2016/04/06 09:52:49