ゲスト
(ka0000)
花想~水辺で泣いているもの
マスター:君矢

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/04/12 22:00
- 完成日
- 2016/04/24 14:16
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「また失敗だ。どうすればいいんだ!」
薄暗い廃墟の中、怒気を含んだ男の声が響く。
声の主は、つば広の黒い帽子、全身を覆う黒いマントに長い嘴のある白い革製の仮面という姿だった。無彩色の姿の中、帽子と胸元に大きな向日葵が鮮やかに咲いている。
男は怒りに肩を震わせながら視線を上げた。廃墟の薄暗がりでよく見えないがそこには少女の肖像画が掛けられていた。
「お嬢様、次こそ、次こそ、成功して見せます。どうか……」
失敗ばかりの不甲斐無さを肖像画の主に詫びると目の前に立っている少女の形をした物を冷たい視線で観察した。
少女は男の思い描く完成図に程遠い。造形は整っているが無表情で人間味のない顔。何よりも血の通わない冷たい青白い体。
何もかもが、お嬢様と異なることにいら立ちを隠せない。どれだけ実験を繰り返してもお嬢様に近づけない。
これも捨ててしまおう。もう一度、最初からやり直しだ。
次こそ、お嬢様に会いたい。
何回失敗を繰り返しただろう。今までに生み出した失敗作を思い返して憂鬱になる。
最初よりも、姿形はだいぶ近付いてきたと思う。足りない物はなんだろうか。
お嬢様にあって、失敗作に無いもの。
お嬢様の美しさを表現するのに相応しいと思い、花で作っている。何が違う? 人と植物の違い。
「マテリアル、か?」
人と植物ではマテリアルに違いがあるだろうか。専門家ではないから断定はできないが、何事も試してみない事にはわからない。
「マテリアルを集めよう、そうすればきっと」
辺境の山の中、シェノグ族の村。
春も間近な空の下で、シアンとスウイの兄弟が元気に走っていた。
「そんな急いで! どうしたんだ」
すれ違った男性が声をかける。山の空気はまだ幾分寒さが残る中、走っていた兄弟の頬は赤い。
「おかあさんが風邪ひいちゃったのー」
「あっちのお山に薬草採りに行ってくるー」
と向こうの山を指さして答えた。
「偉いなー。気を付けるんだぞ!」
「はーい!」
そろって元気に返事をして走り出した。
目的地と兄弟の間には、崖があり崖下には沢が流れている。沢に掛かる橋は上流の橋にしろ、下流の橋にしろ、随分と遠回りをしなくてはいけなかった。
「おかあさん待ってるから早くしないと」
「近道しようよ」
「そうだね」
走りながら相談した兄弟は、道を外れて崖を滑るように下りはじめる。
枝をくぐり、石が崩れないか足で確かめ、木の幹や根にしっかりと掴まって、滑らないように落ちないように沢へと降りていく。最後は、えいっとジャンプして沢へと降り立った。
崖を降りるルートは、シェノグ族の子供たちの間で度胸試しの一つとして使われている場所だった。
大きい石、小石、割れている岩、少しの砂場、手についたホコリを叩いて落とし二人は足場の悪い中を歩いていく。
雪解けはまだ少し先なのか沢は水が少なく渡るのは簡単だった。それでも、転んでしまわないように気を付けて歩く。
「ねぇ、誰か泣いてるよ?」
スウイが言った。
「えっ?」
「ほら、泣き声、聞えない?」
スウイに促されてシアンも耳を澄ませてみる。確かに誰かのすすり泣く声が聞えた。
「本当だ」
「行ってみよう!」
「うん」
困った人は助けないとね。という母の教えと少しの好奇心から兄弟は泣き声に近寄っていく。
大きな岩の陰で、うずくまっている人影があった。
「大丈夫か? どうしたの?」
兄のシアンが近寄って声をかける。旅行者だろうか、少なくともシェノグ族とは違う格好の金髪の少女がうずくまり泣いている。その髪の毛に水仙の花が飾られているのにシアンは気が付いた。この辺りでは、水仙はまだ咲いていない。どこで水仙を摘んだのだろうとすこし疑問に思う。
とにかく、泣き止んでもらわないと思い慰めることにした。
「お腹痛いの? 村にいい薬草あるからさ、村まで行こうよ」
よほど具合が悪いのだろうか、少女はシアンの声かけに答えずに泣くばかりだった。
「スウイ、村に戻って大人呼んできてくれよ!」
ひどい病気かもしれないと思ったシアンは弟に指示を出す。
「うん! 分かった」
スウイは走りだした。
「うわ! な、なんだよ、これ!」
兄の悲鳴にスウイが振り返るとシアンが倒れて、その足に琥珀色をした何かがくっついているのが見えた。シアンは立ち上がろうともがいている。
「にいちゃん! どうしたの!」
「スライムだ! スウイ、逃げろ!」
シアンは叫ぶ。
「ぎゃああああああ!」
スウイは叫び、薬草を入れる筈だった籠を放り出して走る。恐怖と焦りで方向を見失い、靴が片方脱げたことにも気が付かず、ただ逃げた。
泣いていた少女がスッと立ち上がった。
手には細長く鋭い葉を持っていて、もがいているシアンの体に躊躇なく突き立てる。
「ぎゃああ」
刺されたシアンの叫び声は長く続かなかった。痛い、痛いと暴れる体は痺れてどんどん動かなくなる。痛い! という悲鳴も声にならない。
シアンの周りに水仙の花の少女がさらに増えた。その後ろにフードを被った少女たちも見える。
水仙の花の少女たちは、シアンを囲むと鋭い葉を振り下ろした。
「シアン! シアン!」
沢の石の上に倒れていたシアンを父親が抱きしめて泣いている。
具合の悪い母親の為に薬草を取りに行ってくると家を出たきり帰ってこない兄弟を部族みんなであちこち探した。
やんちゃに遊んで怪我をして動けないのだろう、遊び盛りの男の子にはよくあることだと捜索してみれば結果は最悪だった。
ツアンプ・シェノグは、人目をはばからず泣いている父親の背中を見ている事しか出来なかった。
そこへ、長い髭の族長が歩み寄った。シアンに黙礼すると父親に話しかける。
「シアン坊やを連れて、村へ戻ることにしよう」
「族長! 待ってください。スウイがまだ……」
スウイを探さなければと、父親は声を詰まらせながら訴える。
「気持ちは分かる。みんなスウイ坊やが心配じゃ。しかしのう」
族長は、父親の腕の中を覗き込んだ。シアンは体中の水分が干からびて随分と軽くなってしまっていた。
「歪虚の仕業じゃワシらの手に負えぬ。ハンターに依頼して待つより他あるまい」
「……」
父親はわずかに頷くとよろよろと立ち上がった。周囲の男たちが彼を支えてゆっくりと村へ戻っていく。
「ツアンプ。すまんがハンターオフィスに依頼を出してくれるかのう。歪虚退治をしてもらわんと」
村へ戻る一団を見守りながら、族長は孫娘のツアンプに言った。
「はい。行ってきます」
ツアンプは返事をした。
「子供さんが遺体で見つかったのですね」
ハンターオフィスの受付係が確認する。
「そうです」
ツアンプは戻らない兄弟を探したところ崖下の沢で兄の方が死んでいるのを発見したと説明する。
「弟はまだ見つかっていません。事故や動物に襲われた様子はなく歪虚に襲われたとしか……。よろしくお願いします」
と言って一礼した。
薄暗い廃墟の中、怒気を含んだ男の声が響く。
声の主は、つば広の黒い帽子、全身を覆う黒いマントに長い嘴のある白い革製の仮面という姿だった。無彩色の姿の中、帽子と胸元に大きな向日葵が鮮やかに咲いている。
男は怒りに肩を震わせながら視線を上げた。廃墟の薄暗がりでよく見えないがそこには少女の肖像画が掛けられていた。
「お嬢様、次こそ、次こそ、成功して見せます。どうか……」
失敗ばかりの不甲斐無さを肖像画の主に詫びると目の前に立っている少女の形をした物を冷たい視線で観察した。
少女は男の思い描く完成図に程遠い。造形は整っているが無表情で人間味のない顔。何よりも血の通わない冷たい青白い体。
何もかもが、お嬢様と異なることにいら立ちを隠せない。どれだけ実験を繰り返してもお嬢様に近づけない。
これも捨ててしまおう。もう一度、最初からやり直しだ。
次こそ、お嬢様に会いたい。
何回失敗を繰り返しただろう。今までに生み出した失敗作を思い返して憂鬱になる。
最初よりも、姿形はだいぶ近付いてきたと思う。足りない物はなんだろうか。
お嬢様にあって、失敗作に無いもの。
お嬢様の美しさを表現するのに相応しいと思い、花で作っている。何が違う? 人と植物の違い。
「マテリアル、か?」
人と植物ではマテリアルに違いがあるだろうか。専門家ではないから断定はできないが、何事も試してみない事にはわからない。
「マテリアルを集めよう、そうすればきっと」
辺境の山の中、シェノグ族の村。
春も間近な空の下で、シアンとスウイの兄弟が元気に走っていた。
「そんな急いで! どうしたんだ」
すれ違った男性が声をかける。山の空気はまだ幾分寒さが残る中、走っていた兄弟の頬は赤い。
「おかあさんが風邪ひいちゃったのー」
「あっちのお山に薬草採りに行ってくるー」
と向こうの山を指さして答えた。
「偉いなー。気を付けるんだぞ!」
「はーい!」
そろって元気に返事をして走り出した。
目的地と兄弟の間には、崖があり崖下には沢が流れている。沢に掛かる橋は上流の橋にしろ、下流の橋にしろ、随分と遠回りをしなくてはいけなかった。
「おかあさん待ってるから早くしないと」
「近道しようよ」
「そうだね」
走りながら相談した兄弟は、道を外れて崖を滑るように下りはじめる。
枝をくぐり、石が崩れないか足で確かめ、木の幹や根にしっかりと掴まって、滑らないように落ちないように沢へと降りていく。最後は、えいっとジャンプして沢へと降り立った。
崖を降りるルートは、シェノグ族の子供たちの間で度胸試しの一つとして使われている場所だった。
大きい石、小石、割れている岩、少しの砂場、手についたホコリを叩いて落とし二人は足場の悪い中を歩いていく。
雪解けはまだ少し先なのか沢は水が少なく渡るのは簡単だった。それでも、転んでしまわないように気を付けて歩く。
「ねぇ、誰か泣いてるよ?」
スウイが言った。
「えっ?」
「ほら、泣き声、聞えない?」
スウイに促されてシアンも耳を澄ませてみる。確かに誰かのすすり泣く声が聞えた。
「本当だ」
「行ってみよう!」
「うん」
困った人は助けないとね。という母の教えと少しの好奇心から兄弟は泣き声に近寄っていく。
大きな岩の陰で、うずくまっている人影があった。
「大丈夫か? どうしたの?」
兄のシアンが近寄って声をかける。旅行者だろうか、少なくともシェノグ族とは違う格好の金髪の少女がうずくまり泣いている。その髪の毛に水仙の花が飾られているのにシアンは気が付いた。この辺りでは、水仙はまだ咲いていない。どこで水仙を摘んだのだろうとすこし疑問に思う。
とにかく、泣き止んでもらわないと思い慰めることにした。
「お腹痛いの? 村にいい薬草あるからさ、村まで行こうよ」
よほど具合が悪いのだろうか、少女はシアンの声かけに答えずに泣くばかりだった。
「スウイ、村に戻って大人呼んできてくれよ!」
ひどい病気かもしれないと思ったシアンは弟に指示を出す。
「うん! 分かった」
スウイは走りだした。
「うわ! な、なんだよ、これ!」
兄の悲鳴にスウイが振り返るとシアンが倒れて、その足に琥珀色をした何かがくっついているのが見えた。シアンは立ち上がろうともがいている。
「にいちゃん! どうしたの!」
「スライムだ! スウイ、逃げろ!」
シアンは叫ぶ。
「ぎゃああああああ!」
スウイは叫び、薬草を入れる筈だった籠を放り出して走る。恐怖と焦りで方向を見失い、靴が片方脱げたことにも気が付かず、ただ逃げた。
泣いていた少女がスッと立ち上がった。
手には細長く鋭い葉を持っていて、もがいているシアンの体に躊躇なく突き立てる。
「ぎゃああ」
刺されたシアンの叫び声は長く続かなかった。痛い、痛いと暴れる体は痺れてどんどん動かなくなる。痛い! という悲鳴も声にならない。
シアンの周りに水仙の花の少女がさらに増えた。その後ろにフードを被った少女たちも見える。
水仙の花の少女たちは、シアンを囲むと鋭い葉を振り下ろした。
「シアン! シアン!」
沢の石の上に倒れていたシアンを父親が抱きしめて泣いている。
具合の悪い母親の為に薬草を取りに行ってくると家を出たきり帰ってこない兄弟を部族みんなであちこち探した。
やんちゃに遊んで怪我をして動けないのだろう、遊び盛りの男の子にはよくあることだと捜索してみれば結果は最悪だった。
ツアンプ・シェノグは、人目をはばからず泣いている父親の背中を見ている事しか出来なかった。
そこへ、長い髭の族長が歩み寄った。シアンに黙礼すると父親に話しかける。
「シアン坊やを連れて、村へ戻ることにしよう」
「族長! 待ってください。スウイがまだ……」
スウイを探さなければと、父親は声を詰まらせながら訴える。
「気持ちは分かる。みんなスウイ坊やが心配じゃ。しかしのう」
族長は、父親の腕の中を覗き込んだ。シアンは体中の水分が干からびて随分と軽くなってしまっていた。
「歪虚の仕業じゃワシらの手に負えぬ。ハンターに依頼して待つより他あるまい」
「……」
父親はわずかに頷くとよろよろと立ち上がった。周囲の男たちが彼を支えてゆっくりと村へ戻っていく。
「ツアンプ。すまんがハンターオフィスに依頼を出してくれるかのう。歪虚退治をしてもらわんと」
村へ戻る一団を見守りながら、族長は孫娘のツアンプに言った。
「はい。行ってきます」
ツアンプは返事をした。
「子供さんが遺体で見つかったのですね」
ハンターオフィスの受付係が確認する。
「そうです」
ツアンプは戻らない兄弟を探したところ崖下の沢で兄の方が死んでいるのを発見したと説明する。
「弟はまだ見つかっていません。事故や動物に襲われた様子はなく歪虚に襲われたとしか……。よろしくお願いします」
と言って一礼した。
リプレイ本文
辺境の山の中、シェノグ族の村にハンター達がやってきた。彼らは、シェノグ族の出した依頼解決のために集まった六人だった。
「このような山の中にまでお越しいただいてありがとうございます。案内役のツアンプです。よろしくお願いします」
紫髪の少女―ツアンプ・シェノグは一礼した。
捜索を急ごうという意見により挨拶もそこそこに現場である沢に向かって出発することになった。上流と下流に分かれて沢を捜索することにする。
上流組は萩乃 白鴉(ka4861)、不動シオン(ka5395)、ディーナ・フェルミ(ka5843)、ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)、の四名。案内役にツアンプが同行する。
下流組は鞍馬 真(ka5819)、シェルミア・クリスティア(ka5955)の二名。
上流と下流から同時に捜索することで確実に歪虚を追い詰めていこうという作戦だった。
下流にある沢の降り口は、普段、シェノグ族が使用しているらしくツアンプの説明どうりに簡単に見つけることが出来た。
細いなだらかな坂道を草を避けながら降りていく。
「子供が犠牲になるのは、いつにも増して気分が悪いな……」
真は依頼内容を反芻しながら沢へ歩みを進める。
「小さな子が犠牲に……か……こういうの知っちゃったら、見過ごせないよね」
シェルミアも草を避けながら沢に踏み入った。
沢に降りて歩きはじめると木々のざわめきが遠くなる。音といえば沢を流れる微かな水音だけで、山道の静けさよりも静寂の中にいることが感じられた。鳥の鳴声も遠く二人が踏んだ石が擦れる音だけが耳に入ってくる。
今のところ、他に生き物の出す音は聞こえない。
石や岩がゴロゴロ転がって歩きづらい中、二人は遺体発見現場の上流を目指して歩いて行った。
真は、トランシーバーを取り出して電波の調子を確認する。
「ノイズが酷いな」
「距離と地形のせいかな、雑音が酷いね」
シェルミアもトランシーバーの音を聞きながら言った。
「もう少し、近づけばはっきり聞こえるかな」
とシェルミアは連絡を聞き洩らすことの無いようにトランシーバーを握った。
「行方が分からないのはスウイ君か、無事だといいが……」
気分の悪さを呑み込みつつ、真は周囲に気を配る。
「小さい子が被害にあうのは本当に許せないよ……」
シェルミアは自分よりも幼い子供が被害にあった事に対しての義憤や、手を下したであろう相手への怒りに満ちる心を平常心、平常心と言い聞かせて揺れ動く心を平静に保つ。
「とにかく上流を目指して急ごう」
真は消息不明の男の子の無事を祈りつつ上流を目指して歩みを早める。
「上流の降り口はここです」
ツアンプが案内したのは、道というよりも急斜面に出来た一筋だった。倒された草と踏み固められた地面のおかげで人間が出入りしているのだろうと分かるが、事情を知らなければ道には見えなかっただろう。
「これは、また凄い場所だな。気をつけないといけないな」
シオンが斜面を覗き込みながら言った。
「正式な物ではなくて子供たちの度胸試しの場所なので……」
とツアンプが言う。よく使われているのかむき出しの土がツルっとしている。足を滑らせればそのまま沢まで一気に落ちてしまうだろう。
「落ちたら危険ですね」
同じく覗き込んだディーナが言った。
「弟さんはまだ生きてる可能性もあります。急がなくちゃです! ルンルン忍法ただのロープ!」
ルンルンは高らかに宣言してロープを取り出すと、手近な木に縛り付けるとロープをガイドに急斜面を滑り降りていく。
「ツアンプ、どうする? ついてくるか、それとも引き返すか」
シオンがツアンプへ訊ねた。
「私は、その足手まといですし」
ツアンプは迷惑になりますからと遠慮しながら言った。
「一緒にくるなら護衛はするよ。ツアンプちゃんが戦える子かは分からないけど見ることも大切だと思う」
迷っているツアンプを見て、白鴉が言った。これから部族を担っていくのなら見届けたいだろうと思ったのだ。
「お邪魔でなければ、ご一緒させてください。何があったのか確認したい」
白鴉の言葉を聞いてツアンプは希望を口に出した。
「なら一緒に行こう」
白鴉はツアンプを促した。
一行はルンルンの設置したロープをつたって慎重に沢まで降りると、ツアンプの案内で遺体発見現場まで道を歩く。
「雑魔がいなければ……平和に過ごせる集落も沢山有るのにね」
白鴉は静かな沢を観察しながら呟いた。木々や岩陰に注意し周囲を警戒しながら歩いていく。
遺体発見現場には子供が襲われた時にできたのだろうか、もがいたような不自然に乱れている石と少しの血痕が残っていた。
「時間が経っちゃってるけどスウイくんが上手く歪虚から隠れられて、生きててくれるといいな。私達が歪虚を倒したら出て来てくれるといいね」
ディーナが沢を見渡しながらツアンプに話しかける。
「はい、本当に。親思いのいい子たちなんです」
ツアンプが言った。
「お母さん想いの兄弟を襲うなんて、私絶対許せません、1匹たりとも逃しはしないんだからっ!」
ツアンプの言葉を聞いて、子供たちが歪虚に襲われた話を思い返したルンルンはぷんぷんと怒りをあらわにしている。
「フフ……仇討ちというのなら、この私が黙っている筈あるまい」
兄が遺体で発見され、弟はまだ見つかっていない。息子を失った父親の嘆きをシオンは想像する。
息子を殺された父親に代わって歪虚を討つ……、復讐代行人たる彼女の本領発揮の場。愛刀のMURAMASAにかけて、必ずや敵の首を叩き落とす。とシオンは刀の柄を握る手に力を込めた。
「私もルンルン忍法とカードの力を駆使して、行方不明の弟さんを探し、歪虚もみんな纏めてやっつけちゃいます!」
とルンルンは意気込んだ。
「幼子は、里の宝であり未来であるべきものなのに……。待ってて、ちゃんと俺が見つけてあげるから」
と白鴉は呟いた。
「見て、これ子供の靴だよね。とっさに村に逃げようとしたのかな」
ディーナが現場付近を探して岩の陰から小さい靴を片方見つけた。ツアンプに見せるとスウイの物だろうという。
「靴が落ちていたのは現場よりも下流か」
シオンは靴と現場の位置を見ながら言った。
「歪虚はそれを追いかけたでしょうね。歪虚の追跡もニンジャにお任せ!」
ルンルンは下流方向に向かう痕跡を探して石の乱れ具合や砂に残る跡がないか観察する。
痕跡を探しながらどんどん下流方向に進んで行くと前方から泣き声が聞こえた。
「何か、聞こえないか?」
白鴉が耳をそばだてる。
シクシクと聞こえる方へ近寄れば、水仙の髪飾りの少女が一人うずくまって泣いていた。
「皆に連絡、お願い!」
白鴉はトランシーバーを持っているルンルンとディーナに下流組への連絡を頼む。
「ツアンプ、後ろの安全な場所で待機していてくれ」
シオンがそう指示を出す。
ツアンプを後方に残しハンター達はゆっくりと正体不明の少女へ近づいていく、とベタベタした何かを踏んだ。
『………』
上流方向を目指して歩いている真とシェルミアのトランシーバーが電波を捉える。
「こちら、真。何があった!?」
トランシーバーの向こうに慌てた雰囲気を感じ取り、真が問いかける。
『歪虚発見です』
ルンルンが発見の一報を連絡してきた。
「了解だよ。すぐに向かうから」
シェルミアは返事をしながら上流に向かって走り出す。
『気を付けて。べちゃってスライムが!』
ディーナの悲鳴のような声が注意を促していた。
「了解だ。すぐに行く!」
真は返事を返して走った。
真とシェルミアが上流組に合流した時にはすでに戦闘は始まっていた。
白鴉、シオン、ディーナの足元には琥珀色のスライムが纏わりついて行動を邪魔している。
水仙の少女は鋭い葉を構えると、スライムに纏わりつかれて動きづらそうなシオンへ攻撃していた。
真とシェルミアの前には三体のスライムが立ちふさがる。真は試作振動刀オートMURAMASA振るう。低い振動音と共に三体のスライムをまとめて薙ぎ払う。振り回された刀をスライムは避けることが出来ない。
シェルミアは水仙の少女が構える鋭い葉を見て、それを警戒の対象だと認識する。
「それで子供を殺したの?」
水仙の少女とスライムを倒すべき敵だと確認し、討滅に全力を傾ける。
シェルミアは符を投げ上げ風雷陣を使用する。符は空中で稲妻に変化し三体のスライムに直撃した。
「これは」
真が刀に目を向けると、刃の部分にベッタリと琥珀色をしたスライムの一部がくっついていた。ベタベタとしたそれは刀を振ってみたものの粘着力が強いらしく簡単に落ちそうになかった。
「このまま振るうだけだ」
真は再び刀を構えた。
スライムに囲まれたディーナはセイクリッドフラッシュを放った。周囲に広がる光の波動にスライムは衝撃で表面が波打つ。
「ごめんね、お願いしてもいいかな?」
白鴉は相棒の鴉にお願いをして水仙の少女に攻撃してもらうと、白鴉自身はバトルライフルを構えてディーナを援護する為、まずはスライムの数を減らすことに専念する。
ルンルンは一人、水仙の少女から隠れて回り込むように動いていた。スウイが隠れていることを期待して岩陰を探す。
岩陰に人影を見た。一瞬、スウイが隠れているのかと思ったが違う、フードを被った少女だった。二人の足元に小さい子供らしい影も見えた。
「道理で足跡が数より多いと思ったのです……弟さん……貴女達許さない! ルンルン占いが、みんなお見通しなんだからっ」
ルンルンは符術の兎歩でこの戦闘の吉凶を占う。
ルンルンに気が付いたらしいフードの少女たちは一目散に上流方向に向かって全力で逃げ出した。
「ジュゲームリリカル……ルンルン忍法土蜘蛛の術! カードを伏せて、そのままトラップ発動です」
ルンルンは、フードの少女の足元目掛けて地縛符を展開させる。
フードの少女は泥上に変化した足元に、一人はギリギリ避け、一人は転んでしまった。逃げる事だけを考えているらしく激しく足を動かして這い出そうとした。
「逃がさないんだから」
ディーナは、ルンルンの側まで移動しフードの少女たちを止めようとレクイエムを歌う。フードの少女たちにはわずかに届かなかったが、水仙の少女やスライムはその動きを鈍らせた。
「逃がしたらまた同じ悲劇が……だから絶対逃がさないもの」
ルンルンは追い打ちをかけようとしたがスライムが一匹とさらに隠れていた水仙の少女が立ちふさがり、フードの少女を追う事を妨害した。そのままルンルンは、水仙の少女と対峙する。
「行かせない!」
後方からシェルミアが風雷符を放って撃破を試みる。稲妻がフードの少女に当たるが倒すまでには至らなかった。
フードの少女は必死に走って行くなかで風圧で、フードが脱げてしまった。白日の下にさらされた顔は、髪の毛の色は違うが水仙の少女とそっくりだった。
「何を泣いている? 泣くのは貴様ではなかろう? 戦え、この私と!」
水仙の少女と対峙したシオンは刀にマテリアルを込め邪煌滅殺を放つ。紫の炎のような不気味オーラを纏わせながら、少女の懐に飛び込むと逆袈裟に切り上げた。
避けられなかった少女は切られながらも葉を握る手の力は緩めず、シオンに葉を突き入れる。わずかにシオンの足をかすめた部分から、ピリピリと痺れるようだった。
「毒がある! 気をつけろ!」
シオンは仲間に注意を促すと少女から距離をとる。
立ちふさがっていたスライムを片付けた真は、ルンルンとディーナの援護に回る。
「私の後ろから攻撃してくれ」
真は魔導拳銃剣エルスを操作して直剣モードに移行すると、二刀を構え後衛組の三人を水仙の少女の攻撃から守るように立ち回る。
水仙の少女は真を狙って鋭い葉を振る。
シェルミアが桜幕符を放って、水仙の少女の視界を桜吹雪の幻影で塞いで真を援護した。
「殺された子供の敵討ち……させてもらうからね」
シェルミアは、火炎符を放ち水仙の少女を焼き焦がす。
ブゥンと低い音を立てて、真は二刀流を駆使して焼かれて鋭い葉を取り落した水仙の少女に止めを刺した。
「ごめんね……早くおうちに帰ろうね」
ディーナは倒れているスウイを抱き上げる。
まだ、戦闘は続いているが倒れているままにするのは忍びなかった。ディーナはほとんど術具を振り回すことはないからと、両手がふさがることを気にせずにスウイを背負う。その体はとても軽かった。
「これ以上、遺体を傷つける訳にはいかないだろう」
真はディーナの前に出てスウイの遺体を戦闘から守るように行動した。
シオンは水仙の少女と対峙している。
「貴様の実力を見せてみろ。だが剣士の技量では私は貴様には負けんぞ!」
水仙の少女が鋭い葉を構え真っ直ぐに突いてくるとシオンはそれを交わし、命中を考えず渾身の一撃を上段から振り下ろした。
シェルミアは残った水仙の少女に向かって桜幕符を放つ。桜吹雪に覆われた水仙の少女は立ち止まってしまう。
行動できずにいる水仙の少女に白鴉はバトルライフルを撃って止めを刺した。
(水仙か、昔に皆で花言葉を教えてもらったっけ? たしか……自己愛……自己中心……うぬぼれ……報われぬ恋、か)
「どれも悲しい言葉だね……」
白鴉は少女と共に粉のように崩れ落ちていく水仙を見て呟いた。
シェルミアは沢に咲いていた野花を摘むと哀悼の意を込めて、静かにスウイに手向けた。
「多分、最初から間に合わなかったと思うの。私たちが来るまで、時間がかかった。それでも助けたかったの」
背中に背負うスウイの軽い体重を感じながらディーナが生きていて欲しかったと呟いた。
「……帰ろう、皆の所へ」
敵の残りがいないか確認しつつ遺品を回収した白鴉が戻ってきて仲間に声をかける。
「あの女の子たち、みんな同じ顔をしていた気がするの。みんなはそう思わなかった?」
スウイを背負いながら歩くディーナが言った。
「はっきりとは見えなかったが、確かに似ていた」
白鴉が思い返しながら同意した。
「あの歪虚も、誰かが作ったものかもしれないって思ったの。妄想かもしれないけど、もし本当にそうなら、事件はまだ終わってないの……」
ディーナは、一抹の不安を胸に抱きながら沢を後にした。
「このような山の中にまでお越しいただいてありがとうございます。案内役のツアンプです。よろしくお願いします」
紫髪の少女―ツアンプ・シェノグは一礼した。
捜索を急ごうという意見により挨拶もそこそこに現場である沢に向かって出発することになった。上流と下流に分かれて沢を捜索することにする。
上流組は萩乃 白鴉(ka4861)、不動シオン(ka5395)、ディーナ・フェルミ(ka5843)、ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)、の四名。案内役にツアンプが同行する。
下流組は鞍馬 真(ka5819)、シェルミア・クリスティア(ka5955)の二名。
上流と下流から同時に捜索することで確実に歪虚を追い詰めていこうという作戦だった。
下流にある沢の降り口は、普段、シェノグ族が使用しているらしくツアンプの説明どうりに簡単に見つけることが出来た。
細いなだらかな坂道を草を避けながら降りていく。
「子供が犠牲になるのは、いつにも増して気分が悪いな……」
真は依頼内容を反芻しながら沢へ歩みを進める。
「小さな子が犠牲に……か……こういうの知っちゃったら、見過ごせないよね」
シェルミアも草を避けながら沢に踏み入った。
沢に降りて歩きはじめると木々のざわめきが遠くなる。音といえば沢を流れる微かな水音だけで、山道の静けさよりも静寂の中にいることが感じられた。鳥の鳴声も遠く二人が踏んだ石が擦れる音だけが耳に入ってくる。
今のところ、他に生き物の出す音は聞こえない。
石や岩がゴロゴロ転がって歩きづらい中、二人は遺体発見現場の上流を目指して歩いて行った。
真は、トランシーバーを取り出して電波の調子を確認する。
「ノイズが酷いな」
「距離と地形のせいかな、雑音が酷いね」
シェルミアもトランシーバーの音を聞きながら言った。
「もう少し、近づけばはっきり聞こえるかな」
とシェルミアは連絡を聞き洩らすことの無いようにトランシーバーを握った。
「行方が分からないのはスウイ君か、無事だといいが……」
気分の悪さを呑み込みつつ、真は周囲に気を配る。
「小さい子が被害にあうのは本当に許せないよ……」
シェルミアは自分よりも幼い子供が被害にあった事に対しての義憤や、手を下したであろう相手への怒りに満ちる心を平常心、平常心と言い聞かせて揺れ動く心を平静に保つ。
「とにかく上流を目指して急ごう」
真は消息不明の男の子の無事を祈りつつ上流を目指して歩みを早める。
「上流の降り口はここです」
ツアンプが案内したのは、道というよりも急斜面に出来た一筋だった。倒された草と踏み固められた地面のおかげで人間が出入りしているのだろうと分かるが、事情を知らなければ道には見えなかっただろう。
「これは、また凄い場所だな。気をつけないといけないな」
シオンが斜面を覗き込みながら言った。
「正式な物ではなくて子供たちの度胸試しの場所なので……」
とツアンプが言う。よく使われているのかむき出しの土がツルっとしている。足を滑らせればそのまま沢まで一気に落ちてしまうだろう。
「落ちたら危険ですね」
同じく覗き込んだディーナが言った。
「弟さんはまだ生きてる可能性もあります。急がなくちゃです! ルンルン忍法ただのロープ!」
ルンルンは高らかに宣言してロープを取り出すと、手近な木に縛り付けるとロープをガイドに急斜面を滑り降りていく。
「ツアンプ、どうする? ついてくるか、それとも引き返すか」
シオンがツアンプへ訊ねた。
「私は、その足手まといですし」
ツアンプは迷惑になりますからと遠慮しながら言った。
「一緒にくるなら護衛はするよ。ツアンプちゃんが戦える子かは分からないけど見ることも大切だと思う」
迷っているツアンプを見て、白鴉が言った。これから部族を担っていくのなら見届けたいだろうと思ったのだ。
「お邪魔でなければ、ご一緒させてください。何があったのか確認したい」
白鴉の言葉を聞いてツアンプは希望を口に出した。
「なら一緒に行こう」
白鴉はツアンプを促した。
一行はルンルンの設置したロープをつたって慎重に沢まで降りると、ツアンプの案内で遺体発見現場まで道を歩く。
「雑魔がいなければ……平和に過ごせる集落も沢山有るのにね」
白鴉は静かな沢を観察しながら呟いた。木々や岩陰に注意し周囲を警戒しながら歩いていく。
遺体発見現場には子供が襲われた時にできたのだろうか、もがいたような不自然に乱れている石と少しの血痕が残っていた。
「時間が経っちゃってるけどスウイくんが上手く歪虚から隠れられて、生きててくれるといいな。私達が歪虚を倒したら出て来てくれるといいね」
ディーナが沢を見渡しながらツアンプに話しかける。
「はい、本当に。親思いのいい子たちなんです」
ツアンプが言った。
「お母さん想いの兄弟を襲うなんて、私絶対許せません、1匹たりとも逃しはしないんだからっ!」
ツアンプの言葉を聞いて、子供たちが歪虚に襲われた話を思い返したルンルンはぷんぷんと怒りをあらわにしている。
「フフ……仇討ちというのなら、この私が黙っている筈あるまい」
兄が遺体で発見され、弟はまだ見つかっていない。息子を失った父親の嘆きをシオンは想像する。
息子を殺された父親に代わって歪虚を討つ……、復讐代行人たる彼女の本領発揮の場。愛刀のMURAMASAにかけて、必ずや敵の首を叩き落とす。とシオンは刀の柄を握る手に力を込めた。
「私もルンルン忍法とカードの力を駆使して、行方不明の弟さんを探し、歪虚もみんな纏めてやっつけちゃいます!」
とルンルンは意気込んだ。
「幼子は、里の宝であり未来であるべきものなのに……。待ってて、ちゃんと俺が見つけてあげるから」
と白鴉は呟いた。
「見て、これ子供の靴だよね。とっさに村に逃げようとしたのかな」
ディーナが現場付近を探して岩の陰から小さい靴を片方見つけた。ツアンプに見せるとスウイの物だろうという。
「靴が落ちていたのは現場よりも下流か」
シオンは靴と現場の位置を見ながら言った。
「歪虚はそれを追いかけたでしょうね。歪虚の追跡もニンジャにお任せ!」
ルンルンは下流方向に向かう痕跡を探して石の乱れ具合や砂に残る跡がないか観察する。
痕跡を探しながらどんどん下流方向に進んで行くと前方から泣き声が聞こえた。
「何か、聞こえないか?」
白鴉が耳をそばだてる。
シクシクと聞こえる方へ近寄れば、水仙の髪飾りの少女が一人うずくまって泣いていた。
「皆に連絡、お願い!」
白鴉はトランシーバーを持っているルンルンとディーナに下流組への連絡を頼む。
「ツアンプ、後ろの安全な場所で待機していてくれ」
シオンがそう指示を出す。
ツアンプを後方に残しハンター達はゆっくりと正体不明の少女へ近づいていく、とベタベタした何かを踏んだ。
『………』
上流方向を目指して歩いている真とシェルミアのトランシーバーが電波を捉える。
「こちら、真。何があった!?」
トランシーバーの向こうに慌てた雰囲気を感じ取り、真が問いかける。
『歪虚発見です』
ルンルンが発見の一報を連絡してきた。
「了解だよ。すぐに向かうから」
シェルミアは返事をしながら上流に向かって走り出す。
『気を付けて。べちゃってスライムが!』
ディーナの悲鳴のような声が注意を促していた。
「了解だ。すぐに行く!」
真は返事を返して走った。
真とシェルミアが上流組に合流した時にはすでに戦闘は始まっていた。
白鴉、シオン、ディーナの足元には琥珀色のスライムが纏わりついて行動を邪魔している。
水仙の少女は鋭い葉を構えると、スライムに纏わりつかれて動きづらそうなシオンへ攻撃していた。
真とシェルミアの前には三体のスライムが立ちふさがる。真は試作振動刀オートMURAMASA振るう。低い振動音と共に三体のスライムをまとめて薙ぎ払う。振り回された刀をスライムは避けることが出来ない。
シェルミアは水仙の少女が構える鋭い葉を見て、それを警戒の対象だと認識する。
「それで子供を殺したの?」
水仙の少女とスライムを倒すべき敵だと確認し、討滅に全力を傾ける。
シェルミアは符を投げ上げ風雷陣を使用する。符は空中で稲妻に変化し三体のスライムに直撃した。
「これは」
真が刀に目を向けると、刃の部分にベッタリと琥珀色をしたスライムの一部がくっついていた。ベタベタとしたそれは刀を振ってみたものの粘着力が強いらしく簡単に落ちそうになかった。
「このまま振るうだけだ」
真は再び刀を構えた。
スライムに囲まれたディーナはセイクリッドフラッシュを放った。周囲に広がる光の波動にスライムは衝撃で表面が波打つ。
「ごめんね、お願いしてもいいかな?」
白鴉は相棒の鴉にお願いをして水仙の少女に攻撃してもらうと、白鴉自身はバトルライフルを構えてディーナを援護する為、まずはスライムの数を減らすことに専念する。
ルンルンは一人、水仙の少女から隠れて回り込むように動いていた。スウイが隠れていることを期待して岩陰を探す。
岩陰に人影を見た。一瞬、スウイが隠れているのかと思ったが違う、フードを被った少女だった。二人の足元に小さい子供らしい影も見えた。
「道理で足跡が数より多いと思ったのです……弟さん……貴女達許さない! ルンルン占いが、みんなお見通しなんだからっ」
ルンルンは符術の兎歩でこの戦闘の吉凶を占う。
ルンルンに気が付いたらしいフードの少女たちは一目散に上流方向に向かって全力で逃げ出した。
「ジュゲームリリカル……ルンルン忍法土蜘蛛の術! カードを伏せて、そのままトラップ発動です」
ルンルンは、フードの少女の足元目掛けて地縛符を展開させる。
フードの少女は泥上に変化した足元に、一人はギリギリ避け、一人は転んでしまった。逃げる事だけを考えているらしく激しく足を動かして這い出そうとした。
「逃がさないんだから」
ディーナは、ルンルンの側まで移動しフードの少女たちを止めようとレクイエムを歌う。フードの少女たちにはわずかに届かなかったが、水仙の少女やスライムはその動きを鈍らせた。
「逃がしたらまた同じ悲劇が……だから絶対逃がさないもの」
ルンルンは追い打ちをかけようとしたがスライムが一匹とさらに隠れていた水仙の少女が立ちふさがり、フードの少女を追う事を妨害した。そのままルンルンは、水仙の少女と対峙する。
「行かせない!」
後方からシェルミアが風雷符を放って撃破を試みる。稲妻がフードの少女に当たるが倒すまでには至らなかった。
フードの少女は必死に走って行くなかで風圧で、フードが脱げてしまった。白日の下にさらされた顔は、髪の毛の色は違うが水仙の少女とそっくりだった。
「何を泣いている? 泣くのは貴様ではなかろう? 戦え、この私と!」
水仙の少女と対峙したシオンは刀にマテリアルを込め邪煌滅殺を放つ。紫の炎のような不気味オーラを纏わせながら、少女の懐に飛び込むと逆袈裟に切り上げた。
避けられなかった少女は切られながらも葉を握る手の力は緩めず、シオンに葉を突き入れる。わずかにシオンの足をかすめた部分から、ピリピリと痺れるようだった。
「毒がある! 気をつけろ!」
シオンは仲間に注意を促すと少女から距離をとる。
立ちふさがっていたスライムを片付けた真は、ルンルンとディーナの援護に回る。
「私の後ろから攻撃してくれ」
真は魔導拳銃剣エルスを操作して直剣モードに移行すると、二刀を構え後衛組の三人を水仙の少女の攻撃から守るように立ち回る。
水仙の少女は真を狙って鋭い葉を振る。
シェルミアが桜幕符を放って、水仙の少女の視界を桜吹雪の幻影で塞いで真を援護した。
「殺された子供の敵討ち……させてもらうからね」
シェルミアは、火炎符を放ち水仙の少女を焼き焦がす。
ブゥンと低い音を立てて、真は二刀流を駆使して焼かれて鋭い葉を取り落した水仙の少女に止めを刺した。
「ごめんね……早くおうちに帰ろうね」
ディーナは倒れているスウイを抱き上げる。
まだ、戦闘は続いているが倒れているままにするのは忍びなかった。ディーナはほとんど術具を振り回すことはないからと、両手がふさがることを気にせずにスウイを背負う。その体はとても軽かった。
「これ以上、遺体を傷つける訳にはいかないだろう」
真はディーナの前に出てスウイの遺体を戦闘から守るように行動した。
シオンは水仙の少女と対峙している。
「貴様の実力を見せてみろ。だが剣士の技量では私は貴様には負けんぞ!」
水仙の少女が鋭い葉を構え真っ直ぐに突いてくるとシオンはそれを交わし、命中を考えず渾身の一撃を上段から振り下ろした。
シェルミアは残った水仙の少女に向かって桜幕符を放つ。桜吹雪に覆われた水仙の少女は立ち止まってしまう。
行動できずにいる水仙の少女に白鴉はバトルライフルを撃って止めを刺した。
(水仙か、昔に皆で花言葉を教えてもらったっけ? たしか……自己愛……自己中心……うぬぼれ……報われぬ恋、か)
「どれも悲しい言葉だね……」
白鴉は少女と共に粉のように崩れ落ちていく水仙を見て呟いた。
シェルミアは沢に咲いていた野花を摘むと哀悼の意を込めて、静かにスウイに手向けた。
「多分、最初から間に合わなかったと思うの。私たちが来るまで、時間がかかった。それでも助けたかったの」
背中に背負うスウイの軽い体重を感じながらディーナが生きていて欲しかったと呟いた。
「……帰ろう、皆の所へ」
敵の残りがいないか確認しつつ遺品を回収した白鴉が戻ってきて仲間に声をかける。
「あの女の子たち、みんな同じ顔をしていた気がするの。みんなはそう思わなかった?」
スウイを背負いながら歩くディーナが言った。
「はっきりとは見えなかったが、確かに似ていた」
白鴉が思い返しながら同意した。
「あの歪虚も、誰かが作ったものかもしれないって思ったの。妄想かもしれないけど、もし本当にそうなら、事件はまだ終わってないの……」
ディーナは、一抹の不安を胸に抱きながら沢を後にした。
依頼結果
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相談卓 鞍馬 真(ka5819) 人間(リアルブルー)|22才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2016/04/12 17:40:14 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/04/08 20:40:58 |